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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】自走作業車
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/22 20060101AFI20240712BHJP
   B60T 7/00 20060101ALI20240712BHJP
   B60T 1/14 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
B60T17/22 C
B60T7/00 Z
B60T1/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021057065
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154163
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】萬治 寧大
(72)【発明者】
【氏名】穐山 望
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-004795(JP,A)
【文献】特開2005-313755(JP,A)
【文献】特開平09-164943(JP,A)
【文献】特開2015-074383(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108860119(CN,A)
【文献】特開2005-343200(JP,A)
【文献】特開2019-043269(JP,A)
【文献】特開2003-072528(JP,A)
【文献】特開2019-075888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 1/00-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 15/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行装置によって対地支持された車体と、
前記走行装置へ回転動力を供給する可変走行動力供給ユニットと、
前記回転動力の速度を調整する走行操作具ユニットと、
前記可変走行動力供給ユニットの伝動軸に設けられたパーキングブレーキと、
前記パーキングブレーキを制動状態または非制動状態に制御するパーキングブレーキ制御部と、
前記パーキングブレーキの動作状態である前記制動状態または前記非制動状態を車体状態として管理する車体状態管理部と、
前記走行装置または前記伝動軸の回転を検出する回転検出器と、
前記車体状態と前記回転検出器の検出結果とに基づいて、前記パーキングブレーキの異常を判定するブレーキ異常判定部とを備え、
前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態において前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定し、
前記車体に対し降下可能な草刈装置を備え、
前記ブレーキ異常判定部が前記パーキングブレーキの異常を判定した場合、前記草刈装置を自動降下させ、前記草刈装置を接地する自走作業車。
【請求項2】
走行装置によって対地支持された車体と、
前記走行装置へ回転動力を供給する可変走行動力供給ユニットと、
前記回転動力の速度を調整する走行操作具ユニットと、
前記可変走行動力供給ユニットの伝動軸に設けられたパーキングブレーキと、
前記パーキングブレーキを制動状態または非制動状態に制御するパーキングブレーキ制御部と、
前記パーキングブレーキの動作状態である前記制動状態または前記非制動状態を車体状態として管理する車体状態管理部と、
前記走行装置または前記伝動軸の回転を検出する回転検出器と、
前記車体状態と前記回転検出器の検出結果とに基づいて、前記パーキングブレーキの異常を判定するブレーキ異常判定部とを備え、
前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態において前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定し、
前記車体状態管理部は、前記車体状態としてメインキーON操作を管理しており、前記メインキーON操作から前記パーキングブレーキの前記非制動状態への移行までの間で、前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定する自走作業車。
