IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エージーシー グラス ユーロップの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】金属を被覆する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20240712BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
C23C16/42
C23C28/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021535614
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 EP2019085638
(87)【国際公開番号】W WO2020127256
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】18215298.3
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510191919
【氏名又は名称】エージーシー グラス ユーロップ
【氏名又は名称原語表記】AGC GLASS EUROPE
【住所又は居所原語表記】Avenue Jean Monnet 4, 1348 Louvain-la-Neuve, Belgique
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】アルノウルト, グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル, エリック
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519219(JP,A)
【文献】特開2006-348384(JP,A)
【文献】特開2017-095801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/42
C23C 28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ケイ素をベースとする層を含む金属基板であって、前記酸化ケイ素をベースとする層は、80~400nmの厚さを有し、5~30原子%の炭素、及び最大で15重量%の酸化チタン、酸化ジルコニウム、又は酸化チタンと酸化ジルコニウムとの混合物を含む、金属基板。
【請求項2】
バルク金属と前記酸化ケイ素をベースとする層との間に陽極酸化金属層をさらに含む、請求項1に記載の金属基板。
【請求項3】
前記酸化ケイ素をベースとする層は、少なくとも80重量%のSiOを含む、請求項1又は2に記載の金属基板。
【請求項4】
80~400nmの厚さを有し、5~30原子%の炭素、及び最大で15重量%の酸化チタン、酸化ジルコニウム、又は酸化チタンと酸化ジルコニウムとの混合物を含む、酸化ケイ素をベースとする層を金属基板上に生成する方法であって、
a.前記基板上に前記層を蒸着するために、少なくとも1つの線形デュアルビームプラズマ源を含む低圧PECVD装置を用いるステップであって、前記源は、AC又はパルスDC発電機に接続された少なくとも2つの電極を含む、ステップと、
b.プラズマの出力密度がプラズマ1cm当たり3~17Wとなるように、前記2つの電極間に電力を印加するステップと、
c.前記プラズマ源1直線メートル当たり125~750sccmの流量の酸化ケイ素の気体状炭素含有前駆体と、前記プラズマ源1直線メートル当たり500~2500sccmの流量の、酸素又は酸素含有誘導体をベースとする反応性ガスとを前記基板に付与するステップと
を含む方法。
【請求項5】
80~400nmの厚さを有し、5~30原子%の炭素、及び最大で15重量%の酸化チタン、酸化ジルコニウム、又は酸化チタンと酸化ジルコニウムとの混合物を含む、酸化ケイ素をベースとする層を金属基板上に生成する方法であって、
a.前記基板上に前記層を蒸着するために、少なくとも1つの中空陰極プラズマ源を含む低圧PECVD装置を用いるステップであって、前記源は、AC、DC又はパルスDC発電機に接続された少なくとも1つの電極を含む、ステップと、
b.プラズマの出力密度がプラズマ1メートル当たり10~50kWとなるように、前記プラズマ源に電力を印加するステップと、
c.前記プラズマ源1直線メートル当たり125~750sccmの流量の酸化ケイ素の気体状炭素含有前駆体と、前記プラズマ源1直線メートル当たり550~2500sccmの流量の、酸素又は酸素含有誘導体をベースとする反応性ガスとを前記基板に付与するステップと
