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  • 特許-補機冷却水系の漏洩監視装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】補機冷却水系の漏洩監視装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 3/26 20060101AFI20240712BHJP
【FI】
G01M3/26 S
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021197202
(22)【出願日】2021-12-03
(65)【公開番号】P2023083078
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日高 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】窪田 省三
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-039393(JP,A)
【文献】特開平1-263530(JP,A)
【文献】特開2003-065883(JP,A)
【文献】特開昭58-215523(JP,A)
【文献】米国特許第5883815(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M3/00-3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補機冷却器と、
前記補機冷却器に冷却水を供給する熱交換器と、
前記補機冷却器と前記熱交換器との間で冷却水を循環させる配管と、
前記配管の途中に接続され、冷却水を貯留するサージタンクと、
前記サージタンクの水位を計測する計測部と、を有する補機冷却水系に用いられる漏洩監視装置であって、
前記熱交換器の出口側の前記配管に設けられた、第1の温度計測設備と、
前記熱交換器の入口側の前記配管に設けられた、第2の温度計測設備と、
冷却水の温度と冷却水の体積変化量との対応関係を、予め記憶させておく記憶部と、
前記第1の温度計測設備で計測された冷却水の前記熱交換器の出口側の温度の情報と、前記第2の温度計測設備で計測された冷却水の前記熱交換器の入口側の温度の情報と、前記計測部で計測された前記サージタンクの水位の情報とを、取得する取得部と、
前記記憶部に記憶させておいた前記対応関係と、前記取得部が取得した温度の情報とに基づいて、前記計測部で計測された前記サージタンクの水位を補正することで、体積変化の影響を除去した補正水位を算出する補正部と、
前記補正部により算出された補正水位に基づいて、冷却水が漏洩したと判断する判断部と、を有する
補機冷却水系の漏洩監視装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記対応関係を、関数、あるいは、所定温度間隔の温度と対応する比容積の変化幅、の形で記憶させる請求項1に記載の補機冷却水系の漏洩監視装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記対応関係と前記温度の情報とを用いて、温度変化による前記サージタンクの水位の変化量を算出し、前記計測部で計測された前記サージタンクの水位を、算出した変化量で補正することにより、前記補正水位を算出する請求項1に記載の補機冷却水系の漏洩監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉回路である補機冷却水系に設けられ、冷却水や被冷却器の潤滑油等の流体の漏洩を早期に検知する漏洩監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力・原子力発電で用いられる補機冷却水系は、補機冷却水系の熱交換器で冷却された冷却水(二次冷却材)を補機冷却器に供給し、補機冷却器の除熱を行っている。
補機側系統では、補機冷却器で冷却された三次冷却材(油、水、ガス等)により、補機側系統の構成機器の除熱を行っている。
補機冷却水系の熱交換器は、海水、湖川水、冷却塔冷却水等の一次冷却材により冷却され、補機側系統の構成機器からの除熱を系外に放出している。
【0003】
補機冷却水系は、補機冷却水系の熱交換器、ポンプ、サージタンク及び配管・弁等で構成される閉回路を形成しており、冷却水はこの閉回路の中を循環している。
