(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】心房細動解析装置、心房細動解析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/361 20210101AFI20240716BHJP
A61B 5/353 20210101ALI20240716BHJP
【FI】
A61B5/361
A61B5/353
(21)【出願番号】P 2021505533
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050291
(87)【国際公開番号】W WO2020183857
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019042717
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹野 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 奏絵
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-519967(JP,A)
【文献】特開2004-016248(JP,A)
【文献】特開2015-006255(JP,A)
【文献】特表2011-509706(JP,A)
【文献】長谷川由貴ほか,高感度ベクトル心磁計を用いたP波フラグメント解析による心房内伝導遅延評価,第31回日本生体磁気学会大会論文集,Vol.29,No.1,2016年,p.138-139
【文献】Sindhoora Murthy et al. ,Number of P-wave fragmentations on P-SAECG correlates with infiltrated atrial fat,Ann Noninvasive Electrocardiol(A.N.E),Vol.19,No.2,2014年,p.114-121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/346-5/367
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の体軸方向及び左右方向を含む平面上における一方向の誘導による心電図のみ、又は前記平面上において直交する二方向の誘導による心電図のみから
複数のP波データを取得するP波データ取得部と、
前記P波データ取得部により取得された前記
複数のP波データからP波フラグメントを抽出するフラグメント抽出部と、
前記P波フラグメントの数及び/又は前記P波フラグメントの持続時間に基づいて、心房細動の発症の可能性を解析する解析部と、
を備え、
前記フラグメント抽出部は、前記複数のP波データを平均化して平均P波データを算出し、前記平均P波データから極値を抽出し、隣接する前記極値間の電位差が所定の値を超えた場合、その極値間を結ぶ線を前記P波フラグメントとして抽出し、
前記解析部は、
前記P波フラグメントの数又は前記持続時間に閾値を設け、抽出した前記P波フラグメントの数又は前記持続時間が閾値より高いか否かにより心房細動の発症の可能性を判定し、あるいは前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせと、心房細動の発症の可能性の指標値とを対応付けたテーブルに基づいて、抽出した前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせに応じた前記指標値を読み出す心房細動解析装置。
【請求項2】
前記心電図を測定する心電図測定部を備える請求項1に記載の心房細動解析装置。
【請求項3】
前記フラグメント抽出部は、前記P波データ取得部により前記平面上において直交する二方向の誘導による心電図から前記P波データを取得した場合、前記誘導ごとに前記複数のP波データを平均化して二乗平均平方根を算出することにより前記平均P波データを算出する請求項
1又は2に記載の心房細動解析装置。
【請求項4】
前記フラグメント抽出部は、さらに、前記平均P波データから所定範囲の周波数を除去するフィルタリング処理を行い、前記フィルタリング処理後の前記平均P波データからP波フラグメントを抽出する請求項
1から3のいずれか一項に記載の心房細動解析装置。
【請求項5】
心房細動解析装置が実行する心房細動解析方法において、
被検体の体軸方向及び左右方向を含む平面上における一方向の誘導による心電図のみ、又は前記平面上において直交する二方向の誘導による心電図のみから
複数のP波データを取得するP波データ取得工程と、
前記P波データ取得工程において取得された前記
複数のP波データからP波フラグメントを抽 出するフラグメント抽出工程と、
前記P波フラグメントの数及び/又は前記P波フラグメントの持続時間に基づいて、心房細動の発症の可能性を解析する解析工程と、
を含
み、
前記フラグメント抽出工程では、前記複数のP波データを平均化して平均P波データを算出し、前記平均P波データから極値を抽出し、隣接する前記極値間の電位差が所定の値を超えた場合、その極値間を結ぶ線を前記P波フラグメントとして抽出し、
前記解析工程では、前記P波フラグメントの数又は前記持続時間に閾値を設け、抽出したP波フラグメントの数又は前記持続時間が閾値より高いか否かにより心房細動の発症の可能性を判定し、あるいは前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせと、心房細動の発症の可能性の指標値とを対応付けたテーブルに基づいて、抽出した前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせに応じた前記指標値を読み出す心房細動解析方法。
【請求項6】
コンピューターを、
被検体の体軸方向及び左右方向を含む平面上における一方向の誘導による心電図のみ、又は前記平面上において直交する二方向の誘導による心電図のみから
複数のP波データを取得するP波データ取得部、
前記P波データ取得部により取得された前記
複数のP波データからP波フラグメントを抽出するフラグメント抽出部、
前記P波フラグメントの数及び/又は前記P波フラグメントの持続時間に基づいて、心房細動の発症の可能性を解析する解析部、
として機能させ
、
前記フラグメント抽出部は、前記複数のP波データを平均化して平均P波データを算出し、前記平均P波データから極値を抽出し、隣接する前記極値間の電位差が所定の値を超えた場合、その極値間を結ぶ線を前記P波フラグメントとして抽出し、
