(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】物理発泡剤導入用フィルタ、発泡成形体の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 44/36 20060101AFI20240712BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240712BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
B29C44/36
B29C44/00 D
B29C45/00
(21)【出願番号】P 2021136093
(22)【出願日】2021-08-24
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】山口 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】後藤 英斗
(72)【発明者】
【氏名】山本 智史
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 敦
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-113574(JP,A)
【文献】特開2001-198961(JP,A)
【文献】特開2002-292693(JP,A)
【文献】特開2004-050459(JP,A)
【文献】特表2016-500347(JP,A)
【文献】国際公開第2020/184486(WO,A1)
【文献】特開2004-237522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/36
B29C 44/00
B29C 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飢餓状態の溶融樹脂に物理発泡剤を導入する際に使用される物理発泡剤導入用フィルタであって、
フィルタ本体と、このフィルタ本体に当該フィルタ本体の厚さ方向に貫通して設けられた複数の微細孔とを有し、
前記微細孔は、前記フィルタ本体の一方の表面側に開口して、前記溶融樹脂に接する樹脂接触側孔と、前記フィルタ本体の他方の表面側に開口し、かつ前記樹脂接触側孔と連通して、前記物理発泡剤が導入される物理発泡剤導入孔とを備え
て前記表面に対して垂直な方向で延び、
前記樹脂接触側孔は、
内面に段差を伴って直径が前記物理発泡剤導入孔の直径以下で、かつ10~80μmであることを特徴とする物理発泡剤導入用フィルタ。
【請求項2】
前記物理発泡剤導入孔の直径が20~400μmであることを特徴とする請求項1に記載の物理発泡剤導入用フィルタ。
【請求項3】
前記微細孔が縦横に所定間隔で複数設けられ、縦方向に隣り合う前記物理発泡剤導入孔どうしの間の隔壁および横方向に隣り合う前記物理発泡剤導入孔どうしの間の隔壁の厚さは0.01~1.0mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の物理発泡剤導入用フィルタ。
【請求項4】
発泡成形体の製造装置であって、
熱可塑性樹脂が可塑化溶融されて溶融樹脂となる可塑化ゾーンと、前記溶融樹脂が飢餓状態となる飢餓ゾーンとを有し、前記飢餓ゾーンへの物理発泡剤の導入口が設けられた可塑化シリンダと、
前記導入口に接続された導入速度調整容器と、
前記導入速度調整容器に接続され、前記導入速度調整容器を介して前記可塑化シリンダに物理発泡剤を供給する物理発泡剤供給機構とを有し、
前記導入口に請求項1~3のいずれか1項に記載の物理発泡剤導入用フィルタが設けられ、
一定圧力の前記物理発泡剤を含む加圧流体を前記導入速度調整容器に供給し、前記導入速度調整容器から前記飢餓ゾーンに前記一定圧力の加圧流体を導入して、前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持し、
前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持した状態で、前記飢餓ゾーンにおいて、前記飢餓状態の溶融樹脂と前記一定圧力の物理発泡剤を含む加圧流体とを接触させ、
前記物理発泡剤を含む加圧流体を接触させた前記溶融樹脂を発泡成形体に成形することを特徴とする発泡成形体の製造装置。
【請求項5】
前記導入速度調整容器に、前記導入口を開閉可能とする導入口開閉機構が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の発泡成形体の製造装置。
【請求項6】
発泡成形体の製造方法であって、
熱可塑性樹脂が可塑化溶融されて溶融樹脂となる可塑化ゾーンと、前記溶融樹脂が飢餓状態となる飢餓ゾーンとを有し、前記飢餓ゾーンに物理発泡剤を導入するための導入口が設けられた可塑化シリンダと、
前記導入口に接続された導入速度調整容器と、
前記導入口に設けられた請求項1~3のいずれか1項に記載の物理発泡剤導入用フィルタとを有する製造装置を用い、
前記製造方法は、
前記可塑化ゾーンにおいて、前記熱可塑性樹脂を可塑化溶融して前記溶融樹脂とすることと、
一定圧力の前記物理発泡剤を含む加圧流体を前記導入速度調整容器に供給し、前記導入速度調整容器から前記飢餓ゾーンに前記一定圧力の加圧流体を導入して、前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持することと、
前記飢餓ゾーンにおいて、前記溶融樹脂を飢餓状態とすることと、
前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持した状態で、前記飢餓ゾーンにおいて、前記飢餓状態の溶融樹脂と前記加圧流体とを接触させることと、
前記物理発泡剤を含む加圧流体を接触させた前記溶融樹脂を発泡成形体に成形することを含むこと特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
前記導入速度調整容器に、前記導入口を開閉可能とする導入口開閉機構が設けられ、
前記発泡成形体を成形する際は、前記導入口開閉機構によって前記導入口を開き、
前記発泡成形体の成形終了後に、前記可塑化シリンダから脱気する際に、前記導入口開閉機構によって前記導入口を閉じることを特徴とする請求項6に記載の発泡成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理発泡剤導入用フィルタ、発泡成形体の製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物理発泡剤としての窒素や二酸化炭素を用いた発泡射出成形の方法には、超臨界流体となる高圧の流体を溶融樹脂と剪断混錬して溶解させる方法がある。これに対し、特許文献1には、超臨界流体を必要とせずに比較的圧力の低い窒素や二酸化炭素等を用いて発泡成形体を成形する方法が開示されている。この方法によれば、特別な高圧装置を用いることなく低圧の物理発泡剤により、簡便なプロセスで成形体に微細な発泡セルを形成することができる。
【0003】
特許文献1に記載の発泡成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂が可塑化溶融されて溶融樹脂となる可塑化ゾーンと、前記溶融樹脂が飢餓状態となる飢餓ゾーンとを有し、前記飢餓ゾーンに物理発泡剤を導入するための導入口が形成された可塑化シリンダと、前記導入口に接続する導入速度調整容器とを有する製造装置を用い、前記製造方法は、前記可塑化ゾーンにおいて、前記熱可塑性樹脂を可塑化溶融して前記溶融樹脂とすることと、一定圧力の前記物理発泡剤を含む加圧流体を前記導入速度調整容器に供給し、前記導入速度調整容器から前記飢餓ゾーンに前記一定圧力の加圧流体を導入して、前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持することと、前記飢餓ゾーンにおいて、前記溶融樹脂を飢餓状態とすることと、前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持した状態で、前記飢餓ゾーンにおいて、前記飢餓状態の溶融樹脂と前記加圧流体とを接触させることと、前記物理発泡剤を含む加圧流体を接触させた前記溶融樹脂を発泡成形体に成形することとを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来の発泡成形体の製造方法では、発泡成形において、シリンダに設けられた飢餓ゾーンに開口する物理発泡剤導入用の導入口に、飢餓ゾーン内の溶融樹脂が逆流するベントアップが生じる場合があり、この場合、導入口に溶融樹脂が固まって残留することがある。導入口に樹脂が固まって残留していると、物理発泡剤の安定供給ができないため、当該残留樹脂を除去する必要があり、手間がかかっていた。
