(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】アーチェリーハンドルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B23P 15/00 20060101AFI20240716BHJP
B23P 23/00 20060101ALI20240716BHJP
F41B 5/00 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B23P15/00 Z
B23P23/00 Z
F41B5/00 E
(21)【出願番号】P 2020192103
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2020004751
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020190577
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508225853
【氏名又は名称】株式会社西川精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 喜久
(72)【発明者】
【氏名】栗林 善行
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0085961(US,A1)
【文献】特開昭63-200937(JP,A)
【文献】特表2005-515907(JP,A)
【文献】特開平10-076437(JP,A)
【文献】特開平10-026496(JP,A)
【文献】特開平04-316993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 15/00
B23P 23/00、02
F41B 5/00
B23B 3/16、22
B23B 11/00
B23B 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者が、CNC旋盤の機能を有する第1工作機械に金属ブロックを工作物として取り付ける第1取付工程と、
前記第1工作機械が、設計されたアーチェリーハンドルの形状に基づき作成された加工プログラムである第1プログラムに従い、前記工作物の取り外し及び取り付けを挟むことなく前記工作物に対する加工を行い、前記アーチェリーハンドルの上端部分及び下端部分を除く部分の右側部分と左側部分の成形を行う第1成形工程と、
作業者が、前記第1成形工程を経た前記工作物を前記第1工作機械から取り外す第1取外工程と、
作業者が、前記第1取外工程において前記第1工作機械から取り外された前記工作物をフライス盤の機能を有する第2工作機械に取り付ける第2取付工程と、
前記第2工作機械が、前記工作物のうち前記第1成形工程において未成形の部分の成形を行い前記アーチェリーハンドルの成形を完成させる第2成形工程と、
作業者が、前記第2成形工程を経た前記工作物を前記第2工作機械から取り外す第2取外工程と
を備え、
前記アーチェリーハンドルの上端部分及び下端部分は、前記第1成形工程において前記第1工作機械が前記工作物の保持のために加工を行うことができない部分である
アーチェリーハンドルの製造方法。
【請求項2】
前記第2工作機械はCNC工作機械であり、設計された前記アーチェリーハンドルの形状に基づき作成された加工プログラムである第2プログラムに従い前記第2成形工程における前記工作物に対する加工を行う
請求項1に記載のアーチェリーハンドルの製造方法。
【請求項3】
前記第1成形工程において、前記第1工作機械は前記工作物の中心から周辺に向かう順序で前記工作物に対する加工を行う
請求項1又は2に記載のアーチェリーハンドルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーチェリーハンドルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アーチェリーのハンドル(「ライザー」ともいう)(以下、アーチェリーのハンドル又はライザーを「アーチェリーハンドル」という)は、高い成形精度と高い剛性と軽量性を兼ね備えることが望ましい。そのため、素材としてはアルミやマグネシウムといった軽金属や繊維強化樹脂が広く用いられている。さらに、剛性を維持しつつ軽量化を図るために、左右方向に貫通する複数の穴を有するアーチェリーハンドルが普及している。なお、本願においてアーチェリーハンドルの左右上下前後をいう場合、ユーザがアーチェリーを保持してドローイングしている状態におけるユーザから見た左右上下前後をいうものとする。
