IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップの特許一覧

特許7520026酸化クロムコーティングブリキの製造方法
<>
  • 特許-酸化クロムコーティングブリキの製造方法 図1
  • 特許-酸化クロムコーティングブリキの製造方法 図2
  • 特許-酸化クロムコーティングブリキの製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】酸化クロムコーティングブリキの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/38 20060101AFI20240712BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20240712BHJP
   C25D 3/06 20060101ALI20240712BHJP
   C23C 2/40 20060101ALN20240712BHJP
【FI】
C25D11/38 304
C23C2/26
C25D3/06
C23C2/40
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021549714
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 EP2020054931
(87)【国際公開番号】W WO2020173953
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】19159095.9
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ジャック、フーベルト、オルガ、ジョセフ、ベイエンベルグ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒル、スティーフ
(72)【発明者】
【氏名】マルク、ビレム、リッツ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06099714(US,A)
【文献】特表2017-519103(JP,A)
【文献】特表2016-528378(JP,A)
【文献】特開平08-337897(JP,A)
【文献】特表2015-520794(JP,A)
【文献】特表2022-521962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 3/00-11/38
C23C 2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50m/分のライン速度で動作する連続高速めっきラインにおいて、水溶性クロム(III)塩によって供給される三価クロム化合物を含むハロゲン化物イオン不含電解質水溶液から、ブリキ基板に、酸化クロム層を電解析出させる方法であって、
鋼基板がカソードとして機能し、
アノードが、Cr3+イオンのCr6+イオンへの酸化を低減又は排除するために、i)酸化イリジウム、又はii)酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む混合金属酸化物の触媒コーティングを備え、
前記電解質水溶液が、少なくとも50mM、且つ、最大で1000mMのCr3+イオンと、合計25~2800mMの硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムとを含み、
25℃で測定された前記電解質水溶液のpHが2.50~3.6であり、
めっき温度が40~70℃であり、
前記pHを所望の値に調整するために任意選択で使用される硫酸又は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムと、不可避的不純物とを除いて、その他の化合物が前記電解質水溶液に添加されていない、前記方法。
【請求項2】
前記pHが2.55以上3.25以下の値に調整される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
めっき時間、すなわち、前記カソードに電流を印加する持続時間が、最大で1000ミリ秒である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性クロム(III)塩が、塩基性硫酸クロム(III)である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
