(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】多孔質二次元構造体、多孔質二次元構造体の製造方法、揮発性有機化合物分解触媒、揮発性有機化合物分解触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 51/00 20060101AFI20240716BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240716BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20240716BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C01G51/00 A
B01J37/08 ZAB
B01J37/02 301Z
B01J27/24 M
(21)【出願番号】P 2020122252
(22)【出願日】2020-07-16
【審査請求日】2023-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】伊田 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】小柳 友人
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-022856(JP,A)
【文献】国際公開第2018/079645(WO,A1)
【文献】特開2009-164023(JP,A)
【文献】特開2005-139051(JP,A)
【文献】特開2003-225568(JP,A)
【文献】特表2018-505777(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0202695(US,A1)
【文献】K., Jiratova et al.,Modification of Co-Mn-Al mixed oxide with potassium and its effect on deep oxidation of VOC,Applied Catalysis A: General,2009年,361,106-116
【文献】F., Kovanda et al.,Co-Mn-Al mixed oxides on anodized aluminum supports and their use as catalysts in the total oxidation of ethanol,Applied Catalysis A: General,2013年,464-465,181-190
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-47/00
49/10-99/00
B01J 21/00-38/74
C01F 7/00
H01M 4/505
H01M 4/525
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンとコバルトとアルミニウムと
からなる複合酸化物からなり、
マンガンとコバルトとアルミニウムのモル比が35~70:5~10:0.5~5であり、不定形の多数の微細孔を備え、
各微細孔の平面積の一部または全部、および隣接する微細孔同士の間隔の一部または全部が異なり、厚みが0.7~5nmであり、前記微細孔の内周上の2点を結ぶ最大直線距離が1~20nmであり、平面積に対する前記微細孔の内面積の合計の割合が、10~30%である、多孔質二次元構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質二次元構造体の製造方法であり、
カリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からな
り、カリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムのモル比が1.8~2.2:1.8~2.2:0.9~1.1:0.9~1.1である層状体を製造する層状体製造工程と、
前記層状体と水酸化カリウム水溶液とを混合して第1沈殿物を得るアルカリ処理工程と、
前記第1沈殿物と酸性溶液とを混合して第2沈殿物を得る酸処理工程と、
前記第2沈殿物を媒体中に分散させることにより、前記層状体の層状構造を剥離して二次元構造体とする剥離工程とを備える多孔質二次元構造体の製造方法。
【請求項3】
前記媒体が、テトラブチルアンモニウムヒドロキシル水溶液である
請求項2に記載の多孔質二次元構造体の製造方法。
【請求項4】
担体と、前記担体に担持された
請求項1に記載の多孔質二次元構造体とを有する揮発性有機化合物分解触媒。
【請求項5】
前記担体が、石英ガラスウールからなる
請求項4に記載の揮発性有機化合物分解触媒。
【請求項6】
前記揮発性有機化合物分解触媒中における炭素と窒素のモル比が45~70:15~40である
請求項5に記載の揮発性有機化合物分解触媒。
【請求項7】
前記担体の質量に対する前記多孔質二次元構造体の質量の割合が1~20質量%である
請求項4~請求項6のいずれか一項に記載の揮発性有機化合物分解触媒。
【請求項8】
担体にポリエチレンイミン溶液を塗布する前処理工程と、
請求項1に記載の多孔質二次元構造体を媒体に分散させて得た多孔質二次元構造体分散液を、前記前処理工程後の前記担体に塗布する分散液塗布工程と、
前記多孔質二次元構造体分散液の塗布された前記担体を熱処理することにより、前記担体に前記多孔質二次元構造体を担持させる担持工程とを有する揮発性有機化合物分解触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質二次元構造体、多孔質二次元構造体の製造方法、揮発性有機化合物分解触媒、揮発性有機化合物分解触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光化学オキシダントに関係する大気汚染は、いまだ深刻で健康被害が報告されている。光化学オキシダントの発生原因の一つとして、大気中に放出された揮発性有機化合物(VOC(volatile organic compounds))が挙げられている。VOCは、揮発性を有し、大気中で気体状となる有機化合物の総称である。VOCには、トルエン、キシレン、酢酸エチルなど多種多様な物質が含まれる。平成30年度環境省請負調査業務報告書(揮発性有機化合物(VOC)排出インベントリ作成等に関する調査業務報告書)によれば、日本のVOC総排出量は減少傾向にあるが、依然として多くが大気中に放出されている。
