(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】工作機械における接触式工具センサの校正方法及び校正プログラム、工作機械
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/22 20060101AFI20240712BHJP
B23Q 11/00 20060101ALI20240712BHJP
G01D 3/00 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
B23Q17/22 D
B23Q11/00 N
G01D3/00 C
(21)【出願番号】P 2021135871
(22)【出願日】2021-08-23
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】河内 大地
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-016353(JP,A)
【文献】特開2012-223853(JP,A)
【文献】特開2021-076425(JP,A)
【文献】特開昭63-302309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/22
B23Q 11/00
G01D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸以上の並進軸と、工具を装着可能な主軸と、テーブルと、前記並進軸と前記主軸とを制御する数値制御装置とを有する工作機械において、前記主軸と前記テーブルに備え付けられた接触式工具センサとの間の位置関係を校正する方法であって、
基準工具を前記主軸に装着し、前記接触式工具センサの上面の少なくとも2箇所の異なる測定領域における前記基準工具の先端の測定位置座標を工具センサ測定値としてそれぞれ取得する工具センサ測定ステップと、
各前記工具センサ測定値に基づいて所定の差分値を出力する差分値出力ステップと、
前記差分値を予め設定された許容値と比較し、少なくとも1つの前記差分値が前記許容値を外れる場合に異常と判定する異常検出ステップと、
前記異常検出ステップで異常と判定されなかった場合に、各前記工具センサ測定値に基づいて前記主軸と前記接触式工具センサとの間の位置関係を校正する工具センサ校正ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械における接触式工具センサの校正方法。
【請求項2】
前記異常検出ステップで異常と判定されると、前記接触式工具センサの上面を清掃する清掃ステップを実行することを特徴とする請求項1に記載の工作機械における接触式工具センサの校正方法。
【請求項3】
前記清掃ステップでは、少なくとも、前記許容値を外れる前記差分値に係る前記工具センサ測定値を取得した前記測定領域に対して清掃を行うことを特徴とする請求項2に記載の工作機械における接触式工具センサの校正方法。
【請求項4】
前記清掃ステップの実行後、前記工具センサ測定ステップと、前記差分値出力ステップと、前記異常検出ステップとを再度実行し、再度の前記異常検出ステップで異常と判定されると、前記清掃ステップを再度実行する処理を繰り返し、
前記異常検出ステップで異常と判定される回数が所定の閾値に達すると、処理を停止してその旨を報知する報知ステップを実行することを特徴とする請求項2又は3に記載の工作機械における接触式工具センサの校正方法。
【請求項5】
前記差分値出力ステップでは、各前記工具センサ測定値間の差を前記差分値として出力することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の工作機械における接触式工具センサの校正方法。
【請求項6】
前記差分値出力ステップの実行前に、前記接触式工具センサの上面及び前記基準工具に異物が付着していない状態で、前記複数の測定領域における前記基準工具の先端の測定位置座標をそれぞれの工具センサ基準値として記録する基準値記録ステップと、
各前記工具センサ基準値と、各前記工具センサ基準値と同じ測定領域における各前記工具センサ測定値との差分をそれぞれの工具センサ変位値として出力する変位値出力ステップとを実行し、
前記差分値出力ステップでは、各前記工具センサ変位値間の差を前記差分値として出力することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の工作機械における接触式工具センサの校正方法。