酸化クロムとして析出するクロムの量が、少なくとも5mg/m ある、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記電解質水溶液が最大で10mMのギ酸ナトリウム(NaCOOH)を不可避的不純物として含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記電解質水溶液が少なくとも210mM、且つ/或いは、最大で845mMの硫酸ナトリウムを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記めっき温度が少なくとも50℃である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記めっきラインのライン速度が少なくとも100m/分である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電解質水溶液が、塩基性硫酸クロム(III)と、硫酸ナトリウムと、前記電解質水溶液の前記pHを所望の値に調整するために任意選択で使用される十分な量の硫酸又は水酸化ナトリウムと、不可避的不純物とのみからなる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記鋼基板の片面又は両面が、ラッカー塗布工程、フィルムラミネーション工程又は直接押出工程によって、ラッカー、熱可塑性の単層ポリマー又は熱可塑性の多層ポリマーからなる有機コーティングでさらにコーティングされている、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
記熱可塑性ポリマーコーティングが、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル若しくはポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリアミド、塩化ポリビニル、フルオロカーボン樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ABS樹脂、塩素化ポリエーテル、イオノマー、ウレタン樹脂、官能化ポリマー等);及び/又はそれらのコポリマー;及び/又はそれらのブレンドを含む1又は2以上の層を備えるポリマーコーティングシステムである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
コーティングされたブラックプレートの片面又は両面に対する前記熱可塑性ポリマーコーティングが、多層コーティングシステムであり、
前記多層コーティングシステムが、少なくとも、前記コーティングされたブラックプレートに接着するための接着層と、表面層と、前記接着層及び前記表面層の間にあるバルク層とを備え、
前記多層コーティングシステムの前記接着層、前記表面層及び前記バルク層が、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノール変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)又はそれらのコポリマー若しくはブレンドを含むか、或いは、前記ポリエステル又はそれらのコポリマー若しくはブレンドからなる、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層を備えるブリキを電気めっきする方法、及びそれによって製造されたブリキに関する。
【背景技術】
【0002】
ティンミル製品(tin mill product)には、伝統的に、電解ブリキ、電解クロムめっき鋼(electrolytic chromium coated steel)(ティンフリースチール(tin free steel)又はTFSとも呼ばれる)及びブラックプレート(blackplate)が含まれる。これに限定されるものではないが、ティンミル製品のほとんどの用途は、食料及び飲料業界向けの缶、ふた及びクロージャの製造における容器業界により使用されている。
【0003】
連続鋼ストリップめっきでは、冷間圧延鋼ストリップが準備され、通常、冷間圧延後にアニーリングされて、再結晶アニーリング又は回復アニーリングによって鋼が軟化する。アニーリング後、且つ、めっき前に、まず鋼ストリップを洗浄して油及びその他の表面汚染物質を除去する。洗浄工程後、鋼ストリップを硫酸溶液又は塩酸溶液中で酸洗いして、酸化皮膜を除去する。異なる処理工程の間に、鋼ストリップをリンスして、次の処理工程で使用される溶液の汚染を防ぐ。リンス及び鋼ストリップのめっきセクションへの移送中に、新たな薄い酸化物層が裸の鋼表面に即座に形成される。鋼にコーティング層を析出させることによって、さらなる酸化から裸の鋼の表面を保護する必要がある。
【0004】
そのような保護の1つは、電着と呼ばれる電気めっきにおいて使用されるプロセスによって提供される。めっきされる部分(鋼ストリップ)は回路のカソードである。回路のアノードは、この部分にめっきされる金属(溶解アノード(dissolving anode)、例えば、従来のスズめっきにおいて使用されている溶解アノード)又は寸法安定アノード(これは、めっき中に溶解しない)から形成され得る。アノード及びカソードは、ブラックプレート基板上に析出される金属のイオンを含む電解質溶液に浸漬される。
