(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】酸化クロム層を電解析出させる方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/38 20060101AFI20240712BHJP
C25D 3/06 20060101ALI20240712BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20240712BHJP
C25D 5/02 20060101ALI20240712BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
C25D11/38 303
C25D3/06
C25D7/06 B
C25D5/02 F
C25D5/48
C25D11/38 301A
(21)【出願番号】P 2021549713
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 EP2020054925
(87)【国際公開番号】W WO2020173950
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-24
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ジャック、フーベルト、オルガ、ジョセフ、ベイエンベルグ
(72)【発明者】
【氏名】アルナウト、コルネリス、アードリアン、デ、ホーイス
(72)【発明者】
【氏名】マルク、ビレム、リッツ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06099714(US,A)
【文献】特表2017-519103(JP,A)
【文献】特表2016-528378(JP,A)
【文献】特開平08-337897(JP,A)
【文献】特開2009-235456(JP,A)
【文献】特表2015-520794(JP,A)
【文献】特表2022-521963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00-11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50m/分のライン速度で動作する連続高速めっきラインにおいて、水溶性クロム(III)塩によって供給される三価クロム化合物を含むハロゲン化物イオン不含電解質水溶液から、ブラックプレートに、又はクロム(III)技術に基づいて作製されたクロム電着コーティングでコーティングされたブラックプレートに、酸化クロム層を電解析出させる方法であって、
鋼基板がカソードとして機能し、
アノードが、Cr
3+イオンのCr
6+イオンへの酸化を低減又は排除するために、i)酸化イリジウム、又はii)酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む混合金属酸化物の触媒コーティングを備え、
前記電解質水溶液が、少なくとも50mM、且つ、最大で1000mMのCr
3+イオンと、合計25~2800mMの硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムとを含み、
25℃で測定された前記電解質水溶液のpHが2.50~3.6であり、
めっき温度が40~70℃であり、
前記pHを所望の値に調整するために任意選択で使用される硫酸又は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム
と、不可避的不純物とを除いて、その他の化合物が前記電解質水溶液に添加されていない、前記方法。
【請求項2】
前記pHが2.55以
上3.25以下の値に調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
めっき時間、すなわち、前記カソードに電流を印加する持続時間が、最大で1000ミリ秒である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性クロム(III)塩が、塩基性硫酸クロム(III)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
酸化クロムとして析出するクロムの量が、少なくとも5mg/m
2
である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電解質水溶液が最大で10mMのギ酸ナトリウム(NaCOOH)を
不可避的不純物として含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電解質水溶液が少なくとも210mM、且つ/或いは、最大で845mMの硫酸ナトリウムを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記めっき温度が少なくとも50
℃である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記めっきラインのライン速度が少なくとも100m/分である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記鋼基板が、片面又は両面に金属コーティング層を備え、
前記金属コーティング層が、金属クロムと、酸化クロムと、場合により炭化クロム及び硫酸クロムのうちの1種又は2種以上とを含み、
前記金属コーティング層が、三価クロム化合物を含む電解質水溶液から析出され、
前記電解質水溶液が、塩化物イオンを含まず、且つ、ホウ酸緩衝剤を含まず、
前記鋼基板が、カソード及びアノードとして機能し、
前記アノードが、Cr
3+イオンのCr
6+イオンへの酸化を低減又は排除するために、酸化イリジウム又は混合金属酸化物の触媒コーティングを備え、
