(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】エレベーター診断システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20240712BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
B66B5/02 S
B66B3/00 R
(21)【出願番号】P 2021084016
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 泰佳
(72)【発明者】
【氏名】西迫 竜一
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-029314(JP,A)
【文献】特開2011-241041(JP,A)
【文献】特開2018-118815(JP,A)
【文献】特開2005-343696(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109132770(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-1/52
B66B 3/00-3/02
B66B 5/00-5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気センサと加速度センサを用いてエレベーターの診断を行うエレベーター診断システムであって、
乗りかごに設置された加速度センサからの加速度情報と各階床に設置された磁気マーカを検出する磁気センサからの磁気情報を受け取る情報取得部と、
前記情報取得部から受け取った加速度情報を基に乗りかごの停止を検出し、前記情報取得部から受け取った磁気情報を基に乗りかごの停止までに端階を検出したときに、かご位置ロストが発生したと判定する異常診断部と、
前記異常診断部がかご位置ロストを検出したとき、かご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する出力部と、を備えるエレベーター診断システム。
【請求項2】
前記異常診断部は、前記情報取得部から受け取った加速度情報を基に乗りかごの停止を検出したあと、予め定められた時間内に前記情報取得部から受け取った加速度情報を基に乗りかごの反転移動を検出したときに、一時的なかご位置ロストと判定し、
前記出力部は、前記異常診断部が一時的なかご位置ロストを検出したときに、一時的なかご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する請求項1に記載のエレベーター診断システム。
【請求項3】
前記異常診断部は、前記情報取得部から受け取った加速度情報を基に乗りかごの停止を検出したあと、予め定められた時間内に前記情報取得部から受け取った加速度情報を基に乗りかごの反転移動を検出しなかったときに、継続的なかご位置ロストと判定し、
前記出力部は、前記異常診断部が継続的なかご位置ロストを検出したときに、継続的なかご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する請求項1に記載のエレベーター診断システム。
【請求項4】
前記異常診断部は、前記端階が最下階であれば上階リミットスイッチを異常個所と推定し、前記端階が最上階であれば下階リミットスイッチを異常個所と推定し、
発生したかご位置ロストの記録を異常個所の推定結果とともに格納する異常履歴格納部を備える請求項3に記載のエレベーター診断システム。
【請求項5】
前記出力部は、前記異常診断部が継続的なかご位置ロストを検出したときに、一時的なかご位置ロストと異なる態様で表示される、継続的なかご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する請求項3に記載のエレベーター診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターシステムは、エレベーターの乗りかごの動作を制御するエレベーター制御装置と、乗りかごを昇降させるモータと、乗りかごの位置を検出するかご位置検出器とを備えている。エレベーター制御装置は、かご位置検出器の検出結果に基づいてモータを制御することにより、建物の出発階から行先階へと乗りかごを移動させる。その際、エレベーター制御装置が乗りかごの位置を認識できなくなる状態、即ちかご位置ロストが発生することがある。
【0003】
特許文献1には、エレベーターの起動回数を計測するための情報を、エレベーターの制御盤から出力しないエレベーターについても起動回数を計測できるよう、エレベーターのかごに取り付けられる取付け部としての磁石と、取付け部によってかごと一体に運動し、かごの走行の情報を取得する測定部としての加速度計および高度計と、測定部が取得したかごの走行の情報に基づいてエレベーターの起動の回数を計測する計測部と、を備えるエレベーターの起動回数計測装置に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来においては、エレベーター制御装置でかご位置ロストが発生した場合に、エレベーター制御装置との間で情報をやり取りしないかぎり、かご位置ロストの発生を感知することができなかった。
【0006】
本発明の目的は、エレベーター制御装置との間で情報をやり取りしなくても、エレベーター制御装置でかご位置ロストが発生したことを感知することができるエレベーター診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、たとえば、特許請求の範囲に記載された構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一つを挙げるならば、磁気センサと加速度センサを用いてエレベーターの診断を行うエレベーター診断システムであって、乗りかごに設置された加速度センサからの加速度情報と各階床に設置された磁気マーカを検出する磁気センサからの磁気情報を受け取る情報取得部と、情報取得部から受け取った加速度情報を基に乗りかごの停止を検出し、情報取得部から受け取った磁気情報を基に乗りかごの停止までに端階を検出したときに、かご位置ロストが発生したと判定する異常診断部と、異常診断部がかご位置ロストを検出したとき、かご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エレベーター制御装置との間で情報をやり取りしなくても、エレベーター制御装置でかご位置ロストが発生したことを感知することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係るエレベーターシステムの構成例を示す概略図である。