前記解析部は、前記P波フラグメントの数又は前記持続時間に閾値を設け、抽出した前記P波フラグメントの数又は前記持続時間が閾値より高いか否かにより心房細動の発症の可能性を判定し、あるいは前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせと、心房細動の発症の可能性の指標値とを対応付けたテーブルに基づいて、抽出した前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせに応じた前記指標値を読み出すプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心房細動解析装置、心房細動解析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動(AF)は、最も頻度の高い持続性不整脈疾患であり、脳梗塞や心不全の原因となることから、その早期診断が重要である。さらに、心房細動は、発作性として生じ、徐々に慢性化する不整脈疾患である。従来、心房細動は、発作時には心電図を観察することにより診断可能であったが、非発作時の心電図を観察しても診断は不可能であった。そのため、非発作時においても、非侵襲検査である心電図を用いて心房細動の発症の可能性を解析できることが望まれていた。
【0003】
そのような中、非特許文献1において、心房内の伝導を評価する新しい解析法として、心電図におけるバンドパスフィルター処理後のP波のフラグメントをカウントする手法が提唱されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Murthy S, Rizzi P, Mewton N, Strauss DG, Liu CY, Volpe GJ, Marchlinski FE, Spooner P, Berger RD, Kellman P, Lima JAC, Tereshchenko LG. “Number of P-Wave Fragmentations on P-SAECG Correlates with Infiltrated Atrial Fat”, Ann Noninvasive Electrocardiol 2014; 19: 114-121.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1では、P波フラグメントと心房中隔内の脂肪との関連を見ているだけで、心房細動発症予測との関連については評価されていなかった。加えて、非特許文献1では特殊誘導(Frank誘導)法のXYZ誘導心電図を用いており、一般的に診療において用いられる12誘導心電図を用いていない。そのため、診断に高価な装置および高いスキルを有する検査者が必要となり、広く普及させるためには大きな課題を有していた。さらに、特殊誘導法の心電図を用いた解析は、過去に測定された心電図データ数が少ないため、心房細動の発症の可能性の解析精度を上げることが難しいという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、非侵襲、安価、容易且つ短時間の検査によって、非発作時であっても心房細動の発症の可能性を精度よく判断できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の心房細動解析装置は、
被検体の体軸方向及び左右方向を含む平面上における一方向の誘導による心電図のみ、又は前記平面上において直交する二方向の誘導による心電図のみから複数のP波データを取得するP波データ取得部と、
前記P波データ取得部により取得された前記複数のP波データからP波フラグメントを抽出するフラグメント抽出部と、
前記P波フラグメントの数及び/又は前記P波フラグメントの持続時間に基づいて、心房細動の発症の可能性を解析する解析部と、
を備え、
前記フラグメント抽出部は、前記複数のP波データを平均化して平均P波データを算出し、前記平均P波データから極値を抽出し、隣接する前記極値間の電位差が所定の値を超えた場合、その極値間を結ぶ線を前記P波フラグメントとして抽出し、
前記解析部は、
前記P波フラグメントの数又は前記持続時間に閾値を設け、抽出した前記P波フラグメントの数又は前記持続時間が閾値より高いか否かにより心房細動の発症の可能性を判定し、あるいは前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせと、心房細動の発症の可能性の指標値とを対応付けたテーブルに基づいて、抽出した前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせに応じた前記指標値を読み出す。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記心電図を測定する心電図測定部を備える。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記フラグメント抽出部は、前記P波データ取得部により前記平面上において直交する二方向の誘導による心電図から前記P波データを取得した場合、前記誘導ごとに前記複数のP波データを平均化して二乗平均平方根を算出することにより前記平均P波データを算出する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、
前記フラグメント抽出部は、さらに、前記平均P波データから所定範囲の周波数を除去するフィルタリング処理を行い、前記フィルタリング処理後の前記平均P波データからP波フラグメントを抽出する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、心房細動解析装置が実行する心房細動解析方法において、
被検体の体軸方向及び左右方向を含む平面上における一方向の誘導による心電図のみ、又は前記平面上において直交する二方向の誘導による心電図のみから複数のP波データを取得するP波データ取得工程と、
前記P波データ取得工程において取得された前記複数のP波データからP波フラグメントを抽 出するフラグメント抽出工程と、
前記P波フラグメントの数及び/又は前記P波フラグメントの持続時間に基づいて、心房細動の発症の可能性を解析する解析工程と、
を含み、
前記フラグメント抽出工程では、前記複数のP波データを平均化して平均P波データを算出し、前記平均P波データから極値を抽出し、隣接する前記極値間の電位差が所定の値を超えた場合、その極値間を結ぶ線を前記P波フラグメントとして抽出し、
