(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/08 20100101AFI20240716BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20240716BHJP
H01L 33/24 20100101ALI20240716BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
H01L33/08
H01L33/32
H01L33/24
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020145488
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-05-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】上山 智
(72)【発明者】
【氏名】竹内 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 素顕
(72)【発明者】
【氏名】赤▲崎▼ 勇
(72)【発明者】
【氏名】ルー ウェイファン
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和真
(72)【発明者】
【氏名】曽根 直樹
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/023921(WO,A1)
【文献】特表2016-527706(JP,A)
【文献】特表2017-503333(JP,A)
【文献】特表2014-533897(JP,A)
【文献】特表2019-516251(JP,A)
【文献】特開2020-107701(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0061641(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長基板と、前記成長基板上に形成されたマスクと、前記マスクに設けられた開口部から成長された柱状半導体層を備える半導体発光素子であって、
前記柱状半導体層は、中心にn型ナノワイヤ層が形成され、前記n型ナノワイヤ層よりも外周に活性層が形成され、前記活性層よりも外周にp型半導体層が形成されており、
前記開口部の開口率が0.1%以上3%以下であり、発光波長が500nm以上であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体発光素子であって、
前記活性層におけるIn組成が0.10以上0.40以下の範囲であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体発光素子であって、
前記n型ナノワイヤ層の高さは、1000nm以上2000nm以下であり、
前記開口部の開口径が100nm以上200nm以下であり、ピッチが400nm以上850nm以下であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載の半導体発光素子であって、
前記n型ナノワイヤ層は半極性面を有しており、前記活性層は前記半極性面上に形成されていることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項5】
成長基板と、前記成長基板上に形成されたマスクと、前記マスクに設けられた開口部から成長された柱状半導体層を備える半導体発光素子であって、
前記柱状半導体層は、中心にn型ナノワイヤ層が形成され、前記n型ナノワイヤ層よりも外周に活性層が形成され、前記活性層よりも外周にp型半導体層が形成されており、
前記成長基板の第1領域において、前記開口部の開口率が0.1%以上5.0%以下であり、発光波長が480nm以上であり、
前記成長基板の第2領域において、前記開口部の開口率が5.0%より大きく、発光波長が480nm未満であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項6】
成長基板と、前記成長基板上に形成されたマスクと、前記マスクに設けられた開口部から成長された柱状半導体層を備える半導体発光素子であって、
前記柱状半導体層は、中心にn型ナノワイヤ層が形成され、前記n型ナノワイヤ層よりも外周に活性層が形成され、前記活性層よりも外周にp型半導体層が形成されており、
前記成長基板の第1領域において、前記開口部の開口率が第1開口率であり、
前記成長基板の第2領域において、前記開口部の開口率が第2開口率であり、
前記第1開口率は前記第2開口率より小さく、前記第1領域は前記第2領域よりも発光波長が長波長であり、
前記第1開口率が0.1%以上3%以下であり、前記第1領域の発光波長が500nm以上であることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項7】
成長基板と、前記成長基板上に形成されたマスクと、前記マスクに設けられた開口部から成長された柱状半導体層を備える半導体発光素子であって、
前記柱状半導体層は、中心にn型ナノワイヤ層が形成され、前記n型ナノワイヤ層よりも外周に活性層が形成され、前記活性層よりも外周にp型半導体層が形成されており、
前記成長基板の第1領域と第2領域において、前記開口部の開口率が同じで開口径およびピッチが異なり、前記n型ナノワイヤ層の高さが同じであることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項8】
請求項5から7の何れか一つに記載の半導体発光素子であって、
前記第1領域と前記第2領域の間は10μm以下の幅を有する分離領域が設けられており、
前記分離領域の前記マスク上に配線パターンが形成されていることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項9】
請求項5から8の何れか一つに記載の半導体発光素子であって、
前記成長基板の前記第1領域、前記第2領域または第3領域において、前記n型ナノワイヤ層は半極性面を有しており、前記活性層は前記半極性面上に形成されていることを特徴とする半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化物系半導体の結晶成長方法が急速に進展し、この材料を用いた高輝度の青色、緑色発光素子が実用化された。従来から存在した赤色発光素子とこれらの青色発光素子、緑色発光素子を組み合わせることで光の3原色全てが揃い、フルカラーのディスプレイ装置も実現可能となった。即ち、光の3原色全てを混合させると白色の光を得ることもできるようになり、照明用デバイスへの応用も可能である。
【0003】
照明用途の光源に用いる半導体発光素子では、高電流密度領域において高いエネルギー変換効率と高い光出力を実現できることが望ましく、放出される光の配光特性が安定していることが望ましい。これらの課題を解決するために特許文献1では、半導体基板上にn型ナノワイヤコアと活性層とp型層を成長し、ITO等の透明導電膜を形成した半導体発光素子が提案されている。
