(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-11
(45)【発行日】2024-07-22
(54)【発明の名称】蓄光性エラストマーマスター混合物及びそのような混合物を含む時計部品
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20240712BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20240712BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240712BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20240712BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240712BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240712BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20240712BHJP
G04B 47/04 20060101ALI20240712BHJP
【FI】
C08J3/22 CEW
C08J3/22 CEQ
C08L27/12
C08L83/04
C08L23/16
C08L33/04
C08K3/013
C08L91/00
G04B47/04 C
(21)【出願番号】P 2023502752
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2021066490
(87)【国際公開番号】W WO2022017696
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-01-13
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ナーポリ,ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】フランソワ,ニコラ
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-528510(JP,A)
【文献】特開2017-066223(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106674710(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08K
C08L
G04B 47/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50~80重量%のマスター混合物を含有するポリマー組成物であって、前記マスター混合物は、
40~95重量%のフォトルミネセンス顔料であって、前記顔料は30μmでふるいにかけることにより制限された粒度を有する、フォトルミネセンス顔料と、
5~60重量%のポリマーであって、前記ポリマーは、フルオロエラストマー材料(FKM)ファミリーからのフッ素化ポリマー、シリコーン、エチレンプロピレンゴム(EPR)及びアクリルエラストマーから選択されるエラストマー又はエラストマー前駆体の形態にある、ポリマーと、を含有し、
前記マスター混合物は、0.2~2%のワックス及び/又はオイルを含有する
、ポリマーの組成物。
【請求項2】
50~80重量%のマスター混合物を含有するポリマー組成物であって、前記マスター混合物は、
40~95重量%のフォトルミネセンス顔料であって、前記顔料は30μmでふるいにかけることにより制限された粒度を有する、フォトルミネセンス顔料と、
5~60重量%のポリマーであって、前記ポリマーは、フルオロエラストマー材料(FKM)ファミリーからのフッ素化ポリマー、シリコーン、エチレンプロピレンゴム(EPR)及びアクリルエラストマーから選択されるエラストマー又はエラストマー前駆体の形態にある、ポリマーと、を含有し、
前記マスター混合物は、0.1~2%の発色団及び/又は蛍光色素を含有する
、ポリマーの組成物。
【請求項3】
50~80重量%のマスター混合物を含有するポリマー組成物であって、前記マスター混合物は、
40~95重量%のフォトルミネセンス顔料であって、前記顔料は30μmでふるいにかけることにより制限された粒度を有する、フォトルミネセンス顔料と、
5~60重量%のポリマーであって、前記ポリマーは、フルオロエラストマー材料(FKM)ファミリーからのフッ素化ポリマー、シリコーン、エチレンプロピレンゴム(EPR)及びアクリルエラストマーから選択されるエラストマー又はエラストマー前駆体の形態にある、ポリマーと、を含有し、