補機冷却器または補機冷却水系の熱交換器における漏洩発生により冷却水が減少した場合、サージタンクの水位が減少し補給水が供給される。
【0004】
従って、漏洩の発生有無は、サージタンクの水位変化、補給水量、補給水弁の動作頻度により検知が可能である。
しかし、サージタンクの水位は、冷却水の温度変化による体積膨張・収縮によっても変化することや、補給水量及び補給水弁動作頻度による微少漏洩の検出には長い時間を要すること、等の問題がある。
【0005】
特許文献1では、配管の破断によって冷却水が流出した際に、サージタンクと降水管を接続する漏洩検知管の水位低下速度の増加から、漏洩を早期に検知する漏洩検知装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平1-263530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術においては、冷却水の温度変化による水の体積の膨張や収縮は、考慮されていないため、冷却水の温度変化による体積変化のような微少な漏洩は検出できない、という課題があった。
【0008】
そこで、本発明では、冷却水の温度変化による影響を取り除き、冷却水の体積変化時にも微少な漏洩を検知できる、漏洩監視装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の上記の目的及びその他の目的と本発明の新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置は、補機冷却器と、補機冷却器に冷却水を供給する熱交換器と、補機冷却器と熱交換器との間で冷却水を循環させる配管と、配管の途中に接続され、冷却水を貯留するサージタンクと、サージタンクの水位を計測する計測部と、を有する補機冷却水系に用いられる漏洩監視装置である。
そして、本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置は、熱交換器の出口側の配管に設けられた第1の温度計測設備と、熱交換器の入口側の配管に設けられた第2の温度計測設備と、冷却水の温度と冷却水の体積変化量との対応関係を、予め記憶させておく記憶部と、第1の温度計測設備で計測された冷却水の熱交換器の出口側の温度の情報と、第2の温度計測設備で計測された冷却水の熱交換器の入口側の温度の情報と、計測部で計測されたサージタンクの水位の情報とを、取得する取得部と、記憶部に記憶させておいた対応関係と、取得部が取得した温度の情報とに基づいて、計測部で計測されたサージタンクの水位を補正することで、体積変化の影響を除去した補正水位を算出する補正部と、補正部により算出された補正水位に基づいて、冷却水が漏洩したと判断する判断部と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
上述の本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置によれば、プラント起動停止時等の冷却水の温度変化時にも、冷却水の体積変化の影響を取り除いて漏洩を検知することができる。
さらに、本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置によれば、冷却水の流出のみならず、被冷却源から補機冷却水系への潤滑油の流入等も検出できる。
【0012】
なお、上述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1の漏洩監視装置を備えた、補機冷却水系の構成を示す系統図である。
図2】冷却水の温度と比容積変化率の相関図の一例である。
図3】従来の補機冷却水系の一例の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態及び実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態や実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置は、補機冷却器と、補機冷却器に冷却水を供給する熱交換器と、補機冷却器と熱交換器との間で冷却水を循環させる配管と、配管の途中に接続され、冷却水を貯留するサージタンクと、サージタンクの水位を計測する計測部と、を有する補機冷却水系に用いられる漏洩監視装置である。
