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特許75201742液混合用マイクロスタティックミキサー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】2液混合用マイクロスタティックミキサー
(51)【国際特許分類】
   B01F 33/301 20220101AFI20240712BHJP
   G01N 1/38 20060101ALI20240712BHJP
   B01F 25/4314 20220101ALI20240712BHJP
   B01F 35/51 20220101ALI20240712BHJP
   B01F 23/45 20220101ALI20240712BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20240712BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20240712BHJP
   B01F 101/23 20220101ALN20240712BHJP
【FI】
B01F33/301
G01N1/38
B01F25/4314
B01F35/51
B01F23/45
G01N30/34 A
B81B1/00
B01F101:23
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023028959
(22)【出願日】2023-02-27
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 和晃
(72)【発明者】
【氏名】深川 友貴
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-136558(JP,A)
【文献】特開2006-231255(JP,A)
【文献】特開2007-254176(JP,A)
【文献】特開平09-103734(JP,A)
【文献】特開2008-114151(JP,A)
【文献】特開2009-125648(JP,A)
【文献】特開2022-063804(JP,A)
【文献】実開昭59-133635(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 23/40-47
B01F 25/40-46
B01F 33/30-3039
B01F 35/50-53
B81B 1/00
C12M 1/02
G01N 1/00-44
G01N 30/26-46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相背反する一対の第1端面および第3端面と、第2端面とを有する本体と、前記本体の第1端面、第2端面、及び第3端面に形成され、第1液を入力する第1チューブ、第2液を入力する第2チューブ、及び前記第1液および第2液の混合液である第3液を出力する第3チューブを接続する第1継手、第2継手、及び第3継手が螺合される第1接続部、第2接続部、及び第3接続部と、を備える2液混合用マイクロスタティックミキサーであって、
前記本体内に直線状に形成され、前記第1接続部と第3接続部とを接続する第1通路と

前記本体内に形成され、前記第1通路から分岐して前記第2端面に開口する第2通路と、
前記第1通路内に収容された長手状の混合エレメントと、を含み、
前記長手状の混合エレメントは、前記第3接続部に螺合された第3継手により接続された前記第3チューブに当接して位置決めされ
前記本体は、厚肉板状の透明な部材から一体に構成されている
ことを特徴とする2液混合用マイクロスタティックミキサー。
【請求項2】
前記混合エレメントの上流側の端部は、前記第1通路と前記第2通路との合流部内に位置している
ことを特徴とする請求項1の2液混合用マイクロスタティックミキサー。
【請求項3】
前記混合エレメントの上流端は、前記第1通路内の第1液に対して前記第2通路により入力される第2液の合流点よりも上流側に位置している
ことを特徴とする請求項2の2液混合用マイクロスタティックミキサー。
【請求項4】
前記長手状の混合エレメントは、帯状部材が軸線まわりに180度右ねじれに回転する右ねじれ部と軸線まわりに180度左ねじれに回転する左ねじれ部とが軸線方向に繰り返すように一体に備え、前記右ねじれ部の前記軸線方向の直線状端縁と前記右ねじれ部の直線状端縁に隣接する前記左ねじれ部の前記軸線方向の直線状端縁とは直交している
ことを特徴とする請求項1の2液混合用マイクロスタティックミキサー。
【請求項5】
