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特許7520091カーボンナノチューブ分散液、並びにそれを用いた電池電極用組成物及び電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ分散液、並びにそれを用いた電池電極用組成物及び電池
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/174 20170101AFI20240712BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240712BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240712BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20240712BHJP
   D01F 9/12 20060101ALI20240712BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
C01B32/174
C08K3/04
C08K5/20
C08L1/26
D01F9/12
H01M4/62 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022177289
(22)【出願日】2022-11-04
(65)【公開番号】P2024067317
(43)【公開日】2024-05-17
【審査請求日】2023-10-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】西川 明良
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-152296(JP,A)
【文献】特開2016-172823(JP,A)
【文献】特開2015-168610(JP,A)
【文献】特開2021-176140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/158 - 32/178
H01M 4/00 - 4/62
C08K 3/04
C08K 5/20
C08L 1/26
D01F 9/12
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、
カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩、
水、及び、
下記一般式(1)で表される化合物、
を含み、
【化1】
式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表
前記化合物と水の合計量に対する前記化合物の量の比が、質量比で0.005~0.1である、
カーボンナノチューブ分散液。
【請求項2】
前記カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩は、エーテル化度が0.60~0.85であり、25℃での2質量%水溶液粘度が1~300mPa・sである、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項3】
前記化合物の含有量が前記カーボンナノチューブ100gあたり1~30モルである、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの量に対する前記カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の量の比が、質量比で0.3~3.0である、請求項1に記載のカーボンナノチューブ分散液。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液を含む、電池電極用組成物。
【請求項6】
請求項に記載の電池電極用組成物を用いて電池用電極を作製する電池用電極の製造方法
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液を用いて作製した電極を用いる、電池製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、カーボンナノチューブ分散液、並びに、それを用いた電池電極用組成物及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは優れた導電性を有することから、例えばリチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池において電極を構成する導電剤として用いられている。しかしながら、カーボンナノチューブはファンデルワールス力による凝集が強く、水に均一に分散させることが難しい。
【0003】
カーボンナノチューブの水への分散性を向上するために、分散剤としてカルボキシメチルセルロース及び/又はその塩を用いることが知られている。例えば、特許文献1には、微細炭素繊維と、分散媒と、ポリマー系分散剤と、pKaが7.5以上である塩基性化合物とからなる微細炭素繊維分散液が記載されている。具体的は、微細炭素繊維としてのカーボンナノチューブと、分散剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩と、分散媒としての水と、塩基性化合物としてのモノエタノールアミンとを混合してなるカーボンナノチューブ分散液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-181140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、一般にカーボンナノチューブはファンデルワールス力により高密度の束となっており、水に均一に分散させるには束を解離させることが求められる。しかしながら、束を解離させて水中に均一に分散させることは難しく、分散性を向上することが求められる。また、その分散した状態を維持すること、すなわち分散安定性が求められる。
