(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】米飯の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20240716BHJP
【FI】
A23L7/10 B
A23L7/10 E
(21)【出願番号】P 2024031337
(22)【出願日】2024-03-01
【審査請求日】2024-03-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516042192
【氏名又は名称】菅内 峰雄
(73)【特許権者】
【識別番号】524223482
【氏名又は名称】菅内 智也
(74)【代理人】
【識別番号】110003443
【氏名又は名称】弁理士法人TNKアジア国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅内 峰雄
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特許第6678950(JP,B1)
【文献】特許第6667767(JP,B1)
【文献】国際公開第2016/052585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
うるち米又は餅米からなる研ぐ前の米を水に少なくとも120分間浸漬させて、当該米に、浸漬前の米重量に対して30~33%重量の水を浸漬させる浸漬工程と、
前記浸漬工程を終えた米を、前記浸漬工程を終えた米の90~100%の重量からなる水を加えて炊飯する炊飯工程と、
前記炊飯工程を終えた米飯を、当該米飯の中心温度が40~50℃になるまで冷却する第1冷却工程と、
前記冷却工程を終えて40~50℃となっている米飯に、
(i)酵素製剤として大豆由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の重量に対して1.0~1.8%重量で加えて、当該βアミラーゼ酵素製剤を米飯にむらなく混ぜる撹拌、
又は(ii)酵素製剤として微生物由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の重量に対して1.6~2.2%重量で加えて、当該βアミラーゼ酵素製剤を米飯にむらなく混ぜる撹拌、のいずれかからなる撹拌工程と、
前記撹拌工程を終えた米飯を、前記撹拌工程を終えた時点から20~30分以内に20℃以下まで冷却する第2冷却工程と、
前記撹拌工程を終えた米飯を低温殺菌庫に入れて、
(iii)前記(i)の撹拌工程を経た場合には、庫内温度60~70℃で9~13時間保管し、
又は(iv)前記(ii)の撹拌工程を経た場合には、庫内温度53~60℃で11~14時間保管する殺菌工程と、
前記殺菌工程を終えた米飯を密閉して包装する包装工程と、
前記包装工程を終えた米飯を、
(v)前記(iii)の殺菌工程を経た場合には、米飯の中心温度を100~110℃に保った上で10~15分の時間だけ保管し、
又は(vi)前記(iv)の殺菌工程を経た場合には、米飯の中心温度を90~100℃に保った上で10~30分の時間だけ保管する、滅菌工程と、を備える米飯の製造方法。
【請求項2】
前記撹拌工程では、前記(ii)の条件で、前記第1冷却工程を終えた米飯に、微生物由来の前記βアミラーゼを、米飯の重量に対して1.6~2.2%重量で加えて撹拌し、
前記殺菌工程では、前記(iv)の条件で、前記第2冷却工程を終えた米飯を低温殺菌庫に入れて、庫内温度53~60℃で11~14時間保管し、
前記包装工程では、前記殺菌工程を終えた米飯を、バリアナイロンポリ三方シール袋を用いて包装し、
前記滅菌工程では、前記(vi)の条件で、前記包装工程を終えた米飯を、90~100℃に保った上で10~30分の時間だけ保管する、請求項1に記載の米飯の製造方法。
【請求項3】
前記撹拌工程では、前記(i)の条件で、前記第1冷却工程を終えた米飯に、大豆由来のβアミラーゼを、米飯の重量に対して1.0~1.8%重量で加えて撹拌し、
前記殺菌工程では、前記(iii)の条件で、前記第2冷却工程を終えた米飯を低温殺菌庫に入れて、庫内温度60~70℃で9~13時間保管し、
前記包装工程では、前記殺菌工程を終えた米飯を、バリアナイロンポリ三方シール袋を用いて包装し、
前記滅菌工程では、前記(v)の条件で、前記包装工程を終えた米飯を、100~110℃に保った上で10~15分の時間だけ保管する、請求項1に記載の米飯の製造方法。