【0003】
例えば、特許文献1には、素材として繊維強化樹脂を用い、左右方向に貫通する複数の穴を有するアーチェリーハンドルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルミ、マグネシウム等の金属を素材としてアーチェリーハンドルを製造するために採用される加工方法としては、大きく鋳造と切削加工(いわゆる削り出し)がある。鋳造により製造されるアーチェリーハンドルは高い強度が得られない、という問題がある。そのため、近年では金属ブロックに対し切削加工を行うことにより製造されたアーチェリーハンドルが広く普及している。
【0006】
本願発明者が知る限り、切削加工により金属製のアーチェリーハンドルを製造するにあたり従来採用されている方法は、マシニングセンタと呼ばれる、ATC(Automatic Tool Changer、自動工具交換装置)を備えるCNC(Computer Numerical Control)フライス盤を用いて、テーブル上に固定した金属ブロックに対しフライス加工を行う方法である。
【0007】
図19は3軸マシニングセンタを用いて行われる、従来技術に係るアーチェリーハンドルの製造方法の手順を説明するための図である。
【0008】
作業者は、三次元CAD/CAM/CAEソフトウェアを用いて、アーチェリーハンドルの三次元形状の設計を行い、マシニングセンタに対し工作物を設計した三次元形状となるように加工させるための指示を記載した加工プログラム(NCプログラム)を作成する。その際、作業者は、アーチェリーハンドルの右側部分を加工するための加工プログラム(以下、「右側用加工プログラム」という)と、アーチェリーハンドルの左側部分を加工するための加工ブログラム(以下、「左側用加工プログラム」という)とを作成する。
【0009】
続いて、作業者は、3軸マシニングセンタに右側用加工プログラムを読み込ませる。また、作業者は、3軸マシニングセンタのテーブルに加工前の工作物である金属ブロックを、バイス等の保持具を用いて固定する。
図19(A)は、加工前の工作物8である金属ブロックが3軸マシニングセンタ(この例では、立形マシニングセンタ)のテーブル9に固定されている状態を示している。なお、
図19(A)~(D)において工作物8を固定するための保持具の図示は省略されている。
【0010】
続いて、作業者は、3軸マシニングセンタに対し所定の操作を行って、加工を実行させる。その操作に応じて、3軸マシニングセンタは、右側用加工プログラムに従い、x軸方向及びy軸方向における刃物工具の位置決めをした後、刃物工具を回転させながら工作物8に対しz軸方向に押し当てることで、アーチェリーハンドルの右側部分の成形を行う。
図19(B)は、アーチェリーハンドルの右側部分の成形が完了した状態の工作物8を示している。
【0011】
続いて、作業者は、3軸マシニングセンタに左側用加工プログラムを読み込ませる。また、作業者は、
図19(B)の状態の工作物8をテーブル9から取り外し、工作物8の上下をひっくり返して再びテーブル9に固定し、
図19(C)の状態とする。
【0012】
続いて、作業者は、3軸マシニングセンタに対し所定の操作を行って、加工を実行させる。その操作に応じて、3軸マシニングセンタは、左側用加工プログラムに従い工作物8に対し加工を行うことで、アーチェリーハンドルの左側部分の成形を行う。
図19(D)は、アーチェリーハンドルの左側部分の成形が完了した状態の工作物8を示している。
【0013】
作業者は、
図19(D)の状態の工作物8をテーブル9から取り外した後、表面に対する研磨加工、塗装を行い、グリップ等の部品を取り付けて、アーチェリーハンドルを完成させる。
【0014】
なお、上述した方法においては、3軸マシニングセンタを用いる場合を例に説明したが、5軸マシニングセンタや、同時5軸マシニングセンタを用いることで、より複雑な形状のアーチェリーハンドルを製造することができる。また、上述した方法においては、アーチェリーハンドルの右側部分の成形の後、左側部分の成形が行われるものとしたが、これらの順序が逆であってもよい。
【0015】
上述した従来技術に係る方法による場合、アーチェリーハンドルの右側部分(又は左側部分)の成形が完了した後、左側部分(又は右側部分)の成形を行うために、工作物をテーブルから取り外し、異なる姿勢で工作物をテーブルに固定し直す必要がある。すなわち、右側部分の成形のための加工と、左側部分の成形のための加工との間に、工作物の取り外しと取り付けが挟まれる。
【0016】