【請求項3】
走行装置によって対地支持された車体と、
前記走行装置へ回転動力を供給する可変走行動力供給ユニットと、
前記回転動力の速度を調整する走行操作具ユニットと、
前記可変走行動力供給ユニットの伝動軸に設けられたパーキングブレーキと、
前記パーキングブレーキを制動状態または非制動状態に制御するパーキングブレーキ制御部と、
前記パーキングブレーキの動作状態である前記制動状態または前記非制動状態を車体状態として管理する車体状態管理部と、
前記走行装置または前記伝動軸の回転を検出する回転検出器と、
前記車体状態と前記回転検出器の検出結果とに基づいて、前記パーキングブレーキの異常を判定するブレーキ異常判定部とを備え、
前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態において前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定し、
前記車体状態管理部は、前記車体状態としてメインキーOFF操作を管理しており、前記パーキングブレーキの前記制動状態への移行時から前記メインキーOFF操作までの間で、前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定する自走作業車。
【請求項4】
走行装置によって対地支持された車体と、
前記走行装置へ回転動力を供給する可変走行動力供給ユニットと、
前記回転動力の速度を調整する走行操作具ユニットと、
前記可変走行動力供給ユニットの伝動軸に設けられたパーキングブレーキと、
前記パーキングブレーキを制動状態または非制動状態に制御するパーキングブレーキ制御部と、
前記パーキングブレーキの動作状態である前記制動状態または前記非制動状態を車体状態として管理する車体状態管理部と、
前記走行装置または前記伝動軸の回転を検出する回転検出器と、
前記車体状態と前記回転検出器の検出結果とに基づいて、前記パーキングブレーキの異常を判定するブレーキ異常判定部とを備え、
前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態において前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定し、
前記走行装置への前記回転動力の遮断状態時に、前記ブレーキ異常判定部が前記パーキングブレーキの異常を判定した場合、前記回転動力の遮断状態が強制的に伝達状態に切り替えられる自走作業車。
【請求項5】
前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態における前記回転の回転量が許容回転量を超えた場合、前記パーキングブレーキの異常を判定する請求項1からのいずれか一項に記載の自走作業車。
【請求項6】
前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態における前記回転の回転加速度が加速度閾値を超えた場合、前記パーキングブレーキの異常を判定する請求項1からのいずれか一項に記載の自走作業車。
【請求項7】
発進時に、前記ブレーキ異常判定部が前記パーキングブレーキの異常を判定した場合、強制停止処理が実行される請求項1からのいずれか一項に記載の自走作業車。
【請求項8】
前記ブレーキ異常判定部が前記パーキングブレーキの異常を判定した場合、異常発生の報知が実行される請求項1から7のいずれか一項に記載の自走作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駐車ブレーキ機能を有する自走作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジン出力を走行装置に供給するトランスミッション、走行装置を制動する駐車ブレーキを操作するブレーキペダル、走行装置を制動する走行用ブレーキを操作するブレーキレバーを備えた乗用型草刈機が開示されている。駐車ブレーキ及び走行用ブレーキは、共通のブレーキ装置からなり、このブレーキ装置は、トランスミッションを構成するギヤ式伝動機構の伝動軸を摩擦制動する。
【0003】
