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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】香り付与樹脂成形体製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/50 20060101AFI20240716BHJP
   B29C 45/60 20060101ALI20240716BHJP
   B29B 7/28 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B29C45/50
B29C45/60
B29B7/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021046815
(22)【出願日】2021-03-22
(65)【公開番号】P2022146037
(43)【公開日】2022-10-05
【審査請求日】2023-12-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517110346
【氏名又は名称】株式会社第一精工舎
(74)【代理人】
【識別番号】100164013
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 隆一
(72)【発明者】
【氏名】石田 恭彦
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-137469(JP,A)
【文献】特開2018-188221(JP,A)
【文献】特表2014-531343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/50
B29C 45/60
B29B 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
香り成分を含む香料粉体と熱可塑性樹脂粉とを含む成形用材料を混錬して射出成形により香り付与樹脂成形体を製造する方法において、
射出成形機のシリンダーの内部で回転する成形用スクリューが、連続的に一体として設けられた供給部、圧縮部および計量部とを備え、前記供給部と前記圧縮部とは一条の螺旋状のフライトにより構成されており、
前記圧縮部の前記フライトは、
スクリュー軸方向に螺旋状に形成された複数のサブフライトを有し、前記サブフライトは角部に丸みを有する多角形状からなり、かつ、前記角部が前記スクリュー軸の円周方向にそれぞれ設定された角度に偏って配置されており、
前記角部と前記シリンダーの内面との間隔が最も狭く、前記角部間の中央部と前記シリンダーの内面との間隔が最も大きくなるように形成され、
前記計量部は、
前記スクリュー軸の円周方向に歯車状の凸凹を有する配合整列部を複数設けた構成からなる、
成形用スクリューが配設された射出成形機により成形することを特徴とする香り付与樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮部の前記サブフライトは4個からなり、
それぞれの前記サブフライトは全体として正三角形状であり、前記角部は前記スクリュー軸の円周にそれぞれ30°ずつ偏って配置されたものであることを特徴とする請求項1に記載の香り付与樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記計量部は、複数の前記配合整列部が同一形状からなり、かつその凸凹の位置がそれぞれ一致するように配置されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の香り付与樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記射出成形機のホッパーに前記成形用材料を投入する前に、
前記香料粉体と前記熱可塑性樹脂粉とを含む前記成形用材料のそれぞれを計量してミキシングドラムに投入した後、前記ミキシングドラム中において前記成形用材料をあらかじめ混練することを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の香り付与樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記香料粉体として、液状香料を無機質多孔質材料、合成樹脂材料、および、天然有機材料に吸収させてなるもののいずれかを用いることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の香り付与樹脂成形体の製造方法。
【請求項6】
前記香料粉体として、香りを含有する固形天然有機材料を粉体化して用いることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の香り付与樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂と混合材料とをペレット化せずに粉末状態で成形機に直接投入し、混練・溶融させて射出成形するフリーブレンド方式による香り付与樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油を原料とする樹脂は色々な機能を有する多くの種類が開発されており、かつ加工性に優れることから、工業製品や自動車、さらには家庭用品等、社会のあらゆる分野に幅広く使用されている。さらに近年では、植物等の自然素材を用いた環境にやさしい樹脂も開発され、樹脂製品は今後ともさらに広く普及することが期待される。
【0003】
樹脂を用いて目的とする製品を製造する方法として、熱可塑性樹脂を溶融させて金型に注入して成形加工する射出成形方式がある。射出成形方式は、通常あらかじめ一定の形状に加工された樹脂ペレットをホッパーから投入し、スクリューで出口側に移送しながら溶融・混練して、型締めされた金型に注入して成形する方式である。樹脂だけでは得られない機能性を得るために、樹脂と混合する材料として、金属材料、木粉などの有機材料、石粉などの無機材料など、色々な材料が用いられている。
