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特許7520337貯留槽の温度制御装置およびその温度制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】貯留槽の温度制御装置およびその温度制御方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240716BHJP
   C12G 3/022 20190101ALI20240716BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12G3/022 119N
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018042072
(22)【出願日】2018-03-08
(65)【公開番号】P2019154260
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】518081289
【氏名又は名称】有限会社サズカブルーアンドリサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】佐塚 隆美
【合議体】
【審判長】福井 悟
【審判官】中村 浩
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-145390(JP,A)
【文献】特開昭56-100188(JP,A)
【文献】実開平5-039296(JP,U)
【文献】特開平6-169751(JP,A)
【文献】特開2001-299327(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0075405(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12G 3/022
CAPlus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留槽に貯留された貯留物に浸漬され、槽内の温度を測定する第1温度センサと、
前記貯留槽の槽壁に配置され、前記槽壁の温度を測定する第2温度センサと、
前記貯留槽の温度を冷媒による冷却により調整するための温度調整部と、
前記温度調整部への冷媒の送出を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記貯留槽の温度を管理するための設定値として、前記槽内の温度の設定値である第1温度設定値および前記槽壁の温度の設定値である第2温度設定値と前記温度調整部により冷却される冷却期間および冷媒の送出が停止される非冷却期間とが入力される操作部と、
前記冷却期間および前記非冷却期間を繰り返しカウントするタイマーとを有し、
前記冷却期間および前記非冷却期間は醪の種類、状態、発酵槽の容量、発酵槽の構造により設定され、
前記冷却期間および前記非冷却期間を繰り返すことにより小刻みに冷却を行うことで過度な温度の低下を抑止し、
前記第1温度センサからの温度が下降して前記第1温度設定値の下限値を下回らず、かつ前記第2温度センサからの温度が下降して前記第2温度設定値の下限値を下回らないときに、前記冷却期間であれば前記温度調整部へ冷媒を送出し、前記非冷却期間であれば前記温度調整部への冷媒の送出を停止し、
前記第1温度センサからの温度が上昇して前記第1温度設定値の上限値を上回らないときには前記温度調整部への冷媒の送出を停止し、前記第1温度設定値の上限値を上回ったときに、前記冷却期間であれば前記温度調整部へ冷媒を送出し、前記非冷却期間であれば前記温度調整部への冷媒の送出を停止し、
前記第1温度センサからの温度が下降して前記第1温度設定値の下限値を下回った場合、または、前記第1温度センサからの温度が下降して前記第1温度設定値の下限値を下回らず、かつ前記第2温度センサからの温度が下降して前記第2温度設定値の下限値を下回った場合には、前記温度調整部への冷媒の送出を停止する貯留槽の温度制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯留槽に貯留された貯留物の温度を冷却または加熱により制御する貯留槽の温度制御装置およびその温度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貯留槽の一例である発酵槽は、貯留物としての発酵体に含まれる発酵菌を活発に活動させつつ、発酵熱による温度上昇を冷却により抑えるために、温度管理が重要である。例えば、清酒を製造するための発酵槽では、麹、水、蒸米を、初添え、仲添え、留添えと、3回に分けて仕込む三段仕込み(段仕込み)が行われる。そして、三段仕込みが終わると次はもろみ造りとなる。このような工程では、糖化と発酵とが並行して進む糖化発酵を制御するために、厳格な温度管理が行われる。