また、発泡体の成形終了後のクリーニング時等に、可塑化シリンダ内のガスを脱気すると、導入速度調整容器に蓄積しているガス(物理発泡剤)が可塑化シリンダ内に一気に導入されるため、大きな発砲音がすることがある。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ベントアップを抑制して物理発泡剤を飢餓ゾーン(飢餓状態の溶融樹脂が存在するゾーン)に安定供給できる物理発泡剤導入用フィルタ、発泡成形体の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
また、発泡体の成形終了後のクリーニング時等に大きな発泡音が生じるのを抑制できる発泡成形体の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の物理発泡剤導入用フィルタは、飢餓状態の溶融樹脂に物理発泡剤を導入する際に使用される物理発泡剤導入用フィルタであって、
フィルタ本体と、このフィルタ本体に当該フィルタ本体の厚さ方向に貫通して設けられた複数の微細孔とを有し、
前記微細孔は、前記フィルタ本体の一方の表面側に開口して、前記溶融樹脂に接する樹脂接触側孔と、前記フィルタ本体の他方の表面側に開口し、かつ前記樹脂接触側孔と連通して、前記物理発泡剤が導入される物理発泡剤導入孔とを備え、
前記樹脂接触側孔は、直径が前記物理発泡剤導入孔の直径以下で、かつ10~80μmであることを特徴とする。
【0008】
ここで、樹脂接触側孔の直径を10~80μmに規定したのは、樹脂接触側孔を10μm未満に形成するのは技術的に困難であり、また、80μmを超えると、溶融樹脂が樹脂接触側孔に侵入して固まり、当該樹脂接触側孔が閉塞され易くなるからである。
【0009】
本発明においては、物理発泡剤導入用フィルタの樹脂接触側孔は、直径が物理発泡剤導入孔の直径以下で、かつ10~80μmであるので、樹脂接触側孔に溶融樹脂が侵入するのを抑制できる。このため、物理発泡剤導入用フィルタを設ける導入口に溶融樹脂が固まって残留することがない。また、物理発泡剤を物理発泡剤導入孔から樹脂接触側孔を通して、飢餓状態の溶融樹脂に物理発泡剤を確実に導入できる。したがって、ベントアップを抑制して物理発泡剤を飢餓状態の溶融樹脂に安定供給できる。
【0010】
また、本発明の前記構成において、前記物理発泡剤導入孔の直径が20~400μmであってもよい。
ここで、物理発泡剤導入孔の直径を20~400μmに規定したのは、物理発泡剤導入孔の直径が20μm未満では、物理発泡剤の通りが悪化して、飢餓状態の溶融樹脂に物理発泡剤を確実に導入し難くなり、400μmを超えると物理発泡剤導入孔の直径が大きくなりすぎて、物理発泡剤導入孔の数が減少するからである。
【0011】
このような構成によれば、物理発泡剤を飢餓状態の溶融樹脂に確実かつ安定的に導入できる。
【0012】
また、本発明の前記構成において、前記微細孔が縦横に所定間隔で複数設けられ、縦方向に隣り合う前記物理発泡剤導入孔どうしの間の隔壁および横方向に隣り合う前記物理発泡剤導入孔どうしの間の隔壁の厚さが0.01~1.0mmであってもよい。
【0013】
ここで、縦方向および横方向に隣り合う物理発泡剤導入孔どうしの間の隔壁の厚さを0.01~1.0mmに規定したのは、隔壁の厚さが0.01mm未満では、隔壁の厚さが薄くなりすぎて、物理発泡剤導入用フィルタの強度が低下し、1.0mmを超えると隔壁の厚さが厚くなりすぎて物理発泡剤導入孔の数が減少するからである。
【0014】
このような構成によれば、物理発泡剤導入用フィルタの強度低下を抑制しつつ、物理発泡剤導入孔の数を十分に確保できる。
【0015】
本発明の発泡成形体の製造装置は、熱可塑性樹脂が可塑化溶融されて溶融樹脂となる可塑化ゾーンと、前記溶融樹脂が飢餓状態となる飢餓ゾーンとを有し、前記飢餓ゾーンへの物理発泡剤の導入口が設けられた可塑化シリンダと、
前記導入口に接続された導入速度調整容器と、
前記導入速度調整容器に接続され、前記導入速度調整容器を介して前記可塑化シリンダに物理発泡剤を供給する物理発泡剤供給機構とを有し、
前記導入口に前記物理発泡剤導入用フィルタが設けられ、
一定圧力の前記物理発泡剤を含む加圧流体を前記導入速度調整容器に供給し、前記導入速度調整容器から前記飢餓ゾーンに前記一定圧力の加圧流体を導入して、前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持し、
前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持した状態で、前記飢餓ゾーンにおいて、前記飢餓状態の溶融樹脂と前記一定圧力の物理発泡剤を含む加圧流体とを接触させ、
前記物理発泡剤を含む加圧流体を接触させた前記溶融樹脂を発泡成形体に成形することを特徴とする。
【0016】
本発明においては、物理発泡剤導入用フィルタの樹脂接触側孔は、直径が物理発泡剤導入孔の直径以下で、かつ10~80μmであるので、樹脂接触側孔に溶融樹脂が侵入するのを抑制できる。このため、物理発泡剤導入用フィルタを設ける導入口に溶融樹脂が固まって残留することがない。また、物理発泡剤を物理発泡剤導入孔から樹脂接触側孔を通して、飢餓状態の溶融樹脂に物理発泡剤を確実に導入できる。したがって、ベントアップを抑制して物理発泡剤を飢餓ゾーンの溶融樹脂に安定供給できる。
【0017】
また、本発明の前記構成において、前記導入速度調整容器に、前記導入口を開閉可能とする導入口開閉機構が設けられていてもよい。
【0018】
このような構成によれば、発泡成形体を成形する際は、導入口開閉機構によって導入口を開くことで、飢餓ゾーンの溶融樹脂に安定的に物理発泡剤を導入でき、発泡成形体の成形終了後に、可塑化シリンダから脱気する際に、導入口開閉機構によって導入口を閉じることによって、導入速度調整容器に蓄積しているガス(物理発泡剤)が可塑化シリンダ内に導入されることがないため、大きな発泡音が生じるのを抑制できる。
【0019】
本発明の発泡成形体の製造方法は、熱可塑性樹脂が可塑化溶融されて溶融樹脂となる可塑化ゾーンと、前記溶融樹脂が飢餓状態となる飢餓ゾーンとを有し、前記飢餓ゾーンに物理発泡剤を導入するための導入口が設けられた可塑化シリンダと、
前記導入口に接続された導入速度調整容器と、
前記導入口に設けられた前記物理発泡剤導入用フィルタとを有する製造装置を用い、
前記製造方法は、
前記可塑化ゾーンにおいて、前記熱可塑性樹脂を可塑化溶融して前記溶融樹脂とすることと、
一定圧力の前記物理発泡剤を含む加圧流体を前記導入速度調整容器に供給し、前記導入速度調整容器から前記飢餓ゾーンに前記一定圧力の加圧流体を導入して、前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持することと、
前記飢餓ゾーンにおいて、前記溶融樹脂を飢餓状態とすることと、
前記飢餓ゾーンを前記一定圧力に保持した状態で、前記飢餓ゾーンにおいて、前記飢餓状態の溶融樹脂と前記加圧流体とを接触させることと、
前記物理発泡剤を含む加圧流体を接触させた前記溶融樹脂を発泡成形体に成形することを含むこと特徴とする。
【0020】
本発明においては、物理発泡剤導入用フィルタの樹脂接触側孔は、直径が物理発泡剤導入孔の直径以下で、かつ10~80μmであるので、樹脂接触側孔に溶融樹脂が侵入するのを抑制できる。このため、物理発泡剤導入用フィルタを設ける導入口に溶融樹脂が固まって残留することがない。また、物理発泡剤を物理発泡剤導入孔から樹脂接触側孔を通して、飢餓状態の溶融樹脂に物理発泡剤を確実に導入できる。したがって、ベントアップを抑制して物理発泡剤を飢餓ゾーンの溶融樹脂に安定供給できる。
【0021】
また、本発明の前記構成において、前記導入速度調整容器に、前記導入口を開閉可能とする導入口開閉機構が設けられ、
前記発泡成形体を成形する際は、前記導入口開閉機構によって前記導入口を開き、
前記発泡成形体の成形終了後に、前記可塑化シリンダから脱気する際に、前記導入口開閉機構によって前記導入口を閉じてもよい。
【0022】