【
図2】エレベーター制御システムにおけるエレベーター制御装置の内部構成を説明するブロック図である。
【
図3】エレベーター診断システムにおける監視装置の内部構成を説明するブロック図である。
【
図4】エレベーター制御装置でかご位置ロストが発生した場合に監視装置で行われる処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係るエレベーターシステムの構成例を示す概略図である。
図1に示すエレベーターシステムは、エレベーター制御装置6を有するエレベーター制御システムと、監視装置19を有するエレベーター監視システムとを備えている。エレベーター制御システムは、エレベーターの設置に必要なシステムである。このため、エレベーター制御システムは、ビルなどの建屋にエレベーターを設置する場合に、エレベーターと同時に設置される。エレベーター監視システムは、エレベーターの設置に必要なシステムではないが、エレベーターを設置した後に必要に応じて設置することが可能なシステムである。このため、監視装置19は、エレベーター制御装置6とは別個に設置されている。監視装置19は、エレベーター制御装置6との間で情報のやり取りをすることなく、エレベーターの運行状態を監視する。エレベーター制御装置6および監視装置19は、いずれもコンピュータによって構成することが可能である。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性記憶装置などのハードウェア資源を備え、CPUが、ROMに格納されたプログラムをRAMに読み出して実行することにより、種々の処理および機能を実現する。
【0012】
図1に示すように、エレベーターの乗りかご1と釣り合いおもり2とは、ロープ5によって連結されている。ロープ5は、プーリ3とシーブ4とに掛けられている。乗りかご1は、昇降路100に配置され、昇降路100に沿って上下方向に移動動作(以下、「昇降動作」ともいう。)する。乗りかご1には、図示しないかごドアが開閉可能に設けられている。釣り合いおもり2は、乗りかご1を昇降動作させるときの負荷を軽減する。プーリ3は、昇降路100の上部に配置されている。プーリ3は、モータ7の回転にしたがって回転する。モータ7は、乗りかご1を昇降動作させるための駆動源である。シーブ4は、ロープ5の移動にしたがって回転する。シーブ4は、乗りかご1と釣り合いおもり2との接触を避けるため、プーリ3から見て斜め下方に配置されている。ロープ5の一端は乗りかご1に接続され、ロープ5の他端は釣り合いおもり2に接続されている。
【0013】
エレベーター制御装置6は、乗りかご1の動作を制御する装置である。エレベーター制御装置6が制御する乗りかご1の動作には、乗りかご1の移動動作と、かごドアの開閉動作とが含まれる。また、エレベーター制御装置6は、乗りかご1の動作だけでなく、図示しない乗り場ドアの開閉動作なども制御する。即ち、エレベーター制御装置6は、利用者がエレベーターを利用するために必要な種々の動作を制御する。
【0014】
エレベーターが設置される建屋の各階には、エレベーターの利用者が乗りかご1に乗車したり降車したりするための出入口101~104が設けられている。具体的には、1階のエレベーター乗り場には出入口101が設けられ、2階のエレベーター乗り場には出入口102が設けられている。また、3階のエレベーター乗り場には出入口103が設けられ、4階のエレベーター乗り場には出入口104が設けられている。また、各々の出入口101~104には、図示しない乗り場ドアが設けられている。乗り場ドアは、乗りかご1のかごドアと同期して開閉する。なお、本実施形態においては、一例として、利用者が乗りかご1に乗って移動可能な建屋の最下階が1階、最上階が4階である場合について説明する。この場合、1階は、昇降路100の下方の端階に相当し、4階は、昇降路100の上方の端階に相当する。
【0015】
乗りかご1には、ポジテクタ8とリミットカム14とが取り付けられている。一方、昇降路100の壁105には、4つの遮蔽板9a~9dと、上階リミットスイッチ10と、下階リミットスイッチ11と、上階強制減速スイッチ12と、下階強制減速スイッチ13とが取り付けられている。ここに記載するポジテクタ8、遮蔽板9a~9d、上階リミットスイッチ10、下階リミットスイッチ11、上階強制減速スイッチ12、下階強制減速スイッチ13およびリミットカム14は、上述したエレベーター制御装置6と共に、エレベーター制御システムを構成する要素である。
【0016】
ポジテクタ8は、昇降路100を上下方向に移動する乗りかご1の位置を検出するためのセンサである。ポジテクタ8は、乗りかご1と一体に昇降路100を上下方向に移動する。ポジテクタ8は、たとえば、透過型光学センサ(フォトインタラプタ)によって構成される。ポジテクタ8を構成する透過型光学センサは、図示しない発光部と受光部とを互いに対向する状態に配置し、発光部から出射された光(以下、「センサ光」ともいう。)を受光部が受光するか否かによってオンオフ状態が切り替わるセンサである。本実施形態においては、一例として、発光部から出射された光を受光部が受光している場合にポジテクタ8がオン状態となり、発光部から出射された光を受光部が受光していない場合にポジテクタ8がオフ状態となるものとする。また、ポジテクタ8は、オン状態のもとでオン信号を出力し、オフ状態のもとでオフ信号を出力するものとする。
【0017】
4つの遮蔽板9a~9dは、それぞれ昇降路100の壁105から水平方向(
図1の左方向)に突き出して配置されている。遮蔽板9aは、1階の出入口101の部分に乗りかご1が配置されたときにポジテクタ8のセンサ光を遮るように配置され、遮蔽板9bは、2階の出入口102の部分に乗りかご1が配置されたときにポジテクタ8のセンサ光を遮るように配置されている。また、遮蔽板9cは、3階の出入口103の部分に乗りかご1が配置されたときにポジテクタ8のセンサ光を遮るように配置され、遮蔽板9dは、4階の出入口104の部分に乗りかご1が配置されたときにポジテクタ8のセンサ光を遮るように配置されている。
【0018】
上階リミットスイッチ10は、乗りかご1が最上階(本形態例では4階)を超えて上方に移動したことを検知するスイッチである。下階リミットスイッチ11は、乗りかご1が最下階(本形態例では1階)を超えて下方に移動したことを検知するスイッチである。
【0019】
上階強制減速スイッチ12は、乗りかご1を1階、2階または3階から4階へと移動させる場合に、乗りかご1が4階に近づいたことを検知するスイッチである。下階強制減速スイッチ13は、乗りかご1を2階、3階または4階から1階へと移動させる場合に、乗りかご1が1階に近づいたことを検知するスイッチである。
【0020】