【0003】
VOCは、塗料、洗浄剤、接着剤、インキからの排出量が、全体の75%を占めている。VOCは、家屋の建材、内装、家具、車内などの生活環境からも放出されている。数ppmレベルの濃度でもVOCを長期間吸入し続けると、シックハウス症候群に代表される健康被害が出る可能性がある。そのため、VOCを低価格で無害化する方法および装置の開発が進められている。
【0004】
VOCを無害化する方法としては、直接燃焼法、触媒燃焼法、蓄熱式燃焼法、吸着法がある。触媒燃焼法は、VOC分解触媒を用いてVOCを燃焼させて酸化分解する方法である。VOC分解触媒としては、Pt-CeOxなどの高性能触媒が多く用いられている。
しかし、Pt-CeOxは、VOC分解触媒として機能する温度が、300~400℃である。このため、VOC分解触媒としてPt-CeOxを用いる場合には、VOCを含む気体を300~400℃に加熱する必要がある。また、Pt-CeOxは、希少で高価な貴金属であるPtを用いている。
【0005】
VOC分解触媒として機能する温度が低く、貴金属を含まないVOC分解触媒として、酸化マンガンを含む触媒が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、酸化マンガンを含む触媒を100℃に加熱した状態とし、VOCの一種であるホルムアルデヒド(HCHO)を含むガスを流通させて、ホルムアルデヒドを分解させたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の貴金属を含まないVOC分解触媒は、分子内に炭素を6個以上有するVOCを、100℃以下の低温で分解できるものではなかった。分子内に炭素を6個以上有するVOCの中でも、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物は、塗料などに広く使用されており、分解することが要求されている。
【0008】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、分子内に炭素を6個以上有するVOCを低温で分解できる揮発性有機化合物分解触媒の材料として使用できる多孔質二次元構造体、およびその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、貴金属を含まず、分子内に炭素を6個以上有するVOCを低温で分解できる揮発性有機化合物分解触媒、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] マンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなり、不規則な形状を有する多数の微細孔を備える多孔質二次元構造体。
【0010】
[2] 厚みが0.7~5nmであり、
前記微細孔の内周上の2点を結ぶ最大直線距離が1~20nmの範囲内であり、
平面積に対する前記微細孔の内面積の合計の割合が、10~30%である[1]に記載の多孔質二次元構造体。
[3] マンガンとコバルトとアルミニウムのモル比が35~70:5~10:0.5~5である[1]または[2]に記載の多孔質二次元構造体。
【0011】
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の多孔質二次元構造体の製造方法であり、
カリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなる層状体を製造する層状体製造工程と、
前記層状体と水酸化カリウム水溶液とを混合して第1沈殿物を得るアルカリ処理工程と、
前記第1沈殿物と酸性溶液とを混合して第2沈殿物を得る酸処理工程と、
前記第2沈殿物を媒体中に分散させることにより、前記層状体の層状構造を剥離して二次元構造体とする剥離工程とを備える多孔質二次元構造体の製造方法。
【0012】
[5] 前記層状体は、カリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムのモル比が1.8~2.2:1.8~2.2:0.9~1.1:0.9~1.1である[4]に記載の多孔質二次元構造体の製造方法。
[6] 前記媒体が、テトラブチルアンモニウムヒドロキシル水溶液である[4]または[5]に記載の多孔質二次元構造体の製造方法。
【0013】
[7] 担体と、前記担体に担持された[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質二次元構造体とを有する揮発性有機化合物分解触媒。
【0014】
[8] 前記担体が、石英ガラスウールからなる[7]に記載の揮発性有機化合物分解触媒。
[9] 炭素と窒素のモル比が45~70:15~40である[8]に記載の揮発性有機化合物分解触媒。
[10] 前記担体の質量に対する前記多孔質二次元構造体の質量の割合が1~20質量%である[7]~[9]のいずれかに記載の揮発性有機化合物分解触媒。
【0015】
[11] 担体にポリエチレンイミン溶液を塗布する前処理工程と、
[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質二次元構造体を媒体に分散させて得た多孔質二次元構造体分散液を、前記前処理工程後の前記担体に塗布する分散液塗布工程と、
前記多孔質二次元構造体分散液の塗布された前記担体を熱処理することにより、前記担体に前記多孔質二次元構造体を担持させる担持工程とを有する揮発性有機化合物分解触媒の製造方法。
【0016】
[12] 担体と、前記担体に担持された炭素と窒素を含む化学種とを有し、
前記化学種の炭素と窒素のモル比が45~70:15~40であることを特徴とする揮発性有機化合物分解触媒。
[13] 担体にポリエチレンイミン溶液を塗布する前処理工程と、
