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特許7520506ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム、並びにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム、並びにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20240716BHJP
   B29C 41/12 20060101ALI20240716BHJP
   B29C 41/36 20060101ALI20240716BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240716BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240716BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20240716BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240716BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240716BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20240716BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20240716BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20240716BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240716BHJP
   B29K 79/00 20060101ALN20240716BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20240716BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
B29C41/12
B29C41/36
C08G73/10
C08J5/18 CFG
C08K5/05
C08K5/09
C08K5/17
C08K5/29
G09F9/30 308A
G09F9/30 308Z
G09F9/30 365
H05B33/02
H05B33/14 A
B29K79:00
B29L7:00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019234666
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021014564
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2018241780
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019142975
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆一
(72)【発明者】
【氏名】長澤 俊明
(72)【発明者】
【氏名】山口 布士人
(72)【発明者】
【氏名】林 義修
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-286053(JP,A)
【文献】特開平06-032899(JP,A)
【文献】特開平01-252634(JP,A)
【文献】特開2011-140563(JP,A)
【文献】特開2000-186207(JP,A)
【文献】特開平11-209611(JP,A)
【文献】国際公開第2004/109403(WO,A1)
【文献】特開2015-227418(JP,A)
【文献】特開2018-123319(JP,A)
【文献】特開2010-180349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
B29C 41/12
B29C 41/36
C08G 73/10
C08J 5/18
C08K 5/05
C08K 5/09
C08K 5/17
C08K 5/29
G09F 9/30
H05B 33/02
H10K 50/10
B29K 79/00
B29L 7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学デバイスのフィルム基材を形成するためのワニスであって、前記ワニスは、
(a)ポリアミド酸及びポリイミドのうち少なくとも一種のポリマーと、
(b)溶媒と、
(c)1価の1級アミン、1価のアルコール、イソシアネート、酸無水物、及びジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であって、前記ポリマーの質量に対し100ppm以上30,000ppm以下の化合物と
を含有し、
前記(c)化合物の前記酸無水物が、無水酢酸、及びシクロヘキシルジカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記(c)化合物の前記1価のアルコールが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びi-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記(a)ポリマーが、下記式(A1)~(A7)で表される4価の有機基、及び下記式(B1)~(B7)で表される2価の有機基からなる群から選択される少なくとも一つの基を更に含む、ワニス。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【請求項2】
固形分濃度20質量%、光路長10mm及び波長450nmで測定した場合に、前記ワニスの光透過率が55%以上であり、かつ
前記(a)ポリマーのポリスチレン換算の数平均分子量が15,000以上100,000未満である、請求項1に記載のワニス。
【請求項3】
前記(a)ポリマーがポリイミドである、請求項1又は2に記載のワニス。
【請求項4】
前記(c)化合物が酸無水物を含み、前記酸無水物の量が、前記ポリマーの質量に対し1000ppm以上30,000ppm未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載のワニス。
【請求項5】
前記(c)化合物が1価の1級アミンを含み、前記1価の1級アミンの量が、前記ポリマーの質量に対し100ppm以上2,000ppm未満である、請求項1~4のいずれか一項に記載のワニス。
【請求項6】
前記(c)化合物の1価の1級アミンが、アニリン、ベンジルアミン、及びシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載のワニス。
【請求項7】
前記(a)ポリマーが、前記式(B1)で表される2価の有機基を含む、請求項3~6のいずれか一項に記載のワニス。
【請求項8】
前記(a)ポリマーが、前記式(B2)で表される2価の有機基を更に含む、請求項7に記載のワニス。
【請求項9】
前記(a)ポリマーが、前記式(A6)で表される4価の有機基を更に含む、請求項7又は8に記載のワニス。
【請求項10】
前記(a)ポリマーが、前記式(A1)で表される4価の有機基と、前記式(B3)で表される2価の有機基、及び前記式(B4)で表される2価の有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含む、請求項3~6のいずれか一項に記載のワニス。
【請求項11】
前記(a)ポリマーが、前記式(A2)で表される4価の有機基、前記式(A3)で表される4価の有機基、前記式(A4)で表される4価の有機基、及び前記式(B5)で表される2価の有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項3~6のいずれか一項に記載のワニス。
【請求項12】
前記(b)溶媒が、(b1)環状エステル及び(b2)環状ケトンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のワニス。
【請求項13】
前記(b)溶媒が、γ-ブチロラクトン、及びシクロペンタノンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項12に記載のワニス。
【請求項14】
前記(b)溶媒が、γ-ブチロラクトン及びシクロペンタノンを含む、請求項12に記載のワニス。
【請求項15】
光学デバイスのフィルム基材を形成するためのワニスの製造方法であって、前記方法は、