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を腐食から保護するための、酸化ケイ素をベースとする被覆及びそのような被覆を金属上に蒸着するためのプラズマ強化化学気相成長方法に関する。金属は、例えば、任意の種類の鋼であり得る。金属は、特に、例えばマグネシウム、アルミニウム、亜鉛又はチタンをベースとする軽金属でもあり得る。
【0002】
これらの金属及びそれらの合金は、広範囲の用途、特に、例えば燃料消費を減少させ、CO放出を減少させるために、自動車及び航空宇宙分野などの重量減少が重要である場合に有望な材料である。金属は、陽極酸化若しくは非陽極酸化アルミニウム又は陽極酸化若しくは非陽極酸化アルミニウム合金であり得る。
【背景技術】
【0003】
金属表面の腐食を防止するための被覆は、多く存在する。付与するのが容易であるが、限定された耐摩耗性しか得られない、塗料をベースとする被覆及びポリマーをベースとする被覆が存在する。さらに、光沢のある金属の外観が望まれる場合、塗料は、使用することができない。
【0004】
耐食性を付与するためのクロム化合物を含む不動態化処理又はプライマーコーティングは、従来よく利用されてきた。残念ながら、これらの処理は、毒性及び発癌性であり、多くの国で禁止される予定である。耐食性を改善するために、レーザークラッディング、溶射、物理気相成長、陽極酸化、化成被覆及び有機被覆などの別のクロムフリーの表面処理又は被覆が探求されているが、成功は、限定的である。ほとんどの場合、これらは、低い耐摩耗性及び限定された耐薬品性を示す。
【0005】
透明被覆となる可能性があるゾル-ゲルベースの被覆が存在する。しかし、これらのゾル-ゲルベースの被覆の付着方法は、金属表面の下塗り、ゾル-ゲルの硬化などの多数のステップを伴い、これらは、小さい金属部品上に均一に付着させることが本質的に困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、機械的及び化学的抵抗性が高く、透明であり、金属部品上に均一な方法で容易に付与されることができる防食被覆を有する金属基板を提供することである。
【0007】
本発明の別の目的は、圧力が典型的には0.5~0.001Torrであり、低温で高い蒸着速度が可能であり、前駆体に由来する汚染物質、特に炭素の量が制御される、低圧プラズマ励起化学気相成長(PECVD)プロセスを使用することによって酸化ケイ素を含む層を蒸着することである。この目的のために、所望の機械的及び化学的耐久性が得られるような方法において、特に酸素含有反応性ガス、前駆体ガス及びプラズマ出力に関する操作条件を選択する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特に、PECVDで蒸着された酸化ケイ素をベースとする防食層であって、2~30原子%の炭素を含み、80~400nmの厚さを有する防食層で所望の機械的及び化学的耐久性が得られることを見出した。
【0009】
酸化ケイ素前駆体は、好ましくは、例えばTMDSO(テトラメチルジシロキサン)及びHMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)又はTEOS(テトラエトキシシラン)などの、炭化水素を含む酸化ケイ素前駆体である。代替として、シラン(SiH)をCO、CH又はCなどの炭素源と組み合わせて使用することができる。
【0010】
PECVD装置によっては、適用される出力の範囲を異なる方法で表す必要がある。
【0011】
本発明の特定の実施形態では、少なくとも1つの線形デュアルビーム(linear dual-beam)プラズマ源が使用される。
【0012】
本発明の特定の別の実施形態では、少なくとも1つの線形中空陰極プラズマ源が使用される。このようなプラズマ源は、例えば、国際公開第2010/017185号パンフレットに記載されている。
【0013】
一実施形態では、本発明は、酸化ケイ素を含む層を金属基板上に生成する方法であって、
a.基板上に前記層を蒸着するために、少なくとも1つの線形デュアルビームプラズマ源を含む低圧PECVD装置を用いるステップであって、この源は、AC又はパルスDC発電機に接続された少なくとも2つの電極を含む、ステップと、
b.プラズマの出力密度がプラズマ1cm当たり3~17Wとなるように、2つの電極間に電力を印加するステップと、
c.プラズマ源1直線メートル当たり125~750sccmの流量の酸化ケイ素の気体状炭素含有前駆体と、プラズマ源1直線メートル当たり500~2500sccmの流量の、酸素又は酸素含有誘導体をベースとする反応性ガスとを基板に付与するステップと
を含む方法に関する。
【0014】
