(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/34 20060101AFI20240716BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20240716BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240716BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B7/027
B32B7/025
H05K1/03 630D
H05K1/03 670A
H05K1/03 610N
(21)【出願番号】P 2019191209
(22)【出願日】2019-10-18
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018197405
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 猛
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 耕
(72)【発明者】
【氏名】杉本 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/114287(WO,A1)
【文献】特開2014-114368(JP,A)
【文献】特表2015-520523(JP,A)
【文献】特開2017-165909(JP,A)
【文献】特開2015-199328(JP,A)
【文献】特開2015-193117(JP,A)
【文献】東レ・デュポン株式会社,超耐熱・超耐寒性ポリイミドフィルム カプトン,https://www.td-net.co.jp/kapton/data/download/documents/kapton2007r.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 1/03
C08G 73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未硬化のビスマレイミド層とポリイミド層
のみからなる積層体であって、ビスマレイミドは、 ダイマジアミンをジアミン成分として用いたビスマレイミドであり、ポリイミドは、熱膨張係数(CTE)が30ppm/K以下、誘電率が3.2以下の非熱可塑性ポリイミドである積層体。
【請求項2】
ビスマレイミドの重量平均分子量(Mw)が、5000超、50000未満である請求項1記載の積層体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の積層体を用いてなる、ポリイミド層/硬化したビスマレイミド層/ポリイミド層の構成を有する積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、誘電特性(誘電率)、耐熱性、寸法安定性、電気的特性等に優れた高周波基板等の絶縁層として用いられる積層フィルムに関するものである。高周波基板は、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等に用いられる。
【0002】
高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等に用いられる高周波基板用のフレキシブル銅張積層板(FCCL)においては、銅箔上に形成される絶縁層の誘電特性(誘電率)を向上させることが有効である。このような高周波基板用FCCLとして、特許文献1には、ジアミン成分として、ダイマジアミン(以下、「DDA」と略記することがある)を用いたビスマレイミド(BMI)フィルムを絶縁層として用いた高周波基板が開示されている。しかしながら、ここに開示された絶縁層の熱膨張係数(CTE)は、100ppm/K程度と高いため、良好な寸法安定性が得られにくいという問題があった。また、特許文献2には、ダイマジアミンを用いたBMI層とポリイミド(PI)層とからなる積層フィルムを絶縁層として用いることが開示されている。しかしながら、ここで開示されているPI層の誘電特性は良好ではないため、結果として、絶縁層全体の誘電特性が劣るという問題があった。また、BMI層とPI層との接着性が充分に得られない場合があり、接着強度向上による信頼性の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-131244号公報
【文献】国際公開2016-114287号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記課題を解決するものであり、誘電特性、寸法安定性に優れ、BMI層とPI層との密着性が改善された積層フィルム体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、高周波基板用FCCLにおいて、特定のBMI層と特定のPI層とが積層された積層フィルムを用いて絶縁層を形成することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
本発明は、以下を主旨とするものである。
<1> 未硬化のBMI層とPI層のみからなる積層体であって、BMIは、DDAをジアミ ン成分として用いたBMI(以下、「D-BMI」と略記することがある)であり、PIは、熱膨張係数(CTE)が30ppm/K以下、誘電率が3.2以下の非熱可塑性PI(以下、「A-PI」と略記することがある)である積層体。
<2> D-BMIの重量平均分子量(Mw)が、5000超、50000未満である積層体。