【0005】
ブラックプレートは、製造中に(まだ)金属コーティングを受けていないティンミル製品である。それは、その他のティンミル製品を製造するための基本的な材料である。ブラックプレートは、一回圧延又は二回圧延されている場合がある。一回圧延ブラックプレートの場合、熱間圧延ストリップは冷間圧延機で所望の厚みに圧下され、次いで、連続又はバッチアニーリングプロセスにおいて再結晶アニーリング又は回復アニーリングされ、場合により調質圧延される。二回圧延ブラックプレートの場合、一回圧延された基板は5%超の圧下率である2度目の圧延に供される。調質圧延された一回圧延ブラックプレートは、調質圧延の圧下率が5%未満であるため、一般に、二回圧延ブラックプレートとは見なされない。
【0006】
SR又はDRブラックプレートは、通常、コイル状のストリップの形態で提供される。
【0007】
ブリキは、1又は2以上のスズの薄層でコーティングされたブラックプレートで構成されている。スズは通常電着によって適用され、通常はブラックプレートの両面に適用される。スズ層は、例えば誘導加熱又は抵抗加熱により、流動溶融(flow melt)され得、不活性なFeSn合金層の形成により製品の耐食性を高めることができる。ブリキは、両面に同じ厚みのスズが設けられても、異なる厚みのスズ(異なるコーティング)が設けられてもよい。流動溶融されたブリキは、その表面に薄い酸化スズ膜を有し、未処理の場合には保管中に成長する場合がある。変色耐性(tarnish resistance)及びラッカー塗布性(laquerability)を改善するために、電気化学的不動態化(不動態化コード311(passivation code 311))がめっき直後の流動溶融されたブリキに適用される(311不動態化(311 passivation)として知られている)。リフローされていないブリキ及びリフローされたブリキは、化学的不動態化(不動態化コード300(passivation code 300))によって処理され得る。これらの不動態化処理は、重クロム酸塩溶液中での処理を含む。この処理により、クロム及びその水和酸化物の複雑な層が析出し、酸化スズの成長が抑制され、黄変が防止され、塗料の付着性が向上し、硫黄化合物による汚れが最小限に抑えられる。重クロム酸塩溶液又はクロム酸溶液は、Cr(VI)化合物を含む。化学物質に関する欧州連合の規制であるREACHは、これらの六価クロム化合物の使用を禁止している。その結果、時の経過とともに、無害な化合物に基づいた代替手段が開発されてきた。
【0008】
特定の種類のブリキには、FeSn(50原子%の鉄及び50原子%のスズ)合金層が設けられている。これは、還元雰囲気において少なくとも513℃の温度で、最大で1000mg/mの析出スズ、好ましくは少なくとも100mg/m且つ/或いは最大で600mg/mの析出スズを含む拡散アニーリングブリキによって、製造される。その温度では、スズ層は、FeSnからなる鉄-スズ合金に変換される。FeSn層は、通常のブリキのように不動態化処理を従来必要とする追加のスズ層でコーティングされる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ブリキ上の酸化スズ膜の成長を防止する、Cr(VI)ベースの不動態化処理に対するREACH準拠の代替手段を提供することである。
【0010】
ブリキへのラッカーの接着を改善する、Cr(VI)ベースの不動態化処理に対するREACH準拠の代替手段を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1又は2以上の目的は、少なくとも50m/分のライン速度で動作する連続高速めっきラインにおいて、水溶性クロム(III)塩によって供給される三価クロム化合物を含むハロゲン化物イオン不含電解質水溶液から、ブリキ基板に酸化クロム層を電解析出させる方法であって、
鋼基板がカソードとして機能し、
アノードが、Cr3+イオンのCr6+イオンへの酸化を低減又は排除するために、i)酸化イリジウム又はii)酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む混合金属酸化物の触媒コーティングを備え、
前記電解質水溶液が、少なくとも50mM、且つ、最大で1000mMのCr3+イオンと、合計25~2800mMの硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムとを含み、
25℃で測定された前記電解質水溶液のpHが2.50~3.6であり、
めっき温度が40~70℃であり、
