(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】塗料組成物、それを用いた塗膜及び複層塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 123/26 20060101AFI20240716BHJP
C09D 133/14 20060101ALI20240716BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20240716BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20240716BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240716BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20240716BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240716BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240716BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240716BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240716BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240716BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20240716BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240716BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C09D123/26
C09D133/14
C09D175/04
C09D133/00
C09D7/63
C09D167/00
C09D5/02
C09D7/65
C09D7/61
C09D5/00 D
B32B27/30 A
B32B27/40
B32B27/32 101
B05D7/24 301F
(21)【出願番号】P 2019239046
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】池中 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】河野 晋之介
(72)【発明者】
【氏名】大西 涼子
(72)【発明者】
【氏名】水口 克美
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-122732(JP,A)
【文献】特開2016-087569(JP,A)
【文献】特開2010-254816(JP,A)
【文献】特開2008-144063(JP,A)
【文献】特開2016-023304(JP,A)
【文献】特開2013-249426(JP,A)
【文献】国際公開第2013/191104(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 5/00,5/02,7/61,
7/63,7/65,
123/00,133/00,
167/00,175/04
B05D 7/24
B32B 27/30,27/32,
27/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、
グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション
(B)、
ウレタン樹脂ディスパージョン(C)、
樹脂ディスパージョン(D)、及び
硬化剤(E)
を含む塗料組成物であって、
前記樹脂ディスパージョン(D)は、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)及びアクリル樹脂エマルション(D2)からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性パラメータSP(A)、前記エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂の溶解性パラメータSP(B)、及び前記樹脂ディスパージョン(D)中の樹脂の溶解性パラメータSP(D)が、以下の式(1)及び式(2)の少なくとも1つを満たし、
|SP(D)-SP(A)|≧1.0 (1)、
|SP(D)-SP(B)|≧1.0 (2)、
(SP値は、SUH、CLARKE、J.P.S.A-1、5、1671~1681(1967)に記載の方法で実測する。)
(A)~(E)を前記塗料組成物と同じ質量比率で含む混合物から形成した厚さ30μmの塗膜のヘーズ値が15%以上であ
り、
前記アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂は、グリシジル基を含有しない、
塗料組成物。
【請求項2】
前記樹脂ディスパージョン(D)は、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)であり、
前記ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂は、溶解性パラメータSP(D1)が11.0以上12.0以下である、請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂の数平均分子量が、6,000以上20,000以下である、請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記樹脂ディスパージョン(D)は、アクリル樹脂エマルション(D2)であり、
前記アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂は、溶解性パラメータSP(D2)が8.0以上12.0以下であ
る、
請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記アクリル樹脂エマルション(D2)中の前記アクリル樹脂が架橋性樹脂粒子である、請求項4に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂である、請求項1から5のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項7】
有機粒子及び無機粒子からなる群から選択される粒子を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項8】
着色顔料を含み、
前記着色顔料の量は、(A)~(E)の固形分の合計に対し、3質量%以上150質量%以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項9】
前記塗料組成物は、水性プライマー塗料組成物である、請求項1から8のいずれか1項に記載の塗料組成物。
【請求項10】
被塗物に、請求項1~9のいずれかに記載の塗料組成物を塗装し、未硬化の塗膜を形成する工程、及び
前記未硬化の塗膜を加熱硬化させ、塗膜を形成する工程
を含む塗膜の形成方法。
【請求項11】
被塗物に、請求項9記載の水性プライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のプライマー塗膜を形成する工程、
前記未硬化の水性プライマー塗料組成物の上に、光輝顔料を含むベース塗料組成物を塗装し、未硬化のベース塗膜を形成する工程、
前記未硬化のベース塗膜の上に、クリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、及び
前記未硬化のプライマー塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を加熱硬化させ、複層塗膜を形成する工程
を含む複層塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、それを用いた塗膜及び複層塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両において、プラスチック製の部品が使用されている。例えば、自動車用部品は、ポリオレフィン樹脂を含むことがある。また、自動車用部品として要求される強度を付与するために、ポリオレフィン樹脂とカーボン顔料、カーボン繊維等を併用することがある。したがって、このような自動車用部品は、通常、黒色の外観を有している。
【0003】
一方、自動車用部品は、様々な色を発現する必要がある。例えば、黒色系の色の発現が要求されるだけでなく、ソリッドの白色系、マイカを含む白色系等の色の発現が求められている。このため、求められる色を発現するために、通常、黒色の外観を有する自動車用部品を、酸化チタンを含む塗料組成物を用いて、黒色の下地を隠ぺいすることがなされている。
【0004】
国際公開第2015/002299号公報(特許文献1)は、塩素法酸化チタン顔料、黄色酸化鉄顔料、一次平均粒子径が15nm以上80nm以下の範囲内であるカーボンブラック顔料及びビヒクル形成成分である樹脂組成物を含む塗料組成物を開示する。また、特許文献1は、特許文献1に係る塗料組成物を、被塗物に塗装し、得られた塗膜上に、カラーベース塗膜を積層する塗膜形成方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示される、酸化チタンを含む塗料組成物を用いて、被塗物が有する色調、例えば、黒色を隠ぺいするには、この塗料組成物から形成される塗膜の膜厚を厚くする必要がある。あるいは、酸化チタンの濃度を高くした塗膜を形成する必要がある。
【0007】
しかし、塗膜において、酸化チタンの濃度を高くすると、形成された塗膜の耐湿性が劣る場合がある。また、酸化チタンを含む塗膜の膜厚を厚くすると、得られる塗膜の耐水性が劣る場合がある。
このため、酸化チタンの濃度が高くなくても、被塗物が有する色調、例えば、黒色を良好に隠ぺいできる塗料組成物が要求されている。
更に、酸化チタンを含む塗膜の膜厚を厚くするには、塗膜を複数回に分けて形成する必要があり、作業工程の簡素化が要求されている。
加えて、より薄い膜厚でありながらも、被塗物が有する色調、例えば、黒色を隠ぺいできる塗料組成物が要求されている。
【0008】
本発明は、上述したような課題を解決し、より薄い膜厚でありながらも、被塗物が有する色調、例えば、黒色を隠ぺいできる塗料組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、密着性、耐薬品性、耐水性、屈曲性及び外観に優れた塗膜を形成できる塗料組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]塗料組成物であって、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)と、ウレタン樹脂ディスパージョン(C)とからなる群から選択される少なくとも1種、
樹脂ディスパージョン(D)、及び
硬化剤(E)
を含み、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性パラメータSP(A)、エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂の溶解性パラメータSP(B)、及び樹脂ディスパージョン(D)中の樹脂の溶解性パラメータSP(D)が、以下の式(1)及び式(2)の少なくとも1つを満たし、
|SP(D)-SP(A)|≧1.0 (1)、
|SP(D)-SP(B)|≧1.0 (2)、
上記少なくとも1種と、(D)と、(E)とを塗料組成物と同じ質量比率で含む混合物から形成した厚さ30μmの塗膜のヘーズ値が15%以上である、塗料組成物。
[2]別の実施態様において、本発明は下記態様を提供する。
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、
グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)、
ウレタン樹脂ディスパージョン(C)、
樹脂ディスパージョン(D)、及び
硬化剤(E)
を含み、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性パラメータSP(A)、エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂の溶解性パラメータSP(B)、及び樹脂ディスパージョン(D)中の樹脂の溶解性パラメータSP(D)が、以下の式(1)及び式(2)の少なくとも1つを満たし、
|SP(D)-SP(A)|≧1.0 (1)、
|SP(D)-SP(B)|≧1.0 (2)、
(A)~(E)を前記塗料組成物と同じ質量比率で含む混合物から形成した厚さ15μmの塗膜のヘーズ値が15%以上である、塗料組成物。