前記解析工程では、前記P波フラグメントの数又は前記持続時間に閾値を設け、抽出した前記P波フラグメントの数又は前記持続時間が閾値より高いか否かにより心房細動の発症の可能性を判定し、あるいは前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせと、心房細動の発症の可能性の指標値とを対応付けたテーブルに基づいて、抽出した前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせに応じた前記指標値を読み出す。
【0013】
請求項6に記載の発明のプログラムは、
コンピューターを、
被検体の体軸方向及び左右方向を含む平面上における一方向の誘導による心電図のみ、又は前記平面上において直交する二方向の誘導による心電図のみから複数のP波データを取得するP波データ取得部、
前記P波データ取得部により取得された前記複数のP波データからP波フラグメントを抽出するフラグメント抽出部、
前記P波フラグメントの数及び/又は前記P波フラグメントの持続時間に基づいて、心房細動の発症の可能性を解析する解析部、
として機能させ、
前記フラグメント抽出部は、前記複数のP波データを平均化して平均P波データを算出し、前記平均P波データから極値を抽出し、隣接する前記極値間の電位差が所定の値を超えた場合、その極値間を結ぶ線を前記P波フラグメントとして抽出し、
前記解析部は、前記P波フラグメントの数又は前記持続時間に閾値を設け、抽出した前記P波フラグメントの数又は前記持続時間が閾値より高いか否かにより心房細動の発症の可能性を判定し、あるいは前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせと、心房細動の発症の可能性の指標値とを対応付けたテーブルに基づいて、抽出した前記P波フラグメントの数及び前記持続時間の組み合わせに応じた前記指標値を読み出す。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、非侵襲、安価、容易且つ短時間の検査によって、非発作時であっても心房細動の発症の可能性を精度よく判断することが可能となる。その結果、心房細動の早期診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態における心房細動解析装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態において
図1の制御部により実行される心房細動解析処理Aの流れを示すフローチャートである。
【
図4A】XYZ誘導の心電計のX誘導とY誘導を示す図である。
【
図5】平均P波データからP波フラグメントの数及び持続時間を算出する手順を模式的に示す図である。
【
図6A】健常者におけるP波フラグメントの数及び持続時間の一例を示す図である。
【
図6B】発症性心房細動患者におけるP波フラグメントの数及び持続時間の一例を示す図である。
【
図7A】XY誘導によるP波フラグメント数とXYZ誘導によるP波フラグメント数の比較結果を示す図である。
【
図7B】XY誘導によるP波フラグメント持続時間とXYZ誘導によるP波フラグメント持続時間の比較結果を示す図である。
【
図8A】XY誘導によるP波フラグメント数と、12誘導心電計の第I誘導とaVF誘導によるP波フラグメント数の関係を示すグラフである。
【
図8B】XY誘導によるP波フラグメント持続時間と、12誘導心電計の第I誘導とaVF誘導によるP波フラグメント持続時間の関係を示すグラフである。
【
図9A】12誘導心電計の第I誘導とaVF誘導によるP波フラグメント数と、第II誘導とaVL誘導によるP波フラグメント数の関係を示すグラフである。
【
図9B】12誘導心電計の第I誘導とaVF誘導によるP波フラグメント持続時間と、第II誘導とaVL誘導によるP波フラグメント持続時間の関係を示すグラフである。
【
図10A】12誘導心電計の第I誘導とaVF誘導によるP波フラグメント数と、第III誘導とaVR誘導によるP波フラグメント数の関係を示すグラフである。
【
図10B】12誘導心電計の第I誘導とaVF誘導によるP波フラグメント持続時間と、第III誘導とaVR誘導によるP波フラグメント持続時間の関係を示すグラフである。
【
図11】第2の実施形態において
図1の制御部により実行される心房細動解析処理Bの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0017】
<第1の実施形態>
第1の実施形態では、被検者の体軸方向(頭尾方向)及び左右方向を含む平面(前額面)上において直交する二方向の誘導による心電図のみを用い、体の前後方向(背腹方向)の誘導による心電図を用いることなく心房細動の発症の可能性を解析する例について説明する。
【0018】
〔心房細動解析装置1の構成〕
まず、本発明の第1の実施形態における心房細動解析装置1の構成について説明する。
図1は、心房細動解析装置1の機能的構成を示すブロック図である。
図1に示すように、心房細動解析装置1は、制御部11、記憶部12、操作部13、表示部14、心電図測定部15、通信部16等を備えて構成され、各部はバス17により接続されている。尚、本実施形態においては、心電図測定部を有する心房細動解析装置を示しているが、心電図測定部を有さない心房細動解析装置であってもよい。心電図測定部を有さない心房細動解析装置の場合は、心電図のデータを通信部等を介して記憶部に記憶させ、記憶部に記憶させた心電図のデータに基づいて心房細動解析処理を行うものが好ましい。
【0019】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)等により構成される。制御部11のCPUは、操作部13の操作に応じて、記憶部12に記憶されているシステムプログラムや各種処理プログラムを読み出してRAM内に展開し、展開されたプログラムに従って、心房細動解析装置1各部の動作を集中制御する。例えば、制御部11は、操作部13の操作に応じて、後述する心房細動解析処理を実行し、P波データ取得部、フラグメント抽出部、解析部として機能する。
【0020】
記憶部12は、不揮発性の半導体メモリーやハードディスク等により構成される。記憶部12は、システムプログラムや制御部11で実行される各種プログラム、プログラムにより処理の実行に必要なパラメーター等のデータを記憶する。例えば、記憶部12は、後述する心房細動解析処理を実行するためのプログラム等を記憶している。記憶部12は、心電図のデータを記憶していてもよい。各種プログラムは、読取可能なプログラムコードの形態で格納され、制御部11は、当該プログラムコードに従った動作を逐次実行する。