<3> 請求項1または2に記載の積層体を用いてなる、ポリイミド層/硬化したビスマレイミド層/ポリイミド層の構成を有する積層フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層フィルムは、誘電特性、寸法安定性、信頼性に優れる。従い、プリント回路やアンテナ基板等に用いられる高周波基板用FCCLの絶縁層を構成する積層フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の積層フィルムを構成するBMI層は、D-BMIからなることが必要である。D-BMI層は、D-BMI溶液から得られる未硬化のD-BMI塗膜を熱硬化することにより形成することができる。ここで、DDAは、炭素数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族ジアミンであり、「プリアミン1074、同1075」(クローダジャパン社製の商品名)、「バーサミン551、同552」(コグニスジャパン社製の商品名)等の市販品を用いることができる。
【0009】
D-BMIは、溶媒中で、酸触媒下、DDAまたは「イミド延長されたDDA」と、無水マレイン酸とを反応させて、D-BMI溶液を得た後、これを精製、必要に応じ単離することにより得ることができる。ここで「イミド延長されたジアミン」とは、テトラカルボン酸二無水物と、過剰量のDDAとを反応させて脱水閉環した「両末端にアミノ基を有するポリイミドまたはオリゴイミド」のことである。テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、 2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物(BDCP)、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PMDAが好ましい。
DDAを用いたD-BMIは、例えば、米国法定発明登録H424号、特表平10-505599号公報等に開示されている。また、「イミド延長されたDDA」を用いたD-BMIは特開2012-117070号公報等に開示されている。
これらD-BMIは、Designer Molecules Inc.(以下、「DMI社」と略記することがある)から、BMI-689、BMI-1500、BMI-1700、BMI-3000等の品番で市販されており、これらの市販品を用いることもできる。
【0010】
D-BMIの分子量に制限はないが、GPCによる重量平均分子量(Mw)として、5000超、50000未満とすることが好ましく、8000超、40000未満とすることがより好ましく、10000超、20000未満とすることが特に好ましい。このようにすることにより、BMI層とPI層との層間における良好な接着性を確保することができる。
【0011】
BMI層とPI層との層間における接着強度は、10N/cm以上とすることが好ましく、12N/cm以上することがより好しい。このようにすることにより、積層フィルムをFCCLの絶縁層として用いた場合の良好な信頼性を確保することができる。なお、層間の接着強度は、JIS K6854-2に準じて測定することにより確認することができる。
【0012】
D-BMIのMwは、D-BMI溶液を100℃以上の温度でビニル重合を進めることにより、適宜調整することができる。ここで用いられる溶媒としては、炭化水素系溶媒、アミド系溶媒、炭化水素系溶媒とアミド系溶媒との混合溶媒等を用いることができる。また、重合温度としては、130℃以上とすることが好ましく、150℃以上がより好ましい。
【0013】
D-BMIのMwは、例えば、下記のような条件で、GPCを測定することにより確認することができる。
<GPC測定条件>
カラム:昭和電工社製 Shodex(R) GPC KF‐803×1本, GPC KF‐804×2本 (3本連結)
溶離液:THF
温度:40℃
流量:1.0mL/分
検出器:UV検出器
【0014】
D-BMI溶液には、D-BMIの硬化を促進するための触媒を、D-BMIの質量に対して0.05~5質量%配合することが好ましい。このような硬化促進剤としては、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、2-ブタノンパーオキサイド、tert-ブチルパーベンゾエイト、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルヒドロパーオキシド、2,2′-アゾビス(2-メチルプロパンニトリル)、2,2′-アゾビス(2-メチルブタンニトリル)、1,1′-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等を挙げることができる。
【0015】
D-BMI溶液には、D-BMIの耐熱性、剛性等の特性を向上させるため、フィラを配合することができる。フィラとしては、粒子状のフィラやコロイダル状のフィラを用いることができる。粒子状のフィラは、その平均粒径を0.1μm以上、10μm以下とすることが好ましい。また、コロイダル状のフィラは、その平均粒径を5nm以上、100nm以下とすることが好ましい。ここで、平均粒径は、粒子状のフィラの場合はレーザー回折散乱法で、コロイダル状のフィラの場合は窒素吸着法で測定して確認することができる。このようなフィラとしては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、マイカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー、タルク、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等を挙げることができる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。これらの中では、誘電特性にすぐれたシリカが好ましい。フィラは、D-BMIとの密着性を向上させるため、その表面をシランカップリング剤で処理してもよい。フィラの配合量としては、D-BMI溶液中の固形分全量に対し、10~80質量%とすることが好ましい。