このような構成によれば、発泡成形体を成形する際は、導入口開閉機構によって導入口を開くことで、飢餓ゾーンの溶融樹脂に安定的に物理発泡剤を導入でき、発泡成形体の成形終了後に、可塑化シリンダから脱気する際に、導入口開閉機構によって導入口を閉じることによって、導入速度調整容器に蓄積しているガス(物理発泡剤)が可塑化シリンダ内に導入されることがないため、大きな発泡音が生じるのを抑制できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ベントアップを抑制して物理発泡剤を飢餓ゾーン(飢餓状態の溶融樹脂が存在するゾーン)に安定供給できる。
また、発泡体の成形終了後のクリーニング時等に大きな発泡音が生じるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施形態を示すもので、発泡成形体の押出製造装置の概略構成断面図である。
【
図2】同、導入速度調整容器を示す概略構成断面図である。
【
図3】同、発泡成形体の押出製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】同、物理発泡剤導入用フィルタを示すもので、(a)は平面図、(b)は底面図、(c)は(a)におけるA-A線断面図である。
【
図5】同、物理発泡剤導入用フィルタの要部の断面図である。
【
図6】同、物理発泡剤導入用フィルタの要部の断面図の底面図である。
【
図7】同、微細孔の変形を示すもので、(a)は第1変形例の断面図、(b)は第2変形例の断面図である。
【
図8】同、物理発泡剤導入用フィルタの変形例を示すもので、要部の断面図の底面図である。本発明の第2の実施形態に係る発泡成形体の押出製造装置を示す概略構成図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態を示すもので、(a)は導入孔を開いた状態の導入速度調整容器を示す概略構成断面図、(b)は導入孔を閉じた状態の導入速度調整容器を示す概略構成断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明するが、本実施形態は、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献する。
【0026】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、
図1に示す製造装置1000を用いて発泡成形体を製造する。製造装置1000は、主に、スクリュ20が内設された可塑化シリンダ210と、物理発泡剤を可塑化シリンダ210に供給する物理発泡剤供給機構であるボンベ100と、金型が設けられた型締めユニット(不図示)と、可塑化シリンダ210及び型締めユニットを動作制御するための制御装置(不図示)を備える。
可塑化シリンダ210内において可塑化溶融された溶融樹脂は、
図1における右手から左手に向かって流動する。したがって本実施形態の可塑化シリンダ210内部においては
図1における右手を「上流」または「後方」、左手を「下流」または「前方」と定義する。
【0027】
可塑化シリンダ210は、熱可塑性樹脂が可塑化溶融されて溶融樹脂となる可塑化ゾーン21と、可塑化ゾーン21の下流側に、溶融樹脂が飢餓状態となる飢餓ゾーン23とを有する。
「飢餓状態」とは、溶融樹脂が飢餓ゾーン23内に充満せずに未充満となる状態である。したがって、飢餓ゾーン23内には、溶融樹脂の占有部分以外の空間が存在する。また、可塑化シリンダ210には、飢餓ゾーン23に物理発泡剤を導入するための導入口202が形成されており、導入口202には、導入速度調整容器(圧力調整容器)300が接続されている。ボンベ100は、導入速度調整容器300を介して可塑化シリンダ210に物理発泡剤を供給する。
【0028】
なお、製造装置1000は、飢餓ゾーン23を1つしか有していないが、本実施形態に用いられる製造装置は、これに限定されない。例えば、溶融樹脂への物理発泡剤の浸透を促進するために、飢餓ゾーン23及びそこに形成される導入口202を複数有し、複数の導入口202から物理発泡剤を可塑化シリンダ210に導入する構造であってもよい。また、製造装置1000は射出成形装置であるが、本実施形態に用いられる製造装置は、これに限定されず、例えば、押出成形装置であってもよい。
【0029】
製造装置1000では、可塑化シリンダ210内のスクリュ20の回転により、樹脂ペレットが可塑化溶融し、溶融樹脂が可塑化シリンダ210内の前方側に送られる。また、溶融樹脂が可塑化シリンダ210内の前方側にスクリュ20の回転によって送られるようになっている。
可塑化シリンダ210の上部側面には、上流側から順に、熱可塑性樹脂をシリンダ210に供給するための樹脂供給口201、および物理発泡剤を可塑化シリンダ210内に導入するための導入口202が設けられている。
樹脂供給口201には、樹脂供給用のホッパー211、およびフィードスクリュ212が配設され、導入口202には、導入速度調整容器300が接続されている。
【0030】
可塑化シリンダ210は、上流側に設けられた可塑化ゾーン21と、下流側に設けられた飢餓ゾーン23とを有している。可塑化ゾーン21は、熱可塑性樹脂が可塑化溶融されて溶融樹脂となるゾーンである。飢餓ゾーン23は、溶融樹脂が飢餓状態となるゾーンである。「飢餓状態」とは、溶融樹脂が飢餓ゾーン23内に充満せずに未充満となる状態、または、溶融樹脂の密度が低下した状態をいう。よって、飢餓ゾーン23内には、溶融樹脂が占有する部分以外の空間が存在していてもよい。
【0031】
可塑化シリンダ210は、上流側から下流側に向かって順に、可塑化ゾーン21と、圧縮ゾーン22と、流動速度調整ゾーン25と、飢餓ゾーン23と、再圧縮ゾーン24とを有している。可塑化ゾーン21は、上述したように熱可塑性樹脂が可塑化溶融されて溶融樹脂となるゾーンである。圧縮ゾーン22は、熱可塑性樹脂が剪断混錬されて可塑化溶融され、溶融樹脂が圧縮されるゾーンである。飢餓ゾーン23は、上述したように溶融樹脂が飢餓状態となるゾーンである。再圧縮ゾーン24は、溶融樹脂が再圧縮されるゾーンである。なお、流動速度調整ゾーン25については後述する。
【0032】
可塑化シリンダ210には、上述したように、飢餓ゾーン23に物理発泡剤を導入するための開口として導入口202が設けられている。導入口202には、導入速度調整容器300が接続されている。導入速度調整容器300には、ボンベ100が減圧弁151、圧力計152、開放弁153を介して、配管154により接続されている。ボンベ100は、導入速度調整容器300を介してシリンダ210内に物理発泡剤を供給するようになっている。
また、可塑化シリンダ210のノズル先端29には、エアシリンダの駆動により開閉するシャットオフバルブ28が設けられ、可塑化シリンダ210の内部を高圧に保持できる。ノズル先端29には金型(不図示)が密着し、金型が形成するキャビティ内にノズル先端29から溶融樹脂が射出充填される。
【0033】
図3に示すフローチャートを参照しながら、本実施形態の発泡成形体の製造方法について説明する。
(1)熱可塑性樹脂を可塑化溶融する。
まず、可塑化シリンダ210の可塑化ゾーン21において、熱可塑性樹脂を可塑化溶融し、溶融樹脂とする(
図3のステップS1)。熱可塑性樹脂としては、目的とする耐熱性や成形体の用途に応じて種々の樹脂を使用できる。
具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)、ポリフェニレンスルファイド、シンジオタックポリスチレン、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン等の熱可塑性樹脂、及びこれらの複合材料を用いることができる。特に結晶性樹脂が微細セルを形成しやすいので望ましい。これら熱可塑性樹脂は、単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
また、これらの熱可塑性樹脂にガラス繊維、タルク、カーボン繊維、セラミック等の各種無機フィラー、セルロースナノファイバー、セルロース、木粉等の有機フィラーを混練したものを用いることもできる。熱可塑性樹脂には、発泡核剤として機能する無機フィラー、有機フィラーや溶融張力を高める添加剤を混合することが好ましい。これらを混合することで、発泡セルを微細化することができる。また、熱可塑性樹脂は、必要に応じてその他の汎用の各種添加剤を含むものであってもよい。
【0034】
スクリュ20が内設された可塑化シリンダ210内において、熱可塑性樹脂の可塑化溶融が行われる。可塑化シリンダ210の外壁面にはバンドヒータ(図示せず)が配設されており、これにより可塑化シリンダ210が加熱され、さらにスクリュ20の回転による剪断発熱が加わり、熱可塑性樹脂が可塑化溶融するようになっている。
【0035】
(2)飢餓ゾーンの圧力を保持する。