【0021】
操作部13は、各種機能キーや、マウス等のポインティングデバイスを備えて構成され、ユーザーによるキー操作やマウス操作により入力された指示信号を制御部11に出力する。また、操作部13は、表示部14の表示画面にタッチパネルを備えても良く、この場合、タッチパネルを介して入力された指示信号を制御部11に出力する。
【0022】
表示部14は、LCD(Liquid Crystal Display)やCRT(Cathode Ray Tube)等のモニターにより構成され、制御部11から入力される表示信号の指示に従って、操作部13からの入力指示やデータ等を表示する。
【0023】
心電図測定部15は、被検者の体表面に配置した電極を介して心筋の電気的変化を測定し、心電図として記録する。心電図測定部15としては、例えば、一般的に広く普及している12誘導心電計を用いることができるが、XYZ誘導の心電計としてもよい。
【0024】
通信部16は、LANアダプターやモデムやTA(Terminal Adapter)等を備え、通信ネットワークに接続された外部装置との間のデータ送受信を制御する。
【0025】
〔心房細動解析装置1の動作〕
次に、本実施形態における心房細動解析装置1の動作について説明する。
図2は、心房細動解析装置1の制御部11により実行される心房細動解析処理(心房細動解析処理Aとする)の流れを示すフローチャートである。心房細動解析処理Aは、操作部13の操作に応じて、制御部11のCPUと記憶部12に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0026】
まず、制御部11は、心電図測定部15に被検者の心電図測定を行わせ、洞調律(非発作時)の心電図のデジタルデータ(心電図データ)を記録する(ステップS1)。
解析の精度を保つため、心電図の測定時間は、10秒以上、1時間以内であることが好ましい。更に好ましくは、10秒以上、30分以内、最も好ましくは、10秒以上、3分以内である。心房細動解析装置1の解析手法では、ホルター心電図を用いて24時間測定を行うといった長時間の測定が不要で、短時間の測定で心房細動の発症可能性・リスクを解析できる為、好ましい。尚、本実施形態においては2分間で約100拍の測定を行ったものとする。
なお、本実施形態の解析においては、体の前後方向の誘導は使用しないため、体の前後方向の誘導による測定は省略することができる。
【0027】
図3は、一拍分の心電図データの一例を示す図である。
図3に示すように、心電図データは、P波、Q波、R波、S波、(QRS波)、T波、U波からなる。横軸は時間軸(mS)、縦軸は電位差(mV)である。
【0028】
次いで、制御部11は、心電図測定部15により取得された心電図データの中から、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面上において直交する二方向の誘導による心電図データを取得する(ステップS2)。
図4Aは、XYZ誘導の心電計のX誘導とY誘導を示す図、
図4Bは、12誘導心電計の肢誘導を示す図である。
図4A、
図4Bに示すように、被検者の体軸方向(頭尾方向、上下方向)及び左右方向を含む平面上において直交する二方向の誘導としては、XYZ誘導の心電計のX誘導とY誘導(以下、XY誘導)、12誘導心電計の肢誘導のうち第I誘導とaVF誘導、第II誘導とaVL誘導、第III誘導とaVR誘導の組がそれぞれ該当する。そこで、制御部11は、心電図測定部15が12誘導心電計である場合、肢誘導の心電図データのうち、少なくとも上述の対となる二方向の心電図データ(本実施形態では肢誘導の全ての心電図データ)を取得する。心電図測定部15がXYZ誘導の心電計である場合は、X誘導とY誘導の心電図データを取得する。
【0029】
次いで、制御部11は、取得された各誘導の心電図データのうち、P波が最も明瞭なシングルピークを示す波形の心電図データを選択して、選択された心電図データからR波ピークを検出する(ステップS3)。
ステップS3においては、例えば、取得された各誘導の心電図データを表示部14に並べて表示して、P波が最も明瞭なシングルピークを示す波形を含む心電図データをユーザー操作により選択させることとしてもよい。あるいは、制御部11が、各誘導の心電図データに含まれる波形の形状及び高さから自動的に選択してもよい。
例えば、100拍の心電図データが記録されている場合は、選択された心電図データから100のR波ピークが検出される。ここで検出するR波ピークは、1回の心電図測定で得られた複数拍の少なくとも一部であってもよいが、好ましくは全部の拍のR波ピークである。なお、心電図データに含まれるP波ピークやR波ピークは、波形の形状に基づいて制御部11により自動的に検出可能である。
【0030】
次いで、制御部11は、選択された心電図データから検出された各R波ピークを基準とする所定範囲を対象として、ステップS3で選択した誘導の心電図データからP波ピークを検出する(ステップS4)。
P波ピークを検出する対象となる所定範囲は、P波ピークが存在する範囲として実験的経験的に定められた範囲であり、例えば、各R波ピークを基準として-50~-200mSの範囲である。
例えば、100拍の心電図データが記録されている場合は、各誘導の心電図データから100のP波ピークが検出される。
【0031】
次いで、制御部11は、各誘導の心電図データにおいて、ステップS4で検出されたP波ピークの時間点を基準として所定範囲を切り出してP波データとして取得し、加算平均する(ステップS5)。
ここで切り出すP波データは、1回の心電図測定で得られた複数拍の少なくとも一部、好ましくは全部の拍のP波データである。P波データの数は、100個以上が好ましく、500個以上がさらに好ましく、最も好ましくは1000個以上である。
P波データとして切り出す所定範囲は、P波及びその前後の基線を含む範囲として実験的経験的に定められた範囲であり、好ましくはP波ピークを基準として-500mS~+300mSの間であって0mSを含みマイナス側の絶対値がプラス側の絶対値よりも大きくなる範囲であり、例えば、各P波ピークを基準として-300mS~+150mSの範囲である。基線とは、心電図データにおいて心臓が興奮していない部分を指す。
【0032】
次いで、制御部11は、各誘導の加算平均したP波データから基線となる部分を選択する(ステップS6)。
例えば、制御部11は、各P波ピークを基準として所定範囲(例えば、-200~-100mSの範囲)を基線として選択する。基線として選択する範囲は、基線が存在する範囲として実験的経験的に定められた範囲である。なお、基線となる部分はユーザーが選択してもよい。
