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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】内視鏡用施術部牽引部材
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/02 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
A61B17/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022568274
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2021044793
(87)【国際公開番号】W WO2022124277
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2020202679
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146445
【氏名又は名称】株式会社常光
(73)【特許権者】
【識別番号】596165589
【氏名又は名称】学校法人 聖マリアンナ医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】518325828
【氏名又は名称】有限会社精工パッキング
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】松尾 康正
(72)【発明者】
【氏名】平井 秀明
(72)【発明者】
【氏名】薬袋 博信
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-506029(JP,A)
【文献】特開2004-321482(JP,A)
【文献】国際公開第2019/066084(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0221934(US,A1)
【文献】特開2010-268865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡に挿入される鉗子に掴持されて体内に挿入され、被切除組織に固定されて前記被切除組織を周囲の組織から牽引する内視鏡用施術部牽引部材であって、
前記内視鏡用施術部牽引部材は、
環体部と、
前記環体部の外周部に設けられ前記鉗子に掴持される外舌片部と、
前記外舌片部と対向して前記環体部の内周部に設けられる内舌片部と、を備える
ことを特徴とする内視鏡用施術部牽引部材。
【請求項2】
前記外舌片部は前記環体部の外周部に一箇所または二箇所設けられる請求項1に記載の内視鏡用施術部牽引部材。
【請求項3】
前記外舌片部にテーパ部が設けられている請求項1または2に記載の内視鏡用施術部牽引部材。
【請求項4】
前記外舌片部の先端部は円弧状に面取りされている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の内視鏡用施術部牽引部材。
【請求項5】
前記環体部は円形状であって、前記外舌片部の最大長さは円形状の前記環体部の前記外周部の直径の1/10ないし6/10である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の内視鏡用施術部牽引部材。
【請求項6】
前記環体部は楕円形状であって、前記外舌片部の最大長さは楕円形状の前記環体部の前記外周部の短軸長さの1/10ないし3/10である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の内視鏡用施術部牽引部材。
【請求項7】
前記環体部は円形状であって、前記環体部の前記外周部の直径は5ないし30mmである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の内視鏡用施術部牽引部材。
【請求項8】
前記内視鏡用施術部牽引部材は弾性樹脂から形成されている請求項1ないしのいずれか1項に記載の内視鏡用施術部牽引部材。
【請求項9】
前記外舌片部に舌片細孔が形成されている請求項1ないしのいずれか1項に記載の内視鏡用施術部牽引部材。
【請求項10】
