(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】立坑構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造
(51)【国際特許分類】
E21D 5/00 20060101AFI20240716BHJP
E21D 5/06 20060101ALI20240716BHJP
E21D 5/04 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
E21D5/00
E21D5/06
E21D5/04
(21)【出願番号】P 2020204694
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000150110
【氏名又は名称】株式会社竹中土木
(73)【特許権者】
【識別番号】000140694
【氏名又は名称】株式会社加藤建設
(73)【特許権者】
【識別番号】000231110
【氏名又は名称】JFE建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004200
【氏名又は名称】弁理士法人山名国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100174207
【氏名又は名称】筬島 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】大沼 敏
(72)【発明者】
【氏名】中田 稔
(72)【発明者】
【氏名】田邉 康太
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 優巳
(72)【発明者】
【氏名】濱田 良幸
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 茂
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達也
(72)【発明者】
【氏名】内山 敬二
(72)【発明者】
【氏名】松岡 馨
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-291036(JP,A)
【文献】特開2006-161434(JP,A)
【文献】特開2007-284989(JP,A)
【文献】特開2001-220996(JP,A)
【文献】特開2012-126622(JP,A)
【文献】特開2018-003270(JP,A)
【文献】実公昭47-001021(JP,Y1)
【文献】実開平05-038103(JP,U)
【文献】特開2018-193674(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110748354(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00-9/14
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメント圧入工
法で構築した
立坑構造物の内部空間を仕切る仕切り壁の施工方法であって、
前記仕切り壁は複数の壁部材を積み上げてなる構成とし、
前記壁部材の一端部が載置される受け金具と、前記受け金具の上面及び/又は下面に設けられ前記壁部材の一端部を挟持して位置決めするための一対の拘束金具とからなり、前記壁部材の左右の両端部を支持する支持金具を前記
立坑構造物の外殻躯体に定着させる工程と、前記壁部材を、その左右の両端部を前記支持金具に支持させることにより設置する工程とを下方から上方へ順に行い前記複数の壁部材を所定の高さまで積み上げて仕切り壁を施工することを特徴とする、
立坑構造物の仕切り壁の施工方法。
【請求項2】
前記受け金具は、底面部と鉛直部とからなり、前記底面部及び鉛直部が前記外殻躯体の周方向の曲率と略等しい弧状をなし、前記外殻躯体に設けられたアンカー部材に定着することを特徴とする、請求項
1に記載した
立坑構造物の仕切り壁の施工方法。
【請求項3】
前記壁部材は、その左右の両端部に、前記受け金具の縦断面形状と略一致する切欠き部が形成されていることを特徴とする、請求項
1又は
2に記載した
立坑構造物の仕切り壁の施工方法。
【請求項4】
前記アンカー部材は、前記外殻躯体に予め設けておくことを特徴とする、請求項
2に記載した
立坑構造物の仕切り壁の施工方法。
【請求項5】
前記アンカー部材は、平面視で略一致するように径方向に向けて整列させておくことを特徴とする、請求項
2又は
4に記載した
立坑構造物の仕切り壁の施工方法。
【請求項6】
セグメント圧入工
法で構築した
立坑構造物の内部空間を仕切る仕切り壁の施工構造であって、
