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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】農作業機
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20240712BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20240712BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20240712BHJP
【FI】
A01B69/00 303Z
A01B69/00 303M
A01B69/00 303J
A01C11/02 331D
G05D1/43
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023027040
(22)【出願日】2023-02-24
(62)【分割の表示】P 2020003692の分割
【原出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2023059970
(43)【公開日】2023-04-27
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大久保 樹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-161085(JP,A)
【文献】特開2001-249719(JP,A)
【文献】特開2019-016010(JP,A)
【文献】特開2018-000039(JP,A)
【文献】特開2021-070347(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008917(WO,A1)
【文献】特開2018-062197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01C 11/02
G05D 1/43
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された作業地内の走行経路に沿って自動走行しながら作業を行う農作業機であって、
搭乗者が搭乗している際の走行モードである有人走行モードまたは前記搭乗者が搭乗していない際の走行モードである無人走行モードで前記自動走行を制御する自動走行制御部を備え、
搭乗部に前記搭乗者が搭乗しているか否かを検知する搭乗検知部を備え、
前記自動走行制御部は、前記搭乗部に前記搭乗者が搭乗していることを前記搭乗検知部が検知すると前記自動走行を前記有人走行モードに設定し、前記搭乗部に前記搭乗者が搭乗していないことを前記搭乗検知部が検知すると前記自動走行を前記無人走行モードに設定し、
前記走行経路が複数の往復経路を含み、
前記自動走行制御部は、前記無人走行モードにおいて、農用資材の補給が必要であると判断された場合には、次の往復経路に向かう前に機体を往復経路の終端領域で一旦停止させ、
前記自動走行制御部は、前記有人走行モードにおいて、往復経路の終端領域において機体を一旦停止させ、且つ、前記機体の一旦停止後の前記搭乗者の操作に基づいて、畦への接近又は次工程への方向転換走行をする農作業機。
【請求項2】
前記搭乗検知部は、前記搭乗部に設けられた座席への搭乗者の着座を検出する着座センサ、機体に設けられた操作対象への前記搭乗者の接触を検知するセンサ、及び、非接触の搭乗者検知器の少なくともいずれかを含む請求項1に記載の農作業機。
【請求項3】
有人無人切換操作具に基づき無人モードが選択されている場合であっても、前記搭乗部に前記搭乗者が搭乗していことを前記搭乗検知部が検知すると前記有人走行モードに設定される請求項1又は2に記載の農作業機。
【請求項4】
前記走行経路が往復経路と往復経路同士をつなぐ旋回経路とを含み、
前記無人走行モードにおいて、前記自動走行制御部は、前記旋回経路を走行する際に減速を行う請求項1から3のいずれか1項に記載の農作業機。
【請求項5】
前記有人走行モードにおいて、前記自動走行制御部は、前記走行経路に応じて走行速度が変更し、方向転換時には、他の走行経路に比べて走行速度を低減する請求項1から4のいずれか1項に記載の農作業機。
【請求項6】
前記自動走行制御部は、前記有人走行モードにおいて、機体の変速を、前記無人走行モードの場合よりも緩やかに行う請求項1から5のいずれか1項に記載の農作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業地で自動作業走行を行う農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるように、作業地である圃場を作業走行する作業機(農作業機)には、あらかじめ設定された走行経路を自動走行しながら作業を行うものがある。