【請求項7】
前記差分値出力ステップでは、前記主軸が前記接触式工具センサに近づく方向を負方向として、各前記工具センサ測定値の内の最小値を工具センサ測定値最小値とし、前記最小値に係る前記工具センサ測定値以外の前記工具センサ測定値と前記工具センサ測定値最小値との差分を前記差分値として出力することを特徴とする工作機械における請求項1乃至4の何れかに記載の工作機械における接触式工具センサの校正方法。
【請求項8】
前記差分値出力ステップの実行前に、前記接触式工具センサの上面及び前記基準工具に異物が付着していない状態で、前記複数の測定領域における前記基準工具の先端の測定位置座標をそれぞれの工具センサ基準値として記録する基準値記録ステップと、
各前記工具センサ基準値と、各前記工具センサ基準値と同じ測定領域における各前記工具センサ測定値との差分をそれぞれの工具センサ変位値として出力する変位値出力ステップと、を実行し、
前記差分値出力ステップでは、前記主軸が前記接触式工具センサに近づく方向を負方向として、各前記工具センサ変位値の内の最小値を工具センサ変位値最小値とし、前記最小値に係る前記工具センサ変位値以外の前記工具センサ変位値と前記工具センサ変位値最小値との差分を前記差分値として出力することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の工作機械における接触式工具センサの校正方法。
【請求項9】
3軸以上の並進軸と、工具を装着可能な主軸と、テーブルと、前記並進軸と前記主軸とを制御する数値制御装置とを有する工作機械において、前記主軸に基準工具を装着し、前記テーブルに接触式工具センサを設置した状態で、前記数値制御装置に、請求項1乃至8の何れかに記載の接触式工具センサの校正方法を実行させるための工作機械における接触式工具センサの校正プログラム。
【請求項10】
3軸以上の並進軸と、工具を装着可能な主軸と、テーブルと、前記並進軸と前記主軸とを制御する数値制御装置とを有する工作機械であって、
前記主軸に基準工具を装着し、前記テーブルに接触式工具センサを設置した状態で、前記接触式工具センサの上面の少なくとも2箇所の異なる測定領域における前記基準工具の先端の測定位置座標をそれぞれの工具センサ測定値として取得する工具センサ測定手段と、
各前記工具センサ測定値間での所定の差分値を出力する差分値出力手段と、
前記差分値を予め設定された許容値と比較し、少なくとも1つの前記差分値が前記許容値を外れる場合に異常と判定する異常検出手段と、
前記異常検出手段で異常と判定されなかった場合に、各前記工具センサ測定値に基づいて前記主軸と前記接触式工具センサとの間の位置関係を校正する工具センサ校正手段と、
を備えることを特徴とする工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工作機械で使用する接触式工具センサを校正するための方法及び校正プログラム、工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
数値制御装置によって制御される工作機械では、加工を行う際、工具センサにより、主軸に装着されている工具寸法及び刃先位置等の測定が行われる。
工具や工具センサは、室温変化などによる機械の熱変位、主軸の発熱などによる熱変位や経時変化などにより形状や位置関係が変化するため、長時間に渡る加工においては高い精度での加工を維持する場合は工具センサの校正を行う必要が生じる。
一般にタッチセンサなどの接触式工具センサの校正は、ワーク座標系の原点設定に使用した工具、または長さの分かる基準工具を、テーブル等に固定された接触式工具センサに当接させ、当接させた際に接触式工具センサから発せられた信号を検出した際の主軸位置を記録することで行う。
しかし、実際の工作機械の切削加工においては、切粉や切削液(以下、異物という)が接触式工具センサに降りかかることがある。この異物は接触式工具センサの校正における誤差の要因となり、この誤差によって測定した工具長に誤差が生じてしまう。この対策として、測定前にエアブローにより接触式工具センサを清掃する方法があるが、異物を完全に除去することが困難である。
そこで、従来において異物の検出にあたっては加工の合間にオペレータが目視で異物の確認を行っていた。