別の一実施形態では、本発明は、酸化ケイ素を含む層を金属基板上に生成する方法であって、
a.基板上に前記層を蒸着するために、少なくとも1つの中空陰極プラズマ源を含む低圧PECVD装置を用いるステップであって、この源は、AC、DC又はパルスDC発電機に接続された少なくとも1つの電極を含む、ステップと、
b.プラズマの出力密度がプラズマ1メートル当たり10~50kWとなるように、プラズマ源に電力を印加するステップと、
c.プラズマ源1直線メートル当たり125~750sccmの流量の酸化ケイ素の気体状炭素含有前駆体と、プラズマ源1直線メートル当たり500~2500sccmの流量の、酸素又は酸素含有誘導体をベースとする反応性ガスとを基板に付与するステップと
を含む方法に関する。
【0015】
本発明のいずれかの方法の段階a)には、圧力が好ましくは0.001~0.5Torr、好ましくは1~30mTorr、より好ましくは3~20mTorrである低圧PECVD装置が必要であり、この装置には、周波数が通常5~150kHz、好ましくは5~100kHzであるAC若しくはパルスDC発電機又はDC発電機(後者は、中空陰極源の場合のみ)に接続される線形デュアルビームプラズマ源又は中空陰極プラズマ源が設けられる。
【0016】
本発明に特に適している線形デュアルビームプラズマ源を含むPECVD装置は、市販されており、例えば、GPi(General Plasma Inc.- USA)から得ることができる。これらは、AC又はパルスDC発電機に接続される線形デュアルビームプラズマ源である。代わりに、同様に前述の発電機に接続される中空陰極に基づくプラズマ源を含むPECVD装置も本発明に特に適している。
【0017】
PECVD装置の例を以下に説明する。PECVD源は、真空チャンバーに接続される。この真空チャンバーは、互いに隣接していくつかのPECVD装置又は異なる蒸着形態を有する別の供給源を有することが可能となるように配列される。ある用途では、異なる蒸着形態が可能となるこれらの別の供給源は、マグネトロンスパッタリング蒸着のための平坦又は回転陰極である。この種類の真空チャンバー又はコーターは、大きい寸法を有する基板又は基板担体、例えば1~20mの金属シートの上で層の複雑な蒸着が行われるように構成することができる。
【0018】
真空チャンバーは、水平コーター、又は垂直コーター、又はドラムコーター、又はバレルコーターの一部であることができ、トランスファーチャンバーをさらに含むことができる。
【0019】
使用されるPECVD源は、放電が起こる2つの空洞と、それが放出される開口部とを含む線形デュアルビームプラズマ源から構成されることができる。各空洞は、イオン化されるガスを空洞内に導入可能にするパイプに接続され、交流(AC)又はパルスDCのいずれかを発生させる発電機に接続される電極を含む。電極は、空洞内の少なくとも1回のマグネトロン放電に耐えることができる。プラズマ源は、互いに向かい合い、空洞をライニングする一連の磁石を含む。これらの磁石は、放電が発生する空洞内に磁界ゼロ点が形成されるように配置される。各空洞の電極は、交互にAC発電機に接続されるので、これらは、それぞれの半周期で陽極又は陰極のいずれかである。これにより、各空洞中に注入されるガスがイオン化され、基板の方向の開口部を介して源から放出されるプラズマ源として知られるものが形成される。
【0020】
代替的に、使用されるPECVD源は、例えば、AC又はパルスDC発電機に接続される2つの電極を形成し、その中で放電が発生する2つの空洞と、それが放出される開口部とを含む中空陰極から構成されることができる。各空洞は、イオン化されるガスを空洞内に導入可能にするパイプに接続される。
【0021】
イオン化可能なガスは、一般に、酸化物の蒸着の場合、O又はO/Ar混合物である。発電機の周波数は、通常、5~150kHz、好ましくは5~100kHzである。プラズマ源とは別に、前駆体ガスは、プラズマ源に沿って均一に注入される。この前駆体ガスは、このプラズマによって活性化される。基板は、源の近くに配置され、活性化したガスから基板上に薄層が蒸着される。基板表面と、プラズマが源から放出されるプラズマ源の開口部との間の距離は、好ましくは、少なくとも2~20cm、より好ましくは少なくとも4~15cmである。空洞内に導入されるイオン化可能なガスの量は、ガス貯蔵器とプラズマ源との間のパイプ上に配置される質量流量計によって制御される。プラズマ中に注入される前駆体ガスの量及びイオンの流量は、液体/気体質量流量計によって制御される。プラズマ源の作動圧力範囲は、通常、1~500mTorrである。排気は、好ましくは、ターボ分子ポンプによって行われる。基板上の蒸着の良好な均一性を実現するために、源を通して上向きの排気が好ましい。
【0022】