前記pHを所望の値に調整するために任意選択で使用される硫酸又は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを除いて、その他の化合物が前記電解質水溶液に添加されていない、前記方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、熱間圧延ストリップから出発し、コーティングされた製品を取得するためのプロセス工程を概略的にまとめた図である。
図2図2は、pH=2.7で実施された実験に関する、RCE実験における電流密度の関数としてのCr酸化物の量を示す図である。
図3図3は、本発明に従って析出されたCrOxでできたトップ層を有する製造可能なブリキの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
明確にするために、1mMは1ミリモル/Lを意味することを注意書きする。電解液には2種の硫酸ナトリウム源が存在し得ることにも注意する必要がある。まず、塩基性硫酸クロムを水溶性クロム(III)塩として使用する場合には、その化学式は(CrOHSO×NaSOであり、Crの各mMに対して0.5mMのNaSOも同じく電解液に添加される。しかしながら、NaSOはまた、別個に塩として、例えば、導電率を高める塩として、又は電解液の動粘度を上げるために添加することもできる。NaSOの総量は、NaSOの添加量と、塩基性硫酸クロム(III)に伴う量との合計である。水溶性クロム(III)として塩基性硫酸クロムを使用せず、例えば、硫酸クロム(III)又は硝酸クロム(III)を使用する場合には、電解液に存在するNaSOはいずれも硫酸ナトリウムとして添加される。塩基性硫酸クロム(III)を含む上記のCr(III)塩は、単独で又は組み合わせて準備され得る。
【0014】
本発明の意味における鋼基板は、本発明による酸化クロム層を析出する前の鋼ベース(steel basis)であって、その上に析出されたスズベースの金属層を備える鋼ベースを意味することを意図する。
【0015】
電解液における錯化剤の不在は、Cr金属を析出させるための必須成分が存在しないことを意味する。錯化剤は、非常に安定した[Cr(HO)3+錯体を不安定化させるために必要とされる。本発明者らは、驚くことに、錯化剤(例えば、NaCOOH)の使用を回避することによって、クロム金属の析出は阻害されるが、代わりに酸化クロムの閉じた層(closed layer)が析出することを見出した。閉じた酸化物層に関して、酸化物層は、基板の全表面を覆い、表面によく接着していることを意図されている。さらに、炭素含有錯化剤の不在はまた、酸化物層における炭化クロムの共析出も阻害した。したがって、炭化クロムの残留量は、酸化物層に検出可能な量で存在する場合には、微量で避けられない量のその他の残留化合物が電解液を作製するためのベース材料に存在する結果である。電解液中の硫酸塩の存在は、本発明によるめっき条件下において酸化クロムコーティング層中の硫酸塩の存在の原因となる。表面で検出される硫酸塩の最大量は約10%である。表面の硫酸塩の最小量は0.5%であり、ほとんどの場合少なくとも2%である。これらの値は、外側の表面から出発して最初の3nmにわたるXPS深度プロファイルから導き出された。
【0016】
基板上の酸化クロムの閉じた層のために、酸化クロムの閉じた層が析出される基板と有機コーティング層との間の接着が大幅に改善される。
【0017】
電解溶液のpHが過度に高くなるか過度に低くなる場合は、硫酸又は水酸化ナトリウムを添加して、pHを所望の範囲内の値に調整することができる。異なる酸又は塩基も使用可能であるが、浴の化学的性質の単純さの観点から、硫酸及び水酸化ナトリウムが好ましい。
【0018】
硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムはまた、導電率を高める塩としても機能する。電解液を可能な限り単純に保ち、塩素又は臭素の形成を防止するための導電性を高める塩は硫酸塩である。カチオンは、好ましくはナトリウム又はカリウムである。電解液の粘性が過度に高くならないために、最大量2800mMの硫酸ナトリウム又は硫酸カリウムはなお許容可能である。単純にするために、カチオンは好ましくはナトリウムである。pHが4を超えると、電解液中でコロイド反応が起こり、電気めっきに使用できなくなる。2.50未満のpHは望ましくなく、この理由は、酸化クロム(CrOx)を析出させるために必要なカソードにおける表面pHの増加が、電解液中のこれらの低いpH値では得られないためである。高いpHはまた、析出中により低い電流密度を使用することができるため、水素の発生が少なくなる。過度の水素の発生は、より低いpH(2.50未満)における表面のストライプ状の外観を引き起こすと考えられる。少なくとも40℃の比較的高い電解液温度の電解液はまた、より低い電流密度を使用することを可能にし、それによって水素の発生を減らすのに役立つ。
【0019】
電解液の組成を可能な限り単純に保つため、好ましくは硫酸ナトリウムのみを電解液に使用する。
【0020】