ヒノキやヒバの香りを有する木粉や香料を担持させた粉末と熱可塑性樹脂とを用いて射出成形方式により香り付与樹脂成形体を製造する方法が開発されている。
【0004】
例えば、香料を担持させた多孔質粉体と熱可塑性樹脂ペレットとを射出成形機に投入して、溶融した熱可塑性樹脂中に上記の多孔質粉体を分散させて成形体とする方法が開示されている。多孔質粉体としては、花弁状構造を有する珪酸カルシウムを用いること、及び、香りを担持した多孔質粉体を2%とし、樹脂ペレットを98%として成形機に投入して成形することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、合成樹脂と繊維質材料と芳香剤等の機能剤とを混合して射出成形した樹脂製品が開示されている。繊維質材料の繊維中に芳香剤等の機能剤が含有されていて、成形品から少しずつ放出されるので長期間にわたり芳香性を持続することができる。具体的には、繊維質材料と合成樹脂とを混錬して押出機により板状に延ばしてから数mm角のペレットに切断する。このペレットに芳香剤等の機能剤を含侵させて後、射出成形をすることが示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、熱可塑性樹脂ペレットと液状芳香剤とを混合して、熱可塑性樹脂ペレット中に液状芳香剤を含侵させて後に、このペレットを射出成形する製造方法も開示されている。含侵させる方法としては、熱可塑性樹脂ペレットと液状芳香剤とを袋に入れ、密封して1時間以上常温で放置することで液滴状の芳香剤を熱可塑性樹脂ペレットに吸収させる。このようにして芳香剤を吸収したペレットを射出成形機に投入して成形体を製造することが示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
さらに、産業廃棄物であるコーヒーかすの有効利用として、含水率が3%未満で、特定範囲の粒度分布を有するコーヒーかす粉末と樹脂ペレットとを射出成形機に投入して成形体を製造する方法が開示されている。このような成形品はコーヒーの香りがするので、コーヒーの香りが好まれる用途に使用できる(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
ところで、香料は一般に液状物であり、揮発性があるのでそのまま射出成形機に投入しても熱可塑性樹脂との均一な混合がし難いし、熱可塑性樹脂を溶融するための加熱により揮発してしまい、成形体中に十分な量の香料成分を残存させることができない。このために上記開示例以外にも、液状の香料を固体粉末に担持させる方法が開発されている。
【0009】
例えば、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムに香料を吸着させて粉末香料を作製し、熱可塑性樹脂と混合して射出成形した芳香性成形体が開示されている。メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは、吸油性や保油性に優れているので、粉末香料とした場合に液状の香料の滲みだしがなく、熱可塑性樹脂との配合がしやすいことから用いられている(例えば、特許文献5参照)。
【0010】
さらに、澱粉、デキストリン及び和蝋から選択される少なくとも1種を香料用担体として用い、これに熱可塑性樹脂を加えて押出成形を行いペレット化し、このペレットを用いて射出成形により成形体を得る方法が開示されている。この成形体は長期にわたって良好な芳香性を示すとされている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平10-179707号公報
【文献】特開2000-26739号公報
【文献】特開2001-62828号公報
【文献】特開2010-173169号公報
【文献】特開昭60-184558号公報
【文献】特開2015-44771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の発明は、花弁状構造を有する珪酸カルシウムに調合香料を吸収させた粉末香料と熱可塑性樹脂とを用いて成形体を製造している。具体的には、粉末香料と熱可塑性樹脂とを混合してペレットを作製してから、ペレットをさらに成形機に投入して所望の形状の樹脂成形体を製造している。この場合、ペレットを作製する工程で加熱され、作製したペレットを用いて所望の形状に加工する成形工程で再び加熱されるので、添加された香料が揮発して樹脂成形体中の含量が減少するという課題がある。
【0013】
特許文献2に記載の発明は、樹脂と繊維質材料とを混合し押出成形してペレットを作製し、このペレットに芳香剤等の機能剤を含侵させて複合成形原料を作製し、この複合成形原料を射出成形して種々の樹脂成形体を製造している。芳香剤等の機能剤は繊維中に含有されるので、機能剤の含有量を増やすためには繊維質材料の混合量を増やすことが必要である。しかし、ペレットは樹脂と繊維質材料との混合からなり、繊維質材料の混合量を大きくすると、良質の成形体を得ることが難しくなる。このため、芳香剤等の機能剤の含侵量も制約を受けるので、成形体の香りを長期間保持することが難しい。また、射出成形時にペレットが溶融する温度まで加熱する必要があるので、成形工程中に芳香剤が揮発して樹脂成形体中の芳香剤の含量が減少するという課題もある。
【0014】
特許文献3に記載の発明は、熱可塑性樹脂ペレットに液状芳香剤を含侵させてから成形機に投入して成形体を製造する方法であるが、ペレットは数mm程度の大きさを有するので内部まで十分に液状芳香剤を含侵させることが難しい。また、液状芳香剤を含侵したペレットを射出成形するときに、ペレットを溶融する温度まで加熱することが必要であるので、液状芳香剤が揮発してしまい、成形体中の液状芳香剤成分が減少するという課題もある。
【0015】
特許文献4に記載の発明は、産業廃棄物であるコーヒーかすの有効利用を目的としており、樹脂成形体に香りを付与することは副次的な作用である。また、射出成形する場合に使用する樹脂はペレットを用いている。射出成形時には、樹脂ペレットを十分に溶融する温度まで加熱することが要求される。短時間で溶融させようとするとシリンダー中を高温に加熱する必要があり、このような加熱によりコーヒーかすが炭化することがある。このため、成形された樹脂成形体の品質劣化を招くことがある。また、炭化する温度まで加熱すると香り成分の一部は揮発するので、成形した樹脂成形体のコーヒーの香りは短時間に無くなってしまうという課題を有する。