前記第3接続部に螺合された第3継手により接続された前記第3チューブは、前記第3継手により縮径されており、前記長手状の混合エレメントは、縮径された前記第3チューブの端面に当接して位置決めされている
ことを特徴とする請求項1乃至の2液混合用マイクロスタティックミキサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微小流量対応の2液混合用のマイクロスタティックミキサーに係り、特に、小径となるほど脆弱な混合エレメントを取り出すことが可能で洗浄性に優れる2液混合用マイクロスタティックミキサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一定の外径寸法を有する長手状の混合エレメントと、 一定の内径寸法を有し、前記長手状の混合エレメントを収容する薄肉円筒状の円筒体と、前記円筒体の端部を送液チューブに対して液密としつつ本体に固定する継手と、を有する2液混合用のスタティックミキサーが知られている。たとえば、特許文献1に記載のスタティックミキサーがそれである。
【0003】
このような2液混合用のスタティックミキサーによれば、継手を締めつけることで円筒体が液密に固定されるが、継手の締め付けによって円筒体が塑性変形し、混合エレメントを抜き取ることができず、混合エレメントおよびそれを収容した円筒体の清掃を十分に行なうことができなかった。たとえば、液体試料内の微量成分を分析する液体クロマトグラフィーの分野では、スタティックミキサーの混合エレメント及びそれを収容する円筒体について十分な清掃を行なうことが望まれているが、清掃時に混合エレメントが破損するという問題がった。特に例えば試験や研究等のために少量の混合流体を得るため、小径の混合エレメントが用いられるマイクロスタティックミキサーでは、そのような混合エレメントは小径となるほど肉厚も薄くなり且つ右ねじれ部と左ねじれ部との間を接続する断面積が小さくなることから脆弱性が高くなるので、そのような不都合が顕著であった。
【0004】
これに対し、特許文献2に開示されているように、混合エレメントを収容する円筒体に替えて、本体を分割可能に構成し、混合エレメントを収容する円柱状の混合室を分割面に設けるとともに、混合室の中心線を通る分割面で本体を第1プレート及び第2プレートに分割し、それら第1プレート及び第2プレートをスペーサを挟んで相互に締結するようにした2液混合用のマイクロスタティックミキサーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-136558号公報
【文献】特開2022-063804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されているマイクロスタティックミキサーによれば、第1プレートおよび第2プレートの相互の締結を解放することで、混合室を構成する一方の凹溝上に混合エレメントを露出させた後、混合エレメントおよび混合室を清掃することができ、それらの清掃後は、第1プレートに形成された凹溝および第2プレートに形成された凹溝のいずれか一方に混合エレメントを載置した後、それら第1プレートおよび第2プレートをスペーサを挟んで相互に締結することで、混合エレメントの破損が抑制される。
【0007】
しかしながら、上記従来のマイクロスタティックミキサーは、複数種類の液体を所定の割合で合流する混合器から供給された混合液をさらに混合するものに過ぎず、2液混合のために流体容積が所定以上必要となるだけでなく、マイクロスタティックミキサーの本体は、第1プレートおよび第2プレートとそれらに挟まれるスペーサとから構成されているため、第1プレートおよび第2プレートとそれらに挟まれるスペーサとの組み合わせ面が混合室を縦断しているため、混合液等の漏洩の可能性があると共に、スタティックミキサーの部品点数が多く且つ躯体が大きくなるという問題があった。
【0008】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、混合液等の漏洩の可能性がなく、部品点数が少なく且つ小型な2液混合用のマイクロスタティックミキサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために、本発明の要旨とするところは、(a)相背反する一対の第1端面および第3端面と、第2端面とを有する本体と、前記本体の第1端面、第2端面、及び第3端面に形成され、第1液を入力する第1チューブ、第2液を入力する第2チューブ、及び前記第1液および第2液の混合液である第3液を出力する第3チューブを接続する第1継手、第2継手、及び第3継手が螺合される第1接続部、第2接続部、及び第3接続部と、を備える2液混合用マイクロスタティックミキサーであって、(b)前記本体内に直線状に形成され、前記第1接続部と第3接続部とを接続する第1通路と、(c)前記本体内に形成され、前記第1通路から分岐して前記第2端面に開口する第2通路と、(d)前記第1通路内に収容された長手状の混合エレメントと、を含み、()前記長手状の混合エレメントは、前記第3接続部に螺合された第3継手により接続された前記第3チューブに当接して位置決めされ、(f)前記本体は、厚肉板状の透明な部材から一体に構成されていることにある。