前記被切除組織に前記内視鏡用施術部牽引部材を固定するに際し、前記内視鏡用施術部牽引部材は前記被切除組織に固定されたクリップを介して懸架される請求項1ないしのいずれか1項に記載の内視鏡用施術部牽引部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内視鏡用施術部牽引部材に関し、特に内視鏡を用いた施術において被切除組織を周辺の組織から引き上げて被切除組織の切除を補助するための牽引部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内視鏡の性能向上から、内視鏡は体内組織の検査の用途に加え、組織の採取さらには組織の切除にも多用されるようになった。内視鏡手術の一例として、大腸等の消化管内部の粘膜に生じた早期癌の腫瘍組織(病変部位)は、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:Endoscopic Submucosal Dissection)により、低侵襲により切除可能となった。
【0003】
ESDの施術では、はじめに切除対象となる病変部位が特定される。次に病変部位の直下の粘膜下層に生理食塩水等が注入され、周囲の組織から切除対象の病変部位が持ち上げられる。そして、病変部位の周囲の粘膜の切開、粘膜下層の剥離が行われる。病変部位の周囲の粘膜下層を切開、剥離するに際し、内視鏡の限られた視野において的確に病変部位の周囲を切開するには、病変部位を持ち上げた程度の盛り上がりでは不十分である。このため、病変部位(その周囲)は、さらに腸管内において引き上げられる必要がある。
【0004】
病変部位の引き上げに当たり、腸管内の組織表面と病変部位を掴むクリップを含む牽引部材が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかしながら、特許文献1、2に提案の牽引部材は構造が複雑であること、全体の大きさから内視鏡に組み込まれている鉗子を用い施術部位にて牽引部材を操作することの難易度は高い。
【0005】
そこで、クリップと牽引部材とを別にして簡素化した牽引部材が提案されている(特許文献3参照)。特許文献3の牽引部材は複数の環を連接した構造であり、クリップとの掛け渡しにおいて一定の効果を得ることができる。しかしながら、特許文献3の牽引部材は複数の環を連接した構造であるがゆえに環の連接部位の強度維持が十分とはいえない。また、複数の環を束ねて鉗子により掴持する場合の位置も問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-62004号公報
【文献】特開2005-103107号公報
【文献】特開2019-118718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者は、鋭意検討を重ねた結果、内視鏡用の鉗子による牽引部材の掴みやすさ、施術領域における扱いやすさを充足する内視鏡用施術部牽引部材を完成させるに至った。
【0008】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、内視鏡を用いた施術に際し、被切除組織を周辺の組織から引き上げて被切除組織の切除を補助する牽引部材の改良に当たり、内視鏡用の鉗子による牽引部材の掴みやすさ、さらには施術領域における扱いやすさを高めた内視鏡用施術部牽引部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、実施形態では、内視鏡に挿入される鉗子に掴持されて体内に挿入され、被切除組織に固定されて前記被切除組織を周囲の組織から牽引する内視鏡用施術部牽引部材であって、内視鏡用施術部牽引部材は、環体部と、環体部の外周部に設けられ鉗子に掴持される外舌片部とを備えることを特徴とする。
【0010】
さらに、外舌片部は環体部の外周部に一箇所または二箇所設けられることとしてもよい。
【0011】
さらに、外舌片部にテーパ部が設けられていることとしてもよい。
【0012】
さらに、外舌片部の先端部は円弧状に面取りされていることとしてもよい。
【0013】
さらに、環体部は円形状であって、外舌片部の最大長さは円形状の環体部の外周部の直径の1/10ないし6/10であるとこととしてもよい。
【0014】
さらに、環体部は楕円形状であって、外舌片部の最大長さは楕円形状の環体部の外周部の短軸長さの1/10ないし3/10であることとしてもよい。
【0015】
さらに、環体部は円形状であって、環体部の外周部の直径は5ないし30mmであることとしてもよい。
【0016】
さらに、外舌片部と対向して環体部の内周部に設けられる内舌片部が備えられることとしてもよい。
【0017】