【0016】
特許文献5に記載の発明は、液状香料をメタケイ酸アルミン酸マグネシウムに吸着させて粉末香料とした後、この粉末香料と樹脂とを混合し、射出成形により樹脂成形体を製造している。しかしながら、射出成形する条件等については全く開示されていない。一般的な射出成形では樹脂ペレットを用いるが、この開示例においても樹脂ペレットを用いて従来の射出成形機で成形したとすれば、樹脂ペレットを溶融する温度まで加熱する間に香料の揮発が生じやすいという課題を有すると思われる。
【0017】
特許文献6に記載の発明は、香料用担体として澱粉、デキストリン又は和蝋を用いることが特徴であり、香料用担体と樹脂とを押出成形してペレットを作製し、このペレットを用いて射出成形により樹脂成形体を製造している。この場合、ペレット成形時とペレットを用いた射出成形時との2回、樹脂を溶融させるための加熱を受けるので、香料成分が揮発しやすく、成形体中の香料成分が減少するという課題を有する。
【0018】
このように従来の射出成形における製造方法では、樹脂に混合する香料成分は、香料成分と樹脂とを混合して押出成形等によりペレット化して用いる場合や、香料成分の粉末をそのまま用いる場合がある。しかし、樹脂については所定形状のペレットを用いている。また、樹脂成形機についてもペレットを用いることを前提としたシリンダー構造となっている。樹脂ペレットは成形作業においては扱いやすいが、シリンダー中で加熱して溶融させるときには粉末状態のものよりも加熱温度を高くするか、あるいは長時間加熱しないと十分に溶融できない。しかし、射出成形機で長時間加熱することは生産性を低下させることになるので加熱温度を高くすることが多い。加熱温度を高くすると、香料成分の揮発が生じやすくなり成形後の樹脂成形体中の香料成分が少なくなる。このために樹脂成形体中の香料成分を増やすことが難しいという課題を有していた。
【0019】
本発明は、香料成分を含む粉末香料とペレット化しない樹脂、すなわち粉末樹脂とを用いて射出成形により香料成分が揮発しにくい温度で、かつ粉末香料と樹脂とを十分溶融し混練・混合できるフリーブレンド方式の香り付与樹脂成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の香り付与樹脂成形体の製造方法は、香り成分を含む香料粉体と熱可塑性樹脂粉とを含む成形用材料を混錬して射出成形により製造する方法において、射出成形機のシリンダーの内部で回転する成形用スクリューが、連続的に一体として設けられた供給部、圧縮部および計量部とを備え、供給部と圧縮部とは一条の螺旋状のフライトにより構成されており、圧縮部のフライトは、スクリュー軸方向に螺旋状に形成された複数のサブフライトを有し、サブフライトは角部(かどぶ)に丸みを有する多角形状からなり、かつ、角部がスクリュー軸の円周方向にそれぞれ設定された角度に偏って配置されており、角部とシリンダーの内面との間隔が最も狭く、角部間の中央部とシリンダーの内面との間隔が最も大きくなるように形成され、計量部は、スクリュー軸の円周方向に歯車状の凸凹を有する配合整列部を複数設けた構成からなる成形用スクリューが配設された射出成形機により成形することを特徴とする。
【0021】
このような成形用スクリューを用いた成形機により製造することで、香料粉体と熱可塑性樹脂粉との混練と混合を十分に行いながら、同時に樹脂ペレットを用いる場合よりも低い加熱温度と短時間での成形を可能とすることができる。これにより、成形中における香料粉体中の香料成分の揮発を抑制することができ、香り付与樹脂成形体の香りの持続期間を大きく伸ばすことができる。
【0022】
上記製造方法において、圧縮部のサブフライトは4個からなり、それぞれのサブフライトは全体として正三角形形状であり、それらの角部はスクリュー軸の円周にそれぞれ30°づつ偏って配置されたものを用いてもよい。
【0023】
このようなサブフライトを有する成形用スクリューを用いると、成形用材料である熱可塑性樹脂粉がシリンダーに設けられたヒータからの熱を受けて溶融が促進され、かつ香料粉体との混練と混合が良好に行われるので水分を蒸発させながらも香料成分の揮発を極力抑制することができる。
【0024】
さらに上記製造方法において、計量部は、複数の配合整列部が同一形状からなり、かつ、その凸凹の位置がそれぞれ一致するように配置されたものを用いてもよい。
【0025】
このような配合整列部を有する成形用スクリューを用いると、混練・混合された成形用材料の配合と均一化が促進されるので、大量に射出成形しても品質ばらつきを抑えることができる。
【0026】
さらに、射出成形機のホッパーに成形用材料を投入する前に、香料粉体と熱可塑性樹脂粉とを含む成形用材料のそれぞれを計量してミキシングドラムに投入した後、ミキシングドラム中において成形用材料をあらかじめ混練する方法としてもよい。
【0027】
本発明においては、成形用材料である香料粉体と熱可塑性樹脂粉ともに粉体であるので、従来のように樹脂ペレットを用いる場合よりもミキシングドラム中でも均一な混練がされやすい。シリンダー中に投入する前に混練すれば、シリンダーに投入後の混練と混合をより確実に、かつ短時間で行うことができる。
【0028】
さらに、上記製造方法において、香料粉体として、液状香料を無機質多孔質材料、合成樹脂材料、および、天然有機材料に吸収させてなるもののいずれかを用いてもよい。または、香料粉体として、香りを含有する固形天然有機材料を粉体化して用いてもよい。
【0029】
液状香料を無機質多孔質材料、合成樹脂材料および天然有機材料に吸収させてなる香料粉体を用いて上記製造方法で射出成形すれば、成形中の加熱温度を比較的低く、かつ混練と混合する時間も短くできるので、吸収されている香料の揮発を抑えることができる。固形天然有機材料の場合も香料成分は揮発性があるので、この揮発を抑えることができる。
【0030】