(b)溶媒中に、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を溶解して、(a’)アミン末端及び/又は酸無水物末端を有する、ポリアミド酸及びポリイミドのうち少なくとも一種の前駆体ポリマーを生成する工程と、
前記前駆体ポリマーの生成前、生成中又は生成後に、前記(b)溶媒中に、(c)1価の1級アミン、1価のアルコール、イソシアネート、酸無水物、及びジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を、前記前駆体ポリマーの質量に対して110ppm以上50,000ppm以下加え、
前記(a’)前駆体ポリマーの前記アミン末端及び/又は酸無水物末端の少なくとも一部と前記(c)の化合物の一部とを反応させ、(a)ポリアミド酸及びポリイミドのうち少なくとも一種のポリマーを生成する工程とを含み、
前記(c)化合物の前記酸無水物が、無水酢酸、及びシクロヘキシルジカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記(c)化合物の前記1価のアルコールが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、及びi-プロパノールからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記(a)ポリマーが、下記式(A1)~(A7)で表される4価の有機基、及び下記式(B1)~(B7)で表される2価の有機基からなる群から選択される少なくとも一つの基を更に含む、ワニスの製造方法。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【請求項16】
光学デバイスのフィルム基材として用いられるポリイミドフィルムの製造方法であって、前記方法は、
請求項1~14のいずれか一項に記載のワニスを基材にキャストする工程と、
キャストした前記ワニスを乾燥して、自立フィルムを形成する工程と、
前記自立フィルムを前記基材から剥離して更に加熱する工程と、
を含む、ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項17】
請求項1~14のいずれか一項に記載のワニスを乾燥及びイミド化した、ポリイミドフィルム。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか一項に記載のワニスを乾燥及びイミド化したポリイミドフィルムを有する、発光デバイス。
【請求項19】
請求項1~14のいずれか一項に記載のワニスを乾燥及びイミド化したポリイミドフィルムを有する、曲面ディスプレイ。
【請求項20】
請求項1~14のいずれか一項に記載のワニスを乾燥及びイミド化したポリイミドフィルムを有する、フォルダブルディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドワニス及びポリイミドフィルム、並びにこれらの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルディスプレイなどの折り曲げ可能なフレキシブルデバイスや、有機EL照明又は有機ELディスプレイなどの曲面を有する曲面デバイスの開発が進められている。このようなデバイスにおいては、高分子材料からなる折り曲げ可能なフィルム(プラスチックフィルム)を、表面保護層、カラーフィルター、タッチパネル、薄膜トランジスタ(TFT)などを形成する基板として用いることが検討されている。
【0003】
プラスチックフィルムの中でも、ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性等に特に優れることから、前述の分野における基板材料として期待されている。
【0004】
芳香族ポリイミドは、イミド環の窒素近傍のジアミンに由来する部位とイミド環のカルボニル基近傍の酸無水物に由来する部位との間の電荷移動錯体(CT錯体)によって着色しており、光学用途には使い難い。また、芳香族ポリイミドは、汎用の有機溶媒に溶け難く加工性に劣り、適用範囲が限定されている。そのため、特に前述の分野において、無色透明であり、かつ有機溶媒への溶解性が高い、ポリイミドが望まれている。
【0005】
特許文献1は、無色透明で有機溶媒への溶解性が高く、かつ高温でも着色しにくいポリイミドを提供することを目的としている。特許文献1は、ポリイミド前駆体として、芳香族ジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とから合成されるポリイミド前駆体を含有するポリアミド酸ワニスを基板上に塗布した後、熱イミド化することによって、ポリイミドフィルムを得ることを記載している。
【0006】
また、特許文献2は、溶媒への溶解性が良好で、加工性に優れるポリイミドを含有し、無色透明であり、靱性に優れるポリイミドフィルム等を提供することを目的としている。特許文献2は、芳香族ジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とから合成されるポリイミドを含有するポリイミドワニスを基板上に塗布した後、溶媒を乾燥することによってポリイミドフィルムを得ることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-72118号公報
【文献】国際公開第2016/158825号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ポリマーワニス(本願明細書において、「ポリマーワニス」又は単に「ワニス」は、「ポリアミド酸ワニス」及び「ポリイミドワニス」を包括する。)を塗布しフィルムを作製する際に、フィルムを作製する条件をできるだけ同条件に保ちフィルムの品質を確保したいため、ポリマーワニスの保存安定性が求められている。具体的には、長期間の保管中にポリマー分子量およびワニスの粘度の変化が少ないことが求められている。
【0009】
前述のポリイミド前駆体であるポリアミド酸ワニスは、ワニス中に混入した水を介在した、ポリアミド酸からのアミド酸の生成と分解の平衡反応を抑制し難い。また、ポリアミド酸ワニスの少なくとも一部をイミド化して得られる、従来のポリイミドワニスは、ポリマー主鎖のアミド酸が少ない又は存在しないため、アミド酸の生成と分解の平衡反応を抑制できるが、ポリマー末端同士間によるアミド酸の生成と分解の平衡反応を抑制することが充分にできなかった。
【0010】
したがって、本発明の目的の一つは、保存安定性を改良した、透明なポリマーワニスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ポリアミド酸及び/又はポリイミドを含むワニスであって、一価の一級アミン、一価のアルコール、一価のイソシアネート、酸無水物、及びジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を特定量含むワニスを用いることにより、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。本発明の実施形態の例を以下の項目[1]~[21]に列記する。
[1]
(a)ポリアミド酸及びポリイミドのうち少なくとも一種のポリマーと、
(b)溶媒と、
(c)1価の1級アミン、1価のアルコール、イソシアネート、酸無水物、及びジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であって、前記ポリマーの質量に対し100ppm以上30,000ppm以下の化合物と
を含有する、ワニス。
[2]
固形分濃度20質量%、光路長10mm及び波長450nmで測定した場合に、前記ワニスの光透過率が55%以上であり、かつ
前記(a)ポリマーのポリスチレン換算の数平均分子量が15,000以上100,000未満である、項目1に記載のワニス。
[3]
前記(a)ポリマーがポリイミドである、項目1又は2に記載のワニス。
[4]
前記(c)化合物が酸無水物を含み、前記酸無水物の量が、前記ポリマーの質量に対し1000ppm以上30,000ppm未満である、項目1~3のいずれか一項に記載のワニス。
[5]
前記(c)化合物の酸無水物が、無水フタル酸、無水酢酸、及びシクロヘキシルジカルボン酸無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、項目4に記載のワニス。
[6]
前記(c)化合物が1価の1級アミンを含み、前記1価の1級アミンの量が、前記ポリマーの質量に対し100ppm以上2,000ppm未満である、項目1~5のいずれか一項に記載のワニス。
[7]
前記(c)化合物の1価の1級アミンが、アニリン、ベンジルアミン、及びシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である、項目6に記載のワニス。
[8]
前記(a)ポリマーが、下記式(B1)で表される2価の有機基を含む、項目3~7のいずれか一項に記載のワニス。
【化1】
[9]