前記ポリマーはFKMである
、ポリマー組成物。
【請求項4】
架橋剤を含有しない、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項5】
少なくとも60%のマスター混合物を含有する、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項6】
50~80重量%のマスター混合物を含有するポリマー組成物であって、前記マスター混合物は、
40~95重量%のフォトルミネセンス顔料であって、前記顔料は30μmでふるいにかけることにより制限された粒度を有する、フォトルミネセンス顔料と、
5~60重量%のポリマーであって、前記ポリマーは、フルオロエラストマー材料(FKM)ファミリーからのフッ素化ポリマー、シリコーン、エチレンプロピレンゴム(EPR)及びアクリルエラストマーから選択されるエラストマー又はエラストマー前駆体の形態にある、ポリマーと、を含有し、
有機過酸化物及び架橋助剤を含む架橋系を含有する
、ポリマー組成物。
【請求項7】
50~80重量%のマスター混合物を含有するポリマー組成物であって、前記マスター混合物は、
40~95重量%のフォトルミネセンス顔料であって、前記顔料は30μmでふるいにかけることにより制限された粒度を有する、フォトルミネセンス顔料と、
5~60重量%のポリマーであって、前記ポリマーは、フルオロエラストマー材料(FKM)ファミリーからのフッ素化ポリマー、シリコーン、エチレンプロピレンゴム(EPR)及びアクリルエラストマーから選択されるエラストマー又はエラストマー前駆体の形態にある、ポリマーと、を含有する、
ポリマー組成物を含む時計部品又は宝飾品部品。
【請求項8】
フォトルミネセンス性の時計部品を製造する方法であって、前記方法は、
a
.マスター混合物を生成するステップと、
b.前記マスター混合物を前記マスター混合物と適合性のあるポリマー中に混合して
、少なくとも60%の前記マスター混合物を含有するポリマー組成物を得るステップと、
c.b)で得た
前記ポリマー組成物を成形してフォトルミネセンス性の時計部品を得るステップと
、を含
み、
前記マスター混合物は、
40~95重量%のフォトルミネセンス顔料であって、前記顔料は30μmでふるいにかけることにより制限された粒度を有する、フォトルミネセンス顔料と、
5~60重量%のポリマーであって、前記ポリマーは、フルオロエラストマー材料(FKM)ファミリーからのフッ素化ポリマー、シリコーン、エチレンプロピレンゴム(EPR)及びアクリルエラストマーから選択されるエラストマー又はエラストマー前駆体の形態にある、ポリマーと、を含有する、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光(燐光)性エラストマー組成物用のマスター混合物(マスターバッチ)、及びそのようなマスター混合物中の成分を含む時計部品又は宝飾品部品に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトルミネセンス性のエラストマー材料は、タイヤ、看板の付属品、等などの様々な用途のために市場ではかなり普及している(例えば、米国特許第6431236(B1)号、特開平10-121424)。
【0003】
これらのフォトルミネセンス性のエラストマー材料の既知の実施形態は、エラストマーと最大30%の質量含有率のフォトルミネセンス顔料との直接混合物によって定義される(例えば、日本特許第4030196(B2)号、特開2000-044733)。
【0004】
時計製造会社は、シリコーンベースの蓄光性のブレスレットを既に提供しているが、Bell&Ross社は、最近、限定版で蓄光性のラバーブレスレットを装備した時計を提供することで供給を発展させた。その発光性の合成ラバーブレスレットについて、Bell&Ross社は、材料に顔料を直接添加し、この材料は次に熱成型されプレスされる。混合器具の摩耗を制限するために、充填材含有量は20%に制限されており、性能が損なわれ、この種の用途には十分ではない。
【0005】
これらの実施形態及びこれらの実施形態から得られる混合物は、以下の不都合、すなわち、
・混合器具の時期尚早の摩耗、
・混合器具の摩耗に由来する金属粒子による混合物の汚染、
・限られた発光性能
を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6431236(B1)号
【文献】特開平10-121424号
【文献】日本特許第4030196(B2)号
【文献】特開2000-044733号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上述した不都合を有さない蓄光性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マスター混合物に関し、マスター混合物は、
