(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】浸水避難誘導方法および浸水避難誘導システム
(51)【国際特許分類】
G08B 27/00 20060101AFI20240712BHJP
G08B 23/00 20060101ALI20240712BHJP
G08B 21/02 20060101ALI20240712BHJP
G01P 5/18 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
G08B27/00 A
G08B23/00 510Z
G08B21/02
G01P5/18 F
(21)【出願番号】P 2021052297
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】永野 雄一
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第117575109(CN,A)
【文献】特開2018-081348(JP,A)
【文献】特開2020-098418(JP,A)
【文献】特開2020-113102(JP,A)
【文献】国際公開第2019/116806(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B 27/00
G08B 23/00
G08B 21/02
G01P 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測区域の水深分布hを計測するとともに流速分布uを計測し、
流速分布uに対して流体力u
2hを求め、
この流体力に応じたカラー分布データを作成し、
これを計測区域表面部にプロジェクションマッピングし、
計測区域内に流れ込んだ浸水の流体力分布に基づき危険分布を色分けして表示することを特徴とする浸水避難誘導方法。
【請求項2】
計測区域内に流れ込んだ浸水の流体力分布に基づいて、危険な箇所を色分けして表示する避難誘導システムであって、
前記計測区域内の水深を計測する水深測定装置と、
前記計測区域内の流速分布を計測する画像流速測定装置と、
前記水深測定装置及び画像流速測定装置からの出力値に基づき流体力を算出し、流体力分布データを作成するデータ処理装置と、
当該流体力分布データに応じたマッピングデータを作成して前記計測区域表面にプロジェクションマッピングすることを特徴とする浸水避難誘導システム。
【請求項3】
前記水深測定装置は、平常時には階段の高さ分布を測定し、浸水発生時には浸水面の高さ分布を測定することを特徴とする請求項2に記載の避難誘導システム。
【請求項4】
前記画像流速測定装置は、撮影画像に基づいて浸水の流速分布を測定することを特徴とする請求項2または3に記載の避難誘導システム。
【請求項5】
前記プロジェクションマッピングは、水深分布hと流速分布uから求まる流体力u
2hに応じて色分けされたカラー分布データに基づいて、流体力分布を水面上に投影することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1に記載の避難誘導システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浸水避難誘導方法および浸水避難誘導システムに係り、特に、台風や洪水などの自然災害によって水が流れ込む恐れがある地下施設への階段等において、どの場所が危険であるかについて流体力分布をプロジェクションマッピングで示すことによって、避難者の迅速な避難を支援するようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来、避難誘導のための小型照明装置が提示されている。これは不特定多数の利用者が集まる公共施設などにおいて、災害発生時において、利用者を適切に誘導するためのもので、矢印など状況に応じたパターンを明瞭に表示するようにしている。例えば、非難誘導路の壁伝いに沿って矢印を点灯表示させるものである(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】dnpco.jp/news/detail/1192724_1587.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、豪雨時や洪水時などに建物や地下街に階段から水が流れ込んだ際には、歩行者の足下には流速と水深に応じた流体力が作用するため、平常時と比べて階段の登り降りが困難になり、安全・迅速な避難の障害になる恐れがある。
また、上述のように予め非難誘導路の壁伝いに沿って矢印を点灯表示させるものがあったとしても、階段では水が一様に流れるものではなく、幅方向で流体力が異なり、連続した階段では上から下まで危険流域が幅方向で異なってしまい、適切な誘導はできないものであった。避難時に水が流入する階段を見て登れるかどうかを判断することは難しく、階段から遠い場所にいる場合や停電時にはそれが一層難しくなる。
【0005】
これでは避難ルートの指示に水害時の時間経過で変化する水の深さや速さの状況を考慮しておらず、危険な避難行動を指示してしまう恐れがある。事実、避難誘導は予め誘導路を定めておいたものが前提であり、水深や流れ強度が変化する水害など時々刻々と変化する状況には対処できなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に着目し、特に駅や地下街に通じて水害時には水が流れ込む階段や坂道において、水深や流れ強度から安全なルートを自動的に探し出して迅速に表示させることを目的としたものである。
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る浸水避難誘導方法は、計測区域の水深分布hを計測するとともに流速分布uを計測し、流速分布uに対して流体力u2hを求め、この流体力に応じたカラー分布データを作成し、これを計測区域表面部にプロジェクションマッピングし、計測区域内に流れ込んだ浸水の流体力分布に基づき危険分布を色分けして表示することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る浸水避難誘導システムは、計測区域内に流れ込んだ浸水の流体力分布に基づいて、危険な箇所を色分けして表示する避難誘導システムであって、前記計測区域内の水深分布hを計測する水深測定装置と、前記計測区域内の流速分布uを計測する画像流速測定装置と、前記水深測定装置及び画像流速測定装置からの出力値に基づき流体力u2hを算出し、流体力分布データを作成するデータ処理装置と、当該流体力分布データに応じたマッピングデータを作成して前記計測区域表面にプロジェクションマッピングすることを特徴とする。