【0004】
特許文献1に開示されているナノワイヤコアの外周に活性層を形成した半導体発光素子では、サファイア基板の全面に活性層を形成したものよりも結晶欠陥や貫通転位が少なく、高品質な結晶を得られ、またm面成長できるため高電流密度における外部量子効率の向上を図ることができる。また、特許文献1のナノワイヤコアを用いた半導体発光素子では、活性層を高品質な結晶で形成できるため、活性層のIn組成を高めて長波長化を図ることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の半導体発光素子では、ナノワイヤコアの直径を大きくすることで活性層に取り込まれるInの比率を高めて長波長化を図っている。しかし、十分に活性層に取り込まれるInの比率を高めることは困難であり、青緑や緑色、赤色などの480nm以上で再現性高く発光させることは困難であった。
【0007】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、ナノワイヤよりも外周に形成された活性層に取り込まれるInの比率を高めて、再現性高く480nm以上で発光させることが可能な半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の半導体発光素子は、成長基板と、前記成長基板上に形成されたマスクと、前記マスクに設けられた開口部から成長された柱状半導体層を備える半導体発光素子であって、前記柱状半導体層は、中心にn型ナノワイヤ層が形成され、前記n型ナノワイヤ層よりも外周に活性層が形成され、前記活性層よりも外周にp型半導体層が形成されており、前記開口部の開口率が0.1%以上3%以下であり、発光波長が500nm以上であることを特徴とする。
【0009】
このような本発明の半導体発光素子では、マスクに形成された開口部の開口率を0.1%以上3%以下の範囲とすることで、同一の成長条件でもn型ナノワイヤ層の高さ、直径、結晶成長面を制御して活性層へのIn取込率を向上させ、再現性高く500nm以上で発光させることができる。
【0011】
また本発明の一態様では、前記活性層におけるIn組成が0.10以上0.40以下の範囲である。
【0012】
また本発明の一態様では、前記n型ナノワイヤ層の高さは、1000nm以上2000nm以下である。
【0013】
また本発明の一態様では、前記開口部の開口径が100nm以上200nm以下であり、ピッチが400nm以上850nm以下である。
【0014】
また本発明の一態様では、前記n型ナノワイヤ層は半極性面を有しており、前記活性層は前記半極性面上に形成されている。
【0015】
また上記課題を解決するために、本発明の半導体発光素子は、成長基板と、前記成長基板上に形成されたマスクと、前記マスクに設けられた開口部から成長された柱状半導体層を備える半導体発光素子であって、前記柱状半導体層は、中心にn型ナノワイヤ層が形成され、前記n型ナノワイヤ層よりも外周に活性層が形成され、前記活性層よりも外周にp型半導体層が形成されており、前記成長基板の第1領域において、前記開口部の開口率が0.1%以上5.0%以下であり、発光波長が480nm以上であり、前記成長基板の第2領域において、前記開口部の開口率が5.0%より大きく、発光波長が480nm未満であることを特徴とする。
【0016】
また上記課題を解決するために、本発明の半導体発光素子は、成長基板と、前記成長基板上に形成されたマスクと、前記マスクに設けられた開口部から成長された柱状半導体層を備える半導体発光素子であって、前記柱状半導体層は、中心にn型ナノワイヤ層が形成され、前記n型ナノワイヤ層よりも外周に活性層が形成され、前記活性層よりも外周にp型半導体層が形成されており、前記成長基板の第1領域において、前記開口部の開口率が第1開口率であり、前記成長基板の第2領域において、前記開口部の開口率が第2開口率であり、前記第1開口率は前記第2開口率より小さく、前記第1領域は前記第2領域よりも発光波長が長波長であり、前記第1開口率が0.1%以上3%以下であり、前記第1領域の発光波長が500nm以上であることを特徴とする。
【0017】
また上記課題を解決するために、本発明の半導体発光素子は、成長基板と、前記成長基板上に形成されたマスクと、前記マスクに設けられた開口部から成長された柱状半導体層を備える半導体発光素子であって、前記柱状半導体層は、中心にn型ナノワイヤ層が形成され、前記n型ナノワイヤ層よりも外周に活性層が形成され、前記活性層よりも外周にp型半導体層が形成されており、前記成長基板の第1領域と第2領域において、前記開口部の開口率が同じで開口径およびピッチが異なり、前記n型ナノワイヤ層の高さが同じであることを特徴とする。
【0018】
また本発明の一態様では、前記第1領域と前記第2領域の間は10μm以下の幅を有する分離領域が設けられており、前記分離領域の前記マスク上に配線パターンが形成されている。
【0019】
また本発明の一態様では、前記成長基板の前記第1領域、前記第2領域または第3領域において、前記n型ナノワイヤ層は半極性面を有しており、前記活性層は前記半極性面上に形成されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、ナノワイヤよりも外周に形成された活性層に取り込まれるInの比率を高めて、再現性高く480nm以上で発光させることが可能な半導体発光素子および半導体発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1実施形態に係る半導体発光素子10を示す模式図である。
【
図2】半導体発光素子10の製造方法を示す模式図であり、
図2(a)はマスク形成工程、
図2(b)はナノワイヤ成長工程、
図2(c)は成長工程、
図2(d)は除去工程、
図2(e)は電極形成工程を示している。
【
図3】成長基板11上における発光領域に形成されたマスク13の形状を示す模式平面図である。
【
図4】開口部13aの半径rとピッチpの比率を一定にして、半径rを変化させた場合を示す模式図であり、上段は模式平面図を示し、下段は模式断面図を示している。
【
図5】開口部13aのピッチpを一定にして、半径rを変化させた場合を示す模式図であり、上段は模式平面図を示し、下段は模式断面図を示している。
【
図6】開口部13aのピッチpと半径rを変化させた場合を示す模式図であり、上段は模式平面図を示し、下段は模式断面図を示している。
【
図7】n型ナノワイヤ層14の表面を構成するファセットについて示す模式断面図であり、
図7(a)は頂面をc面とした場合を示し、
図7(b)は頂面をr面とした場合を示している。
【
図8】開口部13aのピッチpを一定にして、半径rを変化させるとともに、頂面にr面ファセットを露出させた場合を示す模式図であり、上段は模式平面図を示し、下段は模式断面図を示している。
【
図9】実施例1~10の実験結果を示すグラフであり、開口部13aの開口率と発光波長の関係を示している。
【
図10】第2実施形態に係る半導体発光素子10の発光領域について示す模式図であり、
図10上段は模式平面図であり、
図10下段は模式断面図である。
