(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】清酒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/022 20190101AFI20240716BHJP
【FI】
C12G3/022 119G
C12G3/022 119H
C12G3/022 119J
(21)【出願番号】P 2020101857
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】591149584
【氏名又は名称】花の舞酒造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 謙之丞
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-040280(JP,A)
【文献】特開平10-276755(JP,A)
【文献】特開昭59-066875(JP,A)
【文献】人気沸騰!新たなトレンド ワイン酵母酒の背景に迫る!,SAKETIMES[online],2015年09月07日,[2024年1月17日検索],インターネット<URL:https://jp.sake-times.com/special/recommend/sake_g_wine_yeast>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸米、麹、酵素剤、乳酸、及び仕込み水を含む原材料のすべてを仕込む工程と、
仕込品を40℃~60℃の温度範囲で糖化させる工程と、
糖化終了の時点以降に仕込み水を前記仕込品に添加し、29℃まで品温を冷却する工程と、
冷却後の前記仕込品にワイン酵母を含む酒母を添加して醪とし、前記醪を15℃以下の温度範囲でアルコール発酵させる工程と、
を有
し、
前記原材料の全てを仕込む工程において、前記麹及び前記蒸米の合計の使用量に対する前記仕込み水の使用量の比率が、150質量%~200質量%であり、
前記冷却する工程で前記仕込み水を添加した後の仕込品における、前記麹及び前記蒸米の合計の使用量に対する仕込み水の合計の使用量の比率が、230質量%~280質量%である清酒の製造方法。
【請求項2】
前記アルコール発酵させる工程において、温度変化を7℃~11℃の低温域に抑えて前記アルコール発酵を行う、請求項1に記載の清酒の製造方法。
【請求項3】
前記糖化させる工程において、前記仕込み水の使用量に対する前記酵素剤の使用量の比率が、0.01質量%~0.02質量%である、請求項1又は請求項2に記載の清酒の製造方法。
【請求項4】
前記アルコール発酵させる工程の後に前記醪を搾る工程を有し、
前記原材料を仕込む工程が完了した時点から前記搾る工程の開始時点までの発酵期間が、720時間以上である、請求項1~
請求項3のいずれか1項に記載の清酒の製造方法。
【請求項5】
前記仕込む工程において、前記仕込み水の使用量に対する前記乳酸の使用量の比率が、0.08質量%~0.1質量%である、請求項1~
請求項4のいずれか1項に記載の清酒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、清酒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、清酒の濃厚さ又は芳醇さを改善するための技術についての種々の提案がなされている。近年は、肉料理が中心の食生活への変化、又は健康志向に合わせた低カロリーもしくは低糖質な食生活への変化など、食事情も様々に変遷する状況にある。そのため、食品と清酒との相性についても、食品の種類によって変化し、必ずしも清酒が食品に馴染むものとは言い難い場合もある。
【0003】
様々な食生活の中、例えば、コク、旨味、深みといった味わいに優れた清酒が強く求められることもある。また、例えば、日本酒でありながら白ワインのような趣向の酒質も提案されている。後者の例として、蒸米、こうじ、水、および清酒酵母を仕込んだもろみを醸酵、熟成させ、熟成したもろみ(醪)を上槽して清酒を得るに際し、麹として白こうじを用い、清酒酵母としてワイン酵母を用いるワイン風清酒の製造法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明を含めた従来の技術では、発酵が安定的に行われ難く、所望としている酒質に制御することが容易でないという課題がある。
【0006】