一方、例えば特許文献1に示すようにカメラによる撮影画像を用いた検出方法も知られている。ここではワーク設置領域の撮影画像から異物の存在位置を検出し、検出した位置を重点的に清掃する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のようにオペレータが加工の合間に目視で異物を確認する方法では、加工の中断により生産性が低下するという課題がある。
また、特許文献1の方法では、工作機械内に加工領域内を撮像するカメラを必要とする上、カメラのレンズに異物が付着しないような対策がさらに必要となり、コストがかかるという課題がある。
【0005】
そこで、本開示は、接触式工具センサに対し、特別な装置を必要とせず異物の検出ができる工作機械における接触式工具センサの校正方法及び校正プログラム、工作機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の第1の構成は、3軸以上の並進軸と、工具を装着可能な主軸と、テーブルと、前記並進軸と前記主軸とを制御する数値制御装置とを有する工作機械において、前記主軸と前記テーブルに備え付けられた接触式工具センサとの間の位置関係を校正する方法であって、
基準工具を前記主軸に装着し、前記接触式工具センサの上面の少なくとも2箇所の異なる測定領域における前記基準工具の先端の測定位置座標を工具センサ測定値としてそれぞれ取得する工具センサ測定ステップと、
各前記工具センサ測定値に基づいて所定の差分値を出力する差分値出力ステップと、
前記差分値を予め設定された許容値と比較し、少なくとも1つの前記差分値が前記許容値を外れる場合に異常と判定する異常検出ステップと、
前記異常検出ステップで異常と判定されなかった場合に、各前記工具センサ測定値に基づいて前記主軸と前記接触式工具センサとの間の位置関係を校正する工具センサ校正ステップと、を実行することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記異常検出ステップで異常と判定されると、前記接触式工具センサの上面を清掃する清掃ステップを実行することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記清掃ステップでは、少なくとも、前記許容値を外れる前記差分値に係る前記工具センサ測定値を取得した前記測定領域に対して清掃を行うことを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記清掃ステップの実行後、前記工具センサ測定ステップと、前記差分値出力ステップと、前記異常検出ステップとを再度実行し、再度の前記異常検出ステップで異常と判定されると、前記清掃ステップを再度実行する処理を繰り返し、
前記異常検出ステップで異常と判定される回数が所定の閾値に達すると、処理を停止してその旨を報知する報知ステップを実行することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記差分値出力ステップでは、各前記工具センサ測定値間の差を前記差分値として出力することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記差分値出力ステップの実行前に、前記接触式工具センサの上面及び前記基準工具に異物が付着していない状態で、前記複数の測定領域における前記基準工具の先端の測定位置座標をそれぞれの工具センサ基準値として記録する基準値記録ステップと、
各前記工具センサ基準値と、各前記工具センサ基準値と同じ測定領域における各前記工具センサ測定値との差分をそれぞれの工具センサ変位値として出力する変位値出力ステップとを実行し、
前記差分値出力ステップでは、各前記工具センサ変位値間の差を前記差分値として出力することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記差分値出力ステップでは、前記主軸が前記接触式工具センサに近づく方向を負方向として、各前記工具センサ測定値の内の最小値を工具センサ測定値最小値とし、前記最小値に係る前記工具センサ測定値以外の前記工具センサ測定値と前記工具センサ測定値最小値との差分を前記差分値として出力することを特徴とする。
本開示の第1の構成の別の態様は、上記構成において、前記差分値出力ステップの実行前に、前記接触式工具センサの上面及び前記基準工具に異物が付着していない状態で、前記複数の測定領域における前記基準工具の先端の測定位置座標をそれぞれの工具センサ基準値として記録する基準値記録ステップと、