リミットカム14は、乗りかご1と一体に昇降路100を上下方向に移動する。リミットカム14は、上階リミットスイッチ10、下階リミットスイッチ11、上階強制減速スイッチ12および下階強制減速スイッチ13を、それぞれスイッチ動作させるカムである。スイッチ動作には、オフ状態からオン状態に切り替わる動作と、オン状態からオフ状態に切り替わる動作とがある。以下、具体的に説明する。
【0021】
上階リミットスイッチ10は、リミットカム14が接触していないときはオフ状態に保持され、リミットカム14が接触することでオフ状態からオン状態に切り替わる。上階リミットスイッチ10は、オン状態のもとでオン信号を出力し、オフ状態のもとでオフ信号を出力する。リミットカム14は、乗りかご1が最上階を超えて上方に移動したときに上階リミットスイッチ10に接触することにより、上階リミットスイッチ10をオフ状態からオン状態に切り替える。
【0022】
下階リミットスイッチ11は、リミットカム14が接触していないときはオフ状態に保持され、リミットカム14が接触することでオフ状態からオン状態に切り替わる。下階リミットスイッチ11は、オン状態のもとでオン信号を出力し、オフ状態のもとでオフ信号を出力する。リミットカム14は、乗りかご1が最下階を超えて下方に移動したときに下階リミットスイッチ11に接触することにより、下階リミットスイッチ11をオフ状態からオン状態に切り替える。
【0023】
上階強制減速スイッチ12は、リミットカム14が接触していないときはオフ状態に保持され、リミットカム14が接触することでオフ状態からオン状態に切り替わる。上階強制減速スイッチ12は、オン状態のもとでオン信号を出力し、オフ状態のもとでオフ信号を出力する。リミットカム14は、乗りかご1を1階、2階または3階から4階へと移動させる場合に、乗りかご1が3階を超えて所定の距離まで4階に近づいたときに上階強制減速スイッチ12に接触することにより、上階強制減速スイッチ12をオフ状態からオン状態に切り替える。
【0024】
下階強制減速スイッチ13は、リミットカム14が接触していないときはオフ状態に保持され、リミットカム14が接触することでオフ状態からオン状態に切り替わる。下階強制減速スイッチ13は、オン状態のもとでオン信号を出力し、オフ状態のもとでオフ信号を出力する。リミットカム14は、乗りかご1を2階、3階または4階から1階へと移動させる場合に、乗りかご1が2階を通過して所定の距離まで1階に近づいたときに下階強制減速スイッチ13に接触することにより、下階強制減速スイッチ13をオフ状態からオン状態に切り替える。
【0025】
図2は、エレベーター制御システムにおけるエレベーター制御装置の内部構成を説明するブロック図である。
図2に示すように、エレベーター制御装置6は、かごドアゾーン検知部6aと、スイッチ動作検知部6bと、走行異常有無判定部6cと、運転指令部6dと、を備えている。エレベーター制御装置6は、ポジテクタ8から出力される信号を取り込む。また、エレベーター制御装置6は、上階リミットスイッチ10、下階リミットスイッチ11、上階強制減速スイッチ12および下階強制減速スイッチ13の各スイッチから出力される信号を取り込む。また、エレベーター制御装置6は、モータ7に対してモータ制御信号を出力する。モータ駆動信号は、モータ7の駆動を制御するための信号である。
【0026】
かごドアゾーン検知部6aは、ポジテクタ8から出力される信号に基づいて、乗りかご1の位置がかごドアゾーン内に存在するか否かを検知し、この検知結果を走行異常有無判定部6cに通知する。かごドアゾーンとは、利用者が乗り降りできる乗りかご1の位置範囲である。
【0027】
スイッチ動作検知部6bは、上階リミットスイッチ10、下階リミットスイッチ11、上階強制減速スイッチ12および下階強制減速スイッチ13のスイッチ動作をスイッチごとに検知し、この検知結果を走行異常有無判定部6cに通知する。
【0028】
走行異常有無判定部6cは、かごドアゾーン検知部6aの検知結果およびスイッチ動作検知部6bの検知結果に基づいて、乗りかご1の走行異常の有無を判定する。乗りかご1の走行異常とは、昇降路100に沿って乗りかご1を走行(移動動作)させる際に生じる可能性がある異常である。走行異常には、種々の異常が含まれる。たとえば、走行異常には、乗りかご1を出発階から行先階(到着階)まで移動させる間に、上階リミットスイッチ10または下階リミットスイッチ11がオン状態となった場合が含まれる。また、走行異常には、乗りかご1を最上階へと移動させるときに、上階強制減速スイッチ12がオン状態となった時点の乗りかご1の移動速度が閾値を超えていた場合が含まれる。また、走行異常には、乗りかご1を最下階へと移動させるときに、下階強制減速スイッチ13がオン状態となった時点の乗りかご1の移動速度が閾値を超えていた場合が含まれる。また、走行異常には、乗りかご1が移動中であるにもかかわらず、ポジテクタ8の出力信号が所定時間以上にわたってオン信号またはオフ信号のまま切り替わらなかった場合が含まれる。所定時間は、乗りかご1を出発階から1つ上の階または1つの下の階まで移動させるのに必要な時間である。
【0029】
また、走行異常有無判定部6cは、かごドアゾーン検知部6aの検知結果およびスイッチ動作検知部6bの検知結果に基づいて、乗りかご1の位置を認識する。そして、走行異常有無判定部6cは、認識した乗りかご1の位置に基づいて、乗りかご1の移動を制御する制御指令を運転指令部6dに与える。
【0030】
走行異常有無判定部6cは、乗りかご1の走行異常を無しと判定している状況のもとでは、予め決められた通常対応時の制御プログラムに基づく制御指令を運転指令部6dに与える。また、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1の走行異常を有りと判定すると、予め決められた異常対応時の制御プログラムに基づく制御指令を運転指令部6dに与える。
【0031】
運転指令部6dは、走行異常有無判定部6cから与えられる制御指令にしたがってモータ7に運転指令を与える。運転指令は、エレベーター制御装置6からモータ7へと出力されるモータ制御信号に含まれる指令である。運転指令には、乗りかご1の移動方向を指定する指令と、乗りかご1の移動速度を指定する指令と、乗りかご1の移動を停止する指令などが含まれる。乗りかご1の移動方向は、昇降路100に沿って乗りかご1が移動する方向、即ち昇降方向である。乗りかご1の移動方向は、モータ7の回転方向によって決まる。乗りかご1の移動速度は、昇降路100に沿って乗りかご1が移動する速度、即ち昇降速度である。乗りかご1の移動速度は、モータ7の回転速度によって決まる。
【0032】