【0033】
次いで、制御部11は、選択した基線部分に基づいて、加算平均したP波データの基線補正を行う(ステップS7)。
例えば、選択した基線部分の平均値を算出し、平均値をP波データの各値から引くことで、基線補正を行う。これにより、基線部分の値をほぼ0とすることができる。
【0034】
次いで、制御部11は、直交する二方向の誘導によるP波データの二乗平均平方根(RMS)を算出することにより、平均P波データを算出する(ステップS8)。
例えば、心電図測定部15が12誘導心電計である場合は、第I誘導とaVF誘導のP波データ、第II誘導とaVL誘導のP波データ、第III誘導とaVR誘導のP波データの3組の二乗平均平方根を算出して、3組の平均P波データを算出する。もしくは、第I誘導とaVF誘導のP波データの二乗平均平方根を算出して、一組のみの平均P波データを算出し用いるようにしても良い。
また、心電図測定部15がXYZ誘導の心電計である場合は、X誘導とY誘導のP波データの二乗平均平方根を算出して1組の平均P波データを算出する。
【0035】
次いで、算出した平均P波データにバンドパスフィルター処理を行う(ステップS9)。通過させる周波数範囲は、実験的経験的に求められた値であり、好ましくは30~300Hz、最も好ましくは、40~150Hzである。
【0036】
次いで、制御部11は、バンドパスフィルター処理後の平均P波データに、P波フラグメントの検出範囲を設定する(ステップS10)。
例えば、バンドパスフィルター処理後の平均P波データの、ステップS6で選択した基線部分の直後からQRS波の直前までの範囲をP波フラグメントの検出範囲として設定する。
【0037】
次いで、制御部11は、P波フラグメントの検出範囲内の極値を検出する(ステップS11)。
【0038】
次いで、制御部11は、バンドパスフィルター処理後の平均P波データの基線部分の値の標準偏差(基線標準偏差)を算出する(ステップS12)。
この基線標準偏差は、心電図を測定したときのノイズレベルを表す。
ここで、心電図測定部15が12誘導心電計である場合は、3つの平均P波データから標準偏差を算出することになるが、例えば、この標準偏差が最も低い、すなわちノイズの最も少ない平均P波データを、P波フラグメントを算出するための波形として決定する。もしくは、3つの平均P波データを用いずに、第I誘導とaVF誘導の平均P波データのみから標準偏差を算出するようにしても良い。
【0039】
次いで、制御部11は、ステップS11で検出した隣接する極値間の電位差が基線標準偏差のn倍(nは正の数)を超えた場合、その2点間を結ぶ線をP波フラグメントと定義する(ステップS13)。
nは、実験に基づいて算出した値であり、2以上、10以下が好ましく、2以上、5以下がより好ましく、例えば、3である。
【0040】
次いで、制御部11は、P波フラグメントの数を算出する(ステップS14)。
次いで、制御部11は、P波フラグメントの始点(1つの平均P波データにおける最初の始点)から終点(1つの平均P波データにおける最後の終点)までの時間(P波フラグメントの持続時間)を算出する(ステップS15)。
図5に、平均P波データからP波フラグメントの数及び持続時間を算出する流れを示す。
【0041】
そして、制御部11は、P波フラグメントの数及び/又は持続時間に基づいて、心房細動の発症の可能性を解析して、解析結果を表示部14に表示させ(ステップS16)、心房細動解析処理Aを終了する。
【0042】
図6Aは、健常者におけるP波フラグメントの数及び持続時間の一例を示す図、
図6Bは、発症性心房細動患者におけるP波フラグメントの数及び持続時間の一例を示す図である。本実施形態では、nは3とする。即ち、本実施形態では、隣接する極値間の電位差が基線標準偏差の3倍を超えた場合、その2点間を結ぶ線をP波フラグメントと定める。
図6A、
図6Bに示すように、発作性心房細動患者におけるP波フラグメントの数及び持続時間は、健常者に比べて大きい。本実施形態においては、健常者のP波フラグメント数は17であり、発症性心房細動患者のP波フラグメント数は25である。また、健常者のP波フラグメント時間(持続時間)は137msであり、発症性心房細動患者のP波フラグメント時間(持続時間)は172msである。
そこで、ステップS16においては、例えば、P波フラグメントの数又は持続時間の値を、心房細動の発症の可能性を表す指標値として表示する。または、P波フラグメントの数又は持続時間に閾値を設け、算出したP波フラグメントの数又は持続時間が閾値よりも高い場合に、心房細動の発症の可能性が高いと判定してその旨を表示してもよい。または、P波フラグメントの数又は持続時間が閾値1以下の場合は心房細動の可能性:低、閾値1~閾値2未満の場合は、心房細動の可能性:中、閾値2以上の場合は、心房細動の可能性:高と判定してその旨を表示してもよい(閾値1<閾値2)。または、例えば、P波フラグメントの数及び持続時間の組み合わせと、心房細動の発症の可能性の指標値とを対応付けたテーブルを予め記憶部12に記憶しておき、算出したP波フラグメントの数及び持続時間の組み合わせに応じた指標値を読み出して表示することとしてもよい。
【0043】
〔検証〕
本願発明者は、鋭意研究の結果、左心房後壁が心房細動の発生に重要な場所であり、それが体の体軸方向及び左右方向を含む平面に沿っていることから、心房細動の発症の可能性の解析に体の前後方向の誘導は不要なのではないかと考えるに至った。そして、体の前後方向の誘導を用いず、非発作時に測定した、体軸方向及び左右方向を含む平面において直交する二方向の誘導のみを用いて算出したP波フラグメントの数及び持続時間が発作性心房細動の発症の可能性の判別に使用できるか否かを検証した。
【0044】
図7Aは、PAF(発症性心房細動患者群)、AC(年齢適合対照群)、YC(若年対照群)に対し、XY誘導とXYZ誘導でそれぞれ2分間記録を行って上述の手法により算出したP波フラグメント数(平均値)の比較結果を示す図である。
図7Bは、PAF、AC、YCに対し、XY誘導とXYZ誘導でそれぞれ2分間記録を行って上述の手法により算出したP波フラグメント持続時間(平均値)の比較結果を示す図である。なお、P波フラグメントと判定するための閾値は、基線部分のノイズレベルの3倍とした。
【0045】
図7A、