【請求項4】
前記撹拌工程では、前記(i)の条件で、前記第1冷却工程を終えた米飯に、大豆由来のβアミラーゼを、米飯の重量に対して1.0~1.8%重量で加えて撹拌し、
前記包装工程では、前記殺菌工程を終えた米飯を、アルミ4層フィルムを用いて包装し、
前記殺菌工程では、前記(iii)の条件で、前記包装工程を終えた米飯を低温殺菌庫に入れて、庫内温度60~70℃で9~13時間保管し、
前記滅菌工程では、前記(v)の条件に代えて、前記包装工程を終えた米飯を、レトルト釜に入れて米飯の中心温度が115~125℃となる状態で22~27分保管する、請求項1に記載の米飯の製造方法。
【請求項5】
前記撹拌工程では、前記(ii)の条件で、前記第1冷却工程を終えた米飯に、微生物由来の前記βアミラーゼを、米飯の重量に対して1.6~2.2%重量で加えて撹拌し、
前記殺菌工程では、前記(iv)の条件で、前記第2冷却工程を終えた米飯を低温殺菌庫に入れて、庫内温度53~60℃で11~14時間保管し、
前記包装工程では、前記殺菌工程を終えた米飯を、アルミ4層フィルムを用いて包装し、
前記滅菌工程では、前記(vi)の条件に代えて、前記包装工程を終えた米飯を、107~113℃の温度に保った上で8~12分の時間だけ保管する、請求項1に記載の米飯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長期間保存が可能な非常食として、乾パン、缶詰、レトルト食品、インスタント食品などが知られている。長期間保存が可能で、色味などが損なわれず、水や加熱器具が確保できない場合であっても食することが可能な米飯及びその製造方法が提案されている。当該米飯は、水及び食品添加物酸味料製剤に米を浸漬させる浸漬工程と、浸漬工程を終えた米及び食品添加物酸味料製剤を含む水を炊飯する炊飯工程と、炊飯工程を終えた米飯を所定温度に保った状態で米飯に対して所定量の酵素製剤を添加する酵素添加工程と、酵素添加工程を終えて酵素製剤を含む米飯を耐熱トレーに入れて密閉する密閉工程と、密閉工程を終えて密閉された耐熱トレー内にある米飯を所定温度条件下で一定時間保存して熟成させる熟成工程と、熟成工程を終えた耐熱トレー内の米飯を、当該米飯の中心の温度を所定温度に保った状態で所定時間だけ加熱する滅菌工程とからなる製造方法により製造される。
【0003】
そして、下記特許文献1では、米飯の製造方法であって、製造工程を長期化することなく、長期間保存のための殺菌を可能にするものが提案されている。また、下記特許文献2では、米飯の製造方法であって、製造工程を長期化することなく、更に食感を良くして一定期間保存するための殺菌を可能にする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6667767号公報
【文献】特許第6678950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び特許文献2に記載された製造方法によれば、水及び加熱器具を必要とせずに食せる状態で長期間保存が可能な米飯を製造できるが、常温で長期間保存可能な米飯の製造を更に確実に安定して行えるようにすることが望まれる。
【0006】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、常温で長期間保存可能な米飯の製造を更に確実に安定して行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係る米飯の製造方法は、うるち米又は餅米からなる研ぐ前の米を水に少なくとも120分間浸漬させて、当該米に、浸漬前の米重量に対して30~33%重量の水を浸漬させる浸漬工程と、前記浸漬工程を終えた米を、前記浸漬工程を終えた米の90~100%の重量からなる水を加えて炊飯する炊飯工程と、前記炊飯工程を終えた米飯を、当該米飯の中心温度が40~50℃になるまで冷却する第1冷却工程と、前記冷却工程を終えて40~50℃となっている米飯に、(i)酵素製剤として大豆由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の重量に対して1.0~1.8%重量で加えて、当該βアミラーゼ酵素製剤を米飯にむらなく混ぜる撹拌、又は(ii)酵素製剤として微生物由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の重量に対して1.6~2.2