【0003】
このような温度管理について、加熱ではあるが、特許文献1に記載されたものが知られている。
特許文献1に記載の有機物を高速発酵させるための温度制御方法は、槽内処理物温度が上限温度設定になる迄は、槽壁の上限温度設定値で加熱装置の運転を停止し、槽壁の下限温度設定値で加熱温度の運転を行い、槽内処理物温度が上限温度設定値以上に上昇した時には、槽内処理温度が下限温度設定値になる迄、槽壁の温度に関係なく加熱装置の運転を停止するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平1-145390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の有機物を高速発酵させるための温度制御方法では、槽内処理温度が下限温度設定値になる迄、槽壁の温度に関係なく加熱装置の運転を停止した後に、直ぐに槽内処理物温度が上限温度設定になる迄、加熱を行うと、槽内処理物が急激に加熱され、槽内処理物温度が上限温度設定を過ぎて、加熱装置の運転を停止しても、しばらくは温度が上昇し続ける可能性がある。
特に、醪のような、粘性が高く流動性が低いために対流が発生し難く、醪全体に熱が伝搬し難いものは、温度変化が緩慢であるため顕著である。
【0006】
そこで本発明は、粘性が高く流動性が低いために、対流が発生し難い貯留物であっても、適正な温度調整が可能な貯留槽の温度制御装置およびその温度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の貯留槽の温度制御装置は、貯留槽に貯留された貯留物に浸漬され、槽内の温度
を測定する第1温度センサと、前記貯留槽の槽壁に配置され、前記槽壁の温度を測定する
第2温度センサと、前記貯留槽の温度を熱媒体による冷却により調整するための温度調整
部と、前記温度調整部への熱媒体の送出を制御する制御装置とを備えるものである。
【0008】
そして、前記制御装置は、前記貯留槽の温度を管理するための設定値として、前記槽内の温度の設定値である第1温度設定値および前記槽壁の温度の設定値である第2温度設定値と前記温度調整部により冷却される冷却期間および冷媒の送出が停止される非冷却期間とが入力される操作部と、前記冷却期間および前記非冷却期間を繰り返しカウントするタイマーとを有している。
【0009】
前記冷却期間および前記非冷却期間は、醪の種類、状態、発酵槽の容量、発酵槽の構造により設定されている。
【0010】
さらに、前記冷却期間および前記非冷却期間を繰り返すことにより小刻みに冷却を行うことで過度な温度の低下を抑止している。
【0011】
そして、前記第1温度センサからの温度が下降して前記第1温度設定値の下限値を下回らず、かつ前記第2温度センサからの温度が下降して前記第2温度設定値の下限値を下回らないときに、前記冷却期間であれば前記温度調整部へ冷媒を送出し、前記非冷却期間であれば前記温度調整部への冷媒の送出を停止している。
【0012】
また、前記第1温度センサからの温度が上昇して前記第1温度設定値の上限値を上回らないときには前記温度調整部への冷媒の送出を停止し、前記第1温度設定値の上限値を上回ったときに、前記冷却期間であれば前記温度調整部へ冷媒を送出し、前記非冷却期間であれば前記温度調整部への冷媒の送出を停止している。
【0013】
さらには、前記第1温度センサからの温度が下降して前記第1温度設定値の下限値を下回った場合、または、前記第1温度センサからの温度が下降して前記第1温度設定値の下限値を下回らず、かつ前記第2温度センサからの温度が下降して前記第2温度設定値の下限値を下回った場合には、前記温度調整部への冷媒の送出を停止することにしている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の冷却によれば、第1温度設定値の上限値を超えても冷却期間でなければ、温度調整部への熱媒体の送出を停止することにより適正な温度管理を行うことができるので、粘性が高く流動性が低いために、対流が発生し難い貯留物であっても、適正な温度調整が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係る冷却制御装置の構成を示す図である。