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成された2液混合用マイクロスタティックミキサーによれば、前記本体内に直線状に形成され、前記第1接続部と第3接続部とを接続する第1通路と、前記本体内に形成され、前記第1通路から分岐して前記第2端面に開口する第2通路と、前記第1通路内に収容された長手状の混合エレメントと、を含み、前記長手状の混合エレメントは、前記第3接続部に接続された第3継手により接続された前記第3チューブに当接して位置決めされている。これにより、長手状の混合エレメントは、直線状に形成された第1通路内に収容されていて、厚肉の一体構成で高剛性である本体内に位置していて、清掃時には抜き取り可能であるため、高い洗浄性が得られる。また、本体が一体に構成されることができるため、混合液の漏洩の可能性がなく、マイクロスタティックミキサーの部品点数が少なくなり、且つ躯体が小さくなる。さらに、前記長手状の混合エレメントは、前記第3接続部に接続された第3継手により接続された前記第3チューブに当接して位置決めされるので、比較的小径の混合エレメントの移動を阻止するためにストッパを設ける必要が無いので、長手状の混合エレメントの清掃時の抜き取りの障害にならない利点がある。さらにまた、前記本体は、厚肉板状の透明な部材から一体に構成されているので、第1液および第2液の混合状態を目視により観察できるとともに、混合液の漏洩の可能性がなく、マイクロスタティックミキサーの部品点数が少なくなって躯体が小さくなる。
【0011】
好適には、前記混合エレメントの上流側の端部は、前記第1通路と前記第2通路との合流部内に位置している。これにより、前記第1通路により導かれた第1液と前記第2通路により導かれた第2液とが合流後、直ちに混合エレメントによるそれら第1液および第2液の混合が開始されるので、微小流量での混合性能が得られる。特に、第1液および第2液が互いに反応して副生成物を生成する性質を有する場合において、第1液および第2液の合流後から混合エレメントに到達するまでの間に距離があると、その間に副生成物が生成されるため、その後に混合エレメントによる混合が開始されても十分な混合性能が得られ難いものであった。このような不都合は、第1液および第2液が微小流量ほど顕著である。しかし、第1液と第2液とが合流後、直ちに混合エレメントによる混合が開始されると、副生成物の生成前に混合エレメントによる混合が開始されるので、高い混合性能が得られる。
【0012】
好適には、前記混合エレメントの上流端は、前記第1通路内の第1液に対して前記第2通路により入力される第2液の合流点よりも上流側に位置している。これにより、前記混合エレメントの上流端は、前記混合エレメントの上流端が前記第1液に対する前記第2液の合流点よりも下流側に位置している場合よりも、総流量が1mL/min以下の微小流量の場合においても、高い混合性能が得られる。
【0014】
好適には、前記長手状の混合エレメントは、帯状部材が軸線まわりに180度右ねじれに回転する右ねじれ部と軸線まわりに180度左ねじれに回転する左ねじれ部とが軸線方向に繰り返すように一体に備え、前記右ねじれ部の前記軸線方向の直線状端縁と前記右ねじれ部の直線状端縁に隣接する前記左ねじれ部の前記軸線方向の直線状端縁とは直交している。これにより、前記第1通路内において合流した第1液と第2液とが、前記第1通路内に収容された長手状の混合エレメントによって効率良く混合される。
【0015】
好適には、前記第3接続部に螺合された第3継手により接続された前記第3チューブは、前記第3継手により縮径されており、前記長手状の混合エレメントは、縮径された前記第3チューブの端面に当接して位置決めされている。これにより、混合エレメントを位置決めするストッパを前記本体に形成することが不要となり、清掃時において前記混合エレメントの抜き取りの自由度が高められる。
【0016】