本開示は、上記に鑑みなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、発酵を安定化し、目的の酒質を得ることができる清酒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 蒸米、麹、酵素剤、乳酸、及び仕込み水を含む原材料の全てを仕込む工程と、
仕込品を40℃~60℃の温度範囲で糖化させる工程と、
糖化終了の時点以降に仕込み水を前記仕込品に添加し、29℃まで品温を冷却する工程と、
冷却後の前記仕込品にワイン酵母を含む酒母を添加して醪とし、前記醪を15℃以下の温度範囲でアルコール発酵させる工程と、を有する清酒の製造方法である。
【0008】
<2> 前記アルコール発酵させる工程において、温度変化を7℃~11℃の低温域に抑えて前記アルコール発酵を行う、前記<1>に記載の清酒の製造方法である。
【0009】
<3> 前記糖化させる工程において、前記仕込み水の使用量に対する前記酵素剤の使用量の比率が、0.01質量%~0.02質量%である、前記<1>又は前記<2>に記載の清酒の製造方法である。
【0010】
<4> 前記糖化させる工程において、前記麹及び前記蒸米の合計の使用量に対する前記仕込み水の使用量の比率が、150質量%~200質量%である、前記<1>~前記<3>のいずれか1つに記載の清酒の製造方法である。
【0011】
<5> 前記冷却する工程で前記仕込み水を添加した後の仕込品における、前記麹及び前記蒸米の合計の使用量に対する仕込み水の合計の使用量の比率が、230質量%~280質量%である、前記<1>~前記<4>のいずれか1つに記載の清酒の製造方法である。
【0012】
<6> 前記アルコール発酵させる工程の後に前記醪を搾る工程を有し、
前記原材料を仕込む工程が完了した時点から前記搾る工程の開始時点までの発酵期間が、720時間以上である、前記<1>~前記<5>のいずれか1つに記載の清酒の製造方法である。
【0013】
<7> 前記仕込む工程において、前記仕込み水の使用量に対する前記乳酸の使用量の比率が、0.08質量%~0.1質量%である、前記<1>~前記<6>のいずれか1つに記載の清酒の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施形態によれば、発酵を安定化し、目的の酒質を得ることができる清酒の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の清酒の製造方法の一例を示す流れ図である。
【
図2】従来の清酒の製造方法の一例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本開示の内容について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0017】
本開示において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0018】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0019】
なお、本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0020】
以下、本開示の清酒の製造方法について詳細に説明する。
本開示の清酒の製造方法は、蒸米、麹、酵素剤、乳酸、及び仕込み水を含む原材料の全てを仕込む工程(以下、仕込工程ともいう。)と、仕込品を40℃~60℃の温度範囲で糖化させる工程(以下、糖化工程ともいう。)と、糖化終了の時点以降に仕込み水を前記仕込品に添加し、29℃まで品温を冷却する工程(以下、冷却工程ともいう。)と、冷却後の前記仕込品にワイン酵母を含む酒母を添加して醪とし、前記醪を15℃以下の温度範囲でアルコール発酵させる工程(以下、アルコール発酵工程ともいう。)と、を有している。本開示の清酒の製造方法は、必要に応じて、更に他の工程を有していてもよい。
【0021】
上述のように、従来から、日本酒でありながら白ワインのような趣向の酒質も提案されているが、清酒を製造するにあたり、発酵を安定化し、目的とする酒質を得ることができる製造法が提案されるまでに至っていないのが実情である。
本開示は、上記に鑑み、麹及び酵素剤の2種の酵素を(好ましくは一定の量で)用い、かつ、一段仕込みとした際に使用される量の蒸米と、ワイン酵母と、醪の温度範囲と、を組み合わせることで、低温下でも発酵を進行させて発酵の安定化を図り、これにより目的の酒質が得られるというものである。