各前記工具センサ基準値と、各前記工具センサ基準値と同じ測定領域における各前記工具センサ測定値との差分をそれぞれの工具センサ変位値として出力する変位値出力ステップと、を実行し、
前記差分値出力ステップでは、前記主軸が前記接触式工具センサに近づく方向を負方向として、各前記工具センサ変位値の内の最小値を工具センサ変位値最小値とし、前記最小値に係る前記工具センサ変位値以外の前記工具センサ変位値と前記工具センサ変位値最小値との差分を前記差分値として出力することを特徴とする。
本開示の第2の構成は、工作機械における接触式工具センサの校正プログラムであって、3軸以上の並進軸と、工具を装着可能な主軸と、テーブルと、前記並進軸と前記主軸とを制御する数値制御装置とを有する工作機械において、前記主軸に基準工具を装着し、前記テーブルに接触式工具センサを設置した状態で、前記数値制御装置に、本開示の第1の構成の何れかに記載の接触式工具センサの校正方法を実行させることを特徴とする。
本開示の第3の構成は、3軸以上の並進軸と、工具を装着可能な主軸と、テーブルと、前記並進軸と前記主軸とを制御する数値制御装置とを有する工作機械であって、
前記主軸に基準工具を装着し、前記テーブルに接触式工具センサを設置した状態で、前記接触式工具センサの上面の少なくとも2箇所の異なる測定領域における前記基準工具の先端の測定位置座標をそれぞれの工具センサ測定値として取得する工具センサ測定手段と、
各前記工具センサ測定値間での所定の差分値を出力する差分値出力手段と、
前記差分値を予め設定された許容値と比較し、少なくとも1つの前記差分値が前記許容値を外れる場合に異常と判定する異常検出手段と、
前記異常検出手段で異常と判定されなかった場合に、各前記工具センサ測定値に基づいて前記主軸と前記接触式工具センサとの間の位置関係を校正する工具センサ校正手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、加工中に接触式工具センサ上の異物の付着をオペレータの目視確認作業や特別な装置を必要とせずに検知することができる。これにより、オペレータの負担を減らし、加工の中断によるロスタイムを減らしつつ、接触式工具センサの校正が正確に行われているかを確認することが可能となる。また、カメラによる測定システム等が不要であるため、比較的安価に実現できる。
特に、異常判定した際に接触式工具センサを清掃する構成とすれば、異物の付着による影響を排除した上で接触式工具センサを正確に校正することができる。これにより、加工に用いる工具長を正確に測定することが可能となり、加工において加工精度を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】形態1における測定を行う装置の一例の模式図である。
【
図3】形態1における接触式工具センサの反応面に垂直な方向から見た測定領域の一例である。
【
図4】形態1における数値制御装置の機能ブロック図である。
【
図5】形態1における接触式工具センサの校正方法のフローチャートである。
【
図6】形態2における数値制御装置の機能ブロック図である。
【
図7】形態2における接触式工具センサの校正方法のフローチャートである。
【
図8】形態3における測定を行う装置の一例の模式図である。
【
図9】形態3における接触式工具センサの反応面に垂直な方向から見た測定領域の別の一例である。
【
図10】形態3における数値制御装置の機能ブロック図である。
【
図11】形態4における数値制御装置の機能ブロック図である。
【
図12】接触式工具センサの反応面に垂直な方向から見て、異物があると判断する領域を塗りつぶした一例である。
【
図13】接触式工具センサの反応面に垂直な方向から見て、異物があると判断する領域を塗りつぶした別の一例である。
【
図14】接触式工具センサの校正方法の変更例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
図1は、工作機械の一形態であり、3つの互いに直交する並進軸を有するマシニングセンタMの模式図である。主軸頭2(主軸)は、並進軸であり互いに直交するX軸、Z軸によってベッド1に対して並進2自由度の運動が可能である。テーブル3は、並進軸でありX軸およびZ軸に直交するY軸によりベッド1に対して並進1自由度の運動が可能である。したがって、主軸頭2は、テーブル3に対して並進3自由度の運動が可能である。XYZ軸の動作は、後述する数値制御装置30により制御されるサーボモータ駆動により実行される。工作物をテーブル3に固定し、主軸頭2に工具を装着して回転させ、工作物と工具との相対位置および相対姿勢を制御することで、工作物の加工を行う。