前記混合エレメントは、前記右ねじれ部及び左ねじれ部が交互に一体的に設けられたものが用いられてもよいが、右まわりおよび左まわりの何れか一方向へ捩じっただけのねじれ部が連なるエレメントや、放射状に複数の混合羽根が設けられた混合エレメントなど、混合室内を流動する流体を混合することができる種々の態様が可能である。また、混合エレメントは、軸線まわりに回転可能で且つ軸方向へ移動可能に混合室内に配設されてもよいが、ストッパ等により軸線まわりに回転不能に混合室内に配設したり、軸線方向への移動不能に混合室内に配設したりしても良い。混合対象の流体としては、各種の液体が適当であるが、液体以外の流体を対象とすることもできる。
【0017】
本発明は、例えば試験や研究等のために少量の混合流体を得るため、或いは少量の流体を混ぜ合わせて反応させるため、好適には、外径寸法が2mm以下、さらには1mm以下の、小径の混合エレメントを使用するとともに、混合室の円筒内周面との間のクリアランスが0.05mm以下、更には0.03mm以下とされる、小型の2液混合用スタティックミキサーに適用される。しかし、外径寸法が2mmよりも大きい混合エレメントを使用するスタティックミキサーや、混合エレメントと混合室の円筒内周面との間のクリアランスが0.05mmよりも大きいスタティックミキサーにも適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例であるスタティックミキサーを示す正面図である。
図2図1のスタティックミキサーの本体内に形成された第1通路内に収容された混合エレメントを説明する図である。
図3図1のスタティックミキサーの本体に形成された接続部にそれぞれ螺合される継手を説明する斜視図である。
図4図3の継手が図1のスタティックミキサーの本体に形成された第2接続部に螺合された状態を説明する図である。
図5図1の本体に形成された第1通路内に収容された混合エレメントの上流端の位置を説明する図であって、混合エレメントの上流端が合流点よりも上流側に位置している場合を示している。
図6】従来の2液混合用のスタティックミキサーを説明する図である。
図7図1のスタティックミキサーの混合性能を、図6の従来のミキサーと対比して説明する図表である。
図8】本発明の他のミキサーの要部を説明する、図5に相当する図であって、混合エレメントの上流端が合流点よりも下流側に位置している場合を示している。
図9図1のスタティックミキサーに対しての混合エレメント位置を替えた実施例2の場合のスタティックミキサー混合性能を、説明する図表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。以下の実施例において、図は説明のために適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明の一実施例である2液混合用のマイクロスタティックミキサー(以下、ミキサーという)10を示す正面図である。ミキサー10は、相背反する互いに平行な一対の第1端面12および第3端面16と、第1端面12に隣接し且つ第1端面12に対して傾斜した第2端面14とを有する、ブロック状すなわち厚肉板状の本体18を備えている。
【0021】
本体18は、透明な樹脂から構成され、高剛性を備えている。本体18は、たとえば、アクリル樹脂から成る。しかし、本体18は、必ずしも透明な部材から構成されていなくてもよく、たとえば厚肉板状の不透明な金属部材から構成されていてもよい。
【0022】
本体18の第1端面12、第2端面14、及び第3端面16には、円穴状の第1接続部20、第2接続部22、及び第3接続部24が、開口するように形成されている。第1液F1を入力する第1チューブ26を接続する第1継手28が、第1接続部20に螺合されている。第2液F2を入力する第2チューブ30を接続する第2継手32が、第2接続部22に螺合されている。第1液および第2液の混合液である第3液F12を出力する第3チューブ34を接続する第3継手36が、第3接続部24にそれぞれ螺合されている。第1チューブ26、第2チューブ30、及び第3チューブ34は、たとえば内径1mmφ程度の合成樹脂製或いは金属製の軟質のパイプである。第1継手28、第2継手32、及び第3継手36は、たとえば合成樹脂製であり、第1チューブ26、第2チューブ30、及び第3チューブ34を締め付ける。
【0023】
本体18内には、第1接続部20内および第3接続部24に開口してそれら第1接続部20および第3接続部24を接続する第1通路38が、直線状に形成されている。また、本体18内には、第1通路38から斜めに分岐して第2端面14に開口する第2接続部22内に開口する第2通路40が、形成されている。第2通路40は第1通路38と同じ内径たとえば1mmφの内径を有している。本体18内では、第1通路38により導かれた第1液F1と第2通路40により導かれた第2液F2とが合流させられ、混合エレメント42により混合される。本体18は、十分な剛性を得るために、たとえば、第1通路38の径の5~20倍の厚み、好適には8~15倍の厚みとされている。