【0003】
さらに、このような作業機には、自動走行の際の走行速度を制限するものもある。例えば、旋回走行の際に走行速度を低減させたり、作業地の端部領域において農作業機を一時停止させたりする場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-112071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、農作業機の自動走行における作業効率のさらなる向上を図ることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る農作業機は、設定された作業地内の走行経路に沿って自動走行しながら作業を行う農作業機であって、搭乗者が搭乗している際の走行モードである有人走行モードまたは前記搭乗者が搭乗していない際の走行モードである無人走行モードで前記自動走行を制御する自動走行制御部を備え、搭乗部に前記搭乗者が搭乗しているか否かを検知する搭乗検知部を備え、前記自動走行制御部は、前記搭乗部に前記搭乗者が搭乗していることを前記搭乗検知部が検知すると前記自動走行を前記有人走行モードに設定し、前記搭乗部に前記搭乗者が搭乗していないことを前記搭乗検知部が検知すると前記自動走行を前記無人走行モードに設定定し、前記走行経路が複数の往復経路を含み、前記自動走行制御部は、前記無人走行モードにおいて、農用資材の補給が必要であると判断された場合には、次の往復経路に向かう前に機体を往復経路の終端領域で一旦停止させ、前記自動走行制御部は、前記有人走行モードにおいて、往復経路の終端領域において機体を一旦停止させ、且つ、前記機体の一旦停止後の前記搭乗者の操作に基づいて、畦への接近又は次工程への方向転換走行をする
また、上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る農作業機は、設定された作業地内の走行経路に沿って自動走行しながら作業を行う農作業機であって、運転者が搭乗している際の走行モードである有人走行モードまたは前記運転者が搭乗していない際の走行モードである無人走行モードで前記自動走行を制御する自動走行制御部とを備え、前記自動走行制御部は、前記有人走行モードに設定された時より、前記無人走行モードに設定された時の方が、走行速度を速くするように制御する。
【0007】
自動走行では、運転者の快適性等に考慮して、自動走行制御部は、旋回中の走行速度を低速にしたり、急発進や急停車を抑制したりする。しかしながら、運転者が搭乗していない時にはこのような制御を行う必要がない。そのため、上記のような構成にすることにより、有人走行モードにおいては運転者の快適性等を確保しながら、無人モードにおいては走行速度を早くすることにより、作業効率を向上させることができる。
【0008】
また、前記運転者が搭乗する運転部と、前記運転部に前記運転者が搭乗しているか否かを検知する搭乗検知部とを備え、前記自動走行制御部は、前記運転部に前記運転者が搭乗していることを前記搭乗検知部が検知すると前記自動走行を前記有人走行モードに設定し、前記運転部に前記運転者が搭乗していないことを前記搭乗検知部が検知すると前記自動走行を前記無人走行モードに設定しても良い。
【0009】
このような構成により、前記運転部に前記運転者が搭乗していることが精度良く確認され、適切に有人走行モードまたは無人走行モードに設定することができ、作業効率をより適切に向上させることができる。
【0010】
また、前記運転部に設けられて前記運転者が着座する運転座席を備え、前記搭乗検知部は、前記運転座席に前記運転者が着座していることを検知することにより、前記運転部に前記運転者が搭乗していると判断しても良い。
【0011】
運転座席があると、搭乗した運転者は運転座席に着座することが多い。そのため、上記構成によると、前記運転部に前記運転者が搭乗していることが精度良く確認され、適切に有人走行モードまたは無人走行モードに設定することができ、作業効率をより適切に向上させることができる。
【0012】
また、前記自動走行の操作を行う操作具を備え、前記搭乗検知部は、前記運転者が前記操作具に触れていることを検知することにより、前記運転部に前記運転者が搭乗していると判断しても良い。
【0013】
運転者は作業走行中には操作具に触れていることが多い。そのため、上記構成によると、前記運転部に前記運転者が搭乗していることが精度良く確認され、適切に有人走行モードまたは無人走行モードに設定することができ、作業効率をより適切に向上させることができる。
