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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/50 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
C23C14/50 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023574700
(86)(22)【出願日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2023022834
【審査請求日】2023-12-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007216
【氏名又は名称】株式会社シンクロン
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 貴昭
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 慎一
(72)【発明者】
【氏名】門脇 亘成
(72)【発明者】
【氏名】庄司 善紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 耀介
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-76818(JP,A)
【文献】特開2009-288294(JP,A)
【文献】特開2009-155683(JP,A)
【文献】特開2007-162049(JP,A)
【文献】特開2021-130842(JP,A)
【文献】特許第5189711(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜処理を行う成膜チャンバと、
一方の面と他方の面とを有する基板を装着する基板ホルダと、
前記成膜チャンバ内に設けられ、前記基板ホルダを保持する回転体と、を備え、
前記基板ホルダは、前記回転体に対し、前記基板の一方の面を成膜する第1位置と前記基板の他方の面を成膜する第2位置とに反転可能又は回転可能に設けられた成膜装置において、
前記基板ホルダが前記第1位置において前記基板の一方の面を成膜する場合に、前記基板の他方の面を遮蔽するマスキング部材をさらに備え、
前記マスキング部材は、
上端が前記回転体に支持され、下端が自由端とされた幕状部材からなり、
前記回転体の回転によって前記マスキング部材に作用する遠心力により、前記基板の他方の面に向かって押圧される成膜装置。
【請求項2】
前記マスキング部材の上端と前記回転体との間に設けられた仲介部材と、
前記回転体と前記仲介部材の上端とのそれぞれに固定された第1蝶番と、
前記仲介部材の下端と前記マスキング部材の上端とのそれぞれに固定された第2蝶番と、をさらに備え、
前記基板ホルダが、前記回転体に対して前記第1位置と前記第2位置との間を反転又は回転する場合に、前記マスキング部材は、前記仲介部材、前記第1蝶番及び前記第2蝶番により前記回転体の内側に後退する請求項に記載の成膜装置。
【請求項3】
成膜処理を行う成膜チャンバと、
一方の面と他方の面とを有する基板を装着する基板ホルダと、
前記成膜チャンバ内に設けられ、前記基板ホルダを保持する回転体と、を備え、
前記基板ホルダは、前記回転体に対し、前記基板の一方の面を成膜する第1位置と前記基板の他方の面を成膜する第2位置とに反転可能又は回転可能に設けられた成膜装置において、
前記基板ホルダが前記第1位置において前記基板の一方の面を成膜する場合に、前記基板の他方の面を遮蔽するマスキング部材をさらに備え、
前記マスキング部材は、平板状部材からなり、
前記基板ホルダが前記第1位置にある場合には前記マスキング部材を前記基板の他方の面に向かって押圧し、前記基板ホルダが前記第2位置にある場合には前記マスキング部材を前記基板の一方の面に向かって押圧する押圧部材をさらに備え
前記押圧部材は、
一端が前記回転体に回転可能に設けられ、他端が前記マスキング部材に回転可能に設けられたリンク部材と、
前記リンク部材を前記基板ホルダに向かう回転方向に付勢するバネ部材と、を備え、
前記基板ホルダが、前記回転体に対して前記第1位置と前記第2位置との間を反転又は回転する場合に、前記マスキング部材は、前記押圧部材の前記バネ部材の付勢力に抗して前記回転体の内側に後退し、