【0024】
本体18内に直線的に形成されている第1通路38内には、図2に例示する長手状の混合エレメント42が同心に収容されている。混合エレメント42は、帯状部材が軸線Sまわりに180度右ねじれに回転する右ねじれ部42aと軸線Sまわりに180度左ねじれに回転する左ねじれ部42bとが軸線方向に交互繰り返すように一体に備えられている。右ねじれ部42aの軸線S方向の直線状端縁Eaと右ねじれ部42aの直線状端縁Eaに隣接する左ねじれ部42bの軸線S方向の直線状端縁Ebとは直交し、軸線Sまわりに90°の角度が形成されている。すなわち、右ねじれ部42aと左ねじれ部42bとは、軸線Sまわりに90°ずつ位相をずらして交互に同じ数だけ設けられている。
【0025】
混合エレメント42は、好適には、右ねじれ部42aおよび左ねじれ部42bを交互に同じ数だけ備えているので、第1通路38内を流動する流体によって混合エレメント42に加えられる右回りトルクおよび左回りトルクが略同じになり、回転ストッパ等を設けることなく混合エレメント42の回転が抑制される。また、右ねじれ部42aおよび左ねじれ部42bを同じ数だけ備えていなくても交互に備えているので、個数が多くなるほど、第1通路38内を流動する流体によって混合エレメント42に加えられる右回りトルクおよび左回りトルクの差が小さくなり、混合エレメント42の回転が抑制される。
【0026】
上記のように、第1通路38内に混合エレメント42が設けられている結果、第1通路38内の空間は、第1液F1及び第2液F2を混合する混合室として機能している。第1液F1および第2液F2は、混合エレメント42の捩れに沿って流動させられる際に、軸線Sまわりに90°位相がずれた右ねじれ部42aおよび左ねじれ部42bによって分割や合流、右旋回、左旋回を繰り返して混合される。本実施例のスタティックミキサー10は、例えば試験や研究等のために少量の流体、例えば液体を混合するためのもので、混合エレメント42の外径寸法Φはたとえば1mmφ程度であり、その混合エレメント42とそれを収容する第1通路(混合室)38の円筒内周面との間のクリアランスCは0.03~0.05mmである。
【0027】
本実施例の混合エレメント42は、たとえばレーザビーム加工、電子ビーム加工,放電加工、3Dプリンタなどによりステンレス鋼等の金属材料、セラミックス等の無機材料、合成樹脂材料から製作される。混合エレメント42の右ねじれ部42aと左ねじれ部42bとの間はそれらの厚み程度の微小な面積で接続されているので、僅かな外力で損傷を受け易い比較的脆弱な性質を有している。
【0028】
第1継手28、第2継手32、第3継手36は、図3の斜視図に示す形状を同様に有している。第1継手28、第2継手32、第3継手36は、第1チューブ26、第2チューブ30、第3チューブ34を挿通させる中心穴46と、回転操作力が加えられる六角の操作部48と、操作部48から突き出す雄ねじ部50と、雄ねじ部50の先端に形成されたテーパ部52とを備えている。
【0029】
図4は、第3チューブ34を接続する第3継手36が、第3接続部24に螺合されている状態を拡大して示す断面図である。図4に示すように、第3継手36が締め付けられると、混合エレメント42の外径と同様の内径たとえば1mmφ程度の内径を有する第3チューブ34は、第3継手36のテーパ部52が第3接続部24内に形成されているテーパ状内周面24tに圧接することで、テーパ部52の先端部が縮径して第3チューブ34の端部が縮径方向に変形させられ、第3チューブ34の端面が小径側に僅かに変形させられている。1mmφ程度の径を有する混合エレメント42の下流端は、縮径された第3チューブ34の端面に当接し、これにより、長手状の混合エレメント42が第1通路38内で位置決めされている。
【0030】
このように位置決めされた混合エレメント42においては、図5に示されるように、第2通路40は、第1通路38の混合エレメント42の上流側端部が位置している部分に合流している。すなわち、第1通路38に対する第2通路40の合流部内に、混合エレメント42の上流側端部が位置している。合流部とは、軸線S方向において、第2通路40の第1通路38に対する開口のうちの最上流側位置P2と第2通路40の第1通路38に対する開口のうちの最下流側位置P4との間である。詳細には、混合エレメント42の上流端の位置P1は、軸線S方向において、第1通路38に対する第2通路40の合流点よりも右ねじれ部42a又は左ねじれ部42bの全長の半分程度の距離Aだけ上流側に位置している。合流点とは、第2通路40の第1通路38に対する開口のうちの最上流側位置P2である。このように、混合エレメント42の上流側端部が上記合流部内に位置している場合、特に、混合エレメント42の上流端の位置P1を合流点P2よりも上流側に配置した場合には、後述のように、特に総流量が5mL/min以下の極低流量の混合において、高い混合性能が得られる。