前記電解質水溶液が、少なくとも50mM、且つ、最大で1000mMのCr
3+イオンと、
【数1】
のモル比が少なくとも1:1である錯化剤と、25~2800mMの硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)とを含み、
前記電解質水溶液におけるギ酸塩/Cr
3+のモル比が、最大で2.5:1であり、
25℃で測定された前記電解質水溶液のpHが、1.5~3.6であり、
前記めっき温度が30~70℃である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記鋼基板の片面又は両面が、フィルムラミネーション工程又は直接押出工程によって、熱可塑性の単層ポリマー又は熱可塑性の多層ポリマーからなる有機コーティングでさらにコーティングされている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記熱可塑性ポリマーコーティングが、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル若しくはポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリアミド、塩化ポリビニル、フルオロカーボン樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ABS樹脂、塩素化ポリエーテル、イオノマー、ウレタン樹脂、官能化ポリマー等);及び/又はそれらのコポリマー;及び/又はそれらのブレンドを含む1又は2以上の層を備えるポリマーコーティングシステムである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記コーティングされたブラックプレートの片面又は両面に対する前記熱可塑性ポリマーコーティングが、多層コーティングシステムであり、
前記多層コーティングシステムが、少なくとも、前記コーティングされたブラックプレートに接着するための接着層と、表面層と、前記接着層及び前記表面層の間にあるバルク層とを備え、
前記多層コーティングシステムの前記接着層、前記表面層及び前記バルク層が、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)又はそれらのコポリマー若しくはブレンドを含むか、或いは、前記ポリエステル又はそれらのコポリマー若しくはブレンドからなる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき層を有する鋼ストリップを電気めっきする方法及びその改良に関する。
【背景技術】
【0002】
ティンミル製品(tin mill product)には、伝統的に、電解ブリキ、電解クロムめっき鋼(electrolytic chromium coated steel)(ティンフリースチール(tin free steel)又はTFSとも呼ばれる)及びブラックプレート(blackplate)が含まれる。これに限定されるものではないが、ティンミル製品のほとんどの用途は、食料及び飲料業界向けの缶、ふた及びクロージャの製造における容器業界により使用されている。
【0003】
連続鋼ストリップめっきでは、冷間圧延鋼ストリップが準備され、通常、冷間圧延後にアニーリングされて、再結晶アニーリング又は回復アニーリングによって鋼が軟化する。アニーリング後、且つ、めっき前に、まず鋼ストリップを洗浄して油及びその他の表面汚染物質を除去する。洗浄工程後、鋼ストリップを硫酸溶液又は塩酸溶液中で酸洗いして、酸化皮膜を除去する。異なる処理工程の間に、鋼ストリップをリンスして、次の処理工程で使用される溶液の汚染を防ぐ。リンス及び鋼ストリップのめっきセクションへの移送中に、新たな薄い酸化物層が裸の鋼表面に即座に形成される。鋼にコーティング層を析出させることによって、さらなる酸化から裸の鋼の表面を保護する必要がある。
【0004】
そのような保護の1つは、電着と呼ばれる電気めっきにおいて使用されるプロセスによって提供される。めっきされる部分(鋼ストリップ)は回路のカソードである。回路のアノードは、この部分にめっきされる金属(溶解アノード(dissolving anode)、例えば、従来のスズめっきにおいて使用されている溶解アノード)又は寸法安定アノード(これは、めっき中に溶解しない)から形成され得る。アノード及びカソードは、ブラックプレート基板上に析出される金属のイオンを含む電解質溶液に浸漬される。
【0005】
ブラックプレートは、製造中に(まだ)金属コーティングを受けていないティンミル製品である。それは、その他のティンミル製品を製造するための基本的な材料である。ブラックプレートは、一回圧延又は二回圧延されている場合がある。一回圧延ブラックプレートの場合、熱間圧延ストリップは冷間圧延機で所望の厚みに圧下され、次いで、連続又はバッチアニーリングプロセスにおいて再結晶アニーリング又は回復アニーリングされ、場合により調質圧延される。二回圧延ブラックプレートの場合、一回圧延された基板は5%超の圧下率である2度目の圧延に供される。調質圧延された一回圧延ブラックプレートは、調質圧延の圧下率が5%未満であるため、一般に、二回圧延ブラックプレートとは見なされない。
【0006】
SR又はDRブラックプレートは、通常、コイル状のストリップの形態で提供される。
【0007】