前記基板ホルダの反転又は回転が終了した場合に、前記マスキング部材は、前記押圧部材により前記基板ホルダに向かって押圧される成膜装置。
【請求項4】
前記押圧部材は、前記マスキング部材の上端部と下端部とに設けられている請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基板の一方の面を成膜したのち、前記基板ホルダを前記第1位置から前記第2位置へ反転又は回転させて前記基板の他方の面を成膜する場合に、
前記マスキング部材は、前記基板の一方の面を遮蔽する請求項1~のいずれか一項に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に関し、特に被成膜基板の両面に成膜する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被成膜基板の両面に成膜可能な真空蒸着装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。この真空蒸着装置では、基板の両面が露出するように当該基板を基板ホルダに取り付け、この基板ホルダを基板治具に対して回転可能に取り付け、基板の一方側の面に蒸着膜を形成したのち、基板ホルダを基板治具に対して回転させることで基板を反転する。そして、反転した基板の他方側の面に蒸着膜を形成することにより、基板の両面に膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-271935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の真空蒸着装置では、基板を保持する基板ホルダを反転可能に取り付けるため、基板ホルダとこれに隣接する基板ホルダとの間には、互いに干渉しないための隙間が必要となる。しかしながら、成膜中において、蒸着材料がこの隙間から基板ホルダの裏面に廻り込み、基板の裏面の一部に膜が形成される。この廻り込んだ膜の影響により、当該裏面の膜性能が、設計どおりの膜性能を呈しないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、基板の一方の面を成膜中に、基板の他方の面に成膜材料が付着するのを防止できる成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、成膜処理を行う成膜チャンバと、一方の面と他方の面とを有する基板を装着する基板ホルダと、前記成膜チャンバ内に設けられ、前記基板ホルダを保持する回転体と、を備え、前記基板ホルダは、前記回転体に対し、前記基板の一方の面を成膜する第1位置と前記基板の他方の面を成膜する第2位置とに反転可能又は回転可能に設けられた成膜装置において、
前記基板ホルダが前記第1位置において前記基板の一方の面を成膜する場合に、前記基板の他方の面を遮蔽するマスキング部材をさらに備える成膜装置によって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基板の一方の面を成膜中は、基板の他方の面をマスキング部材で遮蔽するので、基板の一方の面を成膜中に、基板の他方の面に成膜材料が付着するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る成膜装置の一実施の形態を示す横断面図である。
図2図1のII-II線に沿う縦断面図である。
図3図2のIII部の拡大図であって、本発明に係るマスキング部材の第1実施形態を示す正面図である。
図4図3のIV-IV線に沿う矢視図である。
図5図4のV部の拡大図である。
図6図5のVI-VI線に沿う矢視図である。
図7】本発明に係るマスキング部材の第1実施形態の動作(その1)を示す、図3のIV-IV線に沿う矢視図である。
図8】本発明に係るマスキング部材の第1実施形態の動作(その2)を示す、図3のIV-IV線に沿う矢視図である。
図9】本発明に係るマスキング部材の第1実施形態の動作(その3)を示す、図3のIV-IV線に沿う矢視図である。
図10】本発明に係るマスキング部材の第2実施形態を示す斜視図である。
図11図10のXI部の拡大斜視図である。
図12図10のXII部の拡大斜視図である。
図13】本発明に係るマスキング部材の第2実施形態の動作(その1)を示す平面図である。