[3]一実施態様において、樹脂ディスパージョン(D)は、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)であり、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂は、溶解性パラメータSP(D1)が11.0以上12.0以下である。
[4]一実施態様において、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂の数平均分子量が、6,000以上20,000以下である。
[5]一実施態様において、樹脂ディスパージョン(D)は、アクリル樹脂エマルション(D2)であり、アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂は、溶解性パラメータSP(D2)が8.0以上12.0以下であり、アクリル樹脂は、グリシジル基を含有しない。
[6]一実施態様において、アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂が架橋性樹脂粒子である。
[7]一実施態様において、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂である。
[8]一実施態様において、塗料組成物は、有機粒子及び無機粒子からなる群から選択される粒子を含む。
[9]一実施態様において、塗料組成物は、着色顔料を含み、着色顔料の量は、(A)~(E)の樹脂固形分の合計に対し、3質量%以上150質量%以下である。
[10]一実施態様において、塗料組成物は、水性プライマー塗料組成物である。
[11]別の実施態様において、本開示は、
被塗物に、本開示に係る塗料組成物を塗装し、未硬化の塗膜を形成する工程、及び
未硬化の塗膜を加熱硬化させ、塗膜を形成する工程
を含む塗膜の形成方法を提供する。
[12]別の実施態様において、本開示は、
被塗物に、本開示に係る水性プライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のプライマー塗膜を形成する工程、
未硬化の水性プライマー塗料組成物の上に、光輝顔料を含むベース塗料組成物を塗装し、未硬化のベース塗膜を形成する工程、
未硬化のベース塗膜の上に、クリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、及び
未硬化のプライマー塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を加熱硬化させ、複層塗膜を形成する工程
を含む複層塗膜の形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗料組成物は、薄膜を形成でき、その上、被塗物が有する色調を隠ぺいできる塗膜を形成できる。更に、本発明の塗料組成物は、密着性、耐薬品性、耐水性、屈曲性及び外観に優れた塗膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明に至る過程を説明する。
上述のように、自動車等の車両において、プラスチック製の自動車用部品が使用されている。自動車用部品は、優れた強度、衝撃性等が要求されており、更に、通常、自動車車体に合わせた色調を発現することが要求されている。
例えば、カーボン材料とポリオレフィン樹脂とを含む自動車部品は、黒色であることが多い。このため、自動車車体に合わせた色調、特に白色系マイカの色調を発現するには、黒色の被塗物上に、白色のプライマー塗膜を形成し、このプライマー塗膜の上に、白色カラーベース塗膜、更に、マイカ含有ベース塗膜を形成し、最外層に、クリヤー塗膜を形成する必要がある。
【0012】
すなわち、要求される色調、例えば白色系マイカの色調を発現するには、カーボン材料とポリオレフィン樹脂とを含む基材(被塗物)の有する黒色、灰色等の色調を十分に隠ぺいする必要がある。
【0013】
一方、上述のように、自動車部品の基材(被塗物)が有する黒色等の色調を十分に隠ぺいするには、通常、白色顔料を含む白色プライマー塗膜の膜厚を厚くする、又は白色顔料の量を増やした白色プライマー塗膜を形成する必要がある。
しかし、白色顔料として一般的に用いられている酸化チタンを、水性プライマー塗料組成物に配合しプライマー塗膜を形成すると、耐水性が低下する傾向がある。
また、酸化チタンの量を減らすと、膜厚を厚くする必要が生じてしまう。
【0014】
このような問題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は、塗料組成物であって、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)と、ウレタン樹脂ディスパージョン(C)とからなる群から選択される少なくとも1種、
樹脂ディスパージョン(D)、及び
硬化剤(E)
を含み、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性パラメータSP(A)、エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂の溶解性パラメータSP(B)、及び樹脂ディスパージョン(D)中の樹脂の溶解性パラメータSP(D)が以下の式(1)及び式(2)の少なくとも1つを満たし、
|SP(D)-SP(A)|≧1.0 (1)、
|SP(D)-SP(B)|≧1.0 (2)、
上記少なくとも1種と、樹脂ディスパージョン(D)と、硬化剤(E)とを塗料組成物と同じ質量比率で含む混合物から形成した厚さ30μmの塗膜のヘーズ値が15%以上である、塗料組成物である。
【0015】
別の実施態様において、本発明は、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、
グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)、
ウレタン樹脂ディスパージョン(C)、
樹脂ディスパージョン(D)、及び
硬化剤(E)
を含み、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性パラメータSP(A)、エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂の溶解性パラメータSP(B)、及び樹脂ディスパージョン(D)中の樹脂の溶解性パラメータSP(D)が以下の式(1)及び式(2)の少なくとも1つの関係を満たし、
|SP(D)-SP(A)|≧1.0 (1)、
|SP(D)-SP(B)|≧1.0 (2)、
(A)~(E)を塗料組成物と同じ質量比率で含む混合物から形成した厚さ30μmの塗膜のヘーズ値が15%以上である、塗料組成物である。
【0016】
本開示に係る塗料組成物であれば薄膜でありながらも被塗物が有する黒色、灰色等の色調を隠ぺいできる塗膜を形成できる。このため、本開示に係る塗料組成物は、例えば、酸化チタンを含む塗膜と比べて、より薄い塗膜を形成できる。
また、本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜は、白色の外観を有し得るため、被塗物が有する色調、例えば、黒色、灰色を、薄膜でありながらも十分に隠ぺいできる。このため、本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜は、単層でありながらも、通常用いられている、酸化チタンを含む白色プライマー塗膜と、その上に配置されるカラーベース塗膜とが有する機能を備えることができる。
【0017】
例えば、自動車車体に合わせた色調、特に白色系マイカの色調を発現するには、通常、黒色の被塗物上に、白色のプライマー塗膜を形成し、このプライマー塗膜の上に、白色カラーベース塗膜、更に、マイカ含有ベース塗膜を形成し、最外層に、クリヤー塗膜を形成する必要がある。
これに対し、本開示に係る塗料組成物であれば、黒色の被塗物上に、本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜を形成し、更に、本開示係る塗膜の上に、マイカ含有ベース塗膜を形成し、最外層に、クリヤー塗膜を形成できる。
本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜は、一般的に使用されている、酸化チタンを含む白色プライマー塗膜とその上に配置されるカラーベース塗膜とが有する機能を、単層でありながらも備えることができる。
したがって、従来の複層塗膜と比べて、層構造を薄くでき、更に、塗膜形成工程を削減できる。さらに、所望の白色系マイカの色調を発現できる。
【0018】
更に、本開示に係る塗料組成物であれば、高い隠ぺい性を有する薄膜を形成でき、自動車用部品における塗装工程、塗装時間等を短縮できる。このため、CO2削減など、環境負荷の低減も可能となる。その上、優れた密着性、耐薬品性、耐水性、屈曲性及び外観を有する塗膜を形成できる。
以下、本開示に係る塗料組成物について、より詳細に説明する。
【0019】
(塗料組成物)
本開示に係る塗料組成物は、
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)と、ウレタン樹脂ディスパージョン(C)とからなる群から選択される少なくとも1種、
樹脂ディスパージョン(D)、及び
硬化剤(E)
を含む。
これにより、本開示に係る塗料組成物は、密着性、耐薬品性、耐水性、屈曲性及び外観に優れた薄膜を形成できる。さらに、自動車用部品において必要とされる塗膜強度を有する塗膜を形成できる。
【0020】
一実施態様において、塗料組成物は、上記成分(A)~(E)を全て含む。すなわち、一実施態様において、塗料組成物は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)、及びウレタン樹脂ディスパージョン(C)、樹脂ディスパージョン(D)及び硬化剤(E)を含む。
【0021】
本開示において、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性パラメータSP(A)、エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂の溶解性パラメータSP(B)、及び樹脂ディスパージョン(D)中の樹脂の溶解性パラメータSP(D)が以下の式(1)及び(2)の少なくとも1つを満たす。
|SP(D)-SP(A)|≧1.0 (1)
|SP(D)-SP(B)|≧1.0 (2)
このように、式(1)及び式(2)の少なくとも1つを満足する、すなわち、SP(D)からSP(A)を差し引いた絶対値、及びSP(D)からSP(B)を差し引いた値の絶対値の少なくとも1つを1.0以上とすることにより、被塗物が有する色調、例えば、黒色、銀色を、薄膜でありながらも十分に隠ぺいできる。
更に、本開示に係る塗料組成物は、高い隠ぺい性を有する塗膜を形成できる。そのため、本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜は、単層でありながらも、一般的に使用されている、酸化チタンを含む白色プライマー塗膜とその上に配置されるカラーベース塗膜とが有する機能を備えることができる。
すなわち、従来の複層塗膜と比べて、層構造を薄くでき、更に、塗膜形成工程を削減できる。さらに、例えば、本開示に係る塗料組成物により形成された塗膜の上に形成される塗膜の色調が白色系マイカの色調であっても、所望の色調を十分に発現できる。
【0022】
ここで、本開示においては、これら特定の樹脂における溶解性パラメータSP値を、特定の条件に設定することにより、高い隠ぺい性を有する塗膜、例えば、薄膜を形成できる。さらに、本開示に係る特定の樹脂について、溶解性パラメータSP値を、特定の条件に設定することにより、塗膜強度、密着性、硬度などの諸物性を低下させることなく、極めて高い隠ぺい性を有する塗膜を形成できる。
【0023】
ところで、通常、酸化チタンなどの白色塗料に大きく依存することなく塗膜が白濁すると、塗膜物性等の性質が劣る傾向がある。しかし、本開示に係る塗料組成物は、特定の樹脂を特定の条件で含むため、塗膜が相分離し、屈折率差により光が乱反射することで高い隠ぺい性と、優れた塗膜物性とを共にバランスよく有することができると考えられる。その上、優れた密着性、耐薬品性、耐水性、屈曲性及び外観を有する塗膜を形成できる。
特定の理論に限定して解釈すべきではないが、例えば、本開示に係る塗料組成物が水性プライマー塗料組成物である場合、各種樹脂成分は、安定した分散状態を保つことができる。このため、塗料組成物の安定性が保たれており、このような塗料組成物から形成される塗膜も、高い塗膜物性を呈することができ、その上、塗膜物性を損なうことなく、高い隠ぺい性示すものと推測される。
【0024】
樹脂の分離をより容易に抑制して、隠ぺい性等の塗膜物性をより容易に得る観点から、一実施態様において、
1.5≧|SP(D)-SP(A)|≧1.0、かつ、
1.5≧|SP(D)-SP(B)|≧1.0
の関係を満足してよい。
【0025】
一実施態様において、樹脂の分離をより容易に抑制して、隠ぺい性等の塗膜物性をより容易に得る観点から、
1.45≧|SP(D)-SP(A)|≧1.05
の関係を満足してよく、例えば、
1.40≧|SP(D)-SP(A)|≧1.10