TCCT(登録商標)(三価クロムコーティング技術(Trivalent Chromium Coating Technology))は、電解クロムめっき鋼(ECCS)に対するREACH準拠の代替手段である。ECCSは、酸化クロムのフィルムによって覆われ、金属クロムによる電解析出によってコーティングされたSR又はDRブラックプレートである。このタイプのコーティングされた鋼は、常に有害なCr(VI)化合物を使用する技術に基づいて製造されてきた。化学物質に関する欧州連合の規制であるREACHは、これらの六価クロム化合物の使用を禁止している。その結果、時の経過とともに、無害な化合物に基づいた代替手段が開発されてきた。TCCT(登録商標)は、無害なCr(III)技術に基づいてTata Steelによって開発された。WO2014202316-A1は、120g/L(=385mM)の塩基性硫酸クロム(III)を使用したCr(III)-電解液を開示している。この基板はすでにその他の代替手段と比較して優れた性能を備えており、ECCSに匹敵する性能を備えているが、TCCT基板と有機コーティングとの間の接着はさらに改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、三価のクロム化合物を含む電解質溶液から金属ストリップ上に酸化クロム層を析出させることである。
【0009】
本発明の目的はまた、Crめっきされたブラックプレートへのラッカーの接着を改善する、Cr(VI)ベースの処理に対するREACH準拠の代替手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的の1つ又は複数は、ブラックプレート又はクロム(III)技術に基づいて作製されたクロム電着コーティングでコーティングされたブラックプレートに酸化クロム層を電解析出させる方法による方法によって達成される。酸化クロム層の析出は、水溶性クロム(III)塩によって供給される三価クロム化合物を含むハロゲン化物イオン不含電解質水溶液から、少なくとも50m/分のライン速度で動作する連続高速めっきラインにおいて行われる。ブラックプレート又はコーティングされたブラックプレートは、カソードとして機能する。Cr3+イオンのCr6+イオンへの酸化を低減又は排除するために、i)酸化イリジウム又はii)酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む混合金属酸化物の触媒コーティングを備えるアノードが準備される。電解質水溶液は、少なくとも50mM、且つ、最大で1000mMのCr3+イオンと、合計25~2800mMの硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムとを含み、25℃で測定されたpHは2.50~3.6である。めっき温度は40~70℃である。pHを所望の値に調整するために任意選択で使用される硫酸又は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを除いて、その他の化合物は電解質水溶液に添加されていない。さらに、電解液には不可避的不純物しかない場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、熱間圧延ストリップから出発し、コーティングされた製品を得るためのプロセス工程を概略的にまとめた図である。
【
図2】
図2は、RCE実験及び工業的試験における電流密度の関数としてのCr酸化物の量を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明に従って析出されたCrOxでできたトップ層を備える製造可能な包装用鋼の概略図である。
【
図4】
図4は、鋼基板上の金属コーティングにおけるCr金属の析出に対するCr(III)濃度の影響を示す図である。
【
図5】
図5は、2.0のギ酸/Cr
3+モル比における鋼基板上の金属コーティング中の金属Crの析出に対するCr(III)濃度の影響を示す図である。
【
図6】
図6は、めっき温度を下げる効果を示す図である。
【
図7】
図7は、めっき温度を下げる効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
明確にするために、1mMは1ミリモル/Lを意味することを注意書きする。電解液には2種の硫酸ナトリウム源が存在し得ることにも注意する必要がある。まず、塩基性硫酸クロムを水溶性クロム(III)塩として使用する場合には、その化学式は(CrOHSO4)2×Na2SO4であり、Crの各mMに対して0.5mMのNa2SO4も電解液に添加される。しかしながら、Na2SO4はまた、別個に塩として、例えば、導電率を高める塩として、又は電解液の動粘度を上げるために添加することもできる。Na2SO4の総量は、Na2SO4の添加量と、塩基性硫酸クロム(III)に伴う量との合計である。水溶性クロム(III)として塩基性硫酸クロムを使用せず、例えば、硫酸クロム(III)又は硝酸クロム(III)を使用する場合には、電解液に存在するNa2SO4はいずれも硫酸ナトリウムとして添加される。塩基性硫酸クロム(III)を含む上記のCr(III)塩は、単独で又は組み合わせて準備され得る。
【0013】
本発明の意味における鋼基板は、本発明による酸化クロム層を析出する前の鋼ベース(steel basis)、(もしあれば)その上に析出された金属層を備える鋼ベースを意味することを意図する。
【0014】
電解液における錯化剤の不在は、Cr金属を析出させるための必須成分が存在しないことを意味する。錯化剤は、非常に安定した[Cr(H2O)6]3+錯体を不安定化させるために必要とされる。本発明者らは、驚くことに、錯化剤(例えば、NaCOOH)の使用を回避することによって、クロム金属の析出は阻害されるが、代わりに酸化クロムの閉じた層(closed layer)が析出することを見出した。さらに、炭素含有錯化剤の不在はまた、酸化物層における炭化クロムの共析出も阻害した。したがって、炭化クロムの残留量は、酸化物層に検出可能な量で存在する場合には、微量で避けられない量のその他の残留化合物が電解液を作製するためのベース材料に存在する結果である。電解液中の硫酸塩の存在は、本発明によるめっき条件下において酸化クロムコーティング層中の硫酸塩の存在の原因となる。表面で検出される硫酸塩の最大量は約10%である。表面の硫酸塩の最小量は0.5%であり、ほとんどの場合少なくとも2%である。これらの値は、外側の表面から出発して最初の3nmにわたるXPS深度プロファイルから導き出された。
