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  • 特許-塩素化ブチルゴム用架橋剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】塩素化ブチルゴム用架橋剤
(51)【国際特許分類】
   C08K 5/378 20060101AFI20240716BHJP
   C08L 23/28 20060101ALI20240716BHJP
   C07D 251/46 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C08K5/378
C08L23/28
C07D251/46 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023569951
(86)(22)【出願日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2023024647
(87)【国際公開番号】W WO2024009959
(87)【国際公開日】2024-01-11
【審査請求日】2024-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022120004
(32)【優先日】2022-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199681
【氏名又は名称】川口化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大貫 毅
(72)【発明者】
【氏名】宇津木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】蛭沼 靖之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 杏
(72)【発明者】
【氏名】辻本 和生
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-080370(JP,A)
【文献】特開2017-194072(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230320(WO,A1)
【文献】特開2017-025309(JP,A)
【文献】特開2015-093987(JP,A)
【文献】特開2014-237797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式(1)で表わされる塩素化ブチルゴムの架橋反応高速度化及び高ゴム弾性付与用架橋剤。
【化1】
(ここで、Rは炭素数が6~10の直鎖または分岐した炭化水素基を表す。)
【請求項2】
塩素化ブチルゴム100重量部に対して、以下の化学式(1)で表わされる塩素化ブチルゴム用架橋剤を0.01~10重量部配合することを特徴とするゴム組成物。
【化2】
(ここで、Rは炭素数が6~10の直鎖または分岐した炭化水素基を表す。)
【請求項3】
請求項2のゴム組成物を架橋して得られるゴム製品。
【請求項4】
請求項2のゴム組成物にて構成される医療用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項4の医療用ゴム組成物を架橋して得られる医療用ゴム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩素化ブチルゴム用の架橋剤に関し、より具体的には塩素化ブチルゴム組成物で構成される医療用ゴム製品を製造する際に好適な架橋剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化ブチルゴムは、物質の三態(気体、液体、固体)の不透過性に優れ、チューブやパッキンおよびシーリング材等に使われるゴム材料である。
【0003】
またその様な特性は、医療用のゴム製品、例えばバイアルのゴム栓やシリンジのガスケットの材料としても好適である。
【0004】
ハロゲン化ブチルゴムは、塩素化されたものと臭素化されたものに分別でき、それらには幾つかの特徴において差異がある。
【0005】
例えば臭素化ブチルゴム(以下BIIRと略す)は架橋反応性が高く、短時間で架橋することができるので、生産性の面で塩素化ブチルゴム(以下CIIRと略す)よりも有利であるものの、安定剤としてエポキシ化大豆油等の添加剤を配合しており、前記添加剤の水に対する溶出性(以下、「水に対する溶出性」を単に「溶出性」とする。)が問題となる場合がある。
【0006】
一方、CIIRは生産性でBIIRに劣るものの、安定剤の配合を必要としないので、添加剤の溶出性の面ではBIIRよりも有利である。
【0007】
また、ハロゲン化ブチルゴムを架橋させる架橋方式は幾つかあり、架橋剤の種類により、例えば硫黄架橋、過酸化物架橋、金属酸化物架橋、樹脂架橋、アミン架橋、チオール架橋などが挙げられ、医療用途では、生体に対する安全性を確保する必要があることから、前記架橋剤の溶出性が重視されるため、溶出性の小さいチオール架橋がよく用いられる。ここで、前記架橋剤もハロゲン化ブチルゴムにおける添加剤の1つに含まれる。
【0008】
チオール架橋における具体的な架橋剤としてはアミノトリアジンジチオール化合物が用いられ、特に6-(ジ-n-ブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオ―ル(以下、「BSH」と略す。)が市販され、一般的に用いられている(特許文献1)。
【0009】
以上の事情により、従来の医療用のゴム製品、例えばゴム栓やガスケット材において、特に溶出性の小さいことが求められるものについてはCIIRが選択され、その架橋剤としてBSHが用いられる。
【0010】
しかし、このCIIRとBSHの組み合わせは添加剤の溶出性が小さく、極めて優れるものの、架橋反応速度が遅いことから、生産性が低いため、より架橋反応速度が速い架橋剤が求められている。
【0011】
そして、昨今の医療用ゴム製品の旺盛な需要に対応し、生体に対する安全性を確保すると共に、当該需要を満たす必要があることから、添加剤の溶出性が小さく、且つ、より架橋反応速度が速い架橋剤が必要とされている