特許文献2には、操作具の前進と中立と後進との間の変位に基づいて走行用電動モータを制御するモータ制御部と、ブレーキ操作具の操作に基づいて電磁ブレーキを解放状態または制動状態にするブレーキ制御部とを備えた電動走行車両が開示されている。操作具を構成する左右一対の操作レバーが運転座席の両側に設けられ、運転座席の左側にブレーキ操作具が設けられている。ブレーキ制御部は、電磁ブレーキを解放状態(励磁)または制動状態(非励磁)にするための励磁電流を制御する。ブレーキ操作具は、電磁ブレーキの解放状態を要求する第1位置と、電磁ブレーキの制動状態を要求する第2位置とに切り替え可能である。制動状態(非励磁)の電磁ブレーキは、パーキングブレーキとして機能する。電磁ブレーキは、電磁力を用いずに、機械的に強制開放することも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許6708805号公報
【文献】米国特許10850622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1や特許文献2による自走作業車は、パーキングブレーキとして機能するブレーキ装置を備えているので、傾斜地などに駐車することができる。しかしながら、特許文献1によるブレーキ装置では、摩擦力を作り出す摩擦プレートの劣化などにより、制動状態においても、車輪が微動し、車体が動く問題が生じうる。また、特許文献2によるブレーキ装置では、誤って電磁ブレーキを強制開放にしたまま車体を放置した場合は、車輪が制動されないという問題も生じうる。
【0006】
上記の実情に鑑み、駐車状態の車体が不測に動くといった不都合の原因となるパーキングブレーキの異常事態を検知することができる自走作業車を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の自走作業車は、走行装置によって対地支持された車体と、前記走行装置へ回転動力を供給する可変走行動力供給ユニットと、前記回転動力の速度を調整する走行操作具ユニット、前記可変走行動力供給ユニットの伝動軸に設けられたパーキングブレーキと、前記パーキングブレーキを制動状態または非制動状態に制御するパーキングブレーキ制御部と、前記パーキングブレーキの動作状態である前記制動状態または前記非制動状態を車体状態として管理する車体状態管理部と、前記走行装置または前記伝動軸の回転を検出する回転検出器と、前記車体状態と前記回転検出器の検出結果とに基づいて、前記パーキングブレーキの異常を判定するブレーキ異常判定部とを備え、
前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態において前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定し、前記車体に対し降下可能な草刈装置を備え、前記ブレーキ異常判定部が前記パーキングブレーキの異常を判定した場合、前記草刈装置を自動降下させ、前記草刈装置を接地する。
【0008】
この構成では、車体状態管理部によってパーキングブレーキの動作状態が制動状態であるとみなされている時に、走行装置の回転または可変走行動力供給ユニットの伝動軸の回転が回転検出器によって検出されると、ブレーキ異常判定部はパーキングブレーキが異常であると判定する。これにより、自走作業車の制御系は、パーキングブレーキの異常に対する制御的な対策を講じることができる。
【0009】
車体状態管理部によってパーキングブレーキの動作状態が制動状態であるとみなされている時に、走行装置の回転または可変走行動力供給ユニットの伝動軸の回転が回転検出器によって検出されると、ブレーキ異常判定部はパーキングブレーキが異常であると判定する。これにより、自走作業車の制御系は、パーキングブレーキの異常に対する制御的な対策を講じることができる。
長期の駐車において、作業装置が地面に降ろされているような作業車の場合や、車輪止めのような機械的な外部停止器具が設置されている場合では、このような停車要因が取り除かれ、自走作業車が再び走行するまでの間に、パーキングブレーキの異常を判定することが重要である。したがって、運転者が自走作業車のメインキーをON操作し、パーキングブレーキが非制動状態になるまでの間に、パーキングブレーキの異常を判定することが好適である。