図7Bに示すように、PAF、AC、YCの全てにおいて、XY誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間は、XYZ誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間とほぼ同じであり、発作性心房細動患者ではP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間がともに健常者より大きい結果となった。
すなわち、体軸方向及び左右方向を含む平面において直交するXY誘導のみを用いて算出したP波フラグメントの数及び持続時間が発作性心房細動の発症の判別に使用できることが確認された。
【0046】
また、本願発明者は、複数の健常者及び発作性心房細動患者に対し、XY誘導と12誘導心電計の第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間の算出を行い、相関があるか否かを検討した。
図8A~
図10Bに、その検討結果を示す。
【0047】
図8Aは、XY誘導によるP波フラグメント数と12誘導心電計の第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント数の関係を示す散布図である。
図8Bは、XY誘導によるP波フラグメント時間と、12誘導心電計の第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント持続時間の関係を示す散布図である。
図8Aに示すように、XY誘導によるP波フラグメント数と12誘導心電計の第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント数の相関係数Rは0.64であり、相関が認められた。また、
図8Bに示すように、XY誘導によるP波フラグメント持続時間と12誘導心電計の第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント持続時間の相関係数Rは0.77であり、相関が認められた。
【0048】
また、本願発明者は、XY誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間と、第II誘導及びaVL誘導、並びに第III誘導及びaVR誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間との相関の有無について確認するために、第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間と、第II誘導及びaVL誘導、並びに第III誘導及びaVR誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間との相関関係の有無について検討した。
【0049】
図9Aは、12誘導心電計の第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント数と第II誘導及びaVL誘導によるP波フラグメント数の関係を示す散布図である。
図9Bは、12誘導心電計の第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント持続時間と第II誘導及びaVL誘導によるP波フラグメント持続時間の関係を示す散布図である。
図9Aに示すように、第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント数と第II誘導及びaVL誘導によるP波フラグメント数の相関係数Rは0.90であり、相関が認められた。また、
図9Bに示すように、第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント持続時間と第II誘導及びaVL誘導によるP波フラグメント持続時間の相関係数Rは0.83であり、相関が認められた。すなわち、XY誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間と第II誘導及びaVL誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間についても相関が認められた。
【0050】
図10Aは、12誘導心電計の第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント数と第III誘導及びaVR誘導によるP波フラグメント数の関係を示す散布図である。
図10Bは、12誘導心電計の第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント持続時間と第III誘導及びaVR誘導によるP波フラグメント持続時間の関係を示す散布図である。
図10Aに示すように、第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント数と第III誘導及びaVR誘導によるP波フラグメント数の相関係数Rは0.81であり、相関が認められた。また、
図10Bに示すように、第I誘導及びaVF誘導によるP波フラグメント持続時間と第III誘導及びaVR誘導によるP波フラグメント持続時間の相関係数Rは0.83であり、相関が認められた。すなわち、XY誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間と第III誘導及びaVR誘導によるP波フラグメント数及びP波フラグメント持続時間についても相関が認められた。
【0051】
以上より、12誘導心電計の第I誘導とaVF誘導のみ、第II誘導とaVL誘導のみ、又は第III誘導とaVR誘導のみを用いて算出したP波フラグメントの数及び持続時間についても発作性心房細動の発症の判別に使用できることが確認された。
【0052】
心電図検査は、非侵襲で心臓全体の状態をマクロに捉えることのできる検査である。なかでも12誘導心電図による検査は、安価で医療現場に広く普及しており、多くの検査者が容易に実施することができ、ホルター心電図のように24時間測定を行うといった長時間測定も不要である。上記心房細動解析処理Aでは、体の前後方向の誘導による心電図データを用いずに、非発作時の体軸方向及び左右方向を含む平面において直交する二方向の誘導による心電図データのみを用いて心房細動の発症の可能性を解析するので、12誘導心電図の、特に測定が簡易な肢誘導の心電図データのみを用いて解析を行うことができ、非侵襲、安価、容易且つ短時間の検査によって、非発作時であっても心房細動の発症の可能性を予測することが可能となる。その結果、心房細動の早期診断が可能となる。
【0053】