【0012】
本発明以前ではBSHよりも架橋反応速度を速くすることが可能な架橋剤であるアミノトリアジンジチオール化合物として、6-[ビス(2-エチルヘキシル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール(特許文献2)があったものの、BSHよりも分子量が大きく、ゴム栓やガスケット材で要求されるゴム弾性を得るには添加量を増やす必要があった。
【0013】
架橋剤添加量の増加は、製品であるゴム栓やガスケットの製造コストを高める要素となるので、BSHとほぼ同等以下の添加量で架橋反応速度を速くすることができ、さらに、架橋反応後のゴム製品が、BSHを用いた場合と同等以上のゴム弾性が得られる新たな架橋剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2002-301133号公報
【文献】特開2014-237797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、以下の化学式(1)で表されるアミノトリアジンジチオール化合物を架橋剤として用いることで、塩素化ブチルゴム組成物の架橋反応速度を速くすること、及び高ゴム弾性付与の両立を可能にした。
【化1】
(ここで、Rは炭素数が6~10の直鎖または分岐した炭化水素基を表す。)
【0016】
したがって、本発明は、上記事情に鑑み、架橋反応速度が速く、ゴム弾性に優れた塩素化ブチルゴム用架橋剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下の化学式(1)で表わされる塩素化ブチルゴムの架橋反応高速度化及び高ゴム弾性付与用架橋剤を提供する。
【化2】
(ここで、Rは炭素数が6~10の直鎖または分岐した炭化水素基を表す。)
【0018】
また、本発明は、塩素化ブチルゴム100重量部に対して、以下の化学式(1)で表わされる塩素化ブチルゴム用架橋剤を0.01~10重量部配合することを特徴とするゴム組成物を提供する。
【化2-1】
(ここで、R は炭素数が6~10の直鎖または分岐した炭化水素基を表す。)
【0019】
前記ゴム組成物を架橋して得られるゴム製品が好ましい。
【0020】
前記ゴム組成物にて構成される医療用ゴム組成物が好ましい。
【0021】
前記医療用ゴム組成物を架橋して得られる医療用ゴム製品が好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、前記化学式(1)で表されるアミノトリアジンジチオール化合物を塩素化ブチルゴム組成物の架橋剤として用いれば、添加剤の溶出性が小さく、且つ、高弾性な医療用ゴム製品の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】各実施例及び各比較例の加硫時間とゴム弾性の関係図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0025】
本発明におけるベースとなるゴム成分は塩素化ブチルゴム(CIIR)であり、単独で使用することができるが、他に臭素化ブチルゴム(BIIR)、合成ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエン共重合ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロプレンジエン共重合ゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム(IIR)などのゴム成分を、それらのゴムの特性を付与する目的でブレンドして使用することもできる。他のゴム成分をブレンドして使用する場合、ベースとなるゴム成分のCIIRは、全ゴム成分100重量部に対して、少なくとも50重量部以上、好ましくは80重量部以上、さらに好ましくは95重量部以上の範囲で使用する。
【0026】
本発明における架橋剤は、前記化学式(1)で表されるアミノトリアジンジチオール化合物であり、塩素化ブチルゴム100重量部に対して0.01~10重量部使用され、好ましくは0.5~5重量部の範囲で使用する。
【0027】
また、前記化学式(1)で表されるアミノトリアジンジチオール化合物は、単独で使用することもできるし、他の架橋剤を任意に併用して使用することもできる。他の架橋剤を併用して使用する場合、前記化学式(1)で表されるアミノトリアジンジチオール化合物100重量%において、50重量%以下、好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下の範囲で置換することができる。
【0028】
一方、化学式(1)で表されるアミノトリアジンジチオール化合物におけるRの炭素数が、本発明から外れた5以下の直鎖または分岐した炭化水素基を持ったアミノトリアジンジチオール化合物もCIIRに対して架橋作用を有するが、架橋反応速度が充分に速いとまではいえない。
【0029】
また、前記Rの炭素数が11以上の直鎖または分岐した炭化水素基を持ったアミノトリアジンジチオール化合物もCIIRに対して架橋作用を有するが、ゴム弾性が低下してしまい、充分に高いゴム弾性を得ることができない。
【0030】
更に、架橋剤として、脂環式または芳香族の炭化水素基が付加されたアミノトリアジンジチオール化合物を使用した場合は、前記Rの炭素数が6~10の範囲内にあったとしても、架橋反応速度が充分に速いといえず、また、ゴム弾性が充分高いともいえない。
【0031】
本発明において特定された1級アミノトリアジンジチオール化合物は、速い架橋反応速度と高いゴム弾性が得られると共に、医療用途の製品において重視される添加剤の溶出性が小さいことに優れ、ニトロソアミンの発生源になることもない。
【0032】
その他、塩素化ブチルゴムを主体とする医療用ゴム組成物を得るために必要な配合剤については特に制限はなく、例えば架橋剤としてBSHを使用した既存のゴム組成物に対しても、BSHから単純に本発明で特定された1級アミノトリアジンジチオール化合物へ置き換えることで、本発明の効果を得ることができる。
【実施例
【0033】