なお、本開示に関わる工作機械としては、軸数は3軸に限らず、4軸、5軸でもよい。さらにまた、回転軸によりテーブル3や主軸頭2が回転1自由度以上を持つ機構でもよい。
【0010】
図2は、テーブル3に設置した接触式工具センサ(以下、単に「工具センサ」という。)7を用いた測定を行う装置の模式図である。数値制御装置30が、主軸頭2とテーブル3とのXYZ軸の相対位置を制御することで、主軸頭2に取り付けられた基準工具6と工具センサ7との相対位置関係を変化させることができる。工具センサ7の反応面8まで基準工具6の先端を当接させることで工具センサ7から信号を発し、この信号が発せられた時点での主軸頭2とテーブル3とのXYZ軸の相対位置座標と基準工具6の長さとから、反応面8に垂直な軸方向における反応面8とテーブル3との相対位置座標を検出することが可能である。この反応面8が工具長の測定における基準面となる。工具センサ7と基準工具6と数値制御装置30とが本開示の工具センサ測定手段として機能する。以下、主軸頭2が工具センサ7に近づく方向を負方向とする。
【0011】
主軸頭2に取り付けられた基準工具6の変形がないとすれば、機械の変形が起こり主軸頭2と工具センサ7の反応面8との位置関係が変化した場合についても、反応面8まで基準工具6の先端を当接させ、反応面8に垂直な軸方向における反応面8の相対位置を再度測定することで工具長の測定における基準面の校正を行うことができる。
図3は、反応面8に垂直な方向から見たときの測定領域の一例である。この形態では、基準工具6が反応面8の一部のみに当接し、測定領域が重ならないようにして2か所以上の領域で反応面8の相対位置を測定する。ここでは4箇所の異なる測定領域における測定を一例として挙げ、各測定領域における測定部を、点線丸印で示すように、工具センサ測定部9、工具センサ測定部10、工具センサ測定部11、工具センサ測定部12とする。
【0012】
図4は、数値制御装置30における工具センサ7の校正に係る部分の機能ブロック図である。数値制御装置30は、校正機能部として、差分値出力部14、異常検出部15、工具センサ校正部16、測定記録部17、異物位置検出部18、洗浄部19を備えている。
差分値出力部14は、本開示の差分値出力手段として、各工具センサ測定部9~12から出力された工具センサ測定値A~Dに基づいて所定の差分値を出力する。
異常検出部15は、本開示の異常検出手段として、出力された差分値に基づいて異常の有無を判定する。
工具センサ校正部16は、本開示の工具センサ校正手段として、異常検出部15で異常がないと判定された場合に基準面の校正を行う。
測定記録部17は、工具センサ測定値A~D等を記録する。
異物位置検出部18は、異常検出部15で異常ありと判定された場合に測定領域における異物の位置を検出する。
洗浄部19は、異物位置検出部18で検出された異物がある測定領域に対して洗浄を行う。
【0013】
数値制御装置30は、記憶部に記憶された校正プログラムに従い、
図5のフローチャートに示す工具センサ7の校正方法を実行する。
まず、S1で、工具センサ7の反応面8に基準工具6の先端を4箇所の測定領域に当接させ、反応面8に垂直な軸方向における反応面8の相対位置をそれぞれ測定する(工具センサ測定ステップ)。工具センサ測定部9~12における反応面8の相対位置の測定結果を、それぞれ工具センサ測定値A、工具センサ測定値B、工具センサ測定値C、工具センサ測定値Dとする。各工具センサ測定値A~Dは、差分値出力部14に入力される。
S2で、差分値出力部14は、工具センサ測定値Aと工具センサ測定値Bとの差分値AB、工具センサ測定値Bと工具センサ測定値Cとの差分値BC、工具センサ測定値Cと工具センサ測定値Dとの差分値CD、工具センサ測定値Dと工具センサ測定値Aとの差分値DAをそれぞれ絶対値として算出する(差分値出力ステップ)。差分値出力部14から出力された各差分値は、異常検出部15に入力される。
【0014】
S3で、異常検出部15は、それぞれの差分値が予め設定された許容値以下であるか否かを判定する(異常検出ステップ)。