【
図11】同一の成長基板11上において、複数の領域に開口径の異なる開口部13aを形成した場合のn型ナノワイヤ層14の結晶成長を示すSEM像である。
【
図12】n型ナノワイヤ層14の外周に活性層15としてGaInN/GaN多重量子井戸構造を形成した状態を示すSEM像とカソードルミネッセンス測定結果である。
【
図13】活性層15中のGaN障壁層を800℃で成長した場合のSEM像とカソードルミネッセンス測定結果である。
【
図14】活性層15中のGaInN井戸層を730℃で成長した場合のSEM像とカソードルミネッセンスマッピング結果である。
【
図15】GaInN井戸層の成長温度が750℃、730℃、710℃の場合における、規格化したCL発光強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
図1は、第1実施形態に係る半導体発光素子10を示す模式図である。
【0024】
図1に示すように、半導体発光素子10は、成長基板11と、下地層12と、マスク13と、n型ナノワイヤ層14と、活性層15と、p型半導体層16と、トンネル接合層17と、埋込半導体層18とを備えている。ここで、n型ナノワイヤ層14、活性層15、p型半導体層16およびトンネル接合層17は、成長基板11に対して垂直方向に選択成長されて柱形状とされており、本発明における柱状半導体層を構成している。複数の柱状半導体層の一部では、埋込半導体層18からトンネル接合層17の上面まで除去された除去領域19が形成されている。
【0025】
図1に示すように、半導体発光素子10の一部は下地層12が露出されており、下地層12上にカソード電極20,21が形成されている。また、柱状半導体層の上方には、一部領域に埋込半導体層18が残されており、当該領域の埋込半導体層18上にアノード電極22,23が形成されている。上述したように、アノード電極22,23が形成されていない領域では、p型半導体層16が部分的に露出するまで埋込半導体層18およびトンネル接合層17が除去されて除去領域19が形成されている。ここでp型半導体層16が露出とは、半導体発光素子10を構成する全ての半導体層が形成された後に露出されたことを意味しており、後述するように後工程でパッシベーション膜や透明電極、絶縁膜等が形成されていてもよい。
【0026】
成長基板11は、半導体材料を結晶成長可能な材料で構成された略平板状の部材であり、主面側にマスク13が形成されている。成長基板11は単一の材料で構成されていてもよく、単結晶基板上にバッファ層等の複数の半導体層を成長させたものを用いてもよい。成長基板11は、バッファ層を介して半導体単結晶層を成長させるための材料から構成される単結晶の基板であればよく、半導体発光素子10を窒化物系半導体で構成する場合にはc面サファイア基板が好ましいが、Si等の他の異種基板であってもよい。また、レーザ発振させるためには、共振器面が劈開により形成しやすいc面GaN基板を用いてもよい。バッファ層は、単結晶基板と下地層12の間に形成されて両者の格子不整合を緩和するための層である。単結晶基板としてc面サファイア基板を用いる場合には材料としてGaNを用いることが好ましいが、AlNやAlGaNなどを用いるとしてもよい。
【0027】
下地層12は、成長基板11やバッファ層上に形成された単結晶の半導体層であり、ノンドープのGaNを数μmの厚さで形成し、その上にn型コンタクト層等のn型半導体層を備えた複数層で構成することが好ましい。n型コンタクト層は、n型不純物がドープされた半導体層であり、例えばSiドープしたn型Al
0.05Ga
0.95Nが挙げられる。
図1に示したように、下地層12の一部は露出されてカソード電極20,21が形成されている。
【0028】
マスク13は、下地層12の表面に形成された誘電体材料からなる層である。マスク13を構成する材料としては、マスク13からは半導体の結晶成長が困難なものを選択し、例えばSiO2やSiNxやAl2O3などが好適である。マスク13には後述する開口部が複数形成されており、開口部から部分的に露出した下地層12から半導体層が成長可能とされている。
【0029】
柱状半導体層は、マスク13に設けられた開口部に結晶成長された半導体層であり、成長基板11の主面に対して鉛直に略柱状の半導体層が立設して形成されている。このような柱状半導体層は、構成する半導体材料に応じて適切な成長条件を設定し、特定の結晶面方位が成長する選択成長を実施することで得られる。
図1に示した例では、マスク13に複数の開口部を二次元的に周期的に形成しているため、柱状半導体層も成長基板11上に二次元的に周期的に形成されている。
【0030】
n型ナノワイヤ層14は、マスク13の開口部から露出した下地層12上に選択成長された柱状の半導体層であり、例えばn型不純物がドープされたGaNから構成されている。n型ナノワイヤ層14としてGaNを用いると、下地層12のc面上に選択成長されたn型ナノワイヤ層14は、6つのm面がファセットとして形成された略六角柱の形状となる。
図1では開口部が形成された領域にのみn型ナノワイヤ層14が成長しているように見えるが、実際には横方向成長によりマスク13上にも結晶成長が進むため、開口部の周囲に拡大した六角柱が形成される。例えば、開口部を直径150nm程度の円として形成した場合には、直径240nm程度の円に内接する六角形を底面とする高さ1~2μm程度の六角柱状のn型ナノワイヤ層14を形成することができる。
【0031】
活性層15は、n型ナノワイヤ層14よりも外周に成長された半導体層であり、例えば厚さ5nmのGaInN量子井戸層と厚さ10nmのGaN障壁層を5周期重ねた多重量子井戸活性層が挙げられる。ここでは多重量子井戸活性層を挙げたが、単一量子井戸構造であってもよく、バルク活性層であってもよい。活性層15がn型ナノワイヤ層14の側面および上面に形成されているため、活性層15の面積を確保することができる。活性層に取り込まれるInの比率が高くなるほど、半導体発光素子10の発光波長は長波長化し、In組成比を0.10以上とすることで発光波長を480nm以上とすることができる。また、In組成比を0.12以上とすることで発光波長を500nm以上とすることができる。
【0032】
p型半導体層16は、活性層15よりも外周に成長された半導体層であり、例えばp型不純物がドープされたGaNから構成されている。p型半導体層16が活性層15の側面および上面に形成されているため、n型ナノワイヤ層14と活性層15とp型半導体層16でダブルヘテロ構造が構成され、良好にキャリアを活性層15に閉じ込めて発光再結合の確率を向上させることができる。本実施形態の半導体発光素子10では、除去領域19を形成する際にp型半導体層16の途中までエッチング除去を行う。そのため、活性層15までエッチングが到達しないように、活性層15の上面に成長するp型半導体層16を厚膜化することが好ましく、例えば200nm以上の膜厚で成長する。
【0033】