以下、実施例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明が実施例によって何ら限定されないことは勿論である。
【0034】
以下の化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化3】
塩化シアヌル90.2g(489mmol)とトルエン165gをフラスコへ入れ、5℃以下に冷却、撹拌した。そこにヘキシルアミン(炭素数6、直鎖)49.6g(490mmol)をトルエン165gに溶解させて20℃以下で滴下し、同温で2時間撹拌した。撹拌終了後、水酸化ナトリウム水溶液を加えて分液し、有機層を撹拌しながら50℃まで昇温した。そこに水硫化ナトリウム水溶液を滴下し、1時間撹拌した。その後、30wt%硫酸を滴下し、結晶を析出させた。得られた結晶はろ過、洗浄を行い、80℃で乾燥させて目的物である白色結晶96.0gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
0.86(t,J=6.8Hz,3H),1.26-1.28(m,6H),1.46-1.47(m,2H),3.27-3.31(m,2H),7.11(br,1H),12.22(br,1H),12.87(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d)13.9,22.1,25.8,28.5,30.9,40.4,149.8,173.7,182.9
【0035】
以下の化学式(1―2)で表される実施例2の化合物(6-(n-ヘプチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化4】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、ヘプチルアミン(炭素数7、直鎖)56.5g(490mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶107gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
0.85(t,J=6.9Hz,3H),1.26(m,8H),1.46-1.49(m,2H),3.27-3.31(m,2H),7.11(br,1H),12.22(br,1H),12.88(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
14.2,22.2,26.3,28.5,28.7,31.4,40.5,150.0,174.0,182.9
【0036】
以下の化学式(1―3)で表される実施例3の化合物(6-(n-オクチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化5】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、オクチルアミン(炭素数8、直鎖)63.8g(494 mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶84.5gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
0.86(t,J=7.0Hz,3H),1.26(m,10H),2.04(m,2H),3.29(m,2H),7.12(br,1H),12.23(br,1H),12.90(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
14.0,22.1,26.1,28.6,28.7,28.7,31.3,40.4,149.8,173.5,183.1
【0037】
以下の化学式(1―4)で表される実施例4の化合物(6-(2-エチルヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化6】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミ(炭素数6、直鎖)ンに代えて、2-エチルへキシルアミン(炭素数8、分岐)64.3g(497mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶120gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
0.85(t,J=7.6Hz,3H),0.87(t,J=6.7Hz,3H),1.25-1.29(m,8H),1.51(m,1H),3.27(m,2H),7.04(br,1H),12.03(br,1H),12.90(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
10.7,14.0,22.5,23.5,28.2,30.1,38.3,43.0,150.0,173.2,183.2
【0038】
以下の化学式(1―5)で表される実施例5の化合物(6-(ノニルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化7】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、ノニルアミン(炭素数9、直鎖)70.2g(490mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶94.6gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
0.85(t,J=6.9Hz,3H),1.24-1.25(m,12H),1.47-1.48(m,2H),3.27-3.31(m,2H),7.11(br,1H),12.22(br,1H),12.88(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
14.2,22.3,26.3,28.7,28.9(2C),29.2,31.5,40.5,150.0,173.8,183.1
【0039】