【0016】
本発明の積層フィルムは、A-PI層上に、D-BMI層が形成されていることが必要である。
A-PIは非熱可塑性PIであることが必要である。
ここで、非熱可塑性のPIとは、250℃以下の温度では、加熱しても溶融または軟化しないPIをいう。
A-PI層のCTEは、25ppm/K以下とすることが好ましく、20ppm/K以下とすることがより好ましい。
また、A-PI層の誘電率は、3.1以下とすることが好ましい。
ここで、CTEは、例えば、下記のような条件で、TMAを測定することにより、確認することができる。
すなわち、充分に乾燥させた積層フィルムを試料とし、熱機械特性分析装置(TMA、TAインスツルメント社製TMA2940)を用い、5℃/minの定速昇温、30mNの引張りモードにて窒素中20℃から昇温させ、100℃~250℃の間での寸法変化量を測定することにより、確認することができる。
また、誘電率は、例えば、下記のような方法で、確認することができる。
すなわち、充分に乾燥させた積層フィルムを試料とし、片面に円盤共振器を作成し、ネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製)を用い、10GHzで、誘電率を測定することにより確認することができる。なお、誘電率の測定において、得られた数値の小数点2桁目以下は四捨五入する。
【0017】
A-PI層には、基板上に、A-PI前駆体であるポリアミック酸(以下、「A-PAA」と略記することがある)溶液を塗布、乾燥、熱硬化することによりA-PI層としたものを用いることができる。
【0018】
A-PAA溶液は、例えば、含窒素極性溶媒中、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとが略等モルになるように配合し、10~70℃で重合反応させ、均一溶液として得ることができる。
【0019】
含窒素極性溶媒としては、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を挙げることができる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、ジメチルエチレン尿素を挙げることができる。含窒素極性溶媒は、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DMAcおよびNMPが好ましい。
【0020】
テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4′?(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2?ビス〔4?(3,4?ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)等のテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶媒不溶性のPIとするには、これらの中で、BPDA、PMDA、6FDAが好ましい。
【0021】
ジアミンの具体例としては、p-フェニレンジアミン(PDA)、4,4′-ジアミノビフェニル、4,4′-ジアミノ-2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(FBAPP)、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,2′‐ジメチル‐4,4′‐ジアミノビフェニル(DMDB)、3,3′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ダイマジアミン(DDA)等のジアミンを挙げることができる。 これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PDA、TFMB、FBAPP、DMDB、DDAが好ましい。
【0022】
前記した芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの組み合わせを適宜選択することにより、A-PI層のA-PIを非熱可塑性とし、そのCTEを30ppm/K以下、誘電率を3.2以下とすることができる。
【0023】
本発明の積層フィルムは、例えば、以下のような方法で得ることができる。
すなわち、先ず、基材上に、A-PAA溶液を塗布、100~150℃で乾燥後、形成されたA-PAA被膜を200℃以上の温度で熱硬化(熱イミド化)する。しかる後、形成されたA-PI被膜上に、前記したD-BMI溶液を塗布、130~150℃で乾燥し、これを基材から剥離することにより、未硬化のD-BMI層がA-PI層上に形成された積層体を得る。続いて、この積層体のD-BMI層どうしを熱圧着して、D-BMI層を熱硬化することにより、本発明の積層フィルムとすることができる。熱圧着の条件としては、温度180~220℃、圧力2~6MPaとすることが好ましい。
【0024】