【0015】
基板上の酸化クロムの閉じた層のために、酸化クロムの閉じた層が析出される基板と有機コーティング層との間の接着が大幅に改善される。
【0016】
電解溶液のpHが過度に高くなるか過度に低くなる場合は、硫酸又は水酸化ナトリウムを添加して、pHを所望の範囲内の値に調整することができる。異なる酸又は塩基も使用可能であるが、浴の化学的性質の単純さの観点から、硫酸及び水酸化ナトリウムが好ましい。
【0017】
硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムはまた、導電率を高める塩としても機能する。電解液を可能な限り単純に保ち、塩素又は臭素の形成を防止するための導電性を高める塩は硫酸塩である。カチオンは、好ましくはナトリウム又はカリウムである。電解液の粘性が過度に高くならないために、最大量2800mMの硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムはなお許容可能である。単純にするために、カチオンは好ましくはナトリウムである。pHが4を超えると、電解液中でコロイド反応が起こり、電気めっきに使用できなくなる。2.50未満のpHは望ましくなく、この理由は、酸化クロム(CrOx)を析出させるために必要なカソードにおける表面pHの増加が、電解液中のこれらの低いpH値では得られないためである。高いpHはまた、析出中により低い電流密度を使用することができるため、水素の発生が少なくなる。過度の水素の発生は、より低いpH(2.50未満)における表面のストライプ状の外観を引き起こすと考えられる。少なくとも40℃の比較的高い電解液温度の電解液はまた、より低い電流密度を使用することを可能にし、それによって水素の発生を減らすのに役立つ。
【0018】
電解液の組成を可能な限り単純に保つため、好ましくは硫酸ナトリウムのみを電解液に使用する。
【0019】
ハロゲン化物イオン、例えば、塩化物イオン又は臭化物イオンは、電解液に存在しなくてもよい。この不在は、アノードでの(例えば)塩素又は臭素の形成を防止するために必要である。電解液はまた減極剤も含まない。多くの同様の浴では、臭化カリウムが減極剤として使用される。この化合物の不在は、アノードでの臭素形成のリスクを軽減する。緩衝剤、例えば、よく使用されるホウ酸(H3BO3)もまた、電解液に存在しない。
【0020】
本発明による方法において、アノードが、i)酸化イリジウムの触媒コーティング又はii)酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む混合金属酸化物を備えることが不可欠である。触媒コーティングは、一般にチタンアノード上に析出され、チタンのコーティング率は、チタンが電解液にさらされない程度である。その他の実用的なアノード、例えば、白金、白金めっきチタン又はニッケルクロムの使用は、Cr6+イオンの形成をもたらすことが見出された。Cr6+イオンの形成は、Cr(VI)化合物の毒性及び発がん性のために回避する必要がある。アノード材料としての炭素は、工業用高速めっきラインで使用される高電流密度のため、時間の経過とともに崩壊する。アノード材料としての炭素もまた、使用するべきではない。
【0021】
本発明による方法において、鋼基板は、ブラックプレート又はクロム(III)技術、例えば、TCCTに基づいて作製されたクロム電着コーティングでコーティングされたブラックプレートである(
図3を参照)。
【0022】
ブラックプレートに使用する鋼は、包装用鋼の製造に適した任意の鋼種であり得る。例として、これにより限定されることを意図するものではないが、EN10202:2001及びASTM623-08:2008の包装用途に関する鋼種を参照する。
【0023】
ブラックプレートは、通常、低炭素(LC)、極低炭素(ELC)又は超低炭素(ULC)のストリップの形態で準備され、重量パーセントで表される炭素含有量はそれぞれ、0.05~0.15(LC)、0.02~0.05(ELC)又は0.02未満(ULC)である。マンガン、アルミニウム、窒素などの合金化元素が、時にはホウ素などの元素もまた、機械的特性を改善するために添加される(例えば、EN10202、EN10205及びEN10239を参照)。ブラックプレートは、侵入型のない(interstitial-free)低炭素鋼、極低炭素鋼又は超低炭素鋼、例えば、チタン安定化、ニオブ安定化又はチタン-ニオブ安定化の侵入型のない鋼からなってもよい。
【0024】
国際規格において定義されている一回圧延(SR)ブラックプレートは、0.15mm~0.49mmであり、二回圧延(DR)ブラックプレートは、0.13mm~0.29mmであり、DRの一般的な範囲は0.14~0.24mmである。0.08mmまでのより低いゲージが、一回又は二回圧延されたベース材料のいずれにおいても、今や特別な用途に使用可能である。
【0025】
TCCTは、酸化クロムと金属クロムといくらかの炭化クロムといくらかの硫酸クロムとからなるクロムベースの層の析出に基づいている。この層は1工程のプロセスにおいて析出され、したがって、Cr金属(Cr)及びCr酸化物(CrOx)を同時に析出するための条件が最適化される。そのような析出層において、酸化物は、層の上面に限られず、層内に分布している。閉じた酸化物層、すなわち、基板の表面全体を覆う酸化物層が表面に存在しない。WO2014202316-A1による1工程プロセスの単純さには利点があるが、本発明者らは、WO2014202316-A1に従ってCr-CrOx層を適用し、次いで、本発明による別個の電解液からCr-CrOx上に酸化クロム層を析出すること(並びに、場合により、硫酸クロム及び/又は炭化クロムも含むこと)によって、酸化物層のより良い制御を可能にし、閉じた酸化物層の析出を可能にし、及び有機コーティングへの接着性を向上させる観点から、酸化物層の性能を改善することを可能にした。錯化剤の不在は、金属クロムが共析出していないか、ごく少量しか共析出していないことを意味する。