図14】本発明に係るマスキング部材の第2実施形態の動作(その2)を示す平面図である。
図15】本発明に係るマスキング部材の第2実施形態の動作(その3)を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る成膜装置の一実施の形態を示す横断面図、図2は、図1のII-II線に沿う縦断面図である。本実施形態の成膜装置は、スパッタ成膜装置1であって、減圧可能で放電ガスが導入可能とされ、基板Sに膜を形成する成膜チャンバ11と、成膜チャンバ11内にて回転可能に設けられた回転ドラム12と、回転ドラム12の外側面に対面する第1スパッタ電極13,第2スパッタ電極14と、を備える。
【0010】
成膜チャンバ11は、実質的に密閉空間を形成する中空筐体からなり、たとえば図1及び図2に示すように平面視及び側面視において矩形とされている。この成膜チャンバ11の壁面には、ターボ分子ポンプなどの第1排気装置15の吸引口が接続され、成膜チャンバ11の内部空間の気体を排気することで、成膜チャンバ11を所定の減圧雰囲気に維持する。
【0011】
また成膜チャンバ11には、当該成膜チャンバ11の内部空間に放電ガス(スパッタ処理においてターゲットに衝突する電子を放出するガス)及び必要に応じて反応ガスを導入するガス導入装置16が設けられている。本実施形態のガス導入装置16は、放電ガスを貯留するとともに、反応性スパッタ処理などを行う場合には反応ガスを貯留する。放電ガスとしては特に限定されないが、たとえばアルゴンガスなどの不活性ガスが用いられる。また反応ガスとしては、目的とする膜種に応じたガスが選択され、たとえば酸化膜である場合は酸素ガス、窒化膜である場合には窒素ガスが用いられる。
【0012】
成膜チャンバ11は、図1及び図2に示すように、回転ドラム12のドラム外側壁に対面する壁面の一部に、第1スパッタ電極13と第2スパッタ電極14が設けられている。本実施形態の第1スパッタ電極13及び第2スパッタ電極14のそれぞれは、電源17に接続され、スパッタ電極の先端には、成膜材料となるターゲットが装着される。第1スパッタ電極13及び第2スパッタ電極14のそれぞれは、ターゲットの表面が、回転ドラム12に支持された基板Sに対面するような姿勢で設けられ、成膜時には電源17からの電圧がターゲットに印加される。
【0013】
本実施形態のスパッタ成膜装置1では、成膜チャンバ11の側壁面の一つに、図1に示すようにゲートバルブ18を介してロードロックチャンバ19が設けられ、ロードロックチャンバ19を介して、基板Sが支持された回転ドラム12の搬入及び搬出が行われる。ロードロックチャンバ19の壁面の一つには、回転ドラム12を搬入及び搬出するためのドア20が設けられている。また、ロードロックチャンバ19の壁面には、ターボ分子ポンプなどの第2排気装置21の吸引口が接続され、ドア20を閉めた状態でロードロックチャンバ19の内部空間の気体を排気することで、当該ロードロックチャンバ19の内部を減圧雰囲気に維持する。
【0014】
本実施形態の回転ドラム12は、カルーセルタイプのドラム方式とされ、ドラムの側壁表面に基板ホルダ22を介して基板Sが装着される。回転ドラム12は、成膜チャンバ11に回転可能に設けられた回転軸121を中心にして、たとえば電動モータからなる駆動装置122により、所定方向に所定速度で回転する。
【0015】
図3は、図2のIII部を拡大した正面図であり、回転ドラム12の円筒状の外壁面に沿って複数取り付けられた基板ホルダ22を示し、図4は、図3のIV-IV線に沿う矢視図である。本実施形態の基板ホルダ22は、回転ドラム12の上側骨格部材123と下側骨格部材124との間に介装され、基板ホルダ22の軸221が、上側骨格部材123と下側骨格部材124のそれぞれに対して回転可能に支持されている。
【0016】
被成膜物としての基板Sは、基板ホルダ22に対し、専用の治具などを介して着脱可能に取り付けられる。特に本実施形態の基板Sは、表面と裏面の両面に成膜される製品仕様であり、そのため基板ホルダ22が、回転ドラム12に対し、基板Sの一方の面(たとえば表面)を成膜する第1位置と、基板Sの他方の面(たとえば裏面)を成膜する第2位置とに反転可能又は回転可能とされている。なお、本発明において、基板ホルダ22を第1位置と第2位置とにするに場合、基板ホルダ22をその都度反転させてもよいし、180°ずつ回転させてもよい。