【0006】
本発明の実施形態は、カーボンナノチューブの分散性及び分散安定性を向上することができるカーボンナノチューブ分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] カーボンナノチューブ、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩、水、及び、下記一般式(1)で表される化合物、を含み、
【化1】
式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す、カーボンナノチューブ分散液。
[2] 前記カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩は、エーテル化度が0.60~0.85であり、25℃での2質量%水溶液粘度が1~300mPa・sである、[1]に記載のカーボンナノチューブ分散液。
[3] 前記化合物の含有量が前記カーボンナノチューブ100gあたり1~30モルである、[1]又は[2]に記載のカーボンナノチューブ分散液。
[4] 前記カーボンナノチューブの量に対する前記カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の量の比が、質量比で0.3~3.0である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
[5] 前記化合物と水の合計量に対する前記化合物の量の比が、質量比で0.005~0.1である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液。
[6] [1]~[5]のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液を含む、電池電極用組成物。
[7] [6]に記載の電池電極用組成物を用いて作製された電池用電極。
[8] [1]~[5]のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ分散液を用いて作製した電極を備える電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、カーボンナノチューブの分散性及び分散安定性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態に係るカーボンナノチューブ分散液は、(A)カーボンナノチューブ、(B)カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩、(C)水、及び、(D)一般式(1)で表される化合物を含む。
【0010】
[(A)カーボンナノチューブ]
カーボンナノチューブは、炭素によって構成される六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層又は多層の同軸管状になった物質である。カーボンナノチューブとしては、単層の構造を持つ単層カーボンナノチューブ(SMCNT:シングルウォールカーボンナノチューブ)、多層の構造を持つ多層カーボンナノチューブ(MWCNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)が挙げられ、多層のうち特に2層のものを二層カーボンナノチューブ(DWCNT:ダブルウォールカーボンナノチューブ)といい、これらをいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、電池のサイクル特性に優れることから、単層カーボンナノチューブを用いることである。
【0011】
カーボンナノチューブの製造方法としては、特に限定されず、例えば、触媒を用いる熱分解法、アーク放電法、レーザー蒸発法、及びHiPco法、CoMoCAT法等のCVD法等、公知の種々の製造方法により得られる。
【0012】
カーボンナノチューブの平均直径(繊維径)は、特に限定されず、例えば0.4~100nmでもよく、0.5~50nmでもよく、1~20nmでもよい。カーボンナノチューブの平均長さは、特に限定されず、例えば50nm~10mmでもよく、500nm~100μmでもよく、1~50μmでもよい。カーボンナノチューブのアスペクト比(即ち、平均直径に対する平均長さの比)は、特に限定されず、例えば10以上でもよく、100以上でもよい。
【0013】
カーボンナノチューブの平均直径及び平均長さは、原子間力顕微鏡画像において、無作為に選択された50個のカーボンナノチューブの寸法を測定し、その相加平均をとることにより求めることができる。原子間力顕微鏡により測定できないmmオーダーの長さについてはマイクロスコープによる画像を用いて測定すればよい。
【0014】
好ましい一実施形態において、カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブを含む。その場合、カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブのみからなるでもよいが、単層カーボンナノチューブとともに多層カーボンナノチューブを含んでもよい。具体的には、カーボンナノチューブ全体に占める単層カーボンナノチューブの比率は、80質量%以上でもよく、好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは98質量%以上である。