前記仕切り壁は複数の壁部材を上下に積み上げて構成されていること、
前記仕切り壁を構成する個々の壁部材は、その左右の両端部が支持金具により支持されていること、
前記支持金具は、
前記壁部材の一端部が載置される受け金具と、前記受け金具の上面及び/又は下面に設けられ前記壁部材の一端部を挟持して位置決めするための一対の拘束金具とからなり、前記
立坑構造物の外殻躯体に定着されていることを特徴とする、
立坑構造物の仕切り壁の施工構造。
【請求項7】
前記
立坑構造物
は、深さが40~150m程度の
超深層曝気槽であることを特徴とする、請求項
6に記載した
立坑構造物の仕切り壁の施工構造。
【請求項8】
前記壁部材は、プレキャストコンクリート製、金属製、又は樹脂製であることを特徴とする、請求項
6に記載した
立坑構造物の仕切り壁の施工構造。
【請求項9】
前記仕切り壁は、前記
立坑構造物の下方部を仕切らない連通構造とする
ために、前記
立坑構造物の高さよりも短い高さとされていることを特徴とする、請求項
6に記載した
立坑構造物の仕切り壁の施工構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、深層曝気槽等に用いられる立坑構造物の内部空間を仕切る仕切り壁の施工方法および施工構造の技術分野に属し、更に言えば、深さ40~150m程度の超深層で、かつ径が3m程度以上の大規模な立坑構造物に好適な仕切り壁の施工方法および施工構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分割セグメントを用いて地中筒形構造物(立坑構造物)を構築するセグメント圧入工法としてアーバンリング(登録商標)工法が知られている。この工法は、分割セグメントをリング状に組み立ててなる圧入リング(外殻躯体)を圧入装置で地中に圧入した後、圧入リングの内部を掘削して排土し、当該圧入リングの上に圧入リングを積み重ねて圧入して増設する工程を所定の深度に到達するまで繰り返し行うことにより地中筒形構造物を構築するものである(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
前記地中筒形構造物について、近年、深さ40~150m程度の超深層で、かつ径が3m程度以上の大規模な超深層曝気槽を現場で必要とする場合がある。このような大規模な超深層曝気槽を構築するには、前記アーバンリング工法が好適であるが、従来の技術では、超深層曝気槽に必須となる仕切り壁の構築が現実的ではなく、新たな技術開発が望まれている。
例えば、深度が浅いなどの小規模な地中筒形構造物の内部空間に仕切り壁を設ける場合、圧入リングと仕切り壁とを共に金属製で実施し、溶接やボルト等の接合手段で直接的に接合できる等、さほど難しくはないが、深さ40~150m程度の超深層で、かつ径が3m程度以上の大規模な超深層曝気槽の内部空間に仕切り壁を設ける場合、コストや品質(強度・剛性)を勘案するとどうしても地中筒形構造物を金属製で実施することは現実的ではなく、コンクリート製で実施することになり、そうすると前記したような地中筒形構造物(圧入リング)に仕切り壁を直接的に接合できない等、解決するべき課題があった。また、前記アーバンリング工法は、圧入リングの内部を掘削して排土する作業を伴うので、仕切り壁の施工作業は、当該掘削・排土作業の障害(邪魔)となり、よって地中筒形構造物の構築完了後に行わなければならないことも前記課題を煩雑化していた。
すなわち、仕切り壁の施工を、大規模な地中筒形構造物(超深層曝気槽)の構築完了後に行うということは、狭所・高所においての困難で高コストな作業となり、構造的にも仕切り壁の自重を地中筒形構造物(圧入リング)に支持させる手法等を考慮すると、困難な問題が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-148082号公報
【文献】特開2004-332202号公報
【文献】特開2017-214722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大規模な地中筒形構造物(圧入リング)をコンクリート製で実施する場合の仕切り壁の施工方法として考えられる最もポピュラーな手段は、仕切り壁用の鉄筋配筋を行い、型枠支保工を設置し、コンクリートを打設する方法がある。
しかしながらこの方法は、前記鉄筋と地中筒形構造物との取り合いや型枠支保工の設置手法に工夫が必要となるなど作業が煩雑になる上に、なにより、一般的な壁コンクリートの打設可能な高さは1回あたり最大で5m程度で、次のコンクリート打設作業まで養生期間を経た後に型枠の脱型、レイタンス処理等の作業が必要であり、さらに次の鉄筋配筋作業、型枠設置作業を勘案すると1週間以上は必要になる。よって、仮に100m程度の高さの仕切り壁を施工するには、単純計算で20週(=約5ヶ月)以上の期間を要する等、施工性、経済性が非常にわるく、改良の余地が多分に残されている。