即ち、本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置は、補機冷却器と熱交換器とサージタンクとを有する補機冷却水系に適用される。
【0016】
そして、本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置は、熱交換器の出口側の配管に設けられた第1の温度計測設備と、熱交換器の入口側の配管に設けられた第2の温度計測設備と、記憶部と、取得部と、補正部と、判断部と、を有する。
記憶部は、冷却水の温度と冷却水の体積変化量との対応関係を、予め記憶させておく。
取得部は、第1の温度計測設備で計測された冷却水の熱交換器の出口側の温度の情報と、第2の温度計測設備で計測された冷却水の熱交換器の入口側の温度の情報と、計測部で計測されたサージタンクの水位の情報とを、取得する。
補正部は、記憶部に記憶させておいた対応関係と、取得部が取得した温度の情報とに基づいて、計測部で計測されたサージタンクの水位を補正することで、体積変化の影響を除去した補正水位を算出する。
判断部は、補正部により算出された補正水位に基づいて、冷却水が漏洩したと判断する。
【0017】
本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置の構成によれば、補正部が、記憶部に記憶させておいた対応関係と、取得部が取得した温度の情報とに基づいて、計測部で計測されたサージタンクの水位を補正することで、体積変化の影響を除去した補正水位を算出し、判断部が、補正部により算出された補正水位に基づいて冷却水が漏洩したと判断する。
これにより、プラント起動停止時等の冷却水の温度変化時にも、算出した補正水位に基づいて、冷却水の体積変化の影響を取り除いて漏洩を検知することができる。
そして、冷却水の体積変化の影響を取り除くことができるので、冷却水の温度変化による体積変化に相当する、微少な漏洩も検知することができる。
このように微少な漏洩も検知することができるので、冷却水の流出のみならず、被冷却源から補機冷却水系への潤滑油の流入等も検出できる。
【0018】
上記の漏洩監視装置の構成において、記憶部は、対応関係を、関数、あるいは、所定温度間隔の温度と対応する比容積の変化幅、の形で記憶させる構成とすることができる。
即ち、この構成の場合には、関数、あるいは、所定温度間隔の温度と対応する比容積の変化幅の形で対応関係を記憶させるので、記憶させた対応関係と、第1の温度計測設備及び第2の温度計測設備でそれぞれ計測された温度の情報とから、比較的容易に体積変化量を算出することが可能になる。
【0019】
上記の漏洩監視装置の構成において、補正部は、対応関係と温度の情報とを用いて、温度変化によるサージタンクの水位の変化量を算出し、計測部で計測されたサージタンクの水位を、算出した変化量で補正することにより、補正水位を算出する構成とすることも可能である。
即ち、この構成の場合には、算出したサージタンクの水位の変化量と、計測部で計測されたサージタンクの水位とを用いて、比較的容易に補正水位を算出することができる。
【0020】
なお、上記の漏洩監視装置の構成の第1の温度計測設備及び第2の温度計測設備の代わりに、サージタンクの冷却水自体の温度を計測したり、サージタンクへ接続する配管の冷却水の温度を計測したりすることも考えられる。
しかし、これらの温度を計測する箇所は、冷却水が循環する配管と比較して、温度の変化が少ないため、循環する冷却水の温度変化を正確に検知することが難しい。従って、冷却水の温度変化時における冷却水の体積変化の影響を取り除くことが難しく、上記の漏洩監視装置の構成とは同様の作用効果が得られない。
【実施例
【0021】
続いて、本発明の具体的な実施例を説明する。
【0022】
(従来の補機冷却水系)
まず、本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置の実施例の説明に先立ち、本発明との比較対照として、従来の補機冷却水系の構成を説明する。
図3は、従来の補機冷却水系の一例の構成を示す系統図である。
【0023】
図3に示す補機冷却水系(二次冷却系)20は、サージタンク1と、計測部2と、制御器3と、補給水弁4と、冷却水ポンプ5と、熱交換器6と、温度調節弁7,8と、冷却水温度計測設備9と、制御器10と、補機冷却器11を有する。
サージタンク1は、冷却水を貯留する。