トンネル接合層17は、p型半導体層16よりも外周に成長された半導体層であり、例えば内側にp型不純物が高濃度にドープされたp+層と、外側にn型不純物が高濃度にドープされたn+層とが順に成長された二層構造を有している。p+層は、p型不純物が高濃度にドープされた半導体層であり、例えば厚さ5nmでMg濃度が2×1020cm-3のGaNを用いることができる。n+層は、例えば厚さ10nmでSi濃度が2×1020cm-3のGaNを用いることができる。p+層とn+層によりトンネル接合が形成されるため、p+層とn+層の二層は本発明におけるトンネル接合層17を構成している。
【0034】
埋込半導体層18は、柱状半導体層の上面および側面を覆って、マスク13に至るまで覆うように形成された半導体層である。
図1に示したように、アノード電極22,23が形成されている領域における柱状半導体層の上方では、埋込半導体層18がトンネル接合層17上も覆っている。アノード電極22,23が形成されていない除去領域19における柱状半導体層の上方では、埋込半導体層18とトンネル接合層17が除去されてp型半導体層16の上部が露出し、トンネル接合層17の側面には
図1に示したように埋込半導体層18が接触している。
【0035】
除去領域19は、柱状半導体層の少なくとも一部において、埋込半導体層18からトンネル接合層17の一部まで除去された領域である。
図1に示した例ではトンネル接合層17まで除去した例を示しているが、少なくともp型半導体層16の一部が露出していればよく、p型半導体層16の上部に至るまで除去してもよい。また、
図1では複数の柱状半導体層にわたって一括して除去領域19を形成した例を示しているが、複数の柱状半導体層に対して個別に除去領域19を設けるとしてもよい。
【0036】
カソード電極20,21は、下地層12が露出された領域に形成された電極であり、下地層12の最表面とオーミック接触する金属材料とパッド電極の積層構造で構成されている。アノード電極22,23は、埋込半導体層18上の一部に形成された電極であり、埋込半導体層18の最表面とオーミック接触する金属材料とパッド電極の積層構造で構成されている。また、
図1では図示を省略したが、必要に応じて半導体発光素子10の表面をパッシベーション膜で覆うなど公知の構造を適用してもよい。また、除去領域19全体にアノード電極22を延伸した透明電極を形成するとしてもよい。
【0037】
半導体発光素子10の発光波長を長波長化する場合には、活性層15のInNモル分率を高める必要がある。例えばn型ナノワイヤ層14の外接円直径が300nmのとき、赤色の活性層組成Ga0.6In0.4Nを用いる必要があるが、InNモル分率上昇とともに圧縮応力が高まり、ミスフィット転位が発生する場合がある。これを避けるために、Ga0.6In0.4N井戸層の膜厚を小さくするか、n型ナノワイヤ層14を構成する材料をGaInNとすることも可能である。同様に、半導体発光素子10の波長を短波長化する場合には、n型ナノワイヤ層14としてAlGaNを用いることや、活性層15の井戸層およびバリア層を各々組成の異なるAlGaNに変更することも可能である。
【0038】
図2は、半導体発光素子10の製造方法を示す模式図であり、
図2(a)はマスク形成工程、
図2(b)はナノワイヤ成長工程、
図2(c)は成長工程、
図2(d)は除去工程、
図2(e)は電極形成工程を示している。
【0039】
まず
図2(a)に示すマスク工程では、サファイア単結晶からなる成長基板11上に有機金属化合物気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いて、GaNからなるバッファ層、GaNおよびAlGaNからなる下地層12を成長させる。次に、下地層12上にスパッタ法でSiO
2からなるマスク13を膜厚30nm程度堆積させ、ナノインプリンティングリソグラフィーのような微細パターン形成方法を用いて、直径150nm程度の開口部を形成する。バッファ層の成長条件としては、例えば原料ガスとしてTMA(TriMethylAlminium)、TMG(TriMethylGallium)およびアンモニアを用い、成長温度が1100℃、V/III比が1000、水素をキャリアガスとして圧力10hPaである。下地層12およびn型半導体層の成長条件としては、例えば成長温度が1050℃、V/III比が1000、水素をキャリアガスとして圧力500hPaである。
【0040】
次に
図2(b)に示すナノワイヤ成長工程では、MOCVD法による選択成長により、開口部から露出した下地層12上にGaNからなるn型ナノワイヤ層14を成長させる。n型ナノワイヤ層14の成長条件としては、例えば原料ガスとしてTMGおよびアンモニアを用い、成長温度が1050℃、V/III比が10、水素をキャリアガスとして圧力100hPaである。
【0041】
次に
図2(c)に示す成長工程では、MOCVD法を用いてn型ナノワイヤ層14の側面および上面に、厚さ5nmのGaInN量子井戸層と厚さ10nmのGaN障壁層を5周期重ねた活性層15、p型不純物をドープしたGaNからなるp型半導体層16、厚さ5nmでMg濃度が2×10
20cm
-3のGaNからなるp+層と、厚さ10nmでSi濃度が2×10
20cm
-3からなるn+層を含むトンネル接合層17を順次成長させる。次に、n型GaNからなる埋込半導体層18を成長させ、トンネル接合層17の外周および上面を埋込半導体層18で埋める。活性層15におけるInの取り込みについては後述する。
【0042】
活性層15の成長条件としては、例えば成長温度が800℃、V/III比が3000、窒素をキャリアガスとして圧力1000hPaで、原料ガスとしてTMG、TMI(TriMethylIndium)およびアンモニアを用いる。p型半導体層16の成長条件としては、例えば成長温度が950℃、V/III比が1000、水素をキャリアガスとして圧力300hPaであり、原料ガスとしてTMG、Cp2Mg(bisCycropentadienylMagnesium)およびアンモニアを用いる。前述したように、除去領域19の形成時にエッチングをp型半導体層16で停止するためには、p型半導体層16を厚膜化することが好ましく、p型半導体層16の成長条件も縦方向への成長であるc面成長が促進される条件が好ましい。トンネル接合層17の成長条件としては、例えば成長温度が800℃、V/III比が3000、窒素をキャリアガスとして圧力500hPaである。
【0043】
上述したように埋込半導体層18は、柱状半導体層の間に設けられたマスク13上に成長させる必要があり、埋込半導体層18を成長する際に柱状半導体層の下部において空隙が生じる可能性がある。したがって、埋込半導体層18の成長では、原料ガスとしてTMG、シランおよびアンモニアを用い、初期段階では横方向成長であるm面の成長を促進する低温かつ低V/III比で成長することが好ましい。低温かつ低V/III比の一例としては、800℃以下で100以下のV/III比、水素をキャリアガスとして圧力200hPaが挙げられる。
【0044】
埋込半導体層18の横方向成長によって柱状半導体層の下部でマスク13上が隙間なく埋められた後には、縦方向成長であるc面の成長を促進する高温かつ高V/III比で成長することが好ましい。高温かつ高V/III比の一例としては、1000℃以上で2000以上のV/III比、水素をキャリアガスとして圧力500hPaが挙げられる。