【0006】
したがって、本発明は、上述した背景技術の課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、深さ40~150m程度の超深層で、かつ径が3m程度以上の大規模な立坑構造物をセグメント圧入工法(アーバンリング工法)で構築する場合であっても、迅速かつ確実に仕切り壁を施工することができ、施工性、経済性、及び品質性に非常に優れた立坑構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記背景技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係る立坑構造物の仕切り壁の施工方法は、セグメント圧入工法で構築した立坑構造物の内部空間を仕切る仕切り壁の施工方法であって、
前記仕切り壁は複数の壁部材を積み上げてなる構成とし、前記壁部材の一端部が載置される受け金具と、前記受け金具の上面及び/又は下面に設けられ前記壁部材の一端部を挟持して位置決めするための一対の拘束金具とからなり、前記壁部材の左右の両端部を支持する支持金具を前記立坑構造物の外殻躯体に定着させる工程と、前記壁部材を、その左右の両端部を前記支持金具に支持させることにより設置する工程とを下方から上方へ順に行い前記複数の壁部材を所定の高さまで積み上げて仕切り壁を施工することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した立坑構造物の仕切り壁の施工方法において、前記受け金具は、底面部と鉛直部とからなり、前記底面部及び鉛直部が前記外殻躯体の周方向の曲率と略等しい弧状をなし、前記外殻躯体に設けられたアンカー部材に定着することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載した立坑構造物の仕切り壁の施工方法において、前記壁部材は、その左右の両端部に、前記受け金具の縦断面形状と略一致する切欠き部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載した発明は、請求項2に記載した立坑構造物の仕切り壁の施工方法において、前記アンカー部材は、前記外殻躯体に予め設けておくことを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載した発明は、請求項2又は4に記載した立坑構造物の仕切り壁の施工方法において、前記アンカー部材は、平面視で略一致するように径方向に向けて整列させておくことを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載した発明に係る立坑構造物の仕切り壁の施工構造は、セグメント圧入工法で構築した立坑構造物の内部空間を仕切る仕切り壁の施工構造であって、
前記仕切り壁は複数の壁部材を上下に積み上げて構成されていること、
前記仕切り壁を構成する個々の壁部材は、その左右の両端部が支持金具により支持されていること、
前記支持金具は、前記壁部材の一端部が載置される受け金具と、前記受け金具の上面及び/又は下面に設けられ前記壁部材の一端部を挟持して位置決めするための一対の拘束金具とからなり、前記立坑構造物の外殻躯体に定着されていることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載した発明は、請求項5に記載した立坑構造物の仕切り壁の施工構造において、前記立坑構造物は、深さが40~150m程度の超深層曝気槽であることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載した発明は、請求項6に記載した立坑構造物の仕切り壁の施工構造において、前記壁部材は、プレキャストコンクリート製、金属製、又は樹脂製であることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載した発明は、請求項6に記載した立坑構造物の仕切り壁の施工構造において、前記仕切り壁は、前記立坑構造物の下方部を仕切らない連通構造とするために、前記立坑構造物の高さよりも短い高さとされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1~9に記載した発明に係る立坑構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造によれば、大規模な立坑構造物をコンクリート製で実施する場合の仕切り壁の施工方法として考えられる最もポピュラーな手段である、仕切り壁用の鉄筋配筋を行い、型枠支保工を設置し、コンクリートを打設する方法と比し、以下の効果を奏する。
【0017】