【0031】
以上のように構成されたミキサー10の洗浄時には、第1チューブ26を接続する第1継手28が、第1接続部20から取り外され、第2チューブ30を接続する第2継手32が、第2接続部22から取り外され、第3チューブ34を接続する第3継手36が、第3接続部24から取り外される。この状態において、第1通路38は直線状であることから、直線状の混合エレメント42を第1通路38内から容易に抜き出すことができ、高い洗浄性が得られる。洗浄後には、直線状の混合エレメント42を第1通路38内へ容易に挿入することができる。
【0032】
(実験例1)
本発明者等は、この本実験例1において、図1に示すミキサー10と、図6に示す従来の2液混合用ミキサーとを用いて、それらの混合性能に対応する吸光度を、総流量が0.05~10mL/minの範囲について、以下の混合試験条件を用いてDushman反応に基づいてそれぞれ測定した。図7は、それらの測定値を示している。Dushman反応では、(1)式と(2)式の反応が競合するが、(1)式の反応の方がより早い。このため、競合が迅速であるほど、(3)式の反応で生じるI の生成量が減少するため、I の吸光度から混合性能を評価できる。すなわち、I の吸光度が低いほど、混合性能が高い。(1)式、(2)式、(3)式において、K、K、Kは、平衡定数であり、k、k、kは、反応速度定数である。以下の混合試験条件で用いられる第1液F1と第2液F2とは、相互の反応により副生成物(たとえば(3)式のI )を生成する性質(物性)を備えている。
【数1】

【0033】
図6に示す従来の2液混混合用ミキサーでは、第1液F1を送る第1管路PK1と第2液F2を送る第2管路PK2とが3方ブロックBL内で対向させられており、3方ブロックBL内で第1液F1と第2液F2とが混合された混合液は、長手状の混合エレメント42を収容した薄肉且つ直円筒管状の第3管路PK3へ送られ、混合エレメントにより混合された後、第3液F12として出力されるようになっている。円筒状金属管から成る第3管路PK3は、継手CPの締め付けにより変形し易く、混合エレメント42の出し入れに支障が発生しやすい欠点がある。また、第1液F1と第2液F2との合流から混合エレメント42により混合が開始されるまでの距離或いは時間が大きいので、後述のように、特に総流量が5mL/min以下の極低流量の混合において、高い混合性能が得られない。
【0034】
(混合試験条件)
第1液F1:HCl(濃度=0.0020kmol/m
第2液F2:HBO(濃度=0.045kmol/m)と、NaOH(濃度=0.045kmol/m)と、KI(濃度=0.016kmol/m)と、KIO(濃度=0.0030kmol/m)との混合液
定量ポンプ:ダイヤフラムポンプ
反応温度:293°K
吸光度の測定:第1液および第2液を等量送液したときのI のUV吸光度(波長:352nm)を解析
【0035】
図7では、■印のデータポイントが図6の従来の2液混合用ミキサーを用いた場合の吸光度を示し、●印のデータポイントが本実施例1のミキサー10を用いた場合の吸光度を示している。ミキサー10の総流量(第3液F12の流量)が5mL/min以下の領域、特に0.05~1mL/minの領域において、図1の本実施例のミキサー10を用いた場合の吸光度が図6の従来の2液混混合用ミキサーを用いた場合の吸光度よりも低く、高い混合性能が得られた。第1液と第2液とが反応性であるので、本実施例1のミキサー10によれば、図5に示すように、第1液F1及び第2液F2が合流後に直ちに混合されるので、高い混合性能が得られる。
【実施例2】
【0036】
以下において、本発明の他の実施例のミキサー60を説明する。なお、以下の説明において、前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0037】
図8は、本実施例のミキサー60の要部を説明する図であって、図5に相当する図である。本実施例のミキサー60は、第1通路38に対する第2通路40の合流部内、すなわち軸線S方向において第2通路40の第1通路38に対する開口のうちの最上流側位置P2と第2通路40の第1通路38に対する開口のうちの最下流側位置P4との間内に、混合エレメント42の上流側端部が位置している点で共通する。