さらに、内視鏡用施術部牽引部材は弾性樹脂から形成されていることとしてもよい。
【0018】
さらに、外舌片部に舌片細孔が形成されていることとしてもよい。
【0019】
さらに、被切除組織に内視鏡用施術部牽引部材を固定するに際し、内視鏡用施術部牽引部材は被切除組織に固定されたクリップを介して懸架されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の内視鏡用施術部牽引部材によると、内視鏡に挿入される鉗子に掴持されて体内に挿入され、被切除組織に固定されて被切除組織を周囲の組織から牽引する内視鏡用施術部牽引部材は、環体部と、同環体部の外周部に設けられ鉗子に掴持される外舌片部とを備えるため、内視鏡を用いた施術に際し、内視鏡用の鉗子による牽引部材の掴みやすさ、さらには施術領域における扱いやすさを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図2】(A)内視鏡用施術部牽引部材の鉗子による掴持前の斜視図、(B)その掴持後の斜視図である。
図3】(A)内視鏡内部への挿入時の斜視図、(B)内視鏡からの露出時の斜視図である。
図4】(A)内視鏡内部の前進時の縦断面図、(B)内視鏡内部の前進時の横断面図である。
図5】(A)内視鏡的粘膜下層剥離術の第1模式図、(B)内視鏡的粘膜下層剥離術の第2模式図である。
図6】内視鏡的粘膜下層剥離術の第3模式図である。
図7】(A)第2実施形態、(B)第3実施形態、(C)第4実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図8】(A)第5実施形態、(B)第6実施形態、(C)第7実施形態、(D)第8実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図9】(A)第9実施形態、(B)第10実施形態、(C)第11実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図10】(A)第12実施形態、(B)第13実施形態、(C)第14実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図11】(A)第15実施形態、(B)第16実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図12】(A)第17実施形態の全体平面図、(B)内視鏡用施術部牽引部材の鉗子挿通時の斜視図である。
図13】(A)第18実施形態、(B)第19実施形態、(C)第20実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図14】(A)第21実施形態、(B)第22実施形態、(C)第23実施形態、(D)第24実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図15】(A)第25実施形態、(B)第26実施形態、(C)第27実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図16】(A)第28実施形態、(B)第29実施形態、(C)第30実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
図17】(A)第31実施形態、(B)第32実施形態の内視鏡用施術部牽引部材の全体平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施形態の内視鏡用施術部牽引部材は、専ら内視鏡的粘膜下層剥離術の施術に際し、被切除組織に固定されて当該被切除組織を周囲の組織から持ち上げるようにして牽引するための部材である。内視鏡的粘膜下層剥離術は、主に大腸(直腸、S字結腸、下行結腸、横行結腸、上行結腸、盲腸)等の消化管内部の粘膜に生じた早期癌の腫瘍組織(病変部位)の切除を対象とする。さらに、内視鏡用施術部牽引部材は、内視鏡が挿入可能な部位、器官への適用も可能である。例えば、鼻腔内、子宮頸部、子宮頭部である。内視鏡的粘膜下層剥離術については、後出の図5及び図6にて説明する。
【0023】