上記構成からなるエレベーター制御システムにおいて、エレベーター制御装置6は、ポジテクタ8から出力される信号(オン信号、オフ信号)を基に乗りかご1の位置を認識しながら、乗りかご1の移動動作を制御する。通常、乗りかご1は、エレベーター制御装置6の制御下において、1階から4階までの範囲内で移動と停止を繰り返す。また、エレベーター制御装置6は、エレベーターの利用者がボタン操作などによって選択した出発階から行先階まで乗りかご1を高速運転によって移動させる。その際、エレベーター制御装置6が乗りかご1の位置を認識できなくなる状態、即ちかご位置ロストが発生することがある。
【0033】
乗りかご1を出発階から行先階へと移動している間、即ち乗りかご1の移動中に、エレベーター制御装置6でかご位置ロスト発生すると、エレベーター制御装置6の走行異常有無判定部6cは、乗りかご1の走行異常を有りと判定する。具体的には、走行異常有無判定部6cは、下記(a)~(e)のうち少なくともいずれか1つの条件を満たした場合に、乗りかご1の走行異常を有りと判定する。
(a)上階リミットスイッチ10がオン状態になる。
(b)下階リミットスイッチ11がオン状態になる。
(c)上階強制減速スイッチ12がオン状態となった時点の乗りかご1の移動速度が閾値を超える。
(d)下階強制減速スイッチ13がオン状態となった時点の乗りかご1の移動速度が閾値を超える。
(e)ポジテクタ8の出力信号が所定時間以上にわたってオン信号またはオフ信号のまま切り替わらなくなる。
【0034】
また、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1の走行異常を有りと判定した場合は、異常対応時の制御プログラムに基づく制御指令を運転指令部6dに与えることにより、通常時とは異なる条件で乗りかご1の移動動作を制御する。具体的には、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1の走行異常を有りと判定すると、まず、乗りかご1を非常停止させる。次に、走行異常有無判定部6cは、かご位置ロストの状態から復帰するための復帰運転を開始する。復帰運転は、乗りかご1の運転モードを高速運転モードから低速運転モードに切り替えた状態で行われる。高速運転モードは通常時(正常時)に適用される運転モードであり、低速運転モードは、異常時に適用される運転モードである。低速運転モードは、かご位置ロストが発生した場合だけでなく、たとえば、エレベーター制御システムが備える地震センサ(図示せず)が所定値を超える揺れを感知した場合や、乗りかご1内に設けられた非常ボタン(図示せず)が押された場合などにも適用される。ただし、かご位置ロストが発生した場合と、かご位置ロスト以外の異常が発生した場合では、乗りかご1が非常停止後に低速運転モードで移動するときの停止位置が異なる。具体的には、乗りかご1は、かご位置ロストが発生した場合は、上下いずれかの端階を通り過ぎた位置まで移動して停止し、かご位置ロスト以外の異常が発生した場合は、非常停止した位置に近い最寄階まで移動して停止する。
【0035】
以下、復帰運転の手順について説明する。
まず、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1を低速運転モードで所定の方向に移動させる。このとき、乗りかご1を移動させる方向は、上記非常停止の前に乗りかご1が移動していた方向と反対方向である。具体的には、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1を高速運転モードで上方に移動させている間にかご位置ロストが発生して乗りかご1を非常停止させた場合は、乗りかご1を低速運転モードで下方に移動させる。また、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1を高速運転モードで下方に移動させている間にかご位置ロストが発生して乗りかご1を非常停止させた場合は、乗りかご1を低速運転モードで上方に移動させる。
【0036】
次に、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1の移動方向において端階を通り過ぎる位置まで乗りかご1を移動して停止する。端階を通過する位置とは、乗りかご1の移動方向における端階が4階であれば、乗りかご1が4階の出入口104を通り過ぎて上階リミットスイッチ10がオン状態となる位置であり、端階が1階であれば、乗りかご1が1階の出入口101を通り過ぎて下階リミットスイッチ11がオン状態となる位置である。その際、走行異常有無判定部6cは、上階強制減速スイッチ12または下階強制減速スイッチ13の出力信号がオン状態となった時点で乗りかご1を減速させ、上階リミットスイッチ10または下階リミットスイッチ11の出力信号がオン状態となった時点で乗りかご1の移動を停止する。これにより、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1を低速運転モードで上方に移動させる場合は、上階リミットスイッチ10の出力信号がオン状態となった時点で乗りかご1の移動を停止し、乗りかご1を低速運転モードで下方に移動させる場合は、下階リミットスイッチ11の出力信号がオン状態となった時点で乗りかご1の移動を停止する。
【0037】
次に、走行異常有無判定部6cは、上記(a)~(e)の条件を基に判定した走行異常が、上記低速運転モードによる乗りかご1の移動によって解消したか否かを判断する処理(以下、「判断処理」という。)を行う。具体的には、走行異常有無判定部6cは、(a)の条件を満たしたことで走行異常を有りと判定した場合は、低速運転モードによる乗りかご1の移動によって上階リミットスイッチ10の出力信号がオン状態からオフ状態に切り替わった場合に、異常走行が解消したと判断し、それ以外は走行異常が解消していないと判断する。また、走行異常有無判定部6cは、上記(b)の条件を満たしたことで走行異常を有りと判定した場合は、低速運転モードによる乗りかご1の移動によって下階リミットスイッチ11の出力信号がオン状態からオフ状態に切り替わった場合に、異常走行が解消したと判断し、それ以外は走行異常が解消していないと判断する。また、走行異常有無判定部6cは、上記(c)の条件を満たしたことで走行異常を有りと判定した場合は、低速運転モードによる乗りかご1の移動により、上階強制減速スイッチ12がオン状態となった時点の乗りかご1の移動速度が閾値以下となった場合に、異常走行が解消したと判断し、それ以外は走行異常が解消していないと判断する。また、走行異常有無判定部6cは、上記(d)の条件を満たしたことで走行異常を有りと判定した場合は、低速運転モードによる乗りかご1の移動により、下階強制減速スイッチ13がオン状態となった時点の乗りかご1の移動速度が閾値以下となった場合に、異常走行が解消したと判断し、それ以外は走行異常が解消していないと判断する。また、走行異常有無判定部6cは、上記(e)の条件を満たしたことで走行異常を有りと判定した場合は、低速運転モードによる乗りかご1の移動により、ポジテクタ8の出力信号が切り替わるようになった場合に、異常走行が解消したと判断し、それ以外は走行異常が解消していないと判断する。
