(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】熱電変換特性評価方法、熱電変換特性解析装置及び解析プログラム、並びに熱電変換特性評価システム
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
G01N25/18 E
(21)【出願番号】P 2020215996
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業CREST「スピントロニック・サーマルマネージメント」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】内田 健一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】長野 方星
(72)【発明者】
【氏名】アルアスリ アブドゥルカリーム
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-190443(JP,A)
【文献】特開2018-190780(JP,A)
【文献】国際公開第2015/027210(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102305807(CN,A)
【文献】特開2002-131260(JP,A)
【文献】内田 健一,スピンペルチェ効果のサーマルイメージング,応用物理,2018年,第87巻,第7号,pp.506~510
【文献】Hilmar Straube et al.,Measurement of the Peltier coefficient of semiconductors by lock-in thermography,Applied Physics Letters,2009年,Vol.95,pp.052107-1 - 052107-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電変換特性評価方法であって、
測定対象物質と参照物質が接合された測定試料に、ロックインサーモグラフィ法により、前記測定対象物質の温度分布が周期的に変化するように交流電流を印加しながら赤外線カメラを用いて前記測定試料の表面の温度分布を測定し、
得られた熱画像から、フーリエ解析により、前記電流と同じ周波数で時間変化する温度変化信号を選択的に抽出し、前記測定試料の接合部に生じたペルチェ効果に由来する温度変化信号のみに由来する第1の振幅画像と第1の位相画像を生成する第1の測定と、
前記熱画像から、フーリエ解析により、前記第1の振幅画像と第1の位相画像によって得られたペルチェ効果に由来する温度変化信号を減算することにより、前記測定試料に生じたジュール熱に由来する温度変化信号のみに由来する第2の振幅画像と第2の位相画像を生成する第2の測定を行い、
前記測定試料の接合部を含む一定の範囲における振幅及び位相の温度変化プロファイルを用いて、前記測定対象物質の熱伝導率及びゼーベック係数を算出することを含む、
熱電変換特性評価方法。
【請求項2】
前記第1の位相画像における線形位相遅れの傾き、または、前記第1の振幅画像における振幅の指数減衰率から、前記測定対象物質の熱拡散率を算出し、
前記第2の振幅画像における振幅から、前記測定対象物質の熱伝導率を算出し、
得られた熱拡散率及び熱伝導率から、前記測定対象物質のペルチェ効果熱流束を算出し、
次いで、前記測定対象物質のペルチェ係数及びゼーベック係数を算出し、
得られた前記測定対象物質の物性値及び電気伝導率に基づいて、前記測定対象物質の無次元性能指数を算出する、
請求項1に記載の熱電変換特性評価方法。
【請求項3】
前記測定対象物質に電圧測定用のプローブ及び配線を取り付け、前記第1の測定及び第2の測定の前または後に、4端子法により、前記測定対象物質の電気伝導率を測定することをさらに含む、請求項1または2に記載の熱電変換特性評価方法。
【請求項4】
前記測定試料に一方向に直流電流を印加して得られた温度変化信号と、逆方向に直流電流を印加して得られた温度変化信号を用いて、定常状態におけるペルチェ効果に由来する温度変化を示す熱画像を生成し、前記測定対象物質の電気伝導率を算出することをさらに含む、請求項1または2に記載の熱電変換特性評価方法。
【請求項5】
前記測定試料に磁場を印加することをさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱電変換特性評価方法。
【請求項6】
前記測定試料は、複数の測定対象物質が各々参照物質と接合された複数の測定試料が電気的に直列に接続されて構成されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱電変換特性評価方法。
【請求項7】
前記温度変化プロファイルは、前記測定試料の接合部を含む一次元における温度変化の一次元プロファイルである、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱電変換特性評価方法。
【請求項8】
測定対象物質と参照物質が接合された測定試料に印加された交流電流に起因する測定試料の表面の温度分布を測定した熱画像信号、及び、前記電流の周期に相当する参照信号が入力される入力部と、
前記熱画像信号と参照信号を用いて熱画像を生成し、前記熱画像を用いて、前記測定対象物質の熱伝導率及びゼーベック係数を算出する演算部と、
前記演算部で実行されるプログラムが記憶される記憶部と、
前記熱画像、及び、前記熱伝導率及びゼーベック係数の算出結果を含む演算結果を出力する出力部と、を備え、
前記演算部は、
前記熱画像から、フーリエ解析により、前記電流と同じ周波数で時間変化する温度変化信号を選択的に抽出し、前記測定試料の接合部に生じたペルチェ効果に由来する温度変化信号のみに由来する第1の振幅画像と第1の位相画像を生成することと、
前記熱画像から、フーリエ解析により、前記第1の振幅画像と第1の位相画像によって得られたペルチェ効果に由来する温度変化信号を減算することにより、前記測定試料に生じたジュール熱に由来する温度変化信号のみに由来する第2の振幅画像と第2の位相画像を生成することと、
前記測定試料の接合部を含む一定の範囲における振幅及び位相の温度変化プロファイルを用いて、前記測定対象物質の熱伝導率及びゼーベック係数を算出すること、を実行する、
熱電変換特性解析装置。
【請求項9】
前記温度変化プロファイルは、前記測定試料の接合部を含む一次元における温度変化の一次元プロファイルである、請求項8に記載の熱電変換特性解析装置。
【請求項10】
コンピュータに、
測定対象物質と参照物質が接合された測定試料に印加された交流電流に起因する測定試料の表面の温度分布を測定した熱画像信号、及び、前記電流の周期に相当する参照信号を用いて熱画像を生成する機能と、
前記熱画像から、フーリエ解析により、前記電流と同じ周波数で時間変化する温度変化信号を選択的に抽出し、前記測定試料の接合部に生じたペルチェ効果に由来する温度変化信号のみに由来する第1の振幅画像と第1の位相画像を生成する機能と、
前記熱画像から、フーリエ解析により、前記第1の振幅画像と第1の位相画像によって得られたペルチェ効果に由来する温度変化信号を減算することにより、前記測定試料に生じたジュール熱に由来する温度変化信号のみに由来する第2の振幅画像と第2の位相画像を生成する機能と、
前記測定試料の接合部を含む一定の範囲における振幅及び位相の温度変化プロファイルを用いて、前記測定対象物質の熱伝導率及びゼーベック係数を算出する機能と、を実現させる、
熱電変換特性解析プログラム。
【請求項11】
試料台、電流印加装置、赤外線カメラ、及び解析装置を備え、
前記試料台は、測定対象物質と参照物質が接合された測定試料を固定可能に構成され、
前記電流印加装置は、前記測定試料に、前記測定対象物質の温度分布が周期的に変化するように交流電流を印加可能に構成され、
前記赤外線カメラは、前記測定試料の表面の温度分布を測定可能に構成され、
前記解析装置は、請求項8に記載の熱電変換特性解析装置である、
熱電変換特性評価システム。
【請求項12】
磁場印加装置をさらに備え、