以下の化学式(1―6)で表される実施例6の化合物(6-(デシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化8】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、デシルアミン(炭素数10、直鎖)77.1g(490mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶101gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
0.85(t,J=7.0Hz,3H),1.25-1.26(m,14H),1.48-1.49(m,2H),3.27-3.31(m,2H),7.12(br,1H),12.24(br,1H),12.90(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
14.0,22.2,26.1,28.6,28.7,28.8,29.0,29.0,31.4,40.3,149.8,173.7,183.1
【0040】
以下の化学式(2―1)で表される比較例2の化合物(6-(エチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化9】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、エチルアミン(炭素数2、直鎖)22.1g(490mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶42.4gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
1.09(t,J=7.2Hz,3H),3.31-3.36(m,2H),7.13(br,1H),12.36(br,1H),12.90(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
14.6,35.7,149.8,173.9,183.1
【0041】
以下の化学式(2―2)で表される比較例3の化合物(6-(n-ブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化10】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、ブチルアミン(炭素数4、直鎖)35.8g(490mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶76.4gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
0.88(t,J=7.3Hz,3H),1.29(sext,J=7.4Hz,2H),1.47(quin,J=7.3Hz,2H),3.28-3.32(m,2H),7.12(br,1H),12.22(br,1H),12.87(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
13.8,19.5,30.8,40.2,150.0,174.1,182.8
【0042】
以下の化学式(2―3)で表される比較例4の化合物(6-(n-ペンチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化11】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、ペンチルアミン(炭素数5、直鎖)42.7g(490mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶100gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
0.86(t,J=7.1Hz,3H),1.21-1.33(m,4H),1.48(quin,J=7.3Hz,2H),3.27-3.31(m,2H),7.11(br,1H),12.22(br,1H),12.88(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
14.1,22.0,28.4,28.5,40.5,149.9,173.7,183.4
【0043】
以下の化学式(2―4)で表される比較例5の化合物(6-(n-ドデシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化12】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、ドデシルアミン(炭素数12、直鎖)90.7g(490mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶82.8gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
0.85(t,J=7.0Hz,3H),1.24-1.26(m,18H),1.46-1.49(m,2H),3.27-3.31(m,2H),7.12(br,1H),12.23(br,1H),12.90(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
14.0,22.2,26.1,28.6,28.7,28.8,29.0,29.0,29.1,29.1,31.4,40.3,149.8,174.0,183.0,
【0044】
以下の化学式(2―5)で表される比較例6の化合物(6-(シクロヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化13】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、シクロヘキシルアミン(炭素数6、脂環式)48.6g(490mmol)を用いた以外は同様にして目的物である白色結晶99.5gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
1.18-1.35(m,5H),1.52-1.55(m,1H),1.63-1.66(m,2H),1.78-1.81(m,2H),3.79-3.81(m,1H),7.03(br,1H),11.82(br,1H),12.91(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