さらに、本発明の香り付与樹脂成形体は、上記製造方法により成形したことを特徴とする。本発明の製造方法により製造された香り付与樹脂成形体は、香り成分の揮発を抑制し、長期間にわたり香りを発生させることができる。また、粉末同士を混練と混合するための最適な成形用スクリューとしているので香り付与樹脂成形体の強度や品質のばらつきを抑えることもできる。
【0031】
本発明の製造方法により製造された香り付与樹脂成形体は、香料成分の含有量が従来方式の射出成形により成形された樹脂成形体に比べて大きいので、香料成分の含有量を測定することにより判別可能である。
【0032】
本発明においてフリーブレンド方式とは、あらかじめペレット化することなく樹脂と混合材料とをどちらも粉末状態あるいは樹脂粉末と繊維状態の混合材料をそのまま射出成形機に投入して成形加工する方式をいう。
【0033】
なお、液状香料を吸収する無機質多孔質材料としては、例えばケイ酸カルシウム、シリカ、アルミナ、あるいは、木炭、竹炭、コーヒーカスの炭化物など、多孔質材料でかつ粉末化できるものであれば使用できる。また、液状香料を吸収する合成樹脂としては、混合する熱可塑性樹脂に比べて融点が高いものであれば特に限定せず使用することができる。熱可塑性樹脂だけでなく、熱硬化性樹脂も使用できる。例えば、エポキシ樹脂に液状香料を吸収させて硬化した後粉末化して用いてもよいし、粉末化した後に液状香料を吸収させて用いることもできる。
【0034】
さらに、液状香料を吸収する天然有機材料としては、例えば木粉を使うことができる。また、香りを含有する固形天然有機材料としては、例えばヒバ、クスノキ、コウヤマキ、ゲッケイジュ、ヒノキ、スギなどの樹木や、ハーブ、キクなどの植物があり、これらを粉末化して用いることができる。
【0035】
また、熱可塑性樹脂粉としては、オレフィン系樹脂であるポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、スチレン系樹脂であるポリスチレン(PS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)、液晶ポリマー(LCP)など、一般に樹脂成形体を製造するときに用いられる樹脂材料で、かつ粉末化できるものであれば特に問題なく用いることができる。ただし、成形中の液状香料の揮発を抑えるためには、オレフィン系の樹脂粉を用いることが好ましい。
【0036】
また、添加剤は、一般に成形加工時の高温や使用時の紫外線曝露などによる酸化劣化防止、樹脂が本来有する物性などを維持するために添加する安定剤、および、樹脂成形体の機械的強度の向上、柔軟性や難燃性付与のために添加する機能付与剤がある。例えば、酸化防止剤としてはフェノール系材料等、耐候性改良としては紫外線吸収材料等、柔軟性向上としては可塑剤等、一般に樹脂成形用の添加剤として使用されているものを適宜選択して用いることができる。添加剤としては、例えばポリプロピレン樹脂の接着性を改善するための無水マレイン酸や耐候性の改善のための酸化防止剤などがある。
【発明の効果】
【0037】
本発明の香り付与樹脂成形体の製造方法は、香料粉体と熱可塑性樹脂粉を含む成形用材料に最も適する成形用スクリューを開発したことにより、成形中において香料の揮発を抑えることができるので、製造される香り付与樹脂成形体の香りを長期間にわたり保持するとともに品質ばらつきも小さくできるという大きな効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本実施の形態に係る香り付与樹脂成形体の製造方法に用いる射出成形機の構成を示す図である。
図2】同実施の形態の製造方法で用いる混練部の構成を示す図である。
図3】同実施の形態の製造方法で用いる射出成形機に配設された成形用スクリューの構成を示す図である。
図4】成形用スクリューの側面図と断面図である。
図5】圧縮部Nのフライトに設けられたサブフライトの形状と配置を示す図である。
図6】計量部Sの配合整列部の形状と配置構成を示す図である。
図7】種々の実施の形態に用いるときに適用できる圧縮部Nのフライトに設けられたサブフライトの形状とスクリュー軸の円周方向に偏って配置するときの角度を示す断面図である。
図8】種々の実施の形態に用いるときに適用できる配合整列部の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(実施の形態)
【0040】
本発明の香り付与樹脂成形体の製造方法について、図面を参照しながら以下詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係る香り付与樹脂成形体の製造方法に用いる射出成形機230の構成を示す図であり、(a)は射出成型機230の概略側面図、(b)はホッパー160から成形用材料220を投入して成形用スクリュー100で圧縮・混練しながら金型に移送するシリンダー部150の断面概略図である。図2は、本実施の形態の製造方法で用いる混練部210の構成を示す図である。図3は、本実施の形態の製造方法で用いる射出成形機230に配設された成形用スクリューの構成を示す図であり、(a)は成形用スクリューの概略斜視図、(b)は(a)に示すA部分の拡大斜視図である。図4は、成形用スクリューの側面図と断面図で、(a)は側面図、(b)は断面図である。図5は、圧縮部Nのフライトに設けられたサブフライトの形状と配置を示す図で、(a)は形状と配置を示し、(b)は成形用スクリュー100の軸方向から見た配置を示す図である。図6は、計量部Sの配合整列部40の形状と配置構成を示す図であり、(a)は計量部Sの側面図で、(b)はA-A断面図である。 以下、これらの図を基に本実施の形態の製造方法を詳細に説明する。
【0041】
本実施の形態の製造方法で用いる射出成形機230は、内部を加熱するためのヒータ120が設けられたシリンダー110と、シリンダー110内に回転可能に設けられた成形用スクリュー100と、シリンダー110に成形用材料220を投入するための成形機用ホッパー160とを有する。さらに、成形用スクリュー100を回転駆動するための駆動部(図示せず)と成形用スクリューを金型(図示せず)に向けて押し出すための背圧を印加する背圧印加部(図示せず)とを含んでなる射出部170を有する。また、成形用スクリュー100の先端部側に、流動性を高めた成形用材料220が注入されるキャビティを有する金型(図示せず)を備えている。