【0015】
[(B)カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩]
カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩(以下、CMCということがある。)は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を持つものである。CMCは、カルボキシ基(-COOH)を有するものでもよく、カルボン酸塩の形態を持つでもよく、両者を併用してもよい。
【0016】
カルボキシメチルセルロースの塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩などの有機塩が挙げられる。これらの塩はいずれか1種のみ含まれてもよく、2種以上の塩が含まれてもよい。これらの中でもアルカリ金属塩が好ましく、より好ましくはナトリウム塩である。
【0017】
本実施形態では、CMCとして、エーテル化度が0.60~0.85であり、かつ25℃での2質量%水溶液粘度が1~300mPa・sであるものを用いることが好ましい。このようなエーテル化度及び2質量%水溶液粘度を持つCMCを用いることにより、カーボンナノチューブの分散安定性の向上効果を高めることができる。
【0018】
CMCのエーテル化度は、より好ましくは0.65~0.85であり、更に好ましくは0.70~0.80である。本明細書において、CMCのエーテル化度は下記方法により測定される。
【0019】
(エーテル化度)
CMC0.6gを105℃で4時間乾燥する。乾燥物の質量を精秤した後、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化する。灰化物を500mLビーカーに移し、水250mL及び0.05mol/Lの硫酸水溶液35mLを加えて30分間煮沸する。冷却後、過剰の酸を0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液で逆滴定する(指示薬としてフェノールフタレイン使用)。下記式よりエーテル化度を算出する。
式: (エーテル化度)=162×A/(10000-80A)
A=(af-bf1)/乾燥物の質量(g)
A:試料1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/Lの硫酸水溶液の量(mL)
a:0.05mol/Lの硫酸水溶液の使用量(mL)
f:0.05mol/Lの硫酸水溶液の力価
b:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の滴定量(mL)
f1:0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の力価
【0020】
CMCの25℃での2質量%水溶液粘度は、より好ましくは1~150mPa・sであり、更に好ましくは1~30mPa・sである。本明細書において、CMCの2質量%水溶液粘度は下記方法により測定される。
【0021】
(2質量%水溶液粘度)
三角フラスコにCMCを入れ、濃度が2質量%になるように水を加えて30秒間振とうする。12時間静置後、5分間混合して、2質量%水溶液を調製する。得られた水溶液をトールビーカーに移して25℃に調整し、JIS Z8803:2011に準じてB型粘度計(単一円筒型回転粘度計)を用いて粘度を測定する。その際、ロータ回転数を60rpmとして測定し、測定上限に達する場合は、順次30rpm、12rpmと変更して測定する。
【0022】
[(D)一般式(1)で表される化合物]
本実施形態では、上記(B)成分のCMCとともに、(D)成分として下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ということがある。)が用いられる。化合物(1)をCMCとともに用いることにより、水へのカーボンナノチューブの分散性及び分散安定性を向上することができ、電池を作製したときのサイクル特性を向上することができる。その理由は、これにより限定されるものではないが、次のように考えられる。すなわち、ファンデルワールス力により引きつけ合うカーボンナノチューブ間に化合物(1)が入り込んで、カーボンナノチューブの束を解離させ、カーボンナノチューブを水中に分散させる。そして、解離したカーボンナノチューブにCMCが吸着することにより、カーボンナノチューブの分散状態を維持することができると考えられる。
【0023】
【化2】
式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
【0024】
化合物(1)は、具体的には、N,N-ジメチルアセトアミド(上記R=水素原子)、及び、N,N-ジメチルプロピオンアミド(上記R=メチル基)であり、化合物(1)としてこれらのいずれか一方を用いてもよく、両者を併用してもよい。
【0025】
[カーボンナノチューブ分散液]
本実施形態に係るカーボンナノチューブ分散液は、上記(A)成分、(B)成分及び(D)成分とともに、(C)成分として水を含むものであり、水中にカーボンナノチューブが分散した分散液である。より詳細には、(B)成分のCMCと(D)成分の化合物(1)は水溶性であるため、CMC及び化合物(1)が溶解した水溶液に、(A)成分のカーボンナノチューブが分散した分散液である。
【0026】