ここで用いる基材に制限はなく、ガラス板、銅箔等公知の基材を用いることができる。基材として銅箔を用いた場合は、A-PI層とD-BMI層とからなる積層PIフィルム層(絶縁層)が形成されたFCCL(片面板)とすることができる。 この片面板のD-BMI層どうしを熱圧着して、D-BMI層を熱硬化することにより、FCCL(両面板)とすることができる。 銅箔の厚みに制限はないが、5μm以上、20μm以下のものが好ましい。銅箔は、化学的あるいは機械物理的な表面処理が施されていてもよい。化学的な表面処理としては、ニッケルメッキ、銅-亜鉛合金メッキ等のメッキ処理、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等の表面処理剤による処理など等が挙げられ、中でも、シランカップリング剤による表面処理が好ましい。シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤が好適に用いられる。一方、物理機械的な表面処理としては、粗面化処理など等を挙げることができる。
【0025】
D-BMI層とA-PI層からなる積層フィルムの合計厚みは、特に限定されるものではないが、3μm以上、50μm以下とすることが好ましい。
また、D-BMI層とA-PI層との厚み比率は、D-BMI層の厚みを、積層フィルム全体の1~60%とすることが好ましく、5~40%とすることがより好ましい。
【0026】
本発明の積層フィルムにおいて、D-BMI層の誘電率は、3.1以下とすることが好ましく、2.9以下とすることがより好ましい。本発明の積層フィルムにおいては、BMIを、DDAを用いたBMI(D-BMI)としているので、前記したような低誘電率とすることができる。さらに、本発明の積層フィルムのA-PI層は、前記したように、誘電率が3.2以下という低誘電率のA-PIとしているので、A-PI層とD-BMI層とからなる積層体とした際、絶縁層全体の誘電率を低減することができ、良好な誘電特性を確保することができる。
積層フィルム全体の誘電率は、3.1以下とすることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明の積層フィルムのA-PI層は、前記したように、CTEが30ppm/K以下という低CTEのA-PIとしているので、D-BMI層との積層フィルムとした際、絶縁層全体のCTEを低減することができ、良好な寸法安定性を確保することができる。
絶縁層全体のCTEは、35ppm/K以下とすることが好ましく、30ppm/K以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
<参考例1>
(A-PI層の作成-1)
ガラス製反応容器に、窒素ガス雰囲気下、ジアミン成分としてTFMB:0.6モル、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA:0.6モル、溶媒としてNMPを仕込み、攪拌下、40℃で10時間反応させることにより、固形分濃度が18質量%の均一なA-PAA溶液を得た。
ガラス基板上に、硬化後のA-PI層の厚みが17μmとなるようにA-PAA溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、ガラス基板上にA-PAA被膜を形成した。次に、窒素ガス雰囲気下、徐々に昇温後、350℃で60分処理して、熱硬化することによりA-PAAをA-PIに転換し、ガラス基板上にA-PI層(A-1)が形成された積層体を得た。この積層体からA-PI層を剥離して得られたA-PI層のCTEは13ppm/K、誘電率は、3.1であり、非熱可塑性であった。
【0030】
<参考例2>
(A-PI層の作成-2)
ジアミン成分を「FBAPP:0.1モルとTFMB:0.5モルとからなる混合物」としたこと以外は、参考例1と同様にして、A-PI層(A-2)を得た。
このA-PI層のCTEは19ppm/K、誘電率は、3.0であり、非熱可塑性であった。
【0031】
<参考例3>
(A-PI層の作成-3)
ジアミン成分を「DBDA:0.56モルとDDA:0.04モルの混合物」としたこと以外は、参考例1と同様にして、A-PI層(A-3)を得た。
このA-PI層のCTEは22ppm/K、誘電率は、3.2であり、非熱可塑性であった。
【0032】
<参考例4>
(A-PI層の作成-4)
ジアミン成分を「PDA:0.6モル」としたこと以外は、参考例1と同様にして、A-PI層(A-4)を得た。
このA-PI層のCTEは9ppm/K、誘電率は、3.7であり、非熱可塑性であった。
【0033】
<参考例5>
(A-PI層の作成-5)
ジアミン成分を「ODA:0.6モル」としたこと以外は、参考例1と同様にして、A-PI層(A-5)を得た。
このA-PI層のCTEは35ppm/K、誘電率は、3.6であり、非熱可塑性であった。
【0034】
<参考例6>
(A-PI層の作成-6)
A-PAA溶液を塗布するための基板を、厚み18μmの電解銅箔(古河電工社製F2WS)としたこと以外は、実施例1と同様にして、銅箔上にA-PI層(A-1)が形成された積層フィルムを得た。
【0035】
<参考例7>
(D-BMI溶液の作成-1)
D-BMI溶液として、DMI社から市販されているBMI-3000を準備した。このBMIはジアミン成分として、PMDAによりイミド延長されたDDAを用いたD-BMIである。これをソルベントナフサ(沸点:150~185℃)に溶解して、攪拌下、155℃で30分加熱後、トルエンで希釈することにより、Mwが6900のD-BMI溶液(固形分濃度:50質量%)を得た。この溶液にジクミルパーオキサイドを、BMIに対し、1.5質量%配合することにより、均一な塗布用D-BMI溶液(D-1)を得た。
【0036】
<参考例8>
(D-BMI溶液の作成-2)
ソルベントナフサ溶液の加熱時間を1時間としたこと以外は、参考例7と同様に行い均一な塗布用D-BMI溶液(D-2)を得た。このD-BMIのMwは8500であった。
【0037】
<参考例9>
(D-BMI溶液の作成-3)