40~95重量%のフォトルミネセンス顔料であって、前記顔料は30μmでふるいにかけることにより制限された粒度を有する、フォトルミネセンス顔料と、
5~60重量%のポリマーであって、前記ポリマーは、好ましくは、FKM(「フルオロエラストマー材料(fluoroelastomer material)」の略語)ファミリーからのフッ素化ポリマー、ポリウレタン(TPU)ファミリー、エチレン酢酸ビニル(EVA)共重合体、シリコーン、エチレンプロピレンゴム(EPR)、及びこれらの熱可塑性誘導体(TPO)、並びにアクリルエラストマーから選択されるエラストマー又はエラストマー前駆体の形態にある、ポリマーとを含有する。
【0009】
有利には、本発明のマスター混合物は、ポリマーに対して0.2~2重量%の天然ワックス(例えば、カルナウバワックス)又はミネラルワックス(パラフィン、ペトロラタム)及び/又はオイル(脂肪族アルコール、脂肪酸又はトリグリセリドなどの脂肪酸エステルの混合物)を含有する。
【0010】
好ましくは、マスター混合物は、0.1~2%の発色団及び/又は蛍光色素を含有する。
【0011】
好ましくは、マスター混合物において、ポリマーはFKMである。
【0012】
有利には、マスター混合物は架橋剤を含有せず、架橋剤は必要な場合には最終混合物に別に添加される。
【0013】
本発明の第2の態様は、50~80重量%の(好ましくは60重量%を超える)本発明によるマスター混合物を含有する組成物に関する。
【0014】
本発明は、本発明による組成物を含む時計用ブレスレット又は時計ケースなどの時計部品にも関する。
【0015】
最後に、本発明は、フォトルミネセンス性の時計部品を製造する方法に関し、この方法は、
a.請求項1から5のいずれか一項に記載のマスター混合物を生成するステップと、
b.マスター混合物を前記マスター混合物と適合性のあるポリマー中に混合して請求項6から9のいずれか一項に記載の混合物を得るステップと、
c.b)で得た組成物を成形してフォトルミネセンス性の時計部品を得るステップとを含む。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1の態様は、蓄光顔料(ARALON(登録商標)、Radiant Color、等)を含有する濃厚ポリマー混合物(マスター混合物)に関する。前記組成物は、好ましくはフルオロエラストマータイプのゴムにおいて使用するのに適している。
【0017】
このようなマスター混合物の使用により、上記で挙げた不都合を克服することが可能となる。
【0018】
本発明の第1の態様によれば、粉末形態にある蓄光顔料は、30μm未満のサイズ(ふるいにかけること自体によって決定されるサイズ)の画分のみを保持するように、ふるいにかけられる。このサイズ未満で、ポリマーを加工するための器具の摩耗が低減されることが実際に判明した。より大きなサイズの蓄光性粒子は、他の用途に使用されるか、又は30μm未満のサイズを得るために粉砕され得る。
【0019】
次に、顔料は、濃厚組成物又はマスター混合物の形態にあるポリマーに内包される。この内包により、求められる対象物を形成する目的で、ポリマー混合物の最終混合器具との直接的な接触を低減することが可能となる。
【0020】
マスター混合物の実施形態は、特性がフォトルミネセンス顔料の吸収及び放射の範囲と相互作用しないマトリックスに顔料を内包させるための第1のプロセスである。
【0021】
このマスター混合物は、360nm~650nmの範囲において光透過性であり、且つ混合物中の求められるエラストマーと化学的に適合性のあるエラストマー又はエラストマー前駆体を含有する(エラストマー含有量:2重量%~10重量%、好ましくは4~8%)。
【0022】
エラストマー前駆体は、本説明では、周囲温度においてしばしば液体であるか、又は溶媒に溶解させることによって容易に液体にすることができるか、又は最終混合物のエラストマーと後で架橋されるように意図されている低分子量のポリマーを意味する。
【0023】
エラストマー又はその前駆体は、好ましくは、FKM(架橋可能なフルオロ又はペルフルオロポリアルキレン)ファミリーのものなどのフッ素系エラストマー、又はTPU(ポリウレタン)、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)、シリコーン、EPR(エチレンプロピレンゴム)及びこれらの熱可塑性誘導体(TPO)又はアクリルエラストマーファミリーなどの熱可塑性エラストマーから選択される。
【0024】
エラストマー前駆体を使用する場合には、架橋系(典型的には、架橋助剤を伴う、開始剤、例えば有機過酸化物)をマスター混合物に配合するか、又は後で最終混合物に配合することができる。