の関係を満足してよい。
【0026】
一実施態様において、樹脂の分離をより容易に抑制して、隠ぺい性等の塗膜物性をより容易に得る観点から、
1.45≧|SP(D)-SP(B)|≧1.05
の関係を有してもよく、例えば、
1.40≧|SP(D)-SP(B)|≧1.10
の関係を満足してよい。
【0027】
これら特定の樹脂における溶解性パラメータSP値を、特定の条件に設定することにより、より高い隠ぺい性を有する塗膜を形成でき、更に、薄膜であっても十分な隠ぺい性を有することができる。ここで、本開示において薄膜とは、(20μm以上35μm以下)程度の膜厚を意味するが、この数値範囲に限定されるものではない。
更に、本開示に係る特定の樹脂について、溶解性パラメータSP値を、特定の条件に設定することにより、塗膜強度、密着性、硬度などの諸物性がより優れた塗膜を形成できる。なお、上記SP値の条件を組合せて用いてもよい。
【0028】
SP値とは、solubility parameter(溶解性パラメータ)の略であり、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0029】
例えば、SP値は次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A-1、5、1671~1681(1967)]。
【0030】
サンプルとして、有機溶剤0.5gを100mlビーカーに秤量し、アセトン10mlを、ホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解したものを使用する。このサンプルに対して測定温度20℃で、50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。貧溶媒は、高SP貧溶媒としてイオン交換水を用い、低SP貧溶媒としてn-ヘキサンを使用して、それぞれ濁点測定を行う。有機溶剤のSP値δは下記計算式によって与えられる。
δ=(Vml
1/2δml+Vmh
1/2δmh)/(Vml
1/2+Vmh
1/2)
Vm=V1V2/(φ1V2+φ2V1)
δm=φ1δ1+φ2δ2
Vi:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0031】
また、SP値は、「K.L.Hoy J.P.T.42,76(1970)」に記載のエネルギーパラメーターを用い、「P.A.Small J.Appl.Chem.3,71(1953)」でSmallが提案した方法に従って算出できる。
【0032】
本開示において、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)、及びウレタン樹脂ディスパージョン(C)からなる群から選択される少なくとも1種と、樹脂ディスパージョン(D)と硬化剤(E)とを、塗料組成物中と同じ質量割合で含む混合物から形成した厚さ30μmの塗膜のヘーズ値が15%以上である。
一実施態様において、厚さ30μmの塗膜のヘーズ値は、30%以上である。
別の実施態様において、厚さ30μmの塗膜のヘーズ値は、35%以上であり、例えば、ヘーズ値は、40%以上である。
ヘーズ値が高い程隠ぺい性が向上するため、ヘーズ値は高い程好ましい。
【0033】
塗膜のヘーズ値が上記範囲であることにより、被塗物が有する色調、例えば、黒色、銀色を、薄膜でありながらも十分に隠ぺいできる。
また、塗膜は高い隠ぺい性を有することができ、白色又は白色に近い色を示し得るので、一般的に用いられている酸化チタンを含む白色プライマー塗膜と、その上に配置されるカラーベース塗膜とが有する機能を、本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜を備えることができる。
よって、本開示に係る塗料組成物は、一般的に使用されている、酸化チタンを含む白色プライマー塗膜とその上に配置されるカラーベース塗膜とが有する機能を、本開示に係る塗膜は単層でありながらも備えることができる。
更に、従来の複層塗膜と比べて、層構造を薄くでき、更に、塗膜形成工程を削減できる。また、所望の色調、特に、白色系マイカの色調を良好に発現できる。
【0034】
本開示において、厚さ30μmの塗膜のヘーズを測定するための塗膜の調製は、次の方法に基づき作成できる。
【0035】
厚さ30μmの塗膜のヘーズ値の測定は、市販の濁度計(例えば、日本電色工業社製 Σ90カラー測定システム)を用いて、JIS K7136:2000に準拠した方法により測定できる。
【0036】
以下、塗料組成における各成分について、説明する。
[無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)]
本開示に係る無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の溶解性パラメータSP(A)は、例えば、8.2以上9.5以下であってよく、8.3以上9.3以下であってよい。
【0037】
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、ポリオレフィン樹脂と無水マレイン酸から合成された誘導体であればよく、特に制限されるものではない。無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0038】
本開示において、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、エマルションの状態であってよく、このような樹脂(A)を、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂エマルションと称する場合がある。この態様において、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂エマルション自体を意味するものであり、他のエマルション樹脂を含まないものとする。
【0039】
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量は、20,000以上200,000以下の範囲であることが好ましく、50,000以上120,000以下の範囲にあることがより好ましい。重量平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出することができる。重量平均分子量がこのような範囲内であることにより、例えば、本開示に係る塗料組成物をプライマー塗料組成物として使用する態様において、プライマー塗膜として要求される強度を保持でき、被塗物との密着性を高く保持でき、更に、塗膜内での凝集破壊を抑制できる。また、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を、本開示に行ける既知の方法により乳化でき、更に、塗料組成物の安定化を示すことができる。
更に、例えば、被塗物にポリオレフィン素材を用いる態様において、濡れ性の低下を抑制でき、素材の密着性を高めることができる。
【0040】
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、例えば、本開示に係る塗料組成物における全樹脂固形分中15質量%以上40質量%以下であってよく、20質量%以上35質量%以下であってよい。
本明細書中、本開示に係る塗料組成物における全樹脂固形分とは、(A)、(B)、(C)、(D)及び(E)の固形分の合計を意味する。
【0041】
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の量がこのような範囲内であることにより、例えば、被塗物にポリオレフィン素材を用いる態様において、密着性を良好に保つことができる。また、外観不良を抑制でき、例えば、リコート時における下地塗膜に対する密着不良を抑制できる。
【0042】
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)をエマルション化する方法としては、機械的乳化法、乳化剤や塩基性物質を用いる方法、及びこれらの組み合わせなど、一般的に用いられている乳化方法を用いることができる。乳化剤を用いる用合、乳化剤の量については、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、塩基性物質、水の量などにより適宜設定できる。塩基性物質を用いる場合、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂、水等の量により適宜設定でき、特に、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)及び乳化剤の酸官能基が十分に中和される量であること、さらに、得られるエマルションのpHが7以上11以下、より好ましくは7.5以上10.5以下となることを考慮して設定することが好ましい。得られる無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂エマルションのpH値が上記範囲内であることにより、エマルションの安定化を保持でき、例えば、塩基性物質の遊離を抑制でき、耐水性を向上できる。
【0043】
当該エマルション中の無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂の平均粒径は、特に制限されず、例えば、一実施態様において、平均粒径は、0.01μm以上10μm以下であることが好ましい。平均粒径がこのような範囲内であることにより、乳化剤を多量に必要としない。
例えば、乳化剤を多量に含むと、塗膜の耐水性がやや劣ることがある。一方、上記平均粒径を有することにより、塗膜の耐水性の低下を抑制できる。また、エマルションの安定性を良好に保つことがある。
【0044】
一実施態様において、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)中、無水マレイン酸(酸無水物)に由来する構造の質量比率は、1質量%以上10以下質量%であることが好ましく、より好ましくは1.2質量%以上5質量%以下であるのがよい。当該質量比率が上記範囲内であることにより、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の乳化を適切に行うことができ、塗料組成物の安定化を図ることができる。また、塗膜の耐水性が低下することを抑制できる。
【0045】
一実施態様において、無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、塩素化された無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)であってよい。本明細書において、このような塩素化された樹脂を、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂と記載する。
塩素化した無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を用いることにより、例えば、本開示に係る塗料組成物をプライマー塗料組成物として使用する態様において、プライマー塗膜として要求される強度を保持でき、被塗物との密着性を高く保持できる。
また、塗膜内での凝集破壊を抑制でき。加えて、塗料組成物の安定化を示すことができる。
更に、塩素化することにより、結晶性ポリオレフィンの結晶性を維持したまま融点を低下させ、乳化などのハンドリングが容易となる。
【0046】
一実施態様において、本開示に係る塗料組成物は、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂を、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂エマルション樹脂として含むことができる。無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂エマルションを得る際に用いる塩素化ポリオレフィン樹脂の塩素含有率は、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂中の15質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上~35質量%以下である。
このような量で塩素を含むことで、乳化を容易に行うことができ、更に、被塗物、例えば、ポリオレフィン素材に対する密着性、特に、ポリプロピレン素材への密着性を十分に保持できる。
【0047】
[グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)]
エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂の溶解性パラメータSP(B)は、例えば、9.9以上11.5以下であってよく、10以上11以下であってよい。
【0048】
水性塗料組成物の態様においては、樹脂を水性媒体中で安定化させるために親水性基を多く必要とする。例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基などである。このような親水性基を多く含有する場合は、耐水性試験において様々の問題が発生する。例えば、水を多く吸収し、ブリスター発生、水膨潤することによる下膜や上膜との層間剥離などが起こりやすい。