%重量で加えて、当該βアミラーゼ酵素製剤を米飯にむらなく混ぜる撹拌、のいずれかからなる撹拌工程と、前記撹拌工程を終えた米飯を、前記撹拌工程を終えた時点から20~30分以内に20℃以下まで冷却する第2冷却工程と、前記撹拌工程を終えた米飯を低温殺菌庫に入れて、(iii)前記(i)の撹拌工程を経た場合には、庫内温度60~70℃で9~13時間保管し、又は(iv)前記(ii)の撹拌工程を経た場合には、庫内温度53~60℃で11~14時間保管する殺菌工程と、前記殺菌工程を終えた米飯を密閉して包装する包装工程と、前記包装工程を終えた米飯を、(v)前記(iii)の殺菌工程を経た場合には、米飯の中心温度を100~110℃に保った上で10~15分の時間だけ保管し、又は(vi)前記(iv)の殺菌工程を経た場合には、米飯の中心温度を90~100℃に保った上で10~30分の時間だけ保管する、滅菌工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、常温で長期間保存可能な米飯の製造を更に確実に安定して行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る米飯の製造方法に用いる製造ラインの一例を示す図である。
【
図2】本発明に係る米飯の製造方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
【
図3】成形後の米飯を耐熱性フィルムで包装した状態の例を示す図である。
【
図4】耐熱性フィルムにより包まれた状態の成形米飯をバリアナイロンポリ三方シール袋に入れる様子を示す斜視図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係る短期保存が可能でアレルギーフリーの米飯の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第3実施形態に係る短期保存が可能な米飯の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第4実施形態に係る長期保存が可能な米飯の製造方法を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の第5実施形態に係る長期保存が可能でアレルギーフリーの米飯の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る米飯の製造方法を説明する。ここでいう米飯には、うるち米及び餅米のいずれからなるものも含まれる。また、米飯の長期間保存の期間を2つに区分し、それぞれの保存期間について説明を行う。約3か月の保存期間を「中期」とし、3か月を超えて5年までの保存期間を「長期」とする。すなわち、「長期間保存」には、「中期」及び「長期」が含まれる。また、中期及び長期で保存する米飯の製造に必要な酵素として、「大豆由来のβアミラーゼ」を用いる場合と、アレルギーフリーに対応した「微生物由来のβアミラーゼ」を用いる場合の両方について説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る米飯の製造方法に用いる製造ラインの一例を示す図である。
図2は、本発明に係る米飯の製造方法の第1実施形態を示すフローチャートである。
【0012】
〈浸漬工程:S1〉
米を研ぎ、研いだ米を浸漬タンクに入れ、水を加える。米を水に少なくとも120分間浸漬させて、当該米に、浸漬前の米重量に対して30~33%重量の水を浸漬させる。
【0013】
〈炊飯工程:S2〉
浸漬工程を終えた米を炊飯容器に入れ、浸漬工程を終えた米の90~99%の重量からなる水を加えて炊飯する。当該炊飯方法は、一般的な通常の炊飯方法で構わない。
【0014】
〈第1冷却工程:S3〉
炊飯工程を終えて90℃以上となっている米飯を、当該米飯の中心温度が40~50℃になるまで冷却する。次工程のために、例えば、炊飯工程を終えた米飯を10kg毎に別々の容器に分ける。
【0015】
〈撹拌工程:S4〉