前記磁場印加装置は、前記測定試料に磁場を印加可能に構成されている、請求項11に記載の熱電特性評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換特性評価方法、熱電変換特性解析装置及び解析プログラム、並びに熱電変換特性評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、未利用のまま棄てられている廃熱の有効利用が求められており、熱から電力を取り出せる熱電発電技術が期待されている。熱電発電の効率は熱電材料の性能指数(Figure of Merit, FOM)に依存しているため、性能指数の評価が極めて重要となる。
【0003】
一般的に熱電材料の性能指数の評価には、次式で表される無次元性能指数ZTが用いられている。
ZT=S2σT/κ
ここで、Sはゼーベック係数であり、σは電気伝導率であり、Tは絶対温度であり、κは熱伝導率である。
【0004】
しかしながら、多くの場合、ゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率(以下、これらの3物性を総称して「熱電物性」ともいう。)を個別に測定する必要があり、熱電材料の性能指数の評価に時間と労力を要した。現在市販されている熱電物性評価装置の中には、1つの測定試料を用いて、ゼーベック係数と電気伝導率の2物性を測定するものがあるが、熱伝導率は別の測定装置を用いる必要があった。また、信頼性の高いゼーベック係数や熱伝導率の測定には、標準化された実験装置または熟練した実験スキルが必要であり、性能指数の信頼性に問題が出ることもある。さらに、従来の評価装置による測定では、測定試料の成形にも時間を要するため、1つの測定試料の熱電物性の測定に、最低でも1日~2日の長時間を要した。
【0005】
熱電材料の熱電物性評価に関して、これまでに、1つの測定試料を用いて3物性(ゼーベック係数、電気伝導率及び熱伝導率)を測定することを志向した提案がなされている。例えば、特許文献1には、測定試料の形状に制約を受けることなく熱拡散率αを測定する方法に関し、測定試料の両端部に設けられた一対の金属電極の一方の金属電極をヒータによって加熱し、測定試料の異なる2点間の温度差ΔTを熱電対を用いて測定することで、ゼーベック係数Sを算出することが記載されている。また、特許文献2には、熱電対などの測定プローブと測定試料との接触不良による計測不良を改善することができる熱電特性評価ユニットが開示され、測定試料を保持する保持部材において、測定試料の一端部で接触可能に配置されたヒータを備えることが記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2のように、測定試料に対して熱電対などの温度測定用の測定プローブを直接接触させ、ヒータなどの加熱手段を用いて測定試料を直接的もしくは間接的に加熱し、測定試料に生じた温度変化を計測する手法の場合、熱損失の影響が熱電物性の測定結果に大きく反映される可能性があり、また、作業者の実験スキルによる結果のバラつきに対する懸念もあるなど、信頼性や再現性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-24174号公報
【文献】特開2020-139834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、1つの測定試料を用いて複数の熱電物性を測定することができるとともに、複数の測定試料の熱電物性の測定を同時にかつ迅速に行うことができる熱電変換特性評価方法、熱電変換特性解析装置及び解析プログラム、並びに熱電変換特性評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述したような従来の測定原理を根本的に見直し、温度測定用の測定プローブを測定試料に接触させる必要のない、「非接触式」の温度計測手法を採用することを想到した。具体的には、熱電物性を測定する測定対象物質と、熱電物性のうち少なくともゼーベック係数及び電気伝導率が既知の参照物質を接合した測定試料に対して電流を印加し、この電流印加によって測定試料の接合部に生じるペルチェ効果に由来するペルチェ熱を熱源として測定試料に温度変化を生じさせ、この温度変化をサーモグラフィ法を用いて熱画像として観測することを想到した。この手法によれば、測定試料に対する電流印加によって生じるペルチェ効果自体が熱源の役割を担うため、ヒータなどの加熱手段を設ける必要がなくなり、作業者の実験スキルによる結果のバラつきも回避することができる。
【0010】
一方、通常のサーモグラフィ法では、上記測定試料中を流れる電流に由来するジュール熱による温度変化と、測定対象物質と参照物質の接合部(接合界面)に生じたペルチェ熱に由来する温度変化の重ね合わせが測定されるため、通常のサーモグラフィ法のみでは、上記目的を達成することは困難である。
【0011】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
【0012】
[1] 熱電変換特性評価方法であって、測定対象物質と参照物質が接合された測定試料に、ロックインサーモグラフィ法により、前記測定対象物質の温度分布が周期的に変化するように交流電流を印加しながら赤外線カメラを用いて前記測定試料の表面の温度分布を測定し、得られた熱画像から、フーリエ解析により、前記電流と同じ周波数で時間変化する温度変化信号を選択的に抽出し、前記測定試料の接合部に生じたペルチェ効果に由来する温度変化信号のみに由来する第1の振幅画像と第1の位相画像を生成する第1の測定と、前記熱画像から、フーリエ解析により、前記第1の振幅画像と第1の位相画像によって得られたペルチェ効果に由来する温度変化信号を減算することにより、前記測定試料に生じたジュール熱に由来する温度変化信号のみに由来する第2の振幅画像と第2の位相画像を生成する第2の測定を行い、前記測定試料の接合部を含む一定の範囲における振幅及び位相の温度変化プロファイルを用いて、前記測定対象物質の熱伝導率及びゼーベック係数を算出することを含む、熱電変換特性評価方法。
[2] 前記第1の位相画像における線形位相遅れの傾き、または、前記第1の振幅画像における振幅の指数減衰率から、前記測定対象物質の熱拡散率を算出し、前記第2の振幅画像における振幅から、前記測定対象物質の熱伝導率を算出し、得られた熱拡散率及び熱伝導率から、前記測定対象物質のペルチェ効果熱流束を算出し、次いで、前記測定対象物質のペルチェ係数及びゼーベック係数を算出し、得られた前記測定対象物質の物性値及び電気伝導率に基づいて、前記測定対象物質の無次元性能指数を算出する、[1]に記載の熱電変換特性評価方法。
[3] 前記測定対象物質に電圧測定用のプローブ及び配線を取り付け、前記第1の測定及び第2の測定の前または後に、4端子法により、前記測定対象物質の電気伝導率を測定することをさらに含む、[1]または[2]に記載の熱電変換特性評価方法。
[4] 前記測定試料に一方向に直流電流を印加して得られた温度変化信号と、逆方向に直流電流を印加して得られた温度変化信号を用いて、定常状態におけるペルチェ効果に由来する温度変化を示す熱画像を生成し、前記測定対象物質の電気伝導率を算出することをさらに含む、[1]または[2]に記載の熱電変換特性評価方法。
[5] 前記測定試料に磁場を印加することをさらに含む、[1]から[4]のいずれかに記載の熱電変換特性評価方法。
[6] 前記測定試料は、複数の測定対象物質が各々参照物質と接合された複数の測定試料が電気的に直列に接続されて構成されている、[1]から[5]のいずれかに記載の熱電変換特性評価方法。
[7] 前記温度変化プロファイルは、前記測定試料の接合部を含む一次元における温度変化の一次元プロファイルである、[1]から[6]のいずれか一項に記載の熱電変換特性評価方法。