【0045】
次に
図2(d)に示す除去工程では、選択的にドライエッチングにより埋込半導体層18、トンネル接合層17の一部を除去し、p型半導体層16の上面を露出させて除去領域19を形成する。また、カソード電極20,21を形成する領域では、マスク13まで除去して下地層12の上面を露出させる。
【0046】
除去工程の後には、大気雰囲気中において600℃でアニールし、p型半導体層16とトンネル接合層17の中のp型半導体層に取り込まれた水素を離脱させてp型半導体層16とトンネル接合層17を活性化させる活性化工程を実施する。ここでは大気雰囲気中でのアニールを示したが、p型半導体層16とトンネル接合層17を活性化できる原子状水素の存在しない雰囲気であればよい。
【0047】
最後に
図2(e)に示す電極形成工程では、下地層12の表面にカソード電極20,21を形成し、埋込半導体層18上にアノード電極22,23を形成する。また、必要に応じて電極形成後のアニールやパッシベーション膜の形成、素子分割を実施して半導体発光素子10を得る。
【0048】
本実施形態の半導体発光素子10では、カソード電極20,21とアノード電極22,23の間に電圧を印加すると、埋込半導体層18、トンネル接合層17、p型半導体層16、活性層15、n型ナノワイヤ層14、n型半導体層の順に電流が流れ、活性層15で発光再結合により光が生じる。活性層15からの発光は、半導体発光素子10の外部に取り出される。
【0049】
また、本実施形態の半導体発光素子10では、活性層15がn型ナノワイヤ層14よりも外周に形成され、さらにその外周にトンネル接合層17が形成され、埋込半導体層18で埋め込まれている。したがって、アノード電極22,23から注入された電流は、埋込半導体層18からトンネル接合層17を経由してトンネル電流としてp型半導体層16の側壁から活性層15に注入される。トンネル接合層17を介したトンネル電流による電流注入は抵抗が小さく、良好に電流注入を行うことができる。また、n型の半導体層である埋込半導体層18はp型の半導体層よりも電流が拡散しやすいため、良好に柱状半導体層の側面で底面近傍まで電流を拡散させて、トンネル接合層17全体から電流注入を行うことができる。
【0050】
これにより、アノード電極22,23から注入された電流は、柱状半導体層の上面ではなく側面全体から良好にp型半導体層16に注入され、活性層15に対して良好に電流注入をして高電流密度を実現するとともに、外部量子効率を向上させることが可能となる。
【0051】
また、n型ナノワイヤ層14の側面は選択成長により形成されたm面となっているため、その外周に形成された活性層15とp型半導体層16も互いにm面で接触している。m面は無極性面であり分極が生じないため活性層15での発光効率も高く、しかも六角柱の側面全てがm面であることから半導体発光素子10の発光効率を向上させることができる。さらに、活性層の膜厚を厚くすることができるため、活性層15の体積を従来の半導体発光素子よりも3~10倍程度まで増加させることができ、注入キャリア密度を低減して効率ドループを大幅に低減できる。
【0052】
本願発明者は、n型ナノワイヤ層14を形成する際の選択成長に用いるマスク13について検討した結果、発光領域における開口部の開口率と成長条件によって、n型ナノワイヤ層14の直径、高さ、成長ファセット等を制御し、その外周に形成される活性層15へのInの取込みを高めることができることを見出した。以下に、活性層15に取り込まれるIn組成比を高めて、半導体発光素子10の発光波長を長波長化する方法について説明する。
【0053】
図3は、成長基板11上における発光領域に形成されたマスク13の形状を示す模式平面図である。図に示したように、マスク13には三角格子状に開口部13aが形成されており、開口部13aからは下地層12が露出され、n型ナノワイヤ層14を選択成長可能とされている。マスク13における開口部13aの開口率とは、単位面積あたりに占める開口部13aの比率であり、開口部13aの半径r(開口径2r)と、隣り合う開口部13a同士の中心感距離(ピッチp)によって決まる。開口率(%)は、開口部13aの半径rとピッチpを用いると、
2π/√3×(r/p)
2
で表すことができる。
【0054】
次に
図4から
図8を用いて、開口部13aの開口径(2r)とピッチ(p)によりn型ナノワイヤ層14の形状を制御する方法について説明する。
図4から
図8においては、n型ナノワイヤ層14を成長する際に、原料の流量、圧力、成長温度等の成長条件を同じにした場合を比較する。
【0055】
図4は、開口部13aの半径rとピッチpの比率を一定にして、半径rを変化させた場合を示す模式図であり、上段は模式平面図を示し、下段は模式断面図を示している。
図4(a)~(c)では、開口部13aの半径rとピッチpの比率が同じであるため、単位面積あたりに占める開口部13aの比率も同じであり、開口率も同じとなっている。
図4(a)~(c)のマスク13で開口率が同じであるため、(a)~(c)で一つの開口部13aに対して供給される原料が同じであり、n型ナノワイヤ層14の高さは同程度となる。開口率と高さがほぼ同じ場合には、ナノワイヤ径が大きい程活性層にInが取り込まれやすくなり、長波となる。
【0056】
図5は、開口部13aのピッチpを一定にして、半径rを変化させた場合を示す模式図であり、上段は模式平面図を示し、下段は模式断面図を示している。
図5(a)~(c)では、ピッチpが同じであるため開口率の大小関係は半径rの大きで決まり、(a)>(b)>(c)の順に開口率が大きくなっている。
図5(a)~(c)のマスク13で開口率が異なるため、(a)~(c)で一つの開口部13aに対して供給される原料が異なり、n型ナノワイヤ層14の高さも異なるものとなり、開口率が大きいほど低くなる。Inの取り込み量は、ナノワイヤの高さでも変化する。ナノワイヤの高さが低いほど、Inは取り込まれやすくなり、長波となる。
【0057】
図6は、開口部13aのピッチpと半径rを変化させた場合を示す模式図であり、上段は模式平面図を示し、下段は模式断面図を示している。
図6(a)~(c)では、ピッチpが小さく半径rが大きいほど開口率は大きくなり、(a)>(b)>(c)の順に開口率が大きくなっている。
図6(a)~(c)のマスク13で開口率が異なるため、(a)~(c)で一つの開口部13aに対して供給される原料が異なり、n型ナノワイヤ層14の高さも異なるものとなり、開口率が大きいほど低くなる。
図6に示した例では、開口率の差を
図5よりも大きく変化させることができるため、n型ナノワイヤ層14の高さも違いを大きくすることができる。
【0058】
図7は、n型ナノワイヤ層14の表面を構成するファセットについて示す模式断面図であり、
図7(a)は頂面をc面とした場合を示し、
図7(b)は頂面をr面とした場合を示している。マスク13の開口部13aから選択成長したn型ナノワイヤ層14は、側面14aをm面として上方に結晶成長が継続していく。これは、GaNの結晶成長においてm面方向への結晶成長よりもr面方向またはc面方向への結晶成長のほうが早いことに起因している。したがって、n型ナノワイヤ層14の頂面14bはr面またはc面のファセットを有することとなる。