(i)第1冷却工程を終えて米飯の中心温度が40~50℃となっている米飯に、βアミラーゼ酵素製剤として、大豆由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の上から均等に振り掛け、当該米飯の重量に対して1.0~1.8%重量で加え、βアミラーゼ酵素製剤が米飯にむらなく混ざるまで撹拌する。この撹拌は、例えば、混ぜ飯機を用いて、10kgの米飯に対して1分程度(例えば、45~80秒)の時間で行われることが好ましい。ここで、大豆物由来のβアミラーゼ酵素製剤は、相対活性が100%、かつ至適温度が60℃から70℃である。また、大豆由来のβアミラーゼ酵素製剤の死活温度は100℃以上である。大豆由来のβアミラーゼ酵素製剤として、例えば、βアミラーゼ(大豆由来)12.5%、グリセリン脂肪酸エステル8.0%、メタリン酸ナトリウム5.0%、及び食品素材74.5%を組成とするものを用いる。市販商品としては、例えば、株式会社OYCフーズネットのもちソフトMF(登録商標)を用いる。
【0016】
或いは、(ii) 第1冷却工程を終えて米飯の中心温度が40~50℃となっている米飯に、βアミラーゼ酵素製剤として、微生物由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の上から均等に振り掛け、当該米飯の重量に対して1.6~2.2%重量で加え、βアミラーゼ酵素製剤が米飯にむらなく混ざるまで撹拌する。この撹拌は、例えば、混ぜ飯機を用いて、10kgの米飯に対して1分程度(例えば、45~80秒)の時間であることが好ましい。ここで、微生物由来のβアミラーゼ酵素製剤は、相対活性が100%、かつ至適温度が53℃から60℃である。また、微生物由来のβアミラーゼ酵素製剤の死活温度は90℃以上である。微生物由来のβアミラーゼ酵素製剤として、例えば、βアミラーゼ(微生物由来)9.00%、及び食品素材91.00%を組成とする酵素製剤を用いる。市販商品としては、例えば、株式会社OYCフーズネットのネオもちソフトを用いる。微生物由来のβアミラーゼは、アレルギーフリーである。
【0017】
撹拌工程では、酵素製剤として、上記のようにβアミラーゼ酵素製剤を用いる。βアミラーゼは、アミラーゼの一種であり、澱粉のα-1.4グルコンド結合を非還元末端からエキソ型に二糖単位で加水分解し、β-アノマーのマルトース(麦芽糖)を生成する反転型の加水分解酵素であることを特性とする。この酵素の特性を利用して、第1冷却工程を終えた米飯にβアミラーゼ酵素製剤を、本実施形態で示すタイミング、量、及び米飯温度で投入する。
【0018】
〈第2冷却工程:S5〉
上記(i)又は(ii)による撹拌工程を終えた米飯を、撹拌工程を終えた時点から20~30分以内に20℃以下まで冷却する。この冷却には、例えば、真空冷却機を用いる。本実施形態に係る米飯の製造方法では、このタイミングで当該第2冷却工程を設けることで、長期間保存が可能な米飯の製造安定性を高める。
【0019】
〈具材の添加工程:S6〉
第2冷却工程で冷却した米飯(酵素剤添加済)を混ぜ飯機(例えば、不二精機株式会社:混ぜ飯機)の中に投入し、その上に下記具材を投入して具材が米飯にむらなく混ざるまで撹拌する。撹拌の時間は、例えば、10kgの米飯に対して1分~2分程度である。
【0020】
(投入する具材の例)
しそおにぎりの場合:米飯(10kg)に対して、しそパウダー2%(200g)
塩おにぎりの場合:米飯(10kg)に対して、しそ塩1%(100g)
五目おにぎり:米飯(10kg)に対して、炊き上げ五目15%(1500g)。五目の内容は、しいたけ、ごぼう、にんじん、あげ、こんにゃく
昆布おにぎり:米飯(10kg)に対して、昆布佃煮10%(1kg)
しそ梅おにぎり:米飯(10kg)に対して、しそパウダー1.0%(100g)、カリカリ梅4%(400g)
なお、具材を入れない米飯を製造する場合は、具材の添加工程は行わない。
【0021】
〈成形工程:S7〉
第2冷却工程又は具材の添加工程を終えた米飯を、手動又は機械装置(例えば、不二精機株式会社:ホグシ付リフト)により更に解した上で、成形機(例えば、不二精機株式会社:小物成形機II3300仕様 GKT-3300)に投入する。そして、
図3に例を示すように、成形後の米飯10を耐熱性フィルム3で包装する。この包装は、手動でも良いが、例えば、自動包装機を用いる。耐熱性フィルム3は、例えば、PEポリエチレン又はPPポリプロピレン等である。
【0022】
〈殺菌工程:S8〉
成形工程を終えた米飯を、低温殺菌庫に入れて、庫内保管する。
(iii)撹拌工程で上記(i)により酵素製剤の添加及び撹拌を行った米飯の場合は、当該米飯を低温殺菌庫に入れて庫内温度60~70℃で9~13時間保管する。
(iv)撹拌工程で上記(ii)により酵素製剤の添加及び撹拌を行った米飯の場合は、当該米飯を低温殺菌庫に入れて庫内温度53~60℃で11~14時間保管する。