前記(a)ポリマーが、下記式(B2)で表される2価の有機基を更に含む、項目8に記載のワニス。
【化2】
[10]
前記(a)ポリマーが、下記式(A6)で表される4価の有機基を更に含む、項目8又は9に記載のワニス。
【化3】
[11]
前記(a)ポリマーが、下記式(A1)で表される4価の有機基と、下記式(B3)で表される2価の有機基、及び(B4)で表される2価の有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含む、項目3~7のいずれか一項に記載のワニス。
【化4】
【化5】
【化6】
[12]
前記(a)ポリマーが、下記式(A2)で表される4価の有機基、(A3)で表される4価の有機基、(A4)で表される4価の有機基、及び(B5)で表される2価の有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、項目3~7のいずれか一項に記載のワニス。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
[13]
前記(b)溶媒が、(b1)環状エステル及び(b2)環状ケトンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、項目1~12のいずれか一項に記載のワニス。
[14]
前記(b)溶媒が、γ-ブチロラクトン、及びシクロペンタノンからなる群から選択される少なくとも一種を含む、項目13に記載のワニス。
[15]
前記(b)溶媒が、γ-ブチロラクトン及びシクロペンタノンを含む、項目13に記載のワニス。
[16]
ワニスの製造方法であって、
(b)溶媒中に、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を溶解して、(a’)アミン末端及び/又は酸無水物末端を有する、ポリアミド酸及びポリイミドのうち少なくとも一種の前駆体ポリマーを生成する工程と、
前記前駆体ポリマーの生成前、生成中又は生成後に、前記(b)溶媒中に、(c)1価の1級アミン、1価のアルコール、イソシアネート、酸無水物、及びジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を、前記前駆体ポリマーの質量に対して110ppm以上50,000ppm以下加え、
前記(a’)前駆体ポリマーの前記アミン末端及び/又は酸無水物末端の少なくとも一部と前記(c)の化合物の一部とを反応させ、(a)ポリアミド酸及びポリイミドのうち少なくとも一種のポリマーを生成する工程とを含む、ワニスの製造方法。
[17]
項目1~15のいずれか一項に記載のワニスを基材にキャストする工程と、
キャストした前記ワニスを乾燥して、自立フィルムを形成する工程と、
前記自立フィルムを前記基材から剥離して更に加熱する工程と、
を含む、ポリイミドフィルムの製造方法。
[18]
項目1~15のいずれか一項に記載のワニスを乾燥及びイミド化した、ポリイミドフィルム。
[19]
項目1~15のいずれか一項に記載のワニスを乾燥及びイミド化したポリイミドフィルムを有する、発光デバイス。
[20]
項目1~15のいずれか一項に記載のワニスを乾燥及びイミド化したポリイミドフィルムを有する、曲面ディスプレイ。
[21]
項目1~15のいずれか一項に記載のワニスを乾燥及びイミド化したポリイミドフィルムを有する、フォルダブルディスプレイ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保存安定性を改良した透明なポリマーワニスを提供することができる。これを提供することにより、透明性が高く、かつ屈曲耐性を有するポリイミドフィルムを安定して製造することができる。
【0013】
なお、上述の記載は、本発明の全ての実施形態及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。本願明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0015】
《ワニス》
〈(a):ポリマー〉
本実施形態のワニスは、(a)成分として、ポリアミド酸及びポリイミドからなる群から選択される少なくとも一種のポリマーを含む。
【0016】
本実施形態において「ポリアミド酸」とは、イミド化率が20%未満であるポリマー、即ち繰り返し単位の80%以上が下記式(P1)であるポリマーを意味する。
【0017】
本実施形態において「ポリイミド」とは、イミド化率が20%以上であるポリマー、即ち繰り返し単位の20%以上が下記式(P2)であるポリマーを意味する。ポリイミドにおけるイミド化率は、ワニス保管中の分子量低下を抑制できる観点から、40%以上が好ましく、60%以上が更に好ましく、80%以上100%以下が更に好ましい。
【0018】
【化11】
式(P1)中、Xは4価の有機基であり、Yは2価の有機基であり、nは正の整数である。
【0019】
【化12】
式(P2)中、Xは4価の有機基であり、Yは2価の有機基であり、nは正の整数である。
【0020】
本実施形態のポリアミド酸、またはポリイミドは従来公知の方法で、テトラカルボン酸二無水物(Aと表記)とジアミン(Bと表記)とを原料として合成することができる。
本実施形態において、イミド化率は、イミド化中にアミド酸が閉環しイミドとなる際に発生する水の量から、下記(式1)により計算される。水のモル数を、仕込みのAあるいはBの何れか少ない方のモル数を2倍した数値で割った値に100を掛けた数をイミド化率(%)とする。
【数1】
【0021】
イミド化で発生する水の量は、合成溶媒に水と共沸するトルエンなどの炭化水素系溶媒を添加した場合は、還流時の回収成分から水層を分離し、重さを測定する。また、例えば、回収成分が分離しない場合は、回収成分中の水の量をカールフィッシャー水分計で測定する。
【0022】
ポリアミド酸は、溶媒への溶解性に優れる観点で好ましい。また、ポリイミドは分子量の低下を抑制できる観点から好ましい。なかでも溶媒に溶解し分子量低下を抑制できる観点から、(a)ポリマーとしてポリイミドが特に好ましい。
【0023】
本実施形態において、ポリアミド酸及び/又はポリイミドとしては、特に制限はないが、フィルムとした際の透明性を高めるという観点から、4価の有機基Xが、下記式(A1)~(A7)で表される4価の有機基から選択される少なくとも一つを含むことが好ましい。
【0024】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【0025】
ポリマー中の2価の有機基Yは、下記式(B1)~(B7)で表される2価の有機基のうち少なくとも一つを含んでいてよい。ポリマー中の(B1)~(B7)で表される2価の有機基は、Xの構造中に存在してもよい。例えば(A7)で表される有機基がポリマー中にある場合は、(B1)及び/又は(B2)の2価の有機基を有機基X中に含んでいてもよい。
【0026】
フィルムとした際の透明性を高めるという観点から、2価の有機基Yは、下記式(B1)~(B7)で表される2価の有機基のうち少なくとも一つを含むことが好ましい。
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【0027】
(B1)~(B7)で表される2価の有機基のなかでも、本実施形態におけるポリイミドは、溶解性とフィルムの透明性を高めるという観点から、以下のポリイミドが好ましい。
【0028】
例えば、(P2)中の2価の有機基Yが下記式(B1)を有することが好ましい。このポリイミドの繰り返し単位は、下記式(P2-B1)で表すことができる。
【0029】
【化27】
【0030】
(P2)中の2価の有機基Yは、下記式(B2)を有することもまた好ましい。このポリイミドの繰り返し単位は、下記式(P2-B2)で表すことができる。
【0031】
(P2-B1)で表される繰り返し単位を含むポリイミドは、2価の有機基Yが、上記式(B1)の他にも下記式(B2)を更に有することが好ましい。(B1)及び(B2)を有するポリイミドは、(P2-B1)と(P2-B2)とのコポリマーである。
【0032】
【化28】
【0033】
(P2-B1)と(P2-B2)のコポリマーは、溶解性を高める観点から、4価の有機基Xが、(A6)で表される4価の有機基を有することが更に好ましい。このポリイミドは、繰り返し単位(P2-A6/B1)と(P2-A6/B2)のコポリマーである。
【0034】
【化29】
【化30】
【0035】
(P2)中に、(A1)で表される4価の有機基、(B3)、(B4)で表される2価の有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。これらのポリイミドの繰り返し単位は、それぞれ、下記式(P2-A1)、(P2-B3)、及び(P2-B4)で表すことができる。
【0036】
【化31】
【化32】
【化33】
【0037】
理論に拘束されることを望まないが、本実施形態におけるポリイミドが、式(A1)又は(B1)~(B4)で表される構造を有することにより、スルホニル基又はフルオロアルキル基などの立体障害基がポリイミドのCT(Charge Transfer)錯体形成を抑制して、透明性を確保し易くなることが考えられる。