【0042】
なお、図1においてシリンダー部150は、シリンダー110、ヒータ120、逆流防止弁130および成形用スクリュー100を含むものをいう。また、金型を開けたり閉めたりするための型締め装置190と金型(図示せず)部分を安全に保護するための安全窓180も備えており、これらが一体としてベッド200上に設置されている。
【0043】
混練部210は、熱可塑性樹脂粉を投入する樹脂粉投入ホッパー211、香料粉体を投入する粉体投入ホッパー212、これらを計量する計量ホッパー214、添加剤を投入する添加剤投入ホッパー213、およびミキシングドラム215により構成されている。熱可塑性樹脂粉と香料粉体とを、それぞれ、樹脂粉投入ホッパー211と粉体投入ホッパー212に投入し、計量ホッパー214で計量する。その後、これらの材料をミキシングドラム215に入れる。この時、添加剤投入ホッパー213から必要な量の添加剤も投入する。そして、ミキシングドラム215によりこれらを混練する。この混練により、成形用材料220を成形機用ホッパー160に投入するまでに均一に混合した状態とすることができる。これにより、成形用材料220の熱可塑性樹脂粉と香料粉体とは、シリンダー150内に投入され、成形機用スクリュー100の回転に伴い移送される中で速やかに溶融し、混合・混錬がなされる。また、熱可塑性樹脂として樹脂ペレットを用いる場合に比べて、加熱温度を低くでき、かつ加熱時間も短くできるので、香料粉体中の香料の揮発を抑えることができる。
【0044】
図3および図4に示すように、成形用スクリュー100は、成形用材料220を移送する供給部Mと、この供給部Mから連続的に設けられた圧縮部Nと計量部Sとを備え、供給部Mと圧縮部Nは一条の螺旋状のフライト20、30により構成されている。なお、成形用スクリュー100は、射出部170において背圧印加部、および、駆動部と成形用スクリュー100を接続するための軸10を有する軸部Lも有している。
【0045】
圧縮部Nには、図3(b)及び図5に示すようにサブフライトが設けられている。本実施の形態に係る成形用スクリュー100では、圧縮部Nのサブフライト31、32、33、34は4個からなる。それぞれのサブフライト31、32、33、34は全体として正三角形状で、丸みを有する角部はスクリュー軸の円周方向に30°づつ偏って配置された構造からなる。なお、本実施の形態では、圧縮部Nのフライト30は7個配置したものを示しているが、7個に限定されるものではない。熱可塑性樹脂粉の種類や香料粉体材料、さらにはそれらの粒径分布などに応じて個数をかえてもよい。
【0046】
計量部Sは、図3図4および図6に示すように、同一形状の配合整列部40が凸凹の位置を同じになるように7個設けられた構成としている。配合整列部40は、凸部41と凹部42とが円周方向に沿って設けられており全体として歯車形状からなる。これにより、成形用材料220が通過する領域を矯正して一気に通過できない構造とした。この結果、均一な配合整列が可能となった。なお、本実施の形態では、配合整列部40は7個が等間隔で配置されているが、本発明は7個に限定されることはない。香料粉体や熱可塑性樹脂粉の材質、粒径分布などに応じて個数をかえてもよい。
【0047】
本発明の成形用スクリュー100の圧縮部Nと計量部Sの役割について説明する。圧縮部Nは成形用材料を十分に配合・混錬させ、添加剤との反応を確実にさせることが主な機能である。そして、計量部Sについては、成形用材料220を全体的に均一になるようにして、成形品内および成形品間の組成のばらつきをなくすことが主な機能である。
【0048】
成形用スクリュー100は、シリンダー110とサブフライト31、32、33、34との間の間隔が狭い領域(すなわち、角部31a、32a、33a、34aとシリンダー110の内面との間隔)では、成形用材料に対して圧縮力が作用するとともに溶融した熱可塑性樹脂の流れは速くなる。一方、間隔の広い領域(サブフライト31、32、33、34の底部31b、32b、33b、34bとシリンダー110の内面との間隔)では、成形用材料に加わる圧縮力は相対的に小さくなるとともにゆっくりと動く。
【0049】
香りを付与した香り付与樹脂成形体を製造する場合に重要なことは、シリンダー110中で熱可塑性樹脂粉を溶融させて香料粉体との混練と混合を行う際に、香料粉体から香料が揮発するのをできる限り抑えることである。本発明では、熱可塑性樹脂も粉体を用いており、かつ、粉体に最も適した成形用スクリュー構造としている。成形用スクリュー100のサブフライト31、32、33、34を角部に丸みを設けた正三角形状としたので、サブフライト31、32、33、34とシリンダー110との間の間隔が狭い領域で作用する圧縮力は短時間となる。このため、剪断力などによる過熱が生じにくいし、シリンダー110のヒータ120からの熱も受けにくい。さらに、熱可塑性樹脂粉を用いているので、ペレット状の熱可塑性樹脂に比べて溶融しやすく、かつ短時間で溶融させることができる。そのため、圧縮部Nでの加熱温度を従来方式に比べて低くしながら、同時に短時間で熱可塑性樹脂粉と香料粉体との混練と混合を行うことができる。この結果、香料の揮発を抑えることができる。
【0050】
このような製造方法とすることにより、液状香料を無機質多孔質材料、合成樹脂あるいは天然有機材料に吸収させた香料粉体を用いても、成形後の香料の残存率を大きくできる。したがって、従来方式に比べて長期間香りを保持する香り付与樹脂成形体を得ることができる。
(実施例1)
【0051】
本実施例では、液体香料をケイ酸カルシウム粉末に吸着させて香料粉体を作製した。ケイ酸カルシウムは、富田製薬株式会社製造のFLORITE(登録商標)を用いた。このケイ酸カルシウムは高吸液性の白色粉末である。液体香料をケイ酸カルシウムに吸収させると香料の蒸発が遅くなり、香りの発生期間を長くすることができた。
【0052】
香料粉体の製造は以下のようにして行った。最初に、ケイ酸カルシウムの所定量を計量する。次に、所定量の液体香料をケイ酸カルシウムが入れられた容器に投入し、液体香料がケイ酸カルシウムに吸収されサラサラになるまで十分に攪拌して香料粉体を作製した。なお、本実施例で使用したケイ酸カルシウムであるFLORITE(登録商標)の平均粒径は50μmである。