これに対して、本開示に係る塗料組成物においては、グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)を用いることで、塗膜の凝集力を向上させることができる。
また、グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)を含むことにより、例えば、白系塗膜、マイカ系塗膜の場合、太陽光の紫外線がプライマーまで達することにより引き起こされ得るプライマー塗膜の黄変劣化を抑制できる。
【0049】
グリシジル基含有アクリル樹脂は、グリシジル基を含有するラジカル重合性モノマーと他のラジカル重合性モノマーとを共重合させることにより得ることができる。例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート等と(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの付加物などの官能基含有モノマー、更には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸N-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリルとの共重合を行って水性エマルションとすることで、グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)を得ることができる。
【0050】
水性エマルション化としては、溶剤重合した後、水中に強制攪拌や乳化剤等を用いてエマルション化する方法、水中で乳化剤を用いて共重合するエマルション重合法等が挙げられる。
【0051】
エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂中、グリシジル基含有モノマーに由来する構造の質量比率は、30質量%以上60質量%以下であることが好ましい。すなわち、グリシジル基含有アクリル樹脂の合成に用いる全モノマー中、グリシジル基を含有するラジカル重合性モノマーが30質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0052】
乳化重合から得られるエポキシエマルションにおいては、乳化剤量などに注意することが必要である。塗膜中に残存して、耐水性などを低下させることもあるからである。
【0053】
エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂は、本開示に係る塗料組成物における全樹脂固形分中20質量%以上35質量%以下が好ましい。
このような範囲以内であることにより、例えば、耐水性試験に付し、その後塗膜の密着性評価を行うような条件であっても、塗膜の凝集破壊・剥離を抑制できる。また、架橋度が大きくなりすぎることを回避でき、例えば、架橋歪みを抑制でき、初期密着において、他の塗膜、被塗物との層間剥離を抑制できる。
【0054】
[ウレタン樹脂ディスパージョン(C)]
一実施態様において、本開示に係る塗料組成物は、ウレタン樹脂ディスパージョン(C)を含み得る。例えば、ウレタン樹脂ディスパージョン(C)として、多官能イソシアネート化合物、1分子中に2個以上の水酸基を有するポリオール、及びジメチロールプロパンジオール又はジメチロールブタンジオール等の水酸基とカルボン酸基を共に有する親水化剤をジブチル錫ジラウリレート等の触媒の存在下、イソシアネート基過剰の状態で反応させてウレタンプレポリマーを得た後、アミン類等の有機塩基又は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基によりカルボン酸を中和し、イオン交換水を加えて水性化した後、更に鎖伸長剤により高分子量化して得られたウレタン樹脂ディスパージョン等;カルボン酸を有しないウレタンプレポリマーを合成した後、カルボン酸やスルホン酸、エチレングリコール等の親水基を有したジオール又はジアミンを用いて鎖伸長し、その後で、上記塩基性物質で中和して水性化し、必要により更に鎖伸長剤を用いて高分子量化して得られたウレタン樹脂ディスパージョン等;必要により乳化剤も併用して得られたウレタン樹脂ディスパージョン等;を挙げることができる。
【0055】
多官能イソシアネート化合物としては、1,6-ヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、及びこれらのアダクト体、ビューレット体、イソシアヌレート体等の多官能イソシアネート化合物を挙げることができる。
【0056】
ポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等を挙げることができる。
【0057】
鎖延長剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、フラシジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の低分子量ジオール化合物、及びこれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等を付加重合させたポリエーテルジオール化合物;上記低分子量ジオール化合物と(無水)コハク酸、アジピン酸、(無水)フタール酸等ジカルボン酸及びこれらの無水物から得られる末端に水酸基等を有するポリエステルジオール;トリメチロールエタン、トリメチロルブロパン等の多価アルコール;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、キシレンジアミン、イソホロンジアミン等のジアミン化合物;水、アンモニア、ヒドラジン、二塩基酸ヒドラジド等を挙げることができる。
【0058】
ウレタン樹脂ディスパージョン(C)中のウレタン樹脂は、例えば、本開示に係る塗料組成物における全樹脂固形分中15質量%以上40質量%以下であってよく、20質量%以上35質量%以下であってよい。
ウレタン樹脂ディスパージョン(C)中のウレタン樹脂の量が上記範囲以内であることにより、例えば、耐水性試験に付し、その後塗膜の密着性評価を行うような条件であっても、塗膜の凝集破壊・剥離を抑制できる。また、架橋度が大きくなりすぎることを回避でき、例えば、架橋歪みを抑制でき、初期密着において、他の塗膜、被塗物との層間剥離を抑制できる。
【0059】
[樹脂ディスパージョン(D)]
本開示に係る樹脂ディスパージョン(D)は、本開示に係る特定の条件、特に、溶解性パラメータSP値に関する条件を満たす範囲で、適宜選択できる。
【0060】
一実施態様において、樹脂ディスパージョン(D)は、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)及びアクリル樹脂エマルション(D2)からなる群から選択される少なくとも1種を含む樹脂ディスパージョンである。
例えば、樹脂ディスパージョン(D)は、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)又はアクリル樹脂エマルション(D2)のいずれか一方であってもよい。
【0061】
(ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1))
一実施態様において、樹脂ディスパージョン(D)は、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)である。本開示に係る塗料組成物が、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)を含むことにより、耐水性に優れ、被塗物に対する密着性に優れた塗膜を形成できる。
【0062】
ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂の数平均分子量は、6,000以上20,000以下であってよく、例えば、8,500以上20,000以下であってよい。数平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出することができる。
【0063】
一実施態様において、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)は、溶解性パラメータSP(D1)が、例えば、11.0以上12.0以下であってよく、11.1以上11.9以下であってよい。溶解性パラメータSP(D1)がこのような範囲内であることにより、被塗物が有する色調、例えば、黒色、銀色を薄膜でありながらも十分に隠ぺいできる。更に、高い隠ぺい性を有する塗膜を形成できるので、一般的に使用されている、酸化チタンを含む白色プライマー塗膜とその上に配置されるカラーベース塗膜とが有する機能を、本開示に係る塗膜は単層でありながらも備えることができる。
すなわち、従来の複層塗膜と比べて、層構造を薄くでき、更に、塗膜形成工程を削減できる。さらに、所望の白色系マイカの色調を発現できる。
【0064】
ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、40℃以上80℃以下であってよく、55℃以上75℃以下であってよい。ガラス転移温度(Tg)がこのような範囲内であることにより、耐水性に優れ、被塗物に対する密着性に優れた塗膜を形成できる。
【0065】
一実施態様において、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂の酸価は、例えば、1mgKOH/g以上10mgKOH/gであってよく、1mgKOH/g以上8mgKOH/gであってよい。酸価がこのような範囲内であることにより、架橋剤等によって架橋構造を形成することができ、その結果、塗膜と被塗物の密着性、本開示に係る塗膜の上方に配置される別の塗膜との密着性をより向上できる。
【0066】
一実施態様において、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂の水酸基価は、例えば、1mgKOH/g以上20mgKOH/g以下であってよく、1mgKOH/g以上10mgKOH/g以下であってよい。水酸基価がこのような範囲内であることにより、後述する硬化剤(E)と共に、塗膜に対して優れた耐久性を付与できる。
【0067】
一実施態様において、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂の平均粒子径(D50)は、例えば、40nm以上100nm以下であってよく、50nm以上90nm以下であってよい。
【0068】
ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂としては、例えば多塩基酸と多価アルコールとの縮合物等を挙げることができる。多塩基酸としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、無水コハク酸等を挙げることができる。多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。
【0069】
一実施態様において、ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂は、カルボキシ基及び/又はスルホン酸基を有することが好ましい。ポリエステルがこれらの親水基を有することで、水への分散性が良好となり、その結果、当該エマルション組成物を含む塗料組成物からより均一な塗膜を形成することができ、当該塗膜と被塗物との密着性、更には、当該塗膜の上方に配置される他の塗膜との密着性をより向上できる。
【0070】
ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)として市販品を使用でき、例えば、KA-5071S、KZT-8803、KT-8701、KZT-9204(以上、ユニチカ社)、バイロナールMD1200、MD1245、MD1480,MD1930,MD2000、MD1500(以上、東洋紡社)、PES-H001等のハイテックPEシリーズ(東邦化学工業社)、ニュートラック2010(花王社)、スーパーフレックス210(第一工業製薬社)、プラスコートZ730、Z760、Z592、Z687、Z690(以上、互応化学工業社)などを挙げることができる。
【0071】
ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1)中のポリエステル樹脂は、例えば、本開示に係る塗料組成物における全樹脂固形分中10質量%以上35質量%以下であってよく、15質量%以上25質量%以下であってよい。
【0072】
(アクリル樹脂エマルション(D2))
一実施態様において、本開示に係る樹脂ディスパージョン(D)は、アクリル樹脂エマルション(D2)である。本開示に係る塗料組成物が、アクリル樹脂エマルション(D2)を含むことにより、耐水性に優れ、被塗物に対する密着性に優れた塗膜を形成できる。
ただし、アクリル樹脂エマルション(D2)は、グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)とは異なり、グリシジル基を含有しないアクリル樹脂のエマルションである。