計測部2は、サージタンク1の水位を計測する。
制御器3は、計測部2及び補給水弁4に接続され、計測部2におけるサージタンク1の水位の計測と、補給水弁4における弁の開閉動作を、制御する。
冷却水ポンプ5は、補機冷却器11に冷却水を送水する
熱交換器6は、補機冷却水系(二次冷却系)20の冷却水(二次冷却材)を、一次冷却系の冷却水(一次冷却材)と熱交換させて、補機冷却水系(二次冷却系)20の冷却水(二次冷却材)を除熱する。
温度調節弁7,8は、弁を開閉させることにより、温度調節弁7,8を通過する冷却水の流量を変化させて、冷却水の温度を調節する。
冷却水温度計測設備9は、熱交換器6の出口側に、具体的には、温度調節弁7,8と補機冷却器11との間に設けられている。
制御器10は、温度調節弁7,8、及び、冷却水温度計測設備9に接続され、温度調節弁7,8における弁の開閉動作と、冷却水温度計測設備9における冷却水の温度の計測を、制御する。
補機冷却器11は、補機冷却水系(二次冷却系)20の冷却水(二次冷却系)が供給されることにより、三次冷却系の冷却材(油、水、ガス等の三次冷却材)と熱交換させて、三次冷却材を冷却する。
【0024】
冷却水は、冷却水ポンプ5によって送水され、熱交換器6によって除熱され、補機冷却器11から熱を回収し、再度冷却水ポンプ5によって送水されることで、閉回路内を循環している。
また、サージタンク1は、冷却水の温度の上昇や下降による冷却水の膨張や収縮を、その水位によって吸収する。
計測部2は、制御器3、補給水弁4とともに、サージタンク1の水位が設定値を下回ると補給水Wを自動で供給する機能を有する。
【0025】
図3に示す補機冷却水系(二次冷却系)20の構成では、計測部2によるサージタンク1の水位の変化の検出、補給水Wの補給水量の検出、補給水弁4の動作頻度の検出、等により、冷却水の漏洩の有無を検出することができる。
しかし、図3に示す補機冷却水系(二次冷却系)20の構成では、サージタンク1の水位は冷却水の温度変化による体積膨張・収縮によっても変化するため、冷却水の漏洩と、冷却水の温度変化による体積膨張・収縮とを区別することが難しい。また、微少漏洩の場合は、補給水量及び補給水弁4の動作頻度による検出に長い時間を要する。
【0026】
(実施例1)
続いて、本発明の補機冷却水系の漏洩監視装置の実施例を説明する。
図1は、本発明の実施例1の漏洩監視装置を備えた、補機冷却水系の構成を示す系統図である。
【0027】
図1に示す補機冷却水系(二次冷却系)30は、図3に示した補機冷却水系(二次冷却系)20と同様に、サージタンク1と、サージタンク1の水位を計測する計測部2と、制御器3と、補給水弁4と、冷却水ポンプ5と、熱交換器6と、温度調節弁7,8と、冷却水温度計測設備9と、補機冷却器11を有する。
なお、図1に示す補機冷却水系(二次冷却系)30では、図示を省略しているが、図3に示した補機冷却水系(二次冷却系)20の制御器10と同様に、温度調節弁7,8の弁の開閉動作を制御する制御器を備えている。
図1に示す補機冷却水系(二次冷却系)30において、図3に示した補機冷却水系(二次冷却系)20と共通のこれらの構成は、それぞれ図3に示した補機冷却水系(二次冷却系)20と同様の機能を有する。
【0028】
そして、実施例1の漏洩監視装置は、特に、補正水位計21、演算器22、冷却水温度計測設備23を備えている。
【0029】
冷却水温度計測設備23は、補機冷却水系30の熱交換器6の入口側に設置され、熱交換器6の入口側における冷却水(二次冷却水)の温度を測定する。
即ち、この冷却水温度計測設備23は、本発明の漏洩監視装置の構成における、熱交換器の出口側の配管に設けられた第1の温度計測設備に相当する。
一方、図3の補機冷却水系20と同様に設けられた冷却水温度計測設備9は、本発明の漏洩監視装置の構成における、熱交換器の入口側の配管に設けられた第2の温度計測設備に相当する。
【0030】
演算器22は、サージタンク1の水位を計測する計測部2、補機冷却水系30の熱交換機6の入口側に設置された冷却水温度計測設備23、及び補機冷却水系30の熱交換機6の出口側に設置された冷却水温度計測設備9に接続されている。
演算器22は、冷却水温度計測設備23と冷却水温度計測設備9とから、熱交換器6の入口側及び熱交換器6の出口側のそれぞれの冷却水の温度の信号を取り込み、補正水位を演算する。
【0031】
補正水位計21は、演算器22に接続されており、演算器22で演算された補正水位を表示する。