また、12誘導心電図は、上述のように以前より広く普及されているため、過去に測定されたデータが大量に存在する。そこで、過去の心房細動患者の心電図データ及び心房細動患者でない健常者の心電図データを用いることにより、P波の位置決めやP波フラグメントの判定に用いる閾値や、心房細動の発症の可能性を解析する際の閾値等をより精度よく求めることができ、心房細動の発症の可能性を精度よく予測することが可能となる。即ち、改めて心電図を測定しなくても過去の12誘導心電図測定データそのものから心房細動の発症可能性を予測できる。加えて、膨大な過去の12誘導心電図測定データを活用し、ソフトウェアやAI(機械学習)に入力し解析することで、今から大量の検査を行いデータを収集しなくても、心房細動の発症の可能性をより精度よく予測することも可能となる。
【0054】
なお、例えば、上記のステップS1において数分間(例えば、2分間)の測定を行い、2分間の心電図データを用いて解析を行う場合、過去の短い(例えば、10秒の)心電図データでは測定時間が足りないことも考えられる。この場合は、2分間測定して取得した複数の心電図データをAIに入力して、10秒間の心電図データから2分間の心電図データを推定するための機械学習モデルを作成させ、この機械学習モデルに過去の10秒の心電図データを入力することによって2分間の心電図データを予測させることにより、過去の短い測定時間の心電図データを心房細動の発症の可能性の精度向上のために活用することが可能となる。なお、AIは、制御部11とプログラムとの協働により実現されることとしてもよいし、専用のハードウエアにより実現されることとしてもよい。
【0055】
また、XYZ誘導の心電計等を用いる場合においても、Z誘導による測定が不要なため、心電計にZ誘導用の電極(X誘導、Y誘導とは異なる専用の電極)を備える必要がなく、安価な装置構成とすることができる。さらに、Z誘導の心電図データを用いる必要がないため、計測にかかる時間や患者への負荷、解析の処理時間や処理負荷を低減することができる。
【0056】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
第1の実施形態では、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面において直交する二方向の誘導による心電図データのみを用いて心房細動の発症の可能性を解析する例について説明したが、第2の実施形態では、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面における一方向(例えば、左右方向)の誘導による心電図データのみから心房細動の発症の可能性を評価する例について説明する。
【0057】
第2の実施形態における構成要素は、
図1を用いて説明したものと略同様であるが、本実施形態において、心電図測定部15は、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面における所定の一方向の誘導による心電図データのみを測定可能であればよい。そのため、本実施形態では、心電図測定部15は、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面における所定の一方向(例えば、左右方向)の誘導による心電図データのみを測定するものとして説明する。この場合、心電図測定部15を手首に装着するリストバンド型や腕時計型のデバイスとすることも可能であり、被検者の負担が少ないので好ましい。
【0058】
その他の第2の実施形態における構成は、第1の実施形態で説明したものと同様であるので説明を援用し、以下、第2の実施形態の動作について説明する。
【0059】
次に、第2の実施形態における心房細動解析装置1の動作について説明する。
図11は、心房細動解析装置1の制御部11により実行される心房細動解析処理(心房細動解析処理Bとする)の流れを示すフローチャートである。心房細動解析処理Bは、操作部13の操作に応じて、制御部11のCPUと記憶部12に記憶されているプログラムとの協働により実行される。
【0060】
まず、制御部11は、心電図測定部15に被検者の心電図測定を行わせ、洞調律(非発作時)の心電図データを記録する(ステップS21)。
心電図測定における好ましい測定拍数や測定時間は、例えば、
図2のステップS1で説明したものと同様である。
【0061】
次いで、制御部11は、心電図測定により取得された心電図データからR波ピークを検出する(ステップS22)。
【0062】
次いで、制御部11は、検出された各R波ピークを基準とする所定範囲を対象として、P波ピークを検出する(ステップS23)。
P波ピークを検出する対象となる所定範囲は、P波ピークが存在する範囲として実験的経験的に定められた範囲であり、例えば、各R波ピークを基準として-50~-200mSの範囲である。
【0063】
次いで、制御部11は、検出されたP波ピークの時間点を基準として所定範囲をP波データとして切り出し、加算平均することにより、平均P波データを算出する(ステップS24)。
P波データとして切り出す所定範囲は、P波及びその前後の基線を含む範囲として実験的経験的に定められた範囲であり、例えば、各P波ピークを基準として-300mS~+150mSの範囲である。
【0064】
次いで、制御部11は、平均P波データから基線となる部分を選択する(ステップS25)。
例えば、制御部11は、各P波ピークを基準として所定範囲(例えば、-200~-100mSの範囲)を基線として選択する。基線として選択する範囲は、基線が存在する範囲として実験的経験的に定められた範囲である。なお、基線となる部分はユーザーが選択してもよい。
【0065】
次いで、制御部11は、選択した基線部分に基づいて、平均P波データの基線補正を行う(ステップS26)。
例えば、選択した基線部分の平均値を算出し、平均値を波形から引くことで、基線補正を行う。これにより、基線部分の値を略0とすることができる。
【0066】
次いで、制御部11は、基線補正後の加算平均波形にバンドパスフィルター処理を行う(ステップS27)。通過させる周波数範囲は、好ましくは30~300Hz、最も好ましくは、40~150Hzである。
【0067】
次いで、制御部11は、バンドパスフィルター処理後の平均P波データに、P波フラグメントの検出範囲を設定する(ステップS28)。
例えば、バンドパスフィルター処理後の平均P波データの、ステップS25で選択した基線部分の直後からQRS波の直前までの範囲をP波フラグメントの検出範囲として設定する。
【0068】
次いで、制御部11は、P波フラグメントの検出範囲内の極値を検出する(ステップS29)。
【0069】