ハロゲン化物イオン、例えば、塩化物イオン又は臭化物イオンは、電解液に存在しなくてもよい。この不在は、アノードでの(例えば)塩素又は臭素の形成を防止するために必要である。電解液はまた減極剤も含まない。多くの同様の浴では、臭化カリウムが減極剤として使用される。この化合物の不在は、アノードでの臭素形成のリスクを軽減する。緩衝剤、例えば、よく使用されるホウ酸(HBO)もまた、電解液に存在しない。
【0021】
本発明による方法において、アノードが、i)酸化イリジウムの触媒コーティング又はii)酸化イリジウム及び酸化タンタルを含む混合金属酸化物を備えることが不可欠である。触媒コーティングは、一般にチタンアノード上に析出され、チタンのコーティング率は、チタンが電解液にさらされない程度である。その他の実用的なアノード、例えば、白金、白金めっきチタン又はニッケルクロムの使用は、Cr6+イオンの形成をもたらすことが見出された。Cr6+イオンの形成は、Cr(VI)化合物の毒性及び発がん性のために回避する必要がある。アノード材料としての炭素は、工業用高速めっきラインで使用される高電流密度のため、時間の経過とともに崩壊する。アノード材料としての炭素もまた、使用するべきではない。
【0022】
本発明による方法において、鋼基板は、スズでコーティングされたブラックプレート(ブリキ)又はFeSn合金層でコーティングされたブラックプレートである(図3を参照)。WO2012045791は、FeSn合金層でコーティングされたブラックプレートを製造する方法を開示している。
【0023】
ブラックプレートに使用する鋼は、包装用鋼の製造に適した任意の鋼種であり得る。例として、これにより限定されることを意図するものではないが、EN10202:2001及びASTM623-08:2008の包装用途に関する鋼種を参照する。
【0024】
ブラックプレートは、通常、低炭素(LC)、極低炭素(ELC)又は超低炭素(ULC)のストリップの形態で準備され、重量パーセントで表される炭素含有量はそれぞれ、0.05~0.15(LC)、0.02~0.05(ELC)又は0.02未満(ULC)である。マンガン、アルミニウム、窒素などの合金化元素が、時にはホウ素などの元素もまた、機械的特性を改善するために添加される(例えば、EN10202、EN10205及びEN10239を参照)。ブラックプレートは、侵入型のない(interstitial-free)低炭素鋼、極低炭素鋼又は超低炭素鋼、例えば、チタン安定化、ニオブ安定化又はチタン-ニオブ安定化の侵入型のない鋼からなってもよい。
【0025】
国際規格において定義されている一回圧延(SR)ブラックプレートは、0.15mm~0.49mmであり、二回圧延(DR)ブラックプレートは、0.13mm~0.29mmであり、DRの一般的な範囲は0.14~0.24mmである。0.08mmまでのより低いゲージが、一回又は二回圧延されたベース材料のいずれにおいても、今や特別な用途に使用可能である。
【0026】
本発明による方法は、酸化物層の良好な制御を可能にし、閉じた酸化物層、すなわち、基板の表面全体を覆う酸化物層を析出させることを可能にし、有機コーティングへの接着性を改善するという点で酸化物層の性能を改善することを可能にする。
【0027】
本発明による方法はまた、スズ層又はFeSn層の上への閉じた酸化クロム層の析出を可能にする。錯化剤の不在は、金属クロムが共析出していないか、ごく少量しか共析出していないことを意味する。この酸化クロム層は不動態層として機能し、この酸化クロム層はCr(III)技術によって析出されるため、この析出プロセスはREACHに準拠している。酸化クロム層は、有機コーティングへの接着性も向上させる。ブリキのラッカー塗布性は、既知のCr(VI)ベースの不動態化処理により処理されたブリキ又はFeSnコーティング鋼と同レベルになる。FeSn拡散層がスズ層によって重ねてコーティングされている(overcoat)場合、材料の不動態化及び接着挙動は、本発明の文脈におけるブリキと同様であると見なされる。
【0028】
したがって、基板は異なっている場合があるが、基板上に析出された閉じた酸化クロム層の効果は、それぞれの場合において、基板と有機コーティングとの間の接着の改善をもたらす。現在のCr(VI)ベースの不動態化処理、例えば、311及び300処理の代わりに使用することができるREACH準拠の不動態化処理を提供するという追加の利点も存在する。
【0029】
好ましい実施形態は、従属請求項に提供されている。
【0030】
水溶性クロム(III)塩として、1種又は2種以上の塩が、塩基性硫酸クロム(III)、硫酸クロム(III)及び硝酸クロム(III)からなる塩の群から選択される。浴の化学的性質を可能な限り単純に保つという観点から、塩基性硫酸クロム(III)のみの使用が好ましい。
【0031】