【0014】
また、前記自動走行における最高速度を複数の候補速度から選択する速度設定部を備え、前記有人走行モードに設定されている際には、前記自動走行制御部は、選択された前記候補速度が前記最高速度になるように前記自動走行を制御し、前記無人走行モードに設定されている際には、前記自動走行制御部は、最も速い前記候補速度が前記最高速度になるように前記自動走行を制御しても良い。
【0015】
このような構成により、有人走行モードおよび無人走行モードにおける走行速度が適切に設定されながら、無人走行モードにおける走行速度が有人走行モードにおける走行速度より適切に速い速度に制御され、作業効率をより適切に向上させることができる。
【0016】
また、前記無人走行モードであっても、前記作業地の畦際において方向転換および旋回する際には、前記自動走行制御部は前記走行速度を減速させても良い。
【0017】
このような構成により、作業地が荒らされることが抑制される。また、畦際には人がいる場合があり、速い走行速度で方向転換・旋回すると、その人に不安感を抱かせる場合がある。特に畦際での方向転換・旋回の際に走行速度を減速することにより、畦際にいる人が抱く不安感を低減することができる。
【0018】
また、前記自動走行の際に用いる資材の残量を検知する資材検知部を備え、前記自動走行は、前記作業地の向かい合う2つの外周辺の間を走行する往復経路と、2つの前記往復経路をつなぐ旋回経路とを走行し、前記資材の補充は前記作業地の外周辺のうちの任意の第1外周辺にて行われ、前記資材が残っていないことを前記資材検知部が検知すると、前記自動走行制御部は、前記第1外周辺に近接する領域での旋回走行を行わずに機体を停止させるように制御し、前記資材が残っていることを前記資材検知部が検知すると、前記自動走行制御部は、前記機体を停止させずに前記旋回走行を行うように制御しても良い。
【0019】
このような構成により、自動走行制御部は、資材の補充が不要な状況では作業走行を継続させ、資材の補充が必要な時にのみ旋回走行の前に機体を停止させて、資材の補充に必要な操作が行える状態で待機するように制御することができる。その結果、不必要な走行の停止を抑制させて、作業効率を向上させることができる。
【0020】
また、前記作業地の外周領域を走行する際には、前記自動走行制御部は前記走行速度を低減させても良い。
【0021】
作業地の外周領域には障害物が存在することが多い。そのため、上記構成によると、障害物が多い領域では走行速度が低減され、障害物を回避する操作を容易に行うことができ、作業効率を向上させることができる。
【0022】
また、障害物を検知する障害物検知部を備え、前記障害物検知部が前記障害物を検知すると、前記自動走行制御部は機体を停止させるように制御しても良い。
【0023】
このような構成により、障害物と衝突することが回避され、その後適切な操作により障害物を回避することが可能となるため、作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】自動走行可能な農作業機の一例である田植機の側面図である。
図2】走行経路が設定される圃場の領域分割を示す説明図である。
図3】外周領域に設定される周回走行経路と田植機の走行とを説明する説明図である。
図4】中央領域に設定される往復走行経路と田植機の走行とを説明する説明図である。
図5】田植機の制御系を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の農作業機の一実施形態として、圃場(「作業地」に相当)を作業走行する田植機を例に説明する。
【0026】
〔全体構造〕
図1に示すように、田植機は、乗用型で四輪駆動形式の走行機体(以下、機体1と称する)を備えている。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構11、リンク機構11を揺動駆動する油圧式の昇降シリンダ11a、リンク機構11の後端部領域にローリング可能に連結される苗植付装置3、および、機体1の後端部領域から苗植付装置3にわたって架設されている施肥装置4等を備えている。苗植付装置3および施肥装置4は、作業装置の一例である。
【0027】
機体1は、走行のための機構として車輪12、エンジン13、および油圧式の無段変速装置14を備えている。車輪12は、操舵可能な左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン13および無段変速装置14は、機体1の前部に搭載されている。エンジン13からの動力は、無段変速装置14等を介して前輪12A、後輪12B、作業装置等に供給される。
【0028】