次に、一定圧力の物理発泡剤を導入速度調整容器300に供給し、導入速度調整容器300から飢餓ゾーン23に一定圧力の加圧流体を導入して、飢餓ゾーン23を前記一定圧力に保持する(
図3のステップS2)。
【0036】
物理発泡剤としては、加圧流体が用いられる。本実施形態において「流体」とは、液体、気体、超臨界流体のいずれかを意味する。また、物理発泡剤は、コストや環境負荷の観点から、二酸化炭素、窒素等が好ましい。本実施形態の物理発泡剤の圧力は比較的低圧であるため、例えば、窒素ボンベ、二酸化炭素ボンベ、空気ボンベ等の流体が貯蔵されたボンベ100から、減圧弁151により一定圧力に減圧して取り出した流体を用いることができる。この場合、昇圧装置が不要となるので、製造装置全体のコストを低減できる。また、必要であれば所定の圧力まで昇圧した流体を物理発泡剤として用いてもよい。例えば、物理発泡剤として窒素を使用する場合、以下の方法で物理発泡剤を生成できる。まず、大気中の空気をコンプレッサーで圧縮しながら窒素分離膜を通して窒素を精製する。次に、精製した窒素をブースターポンプやシリンジポンプ等を用いて所定圧力まで昇圧し、物理発泡剤を生成する。また、圧縮空気を物理発泡剤として利用してもよい。本実施形態では、物理発泡剤と溶融樹脂の強制的な剪断混錬を行わない。このため、物理発泡剤として圧縮空気を用いても、溶融樹脂に対して溶解性の低い酸素は溶融樹脂に溶解し難く、溶融樹脂の酸化劣化を抑制できる。
【0037】
飢餓ゾーン23に導入する物理発泡剤の圧力は一定であり、導入される物理発泡剤と同一の一定圧力に飢餓ゾーン23の圧力は保持される。この物理発泡剤の圧力は、0.5MPa~30MPaが好ましく、1MPa~25MPaがより好ましく、1MPa~15MPaがさらにより好ましい。溶融樹脂の種類により最適な圧力は異なるが、物理発泡剤の圧力を1MPa以上とすることで、発泡させるのに必要な量の物理発泡剤を溶融樹脂内に浸透させることができ、30MPa以下とすることで、発泡成形体の耐熱性を向上させることができる。12MPaより大きい圧力(高圧)で製造すると、発泡剤の溶け残りが生じやすくなる。
なお、溶融樹脂を加圧する物理発泡剤の圧力が「一定である」とは、所定圧力に対する圧力の変動幅が、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内であることを意味する。飢餓ゾーン23の圧力は、例えば、可塑化シリンダ210の導入口202に対向する位置に設けられた圧力センサ27により測定される。
【0038】
また、スクリュ20の進退に伴い、飢餓ゾーン23は可塑化シリンダ210内を前後方向に移動するが、
図1に示す圧力センサ27は、飢餓ゾーン23の最前進位置及び最後退位置において、常に飢餓ゾーン23内に存在する位置に設けられる。また、導入口202に対向する位置も、常に飢餓ゾーン23内にある。したがって、圧力センサ27は導入口202に対向する位置には設けられていないが、圧力センサ27の示す圧力と、導入口202に対向する位置の圧力は、ほぼ同一である。また、本実施形態では、飢餓ゾーン23に物理発泡剤のみを導入するが、本発明の効果に影響を与えない程度に、物理発泡剤以外の他の加圧流体を同時に飢餓ゾーン23に導入してもよい。この場合、飢餓ゾーン23に導入される物理発泡剤を含む加圧流体は、上述の一定圧力を有する。
【0039】
また、本実施形態では、ボンベ100から導入速度調整容器300を介し、導入口202から飢餓ゾーン23へ物理発泡剤を供給する。物理発泡剤は、減圧弁151を用いて所定の圧力に減圧した後、昇圧装置等を経ることなく、導入口202から飢餓ゾーン23へ導入される。本実施形態では、可塑化シリンダ210に導入する物理発泡剤の導入量、導入時間等を制御しない。そのため、それらを制御する機構、例えば、逆止弁や電磁弁等を用いた駆動弁は不要であり、導入口202は、駆動弁を有さず、常に開放されている。本実施形態では、ボンベ100から供給される物理発泡剤により、減圧弁151から、導入速度調整容器300を経て、可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23まで、一定の物理発泡剤の圧力に保持される。
【0040】
また、物理発泡剤の導入口202は、従来の製造装置の物理発泡剤の導入口と比較して内径D1が大きい。このため、比較的低圧の物理発泡剤であっても、可塑化シリンダ210内に効率良く導入できる。また、溶融樹脂の一部が導入口202に接触して固化した場合であっても、内径D1が大きいため、完全に塞がることなく導入口として機能できる。例えば、可塑化シリンダ210の内径が大きい場合、即ち、可塑化シリンダ210の外径が大きい場合に、導入口202の内径D1を大きくし易い。一方、導入口202の内径D1が大き過ぎると、溶融樹脂の滞留が発生して成形不良の原因となり、また、導入口202に接続する導入速度調整容器300が大型化して装置全体のコストが上昇する。具体的には、導入口202の内径D1は、可塑化シリンダ210の内径の20% ~100%が好ましく、30%~80%がより好ましい。または、可塑化シリンダ210の内径に依存せず、導入口202の内径D1は、3mm~150mmが好ましく、5mm~100mmがより好ましい。
ここで、導入口202の内径D1とは、
図2に示すように、可塑化シリンダ210の内壁210a上における開口部の内径を意味する。また、導入口202の形状、即ち、可塑化シリンダ210の内壁210a上における開口部の形状は、真円に限られず、楕円や多角形であってもよい。導入口202の形状が楕円や多角形である場合には、導入口202の面積と同じ面積の真円におけるその直径を「導入口202の内径D1」と定義する。
【0041】
次に、導入口202に接続する導入速度調整容器300について説明する。導入速度調整容器300は、物理発泡剤の圧力と、可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力とを同一の一定圧力とし、飢餓ゾーン23を前記一定圧力に保持する機能を担っている。例えば、飢餓ゾーン23において物理発泡剤が大量に消費された場合に、物理発泡剤の供給が間に合わず、飢餓ゾーン23の圧力が急減するおそれがあるが、導入速度調整容器300により物理発泡剤を安定的に供給することが可能となり、飢餓ゾーン23の圧力変動を抑制することができる。
【0042】
また、導入速度調整容器300は、一定以上の容積を有するように形成され、可塑化シリンダ210へ導入される物理発泡剤の流速を緩やかにし、導入速度調整容器300内に物理発泡剤が滞留する時間が確保されている。導入速度調整容器300は、周囲に配置されたバンドヒーター(図示せず)により加熱された可塑化シリンダ210に直接接続されており、可塑化シリンダ210の熱は導入速度調整容器300にも伝導するようになっている。これにより、導入速度調整容器300内部の物理発泡剤は加温され、物理発泡剤と溶融樹脂との温度差が小さくなり、物理発泡剤が接触する溶融樹脂の温度を極度に低下させることが抑制され、物理発泡剤の溶融樹脂への溶解量(浸透量)が安定するようになっている。すなわち、導入速度調整容器300は、物理発泡剤の加温機能を有するバッファー容器として機能するようになっている。一方で、導入速度調整容器300は、その容積が大き過ぎる場合、装置全体のコストが上昇する。導入速度調整容器300の容積は、飢餓ゾーン23に存在する溶融樹脂の量にも依存するが、5mL~20Lが好ましく、10mL~2Lがより好ましく、10mL~1Lがさらにより好ましい。導入速度調整容器300の容積をこの範囲とすることで、コストを考慮しながら物理発泡剤が滞留する時間を確保できる。
【0043】
また、後述するように物理発泡剤は溶融樹脂に接触して浸透することにより、可塑化シリンダ210内で消費される。飢餓ゾーン23の圧力を一定に保持するために、消費された分の物理発泡剤が導入速度調整容器300から飢餓ゾーン23へ導入される。導入速度調整容器300の容積が小さすぎると、物理発泡剤の置換頻度が高くなるため、物理発泡剤の温度が不安定となり、その結果、物理発泡剤の供給が不安定になる虞がある。したがって、導入速度調整容器300は、1~10分間に可塑化シリンダ210において消費される量の物理発泡剤が滞留できる容積を有することが好ましい。また、例えば、導入速度調整容器300の容積は、当該導入速度調整容器300が接続される飢餓ゾーン23の容積の0.1倍~5倍が好ましく、0.5倍~2倍がより好ましい。本実施形態では、飢餓ゾーン23の容積は、溶融樹脂を含まない、空の可塑化シリンダ210において、スクリュ20の軸の直径及びスクリュフライトの深さが一定である部分が位置する領域(飢餓ゾーン23)の容積を意味する。