つまり、醪の中では麹菌の造り出す糖化酵素が蒸米のでんぷんをブドウ糖に変えるいわゆる「糖化発酵」という作用と、ワイン酵母がブドウ糖をアルコールに変える「アルコール発酵」という2つの作用が並行して進行し、発酵の安定化が図られ、酒質の制御が行いやすくなっている。
【0022】
以下、本開示の清酒の製造方法について詳述する。
【0023】
-仕込工程-
仕込工程は、蒸米、麹、酵素剤、乳酸、及び仕込み水を含む原材料の全てを仕込む工程である。従来の清酒の製造方法では、原材料を三段階に分けて仕込む三段仕込みが一般に行われるが、本工程では、原材料の全てを一度に仕込む一段仕込みを行う。本工程において、原材料の全てを仕込む方法については特に制限されず、原材料の各々を任意の順で添加してもよい。
【0024】
蒸米は、白米から作られる。また、蒸米と麹菌から麹が作られる。
麹を用いることで、蒸米のデンプンを糖に変化させる(糖化)。そして、本開示では、後述する酵素剤を用いることで、麹の使用量を減らすことができる。麹の仕込み量としては、総米に対して、1質量%~10質量%の範囲が好ましく、3質量%~7質量%の範囲がより好ましい。麹自体の製造が清酒の製造過程においてコスト、労力の掛かる工程であるため、麹の使用量を上記範囲に減らせると、少量製造にも適する。また、麹の使用量が上記範囲内であると、製造される清酒は、口当たりが良く、より軽やかな味わいのものになる。
本開示では、麹と酵素剤との2種の酵素を用いる。麹及び酵素剤は、それぞれ複数種を混合してもよい。
【0025】
一段仕込みに使用する蒸米の量は、醪初期の酵母が活動するのに相応しく、酵母を制御しやすい。例えば三段仕込みの場合の蒸米の量では、醪初期から溶かし過ぎることになりかねず、酵母の活動が進み過ぎる結果、甘味やワイン香味がバランス良く得られ難い。本開示における仕込み水の量としては、麹米及び蒸米の合計量に対して、230質量%~280質量%が好ましい。
【0026】
麹は、蒸米を溶解(液化)し、ワイン酵母を含む酒母を造る際、ワイン酵母を健全かつ大量に培養することができ、栄養源となる糖分を蒸米から生成する。
【0027】
酵素剤は、蒸米を工程の初期段階から良好に溶解することができる。これにより、後述する醪期間の初期段階で蒸米の大部分の溶解を実現することができ、低温域での発酵を、発酵させる過程の初期段階から進行させることができる。これにより、後述のワイン酵母も、低温域において、麹による糖化によってワイン酵母が栄養を摂取し、活発に活動しやすくなることで、ワイン酵母の特性が引き出されることになる。酵素剤とワイン酵母の組み合わせにより、酵素剤による糖化とワイン酵母による発酵とが相俟って、ワインのような香味の製造の安定化が図られる。
【0028】
酵素剤としては、アミラーゼ、グルコアミラーゼ等が挙げられる。
【0029】
麹米の使用量としては、総米の質量に対して、3質量%~7質量%が好ましい。
【0030】
蒸米の硬さも、酵素剤の効力に影響を与えることがある。そのため、蒸米の硬さを目的とする酒質に向けて調整することが好ましい。
【0031】
酵素剤の仕込み量としては、後述の糖化工程で糖化を行う仕込み水の使用量に対して、0.01質量%~0.02質量%が好ましく、0.013質量%~0.018質量%がより好ましい。仕込み水に対する酵素剤の使用量が上記範囲内であると、適度な糖化の効果を安定して十分に引き出せるという利点がある。
【0032】
更には、発酵を安定的に進行させ得る観点から、麹の仕込み量が総米に対して3質量%~7質量%であり、かつ、糖化工程で糖化を行う仕込み水に対する酵素剤の量が、0.01質量%~0.02質量%であることが好ましい。
【0033】
乳酸は、ワインのような酸味の付与のために原材料の成分として仕込まれる。
乳酸の仕込み量としては、仕込み水の使用量に対して、0.08質量%~0.1質量%が好ましい。
【0034】
仕込み水としては、麹及び前記蒸米の合計の使用量に対して、150質量%~200質量%が好ましく、170質量%~190質量%がより好ましい。
【0035】
本開示における仕込工程では、蒸米、麹、酵素剤、乳酸、及び仕込み水を含む原材料の全てを仕込む。つまり、一段仕込みにより原材料の仕込みを行う。