前記前処理工程後の前記担体を熱処理することにより、炭素と窒素のモル比が45~70:15~40である化学種を生成させて、前記担体に担持させる化学種生成工程とを有する揮発性有機化合物分解触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の多孔質二次元構造体は、マンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなり、不規則な形状を有する多数の微細孔を備える。本発明の多孔質二次元構造体では、不規則な形状を有する多数の微細孔が、VOC分子を吸着する吸着サイトとして機能する。このため、本発明の多孔質二次元構造体は、分子内に炭素を6個以上有するVOCであっても低温で分解できる。
【0018】
本発明の多孔質二次元構造体の製造方法は、カリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなる層状体を製造する層状体製造工程と、層状体と水酸化カリウム水溶液とを混合して第1沈殿物を得るアルカリ処理工程と、第1沈殿物と酸性溶液とを混合して第2沈殿物を得る酸処理工程と、第2沈殿物を媒体中に分散させることにより、前記層状体の層状構造を剥離して二次元構造体とする剥離工程とを備える。このため、本発明の多孔質二次元構造体が得られる。
【0019】
本発明の揮発性有機化合物分解触媒は、貴金属を含まず、分子内に炭素を6個以上有するVOCを低温で分解できる。
本発明の揮発性有機化合物分解触媒の製造方法によれば、貴金属を含まず、分子内に炭素を6個以上有するVOCを低温で分解できる揮発性有機化合物分解触媒が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、多孔質二次元構造体の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図2は、揮発性有機化合物分解触媒の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図3は、実施例1の層状体のX線回折結果を示したチャートである。
【
図4】
図4は、実施例1の多孔質二次元構造体のEDSスペクトルである。
【
図5】
図5(a)は、実施例1の多孔質二次元構造体を撮影した原子間力顕微鏡像である。
図5(b)は、
図5(a)に示す原子間力顕微鏡像の一部を拡大した写真である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、実施例1のVOC分解触媒を分析して得られたXPSスペクトルである。
図6(a)中のC1sは、炭素元素の光電子ピークである。
図6(b)中のN1sは、窒素元素の光電子ピークである。
【
図7】
図7は、実施例1の揮発性有機化合物分解触媒を撮影した電子顕微鏡像である。
【
図8】実施例1および実施例2、比較例1の温度と転化率との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の多孔質二次元構造体、多孔質二次元構造体の製造方法、揮発性有機化合物(VOC)分解触媒、VOC分解触媒の製造方法について、詳細に説明する。
<第1実施形態>
[多孔質二次元構造体]
本実施形態の多孔質二次元構造体は、マンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなる。
本実施形態の多孔質二次元構造体は、マンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなるものであるため、酸化マンガンと酸化コバルトの二次元平面での複合化により格子酸素の酸素放出能が促進されたものとなる。このことから、多孔質二次元構造体を用いたVOC分解触媒は、効率よくVOCを分解できる。
【0022】
上記複合酸化物は、マンガンとコバルトとアルミニウムのモル比(Mn:Co:Al)が35~70:5~10:0.5~5であることが好ましく、40~50:6~8:3~4であることがより好ましい。上記複合酸化物のマンガンとコバルトとアルミニウムのモル比が上記範囲内であると、VOC分解触媒の組成として好適であるマンガンとコバルトとアルミニウムを含む多孔質構造を形成できるため好ましい。
【0023】
本実施形態の多孔質二次元構造体の厚みは、0.7~5nmであることが好ましく、0.7~1nmであることがより好ましい。上記厚みが5nm以下であると、多孔質二次元構造体を用いたVOC分解触媒は、多孔質二次元構造体とVOCとの接触面積が確保されやすいものとなる。このため、より効率よくVOCを分解できる。上記厚みが1nm以下である多孔質二次元構造体は、層状構造が単層に剥離されたものである。したがって、膜厚が1nm以下である多孔質二次元構造体を用いたVOC分解触媒は、多孔質二次元構造体とVOCとの接触面積がより一層確保されやすく、好ましい。また、上記厚みが0.7nm以上であると、後述する製造方法により、容易に製造できる。
【0024】
本実施形態の多孔質二次元構造体には、不規則な形状を有する多数の微細孔が備えられている。各微細孔の平面形状は、それぞれ円形、楕円形、長円形、多角形など如何なる形状であってもよく、全て同じ形状であってもよいし、一部または全部が異なる形状であってもよい。また、各微細孔の平面積は、全て同じであってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。隣接する微細孔同士の間隔は、全て同じであってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。
【0025】
微細孔は、内周上の2点を結ぶ最大直線距離が1~20nmの範囲内であることが好ましく、1~3nmであることがより好ましい。内周上の2点を結ぶ最大直線距離が上記範囲内であると、VOC分子が微細孔の側壁に安定して吸着される。このため、多孔質二次元構造体を用いたVOC分解触媒が、より効率よくVOCを分解できるものとなる。
本実施形態において「微細孔の内周上の2点を結ぶ最大直線距離の範囲」とは、原子間力顕微鏡像における1000nm×1000nmの領域に存在する200個以上の孔について、内周上の2点を結ぶ最大直線距離を測定した値の分布(数値範囲)であること意味する。
【0026】
本実施形態の多孔質二次元構造体は、平面積に対する前記微細孔の内面積の合計の割合{(微細孔の内面積の合計/多孔質二次元構造体の平面積)×100(%)}が、10~30%であることが好ましく、10~15%であることがより好ましい。上記の割合が10%以上であると、VOC分子が微細孔により安定して吸着される。このため、多孔質二次元構造体を用いた揮発性有機化合物分解触媒が、より効率よくVOCを分解できるものとなる。上記の割合が30%以下であると、多孔質二次元構造体の強度を確保できる。