その工作物の固定のし直しにおいて、理想的な位置から少しでもずれた位置に工作物が固定されると、完成したアーチェリーハンドルの右側部分と左側部分に、x軸方向及びy軸方向における位置のずれが生じる。このずれを完全に排除することは困難である。そのため、完成したアーチェリーハンドルに意図せぬ捻れが生じてしまう、という問題がある。
【0017】
上述した事情に鑑み、本発明は、設計された形状に照らし右側部分と左側部分の位置ずれのないアーチェリーハンドルの成形を可能とする手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決するために、本発明は、作業者が、CNC旋盤の機能を有する第1工作機械に金属ブロックを工作物として取り付ける第1取付工程と、前記第1工作機械が、設計されたアーチェリーハンドルの形状に基づき作成された加工プログラムである第1プログラムに従い、前記工作物の取り外し及び取り付けを挟むことなく前記工作物に対する加工を行い、前記アーチェリーハンドルの上端部分及び下端部分を除く部分の右側部分と左側部分の成形を行う第1成形工程と、作業者が、前記第1成形工程を経た前記工作物を前記第1工作機械から取り外す第1取外工程と、作業者が、前記第1取外工程において前記第1工作機械から取り外された前記工作物をフライス盤の機能を有する第2工作機械に取り付ける第2取付工程と、前記第2工作機械が、前記工作物のうち前記第1成形工程において未成形の部分の成形を行い前記アーチェリーハンドルの成形を完成させる第2成形工程と、作業者が、前記第2成形工程を経た前記工作物を前記第2工作機械から取り外す第2取外工程とを備え、前記アーチェリーハンドルの上端部分及び下端部分は、前記第1成形工程において前記第1工作機械が前記工作物の保持のために加工を行うことができない部分であるアーチェリーハンドルの製造方法を第1の態様として提案する。
【0019】
第1の態様に係るアーチェリーハンドルの製造方法によれば、設計された形状に照らし右側部分と左側部分の位置ずれのないアーチェリーハンドルの成形が行われる。
【0020】
第1に態様に係るアーチェリーハンドルの製造方法において、前記第2工作機械はCNC工作機械であり、設計された前記アーチェリーハンドルの形状に基づき作成された加工プログラムである第2プログラムに従い前記第2成形工程における前記工作物に対する加工を行う、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0021】
第2の態様に係るアーチェリーハンドルの製造方法によれば、上端部分と下端部分の加工精度が高いアーチェリーハンドルが製造される。
【0022】
第1又は第2に態様に係るアーチェリーハンドルの製造方法において、前記第1成形工程において、前記第1工作機械は前記工作物の中心から周辺に向かう順序で前記工作物に対する加工を行う、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0023】
第3の態様に係るアーチェリーハンドルの製造方法によれば、工作物のうち、先に加工されて強度が低下している部分が、その後の工作物に対する加工のためにかけられる力によって変形する危険性が低下する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、設計された形状に照らし右側部分と左側部分の位置ずれのないアーチェリーハンドルの成形が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態に係る製造方法のフローを例示した図。
【
図2】一実施形態に係る製造方法により製造されるアーチェリーハンドルの形状を例示した図。
【
図3】一実施形態に係る製造方法において把持部が溶接された状態の金属ブロックの例を示した写真。
【
図4】一実施形態に係る製造方法において同時5軸複合工作機械に取り付けられた状態の金属ブロックを示した写真。
【
図5】一実施形態に係る製造方法において同時5軸複合工作機械により加工が行われている状態の工作物を示した写真。
【
図6】一実施形態に係る製造方法において同時5軸複合工作機械による成形が完了した状態の工作物を示した写真。
【
図7】一実施形態に係る製造方法において同時5軸複合工作機械から取り外された状態の工作物を示した写真。
【
図8】一実施形態に係る製造方法において把持部及び把持部に連続する不要部分から分断された工作物の本体部分を示した写真。
【
図9】一実施形態に係る製造方法において同時5軸マシニングセンタから取り外された工作物を示した写真。
【
図10】一実施例において設計したアーチェリーハンドルの三次元形状を示した図。
【
図11】一実施例において工作物が同時5軸複合工作機械に取り付けられた状態を示した写真。
【
図12】一実施例において同時5軸複合工作機械により途中まで加工が行われた状態の工作物を示した写真。