(1)外殻躯体に定着させる支持金具を利用して壁部材(プレキャストコンクリート版)を順次に上方に積み上げる機械的な作業を繰り返し行うことにより仕切り壁を迅速かつ確実に構築することができ、仕切り壁を施工するための工数や工期を大幅に短縮することができるので、施工性、経済性、及び品質性に非常に優れている。
【0018】
(2)工期の大幅な短縮に伴い、狭所又は高所等の悪条件下の作業の省力化にも寄与できるので、安全性にも非常に優れている。
【0019】
(3)仕切り壁を構成する壁部材同士は一体化されておらず取り替え可能なので、壁部材の損傷等に個別に対応できる等、メンテナンス性にも非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1に係る
立坑筒形構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造を示した平面図である。
【
図3】Aは、
図1のA-A断面図であり、Bは、
図1のB-B断面図である。
【
図5】Aは、実施例1に用いる支持金具(挟持金具)を示した斜視図であり、Bは、同平面図であり、Cは、同正面図である。
【
図6】Aは、実施例1に用いる支持金具(挟持金具)を示した斜視図であり、Bは、同平面図であり、Cは、同正面図である。
【
図7】実施例2に係る
立坑筒形構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造を示した平面図である。
【
図9】Aは、
図7のA-A断面図であり、Bは、
図7のB-B断面図である。
【
図11】支持金具を構成する受け金具に壁部材を載置する状態を示した説明図である。
【
図12】Aは、受け金具を示した斜視図であり、Bは、同平面図であり、Cは、同正面図である。Dは、もう1つの受け金具を示した斜視図であり、Eは、同平面図であり、Fは、同正面図である。
【
図13】Aは、実施例2に用いる拘束金具を示した斜視図であり、Bは、同平面図であり、Cは、同正面図である。
【
図14】Aは、もう1つの拘束金具を示した斜視図であり、Bは、同平面図であり、Cは、同正面図である。
【
図15】実施例3に係る
立坑筒形構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造を示した平面図である。
【
図19】支持金具を構成する受け金具に壁部材を載置する状態を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明に係る立坑構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造の実施形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0022】
実施例1に係る
立坑構造物の仕切り壁の施工構造は、
図1~
図4に示したように、セグメント圧入工
法で構築した
立坑構造物10の内部空間Sを仕切る仕切り壁Wの施工構造であり、下記の構成を特徴としている。
前記仕切り壁Wは複数の壁部材1を上下に積み上げて構成されている。
前記仕切り壁Wを構成する個々の壁部材1は、その左右の両端部が支持金具2により支持されている。
前記支持金具2は、前記
立坑構造物10を構成する外殻躯体9に定着されている。
ちなみに、
図3の符号Cは、底版コンクリートを示し、符号11は、空間Sが仕切り壁Wで仕切られていない開口部を示している。
【0023】
前記立坑構造物10は、本実施例ではセグメント圧入工法、具体的にはアーバンリング(登録商標)工法で構築されている。このアーバンリング工法は、前記段落[0002]で説明したように、分割セグメントをリング状に組み立ててなる圧入リング(以下、外殻躯体9という)を圧入装置で地中に圧入した後、外殻躯体9の内部を掘削して排土し、当該外殻躯体9の上に外殻躯体9を積み重ねて圧入して増設する工程を所定の深度に到達するまで繰り返し行うことにより立坑構造物10を構築するものである。
【0024】
前記
立坑構造物10の大きさについては種々のバリーションで実施可能であるが、本実施例では、あくまでも一例として、外径が4.5m、内径が4m、高さ(軸方向高さ)が100mの形態で実施され、超深層曝気槽に適用される。前記
立坑構造物10を構成する個々の外殻躯体9については、高さが125cm(外径と内径は前記の通り)で実施されている。ちなみに前記外殻躯体9は、一例として、
図1が分かり易いように、周方向に6等分割した断面が略1/6円弧状の同形同大の6つの分割セグメント9aからなり、周方向に連結して外径が4.5m、内径が4m、高さが125cmの円筒形状に形成されている。前記周方向に連結する手段について、本実施例では、図示は省略するが、分割セグメント9aの左右両端部に設けたボルト締め用開口部(凹部)と同開口部から側面へ貫通する貫通孔とを利用し、互いに隣接する分割セグメント9a同士をボルト締め手段で連結している。