【0027】
本実施形態の多孔質二次元構造体の平面積は、1000~1000000nm2であることが好ましく、1000~100000nm2であることがより好ましい。平面積が上記範囲内であると、後述する製造方法により、容易に製造できるため、好ましい。また、平面積が100000nm2以下であると、媒体に容易に分散させることができるため、好ましい。
【0028】
本実施形態において「多孔質二次元構造体の平面積」とは、原子間力顕微鏡像における5箇所の面積2000nm×2000nmの領域に存在する20個以上の多孔質二次元構造体について、それぞれ平面積を測定した値の平均値を意味する。
また、本実施形態において「平面積に対する微細孔の内面積の合計の割合」は、原子間力顕微鏡像における5箇所の面積2000nm×2000nmの領域に存在する20個以上の多孔質二次元構造体について、それぞれ平面積に対する微細孔の内面積の合計の割合を測定した値の平均値を意味する。
【0029】
[多孔質二次元構造体の製造方法]
次に、本実施形態の多孔質二次元構造体の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、多孔質二次元構造体の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態の多孔質二次元構造体を製造するには、まず、カリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなり、微細孔のない層状体を製造する(層状体製造工程S01)。
【0030】
上記複合酸化物からなる微細孔のない層状体は、公知の方法を用いて製造できる。例えば、炭酸カリウムと、酸化マンガン(III)と、酸化コバルト(III)と、酸化アルミニウム(III)とを、目的とする層状体の組成に対応する所定の割合で混合し、得られた混合物を焼成する方法により製造できる。
上記複合酸化物からなる微細孔のない層状体を製造する際には、焼成前の混合物を、乳鉢、ボールミルなどを用いて攪拌してもよい。
混合物の焼成温度は、例えば、800~1000℃とすることができ、800℃とすることが好ましい。焼成時間は、例えば、0.5~30時間とすることができる。
混合物の焼成温度および/または焼成時間を適宜調整することにより、層状体の面積を制御できる。本実施形態では、層状体の面積によって、多孔質二次元構造体の平面積が決定される。
【0031】
微細孔のない層状体は、カリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムのモル比(K:Mn:Co:Al)が、1.8~2.2:1.8~2.2:0.9~1.1:0.9~1.1であることが好ましく、2:2:1:1であることがより好ましい。微細孔のない層状体に含まれるカリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムのモル比が上記範囲内であると、後述するアルカリ処理工程と酸処理工程とを行うことにより、マンガンとコバルトとアルミニウムのモル比(Mn:Co:Al)が35~70:5~10:0.5~5である複合酸化物からなり、不規則な形状を有する多数の微細孔が設けられた層状構造が得られる。
【0032】
次に、
図1に示すように、複合酸化物からなる微細孔のない層状体と、水酸化カリウム水溶液とを混合して第1沈殿物を得る(アルカリ処理工程S02)。
微細孔のない層状体と水酸化カリウム水溶液とを、所定時間混合することにより、微細孔のない層状体中のAlサイトが溶解し、層状体中に微細孔が形成される。水酸化カリウム水溶液の濃度は、0.01~1.00mol/Lであることが好ましい。また、微細孔のない層状体と水酸化カリウム水溶液とを混合する混合時間(アルカリ処理時間)は、例えば、12~48時間とすることができる。
その後、必要に応じて、アルカリ処理工程において得られた第1沈殿物を、イオン交換水を用いて洗浄する。
【0033】
次に、
図1に示すように、第1沈殿物と酸性溶液とを混合して第2沈殿物を得る(酸処理工程S03)。
第1沈殿物と酸性溶液とを混合することにより、第1沈殿物中の微細孔を有する層状体に含まれるKイオン(K
+)がプロトン(H
+)と交換される。
酸性溶液としては、第1沈殿物が完全に溶解することのない酸濃度のものを用いることができ、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などの酸を所定の濃度で含む水溶液を用いることができる。具体的には、酸性溶液の酸濃度は、0.1~0.5mol/Lであることが好ましい。また、第1沈殿物と酸性溶液とを混合する混合時間(酸処理時間)は、例えば、12~48時間とすることができる。
その後、必要に応じて、酸処理工程において得られた第2沈殿物を、イオン交換水を用いて洗浄する。
【0034】
本実施形態においては、層状体におけるカリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムのモル比と、アルカリ処理工程において使用する水酸化カリウム水溶液の濃度および混合時間、酸処理工程において使用する酸性溶液の種類および混合時間を適宜調節することにより、多孔質二次元構造体の微細孔の密度および大きさを制御できる。
【0035】
次に、
図1に示すように、第2沈殿物を媒体中に分散させることにより、前記層状体の層状構造を剥離して二次元構造体とする(剥離工程S04)。
第2沈殿物を分散させる媒体としては、例えば、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、テトラメチルアミン、テトラエチルアミンから選ばれるいずれか1種を含む水溶液などを用いることができ、第2沈殿物中の層状体の層状構造を剥離して二次元構造体とすることが可能なものを適宜選択して用いることができる。これらの中でも、第2沈殿物を分散させる媒体としては、層状構造の剥離が進行しやすいため、テトラブチルアンモニウムヒドロキシル水溶液を用いることが好ましい。
テトラブチルアンモニウムヒドロキシル水溶液の濃度は、例えば、0.01~0.5mol/Lとすることができる。
【0036】