【0023】
当該殺菌工程では、病原微生物のうち熱抵抗性が強い結核菌及びセレウス菌等を確実に殺菌し米飯の風味、色調、栄養価の劣化を最小限に止める。
【0024】
更に、当該殺菌工程では、酵素製剤の活性化を促進させることで、米飯に含まれるαでんぷんを分解させる。米は炊飯することにより、米に含まれるβでんぷんがαデンプンに変化している。βでんぷんがαデンプンに変化することにより、米飯の食味が良くなり、消化も良くなる。しかし、炊飯後に時間が経過すると、αでんぷんはβでんぷんに戻ってしまう。そこで、でんぷん分解酵素としての上記酵素製剤によりαでんぷんを分解する。
【0025】
例えば、でんぷん分解酵素として、βアミラーゼを用いる場合、αでんぷんを構成するアミロペクチンのα-1,4結合が分解される。しかし、アミロペクチンのα-1,6結合は分解されない。したがって、αでんぷんは、主としてデキストリン(限界デキストリン)や麦芽糖に分解する。そのために、αでんぷんの分解により、食味が損なわれることを防ぐことが可能となる。また、βアミラーゼにより、アミロペクチンの末端分岐部分のみが分解されるので、αでんぷんがβでんぷんに変化することを抑制することが可能となる。
【0026】
〈包装工程:S9〉
成形工程で耐熱性フィルムにより包装された米飯を、例えば、バリアナイロンポリ三方シール袋、又はアルミ4層フィルム(レトルトパウチ)により更に包装する。
図4に、耐熱性フィルム3により包装された米飯10をバリアナイロンポリ三方シール袋8により包装する状態の例を示す。包装の際には、殺菌工程を終えた米飯と、脱酸素剤をバリアナイロンポリ三方シール袋又はアルミ4層フィルムによる包装内に投入し、脱気後にヒートシールにて密閉する。この包装には、例えば、自動包装機(例えば、東洋自動機株式会社:TVP-E3/E4)を用いる。例えば、おにぎりなどの製品とする場合は、つぶれ防止の目的で、包装内に、紙ポール、プラスチック等を封入することも可能である。
【0027】
〈滅菌工程:S10〉
(v)撹拌工程で上記(i)を終えて殺菌工程で(iii)を終え、更に包装工程を終えた米飯の場合は、100~110℃以上の予め定められた温度帯に保った上で、当該米飯の中心温度を100℃以上の状態に保って10~15分の時間だけ保管する。或いは、(vi)撹拌工程で上記(ii)を終えて殺菌工程で(iv)を終えて更に包装工程を終えた米飯の場合は、包装工程を終えた米飯を、当該米飯の中心温度を90~100℃の状態に保って10~30分の時間だけ保管する。これにより、上記の撹拌工程で添加した酵素の死滅処理も行う。この滅菌工程での処理には、例えば、株式会社サムソン:熱水噴流式調理殺菌装置SGC型を用いる。
【0028】
以上、S1~S10の工程を実施することによって、少なくとも中期以上の期間で保存が可能な米飯を得ることができ、製造工程を、24時間を超えるような大幅な長期化をすることなく、長期間保存の確実性を更に高めることができる。
【0029】
次に、本発明の第2実施形態に係る中期保存が可能でアレルギーフリーの米飯の製造方法を説明する。
図5は、本発明の第2実施形態に係る中期保存が可能でアレルギーフリーの米飯の製造方法を示すフローチャートである。
【0030】
本発明の第2実施形態に係る中期保存が可能でアレルギーフリーの米飯の製造方法は、以下に示す工程を有する。
【0031】
第2実施形態では、まず、浸漬工程(S1)、炊飯工程(S2)、及び第1冷却工程(S3)を、第1実施形態と同様にして行う。
【0032】
〈撹拌工程:S4〉
続いて撹拌工程を行う。撹拌工程では、上記(ii)の条件に従って、第1冷却工程を終えて米飯の中心温度が40~50℃となっている米飯に、微生物由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の上から均等に振り掛け、当該米飯の重量に対して1.6~2.2%重量で加え、βアミラーゼ酵素製剤が米飯にむらなく混ざるまで撹拌する。
【0033】
続いて、第2冷却工程(S5)、具材の添加工程(S6)、及び成形工程(S7)を、第1実施形態と同様にして行う。但し、具材の添加工程(S6)では、アレルギーを引き起こす恐れがある食材は用いない。上記例の場合、しそおにぎり、塩おにぎり、又はしそ梅おにぎりの場合における具材のみを用いる。なお、具材を入れない米飯を製造する場合は、具材の添加工程(S6)は行わない。
【0034】
〈殺菌工程:S8〉