【
図13】一実施例において同時5軸複合工作機械により途中まで加工が行われた状態の工作物を示した写真。
【
図14】一実施例において同時5軸複合工作機械により加工が完了した状態の工作物を示した写真。
【
図15】一実施例において同時5軸複合工作機械により加工が完了した状態の工作物を示した写真。
【
図16】一実施例において三次元測定機を用いて精度チェックが行われている状態のアーチェリーハンドルの本体部分を示した写真。
【
図17】一実施例において部品が取り付けられて完成した状態のアーチェリーハンドルを示した写真。
【
図18】一実施例において部品が取り付けられて完成した状態のアーチェリーハンドルを示した写真。
【
図19】従来技術に係るアーチェリーハンドルの製造方法の大まかな手順を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施形態]
以下、本発明の一実施形態に係るアーチェリーハンドルの製造方法(以下、「製造方法M」という)を説明する。
図1は製造方法Mのフローを例示した図である。以下に
図1のフローに従い、製造方法Mを説明する。
【0027】
製造方法Mには、同時5軸複合工作機械(第1工作機械の一例)と同時5軸マシニングセンタ(第2工作機械の一例)が用いられる。
【0028】
複合工作機械とは、旋盤加工とフライス加工の両方を行えるCNC工作機械を意味する。すなわち、複合工作機械は、工作物の回転と、刃物工具の回転の両方を行うことができる。また、5軸複合工作機械とは、刃物工具と工作物の位置関係を、直交座標系におけるX軸、Y軸、Z軸の3つの直線軸の方向における移動と、2つの回転軸(例えば、X軸とZ軸)の周りにおける回転とにより変化させることができる複合工作機械を意味する。また、同時5軸複合工作機械とは、3つの直線軸方向の移動と、2つの回転軸周りの回転とを同期させて同時に行うことができる5軸複合工作機械を意味する。
【0029】
5軸マシニングセンタとは、刃物工具と工作物の位置関係を、直交座標系におけるX軸、Y軸、Z軸の3つの直線軸の方向における移動と、2つの回転軸(例えば、X軸とZ軸)の周りにおける回転とにより変化させることができるマシニングセンタを意味する。また、同時5軸マシニングセンタとは、3つの直線軸方向の移動と、2つの回転軸周りの回転とを同期させて同時に行うことができる5軸マシニングセンタを意味する。
【0030】
まず、作業者は、三次元CAD/CAEソフトウェアを用いて、製造するアーチェリーハンドル(以下、「アーチェリーハンドルH」という)の形状を設計する(ステップS01:設計工程)。
図2は作業者により設計されたアーチェリーハンドルHの形状を例示した図である。なお、
図2(A)は後側面が上向きとなる姿勢のアーチェリーハンドルHを示しており、
図2(B)は前側面が上向きとなる姿勢のアーチェリーハンドルHを示している。また、
図2(C)は右側面が上向きとなる姿勢のアーチェリーハンドルHを示しており、
図2(D)は左側面が上向きとなる姿勢のアーチェリーハンドルHを示している。
【0031】
続いて、作業者は、三次元CAD/CAEソフトウェアを用いて設計したアーチェリーハンドルHの形状に金属ブロックをCNC工作機械に加工させるための加工プログラムを、三次元CAMソフトウェアを用いて作成する(ステップS02:プログラム作成工程)。なお、ステップS02において用いられる三次元CAMソフトウェアは、ステップS01において用いられる三次元CAD/CAEソフトウェアと統合されたソフトウェアであってもよい。
【0032】
ステップS02において、作業者は、以下の2つの加工プログラムを作成する。
第1プログラム:同時5軸複合工作機械に対し、工作物に対する加工により、アーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分を除く部分の成形を行わせるための手順を示す加工プログラム。
第2プログラム:同時5軸マシニングセンタに対し、工作物に対する加工により、アーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分の成形を行わせるための手順を示す加工プログラム。
【0033】
なお、アーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分とは、同時5軸複合工作機械が工作物を保持する部分及びその近辺の部分であり、同時5軸複合工作機械が加工を行うことができない部分を意味する。
【0034】
作業者は、ステップS01及びステップS02の作業と並行して、アーチェリーハンドルHの素材となる金属ブロックの長手方向において互いに対向する2つの端面上に、例えばTIG(Tungsten Inert Gas)溶接機を用いて、円柱形状の金属を把持部として溶接する(ステップS03:溶接工程)。