【0032】
また、演算器22は、図示しないが、記憶部と、取得部と、補正部と、判断部と、を有する。
記憶部は、冷却水の温度と冷却水の体積変化量との対応関係を、予め記憶させておく。
取得部は、冷却水温度計測設備(第1の温度計測設備)23と冷却水温度計測設備(第2の温度計測設備)9でそれぞれ計測された、冷却水の熱交換器6の出口側の温度及び入口側の温度の情報と、計測部2で計測された、サージタンク1の水位の情報とを、取得する。
補正部は、記憶部に記憶させておいた対応関係と、取得部が取得した温度の情報とに基づいて、計測部で計測されたサージタンクの水位を補正することで、体積変化の影響を除去した補正水位を算出する。
判断部は、補正水位が変動した場合に、冷却水が漏洩したと判断する。補正水位は、通常は、所定の補正水位の値で一定であるが、冷却水が漏洩した場合には補正水位が変動する。
【0033】
ここで、冷却水の温度と冷却水の比容積の変化の相関図の一例を、図2に示す。
図2に示す相関図では、冷却水の温度が高くなるに従って、比容積の変化が増大している。また、図2に示す相関図では、下に凸な曲線になっているので、温度が高いほど、1度の温度上昇当たりの比容積の変化が大きくなっている。
【0034】
本実施例の漏洩監視装置においては、漏洩が発生していない場合、サージタンク1の実測水位を冷却水の体積変化量で補正した、補正水位は一定となる。
一方、補正水位に変動が生じた場合に、本実施例の漏洩監視装置は、補機冷却水系で漏洩が発生していると判断する。
【0035】
次に、演算器22における、具体的な補正水位の計算の理論式について説明する。
まず、任意の基準温度T0(℃)における、熱交換器6から熱負荷(補機冷却器11、以下では記載を省略する)までの冷却水の質量をG1(kg)とし、熱負荷から熱交換器6までの冷却水の質量をG2(kg)とする。
また、補機冷却水系30の全冷却水の体積をQ(m)とする。
そして、温度T1(℃)における、熱交換器6から熱負荷までの冷却水の体積と平均比容積を、それぞれ、Q1(m)、U1(m/kg)とする。また、温度T2(℃)における、熱負荷から熱交換器6までの冷却水の体積と平均比容積を、それぞれ、Q2(m)、U2(m/kg)とする。
このとき、下記の式(1)が成り立つ。
Q=Q1+Q2
=G1×U1+G2×U2 (1)
【0036】
また、基準温度T0(℃)における、比容積、全冷却水の体積、熱交換器6から熱負荷までの冷却水の体積、熱負荷から熱交換器6までの冷却水の体積を、それぞれ、U0(m/kg)、Q´(m)、Q1´(m)、Q2´(m)とすると、下記の式(2)が成り立つ。
Q´=Q1´+Q2´
=(G1+G2)×U0 (2)
【0037】
次に、サージタンク1の断面積をA(m)、実測タンク水位をL(m)、基準温度T0時のタンク水位をL´とすると、基準温度T0からの冷却水の体積変化とサージタンク1の水量の変化が一致することから、下記の式(3)が成り立つ。
Q-Q´=A×(L-L´) (3)
これより、基準温度T0時のタンク水位L´は、下記の式(4)にて表せる。
【0038】
【数1】
【0039】
ここで、先ほどの式(1),(2)のQ,Q´を代入することで、冷却水の体積変化の影響を除去した、基準温度T0時のサージタンク1の水位L´を、以下の式(5)で表せる。
【0040】
【数2】
【0041】
実測される水位L及び温度T1,T2が変化しても、この基準温度T0時のサージタンク水位L´は一定である。
このことから、本実施の形態の漏洩監視装置では、判断部が、補正水位L´が変動した時に、漏洩が発生していると判断する。
【0042】
本実施の形態の漏洩監視装置では、例えば、以下に述べる手順で補正水位L´を求めて、漏洩の有無を検出することができる。
【0043】
補機冷却水系30において、基準温度T0における冷却水の質量G1,G2と、サージタンク1の断面積Aと、基準温度T0における冷却水の比容積U0は、それぞれ定数である。
まず、予めこれらの定数G1,G2,A,U0をそれぞれ、測定又は計算しておく。そして、測定又は計算によって得られた値を、演算器22の記憶部に記憶させておく。
なお、基準温度T0における冷却水の質量G1,G2は、直接測定することが難しい場合でも、質量を求める区間の配管の内容積を計算して、計算した内容積と、基準温度T0における冷却水の比重あるいは比容積とから、求めることが可能である。
【0044】