次いで、制御部11は、バンドパスフィルター処理後の平均P波データの基線部分の値の標準偏差(基線標準偏差)を算出する(ステップS30)。
【0070】
次いで、制御部11は、ステップS30で検出した隣接する極値間の電位差が基線標準偏差のn倍(nは正の数)を超えた場合、その2点間を結ぶ線をP波フラグメントと定義する(ステップS31)。
nは、実験に基づいて算出した値であり、例えば、3である。
【0071】
次いで、制御部11は、P波フラグメントの数を算出する(ステップS32)。
次いで、制御部11は、P波フラグメントの始点から終点までの時間(P波フラグメントの持続時間)を算出する(ステップS33)。
【0072】
そして、制御部11は、P波フラグメントの数及び/又は持続時間に基づいて、心房細動の発症の可能性を解析して、解析結果を表示部14に表示させ(ステップS34)、心房細動解析処理Bを終了する。
ステップS34の処理は、例えば、
図2のステップS16で説明したものと同様の処理である。
【0073】
上記第2の実施形態では、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面における一方向(例えば、左右方向)の誘導のみの心電図データを用いて心房細動の発症の可能性を解析するので、リストバンド型や腕時計型のデバイスを用いた簡易な心電図検査での測定結果を用いることができ、被検者への負担が小さくて済むので好ましい。一方で、第1の実施形態のように二方向の誘導の心電図を用いる場合に比べて解析精度の面で劣る可能性がある。
【0074】
そこで、例えば、上記心房細動解析処理Bにおいて解析に使用する誘導(解析対象とする誘導)と、当該誘導と被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面において直交する方向の誘導を含む心電図測定を複数回行い、得られた心電図データのうち、解析対象とする誘導の心電図データのみを用いて算出したP波フラグメントの数及び/又は持続時間と、解析対象とする方向及びこれと直交する方向の二方向の誘導の心電図データを用いて算出したP波フラグメントの数及び/又は持続時間とを心房細動解析装置1内に構築したAIに入力して学習させて機械学習モデルを作成しておくこととしてもよい。そして、制御部11は、
図11のステップS32~S33までの処理で算出されたP波フラグメントの数及び/又は持続時間を上記機械学習モデルに入力して、二方向の誘導の心電図データを用いて算出したP波フラグメントの数及び/又は持続時間を推定し、推定したP波フラグメントの数及び/又は持続時間に基づいて心房細動の発症の可能性を解析することとしてもよい。これにより、第1の実施形態と同様の効果を、より簡易な検査によって得ることが可能となる。
【0075】
以上説明したように、心房細動解析装置1によれば、制御部11は、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面上における一方向の誘導による心電図のみ、又は前記平面上において直交する二方向の誘導による心電図のみからP波データを取得し、取得されたP波データからP波フラグメントを抽出する。そして、P波フラグメントの数及び/又はP波フラグメントの持続時間に基づいて、心房細動の発症の可能性を解析する。
したがって、体の前後方向の誘導による心電図データを用いずに、非発作時の被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面における一方向の誘導又は直交する二方向の誘導による心電図データのみを用いて心房細動の発症の可能性を解析するので、12誘導心電図の、特に測定が簡易な肢誘導の心電図データのみを用いて解析を行うことができ、非侵襲、安価、容易且つ短時間の検査によって、非発作時であっても心房細動の発症の可能性を予測することが可能となる。その結果、心房細動の早期診断が可能となる。
【0076】
なお、上記実施形態における記述内容は、本発明の好適な一例であり、これに限定されるものではない。
【0077】
例えば、上記第1及び第2の実施形態においては、心房細動解析装置1は、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面における一方向の誘導による心電図データのみ、又は被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面において直交する二方向の心電図データのみから心房細動の発症の可能性を解析する装置であるものとし、当該装置及び当該装置における心房細動解析方法について説明したが、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面における一方向の誘導による心電図データのみ、又は被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面において直交する二方向の心電図データのみから、単にP波フラグメントの数及び/又は持続時間を算出する装置及び解析方法(P波フラグメント解析装置及びP波フラグメント解析方法)としてもよい。
【0078】
また、上記第2の実施形態において、心電図測定部15は、被検者の体軸方向及び左右方向を含む平面における所定の一方向(例えば、左右方向)の誘導による心電図データのみを測定するものとして説明したが、これに限定されず、例えば、12誘導心電計やXYZ誘導の心電計のように、複数方向の誘導による心電図を取得可能な心電計としてもよい。そして、制御部11が、計測された心電図データの中から所定方向の心電図データを取得して、P波フラグメント解析及び心房細動の発症の可能性の解析を行うこととしてもよい。
【0079】
また、例えば、上記の説明では、本発明に係るプログラムのコンピューター読み取り可能な媒体としてハードディスクや半導体の不揮発性メモリー等を使用した例を開示したが、この例に限定されない。その他のコンピューター読み取り可能な媒体として、CD-ROM等の可搬型記録媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウエーブ(搬送波)も適用される。
【0080】
その他、心房細動解析装置を構成する各装置の細部構成及び細部動作に関しても、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、医療の分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 心房細動解析装置
11 制御部
12 記憶部
13 操作部
14 表示部
15 心電図測定部
16 通信部
17 バス