図3は、把持部が溶接された状態の金属ブロックの例を示している。
【0035】
続いて、作業者は、第1プログラムを同時5軸複合工作機械に設定する(ステップS04:第1プログラム設定工程)。
【0036】
続いて、作業者は、ステップS03において金属ブロックに溶接された把持部を同時5軸複合工作機械のチャックに把持させることによって、金属ブロックを同時5軸複合工作機械に工作物として取り付ける(ステップS05:第1取付工程)。
図4は、同時5軸複合工作機械に取り付けられた状態の金属ブロックを示している。
【0037】
続いて、作業者は、同時5軸複合工作機械に所定の操作を行い、工作物に対する加工を実行させる。この操作に応じて、同時5軸複合工作機械は、第1プログラムに従い工作物に対する加工を行い、アーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分を除く部分の成形を行う(ステップS06:第1成形工程)。
図5は、同時5軸複合工作機械により加工が行われている状態の工作物を示している。
【0038】
ステップS06の工程は、例えば以下の手順に従い行われるが、これに限られない。
(a)エンドミルを用いた粗加工
(b)エンドミルを用いた表面仕上加工
(c)エンドミル、ドリル及びタップを用いた穴加工
(d)エンドミルを用いた分断準備加工
【0039】
図6は、ステップS06が完了し、アーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分を除く部分の成形が完了した状態の工作物を示している。
【0040】
続いて、作業者は、工作物を同時5軸複合工作機械から取り外す(ステップS07:第1取外工程)。
図7は、ステップS07を経て取り外された状態の工作物を示している。
【0041】
続いて、作業者は、メタルソーを用いて、ステップS07において取り外した工作物から把持部及び把持部に連続する不要部分を、工作物の本体部分から分断する(ステップS08:把持部分断工程)。
図8は、ステップS08を経て把持部及び把持部に連続する不要部分から分断された本体部分を示している。
【0042】
続いて、作業者は、第2プログラムを同時5軸マシニングセンタに設定する(ステップS09:第2プログラム設定工程)。
【0043】
続いて、作業者は、ステップS08において把持部及び把持部に連続する不要部分から分断された本体部分を工作物として3軸マシニングセンタに取り付ける(ステップS10:第2取付工程)。
【0044】
続いて、作業者は、同時5軸マシニングセンタに所定の操作を行い、工作物に対する加工を実行させる。この操作に応じて、同時5軸マシニングセンタは、第2プログラムに従い工作物に対する加工を行い、アーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分の成形を行う(ステップS11:第2成形工程)。
【0045】
続いて、作業者は、工作物を同時5軸マシニングセンタから取り外す(ステップS12:第2取外工程)。
図9は、ステップS12において同時5軸マシニングセンタから取り外された工作物を示している。これにより、アーチェリーハンドルHの本体部分の成形が完了する。
【0046】
その後、作業者は、アーチェリーハンドルHの本体部分の表面に対する研磨加工、塗装を行い、グリップ等の部品を取り付けて、アーチェリーハンドルHを完成させる。
【0047】
上述した製造方法Mによれば、同時5軸複合工作機械により、アーチェリーハンドルの右側部分と左側部分の成形が、途中に工作物の取り外しと取り付けを挟むことなく行われる。従って、設計された形状に照らし右側部分と左側部分の位置ずれのないアーチェリーハンドルの成形が行われる。
【0048】
[実施例]
以下に、発明の一実施例に係る製造方法Mを用いて、オートデスク社(Autodesk Inc.、アメリカ合衆国カリフォルニア州)が販売しているCAD/CAM/CAEソフトウェア「Fusion 360」の機能であるジェネレーティブデザインを利用して設計したアーチェリーハンドル(以下、「アーチェリーハンドルSH-02」という)を製造した例を説明する。
【0049】
ハンドルSH-02の製造には、上述したFusion 360と、DMG森精機株式会社(日本国愛知県)が販売している同時5軸複合工作機械「NTX1000 2nd Generation」(以下、「NTX1000」という)と、ヤマザキマザック株式会社(日本国愛知県)が販売する同時5軸マシニングセンタ「VARIAXIS j-600/5X」(以下、「VARIAXIS」という)と、株式会社キーエンス(日本国大阪府)が販売しているハンディプローブ三次元測定機「XM-1200」(以下、「XM-1200」という)とを用いた。