【0044】
また、導入速度調整容器300は、
図2に示すように、筒状の容器本体310と、容器本体310を可塑化シリンダ210に連結する連結部材320と、容器本体310の蓋330とから主に構成される。筒状の容器本体310の一方の端部は、連結部材320を介して導入口202に接続し、導入口202を介して、可塑化シリンダ210の飢餓ゾーン23と、内部空間312が連通する。また、筒状の容器本体の他方の端部(導入口202と反対側の端部)には、蓋330が開閉可能に設けられる。そして、容器本体310には、内部空間312に物理発泡剤を供給するための配管154が接続する。
【0045】
また、導入速度調整容器300の内部空間312の形状に着目した場合、導入速度調整容器300は、導入口202に接続し、その内径が変化しない筒状の第1ストレート部31と、第1ストレート部31に隣接して設けられ、導入口202から離れるに従って、その内径が大きくなるテーパー部32と、テーパー部32に隣接して設けられ、その内径が変化しない筒状の第2ストレート部33とを有する。すなわち、導入速度調整容器300は、
図2に示すように、小さい内径D1を有する円筒である第1ストレート部31と、大きい内径D2を有する円筒である第2ストレート部33とを、それぞれの中心軸が同一の直線m上に並ぶように配置し、第1ストレート部31と第2ストレート部32とをテーパー部32のテーパー面で結合した構造を有する。本実施形態では、第1ストレート部31及び第2ストレート部33の中心軸と一致する直線mの延在方向は、筒状である導入速度調整容器300の延在方向と一致する。本実施形態においては、第1ストレート部31は連結部材320によって構成され、テーパー部32及び第2ストレート部33は、容器本体310によって構成される。
【0046】
蓋330は、容器本体310の第2ストレート部33に開閉可能に設けられる。蓋330は、特別な工具を用いずに、作業者の手により開閉可能であることが好ましい。発泡成形体の成形においては、事前に成形条件の設定を行う場合がある(条件出し)。成形条件の設定においては、フィードスクリュ212やスクリュ20の回転数等の最適化を行い、飢餓ゾーン23において、飢餓状態が安定に作れているか確認する。これと同時に、導入速度調整容器300内部に導入口202から溶融樹脂が膨出しないかも確認する。このため、蓋330の開閉は、ボルトを用いず、簡便な方法で開閉可能とし、導入速度調整容器300内に侵入した樹脂を取り除けることが好ましい。蓋330を作業者の手により開閉可能とすることで、成形条件の設定の作業効率が向上する。蓋330のシール機構は任意であるが、バネを内蔵したシール機構、又はクラッチ式の高圧シール機構等を用いることができる。本実施形態では、バネを内蔵したポリイミドのシール部材331を用いる。このシール部材331は、内部空間312内に滞留する物理発泡剤のガス圧により膨張し、シール性が高まる。
【0047】
導入速度調整容器300を構成する材料は、加圧流体を収容する観点から耐圧性であることが好ましいく、壁面での溶融樹脂の固化を促進して、容器内部への溶融樹脂の侵入を抑制する観点から、熱容量が大きく、温度が上昇しにくく、付着した樹脂から熱を奪いやすいことが好ましい。また、物理発泡剤を加温するという観点からは熱伝導率が高く、容器本体310からの熱が伝わりやすいことが好ましい。これらの観点から、導入速度調整容器300は、例えば、ステンレス鋼(SUS)等の金属で構成されることが好ましい。連結部材320も同様である。
【0048】
(3)溶融樹脂を飢餓状態とする。
次に、溶融樹脂を飢餓ゾーン23へ流動させ、飢餓ゾーン23において溶融樹脂を飢餓状態とする(
図3のステップS3)。飢餓状態は、飢餓ゾーン23の上流から飢餓ゾーン23への溶融樹脂の送り量と、飢餓ゾーン23からその下流への溶融樹脂の送り量とのバランスで決定され、前者の方が少ないと飢餓状態となる。
【0049】
本実施形態では、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる圧縮ゾーン22を飢餓ゾーン23の上流に設けることにより、飢餓ゾーン23において溶融樹脂を飢餓状態とする。圧縮ゾーン22には、上流側に位置する可塑化ゾーン21よりもスクリュ20の軸の直径を大きく(太く)し、スクリュフライトを段階的に浅くした大径部分20Aを設け、更に、大径部分20Aの下流側に隣接してシール部26を設ける。シール部26は、大径部分20Aと同様にスクリュ20の軸の直径が大きく(太く)、更に、スクリュフライトが設けられておらず、スクリュフライトの代わりにスクリュ20の軸に浅い溝が複数形成されている。大径部分20A及びシール部26は、スクリュ20の軸の直径を大きくすることにより、可塑化シリンダ210の内壁とスクリュ20のクリアランスを縮小し、下流に送る樹脂供給量を低減できるため、溶融樹脂の流動抵抗を高められる。したがって、本実施形態において、大径部分20A及びシール部26は、溶融樹脂の流動抵抗を高める機構である。
なお、シール部26は、物理発泡剤の逆流、即ち、シール部26の下流側から上流側への物理発泡剤の移動を抑制する効果も奏する。
【0050】
大径部分20A及びシール部26の存在により圧縮ゾーン22から飢餓ゾーン23に供給される樹脂流量が低下し、上流側の圧縮ゾーン22においては溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まり、下流側の飢餓ゾーン23においては、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)となる。溶融樹脂の飢餓状態を促進するために、スクリュ20は、圧縮ゾーン22に位置する部分と比較して、飢餓ゾーン23に位置する部分の軸の直径が小さく(細く)、且つスクリュフライトが深い構造を有する。更に、スクリュ20は、圧縮ゾーン22に位置する部分と比較して、飢餓ゾーン23全体に亘って、そこに位置する部分の軸の直径が小さく(細く)、且つスクリュフライトが深い構造を有することが好ましい。更に、飢餓ゾーン23全体に亘って、スクリュ20の軸の直径及びスクリュフライトの深さは、略一定であることが好ましい。これにより、飢餓ゾーン23における圧力を略一定に保持し、溶融樹脂の飢餓状態を安定化できる。本実施形態においては、飢餓ゾーン23は、
図1に示すように、スクリュ20において、スクリュ20の軸の直径及びスクリュフライトの深さが一定で
ある部分に形成される。
【0051】
圧縮ゾーン22に設けられる溶融樹脂の流動抵抗を高める機構は、圧縮ゾーン22から飢餓ゾーン23へ供給される樹脂流量を制限するために一時的に溶融樹脂が通過する流路面積を縮小させる機構であれば、特に制限されない。本実施形態では、スクリュの大径部分20A及びシール部26の両方を用いたが、片方のみ用いてもよい。スクリュの大径部分20A、シール部26以外の流動抵抗を高める機構としては、スクリュフライトが他の部分とは逆向きに設けられた構造、スクリュ上に設けられたラビリンス構造等が挙げられる。
【0052】
溶融樹脂の流動抵抗を高める機構は、スクリュとは別部材のリング等としてスクリュに設けてもよいし、スクリュの構造の一部としてスクリュと一体に設けてもよい。溶融樹脂の流動抵抗を高める機構は、スクリュとは別部材のリング等として設けると、リングを変更することにより溶融樹脂の流路であるクリアランス部の大きさを変更できるので、容易に溶融樹脂の流動抵抗の大きさを変更できるという利点がある。
【0053】
また、融樹脂の流動抵抗を高める機構以外に、飢餓ゾーン23から上流の圧縮ゾーン22へ溶融樹脂の逆流を防止する逆流防止機構(シール機構)を圧縮ゾーン22の飢餓ゾーン23との間に設けることによっても、飢餓ゾーン23において溶融樹脂を飢餓状態にできる。例えば、物理発泡剤の圧力により上流側に移動可能なリング、鋼球等のシール機構が挙げられる。但し、逆流防止機構は駆動部を必要とするため、樹脂滞留の虞がある。このため、駆動部を有さない流動抵抗を高める機構の方が好ましい。
【0054】
本実施形態では、飢餓ゾーン23における溶融樹脂の飢餓状態を安定化させるために、可塑化シリンダ210へ供給する熱可塑性樹脂の供給量を制御してもよい。熱可塑性樹脂の供給量が多すぎると飢餓状態を維持することが困難となるからである。本実施形態では、汎用のフィードスクリュ212を用いて、熱可塑性樹脂の供給量を制御する。熱可塑性樹脂の供給量が制限されることにより、飢餓ゾーン23における溶融樹脂の計量速度が、圧縮ゾーン22での可塑化速度よりも大きくなる。この結果、飢餓ゾーン23における溶融樹脂の密度が安定に低下し、溶融樹脂への物理発泡剤の浸透が促進される。