【0053】
このようにして製造した香料粉体、および、熱可塑性樹脂粉として平均粒径が100μmのポリプロピレン樹脂粉(以下、「PP樹脂粉」とよぶ。)を用いて、本実施の形態に係る射出成形機を使って香り付与樹脂成形体を作製した。本発明の製造方法を用いた場合の香料の残存率を確認するために、射出成形前の香料配合率と射出成形後の香料配合率を求めた。なお、本実施例では添加剤として無水マレイン酸と酸化防止剤とを加えており、下記の表1および表2に示すPP樹脂粉はこれらの添加剤を含む。
【0054】
まず初めに、PP樹脂粉単体を成形用材料として用いた射出成形、および、PP樹脂粉とケイ酸カルシウム粉末(重量比で6.65%混合)とを成形用材料として用いた射出成形を行い、射出成形前と後との重量変化を調べた。その結果、PP樹脂粉単体の場合には、射出成形前の重量と射出成形後の重量変化はないことが分かった。また、PP樹脂粉とケイ酸カルシウム粉末とを用いた場合には、射出成形後に平均で0.7%重量減少することが見いだされた。これは、ケイ酸カルシウム粉末中に含まれていた水分の蒸発によるものと思われる。
【0055】
この結果を基にして、PP樹脂粉とケイ酸カルシウム粉末(重量比で6.65%混合)と液体香料(重量比で20%混合)とを成形用材料として用い、本発明の製造方法を用いて射出成形を行った。さらに、比較例として、通常使用されているペレット状のPP樹脂とケイ酸カルシウム粉末(重量比で6.65%混合)と液体香料(重量比で20%混合)とを成形用材料として、従来の射出成形機を用いた射出成形も行った。なお、液体香料はケイ酸カルシウム粉末に吸収させたものを香料粉体として用いた。この結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1の本製造方法による成形は、PP樹脂粉を用い、かつ実施の形態で説明した成形用スクリューを配設した射出成形機により最適条件で製造した結果である。また、従来成形機による成形は、射出成形に通常用いられているPP樹脂ペレットを用い、ペレット用の従来タイプの射出成形機を用いて、PP樹脂ペレットを十分に溶融・混錬する条件で製造した結果である。成形後重量変化は、投入重量に対する成形後重量の比で表している。この重量変化をもとに、成形後の香料配合比率を求めた結果を成形後香料配合率として示している。各々50回の成形を行った結果について、平均値、最小値及び最大値を示している。
【0058】
本実施の形態に係る製造方法を用いた場合には、成形後重量変化の平均値が0.945であり、最小値でも0.939で、最大値は0.951であった。これから成形後の液体香料の配合率を求めると、平均値で15.3%、最小値で14.6%、最大値で16.1%となった。すなわち、投入時の配合率が20%であったので、射出成形時に5%程度が揮発した結果となった。
【0059】
一方、通常用いられているPP樹脂ペレットと従来成形機により製造した場合、成形後重量変化の平均値は0.863であり、最小値は0.827、最大値は0.899であった。これから成形後の液体香料の配合率を求めると、平均値で7.7%、最小値は3.3%、最大値が11.2%であった。すなわち、投入時の配合率が20%であったので、射出成形時に12%程度が揮発した結果となった。
【0060】
この結果から、PP樹脂粉を用いて本製造方法により製造した香り付与樹脂成形体は、従来方式の成形体製造方法に比べて香料の残存率が高いだけでなく、そのばらつきも小さくできることが見いだされた。これは、PP樹脂ペレットを用いて従来の成形機により射出成形する場合には、PP樹脂粉を用いるよりも高い温度設定にする必要があること、および、本製造方法は香料粉体と熱可塑性樹脂粉とを混練・混合するのに適した成形用スクリュー構造としていることによる。
次に、これらの香り付与樹脂成形体について、香りの保持期間を調べた結果を表2に示す。
【0061】
【表2】
【0062】
各々50回の成形を行ったなかで、20個の香り付与樹脂成形体を抽出し、これらについてヒト官能試験を行った。官能試験は、30代から40代の男女5名ずつ、合計10名により行った。成形方法が分からないようにした状態で、香り付与樹脂成形体を鼻に近づけて香りを嗅いでもらい、20個すべてについて香りを感じれば〇とし、感じなければ×、3個以上感じないものがあれば△とした。この官能試験を成形直後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、及び1年後について同じ人に行ってもらいデータとした。なお、官能試験当日、風邪をひいていた場合には回復した後に官能試験を行ってもらった。本製造方法による香り付与樹脂成形体は、10名ともに1年後でも香りが残存しているという結果となった。一方、PP樹脂ペレットと従来成形機とを用いた従来の製造方法による香り付与樹脂成形体は、3ヶ月後の官能試験で8個の香り付与樹脂成形体について半数の人が香りを感じないという結果となった。半年後では10名ともすべての香り付与樹脂成形体について香りを感じないという結果となり、本製造方法による香り付与樹脂成形体は従来方式に比べて長期間にわたり香りを保持できることを確認した。
【0063】
なお、本実施例ではケイ酸カルシウムの添加量を6.65%としたが、本発明はこれに限定されることはない。しかし、ケイ酸カルシウムの吸油性能は自重の3~6倍であり、液体香料の添加量は多くても30%程度とするのが好ましいことから、ケイ酸カルシウム添加量は10%程度までとすればよい。
【0064】
また、本発明はPP樹脂粉に限定されるものでもなく、熱可塑性樹脂粉であればいずれも使用可能である。本実施の形態では、平均粒径が100μmのPP樹脂粉を用いたが、10~700μmの範囲であればいずれも使用可能である。粒径が10μmより小さくなると、混練機への投入時に目詰まり等が生じやすく安定な作業に支障が出やすい。また、700μmより大きくなると加熱による溶融に時間がかかり液体香料の揮発を生じやすくなる。平均粒径としては、20~500μmの範囲とすることが特に好ましく、粒度分布はできるだけ小さいほうが均一に溶融しやすいので好ましい。