【0026】
本発明による方法はまた、ブラックプレートの上面に直接、閉じた酸化クロム層を析出させることを可能にする。層の腐食保護は限定されているが、ブラックプレートへの有機コーティングの接着性が大幅に向上しており、これにより、ブラックプレートへのラッカー又はポリマーフィルムの適用が可能になる。この材料は、極端な耐食性が必要とされない用途、例えば、一部の非食料用途に適している。
【0027】
したがって、基板は異なっている場合があるが、基板上に析出された閉じた酸化クロム層の効果は、それぞれの場合において、基板と有機コーティングとの間の接着の改善をもたらす。
【0028】
好ましい実施形態は、従属請求項に提供されている。
【0029】
水溶性クロム(III)塩として、1種又は2種以上の塩が、塩基性硫酸クロム(III)、硫酸クロム(III)及び硝酸クロム(III)からなる塩の群から選択される。浴の化学的性質を可能な限り単純に保つという観点から、塩基性硫酸クロム(III)のみの使用が好ましい。
【0030】
一実施形態において、電解質溶液は、最大で500mM、好ましくは最大で350mM、より好ましくは最大で250mM、より一層好ましくは最大で225mMのCr3+イオンを含む。電解質溶液は、好ましくは、少なくとも100mMのCr3+イオン、好ましくは少なくとも125mMのCr3+イオンを含む。これらの好ましい範囲は、良好な結果を提供する。
【0031】
好ましい実施形態において、25℃で測定された電解液のpHは、2.50~3.25である。好ましくは、めっき温度は40~65℃である。一実施形態において、電解質溶液のpHは、最大で3.30、好ましくは最大で3.00である。一実施形態において、pHは少なくとも2.60、さらには少なくとも2.70である。2.55~3.25のpHは、コーティング品質の点で優れた結果を提供した。また、3.25の値超では、電解液中でコロイド反応が起こって、電気めっきに使用不可能になるリスクは、本発明による方法には存在しない。3.25~4のpHにおいて、リスクは、3.25をわずかに超える許容可能から、pHが4を超える場合には許容不可にまで増加する。2.55未満では、カソードの表面pHを上げるために必要な労力が、pHが低いほど大きくなるため、プロセスの経済性が低下する。
【0032】
めっき時間、すなわち、カソードへ電流を印加する持続時間は、浸漬時間よりもかなり短く、好ましくは工業ラインにおける方法の使用を可能にするために可能な限り短い。遅いライン速度及び/又は長いアノード長では、めっき時間は最大で3秒である。最大で1000ミリ秒、好ましくは最大で900ミリ秒の最大めっき時間でも許容可能である。非常に速いライン速度では、ラインを実用的な最小限に保つために、電流密度及び/又はアノードの全長を増やす必要がある場合がある。本発明による方法では、錯化剤が電解液中に全く存在しないことが好ましい。しかしながら、あらゆる十分な注意及び中間のすすぎ浴の使用にもかかわらず、めっきラインにおける先の上流電解液浴からの持ち込みの結果として、電解液中の不可避的不純物として微量が不可避的に存在することが起こり得る。錯化剤、例えば、NaCOOHの許容可能な最大値は、10mM、好ましくは最大で5mM、好ましくは最大で2mMである。この量では、有意なクロム金属の析出をもたらさないことが見出され、析出された酸化物層の接着の質は影響を受けていないようである。しかしながら、そのような錯化剤が、本発明による方法のための電解液中に存在しないことが好ましい。
【0033】
一実施形態において、電解質溶液は、少なくとも210mM、且つ/或いは、最大で845mMの硫酸ナトリウムを含む。
【0034】
好ましい実施形態において、めっき温度は少なくとも50℃、好ましくは少なくとも55℃である。
【0035】
一実施形態において、連続めっきラインのライン速度は、少なくとも100m/分、より好ましくは少なくとも200m/分である。
【0036】
好ましい実施形態において、電解質水溶液は、塩基性硫酸クロム(III)と、硫酸ナトリウムと、電解液のpHを所望の値に調整するために任意選択で使用される十分な量の硫酸又は水酸化ナトリウムと、不可避的不純物とのみからなる。好ましくは、pHは、2.55以上の値であって、好ましくは3.25以下の値に調整される。
【0037】
好ましい実施形態において、本発明の方法に従って酸化物層が形成される前に、ブラックプレートの片面又は両面が、金属コーティング層でプレコーティングされ、金属コーティング層が、金属クロムと、酸化クロムと、場合により炭化クロム及び硫酸クロムのうちの1種又は2種以上とを含み、金属コーティング層が、水溶性クロム(III)塩を含む電解質溶液から析出され、電解質溶液が、塩化物イオンを含まず、且つ、ホウ酸緩衝剤を含まず、導電性の鋼基板が、カソード及びアノードとして機能し、アノードが、Cr
3+イオンのCr
6+イオンへの酸化を低減又は排除するために、酸化イリジウム又は混合金属酸化物(例えば、酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む混合金属酸化物)の触媒コーティングを備え、電解質溶液が、少なくとも50mM、且つ、最大で1000mM(=52g/L CR(III))のCr
3+イオンと、
【数1】
のモル比が少なくとも1:1、好ましくは少なくとも1.5:1、より好ましくは2:1である錯化剤と、1~2800mM(=398g/L)の硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)とを含み、電解質溶液におけるギ酸塩/Cr