カーボンナノチューブ分散液において、化合物(1)の含有量は、本実施形態の効果を高める観点から、カーボンナノチューブ100gあたり1~30モルであることが好ましく、より好ましくは1.5~20モルであり、更に好ましくは2~15モルであり、更に好ましくは5~12モルである。
【0027】
カーボンナノチューブ分散液において、カーボンナノチューブの量(A)に対するCMCの量(B)の比は、本実施形態の効果を高める観点から、質量比でB/A=0.3~3.0であることが好ましく、より好ましくは0.5~2.5であり、更に好ましくは1.0~2.0であり、更に好ましくは1.1~1.8である。
【0028】
カーボンナノチューブ分散液において、化合物(1)と水の合計量(C+D)に対する化合物(1)の量(D)の比は、質量比でD/(C+D)=0.005~0.1であることが好ましく、より好ましくは0.01~0.08であり、更に好ましくは0.02~0.07である。該質量比D/(C+D)が0.005以上であることにより化合物(1)の添加効果を高めることができ、また0.1以下であることにより水に対するCMCの溶解性の低下を防ぐことができる。
【0029】
カーボンナノチューブ分散液において、CMCの量(B)に対する化合物(1)の量(D)の比は、質量比でD/B=1~20であることが好ましく、より好ましくは1.3~15である。
【0030】
カーボンナノチューブ分散液において、カーボンナノチューブとCMCと化合物(1)の合計量(A+B+D)に対するCMCと化合物(1)の合計量(B+D)の比は、質量比で(B+D)/(A+B+D)=0.60~0.98であることが好ましく、より好ましくは0.67~0.97であり、更に好ましくは0.77~0.96である。
【0031】
カーボンナノチューブ分散液100質量%に対する各成分の含有量は特に限定されない。例えば、カーボンナノチューブの含有量は、0.01~5質量%でもよく、0.1~3質量%でもよく、0.2~2質量%でもよい。CMCの含有量は、0.01~5質量%でもよく、0.1~3質量%でもよく、0.2~2質量%でもよい。化合物(1)の含有量は、0.5~12質量%でもよく、1~10質量%でよく、1.5~7質量%でもよい。水の含有量は、70~99質量%でもよく、80~98質量%でもよく、90~97質量%でもよい。
【0032】
カーボンナノチューブ分散液は、上記(A)~(D)成分の他に、必要に応じて、他の成分を含有してもよい。例えば、分散媒として(C)成分の水とともに、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、アセトン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などの水と混和する水溶性有機溶媒を用いてもよい。また、その他の添加剤として、例えば、カーボンナノチューブ以外の導電剤、CMC以外の水溶性高分子、分散剤、界面活性剤、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤等が挙げられる。
【0033】
カーボンナノチューブ分散液の調製方法は特に限定されない。例えば、上記(A)、(B)及び(D)成分を(C)成分の水とともに混合し、ホモディスパー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等の分散装置を用いて分散処理することによりカーボンナノチューブ分散液を調製することができる。一実施形態において、循環ユニットを備える分散装置を用いて、(A)~(D)成分を含む混合液を循環させながらホモジナイザー等の分散装置で分散処理してもよい。
【0034】
[電池電極用組成物]
上記カーボンナノチューブ分散液は、例えば非水電解質二次電池のような電池の電極を作製するための塗料(電極用塗料)として用いることができる。すなわち、実施形態に係る電池電極用組成物は、上記カーボンナノチューブ分散液を含む。
【0035】
一実施形態において、電池電極用組成物は、集電体と、該集電体上に形成された活物質層とを備える電極において、前記活物質層を形成するために用いられる。すなわち、電池電極用組成物を集電体に塗工し、乾燥させることにより、電極を作製することができる。その場合、電池電極用組成物は、上記カーボンナノチューブ分散液とともに、電極活物質を含む。活物質層において、カーボンナノチューブは、電極活物質の膨張収縮に伴って接点が喪失する活物質粒子間において当該活物質間を繋ぐ導電パス確保の役割を持つ。電池電極用組成物は、非水電解質二次電池の正極に用いられてもよいが、好ましくは負極に用いられ、負極の活物質層を形成するために用いられる。
【0036】
電池電極用組成物のための電極活物質としては、公知の正極活物質や負極活物質を用いることができ、好ましくは負極活物質を用いることである。負極活物質としては、例えば、シリコン系負極活物質、炭素系活物質が挙げられ、また、金属リチウムや合金、スズ化合物などの金属材料、リチウム遷移金属窒化物、結晶性金属酸化物、非晶質金属酸化物、導電性ポリマー等が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記シリコン系負極活物質としては、例えば、SiO(0.5≦x≦1.6)で表されるケイ素酸化物(以下、SiOという。)、Li2ySiO(2+y)(0<y<2)で表されるリチウムシリケート相中にSiの微粒子が分散したケイ素含有化合物が挙げられる。上記炭素系活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素などのグラファイトが挙げられる。
【0038】