【0038】
次に、走行異常有無判定部6cは、上述した判断処理において走行異常が解消していないと判断した場合は、上階リミットスイッチ10または下階リミットスイッチ11がオン状態となる位置、即ち端階を通り過ぎた位置に乗りかご1を停止させたままで、復帰運転を終了する。
【0039】
また、走行異常有無判定部6cは、上記判断処理において走行異常が解消したと判断した場合は、乗りかご1の移動方向を反転させて、乗りかご1の移動を開始する。たとえば、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1が1階のかごドアゾーンを通過した位置で停止している場合は、その停止位置から乗りかご1を上方に向けて移動させる。復帰運転において、端階を通り過ぎた位置に乗りかご1を停止してから乗りかご1の反転移動を開始するまでの時間(以下、「起動時間」という。)は、非常対応時の制御プログラムによって予め決められている。起動時間は、エレベーターを設置した後に測定することも可能である。乗りかご1の反転移動とは、乗りかご1の移動方向を反転させて乗りかご1を移動させることをいう。
【0040】
次に、走行異常有無判定部6cは、上階リミットスイッチ10または下階リミットスイッチ11の出力信号がオン状態からオフ状態に切り替わってから、乗りかご1を端階のかごドアゾーンまで移動させるのに必要な移動量だけ乗りかご1を移動させて停止する。具体的には、走行異常有無判定部6cは、上階リミットスイッチ10の出力信号がオン状態となった時点で乗りかご1の移動を停止させた場合は、上記反転移動により、上階リミットスイッチ10の出力信号がオン状態からオフ状態に切り替わってから、乗りかご1を4階のかごドアゾーンまで移動させるのに必要な移動量だけ乗りかご1を移動させて停止する。また、走行異常有無判定部6cは、下階リミットスイッチ11の出力信号がオン状態となった時点で乗りかご1の移動を停止させた場合は、上記反転移動により、下階リミットスイッチ11の出力信号がオン状態からオフ状態に切り替わってから、乗りかご1を1階のかごドアゾーンまで移動させるのに必要な移動量だけ乗りかご1を移動させて停止する。また、走行異常有無判定部6cは、乗りかご1が端階のかごドアゾーンに停止した段階で復帰運転を終了する。
【0041】
続いて、実施形態に係るエレベーター監視システムの構成について説明する。
エレベーター監視システムは、上述した監視装置19の他に、磁気センサ15と、加速度センサ16と、気圧センサ17と、磁気マーカ18a~18dと、を備えている。エレベーター監視システムは、磁気センサ15と加速度センサ16を用いてエレベーターの診断を行う。磁気センサ15、加速度センサ16および気圧センサ17は、エレベーター制御装置6によって制御される乗りかご1の移動動作(昇降動作)を検出するためのセンサ機器を構成する。
【0042】
磁気センサ15は、乗りかご1が各階のかごドアゾーンに配置されたことを検出するためのセンサである。磁気センサ15は、乗りかご1に取り付けられ、乗りかご1と一体に昇降路100を上下方向に移動する。磁気センサ15は、4つの磁気マーカ18a~18dと組み合わせて使用される。各々の磁気マーカ18a~18dは、たとえば永久磁石によって構成される。磁気マーカ18a~18dは、建物の各階床に設置されている。具体的には、磁気マーカ18aは1階に設置され、磁気マーカ18bは2階に設置され、磁気マーカ18cは3階に設置され、磁気マーカ18dは4階に設置されている。また、磁気マーカ18aは、1階の出入口101の部分に乗りかご1が配置されたときに磁気センサ15と近接するように配置され、磁気マーカ18bは、2階の出入口102の部分に乗りかご1が配置されたときに磁気センサ15と近接するように配置されている。また、磁気マーカ18cは、3階の出入口103の部分に乗りかご1が配置されたときに磁気センサ15と近接するように配置され、磁気マーカ18dは、4階の出入口104の部分に乗りかご1が配置されたときに磁気センサ15と近接するように配置されている。
【0043】
磁気センサ15は、各階床に設置された磁気マーカ18a~18dを検出する。また、磁気センサ15は、磁界の大きさを計測し、この計測結果を磁気情報として出力する。磁気センサ15が計測する磁界の大きさは、4つの磁気マーカ18a~18dのうち、いずれかの磁気マーカと磁気センサ15との間の距離が最小になったときに最大になる。つまり、磁気センサ15が計測する磁界の大きさは、乗りかご1の移動により、いずれかの磁気マーカ18a~18dを検出するたびに最大になる。
【0044】
加速度センサ16は、乗りかご1の移動方向および移動速度を検出するためのセンサである。加速度センサ16は、乗りかご1に取り付けられ、乗りかご1と一体に昇降路100を上下方向に移動する。また、加速度センサ16は、乗りかご1の加速度を計測し、この計測結果を加速度情報として出力する。このため、昇降路100において乗りかご1が停止している場合、あるいは乗りかご1が一定の速度で移動している場合は、加速度センサ16によって計測される加速度がゼロになる。また、昇降路100において乗りかご1が移動を開始した場合、あるいは乗りかご1が減速を開始した場合は、加速度センサ16によって計測される加速度が、正の値または負の値になる。
【0045】
気圧センサ17は、乗りかご1が配置された階床を検出するためのセンサである。気圧センサ17は、乗りかご1に取り付けられ、乗りかご1と一体に昇降路100を上下方向に移動する。また、気圧センサ17は、乗りかご1が位置する高度での気圧を計測し、この計測結果を気圧情報として出力する。このため、昇降路100で乗りかご1が上下いずれかの方向に移動すると、気圧センサ17によって計測される気圧は、乗りかご1の移動に応じて変化する。
【0046】
図3は、エレベーター診断システムにおける監視装置19の内部構成を説明するブロック図である。
監視装置19は、センサ機器21を用いて乗りかご1の移動動作を監視し、監視中の乗りかご1の移動動作が、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生したときの移動動作に一致した場合に、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生した旨の情報を外部に出力する。そのための機能部として、監視装置19は、情報取得部191と、異常診断部192と、出力部193と、を備えている。一方、センサ機器21は、磁気センサ15と、加速度センサ16と、気圧センサ17と、を有する。監視装置19は、磁気センサ15、加速度センサ16および気圧センサ17の各センサから出力される信号(情報)を取り込むことにより、乗りかご1の移動動作を常に監視する。