ここで各差分値が何れも許容値以下である場合、異常なしと判定して、工具センサ測定値A~Dを工具センサ校正部16に出力すると共に、測定記録部17に記録する。 S4で、工具センサ校正部16は、工具センサ測定値A~Dに基づいて工具長の測定における基準面の校正値を更新する(工具センサ校正ステップ)。
一方、S3の判別で、何れかの差分値が許容値を上回った場合、異常ありと判定して、異物位置検出部18に判定結果が出力される。
S5で、異物位置検出部18では、差分値が異常と判定された(許容値を上回った)工具センサ測定部に係る測定領域に異物があると判定し、判定結果を洗浄部19へ出力する。
S6で、洗浄部19は、異物位置検出部18で異物があると判定された測定領域に対し、流体噴射などによる清掃を行う(清掃ステップ)。
【0015】
このように、上記形態1の工具センサ7の校正方法及び校正プログラム、マシニングセンタMによれば、工具センサ測定値A~Dに基づいて所定の差分値を出力して差分値を許容値と比較し、少なくとも1つの差分値が許容値を外れる場合に異常と判定する一方、異常と判定されなかった場合に、各工具センサ測定値に基づいて主軸頭2と工具センサ7との間の位置関係を校正するので、加工中に工具センサ7上の異物の付着をオペレータの目視確認作業や特別な装置を必要とせずに検知することができる。これにより、オペレータの負担を減らし、加工の中断によるロスタイムを減らしつつ、工具センサ7の校正が正確に行われているかを確認することが可能となる。
【0016】
以下、本開示の他の形態を説明する。但し、マシニングセンタの構成等、形態1と同じ構成部には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
[形態2]
図6は、数値制御装置30における工具センサ7の校正に係る部分の別の例を示す機能ブロック図である。ここでは、各工具センサ測定値と各工具センサ基準値との差分を変位値として算出する変位値出力部13を備えている点が形態1と異なっている。
この形態2では、
図7のフローチャートに示すように、まずS11で、工具センサ測定部9~12及び基準工具6に異物が付着していない状態で、各測定領域における基準工具6の先端の測定位置座標を計測し、工具センサ基準値A、工具センサ基準値B、工具センサ基準値C、工具センサ基準値Dとして測定記録部17に記録する(基準値記録ステップ)。
次に、S12で、工具センサ7の各測定領域を測定して工具センサ測定値A~Dを得る。
次に、S13で、変位値出力部13が、それぞれ同じ測定領域となる工具センサ測定値Aと工具センサ基準値Aとの差分、工具センサ測定値Bと工具センサ基準値Bとの差分、工具センサ測定値Cと工具センサ基準値Cとの差分、工具センサ測定値Dと工具センサ基準値Dとの差分を算出する(変位値出力ステップ)。これらの差分をそれぞれ変位値A、変位値B、変位値C、変位値Dとする。
次に、S14で、差分値出力部14は、変位値Aと変位値Bとの差分値AB、変位値Bと変位値Cとの差分値BC、変位値Cと変位値Dとの差分値CD、変位値Dと変位値Aとの差分値DAを算出する。
次に、S15で、異常検出部15は、それぞれの差分値が許容値以下であるか否かを判別し、許容値を上回る差分値がなければ校正値を更新し(S16)、許容値を上回る差分値があれば異常と判定して異物位置を検出し(S17)、測定領域を清掃する(S18)。
【0017】
このように、上記形態2の工具センサ7の校正方法及び校正プログラム、マシニングセンタにおいても、加工中に工具センサ7上の異物の付着をオペレータの目視確認作業や特別な装置を必要とせずに検知することができる。これにより、オペレータの負担を減らし、加工の中断によるロスタイムを減らしつつ、工具センサ7の校正が正確に行われているかを確認することが可能となる。
特にここでは、工具センサ測定値に基づく差分値を、同一測定箇所における変位値から算出するため、工具センサ7と基準工具6先端の平面度や平行度の影響を排除することができる。よって、形態1における方法よりも異物の付着を精度よく検出できる。
【0018】
[形態3]
図8は、本開示における測定を行う装置の別の一例の模式図である。主軸頭2には、工具センサ7の上面に複数箇所で当接させた際に測定領域が重なる領域ができるほど太い基準工具20が取り付けられている。
図9は、工具センサ7の反応面8に垂直な方向から見た測定領域の別の一例である。