[8] 測定対象物質と参照物質が接合された測定試料に印加された交流電流に起因する測定試料の表面の温度分布を測定した熱画像信号、及び、前記電流の周期に相当する参照信号が入力される入力部と、前記熱画像信号と参照信号を用いて熱画像を生成し、前記熱画像を用いて、前記測定対象物質の熱伝導率及びゼーベック係数を算出する演算部と、前記演算部で実行されるプログラムが記憶される記憶部と、前記熱画像、及び、前記熱伝導率及びゼーベック係数の算出結果を含む演算結果を出力する出力部と、を備え、前記演算部は、前記熱画像から、フーリエ解析により、前記電流と同じ周波数で時間変化する温度変化信号を選択的に抽出し、前記測定試料の接合部に生じたペルチェ効果に由来する温度変化信号のみに由来する第1の振幅画像と第1の位相画像を生成することと、前記熱画像から、フーリエ解析により、前記第1の振幅画像と第1の位相画像によって得られたペルチェ効果に由来する温度変化信号を減算することにより、前記測定試料に生じたジュール熱に由来する温度変化信号のみに由来する第2の振幅画像と第2の位相画像を生成することと、前記測定試料の接合部を含む一定の範囲における振幅及び位相の温度変化プロファイルを用いて、前記測定対象物質の熱伝導率及びゼーベック係数を算出すること、を実行する、熱電変換特性解析装置。
[9] 前記温度変化プロファイルは、前記測定試料の接合部を含む一次元における温度変化の一次元プロファイルである、[8]に記載の熱電変換特性解析装置。
[10] コンピュータに、測定対象物質と参照物質が接合された測定試料に印加された交流電流に起因する測定試料の表面の温度分布を測定した熱画像信号、及び、前記電流の周期に相当する参照信号を用いて熱画像を生成する機能と、前記熱画像から、フーリエ解析により、前記電流と同じ周波数で時間変化する温度変化信号を選択的に抽出し、前記測定試料の接合部に生じたペルチェ効果に由来する温度変化信号のみに由来する第1の振幅画像と第1の位相画像を生成する機能と、前記熱画像から、フーリエ解析により、前記第1の振幅画像と第1の位相画像によって得られたペルチェ効果に由来する温度変化信号を減算することにより、前記測定試料に生じたジュール熱に由来する温度変化信号のみに由来する第2の振幅画像と第2の位相画像を生成する機能と、前記測定試料の接合部を含む一定の範囲における振幅及び位相の温度変化プロファイルを用いて、前記測定対象物質の熱伝導率及びゼーベック係数を算出する機能と、を実現させる、熱電変換特性解析プログラム。
[11] 試料台、電流印加装置、赤外線カメラ、及び解析装置を備え、前記試料台は、測定対象物質と参照物質が接合された測定試料を固定可能に構成され、前記電流印加装置は、前記測定試料に、前記測定対象物質の温度分布が周期的に変化するように交流電流を印加可能に構成され、前記赤外線カメラは、前記測定試料の表面の温度分布を測定可能に構成され、前記解析装置は、[8]に記載の熱電変換特性解析装置である、熱電変換特性評価システム。
[12] 磁場印加装置をさらに備え、前記磁場印加装置は、前記測定試料に磁場を印加可能に構成されている、[11]に記載の熱電特性評価システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、1つの測定試料を用いて複数の熱電物性を測定することができるとともに、複数の測定試料の熱電物性の測定を同時にかつ迅速に行うことができる熱電変換特性評価方法、熱電変換特性解析装置及び解析プログラム、並びに熱電変換特性評価システムが提供される。
【0014】
具体的には、本発明では、サーモグラフィ法を応用して測定試料に生じる温度変化を熱画像として観測するため、温度測定用の測定プローブを要しない。また、測定試料に温度変化を生じさせる熱源として電流の印加によって生じるペルチェ熱を利用するため、ヒータなどの加熱手段を要しない。そのため、装置構成を簡略化することができる。また、非接触の温度計測を利用することで、作業者の実験スキルに依存せず、信頼性及び再現性の高い測定結果を迅速に得ることができる。さらに、熱イメージング技術を利用することで、1つの測定試料を用いた複数の熱電物性の測定だけでなく、原理的には、熱画像の視野範囲内に収まる限りの複数の測定試料の熱電物性の同時測定が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱電変換特性評価システムの模式図
【
図2】本発明の一実施形態に係る熱電変換特性解析装置の構成例を示すブロック図
【
図3】本発明の一実施形態に係る熱電変換特性解析プログラムの内容の一例を示すフローチャート
【
図4】
図3に示すフローチャートの処理内容の具体例を示すフローチャート
【
図5】(a)、(b)
図1に示す熱電変換特性評価システムにおいて、さらに磁場印加装置を備える構成例を示す模式図
【
図6】本発明の一実施形態に係る熱電変換特性評価方法の第1の測定の概略を示す模式図及びモデル図
【
図7】本発明の一実施形態に係る熱電変換特性評価方法の第1の測定の概略を示す模式図及びイメージ図
【
図8】本発明の一実施形態に係る熱電変換特性評価方法の第2の測定の概略を示す模式図及びモデル図
【
図9】本発明の一実施形態に係る熱電変換特性評価方法において、測定試料に直流電流を印加してDC測定を行う態様に関するモデル図
【
図10】(a)実施例の第1の測定で得られた、4種類の測定試料(Ni-Cu、Ni
95Pt
5-Cu、Fe-Cu、Ti-Cu)の振幅Aの像(上段)及び位相φ(下段)の像。(b)(a)に示した振幅画像及び位相画像から得られた一次元プロファイル
【
図11】(a)実施例の第2の測定で得られた、4種類の測定試料(Ni-Cu、Ni
95Pt
5-Cu、Fe-Cu、Ti-Cu)の振幅Aの像(上段)及び位相φ(下段)の像。(b)(a)に示した振幅画像及び位相画像から得られた一次元プロファイル
【
図12】実施例に示す条件で測定した、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)の熱拡散率D(D
slope及びD
exp)の周波数f依存性の結果を示す図
【
図13】実施例に示す条件で測定した、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)の熱伝導率κの周波数f依存性の結果を示す図
【
図14】実施例に示す条件で測定した、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)の熱流束qの周波数f依存性の結果を示す図
【
図15】実施例に示す条件で測定した、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)のペルチェ係数Πの周波数f依存性の結果を示す図
【
図16】実施例に示す条件で測定した、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)のゼーベック係数Sの周波数f依存性の結果を示す図
【
図17】実施例に示す条件で測定した4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)の物性値及び電気伝導率σから算出した、無次元性能指数ZTの周波数f依存性の結果を示す図
【
図18】磁場を印加した場合と印加しない場合における、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)のゼーベック係数Sの結果を示す図
【
図19】
図18に示す結果から得られた、外部磁場の印加によるゼーベック係数の変化ΔSの結果を示す図
【
図20】
図18及び
図19に示す結果から得られた、外部磁場の印加によるゼーベック係数の変化率ΔS/S(%)の結果を示す図
【
図21】磁場を印加した場合と印加しない場合における、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)の熱伝導率κの結果を示す図
【
図22】
図21に示す結果から得られた、外部磁場の印加による熱伝導率の変化Δκの結果を示す図
【
図23】
図21及び
図22に示す結果から得られた、外部磁場の印加による熱伝導率の変化率Δκ/κ(%)の結果を示す図
【
図24】磁場を印加した場合と印加しない場合における、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)の無次元性能指数ZTの結果を示す図
【
図25】
図24に示す結果から得られた、外部磁場の印加による性能指数の変化ΔZTの結果を示す図
【
図26】
図24及び
図2523に示す結果から得られた、外部磁場の印加による性能指数の変化率ΔZT/ZT(%)の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
[熱電変換特性評価システム]
図1は、本発明の一実施形態に係る熱電変換特性評価システムの模式図である。