図2図1に示す冷却制御装置の上層用冷却部と保温部と上層用第1温度センサとを説明するための図である。
図3図1に示す冷却制御装置の制御装置の構成のブロック図である。
図4図1に示す冷却制御装置の制御装置の動作を説明するためのフローチャートである。
図5図4に示す制御装置の空間部の温度管理制御を説明するためのフローチャートである。
図6図4に示す制御装置の下層部の温度管理制御を説明するためのフローチャートである。
図7図1に示す冷却制御装置により制御された貯留槽の温度の状態を説明するためのグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係る貯留槽の温度制御装置の一例である発酵槽の冷却制御装置を図面に基づいて説明する。
図1に示す冷却制御装置10は、貯留槽の一例である発酵槽20に貯留された発酵体の一例である醪の温度を管理して、発酵を制御するものである。
発酵槽20は、醪が貯留される槽本体21と、槽本体21の開口部21a(投入口)を塞ぐ蓋部22と、槽本体21を支持する台座部23とを備えている。
槽本体21は、台座部23に接続された底壁部211と、下部に排出口21bが形成された円筒状の側壁部212と、開口部21aが形成された天面部213とを備えている。
【0020】
冷却制御装置10は、熱媒体である冷媒を送出する冷凍機11と、冷凍機11からの冷媒が循環する循環路12と、循環路12へ冷媒を送出したり止めたりする自動弁13と、槽内部の温度を測定するための第1温度センサ14と、槽壁の温度を測定するための第2温度センサ15と、発酵槽20の温度を制御する制御装置16とを備えている。
【0021】
冷凍機11は、発酵槽20を冷却するために、冷媒を-15℃から-17℃の範囲に冷却して循環路12に送出する機能を備えている。冷凍機11には、発酵槽20から戻る冷媒を測定する冷媒用温度センサ(図示せず)が設けられ、制御装置16に接続されている。
循環路12は、冷凍機11から発酵槽20までの配管である送出部121と、発酵槽20に巻回された冷却管1221と発酵槽20を覆う保温部1222とを有する冷却部122(温度調整部)と、冷却部122から冷凍機11へ冷媒が戻る配管である流入部123とを備えている。
【0022】
送出部121には、冷媒の圧力を測定するための高圧用の圧力計121aが設けられている。流入部123には、冷媒の圧力を測定するための低圧用の圧力計123aが設けられている。
【0023】
冷却部122は、発酵槽20の側壁部212の下部に巻回され、発酵槽20に貯留された醪の下層部21xを冷却する下層用冷却部122a(下層用温度調整部)と、側壁部212の中央部に巻回され、醪の上層部21yを冷却する上層用冷却部122b(上層用温度調整部)と、側壁部212の上部および天面部213に巻回され、醪の上方となる空間部21zを冷却する空間用冷却部122c(空間用温度調整部)とを備えている。
保温部1222は、側壁部212および天面部213に巻回されたと冷却管1221上に配置されているだけでなく、蓋部22を覆うように設置されている。保温部1222は、ウレタンや発泡スチロール、グラスウールなどの断熱材が使用できる。
【0024】
自動弁13は、第1自動弁131と、第2自動弁132と、第3自動弁133とを備えている。
第1自動弁131は、下層用冷却部122aと送出部121との接続部分に設けられている。第2自動弁132は、上層用冷却部122bと送出部121との接続部分に設けられている。第3自動弁133は、空間用冷却部122cと送出部121との接続部分に設けられている。
【0025】
第1温度センサ14と第2温度センサ15とからの配線は、制御装置16に接続されている。
本実施の形態では、第1温度センサ14と第2温度センサ15として、測定部の抵抗素子(測温抵抗体)が温度で変化する抵抗値により温度を測定するものを使用しているが、熱電対を使用してもよい。
第1温度センサ14は、センサ本体14aから測定部14bを配線により垂下させている。