【0055】
本実施形態において、溶融樹脂の流動方向における飢餓ゾーン23の長さは、溶融樹脂と物理発泡剤との接触面積や接触時間を確保するために長いほうが好ましいが、長すぎると成形サイクルやスクリュ長さが長くなる弊害生じる。このため、飢餓ゾーン23の長さは、可塑化シリンダ210の内径の2倍~12倍が好ましく、4倍~10倍がより好ましい。また、飢餓ゾーン23の長さは、射出成形における計量ストーロークの全範囲を賄うことが好ましい。即ち、溶融樹脂の流動方向における飢餓ゾーン23の長さは、射出成形における計量ストーロークの長さ以上であることが好ましい。溶融樹脂の可塑化計量及び射出に伴ってスクリュ20は前方及び後方に移動するが、飢餓ゾーン23の長さを計量ストーロークの長さ以上とすることで、発泡成形体の製造中、常に、導入口202を飢餓ゾーン23内に配置する(形成する)ことができる。換言すれば、発泡成形体の製造中にスクリュ20が前方及び後方に動いても、飢餓ゾーン23以外のゾーンが、導入口202の位置に来ることはない。これにより、導入口202から導入される物理発泡剤は、発泡成形体の製造中、常に、飢餓ゾーン23に導入される。このように十分且つ適当な大きさ(長さ)を有する飢餓ゾーンを設け、そこに一定圧力の物理発泡剤を導入することで、飢餓ゾーン23を一定圧力により保持し易くなる。本実施形態においては、飢餓ゾーン23の長さは、
図1に示すように、スクリュ20において、スクリュ20の軸の直径及びスクリュフライトの深さが一定である部分の長さと略同一である。
【0056】
さらに、圧縮ゾーン22と飢餓ゾーン23の間に、流動速度調整ゾーン25が設けられている。流動速度調整ゾーン25の上流の圧縮ゾーン22における溶融樹脂の流動速度と、下流の飢餓ゾーン23における溶融樹脂の流動速度とを比較すると、飢餓ゾーン23における溶融樹脂の流動速度の方が早い。本発明者らは、圧縮ゾーン22と飢餓ゾーン23の間に、緩衝ゾーンとなる流動速度調整ゾーン25を設け、この急激な溶融樹脂の流動速度の変化(上昇)を抑制することにより、製造される発泡成形体の発泡性が向上することを見出した。圧縮ゾーン22から飢餓ゾーン23の間に緩衝ゾーンとなる流動速度調整ゾーン25を設けることで、発泡成形体の発泡性が向上する理由の詳細は不明であるが、流動速度調整ゾーン25に溶融樹脂が滞留することにより飢餓ゾーン23から流入した物理発泡剤と溶融樹脂が混練され、接触時間が長くなることが一因ではないかと推測される。本実施形態では、
図1に示す可塑化スクリュ20の流動速度調整ゾーン25に位置する部分に、減圧部及び圧縮部を設けることによって、即ち、スクリュフライトの深さを変化させることによって、更に換言すれば、スクリュ径の大きさ(太さ)を変化させることによって溶融樹脂の流動速度を調整する。
【0057】
(4)溶融樹脂と物理発泡剤の接触
次に、飢餓ゾーン23を一定圧力に保持した状態で、飢餓ゾーン23において飢餓状態の溶融樹脂と一定圧力の前記物理発泡剤とを接触させる(
図3のステップS4)。即ち、飢餓ゾーン23において、溶融樹脂を物理発泡剤により一定圧力で加圧する。飢餓ゾーン23は溶融樹脂が未充満(飢餓状態)であり物理発泡剤が存在できる空間があるため、物理発泡剤と溶融樹脂とを効率的に接触させることができる。溶融樹脂に接触した物理発泡剤は、溶融樹脂に浸透して消費される。物理発泡剤が消費されると、導入速度調整容器300中に滞留している物理発泡剤が飢餓ゾーン23に供給される。これにより、飢餓ゾーン23の圧力は一定圧力に保持され、溶融樹脂は一定圧力の物理発泡剤に接触し続ける。
【0058】
従来の物理発泡剤を用いた発泡成形では、可塑化シリンダに所定量の高圧の物理発泡剤を所定時間内に強制的に導入していた。したがって、物理発泡剤を高圧力に昇圧し、溶融樹脂への導入量、導入時間等を正確に制御する必要があり、物理発泡剤が溶融樹脂に接触するのは、短い導入時間のみであった。これに対して本実施形態では、可塑化シリンダ210に物理発泡剤を強制的に導入するのではなく、飢餓ゾーン23の圧力が一定となるように、一定圧力の物理発泡剤を連続的に可塑化シリンダ内に供給し、連続的に物理発泡剤を溶融樹脂に接触させる。これにより、温度及び圧力により決定される溶融樹脂への物理発泡剤の溶解量(浸透量)が、安定化する。また、本実施形態の物理発泡剤は、常に溶融樹脂に接触しているため、必要十分な量の物理発泡剤が溶融樹脂内に浸透できる。これにより、本実施形態で製造する発泡成形体は、従来の物理発泡剤を用いた成形方法と比較して低圧の物理発泡剤を用いているのにもかかわらず、発泡セルが微細である。
【0059】
また、本実施形態の製造方法は、物理発泡剤の導入量、導入時間等を制御する必要が無いため、逆止弁や電磁弁等の駆動弁、更にこれらを制御する制御機構が不要となり、装置コストを抑えられる。また、本実施形態で用いる物理発泡剤は従来の物理発泡剤よりも低圧であるため装置負荷も小さい。
【0060】
本実施形態では、発泡成形体の製造中、常に、飢餓ゾーン23を一定圧力に保持する。つまり、可塑化シリンダ内で消費された物理発泡剤を補うために、前記一定圧力の物理発泡剤を連続的に供給しながら、発泡成形体の製造方法の全ての工程が実施される。また、本実施形態では、例えば、連続で複数ショットの射出成形を行う場合、射出工程、成形体の冷却工程及び成形体の取出工程が行われている間も、次のショット分の溶融樹脂が可塑
化シリンダ内で準備されており、次のショット分の溶融樹脂が物理発泡剤により一定圧力で加圧される。つまり、連続で行う複数ショットの射出成形では、可塑化シリンダ内に、
溶融樹脂と一定圧力の物理発泡剤が常に存在して接触している状態、つまり、可塑化シリンダ内で溶融樹脂が物理発泡剤により一定圧力で常時、加圧された状態で、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む、射出成形の1サイクルが行われる。同様に、押出成形等の連続成形を行う場合にも、可塑化シリンダ内に、溶融樹脂と一定圧力の物理発泡剤が常に存在して接触している状態、つまり、可塑化シリンダ内で溶融樹脂が物理発泡剤により一定圧力で常時、加圧された状態で成形が行われる。
【0061】
(5)発泡成形
次に、物理発泡剤を接触させた溶融樹脂を発泡成形体に成形する(
図3のステップS5)。本実施形態で用いる可塑化シリンダ210は、飢餓ゾーン23の下流に、飢餓ゾーン23に隣接して配置され、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる再圧縮ゾーン24を有する。まず、可塑化スクリュ20の回転により、飢餓ゾーン23の溶融樹脂を再圧縮ゾーン24に流動させる。物理発泡剤を含む溶融樹脂は、再圧縮ゾーン24において圧力調整され、可塑化スクリュ20の前方に押し出されて計量される。このとき、可塑化スクリュ20の前方に押し出された溶融樹脂の内圧は、可塑化スクリュ20の後方に接続する油圧モータ又は電動モータ(不図示)により、スクリュ背圧として制御される。本実施形態では、溶融樹脂から物理発泡剤を分離させずに均一相溶させ、樹脂密度を安定化させるため、可塑化スクリュ20の前方に押し出された溶融樹脂の内圧、即ち、スクリュ背圧は、一定に保持されている飢餓ゾーン23の圧力よりも1~6MPa程度高く制御することが好ましい。尚、本実施形態では、スクリュ20前方の圧縮された樹脂が上流側に逆流しないように、スクリュ20の先端にチェックリング50が設けられる。これにより、計量時、飢餓ゾーン23の圧力は、スクリュ20前方の樹脂圧力に影響されない。
【0062】
発泡成形体の成形方法は、特に限定されず、例えば、射出発泡成形、押出発泡成形、発泡ブロー成形等により成形体を成形できる。本実施形態では、
図1に示す可塑化シリンダ210から、金型内のキャビティ(不図示)に、計量した溶融樹脂を射出充填して射出発泡成形を行う。射出発泡成形としては、金型キャビティ内に、金型キャビティ容積の75%~95%の充填容量の溶融樹脂を充填して、気泡が拡大しながら金型キャビティを充填するショートショット法を用いてもよいし、また、金型キャビティ容積100%の充填量の溶融樹脂を充填した後、キャビティ容積を拡大させて発泡させるコアバック法を用いてもよい。得られる発泡成形体は内部に発泡セルを有するため、熱可塑性樹脂の冷却時の収縮が抑制されてヒケやソリが軽減され、低比重の成形体を得られる。
【0063】