図1に示すように、本実施形態の熱電変換特性評価システム10は、試料台11と、電流印加装置12と、赤外線カメラ13と、熱電変換特性解析装置14(以下、単に「解析装置14」とも称する。)とを備えている。
【0018】
試料台11は、測定対象物質と参照物質が接合された測定試料Mを固定可能に構成されている。
図1に示す態様では、試料台11は平板状であり、その上面に測定試料Mが載置可能に構成されている。なお、後述するように、本発明の熱電変換特性評価方法では、測定試料Mから試料台11への熱伝導および電気伝導は無視できるものとする仮説を設けるため、試料台11の上面に測定試料Mが直接接触する場合には、少なくともその接触部は適切な断熱性・電気絶縁性を有する物質からなることが好ましい。あるいは、試料台11は、測定試料Mを空中に保持可能に構成されていてもよい。
【0019】
ここで、測定試料Mに関し、
図1に示す態様では、測定試料Mは、複数(具体的には4つ)の測定試料M1、M2、M3、M4から構成されている態様を示している。また、測定試料M1~M4は、それぞれ、測定対象物質と参照物質が接合されてなる。すなわち、
図1に示す態様では、4種類の測定対象物質(Material A、Material B、Material C、Material D)が、それぞれ参照物質(Reference material)と接合されている。なお、測定試料Mが複数の測定試料から構成されている場合、個々の測定対象物質は同一であってもよく、異なっていてもよい。また、参照物質は、熱電物性のうち少なくともゼーベック係数及び電気伝導率が既知の物質であれば、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0020】
なお、本実施形態の熱電変換特性評価システム10において、測定試料Mは、複数の測定試料から構成される態様に限定されず、単一の測定試料を用いることも可能である。ここで、測定試料Mが単一の測定試料である態様においても、当該測定試料は、測定対象物質と、熱電物性のうち少なくともゼーベック係数及び電気伝導率が既知の参照物質が接合されてなることが好ましい。
【0021】
また、
図1では、測定試料M1~M4の外観形状が略直方体である態様(すなわち、測定対象物質と参照物質がいずれも略直方体形状である態様)を示しているが、測定試料、測定対象物質及び参照物質の外観形状はこれに限定されず、電流印加装置12により、電流を測定対象物質と参照物質の接合界面を貫くように印加でき、測定試料M中の電流密度を見積もることができ、測定試料Mの表面温度を赤外線カメラ13で測定できるならば、任意の形状を採用することができる。
【0022】
測定試料Mが複数の測定試料から構成される態様において、各測定試料は、電気的に直列に接続されていることが好ましい。これにより、電流印加装置12によって各測定試料に印加される電流値を同一にすることができ、複数の測定試料の熱電物性の測定をより迅速に行うことができる。一方、複数の測定試料を電気的に並列に接続した場合には、電流印加装置12によって印加される電流値が測定試料毎で異なることになるため、複数の測定試料の熱電物性の測定に時間を要する場合がある。
【0023】
具体的には、
図1に示す態様では、測定試料M1の測定対象物質(Material A)の一端(参照物質との接合部の反対側の端部)と、測定試料M2の参照物質(Ref. material)の一端(測定対象物質(Material B)との接合部の反対側の端部)が電気的に接続され、同様に、測定試料M2の測定対象物質(Material B)と測定試料M3の参照物質、測定試料M3の測定対象物質(Material C)と測定試料M4の参照物質が電気的に接続される。そして、測定試料M1の参照物質(Ref. material)の一端(測定対象物質(Material A)との接合部の反対側の端部)と、測定試料Mの4測定対象物質(Material D)の一端(参照物質との接合部の反対側の端部)は、電流印加装置12に電気的に接続されている。
【0024】
これにより、本実施形態の熱電変換特性評価システム10では、電流印加装置12により、測定試料Mを構成する4つの測定試料M1~M4に、所定の電流値及び所定の周波数で、電流を印加可能とされている。なお、電流印加装置12は、測定試料M(測定試料M1~M4)に、所定の電流値で直流電流を印加することも可能とされていることが好ましい。
【0025】
また、電流印加装置12は、解析装置14と電気的に接続されており、電流印加装置12から解析装置14に対して参照信号(測定試料M(測定試料M1~M4)に印加される電流の周期に相当する信号)を送信可能に構成されている。
【0026】
本実施形態の熱電変換特性評価システム10では、電流印加装置12から所定の周波数で測定試料M(測定試料M1~M4)に周期変化する電流(交流電流)が印加されることにより、その電流印加に応答して測定試料M(測定試料M1~M4)に温度変化が生じ、測定対象物質の温度分布が周期的に変化する。この温度変化は、赤外線カメラ13によって撮影される。より具体的には、電流印加装置12により、測定対象物質の温度分布が非定常状態となる周波数で、測定試料M(測定試料M1~M4)に交流電流を印加しながら(すなわち、測定試料M(測定試料M1~M4)に電流と同じ周波数で時間変化する温度分布が生じる状態において)、赤外線カメラ13を用いて測定試料M(測定試料M1~M4)の表面の過渡的な温度分布が測定される。そして、測定された温度分布は、熱画像信号として、赤外線カメラ13と電気的に接続された解析装置14に送信される。
【0027】
〔熱電変換特性解析装置及び解析プログラム〕
ここで、本発明の一実施形態に係る熱電変換特性解析装置及び解析プログラムについて、
図2及び
図3を参照して説明する。なお、ここでは、本実施形態の熱電変換特性解析装置が、
図1に示す熱電変換特性評価システム10の解析装置14である場合を例にして説明する。
【0028】
図2は、本実施形態の熱電変換特性評価システム10の解析装置14の構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、解析装置14は、赤外線カメラ13から送信される熱画像信号(すなわち、測定試料Mに印加された交流電流に起因する測定試料の表面の温度分布を測定した熱画像信号)、及び、電流印加装置12から送信される参照信号(すなわち、上記電流の周期に相当する信号)が入力される入力部141と、当該熱画像信号と当該参照信号を用いて熱画像を生成し、当該熱画像を用いて、測定対象物質の熱伝導率及びゼーベック係数を算出する演算部142と、演算部142で実行されるプログラムが記憶される記憶部143と、上記熱画像、及び、上記熱伝導率及びゼーベック係数の算出結果を含む演算結果を出力する出力部144と、を備える。
【0029】
演算部142は、入力部141に入力された熱画像信号及び参照信号を記憶部143に格納する。記憶部143には、後述する熱電変換特性評価方法を実行するためのコンピュータプログラム(熱電変換特性解析プログラム)が記憶されているとともに、プログラム実行中に格納及び参照される種々の解析データ記憶領域が確保されている。解析データ記憶領域には、例えば、第1の振幅画像143a、第1の位相画像143b、第2の振幅画像143c、第2の位相画像143d(これらの振幅画像及び位相画像から得られる振幅及び位相の温度変化に関する一次元プロファイル、及び、それらの特徴量を含む。)、熱拡散率143e、熱伝導率143f、ペルチェ効果熱流束143g、ペルチェ係数143h、ゼーベック係数143i、電気伝導率143j、無次元性能指数143k等が含まれる。これらの解析データの詳細については後述する。
【0030】
演算部142は、コンピュータプログラム(熱電変換特性解析プログラム)に基づいて所定の処理を実行し、実行結果が出力部144に出力される。出力部144としては、例えば、液晶表示装置、プリンタ等が用いられる。なお、出力部144には、実行結果をフロッピディスク、USBメモリ等の記録媒体に記録する記録装置を用いてもよい。
【0031】
図3は、解析装置14の演算部142で実行される熱電変換特性解析プログラムの内容の一例を示すフローチャートである。
図4は、