【0073】
アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、一般的に50,000以上1,000,000以下であってよく、例えば、100,000以上800,000以下であってよい。重量平均分子量は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出することができる。
【0074】
一実施態様において、アクリル樹脂エマルション(D2)は、溶解性パラメータSP(D2)が8.0以上12.0以下であってよい。
別の実施態様において、溶解性パラメータSP(D2)は、8.3以上8.9以下であってよく、10.5以上12.0以下であってよい。
【0075】
溶解性パラメータSP(D2)がこのような範囲内であることにより、被塗物が有する色調、例えば、黒色、銀色を、薄膜でありながらも十分に隠ぺいできる。
更に、高い隠ぺい性を有する塗膜を形成できるので、一般的に使用されている、酸化チタンを含む白色プライマー塗膜とその上に配置されるカラーベース塗膜とが有する機能を、本開示に係る塗膜は単層でありながらも備えることができる。
すなわち、従来の複層塗膜と比べて、層構造を薄くでき、更に、塗膜形成工程を削減できる。さらに、所望の白色系マイカの色調を発現できる。
【0076】
アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂としては、1種以上のラジカル重合性モノマーを重合させることにより得ることができる。例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、アクリル酸ヒドロキシエチルとε-カプロラクトンとの付加物などの官能基含有モノマー、更には、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸N-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリルから選択される1種以上のモノマーを重合して水性エマルションとすることで、アクリル樹脂エマルション(D2)を得ることができる。水性エマルション化としては、溶剤重合した後、水中に強制攪拌や乳化剤等を用いてエマルション化する方法、水中で乳化剤を用いて共重合するエマルション重合法等が挙げられる。
【0077】
アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば、-10℃以上100℃以下であり、0℃以上80℃以下であってよい。また、アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、10℃以上80℃以下であってよい。ガラス転移温度(Tg)がこのような範囲内であることにより、塗膜中に分散してより高い隠ぺい性を示すことができる。
また、本開示に係る塗料組成物をウェットオンウェット方式において用いる態様においても、被塗物、及び本開示に係る塗料組成物から形成される塗膜の上に形成される上側塗膜との界面でのなじみを抑制し反転を防ぐことができる。
【0078】
アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂の酸価は、2mgKOH/g以上、20mgKOH/g以下であることが好ましく、例えば、5mgKOH/g以上、10mgKOH/g以下である。この範囲の樹脂の酸価とすることにより、アクリル樹脂エマルション(D2)、及びそれを含む本開示に係る塗料組成物の保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性が向上し、また、塗膜形成時における硬化剤(E)との硬化反応が十分起こり、塗膜の諸強度、耐チッピング性、耐水性が向上する。
【0079】
アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂の水酸基価は5mgKOH/g以上20mgKOH/gであることが好ましい。より好ましくは、10mgKOH/g以上20mgKOH/gの範囲である。
この範囲の樹脂の水酸基価とすることにより、樹脂が適度な親水性を有し、樹脂エマルションを含む塗料組成物として用いた場合における作業性、凍結に対する安定性が増すと共に、硬化剤(E)との硬化反応性も十分である。
更に、塗膜の機械的性質が高く、耐チッピング性、耐水性及び耐溶剤性に優れた塗膜を形成できる。
【0080】
一実施態様において、アクリル樹脂エマルション(D2)のpH値は、例えば、4以上8以下であってよく、4以上7以下であってよい。pH値がこのような範囲内であることにより、塗膜と被塗物の密着性、本開示に係る塗膜の上方に配置される別の塗膜との密着性をより向上できる。
【0081】
一実施態様において、アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂の平均粒子径(D50)は、例えば、40nm以上300nm以下であってよく、50nm以上150nm以下であってよい。
【0082】
本開示におけるアクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂は、少なくとも、アクリル樹脂エマルション(D2)における溶解性パラメータSP(D2)が上記所定の条件を満たす範囲で、適宜選択できる。
【0083】
一実施態様において、アクリル樹脂エマルション(D2)は、水酸基及びカルボキシル基のうち少なくとも1方を有するアクリル樹脂を含み、例えば、水酸基及びカルボキシル基を有するアクリル樹脂を含む。
また、一実施態様において、アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂は、架橋性樹脂粒子であり、例えば、架橋性を有し、更に、水酸基及びカルボキシル基のうち少なくとも一方を有するアクリル樹脂粒子であってよい。
【0084】
一実施態様において、水酸基及びカルボキシル基を有するアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)、及び水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)を含むモノマー混合物を乳化重合して得ることができる。尚、モノマー混合物の成分として以下に例示される化合物は、1種又は2種以上を適宜組み合わせて使用してよい。尚、本明細書中において、「メタ(アクリル)」とは、アクリルまたはメタクリルの両方を表す。
【0085】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)はアクリル樹脂エマルションの主骨格を構成するために使用する。
【0086】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(i)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等が挙げられる。
【0087】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー(ii)は、得られるアクリル樹脂エマルションの保存安定性、機械的安定性、凍結に対する安定性等の諸安定性を向上させ、塗膜形成時における硬化剤(E)との硬化反応を促進するために使用できる。
【0088】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エタクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸及びフマル酸等が挙げられる。
【0089】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)は、水酸基に基づく親水性をアクリル樹脂エマルションに付与し、これを塗料として用いた場合における作業性や凍結に対する安定性を増すと共に、硬化剤(E)との硬化反応性を付与するために使用する。
【0090】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(iii)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、N-メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、ε-カプロラクトン変性(メタ)アクリルモノマー等が挙げられる。
【0091】
ε-カプロラクトン変性アクリルモノマーの具体例としては、ダイセル化学工業株式会社製の「プラクセルFA-1」、「プラクセルFA-2」、「プラクセルFA-3」、「プラクセルFA-4」、「プラクセルFA-5」、「プラクセルFM-1」、「プラクセルFM-2」、「プラクセルFM-3」、「プラクセルFM-4」及び「プラクセルFM-5」等が挙げられる。
【0092】
モノマー混合物は、任意成分として、スチレン系モノマー、(メタ)アクリロニトリル及び(メタ)アクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーを含んでよく、また、スチレン系モノマーとしては、スチレンのほかにα-メチルスチレン等が挙げられる。また、架橋モノマーとして、エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0093】
乳化重合は、上記モノマー混合物を水性液中で、ラジカル重合開始剤及び乳化剤の存在下で、攪拌下加熱することによって実施することができる。反応温度は例えば30~100℃程度として、反応時間は例えば1~10時間程度が好ましく、水と乳化剤を仕込んだ反応容器にモノマー混合物又はモノマープレ乳化液の一括添加又は暫時滴下によって反応温度の調節を行うとよい。
【0094】
ラジカル重合開始剤としては、通常アクリル樹脂の乳化重合で使用される公知の開始剤が使用できる。具体的には、水溶性のフリーラジカル重合開始剤として、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩が水溶液の形で使用される。また、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などの酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等の還元剤とが組み合わされたいわゆるレドックス系開始剤が水溶液の形で使用される。
【0095】
乳化剤としては、炭素数が6以上の炭素原子を有する炭化水素基と、カルボン酸塩、スルホン酸塩又は硫酸塩部分エステルなどの親水性部分とを同一分子中に有するミセル化合物から選ばれるアニオン系又は非イオン系(ノニオン系)の乳化剤が用いられる。このうちアニオン系の乳化剤としては、アルキルフェノール類又は高級アルコール類の硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;アルキル又はアリルスルホナートのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルの硫酸半エステルのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩などが挙げられる。また非イオン系の乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアリルエーテルなどが挙げられる。またこれら一般汎用のアニオン系、ノニオン系乳化剤の他に、分子内にラジカル重合性の不飽和二重結合を有する、すなわちアクリル系、メタクリル系、プロペニル系、アリル系、アリルエーテル系、マレイン酸系などの基を有する各種アニオン系、ノニオン系反応性乳化剤なども適宜、単独又は2種以上の組み合わせで使用される。
【0096】
また、乳化重合の際、メルカプタン系化合物や低級アルコールなどの分子量調節のための助剤(連鎖移動剤)の併用は、乳化重合を進める観点から、また塗膜の円滑かつ均一な形成を促進し基材への接着性を向上させる観点から、好ましい場合も多く、適宜状況に応じて行われる。
【0097】
また、乳化重合としては、通常の一段連続モノマー均一滴下法、多段モノマーフィード法であるコア・シェル重合法、重合中にフィードするモノマー組成を連続的に変化させるパワーフィード重合法など、いずれの重合法もとることができる。
【0098】
また、得られたアクリル樹脂エマルション(D2)に対し、カルボン酸の一部又は全量を中和してアクリル樹脂エマルション(D2)の安定性を保つため、塩基性化合物を添加してもよい。これら塩基性化合物としては、アンモニア、各種アミン類、アルカリ金属などを適宜使用することができる。
【0099】
アクリル樹脂エマルション(D2)中のアクリル樹脂は、例えば、本開示に係る塗料組成物の全樹脂固形分中10質量%以上35質量%以下であってよく、15質量%以上25質量%以下であってよい。
【0100】
[硬化剤(E)]
硬化剤としては特に限定されない。例えば、本開示に係る塗料組成物として安定性を考慮すると、メラミン樹脂、ブロックイソシアネート、カルボジイミド樹脂等が好ましい。
メラミン樹脂としては、特に限定されない。例えば、メトキシ型メラミン、メトキシ・ブトキシ混合型メラミンを挙げることができる。