3+のモル比が最大で2.5:1であり、25℃で測定された電解質溶液のpHが1.5~3.6であり、めっき温度が30~70℃である。Cr(III)が40g/Lであり、ギ酸/Cr
3+の比が2.0であり、めっき温度が45℃である場合に、良好な結果が得られた。めっき温度は少なくとも35℃、且つ、最大で55℃、より好ましくは最大で50℃であることが好ましい。ギ酸イオンは、Cr金属を析出させるための錯化剤として必要であり、ほとんどの場合、最大で2.5:1の比率で十分であることが証明されている。好ましくは、電解質溶液は、少なくとも50mM、且つ、最大で750mM、より好ましくは最大で500mM、最も好ましくは最大で250mMのCr
3+イオンを含む。
【0038】
Cr(III)の含有量が多いほど、Cr金属層のめっきプロセスの安定性が向上する。電流密度の点におけるめっきウィンドウ(plating window)もまた、高濃度において大きくなる。ギ酸塩/Cr比が高いほど、めっきウィンドウもまた大きくなる。めっき温度もまた、一定量のCr(mg/m2で)を析出するために必要な電流密度が低くなるという点で効率に影響する。変動に対する感度に関するプロセスのロバスト性(robustness)は、Cr(III)濃度が高く、ギ酸塩/Cr比が高いほど低くなる。
【0039】
好ましい実施形態において、25℃で測定された電解液のpHは、1.5~3.6である。一実施形態において、電解質溶液のpHは、最大で3.30、好ましくは最大で3である。一実施形態において、pHは、少なくとも2.00、好ましくは少なくとも2.50、より一層好ましくは少なくとも2.60、より一層好ましくは少なくとも2.70である。2.55~3.25のpH範囲は、コーティング品質の点で優れた結果を提供した。約2.9のpHが、最適なめっきウィンドウをもたらすようであった。
【0040】
一実施形態では、ブラックプレート、場合により金属クロム、酸化クロム、炭化クロム及び硫酸クロムを含む前述のコーティング層でプレコートされたブラックプレートであって、本発明による方法により適用された酸化クロム層が設けられたブラックプレートの片面又は両面が、フィルムラミネーション工程又は直接押出工程によって、熱可塑性の単層ポリマー又は熱可塑性の多層ポリマーからなる有機コーティングでさらにコーティングされている。好ましくは、熱可塑性ポリマーコーティングは、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル若しくはポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリアミド、塩化ポリビニル、フルオロカーボン樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ABS樹脂、塩素化ポリエーテル、イオノマー、ウレタン樹脂、官能化ポリマー等);及び/又はそれらのコポリマー;及び/又はそれらのブレンドを含む1又は2以上の層を備えるポリマーコーティングシステムである。
【0041】
好ましくは、熱可塑性ポリマーコーティングは、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル又はポリオレフィン)の1又は2以上の層を含むポリマーコーティングシステムであるが、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、フルオロカーボン樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ABS樹脂、塩素化ポリエーテル、イオノマー、ウレタン樹脂、官能化ポリマー等も含むことができる。明確にするために、以下のとおり記載する。
・ポリエステルは、ジカルボン酸及びグリコールで構成されるポリマーである。適切なジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸(IPA)、ナフタレンジカルボン酸及びシクロヘキサンジカルボン酸が含まれる。適切なグリコールの例には、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、ネオペンチルグリコールなどが含まれる。3種類以上のジカルボン酸又はグリコールを合わせて使用することができる。
・ポリオレフィンには、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン又は1-オクテンのポリマー又はコポリマーが含まれる。
・アクリル樹脂には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又はアクリルアミドのポリマー又はコポリマーが含まれる。
・ポリアミド樹脂には、例えば、いわゆるナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610及びナイロン11が含まれる。
・ポリ塩化ビニルには、ホモポリマー及びコポリマー、例えばエチレン又は酢酸ビニルによるホモポリマー及びコポリマーが含まれる。
・フルオロカーボン樹脂には、例えば、四フッ素化ポリエチレン、三フッ素化モノクロロ化ポリエチレン、六フッ素化エチレンプロピレン樹脂、ポリフッ化ビニル及びポリフッ化ビニリデンが含まれる。
官能化ポリマー、例えば無水マレイン酸グラフト化による官能化ポリマーには、例えば、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、変性エチレンアクリレートコポリマー及び変性エチレン酢酸ビニルが含まれる。
【0042】
2種又は3種以上の樹脂の混合物を使用することができる。さらに、樹脂は、酸化防止剤、熱安定剤、UV吸収剤、可塑剤、顔料、核剤、帯電防止剤、離型剤、ブロッキング防止剤などと混合され得る。このような熱可塑性ポリマーコーティングシステムの使用は、缶の製造及び缶の使用における優れた性能、例えば、貯蔵寿命を提供することが示されている。