図3に示す熱電変換特性解析プログラムについて、ステップS140の処理内容をより具体的に例示したフローチャートである。
【0032】
まず、解析装置14の入力部141に入力された(赤外線カメラ13から送信された)、測定試料Mに印加された交流電流に起因する測定試料の表面の温度分布を測定した熱画像信号を取得する(S110)。また、解析装置14の入力部141に入力された(電流印加装置12から送信された)、測定試料Mに印加された交流電流の周期に相当する参照信号を取得する(S110)。
【0033】
次いで、上記熱画像信号と参照信号を用いて、上記交流電流によって生じた温度変化を示す熱画像を生成する(S120)。
【0034】
具体的には、ロックインサーモグラフィ(Lock-in thermography, LIT)と呼ばれる手法を用い、赤外線カメラ13から送信された熱画像信号から、フーリエ解析により、測定試料M(測定試料M1~M4)に印加された電流と同じ周波数で時間変化する温度変化信号を選択的に抽出する。赤外線カメラ13から送信される熱画像信号には、通常、測定試料M1~M4に生じたジュール熱に由来する温度変化信号と、上記ペルチェ効果に由来する温度変化信号の両方が含まれているが、ペルチェ効果に由来する温度変化のみが電流に応答して周期変化するように電流印加条件を設定することで(第1の測定。詳細は後述する。)、測定試料M1~M4における、測定対象物質と参照物質の接合部(接合界面)に生じたペルチェ効果に由来する温度変化信号のみに由来する振幅画像と位相画像を生成する(S121)。なお、ロックインサーモグラフィには、熱画像の測定中にピクセル毎にリアルタイムにフーリエ解析を行う方式と、熱画像の動画を撮影して測定完了後にフーリエ解析を行う方式があるが、いずれを用いても良い。
【0035】
また、ペルチェ効果に由来する温度変化のみならずジュール熱に由来する温度変化も電流に応答して周期変化するように電流印加条件を設定することで(第2の測定。詳細は後述する。)、振幅画像と位相画像から上記のようにして得られたペルチェ効果に由来する温度変化信号分を減算することにより、ジュール熱に由来する温度変化信号のみに由来する振幅画像と位相画像を生成する(S122)。ここで、ペルチェ効果に由来する温度変化信号分の減算割合は、ペルチェ効果に由来する温度変化は電流に比例することを考慮して、適切な値に設定する必要がある。なお、後述する実施例では、減算割合を50%とする場合について説明する。
【0036】
そして、このようにして得られる2種類の振幅画像及び位相画像について、測定試料の接合部を含む一定の範囲における振幅及び位相の温度変化の一次元プロファイルを取得し(S130)、測定対象物質の熱電特性に関する物性値(熱伝導率及びゼーベック係数等)を算出する(S140)。具体的な算出方法については後述する。
なお、一次元プロファイルを取得する際の範囲は、熱画像のサイズ(ピクセル数)やピクセルサイズ(粒子径)を考慮して、任意の値を設定することができる。後述する実施例では、640×512ピクセルの熱画像(ピクセルサイズ:15μm×15μm)を用いて、合計7.68mm(約8mm)の範囲から一次元プロファイルを取得する例について説明する。
【0037】
また、本実施形態の熱電変換特性評価システム10では、測定試料M(測定試料M1~M4)に一定方向に直流電流を印加したときの測定対象物質の電圧を測定可能な測定プローブ(図示せず)と、電圧測定に必要な配線等(図示せず)を備えていてもよい。これにより、装置構成を大幅に変更することなく、同一の測定試料M(測定試料M1~M4)を用いて、4端子法により、電気伝導率を測定(取得)することができる(S146、S146a)。あるいは、電気伝導率を別の測定装置を用いて測定(取得)する場合(S146、S146a)でも、その評価は容易であり、再現性も高いため、結果的に複数の測定対象物質の熱電物性及び性能指数を迅速かつ再現性良く評価することができる。
【0038】
なお、本実施形態の熱電変換特性評価システム10では、電流印加装置12は、測定試料M(測定試料M1~M4)に、所定の電流値で直流電流を印加することも可能であるため、測定試料M1~M4に一方向に直流電流を印加して得られた温度変化信号と、逆方向に直流電流を印加して得られた温度変化信号を用いて、測定対象物質の電気伝導率を算出することも可能である(S146、S146b)。このようにして電気伝導率を算出する態様における、具体的な算出方法については後述する。
【0039】
さらに、本実施形態の熱電変換特性評価システム10では、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、磁場印加装置15を備える構成とすることも可能である。これにより、測定試料M(測定試料M1~M4)に対して所望の強度で外部磁場を印加した条件下で測定対象物質の熱電物性を測定し、その磁場依存性を評価することができる。
【0040】
例えば、
図5(a)に示す態様では、測定試料M(測定試料M1~M4)の長さ方向(長手方向)の両側に磁場印加装置15を設けることにより、測定試料M(測定試料M1~M4)の長さ方向に外部磁場Hを印加可能とされている。また、
図5(b)に示す態様では、測定試料M(測定試料M1~M4)の幅方向(短手方向)の両側に磁場印加装置15を設けることにより、測定試料M(測定試料M1~M4)の幅方向に外部磁場Hを印加可能とされている。磁場印加装置15としては、例えば、電磁石、コイル、永久磁石等が用いられるが、これらに限定されず、熱電変換特性評価システム10の構成や測定試料Mの構成等に応じて、適宜選択することができる。
【0041】
このように、本実施形態の熱電変換特性評価システム10では、比較的簡単な装置構成により、磁場環境下での測定に拡張することも容易である。
【0042】
[熱電変換特性評価方法]
本発明の一実施形態に係る熱電変換特性評価方法は、
図1に示す熱電変換特性評価システムを用いて、以下のようにして行われる。なお、以下では、分かりやすさのために、測定試料が単一の測定試料である態様を例に説明する。また、解析装置14において実行される処理については、適宜
図2、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0043】
本実施形態の熱電変換特性評価方法では、ロックインサーモグラフィ法を用い、測定対象物質と参照物質が接合された測定試料Mに、電流印加装置12により、測定対象物質の温度分布が周期的に変化するように交流電流を印加しながら赤外線カメラ13を用いて測定試料Mの表面の温度分布を測定し、得られた熱画像から、解析装置14により、フーリエ解析を行い、以下の2種類の測定を行う。なお、以下では印加する電流が矩形波の交流電流である場合について記述しているが、ペルチェ効果に由来する温度変化やジュール熱に由来する温度変化を同様の測定・解析によって抽出できるのであれば、矩形波の交流電流に限らない。例えば、正弦波の交流電流を印加しても原理的には同様の測定・解析は可能である。
【0044】
<第1の測定>
第1の測定では、上記熱画像から、オフセットゼロの矩形波交流電流と同じ周波数で時間変化する温度変化信号を選択的に抽出し、測定試料Mの、測定対象物質と参照物質の接合部(接合界面)に生じたペルチェ効果に由来する温度変化信号のみに由来する第1の振幅画像143aと第1の位相画像143bを生成する(S121)。
なお、振幅画像は、電流印加に応答して発生した温度変化の大きさの絶対値(振幅A)を示し、位相画像は、電流の切り換えに対する、温度変化の遅れ(位相φ)を示す。印加電流と温度変化とが同位相で変化している場合は、発熱信号を表し、逆位相で変化している場合は、吸熱信号を表す。位相画像には、熱拡散に伴う温度変化の時間遅れ情報も含まれる。
【0045】
図6には、第1の測定における、周波数fでの矩形波電流の振幅J
cの印加(input)によって生じるジュール熱に由来する信号(Joule heating)とペルチェ効果に由来する信号(Peltier effect)の時間変化の模式図、並びに、第1の測定によって得られる第1の振幅画像143aと第1の位相画像143bのモデル図、及び、測定試料の接合部を含む一定の範囲(±x)における振幅A及び位相φの温度変化の一次元プロファイルのモデル図を示した。オフセットゼロの矩形波電流を印加した場合、電流の二乗に比例するジュール熱は時間的に一定となるため、振幅画像・位相画像にはその寄与は現れない。一方で、電流の一乗に比例するペルチェ効果による温度変化は電流と同周期で変動するため、振幅画像・位相画像には純粋にペルチェ効果に由来する温度変化のみが生じることになる。