【0017】
具体的には、上述したとおり、複数の基板ホルダ22のそれぞれが、回転ドラム12の上側骨格部材123と下側骨格部材124のそれぞれに対して回転可能に支持されている。これに加え、それぞれの基板ホルダ22の軸221の上端部には、図3及び図4に示すようにカム部材222が固定される一方、成膜チャンバ11側にピン部材23が出没可能に設けられている。ピン部材23は、アクチュエータなどにより、ピン部材23が没入することでカム部材222とは干渉しない没入位置と、ピン部材23が突出することでカム部材222と干渉する突出位置とに作動する。
【0018】
そして、基板Sの一方の面(たとえば表面)を成膜中は、ピン部材23を没入位置にした状態で、それぞれの基板ホルダ22は、支持した基板Sの一方の面(たとえば表面)が回転ドラム12の外側に向かう第1位置に停止し、これにより基板Sの一方の面(たとえば表面)が第1スパッタ電極13及び第2スパッタ電極14に対面するので、当該一方の面(たとえば表面)にスパッタ膜が形成される。
【0019】
基板Sの一方の面(たとえば表面)に所定のスパッタ膜が形成されたら、それまで没入していたピン部材23を突出位置に作動させ、回転ドラム12を回転させる。この回転ドラム12の回転により、それぞれの基板ホルダ22のカム部材222にピン部材23が当接し、基板ホルダ22を180°回転させる。この結果、基板ホルダ22が反転し、支持した基板Sの他方の面(たとえば裏面)が回転ドラム12の外側に向かう第2位置に停止し、これにより基板Sの他方の面(たとえば裏面)が第1スパッタ電極13及び第2スパッタ電極14に対面することになる。この状態から成膜処理を再開すれば、基板Sの他方の面(たとえば裏面)にもスパッタ膜が形成されることになる。
【0020】
ところで、複数の基板ホルダ22のそれぞれを回転ドラム12に回転可能に取り付ける場合、回転時に互いに干渉しないように、隣り合う基板ホルダ22の間に僅かな隙間を設ける必要がある。ところが、成膜中において成膜材料がこの隙間から基板ホルダ22の裏側に廻り込み、基板Sの裏側の面に付着するという問題がある。加飾などを成膜目的に基板Sの両面に成膜する場合は、基板Sの裏側の面に成膜材料が多少付着しても、加飾製品としての問題は少ないが、光学系レンズのように膜の分光特性などが厳格に要求される製品については、基板Sの裏側の面に少しでも成膜材料が付着すると、目的とする光学特性が得られないという問題がある。
【0021】
そのため、本実施形態のスパッタ成膜装置1では、基板Sの一方の面を成膜する場合には、基板Sの他方の面を遮蔽するマスキング部材24をさらに設けている。この場合、マスキング部材24は、基板Sの一方の面を成膜する場合には、未成膜である基板Sの他方の面を遮蔽するほか、基板Sの他方の面を成膜する場合には、成膜済みである基板Sの一方の面を遮蔽することも含む。以下、本発明に係るマスキング部材24を、2つの実施形態を挙げて説明する。
【0022】
《第1実施形態》
本発明に係るマスキング部材24の第1実施形態を図3図9に示す。第1実施形態のマスキング部材24は、剛性又は柔軟性を有する、金属製、合成樹脂製又はセラミックス製の幕状部材241を有し、幕状部材241の上端は、仲介部材242を介して回転ドラム12の上側骨格部材123に支持され、幕状部材241の下端は自由端とされている。
【0023】
図5は、図4のV部の拡大図、図6は、図5のVI-VI線に沿う矢視図である。同図に示すように、仲介部材242は、金属製又は合成樹脂製など剛性を有する板材からなり、図5に示すように断面がL字状に形成された部材である。この仲介部材242の上端と、回転ドラム12の上側骨格部材123との間には、平蝶番などからなる第1蝶番243が固定され、これにより仲介部材242は、回転ドラム12に対し、第1蝶番243の回転軸を中心に回動可能とされている。また、仲介部材242の下端と、幕状部材241の上端との間には、同じく平蝶番などからなる第2蝶番244が固定され、これにより、幕状部材241は、仲介部材242に対し、第2蝶番244の回転軸を中心に回動可能とされている。なお、図6に示すように、第1蝶番243は、仲介部材242の幅方向の中央に1つ設けられ、第2蝶番244は、仲介部材242の幅方向の両端部に2つ設けられている。
【0024】