【0043】
好ましくは、熱可塑性ポリマーコーティングは、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル若しくはポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリアミド、塩化ポリビニル、フルオロカーボン樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ABS樹脂、塩素化ポリエーテル、イオノマー、ウレタン樹脂、官能化ポリマー等);及び/又はそれらのコポリマー;及び/又はそれらのブレンドを含む1又は2以上の層を備えるポリマーコーティングシステムである。
【0044】
好ましくは、コーティングされたブラックプレートの片面又は両面の熱可塑性ポリマーコーティングが、多層コーティングシステムであり、多層コーティングシステムが、少なくとも、コーティングされたブラックプレートに接着するための接着層と、表面層と、接着層及び表面層の間にあるバルク層とを備え、多層コーティングシステムの接着層、表面層及びバルク層が、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、イソフタル酸(IPA)変性ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)又はそれらのコポリマー若しくはブレンドを含むか、或いは、上記ポリエステル又はそれらのコポリマー若しくはブレンドからなる。
【0045】
熱可塑性ポリマーコーティングの適用プロセスは、好ましくは、コーティングされたブラックプレート上に、押出コーティング及びラミネーションによってポリマーフィルムをラミネートすることにより実行され、ここで、ポリマー樹脂が溶融し、薄いホットフィルムに成形されて、これが移動する基板(moving substrate)上にコーティングされる。次いで、コーティングされた基板は、通常、一組の逆回転しているロールの間を通過し、これにより、コーティングが基板にプレスされ、完全な接触及び接着が保証される。代替手段は、フィルムラミネーションであり、ポリマーのフィルムが供給され、加熱された基板上にコーティングされ、一組の逆回転しているロールによって、それらの間で基板上にプレスされ、完全な接触及び接着が保証される。
【実施例】
【0046】
基板として、表1による材料を使用した。
【0047】
【0048】
【0049】
図2に、RCE実験の結果を示す。電解液1を使用した(20g/L 塩基性硫酸クロム(III)(385mM Cr
3+)。回転シリンダー電極上で776rpm、55℃、pH2.7で実験を実施した。776rpmは、工業用コーティングラインにおける100m/秒であるライン速度に対応する。電着実験には、酸化イリジウム及び酸化タンタルからなる混合金属酸化物の触媒コーティングを備えるチタンアノードを使用した。RCEの回転速度は、776RPM(Ω
0.7=6.0秒
0.7)で一定に保持された。基板は表1に列記されており、シリンダーの寸法は113.3mm×φ73mmであった。めっき時間は800ミリ秒であった。
図2では、CrOxコーティングの重量(mg m
-2におけるCr金属として表される)が、ブラックプレート(1)及びTCCT(2)に対する電流密度の関数としてプロットされている。この図では、Crコーティングの重量が電流密度の関数としてプロットされている。サンプル1の場合、本発明による方法によって基板をコーティングする前に、新しい基板上にCrOxは存在しなかった。
【0050】
析出したCrの量をY軸にプロットする。プロットの円は、Cr酸化物の量を示している。Cr酸化物の量はXRFによって決定される。XRF測定は、参照により本明細書に包含される前述の論文に記載されているように実施される。XRFを使用してサンプルを最初に測定することにより、析出した総クロムの基本値(base value)が測定される(すなわち、金属、酸化物、硫酸塩、及び(存在する場合)炭化物)。次いで、サンプルを高温(90℃)の濃(300g L
-1)水酸化ナトリウム溶液に10分間さらし、これにより、すべてのCr酸化物を溶解させ、2回目のXRF測定を実施する。差(Δ(XRF))はCr酸化物に起因し、それが
図2にプロットされた値である。
【0051】
【0052】
RCEの結果は、Cr(III)濃度がわずかに低かったにしても、以下の設定:14g/L Cr、T=55℃、ライン速度=150m/分、電流密度=18.75A dm
-2、めっき時間:600ミリ秒による工業用サイズのパイロットラインにおけるコイル試験の結果(
図2の「4」)と非常によく一致している。ストリップの前処理は、ストリップに析出したCrOxの量にほとんど影響を与えないことも見出された。
【0053】
2.50未満のpH値で実施された同様の実験、例えば、US6099714に開示されている実験は、工業製造ラインにおいて、ブラックプレート、又は金属クロム及び酸化クロムを含む金属コーティング層を片面若しくは両面に備える鋼基板に対して実施された場合、不十分なストライプの表面品質を示した。US6099714は、3×5インチ2のブリキサンプルに基づく実験、すなわち、実験室で断片的に(piecemeal)めっきすることを目的とする実験であって、本発明による方法における基板とは異なる基板に対する実験を開示している。顧客を遠ざける可能性のある美的に魅力のない外観とは別に、ストライプはまた、コーティングされたブラックプレート全体の性能に影響を与え得る不均一な酸化物層の厚み及び/又は組成をもたらす場合がある。
【0054】
【0055】
ΔXRFの結果は、様々な前処理に対してほぼ同じであるため、CrOxとしてのCrの量は、本発明による酸化クロム層を析出する前の基板の前処理のタイプによってほとんど影響を受けない。