清酒の製造では、アルコール発酵に必要な酵母を増やす目的で製造した酒母という溶液に、原料となる蒸米、麹、及び水を3回に分けて添加して総量とする三段仕込みが一般に行われる。三段仕込みを行う理由は、蒸米、麹、及び水を一度に添加してしまうと、酒母に含まれるワイン酵母が急激に減少し、ワイン酵母への糖分の栄養供給も遅くなる結果、腐造の恐れがあるためである。これに対して、本開示では、酵素剤を使用して糖化を速く進行させるため、ワイン酵母の栄養源となる糖分が速くワイン酵母へ供給される。そのため、三段仕込みを行う必要がない。本開示では、酵素剤の使用と一段仕込みとを組み合わせることで、効率よく糖化を行うことができる。また、三段仕込みの手間を減らす効果もある。
【0036】
-糖化工程-
糖化工程は、仕込品を40℃~60℃の温度範囲で糖化させる工程である。
本工程で米糖化液が得られる。本工程では、仕込品の温度を比較的高い温度に保ち、酵素の働きを強める。ここでは、麹と酵素剤との2種の酵素のうち、後者が低温域で働きを強めるとともに、前者の麹が比較的高温域で働きを強める。即ち、2つの酵素が異なる場面で働くので、蒸米の溶解を安定的に行わせることができる。これにより、糖化を促すことができ、甘味を良好に付与することができる。
【0037】
糖化させる温度範囲は、40℃~60℃の範囲であり、45℃~55℃の範囲がより好ましい。
【0038】
-冷却工程-
冷却工程は、糖化終了の時点以降に、仕込み水を、糖化終了の時点以降の仕込品に添加し、29℃まで品温を冷却する工程である。
【0039】
本工程では、仕込み水を添加することによって、仕込品の温度を29℃まで冷却する。これにより、ワイン酵母の増殖に最適な品温の仕込品に酒母を添加することができる。仕込品の温度をさらに15℃まで冷却することが好ましい。
【0040】
糖化終了時点とは、酵素剤を添加後、糖化時間が5時間経過した時点のことである。糖化終了は、撹拌作業により仕込品の溶解度を感知することによって終了時点であることを確認することができる。
【0041】
糖化終了時点の仕込品の温度と仕込み水を添加して冷却した仕込品の温度との差としては、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。
【0042】
冷却後の仕込品の温度が29℃を超えている状態(仕込品の温度>29℃)であると、ワイン酵母の増殖が阻害され温度帯によってはワイン酵母が死滅する。
【0043】
冷却工程で仕込み水を添加した後の仕込品における、仕込み水の合計の使用量としては、麹及び蒸米の合計の使用量に対して、230質量%~280質量%であることが好ましく、250質量%~270質量%がより好ましい。仕込み水の合計の使用量が上記範囲内であると、麹、蒸米の濃度が定まり目的とするワインのような酒質(酸度3.0~5.0、日本酒度-10~-30、アルコール度数10~13%)が安定的に製造できるという利点がある。
【0044】
-アルコール発酵工程-
アルコール発酵工程は、冷却後の仕込品にワイン酵母を含む酒母を添加して醪とし、醪を15℃以下の温度範囲でアルコール発酵させる工程である。
【0045】
酒母は、アルコール発酵(醪の発酵)を促すワイン酵母を培養して得られたものである。酒母を添加することにより、醪を得て、醪をアルコール発酵させる。本開示では、ワイン酵母の作用により糖(特にブドウ糖)からエタノールを生成する。
【0046】
本開示におけるアルコール発酵は、醪を15℃以下の温度範囲として行われる。醪の温度を、従来の温度域よりも低い15℃以下とすることで、比較的緩慢に発酵させることができる。そして、麹と酵素剤との2種を併用するので、低温域における発酵を安定的に行わせることができる。
【0047】
上記の観点から、上述の糖化工程では、40℃~60℃の比較的高い温度域に維持してワイン酵母の増殖を促しながら糖化等を進め、かつ、糖化終了後には、低温域に温度を調節して、15℃以下で醪の発酵を行う。
【0048】
15℃以下で発酵は、温度の著しい変化を伴わずに行うことが好ましく、温度変化を7℃~11℃の温度域に抑えて行うことが好ましい。
更には、15℃以下の温度域において、設定温度-1℃~設定温度+1℃の温度を保持して行うことがより好ましい。これにより、発酵をより安定的に行うことができる。
【0049】
原材料を仕込む仕込工程が完了した時点から醪を搾る搾り工程の開始時点までの発酵期間としては、720時間以上であることが好ましい。醪を発酵させる場合、発酵期間を720時間以上にすることで、発酵をゆっくり、かつ、安定的に終えることができる。これにより、香味を醸し出し、最終的に得られる清酒に雑味や不快臭が生じることが抑えられる。発酵期間としては、800時間以上であることがより好ましい。
【0050】