以上説明した本実施形態の製造方法では、物理発泡剤の溶融樹脂への導入量、導入時間等を制御する必要がため、複雑な制御装置を省略又は簡略化でき、装置コストを削減できる。また、本実施形態の発泡成形体の製造方法は、飢餓ゾーン23を一定圧力に保持した状態で、飢餓ゾーン23において、飢餓状態の溶融樹脂と前記一定圧力の物理発泡剤とを接触させる。これにより、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解量(浸透量)を単純な機構により安定化できる。
【0064】
また、本実施形態の製造装置1000は、
図1および
図2に示すように、本発明に係る物理発泡剤導入用フィルタ101(以下、フィルタ101と略称する場合もある。)を備えている。このフィルタ101は、
図4に示すように、フォルダ110に嵌め込まれている。
フィルタ101は円板状に形成され、厚さは2~3mm程度、直径は30mm程度に設定されている。
フォルダ110は円筒状に形成され、一方の端面(
図4(c)において下端面)にはリング状の嵌合部110aがフォルダ110の軸方向に突出形成され、この嵌合部110aの底部には円環状の底面110bが設けられている。そして、リング状の嵌合部110aの内側にフィルタ101が同軸に嵌合されるとともに、フィルタ101の底面が底面110bに当接されることで、嵌合部110aにフィルタ101が位置決め固定されている。なお、この状態において、フィルタ101の表面と嵌合部110aの先端面とは面一となっている。
【0065】
また、フォルダ110の外周面には、雄ねじ部110cが形成されている。
一方、
図2に示すように、連結部材320の導入口202の直径D1はフォルダ110の直径と等しくなっており、導入口202の内周面の下端部には雌ねじ部202cが形成されている。
そして、フィルタ101を保持しているフォルダ110を導入口202に挿入したうえで、フォルダ110の雄ねじ部110cを導入口202の雌ねじ部202cに螺合することによって、フィルタ101がフォルダ110を介して導入口202に取り付けられている。この状態において、フィルタ101の下端面と連結部材320の下端面とは面一となっており、これによって、フィルタ101は可塑化シリンダ210の飢餓ゾーン23に面している。
【0066】
フィルタ101は、
図4および
図5に示すように、円板状のフィルタ本体102と、このフィルタ本体102に当該フィルタ本体102の厚さ方向に貫通して設けられた多数(複数)の微細孔103とを有している。
微細孔103は、フィルタ本体102の一方の表面側に開口して、溶融樹脂に接する樹脂接触側孔103aと、フィルタ本体102の他方の表面側に開口し、かつ樹脂接触側孔103aと連通して、物理発泡剤が導入される物理発泡剤導入孔103bとを備えている。
【0067】
また、フィルタ101は、金属3Dプリンタを用いて製造した金属製の微細貫通多孔質材によって形成されている。
すなわち、金属製の三次元造形物を製造する三次元造形装置、いわゆる金属3Dプリンタにおける三次元造形物の製造方法の1つとして、金属材料粉体を均一に撒布して粉末層を形成し、粉末層上の所定の照射領域にレーザ光または電子ビームを照射して所定の照射領域の材料粉体を溶融固化することを繰り返して焼結層を積層していき、三次元造形物を生成する金属粉末積層造形法が知られている。
本実施形態では、金属粉末積層造形法にフィルタ本体102を製造しながら、脂接触側孔103aと物理発泡剤導入孔103bとを備えた多数の微細孔103を形成する。
なお、フィルタ101は金属製に限らず樹脂製であってもよい。
【0068】
樹脂接触側孔103aと物理発泡剤導入孔103bとは同軸に配置されており、樹脂接触側孔103aは、直径が物理発泡剤導入孔103bの直径以下となっているが、本実施形態では、
図5および
図6に示すように、樹脂接触側孔103aの直径は、物理発泡剤導入孔103bの直径未満(例えば、物理発泡剤導入孔103bの直径の1/2程度)となっている。また、樹脂接触側孔103aの軸方向の長さは、物理発泡剤導入孔103bの軸方向の長さより短くなっている。
また、樹脂接触側孔103aの直径d1は10~80μmであり、物理発泡剤導入孔103bの直径d2は20~400μmである。
【0069】
ここで、樹脂接触側孔103aの直径d1を10~80μmに規定したのは、樹脂接触側孔を直径10μm未満に形成するのは技術的に困難であり、また、直径d1が80μmを超えると、溶融樹脂が樹脂接触側孔103aに侵入して固まって、当該樹脂接触側孔103aが閉塞され易くなるからである。
また、物理発泡剤導入孔103bの直径d2を20~400μmに規定したのは、物理発泡剤導入孔の直径d2が20μm未満では、物理発泡剤の通りが悪化して、飢餓状態の溶融樹脂に物理発泡剤を確実に導入し難くなり、直径d2が400μmを超えると物理発泡剤導入孔103bの直径が大きくなりすぎて、物理発泡剤導入孔103bの数が減少するからである。
【0070】
また、樹脂接触側孔103aおよび物理発泡剤導入孔103bは、本実施形態では横断面形状が円形状であるが、これに限らず、三角形状、四角形以上の多角形状、長円形状、楕円形状、雲形状または星形状等であってもよく、これらが適宜混在していてもよい。
樹脂接触側孔103aおよび物理発泡剤導入孔103bの横断面形状が円形状以外の場合、樹脂接触側孔103aおよび物理発泡剤導入孔103bの直径は、樹脂接触側孔103aおよび物理発泡剤導入孔103bの横断面の面積と同じ面積の真円におけるその直径と定義する。
【0071】
また、本実施形態では、樹脂接触側孔103aおよび物理発泡剤導入孔103bの内周面は軸方向においてストレート状に形成されているが、これに限ることはない。例えば
図7(a)に示すように、物理発泡剤導入孔103bの内周面を軸方向に対して傾斜するように形成してもよい。この場合、物理発泡剤導入孔103bは、その直径が樹脂接触側孔103a側に向かうにしたがって、小さくなるように形成する。また、
図7(b)に示すように、物理発泡剤導入孔103bおよび樹脂接触側孔103aの内周面を軸方向に対して傾斜するように形成してもよい。この場合、物理発泡剤導入孔103bは、その直径が樹脂接触側孔103a側に向かうにしたがって、小さくなるように形成し、樹脂接触側孔103aは、その直径が物理発泡剤導入孔103bから遠ざかるにしたがって、小さくなるように形成する。
【0072】
また、
図7(a)に示すような場合、物理発泡剤導入孔103bの直径は、物理発泡剤が導入される入口側の最大直径とし、
図7(b)に示すような場合、物理発泡剤導入孔103bの直径は、物理発泡剤が導入される入口側の最大直径とし、樹脂接触側孔103aの直径は、物理発泡剤導入孔103bと軸方向に隣接する入口側の最大直径とする。
【0073】
また、
図6に示すように、微細孔103は、円板状のフィルタ本体102の表面において縦横に所定間隔で複数(多数)設けられ、縦方向に隣り合う微細孔103,103間のピッチP1と横方向に隣り合う微細孔103,103間のピッチP2とは等しくなっているが、ピッチP1とピッチP2とは異なっていてもよい。
また、縦方向に隣り合う物理発泡剤導入孔103b,103bどうしの間の隔壁の厚さt1および横方向に隣り合う物理発泡剤導入孔103b,103bどうしの間の隔壁の厚さt2は0.01~1.0mmとなっている。
【0074】
ここで、縦方向および横方向に隣り合う物理発泡剤導入孔103b,103bどうしの間の隔壁の厚さt1,t2を0.01~1.0mmに規定したのは、隔壁の厚さt1,t2が0.01mm未満では、隔壁の厚さt1,t2が薄くなりすぎて、物理発泡剤導入用フィルタ101の強度が低下し、1.0mmを超えると隔壁t1,t2の厚さが厚くなりすぎて物理発泡剤導入孔103bの数が減少するからである。
【0075】
なお、本実施形態では、複数(多数)の微細孔103を縦横に配置したが、これに限ることはない。例えば、
図8に示すように、千鳥状に配置し、さらに、縦方向に隣り合う物理発泡剤導入孔103b,103bどうしが縦方向において一部ラップするように配置してもよい。このようにすると、単位面積あたりの微細孔103の数を増やすことができる。
この場合、斜め方向に隣り合う物理発泡剤導入孔103b,103bどうしの間の隔壁の厚さt3を、横方向に隣り合う物理発泡剤導入孔103b,103bどうしの間の隔壁の厚さt2より薄くするのが好ましい。また、斜め方向に隣り合う物理発泡剤導入孔103b,103bどうしの間の隔壁の厚さt3は0.01~1.0mmとなっている。
【0076】
本実施形態によれば、物理発泡剤導入用フィルタ101の樹脂接触側孔103aは、直径が物理発泡剤導入孔103bの直径以下で、かつ10~80μmであるので、このような物理発泡剤導入用フィルタ101を可塑化シリンダ210の飢餓ゾーン23に物理発泡剤を導入するための導入口202に設けることによって、樹脂接触側孔103aに飢餓ゾーン23の溶融樹脂が侵入するのを抑制できる。このため、物理発泡剤導入用フィルタ101を設ける導入口202に溶融樹脂が固まって残留することがない。