このため、パーキングブレーキの異常を検知するための本発明の別の実施形態の1つでは、走行装置によって対地支持された車体と、前記走行装置へ回転動力を供給する可変走行動力供給ユニットと、前記回転動力の速度を調整する走行操作具ユニットと、前記可変走行動力供給ユニットの伝動軸に設けられたパーキングブレーキと、前記パーキングブレーキを制動状態または非制動状態に制御するパーキングブレーキ制御部と、前記パーキングブレーキの動作状態である前記制動状態または前記非制動状態を車体状態として管理する車体状態管理部と、前記走行装置または前記伝動軸の回転を検出する回転検出器と、前記車体状態と前記回転検出器の検出結果とに基づいて、前記パーキングブレーキの異常を判定するブレーキ異常判定部とを備え、前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態において前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定し、前記車体状態管理部は、前記車体状態としてメインキーON操作を管理しており、前記メインキーON操作から前記パーキングブレーキの前記非制動状態への移行までの間で、前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定する。
【0010】
車体状態管理部によってパーキングブレーキの動作状態が制動状態であるとみなされている時に、走行装置の回転または可変走行動力供給ユニットの伝動軸の回転が回転検出器によって検出されると、ブレーキ異常判定部はパーキングブレーキが異常であると判定する。これにより、自走作業車の制御系は、パーキングブレーキの異常に対する制御的な対策を講じることができる。
運転者が降車する際には、運転者は車体を停止させ、パーキングブレーキを掛けて、メインキーをOFF操作する。このような降車時も、パーキングブレーキの異常を判定する機会として利用することができる。パーキングブレーキ異常を検知するための本発明の別の実施形態の1つでは、走行装置によって対地支持された車体と、前記走行装置へ回転動力を供給する可変走行動力供給ユニットと、前記回転動力の速度を調整する走行操作具ユニットと、前記可変走行動力供給ユニットの伝動軸に設けられたパーキングブレーキと、前記パーキングブレーキを制動状態または非制動状態に制御するパーキングブレーキ制御部と、前記パーキングブレーキの動作状態である前記制動状態または前記非制動状態を車体状態として管理する車体状態管理部と、前記走行装置または前記伝動軸の回転を検出する回転検出器と、前記車体状態と前記回転検出器の検出結果とに基づいて、前記パーキングブレーキの異常を判定するブレーキ異常判定部とを備え、前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態において前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定し、前記車体状態管理部は、前記車体状態としてメインキーOFF操作を管理しており、前記パーキングブレーキの前記制動状態への移行時から前記メインキーOFF操作までの間で、前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定する。
【0011】
パーキングブレーキの異常は、パーキングブレーキの制動状態において、走行装置や可変走行動力供給ユニットの伝動軸の回転挙動によって判定することができる。走行作業車の仕様により、パーキングブレーキ異常を正確に検知するための回転挙動は異なる。パーキングブレーキの異常の判定基準となる回転挙動の1つは、回転量(回転角度)である。これを実現する実施形態では、前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態における前記回転の回転量が許容回転量を超えた場合、前記パーキングブレーキの異常を判定する。
【0012】
パーキングブレーキの異常の判定基準となる回転挙動の1つは、回転加速度である。これを実現する実施形態では、前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態における前記回転の回転加速度が加速度閾値を超えた場合、前記パーキングブレーキの異常を判定する
【0013】
発進時に、パーキングブレーキの異常が判定された際に、自走作業車の制御系が講じうる制御的な対策の1つは、車体の発進を強制的に停止させる処理を実行することである。これにより、パーキングブレーキ異常のまま、走行するといった不都合が回避され、点検が行われる。したがって、実施形態の1つでは、発進時に、前記ブレーキ異常判定部が前記パーキングブレーキの異常を判定した場合、強制停止処理が実行される。そのような強制停止処理の1つは、メインキーのOFF、作業装置の降下などであり、自走作業車の仕様によって、適切な制御処理が選択される。
【0014】