ブトキシ型メラミンは、乳化剤、アクリル樹脂、アルキッド樹脂等を乳化剤とするような方法で水性化して用いることができる。
メトキシ型メラミン樹脂は乳化剤などを用いることなく水性安定化できるのでより好ましい。例えば、Allnex社製のサイメルシリーズのサイメル300、301、303、350、370、771、325、327、703、712、715、701、267、285、232、235、236、238、211、254、204、212、202、207等を挙げることができる。
【0101】
以下、本発明で硬化剤(E)として使用できるブロックイソシアネート化合物について説明する。ブロックイソシアネート化合物出発成分は、ジ-又はポリ-イソシアネート化合物及びこれらの混合物である。但し、これらの成分は、ブロック化剤と反応してブロックイソシアネート化合物が得られる。
【0102】
好ましいジ-又はポリ-イソシアネート化合物としては、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族及び複素環式のポリイソシアネートである。カルボジイミド基を含むポリイソシアネート、アロファネート基を含むポリイソシアネート、イソシアヌレート基を含むポリイソシアネート、ウレタン及び/又は尿素基を含むポリイソシアネート、アシル化尿素基を含むポリイソシアネート、ビューレット基を含むポリイソシアネート、ヘテロ重合反応によって生成したポリイソシアネート、エステル基を含むポリイソシアネート、好ましくはウレトジオン基を含むジイソシアネート及び尿素基を含むジイソシアネートも適当なものである。
【0103】
ジ-又はポリ-イソシアネート化合物の具体例としては下記のものが挙げられる。p-キシリレンジイソシアネート、1,5-ジイソシアナトメチルナフタレン、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、1-メチルベンゼン2,5-ジイソシアネート、1,3ジメチルベンゼン4,6-ジイソシアネート、1,4ジメチルベンゼン2,5-ジイソシアネート、1-ニトロベンゼン2,5-ジイソシアネート、1-メトキシベンゼン2,4-ジイソシアネート、1-メトキシベンゼン2,5-ジイソシアネート、1,3-ジメトキシベンゼン4,6-ジイソシアネート、アゾベンゼン4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルジメチルメタン4,4’-ジイソシアネート、ナフタレン1,5-ジイソシアネート、3,3’-ジメチルビフェニル4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルジスルフィド4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン4,4’-ジイソシアネート、1-メチルベンゼン2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゼン2,4,6-トリイソシアネート、トリフェニルメタン4,4’,4”-トリイソシアネート、4,4’-ジイソシアナト-(1,2)-ジフェニルエタン、二量体1-メチル-2,4-フェニレンジイソシアネート、二量体
1-イソプロピル-2,4-フェニレンジイソシアネート、二量体2,4’ジイソシアナトジフェニルスルフィド、3,3’-ジイソシアナト-4,4’-ジメチル-N,N’-ジフェニル尿素、3,3’-ジイソシアナト-2,2’-ジメチル-N,N’-ジフェニル尿素、3,3’-ジイソシアナト-2,4’-ジメチル-N,N’-ジフェニル尿素、N,N’-ビス[4(4-イソシアナトフェニルメチル)フェニル]尿素、N,N’-ビス[4(2-イソシアナトフェニルメチル)フェニル]尿素。
【0104】
ブロックイソシアネート化合物を得るために使用されるブロック化剤としてはオキシム化合物(アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシムなど)、ラクタム類(ε-カプロラクタムなど)、活性メチレン化合物(マロン酸ジエチル、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルなど)、フェノール類(フェノール、m-クレゾールなど)、アルコール類(メタノール、エタノール、n-ブタノールなど)、水酸基含有エーテル(メチルセルソルブ、ブチルセルソルブなど)、水酸基含有エステル(乳酸メチル、乳酸アミルなど)、メルカプタン類(ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタンなど)、酸アミド類(アセトアニリド、アクリルアマイド、ダイマー酸アミドなど)、イミダゾール類(イミダゾール、2-エチルイミダゾールなど)、酸イミド類(コハク酸イミド、フタル酸イミドなど)、アミン類(ジシクロヘキシルアミンなど)及びこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。
【0105】
硬化剤(E)は、本開示に係る塗料組成物の全樹脂固形分中5質量%以上15質量%以下の範囲で用いることが好ましい。硬化剤の量がこのような範囲内であることにより、塗膜の架橋度を高くでき、より耐水性及び密着性に優れた塗膜を形成できる。
【0106】
[その他成分]
一実施態様において、本開示に係る塗料組成物は、有機粒子及び無機粒子からなる群から選択される粒子を含む。このような粒子を含むことにより、バインダー樹脂と当該粒子の屈折率差により隠蔽性が更に向上することが期待できる。
【0107】
有機粒子及び無機粒子は、上記成分(A)~(D)と異なる粒子である。例えば、有機粒子として、スチレン樹脂、アクリル-スチレン共重合樹脂、アクリル-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリル-スチレン-アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル-メタアクリロニトリル共重合樹脂、アクリル-アクリロニトリル-メタアクリロニトリル共重合樹脂、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合樹脂等が挙げられる。
また、無機粒子として、珪酸ソーダガラス、アルミノ珪酸ガラス、硼珪酸ソーダガラス等のガラス;フライアッシュ、アルミナ、ジルコニア・チタニア、ホウ化ケイ素、シラス、黒曜石等が挙げられる。
また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等の体質顔料を併用しても良い。
【0108】
一実施態様において、本開示に係る塗料組成物は、更に、着色顔料を含む。この態様において、(A)~(E)の固形分の合計に対し(すなわち、本開示に係る塗料組成物の全樹脂固形分中)、着色顔料を3質量%以上150質量%以下で含み得る。
このような範囲内で着色顔料を含むことにより、硬化時の粘性が増大することを抑制でき、更に、フロー性が低下することも抑制できる。その結果、良好な塗膜外観を得ることができる。
【0109】
ここで、本開示に係る塗料組成物は、高い隠ぺい性を有する塗膜を形成できるので、一般的に使用されている、酸化チタンを含む白色プライマー塗膜とその上に配置されるカラーベース塗膜とが有する機能を、本開示に係る塗膜は単層でありながらも備えることができる。
すなわち、従来の複層塗膜と比べて、層構造を薄くでき、更に、塗膜形成工程を削減できる。さらに、所望の白色系マイカの色調を発現できる。
このため、本開示に係る塗料組成物においては、例えば、カラーベース塗膜としての機能を奏するために、着色顔料を添加してもよい。
【0110】
着色顔料としては、通常の塗料に使用される顔料であれば特に限定されない。例えば、高外観の塗膜を得る点、及び、耐候性を向上させる観点から、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、金属錯体顔料等の有機系着色顔料;酸化チタン、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック等の無機系着色顔料等が挙げられる。
【0111】
添加剤としては、上記成分の他に通常添加される添加剤、例えば、紫外線吸収剤;酸化防止剤;消泡剤;表面調整剤;ピンホール防止剤等が挙げられる。これらの配合量は当業者の公知の範囲である。
【0112】
[水性プライマー塗料組成物]
一実施態様において、本開示に係る塗料組成物は、水性プライマー塗料組成物である。本開示に係る水性プライマー塗料組成物は、高い隠ぺい性を有する塗膜を形成できるので、一般的に使用されている、酸化チタンを含む白色プライマー塗膜と比べ、薄膜化が可能である。
また、本開示に係る水性プライマー塗料組成物から形成された塗膜は、プライマー塗膜として要求される様々な機能、例えば、被塗物の隠ぺい性、耐チッピング性を備える。更に、本開示に係るプライマー塗膜は、プライマー塗膜上に配置され得るカラーベース塗膜が有する機能を備えることができる。
したがって、従来の複層塗膜と比べて、層構造を薄くでき、更に、塗膜形成工程を削減できる。
【0113】
一実施態様において、本開示に係る水性プライマー塗料組成物から形成された塗膜の厚さは、例えば、15μm以上40μm以下であってよく、20μm以上35μm以下であってよい。本開示に係るプライマー塗膜は、このような薄膜でありながらも、被塗物が有し得る黒色などの色調を良好に隠ぺいでき、その上、優れた耐水性を有することができる。その上、例えば、上記プライマー塗膜の上に形成される塗膜の色調が白色系マイカの色調であっても、良好に発現できる。
【0114】
[塗膜の形成及び複層塗膜の形成]
別の実施態様において、本開示は、被塗物に、本開示に係る塗料組成物を塗装し、未硬化の塗膜を形成する工程、及び、
前記未硬化の塗膜を加熱硬化させ、塗膜を形成する工程を含む、
塗膜の形成方法を提供する。
【0115】
本開示に係る塗料組成物を塗装する手段は特に限定されず、例えば、ベル塗装、エアースプレー、エアレススプレー等の一般に用いられている塗装方法等を挙げることができる。これらは被塗物に応じて適宜選択することができる。例えば、塗料組成物の塗装を静電塗装機により行ってもよい。また、塗膜の吐出量などの条件は、必要とされる塗膜の膜厚などに応じて適宜設定できる。
【0116】
本開示に係る塗料組成物から形成される塗膜の膜厚は、例えば、10μm以上40μm以下であってよく、12μm以上38μm以下であってよく、15μm以上35μmであってよく、25μm以上30μmであってよい。膜厚は乾燥膜厚で測定でき、乾燥膜厚は、SANKO社製SDM-miniRを用いて測定することができる。
【0117】
本開示に係る塗料組成物を塗装後に、例えば、40℃以上80℃以下の温度で1~10分間水分を揮散させる工程を入れることが好ましい(このような工程をプレヒート工程ともいう)。
【0118】
上記塗料組成物の塗装後、例えば、80℃以上150℃以下、例えば、100℃以上130℃以下の温度で焼付け硬化を行うことができる。
焼付け硬化の時間は、例えば、20分~40分程度の範囲内で適宜調整してよい。
【0119】
一実施態様において、本開示は、被塗物に、本開示に係る水性プライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のプライマー塗膜を形成する工程と、
上記未硬化の水性プライマー塗料組成物の上に、光輝顔料を含むベース塗料組成物を塗装し、未硬化のベース塗膜を形成する工程と、
上記未硬化のベース塗膜の上に、クリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程と、
上記未硬化のプライマー塗膜、ベース塗膜及びクリヤー塗膜を加熱硬化させ、複層塗膜を形成する工程と、
を含む、複層塗膜の形成方法を提供する。
以下、複層塗膜の形成方法についてより詳細に説明する。
【0120】
本開示に係る水性プライマー塗料組成物を被塗物に塗装した後、必要に応じて、例えば、40℃以上80℃以下の温度で1~10分間のプレヒート工程を行い、未硬化のプライマー塗膜を形成することができる。未硬化のプライマー塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として、例えば、10μm以上40μm以下であってよく、12μm以上38μm以下であってよく、15μm以上35μmであってよく、25μm以上30μmであってよい。
【0121】
次いで、得られた未硬化のプライマー塗膜上に、光輝顔料を含む水性ベース塗料組成物、例えば、マイカを含む水性ベース塗料組成物を塗装し、必要に応じて、例えば、40℃以上80℃以下の温度で1~10分間のプレヒート工程を行い、未硬化のベース塗膜(例えばマイカベース塗膜)を形成することができる。
更に、未硬化のベース塗膜上に、クリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する。未硬化のクリヤー塗膜を形成した後、例えば、80℃以上150℃以下、例えば、100℃以上130℃以下の温度で、本開示に係る未硬化の塗膜、未硬化のマイカベース塗膜、未硬化のクリヤー塗膜の焼付け硬化を行うことができる。
焼付け硬化の時間は、例えば、20分~40分程度の範囲内で適宜調整してよい。
【0122】