苗植付装置3は、一例として8条植え形式に構成されている。苗植付装置3は、苗載せ台31、8条分の植付機構32等を備えている。なお、この苗植付装置3は、図示されていない各条クラッチの制御により、2条植え、4条植え、6条植え等の形式に変更可能である。
【0029】
苗載せ台31は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台31は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、縦送り機構33は、苗載せ台31が左右のストローク端に達するごとに、苗載せ台31上の各マット状苗を苗載せ台31の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。8個の植付機構32は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置されている。そして、各植付機構32は、機体1からの動力により、苗載せ台31に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。これにより、苗植付装置3の作動状態では、苗載せ台31に載置されたマット状苗から苗を取り出して水田の泥土部に植え付けることができる。
【0030】
図1に示すように、施肥装置4は、横長のホッパ41、繰出機構42、電動式のブロワ43、複数の施肥ホース44、および、条毎に備えられた作溝器45を備えている。ホッパ41は、粒状または粉状の肥料を貯留する。繰出機構42は、エンジン13から伝達される動力で作動し、ホッパ41から2条分の肥料を所定量ずつ繰り出す。
【0031】
ブロワ43は、機体1に搭載されたバッテリ(図示せず)からの電力で作動し、各繰出機構42により繰り出された肥料を圃場の泥面に向けて搬送する搬送風を発生させる。施肥装置4は、ブロワ43等の断続操作により、ホッパ41に貯留した肥料を所定量ずつ圃場に供給する作動状態と、供給を停止する非作動状態とに切り換えることができる。
【0032】
各施肥ホース44は、搬送風で搬送される肥料を各作溝器45に案内する。各作溝器45は、各整地フロート15に配備されている。そして、各作溝器45は、各整地フロート15と共に昇降し、各整地フロート15が接地する作業走行時に、水田の泥土部に施肥溝を形成して肥料を施肥溝内に案内する。
【0033】
図1に示すように、機体1は、その後部側領域に運転部20を備えている。運転部20は、前輪操舵用のステアリングホイール21(「操作具」に相当)、無段変速装置14の変速操作を行うことで車速を調節する主変速レバー22(「操作具」に相当)、副変速装置の変速操作を可能にする副変速レバー23(「操作具」に相当)、苗植付装置3の昇降操作と作動状態の切り換え等を可能にする作業操作レバー25(「操作具」に相当)、各種の情報を表示(報知)してオペレータに報知(出力)すると共に、各種の情報の入力を受け付けるタッチパネルを有する汎用端末9、および、オペレータ(運転者)用の運転座席16等を備えている。さらに、運転部20の前方に、予備苗を収容する予備苗フレーム17が設けられている。
【0034】
ステアリングホイール21は、非図示の操舵機構を介して前輪12Aと連結されており、ステアリングホイール21の回転操作を通じて、前輪12Aの操舵角が調節される。
【0035】
〔走行経路〕
この田植機による苗植付作業(圃場作業の一例)において用いられる走行経路を以下に説明する。図2に示すように、圃場は、周回走行経路が設定される外周領域と、往復走行経路が設定される中央領域とに区分けされる。田植機は、最初に往復走行経路に沿って中央領域に対する苗植付作業を行い、その後に、周回走行経路に沿って外周領域に対する苗植付作業を行う。
【0036】
図3には周回走行経路が示されている。周回走行経路は、圃場境界線(畔)に平行に延びる周回直線経路と、周回直線経路どうしをつなぐために前進と後進とを取り入れた方向転換経路とからなる。なお、図3において、周回直線経路には符号R1が付与され、方向転換経路には符号R2が付与されている。図4には往復走行経路が示されている。往復走行経路は、多数の互いに略平行な往復経路と、往復経路どうしをつなぐ旋回経路(Uターン経路)からなる。なお、図4において、往復経路にはR3が付与され、旋回経路には符号R5が付与されている。図3および図4において、往復走行経路から周回走行経路に移行するための移行経路には符号R4が付与されている。ここでの例では、移行経路は、旋回経路と類似している。さらに、図3および図4には、田植機の作業幅が符号Wで示され、田植機の圃場への出入口GAが斜線で描かれている。図4には、出入口GAから往復走行経路の走行開始位置Sまでの開始案内経路(符号R6が付与されている)が示されている。旋回経路、方向転換経路、開始案内経路、移行経路では、田植機は作業を行わずに走行するので、これらの経路は点線で示される。周回直線経路および往復経路では、田植機は作業を行いながら走行するので、これらの経路は実線で示される。