好ましくは、反応性酸素含有ガスの流量の気体状前駆体の流量に対する比は、少なくとも3であり、有利には3~50である。
【0023】
基板が到達する温度は、プラズマ中の基板の滞留時間、例えばプラズマ源の下の基板の移動速度に依存して20℃~60℃である。
【0024】
酸化ケイ素をベースとする層中の炭素の含有量は、好ましくは、光電子分光XPS又は二次電離質量分析SIMSによって求められる。これは、ラマン分光法、NRA及びRBSなどのイオンビーム解析の分析技術などによって求めることもできる。
【0025】
好ましくは、段階a)において、PECVD装置の源は、250mm~4000mmの長さ及び100~800mmの幅の寸法を有し、プラズマ源1直線メートル当たり5kW~50kW、有利にはプラズマ源1メートル当たり10~35kWの出力が得られる。
【0026】
段階b)において、線形デュアルビームプラズマ源の場合、出力密度がプラズマ1cm当たり3~17Wとなるように、2つの電極間に出力密度が印加される。プラズマ1cm当たり3Wのこの出力密度を下回ると、確認される前駆体残留物が多くなりすぎ、プラズマ1cm当たり17Wを超えると、十分な炭素を被覆中に混入させることができない。
【0027】
段階b)において、中空陰極プラズマ源の場合、出力密度がプラズマ1メートル当たり10~50kW、好ましくはプラズマ1メートル当たり12~45kWとなるように、2つの電極間に出力密度が印加される。プラズマ1メートル当たり10kWのこの出力密度を下回ると、確認される前駆体残留物が多くなりすぎ、プラズマ1m当たり50kWを超え、実際にはさらに場合によりプラズマ1m当たり15kWを超えると、十分な炭素を被覆中に混入させることができない。
【0028】
段階c)の酸化ケイ素の気体状炭素含有前駆体は、典型的には、TMDSO(1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン)及びHMDSO(ヘキサメチルジシロキサン)又はTEOS(テトラエトキシシラン)であるが、これらは、網羅的なものではない。これらの前駆体は、一般に、いずれもケイ素に加えて炭素、水素及び酸素を含む有機ケイ素分子、アルコキシシランである。場合により、段階c)は、例えば、機械的及び/又は化学的耐久性のさらなる改善のため且つ/又は酸化ケイ素をベースとする層の屈折率を増加させるために、酸化チタン又は酸化ジルコニウムなどの特定のさらなる酸化物を含むために、追加の前駆体を基板に付与するステップをさらに含むことができる。本発明の目的では、酸化ケイ素をベースとする層は、少なくとも80重量%の酸化ケイ素SiOを含む。本発明の酸化ケイ素をベースとする層は、最大で約15重量%の酸化チタン、酸化ジルコニウム又はそれらの混合物を含むことができる。
【0029】
気体状酸化ケイ素前駆体の流量は、プラズマ源1直線メートル当たり100~1000sccm(標準立方センチメートル毎分)、好ましくはプラズマ源1直線メートル当たり150~500sccm又は200~500sccmである。この範囲は、100~500nm・m/分程度のこの技術に適切な高度な蒸着を得るために必要である。
【0030】
反応性ガスは、酸素又は酸素含有誘導体をベースとしており、後者は、好ましくは、オゾン、過酸化水素、水及びCOからなる群から選択される。実施形態によると、反応性ガスは、前駆体の化学的解離を促進するため且つ源によるイオン衝撃を制御するために、有利には、ヘリウム、窒素、アルゴン、ネオン又はクリプトンなどの不活性ガスをさらに含むことができる。存在する場合、全混合物(反応性ガス/不活性ガス)中の不活性ガスの比率は、反応性ガスの流量の不活性ガスの流量に対する比によって定義され、この比は、2~50、好ましくは10~30、非常に有利には15~25の範囲内である。この選択により、得られる層の被覆率の制御が可能となる。
【0031】
反応性ガスの流量は、プラズマ源1直線メートル当たり500~20,000sccm、好ましくはプラズマ源1直線メートル当たり800~20,000sccm又は1000~20,000sccmである。このような値は、前駆体の量よりも十分に多い反応性ガスの量が保証されて、層中の炭素の混入の制御が可能となるという利点を有する。
【0032】
層は、一般に、幾何学的厚さが80~400nm、好ましくは90~350nm、特に100~300nmであるように製造される。選択される厚さは、層によって被覆される基板に求められる技術的効果によって決定される。
【0033】
この方法の用途は、基板上に蒸着される層の性質に関連する。異なる用途の場合の本発明の種々の実施形態は、以下に説明される。
【0034】