第1温度センサ14は、醪の下層部21xの温度を測定するための下層用第1温度センサ141と、醪の上層部21yの温度を測定するための上層用第1温度センサ142とを備えている。
また、醪の上方の空間部21zには、空間部21zの温度を測定するための空間用温度センサ17が、第1温度センサ14と同様にセンサ本体から測定部を配線により垂下させている。
【0026】
第2温度センサ15は、センサ本体から延びる抵抗素子を内蔵した保護管が槽壁(底壁部211,側壁部212)に接触または近接させた状態で設置されている。
第2温度センサ15は、下層部21xに対応する底壁部211の温度を測定するための底壁用第2温度センサ151と、上層部21yに対応する側壁部212の温度を測定するための側壁用第2温度センサ152とを備えている。
【0027】
制御装置16は、第1温度センサ14および第2温度センサ15により測定された温度に基づいて自動弁13の開閉を制御して、発酵槽20の温度を管理するコンピュータである。
図3に示すように、制御装置16は、通信部161と、信号入力部162と、信号出力部163と、操作部164と、表示部165と、処理部166と、記憶部167とを備えている。
【0028】
通信部161は、電気通信回線の一例であるインターネットWからの情報を受信して処理部166へ出力したり、処理部166からの情報を入力してインターネットWへ送信したりする機能を有する。処理部166が記憶部167から読み出した測定履歴を、通信部161を介してインターネットWを通じて外部の端末装置へ送信して、端末装置へ表示させることで、発酵槽20の温度を各温度センサの状態を遠隔監視することができる。
【0029】
信号入力部162は、第1温度センサ14,第2温度センサ15および冷媒用温度センサからのアナログ信号を入力し、デジタル信号に変換して処理部166へ出力する。
信号出力部163は、処理部166からのデジタル信号を入力し、アナログ信号に変換して、自動弁13へ出力する。
操作部164は、温度管理の基準となる設定値の入力などに使用される。表示部165は、設定値を表示したり、温度状態を表示したりすることができるディスプレイである。
【0030】
処理部166は、信号入力部162から入力された第1温度センサ14および第2温度センサ15からの温度を示す信号と設定値とに基づいて、自動弁13の開閉を指示する信号を信号出力部163に出力する。また、処理部166は、タイマーを内蔵している。
タイマーは、設定値に基づいて冷凍期間と非冷凍期間を繰り返すカウントを行う。
記憶部167は、第1温度センサ14、第2温度センサ15および冷媒用温度センサの測定履歴、制御用温度の設定値などが格納される。
【0031】
以上のように構成された本発明の実施の形態に係る発酵槽20の冷却制御装置10の動作および使用状態を、図1図3図7に基づいて説明する。
まず、管理者は、制御装置16の処理部166が表示部165に表示させた設定用画面(図示せず)を見ながら操作部164を操作して、設定値を入力する(ステップS10)。
【0032】
設定値は、槽内部の温度(第1温度設定値)と、槽壁の温度(第2温度設定値)とすることができる。槽壁の温度は、冷却部122により冷却されるため、槽内部の温度より低い温度である。
例えば、第1温度設定値の上限値を10.5℃、下限値を10.0℃とすることができる。また、第2温度設定値の上限値を5.5℃、下限値を3.9℃とすることができる。
【0033】
また、設定値は、処理部166に内蔵のタイマーの冷却期間(温度調整期間)と、冷却期間では無い非冷却期間(温度調整期間では無い期間)とが分単位で設定される。例えば、冷却期間と非冷却期間とをそれぞれ5分とすることができる。
これらの設定値は、醪の種類、状態、発酵槽の容量、発酵槽の構造により、適宜、決定することができる。処理部166は、設定値を記憶部167へ格納される。
【0034】
温度設定が完了すると、管理者は冷却制御装置10の温度制御を稼働させる。
処理部166は、内蔵のタイマーを始動させる(ステップS20)。
【0035】
そして、処理部166は、まず、空間部21zの温度管理制御を行う(ステップS30)。
処理部166は、空間用温度センサ17からの信号を、信号入力部162を介して入力する。
処理部166は、空間用温度センサ17からの温度の変化から、空間部21zの温度が上昇しているか下降しているかを判定する(ステップS110)。