一実施形態において、電解質溶液は、最大で500mM、好ましくは最大で350mM、より好ましくは最大で250mM、より一層好ましくは最大で225mMのCr3+イオンを含む。電解質溶液は、好ましくは、少なくとも100mMのCr3+イオン、好ましくは少なくとも125mMのCr3+イオンを含む。これらの好ましい範囲は、良好な結果を提供する。
【0032】
好ましい実施形態において、25℃で測定された電解液のpHは、2.50~3.25である。好ましくは、めっき温度は35~65℃である。一実施形態において、電解質溶液のpHは、最大で3.30、好ましくは最大で3.00である。一実施形態において、pHは少なくとも2.60、さらには少なくとも2.70である。2.55~3.25のpHは、コーティング品質の点で優れた結果を提供した。また、3.25の値超では、電解液中でコロイド反応が起こって、電気めっきに使用不可能になるリスクは、本発明による方法には存在しない。3.25~4のpHにおいて、リスクは、3.25をわずかに超える許容可能から、pHが4を超える場合には許容不可にまで増加する。2.55未満では、カソードの表面pHを上げるために必要な労力が、pHが低いほど大きくなるため、プロセスの経済性が低下する。
【0033】
めっき時間、すなわち、カソードへ電流を印加する持続時間は、浸漬時間よりもかなり短く、好ましくは工業ラインにおける方法の使用を可能にするために可能な限り短い。遅いライン速度及び/又は長いアノード長では、めっき時間は最大で3秒である。最大で1000ミリ秒、好ましくは最大で900ミリ秒の最大めっき時間でも許容可能である。非常に速いライン速度では、ラインを実用的な最小限に保つために、電流密度及び/又はアノードの全長を増やす必要がある場合がある。本発明による方法では、錯化剤が電解液中に全く存在しないことが好ましい。しかしながら、あらゆる十分な注意及び中間のすすぎ浴の使用にもかかわらず、めっきラインにおける先の上流電解液浴からの持ち込みの結果として、電解液中の不可避的不純物として微量が不可避的に存在することが起こり得る。錯化剤、例えば、NaCOOHの許容可能な最大値は、10mM、好ましくは最大で5mM、好ましくは最大で2mMである。この量では、有意なクロム金属の析出をもたらさないことが見出され、析出された酸化物層の接着の質は影響を受けていないようである。しかしながら、そのような錯化剤が、本発明による方法のための電解液中に存在しないことが好ましい。
【0034】
一実施形態において、電解質溶液は、少なくとも210mM且つ/或いは最大で845mMの硫酸ナトリウムを含む。
【0035】
好ましい実施形態において、めっき温度は少なくとも50℃、好ましくは少なくとも55℃である。
【0036】
一実施形態において、連続めっきラインのライン速度は、少なくとも100m/分、より好ましくは少なくとも200m/分である。
【0037】
好ましい実施形態において、電解質水溶液は、塩基性硫酸クロム(III)と、硫酸ナトリウムと、電解液のpHを所望の値に調整するために任意選択で使用される十分な量の硫酸又は水酸化ナトリウムと、不可避的不純物とのみからなる。好ましくは、pHは、2.55以上の値であって、好ましくは3.25以下の値に調整される。
【0038】
本発明の実施形態において、ブリキ、又はFeSn層が設けられたブラックプレートは、本発明による方法により適用された酸化クロム層が設けられ、ラッカー塗布工程、フィルムラミネーション工程又は直接押出工程によって、ラッカー、熱可塑性の単層ポリマー又は熱可塑性の多層ポリマーからなる有機コーティングで片面又は両面がさらにコーティングされている。好ましくは、熱可塑性ポリマーコーティングは、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル若しくはポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリアミド、塩化ポリビニル、フルオロカーボン樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ABS樹脂、塩素化ポリエーテル、イオノマー、ウレタン樹脂、官能化ポリマー等);及び/又はそれらのコポリマー;及び/又はそれらのブレンドを含む1又は2以上の層を備えるポリマーコーティングシステムである。
【0039】
好ましくは、熱可塑性ポリマーコーティングは、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル又はポリオレフィン)の1又は2以上の層を備えるポリマーコーティングシステムであるが、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、フルオロカーボン樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ABS樹脂、塩素化ポリエーテル、イオノマー、ウレタン樹脂、官能化ポリマー等も含むことができる。明確にするために、以下のとおり記載する。