第1の実施形態によると、この方法は、金属の腐食を防止するために、SiOをベースとする層が基板に直接接触して蒸着される、金属基板の製造に使用される。この層の炭素含有量は、耐食性を最大化するために、5原子%~30原子%の範囲であるべきである。
【0035】
金属基板は、アルミニウム;アルミニウム合金;マグネシウム;マグネシウム合金;鋼;アルミニウム;ステンレス鋼;亜鉛若しくは亜鉛合金又はチタン若しくはチタン合金のいずれか1つ又はこれらの組み合わせを含むことができる。本発明の特定の実施形態では、金属基板は、軽量の金属又は金属合金、特に航空宇宙産業及び航空機産業に使用されるものを含む。
【0036】
本発明の特定の実施形態では、金属基板は、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛若しくはチタンをベースとするか、又はマグネシウム、アルミニウム、亜鉛若しくはチタンの合金をベースとする。ある特定の実施形態では、金属基板は、当技術分野において周知の任意の陽極酸化方法によって陽極酸化することができる。
【0037】
ある好ましい実施形態では、機械的及び化学的安定性を高めるために、金属基板上に陽極酸化方法によって形成された陽極酸化金属層は、少なくとも5μm、好ましくは少なくとも10μm、最も好ましくは少なくとも15μmの厚さを有することができる。亀裂などの生じ得る欠陥形成を防止するために、この厚さは、好ましくは、50μmを超えない。陽極酸化層は多孔性であるので、耐食性を保証するためには、特に良好な欠陥のない付着量(coverage)が好ましい。
【0038】
本発明の特定の実施形態では、金属の陽極酸化ステップの後、当業者に周知の着色ステップ及び/又は密閉ステップを行うことができる。これらの着色剤又は密閉材は、例えば、ガス放出によってPECVDプロセスを混乱させることがないように、十分に硬化させる必要がある。
【0039】
本発明の好ましい一実施形態では、金属は、好ましくは、参照により本明細書に援用される欧州特許出願公開第3245317A1号明細書に記載の方法に従ってアルミニウム基板を陽極酸化することにより得られる陽極酸化アルミニウム基板である。
【0040】
耐食性は、以下の試験サイクルを含む、Fiatグループの腐食試験9.57448に準拠して試験される:
a.pH1の酸溶液(HClの0.1モル溶液)中に10分間浸漬する
b.流水で洗浄し、圧縮空気で乾燥させる
c.乾燥機中に40℃±3℃において1時間±5分入れる
d.pH13.5のアルカリ性溶液(12.7g/lのNaOH+4.64g/lのNaPOの水溶液)中に10分間浸漬する
e.流水で洗浄し、圧縮空気で乾燥させる。
【0041】
全試験サイクル回数の終了時、処理された試料を肉眼で調べる。ある試験サイクル回数の終了後に試料が耐食性であると判断するには、試験していない試料と比較して目に見える変化がないことが必要である。
【0042】
さらに、試験サイクルの前後に金属基板の光沢を測定することができる。試料が耐食性であると判断するには、光沢の減少が10%以下、好ましくは5%以下である必要がある。
【0043】
さらに、金属基板は、亀裂が見られることなく、50℃、100℃、150℃又はさらに200℃の温度まで10、20、30又はさらに60分間の期間にわたって加熱される。特に、これらは、このような熱処理後に腐食試験の第2のサイクルを行ってそれに合格することができる。
【0044】
驚くべきことに、本発明者らは、本発明の制御された炭素含有量により、高pH溶液又は低pH溶液によるピンホール形成が防止され、同時に被覆された金属基板の加熱による亀裂の生成も防止されることを見出した。
【0045】
酸化ケイ素をベースとする層の蒸着は、線形デュアルビームプラズマ源の場合にプラズマ1cm当たり5Wを超えるか、又は線形中空陰極プラズマ源の場合にプラズマ1メートル当たり15kWを超える出力密度で行うことができ、蒸着の動的速度は、500nm・m/分未満、好ましくは200~500nm・m/分である。圧力は、3~20mTorr又は特に3~15mTorrである。前駆体として例えばTMDSO、HMDSO又はTEOSなどのオルガノシラン誘導体が使用され、反応性ガスとして酸素含有ガス、例えば純酸素が使用され、酸素の流量のオルガノシラン誘導体の流量に対する比は、5を超え、好ましくは10を超え、実際にはさらに15を超える。例えば、長さ250mmの線形源の場合、酸素流量は、1000sccmであることができ、前駆体の流量は、100sccmであることができる。
【0046】
不活性ガスを加えることにより、特に陽極酸化金属基板の不均一な表面上での膜の付着量が改善される。反応性ガスの流量の不活性ガスの流量に対する比が少なくとも3、有利には3~50、好ましくは5~40であるように不活性ガスを加えることにより、十分な付着量の膜を得ることができる。
【0047】