図10は、数値制御装置30における工具センサ7の校正に係る部分の別の例を示す機能ブロック図である。ここでは変位値出力部が設けられておらず、形態1と同様の構成となっている。
この形態3では、基準工具20が工具センサ7の反応面8の一部のみに当接するようにし、測定領域が重なる場合も含め2か所以上の領域で工具センサ7の反応面8の相対位置を測定する。ここでは4か所の異なる測定領域における測定を一例として挙げ、各測定領域における測定部を、
図9(A)~(D)に円弧状の点線で示すように、工具センサ測定部21、工具センサ測定部22、工具センサ測定部23、工具センサ測定部24とする。
【0019】
この形態3での校正方法の流れは
図5と同じである。まずS1で、工具センサ測定部21~24における工具センサ7の反応面8の相対位置を測定する。測定結果をそれぞれ工具センサ測定値A’、工具センサ測定値B’、工具センサ測定値C’、工具センサ測定値D’とする。そして、工具センサ測定値A’~D’の内で最小値となるもの(工具センサ7が反応する際の主軸頭2の位置が最も工具センサ7に近づくもの)を工具センサ測定値最小値とする。
図10では、工具センサ測定値C’が工具センサ測定値最小値となる場合を示している。
S2で、差分値出力部14は、工具センサ測定値最小値と工具センサ測定値A’との差分値A’C’、工具センサ測定値最小値と工具センサ測定値B’との差分値B’C’、工具センサ測定値最小値と工具センサ測定値D’との差分値D’C’を算出する。
そして、S3で、異常検出部15では、それぞれの差分値が許容値以下であるか否かを判別し、許容値を上回る差分値がなければ校正値を更新し(S4)、許容値を上回る差分値があれば異常と判定して異物位置を検出し(S5)、測定領域を清掃する(S6)。
【0020】
このように、上記形態3の工具センサ7の校正方法及び校正プログラム、マシニングセンタにおいても、加工中に工具センサ7上の異物の付着をオペレータの目視確認作業や特別な装置を必要とせずに検知することができる。これにより、オペレータの負担を減らし、加工の中断によるロスタイムを減らしつつ、工具センサ7の校正が正確に行われているかを確認することが可能となる。
【0021】
[形態4]
図11は、数値制御装置30における工具センサ7の校正に係る部分の別の例を示す機能ブロック図である。ここでは形態2と同様に変位値出力部13を備えている。
この形態4での校正方法の流れは
図7と同じである。まずS11で、工具センサ測定部21~24及び基準工具20に異物が付着していない状態で、各測定領域における基準工具20の先端の測定位置座標を計測し、正常な工具センサ基準値A’、工具センサ基準値B’、工具センサ基準値C’、工具センサ基準値D’として測定記録部17に記録する。
次に、S12で、工具センサ7の各測定領域を測定して工具センサ測定値A’~D’を得る。
次に、S13で、変位値出力部13が、それぞれ同じ測定領域となる工具センサ測定値A’と工具センサ基準値A’との差分、工具センサ測定値B’と工具センサ基準値B’との差分、工具センサ測定値C’と工具センサ基準値C’との差分、工具センサ測定値D’と工具センサ基準値D’との差分を算出する。これらの差分をそれぞれ変位値A’、変位値B’、変位値C’、変位値D’とする。これら変位値のうちの最小値を変位値最小値とする。
図11では、変位値C’が最小値である場合を示している。
次に、S14で、差分値出力部14は、変位値最小値と変位値A’との差分値A’C’、変位値最小値と変位値B’との差分値B’C’、変位値最小値と変位値D’との差分値D’C’を算出する。
次に、S15で、異常検出部15は、それぞれの差分値が許容値以下であるか否かを判別し、許容値を上回る差分値がなければ校正値を更新し(S16)、許容値を上回る差分値があれば異常と判定して異物位置を検出し(S17)、測定領域を清掃する(S18)。
【0022】
このように、上記形態4の工具センサ7の校正方法及び校正プログラム、マシニングセンタにおいても、加工中に工具センサ7上の異物の付着をオペレータの目視確認作業や特別な装置を必要とせずに検知することができる。これにより、オペレータの負担を減らし、加工の中断によるロスタイムを減らしつつ、工具センサ7の校正が正確に行われているかを確認することが可能となる。
特にここでは、差分値を同一測定箇所における変位値から算出するため、工具センサ7と基準工具20先端の平面度や平行度の影響を排除することができるため、形態3における方法よりも異物の付着を精度よく検出できる。