車体状態管理部によってパーキングブレーキの動作状態が制動状態であるとみなされている時に、走行装置の回転または可変走行動力供給ユニットの伝動軸の回転が回転検出器によって検出されると、ブレーキ異常判定部はパーキングブレーキが異常であると判定する。これにより、自走作業車の制御系は、パーキングブレーキの異常に対する制御的な対策を講じることができる。
電気モータが走行用駆動源であり、この電気モータの制御位置がゼロ速度位置でパーキングブレーキの異常を判定した場合、電気モータを検出された回転方向と反対方向に回転力を発生させることで、停車が可能である。また、正逆転無段変速機構が用いられており、正逆転無段変速機構の中立状態でパーキングブレーキの異常を判定した場合、検出された回転方向と反対方向に回転力が伝達されるように正逆転無段変速機構を調節することで、停車が可能である。このような強制停止が可能な本発明の別の自走作業車では、走行装置によって対地支持された車体と、前記走行装置へ回転動力を供給する可変走行動力供給ユニットと、前記回転動力の速度を調整する走行操作具ユニットと、前記可変走行動力供給ユニットの伝動軸に設けられたパーキングブレーキと、前記パーキングブレーキを制動状態または非制動状態に制御するパーキングブレーキ制御部と、前記パーキングブレーキの動作状態である前記制動状態または前記非制動状態を車体状態として管理する車体状態管理部と、前記走行装置または前記伝動軸の回転を検出する回転検出器と、前記車体状態と前記回転検出器の検出結果とに基づいて、前記パーキングブレーキの異常を判定するブレーキ異常判定部とを備え、前記ブレーキ異常判定部は、前記パーキングブレーキの前記制動状態において前記回転検出器によって前記回転が検出された場合、前記パーキングブレーキの異常を判定し、前記走行装置への前記回転動力の遮断状態時に、前記ブレーキ異常判定部が前記パーキングブレーキの異常を判定した場合、前記回転動力の遮断状態が強制的に伝達状態に切り替えられる構成が採用される。
【0015】
もちろん、このようなパーキングブレーキの異常が発生すると、運転者に知らせて、整備点検を促すことが重要である。このため、実施形態の1つでは、前記ブレーキ異常判定部が前記パーキングブレーキの異常を判定した場合、異常発生の報知が実行される。報知の例には、ブザーやスピーカを用いた警告、ランプなどを用いた視覚的刺激による警告が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】乗用型草刈機の全体を示す左側面図である。
図2】乗用型草刈機の全体を示す平面図である。
図3】乗用型草刈機のトランスミッションの構造を示す縦断面図である。
図4】乗用型草刈機の制御系の機能ブロック図である。
図5】操作レバーを案内するガイドユニットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一例である実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明では、乗用型草刈機(「自走作業車」の一例)に関し、図1図2とに示される矢印Fの方向を「車体前方」、矢印Bの方向を「車体後方」、図1に示される矢印Uの方向を「車体上方」、矢印Dの方向を「車体下方」、図2に示される矢印Lの方向を「車体左方」、矢印Rの方向を「車体右方」とする。
【0018】
図1図2とに示されるように、乗用型草刈機は、走行装置として、前輪ユニット1と後輪ユニット2とを備える。前輪ユニット1は、キャスタ輪型に構成されている左右一対の前輪からなる。後輪ユニット2は、独立的に駆動可能な左後輪と右後輪とを有する。走行装置によって対地支持される車体は車体フレーム8を有する。車体の前部に、運転座席3を有する運転部4が形成されている。運転部4の下方に、左後輪と右後輪とに対して独立して回転動力を供給する左モータと右モータとからなる走行用モータユニット5が設けられている。車体の後部に、走行用モータユニット5に電力を供給するバッテリパック6が備えられている。前輪ユニット1と後輪ユニット2との間に、草刈装置7が設けられている。図2に示すように、走行用モータユニット5と後輪ユニット2との間の動力伝達を行うために、走行用のトランスミッション20が設けられている。草刈装置7は、草刈装置7を車体に対して昇降操作するリンク機構9を介して車体フレーム8に支持されている。草刈装置7には、刈刃ハウジング10、刈刃ハウジング10の内部に、車体上下方向に沿う方向の支軸(図示せず)を回転中心にして回転駆動可能に設けられた刈刃11が備えられている。
【0019】