【0025】
前記立坑構造物10(外殻躯体9)は、ライナープレート等の金属製で構築することもできるが、本実施例では、大規模な立坑構造物10をより経済的かつ高品質に構築することを勘案し、コンクリート製で実施している。
【0026】
前記仕切り壁Wは、複数の壁部材1を上下に積み上げて構成されている。各壁部材1は、一例として、壁厚が150mmで、左右の長さが3.7mで、高さは前記外殻躯体9と一致する125cmのプレキャストコンクリート版(製)で実施されている。
前記各壁部材1は、その左右の両端部が上下2箇所で支持金具2により支持され、前記支持金具2は、前記立坑構造物10を構成する外殻躯体9に定着されている。
【0027】
具体的に、前記壁部材1を支持する支持金具2は、本実施例では、前記壁部材1の一端部を挟持してボルト3を用いて接合する一対の挟持金具21、22からなる(
図5、
図6参照)。
各挟持金具21、22はそれぞれ、前記
立坑構造物10の外殻躯体9へ定着させるための定着部21a、22aと、前記定着部21a、22aの一端から壁部材1と平行する方向に延びる当接部21b、22bとで平面視略L字状に形成されている。
さらに、前記定着部21a、22aは、前記外殻躯体9の周方向の曲率と略等しい弧状に形成され、前記外殻躯体9に水平方向に設けられたアンカー部材(本実施例では雌ねじアンカー)8に定着させるためのボルト孔21c、22cが左右に2箇所穿設されている。本実施例では、前記ボルト孔21c、22cに通したボルト7を前記アンカー部材8にねじ込むことにより当該挟持金具21、22を前記外殻躯体9に定着させている。
一方、前記当接部21b、22bは、その前記壁部材1に水平方向に設けられたアンカー部材(本実施例では雌ねじアンカー)4に定着させるためのボルト孔21d、22dが中央に1箇所穿設されており、本実施例では、前記ボルト孔21d、22dに通したボルト3を前記アンカー部材4にねじ込むことにより当該挟持金具21、22を前記外殻躯体9に定着させている。
なお、前記ボルト孔21c、22c、21d、22dの個数や大きさは図示例に限らず、適宜設計変更可能である。
【0028】
かくして、前記一対の挟持金具21、22を、図示例のように該当箇所(本実施例では、1つの壁部材1に対し、上下左右にバランスよく4箇所)に配設して、前記壁部材1が、当該一対の挟持金具21、22を介して前記立坑構造物10の外殻躯体9に確実に定着される。
【0029】
なお、本実施例に係る前記一対の挟持金具21、22は、1つの壁部材1に対して上下左右に4箇所設けて実施しているがこれに限定されず、中央の左右両端部に1箇所ずつ計2箇所設けて実施する場合もある等、構造設計に応じて適宜設計変更可能である。
また、本実施例に係る壁部材1(仕切り壁W)は、
図1が分かり易いように、中央位置から若干右側に偏奇した部位に設置しているが、これに限定されない。構造設計に応じて、さらに右方又は左方に偏奇した部位に設置して実施することもできるし、中央位置に設置して実施することもできる。もとより、中央位置で設置する場合の一対の挟持金具21、22は同形同大で実施することもできる。
前記支持金具2を構成する前記一対の挟持金具21、22の形状(大きさ含む)は勿論図示例に限定されない。前記壁部材1を支持するのに必要な強度・剛性を備え、かつ前記壁部材1の端部へ当接する当接部21b、22bと前記外殻躯体9へ定着する定着部21a、22aとを備えていれば種々のバリエーションで実施可能である。
本実施例では、前記定着部21a、22aに設けたボルト孔21c、22cを水平方向に長いルーズ孔で実施している。これは、作業効率を高めるほか誤差吸収のために実施される。このような工夫は適宜行われるところであり、例えば、前記当接部21b、22b側に設けるボルト孔21d、22dにも同様にルーズ孔を設けて実施することもできる。 さらに、本実施例に係るアンカー部材8は雌ねじアンカー8で実施しているが、これに限定されず、アンカーボルト等でも同様に実施可能である。これらのアンカー部材8は、前記
立坑構造物10の構築完了後、壁部材1ひいては仕切り壁Wの構築作業に速やかに着手できるよう、予め外殻躯体9を構成する該当する分割セグメント9aに仕込んで(埋設させて)おくことが作業効率上好ましい。さらに本実施例に係るアンカー部材8は、作業性や安定性を勘案し、平面視で略一致するように径方向に向けて整列させて実施している。
【0030】
上記構成の
立坑構造物10の仕切り壁Wの施工構造は、下記する施工方法により構築される。
すなわち、先ず、所定の大きさの
立坑構造物10を上述したアーバンリング工法で構築する。具体的に本実施例では、外径が4.5m、高さが100mの