代替形態では、十分な付着量の膜は、陰極の電圧を調整することによって得ることができ、この調整は、電極の構成材料を変更することにより、又は発電機のモジュールを適合させることにより、又は圧力を調整することにより行うことができる。通常、約400Vの電圧は、約340Vまで、実際にはさらに300Vまで下げることができる。さらに別の代替形態では、十分な付着量の膜は、7~20mTorr又は7~15mTorrの値まで圧力を上昇させることによって得ることができ、9~11mTorrの値が、最良の結果が得られる値である。
【0048】
炭素含有量の上記の値は、本発明の特定の実施形態では、陰極の電圧を調整することによって得ることができ、この調整は、電極の構成材料を変更することにより、又は発電機のモジュールを適合させることにより、又は圧力を調整することにより行うことができる。通常、約400Vの電圧は、約340Vまで、実際にはさらに300Vまで下げることができる。さらに別の代替形態では、炭素含有量の所望の値は、5~20mTorr、好ましくは5~15mTorrの圧力の範囲内で操作することによって得ることができ、9~11mTorrの値が、最良の結果が得られる値である。
【0049】
本出願人は、前述の方法のいずれかを使用することにより、最大で2原子%、実際にはさらに最大で0.5原子%及び少なくとも0.1原子%、実際にはさらに少なくとも0.2原子%の炭素含有量を有する酸化ケイ素含有層を得ることができることを示した。本出願人は、段階a)の発電機に接続されたPECVD源と、特定のプラズマ出力密度と、好ましくは反応性ガスの流量の気体状前駆体の流量に対する比が、少なくとも前記層を得るために必要な比である場合との必要な組み合わせによってのみ、これが可能であることを見出した。この制御された炭素含有量のため、酸化ケイ素をベースとする層により、被覆金属基板は、特定の良好な化学的及び機械的耐久性を有する防食が得られる。
【0050】
プラズマの出力密度は、プラズマのサイズを基準として、電極において発生したプラズマ中で散逸する出力として定義される。
【0051】
本明細書において「プラズマの全長」とも呼ばれる「プラズマ源の直線メートル」は、被覆される基板又は処理される基板担体の幅の方向のプラズマの両端間の距離として定義される。
【0052】
線形デュアルビームプラズマ源の場合、「プラズマの出力密度」は、源に印加される全電力をプラズマの全表面積(これは、プラズマ源から始まるプラズマで満たされる基板と平行な表面積として定義され、プラズマの全長にその全幅を乗じることで計算される)で割ったものとして定義することができる。「プラズマの全幅」は、被覆される基板の前方進行方向におけるプラズマの両端間の距離として定義される。
【0053】
中空陰極プラズマ源の場合、「プラズマの出力密度」は、源に印加される全電力をプラズマの全長で割ったものとして定義することができる。本発明は、添付の独立請求項において規定される。好ましい実施形態は、従属請求項において規定される。
【0054】
本発明は、防食性の酸化ケイ素をベースとする被覆を金属基板上に蒸着する方法にさらに関する。
【0055】
垂直又は水平のリニア、ドラム、バッチ又は連続式のコーターである。
【0056】
本発明は、請求項に記載の特徴のあらゆる可能な組み合わせに関することに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0057】
アルミニウムの金属ストリップに、40cmの長さを有するデュアルビーム中空陰極PECVD源で被覆した。
【0058】
使用した前駆体は、TMDSOであった。PECVD源の下のローラーコンベア上において、源の長さを横断する方向に金属基板を連続速度で移動させた。蒸着パラメーターを以下の表1に示す。
【0059】
【0060】
以下の表2から分かるように、結果として得られる被覆アルミニウムストリップに対して前述の腐食試験を行い、目視検査を行った。さらに、腐食試験の前後に光沢を測定し、その差を求めた。次に、これらの被覆金属ストリップを100℃の温度の空気下で60分加熱し、欠陥の目視検査を行った。
【0061】
【0062】
実施例Ex1、Ex2及びEx3並びに比較例Cex 1、Cex 2は、5~30原子%に含まれる炭素含有量を示した。炭素含有量は、例えば、XPS分析によって求めることができる。これらの試料は、良好な耐食性を示し、目に見える変化がなく、光沢が10%未満の変化であった。
【0063】
比較例Cex 3は、1原子%未満の炭素含有量を示した。
【0064】
陽極酸化アルミニウムの例は、実施例Ex1、Ex2、Ex3と同じ方法で被覆し、同様の結果を示した。さらに目に見える劣化を示すことなく、少なくとも20分の腐食中のpH13.5の溶液に曝露することができた。