【0038】
本実施形態におけるポリイミドは、フィルムの透明性を確保するという観点から、式(A2)、(A3)、(A4)で表される4価の有機基、式(B5)で表される2価の有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。これらのポリイミドの繰り返し単位は、それぞれ、例えば、下記式(P2-A2)、(P2-A3)、(P2-A4)、(P2-B5-1)、(P2-B5-2)で表すことができる。
【0039】
【化34】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【0040】
理論に拘束されることを望まないが、ポリイミドが、脂環式の式(A2)~(A4)又は(B5)で表される構造を有することにより、芳香族のπ電子が減る為、ポリイミドのCT(Charge Transfer)錯体形成を抑制して、透明性を確保し易くなることが考えられる。
【0041】
本実施形態のポリアミド酸及びポリイミドは、従来公知の方法で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを原料として合成することができる。
【0042】
本実施形態のポリアミド酸およびポリイミドは従来公知の化合物を用いることができる。ポリアミド酸およびポリイミドの原料として、例えば、以下に示すA成分とB成分を用いることができる。その場合、Xは式(A1)~(A6)で表される四価の有機基に相当し、酸二無水物に由来する。またYは式(B1)~(B7)で表される二価の有機基に相当し、ジアミンに由来する。
【0043】
(A)テトラカルボン酸二無水物
例えば、式(A1)で表される四価の有機基は、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(略称:6FDA)に由来し、式(A2)で表される四価の有機基は、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(略称:HPMDA)に由来し、式(A3)で表される四価の有機基は、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物(略称:BTA)に由来し、式(A4)で表される四価の有機基は、ビシクロ[2,2,1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物(略称:NBDAn)に由来し、式(A5)で表される四価の有機基は1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン(以下、TDAともいう)に由来し、式(A6)で表される四価の有機基は、4,4’-オキシジフタル酸二無水物(略称:ODPA)に由来する。
【0044】
これら以外に、以下のテトラカルボン酸二無水物を併用してもよい。例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ハイドロキノン-ビス(トリメリテートアンハイドライド)、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1-カルボキシメチル-2,3,5-シクロペンタントリカルボン酸-2,6:3,5-二無水物、シクロブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、等が挙げられる。
【0045】
(B)ジアミン
例えば、式(B1)で表される二価の有機基は、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(略称:3DAS)に由来し、式(B2)で表される二価の有機基は、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(略称:4DAS)に由来し、式(B3)で表される二価の有機基は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(略称:TFMBまたはTFDB)に由来し、式(B4)で表される二価の有機基は、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(略称:6FDAm)由来し、式(B5)で表される二価の有機基は、1,4-シクロヘキサンジアミン(trans体、cis体、又はcis-,trans-混合体)(略称:CHDA)に由来する。また、例えば、式(B6)で表される二価の有機基は、1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン(trans体、cis体、又はcis-,trans-混合体)(略称:14BAC)に由来し、式(B7)で表される二価の有機基は、4,4’-オキシジアニリン(略称:ODA)に由来する。
【0046】
これら以外に以下のジアミンを併用してもよい。例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノキシレン、2,5-ジアミノキシレン、2,5-ジアミノデュレン、2,5-ジヒドロキシ-1,4-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノビフェニル、o-トリジン、m-トリジン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキサン、3,3’-ジアミノジシクロヘキサン、5-アミノ-2-(4-アミノフェニル)-ベンゾイミダゾール(略称:ABI)、4,4’-ジアミノベンズアニリド(略称:DABA)、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)フルオレン、等が挙げられる。
【0047】
本実施形態において、ポリイミドに重合単位として含まれる酸二無水物に対する式(B1)~(B7)で表される二価の有機基を与える特定のジアミンのモル比の下限は、好ましくは95モル%以上、より好ましくは96モル%以上、更に好ましくは96.5モル%以上、より更に好ましくは97モル%以上であり、上限は、100モル%未満である。ポリイミドに重合単位として含まれる酸二無水物に対するジアミンのモル比が95モル%以上100モル%未満であると、ポリイミドワニスの塗工性及び高透明性が得られるため好ましい。
【0048】
(ポリマーの分子量)
ポリマーの分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量(以下Mnとも表記)として、15,000以上100,000未満である。ワニス溶媒への溶解性とフィルムにした際のフィルムの靭性の観点から、好ましくは20,000以上50,000未満が好ましい。15,000以上の場合、フィルムにした際の靭性を維持することができ、容易にフィルム化することができる。また100,000未満の場合、溶解性が向上し、ポリマーを製造する際の反応時間が短縮され、ワニスの光透過率が向上する。
【0049】
ポリマーのMnを15,000以上100,000未満に調整するためには、(P1)、(P2)中のnは、繰り返し単位の分子量にもよるが、20以上200未満が好ましく、40以上100未満がより好ましい。
【0050】
ポリマーの数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、重量平均分子量(以下Mwとも表記)と併せて測定することができる。GPCの測定方法は、展開溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミドを用い、測定中のポリマー同士の会合を抑制する為、展開溶媒に24.8mol/Lの臭化リチウム一水和物及び63.2mol/Lのリン酸を加える。数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)を算出するための検量線は、本願明細書においては、スタンダードポリスチレン(Agilent Technologies社製/商品番号EasiCal PS-1)を用いて作製した。
【0051】
ポリマーのMnを調整することにより、ワニスの粘度を製膜しやすい範囲に調整することができる。ワニスの粘度を3,000mPa・s以上300,000mPa・s以下の範囲内に制御することによって、液だれ、オレンジピール、発泡などの現象を抑制して、表面平滑な透明フィルムを得ることができる。ワニス粘度は、23℃でE型粘度計により測定する。塗工に適する粘度の観点からも、ポリマーの数平均分子量(Mn)は、20,000以上50,000未満が好ましい。
【0052】
ワニスの粘度はポリマーの重量平均分子量(Mw)との相関性が高い為、ポリマーのMwとしては、好ましくは30,000以上200,000未満、より好ましくは40,000以上120,000未満である。
【0053】
〈(b):溶媒〉