続いて殺菌工程を行う。殺菌工程では、上記(iv)の条件で、前記包装工程を終えた米飯を低温殺菌庫に入れて、庫内温度53~60℃で11~14時間保管する。
【0035】
〈包装工程:S9〉
続いて包装工程を行う。包装工程では、殺菌工程を終えた米飯を、バリアナイロンポリ三方シール袋により包装する。すなわち、成形工程で耐熱性フィルムにより包装された米飯を、バリアナイロンポリ三方シール袋により更に包装する。包装の際には、殺菌工程を終えた米飯と、脱酸素剤を包装に投入する。
【0036】
〈滅菌工程:S10〉
続いて滅菌工程を行う。滅菌工程では、包装工程を終えた米飯を、上記(vi)の条件に従って、当該米飯の中心温度を90~100℃の状態に保って10~30分の時間だけ保管する。
【0037】
以上、S1~S10の工程を実施することによって、少なくとも3月程度の中期保存が可能でアレルギーフリーの米飯を得ることができ、製造工程を上記大幅な長期化をすることなく、長期間保存の確実性を更に高めることができる。
【0038】
次に、本発明の第3実施形態に係る中期保存が可能な米飯の製造方法を説明する。
図6は、本発明の第3施形態に係る短期保存が可能な米飯の製造方法を示すフローチャートである。
【0039】
本発明の第3実施形態に係る中期保存が可能な米飯の製造方法は、以下に示す工程を有する。
【0040】
第3実施形態では、まず、浸漬工程(S1)、炊飯工程(S2)、及び第1冷却工程(S3)を、第1実施形態と同様にして行う。
【0041】
〈撹拌工程:S4〉
続いて撹拌工程を行う。撹拌工程では、上記(i)の条件に従って、大豆由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の上から均等に振り掛け、当該米飯の重量に対して1.0~1.8%重量で加え、βアミラーゼ酵素製剤が米飯にむらなく混ざるまで撹拌する。
【0042】
続いて、第2冷却工程(S5)、具材の添加工程(S6)、及び成形工程(S7)を、第1実施形態と同様にして行う。
【0043】
〈殺菌工程:S8〉
続いて殺菌工程を行う。殺菌工程では、上記(iii)の条件に従って、米飯を低温殺菌庫に入れて庫内温度60~70℃で9~13時間保管する。
【0044】
〈包装工程:S9〉
続いて包装工程を行う。包装工程では、殺菌工程を終えた米飯を、バリアナイロンポリ三方シール袋により包装する。包装の際には、殺菌工程を終えた米飯と、脱酸素剤を包装に投入する。
【0045】
〈滅菌工程:S10〉
続いて滅菌工程を行う。滅菌工程では、上記(v)の条件に従って、米飯の中心温度を100~110℃に保った上で10~15分の時間だけ保管する。
【0046】
以上、S1~S10の工程を実施することによって、少なくとも3月程度の中期保存が可能な米飯を得ることができ、製造工程を上記大幅な長期化をすることなく、長期間保存の確実性を更に高めることができる。
【0047】
次に、本発明の第4実施形態に係る長期保存が可能な米飯の製造方法を説明する。
図7は、本発明の第4施形態に係る長期保存が可能な米飯の製造方法を示すフローチャートである。
【0048】
本発明の第4実施形態に係る長期保存が可能な米飯の製造方法は、以下に示す工程を有する。
【0049】
第4実施形態では、まず、浸漬工程(S1)、炊飯工程(S2)、及び第1冷却工程(S3)を、第1実施形態と同様にして行う。
【0050】
〈撹拌工程:S4〉
続いて撹拌工程を行う。撹拌工程では、上記(i)の条件に従って、大豆由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の上から均等に振り掛け、当該米飯の重量に対して1.0~1.8%重量で加え、βアミラーゼ酵素製剤が米飯にむらなく混ざるまで撹拌する。
【0051】
続いて、第2冷却工程(S5)、具材の添加工程(S6)、及び成形工程(S7)を、第1実施形態と同様にして行う。
【0052】
〈殺菌工程:S8〉
続いて殺菌工程を行う。殺菌工程では、上記(iii)の条件に従って、米飯を低温殺菌庫に入れて庫内温度60~70℃で9~13時間保管する。
【0053】
〈包装工程:S9〉
続いて包装工程を行う。包装工程では、殺菌工程を終えた米飯を、アルミ4層フィルム(レトルトパウチ)により包装する。包装の際には、殺菌工程を終えた米飯と、脱酸素剤を包装に投入する。
【0054】
〈滅菌工程:S10〉