第2沈殿物を媒体中に分散させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、第2沈殿物と媒体とを混合し、超音波洗浄機を用いて所定時間超音波振動を加える方法、および/または振とう機を用いて所定時間振とうする方法などを用いることができる。
本実施形態においては、層状体の組成と、第2沈殿物を分散させる媒体の種類、分散させる方法および時間を適宜調節することにより、多孔質二次元構造体の厚みを制御できる。
以上の工程により、マンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなり、不規則な形状を有する多数の微細孔を備える本実施形態の多孔質二次元構造体が得られる。
【0037】
[揮発性有機化合物分解触媒]
次に、本実施形態の揮発性有機化合物(VOC)分解触媒について、詳細に説明する。
本実施形態のVOC分解触媒は、担体と、担体に担持された本実施形態の多孔質二次元構造体とを有する。
担体としては、例えば、石英ガラスウール、アルミナウール、樹脂、セラミック、金属などからなる公知のものを用いることができ、耐薬品性に優れているため、石英ガラスウールを用いることが好ましい。
石英ガラスウールとしては、例えば、太さが直径2~10μm、好ましくは3~6μmのものを用いることができる。
【0038】
本実施形態のVOC分解触媒は、担体が石英ガラスウールからなる場合、炭素と窒素のモル比(C:N)は45~70:15~40であることが好ましく、50~60:25~35であることがより好ましい。炭素と窒素のモル比(C:N)が上記範囲内であると、NサイトがVOCの吸着サイトおよび/または分解サイトとなるため、より効率よくVOCを分解できるものとなる。
【0039】
本実施形態のVOC分解触媒は、担体の質量に対する多孔質二次元構造体の質量の割合{(多孔質二次元構造体の質量/担体の質量)×100(質量%)}が1~20質量%であることが好ましく、10~15質量%であることがより好ましい。担体の質量に対する多孔質二次元構造体の質量の割合が1質量%以上であると、多孔質二次元構造体が担持されていることによるVOC分解効果が十分に得られるものとなる。上記割合が10質量%以上であると、より効率よくVOCを分解できる。担体の質量に対する多孔質二次元構造体の質量の割合が20質量%以下であると、容易に製造できるVOC分解触媒となる。
【0040】
[揮発性有機化合物分解触媒の製造方法]
次に、本実施形態の揮発性有機化合物(VOC)分解触媒の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。
図2は、揮発性有機化合物分解触媒の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【0041】
図2に示すように、本実施形態のVOC分解触媒を製造するには、まず、担体にポリエチレンイミン溶液を塗布する(前処理工程S1)。
本実施形態では、前処理工程S1を行うので、後述する分散液塗布工程S2と担持工程S3とを行うことにより、炭素と窒素のモル比(C:N)が45~70:15~40であるVOC分解触媒が得られる。
【0042】
ポリエチレンイミン溶液としては、市販のポリエチレンイミン溶液をそのまま用いてもよいし、ポリエチレンイミンを、水、エタノールなどの溶媒に溶解したものを用いてもよい。
ポリエチレンイミンとしては、直鎖状のものを用いてもよいし、分岐状のものを用いてもよく、単独で液体として利用できるため、分岐状のものを用いることが好ましい。
ポリエチレンイミンの分子量は、例えば、600~1,000,000であることが好ましく、400~250,000であることがより好ましい。
担体にポリエチレンイミン溶液を塗布する方法としては、例えば、担体をポリエチレンイミン溶液中に浸漬する方法など公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
【0043】
次に、本実施形態の多孔質二次元構造体を媒体に分散させて多孔質二次元構造体分散液とする。
多孔質二次元構造体分散液としては、剥離工程S04において第2沈殿物を媒体中に分散させた分散液をそのまま用いてもよい。
また、多孔質二次元構造体分散液は、第2沈殿物を媒体中に分散させた分散液から公知の方法により取り出し、必要に応じて保管した後の多孔質二次元構造体を、媒体に分散させたものであってもよい。この場合、多孔質二次元構造体分散液に用いられる媒体としては、多孔質二次元構造体を分散させることができるものであればよく、例えば、多孔質二次元構造体を製造する際に行った剥離工程S04において、第2沈殿物を分散させる媒体として使用可能であるものを用いることができる。剥離工程S04において使用した媒体と、多孔質二次元構造体分散液に用いる媒体とは同じものであってもよいし、異なっていてもよい。
【0044】
次に、多孔質二次元構造体分散液を前処理工程後の担体に塗布する(分散液塗布工程S2)。
前処理工程後の担体に多孔質二次元構造体分散液を塗布する方法としては、例えば、担体を多孔質二次元構造体分散液中に浸漬する方法など公知の方法を用いることができ、特に限定されない。
担体への多孔質二次元構造体分散液の塗布は、必要に応じて複数回行ってもよい。担体に多孔質二次元構造体分散液を複数回塗布する方法としては、例えば、担体に多孔質二次元構造体分散液を塗布する工程と、塗布後の担体を150℃程度に加熱して表面を乾燥させる工程とを、担体に担持させる多孔質二次元構造体の量に応じて複数回繰り返し行う方法が挙げられる。
【0045】
その後、多孔質二次元構造体分散液の塗布された担体を熱処理することにより、担体に多孔質二次元構造体を担持させる(担持工程S3)。
熱処理温度は、例えば、300~500℃とすることができ、390~410℃とすることが好ましい。熱処理時間は、例えば、15~60分とすることができる。
以上の工程により、本実施形態のVOC分解触媒が得られる。
【0046】
本実施形態の多孔質二次元構造体は、マンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなり、不規則な形状を有する多数の微細孔を備える。本実施形態の多孔質二次元構造体では、不規則な形状を有する多数の微細孔が、VOC分子を吸着する吸着サイトとして機能する。このため、VOC分子が分子内に炭素を1個有するものであっても、分子内に炭素を6個以上有する嵩高いものであっても、多孔質二次元構造体に設けられた微細孔によってVOC分子が安定して吸着される。多孔質二次元構造体に吸着されたVOC分子は、多孔質二次元構造体内部の格子酸素および/または気相酸素による多段階酸化反応によって、酸化され、分解される。したがって、本実施形態の多孔質二次元構造体は、活性化エネルギーが低く、分子内に炭素を6個以上有するVOCであっても低温で分解できる。