【0059】
n型ナノワイヤ層14の頂面14bがr面ファセットになるかc面ファセットになるかは、成長条件によって決まる。したがって、n型ナノワイヤ層14の最上部を結晶成長する段階で成長条件を変更することにより、頂面14bのファセットをc面かr面に制御できる。具体的には、比較的低温でアンモニア流量が多い場合にはr面ファセットが形成されやすく、比較的高温でアンモニア流量が少ない場合にはc面ファセットが形成されやすい。一例としては、980℃での成長でr面となり、1000℃での成長でc面となる。
【0060】
図7(b)に示したように、n型ナノワイヤ層14の高さ方向での成長時間を短くし、マスク13よりも上方には側面14aとしてm面がほとんど露出せず、頂面14bとしてr面ファセットが開口部13aから露出する形状とすることもできる。この場合には、n型ナノワイヤ層14の外周に形成される活性層15もr面上に形成されることとなる。
【0061】
図8は、開口部13aのピッチpを一定にして、半径rを変化させるとともに、頂面にr面ファセットを露出させた場合を示す模式図であり、上段は模式平面図を示し、下段は模式断面図を示している。
図8(a)~(c)では、ピッチpが同じであるため開口率の大小関係は半径rの大きで決まり、(a)>(b)>(c)の順に開口率が大きくなっている。
図8(a)~(c)のマスク13で開口率が異なるため、(a)~(c)で一つの開口部13aに対して供給される原料が異なり、n型ナノワイヤ層14の高さも異なるものとなり、開口率が大きいほど低くなる。また、
図8(a)では
図7(b)と同様にn型ナノワイヤ層14の側面が露出しない程度の高さで形成した後に、頂面にr面ファセットを形成している。
【0062】
次に、n型ナノワイヤ層14の外周にInを含んだ活性層15を結晶成長させた場合の、In取り込み傾向について説明する。n型ナノワイヤ層14の外周にGaInNで活性層15を成長させる際には、n型ナノワイヤ層14が高さ方向に伸びており、上方から供給されるIn原料ガスが良好に側面全体に供給できるかを考慮する必要がある。
【0063】
図4(a)~(c)の下段に示したように、開口率が同じで開口部13aの半径が大きい場合にはピッチpも大きくなり、隣り合うn型ナノワイヤ層14同士の間に存在する空間が大きくなる。これにより、n型ナノワイヤ層14の側面においてIn原料が十分に下方まで供給され、側面のm面に形成される活性層15でのIn組成を高めることができる。しかし、開口部13aの半径を小さくするとピッチpが小さくなり、隣り合うn型ナノワイヤ層14同士の間に存在する空間が小さくなる。これにより、n型ナノワイヤ層14でIn原料が遮蔽され、n型ナノワイヤ層14の側面に形成される活性層15にInが取り込まれにくくなり、In組成比が小さくなる。これは、MOCVD法においてInは他の材料と比較して移動距離が短いことに起因する。
【0064】
また、開口部13aの半径rとピッチpが同じ場合には、n型ナノワイヤ層14が高いほどIn原料はn型ナノワイヤ層14の上部で遮られて遮蔽され、n型ナノワイヤ層14の下部にまでIn原料を供給することが困難になる。このように、n型ナノワイヤ層14が低いほど側面の活性層15におけるIn組成比を高めやすくなる。
【0065】
また、開口部13aの半径rを同じにしてピッチpを変更し、n型ナノワイヤ層14の高さを同じにした場合には、ピッチpが小さいほど隣り合うn型ナノワイヤ層14同士の間に存在する空間が小さくなり、In原料は上部で遮蔽されてn型ナノワイヤ層14の下部にまでIn原料を供給することが困難になる。このように、開口部13aのピッチpが大きいほど側面の活性層15におけるIn組成比を高めやすくなる。
【0066】
また、GaInNの結晶成長では成長面によってInの取り込み率が異なり、頂面に形成されたr面のほうが、n型ナノワイヤ層14の側面であるm面よりもInが取り込まれやすい。したがって、
図7(b)に示したように、n型ナノワイヤ層14の側面がマスク13上に露出せず、頂面のr面ファセットを露出させることで、頂面にr面として結晶成長される活性層15のIn比率を高めることができる。
【0067】
上述したように、半導体発光素子10ではトンネル接合層17を用いてn型ナノワイヤ層14の側面から活性層15に電流を注入する構造としている。したがって、
図7(a)に示したように側面と頂面を有するn型ナノワイヤ層14では、活性層15のうち側面に形成された部分が主として発光する。そのため、側面の活性層15でのIn組成比を高めることで、発光波長の長波長化を図り、480nm以上の長波長を発光することができる。
【0068】
また、
図7(b)に示したように、頂面にr面ファセットを有し、側面がほとんど露出しないn型ナノワイヤ層14では、活性層15のうち頂面に形成された部分が主として発光する。そのため、頂面の活性層15でのIn組成比を高めることで、発光波長の長波長化を図り、赤色領域まで発光することができる。
【0069】
上述したように、開口部13aの半径rを大きくし、ピッチpを大きくし、n型ナノワイヤ層14を低くし、r面ファセットを用いる条件で、n型ナノワイヤ層14の外周に形成される活性層15においてIn組成比を高め、長波長化を図ることができるはずである。しかし、n型ナノワイヤ層14によるIn原料の遮蔽、隣り合うn型ナノワイヤ層14同士の間に存在する空間の大きさ、成長面によるIn取り込み率等の影響は相互に関連している。そのため現実には、上記パラメータをそれぞれ単独で変化させた場合と、活性層15中のIn組成比の傾向は異なるものとなる。
【0070】
(実施例)
図2に示した製造方法を用いて、n型ナノワイヤ層14および活性層15の成長条件を同じにして実施例1~5および6~10を作成し、発光波長を測定した。発光波長の測定は、SEM装置(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製SU70)を用いたカソードルミネッセンス測定で行った。結果を表1に示す。実施例1~5と6~10は、開口部13aの開口径とピッチが同じであり、活性層15を成長する際のIn気相比を異ならせている。
【0071】
【0072】
図9は、実施例1~10の実験結果を示すグラフであり、開口部13aの開口率と発光波長の関係を示している。
図9に示したように、開口率を小さくするほど発光波長を長波長化できる。グラフ中における四角のプロットは実施例1~5を示し、丸のプロットは実施例6~10を示している。また、グラフ中の曲線は、それぞれのプロットについて最小二乗法で近似したものである。実施例6~10の近似曲線においては、開口率0.05で発光波長480nmとなっており、開口率0.03で発光波長500nmとなっている。
【0073】
したがって、マスク13の開口部13aを開口率0.05以下とすることで、n型ナノワイヤ層14の側面外周に形成された活性層15のIn組成を高めて、480nm以上の長波長を発光できることがわかる。また、マスク13の開口部13aを開口率0.03以下とすることで、n型ナノワイヤ層14の側面外周に形成された活性層15のIn組成を高めて、500nm以上の長波長を発光できることがわかる。