図1は第1実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1の全体平面図である。内視鏡用施術部牽引部材1は、円形状の環体部10と、環体部10の外方に突出した外舌片部15を備える。環体部10は内周部11と外周部12からなり、環体部10の内側に内円部18が形成される。円形状の環体部10の外周部12の直径(D)は、5ないし30mm、好ましくは10ないし30mmである。後述するように、内視鏡用施術部牽引部材1は患部の施術用の内視鏡内に挿入される。その際の大きさを考慮して直径が規定される。なお、実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1の環体部10は円形である。これに加えて、環体部10を楕円形とすることもできる。
【0024】
第1実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1において、舌片部15は、環体部10の外周部12の一箇所に設けられる。外舌片部15は内視鏡30に挿入される鉗子20(図2図3等参照)により掴持される。掴持の便宜を考慮するならば、外舌片部は環体部の外周部の各所に存在する方が望ましいとも考えられる。しかしながら、内視鏡用施術部牽引部材は内視鏡の狭小な管路内を通過する必要がある。すると、余分な外舌片部が管路内の通過時の抵抗となり、円滑な通過の妨げとなる。そこで、実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1のとおり、外舌片部15は、環体部10の外周部12の一箇所の設置位置13に設けられる。なお、後出の第2実施形態等においては、外舌片部は外周部12の二箇所の互いに対向する位置(180°の向き)に設けられる。対向位置にあっても管路内の通過時の抵抗は抑えられる。
【0025】
外舌片部15の最大長さ(L)は、環体部10の外周部12の直径の1/10ないし6/10の範囲、好ましくは1/10ないし3/10の範囲に規定される。外舌片部15は、内視鏡用の鉗子による掴持が可能な程度の大きさが確保されていれば十分である。外舌片部15が小さすぎれば、内視鏡用の鉗子は安易に掴むことができない。また、極端に大きい場合、内視鏡の管路内の通過の抵抗となり好ましくないためである。
【0026】
図1の平面図から理解されるように、外舌片部15の先端部14は面取りされていて円弧状に形成されている。さらに、外舌片部15の左右にはテーパ部16,17が設けられている。テーパ部16,17は環体部10の設置位置13側から先端部14に向けて先細りになるように傾斜している。これらの形状は、鉗子に掴持された内視鏡用施術部牽引部材1が内視鏡の管路内を通過する際の抵抗を減らすための特徴として採用される。
【0027】
図2(A)は、内視鏡内に挿入される鉗子20により、内視鏡用施術部牽引部材1が掴持されるときの様子である。鉗子20は、環体部10の設置位置13を目標に内円部18の内部に通される。鉗子20の先端には鉗子顎片部21,22が設けられ、鉗子顎片部21,22同士の開閉動作により、対象物の掴持は可能となる。図2(A)の鉗子顎片部21,22は開いた状態である。
【0028】
図2(B)は、内視鏡用施術部牽引部材1が鉗子20により掴持された状態を示す。鉗子20の鉗子顎片部21,22が閉じることにより、外舌片部15が鉗子顎片部21,22により挟まれる。外舌片部15は環体部10において板状に広がる部位であることから、鉗子20の鉗子顎片部21,22により掴まれやすくなる。また、外舌片部15ごと掴んだ状態は保持されやすい。この状態により、内視鏡用施術部牽引部材1は鉗子20に掴持されて内視鏡内に挿入される。
【0029】
図3(A)は、前出の図2(B)にて内視鏡用施術部牽引部材1が鉗子20に保持された状態のまま、内視鏡30の挿入口31に挿入される状態を示す。図示の内視鏡30は内視鏡的粘膜下層剥離術をはじめとする施術用の機能を備える。そこで、施術野の撮影に加えて切除、縫合等の施術のための鉗子の出し入れのための管路32が備えられる。
【0030】
図3(B)は、内視鏡用施術部牽引部材1が鉗子20に保持された状態のまま、内視鏡の開口部33から露出した状態を示す。図1に開示のとおり、内視鏡用施術部牽引部材1は抵抗の少ない形状のため、鉗子顎片部21,22に掴持されて管路32内を抵抗なく進むことができる。図中、符号39は内視鏡30の先端フードである。
【0031】
図4(A)の内視鏡の長さ方向の縦断面図は、内視鏡用施術部牽引部材1が鉗子20の鉗子顎片部21,22に掴持されて管路32内を進む様子を示す。鉗子20の本体の直径は管路32の内径よりも小さい。図示の内視鏡の場合、内視鏡30の管路32の内径は3.2mmであり、鉗子20の本体の直径は2.2mmであり、直径方向に1mm、実質0.5mmの隙間となる。そこで、実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1において、環体部10の内周部11と外周部12との差(すなわち、環体部10の幅、太さ)は、概ね0.3ないし0.5mmである。