次に作用を説明する。図7図9は、第1実施形態に係るマスキング部材24の動作を示す、図3のIV-IV線に沿う矢視図であり、図7は、回転ドラム12が停止し、基板ホルダ22が第1位置又は第2位置にある状態を示し、図8は、基板ホルダ22が第1位置又は第2位置にあり、回転ドラム12が回転中である状態を示し、図9は、回転ドラム12が停止し、基板ホルダ22が反転中又は回転中である状態を示す。
【0025】
図7に示すように、回転ドラム12が停止し、基板ホルダ22が第1位置又は第2位置にある状態においては、マスキング部材24の幕状部材241は、基板ホルダ22の裏側の面から少し離れた位置において垂下している。幕状部材241の上端は、仲介部材242と、1つの第1蝶番243と、2つの第2蝶番244とを介して回転ドラム12の上側骨格部材123に取り付けられ、下端が自由端とされているので、図7に示す状態から、成膜を開始するために回転ドラム12が回転すると、その回転によってマスキング部材24の幕状部材241に遠心力が作用する。この遠心力は、幕状部材241を回転ドラム12の外側へ向かわせる力となることから、幕状部材241は、図8に示すように基板ホルダ22の裏側の面に向かって押圧されることになる。
【0026】
ここで、本実施形態のマスキング部材24の幕状部材241は、仲介部材242と第1蝶番243と第2蝶番244とを介して回転ドラム12に取り付けられているため、幕状部材241の上端から下端までの全体にわたり、基板ホルダ22の裏側の面に密着する。なお、回転ドラム12の上側骨格部材123に対する第1蝶番243の固定位置によっては、仲介部材242を断面L字状にする必要はなく、仲介部材242を平板で構成してもよい。さらに、本発明に係るマスキング部材24は、幕状部材241が基板Sの裏側の面を遮蔽できればよいので、仲介部材242、第1蝶番243又は第2蝶番244のいずれかを省略してもよい。
【0027】
基板Sの一方の面(たとえば表面)の成膜を終了したのち、基板Sの他方の面(たとえば裏面)を成膜するために、基板ホルダ22を反転又は180°回転させる場合、図9に示すように基板ホルダ22が、成膜位置である第1位置又は第2位置から90°回転しても、マスキング部材24の幕状部材241は、仲介部材242、第1蝶番243及び第2蝶番244により、回転ドラム12の内側に後退することができる。これにより、マスキング部材24が基板ホルダ22の反転又は180°回転を阻害するのを抑制することができる。
【0028】
《第2実施形態》
本発明に係るマスキング部材の第2実施形態を図10図15に示す。第2実施形態のマスキング部材24は、剛性又は柔軟性を有する、金属製、合成樹脂製又はセラミックス製の平板状部材245を有し、この平板状部材245の上端と下端に押圧部材246が取り付けられている。
【0029】
図10は、本発明に係るマスキング部材24の第2実施形態を示す斜視図であり、回転ドラム12の一部を内側から見た図であり、図11は、図10のXI部の拡大斜視図、図12は、図10のXII部の拡大斜視図である。図10に示す上側の押圧部材246は、図11に詳細に示すように、一端が、回転ドラム12に固定された支軸125に回転可能に設けられ、他端がマスキング部材24の平板状部材245に回転可能に設けられたリンク部材2461と、リンク部材2461を基板ホルダ22に向かう回転方向に付勢する2つのバネ部材2462,2463と、を備える。同様に、図10に示す下側の押圧部材246は、図12に詳細に示すように、一端が、回転ドラム12に固定された支軸125に回転可能に設けられ、他端がマスキング部材24の平板状部材245に回転可能に設けられたリンク部材2461と、リンク部材2461を基板ホルダ22に向かう回転方向に付勢する2つのバネ部材2462,2463と、を備える。
【0030】
2つのバネ部材のうちリンク部材2461と支軸125との間に設けられたバネ部材2463は、支軸125を中心に、リンク部材2461を基板ホルダ22に向かう方向にバネ付勢するものであり、後述するように基板ホルダ22を反転又は180°回転させる場合は、平板状部材245を回転ドラム12の内側に後退させる機能も有する。これに対し、リンク部材2461と平板状部材245との間に設けられたバネ部材2462は、これらの結合軸を中心に、平板状部材245を基板ホルダ22に向かう方向にバネ付勢するものであり、平板状部材245を基板ホルダ22の裏側の面に密着させる機能を有する。
【0031】