続いて滅菌工程を行う。滅菌工程では、包装工程を終えた米飯を、レトルト釜に入れて殺菌処理する。第4実施形態における滅菌工程では、上記(v)(vi)の条件に代えて、包装工程を終えた米飯を、レトルト釜に入れて米飯の中心温度が115~125℃となる状態で22~27分保管する、という条件で滅菌処理を行う。米飯は、レトルト食品として、F値が4以上を満たすようにすることが最適である。
【0055】
以上、S1~S10の工程を実施することによって、長期の保存が可能な米飯を得ることができ、製造工程を上記大幅な長期化をすることなく、長期間保存の確実性を更に高めることができる。
【0056】
次に、本発明の第5実施形態に係る長期保存が可能でアレルギーフリーの米飯の製造方法を説明する。
図8は、本発明の第5施形態に係る期保存が可能でアレルギーフリーの米飯の製造方法を示すフローチャートである。
【0057】
本発明の第5実施形態に係る長期保存が可能でアレルギーフリーの米飯の製造方法は、以下に示す工程を有する。
【0058】
第5実施形態では、まず、浸漬工程(S1)、炊飯工程(S2)、及び第1冷却工程(S3)を、第1実施形態と同様にして行う。
【0059】
〈撹拌工程:S4〉
続いて撹拌工程を行う。撹拌工程では、上記(ii)の条件に従って、第1冷却工程を終えて米飯の中心温度が40~50℃となっている米飯に、微生物由来のβアミラーゼ酵素製剤を、米飯の上から均等に振り掛け、当該米飯の重量に対して1.6~2.2%重量で加え、βアミラーゼ酵素製剤が米飯にむらなく混ざるまで撹拌する。
【0060】
続いて、第2冷却工程(S5)、具材の添加工程(S6)、及び成形工程(S7)を、第1実施形態と同様にして行う。但し、具材の添加工程(S6)では、アレルギーを引き起こす恐れがある食材は用いない。上記例の場合、しそおにぎり、塩おにぎり、又はしそ梅おにぎりの場合における具材のみを用いる。なお、具材を入れない米飯を製造する場合は、具材の添加工程(S6)は行わない。
【0061】
〈殺菌工程:S8〉
続いて殺菌工程を行う。殺菌工程では、上記(iv)の条件で、前記包装工程を終えた米飯を低温殺菌庫に入れて、庫内温度53~60℃で11~14時間保管する。
【0062】
〈包装工程:S9〉
殺菌工程を終えた米飯を、アルミ4層フィルム(レトルトパウチ)により包装する。包装の際には、殺菌工程を終えた米飯と、脱酸素剤を包装に投入する。
【0063】
〈滅菌工程:S10〉
続いて滅菌工程を行う。滅菌工程では、包装工程を終えた米飯を、レトルト釜に入れて殺菌処理する。第5実施形態における滅菌工程では、上記(v)(vi)の条件に代えて、包装工程を終えた米飯を、当該米飯の中心温度を107~113℃の温度に保った上で8~12分の時間だけ保管する。
【0064】
以上、S1~S10の工程を実施することによって、長期間保存可能でアレルギーフリーの米飯を得ることができ、製造工程を上記大幅な長期化をすることなく、長期間保存の確実性を更に高めることができる。
【0065】
なお、本実施の形態で用いる米は、うるち米の場合、ジャポニカ米、インディカ米、ジャパニカ米のいずれでもよく、更には、餅米でもよい。また、米の精米歩合についても、玄米、三分搗き米、五分搗き米、七分搗き米などのいずれでもよい。
【0066】
なお、本発明は上記実施の形態の構成に限られず種々の変形が可能である。上記実施形態では、
図1乃至
図8を用いて上記実施形態により示した構成及び処理は、本発明の一実施形態に過ぎず、本発明を当該構成及び処理に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0067】
10 米飯
3 耐熱性フィルム
8 バリアナイロンポリ三方シール袋
【要約】
【課題】製造工程を長期化せずに米飯の長期間保存の確実性を更に高める。
【解決手段】米を米重量に対して30~33%重量の水を浸漬させる浸漬工程(S1)と、浸漬工程後の米をその90~100%の重量の水を加えて炊飯する炊飯工程(S2)と、炊飯工程後の米飯を中心温度40~50℃に冷却する第1冷却工程(S3)と、冷却工程を終えて中心温が40~50℃である米飯に大豆由来のβアミラーゼ酵素製剤を米飯の重量に対して1.0~1.8%重量で加えて混ぜる撹拌工程(S4)と、撹拌工程後の米飯を20℃以下まで冷却する第2冷却工程(S5)と、包装工程後の米飯を60~70℃で9~13時間保管する殺菌工程(S6)と、殺菌工程後の米飯を密閉包装する包装工程(S7)と、包装工程後の米飯をその中心温度を100~110℃に保って10~15分の時間保管する滅菌工程(S8)とを実施する。
【選択図】
図1