【0065】
また、本実施例では、富田製薬株式会社のケイ酸カルシウム(FLORITE(登録商標))を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。ケイ酸カルシウムは食品添加物などとして多く使用されており、多くの企業が生産している。これらのケイ酸カルシウムを用いても同じ効果を得ることができる。
【0066】
さらに、ケイ酸カルシウムだけでなく、例えばメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、無水ケイ酸なども用いることができるが、吸液性能はケイ酸カルシウムが自重の3~6倍と非常に大きいので、これを用いることが好ましい。
【0067】
また、本実施例では、ケイ酸カルシウムであるFLORITE(登録商標)の平均粒径が50μmのものを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。20μm~250μmの範囲であってもよいが、30μm~100μmの範囲がより好ましい。
【0068】
本実施例の材料と製造方法を用いて、エアコンの吹き出し口に配置して、エアコン使用中に室内に香りを漂わせることができる香り付与樹脂成形体を作製した。ルームエアコンの内ルーバーまたは外ルーバーの内側に貼り付け、かつ、外ルーバーの開閉に影響しない程度の厚みとした。エアコンを使用すると、風に乗って香りが漂ってくるので心身のリラックス効果を得ることができる。一冬あるいは一夏程度は香りが持続することを確認できた。
【0069】
また、自動車のエアコンの吹き出し口のルーバーに差し込むことができる形状の香り付与樹脂成形体も作製した。これを自動車の全面パネルのエアコンのルーバーに差し込んで使用感を確認した。エアコンを作動させた場合、作製した香り付与樹脂成形体から発散する香りを楽しむことができた。夏場の暑い時期では、車内が高温になり香り付与樹脂成形体から香りが発散してしまうので香り持続期間は短かった。しかし、秋から春の期間では半年程度は香りが持続することが分かった。
(実施例2)
【0070】
本実施例では、液体香料をデキストリン粉末に吸着させて香料粉体を作製した。液体香料を吸収させたデキストリンを香料粉体とし、熱可塑性樹脂粉として平均粒径が100μmの低密度ポリエチレン樹脂粉(以下、「LDPE樹脂粉」とよぶ。)を用いて、本実施の形態に係る射出成形機を使って香り付与樹脂成形体を作製した。
【0071】
実施例1と同様に、50回の成形を行い、その中から20個の香り付与樹脂成形体を抽出し、これらについてヒト官能試験を行った。官能試験は、30代から40代の男女5名ずつ、合計10名により行った。成形方法が分からないようにした状態で、香り付与樹脂成形体を鼻に近づけて香りを嗅いでもらい、20個すべてについて香りを感じれば〇とし、感じなければ×、3個以上感じないものがあれば△とした。この官能試験を成形直後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、及び1年後について同じ人に行ってもらいデータとした。なお、官能試験当日、風邪をひいていた場合には回復した後に官能試験を行ってもらった。本実施例においても、10名ともに1年後でも香りが残存しているという結果を得た。
(実施例3)
【0072】
本実施例では、液体香料をポリエチレングリコール6000(PEG-6000)に吸着させて香料粉体を作製した。PEG-6000はフレーク状の固体である。このPEG-6000に液体香料を吸収させて香料粉体を作製した。この香料粉体と、熱可塑性樹脂粉として平均粒径が100μmの低密度ポリエチレン樹脂粉(以下、「LDPE樹脂粉」とよぶ。)を用いて、本実施の形態に係る射出成形機を使って香り付与樹脂成形体を作製した。
【0073】
実施例1と同様に、50回の成形を行い、その中から20個の香り付与樹脂成形体を抽出し、これらについてヒト官能試験を行った。官能試験は、30代から40代の男女5名ずつ、合計10名により行った。成形方法が分からないようにした状態で、香り付与樹脂成形体を鼻に近づけて香りを嗅いでもらい、20個すべてについて香りを感じれば〇とし、感じなければ×、3個以上感じないものがあれば△とした。この試験を成形直後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、及び1年後について同じ人に行ってもらいデータとした。なお、官能試験当日、風邪をひいていた場合には回復した後に官能試験を行ってもらった。本実施例においても、10名ともに1年後でも香りが残存しているという結果を得た。
(実施例4)
【0074】
本実施例では、香料粉体として建築材等に多く用いられているヒノキの粉末を用いた。ヒノキはヒノキチオールなどの香料成分を含んでおり、建築材に用いた場合でもヒノキの香りを発散することが知られている。ヒノキの粉末(平均粒径:約50μm)と、熱可塑性樹脂粉として平均粒径が100μmのポリプロピレン樹脂粉(以下、「PP樹脂粉」とよぶ。)を用いて本実施の形態に係る射出成形機を使って香り付与樹脂成形体を作製した。
【0075】
実施例1と同様に、50回の成形を行い、その中から20個の香り付与樹脂成形体を抽出し、これらについてヒト官能試験を行った。官能試験は、30代から40代の男女5名ずつ、合計10名により行った。成形方法が分からないようにした状態で、香り付与樹脂成形体を鼻に近づけて香りを嗅いでもらい、20個すべてについて香りを感じれば〇とし、感じなければ×、3個以上感じないものがあれば△とした。この官能試験を成形直後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、及び1年後について同じ人に行ってもらいデータとした。なお、官能試験当日、風邪をひいていた場合には回復した後に官能試験を行ってもらった。本実施例においても、10名ともに1年後でも香りが残存しているという結果を得た。
(実施例5)
【0076】
本実施例では、香料粉体としてコーヒーかす粉末を用いた。コーヒーかすを40~100℃の範囲の温度で十分に乾燥したものを香料粉体とした。この香料粉体と、熱可塑性樹脂粉として平均粒径が100μmのポリアミド樹脂粉(ナイロン6)を用いて本実施の形態に係る射出成形機を使って香り付与樹脂成形体を作製した。