【0047】
本実施形態の多孔質二次元構造体の製造方法は、カリウムとマンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなる層状体を製造する層状体製造工程と、層状体と水酸化カリウム水溶液とを混合して第1沈殿物を得るアルカリ処理工程と、第1沈殿物と酸性溶液とを混合して第2沈殿物を得る酸処理工程と、第2沈殿物を媒体中に分散させることにより、前記層状体の層状構造を剥離して二次元構造体とする剥離工程とを備える。すなわち、アルカリ処理工程を行うことにより、孔のない層状体中の主にアルミサイトが溶解して層状体中に微細孔が形成され、酸処理工程を行うことにより、層状体からカリウム原子が除去される。そして、酸処理工程により得られた第2沈殿物を媒体中に分散させることにより、層状構造が剥離されて二次元構造体となる。その結果、マンガンとコバルトとアルミニウムとを含む複合酸化物からなり、不規則な形状を有する多数の微細孔を備える本実施形態の多孔質二次元構造体が得られる。
【0048】
本実施形態のVOC分解触媒は、担体と、担体に担持された本実施形態の多孔質二次元構造体とを有する。このため、本実施形態のVOC分解触媒は、貴金属を含まず、分子内に炭素を6個以上有するVOCを低温で分解できる。具体的には、100℃以下の低温で、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物を分解できる。また、本実施形態のVOC分解触媒を用いることで、例えば、貴金属を含むVOC分解触媒を用いる場合と比較して、導入コストと、VOCを分解するランニングコストを大幅に抑えることができる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
例えば、上述した実施形態においては、VOC分解触媒の製造方法として、前処理工程S1と、分散液塗布工程S2と、担持工程S3とを有する場合を例に挙げて説明したが、前処理工程S1を行わずに、多孔質二次元構造体分散液を担体に塗布して熱処理することにより、担体に多孔質二次元構造体を担持させてもよい。
【0050】
<第2実施形態>
[揮発性有機化合物分解触媒]
次に、第2実施形態の揮発性有機化合物(VOC)分解触媒について、詳細に説明する。
本実施形態のVOC分解触媒は、担体と、担体に担持された炭素と窒素を含む化学種とを有する。炭素と窒素を含む化学種としては、例えば、窒化炭素、窒素含有非晶質炭素などが挙げられる。
担体としては、上述した第1実施形態のVOC分解触媒と同様のものを用いることができる。
【0051】
本実施形態のVOC分解触媒において、担体に担持された化学種の炭素と窒素のモル比(C:N)は、45~70:15~40であり、50~60:25~35であることが好ましい。担体に担持された化学種の炭素と窒素のモル比(C:N)が、上記範囲内であるので、NサイトがVOCの吸着サイトおよび/または分解サイトとなり、効率よくVOCを分解できる。
【0052】
本実施形態のVOC分解触媒は、担体の質量に対する炭素と窒素を含む化学種の質量の割合{(化学種の質量/担体の質量)×100(質量%)}が1~20質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。担体の質量に対する化学種の質量の割合が1質量%以上であると、炭素と窒素を含む化学種が担持されていることによるVOC分解効果が十分に得られる。担体の質量に対する化学種の質量の割合が20質量%以下であると、容易に製造できるVOC分解触媒となる。
【0053】
[揮発性有機化合物分解触媒の製造方法]
次に、本実施形態の揮発性有機化合物(VOC)分解触媒の製造方法について、詳細に説明する。
本実施形態のVOC分解触媒を製造するには、まず、上述した第1実施形態のVOC分解触媒の製造方法と同様にして、担体にポリエチレンイミン溶液を塗布する(前処理工程)。
【0054】
ポリエチレンイミン溶液としては、上述した第1実施形態のVOC分解触媒の製造方法と同様のものを用いることができる。
担体へのポリエチレンイミン溶液の塗布は、必要に応じて複数回行ってもよい。担体にポリエチレンイミン溶液を複数回塗布する方法としては、例えば、担体にポリエチレンイミン溶液を塗布する工程と、塗布後の担体の表面を乾燥させる工程とを、担体に担持させる炭素と窒素を含む化学種の量に応じて複数回繰り返し行う方法が挙げられる。
【0055】
次に、前処理工程後の担体に熱処理を行う。このことにより、担体上で、炭素と窒素のモル比が45~70:15~40である化学種を生成させて、炭素と窒素を含む化学種を担体に担持させる(化学種生成工程)。
熱処理温度は、例えば、300~500℃とすることができ、390~410℃とすることが好ましい。熱処理時間は、例えば、15~60分とすることができる。
以上の工程により、本実施形態のVOC分解触媒が得られる。
【0056】
本実施形態のVOC分解触媒は、担体と、担体に担持された炭素と窒素を含む化学種とを有する。このため、本実施形態のVOC分解触媒は、貴金属を含まず、分子内に炭素を6個以上有するVOCを低温で分解できる。具体的には、200℃以下の低温で、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物を効率よく分解でき、100℃以下でもトルエン、キシレンなどの芳香族化合物を分解することが可能である。また、本実施形態のVOC分解触媒を用いることで、例えば、貴金属を含むVOC分解触媒を用いる場合と比較して、導入コストと、VOCを分解するランニングコストを大幅に抑えることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
(実施例1)
[層状体の製造]