ステップS110にて、温度が下降していると判定された場合には、冷却中、または冷却後に冷却を停止しているが、冷却された空間部21zの温度が槽壁から槽内部へ徐々に拡がっている状態を示している。
【0036】
従って、処理部166は、非冷却状態とする(ステップS120)。
この非冷却状態は、第3自動弁133を閉鎖した状態とすることであり、これまでの第3自動弁133の状態が開放した状態であれば閉鎖し、閉鎖した状態であればこのままとするものである。
【0037】
ステップS120から移行して空間部21zの温度管理制御が終了し、図4に示すステップS30が終了すると、次のステップS40およびステップS50が実行され、ステップS60にて終了か否かが判定され、再度、ステップS30の空間部21zの温度管理制御が実行される。
【0038】
冷却が停止することで、醪の発酵熱が空間部21zに拡がり空間部21zの温度が上昇に転じると、ステップS110での判定にて、ステップS130へ移行する。
【0039】
処理部166は、空間用温度センサ17からの温度の上昇が第1温度設定値の上限値を超えたか否かを判定する(ステップS130)。ここでは、空間部21zの温度設定を、下層部21x、上層部21yの温度設定と同じ、第1温度設定値を使用している。
ステップS130にて、温度の上昇が第1温度設定値の上限値を超えていないと判定された場合には、第1温度設定値の上限値まで温度上昇は許容されるため、処理部166は、非冷却状態とする(ステップS120)。
【0040】
ステップS130にて、温度の上昇が第1温度設定値の上限値を超えたと判定された場合には、処理部166は、タイマーが冷却期間または非冷却期間のいずれかであるかを判定する(ステップS140)。
タイマーが非冷却期間を示していると判定された場合には、処理部166は、非冷却状態とする(ステップS120)。
【0041】
ステップS140にて、タイマーが冷却期間を示していると判定された場合には、処理部166は、冷却状態とする(ステップS150)。
冷却状態は、図1に示す第3自動弁133を開放した状態とすることであり、これまでの第3自動弁133の状態が閉鎖した状態であれば開放し、開放した状態であればこのままとするものである。
第3自動弁133が開放状態であると、冷凍機11からの冷媒が、送出部121を介して第3自動弁133を通過し、空間用冷却部122cへ流入して、槽本体21の側壁部212上部および天面部213が冷却される。
そうすることで、槽本体21の空間部21zが冷却され、温度の上昇を下降に転じさせることができる。
このようにして、発酵槽20の醪の上方の空間部21zの温度が調整される。
【0042】
図4に示すように、空間部21zの温度管理制御(ステップS30)が終わると、次に、処理部166は、図1に示す醪の上層部21yの温度管理制御を行う(ステップS40)。
【0043】
上層部21yの温度管理制御は、まず、処理部166は、上層用第1温度センサ142からの信号を、信号入力部162を介して入力する。
図6に示すように、処理部166は、上層用第1温度センサ142からの温度の変化から、上昇しているか下降しているかを判定する(ステップS210)。
ステップS210にて、温度が下降していると判定された場合には、冷却中、または冷却後に冷却を停止しているが、冷却された醪の上層部21yの温度が槽壁から槽内部へ徐々に拡がっている状態を示している。
【0044】
次に、処理部166は、上層用第1温度センサ142からの温度の下降が第1温度設定値の下限値を超えたか否かを判定する(ステップS220)。
【0045】
ステップS220にて、第1温度設定値の下限値を超えていないと判定された場合には、次に、処理部166は、側壁用第2温度センサ152の温度の下降が第2温度設定値の下限値を超えたか否かを判定する(ステップS230)。
ステップS230にて、第2温度設定値の下限値を超えた判定された場合には、処理部166は、非冷却状態とし、発酵熱による温度上昇への転換を待つ(ステップS240)。
【0046】
ステップS240から移行して上層部21yの温度管理制御が終了し、図4に示すステップS40が終了すると、次のステップS50が実行され、ステップS60にて終了か否かが判定され、再度、ステップS40の上層部21yの温度管理制御が実行される。
【0047】