【0056】
滅菌試験(sterilisation trial)は、金属クロムと、酸化クロムと、(場合により、さらに炭化クロム及び硫酸クロムのうちの1種又は2種以上と)を含むコーティング層によってプレコーティングされ(すなわち、電解液から錯化剤を使用して析出され)(すなわち、TCCT)、さらに、本発明による方法により適用された(すなわち、錯化剤なしで電解液から析出された)酸化クロム層が設けられているブラックプレートを使用して実施された。したがって、ブラックプレートには、最初にCr-CrOx層が設けられ、次いで、CrOxコーティングが設けられる。このコーティングされたブラックプレートは、DRD缶の内側になる面にPET又はPPを使用したフィルムラミネーション工程によって、両面がさらにコーティングされている。性能は、従来のECCS(Cr(VI)技術に基づく)に対して比較される。鋼のブラックプレートは、すべての場合において、厚み0.223mmの連続アニーリングSR低炭素鋼(TH340、0.045重量% C、0.205重量% Mn、0.045重量% Al_ゾル)であった。
【0057】
以下の組み合わせを試験した(すべてのポリマーは、接着層、バルク層及びトップ層を備える3層システムである)。「Int」は、缶の内部になる面を意味する。
A.PETコーティングされたTCCT(登録商標):Int及びExt:20μm PET
B.PPコーティングされたTCCT(登録商標):Int:40μm PP/Ext:20μm PET
C.PET ECCS参照:Int及びExt:20μm PET
D.PP ECCS参照:Int:40μm PP/Ext:20μm PET
E.TCCT(登録商標)参照:Int及びExt:20μm PET
【0058】
サンプルEは、本発明に従って析出された追加のCrOx層のないTCCTバリアントであった。サンプルC及びDは、従来の参照ECCS(Cr(VI)技術)サンプルである。サンプルA及びBは、本発明に従って析出された追加のCrOx層を備えたTCCTバリアントである。サンプルA及びB上に本発明に従って析出された酸化クロムの量(mg/m2でのCrとして表される)は、10mg/m2である。TCCTコーティング及び酸化物コーティングは両方とも工業用めっきラインにおいて適用された。ポリマー層は、工業用ラミネーションラインにおいて、高温の後熱(high temperature post-heat)及び水焼入れを含むフィルムラミネーションによって金属基板上にラミネートされた。これらの材料から、標準の2ピースDRD(300mL、65mmφ)缶が製造された。
【0059】
【0060】
【0061】
剥離力はNで測定され、基板へのポリマー層の接着を示す。2週間後の結果は、即時開封後の結果と一致していた。これらの結果は、錯化剤を含む電解液からTCCT層でコーティングし、次いで、錯化剤を存在含まない同様の電解液から酸化クロム層を析出させたブラックプレートが、PETコーティングされた基板に関する現在のECCS標準に匹敵するか、又は上回ってさえいることを示す。
【0062】
基板はまた、ラッカー塗装試験にも供された。4種の異なるラッカーが3種の異なる条件下で試験された。試験は、NaCl溶液中、クエン酸溶液中及びシステイン溶液中で、130℃で1時間、ラッカー塗装及び硬化サンプル(ラッカー供給業者の指示に従って適用及び硬化)の滅菌試験で構成された。
【0063】
【0064】
接着性(Gt)は、ISO 2409:1992、第2版に記載されているように、サンプルの平らな部分でGitterschnitt法に従って試験された。「0」は接着が完全であることを意味し、「5」は悪いことを意味する。
【0065】
5mmのエリクセンドーム(Erichsen dome)が各ラッカーパネル及び滅菌媒体/条件に適用される。エリクセンドームに対する接着は切り込み(incision)なしでテープ(tape)のみにより試験される。
【0066】
これらの結果は、本発明の実施例であるバリアントAが、Aと同じであるが本発明による酸化クロムコーティングがないバリアントEよりもかなり良好な性能を発揮することを明確に示している。バリアントAがまた、現在のCr(VI)バリアント(C)と同等の性能を発揮し、ラッカー及び滅菌媒体/条件のいくつかの組み合わせに関してそれを上回っていることも示している。
【0067】
図面の簡単な説明
次に、本発明を以下の非限定的な図によって説明する。
【0068】
図1は、熱間圧延ストリップから出発し、コーティングされた製品を得るためのプロセス工程を概略的にまとめている。冷間圧延の前に、通常、熱間圧延ストリップを酸洗いして(図示せず)熱間圧延スケールを除去し、洗浄して(図示せず)ストリップから汚染物質を除去する。
【0069】
図2:RCE実験及び工業的試験における電流密度の関数としてのCr酸化物の量。
【0070】
図3:本発明に従って析出されたCrOxでできたトップ層を備える製造可能な包装用鋼の概略図。
a:ブラックプレート
b:TCCT(登録商標)
【0071】
図4:鋼基板上の金属コーティングにおけるCr金属の析出に対するCr(III)濃度の影響。55℃のめっき温度及び1.5のギ酸/Cr
3+モル比における20g/Lから40g/LへのCr(III)濃度の倍加は、Cr析出の開始に影響を与えない。
【0072】
図5:2.0のギ酸/Cr
3+モル比における鋼基板上の金属コーティング中の金属Crの析出に対するCr(III)濃度の影響は、Cr析出の開始に影響を与えない。めっきウィンドウはCr濃度とともに増加する。
【0073】
図6:めっき温度を下げる効果は、めっきプロセスの効率の向上である。めっきは、より低い電流密度で起こる。
【0074】
図7:めっき温度を下げる効果は、めっきプロセスの効率の向上である。めっきは、より低い電流密度で起こる。より高いめっき温度のロバスト性はやや高くなる。