【0037】
〔制御系〕
次に、図1を参照しながら図5を用いて、田植機の制御系について説明する。
【0038】
田植機の制御系の中核をなす制御ユニット6は、測位ユニット8、着座センサ26(「搭乗検知部」に相当)、自動切換スイッチ27、走行センサ群28、作業センサ群29、速度設定部30からの信号が入力される。制御ユニット6から走行機器群1Aと作業機器群1Bと汎用端末9とに制御信号が出力される。
【0039】
測位ユニット8は、機体1の位置および方位を算出するための測位データを出力する。
測位ユニット8には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール8Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール8Bが含まれている。
【0040】
着座センサ26は、運転者が運転座席16に着座しているか否かを検知するセンサである。自動切換スイッチ27は運転部20に設けられ、機体1を自動で走行させる自動走行モードと手動で走行させる手動走行モードとを選択するスイッチである。走行センサ群28には、操舵角、主変速レバー22や副変速レバー23の操作位置、車速、エンジン回転数等の状態およびそれらに対する設定値を検出する各種センサが含まれている。作業センサ群29には、リンク機構11、苗植付装置3、施肥装置4の状態およびそれらに対する設定値を検出する各種センサが含まれている。
【0041】
走行機器群1Aには、例えば、前輪12Aや無段変速装置14が含まれる。制御ユニット6からの制御信号に基づいて、前輪12Aの操舵角が制御されると共に、無段変速装置14が操作されることで車速が制御される。
【0042】
作業機器群1Bには、例えば、昇降シリンダ11aや苗植付装置3や施肥装置4が含まれている。制御ユニット6からの制御信号に基づいて、苗植付装置3の苗取り量が調節されると共に、施肥装置4が施肥する施肥量が調節される。
【0043】
速度設定部30は運転部20に設けられ、自動走行の際、複数の候補速度から選択された候補速度を最高速度として設定することができる。後述するように、自動走行における走行速度は、設定された最高速度に応じて制御される。
【0044】
制御ユニット6は、走行制御部61、作業制御部62、自車位置算出部63、走行経路設定部64、作業パラメータ設定部65を備える。制御ユニット6は、ECUやCPU等のプロセッサを含んで構成される。
【0045】
自車位置算出部63は、測位ユニット8から逐次送られてくる衛星測位データに基づいて、機体1の地図座標(自車位置)を算出する。
【0046】
この田植機は、自動走行と手動走行とが可能である。そのため、走行制御部61は、自動切換スイッチ27による指令に基づいて、自動走行が行われる自動走行モード、または手動走行が行われる手動走行モードでの制御を行う。走行制御部61は自動走行制御部611および手動走行制御部612を備え、自動走行モードでは自動走行制御部611が動作し、手動走行モードでは手動走行制御部612が動作する。自動走行モードにおいて、自動走行制御部611は、自車位置と目標走行経路とを比較して算出された横偏差および方位偏差に基づいて、横偏差および方位偏差が縮小するように、操舵制御量を演算する。
操舵制御量に基づいて、前輪12Aの操舵角が調節される。また、自動走行制御部611は、速度設定部30で選択された最高速度以下の速度で走行するように走行速度を制御する。手動走行モードにおいて、手動走行制御部612は、ステアリングホイール21の操作量に基づいて、前輪12Aの操舵角を調節する。手動走行制御部612は、主変速レバー22や副変速レバー23の操作位置に応じた走行速度で走行するように無段変速装置14等を制御する。
【0047】
また、自動走行制御部611は、自動走行において、無人走行モード時と有人走行モード時とで、異なる制御を行う。具体的には、後述するように、自動走行制御部611は、無人走行モード時には有人走行モード時よりも走行速度が速くなるように制御する。なお、自動走行制御部611は、運転者が運転座席16に着座していることを着座センサ26が検知している際には有人走行モードに設定し、運転者が運転座席16に着座していることを着座センサ26が検知していない際には無人走行モードに設定する。
【0048】
走行経路設定部64は、自動走行における目標走行経路である走行経路を設定し、自動走行制御部611に与える。
【0049】