ステップS210にて温度が下降していると判定され、ステップS220にて第1温度設定値の下限値を超えていないと判定され、ステップS230にて、第2温度設定値の下限値を超えていないと判定された場合には、第2温度設定値の下限値まで醪を冷却できるため、次に、処理部166は、タイマーが冷却期間または非冷却期間のいずれかであるかを判定する(ステップS250)。
ステップS250にて、タイマーが非冷却期間を示していると判定された場合には、処理部166は、非冷却状態とする(ステップS240)。
【0048】
また、ステップS230にて、タイマーが冷却期間を示していると判定された場合には、処理部166は、冷却状態とする(ステップS260)。
冷却状態は、図1に示す第2自動弁132を開放した状態とすることであり、これまでの第2自動弁132の状態が閉鎖した状態であれば開放し、開放した状態であればこのままとするものである。
【0049】
第2自動弁132が開放状態であると、冷凍機11からの冷媒が、送出部121を介して第2自動弁132を通過し、上層用温度調整部として機能する上層用冷却部122bへ流入する。このようにして処理部166が上層用冷却部122bへ冷媒を送出することで、槽本体21の側壁部212の中央部を冷却することができる。
そうすることで、槽本体21の上層部21yが冷却され、温度の下降を、第2温度設定値の下限値まで下げることができる。
【0050】
ステップS220にて、第1温度設定値の下限値を超えていると判定された場合には、処理部166は、非冷却状態とし、処理部166が上層用冷却部122bへの冷媒の送出を停止し、発酵熱による温度上昇への転換を待つ(ステップS240)。
この非冷却状態は、第2自動弁132を閉鎖した状態とすることであり、これまでの第2自動弁132の状態が開放した状態であれば閉鎖し、閉鎖した状態であればこのままとするものである。
【0051】
次に、発酵熱により醪の温度が温度上昇に転換すると、ステップS210にて、醪の上層部21yの温度が上昇していると判定される。
次に、処理部166は、上層用第1温度センサ142の温度の上昇が第1温度設定値の上限値を超えたか否かを判定する(ステップS270)。
【0052】
ステップS270にて、温度の上昇が第1温度設定値の上限値を超えていないと判定された場合には、第1温度設定値の上限値まで温度上昇は許容されるため、処理部166は、非冷却状態とする(ステップS240)。
ステップS270にて、温度上昇が第1温度設定値の上限値を超えたと判定された場合には、処理部166は、タイマーが冷却期間または非冷却期間のいずれかであるかを判定する(ステップS250)。
【0053】
ステップS250にて、タイマーが冷却期間を示していると判定された場合には、槽本体21の上層部20yの醪が高温になりすぎるため、処理部166は、冷却状態とする(ステップS260)。
また、ステップS250にて、タイマーが非冷却期間を示していると判定された場合には、処理部166は、非冷却状態とする(ステップS240)。
【0054】
図4に示すように、醪の上層部21yの温度管理制御(ステップS40)が終わると、次に、処理部166は、図1に示す醪の下層部21xの温度管理制御を行う(ステップS50)。
【0055】
この下層部21xの温度管理制御は、図6に示す上層部21yの温度管理制御において、上層用第1温度センサ142が下層用第1温度センサ141、側壁用第2温度センサ152が底壁用第2温度センサ152、冷媒が流れる冷却部122が上層用冷却部122bから下層用冷却部122aに代わるだけで、ステップS210からステップS260までの制御方法は同じであるため、説明は省略する。
【0056】
下層部21xの温度管理制御が終わると、次に、処理部166は、処理が終了か否かを判定する(ステップS60)。
管理者から終了を指示されていない場合には、ステップS30の空間部の温度管理制御へ戻り、ステップS30からステップS60までを繰り返す。
ステップS60にて終了であると判定されれば、処理部166は温度制御を終了する。
【0057】
このように、醪の温度上昇が第1温度設定値の上限値を超えても、非冷却期間であるときには、冷却を行わないようにするため、小刻みに槽壁を冷却することで、過度に槽内の温度を急激に低下させ、槽内の温度の下降を大きく第1温度設定値の下限値より下げてしまうことを抑止することができる。
【0058】
冷却制御装置10は、醪の上層部21yと下層部21xとを個別に温度調整しているので、粘性が高く流動性が低いために、対流し発生し難く、熱が伝搬し難い醪であっても、適正な温度調整が実現でき、厳密な温度管理が可能である。