【0046】
ここで、第1の測定では、測定試料に関して以下の仮説を設ける。
・熱伝導は一方向である。測定試料の外観形状が
図1に示すような略直方体である場合、熱伝導は、その長さ方向(x方向)であるとする。
・測定対象物質と参照物質の接合部(x=0)での熱抵抗は無視できるものとする(界面熱抵抗を考慮した解析も原理的には可能である)。
・対流及び輻射に起因する熱損失は無視できるものとする。
・試料台(基板)への熱伝導は無視できるものとする。すなわち、測定試料は空中に保持されている、もしくは適切な断熱物質上に置かれているものとする。
【0047】
図1を参照して説明したように、本実施形態では、測定試料は、略直方体形状である測定対象物質(Material A)と、略直方体形状である参照物質(Reference Material)が接合されてなる。そのため、測定試料に印加される電流に由来するジュール熱による温度変化(試料全体で発生)に加え、接合部(接合界面)では、測定対象物質と参照物質の熱電特性(ペルチェ係数)の違いに由来する熱の吸収や放出が生じる。言い換えると、接合部(接合界面)では、ペルチェ効果により、電流の切り換えに応答して周期的に温度変化が生じる熱源が存在する。
【0048】
この状態を模式的に示すと、
図7のようになる。
図7の上段は、測定試料の模式平面図であり、測定対象物質(Material A)と参照物質(Reference Material)の接合部(接合界面)を原点とし、x軸方向が長さ方向(長手方向)を表し、y軸方向が幅方向(短手方向)を表す。なお、印加電流は、測定対象物質から参照物質に向けて(x軸についてマイナスからプラスの方向へ)流れるものとする。このとき、測定試料の接合部に生じるペルチェ効果に由来する発熱・吸熱は、測定対象物質と参照物質のペルチェ係数の差(すなわち、ゼーベック係数Sの差(S
A-S
ref))に比例する。また、
図7の中段及び下段は、それぞれ、第1の測定によって得られる第1の振幅画像と第1の位相画像について、測定試料の接合部を含む一定の範囲(±x)における振幅A及び位相φの温度変化の一次元プロファイルのイメージ図である。
【0049】
ここで、
図7に示すΔT
A及びΔT
refの温度場は、以下の2つの熱方程式の連立方程式によってモデル化することができる。
【数1】
ここで、ΔT=T-T
0であり、T
0は周囲温度(K)であり、Dは熱拡散率(m
2・s
-1)であり、κ熱伝導率(W・m
-1・K
-1)であり、q
Πはペルチェ効果の熱流束(W・m
-2)である。
【0050】
初期条件が、ΔT
A(x,0)=ΔT
ref(x,0)=0であり、
境界条件が、
ΔT
ref(+∞,t)=0
ΔT
A(-∞,t)=0
であるとすると、温度の連続性、及び接合部(x=0)での熱流束により、ΔT
A(0,t)=ΔT
ref(0,t)となり、以下の式が導かれる。
【数2】
【0051】
ロックイン方式による熱イメージング計測において、印加した交流電流に応答して生じる温度変化は熱流束と同じ角速度ωで振動するので、
ΔT(x,t)=ΔT(x)eiωt (4)
の関係が成立する。
【0052】
上記式(4)を、上記式(1)及び式(2)に代入することにより、上記熱方程式のセットは、以下のように表される。
【数3】
ここで、λ
jは以下の式で表される複素波数である。
【数4】
【0053】
よって、上記熱方程式の一般解は、以下のようになる。
【数5】
【0054】
これに上記の初期条件及び境界条件を適用すると、
C
1=C
4=0,
C
2=C
3=C
となる。
ここで、
【数6】
である。
【0055】
測定対象物質(Material A)の振幅(Amp
A)及び位相遅れ(φ
A)は、以下のように表される。
【数7】
【0056】
また、参照物質(Reference Material)の振幅(Amp
ref)及び位相遅れ(φ
ref)は、以下のように表される。
【数8】
【0057】
周期τの矩形波電流の、複素フーリエ級数展開は、
【数9】
であり、これは、
【数10】
によって与えられる。
【0058】
結果として、矩形波電流は、角速度ωで、ペルチェ熱流束振動を生成し、この熱流束振動は、同一振幅の正弦波電流によって生成されるものの4/π倍となる。
よって、この補正係数(4/π)を用いて、ペルチェ係数及びゼーベック係数を算出する。
【0059】
<第2の測定>
第2の測定では、上記熱画像から、第1の振幅画像143aと第1の位相画像143bにより得られたペルチェ効果による温度変化成分を減算することにより、測定試料に生じたジュール熱に由来する温度変化信号のみに由来する第2の振幅画像143cと第2の位相画像143dを生成する(S122)。
【0060】
図8には、第2の測定における、周波数f、振幅J
c/2、オフセットJ
c/2の矩形波電流を印加(input)した場合に生じる、ジュール熱に由来する信号(Joule heating)とペルチェ効果に由来する信号(Peltier effect)の時間変化のイメージ図、並びに、第2の測定によって得られる第2の振幅画像143cと第2の位相画像143d、及び、測定試料の接合部を含む一定の範囲(±x)における振幅A及び位相φの温度変化の一次元プロファイルのイメージ図を示した。
【0061】
ここで、第2の測定では、測定試料に関して以下の仮説を設ける。
・対流及び輻射に起因する熱損失は無視できるものとする。
・試料台(基板)への熱伝導は無視できるものとする。すなわち、測定試料は空中に保持もしくは適切な絶縁物質上に置かれているものとする。
・測定試料の端部付近で生じ得る温度の不均一性は無視できるとする。
【0062】
第2の測定でのモデル化は、測定対象物質(Material A)における、以下の熱収支式から開始する。
【数11】
ここで、
【数12】
である。また、Q
Jはジュール熱(W)であり、Dは熱拡散率(m
2・s
-1)であり、κ熱伝導率(W・m
-1・K
-1)であり、σは電気伝導率であり(S・m
-1)であり、Vは測定試料の体積(m
3)であり、Aは測定試料の断面積(m
2)であり、lは測定試料の長さ(m)である。
【0063】
温度の振動が安定な状態に到達した後の、交流電流に応答して生じる温度変化の微分方程式の解は、以下の式によって表される。
【数13】
【0064】
矩形波ではデューティサイクルが50%であること、
【数14】
また、第1の測定に関して上述したように、ΔT
Jの温度振幅の正弦波は、電流振幅の矩形波で分割されるので、補正係数(4/π)を考慮すると、
温度場は、以下のように表される。
【数15】
【0065】
上記の第1の測定、及び第2の測定に基づいて、第1の振幅画像143a、第1の位相画像143b、第2の振幅画像143c、第2の位相画像143から振幅及び位相の温度変化に関する一次元プロファイルを取得し(S130)、以下のようにして、測定試料(測定対象物質及び参照物質)の熱電特性に関する物性値(パラメータ)を算出する(S140)。
【0066】
I. まず、上記式(12)で表されるペルチェ効果に由来する信号の線形位相遅れの傾き、または、上記式(11)で表されるペルチェ効果に由来する信号の振幅の指数減衰率R(フィッティングによる)から、熱拡散率D(D
slopeまたはD
exp)(143e)を算出する(S141)。
【数16】
【0067】
II. 上記式(21)で表されるジュール熱に由来する信号の振幅から、熱伝導率κ(143f)を算出する(S142)。
【数17】
【0068】
III. 次いで、得られた熱拡散率D(D
slopeまたはD
exp)及び熱伝導率κを、上記式(9)に代入し、ペルチェ効果熱流束q
Π(143g)を算出する(S143)。ここで、上述した補正係数(4/π)を適用する。
【数18】
【0069】
IV. 次いで、ペルチェ係数Π(143h)及びゼーベック係数S(143i)を算出する(S144、S145)。
【数19】
ここで、Q
Π=q
ΠAであり、Tは測定試料の絶対温度(K)である。
【0070】