また、物理発泡剤を導入孔202から樹脂接触側孔103aを通して、飢餓状態(飢餓ゾーン23)の溶融樹脂に物理発泡剤を確実に導入できる。
したがって、ベントアップを抑制して物理発泡剤を飢餓状態(飢餓ゾーン23)の溶融樹脂に安定供給できる。
【0077】
また、物理発泡剤導入孔103bの直径が20~400μmであるので、物理発泡剤を飢餓状態(飢餓ゾーン23)の溶融樹脂に確実かつ安定的に導入できる。
さらに、縦方向に隣り合う物理発泡剤導入孔103b,103bどうしの間の隔壁t1および横方向に隣り合う物理発泡剤導入孔103b,103bどうしの間の隔壁の厚さt2が0.01~1.0mmであるので、物理発泡剤導入用フィルタ101の強度低下を抑制しつつ、物理発泡剤導入孔103bの数を十分に確保できる。
【0078】
次に実施例について説明する。
上述した本発明に係る物理発泡剤導入用フィルタ101を備えた発泡成形体の製造装置を用いて発泡成形体を製造した(実施例1~5)。
一方、本発明でない物理発泡剤導入用フィルタを備えた発泡成形体の製造装置を用いて発泡成形体を製造した(比較例1~2)。
そして、実施例と比較例において、飢餓ゾーンの圧力安定性およびメンテサイクル(発泡成形体を1個製造する場合を1ショットとしたときのショット数)について確認した。メンテサイクルの数が大きということは、導入孔202に溶融樹脂が侵入し難くなって、樹脂による詰まりがなく、長時間発泡成形体を製造できることを意味する。
また、表1中の「飢餓ゾーンの圧力安定性」の項目において、「〇±3%(6%、5%、8%)」とは、飢餓ゾーンの圧力が、一定圧力〇に対して±3%(6%、5%、8%)の範囲内で安定的に保持されることを意味する。
結果を表1に示す。
【0079】
【0080】
実施例1~5では、樹脂接触側孔の直径が10~80μmの範囲にあり、物理発泡剤導入孔の直径が20~400μmの範囲にあり、双方とも本発明の範囲内である。
これに対し、比較例1では、樹脂接触側孔の直径が0.1mm(100μm)、物理発泡剤導入孔の直径が0.2mm(200μm)であり、樹脂接触側孔の直径は本発明の範囲外、物理発泡剤導入孔の直径は本発明の範囲内である。
また、比較例2では、樹脂接触側孔の直径は0.03mm(30μm)、物理発泡剤導入孔の直径が0.5mm(500μm)であり、樹脂接触側孔の直径は本発明の範囲内、物理発泡剤導入孔の直径は本発明の範囲外である。
【0081】
表1に示すように、実施例1~5では、飢餓ゾーンの圧力を安定的に一定に保持できるともに、メンテサイクルも長くなることがわかる。
したがって、溶融樹脂が樹脂接触側孔に侵入して当該樹脂接触側孔が閉塞されるのを抑制できるとともに、物理発泡剤を物理発泡剤導入孔から樹脂接触側孔を通して、飢餓状態の溶融樹脂に物理発泡剤を確実に導入できる。
【0082】
一方、比較例1では、樹脂接触側孔の直径が0.1mm(100μm)であり、実施例1~5に比して大径となるので、溶融樹脂が樹脂接触側孔に侵入して固まり、飢餓ゾーンの圧力を安定的に一定に保持できない。また、メンテサイクルも500ショット程度であり、短くなる。また、比較例2では、物理発泡剤導入孔の直径が0.5mm(500μm)であり、実施例1~5に比して大径となるので、物理発泡剤導入孔の数(単位面積当たりの数)が減少する。このため、物理発泡剤を確実に導入するのが困難となって、実施例1~5に比して、飢餓ゾーンの圧力安定性が低くなる。
【0083】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態について説明する。
図9は、第2の実施形態の製造装置における導入速度調整容器300を示す断面図である。
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、導入速度調整容器300に、導入口202を開閉可能とする導入口開閉機構250が設けられている点であるので、以下ではこの点について説明し、第1の実施形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0084】
製造装置1000を用いた発泡体の成形終了後のクリーニング時等に、可塑化シリンダ210内のガスを脱気すると、導入速度調整容器300に蓄積しているガス(物理発泡剤)が可塑化シリンダ210内に一気に導入されるため、大きな発砲音がすることがある。
導入口開閉機構250は、この発砲音を抑制するために設けられている。以下導入口開閉機構250の構成について説明する。
【0085】
図9に示すように、導入口開閉機構250は、エアシリンダ251と、このエアシリンダ251に設けられたピストン252を備えている。
エアシリンダ251は円筒状に形成され、下端部が導入速度調整容器300の蓋330の上面に固定されている。
ピストン252は、エアシリンダ251を軸方向に往復動可能な円板状のフランジ部252aと、このフランジ部252aの下面中央部に、基端部(
図9において上端部)が固定されたピストンロッド252bとを備えている。また、フランジ部252aの外周部にはエアシリンダ251の内周面に軸方向に摺動可能に密接するパッキン部材252cが取り付けられている。
エアシリンダ251は、当該エアシリンダ251内のフランジ部252aより上側と下側に圧縮エアを交互に出し入れ可能となっており、これによって、フランジ部252aが軸方向に往復動可能となっている。
【0086】
また、蓋330の中央部には、ピストンロッド252bの軸方向に貫通する貫通孔330aが形成され、当該貫通孔330aにピストンロッド252bが軸方向に往復動可能に挿通されている。ピストンロッド252bの外周部には貫通孔330aの内周面に軸方向に摺動可能に密接するパッキン部材252dが取り付けられている。
【0087】
また、ピストンロッド252bの先端部(
図9において下端部)には、導入孔202を開閉する栓部材253がピストンロッド252bと一体的に設けられている。この栓部材253は円錐台状に形成されており、外周面は先端部(下端部)に向かうにしたがって、縮径するような傾斜面となっている。
一方、導入孔202を形成する連結部材320には、導入孔202の入口側(
図9において上端側)に円錐面状の受面320aが形成されている。受面320aは上方に向かうにしたがって拡径するような傾斜面となっている。この傾斜面と栓部材253の傾斜面とは直線mに対して等しい角度で傾斜している。
【0088】
そして、
図9(a)に示すように、ピストン252が引き込まれた状態、つまりフランジ部252aがエアシリンダ251の内部上面側に位置している状態では、栓部材253は、導入孔202から上方に離れた位置にあり、導入速度調整容器300から導入孔202に物理発泡剤を供給可能なっている。
一方、
図9(b)に示すように、ピストン252が押し出された状態、つまりフランジ部252aがエアシリンダ251の内部下面側に位置している状態では、栓部材253は、導入孔202に入り込んで、当該栓部材253の外周面が前記受面320aに密接して導入孔202を封止する。
【0089】
このような導入口開閉機構250が設けられた導入速度調整容器300を有する製造装置1000によって、発泡成形体を成形する際は、導入口開閉機構250によって導入口202を開いて開放することで、飢餓ゾーン23の溶融樹脂に安定的に物理発泡剤を導入でき、発泡成形体の成形終了後に、可塑化シリンダ210から脱気する際に、導入口開閉機構250によって導入口202を閉じて封止することによって、導入速度調整容器300に蓄積しているガス(物理発泡剤)が可塑化シリンダ210内に導入されることがないため、大きな発泡音が生じるのを抑制できる。
【0090】
なお、本実施形態では、導入口開閉機構250が設けられた導入速度調整容器300を有する製造装置1000において、導入口202に物理発泡剤導入用フィルタ101が設けられているが、上述したような発砲音を抑制することを目的とする場合、導入孔202に物理発泡剤導入用フィルタ101が設けられていない、発泡成形体の製造装置に適用してもよい。
【符号の説明】
【0091】
21 可塑化ゾーン
23 飢餓ゾーン
100 ボンベ(物理発泡剤供給機構)
101 フィルタ
102 フィルタ本体
103 微細孔
103a 樹脂接触側孔
103b 物理発泡剤導入孔
202 導入口
210 可塑化シリンダ
250 導入口開閉機構
300 導入速度調整容器
1000 製造装置