また、形態1及び2に示す方法では、測定領域が重なる領域を含む測定領域における工具センサ測定値の差分をとる際、測定領域が重なる領域において異物が付着していると、異常検出部15において異常が検出されないことがある。しかし、この形態4ではこのような異常の不検出を回避することができる。
【0023】
次に、洗浄部19による清掃について詳細に説明する。
図12は、工具センサ7の反応面8に垂直な方向から見て、異物があると判断する領域を塗りつぶした一例である。異物位置検出部18において、例えば
図9に示す4つの測定領域で測定を行った場合、異常検出部15にて工具センサ測定部21の工具センサ測定値Aのみが異常と判定された際、異物が付着していると検出される領域を塗りつぶしている。工具センサ測定値Aを含む差分でのみ異常があり、他の差分は異常と判定されなかった場合、工具センサ測定値Aを測定した領域から工具センサ測定値B、工具センサ測定値C、工具センサ測定値Dを測定した領域を除いた部分に異物が付着したと判断している。この場合、洗浄部19は、
図12において塗りつぶされた領域に対して流体噴射などによる清掃を行う処置ができる。
【0024】
図13は、工具センサ7の反応面8に垂直な方向から見て、異物があると判断する領域を塗りつぶした別の一例である。
形態3,4の異物位置検出部18において、例えば異常検出部15にて工具センサ測定部21及び工具センサ測定部22の工具センサ測定値A及びBが異常と判定された場合、異物が付着していると検出される領域を塗りつぶしている。工具センサ測定値Cが最小値であるとき、工具センサ測定値Aと工具センサ測定値最小値との差分及び工具センサ測定値Bと工具センサ測定値最小値との差分で異常があり、工具センサ測定値Dについては異常と判定されなかった場合、工具センサ測定値A及び工具センサ測定値Bを測定した領域から工具センサ測定値C、工具センサ測定値Dを測定した領域を除いた部分に異物が付着したと判断している。この場合、工具センサ測定値Aと工具センサ測定値Bを測定した測定領域が重なった領域に異物が付着した場合にも異物の付着が判断できる。よって、洗浄部19は、
図13において塗りつぶされた領域に対して流体噴射などによる清掃を行うことができる。
但し、各形態において、洗浄部19による工具センサ7の清掃は、異物が付着していると判断された測定領域のみに限らず、工具センサ7の上面全体に対して行ってもよい。
【0025】
一方、各形態においては、異常ありとして清掃を行った後、清掃を行った測定領域を再度測定し、取得した工具センサ測定値に基づいて差分値出力部14で新たな差分値を算出し、異常検出部15で異常の有無を再度判定する処理を繰り返してもよい。
図14は、異常の有無を再度判定する処理を繰り返す例を示すフローチャートである。S21~S24までは
図5と同じ処理で、S23で異常と判定されると、S25で判定された回数nをカウントする。
次に、S26で、カウントされた回数nが所定の閾値を超えたか否かを判別する。ここで回数nが閾値を超えていなければ、S27で異物位置を検出し、S28で測定領域を清掃した後、S21で再度工具センサを測定して以降の処理を繰り返す。一方、S26の判別で回数nが閾値を超えていれば、S29でアラーム等の報知を行い(報知ステップ)、処理を終了する。
なお、形態3,4で
図14のフローチャートを実行する場合、工具センサの測定の前に工具センサ基準値を記録する処理と、工具センサの測定の後に変位値を算出する処理とが加えられる。よって、S22の差分値出力ステップでは、測定記録部17において記録した工具センサ測定値最小値もしく変位値最小値との差分をとることになる。
【0026】
その他、各形態において、工具センサを測定する箇所は4箇所に限らない。2箇所以上であれば差分値の算出は可能であるため、適宜増減できる。
工具センサの形状も上記形態に限定されない。例えば反応面が平面視円形以外の形状であってもよい。
マシニングセンタ以外の工作機械にも本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1・・ベッド、2・・主軸頭、3・・テーブル、6,20・・基準工具、7・・接触式工具センサ、8・・反応面、9~12,21~24・・工具センサ測定部、13・・変位値出力部、14・・差分値出力部、15・・異常検出部、16・・工具センサ校正部、17・・測定記録部、18・・異物位置検出部、19・・洗浄部、30・・数値制御装置、M・・マシニングセンタ。