このような加熱硬化(焼付け)時間であっても、塗膜の硬化を充分に行え、優れた耐水性及び耐ガソホール性を有する複層塗膜を形成できる。更に、従来と比べて、加熱硬化時間を短縮しながらも、タック性及び研ぎ性に優れた複層塗膜(硬化塗膜)を形成できる。
なお、この加熱硬化(焼付け)時間は、基材表面が実際に目的の焼き付け温度を保持しつづけている時間を意味し、より具体的には、目的の焼き付け温度に達するまでの時間は考慮せず、目的の温度に達してから該温度を保持しつづけているときの時間を意味する。
【0123】
塗料組成物の未硬化膜を同時に焼き付けるのに用いる加熱装置として、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線などの加熱源を利用した乾燥炉などが挙げられる。また、これら加熱源を2種以上併用した乾燥炉を用いると、乾燥時間が短縮されるため好ましい。
【0124】
このような工程を経て、被塗物上に、本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜(カラーベース兼用白色プライマー塗膜)と、マイカ(光輝顔料)ベースと、クリヤー塗膜とを有する部品、例えば自動車用部品を形成できる。
したがって、一般的な白色プライマーとカラーベースの2層を、本開示に係る塗料組成物を用いることで、これらの2層が有する機能を単層で示すこと可能となる。
この結果、例えば、自動車用部品全体の軽量化、塗装工程の短縮、更には、エネルギー低減(CO2)の低減を奏することができる。
【0125】
上記水性ベース塗料組成物、クリヤー塗料組成物は、既知のものを使用できる。
好適に用いることができる水性ベース塗料組成物として、例えば、塗膜形成樹脂および光輝顔料を含む水性ベース塗料組成物が挙げられる。上記塗膜形成性樹脂としては特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。顔料分散性や作業性の点から、アクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂と、硬化剤としてアミノ樹脂及び/又はブロックイソシアネート樹脂を組み合わせたものが好ましい。上記塗膜形成性樹脂及び硬化剤はそれぞれ、1種のみ使用することもできるが、塗膜性能のバランス化を計るために、2種又はそれ以上の種類を使用することもできる。
【0126】
上記光輝顔料としては特に限定されず、例えば、金属又は合金等の無着色若しくは着色された金属性光輝顔料及びその混合物、干渉マイカ、着色マイカ、ホワイトマイカ、グラファイト又は無色有色偏平顔料等を挙げることができる。これらの光輝顔料は1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を併用してもよい。例えば上記水性ベース塗料組成物を塗装して形成される塗膜が、光輝感を伴う白色系の色調を有する塗膜である場合は、干渉マイカ、着色マイカ、ホワイトマイカなどのマイカを好適に用いることができる。
【0127】
水性ベース塗料組成物中に含まれる光輝顔料の量は、塗料組成物中に含まれる樹脂固形分100質量部に対して、例えば1~20質量%の範囲内であるのが好ましい。
【0128】
水性ベース塗料組成物を塗装する場合には、エアー静電スプレー又はベル静電塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、あるいは、エアー静電スプレーとベル静電塗装機とを組み合わせた塗装方法により行うことが好ましい。未硬化のベース塗膜の膜厚は、用途に応じて適宜選択することができ、例えば乾燥膜厚として5~35μmであることが好ましい。例えば、マイカを含むベース塗料組成物を用いる場合、未硬化のベース塗膜の膜厚は、例えば、8μm以上15μm以下であってよく、10μm以上12μm以下であってよい。
【0129】
上記クリヤー塗料組成物としては特に限定されず、例えば、媒体中に分散または溶解された状態で、塗膜形成樹脂、そして必要に応じた硬化剤およびその他の添加剤を含むものを挙げることができる。塗膜形成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらはアミノ樹脂および/またはイソシアネート樹脂などの硬化剤と組み合わせて用いることができる。また、透明性または耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/もしくはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、または、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/もしくはポリエステル樹脂などを用いることもできる。
【0130】
クリヤー塗料組成物の塗装は、クリヤー塗料組成物の塗装形態に従った、当業者に公知の塗装方法を用いて行うことができる。未硬化のクリヤー塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として、一般に15~50μmが好ましく、20~35μmであることがより好ましく、例えば、25μm以上30μm以下であってよい。
【0131】
本開示に係る塗料組成物から形成された塗膜であれば、これら水性ベース塗料組成物に対しても良好な密着性を奏することができる。
【0132】
本開示に係る塗料組成物は、高い隠ぺい性を有する塗膜を形成できるので、一般的に使用されている、酸化チタンを含む白色プライマー塗膜とその上に配置されるカラーベース塗膜とが有する機能を、本開示に係る塗膜は単層でありながらも備えることができる。
すなわち、カラーベース塗膜の形成工程を削減できる。その上、従来の複層塗膜と比べて、複層塗膜の層構造を薄くでき、更に、上記プライマー塗膜の上に形成される塗膜の色調が白色系マイカの色調であっても、所望の白色系マイカの色調を発現できる。
【0133】
[被塗物]
被塗物は、用途、機能などに応じて適宜選択できる。
一実施態様において、被塗物として、通電可能な種々の被塗物を用いることができる。使用できる被塗物として例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛-鉄合金系めっき鋼板、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板などが挙げられる。
これら被塗物は、既知の化成処理などを施した被塗物であってよい。また、これら被塗物は、電着塗板に中塗り塗料を塗装し、焼き付け又はプレヒートして得られた被塗物であってもよい。
【0134】
一実施態様において、被塗物としてプラスチック基材を用いることができる。例えば、自動車用部品に使用する、プラスチック基材であってよい。自動車用部品としては特に限定されず、バンパー、スポイラー、グリル、フェンダー等を挙げることができる。
【0135】
プラスチック基材は、ポリプロピレンやポリオレフィンまたはエラストマー変性ポリプロピレン樹脂を含む。エラストマー変性ポリプロピレン樹脂は、特に限定されず、公知の市販のものを使用することができる。更に、樹脂以外に必要に応じて添加剤を添加したものであってもよい。また、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂製の被塗物を用いてもよい。
【実施例】
【0136】
以下、本発明を実施例によって説明する。実施例中、配合割合において%とあるのは特に言及がない限り質量%を意味する。本発明は以下に記載した実施例に限定されるものではない。
【0137】
[製造例1 無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂エマルション(A)の製造]
攪拌羽根、温度計、滴下装置、温度制御装置、窒素ガス導入管及び冷却管を備えた反応容器に、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン「スーパークロン892LS」(日本製紙社製、塩素含有率22%、重量平均分子量80,000:日本製紙社提示値)288部、界面活性剤「エマルゲン920」(花王社製)62部、芳香族炭化水素溶剤「ソルベッソ100」(エクソン社製)74部、酢酸カービトール32部を仕込み、110℃まで昇温し、この温度で1時間加熱して樹脂などを溶解させたのち、100℃以下に冷却した。次いで、ジメチルエタノールアミン6部を溶解させたイオン交換水710部を冷却しながら1時間かけて滴下し、転相乳化した。その後、室温(25℃)まで冷却し、400メッシュの金網でろ過して、無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂エマルション(A-2)を得た。当該エマルションの不揮発分は30重量%であった。エマルション(A-2)中の無水マレイン酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂の溶解性パラメータSP(A)は、9.3であった。SP値は、段落0029及び段落0030に記載の方法により実測した。
【0138】
[製造例2 グリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)の製造]
脱イオン水118部とPVA218EE(クラレ社製のポリビニルアルコール)6部とニューコール714(日本乳化剤社製のアニオン性界面活性剤)3部との混合物に、アクリル系単量体成分としてのメタクリル酸グリシジル30部、メタクリル酸ラウリル13部、アクリル酸n-ブチル1部およびメチルメタクリル酸56部、ならびに、ラジカル重合開始剤としてのラウリルパーオキサイド2部を混合したものを加えた。これを、ホモジナイザーを用いて8000rpmで30分間攪拌して、原料分散液を得た。SALD-2200(島津製作所性レーザ回折式粒度分布測定装置)を用いて測定した原料分散液中の樹脂粒子の平均粒径は0.5μmであった。この原料分散液を、80℃に加熱した脱イオン水137部に、攪拌しながら2時間かけて滴下し、滴下終了後、そのまま4時間攪拌を継続した。冷却後、400メッシュの篩でろ過してグリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)を得た。当該エマルション中のアクリル樹脂粒子の平均粒径を、SALD-2200を用いて測定したところ、0.8μmであった。エマルション(B)中のグリシジル基含有アクリル樹脂の溶解性パラメータSP(B)は、10.6であった。SP値は、段落0031に記載の方法により計算した。
【0139】
[製造例3 ポリウレタン樹脂ディスパージョン(C)の製造]
攪拌羽根、温度計、滴下装置、温度制御装置、窒素ガス導入管、サンプル採取管及び冷却管付き還流装置を備えた耐圧反応容器に、窒素ガスを通じながらアジピン酸1100部と3-メチルー1,5-ペンタンジオール900部と、テトラブチルチタネート0.5部とを仕込み、容器内液の反応温度を170℃に設定し、脱水によるエステル化反応を行い、酸価が0.3mgKOH/g以下になるまで継続した。次いで、180℃、5kPa以下の減圧条件下で2時間反応を行い、水酸基過112mgKOH/g、酸価0.2mgKOH/gのポリエステルを得た。次いで、上記反応容器と同じ装置のついた別の反応容器に、このポリエステルポリオール500部と、5-スルホソジウムイソフタル酸ジメチル134部及びテトラブチルチタネート2部を仕込み、上記と同じようにして、窒素ガスを通じながら、反応容器を180℃に設定してエステル化を行い、最終的に重量平均分子量2117、水酸基価53mgKOH/g、酸価0.3mgKOH/gのスルホン酸基含有ポリエステルを得た。
【0140】
上記スルホン酸基含有ポリエステル280部、ポリブチレンアジペート200部、1,4-ブタンジオール35部、ヘキサメチレンジイソシアネート118部及びメチルエチルケトン400部を、攪拌羽根、温度計、温度制御装置、滴下装置、サンプル採取口及び冷却管付き反応容器に窒素ガスを通じながら仕込み、攪拌しながら液温を75℃に保持してウレタン化反応を行い、NCO含有率が1%であるウレタンポリマーを得た。続いて、上記反応容器中の液温を40℃に下げて、十分攪拌しながらイオン交換水955部を均一に滴下して転相乳化を行った。次いで、内部温度を下げて、アジピン酸ヒドラジド13部とイオン交換水110部とを混合したアジピン酸ヒドラジド水溶液を添加してアミン伸張を行った。次いで、若干の減圧状態で60℃に温度をあげて脱溶剤を行い、終了した時点で、ポリウレタン樹脂ディスパージョンの固形分が35%になるようにイオン交換水を追加して、ポリウレタン樹脂ディスパージョン(C)を得た。ポリウレタン樹脂ディスパージョン(C)中のポリウレタン樹脂の酸価は、11mgKOH/gであった。
【0141】
(樹脂ディスパージョン(D))
ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1-1)
東洋紡社製のMD1200(樹脂固形分34質量%、数平均分子量(Mn)は15000、酸価1mgKOH/g、水酸基価5mgKOH/g)を用いた。MD1200中のポリエステル樹脂の溶解性パラメータSP(D)は11.7であった。SP値は、段落0031に記載の方法により計算した。
【0142】
ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1-2)
DIC社製のBCD3120(樹脂固形分35質量%、酸価7mgKOH/g、水酸基価150mgKOH/g)を用いた。BCD3120中のポリエステル樹脂の溶解性パラメータをSP(D)は10.9であった。SP値は、段落0031に記載の方法により計算した。
【0143】
[製造例4~7 アクリル樹脂エマルション(D2)の製造]
表1に示すアクリル単量体成分を使用する以外は、製造例2と同様の方法で、表1に示すアクリル樹脂エマルション(D2-1)~(D2-4)を得た。当該アクリル樹脂エマルションについて、段落0031に記載の方法で計算したSP値(D)、及びSALD-2200を用いて測定した平均粒子径を表1に示す。
【0144】
【0145】
[製造例5 顔料分散樹脂]
攪拌羽根、滴下装置、温度制御装置、窒素ガス導入管及び冷却管を備えた反応容器にプロピレングリコールモノメチルエーテル55部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ、攪拌下120℃まで昇温した。次に、2-ヒドロキシメチルメタクリレート12部、メタクリル酸9部、イソブチルメタクリレート35部、n-ブチルアクリレート44部からなる重合性モノマー混合物と、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサナート1部をプロピレングリコール8部に溶解した溶液とを、内部攪拌にてそれぞれ3時間かけて滴下した。次いで、滴下終了後、120℃の状態で1時間熟成反応を行った後、さらに、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサナート0.1部をプロピレングリコール4部に溶解した溶液を、1時間かけて反応容器に滴下した。いずれの場合も内部攪拌状態と液温120℃を維持していた。その後、攪拌しながら、120℃で2時間熟成し、次いで、内部温度を70℃まで冷却し、ジメチルアミノエタノール9.5部を滴下して30分攪拌した。さらに内部温度を70℃に保持して攪拌しながら、イオン交換水167部をゆっくりと滴下し、室温(25℃)まで冷却し、水溶性アクリル樹脂溶液を得た。イオン交換水を用いて、不揮発分を30%に調整し、これを、以下の顔料分散ペーストにおけるプライマー用顔料分散樹脂として用いた。得られた顔料分散樹脂(水溶性アクリル樹脂溶液)のpHは8.2で、アクリル樹脂の重量平均分子量は42000であった。重量平均分子量は、TSK-gel-supermultipоr HZ-M(東ソー社製)カラム、及び展開溶媒としてTHFを用い、GPC装置にてポリスチレン換算で決定した。
【0146】
[硬化剤(E)]
Allnex社製のサイメル701(不揮発分82%、メチロール化メラミン)を用いた。
【0147】
[塗料組成物の調製]
(実施例1)
日本製紙社製のアウローレンS6479(無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂(A-1)、非塩素化)30質量部、製造例2で得られたグリシジル基含有アクリル樹脂エマルション(B)15質量部、製造例3で得られたポリウレタン樹脂ディスパージョン(C)25質量部、東洋紡社製のMD1200(ポリエステル樹脂ディスパージョン(D1-1))20質量部、及びAllnex社製のサイメル701(硬化剤(E))10質量部を、拌装置のついたステンレス製容器に順次投入して混合することにより、実施例1の塗料組成物を得た。上記配合量は、固形分換算量である。アウローレンS6479のSP値は8.7であり、段落0031に記載の方法により計算したものである。
【0148】
(実施例2~5、比較例1及び2)
表2に示すように構成原料及び配合量を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5並びに比較例1及び2の塗料組成物を得た。
【0149】
[ヘーズ値の測定]
イソプロピルアルコールでワイピングしたテフロンシート(70mm×150mm×0.1mm)の表面に、25℃/70%RHの環境下で、「ワイダ―71」(アネスト磐田社製)を用いて、実施例1で調製した塗料組成物を乾燥膜厚30μmとなるよう塗装し、60℃で5分間乾燥させた。その後、120℃で30分間焼付け硬化を行い、塗膜を形成した。得られた塗膜をテフロンシートから剥し、25mm角にカットし、ゼロ点補正したカラス板に貼り付け、日本電色工業社製Σ90カラー測定システムに付属する濁度計でヘーズ値を測定した。実施例2~5並びに比較例1及び2についても、上記と同様にしてヘーズ値を測定した。ヘーズ値の測定結果を表2に示す。
【0150】
【0151】
[顔料含有塗料組成物の調製]
(実施例6)
デュポン社製チタンR960を製造例4の顔料分散樹脂に加えてPWC(Pigment Weight Concentration、顔料重量濃度)が95%の顔料ペーストを得た。顔料ペーストのPWCは、顔料分散樹脂の固形分に対する顔料の量(顔料の質量/顔料分散樹脂の固形分×100)を意味する。
実施例1で製造した塗料組成物100質量部に当該顔料ペースト171質量部を添加し、PWCが60%である白プライマー塗料を調製した。上記配合量は、固形分換算量である。また、白プライマー塗料のPWCは、白プライマー塗料、すなわち、本開示に係る塗料組成物における全樹脂固形分に対する顔料の量(顔料の質量/全樹脂固形分×100)を意味する。
【0152】
(実施例7~10、比較例3~5)
表3に示すように塗料組成物を変更した以外は、実施例6と同様にして、実施例7~10及び比較例3~5の白プライマー塗料を得た。なお、比較例3及び4の白プライマー塗料は同じである。
【0153】
[白プライマーの隠蔽性]
白黒隠蔽試験紙に実施例6の白プライマー塗料を段階的に膜厚が変化するように塗布し、60℃で5分乾燥後、120℃で30分焼き付け、冷却後、被塗物に対し垂直方向から目視にて観察し、白黒が区別できない膜厚を隠蔽膜厚とした。実施例7~10及び比較例3~5の白プライマー塗料についても、上記と同様にして隠蔽膜厚を評価した。隠蔽膜厚の結果を表3に示す。
【0154】
[複層塗膜の形成]
(実施例6~10、比較例3~5の白プライマー塗料を用いた複層被膜:3コート1ベーク)
イソプロピルアルコールでワイピングしたポリプロピレン素材(70mm×150mm×3mm)の表面に、25℃/70%RHの環境下で、「ワイダ-71」(アネスト磐田社製)により、実施例6の白プライマー塗料をスプレー塗装(乾燥膜厚25μm)し、60℃で5分間乾燥した。次に、水性マイカベース塗料組成物(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のAR-3020-1♯7A21)を同じ環境下で、新カートリッジベル(ABB社製の新カートリッジベル(商品名))を使用して塗装条件(ガン距離:200mm、ガン速度:900mm/s、回転数:35000rpm、シェーピングエアー圧:0.15MPa)でスプレー塗装(乾燥膜厚15μm)した。80℃で5分間乾燥した後、その上に、ロボベル951を使用してクリヤー塗料組成物(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のR-2550-1及び硬化剤H-2550の混合物)を塗装(ガン距離:200mm、ガン速度:700mm/s、回転数:25000rpm、シェーピングエアー圧:0.07MPa)条件下でスプレー塗装(乾燥膜厚25μm)した。その後、10分間セッティングした後、120℃で30分間乾燥し、実施例6の複層塗膜を形成した。
実施例7~10並びに比較例3及び4の白プライマー塗料についても、表3に示すように白プライマー塗料及び/又は白プライマーの膜厚を変更した以外は、上記と同様にして、実施例7~10及び比較例3~5の複層塗膜を形成した。
【0155】
(参考例(従来例):4コート1ベーク)
イソプロピルアルコールでワイピングしたポリプロピレン素材(70mm×150mm×3mm)の表面に、25℃/70%RHの環境下で、「ワイダ-71」(アネスト磐田社製)により、水性白色導電プライマー塗料(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製WB-1310CD)をスプレー塗装(乾燥膜厚15μm)し、60℃で5分間乾燥した。その後、水性カラーベース塗料組成物(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製AR-3020-1#7018)を同じ環境下で、新カートリッジベル(ABB社製の新カートリッジベル(商品名))を使用して静電塗装条件(ガン距離:200mm、ガン速度:900mm/s、印加電圧:-60kV、回転数:35000rpm、シェーピングエアー圧:0.15MPa)でスプレー塗装(乾燥膜厚20μm)した。次に、水性マイカベース塗料組成物(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のAR-3020-1♯7A21)を水性カラーベース塗料組成物と同様の条件でスプレー塗装(乾燥膜厚15μm)した。80℃で5分間乾燥した後、その上に、ロボベル951を使用してクリヤー塗料組成物(日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製のR-2550-1及び硬化剤H-2550の混合物)を静電塗装(ガン距離:200mm、ガン速度:700mm/s、印加電圧:-60kV、回転数:25000rpm、シェーピングエアー圧:0.07MPa)条件下でスプレー塗装(乾燥膜厚25μm)した。その後、10分間セッティングした後、120℃で30分間乾燥し、複層塗膜を形成した。
【0156】
上記のようにして得られた複層塗膜について、以下の要領で、耐キシレンラビング性、初期密着性、耐水性、耐屈曲性、及び仕上がりを評価した。これらの結果を表3に示す。
【0157】
[耐キシレンラビング性]
キシレンを含んだガーゼで複層塗膜に500gの荷重を加え、8往復ラビング試験を行い、粘着性、しわ、フクレ、ハガレ等の異常の有無を評価した。異常が認められない場合は合格(○)、少しでも異常が認められた場合は不合格(×)とした。
【0158】
[初期密着性]
JIS-K-5600-5-6に準拠して評価した。具体的には、カッターナイフで複層塗膜上に、2mmの碁盤目100個を作り、その上にセロハン粘着テープを完全に付着させ、テープの一方の端を持ち上げて上方に剥がした。この剥離動作を同一箇所で3回実施し、1桝目内で塗膜が面積比50%以上剥がれた正方桝目の個数を数えた。0個を合格(○)とし、1個以上を不合格(×)とした。
【0159】
[耐水性]
40℃の耐水槽に複層塗膜を240時間浸漬させた。浸漬終了後、耐水槽から取り出した塗膜について、取り出してから1時間以内にJIS K5600-5-6に準拠して、碁盤目セロテープ(登録商標)剥離試験を行った。2mm角の100個の碁盤目を用意し、セロハンテープ剥離試験を行い、剥がれなかった碁盤目数を数えた。評価基準は以下の通りである。0/100(剥離なし)を合格(○)とし、1/100~100/100(剥離あり)を不合格(×)とした。また、耐水槽から取り出した直後の塗膜外観が初期と比較して、少しのフクレがある場合は△(不合格)とした。著しいフクレ(ブリスター)については×とした。
【0160】
[耐屈曲性]
JIS K 5600-5-1:1999(耐屈曲性)に準拠して、φ20mmの円筒形マンドレルにて耐屈曲性試験を行った。複層塗膜の耐屈曲性を、以下の基準に基づき評価した。
○(合格):塗膜ワレが起こらず良好
△(不合格):一部塗膜ワレが発生
×(不合格):全面に塗膜ワレが発生
【0161】
[仕上がり]
ミノルタ社製CR400色差計を用いて、参考例で作成した複層塗膜板を白マイカ塗色の基準板として複層塗膜の色差ΔEを測定した。ΔEが1未満を合格(〇)とし、1以上を不合格(×)とした。
【0162】
【0163】
本開示に係る塗料組成物であれば、優れた下地隠ぺい性を有する塗膜を形成することができる。そのため、本発明に係る塗料組成物であれば、塗装回数を従来よりも低減でき、より薄い膜厚でありながらも、被塗物が有する黒色を隠ぺいできる塗膜を形成できる。
更に、本開示に係る塗料組成物であれば、密着性、耐薬品性、耐水性、屈曲性及び外観に優れた塗膜を形成できる。
【0164】
一方、比較例1及び2の塗料組成物を用いて形成した塗膜はヘーズ値が低いため、比較例1及び2の塗料組成物から調整した比較例3~5の白プライマー塗料を用いて形成した白プライマーは、下地隠ぺい性が劣っていた。
【0165】
そのため、比較例1の白プライマーを用いて複層塗膜を形成する際、下地隠ぺい性を確保するために、比較例3のように、白プライマーを40μmと厚くする必要があった。しかし、白プライマーは顔料濃度が高いため硬く、更に白プライマーが厚膜化したことにより、耐水性及び耐屈曲性が低下した。一方、比較例4及び5のように、白プライマーの膜厚が30μmと薄いと、下地隠ぺい性が不十分となり、更に、所望の発色が得られず、白さが乏しく、仕上がりが劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の塗料組成物は、例えば、自動車車両、自動車用部品において好適に使用することができる。