立坑構造物10を構築するべく、前記6つの分割セグメント9aを周方向に連結してなる外殻躯体9を圧入装置で地中に連続的に圧入する作業を繰り返し(本実施例では100m/1.25m=80回)行う。当該作業の準備段階として、前記6つの分割セグメント9aのうち、相対向する配置に位置させる所定の2つの分割セグメント9aには、
図1が分かり易いように、予めアンカー部材(雌ネジアンカー)8を埋設させておく。このアンカー部材8は、前記圧入作業に際し、前記壁部材1を上下方向に連続して積み上げて仕切り壁Wを施工可能なように、平面視で略一致するように径方向に向けて整列するように位置決めする。
【0031】
前記立坑構造物10の圧入作業完了後、当該立坑構造物10の底面部に底版コンクリートCを構築する。その後、底版コンクリートCから上下方向(軸方向)に2.5m程度の開口部(間隔)11を確保して前記壁部材1、ひいては仕切り壁Wの構築作業を下方から上方へ向けて開始する。前記開口部11を設ける意義は、前記立坑構造物10を下方部を仕切らない連通構造を備えた超深層曝気槽に適用するからである。
作業足場は、水を張ったフロート(船)を利用して行うこともできるし、吊り足場で行うこともできる。もっとも、本発明に係る立坑構造物10は超深層曝気槽に適用することを勘案すると、水を汲み上げるポンプ等の調達も容易なのでフロートを利用した作業の方が合理的と云える。
【0032】
前記足場の準備が整った段階で、前記壁部材(プレキャストコンクリート版)1を外殻躯体9へ取り付ける作業を行う。
すなわち、前記壁部材1の左右の両端部を支持する支持金具2を前記立坑構造物10の外殻躯体9に定着させる工程と、前記壁部材1を、その左右の両端部を前記支持金具2に支持させることにより設置する工程とを下方から上方へ順に行い前記複数の壁部材1を所定の高さまで積み上げて仕切り壁Wを施工する。
【0033】
本実施例では、足場での作業時間の短縮を図るべく、予め地上で、壁部材1の左右両端部の上下の4箇所(8箇所の雌ねじアンカー4)に支持金具2(一対の挟持金具21、22)をボルト3止めして取り付けておく。そして、前記支持金具2が取り付けられた状態の壁部材1を所定の高さまで吊り下ろし、前記一対の挟持金具21、22のボルト孔21c、22cと外殻躯体9の対応する雌ねじアンカー8との位置合わせを行う。この位置合わせ作業は、前記ボルト孔21c、22cをルーズ孔に形成しているので容易に行うことができる。続いて、前記ボルト孔21c、22cに通したボルト7を前記雌ねじアンカー8にねじ込む(接合する)ことにより当該挟持金具21、22、ひいては前記壁部材1を前記外殻躯体9に定着させる。
【0034】
次に、前記支持金具2が取り付けられた状態の壁部材1を所定の高さまで吊り下ろし、当該壁部材1を、先行の作業で既に外殻躯体9に定着させた壁部材1の直上位置に載置して位置決めする。しかる後、前記支持金具2(一対の挟持金具21、22のボルト孔21c、22c)と外殻躯体9の対応する雌ねじアンカー8との位置合わせを行い、前記ボルト孔21c、22cに通したボルト7を前記雌ねじアンカー8にねじ込むことにより当該挟持金具21、22、ひいては前記壁部材1を前記外殻躯体9に定着させる。
このような前記壁部材1を前記支持金具2を介し前記外殻躯体9に定着させて鉛直方向に連続的に積み上げる作業を所定の高さ(通常、立坑構造物10の天端)に到達するまで機械的に繰り返し行い、もって、上下に隙間なく仕切り壁Wを構築する。
本実施例では、前記壁部材1の高さを前記外殻躯体9の高さと揃えているので(ともに125cm)、上下の外殻躯体9同士の間の個々の境界線が作業の目印になる等、前記した機械的作業をよりスムーズに行うことができる。
上下の壁部材1同士の間や壁部材1と外殻躯体9との間にシーリング、パッキン等の水漏れ防止手段を施すことは適宜行われるところである。
【0035】
したがって、実施例1に係る立坑構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造によれば、大規模な立坑構造物をコンクリート製で実施する場合の仕切り壁の施工方法として考えられる最もポピュラーな手段である、仕切り壁用の鉄筋配筋を行い、型枠支保工を設置し、コンクリートを打設する方法と比し、下記する効果がある。
(1)外殻躯体9に定着させる支持金具2を利用して壁部材(プレキャストコンクリート版)1を順次に上方に積み上げる機械的な作業を繰り返し行うことにより仕切り壁Wを迅速かつ確実に構築することができ、仕切り壁Wを施工するための工数や工期を大幅に短縮することができるので、施工性、経済性、及び品質性に非常に優れている。
(2)工期の大幅な短縮に伴い、狭所又は高所等の悪条件下の作業の省力化にも寄与できるので、安全性にも非常に優れている。