電池電極用組成物におけるカーボンナノチューブ分散液の配合量は特に限定されず、電池電極用組成物の固形分100質量%に対して、カーボンナノチューブとしての含有量が、0.05~1.0質量%でもよく、0.07~0.5質量%でもよい。電極活物質(好ましくは負極活物質)の含有量も特に限定されず、電池電極用組成物の固形分100質量%に対して、80~98質量%でもよく、90~97質量%でもよい。シリコン系活物質の含有量も特に限定されず、電池電極用組成物の固形分100質量%に対して、10~90質量%でもよく、15~35質量%でもよい。
【0039】
電池電極用組成物は、上記カーボンナノチューブ分散液及び電極活物質とともに、例えば、カーボンナノチューブ以外の導電剤、結着剤、増粘剤、分散剤、消泡剤、レベリング剤、溶媒(例えば水)等の種々の成分を、必要に応じて含有してもよい。
【0040】
カーボンナノチューブ以外の導電剤としては、特に限定されず、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラックが挙げられる。電池電極用組成物における導電剤の量は特に限定されず、カーボンナノチューブとの合計量で、電池電極用組成物の固形分100質量%に対して、0.1~5.0質量%でもよく、0.2~2.5質量%でもよい。
【0041】
結着剤(バインダー樹脂)としては、特に限定されず、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)エマルション、ポリウレタンエマルション、ポリ酢酸ビニルエマルション、アクリル樹脂エマルションなどの各種樹脂エマルションが挙げられる。電池電極用組成物における結着剤の量は特に限定されず、電池電極用組成物の固形分100質量%に対して、1.5~9.5質量%でもよく、2~4質量%でもよい。
【0042】
増粘剤としては、特に限定されず、例えば上記(B)成分と同じカルボキシメチルセルロース及び/又はその塩を追加的に添加してもよく、また(B)成分とは異なるCMCを別途添加してもよい。電池電極用組成物における増粘剤の量は特に限定されず、電池電極用組成物の固形分100質量%に対して、0.05~3質量%でもよく、0.1~2質量%でもよい。
【0043】
集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば特に限定されない。例えば、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐酸化性向上の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理したものを用いることができる。これらの集電体は表面を酸化処理したものであってもよい。集電体の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体等の成形体も用いられる。
【0044】
[電池]
一実施形態に係る電池は、上記カーボンナノチューブ分散液を用いて作製した電極を備えるものである。電極としては、正極でも負極でもよいが、好ましくは負極である。電池としては、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池であることが好ましい。
【0045】
一実施形態において非水電解質二次電池は、負極と、正極と、負極と正極との間に配置されたセパレータと、電解質とを備え、該負極及び/又は正極(好ましくは負極)に、上記電池電極用組成物を用いて作製した電極が用いられる。一実施形態として、非水電解質二次電池は、セパレータを介して負極と正極を交互に積層した積層体と、該積層体を収容する容器と、容器内に注入された非水電解液などの電解質とを備えてなるものでもよい。非水電解質としては、例えば、支持電解質としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができ、リチウムイオン二次電池を構成することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づいて、より詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0047】
実施例及び比較例において使用する各成分の詳細を以下に示す。
【0048】
[(A)成分]
・CNT-1:シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)。純度=96.5質量%、平均直径=1.6nm、平均繊維長=5μm。OCSiAl社製「TUBALL BATT」
・CNT-2:マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)。純度=98質量%、平均直径=10nm、平均繊維長=10μm。Cnano社製「FT9000」
【0049】
[(B)成分]
・CMC-1:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩。エーテル化度=0.75、2質量%水溶液粘度(25℃)=18mPa・s。第一工業製薬(株)製「セロゲン 7A」
【0050】
・CMC-2:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩。エーテル化度=0.68、2質量%水溶液粘度(25℃)=79mPa・s。第一工業製薬(株)製「セロゲン PR」
【0051】
・CMC-3:カルボキシメチルセルロースナトリウム塩。エーテル化度=0.73、2質量%水溶液粘度(25℃)=3mPa・s。第一工業製薬(株)製「セロゲン 5A」
【0052】
[(D)成分]
・化合物D-1:N,N-ジメチルアセトアミド(式(D-1))