【0032】
図4(B)の内視鏡の横断面図は、鉗子20と鉗子20に掴持された内視鏡用施術部牽引部材1を含む部分を示す。内視鏡用施術部牽引部材1の環体部10は、鉗子20の鉗子顎片部21,22に外舌片部15が掴持され、鉗子20の進行方向に従い内視鏡30の管路32内にて伸長する。前述のとおり、実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1の環体部10の幅(太さ)は、内視鏡30の管路32と鉗子20との隙間よりも狭いことから、内視鏡用施術部牽引部材1は管路32の内部を通過可能である。
【0033】
これまでの説明から理解されるように、実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1は弾性及び可撓性とともに、牽引の用途に用いられることから引張強さも求められる。弾性及び可撓性は、内視鏡30の管路32に鉗子20の出し入れする際に形状変形して抵抗を少なくするために求められる性質である。さらに、後出の図5図6に示すとおり、内視鏡用施術部牽引部材1はクリップ60に懸架される。そして、内視鏡用施術部牽引部材1はクリップ同士を互いに引き寄せ合う。そうすると、懸架による引張時、安易に断裂しては牽引部材としての役目を果たせない。
【0034】
従って、内視鏡用施術部牽引部材1は弾性樹脂の成形により形成される。具体的には、エラストマー成分配合のポリプロピレン、塩化ビニル、ウレタン樹脂、さらには、シリコーン樹脂等である。特に、シリコーン樹脂は耐食性に優れ、医療用素材としての安定性が高く、体内における施術用途を考慮すると好ましい。シリコーン樹脂を用いた内視鏡用施術部牽引部材1の成形に際しては、射出成形、注型成形等の適宜の手法が用いられる。
【0035】
図5及び図6の模式図は、内視鏡的粘膜下層剥離術において、実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1を使用したときの様子を示す。図示の器官は大腸50であり、内視鏡30は肛門(図示せず)から挿入される。そして、大腸50の表面の粘膜組織51に生じた病変部位55(腫瘍)を被切除組織として、周囲の粘膜組織51から切除する様子である。
【0036】
図5(A)では、事前の内視鏡30による大腸50の表面の粘膜組織51、腸管内部52の目視の検査により、病変部位55(被切除組織)の存在する施術野が確認される。当該病変部位55の直下(粘膜組織51の下方)に生理食塩水53が注入され、病変部位55は周囲の粘膜組織51から盛り上げられる。この時、内視鏡30を通じて病変部位55にクリップ60が挟着される。また、病変部位55側のクリップ60と対向する大腸50の表面の粘膜組織51にもクリップ60が挟着される。
【0037】
そして、図5(A)のように、腸管内部52に挟着された2個のクリップ60,60同士の間に内視鏡用施術部牽引部材1が懸架される。内視鏡用施術部牽引部材1とクリップ60との懸架は、クリップ60の切れ込み(図示せず)に内視鏡用施術部牽引部材1の環体部10が挿入されて、クリップ60の中に押し込まれる。この操作は内視鏡30に挿入される鉗子20(鉗子顎片部21,22)を通じて行われる。生理食塩水53の注入により粘膜組織51から盛り上げられた病変部位55(被切除組織)は、クリップ60,60をつなぐ内視鏡用施術部牽引部材1により適度に引き上げられて、その状態が維持される。
【0038】
図5(B)では、病変部位55の周囲の粘膜組織51が内視鏡30から突出する電気メス35により徐々に切開される。この時、病変部位55は内視鏡用施術部牽引部材1により引き上げられているため、電気メス35は目的とする粘膜組織51に当てやすくなる。
【0039】
図6では、病変部位55(被切除組織)の切除がさらに進んだ最終段階である。図6において内視鏡用施術部牽引部材1の懸架が調整された後であり、引き続き病変部位55は電気メス35により切開されている。図5及び図6の開示及びその説明から理解されるように、内視鏡用施術部牽引部材1は、クリップを介しての牽引を補助するための牽引補助部材である。
【0040】
これまでに図示し説明してきた第1実施形態の内視鏡用施術部牽引部材に加え、図7図8図9を用い第2ないし第14実施形態の各内視鏡用施術部牽引部材についても説明する。
【0041】