-搾り工程-
本開示の清酒の製造方法は、アルコール発酵させる工程の後に醪を搾る工程(以下、「搾り工程」ともいう。)を有していることが好ましい。
発酵が進んだ後には、通常、圧搾機等を用いて搾ることにより、清酒と酒粕とに分離される。これを「上槽工程」ということがある。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
図1に製成酒を製造するプロセスを示す。
まず、通常の清酒製造と同法にて製造した麹米17kgに汲み水(仕込み水)67L、及び乳酸1kgを加えた混合液にワイン酵母(CY-3079)を添加、培養し、酒母を製造した。
【0053】
(仕込工程)
次に、蒸米1140kgと、麹米43kgと、汲み水(仕込み水)2093L(リットル)と、酵素剤としてスミチーム(新日本化学工業社製;グルコアミラーゼ及びα-アミラーゼ含有)300g及びβ-アミラーゼF「アマノ」(天野エンザイム社製;グルコアミラーゼ含有)50gと、乳酸2kgと、の全てを仕込んで液化し、仕込品を得た。汲み水に対する乳酸の比率は、0.09質量%であった。
【0054】
(糖化工程)
得られた仕込品を55℃で5時間かけて糖化させ、米糖化液を得た。このとき、汲み水に対する酵素剤の比率は、0.016質量%であった。また、麹米及び蒸米の合計の使用量に対する仕込み水の使用量の比率は、180質量%であった。
【0055】
(冷却工程)
5時間の糖化を終了した後、糖化後の米糖化液に汲み水(仕込み水)1000Lを添加することによって、米糖化液の温度(品温)を29℃まで下げた。
ここで、麹米及び蒸米の合計の使用量に対する仕込み水の使用量の比率は、263質量%であった。
【0056】
(アルコール発酵工程)
そして、冷却された米糖化液に対し、酒母として上記ワイン酵母84Lを添加して醪とした。この醪を7℃~11℃の温度範囲(温度変化=-1℃~+1℃)で発酵させた。888時間(37日間)の発酵期間の中で目的とする成分(日本酒度-20~-5、酸度3.0~5.0、アルコール度数10%~13%)の醪を製造することができた。
【0057】
(搾り工程)
アルコール発酵を終了した後、醪を圧搾機を用いて搾り、清酒と酒粕とに分離した。
以上のようにして、ワイン酵母で醸造した清酒を製造した。
【0058】
[比較例1]
図2に製成酒を製造する従来のプロセスを示す。
まず、通常の清酒の製造通り製造した麹米60kgに、汲み水(仕込み水)240L、及び乳酸1kgを加えた混合液に清酒酵母を添加、培養し、酒母を製造した。
【0059】
(仕込み工程)
上記製造した酒母に添の仕込みとして麹米90kg、蒸米360kg、及び汲み水460Lを加えて1回目の仕込みを行い、酵母の健全な増殖を促すため踊として1日置き、仲の仕込みとして麹米150kg、蒸米810kg、及び汲み水1000Lを加えて2回目の仕込みを行い、留の仕込みとして麹米240kg、蒸米1290kg、及び汲み水2100Lを加えて3回目の仕込みを行うことにより、3段仕込みによる醪の製造を行った。
【0060】
(アルコール発酵工程)
この醪を5℃~15℃の温度範囲で発酵させ、600時間(25日間)の発酵期間の中で目的とする成分(日本酒度+1~+6、酸度2.0~3.0、アルコール度数17%~19%)の醪を製造した。
【0061】
(搾り工程)
アルコール発酵を終了した後、醪を圧搾機を用いて搾り、清酒と酒粕とに分離した。
以上のようにして、清酒酵母で醸造した清酒を製造した。
【0062】
[評価]
-1.甘味-
製造した実施例1及び比較例1(通常の純米酒)について、12名のパネラーに試飲してもらって甘味のパネルテストを行い、以下の評価基準にしたがって評価した。
1点:ワイン並の甘味が感じられる。
2点:ワインより弱いものの、甘味が感じられる。
3点:僅かに甘味が感じられる。
4点:ワイン風味に比べて甘味が乏しい。
5点:甘味がほとんど認められない。
【0063】
-2.ワインの香味-
製造した実施例1及び比較例1(通常の純米酒)について、12名のパネラーに試飲してもらって味覚のパネルテストを行い、以下の評価基準にしたがってワインの香味を評価した。
1点:良好なワイン風味を有している。
2点:弱いワイン風味を有している。
3点:僅かにワイン風味を有している。
4点:ワイン風味が乏しい。
5点:ワイン風味がほとんど認められない。
【0064】
【0065】
表1に示すように、実施例1の製成酒は、従来の製法で製造した比較例1の製成酒に比べて、甘味が豊かで、ワイン風味も良好であった。