・化合物D-2:N,N-ジメチルプロピオンアミド(式(D-2))
【0053】
[その他]
・化合物D-3:N,N-ジメチルホルムアミド(式(D-3))
・化合物D-4:N-メチルアセトアミド(式(D-4))
・化合物D-5:3-メチル-2-ブタノン(式(D-5))
・化合物D-6:N,N-ジメチルエチルアミン(式(D-6))
【0054】
【化3】
【0055】
[実施例1~10及び比較例1~6]
実施例1では、200mLのビーカーに、CNT-1を0.40g、CMC-1を0.60g、化合物D-1を3.13g、水を95.87g加え、スターラー(1000rpm)で12時間攪拌混合した。その後、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所製「US-600T」、循環ユニット付き)にチューブポンプを接続した装置を用いて、混合液を循環させながら70μAの出力で60分間分散させてカーボンナノチューブ分散液を得た。
【0056】
実施例2~10及び比較例1~6では、各成分の種類及び使用量を表1のとおりに変更し、その他は実施例1と同様にしてカーボンナノチューブ分散液を得た。
【0057】
表1において、「化合物D量(mol/CNT100g)」は、カーボンナノチューブ100gあたりの化合物D-1~6の含有量(モル)である。「質量比B/A」は、カーボンナノチューブの量(A)に対するCMCの量(B)の比(質量比)である。「質量比D/(C+D)」は、化合物D-1~6と水の合計量(C+D)に対する化合物D-1~6の量(D)の比(質量比)である。「質量比D/B」は、カルボキシメチルセルロース及び/又はその塩の量(B)に対する化合物D-1~6の量(D)の比(質量比)である。「質量比(B+D)/(A+B+D)」は、カーボンナノチューブとカルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と化合物D-1~6の合計量(A+B+D)に対するカルボキシメチルセルロース及び/又はその塩と化合物D-1~6の合計量(B+D)の比(質量比)である。
【0058】
実施例1~10及び比較例1~6のカーボンナノチューブ分散液について、分散性、分散安定性、粘度、電極塗工性及び電池性能(サイクル特性)を評価した。各評価方法は以下のとおりである。
【0059】
[分散性]
カーボンナノチューブ分散液を水にてカーボンナノチューブの含有量が0.1質量%になるよう希釈後、プレパラートを作製し、光学顕微鏡(倍率35倍)で残存粗大粒子を観察した。観察面積5mmに存在する凝集物の大きさを計測し、カーボンナノチューブの分散性を以下の5段階で評価し、3以上を合格とした。
5:0.6mm未満の凝集物が2個以下、0.6mm以上1mm未満の凝集物が1個以下であり、1mm以上の凝集物がない。
4:0.6mm未満の凝集物が3個以上、0.6mm以上1mm未満の凝集物が1個以下であり、1mm以上の凝集物がない。
3:0.6mm以上1mm未満の凝集物が2個以上であり、1mm以上の凝集物がない。
2:1mm以上2mm未満の凝集物があり、2mm以上の凝集物がない。
1:2mm以上の凝集物がある。
【0060】
[分散安定性]
カーボンナノチューブ分散液を1か月静置し、カーボンナノチューブの含有量が0.001質量%になるように水を添加して希釈した後、カーボンナノチューブに特有な波長における吸光度(A1)を紫外可視分光光度計(日立製作所社製、型番:U-3900H)にて測定した。その後、遠心分離機(himac社製、型番:CF16RN)にて5000×g(但し、実施例4では500×g)、25℃の条件下で80分間遠心分離処理を行い、遠心分離処理後の上澄み液の吸光度(A2)を同様に測定した。遠心前後の吸光度変化率を以下の式により求めた。カーボンナノチューブに特有な波長としては、金属型カーボンナノチューブに特有な503nmとした。吸光度変化率の値が大きいほど、経時により凝集したカーボンナノチューブの遠心分離による沈降が少なく、分散安定性に優れることを意味する。分散安定性は以下の5段階で評価し、3以上を合格とした。
遠心前後の吸光度変化率(%)=(A2/A1)×100
5:吸光度変化率の値が82%以上である。
4:吸光度変化率の値が78%以上82%未満である。
3:吸光度変化率の値が74%以上78%未満である。
2:吸光度変化率の値が70%以上74%未満である。
1:吸光度変化率の値が70%未満である。
【0061】
[粘度]
カーボンナノチューブ分散液について、B型粘度計(東機産業株式会社製「TVB-10」)にて粘度を測定した。測定時の条件は60rpm、25℃(3分)とした。各粘度評価結果は以下の5段階で表記した。
5:3Pa・s未満
4:3Pa・s以上4Pa・s未満
3:4Pa・s以上6Pa・s未満
2:6Pa・s以上8Pa・s未満
1:8Pa・s以上
【0062】
[電極塗工性]
負極活物質としてSiO(平均粒径4.5μm、比表面積5.5m/g)とグラファイト(平均粒径18μm、比表面積3.2m/g)を100質量部(含有比率20/80)、導電剤としてカーボンナノチューブ分散液(実施例1~10,比較例1~6)をカーボンナノチューブ量として0.2質量部とアセチレンブラック1.0質量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(第一工業製薬(株)製「セロゲンBSH-6」)の1.5質量%水溶液を固形分として0.65質量部、結着剤として下記合成例P1により得られたポリウレタンのナトリウム塩の水分散体を固形分として3.5質量部、及び、イオン交換水を用い、これらを遊星型ミキサーで混合して、固形分49質量%の負極スラリー(電池電極用組成物)を調製した。集電体として厚み10μmの電解銅箔を用いて、電解銅箔上に上記負極スラリーからなる負極活物質層を形成した。詳細には、上記負極スラリーを塗工機で電解銅箔上にコーティングを行い、ロールプレス処理後、130℃で減圧乾燥することにより、負極活物質7~8mg/cmの負極を得た。この時の表面状態を観察し、以下の5段階で評価し、3以上を合格とした。