本実施形態のワニスは(b)溶媒を含む。(b)溶媒として、ポリアミド酸又はポリイミドを溶解することができる既知の溶媒を使用してよい。アミド系溶媒、環状エステル、エステル基、エーテル基、ケトン基、水酸基、スルホン基及びスルフィニル基を含む溶媒、などがあげられる。
【0054】
アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)などが挙げられる。
【0055】
環状エステルとしてはラクトン系溶媒、例えば、γ-ブチロラクトン(略称、GBL)、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-クロトノラクトン、γ-ヘキサノラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、δ-ヘキサノラクトンなどが挙げられる。エステル基を有する溶媒としては、エステル系溶媒、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸ジメチルなどが挙げられる。ケトン基を有する溶媒としては、ケトン系溶媒、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどが挙げられる。水酸基を有する溶媒としては、フェノール系溶媒、例えば、m-クレゾールなどが挙げられる。スルホン基を有する溶媒としては、メチルスルホン、エチルフェニルスルホン、ジエチルスルホン、ジフェニルスルホン、スルホラン、ビスフェノールS、ソラプソン、ダプソン、ビスフェノールAポリスルホン、スルホランなどが挙げられる。スルフィニル基を有する溶媒としては、スルホキシド系溶媒、例えば、N,N-ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0056】
これらのうち、ポリイミドフィルムの黄変の抑制、約220℃以下の比較的低温でのイミド化、空気中でのイミド化などの観点から、環状エステル溶媒が好ましく、なかでも空気中での製膜でも黄変が抑制できるγ-ブチロラクトン(略称、GBL)が好ましい。
【0057】
溶解性の高い溶媒に、蒸気圧の高い低沸点溶媒を組み合わせて使用することもできる。溶解性の高い溶媒としては、環状エステル、アミド系溶媒があげられる。例えば、γ-ブチロラクトン(略称、GBL)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、である。
【0058】
低沸点溶媒としては沸点が160℃以下で、且つ溶解性を保持できる、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン、クロロホルム、などが挙げられる。なかでもポリイミドの溶解性観点から環状ケトンが好ましく、なかでもシクロヘキサノン、シクロペンタノン、が特に好ましい。
【0059】
溶解性の高い溶媒と低沸点溶媒の組み合わせとしては、例えば環状エステルと環状ケトンの組合せが好ましく、なかでもγ-ブチロラクトン(略称、GBL)とシクロヘキサノンの組合せが、ワニスの粘度、ポリマーの溶解性、フィルムにする際の乾燥の容易さの観点から好ましい。
【0060】
〈(c)成分〉
本実施形態のワニスは(c)成分として、1価の1級アミン、1価のアルコール、イソシアネート、酸無水物、及びジカルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を、(a)のポリマーの質量に対して100ppm以上30,000ppm以下含有する。(c)成分の含有量は、ポリマーのアミン末端及び/又は酸無水物末端と反応せず残っている(c)成分の量を意味する。ワニスの保存安定性と製膜後のフィルムの強度を両立する観点から、(c)成分の含有量は、更に好ましくは500ppmから2,000ppmである。ポリマーの数平均分子量(Mn)、(c)成分の種類にもよるが、(c)成分の含有量が100ppm以上であれば、ワニスの粘度安定性を維持することができる。(c)成分が30,000ppm以下であることは、ワニスの光透過率を向上させる観点から好ましい。ポリマーの数平均分子量(Mn)が大きいほど、ポリマー末端数が減少するため、(c)成分の量を減らすことができる。
【0061】
(c)成分の1価の1級アミン、1価のアルコール、及びイソシアネートは、ポリマーの酸二無水物末端に作用することで、ポリマー(P1またはP2)の酸二無水物末端が他のポリマーのアミン末端とアミド酸を形成し分子量を増加することを抑制することができる。「作用」するとは、例えば、これらの化合物が、ポリマーの酸二無水物末端と反応すること、及び酸二無水物末端と平衡状態となることを含む。
【0062】
(c)成分の酸無水物、及びジカルボン酸は、ポリマー(P1またはP2)のアミン末端に作用することで、ポリマーのアミン末端が他のポリマーの酸二無水物末端とアミド酸を形成し分子量を増加することを抑制することができる。「作用」するとは、例えば、これらの化合物が、ポリマーのアミン末端と反応すること、及びアミン末端と平衡状態となることを含む。
【0063】
(c)成分は1価の1級アミン、イソシアネート、及び酸無水物は、ワニス中に混入する水を不活性化し得る。その為、水によるポリアミド酸(P1)の加水分解による分子量低下を抑制することができる。
【0064】
1価の1級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、ベンジルアミン、ベンジルジメチルアミン、4-(ジメチルアミノ)-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メトキシ-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミンなどが挙げられる。
【0065】
1価のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、n-ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール、3-メトキシ-1-ブタノールなどが挙げられる。
【0066】
イソシアネートとしては、例えば、2,4-もしくは2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,2,4-もしくは2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル-4,4’-ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0067】
酸無水物としては、例えば、本願記載の(A)に該当するテトラカルボン酸二無水物、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、シクロヘキシルジカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸などが挙げられる。フィルムの溶媒乾燥性及び黄色度(イエローネスインデックス、以下YIとも表記)の観点から、(c)成分は酸無水物を含むことが好ましい。酸無水物の含有量は、ポリマーの質量に対して、好ましくは1,000ppm以上30,000ppm未満である。酸無水物の含有量は、ポリマーのアミン末端と反応せず残っている酸無水物の量を意味する。フィルムの溶媒乾燥性及び黄色度(YI)の観点から、酸無水物としては、より好ましくは、無水フタル酸、無水酢酸、及びシクロヘキシルジカルボン酸無水物である。
【0068】
ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、アゼライン酸、ドデカジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などが挙げられる。
【0069】
(c)成分の中でも、少量の添加で効果を奏する観点から、(c)成分は1価の1級アミンを含むことが好ましく、1価の1級アミンであることがより好ましい。1価の1級アミンの含有量は、(a)ポリマーの質量に対して、例えば、100ppm以上、200ppm以上、又は400ppm以上、2,000ppm未満、1,000ppm未満、800ppm未満、400ppm未満、又は200ppm未満とすることができる。1価の1級アミンの含有量は、(a)ポリマーの質量に対して、好ましくは100ppm以上800ppm未満である。1価の1級アミンの含有量は、ポリマーの酸二無水物末端と反応せず残っている1価の1級アミンの量を意味する。
【0070】
1価の1級アミンの中でも可視光に吸収がなくワニスの着色を抑制できる観点から、アニリン、ベンジルアミン、及びシクロヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらアミンは適度な塩基性を持つため、1級アミン自身が水で全て不活性化されることが少なく、長期間のポリマー保管において良好に分子量の増加抑制をすることができる。
【0071】
〈ワニスの製造方法〉