【0009】
この場合において、前記水深測定装置は、レーザー式の水深測定装置を用い、平常時には階段の高さ分布を測定し、浸水発生時には浸水面の高さ分布を測定することを特徴としている。また、前記画像流速測定装置は、撮影画像に基づいて浸水の流速分布を測定することを特徴としている。さらに、前記プロジェクションマッピングは、水深分布hと流速分布uから求まる流体力u2hに応じて色分けされたカラー分布データに基づいて、流体力分布を水面上に投影することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記構成によれば、次のような効果が得られる。
(1)リアルタイムで変化する流入量に応じて避難者に、正確な階段上の危険度分布を提供できる。
(2)既存の構造物に変化を加える必要が無く、階段の天井部に設置するだけで機能させることが出来る。
(3)バッテリー駆動とすることで停電時にはより光って目立ち、避難者に適切な情報を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る浸水避難誘導システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明に係る浸水避難誘導方法および浸水避難誘導システムの具体的実施形態を、図面を参照して、詳細に説明する。なお、以下の実施形態は1例に過ぎず、要旨を変更しない限り、他の類例を含むものとする。
【0013】
本実施形態に係る浸水避難誘導システムを、計測域である階段の避難誘導に適用した例で説明する。浸水避難誘導システム10は、計測域としての階段の上方位置に設置されており、階段を見下ろすように配置されている。この浸水避難誘導システム10は、
図1に示すように、内部にレーザー水深測定装置12と画像流速測定装置14を備えており、これらの出力値は小型コンピューター16に入力されるようになっている。小型コンピューター16は、データ処理装置18と記憶装置20を備え、レーザー水深測定装置12と画像流速測定装置14からのデータを取り込み、データ処理を行ってプロジェクションマッピング装置22に送るようにしている。なお、このシステム10には無停電電源装置24により電力が供給される。
【0014】
レーザー水深測定装置12はレーザーによって平常時には階段の高さ分布を測定し、浸水発生時には水面高分布を測定することができる。このレーザー水深測定装置12は、近赤外レーザーを照射することにより、階段表面からの反射を取り、測距することができるので、この距離測定から階段の表面高さ位置を測定する。浸水発生時には、同様に近赤外レーザーを浸水した階段に照射すると、浸水表面で反射してこの表面までの反射から、測距できる。したがって、浸水表面までの高さから平常時の階段表面までの高さの差分が水位となる。すなわち、レーザー水深測定装置12はレーザーによって平常時には階段の高さ分布を測定し、浸水発生時には水面高分布を測定するのである。
【0015】
一方、画像流速測定装置14は連続写真を撮像し、浸水時の水の流速分布uを測定する。
【0016】
それぞれレーザー水深測定装置12と画像流速測定装置14とは、小型コンピューター16に接続されるが、それらの測定データを出力する。小型コンピューター16は平常時に測定した階段の高さ分布を記憶装置20から引き出し、データ処理装置18において水面高さ分布から減ずることで、水深分布hを計算する。画像流速測定装置14は、階段を流れる浸水の流速分布uを計測して小型コンピューター16に出力する。そして、流速分布uに対して、流体力u2hを計算するのである。
【0017】
流体力u2hは、人間の脚にかかる力の大きさにより、歩き易く安全である場合、歩行危険な場合、その中間値と、その大きさにより判別ができる。したがって、例えば、流体力u2hを三段階に分け、弱い方から青、黄、赤のように色分けする。この色分けした分布を水流面に写し込むことで、安全な「青」を選択して人が歩行できるのである。そこで、データ処理装置18において流体力u2hに応じたカラー分布データを作成して、それをプロジェクションマッピング装置22に出力することで、流体力分布を水面上に投影する。
【0018】
小型コンピューター16とレーザー水深測定装置12と画像流速測定装置14とプロジェクションマッピング装置22はすべて無停電電源装置24と接続されており、平常時には無停電電源装置24に接続されたAC電源装置26から無停電電源装置24を経由して電源供給を受けているが、停電時には無停電電源装置24に内蔵されたバッテリーから電源供給を受ける。これらは天井部分に設置されるのである。
【0019】
このように構成された浸水避難誘導システム10によれば、計測区域の水深分布hを計測するとともに流速分布uを計測し、流速分布uに対して流体力u2hを求め、この流体力u2hに応じたカラー分布データを作成し、これを計測区域表面部にプロジェクションマッピングし、計測区域内に流れ込んだ浸水の流体力分布に基づき危険分布を色分けして表示する。水深分布hはレーザー水深測定装置12で浸水の表面高さをデータとして出力し、予め記憶されている階段高さを減じることで算出され、階段幅方向に走査することで分布が求められる。また、浸水の流速uは画像流速測定装置14から得ることが出来る。これを階段幅方向に走査することで分布が得られ。小型コンピューター16は流体力u2hを幅方向に沿って求め、これを階段昇降方向で流体力u2hの分布として求め、例えば流体力u2hを最大域から最低域までを3段階に分け、大きい方から赤黄青に色分けしたカラー分布データを作成する。これをプロジェクションマッピング装置22に出力し、危険度分布プロジェクションマッピング28として浸水表面上に映し出すのである。
【0020】
このように、プロジェクションマッピングを使って階段を流れる水に流体力分布に応じた色分け(例えば危ない個所は赤など)することで、一目で登れるかどうかを、また登れる場合にはどのルートで登ればいいかという情報が直接水流面に表れて誘導を提供することができる。そして、遠くから見ても登れるかどうかを判断できるほか、プロジェクションマッピング装置をバッテリー駆動とすることで停電時には一層目立って避難者に情報を提供することが出来る。
【0021】
なお、このシステム10は、安全なルート(例えば青色マッピングされた箇所)に矢印など状況に応じたパターンを明瞭に表示するようにしてもよい。また、階段の他、坂道などにも応用できる。
【符号の説明】
【0022】
10……浸水避難誘導システム、12……レーザー水深測定装置、14……画像流速測定装置、16…小型コンピューター、18……データ処理装置、20……記憶装置、22……プロジェクションマッピング装置、24……無停電電源装置、26……AC電源装置、28……危険度分布プロジェクトマッピング。