【0038】
しかし、ミキサー60は、混合エレメント42の上流端の位置P1が第2通路40の第1通路38に対する合流点P2よりも右ねじれ部42a又は左ねじれ部42bの全長の半分程度の距離Aだけ上流側に位置する前述の図1のミキサー10と比較して、混合エレメント42の上流端の位置P3が第2通路40の第1通路38に対する合流点P2よりも右ねじれ部42a又は左ねじれ部42bの全長の半分程度の距離Bだけ下流側に位置する点で、相違する。
【0039】
(実験例2)
本発明者等は、この本実験例2において、ミキサー60について、前記混合率試験条件を用いて吸光度を、総流量が0.05~10mL/minの範囲について、Dushman反応を用いてそれぞれ測定した。図7の▲印のデータポイントが本実施例のミキサー60を用いた場合の吸光度を、従来のミキサーの吸光度およびミキサー10の吸光度と対比して示している。また、図9は、実験例1において測定されたミキサー10の総流量(mL/min)に対する吸光度と、実験例2において測定されたミキサー60の総流量(mL/min)に対する吸光度とを、拡大して横軸に示している。▲印のデータポイントが図5のミキサー60を用いた場合の吸光度示し、●印のデータポイントが図1の本実施例のミキサー10を用いた場合の吸光度を示している。
【0040】
図7に示されるように、総流量が5mL/min以下の微小流量では、ミキサー60は、ミキサー10と同様に合流後に直ちに混合されるので、吸光度が図6の従来の2液混混合用ミキサーを用いた場合の吸光度よりも低く、高い混合性能が得られた。
【0041】
図9に示されるように、総流量が0.05~1.0(mL/min)の範囲において、ミキサー10の吸光度が、ミキサー60の吸光度に比較して、10~25%程度低く、総流量が0.05~1.0(mL/min)の範囲において低くなるほど、吸光度の差が大きい。すなわち、ミキサー10の混合性能が、ミキサー60の吸光度に比較して高く、総流量が0.05~1.0(mL/min)の範囲において低くなるほど、混合性能の差が大きい。第1液と第2液とが反応性であるので、合流から混合までの時間が短いほど混合性能が高くなると考えられる。
【0042】
上述のように、実施例1、2のミキサー10、60によれば、本体18内に直線状に形成され、第1接続部20と第3接続部24とを接続する第1通路38と、本体18内に形成され、第1通路38から分岐して第2端面14に開口する第2通路40と、第1通路38内に収容された長手状の混合エレメント42と、を含み、長手状の混合エレメント42は、第3接続部24に接続された第3継手36により接続された第3チューブ34に当接して位置決めされている。これにより、長手状の混合エレメント42は、直線状に形成された第1通路38内に収容されていて、本体18が厚肉の一体に構成され得て高剛性であるため、清掃時には抜き取り可能であるため、高い洗浄性が得られる。また、本体18が一体に構成されることができるため、第3液(混合液)F12の漏洩の可能性がなく、ミキサー10の部品点数が少なくなり、且つ躯体が小さくなる。さらに、長手状の混合エレメント42は、第3接続部24に接続された第3継手36により接続された第3チューブ34に当接して位置決めされるので、比較的小径の混合エレメント42の移動を阻止するためにストッパを設ける必要が無いので、長手状の混合エレメント42の清掃時の抜き取りの障害にならない利点がある。
【0043】
また、実施例1、2のミキサー10、60によれば、混合エレメント42の上流側の端部は、第1通路38と第2通路40との合流部内、すなわち軸線S方向において第2通路40の第1通路38に対する開口のうちの最上流側位置P2と第2通路40の第1通路38に対する開口のうちの最下流側位置P4との間内に、位置している。これにより、第1通路38により導かれた第1液F1と第2通路40により導かれた第2液F2とが合流後、直ちに混合エレメント42によるそれら第1液F1および第2液F2の混合が開始されるので、微小流量での混合性能が得られる。第1液F1および第2液F2が互いに反応して副生成物を生成する性質を有するので、第1液F1および第2液F2の合流後から混合エレメント42に到達するまでの間に距離があると、その間に副生成物が生成されるため、その後に混合エレメント42による混合が開始されても十分な混合性能が得られ難いものであった。このような不都合は第1液F1および第2液F2が微小流量ほど顕著である。しかし、第1液F1と第2液F2とが合流後、直ちに混合エレメント42による混合が開始されると、副生成物の生成前に混合エレメント42による混合が開始されるので、高い混合性能が得られる。