作業パラメータ設定部65は、植付機構32の調節量を設定し、作業制御部62に送信する。植付機構32の調節量は、自動走行モードにおいては目標走行経路の走行位置に応じて設定された作業機器群1Bが行う作業に応じて設定され、手動走行モードにおいては作業センサ群29で検出された設定値に応じて設定される。作業制御部62は、作業パラメータ設定部65から受信した信号に基づいて、作業機器群1Bを制御する。
【0050】
〔自動走行〕
次に、図1図4図5を用いて、自動走行における走行制御について説明する。
【0051】
上述のように、自動走行制御部611は、自動走行を制御する。有人走行モードにおいては、走行経路に応じて走行速度が変更される。例えば、周回走行経路において、方向転換経路R2では周回直線経路R1に比べて走行速度が低減される。また、往復走行経路において、旋回経路R5では往復経路R3に比べて走行速度が低減される。
【0052】
旋回経路R5の走行と往復経路R3の走行との間には走行速度に差があるため、機体1は加速・減速を行う。また、作業走行に応じて、機体1は加速・減速を行う場合がある。
運転者の快適性や走行時の機体1の安定性等を考慮して、有人走行モードにおいては、加速・減速は緩やかに行われる。
【0053】
また、自動走行制御部611は、速度設定部30にて選択されて設定された最高速度を考慮して走行速度を決定する。例えば、自動走行制御部611は、周回直線経路R1および往復経路R3を走行する際には設定された最高速度で走行するように制御し、方向転換経路R2および旋回経路R5を走行する際には最高速度より遅い速度で走行するように制御する。
【0054】
さらに、自動走行制御部611は、圃場の外周領域における周回直線経路R1’を走行する際の走行速度を、他の周回直線経路R1での走行速度より遅くすることができる。圃場の外周領域には障害物がある場合がある。走行中に障害物と衝突すると機体1が損傷する場合がある。圃場の外周領域における周回直線経路R1’の走行速度が低減されることにより、機体1と障害物との衝突を回避したり、機体1の損傷を低減させたりすることが可能となる。
【0055】
着座センサ26の検知結果に応じて無人走行モードが設定された場合、自動走行制御部611は、有人走行モードの際に比べて走行速度が速くなるように制御する。例えば、速度設定部30によって選択された候補速度に関係なく、自動走行制御部611は、選択可能な候補速度のうちの最も早い候補速度を最高速度として設定する。そして、自動走行制御部611は、周回直線経路R1および往復経路R3を走行する際に設定された最高速度で走行するように制御する。さらに、自動走行制御部611は、方向転換経路R2および旋回経路R5を走行する際には走行速度を減速しても良いが、方向転換経路R2および旋回経路R5を走行する際にも設定された最高速度で走行するように制御しても良い。走行速度を減速した場合は旋回跡により圃場が荒らされることが抑制され、減速しない場合は作業効率が向上する。また、畦際には人がいる場合があり、速い走行速度で方向転換・旋回すると、その人に不安感を抱かせる場合がある。特に畦際での方向転換・旋回の際に走行速度を減速することにより、畦際にいる人が抱く不安感を低減することができる。また、自動走行制御部611は、無人走行モードにおける加速・減速を、有人走行モードにおける加速・減速に比べて急峻にしても良い。無人走行モードにおける加速・減速は、機体1が安定して走行できる範囲でできるだけ急峻に行われることが好ましい。
【0056】
以上の構成により、無人走行モードにおいては、運転者の快適性等を考慮することなく、走行速度を早くすることができるため、作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0057】
さらに、無人走行モードが設定された場合においても、自動走行制御部611は、圃場の外周領域における周回直線経路R1’を走行する際の走行速度を、他の周回直線経路R1での走行速度より遅くしても良い。これにより、機体1の損傷を低減させたりすることが可能となる。
【0058】
〔別実施形態〕
(1)無人走行モードと有人走行モードとの切り替えの契機として用いられるセンサは、着座センサ26に限らず、様々な搭乗検知器(「搭乗検知部」に相当)が用いられても良い。搭乗検知器は、運転者が運転部20に搭乗しているか否かを判定できればよく、運転者が運転部20に搭乗している場合に有人走行モードが設定される。例えば、搭乗検知器は、運転者が主変速レバー22やステアリングホイール21等の操作具に触れているか否かを検知するセンサ等である。このような構成であっても、運転者が運転部20に搭乗していることを検知することができる。
【0059】