図3に示すように、走行用のトランスミッション20には、走行用モータユニット5からトランスミッション20への動力伝達を制動する無励磁作動型ブレーキであるパーキングブレーキ21が装備されている。この実施形態では、走行用モータユニット5の出力軸が、パーキングブレーキ21の回転軸22として機能しており、回転軸22は、トランスミッション20の入力軸23と連結されている。トランスミッション20の入力軸23に入力された動力は、ギヤ伝動機構を経てトランスミッション20の出力軸である後車軸2Aに伝達される。図4に示すように、走行用モータユニット5とパーキングブレーキ21とトランスミッション20とにより、後輪ユニット2に回転動力を伝達する可変走行動力供給ユニットPSUが構成されている。図3に示された、回転軸22及び入力軸23は、可変走行動力供給ユニットPSUの伝動軸の一例である。
【0020】
パーキングブレーキ21は、固定コア211と、アーマチャ214と、保持板216と、ブレーキディスク215とからなる。固定コア211は、回転軸22と同軸状に配置された電磁コイル212とブレーキバネ213とを備えている。ブレーキディスク215は、回転軸22に相対回転不能に連結されたボス部を有する円板であり、その両面に摩擦部が形成されている。アーマチャ214は、回転軸22と同軸状に配置され、軸方向に移動可能なリング板であり、電磁コイル212の非励磁時にはブレーキバネ213のバネ付勢力によってブレーキディスク215に押し付けられ、電磁コイル212の励磁時にはバネ付勢力を上回る電磁力によってブレーキディスク215から離脱される。保持板216は、回転軸22と同軸状に配置されたリング板であり、3つの周方向に分配された連結ロッド217によって固定コア211に連結されている。連結ロッド217はアーマチャ214の軸方向移動のガイドロッド及び回転防止ロッドとしても機能するため、アーマチャ214の外周に設けられた凹部に係入している。
【0021】
外からの人為的操作によって強制的にパーキングブレーキ21をする操作具218が備えられている。操作具218が回転軸22に向かって変位すると、操作具218の先端に形成された円錐部によるクサビ効果によって、押圧体219がアーマチャ214に接当し、アーマチャ214が固定コア211側に移動する。その結果、アーマチャ214はブレーキディスク215から離脱し、ブレーキが解放される。
【0022】
図1図2とに示されるように、運転部4には車速調整および向き調整を行う走行操作具ユニット12が備えられている。走行操作具ユニット12を構成する左操作レバー12aと右操作レバー12bは、運転座席3の両横側方に振り分けられている。運転者は、左操作レバー12aと右操作レバー12bとの間を通り抜け、運転座席3の前方に形成されたフロアープレートを通じて、乗車または降車する。
【0023】
図4に示されるように、左操作レバー12aと右操作レバー12bとは、それぞれ第1揺動軸芯P1周りで揺動変位する。この揺動変位は、車体前後方向の変位であり、縦変位と称する。さらに、左操作レバー12aと右操作レバー12bとは、それぞれ第2揺動軸芯P2周りでも揺動変位する。この揺動変位は、車体横断方向の変位であり、横変位と称する。
【0024】
図4に示されるように、走行操作具ユニット12の安定した変位(揺動)のために、左操作レバー12aと右操作レバー12bとの各基端部をガイドするガイドユニット40が備えられている。ガイドユニット40はプレート構造体であり、左操作レバー12aまたは右操作レバー12bの縦変位を案内する縦案内スロット41と、左操作レバー12aまたは右操作レバー12bの横変位を案内する横案内スロット42とが、上面に形成されている。縦案内スロット41は、縦案内スロット41の中央部において横案内スロット42とつながっている。
【0025】
図5に示されているように、縦案内スロット41に案内されて縦変位する左操作レバー12aの変位経路は第1経路L1と称し、縦案内スロット41に案内されて縦変位する右操作レバー12bの変位経路は第2経路L2と称する。横案内スロット42に案内されて横変位する左操作レバー12aの変位経路は第3経路L3と称し、横案内スロット42に案内されて横変位する右操作レバー12bの変位経路は第4経路L4と称する。第1経路L1と第3経路L3とは、分岐点JPで接続しており、第2経路L2と第4経路L4とは、分岐点JPで接続している。第1経路L1と第3経路L3とは、分岐点JPで、ほぼ直交しており、第2経路L2と第4経路L4とは、分岐点JPで、ほぼ直交している。
【0026】