本実施形態に係るワニスの製造方法は、(b)溶媒中に、上記で説明したジアミンとテトラカルボン酸二無水物を溶解して、(b)溶媒中に、ポリアミド酸及び/又はポリイミドを生成することを含む。ここで、生成されるポリアミド酸及びポリイミドは、末端にアミン基及び/又は酸無水物基を有し、便宜上、「前駆体ポリマー」といい、符号(a’)で表す。次に、(a’)前駆体ポリマーの質量に対して110ppm以上50,000ppm以下の(c)成分を、(b)溶媒中に加え、(a’)前駆体ポリマーのアミン末端及び/又は酸無水物末端の少なくとも一部と、(c)成分の一部とを反応させる。これにより、(c)成分は消費され、消費されなかった(c)成分は残存し、前駆体ポリマーと平衡状態を維持することが出来る。
【0072】
(c)成分の添加は、ポリアミド酸またはポリイミドの生成前、生成中又は生成後であってよい。反応溶媒に添加された(c)成分は、そのままポリイミドフィルムに含有されることができる。得られた反応溶媒は、そのままポリアミド酸ワニスまたはポリイミドワニスとして使用されるか、又は別の溶媒に置換されることができる。
【0073】
〈ワニスの光透過率〉
本実施形態のワニスの光透過率は、55%以上である。本願明細書において、ワニスの「光透過率」とは、固形分濃度20質量%、光路長10mm(1.0cm)、波長450nmで測定した場合の光透過率である。より詳細には、紫外可視吸収スペクトル測定において、溶媒として波長450nmの光透過率が90%以上の溶媒を用い、ワニスの固形分濃度を20質量%に調整し、光路長を10mm(1.0cm)とし、測定温度23℃で測定する。波長450nmの光透過率が90%以上の溶媒は特に制限はないが、比較的ポリマーの溶解性が高いγ-ブチロラクトン(略称、GBL)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、シクロヘキサノン、及びシクロペンタノン等を用いることができる。ワニスを希釈して固形分濃度を20質量%に調整する場合は、ワニスを構成する溶媒を含んでいてもよい。ワニスを濃縮して固形分濃度を20質量%に調整する場合はワニスを構成する溶媒をそのまま用いてもよい。
【0074】
波長450nmにおける光透過率が55%以上であるワニスから得られるポリイミドフィルムは、黄色度(YI)が低い傾向にある。
【0075】
理論に拘束されることを望まないが、溶媒、又はポリマーの一次構造に由来する吸光は、主に300nm以下の波長域に見られる。そのことを考慮すると、フィルムの透明性を低下させる可視光領域の吸収は、ポリマーの励起子相互作用による吸収波長のレッドシフト、ポリマーのCT(Charge Transfer)錯体形成による高次構造に由来するもの、または副反応や不純物による黄変成分に由来することが推測される。即ち、製膜後の着色の主要な原因は、溶媒で希釈されているワニスの状態で潜在化していると考えられる。その為、波長450nmでのワニスの光透過率が55%以上であると、フィルムの黄色度(YI)が低くなると考えられる。
【0076】
ワニスの波長450nmにおける光透過率は、高いほど好ましく、例えば、55%以上が好ましく、60%以上が更に好ましい。ワニスの波長450nmにおける光透過率の上限は、特に限定されるものではないが、100%以下であり、99%以下であってもよく、98%以下であってもよく、95%以下であってもよく、又は90%以下であってもよい。
【0077】
〈ポリイミドフィルム〉
本実施形態のポリイミドフィルムは、本実施形態のワニスを乾燥及びイミド化した、ポリイミドフィルムである。本実施形態のポリイミドフィルムは、無色透明なフィルムであることが好ましい。本願明細書において「無色透明なフィルム」とは、フィルムの波長450nmにおける光透過率が80%以上であり、ヘイズが2以下であり、黄色度(YI)が、5.0以下のフィルムをいう。従って、本実施形態のポリイミドフィルムは、タッチパネル、及びディスプレイなどの光学用途に好適に用いることができる。
【0078】
本実施形態に係るポリイミドフィルムは、例えば、基材の表面上に形成されたポリイミドフィルムでもよく、又は基材がなくても支持性のあるフィルム(自立フィルム)でもよい。フィルムは、ロールフィルムとして加工プロセスに適用させる観点から自立フィルムであることが好ましい。本実施形態に係るポリイミドフィルムは、PETフィルム又はCOPフィルムと同様にガラスの代替品として用いることができ、更には折り畳み式の表示体又は曲面に追従した表示体に用いることができる。
【0079】
本実施形態に係るポリイミドフィルムの黄色度(YI)は、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下、更に好ましくは2.0以下である。その場合、またポリイミドフィルムのヘイズ(Haze)は、2以下であること好ましく、更に好ましくは1以下である。
【0080】
本実施形態では、ポリイミドフィルムは、ポリイミドを主成分として含むフィルムである。本明細書において、フィルムが「ポリイミドを主成分として含む」とは、フィルムの全質量を基準として、ポリイミドを50質量%以上含むことを意味する。ポリイミドフィルムは、フィルムの全質量を基準として、ポリイミドを好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上含む。
【0081】
ポリイミドフィルムの膜厚は、1μm~100μmの範囲内であることが好ましく、フィルムの取り扱いと柔軟性の両立の観点から20μm~50μmの範囲内であることがより好ましい。
【0082】
ポリイミドフィルム中にポリマー100重量部を基準としてγ-ブチロラクトンが0.01%以上10%以下で含まれることが好ましい。γ-ブチロラクトンの含有量は、フィルムの黄変を抑制し、無色透明なフィルムを得るという観点から、0.01%以上であり、フィルムのロール又は表面べたつきによるスタッキングを抑制するという観点から、10%以下である。ポリイミドフィルム中のγ-ブチロラクトンは、本実施形態に係るワニスの(b)溶媒に由来することができる。
【0083】
本実施形態のワニスは、任意に添加剤を含む。添加剤は、例えば、フィルムの塗工性を改善する為のレベリング剤、分散剤又は界面活性剤、フィルムの基材からの剥離性若しくは接着性を調整する為の界面活性剤又は密着助剤、フィルムに難燃性を付与する為の難燃剤、炭酸ストロンチウム等のシリカ以外の無機粒子、ポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリメチルメタクリレート、セルローストリアセテート、フルオレン誘導体等の有機化合物、酸化防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、可塑剤、ワックス類、充填剤、顔料、染料、発泡剤、消泡剤、脱水剤、帯電防止剤、抗菌剤、防カビ剤などがよい。また、ポリイミドフィルムはシリカ粒子及び/又は添加剤を含んでよい。
【0084】
レベリング剤としては、例えば、エチレンオキシドとポリジメチルシロキサンのコポリマーがフィルムの透明性の観点より好ましい。
【0085】
添加剤として、例えば可塑化効果と難燃効果を有するリン酸エステル系化合物のように、一種の添加剤が複数の用途として用いられることがある。用途は限定しないが化合物の構造としては、例えば、ホスファイト系化合物、フェノール系化合物、チオエーテル系化合物、ヒドラジン系化合物、アミド系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、イソシアヌル酸系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、リン酸エステル系化合物、ホスファゼン系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、メタクリル系化合物、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、などを添加してもよい。なお、ワニスに添加された添加剤は、ポリイミドフィルムに残留してもよい。
【0086】
〈ポリイミドフィルムの製造方法〉
本実施形態に係るポリイミドフィルムの製造方法は、
本実施形態のワニスを、基材にキャストする工程と、
キャストした上記ワニスを乾燥して、自立フィルムを形成する工程と、
上記自立フィルムを上記基材上から剥離して更に加熱する工程と、
を含むことができる。
【0087】
キャストする工程は、フィルムの用途に応じて、各種の塗工装置を用いて行われることができ、例えば、スピンコート、スリットコート、カンマコート、ダイコート及びブレードコートなどの公知の塗工方法を用いてよい。
【0088】
使用される基材としては、例えば、硬質基板、金属ドラム、金属エンドレスベルト、プラスチックフィルム基板、金属箔、フレキシブルガラスが挙げられる。
硬質基板としては、アルカリガラス基板、及び無アルカリガラス基板(Eagle XG(登録商標)、コーニング社製)等のガラス基板、並びに銅基板、アルミ基板、及びSUS基板等の金属基板などが挙げられる。