5:電極表面の色目は均一であり、凝集物による凹凸、電極が削れた筋引きは見られない
4:電極表面に塗料物性由来の波縞模様は見られるが、凝集物による凹凸、電極が削れた筋引きは見られない
3:電極表面に凝集物による凹凸は見られるが、電極が削れた筋引きが見られない
2:電極表面に凝集物による凹が見られ、電極が削れた筋引きも見られる
1:塗工が困難
【0063】
合成例P1:
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコにポリブタジエンポリオール(エボニック社製「PolyVestHT」、平均水酸基価46.5mgKOH/g、活性水素基数2.32)77.2質量部、ジメチロールプロピオン酸(活性水素基数2)3.0質量部、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート19.8質量部、メチルエチルケトン150質量部を加え、75℃で4時間反応させ、不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量2.15質量%であるウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液を45℃まで冷却し、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム0.89質量部、水300質量部)を徐々に加えてホモジナイザーを使用して乳化分散させた。続いて、ジエチレントリアミン(活性水素基数3)1.6質量部を水100質量部で希釈した水溶液を加え、1時間鎖伸長反応を行った。これを減圧、50℃での加熱下、脱溶剤を行い、不揮発分約32質量%のポリウレタン水分散体を得た。
【0064】
[電池性能(サイクル特性)]
評価用正極の作製:
正極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3(NCM)を100質量部、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ(株)製「Li-400」)を7.8質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン6質量部、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン61.3質量部を遊星型ミキサーで混合し、固形分65質量%になるように正極スラリーを調製した。この正極スラリーを塗工機で厚み15μmのアルミニウム箔上にコーティングを行い、130℃で乾燥後、ロールプレス処理を行い、正極活物質22mg/cmの正極を得た。
【0065】
リチウムイオン二次電池の作製:
上記で得られた正極と電極塗工性評価で作製した負極とを組み合わせて、電極間にセパレータとしてポリオレフィン系(PE/PP/PE)セパレータを挟んで積層し、各正負極に正極端子と負極端子を超音波溶接した。この積層体をアルミラミネート包材に入れ、注液用の開口部を残しヒートシールした。正極面積18cm、負極面積19.8cmとした注液前電池を作製した。次にエチレンカーボネートとジエチルカーボネート(30/70vol比)とを混合した溶媒にLiPF(1.0mol/L)を溶解させた電解液を注液し、開口部をヒートシールし、評価用電池を得た。
【0066】
電池性能の評価:
作製したリチウムイオン二次電池について、20℃における充放電サイクル特性の性能試験を行った。充放電サイクル特性は、以下の条件で測定した。0.5C相当の電流密度で4.2VまでCC(定電流)充電を行い、続いて4.2VでCV(定電圧)充電に切り替え、1.5時間充電したのち、0.5C相当の電流密度で2.7VまでCC放電するサイクルを20℃で300サイクル行い、このときの初回1C放電容量に対する300サイクル後1C放電容量比を1C充放電サイクル保持率とした。この時のサイクル保持率を以下の5段階で評価し、3以上を合格とした。
5:1C充放電サイクル保持率が95%以上である
4:1C充放電サイクル保持率が90%以上、95%未満である
3:1C充放電サイクル保持率が80%以上、90%未満である
2:1C充放電サイクル保持率が70%以上、80%未満である
1:1C充放電サイクル保持率が70%未満である
【表1】
【0067】
結果は、表1に示すとおりである。実施例1~10では、式(1)で表される化合物である化合物D-1又はD-2をCMCとともに用いている。そのため、CMCのみを用いた比較例6に対してカーボンナノチューブの分散性及び分散安定性に優れており、また、粘度が低く、電極塗工性及び電池性能に優れていた。
【0068】
比較例5では、式(1)で表される化合物を用いたものの、CMCを配合していないため、分散性及び分散安定性に劣っていた。比較例1~4は、CMCとともに、アミド、ケトン又はアミンである化合物D-3~6を配合しており、化合物D-3~6が式(1)で表される化合物ではないため、実施例1~10に対して分散性及び/又は分散安定性に劣っており、電池性能も不十分であった。
【0069】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0070】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。