図4に示されるように、左操作レバー12aの基端付近には、左操作レバー12aの第1経路L1に沿った縦変位を検出するポテンショメータ13が設けられている。同様に、右操作レバー12bの基端付近には、右操作レバー12bの第2経路L2に沿った縦変位を検出するポテンショメータ13が設けられている。各ポテンショメータ13は制御装置50に接続されている。
【0027】
さらに、左操作レバー12aの基端付近には、左操作レバー12aが第3経路L3に設定された特定位置(第1検出位置)に位置することを検出するリミットスイッチ14が設けられている。同様に、右操作レバー12bの基端付近には、右操作レバー12bが第4経路L4に設定された特定位置(第2検出位置)に位置することを検出するリミットスイッチ14が設けられている。各リミットスイッチ14は制御装置50に接続されている。
【0028】
制御装置50には、メインキー61、報知デバイス62、回転検出器63からの信号が入力される。メインキー61は、少なくともON操作位置とOFF操作位置に切替可能である。ON操作位置で車体は通電状態となり、車体の走行が可能となる。OFF操作位置で、車体の走行が不可能となる。報知デバイス62には、モニター、ブザー、ランプ、スピーカなどが含まれており、制御装置50で生成された情報を運転者に報知する。回転検出器63は、後輪ユニット2の回転、または回転軸22の回転を検出する。
【0029】
図4に示されている制御装置50は、車輪制御部51、パーキングブレーキ制御部52、車体状態管理部53、ブレーキ異常判定部54、異常処理部55を備えている。走行用モータユニット5は、モータドライバユニット15を介して制御装置50に接続されている。走行用モータユニット5には、左後輪に回転動力を供給する左モータと、右後輪に回転動力を供給する右モータとが含まれている。モータドライバユニット15には、左モータのための左ドライバと、右モータのための右ドライバとが含まれている。車輪制御部51は、モータドライバユニット15への制御信号を生成し、後輪ユニット2の駆動を独立的に制御する。
【0030】
制御装置50の車輪制御部51は、走行操作具ユニット12の縦変位に基づいて、走行用モータユニット5の回転制御を行う。具体的には、左操作レバー12aが第1経路L1において分岐点JPから前方に変位するほど、左後輪の前進回転速度が高くなり、左操作レバー12aが第1経路L1において分岐点JPから後方に変位するほど、左後輪の後進回転速度が高くなる。同様に、右操作レバー12bが第2経路L2において分岐点JPから前方に変位するほど、右後輪の前進回転速度が高くなり、右操作レバー12bが第2経路L2において分岐点JPから後方に変位するほど、左後輪の後進回転速度が高くなる。左操作レバー12aの分岐点JPの位置、及び右操作レバー12bの分岐点JPの位置が中立位置であり、動力供給が行われない中立状態となる。
【0031】
分岐点JPは、後輪ユニット2への回転動力の伝達をゼロにする中立位置として機能するので、左操作レバー12aが第3経路L3に位置する状態では、左後輪への回転動力の伝達はゼロとなり、中立状態が維持される。同様に、右操作レバー12bが第4経路L4に位置する状態では、左後輪への回転動力の伝達はゼロとなり、中立状態が維持される。
【0032】
制御装置50のパーキングブレーキ制御部52は、ブレーキドライバ17を介してパーキングブレーキ21と接続されている。パーキングブレーキ制御部52が、ブレーキドライバ17へ制御信号を送ることで、パーキングブレーキ21は、制動状態または非制動状態に制御される。パーキングブレーキ21の動作状態である制動状態または非制動状態は、車体状態の1つとして、車体状態管理部53によって管理される。
【0033】
走行操作具ユニット12の左操作レバー12aが第1検出位置に到達して左側のリミットスイッチ14がONし、かつ右操作レバー12bが第2検出位置に到達して右側のリミットスイッチ14がONした場合、パーキングブレーキ作動部70はパーキングブレーキ21の左ブレーキ及び右ブレーキを作動させる(ブレーキON)。これにより、車体は、パーキングブレーキ21が作動している駐車状態となる。
【0034】
ブレーキ異常判定部54は、車体状態管理部53によってパーキングブレーキ21の制動状態が検出され、かつ回転検出器63によって、後輪ユニット2の回転、または回転軸22の回転が検出された場合、パーキングブレーキ21が異常であると判定する。回転検出器63が回転を検出することは、滑りが発生しているのではなく、車輪が回転して車体が動いていることである。パーキングブレーキ21が制動状態であるにもかかわらず、車体がこのようなの動きをすることは、パーキングブレーキ21が正常に機能していないことを裏付けるので、パーキングブレーキ21が異常であると判定することができる。