・ポリエステルは、ジカルボン酸及びグリコールで構成されるポリマーである。適切なジカルボン酸の例には、テレフタル酸、イソフタル酸(IPA)、ナフタレンジカルボン酸及びシクロヘキサンジカルボン酸が含まれる。適切なグリコールの例には、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、ネオペンチルグリコールなどが含まれる。3種類以上のジカルボン酸又はグリコールを合わせて使用することができる。
・ポリオレフィンには、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン又は1-オクテンのポリマー又はコポリマーが含まれる。
・アクリル樹脂には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル又はアクリルアミドのポリマー又はコポリマーが含まれる。
・ポリアミド樹脂には、例えば、いわゆるナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610及びナイロン11が含まれる。
・ポリ塩化ビニルには、ホモポリマー及びコポリマー、例えばエチレン又は酢酸ビニルによるホモポリマー及びコポリマーが含まれる。
・フルオロカーボン樹脂には、例えば、四フッ素化ポリエチレン、三フッ素化モノクロロ化ポリエチレン、六フッ素化エチレンプロピレン樹脂、ポリフッ化ビニル及びポリフッ化ビニリデンが含まれる。
官能化ポリマー、例えば無水マレイン酸グラフト化による官能化ポリマーには、例えば、変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、変性エチレンアクリレートコポリマー及び変性エチレン酢酸ビニルが含まれる。
【0040】
2種又は3種以上の樹脂の混合物を使用することができる。さらに、樹脂は、酸化防止剤、熱安定剤、UV吸収剤、可塑剤、顔料、核剤、帯電防止剤、離型剤、ブロッキング防止剤などと混合され得る。このような熱可塑性ポリマーコーティングシステムの使用は、缶の製造及び缶の使用における優れた性能、例えば、貯蔵寿命を提供することが示されている。
【0041】
好ましくは、熱可塑性ポリマーコーティングは、熱可塑性樹脂(例えば、ポリエステル若しくはポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリアミド、塩化ポリビニル、フルオロカーボン樹脂、ポリカーボネート、スチレン系樹脂、ABS樹脂、塩素化ポリエーテル、イオノマー、ウレタン樹脂、官能化ポリマー等);及び/又はそれらのコポリマー;及び/又はそれらのブレンドを含む1又は2以上の層を備えるポリマーコーティングシステムである。
【0042】
好ましくは、コーティングされたブラックプレートの片面又は両面の熱可塑性ポリマーコーティングが、多層コーティングシステムであり、多層コーティングシステムが、少なくとも、コーティングされたブラックプレートに接着するための接着層と、表面層と、接着層及び表面層の間にあるバルク層とを備え、多層コーティングシステムの接着層、表面層及びバルク層が、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、イソフタル酸(IPA)変性ポリエチレンテレフタレート、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)変性ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)又はそれらのコポリマー若しくはブレンドを含むか、或いは、上記ポリエステル又はそれらのコポリマー若しくはブレンドからなる。
【0043】
熱可塑性ポリマーコーティングの適用プロセスは、好ましくは、コーティングされたブラックプレート上に、押出コーティング及びラミネーションによってポリマーフィルムをラミネートすることにより実行され、ここで、ポリマー樹脂が溶融し、薄いホットフィルムに成形されて、これが移動する基板(moving substrate)上にコーティングされる。次いで、コーティングされた基板は、通常、一組の逆回転しているロールの間を通過し、これにより、コーティングが基板にプレスされ、完全な接触及び接着が保証される。代替手段は、フィルムラミネーションであり、ポリマーのフィルムが供給され、加熱された基板上にコーティングされ、一組の逆回転しているロールによって、それらの間で基板上にプレスされ、完全な接触及び接着が保証される。
【実施例
【0044】
基板として、表1による材料を使用した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