また、図2に示したような相関図のような、冷却水の温度と冷却水の比容積の変化幅との対応関係(相関)を、予め求めておいて、得られた相関を演算器22の記憶部に記憶させておく。
上記の対応関係は、例えば、2次関数等の関数、所定温度間隔(例えば、1℃、0.1℃等)の温度に対応する比容積の変化幅、等の形で記憶させることが可能である。これらの形で記憶させておけば、記憶部から記憶させた対応関係を呼び出して、対応関係と、冷却水温度計測設備23,9でそれぞれ計測された温度の情報とから、比較的容易に体積変化量を算出することが可能になる。
なお、冷却水の温度と冷却水の比容積の変化幅との対応関係は、冷却水の組成(水の純度、水中の含有物の物質と含有量、等)によって変わるので、使用する冷却水の対応関係を調べておく。
【0045】
そして、監視の際には、サージタンク1の水位の測定値L、冷却水温度計測設備9の温度の測定値T1、温度計測設備23の温度の測定値T2を取得する。
次に、演算器22の記憶部に記憶させておいた、冷却水の温度と冷却水の比容積の変化幅との相関を用いて、温度の測定値T1,T2から、それぞれの温度T1,T2における冷却水の比容積の変化幅を求める。
さらに、それぞれの温度T1,T2における冷却水の比容積の変化幅と、基準温度T0における冷却水の比容積の変化幅と、基準温度T0における冷却水の比容積U0とから、それぞれの温度T1,T2における冷却水の比容積U1,U2を求める。
そして、求めた冷却水の比容積U1,U2と、演算器22の記憶部に記憶させておいた定数G1,G2,A,U0と、サージタンク1の水位の測定値Lとを、上記の式(5)に代入して、基準温度T0におけるサージタンク1の補正水位L´を計算する。
さらに、計算して得られたサージタンク1の補正水位L´の計算値を、通常時の補正水位L´の値(所定のL´の値)と比較することにより、補正水位L´の変動の有無を検出することができるので、これにより、漏洩の有無を検出することができる。
【0046】
また、補機冷却水系は、系統を冷却水が1周循環するのに、数分程度の時間を要する。そのため、温度計測値と冷却水の比容積・体積の変化には時間のずれが生じる。
本実施例の漏洩監視装置では、このずれの時間範囲内で補正水位の変動が回復した場合、漏洩発生なし、と判断する。
【0047】
ここで、補機冷却水系30の冷却水の流量をW(m/s)とし、冷却水が熱交換器6から熱負荷まで到達する時間、熱負荷から熱交換器6まで到達する時間を、それぞれH1(s)、H2(s)とすると、下記の式(6)が成り立つ。
【0048】
【数3】
【0049】
温度計測点が熱交換器6の出入口の近傍にある場合は、H1は進み時間となり、H2は遅れ時間となるため、時間のずれは+H1~-H2となり、想定されるずれ時間を予め予測することができる。
そして、予測したずれ時間を考慮して、ずれ時間の範囲外で補正水位の変動を検出した場合には、漏洩していると判断する。
【0050】
本実施例の漏洩監視装置の構成によれば、演算器22において、補正部が、記憶部に記憶させておいた対応関係と、取得部が取得した温度の情報とに基づいて、計測部で計測されたサージタンク1の水位Lを補正することで、体積変化の影響を除去した補正水位L´を算出し、判断部が、補正部により算出された補正水位L´に基づいて、補正水位L´が通常の補正水位L´(所定の値)から変動した場合に、冷却水が漏洩したと判断する。
これにより、プラント起動停止時等の冷却水の温度変化時にも、算出した補正水位L´に基づいて、冷却水の体積変化の影響を取り除いて漏洩を検知することができる。
そして、冷却水の体積変化の影響を取り除くことができるので、冷却水の温度変化による体積変化に相当する、微少な漏洩も検知することができる。
このように微少な漏洩も検知することができるので、冷却水の流出のみならず、被冷却源から補機冷却水系への潤滑油の流入等も検出できる。
【0051】
なお、本発明は、上述した実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した各実施の形態及び実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0052】
1 サージタンク、2 計測部、3 制御器、4 補給水弁、5 冷却水ポンプ、6 熱交換器、7,8 温度調節弁、9,23 冷却水温度計測設備、21 補正水位計、22 演算器、30 補機冷却水系
図1
図2
図3