【0059】
また、槽本体21に貯留された醪の上方に位置する槽本体21の空間部21zを個別に温度制御しているため、対流しやすく温度の伝搬が早い気体の温度を調整することができる。従って、槽壁(底壁部211,側壁部212)から温度を調整するだけでなく、空間部21zの気体により醪の温度を調整することができる。
本実施の形態では、第1温度設定値においては、空間部21zと、上層部21yおよび下層部21xを同じとしていたが、空間部21zの第1温度設定値の下限値を、醪の第1温度設定値の下限値より低くすることで、槽壁を冷却して醪を冷却するだけでなく、空間部21zの気体を冷却して醪を冷却することができる。従って、より効果的に醪を冷却することができる。
【0060】
槽本体21の下層部21xの槽壁の温度測定に、側壁部212に配置したセンサではなく、底壁部211に配置した底壁用第2温度センサ151により測定しているため、正確に下層部21xの槽壁の温度を測定することができる。
更に、蓋部22にも冷却部を設けることができる。例えば、ペルチェ効果を利用した冷却素子を蓋部22に設けることで、空間部21zを効果的に冷却することができ、槽本体21全体の槽壁から温度調整を図ることができる。
【0061】
本実施の形態では、発酵槽20の側壁部212と天面部213に、冷却管1221が巻回され、周囲を保温部1222が覆った冷却部122としているが、ウォータージャケット型の冷却部としてもよい。
【0062】
また、本実施の形態では、第2温度センサ15(底壁用第2温度センサ151,側壁用第2温度センサ152)は、温度測定位置が槽壁(底壁部211,側壁部212)に接触または近接させた状態で設置されているが、槽壁の温度を直接、または間接的に測定することができれば、槽本体21内に配置され、槽壁に接触または近接させた状態であってもよい。
【0063】
以上、本実施の形態では、温度制御装置により醪を冷却する場合を説明したが、発酵体を加熱する場合にも本発明は適用することができる。
例えば、醤油を製造する場合には発酵槽に貯蔵された醪を加熱して14℃~30℃に誘導することがある。
そうした場合に、冷凍機11(図1参照)を加熱機とし、温度設定値に対しては、上限値を下限値に、下限値を上限値に置き換え、制御装置により、加熱機からの熱媒体の送出を制御することで、加熱であっても、厳密な温度調整が可能である。
【0064】
更に、本発明は、発酵体を発酵させる発酵槽だけでなく、貯留物を貯蔵する貯蔵槽を冷却したり加熱したりする場合でも適用することができる。
他に、清酒を貯蔵する貯蔵槽においては、上部の空間部を清酒以上に低温に保つことにより、清酒と気体との境界面の温度を下げることで、品質維持の効果が期待できる。
また、本発明の温度調整制御方法は、凍結温度に近い温度帯で清酒を低温貯蔵する貯蔵槽において、貯蔵製品(清酒)の凍結防止や局部加熱防止機能としても応用できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、粘性が高く流動性が低いために、対流が発生し難い発酵体の温度管理に好適であり、清酒を製造する際の温度管理に最適である。
【符号の説明】
【0066】
10 冷却制御装置
11 冷凍機
12 循環路
121 送出部
121a 圧力計
122 冷却部(温度調整部)
1221 冷却管
122a 下層用冷却部(下層用温度調整部)
122b 上層用冷却部(上層用温度調整部)
122c 空間用冷却部(空間用温度調整部)
1222 保温部
123 流入部
123a 圧力計
13 自動弁
131 第1自動弁
132 第2自動弁
133 第3自動弁
14 第1温度センサ
14a センサ本体
14b 測定部
141 下層用第1温度センサ
142 上層用第1温度センサ
15 第2温度センサ
151 底壁用第2温度センサ
152 側壁用第2温度センサ
16 制御装置
161 通信部
162 信号入力部
163 信号出力部
164 操作部
165 表示部
166 処理部
167 記憶部
17 空間用温度センサ
20 発酵槽
21 槽本体
211 底壁部
212 側壁部
213 天面部
21a 開口部
21b 排出口
21x 下層部
21y 上層部
21z 空間部
22 蓋部
23 台座部
W インターネット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7