【0050】
まず、Fusion 360を用いて、アーチェリーハンドルSH-02の本体部分の三次元形状を設計した(ステップS01:設計工程)。
図10は、アーチェリーハンドルSH-02の三次元形状を示した図である。
【0051】
続いて、Fusion 360に搭載されているファナック株式会社(日本国山梨県)用のポストプロセッサ(後処理プログラム)を使用し、工作物をアーチェリーハンドルSH-02の三次元形状(上端部分及び下端部分を除く)に加工するための手順を示すNTX1000用の加工プログラム(第1プログラム)と、NTX1000により加工された工作物の上端部分と下端部分をアーチェリーハンドルSH-02の三次元形状に加工するための手順を示すVARIAXIS用の加工プログラム(第2プログラム)を作成した(ステップS02:プログラム作成工程)。なお、ステップS02において、Fusion 360から出力された加工プログラムに対し、不足していた小径穴加工等のためのコードを追加した。
【0052】
続いて、実際に加工を行う前に、工作物、チャック、刃物工具等の干渉がないか、確認した。アーチェリーハンドルSH-02の形状は複雑なため、刃物工具の割り出し、三次元座標の変換等に誤りがないか、入念に確認した。
【0053】
上記の作業と並行して、金属ブロックに把持部を溶接して加工前の工作物を準備した(ステップS03:溶接工程)。
【0054】
続いて、第1プログラムをNTX1000に設定した(ステップS04:第1プログラム設定工程)。
【0055】
続いて、工作物の把持部をNTX1000の両サイドのチャックで固定した(ステップS05:第1取付工程)。
図11は、工作物がNTX1000に取り付けられた状態を示した図である。
【0056】
続いて、NTX1000に加工開始の操作を行い、第1プログラムに従う工作物に対する成形を行わせた(ステップS06:第1成形工程)。なお、ステップS06の工程において、NTX1000が工作物の中心から周辺(チャックにより保持されている部分)に向かい段階的に工作物を切削してゆくように、ステップS02における第1プログラムの作成を行った。そのように工作物の中心から周辺に向かう順序で工作物に対する加工を行わせることで、工作物のうち、先に加工されて強度が低下している部分が、その後の工作物に対する加工のためにかけられる力によって変形する危険性が低下する。
図12及び
図13は、NTX1000により途中まで加工が行われた状態の工作物を示した写真である。また、
図14及び
図15は、NTX1000による加工が完了した状態の工作物を示した写真である。
【0057】
NTX1000による加工が終了すると、NTX1000から工作物を取り外し(ステップS07:第1取外工程)、その両端の把持部及び把持部に連続する不要部分を本体部分から分断した(ステップS08:把持部分断工程)。
【0058】
続いて、第2プログラムをVARIAXISに設定し(ステップS09:第2プログラム設定工程)、ステップS07において把持部及び把持部に連続する不要部分から分断された本体部分を工作物としてVARIAXISに取り付けた(ステップS10:第2取付工程)。
【0059】
続いて、VARIAXISに加工開始の操作を行い、第2プログラムに従う工作物に対する成形を行わせた(ステップS11:第2成形工程)。
【0060】
VARIAXISによる加工が終了すると、工作物をVARIAXISから取り外した(ステップS12:第2取外工程)。これにより、アーチェリーハンドルSH-02の本体部分が出来上がった。
【0061】
その後、アーチェリーハンドルSH-02の本体部分のバリ取りを行った後、XM-1200を用いて、アーチェリーハンドルSH-02の本体部分の精度チェックを行った。
図16は、XM-1200を用いて精度チェックが行われている状態のアーチェリーハンドルSH-02の本体部分を示した写真である。
【0062】
続いて、本来であれば、アーチェリーハンドルSH-02の本体部分に対する防錆処理、装飾のための表面処理、塗装等を行うが、この実施例においてはアーチェリーハンドルSH-02の形状を分かりやすく示すためにそれらの処理は行わず、グリップ等の部品の取り付けを行った。
図17及び
図18は、部品が取り付けられて完成した状態のアーチェリーハンドルSH-02を示した写真である。
【0063】
[変形例]
上述の実施形態は本発明の一具体例であって、本発明の技術的思想の範囲内において様々に変形可能である。以下にそれらの変形の例を示す。なお、以下に示す2以上の変形例が適宜組み合わされてもよい。