(3)仕切り壁Wを構成する壁部材1同士は一体化されておらず取り替え可能なので、壁部材1の損傷等に個別に対応できる等、メンテナンス性にも非常に優れている。
【実施例2】
【0036】
図7~
図14は、実施例2に係る
立坑構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造を示している。
この実施例2は、上記実施例1と比し、前記壁部材1を前記外殻躯体9に定着させるための支持金具5が主に相違する。当該支持金具5に変更されたことに伴い、壁部材1の形態も若干変更された(
図11参照)。その他の構成は上記実施例1と同様なので同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0037】
すなわち、実施例2に係る支持金具5は、前記壁部材1の一端部が載置される受け金具51と、前記受け金具51の上面に設けられ前記壁部材1の一端部を挟持して位置決めするための一対の拘束金具52、53とからなる。前記受け金具51(
図12A、D参照)は、底面部51aと鉛直部51bとからなり、前記底面部51a及び鉛直部51bが前記外殻躯体9の周方向の曲率と略等しい弧状をなし、前記外殻躯体9に設けられたアンカー部材8に定着する構成で実施されている。前記拘束金具52、53は、それぞれ底面部52a、53aと鉛直部52b、53bとで略L字形状に形成されている。
前記受け金具51の鉛直部51bにも、前記外殻躯体9に水平方向に設けられたアンカー部材(本実施例では雌ねじアンカー)8に定着させるためのボルト孔51cが左右に2箇所穿設されている。本実施例でも、上記実施例1と同様に、前記ボルト孔51cに通したボルト7を前記アンカー部材8にねじ込むことにより当該受け金具51を前記外殻躯体9に定着させている。もっとも、前記アンカー部材8の設置部位や設置個数は、上記実施例1とは異なる(例えば、
図2と
図8とを対比して参照)。
一方、前記受け金具51の底面部51aに設けたボルト孔51dは、
図10が分かり易いように、前記一対の拘束金具52、53をそれぞれ上下に配置する等して、各底面部52a、53aに穿設したボルト孔52c、53cへボルト6を通しナット16で締結することにより前記底面部51aへ定着させるために設けられている。要するに、実施例2に係る一対の拘束金具52、53は、前記壁部材1の端部の前後の両側面をしっかり挟持しつつ、前記底面部51a、ひいては前記受け金具51を介して前記外殻躯体9へ定着される構成で実施されている。
なお、前記支持金具5を構成する受け金具51、拘束金具52、53の形状(大きさ含む)は勿論図示例に限定されない。前記壁部材1を支持するのに必要な形態と強度・剛性とを備えて種々のバリエーションで実施可能である。前記受け金具51の鉛直部51bに設けたボルト孔51cを水平方向に長いルーズ孔で実施する等の工夫は適宜行われるところである。
【0038】
前記実施例2に係る壁部材1は、前記支持金具5が上記実施例1の支持金具2から変更されたことに伴い、
図11が分かり易いように、その下部の左右両端部に、前記受け金具51の縦断面形状と略一致する切欠き部12が形成されている。また、実施例1に設けたアンカー部材4は不要となった。
【0039】
したがって、上記実施例2に係る立坑構造物の仕切り壁の施工方法は、前記足場の準備が整った段階で(詳しくは前記段落[0030]、[0031]参照)、前記壁部材(プレキャストコンクリート版)1を外殻躯体9へ取り付ける作業を行うに際し、前記壁部材1の左右の両端部を支持する支持金具5を前記立坑構造物10の外殻躯体9に定着させる工程と、前記壁部材1を、その左右の両端部を前記支持金具5に支持させることにより設置する工程とを下方から上方へ順に行い前記複数の壁部材1を所定の高さまで積み上げて仕切り壁Wを施工する。
【0040】
本実施例では、先ず、
図11が分かり易いように、構築する仕切り壁Wの最下部を構成する壁部材11に対応する外殻躯体9に、前記受け金具51を、そのボルト孔51cにボルト7を通し前記雌ねじアンカー8にねじ込むことにより定着させる。前記受け金具51は、前記壁部材11の左右の両端部が載る部位に設けられる。
そして、前記壁部材1を所定の高さまで吊り下ろし、その両端部を前記受け金具51の上面に載置する。そして、前記受け部材51に載置された壁部材1の前後の両側面を前記一対の拘束金物52、53で挟持し、当該挟持した一対の拘束金物52、53は、その底面部52a、53aに穿設したボルト孔52c、53cにボルト6を通しナット16で締結することにより前記受け部材51に定着される。
前記壁部材1は、前記受け金具51の縦断面形状と略一致する切欠き部12が形成されているので、前記切欠き部12を除いた底面部と前記受け金具51の底面部51aとが面一に揃い、その後に設置する壁部材1同士を隙間なく積み上げることができる。
【0041】