V. そして、このようにして得られた物性値(パラメータ)に基づいて、無次元性能指数ZT(143k)を以下の式によって算出する(S147)。
【数20】
【0071】
ここで、電気伝導率σ(143j)は、上述したように、
図1に示す熱電変換特性評価システム10を、電圧測定用のプローブ及び配線等を備えた構成とし、4端子法を用いて測定(取得)することができる(S146、S146a)。当該測定は、上記第1の測定及び第2の測定の前であってもよく、後であってもよい。あるいは、電気伝導率σは、別の測定装置を用いて測定(取得)された値を用いてもよい(S146、S146a)。
【0072】
なお、本実施形態の熱電変換特性評価方法では、熱画像から電気伝導率σを算出してもよい(S146、S146b)。ここで、電気伝導率σを熱画像から算出するためには、追加の実験結果・方程式が必要である。
この式は、例えば、
図1に示す熱電変換特性評価システム10を用いて、測定試料Mに一方向に直流電流を印加して得られた温度変化信号と、逆方向に直流電流を印加して得られた温度変化信号を用いて(以下、「DC測定」とも称する。)、定常状態におけるペルチェ効果による温度変化分布によって導くことができる。
【0073】
測定試料に直流電流を印加することにより、ジュール効果及びペルチェ効果(ゼーベック効果)に起因して放出される熱は、以下の式(30)のように表される。
Q=QΠ+Qj (30)
【0074】
すなわち、
Q=k∇T-ΠI+RI2 (31)
の関係が成り立つ。
【0075】
純粋なペルチェ効果に由来する信号は、上述した交流電流を印加して行う測定で用いたのと同様の手法を適用することによって得ることができる。
純粋なQ
Πの値は、上記式(30)に示すように、正の電流値I
+を印加したときに得られるペルチェ効果に由来する信号とジュール熱に由来する信号の組み合わせ(Q
+=ΠI-k∇T+RI
2)から、負の電流値I
-を印加したときのもの(Q
-=-ΠI-k∇T+RI
2)を減じることによって抽出することができる。
【数21】
【0076】
このDC測定について得られる純粋なペルチェ効果に起因する温度変化のプロファイルを模式的に示すと、
図9のようになる。
【0077】
この場合の熱方程式は以下のように表される。
【数22】
【0078】
境界条件が、
T
ref(x=L
ref)=T
0
T
A(x=L
A)=T
0
であるとすると、温度の連続性、及び接合部(x=0)での熱流束により、以下の式(34)が導かれる。
【数23】
【0079】
上記式(25)及び式(34)を解くことにより、q
Π及びk
Aが得られる。
なお、dT
A/dx、及び、dT
ref/dxは、それぞれ、測定対象物質及び参照物質の温度プロファイルのスロップであり、
図9に示すように、フィッティングによって抽出することができる。
【0080】
また、正弦波に関しては、
【数24】
であり、上述した補正係数(4/π)を考慮する。
【0081】
その結果、以下に示す電気伝導率σの計算式を用いることによって、上記式(24)に示したジュール熱に由来する信号の振幅から、測定対象物質の電気伝導率σが算出される。
【数25】
【0082】
図5(a)または
図5(b)に示す熱電変換特性評価システムを用いて行われる、本発明の別の実施形態に係る熱電変換特性評価方法は、測定試料Mの長さ方向または幅方向に所定の磁場Hが印加されること以外は、上述した実施形態に係る熱電変換特性評価方法と同様であるので、詳細な説明は省略する。
測定試料Mに対して外部磁場を印加しながら熱電物性を測定することにより、測定対象物質の熱電物性の磁場依存性を評価することができる。
【0083】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
以下の実施例に示す装置構成、測定条件等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【実施例】
【0084】
図1及び
図5(a)に示す構成を備える熱電変換特性評価システムを用いて、複数の測定対象物質の熱電物性を同時に測定する実験を行った。
【0085】
測定対象物質としてニッケル(Ni)、ニッケル-白金合金(Ni95Pt5)、鉄(Fe)、及びチタン(Ti)を用い、参照物質として銅(Cu)を接合させることにより、4種類の測定試料を作製した。以下では各々の測定試料を、Ni-Cu、Ni95Pt5-Cu、Fe-Cu、Ti-Cuとも称する。
【0086】
Ni-Cu、Ni
95Pt
5-Cu、Fe-Cu、及びTi-Cuを、
図1に示す測定試料Mのように電気的に直列に接続し、Ti-CuのTiの一端(Cuとの接合部の反対側の端部)と、Ni-CuのCuの一端(Niとの接合部の反対側の端部)を、電流印加装置(電流源)に接続した。本実験では、測定試料両端をベークライト製の試料台に固定したが、試料台の中央には溝が切ってあり、熱画像撮影範囲内において測定試料は空中に浮いており、試料台への熱伝導による熱損失は無視できる構成とした。また、各測定試料表面に黒体塗料を塗布して、赤外線放射率を高めることで、赤外線カメラによる温度の定量を可能にしている。
【0087】
電流印加装置により、1.0Aの電流値で0.5~25Hzの周波数で測定試料Mに交流電流を印加し、電流を流す方向の切換時間間隔より早い100Hzのフレームレートで測定試料の表面の温度分布を赤外線カメラで撮影し、電流印加に応答して発生した温度変化を観測した。なお、実験は室温にて実施し、測定対象物質と参照物質の接合部が熱画像の中央に位置するように調整した。
【0088】
また、実験は、
図1に示す構成を備える熱電変換特性評価システムを用いて測定試料に対して磁場Hを印加しない条件(μ
0H=0mT)、及び、
図5(a)に示す構成を備える熱電変換特性評価システムを用いて磁場印加装置により測定試料の長さ方向(長手方向)に沿って磁場Hを印加する条件(μ
0H=150mT)の二通りの条件下で行った。なお、磁場の印加方向は、
図5(b)に示す構成を備える熱電変換特性評価システムを用いて測定試料の幅方向(短手方向)に沿って印加することも可能である。
【0089】
赤外線カメラで得られた複数の画像から、フーリエ解析により、振幅画像及び位相画像を求めた。
【0090】
図10(a)は、印加電流を1.0Aとし、周波数fをそれぞれ1Hz、2Hz、5Hz、10Hz、25Hzとしたときの、第1の測定で得られた、4種類の測定試料(Ni-Cu、Ni
95Pt
5-Cu、Fe-Cu、Ti-Cu)の振幅Aの像(上段)及び位相φの像(下段)である。なお、f=1Hzとしたときの画像に示したスケールバーは、1mmである。
【0091】
図10(b)は、
図10(a)に示した振幅画像及び位相画像から、各測定試料の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)と参照物質(Cu)との接合部を基準(x=0)にして長さ方向に各々約4mmの範囲(合計約8mm)における、振幅A(上段)及び位相φ(下段)の温度変化の一次元プロファイルである。
図10(b)において、実線は、印加磁場Hが0mTの場合を示し、破線は、印加磁場Hが150mTの場合を示している。
【0092】
図11(a)は、印加電流を1.0Aとし、周波数fをそれぞれ1Hz、2Hz、5Hz、10Hz、25Hzとしたときの、第2の測定で得られた、4種類の測定試料(Ni-Cu、Ni
95Pt
5-Cu、Fe-Cu、Ti-Cu)の振幅Aの像(上段)及び位相φの像(下段)である。なお、f=1Hzとしたときの像に示したスケールバーは、1mmである。
【0093】
図11(b)は、
図11(a)に示した振幅画像及び位相画像から、各測定試料の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)と参照物質(Cu)との接合部を基準(x=0)にして長さ方向に各々約4mmの範囲(合計約8mm)における、振幅A(上段)及び位相φ(下段)の温度変化の一次元プロファイルである。
図9(b)において、実線は、印加磁場Hが0mTの場合を示し、破線は、印加磁場Hが150mTの場合を示している。
【0094】
図10(a)、
図10(b)、
図11(a)及び
図11(b)の結果から、磁場を印加しない場合及び磁場を印加する場合のいずれにおいても、
図6及び