【0077】
コーヒーかすの場合には、シリンダー中で過熱を受けて炭化し、成形した樹脂成形体が変色する場合が生じやすい。しかし、本製造方法で製造した香り付与樹脂成形体の場合には、炭化が生じず、均一な色合いの樹脂成形体を得ることができた。
【0078】
実施例1と同様に、50回の成形を行い、その中から20個の香り付与樹脂成形体を抽出し、これらについてヒト官能試験を行った。官能試験は、30代から40代の男女5名ずつ、合計10名により行った。成形方法が分からないようにした状態で、香り付与樹脂成形体を鼻に近づけて香りを嗅いでもらい、20個すべてについて香りを感じれば〇とし、感じなければ×、3個以上感じないものがあれば△とした。この試験を成形直後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、及び1年後について同じ人に行ってもらいデータとした。なお、官能試験当日、風邪をひいていた場合には回復した後に官能試験を行ってもらった。本実施例においても、10名ともに1年後でも香りが残存しているという結果を得た。
【0079】
本実施の形態に係る製造方法について種々の実施例を説明したが、本発明は上記実施の形態と実施例に限定されるものではない。本発明の成形体製造方法は、実施の形態で説明したスクリュー形状に限定されることはなく、圧縮部Nのフライトの個数、サブフライトの個数と多角形状、計量部Sの配合整列部の個数、および、配合整列部の歯車状の凸凹の形状・個数・そのスクリュー軸方向の長さのうち、いずれかを変化させたものを用いてもよい。
例えば、図7に示す圧縮部Nの種々のサブフライト形状と図8に示す計量部Sの種々の配合整列部の形状をそれぞれ組み合わせて用いてもよい。
【0080】
図7は、種々の実施の形態に用いるときに適用できる圧縮部Nのフライトに設けられたサブフライトの形状とスクリュー軸の円周方向に偏って配置するときの角度を示す断面図である。図7(a)において、サブフライトは全体として三角形状であり、1つのフライトに4個のサブフライトが設けられ、それぞれのサブフライトはスクリュー軸の円周方向にそれぞれ30°づつ偏って配置された構成からなる。これは、上記実施の形態に用いたサブフライトと同じである。図7(b)は、サブフライトが全体として四角形状であり、1つのフライトに4個のサブフライトが設けられ、それらがスクリュー軸の円周方向にそれぞれ22.5°づつ偏って配置した場合の角度を示す断面図である。図7(c)は、サブフライトの多角形状が三角形状であり、1つのフライトに3個のサブフライトが設けられている場合において、それらを偏って配置した場合の角度を示す断面図である。この場合には、サブフライトはそれぞれ45°づつ偏って配置されている。
【0081】
図8は、種々の実施の形態に用いるときに適用できる配合整列部の形状を示す図である。図8(a)は、同一形状の配合整列部が凸凹の位置を同じになるように7個設けられている構成を示す側面図とA-A断面図であり、本実施の形態で用いた配合整列部と同じである。図8(b)は、スクリュー軸方向に長さの異なる配合整列部60、65が交互に配列されており、凸凹の位置は同じになるようにして合計5個設けられている構成を示す側面図とB-B断面図である。凸部61と凹部62とは円周方向に沿って一定ピッチで設けられ、全体として歯車形状からなる。図8(c)は、凸凹の数の異なる配合整列部75、80が交互に7個配列されている構成を示す側面図、C-C断面図およびD-D断面図である。配合整列部80の凸部81の数は、配合整列部75の凸部76に比べて少なくなっており、配合整列部80の凹部82は配合整列部75の凹部77に比べて幅広になっていることが特徴である。図8(d)は、凸凹の個数は同じだが、凸凹の高さの異なる配合整列部90、95が交互に配列されており、凸凹の位置は同じになるようにして7個設けられている構成を示す側面図、E-E断面図およびF-F断面図である。配合整列部90の凸部91の高さは、配合整列部95の凸部96の高さよりも小さくなっているが、配合整列部90の凹部92と配合整列部95の凹部97との底部は中心からの距離が同じになるように設定されている。
【0082】
香りを発散する樹木の葉、例えばヒノキの葉を乾燥して香料粉体として用いる場合、図7(c)のサブフライト形状と、図8(b)の形状の配合整列部の組合せを用いるとよい。また、ヒノキの木粉を香料粉体として用いる場合、実施の形態で説明した成形用スクリューだけでなく、例えば、図7(b)のサブフライト形状と、図8(d)の配合整列部を用いてもよい。さらに、細長の繊維に液体香料を吸収させて香料粉体とした場合には、図7(a)のサブフライト形状と図8(b)の形状の配合整列部の組合せを用いるとよい。
【0083】
このように、香料粉体の材質、形状、粒度分布に合わせて、図7および図8に示すサブフライトと配合整列部との組み合わせを選択すれば、高品質で、ばらつきが少なく、しかも香りを長期間保持できる香り付与樹脂成形体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の成形体製造方法によれば、色々な香りを有する香り付与樹脂成形体を得ることができ、香りを楽しむ暮らし分野に有用である。
【符号の説明】
【0085】
10 軸
20、30 フライト
31、32、33、34 サブフライト
31a、32a、33a、34a 角部
31b、32b、33b、34b 底部
40、60、65、75、80、90、95 配合整列部
41、61、76、81、91、96 凸部
42、62、77、82、92、97 凹部
100 成形用スクリュー
110 シリンダー
120 ヒータ
130 逆流防止弁
150 シリンダー部
160 ホッパー
170 射出部
210 混練部
211 樹脂ホッパー
212 混合材料ホッパー
213 添加剤ホッパー
214 計量ホッパー
215 ミキシングドラム
220 成形用材料
230 フリーブレンド方式用射出成形機
L 軸部
M 供給部
N 圧縮部
S 計量部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8