【0047】
情報取得部191は、乗りかご1に設置された加速度センサ16からの加速度情報と各階床に設置された磁気マーカ18a~18dを検出する磁気センサ15からの磁気情報を受け取る。また、情報取得部191は、乗りかご1に設置された気圧センサ17からの気圧情報を受け取る。また、情報取得部191は、センサ機器21を用いて検出される乗りかご1の移動動作に関する情報を取得する。本実施形態において、情報取得部191は、乗りかご1の移動動作に関する情報を検出する検出部として、かごドアゾーン検出部191aと、移動方向検出部191bと、移動速度検出部191cと、階床検出部191dと、を備えている。
【0048】
かごドアゾーン検出部191aは、磁気センサ15から出力される磁気情報に基づいて、乗りかご1が各階のかごドアゾーンに配置されたことを検出し、この検出結果を異常診断部192に通知する。また、かごドアゾーン検出部191aは、昇降路100に沿って乗りかご1が移動するときに磁気センサ15が計測する磁界の変化に基づいて、乗りかご1がいずれの階のかごドアゾーンに配置されたかを検出する。
【0049】
移動方向検出部191bは、加速度センサ16から出力される加速度情報に基づいて、乗りかご1の移動方向を検出し、この検出結果を異常診断部192に通知する。また、移動方向検出部191bは、乗りかご1が移動を開始したときに加速度センサ16によって計測される乗りかご1の加速度が正の値であるか負の値であるかによって、乗りかご1の移動方向を判別する。本実施形態においては、一例として、乗りかご1が上方に移動を開始した場合は、加速度センサ16によって計測される乗りかご1の加速度が正の値になり、乗りかご1が下方に向けて移動を開始した場合は、加速度センサ16によって計測される乗りかご1の加速度が負の値になるものとする。
【0050】
移動速度検出部191cは、加速度センサ16から出力される加速度情報に基づいて、乗りかご1の移動速度を検出し、この検出結果を異常診断部192に通知する。また、移動速度検出部191cは、加速度センサ16によって計測される乗りかご1の加速度を時間で積分することにより、乗りかご1の移動速度を検出する。なお、乗りかご1が移動中であるか停止中であるかは、移動速度検出部191cによって検出される乗りかご1の移動速度を基に判別することが可能である。
【0051】
階床検出部191dは、気圧センサ17から出力される気圧情報に基づいて、乗りかご1が配置された階床を検出し、この検出結果を異常診断部192に通知する。また、階床検出部191dは、気圧センサ17によって計測される気圧の変化に基づいて、乗りかご1が配置された階床が何階であるかを検出する。
【0052】
異常診断部192は、情報取得部191によって取得される、乗りかご1の移動動作に関する情報に基づいて、乗りかご1の移動動作の異常を診断する。異常診断部192の診断結果は、出力部193に与えられる。乗りかご1の移動動作に関する情報には、上述したかごドアゾーン検出部191a、移動方向検出部191bおよび移動速度検出部191cの各検出部によって検出される情報が含まれる。異常診断部192は、上述した磁気情報、加速度情報および気圧情報を情報取得部191から受け取るとともに、情報取得部191から受け取った各情報(磁気情報、加速度情報、気圧情報)を基に乗りかご1の移動動作を常に監視する。また、異常診断部192は、情報取得部191から受け取った加速度情報を基に乗りかご1の停止を検出し、異常診断部192から受け取った磁気情報を基に乗りかご1の停止までに端階を検出したときに、かご位置ロストが発生したと判定する。
【0053】
出力部193は、異常診断部192の診断結果を外部に出力する。たとえば、出力部193は、異常診断部192がかご位置ロストを検出したとき、かご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する。出力部193は、異常履歴格納部193aと、インターフェース部193bと、通報部193cと、を備えている。
【0054】
異常履歴格納部193aは、異常診断部192によって診断された、乗りかご1の移動動作の異常に関する異常履歴を格納する。乗りかご1の移動動作の異常に関する異常履歴には、1階から4階までの範囲で乗りかご1がかごドアゾーン以外の位置(たとえば、2階と3階の中間地点など)に停止したことを示す履歴情報、乗りかご1が端階(1階または4階)を通り過ぎた位置まで移動したことを示す履歴情報、乗りかご1の運転モードが高速運転モードから低速運転モードに切り替わったことを示す履歴情報などが含まれる。また、異常履歴格納部193aは、異常診断部192がかご位置ロストを検出したときに、かご位置ロストを検出した旨の情報と、発生したかご位置ロストの記録を異常履歴の1つとして格納する。
【0055】
インターフェース部193bは、異常履歴格納部193aに格納された異常履歴を外部に読み出すためのインターフェースである。インターフェース部193bは、たとえば、USB(Universal Serial Bus)インターフェースによって構成される。本実施形態に係るエレベーター診断システムにおいては、インターフェース部193bを利用して調査用PC(パーソナルコンピュータ)20を監視装置19に接続することにより、異常履歴格納部193aに格納された異常履歴を調査用PC20に読み出すことが可能となっている。調査用PC20は、エレベーターの異常や故障などを調査するために用いられる端末装置である。
【0056】
通報部193cは、異常診断部192から通報部193cに与えられる診断結果の中に、かご位置ロストを検出した旨の情報が含まれる場合に、この情報を含む診断結果を外部に通報する。通報部193cは、たとえば、図示しない管理センターに設置される管理装置に対して、有線通信または無線通信により、異常診断部192の診断結果を通報する。
【0057】
図4は、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生した場合に監視装置19で行われる処理手順を示すフローチャートである。
まず、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生した場合、エレベーター制御装置6の走行異常有無判定部6cは、前述したとおり、乗りかご1を非常停止させた後、復帰運転を実施する。なお、