【0089】
プラスチックフィルム基板としては、Upilex(登録商標)フィルム(宇部興産製)、Kapton(登録商標)フィルム(東レ・デュポン製)、ポリカーボネートフィルム、PENフィルム、及びPETフィルム等が挙げられる。
金属箔としては、銅箔、アルミ箔、及びSUS箔等が挙げられる。
【0090】
キャストしたワニスを乾燥する工程は、一次乾燥と二次乾燥に分けて行うことができる。一次乾燥と二次乾燥の間に、自立フィルムを基材上から剥離して、自立フィルムを得ることができる。剥離した自立フィルムは、二次乾燥として更に加熱することができる。
【0091】
一次乾燥では、例えば50~150℃の温度で、ポリアミド酸及び/又はポリイミドを含むワニスから溶媒を乾燥させて、べとつきのない自立性のあるフィルム(自立フィルム)を形成する。その際の自立フィルム中の溶媒の量は、ポリマー100重量部を基準として好ましくは5%から40%であり、より好ましくは10%から20%である。
【0092】
自立フィルムを得た後、自立フィルムは基材上から剥離することができる。剥離した自立フィルムを、ピンテンター、クリップテンターなどにより搬送し、二次乾燥として更に加熱して溶媒を乾燥させ、ポリイミドフィルムを得ることができる。最終的に得られるポリイミドフィルム中の溶媒の量は、好ましくは0.01%から10%であり、より好ましくは0.1%から5%である。
【0093】
理論に拘束されることを望まないが、乾燥工程を窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うと、ワニスに含まれる(b)溶媒の種類によらず、無色透明なポリイミドフィルムが得られる傾向にある。他方、ワニスに含まれる(b)溶媒がγ-ブチロラクトン(GBL)である場合には、経済性及びフィルムの無色透明性の観点から、乾燥工程を空気中で行うことが好ましい。
【0094】
本実施形態では、得られたポリイミドフィルムを延伸工程に供して、フィルムの薄膜化を行うことができる。例えば、10μm未満の厚みを有するフィルムを得るためには、膜厚10μm以上のポリイミドフィルムを延伸処理することにより作製することができる。
【0095】
〈発光デバイス、曲面ディスプレイ、及びフォルダブルディスプレイ〉
本実施形態のワニスを乾燥及びイミド化したポリイミドフィルム(ポリイミド層)を用いて、発光デバイス、曲面ディスプレイ、及び/又はフォルダブルディスプレイ等のデバイスを製造することができる。本実施形態のポリイミドフィルムは、例えば少なくとも一層のフィルム基材として、例えば発光部、曲面、表示部等の一部として用いることができる。
【0096】
フォルダブルディスプレイとしては、有機ELディスプレイ、例えば、トップエミッション型有機ELディスプレイ;及びフレキシブル液晶ディスプレイ等が挙げられる。
【0097】
別の実施形態では、本実施形態のポリイミドフィルムの表面上に、機能性層、例えば透明電極層を設けて、積層体を製造することができる。積層体は、ポリイミドフィルムの表面上に、例えば透明電極層をスパッタリング装置で成膜することにより得ることができる。ポリイミドフィルムは基材を有していてもよく、基材を有しない単層であってもよい。積層体は、透明電極層をポリイミドフィルムの両面に有してもよい。このとき、ポリイミドフィルムの両面に、それぞれ、少なくとも1層以上の透明電極層を有することが好ましい。また、透明電極層とポリイミドフィルムとの積層体は、平滑性を付与する為のアンダーコート層、表面硬度を付与する為のハードコート層、視認性を向上する為のインデックスマッチング層、ガスバリア性を付与する為のガスバリア層など、他の層を更に有していてもよい。表面硬度を付与する為のハードコート層、視認性を向上する為のインデックスマッチング層などは、透明電極層とポリイミドフィルムの上に積層されていてもよい。本実施形態の積層体は、透明電極フィルムのようなタッチパネル材料への使用に適している。
【実施例
【0098】
以下、本発明について、例に基づきさらに詳述するが、これらは説明のために記述されるものであって、本発明の範囲が下記例に限定されるものではない。例における各種評価は次のとおりに行った。
【0099】
《評価及び測定方法》
[数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)]
(a)ポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて、下記の条件により測定した。溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミド(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を用い、測定前に24.8mol/Lの臭化リチウム一水和物(和光純薬工業社製、純度99.5%)及び63.2mol/Lのリン酸(和光純薬工業社製、高速液体クロマトグラフ用)を加えたものを使用した。また、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を算出するための検量線は、スタンダードポリスチレン(Agilent Technologies社製/商品番号EasiCal PS-1)を用いて作製した。
カラム:TSK-GEL SUPER HM-H×2本
流速:0.5mL/分
カラム温度:40℃
ポンプ:PU-2080(JASCO社製)
検出器:RI-2031Plus(RI:示差屈折計、JASCO社製)
UV-2075Plus(UV-Vis:紫外可視吸光計、JASCO社製)
【0100】
[ガスクロマトグラフィー(GC)]
ワニス中に含まれる(c)成分の定量には、ガスクロマトグラフィー(GC)を使用した。イソプロピルアルコールの濃度が1.0質量%になるように、N-メチル-2-ピロリドンにイソプロピルアルコールを溶解させ、これを内部標準液として用いた。各(c)成分が、イソプロピルアルコール重量比0.01、0.1、1.0、及び10.0になるように、内部標準液に(c)成分を溶解させ、検量線用溶液を作製した。各検量線用溶液をGC測定し、得られたピーク面積から検量線y=ax(y:重量比、x:面積比)を作成した。
得られたワニスを内部標準液で10倍に希釈し、試料を作成した。試料をGC測定し、イソプロピルアルコールに対する(c)成分のそれぞれのピーク面積比(X)を算出した。面積比(X)から検量線y=axを用いて重量比(Y)を求めた。重量比(Y)からワニスに含まれる(c)成分の残留量(質量%)を、次式:残留量(質量%)=重量比(Y)×10(希釈倍率)×1.0(イソプロピルアルコール濃度質量%)を用い、導出した。また、残留量(質量%)とワニス固形分量から、ポリマーに対する(c)成分の含有量を導出した。検量線作成、及び得られたワニスのGC測定条件を以下に記す。
装置 GC-2014(島津製作所社製)
カラム Rtx-200 + capillary(RESTEK)
60m,0.25mmID,1.00μm
温度 80℃で2分保持
25℃/分で130℃に昇温
130℃で7分保持
50℃/分で250℃に昇温
250℃で6分保持
検出器温度 280℃
注入量 1.0μL
【0101】
[粘度測定]
E型粘度計(東機産業社、TV25形粘度計)を用いて、20質量%溶液にて23℃でワニス粘度を測定した。測定粘度の単位はmPa・sである。
【0102】
[ワニス粘度安定性]
ワニスの粘度安定性の評価として、下記基準に従ってランク分けした。
ワニス合成終了から1日後の粘度:η
ワニス合成終了から10日間23℃保管後の粘度:η10
(a)ポリマーのMnが50,000未満の場合
〇(良好):η10/ηの値が0.8以上2未満である。
×(不良):η10/ηの値が0.8未満、或いは2以上である。
(a)ポリマーのMnが50,000以上の場合
〇(良好):η10/ηの値が0.9以上1.2未満である。
×(不良):η10/ηの値が0.9未満、或いは1.2以上である。
【0103】
[光透過率]
ワニスの光透過率は、ポリマー固形分濃度を20質量%に調整した後、紫外可視吸収スペクトルを下記の条件により測定した。装置として、UV/VIS SPECTROPHOTOMETER(V-550、JASCO製)を用いた。バックグラウンドはレファレンス室とサンプル室にワニスと同じ溶媒を満たした光路長10mmの石英セルを置き、23℃の恒温室にて測定した。得られたデータより、光路長10mm(1.0cm)、波長450nmにおける光透過率を得た。
装置:UV/VIS SPECTROPHOTOMETER(V-550、JASCO社製)
石英セルサイズ:光路長10mm×幅10mm×高さ400mm
測定波長:300nm-800nm
バンド幅:2.0nm
走査速度:200nm/min
得られた光透過率を下記基準に従ってランク分けした。
(光透過率ランク)
〇(良好):波長450nmにおける光透過率が55%以上である。
×(不良):波長450nmにおける光透過率が55%未満である。