図7(A)の第2実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1Aには、円形状の環体部10の外周部12の外周部12の180°の対向位置に外舌片部15aと15bが二箇所備えられる。内視鏡用施術部牽引部材1Aでは、いずれの外舌片部15aと15bも鉗子により掴持されやすくなる。
【0042】
図7(B)の第3実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1Bには、円形状の環体部10の外周部12に外舌片部15が設けられ、かつ、外舌片部15と対向して環体部10の内周部11に内舌片部85が設けられる。内舌片部85が備わることにより、鉗子により掴持されやすくなる。
【0043】
図7(C)の第4実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1Cには、円形状の環体部10の外周部12の180°の対向位置に外舌片部15aと15bが二箇所備えられる。そして、外舌片部15aと15bの両方の対向位置の内周部11に内舌片部85aと85bが設けられる。両端の舌片部を通じて内視鏡用施術部牽引部材は掴持されやすくなる。
【0044】
図8の各内視鏡用施術部牽引部材は、楕円形状の環体部10xを備える。楕円形状の環体部10xの短軸と長軸の比率は適宜である。実用性を考慮して、短軸と長軸の比率(短軸:長軸)は1:1.1ないし1:4である。外舌片部15(15a,15b)の最大長さは楕円形状の環体部10xの外周部12の短軸長さの1/10ないし3/10の範囲である。なお、図8の各実施形態ともに同様である。
【0045】
図8(A)の第5実施形態の内視鏡用施術部牽引部材2Aは、楕円形状の環体部10xを備え、環体部10xの外周部12の一箇所に外舌片部15が備えられる。環体部が楕円形状であるため、鉗子による掴持、内視鏡への挿入に際して内視鏡用施術部牽引部材の方向が視覚的に定まりやすい。
【0046】
図8(B)の第6実施形態の内視鏡用施術部牽引部材2Bには、楕円形状の環体部10xの外周部12の180°の対向位置に外舌片部15が二箇所備えられる。内視鏡用施術部牽引部材2Bでは、いずれの外舌片部15aと15bも鉗子により掴持されやすくなる。
【0047】
図8(C)の第7実施形態の内視鏡用施術部牽引部材2Cには、楕円形状の環体部10xの外周部12に外舌片部15が設けられ、かつ、外舌片部15と対向して環体部10xの内周部11に内舌片部85が設けられる。内舌片部85が備わることにより、鉗子により掴持されやすくなる。
【0048】
図8(D)の第8実施形態の内視鏡用施術部牽引部材2Dには、楕円形状の環体部10xの外周部12の180°の対向位置に外舌片部15aと15bが二箇所備えられる。そして、外舌片部15aと15bの両方の対向位置の内周部11に内舌片部85aと85bが設けられる。両端の舌片部を通じて内視鏡用施術部牽引部材は掴持されやすくなる。
【0049】
図9の各内視鏡用施術部牽引部材は楕円形状の環体部10yであり、図8の変形例である。すなわち、外舌片部15(15c,15d)を突出させず楕円形状の環体部10yの一部に取り込んだ形態である。図9においても楕円形状の環体部10yの短軸と長軸の比率は適宜である。実用性を考慮して、短軸と長軸の比率(短軸:長軸)は1:1.1ないし1:4である。外舌片部15(15c,15d)の最大長さは楕円形状の環体部10yの外周部12の短軸長さの1/10ないし3/10の範囲である。なお、図9の各実施形態ともに同様である。
【0050】
図9(A)の第9実施形態の内視鏡用施術部牽引部材3Aでは、外舌片部15cと15dの横幅が拡張されて楕円形状の環体部10yと同化している。図9の他の実施形態も同様である。内視鏡用施術部牽引部材3Aでは、形状的に抵抗が少なく内視鏡内への挿入が容易である。
【0051】
図9(B)の第10実施形態の内視鏡用施術部牽引部材3Bでは、楕円形状の環体部10yの外周部12の対向位置に横幅が拡張された外舌片部15cと15dが設けられ、かつ、外舌片部15cに対向して環体部10の内周部11に内舌片部85cが設けられる。内舌片部85が備わることにより、鉗子により掴持されやすくなる。
【0052】
図9(C)の第11実施形態の内視鏡用施術部牽引部材3Cでは、楕円形状の環体部10yの外周部12の対向位置に横幅が拡張された外舌片部15cと15dが設けられ、かつ、外舌片部15cと15dに対向して環体部10の内周部11に内舌片部85cと85dが設けられる。内舌片部85cと85dが備わることにより、両方の向きから鉗子により掴持されやすくなる。
【0053】