24.2,25.0,32.0,49.2,149.2,173.7,183.3
【0045】
以下の化学式(2―6)で表される比較例7の化合物(6-(シクロオクチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例。
【化14】
化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物(6-(n-ヘキシルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールの合成例において、へキシルアミン(炭素数6、直鎖)に代えて、シクロオクチルアミン(炭素数8、脂環式)62.3g(490mmol)を用いた以外は同様にして目的物である微黄白色結晶110gを得た。
この化合物の構造特定のための分析結果を示す。
H-NMR(溶媒:DMSO-d
1.48-1.60(m,12H),1.76-1.77(m,2H),3.98-4.03(m,1H),7.07(br,1H),11.73(br,1H),12.90(s,1H)
13C-NMR(溶媒:DMSO-d
22.9,24.8,27.1,30.9,50.6,148.9,173.5,183.1
【0046】
尚、比較例1の6-(ジ-n-ブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオ―ル(BSH)および、比較例8の6-(アニリノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオ―ル(以下ASHと略す、化学式(1―1)で表わされる実施例1の化合物のヘキシル基(炭素数6、直鎖)に代えてフェニル基(炭素数6、芳香族)を用いた化学構造を有する)は、市販品を使用した。
【0047】
続いて化合物を使用したゴム試験結果について述べる。
【0048】
実施例1~6及び比較例1~8の各ゴム組成物の配合を表1に示す。量は重量部(phr)で表している。実施例1~6は本発明における化学式(1―1)~(1-6)で表される一級アミノトリアジンジチオール化合物を使用した組成である。また比較例1は従来の一般的に使用されるトリアジン架橋剤であるBSH、比較例2~7は化学式(2―1)~(2-6)で表される一級アミノトリアジンジチオール化合物、比較例8はASHを使用した組成である。
【0049】
各ゴム組成物は密閉型混合機およびオープンロールミルによる、一般的な混練り方法に従って作製し、詳しくはバンバリーミキサーにおいて塩素化ブチルゴムへ充てん剤など表1に示すA工程の薬品を投入し、混練りを行い、その後にオープンロールにて表1に示すB工程の架橋剤を添加し、各ゴム組成物を得た。
【0050】
【表1】
【0051】
得られた各組成物について、JIS K6300-2に準拠して振動式加硫試験機(レオメーター試験)による加硫試験を行った。
【0052】
表2に試験温度175℃、試験時間30分におけるML(最小弾性トルク)とMH(最大弾性トルク)及びtc10(10%加硫時間)とtc90(90%加硫時間)を示す。またそれらの数値よりMHを横軸、tc90を縦軸にとったものを図1に示す。ここで、MHはゴム弾性、tc90は架橋反応速度の指標として示した。
【0053】
【表2】
【0054】
表2及び図1より、実施例1~6は従来のトリアジン系架橋剤を用いた比較例1と比較して、tc90が短くMHが高いことより、短時間で架橋反応が可能であり、かつ高弾性のゴムが得られた。
【0055】
また、比較例2~4は、それぞれ化学式(1)で表されるアミノトリアジンジチオール化合物におけるRの炭素数が5以下の直鎖または分岐した炭化水素基であり、比較例1に対するtc90が長いことから、架橋反応速度が遅くなる。さらに、比較例5は前記Rの炭素数が11以上の直鎖または分岐した炭化水素基であり、比較例1に対するtc90が短いことから架橋反応速度は速いが、MHは比較例1の6.3に対し5.7であることから、ゴム弾性が低くなることが明らかである。さらに、比較例6~8は、前記Rの炭素数は6~10の範囲内であるが、Rが脂環式または芳香族の炭化水素基であり、比較例1に対するtc90は長く、また、MHも小さいことから、架橋反応速度が遅くなると共に、ゴム弾性が低くなることがわかる。
【0056】
次に各ゴム組成物の架橋ゴム特性について確認を行った。
【0057】
表1で示された中で、実施例1、3、4、6、比較例1、2、3、5のゴム組成物を加硫用プレス機で、架橋温度を175℃で一定とすると共に、加硫時間を各tc90の1.5倍に設定し、各ゴム組成物を架橋した。
【0058】
得られた各架橋ゴムを試験試料とし、JIS K6251およびJIS K6253に準拠して、引張特性およびゴム硬度についての物理試験を行った。
【0059】
また得られた架橋ゴムの水に対する溶出性(過マンガン酸カリウム消費量)の試験を行った。
【0060】
具体的には2mm厚の架橋ゴムシートを直径4.5cmの円形1枚と直径3.6cmの円形2枚に打ち抜き、このサンプルを80℃の純水160mLで6時間抽出処理した後の抽出水を試験試料とし、JIS T9010に準拠し、過マンガン酸カリウム消費量を測定した。
【0061】
各試験結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3より、何れの実施例も従来の架橋剤(BSH)が含まれた比較例1より高いゴム硬度と中間応力(200%)を有することから、高いゴム弾性が示された。
【0064】
更に水に対する溶出性も従来の架橋剤(BSH)が含まれた比較例1より小さいことが示された。
【0065】
以上、塩素化ブチルゴム組成物の配合に用いる架橋剤において、従来の6-(ジブチルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール(BSH)に対して、前記化学式(1)で表わされる一級アミノトリアジンジチオール化合物は、架橋反応速度を速くすることが可能であり、また、高いゴム弾性かつ添加剤の溶出性が小さいゴム製品を得られることが示された。
図1