【0104】
[ポリイミドフィルムの作製、並びに溶媒乾燥性及びフィルム自立性の評価]
ポリアミド酸ワニスまたはポリイミドワニスを、基材としてのPETフィルム(コスモシャインA4100(登録商標)(東洋紡社製))の未処理面上に、塗工厚み200μmでアプリケータを用いてキャストした。キャストしたワニスを、80℃で10分間、乾燥した。表面にべとつきがある場合は、続いて100℃で5分間、更に乾燥した。その後基材を剥離し、自立フィルムを得た。ここで、「表面にべとつきがある」とは、下記式2から計算される溶媒の乾燥率が、80%以下の場合をいう。
【数2】
自立フィルム10cm□にカットし、10cmの開口部を有する金枠に、自立フィルムの対向する二辺をカプトン(登録商標)テープで固定した。金枠に固定した自立フィルムを270℃で20分間乾燥した(二次乾燥)。二次乾燥は、表3に示すように空気又は窒素下で行った。その後、室温まで冷却し、金枠から外しポリイミドフィルムを得た。
(溶媒乾燥性評価)
◎(非常に良好):80℃で10分間乾燥した後に表面にべとつきがない。
〇(良好):80℃で10分間乾燥し、更に100℃で5分間乾燥した後に表面べとつきがない。
×(不良):80℃で10分間乾燥し、更に100℃で5分間乾燥した後に表面にべとつきがある。
(フィルム自立性評価)
〇(良好):基材から剥離し自立フィルムを得られた。
×(不良):基材から剥離した際にフィルムが破断した。
【0105】
[黄色度(YI)及びヘイズ(Haze)]
上記「ポリイミドフィルムの作製」に記載の方法で、乾燥後の膜厚が20±1μmとなるように自立フィルムを作製した。該自立フィルムの黄色度(YI値)及びヘイズを、コニカミノルタ株式会社製分光測色計(CM3600A)及びD65光源を用いて測定した。
得られた黄色度(YI)及びヘイズを下記基準に従ってランク分けした。
(YIランク)
◎(非常に良好):フィルムのYIが3以下である。
〇(良好):フィルムのYIが3より大きく5以下である。
×(不良):フィルムのYIが5を超える。
(ヘイズランク)
〇(良好):ヘイズが1%以下である。
×(不良):ヘイズが1%を超える。
【0106】
《原材料》
〈テトラカルボン酸二無水物〉
6FDA:4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(A1に該当)
HPMDA:1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(A2に該当)
BTA:ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物(A3に該当)
NBDAn:ビシクロ[2,2,1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物(A4に該当)
TDA:1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5-(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン(A5に該当)
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物(A6に該当)
PMDA:無水ピロメリト酸
BPDA:ビフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物
【0107】
〈ジアミン〉
3DAS:3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(B1に該当)
4DAS:4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(B2に該当)
TFMB:2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(B3に該当)
6FDAm:2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(B4に該当)
CHDA:1,4-シクロヘキサンジアミン(B5に該当)
14BAC:1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン(B6に該当)
ODA:4,4’-オキシジアニリン(B7に相当)
【0108】
〈溶媒〉
GBL:γ-ブチロラクトン
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
CPN:シクロペンタノン
【0109】
〈イミド化触媒〉
Py:ピリジン
合成に用いたPyは、事前に光路長1cm波長350nmでの光透過率が90%以上であることを確認した。また、ODPA、3DAS、4DASについては、事前にGBLに溶解し、それぞれ1質量%、10質量%、10質量%の溶液とし、光路長1cm波長450nmでの光透過率が97%以上であることを確認した。
【0110】
《ポリアミド酸ワニスの作製(実施例1、2及び17、並びに比較例1~3及び6)》
ディーン・スターク管及び還流管を上部に備えた撹拌棒付き500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスを導入しながら、表1に示す溶媒1を入れ、ジアミンを溶解し、次いで粉体の酸二無水物を添加した。次にオイルバスを用いて系中の温度を40℃に昇温し、適宜3~12時間撹拌した。その後、オイルバスを外して系中の温度を室温に戻し、前駆体ポリマー(a’)としてポリアミド酸を含むワニスを得た。
【0111】
得られたワニス中の前駆体ポリマー(a’)の質量に対し、実施例1及び2においては表2に示す量(ppm)の(c)成分を添加し、実施例17においては表1に示す溶媒2と、表2に示す量(ppm)の(c)成分とを添加し、室温にて3時間撹拌して、前駆体ポリマー(a’)のアミン末端及び/又は酸無水物末端に(c)成分を反応させた。比較例1~3及び6では、当該(c)成分の添加及び反応工程を行わなかった。
【0112】
以上の方法により、ポリマー(a)としてポリアミド酸を含むポリアミド酸ワニスを得た。ポリアミド酸ワニスは、表2の「ワニス種類」の欄に「PAA」と表記する。
【0113】
《ポリイミドワニスの作製(実施例3~16及び18~21、並びに比較例4及び5)》
ポリイミドワニスを得る場合は、前駆体ポリマー(a’)を含むワニスに対し、以下の工程を実施した。
【0114】
前駆体ポリマー(a’)としてポリアミド酸を含むワニスにトルエン(溶媒1に対し10質量%)とPy(仕込みの酸二無水物に対し4mol%)を添加し、系中の温度を160℃まで昇温し、160℃で1~4時間加熱還流をしながら脱水を行い、イミド化を行った。水の回収量よりイミド化率が80%以上に達した後、180℃まで昇温し、トルエン残留量が0.1質量%以下、Py残留量が0.01質量%以下になるまでトルエン及びPyを除去しながら反応を続けた。12時間反応後、オイルバスを外して系中の温度を室温に戻し、固形分濃度が20質量%となるように、表1に示す溶媒1と、実施例9~16及び17においては溶媒2を加え、前駆体ポリマー(a’)としてポリイミドを含むワニスを得た。
【0115】
得られたワニス中の前駆体ポリマー(a’)の質量に対し、実施例3~16及び18~21においては表2に示す量(ppm)の(c)成分を添加し、90℃にて3時間撹拌して、前駆体ポリマー(a’)のアミン末端及び/又は酸無水物末端に(c)成分を反応させた。実施例10については、次いで180℃にて2時間撹拌し、更に反応を行った。比較例4及び5では、当該(c)成分の添加及び反応工程を行わなかった。
【0116】
以上の方法により、ポリマー(a)としてポリイミドを含むポリイミドワニスを得た。ポリイミドワニスは、表2の「ワニス種類」の欄に「PI」と表記する。また、得られたワニスに対し、残存する(c)成分の量をGCで定量した。ポリマー質量に対する(c)成分の含有量を表3に示す。なお、実施例16及び17については、GCでは定量できなかった。
【0117】
尚、固形分調整において濃縮する場合は、微量の窒素をフローしながら10mmHgに減圧し90℃に加熱して溶媒を揮発させ濃縮した。
【0118】
ポリマー及びワニスの組成を表1及び2に、ワニス評価結果及びフィルムの評価結果を表3及び表4に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0123】
本実施形態のワニスは、表面保護フィルム、カラーフィルター、TFTなどの基板フィルム、絶縁保護膜として用いられるポリイミドフィルムの製造に用いることができる。本実施形態におけるワニスを乾燥及びイミド化して得られるポリイミドフィルムは、フレキシブルな光学デバイス、曲面を有する光学デバイス、折りたたみ可能な光学デバイス、例えば、フレキシブルディスプレイ、フレキシブル太陽電池、フレキシブルタッチパネル、フレキシブル照明、曲面ディスプレイ、及びフォルダブルスマートフォン等の製品に好適に利用することができる。