さらに、着座センサ26等の搭乗検知器に代えて、あるいは搭乗検知器と共に、有人無人切替スイッチ(図示せず)が設けられても良い。有人無人切替スイッチを運転者が操作することにより、手動で無人走行モードと有人走行モードとの切り替えが行われる。搭乗検知器と共に有人無人切替スイッチが設けられている場合、有人無人切替スイッチにより無人走行モードが選択されていても、着座センサ26等の搭乗検知器により、運転者が運転部20に搭乗していることが検知された場合には、自動的に有人走行モードに設定される。以上により、適切に無人走行モードと有人走行モードとの切り替えが行われ、より確実に作業効率を向上させることができる。
【0060】
(2)苗載せ台31にマット状苗を補給する際には、機体1は出入口GAが設けられる圃場の1つの外周辺L(「第1外周辺」に相当)に移動し、この外周辺Lに沿って機体1を停止させた状態で、畦から苗載せ台31にマット状苗が補給される。この際、機体1は、外周辺Lに向かって往復経路R3を走行した後、旋回経路R5を走行せず、まっすぐ外周辺Lに向かう。有人走行モードでの自動走行の際には、マット状苗の補給を行うか否かを、運転者や監視者が判断できるように、外周辺Lに向かって走行する往復経路R3の終端部近傍で機体1は所定の時間一旦停止する。運転者や監視者は、機体1が一旦停止している間に、マット状苗の補給を行うか否かを判断し、マット状苗の補給を行うと判断した場合は、自動走行または手動走行で、外周辺Lに沿った位置まで機体1を移動させる操作を行う。なお、マット状苗が補給される外周辺Lは出入口GAが設けられる外周辺に限らず、任意の外周辺とすることもできる。
【0061】
このようなマット状苗の補給動作を考慮して、上記各実施形態において、本実施形態に係る田植機は、さらに、苗載せ台31にマット状苗が所定量残っているか否かを検知する苗検知部(「資材検知部」に相当)40を備えても良い。無人走行モードでの自動走行において、自動走行制御部611は、外周辺Lに向かって走行する往復経路R3の端部領域に機体1が差し掛かった際に、苗検知部40の検出結果を確認する。そして、苗が所定量より少なくマット状苗を補給する必要があると判断した場合、自動走行制御部611は、外周辺Lに向かって走行する往復経路R3の終端部近傍で機体1を停止させる。苗が十分に残っている場合は、自動走行制御部611は、外周辺Lに向かって走行する往復経路R3の端部で機体1を停止させずにそのまま自動走行を継続する。
【0062】
これにより、不必要な停止期間を縮減することができ、自動走行における作業効率の向上を図ることができる。
【0063】
(3)上記各実施形態において、本実施形態に係る田植機は、さらに、障害物検知部46を備えても良い。障害物検知部46は、走行中に機体1の前方に障害物がないか否かを検知し、自動走行制御部611に検知結果を通知する。自動走行制御部611は、障害物検知部46から機体1の進行方向に障害物が存在する旨の通知を受けると、機体1を減速させ、その後停止させる。
【0064】
このような構成により、自動走行中に機体1が障害物と衝突することを抑制することができる。特に、無人走行モードで自動走行している際には、走行速度も速く、運転者も搭乗しておらず、障害物を回避することが困難である。障害物検知部46を設け、障害物が検知されると機体1を停止させることにより、走行速度を速めて作業効率を向上させながら、自動走行中に機体1が障害物と衝突することを抑制することができる。
【0065】
(4)上記各実施形態において、周回直線経路R1,R1’および往復経路R3は、直線に限らず、一部または全部が緩やかに湾曲していても良く、ジグザクの経路や蛇行した経路であっても良い。
【0066】
(5)制御ユニット6が備える、走行制御部61、作業制御部62、自車位置算出部63、走行経路設定部64、作業パラメータ設定部65は、このような機能ブロックに分割されても良いが、これらのうちの1または複数の機能を備える機能ブロックがまとめられても良く、複数の機能ブロックに分割されても良い。また、制御ユニット6の機能の全部または一部は、ソフトウェアで実現されても良い。ソフトウェア(プログラム)は、図示しない任意の記憶部に記憶され、制御ユニット6が備えるプロセッサまたは他のプロセッサにより実行される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の農作業機は、田植機に限らず、コンバインやトラクター等の作業地を自動走行しながら作業を行う農作業機であっても良く、特定の作業地を自動走行しながら作業を行う種々の作業機に適用することもできる。
【符号の説明】
【0068】
16 運転座席
20 運転部
25 作業操作レバー(操作具)
26 着座センサ(搭乗検知部)
30 速度設定部
611 自動走行制御部
L 外周辺(第1外周辺)
R3 往復経路
R5 旋回経路
図1
図2
図3
図4
図5