【0074】
また、表1に示した実施例1~5および6~10を参照すると、開口径が小さいほど長波長化し、ピッチが小さいほど長波長化し、n型ナノワイヤ層14が高いほど長波長化している。これは、成長条件を同じにした場合には、開口率がn型ナノワイヤ層14の高さに影響し、n型ナノワイヤ層14の表面に占める頂面の割合に影響するためと思われる。
【0075】
先に
図5で示したように、開口率が大きいほどn型ナノワイヤ層14は低く形成される。また、開口部13aの半径rが大きく、n型ナノワイヤ層14が低い場合には、n型ナノワイヤ層14の表面に占める頂面の割合が増加する。頂面に形成されるr面やc面のファセットは、m面よりもInを取り込みやすい。これにより、頂面の割合が大きい場合には、活性層15の成長時に供給されたIn原料が頂面に取り込まれて側面に供給されにくくなり、活性層15の側面でのIn組成比が小さくなると考えられる。
【0076】
これは、n型ナノワイヤ層14が高いほどIn原料がn型ナノワイヤ層14で遮蔽され、側面にIn原料を供給しにくくなる影響はあるが、頂面でのIn取り込みの影響のほうが大きいためと考えられる。また、開口率が10%程度以下である場合には、隣り合うn型ナノワイヤ層14同士の間には十分に空間が確保されるため、n型ナノワイヤ層14によるIn原料の遮蔽は影響が小さいと考えられる。
【0077】
したがって、表1および
図9に示したように、n型ナノワイヤ層14の外周に形成された活性層15のIn組成比を高めるためには、開口率が一番重要であると言える。また、活性層14におけるIn組成は0.10以上0.40以下の範囲であることが、発光波長を480nm以上とするために好ましい。また、頂面でのIn取り込みを低減するためには、開口部13aの開口径(2r)が100nm以上200nm以下であることが好ましく、当該開口径において開口率を維持するためには、ピッチが400nm以上850nm以下であることが好ましい。また、n型ナノワイヤ層14の高さは、1000nm以上
2000nm以下であることが好ましい。
【0078】
また、
図7(b)に示したように、n型ナノワイヤ層14の側面を露出させず、頂面のr面ファセットを露出させて活性層15を形成した場合には、Inは半極性面であるr面に取り込まれやすいため、活性層15のIn組成比0.4程度まで高めて赤色を発光させることも可能である。
【0079】
上述したように、本実施形態の半導体発光素子10では、マスク13に形成された開口部13aの開口率を0.1%以上5.0%以下の範囲とすることで、同一の成長条件でもn型ナノワイヤ層14の高さ、直径、結晶成長面を制御して活性層15へのIn取込率を向上させ、再現性高く480nm以上で発光させることができる。
【0080】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図10を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。本実施形態では、成長基板11上に複数の発光領域を設け、複数の発光領域に一括してモノリシックにn型ナノワイヤ層14と活性層15を形成する。
【0081】
図10は、本実施形態に係る半導体発光素子10の発光領域について示す模式図であり、
図10上段は模式平面図であり、
図10下段は模式断面図である。
図10に示すように、成長基板11および下地層12上には、複数の発光領域が設けられており、それぞれ第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cとして分離領域32で隔てられている。また、分離領域32のマスク13上には、配線パターン33が形成されている。第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cには、マスク13および開口部13aが形成されており、各領域において開口部13aの開口率が異なっている。
【0082】
分離領域32は、開口率が異なる第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cの間に設けられた開口部13aが形成されていない領域であり、その幅は10μm以下とされている。分離領域32の幅を10μm以下とするのは、n型ナノワイヤ層14や活性層15を選択成長する際に、マスク13上に供給された原料が5μm程度であれば移動可能なためである。分離領域32が10μm以下の幅であれば、分離領域32の中央に到達した原料は開口部13aにまで移動して選択成長に用いられ、マスク13上に多結晶等として析出することを防止できる。
【0083】
配線パターン33は、分離領域32上に金属等で形成されたパターンであり、
図10の外部まで延長されてカソード電極20,21と半導体発光素子10の外部とを電気的に接続する。配線パターン33は、カソード電極20,21とは別の材料で形成するとしてもよく、カソード電極20,21と同じ材料で一括して形成するとしてもよい。
【0084】
配線パターン33を第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cのそれぞれに独立して形成した場合には、第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cのそれぞれに含まれている活性層15に対して電流を供給することができ、第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cを選択的に発光させることができる。配線パターン33を第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cに共通の配線として形成し場合には、第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cに対して同時に電流を供給して発光させることができる。
【0085】
図10に示した例では、開口部13aの半径rおよびピッチpを第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cで異ならせており、
図4(a)~(c)と同様に開口率を同じにして、n型ナノワイヤ層14の高さが同じに形成している。しかし、
図5(a)~(c)、
図6(a)~(c)、
図8(a)~(c)に示したように、開口部13aの半径rやピッチpにより開口率を第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cで異ならせるとしてもよい。
【0086】
本実施形態においては、第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cは同一の成長基板11上に一括してモノリシックに形成されるため、各領域でのn型ナノワイヤ層14と活性層15の成長条件が必然的に同じとなる。本発明では、
図9に示したように同一の成長条件であっても、開口率を異ならせることで活性層15でのIn組成を変化させることができる。これにより、第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cでは、活性層15での発光波長がそれぞれ異なるものとなる。