図10の各内視鏡用施術部牽引部材は変形した楕円形状の環体部10zであり、いわゆる競技場のトラック等と称される形状である。図10では、外舌片部15e,15fを突出させず楕円形状の環体部10zの一部に取り込んだ形態である。図10においても環体部10zの短軸と長軸の比率は適宜である。実用性を考慮して、短軸と長軸の比率(短軸:長軸)は1:1.1ないし1:4である。外舌片部15(15e,15f)の最大長さは楕円形状の環体部10zの外周部12の短軸長さの1/10ないし3/10の範囲である。なお、図10の各実施形態ともに同様である。
【0054】
図10(A)の第12実施形態の内視鏡用施術部牽引部材4Aでは、外舌片部15eと15fの横幅が拡張されて楕円形状の環体部10zと同化している。図10の他の実施形態も同様である。内視鏡用施術部牽引部材4Aでは、形状的に抵抗が少なく内視鏡内への挿入が容易である。
【0055】
図10(B)の第13実施形態の内視鏡用施術部牽引部材4Bでは、楕円形状の環体部10zの外周部12の対向位置に横幅が拡張された外舌片部15eと15fが設けられ、かつ、外舌片部15eに対向して環体部10の内周部11に内舌片部85eが設けられる。内舌片部85eが備わることにより、鉗子により掴持されやすくなる。
【0056】
図10(D)の第14実施形態の内視鏡用施術部牽引部材4Cでは、楕円形状の環体部10zの外周部12の対向位置に横幅が拡張された外舌片部15eと15fが設けられ、かつ、外舌片部15eと15fに対向して環体部10の内周部11に内舌片部85eと85fが設けられる。内舌片部85eと85fが備わることにより、両方の向きから鉗子により掴持されやすくなる。
【0057】
図11の各内視鏡用施術部牽引部材は変形した楕円形状の環体部10wであり、図10の環体部10z(競技場のトラック等と称される形状)の変形例に相当する。外舌片部15gは1箇所のみであり、突出させず楕円形状の環体部10wの一部に取り込まれた形態である。図11においても環体部10wの短軸と長軸の比率は適宜である。実用性を考慮して、短軸と長軸の比率(短軸:長軸)は1:1.1ないし1:4である。外舌片部15(15g)の最大長さは楕円形状の環体部10wの外周部12の短軸長さの1/10ないし3/10の範囲である。なお、図11の両実施形態ともに同様である。
【0058】
図11(A)の第15実施形態の内視鏡用施術部牽引部材5Aでは、外舌片部15gの横幅が拡張されて楕円形状の環体部10wと同化している。図11の他の実施形態も同様である。内視鏡用施術部牽引部材5Aでは、形状的に抵抗が少なく内視鏡内への挿入が容易である。また、外舌片部15gの配置から内視鏡用施術部牽引部材5Aの鉗子による掴持に際して方向性が定まる。
【0059】
図11(B)の第16実施形態の内視鏡用施術部牽引部材5Bでは、外舌片部15gの横幅が拡張されて楕円形状の環体部10wと同化している。さらに、外舌片部15gに対向して環体部10wの内周部11に内舌片部85gが設けられる。内舌片部85gが備わることにより、鉗子により掴持されやすくなる。同様に、外舌片部15gの配置から内視鏡用施術部牽引部材5Aの鉗子による掴持に際して方向性が定まる。
【0060】
図1ないし図11にて詳述の各内視鏡用施術部牽引部材について、さらに、外舌片部への舌片細孔の形成が可能である。図12(A)は第17実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1Dの平面図である。内視鏡用施術部牽引部材1Dの外舌片部15には舌片細孔40が穿設(貫通して形成)されている。そして、図12(B)の斜視図のとおり、舌片細孔40内に鉗子20(図2ないし4参照)とは別の形態の鉗子の鉗子先端部25が挿通される。図示の鉗子先端部25は細い棒状の部材であり一部分の図示である。鉗子先端部25は2本で交差可能である(図示せず)。そこで、内視鏡用施術部牽引部材1Dは舌片細孔40を介して鉗子先端部25に引っかけられる。さらに、必要により、鉗子先端部25側には、舌片細孔40との接触部位を保護するための樹脂製の環状のスペーサ部材(図示せず)が備えられるようにしても良い。金属製の鉗子先端部25と樹脂製の内視鏡用施術部牽引部材1Dとの摩耗による損傷から保護するためである。
【0061】