【0044】
また、実施例1のミキサー10によれば、混合エレメント42の上流端の位置P1は、第1通路38内の第1液F1に対して第2通路40により入力される第2液F2の合流点P2よりも上流側に位置している。これにより、混合エレメント42の上流端は、混合エレメント42の上流端の位置P1が第1液F1に対する第2液F2の合流点よりも下流側に位置している場合(ミキサー60の場合)よりも、総流量が1mL/min以下の微小流量の場合においても、一層高い混合性能が得られる。
【0045】
また、実施例1、2のミキサー10、60によれば、本体18は、厚肉板状の透明な部材から一体に構成されている。これにより、第1液F1および第2液F2の混合状態を目視により観察できる。また、本体18が一体に構成されるため、混合液の漏洩の可能性がなく、マイクロスタティックミキサーの部品点数が少なくなり、且つ躯体が小さくなる。
【0046】
また、実施例1、2のミキサー10、60によれば、長手状の混合エレメント42は、帯状部材が軸線まわりに180度右ねじれに回転する右ねじれ部42aと軸線Sまわりに180度左ねじれに回転する左ねじれ部42bとが軸線S方向に繰り返すように一体に備え、右ねじれ部42aの軸線S方向の直線状端縁Eaと右ねじれ部42aの直線状端縁Eaに隣接する左ねじれ部42bの軸線S方向の直線状端縁Ebとは直交している。これにより、第1通路38内において合流した第1液F1と第2液F2とが、第1通路38内に収容された長手状の混合エレメント42によって効率良く混合される。
【0047】
また、実施例1、2のミキサー10、60によれば、第3接続部24に螺合された第3継手36により接続された前記第3チューブ34は、第3継手36により縮径されており、長手状の混合エレメント42は、縮径された第3チューブ34の端面に当接して位置決めされている。これにより、混合エレメント42を位置決めするストッパを本体18内に形成することが不要となり、清掃時において前記混合エレメントの抜き取りの自由度が高められる。
【0048】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0049】
たとえば、実施例1、2では、反応性のある第1液F1及び第2液F2として、第1液F1がHCl溶液、第2液F2がHBO3、NaOH、KI、KIOの混合液が、例示されていた。しかし、第1液F1及び第2液F2が互いに反応性の無いものであってもよいし、互いに反応して副生成物を生成する他の種類の溶液(試薬)同士であってもよい。後者の場合には、合流後に直ちに混合すると、副生成物の生成が抑制されて高い混合率が得られる。
【符号の説明】
【0050】
10:ミキサー(マイクロスタティックミキサー)
12:第1端面
14:第2端面
16:第3端面
18:本体
20:第1接続部
22:第2接続部
24:第3接続部
24t:テーパ状内周面
26:第1チューブ
28:第1継手
30:第2チューブ
32:第2継手
34:第3チューブ
36:第3継手
38:第1通路
40:第2通路
42:混合エレメント
42a:右ねじれ部
42b:左ねじれ部
46:中心穴
48:操作部
50:雄ねじ部
52:テーパ部
60:混合エレメントの上流端の位置P3が合流点P2よりも下流側に位置する実施例2のミキサー
Ea:右ねじれ部の直線状端縁
Eb:左ねじれ部の直線状端縁
P1:混合エレメントの上流端の位置(合流点P2よりも上流側の場合)
P2:合流点
P3:混合エレメントの上流端の位置(合流点P2よりも下流側の場合)

【要約】
【課題】混合液等の漏洩の可能性がなく、部品点数が少なく且つ小型な2液混合用のマイクロスタティックミキサーを提供する。
【解決手段】第1接続部20と第3接続部24とを接続する第1通路38と、第1通路38から分岐して第2端面14に開口する第2通路40と、第1通路38内に収容された長手状の混合エレメント42と、を含み、長手状の混合エレメント42は、第3接続部24に接続された第3継手36により接続された第3チューブ34に当接して位置決めされている。これにより、長手状の混合エレメント42は、直線状に形成された第1通路38内に収容されていて、本体18が厚肉の一体に構成され得て高剛性であるため、清掃時には抜き取り可能であるため、高い洗浄性が得られるとともに、混合液(第3液F12)の漏洩の可能性がなく、ミキサー10の部品点数が少なくなり、且つ躯体が小さくなる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9