図4には示していないが、乗りかご1が非常停止してから復帰運転が終了するまでの乗りかご1の移動動作に関する情報は、異常履歴の1つとして異常履歴格納部193aに格納される。また、復帰運転は、乗りかご1の運転モードを高速運転モードから低速運転モードに切り替えた状態で行われる。つまり、復帰運転は、低速運転モードで行われる。本実施形態においては、一例として、乗りかご1が1階から上方に向けて移動中にかご位置ロストが発生し、これをきっかけに乗りかご1が非常停止した場合を想定する。
【0058】
その場合、監視装置19の異常診断部192は、乗りかご1が下方に向けて移動(下降)を開始したこと、および、乗りかご1の運転モードが高速運転モードから低速運転モードへと切り替わったことを感知する(ステップS1)。乗りかご1が下降を開始したことは、加速度センサ16によって計測される乗りかご1の加速度がゼロから負の値に変化することで感知することができる。また、乗りかご1の運転モードが高速運転モードから低速運転モードへと切り替わったことは、加速度センサ16によって計測される乗りかご1の加速度が負の値からゼロに変化したとき、即ち乗りかご1の下降速度が一定になったときのかご移動速度が、高速運転モードでのかご移動速度よりも遅くなることで感知することができる。
【0059】
次に、異常診断部192は、乗りかご1が減速を開始したことを感知する(ステップS2)。乗りかご1が減速を開始したことは、加速度センサ16によって計測される乗りかご1の加速度がゼロから正の値に変化することで感知することができる。
【0060】
次に、異常診断部192は、乗りかご1が停止したことを感知する(ステップS3)。乗りかご1が停止したことは、加速度センサ16によって計測される乗りかご1の加速度が正の値からゼロになることで感知することができる。つまり、異常診断部192は、情報取得部191から受け取った加速度情報を基に乗りかご1の停止を検出する。
【0061】
次に、異常診断部192は、上記ステップS2で乗りかご1の減速開始を感知してから上記ステップS3で乗りかご1の停止を感知するまでの間(以下、「減速期間」という。)に、乗りかご1が1階(端階)を通り過ぎたかどうかを判断する(ステップS4)。具体的には、異常診断部192は、減速期間内に乗りかご1が1階のかごドアゾーンを通過したことをかごドアゾーン検出部191aが検出した場合は、ステップS4でYESと判断し、それ以外はステップS4でNOと判断する。そして、ステップS4でNOと判断した場合は一連の処理を終了し、ステップS4でYESと判断した場合はステップS5に進む。
【0062】
ステップS5において、異常診断部192は、乗りかご1が停止している位置が1階(端階)を通り過ぎた位置であるかどうかを判断する。具体的には、異常診断部192は、気圧センサ17を用いて階床検出部191dが検出する乗りかご1の階床位置が、1階よりも低い位置である場合は、ステップS5でYESと判断し、それ以外はステップS5でNOと判断する。そして、ステップS5でNOと判断した場合は一連の処理を終了し、ステップS5でYESと判断した場合はステップS6に進む。
【0063】
なお、ステップS4およびステップS5でYESと判定する場合は、異常診断部192が、情報取得部191から受け取った磁気情報を基に乗りかご1の停止までに端階を検出した場合に相当する。この場合、異常診断部192は、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生したと判定する。
【0064】
ステップS6において、異常診断部192は、ステップS3で乗りかご1の停止を感知してから基準時間以内に乗りかご1が反転移動を開始したか否かを判断する。ここで記述する基準時間は、上記起動時間よりも長くなる条件で予め定められた時間である。たとえば、起動時間が5秒であるとすると、基準時間は7秒に設定される。異常診断部192は、上記基準時間内に情報取得部191から受け取った加速度情報を基に乗りかご1の反転移動を検出することが可能である。具体的には、乗りかご1が反転移動を開始したことは、加速度センサ16によって計測される乗りかご1の加速度がゼロから正の値に変化することで感知することができる。よって、異常診断部192は、ステップS3で乗りかご1の停止を感知してから基準時間以内に乗りかご1の加速度(加速度センサ16の計測値)がゼロから正の値に変化した場合、つまり基準時間内に乗りかご1の反転移動を検出した場合は、ステップS6でYESと判断する。また、異常診断部192は、ステップS3で乗りかご1の停止を感知してから基準時間を過ぎても乗りかご1の加速度がゼロのまま変化しない場合、つまり基準時間内に乗りかご1の反転移動を検出しなかった場合は、ステップS6でNOと判断する。そして、ステップS6でYESと判断した場合はステップS7に進み、ステップS6でNOと判断した場合はステップS8に移行する。
【0065】
ステップS7において、異常診断部192は、エレベーター制御装置6で発生したかご位置ロストが一時的なかご位置ロストであると判定するとともに、エレベーターの故障箇所(異常箇所)が上階リミットスイッチ10および上階強制減速スイッチ12のいずれかであると推定する。なお、本実施形態においては、復帰運転における乗りかご1の移動方向が下方であるため、異常診断部192は、情報取得部191から受け取った磁気情報を基に乗りかご1の停止までに1階を検出したときに、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生したと判定する。この場合、上記ステップS4で異常診断部192が乗りかご1の通過を検出する端階は1階(最下階)となる。これに対し、復帰運転における乗りかご1の移動方向が本実施形態の場合と反対方向、すなわち上方である場合は、異常診断部192は、情報取得部191から受け取った磁気情報を基に乗りかご1の停止までに4階を検出したときに、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生したと判定する。この場合、上記ステップS4で異常診断部192が乗りかご1の通過を検出する端階は4階(最上階)となる。また、異常診断部192は、エレベーターの故障箇所(異常箇所)が下階リミットスイッチ11および下階強制減速スイッチ13のいずれかであると推定することになる。
【0066】
一方、ステップS8において、異常診断部192は、エレベーター制御装置6で発生したかご位置ロストが継続的なかご位置ロストであると判定するとともに、エレベーターの故障箇所(異常箇所)がポジテクタ8、上階リミットスイッチ10および上階強制減速スイッチ12のいずれかであると推定する。なお、復帰運転における乗りかご1の移動方向が本実施形態の場合と反対方向である場合は、異常診断部192は、エレベーターの故障箇所(異常箇所)がポジテクタ8、下階リミットスイッチ11および下階強制減速スイッチ13のいずれかであると推定することになる。
【0067】