炭酸カリウム(K2CO3(キシダ化学株式会社製000-63405))と、酸化マンガン(III)(Mn2O3(シグマアルドリッチ社製138-09675))と、酸化コバルト(III)(Co2O3(富士フイルム和光純薬株式会社製036-12592))と、酸化アルミニウム(III)(Al2O3(富士フイルム和光純薬株式会社製012-01965))とを、モル比でK:Mn:Co:Alが50:75:12.5:12.5となるように混合し、乳鉢上で30分間すりつぶしながら混ぜて混合物を得た。
【0058】
得られた混合物を、卓上電気炉(日陶科学株式会社製)を用いて5℃/分の昇温速度で昇温し、800℃で30時間焼成した(層状体製造工程S01)。
得られた焼成物を、X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製:Rigaku Smart Lab X-Ray Diffractometer)を用いて測定した。その結果を
図3に示す。
図3は、実施例1の層状体のX線回折結果を示したチャートである。
図3に示す「○」は、X線回折において確認されたK
2Mn
2CoAlO
8を示す回折ピークを示す。
図3に示すように、焼成物としてK
2Mn
2CoAlO
8からなる層状体が生成したことが確認できた。
【0059】
[多孔質二次元構造体の製造]
K2Mn2CoAlO8からなる層状体を0.2010g量りとり、0.1mol/Lの水酸化カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製168-21875)溶液に添加し、振とう機(東京理化器械株式会社製;EYELA MULTI SHAKER MMS)を用いて、200rpmで1日間振とうした(アルカリ処理工程S02)。
振とうした溶液を遠心分離機(久保田商事株式会社製;KUBOTA卓上小型遠心機2410)を用いて4000rpmで15分間遠心分離し、上澄みと沈殿に分けて上澄みを捨てた。得られた沈殿をイオン交換水で洗浄し、遠心分離機を用いて4000rpmで15分間遠心分離し、上澄みと沈殿に分けて上澄みを捨てた。この洗浄作業を5回繰り返し行った。
【0060】
洗浄後に得られた沈殿物(第1沈殿物)を、0.5mol/Lの塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社製080-01061)40mlに添加し、上記の振とう機を用いて200rpmで1日間振とうした(酸処理工程S03)。
振とうした溶液を上記の遠心分離機を用いて4000rpmで15分間遠心分離し、上澄みと沈殿に分けて上澄みを捨てた。得られた沈殿を、再度0.5mol/Lの塩酸40mlに添加した。この操作を3回繰り返し行った。
得られた沈殿を、イオン交換水で洗浄し、上記の遠心分離機を用いて4000rpmで15分間遠心分離し、上澄みと沈殿に分け上澄みを捨てた。この洗浄作業を5回繰り返し行った。洗浄後、得られた沈殿物(第2沈殿物)を室温で放置し、乾燥させた。
【0061】
次に、乾燥させた沈殿物を0.0204g量りとり、0.025mol/Lのテトラブチルアンモニウムヒドロキシル水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製203-08835)40mlに添加し、超音波洗浄機(商品名:超音波洗浄機卓上強力型KSシリーズ、株式会社エスエヌディー社製)を用いて1日間超音波振動を加えた後、上記の振とう機を用いて200rpmで1日間振とうし、上記層状体の層状構造が剥離して生成した二次元構造体(実施例1の多孔質二次元構造体)が分散された懸濁液を得た(剥離工程S04)。得られた懸濁液を多孔質二次元構造体分散液と呼称する。
【0062】
多孔質二次元構造体分散液について、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDS)装置(AMETEK、Inc.社製)を用いて、30keVの電子線照射によりEDSスペクトルを測定した。その結果を
図4に示す。
図4は、実施例1の多孔質二次元構造体のEDSスペクトルである。
図4より、多孔質二次元構造体分散液に含まれる実施例1の多孔質二次元構造体中のマンガンとコバルトとアルミニウムのモル比(Mn:Co:Al)は44.5:7.3:3.5であることが確認できた。
【0063】
多孔質二次元構造体分散液に含まれる実施例1の多孔質二次元構造体を、原子間力顕微鏡を用いて観察した。
図5(a)は、実施例1の多孔質二次元構造体を撮影した原子間力顕微鏡像である。
図5(b)は、
図5(a)に示す原子間力顕微鏡像の一部を拡大した写真である。
図5(a)に示す原子間力顕微鏡像を用いて、上述した方法により「微細孔の内周上の2点を結ぶ最大直線距離の範囲」および「平面積に対する微細孔の内面積の合計の割合{(微細孔の内面積の合計/多孔質二次元構造体の平面積)×100(%)}」を算出した。
その結果、実施例1の多孔質二次元構造体の「微細孔の内周上の2点を結ぶ最大直線距離の範囲」は1.5~20nmであり、「平面積に対する微細孔の内面積の合計の割合」は13%であった。また、実施例1の多孔質二次元構造体の平面積は1000~100000nm
2の範囲内であった。
また、
図5(b)に示すように、実施例1の多孔質二次元構造体は、不規則な形状を有する多数の微細孔を備えるものであった。
また、原子間力顕微鏡により測定した結果、実施例1の多孔質二次元構造体の厚みは0.9nmであった。
【0064】
[VOC分解触媒の製造]
担体としての直径4μmの石英ガラスウール0.5gを、ポリエチレンイミン溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製(ポリエチレンイミン(平均分子量約600)(分岐状タイプ))中に15分間浸漬させた(前処理工程S1)。その後、ポリエチレンイミン溶液から石英ガラスウールを取り出し、イオン交換水で2回すすいだ。
次いで、すすいだ後の石英ガラスウールを、多孔質二次元構造体分散液中に15分間浸漬させた(分散液塗布工程S2)。
【0065】
多孔質二次元構造体分散液中から取り出した石英ガラスウールを、卓上電気炉(日陶科学株式会社製)を用いて200℃で1時間加熱し、その後、5℃/分の昇温速度で昇温し、400℃で30分間加熱する熱処理を行ない(担持工程S3)実施例1のVOC分解触媒を得た。
【0066】
実施例1のVOC分解触媒について、X線光電子分光法(XPS)装置(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて分析を行った。
図6(a)および