図2に、RCE実験の結果を示す。電解液1を使用した(20g/L 塩基性硫酸クロム(III)(385mM Cr3+)。回転シリンダー電極上で776rpm、55℃、pH2.7(及びいくつかはpH3.2)で実験を実施した。776rpmは、工業用コーティングラインにおける100m/秒であるライン速度に対応する。電着実験には、酸化イリジウム及び酸化タンタルからなる触媒作用に関する混合金属酸化物を備えるチタンアノードを選択した。RCEの回転速度は、776RPM(Ω0.7=6.0秒0.7)で一定に保持された。基板は表1に列記されており、シリンダーの寸法は113.3mm×φ73mmであった。めっき時間は800ミリ秒であった。図2では、CrOxコーティングの重量(mg/mにおけるCr金属として表される)が、ブラックプレート(1)及びブリキ(3)に対する電流密度の関数としてプロットされている。
【0048】
析出したCr酸化物の量をY軸にプロットする。Cr酸化物の量はXRFによって決定される。XRF測定は、参照により本明細書に包含される前述の論文に記載されているように実施される。新しい基板には、Cr又はCrOxは最初に存在しなかった。XRFを使用してサンプルを測定することにより、析出した総クロムの値が測定される(すなわち、金属、酸化物、硫酸塩、及び(存在する場合)炭化物)。差(Δ(XRF))はCr酸化物に起因し、それが図2にプロットされた値である。サンプル1及び3の場合、本発明による方法により基板をコーティングする前に、新しい基板上にCrOxは存在しなかった。
【0049】
【表3】
【0050】
脱SnOxは、酸化スズ(SnOx)層が、周知の炭酸ナトリウム処理を使用して除去されることを意味する。例えば、この処理は、35~65℃の温度で、1~50g/LのNaCOを含む炭酸ナトリウム溶液に基板を浸漬し、0.5~2A/dmのカソード電流密度を0.5~5秒間、印加することによる(ただしこれに限定されない)。
【0051】
RCEの結果は、Cr(III)濃度がわずかに低かったにしても、14g/L Cr、T=55℃、ライン速度=150m/分、電流密度=18.75A dm-2、めっき時間:600ミリ秒である同様の設定による工業用サイズのパイロットラインにおけるコイル試験の結果(図2の「4」として示されている)と非常によく一致している。ストリップの前処理は、ストリップに析出したCrOxの量にほとんど影響を与えないことも見出された。
【0052】
2.50未満のpH値で実施された同様の実験、例えば、US6099714に開示されている実験は、工業製造ラインにおいて、ブリキに対して実施された場合、不十分なストライプの表面品質を示した。US6099714は、3×5インチのブリキサンプルに基づく実験、すなわち、実験室で断片的に(piecemeal)めっきすることを目的とする実験を開示している。顧客を遠ざける可能性のある美的に魅力のない外観とは別に、ストライプはまた、コーティングされたブラックプレート全体の性能に影響を与え得る不均一な酸化物層の厚み及び/又は組成をもたらす場合がある。
【0053】
表2の電解液1を使用して、ブリキにより試験を実施した。本発明の方法に従って酸化物層を析出する基板は、不動態化されていない、流動溶融されたブリキ(両面に2.8g/m Sn)であった。鋼のブラックプレートは、すべての場合において、厚み0.223mmの連続アニーリングSR低炭素鋼(TH340、0.045重量% C、0.205重量% Mn、0.045重量% Al_ゾル)であった。
【0054】
サンプルをXPSにより試験して、組成を決定し、これにより、析出層が酸化クロムのみからなることを明らかにした。
【0055】
【表4】
【0056】
ほとんどの場合で、酸化スズ層が除去されており、その結果、表面は新しいスズ表面の表面である。析出のない実験は、これらの場合に酸化クロムが存在しないことを明確に示している。
【0057】
サンプルをXPSにより試験して、組成を決定し、これにより、析出層が酸化クロムのみからなり、クロム金属が存在しないことを明らかにした。電解液中の硫酸塩の存在は、本発明によるめっき条件下において、酸化クロムコーティング層中に硫酸塩が存在する原因となる。表面で検出される硫酸塩の最大量は約10%である。表面における硫酸塩の最小量は約0.5%であり、ほとんどの場合少なくとも2%である。
【0058】
図面の簡単な説明
次に、本発明を以下の非限定的な図によって説明する。
【0059】
図1は、熱間圧延ストリップから出発し、コーティングされた製品を得るためのプロセス工程を概略的にまとめている。冷間圧延の前に、通常、熱間圧延ストリップを酸洗いして(図示せず)熱間圧延スケールを除去し、洗浄して(図示せず)ストリップから汚染物質を除去する。
【0060】
図2:pH=2.7で実施された実験に関する、RCE実験における電流密度の関数としてのCr酸化物の量。
【0061】
図3:本発明に従って析出されたCrOxでできたトップ層を備える製造可能なブリキの概略図。
a:ブリキ(リフローなし)
b:ブリキ(リフロー)
c:追加のスズが設けられたブリキ(リフロー)
d:FeSn
e:スズが設けられたFeSn
図1
図2
図3