次に作用を説明する。図13図15は、第2実施形態に係るマスキング部材24の動作を示す平面図であり、図13は、回転ドラム12が停止又は回転し、基板ホルダ22が第1位置又は第2位置にある状態を示し、図14は、回転ドラム12が停止し、基板ホルダ22が第1位置又は第2位置から反転又は180°回転を開始した状態を示し、図15は、回転ドラム12が停止し、基板ホルダ22が90°反転又は回転した状態を示す。
【0032】
図13に示すように、第2実施形態のマスキング部材24は、回転ドラム12が停止していても又は回転していても、基板ホルダ22が第1位置又は第2位置にある状態においては、マスキング部材24の平板状部材245は、基板ホルダ22の裏側の面に押圧された位置にある。この状態においては、一方のバネ部材2463により、リンク部材2461を介して平板状部材245を基板ホルダ22に向かう方向にバネ付勢すると同時に、他方のバネ部材2462により、平板状部材245を基板ホルダ22に向かう方向にバネ付勢することで平板状部材245を基板ホルダ22の裏側の面に隙間なく密着させる。
【0033】
基板Sの一方の面(たとえば表面)の成膜を終了したのち、基板Sの他方の面(たとえば裏面)を成膜するために、基板ホルダ22を反転又は180°回転させる場合、図14に示すように基板ホルダ22が、成膜位置である第1位置又は第2位置から回転し始めると、平板状部材245は、主としてバネ部材2463の付勢力に抗して回転ドラム12の内側に後退し始める。そして、図15に示すように、基板ホルダ22が90°回転しても、マスキング部材24の平板状部材245は、バネ部材2463の付勢力に抗しながら、回転ドラム12の内側に後退することができる。これにより、マスキング部材24が基板ホルダ22の反転又は180°回転を阻害するのを抑制することができる。
【0034】
以上のとおり、本実施形態のスパッタ成膜装置1によれば、基板Sの一方の面を成膜中は、基板Sの他方の面をマスキング部材24で遮蔽するので、基板Sの一方の面を成膜中に、基板Sの他方の面に成膜材料が付着するのを防止できる。
【0035】
なお、本発明の成膜装置は、スパッタ成膜装置にのみ限定されず、蒸着装置にも適用することができる。また、本発明に係る回転体は、上述した実施形態において回転ドラム12に具現化したが、本発明に係る回転体は、回転ドラムにのみ限定されず、蒸着装置などの成膜チャンバの上部に設けられる傘状の回転体にも適用することができる。
【0036】
また、上述した第1実施形態において、マスキング部材24の幕状部材241は、回転ドラム12の回転にともなう遠心力により基板ホルダ22の裏側の面に押圧する構成にしたが、バネ部材などの弾性力により幕状部材241を基板ホルダ22の裏側の面に押圧する構成にしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…スパッタ成膜装置
11…成膜チャンバ
12…回転ドラム
121…回転軸
122…駆動装置
123…上側骨格部材
124…下側骨格部材
125…支軸
13…第1スパッタ電極
14…第2スパッタ電極
15…第1排気装置
16…ガス導入装置
17…電源
18…ゲートバルブ
19…ロードロックチャンバ
20…ドア
21…第2排気装置
22…基板ホルダ
221…軸
222…カム部材
23…ピン部材
24…マスキング部材
241…幕状部材
242…仲介部材
243…第1蝶番
244…第2蝶番
245…平板状部材
246…押圧部材
2461…リンク部材
2462…バネ部材
2463…バネ部材
S…基板
【要約】
基板の一方の面を成膜中に、基板の他方の面に成膜材料が付着するのを防止するために、成膜処理を行う成膜チャンバ(11)と、一方の面と他方の面とを有する基板(S)を装着する基板ホルダ(22)と、前記成膜チャンバ(11)内に設けられ、前記基板ホルダ(22)を保持する回転ドラム(12)と、を備え、前記基板ホルダ(22)は、前記回転ドラム(12)に対し、前記基板(S)の一方の面を成膜する第1位置と前記基板(S)の他方の面を成膜する第2位置とに反転可能又は回転可能に設けられたスパッタ成膜装置(1)において、前記基板ホルダ(22)が前記第1位置において前記基板(S)の一方の面を成膜する場合に、前記基板(S)の他方の面を遮蔽するマスキング部材(24)をさらに備える。
図1
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