図6(b)は、実施例1のVOC分解触媒を分析して得られたXPSスペクトルである。
図6(a)中のC1sは、炭素元素の光電子ピークである。
図6(b)中のN1sは、窒素元素の光電子ピークである。
図6(a)および
図6(b)より、実施例1のVOC分解触媒中における炭素と窒素のモル比(C:N)は57:28であった。
また、実施例1のVOC分解触媒を、電子顕微鏡を用いて観察した。
図7は、実施例1のVOC分解触媒を撮影した電子顕微鏡像である。
また、実施例1のVOC分解触媒は、担体の質量に対する多孔質二次元構造体の質量の割合{(多孔質二次元構造体の質量/担体の質量)×100(質量%)}が、11%であった。
【0067】
(比較例1)
Ce(NO3)・6H2O(富士フイルム和光純薬株式会社製035-09735)8.7gと、Zr(NO3)2・2H2O(富士フイルム和光純薬株式会社製265-00915)3.3gとを、150mlのイオン交換水に溶解し、25%アンモニア水をゆっくりと加え、混合溶液とした。得られた混合溶液を、上記の遠心分離機を用いて4000rpmで15分間遠心分離し、上澄みと沈殿に分け上澄みを捨てた。
得られた沈殿を、0.25mol/Lのアンモニア水で洗浄し、140℃で12時間乾燥させた。乾燥させた沈殿を800℃で4時間焼成した。
得られた焼成物0.5gに、0.01mol/Lヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物((富士フイルム和光純薬株式会社製169-02861)溶液を51.7μl滴下し、600℃で3時間焼成し、比較例1のVOC分解触媒を得た。
【0068】
比較例1のVOC分解触媒について、使用した原料の質量から組成を算出した。
その結果、比較例1のVOC分解触媒は、0.27%Pt/CeOZrOであった。
【0069】
(実施例2)
担体として実施例1と同じ石英ガラスウールを用いて、実施例1と同様にして前処理工程S1を行った。その後、ポリエチレンイミン溶液から石英ガラスウールを取り出し、イオン交換水で2回すすいだ。
次いで、すすいだ後の石英ガラスウールを、卓上電気炉(日陶科学株式会社製)を用いて200℃で1時間加熱し、その後、5℃/分の昇温速度で昇温し、400℃で30分間加熱する熱処理を行ない実施例2のVOC分解触媒を得た。
【0070】
実施例2のVOC分解触媒について、実施例1のVOC分解触媒と同様にして、X線光電子分光法(XPS)装置(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて分析を行った。
その結果、実施例2のVOC分解触媒中における炭素と窒素のモル比(C:N)は60:25であった。
また、実施例2のVOC分解触媒は、担体の質量に対する炭素と窒素を含む化学種の質量の割合{(炭素と窒素を含む化学種の質量/担体の質量)×100(質量%)}が、3%であった。
【0071】
[トルエン分解試験]
実施例1および実施例2、比較例1のVOC分解触媒をそれぞれ用いて、以下に示す方法により、トルエンの分解試験を行った。
VOC分解触媒0.5gを、直径10mmのホウ珪酸ガラスチューブに詰めた。ホウ珪酸ガラスチューブ内のVOC分解触媒を300~40℃に加熱しながら、トルエンを20000ppm含む空気を、流量10ml/minの速度で、ホウ珪酸ガラスチューブに供給した。そして、ホウ珪酸ガラスチューブを通過したガス中のトルエン濃度(ppm)を測定した。
【0072】
ホウ珪酸ガラスチューブを通過したガス中のトルエン濃度(ppm)は、株式会社島津製作所製のSHIMADZU GC-2014(検出器は水素炎イオン化検出器(FID))を用いて測定した。そして、測定したガス中のトルエン濃度(ppm)と、ホウ珪酸ガラスチューブに供給したトルエンを含む空気のトルエン濃度(初期トルエン濃度)とを用いて、以下に示す式によりトルエンの転化率を算出した。その結果を
図8に示す。
トルエンの転化率(%)={ガス中のトルエン濃度(ppm)/初期トルエン濃度(20000(ppm)}×100
【0073】
図8は、実施例1および実施例2、比較例1の温度と転化率との関係を示したグラフである。
図8に示すように、実施例1では、50℃でのトルエンの転化率が10%程度であり、100℃でのトルエン転化率が100%であった。また、実施例2は、100℃でのトルエン転化率が15%程度であり、200℃でのトルエン転化率が95%であった。
これに対し、比較例1では、100℃でのトルエン転化率は0%であり、200℃でも30%程度であった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
環境省の試算によると、2020年の大気汚染の改善・防止に係る装置・サービス関連の市場規模(将来推計分類の「大気汚染防止」)は8,825億円に達する見込みである。そして、低価格、高感度、長寿命のVOC測定技術の開発、小型で安価なVOC処理装置の開発、内装品、材料からの揮発物質に関する簡易測定機器等の開発が求められている。これらの用途への応用展開において、本発明の利用が見込まれる。
【0075】
具体的には、本発明は、大量の有機溶剤を放出する車体塗装・印刷・接着工場などにおけるVOC浄化触媒装置への利用が見込まれる。また、一般家庭用製品である空気清浄機、エアコンなど、部屋の中に設置される大気循環装置の内部に、本発明のVOC分解触媒を組み込むことが見込まれる。これらのことにより、稼働するだけでVOCが自然に無害化される製品への応用が期待される。すなわち、本発明は、建材、家具、塗料、接着剤などから発生し、シックハウス症候群の大きな原因となっているVOCを、室温で無害化する技術への利用が見込まれる。
【0076】
また、本発明のVOC分解触媒は、ボイラー、焼却炉などの煤煙を発生する施設、及びコークス炉、鉱物堆積場などの粉塵を発生する施設の排気装置に対しても、応用展開が見込まれる。さらに、本発明のVOC分解触媒は、既存の空気清浄機、車の空気フィルター、エアコンなどに、オブション等として搭載できる可能性がある。また、本発明のVOC分解触媒は、室温でも酸化力が強いため、インフルエンザ、コロナなどの原因物質を酸化分解できる可能性があり、発展性は多いと考える。
【符号の説明】
【0077】
S1 前処理工程、S2 分散液塗布工程、S3 担持工程、S01 層状体製造工程、S02 アルカリ処理工程、S03 酸処理工程、S04 剥離工程。