舌片細孔40は、鉗子先端部25の挿通を確保できる大きさの開口量であれば良い。そこで、舌片細孔40の最大長さ(E)は、環体部10の外周部12の直径の0.5/10ないし2/10の範囲、好ましくは1/10ないし2/10の範囲に規定される。舌片細孔40鉗子先端部25の挿通が円滑ではなくなる。また、極端に大きい場合、外舌片部15と環体部10との接続部分が減少して強度低下となりやすいためである。例えば、第17実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1Dの場合、環体部10の外周部12の直径(D)は10mmであり、舌片細孔40の最大長さ(E)は1.5mm(環体部の外周部の直径の1.5/10)である。
【0062】
外舌片部への舌片細孔の形成は、図7ないし図11に開示の第2実施形態ないし第16実施形態のいずれの内視鏡用施術部牽引部材に対しても可能である。そこで、外舌片部に舌片細孔を形成した各内視鏡用施術部牽引部材は、図13ないし図17として示される。各内視鏡用施術部牽引部材において舌片細孔40以外の構成には変更は無いため、主に図示として説明は省略する。
【0063】
図13(A)は第18実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1A1であり、(B)は第19実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1B1であり、第20実施形態の内視鏡用施術部牽引部材1C1である。内視鏡用施術部牽引部材1A1、1B1、1C1は、鉗子20による外舌片部15の掴持、または、鉗子先端部25の舌片細孔40への挿通の両方に対応可能である。
【0064】
図14(A)は第21実施形態の内視鏡用施術部牽引部材2A1であり、(B)は第22実施形態の内視鏡用施術部牽引部材2B1であり、(C)は第23実施形態の内視鏡用施術部牽引部材2C1であり、第24実施形態の内視鏡用施術部牽引部材2D1である。楕円形状の環体部の内視鏡用施術部牽引部材2A1、2B1、2C1、2D1であっても、鉗子20による外舌片部15の掴持、または、鉗子先端部25の舌片細孔40への挿通の両方に対応可能である。
【0065】
図15(A)は第25実施形態の内視鏡用施術部牽引部材3A1であり、(B)は第26実施形態の内視鏡用施術部牽引部材3B1であり、第27実施形態の内視鏡用施術部牽引部材3C1である。外舌片部の横幅が拡張された楕円形状の環体部の内視鏡用施術部牽引部材3A1、3B1、3C1であっても、鉗子20による外舌片部15の掴持、または、鉗子先端部25の舌片細孔40への挿通の両方に対応可能である。
【0066】
図16(A)は第28実施形態の内視鏡用施術部牽引部材4A1であり、(B)は第29実施形態の内視鏡用施術部牽引部材4B1であり、第30実施形態の内視鏡用施術部牽引部材4C1である。変形した楕円形状の内視鏡用施術部牽引部材4A1、4B1、4C1は、鉗子20による外舌片部15の掴持、または、鉗子先端部25の舌片細孔40への挿通の両方に対応可能である。
【0067】
図17(A)は第31実施形態の内視鏡用施術部牽引部材5A1であり、(B)は第32実施形態の内視鏡用施術部牽引部材5B1である。図16と同様に変形した楕円形状の内視鏡用施術部牽引部材5A1、5B1は、鉗子20による外舌片部15の掴持、または、鉗子先端部25の舌片細孔40への挿通の両方に対応可能である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の内視鏡用施術部牽引部材は、従前の牽引部材と比較して内視鏡用の鉗子による使いやすさが向上している。従って、内視鏡的粘膜下層剥離術等に代表される施術に用いる牽引部材として有望である。
【符号の説明】
【0069】
1,1A,1B,1C,2A,2B,2C,2D,3A,3B,3C、4A,4B,4C,5A,5B,1D,2A1,2B1,2C1,2D1,3A1,3B1,3C1、4A1,4B1,4C1,5A1,5B1 内視鏡用施術部牽引部材
10,10x,10y,10z,10w 環体部
11 内周部
12 外周部
13 設置位置
14 先端部
15,15a,15b,15c,15d,15e,15f,15g 外舌片部
16,17 テーパ部
18 内円部
20 鉗子
21,22 鉗子顎片部
25 鉗子先端部
30 内視鏡
31 挿入口
32 管路
33 開口部
35 電気メス
36 ループ端
40 舌片細孔
50 大腸
51 粘膜組織
52 腸管内部
55 病変部位(被切除組織)
60 クリップ
85,85a,85b,85c,85d,85e,85f,85g 内舌片部
D 環体部の外周部の直径
L 舌片部の最大長さ
E 舌片細孔の最大長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17