【0087】
特に、
図8(a)~(c)に示したように、第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cのうち何れか1つにおいて、n型ナノワイヤ層14の側面を露出させず、頂面の半極性面であるr面のみを露出させ、頂面上に形成される活性層15のIn組成比を40%程度にまで高めることで赤色発光をさせることができる。また、第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cのうち他の2つとして、開口部13aの開口率が0.1%以上5.0%以下のものと、開口部13aの開口率が5.0%より大きいものを採用することで、480nm以上の青緑色光と、480nm未満の青色光をそれぞれから発光させることができる。
【0088】
さらに、開口部13aの開口率を0.1%以上3.0%以下とした場合には、500nmの緑色光を発光させることができるため、第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cのそれぞれから青色光、緑色光、赤色光を発光させることができる。また、成長基板11上に半導体発光素子10をマトリクス状に配列して、配線パターン33で第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cに対して個別に電流を供給してRGBの各色を発光させることで、半導体発光素子10を一画素とした画像表示装置を構成することもできる。また、共通の配線パターン33で第1領域31a、第2領域31b、第3領域31cに対して同時に電流を供給してRGBを発光させることで、白色で発光する照明装置を構成することができる。
【0089】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について
図11から
図15を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。
図11は、同一の成長基板11上において、複数の領域に開口径の異なる開口部13aを形成した場合のn型ナノワイヤ層14の結晶成長を示すSEM像である。
【0090】
図11(a)は、電子ビーム露光により開口部13aを形成した状態を示す平面SEM像であり、領域P1は開口径が400nmでピッチが1200nm、領域P2は開口径が230nmでピッチが880nm、領域P3は開口径が150nmでピッチが800nmである。領域P1,P2,P3はそれぞれ幅20μmで長さ100μmであり、領域間は20μmの間隔である。
図11(a
i)~(a
iii)は、それぞれ領域P1,P2,P3に形成した開口部13aを拡大して示す平面SEM像である。
【0091】
図11(b)は、n型ナノワイヤ層14を選択成長した後の状態を示す平面SEM像である。
図11(b
i)~(b
iii)は、それぞれ領域P1,P2,P3に形成したn型ナノワイヤ層14を拡大して示す平面SEM像であり、
図11(c
i)~(c
iii)は断面SEM像である。
【0092】
図12は、n型ナノワイヤ層14の外周に活性層15としてGaInN/GaN多重量子井戸構造を形成した状態を示すSEM像とカソードルミネッセンス測定結果である。井戸層の成長温度は750℃であり、障壁層の成長温度は750℃である。
図12の上段に示した
図12(a
i)~(a
iii)、
図12(b
i)~(b
iii)、
図12(e)は、Ga原料であるTEG(Triethylgallium)の流量を30sccmとした場合を示している。
図12の下段に示した
図12(c
i)~(c
iii)、
図12(d
i)~(d
iii)、
図12(f)は、Ga原料であるTEGの流量を60sccmとした場合を示している。
【0093】
図12(a
i)~(a
iii)および
図12(c
i)~(c
iii)はそれぞれ領域P1,P2,P3に形成した活性層15を拡大して示す平面SEM像である。
図12(b
i)~(b
iii)および
図12(d
i)~(d
iii)はそれぞれ領域P1,P2,P3に形成した活性層15を拡大して示す断面SEM像である。
図12(e)(f)は、SEM装置を用いたカソードルミネッセンス(CL)測定の結果を示すスペクトル図である。
【0094】
図12に示したように、開口部13aの開口率が小さいほどCL測定による発光波長は長波長化している。また、同じ開口率でもTEGの流量を増加させることで、発光波長は長波長化している。また、TEGの流量増加により頂部近傍にIn組成の高い領域が形成されている。
【0095】
図13は、活性層15中のGaN障壁層を800℃で成長した場合のSEM像とカソードルミネッセンス測定結果である。井戸層の成長温度は750℃であり、TEGの流量は60sccmである。
図13(a
i)~(a
iii)は、それぞれ領域P1,P2,P3に形成した活性層15を拡大して示す平面SEM像であり、
図13(b
i)~(b
iii)は断面SEM像である。
【0096】
図14は、活性層15中のGaInN井戸層を730℃で成長した場合のSEM像とカソードルミネッセンスマッピング結果である。
図14(a
i)~(a
iii)は、それぞれ領域P1,P2,P3に形成した活性層15を拡大して示す平面SEM像であり、
図14(b
i)~(b
iii)は傾斜観察SEM像である。
図14(c
i)~(c
iii)は、それぞれ領域P1,P2,P3の断面における全光CL像である。
【0097】
図15は、GaInN井戸層の成長温度が750℃、730℃、710℃の場合における、規格化したCL発光強度を示すグラフである。障壁層の成長温度は800℃であり、TEGの流量は30sccmである。
図15の上段に示した
図15(a
i)、
図15(b
i)、
図15(c
i)は、n型ナノワイヤ層14の頂部近傍での測定結果を示し、下段に示した
図15(a
ii)、
図15(b
ii)、
図15(c
ii)は、n型ナノワイヤ層14の下部での測定結果を示している。
【0098】
図15に示したように、n型ナノワイヤ層14の頂部近傍ではCLピーク波長が下部よりも長波長化しており、Inの取込が下部よりも多いことがわかる。また、GaInN井戸層の成長温度が低いほどCLピーク波長が長波長化しており、Inが取り込まれやすいことがわかる。
【0099】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の
変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて
得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0100】
10…半導体発光素子
11…成長基板
12…下地層
13…マスク
13a…開口部
14…n型ナノワイヤ層
14…活性層
14a…側面
14b…頂面
15…活性層
16…p型半導体層
17…トンネル接合層
18…埋込半導体層
19…除去領域
20,21…カソード電極
22,23…アノード電極
32…分離領域
33…配線パターン