ステップS7およびステップS8で異常診断部192が推定したエレベーターの故障箇所に関する情報は、異常履歴格納部193aおよび通報部193cのうち、少なくとも一方に与えられる。異常履歴格納部193aは、エレベーターの故障箇所に関する情報が異常診断部192から与えられると、その情報を受け付けて格納する。これにより、異常履歴格納部193aには、発生したかご位置ロストの記録が異常箇所の推定結果とともに格納される。また、通報部193cは、エレベーターの故障箇所に関する情報が異常診断部192から与えられると、その情報を、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生した旨の情報と併せて、外部に通報する。
【0068】
その後、出力部193は、異常診断部192の診断結果を出力する(ステップS9)。出力部193は、異常診断部192がかご位置ロストを検出したとき、かご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する。具体的には、出力部193は、上記ステップS7で異常診断部192が一時的なかご位置ロストを検出した場合は、一時的なかご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する。また、出力部193は、上記ステップS8で異常診断部192が継続的なかご位置ロストを検出した場合は、継続的なかご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する。その場合、出力部193が出力する情報は、異常診断部192が検出したかご位置ロストが、一時的なかご位置ロストであるか、もしくは継続的なかご位置ロストであるかによって、異なる態様で表示される。また、診断結果の出力は、異常履歴格納部193aおよびインターフェース部193bによって行われる場合(以下、「第1の場合」という。)と、通報部193cによって行われる場合(以下、「第2の場合」という。)がある。第1の場合は、まず、エレベーターの故障を調査する調査員がインターフェース部193bに調査用PC20を接続する。次に、調査員は調査用PC20を操作する。これにより、異常履歴格納部193aに格納された異常履歴がインターフェース部193bを介して調査用PC20に読み出される。第2の場合は、異常診断部192から通報部193cに与えられる診断結果の中に、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生した旨の情報が含まれる場合に、その情報を通報部193cが管理センターの管理装置に通報する。
【0069】
<実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態に係るエレベーター診断システムは、加速度センサ16からの加速度情報と磁気センサ15からの磁気情報を受け取る情報取得部191と、情報取得部191から受け取った加速度情報および磁気情報を基にかご位置ロストが発生したと判定する異常診断部192と、異常診断部192がかご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する出力部193とを備えている。これにより、エレベーター制御装置6との間で情報をやり取りしなくても、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生したことを感知することができる。
【0070】
また、本実施形態において、異常診断部192は、情報取得部191から受け取った加速度情報および磁気情報を基に、乗りかご1の停止を検出したあと、予め定められた時間内に乗りかご1の反転移動を検出したときに、一時的なかご位置ロストを検出し、出力部193は、異常診断部192が一時的なかご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する。これにより、一時的なかご位置ロストが発生したことを外部に知らせ、エレベーターの点検などを促すことができる。
【0071】
また、本実施形態において、異常診断部192は、情報取得部191から受け取った加速度情報および磁気情報を基に、乗りかご1の停止を検出したあと、予め定められた時間内に乗りかご1の反転移動を検出しなかったときに、継続的なかご位置ロストを検出し、出力部193は、異常診断部192が継続的なかご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する。これにより、継続的なかご位置ロストが発生したことを外部に知らせ、乗客の閉じ込めなどに対応することができる。
【0072】
また、本実施形態において、異常診断部192は、乗りかご1の停止までに検出した端階が最下階であれば上階リミットスイッチ10を異常箇所と推定し、上記端階が最上階であれば下階リミットスイッチ11を異常箇所と推定する。また、出力部193は、発生したかご位置ロストの記録を、異常診断部192による異常個所の推定結果とともに格納する。これにより、エレベーター制御装置6でかご位置ロストが発生した事実だけでなく、点検すべき箇所を絞り込むことができる。
【0073】
また、本実施形態において、出力部193は、異常診断部192が継続的なかご位置ロストを検出したときに、一時的なかご位置ロストと異なる態様で表示される、継続的なかご位置ロストを検出したことを示す情報を出力する。これにより、出力部193が出力する情報の表示態様の違いにより、一時的なかご位置ロストおよび継続的なかご位置ロストのうち、いずれのかご位置ロストが発生したのかを容易に判別することができる。
【0074】
<変形例等>
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。たとえば、上述した実施形態では、本発明の内容を理解しやすいように詳細に説明しているが、本発明は、上述した実施形態で説明したすべての構成を必ずしも備えるものに限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を、他の実施形態の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、これを削除し、または他の構成を追加し、あるいは他の構成に置換することも可能である。
【0075】
たとえば、診断結果の出力は、データ通信による出力に限らず、たとえば、画面表示による出力、音声による出力などであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1…乗りかご、10…上階リミットスイッチ、11…下階リミットスイッチ、15…磁気センサ、16…加速度センサ、18a~18d…磁気マーカ、191…情報取得部、192…異常診断部、193…出力部、193a…異常履歴格納部