特開2012-117070号公報、実施例1の記載に基づき、以下のようにして、D-BMI溶液を調製した。 すなわち、反応容器に、250mlのトルエン、0.35モルのトリエチルアミン、0.36モルのメタンスルホン酸を加えて混合した。 次に、0.11モルのプリアミン1075(クローダジャパン社製のDDAで分子量は550)および0.05モルのPMDAを、撹拌しつつ加えた。ディーンスタークトラップとコンデンサとを反応容器に取り付け、混合物を2時間還流して、イミド化による生成する水を系外に除去することにより得られた反応混合物を、室温に冷却し、0.13モルの無水マレイン酸を反応容器に加え、続いて0.05モルのメタンスルホン酸を加えた。混合物を、さらに15時間還流し、マレイミド化による生成する水を反応系外に除去した。 得られた溶液を大量のメタノールに加え、濾過、洗浄、乾燥することにより、Mwが6100のD-BMIを固形物として単離した。しかる後、トルエンとNMPとからなる混合溶媒(混合比率は、質量比で、トルエン/NMP=20/80)に再溶解し、この溶液を、攪拌下、160℃で2時間加熱することにより、Mwが11000で、固形分濃度が50質量%の均一な塗布用D-BMI溶液(D-3)を得た。
【0038】
<参考例10>
(D-BMI溶液の作成-4)
参考例9で得られたD-BMI(Mw:6100)溶液の加熱時間を、160℃、3時間としたこと以外は、参考例4と同様にして、Mwが17200で、固形分濃度が50質量%の均一な塗布用D-BMI溶液(D-4)を得た。
【0039】
<実施例1>
参考例1で作成したA-1層上に、D-1溶液、硬化後の厚みが3μmとなるように、A-PI層に塗布し、130℃で15分乾燥することにより未硬化のD-BMI層がA-PI層上に積層された積層体を得た。
このフィルムをガラス板から剥離後、D-BMI層面どうしを180℃、4MPa、60分の条件で熱圧着することにより、A-1/D-1/A-1がこの順に積層された積層フィルム(L-1)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に、層間の接着強度を表2に示した。
【0040】
<実施例2>
D-BMI層をD-2層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-2)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に、層間の接着強度を表2に示した。
【0041】
<実施例3>
D-BMI層をD-3層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-3)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に、層間の接着強度を表2に示した。
【0042】
<実施例4>
D-BMI層をD-4層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-4)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に、層間の接着強度を表2に示した。
【0043】
<実施例5>
A-PI層をA-2層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-5)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0044】
<実施例6>
A-PI層をA-3層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-6)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0045】
<実施例7>
参考例6で作成した積層フィルム(銅箔上にA-1層を形成)のA-1層上に、D-4溶液を硬化後の厚みが3μmとなるように、A-PI層に塗布後、130℃で15分乾燥することにより未硬化のD-BMI層がA-PI層上に積層された積層体を得た。
このフィルムのD-BMI層面どうしを180℃、4MPa、60分の条件で熱圧着することにより、銅箔/A-1層/D-1層/A-1層/銅箔がこの順に積層されたFCCL(両面板)を得た。このFCCLから銅箔をエッチングにより除去した後、積層フィルム(L-7)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0046】
<比較例1>
A-PI層をA-4層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-8)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0047】
<比較例2>
A-PI層をA-5層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-9)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0048】
【0049】
【0050】
実施例で示したように、本発明の積層フィルムは、誘電率が低く.かつCTEも低いことが判る。 また、D-BMIのMwを所定の範囲とすることにより、良好な接着強度が確保されることが判る。これに対し、比較例で得られた積層フィルムは、誘電率またはCTEのどちらか一方が、積層フィルムとしては良好な特性を有していないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の積層フィルムは、誘電特性、寸法安定性に優れる。従い、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板用FCCLの絶縁層として好適に用いることができる。