【0035】
以下に、ブレーキ異常判定部54がパーキングブレーキ21を異常と判定するアルゴリズムの例を示す。
(1)メインキー61のON操作からパーキングブレーキ21の非制動状態への移行までの間で、回転検出器63によって回転が検出された場合、パーキングブレーキ21が異常であると判定される。
(2)パーキングブレーキ21が制動状態に移行した時からメインキー61がOFF操作されるまでの間で、回転検出器63によって回転が検出された場合、パーキングブレーキ21が異常であると判定される。
(3)パーキングブレーキ21が制動状態において、回転検出器63によって検出された回転が許容回転量を超えた場合、パーキングブレーキ21が異常であると判定される。
(4)パーキングブレーキ21が制動状態において、回転検出器63によって検出された回転の回転加速度が加速度閾値を超えた場合、パーキングブレーキ21が異常であると判定される。
【0036】
ブレーキ異常判定部54がパーキングブレーキ21の異常を判定すると、異常処理部55が、予め設定されている、異常処理を実行する。まず、異常処理として、運転者に対して、報知デバイス62を通じての異常発生の報知が行われる。メインキー61のOFFにより自己制動が機能する構造の場合、メインキー61の自動OFF動作が行われる。草刈装置7の地上への自動降下が可能な場合、自動降下によって地面と草刈装置7との間に摩擦力を発生させ、車体が強制停止される。また、後輪ユニット2への記回転動力の遮断状態時に、パーキングブレーキ21の異常が判定した場合、回転動力の遮断状態が強制的に伝達状態に切り替えることで、運転者の操縦によって、例えば、車体が不測に動き出している方向とは逆の方向への走行によって、実質的に車体を停止させる。
【0037】
〔別実施の形態〕
(1)上述した実施形態では、走行装置として前輪ユニット1及び後輪ユニット2が備えられ、走行装置を駆動する駆動装置として走行用モータユニット5が備えられた例を示したが、これに限らない。たとえば、クローラ式の走行装置、ミニクローラと車輪とが組み合わされた走行装置が備えられたものであってもよい。また、エンジンの動力が入力され、入力された動力を変速して走行装置に伝達することによって走行装置を駆動する無段変速装置が備えられたものであってもよい。
【0038】
(2)上述した実施形態では、パーキングブレーキ21は、電磁ブレーキで構成されていたが、これに代えて、電動アクチュエータで動作する機械式ブレーキなど、他のブレーキ構造が採用されてもよい。
【0039】
(3)上述した実施形態では、走行操作具ユニット12として、揺動支点周りで揺動する操作レバーが取り上げられたが、摺動タイプの走行操作具ユニット12など他のタイプのものが用いられてもよい。
【0040】
(4)上述した実施形態では、走行操作具ユニット12の各経路での挙動の検出に、リミットスイッチタイプやポテンショメータタイプの検出デバイスが用いられたが、磁気的検出デバイスや光学的検出デバイスなどの検出デバイスが用いられてもよい。
【0041】
(5)図4で示された機能ブロック図における各機能部の区分けは、説明を分かりやすくするための一例であり、種々の機能部を統合したり、単一の機能部を複数に分割したりすることは自由である。
【0042】
(6)上述した実施形態では、電動走行車両は草刈機であったが、トラクタ、コンバイン、田植機などの農作業機であってもよい。さらには、ジープなどのオフロード車両などにも本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、パーキングブレーキを備えた自走作業車に適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 :前輪ユニット
2 :後輪ユニット
5 :走行用モータユニット
7 :草刈装置
12 :走行操作具ユニット
15 :モータドライバユニット
16 :パーキングブレーキ
17 :ブレーキドライバ
20 :トランスミッション
21 :パーキングブレーキ
22 :回転軸(伝動軸)
23 :入力軸(伝動軸)
50 :制御装置
51 :車輪制御部
52 :パーキングブレーキ制御部
53 :車体状態管理部
54 :ブレーキ異常判定部
55 :異常処理部
61 :メインキー
62 :報知デバイス
63 :回転検出器
70 :パーキングブレーキ作動部
PSU :可変走行動力供給ユニット
図1
図2
図3
図4
図5