次に、新たな受け金具51を、前記壁部材1の直上に載る構成で前記外殻躯体9に定着させる。そして、次の壁部材1を所定の高さまで吊り下ろし、その両端部を前記受け金具51の上面に載置する。そして、前記受け部材51に載置された壁部材1の前後の両側面を前記一対の拘束金物52、53で挟持する。当該挟持した一対の拘束金物52、53は、その底面部52a、53aに穿設したボルト孔52c、53cにボルト6を通しナット16で締結することにより前記受け部材51に定着させる。この場合のボルト6による接合作業は、前記受け金具51の底面部51aの下面にも一対の拘束金物52、53を介在させて実施することが好ましい(
図10B参照)。下面に設けた一対の拘束金物52、53が、先行して設置した壁部材1の上端部を拘束することにより当該壁部材1の鉛直姿勢保持に寄与するからである。
【0042】
このような前記壁部材1を前記支持金具5を介し前記外殻躯体9に定着させて鉛直方向に連続的に積み上げる作業を所定の高さ(通常、立坑構造物10の天端)に到達するまで機械的に繰り返し行い、もって、上下に隙間なく仕切り壁Wを構築する。
本実施例では、前記壁部材1の高さを前記外殻躯体9の高さと揃えているので(ともに125cm)、上下の外殻躯体9同士の間の個々の境界線が作業の目印になる等、前記した機械的作業をよりスムーズに行うことができる。
上下の壁部材1同士の間や壁部材1と外殻躯体9との間にシーリング、パッキン等の水漏れ防止手段を施すことは適宜行われるところである。
【0043】
したがって、実施例2に係る立坑構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造によれば、外殻躯体9に定着させる支持金具5を利用して壁部材(プレキャストコンクリート版)1を順次に上方に積み上げる機械的な作業を繰り返し行うことにより仕切り壁Wを迅速かつ確実に構築することができ、仕切り壁Wを施工するための工数や工期を大幅に短縮することができるので、施工性、経済性、及び品質性に非常に優れている等、上記実施例1と同様の作用効果を奏する(詳しくは、前記段落[0035]参照)。
【実施例3】
【0044】
図15~
図19は、実施例3に係る
立坑構造物の仕切り壁の施工方法および施工構造を示している。
この実施例3は、上記実施例2と比し、
図11と
図19とを対比すると分かり易いように、上記実施例2に用いる受け金具51を上下に逆転させて用いている点が相違する。これに伴い、壁部材1も、切欠き部12を上下に逆転させて用いている点が相違する。
すなわち、この実施例3は、上記実施例2と同一部材を用い、かつ実施例2の手順に倣い同様の技術的思想に基づいて実施でき、同様の効果を奏することに変わりはないので、具体的な説明は省略する(上記実施例2に係る段落[0036]~[0043]参照)。
【0045】
以上、実施例を図面に基づいて説明したが、本発明は、図示例の限りではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用のバリエーションの範囲を含むことを念のために言及する。
例えば、本実施例に係る壁部材1は、プレキャストコンクリート製で実施しているが、所要の強度・剛性を備えていれば、金属製や樹脂製でも実施可能である。
本発明が適用可能な前記立坑構造物10の大きさ(形態)は、上記実施例に限定されず、径が3m以上で、かつ深さが40~150m程度が好ましい。
前記壁部材1の形態も図示例に限定されず、例えば、上下端部の一方に凸部を他方に凹部を形成したり、一方にダボを他方にダボ穴を形成したりして当該凹凸嵌合によって上下方向に積み重ねる構成で実施することもできる。また、前記壁部材1の高さは外殻躯体9の高さと揃えて実施しているがこれに限定されず構造設計に応じて適宜設計変更可能である。さらに、仕切り壁Wは、前記実施例1~実施例3の施工方法を適宜組み合わせて壁部材を積み上げて構築することもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 壁部材(プレキャストコンクリート版)
2 支持金具
21 挟持金具
21a 定着部
21b 当接部
21c ボルト孔
21d ボルト孔
22 挟持金具
22a 定着部
22b 当接部
22c ボルト孔
22d ボルト孔
3 ボルト
4 アンカー部材(雌ねじアンカー)
5 支持金具
51 受け金具
51a 底面部
51b 鉛直部
51c ボルト孔
51d ボルト孔
52 拘束金具
52a 底面部
52b 鉛直部
52c ボルト孔
53 拘束金具
53a 底面部
53b 鉛直部
53c ボルト孔
6 ボルト
7 ボルト
8 アンカー部材(雌ねじアンカー)
9 外殻躯体
9a 分割セグメント
10 立坑構造物
11 開口部
12 切欠き部
16 ナット
C 底版コンクリート
S 内部空間
W 仕切り壁