【0025】
マスター混合物が経時的に安定であるという利点を最終混合物溶液が有することが好ましい。とりわけ、マスター混合物は、その場合、高粘度の低減を可能にする溶媒の存在下で作られ得る。この粘度の低減により、Turrax(登録商標)などの高速ミキサーの使用が可能となる。マスター混合物中に架橋系が存在しないことにより、不適切な時に架橋を開始することなく、熱蒸発(hot evaporation)によって溶媒を除去することが可能となる。
【0026】
熱可塑性物質の場合には、マスター混合物は、従来の二軸式の同方向に回転する又は逆方向に回転する従来の混合設備で調製される。この場合、マスター混合物における分散の質は、最終混合物に対して低減された粘度のポリマーを使用することによって改善され得る。この粘度の低減は、ワックスを使用しても得られるか、又は改善され得る。
【0027】
当業者は、原則として、マスター混合物に使用されるマトリックスは、好ましくは、マスター混合物を分散させる必要のあるマトリックスと適合性があることを容易に理解するであろう。理想的には、マスター混合物のマトリックスは、最終組成物のマトリックスと同種のものである。
【0028】
有利には、マスター混合物はまた、オイル又はワックスを、ポリマーに対して0.2~2重量%、好ましくは0.4~1.8重量%の質量含有率で含有する。これらのワックス及びオイルは、粘度を低減することによって、フォトルミネセンス顔料をより多く配合できるようにする。これらのワックス及びオイルは、360nm~650nmの範囲において光透過性であるワックス及びオイルから選択される。
【0029】
したがって、マスター混合物は、95(質量)%までのフォトルミネセンス顔料を含有することができ、これによりが高いルミネセンス性能が保証される。
【0030】
マスター混合物は、有利には、ルミネセンス特性を高めるための又は初めに選択したフォトルミネセンス顔料のそれとは異なる色のルミネセンス発光を得るために光化学的カスケードを引き起こすための蛍光色素又は発色団(蛍光増白剤、顔料又は染料、等)を含有することができる。
【0031】
このように形成されたマスター混合物は、次に、より穏やかな混合条件(加温及び制限された剪断速度)に従って最終組成物中に分散される。最終混合物は次に、架橋系の場合には典型的にはカレンダーなどのオープンミキサーで作られるか、又は熱可塑性物質の場合には複数の混合部及び/又は1つ以上の静的ミキサーを備えた単軸押出機で作られる。
【0032】
最終混合物に大量の顔料を配合するために、マスター混合物は、任意の溶媒を蒸発させた後、最終混合物中に50~80重量%混合される。
【0033】
得られた混合物は、次いでその最終的な形状、例えば腕時計、に成型されるか、又は押し出される。
【0034】
フォトルミネセンス性混合物の調製の実施例
以下のマスター混合物を生成する。
【0035】
マスター混合物のマトリックスとしては、清浄なラインで製造され透明であるSolvay社の純粋なTecnoflon(登録商標)P-457グレードFKMを使用する。
【0036】
Tecnoflon(登録商標)P-457をメチルエーテルケトン(MEK)又は酢酸エチルにおいて1:1の比率で希釈する。
【0037】
予め30μmでふるいにかけたフォトルミネセンス顔料を前のステップで得た混合物に配合する。顔料の量は、Tecnoflon(登録商標)P-457に対して1:1の比率であり、全体を高速ミキサーにおいて3000rpm-1で混合する。
【0038】
蛍光色素を総量に対して0.5%(すなわち、FKMポリマーに対して1.5%)の割合で導入し、全体を高速ミキサーにおいて例えば3000rpm-1で再度混合する。
【0039】
溶媒を約80℃の炉で溶媒が除去されるまで蒸発させる。
【0040】
前に作ったマスター混合物を、オープンミキサーで作業することによって、純粋なP-457 FKMに最低60%の割合で配合する。
【0041】
混合の終わりに、加硫系を添加する(2.5重量%のLuperox(登録商標)101XL-45 + 3重量%のDrimix(登録商標) TAIC 75%、百分率はポリマーに対して表したものである)。
【0042】
好ましくは、Sasol社によって販売されているNafol 1822B(商標)オイル(1.8%以内)も添加する。全体は最適化されたフォトルミネセンス性のFKM混合物を形成し、これはいつでも成形及び架橋することができる。
【0043】
次に、得られた混合物を圧縮によって成型し、その最終形状において架橋する。このようにして得られた部品は30%の顔料濃度を有し、顔料は、粒子が凝集することなく均質に分散されており、これにより最適な光学的フォトルミネセンス特性を有することが可能となる。