図8に示したモデル図に適合する一次元プロファイルが得られることが確認された。
【0095】
次に、これらの結果から、上述したI.からV.の手順に沿って、式(22)~式(28)で表される、各測定対象物質(Ni、Ni95Pt5、Fe、Ti)の熱拡散率D(Dslope及びDexp)、熱伝導率κ、熱流束q、ペルチェ係数Π、ゼーベック係数Sを算出し、さらに各測定対象物質の電気伝導率σから、無次元性能指数ZTを算出した。
【0096】
結果を
図12~
図17に示す。
図12~
図17に示す各プロットについて、丸印はNi、菱形印はNi
95Pt
5、四角印はFe、上向き三角印はTiである。
なお、
図12では、各測定対象物質の熱拡散率Dについて、上記式(22)により得られた値(D
slope)のプロットを「slope」と表記し、上記式(23)により得られた値(D
exp)のプロットを「exp」と表記している。
また、
図12~
図17では、周波数fをそれぞれ0.5Hz、1Hz、2Hz、5Hz、10Hz、12.5Hz、15Hz、25Hzとしたときの結果をプロットしている。
【0097】
図12の結果より、熱拡散率Dについて、周波数の条件によって二通りの算出方法で得られる値に差が生じる場合があり得ることが示唆されたが、本実施例で用いた装置構成及び測定条件では、周波数が2Hz~15Hzとした場合に、精度良く熱拡散率Dを測定することができることが確認された。なお、周波数の条件によって生じる差の原因については必ずしも明らかではないが、比較的低い周波数(0.5Hz、1Hz)の場合には、境界条件や熱損失の影響が存在し、また、比較的高い周波数(25Hz)では、熱拡散の影響が抑制され、温度変化信号の振幅も小さくなるため、黒体塗料のムラや試料接合部のわずかな不均一性等の影響で精度が出ない可能性がある。
【0098】
図13の結果より、熱伝導率κについて、周波数が2Hz~25Hzの範囲で、ほぼ一致した結果が得られた。なお、比較的低い周波数(0.5Hz、1Hz)の場合には、測定対象物質によって熱損失の影響が大きくなる場合があることが示唆された。周波数が2Hz以上の場合に見積もられた熱伝導率の値は、従来手法で測定された値と整合していることが確認された。
【0099】
図14及び
図15の結果より、熱流束q及びペルチェ係数Πの算出においては、上述した熱拡散率D及び熱伝導率κの算出結果の精度が反映されることがわかる。
また、
図16に示すゼーベック係数Sの算出結果についても同様であるが、周波数が2Hz以上の場合に見積もられたゼーベック係数の値は、従来手法で測定された値と整合していることが確認された。
結果として、
図17に示す無次元性能指数ZTを算出結果において、各物性値の測定精度が反映されるため、比較的低い周波数(0.5Hz、1Hz)の場合や、比較的高い周波数(25Hz)の場合には、他の周波数条件との値の差が大きくなる傾向が見られた。
【0100】
言い換えると、本発明の熱電変換特性評価システム及び評価方法によれば、測定対象物質が非定常状態となる適切な周波数で、測定対象物質に交流電流を印加することにより、測定対象物質の熱電物性及び無次元性能指数ZTを精度良く測定できるとともに、複数の測定試料の熱電物性の測定を同時にかつ迅速に行うことができることがわかった。
【0101】
なお、本実施例においては、電気伝導率σはロックインサーモグラフィとは独立に、別の計測器を用いて4端子法により測定した。一方で上述したように、電気伝導率σは、本実施例で用いた測定装置を用いて、第1の測定及び第2の測定の前もしくは後に、測定することも可能である。この場合は、各測定対象物質に電圧測定用のプローブ及び配線を取り付け、上記交流電流を印加する測定の前もしくは後に、4端子法を用いて電気伝導率σを測定する必要がある。
【0102】
次に、磁場Hの印加条件を様々に変化させて、ゼーベック係数S、熱伝導率κ、及び無次元性能指数ZTの測定を行った。
【0103】
【0104】
図18は、印加電流を1.0Aとし、周波数fを10Hzとし、さらに、印加磁場Hをそれぞれ50mT、100mT、150mTとしたときの、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)のゼーベック係数Sの結果と、磁場を印加しない場合(μ
0H=0mT、μ
0は真空の透磁率(後述する
図19~
図26についても同様。))の結果を示す図である。
図19は、
図18に示す結果から得られた、外部磁場の印加によるゼーベック係数の変化ΔSの結果を示す図である。
図20は、
図18及び
図19に示す結果から得られた、外部磁場の印加によるゼーベック係数の変化率ΔS/S(%)の結果を示す図である。
【0105】
図21は、印加電流を1.0Aとし、周波数fを10Hzとし、さらに、印加磁場Hをそれぞれ50mT、100mT、150mTとしたときの、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)の熱伝導率κの結果と、磁場を印加しない場合(μ
0H=0mT)の結果を示す図である。
図22は、
図21に示す結果から得られた、外部磁場の印加による熱伝導率の変化Δκの結果を示す図である。
図23は、
図21及び
図22に示す結果から得られた、外部磁場の印加による熱伝導率の変化率Δκ/κ(%)の結果を示す図である。
【0106】
図24は、印加電流を1.0Aとし、周波数fを10Hzとし、さらに、印加磁場Hをそれぞれ50mT、100mT、150mTとしたときの、4種類の測定対象物質(Ni、Ni
95Pt
5、Fe、Ti)の無次元性能指数ZTの結果と、磁場を印加しない場合(μ
0H=0mT)の結果を示す図である。
図25は、
図24に示す結果から得られた、外部磁場の印加による性能指数の変化ΔZTの結果を示す図である。
図26は、
図24及び
図25に示す結果から得られた、外部磁場の印加による性能指数の変化率ΔZT/ZT(%)の結果を示す図である。
【0107】
得られたゼーベック係数の磁場依存性の結果は、各測定対象物質について、これまでに当該技術分野で報告された磁場依存性に関する傾向と同様であった。また、周波数fを5Hz、12.5Hzとした場合にも、10Hzの場合と同様の結果が得られた。これにより、測定試料に対して磁場を印加しない条件下だけでなく、磁場を印加する条件下でも、測定対象物質の熱電物性の測定及び性能指数の評価を適切に行うことができることが確認された。
【0108】
なお、上記の実施形態においては、温度変化プロファイルとして、測定試料の接合部を含む直線状の一次元における温度変化の一次元プロファイルを用いる場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、測定試料が曲がっていて測定試料の長手方向の中心軸が湾曲している場合であっても、当該湾曲形状にそった長手方向の一次元であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の熱電変換特性評価システム及び評価方法、並びに熱電変換特性解析装置及び解析プログラムによれば、1つの測定試料を用いて複数の熱電物性を測定することができるとともに、複数の測定試料の熱電物性の測定を同時にかつ迅速に行うことができるので、測定対象物質の熱電性能評価に要する時間や労力が大幅に削減される。これにより、熱電材料の開発現場における物性測定及び性能評価のスピードが格段に向上し、優れた熱電性能を有する(性能指数の高い)熱電材料開発が加速され、熱電発電技術の高度化に大きく貢献できることが期待される。
【0110】
また、上述したように、本発明によれば、比較的簡単な装置構成で複数の熱電物性を測定することができるので、熱電材料の性能指数を評価するにあたり、複数の実験装置を導入する必要がないため、新規参入時の設備投資を抑えることができる。さらに、装置構成の拡張も容易であり、例えば、測定試料に磁場を印加しながら熱電物性を測定することもできるため、様々な磁性材料の物理現象解明にも貢献できることが期待される。
【符号の説明】
【0111】
10 熱電変換特性評価システム
11 試料台
12 電流印加装置
13 赤外線カメラ
14 熱電変換特性解析装置(解析装置)
141 入力部
142 演算部
143 記憶部
144 出力部
15 磁場印加装置
M、M1、M2、M3、M4 測定試料
H 磁場