【0064】
(1)上述した実施形態においては、作業者として人間を想定しているが、作業者がロボットであってもよい。
【0065】
(2)上述した実施形態においては、直方体形状の金属ブロックに対する把持部の溶接が行われる。把持部を有する金属ブロックの作成方法はこれに限られない。例えば、マシニングセンタ等の工作機械を用いて、直方体形状の金属ブロックに対し切削加工を行い、把持部を備える金属ブロックを作成してもよい。また、金属ブロックに把持部をボルト等で取り付けてもよい。また、同時5軸複合工作機械が直方体形状の金属ブロックをそのまま保持できる場合、金属ブロックに対する把持部の溶接やボルト締め等による取り付け、金属ブロックに対する把持部の成形のための加工等は不要である。
【0066】
(3)上述した実施形態においては、同時5軸複合工作機械がアーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分を除く全ての部分の成形を行う。同時5軸複合工作機械は、工作物の取り外し及び取り付けを挟むことなく当該工作物に対する加工を行い、アーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分を除く部分の右側部分と左側部分を成形する限り、アーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分を除く部分の成形の全てを行う必要はない。例えば、同時5軸複合工作機械がアーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分を除く部分に対する加工のうち、エンドミルを用いた粗加工及び表面仕上加工や、ドリル又はタップを用いた穴加工等の、一部の加工を行わない構成が採用されてもよい。この場合、同時5軸複合工作機械が行わないこれらの加工は、同時5軸マシニングセンタにより行われる。すなわち、同時5軸マシニングセンタは、工作物のうち第1成形工程において未成形の部分の成形を行い、アーチェリーハンドルHの成形を完成させる。
【0067】
(4)上述した実施形態において、
図1に示した製造方法Mを構成する工程の順序は適宜変更されてよい。例えば、同時5軸複合工作機械に対する工作物の取り付け(ステップS05:第1取付工程)の後に、同時5軸複合工作機械に対する第1プログラムの設定(ステップS04:第1プログラム設定工程)が行われてもよい。
【0068】
(5)上述した実施形態において、図に示したアーチェリーハンドルHの形状は例示であって、アーチェリーハンドルHの形状は様々に変更されてよい。
【0069】
(6)上述した実施形態において、第1成形工程における加工には同時5軸複合工作機械が用いられるものとしたが、CNC旋盤(コンピュータにより数値制御される旋盤加工を行える工作機械)の機能を備える工作機械であれば、いずれの種類の工作機械が第1成形工程における加工に用いられてもよい。例えば、同時機能(直線軸方向の移動と回転軸周りの回転を同期させ同時に行う機能)は必ずしも備えなくてよい。また、フライス加工の機能は必ずしも備えなくてよい。また、制御軸の数は1以上のいくつでもよい。第1成形工程における加工に用いられる工作機械に求められるスペックは、アーチェリーハンドルHの形状の複雑さに応じて変化する。ただし、作業効率の観点から、ATC(Automatic Tool Changer、自動工具交換装置)の機能を備える工作機械であることが望ましい。また、第1プログラムの作成の容易さや加工に要する時間の観点から、制御軸の数は3以上が望ましい。
【0070】
(7)上述した実施形態において、第2成形工程における加工には同時5軸マシニングセンタが用いられるものとしたが、フライス盤の機能を備える工作機械であれば、いずれの種類の工作機械が第2成形工程における加工に用いられてもよい。例えば、CNC(コンピュータによる数値制御)の機能は必ずしも備えなくてもよい。アーチェリーハンドルHの上端部分及び下端部分は、中央部分と比較すると要求される加工精度が低いためである。ただし、上端部分及び下端部分の加工精度を高めたい場合、CNCの機能を備える工作機械であることが望ましい。また、制御軸の数は1以上のいくつでもよい。第2成形工程における加工に用いられる工作機械に求められるスペックは、アーチェリーハンドルHの形状の複雑さに応じて変化する。ただし、作業効率の観点から、ATC(Automatic Tool Changer、自動工具交換装置)の機能を備える工作機械であることが望ましい。また、NCの機能を備える場合、第2プログラムの作成の容易さや加工に要する時間の観点から、制御軸の数は3以上が望ましい。