(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】木質ボード用バインダー組成物、木質ボード及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 3/00 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
B27N3/00 D
(21)【出願番号】P 2020054257
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚史
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171746(JP,A)
【文献】特開平11-058331(JP,A)
【文献】特開2005-119202(JP,A)
【文献】特開2012-201728(JP,A)
【文献】特開2018-058359(JP,A)
【文献】塔村真一郎,木材用フェノール樹脂接着剤,ネットワークポリマー,2010年,Vol.31 No.5,p.240-247
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レゾール型フェノール樹脂と、単糖、二糖及び三糖からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖と、エステル化合物とを含
み、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記糖の固形分との合計100質量%に対する前記糖の固形分の割合が1~70質量%であり、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記糖の固形分との合計100質量%に対する前記エステル化合物の割合が1~5質量%である、木質ボード用バインダー組成物。
【請求項2】
前記エステル化合物が、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、γ-ブチロラクトン、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、トリアセチン、エチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、酢酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、ギ酸エチル、サリチル酸メチル、アセト酢酸エチル及びマロン酸ジエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項
1に記載の木質ボード用バインダー組成物。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の木質ボード用バインダー組成物を用いた木質ボード。
【請求項4】
木質繊維又は木質小片である木質基材を乾燥する工程と、
乾燥した前記木質基材と、レゾール型フェノール樹脂と、単糖、二糖及び三糖からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖と、エステル化合物とを含む原料を混合して混合物を得、前記混合物をフォーミングし、前記混合物の層を含むマットを得る工程と、
前記マットを熱圧成形により硬化させる工程と、を含
み、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記糖の固形分との合計100質量%に対する前記糖の固形分の割合が1~70質量%であり、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記糖の固形分との合計100質量%に対する前記エステル化合物の割合が1~5質量%である、木質ボードの製造方法。
【請求項5】
木質繊維又は木質小片である木質基材と、レゾール型フェノール樹脂と、単糖、二糖及び三糖からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖とを含む第一の原料を混合して第一の混合物を得る工程と、
前記第一の混合物を乾燥する工程と、
乾燥した前記第一の混合物と、エステル化合物とを含む第二の原料を混合して第二の混合物を得、前記第二の混合物をフォーミングし、前記第二の混合物の層を含むマットを得る工程と、
前記マットを熱圧成形により硬化させる工程と、を含
み、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記糖の固形分との合計100質量%に対する前記糖の固形分の割合が1~70質量%であり、
前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記糖の固形分との合計100質量%に対する前記エステル化合物の割合が1~5質量%である、木質ボードの製造方法。
【請求項6】
前記熱圧成形の温度が120~170℃である、請求項
4又は
5に記載の木質ボードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家具、木工、住宅、機器、建築内外装材等に使用される木質ボード、木質ボード用バインダー組成物及び木質ボードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質ボードは一般に、木質繊維又は木質小片(以下、これらを併せて「木材基材」という場合もある)をバインダーと混合し、マット化し、熱圧成形等により硬化させることにより製造される。
木質ボードに用いられるバインダーとしては一般に、尿素樹脂、メラミン樹脂、レゾール型フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。また、特許文献1~2には、レゾール型フェノール樹脂と、単糖、二糖及び三糖からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖とを組み合わせたバインダー組成物が提案されている。
【0003】
バインダーにレゾール型フェノール樹脂を用いた木質ボードは、尿素樹脂やメラミン樹脂を用いたものに比べ、接着耐久性が高い、ホルムアルデヒド放散性が低い等の利点がある。しかし、レゾール型フェノール樹脂は硬化速度が遅く、レゾール型フェノール樹脂を用いた木質ボードの製造においては通常、レゾール型フェノール樹脂を短時間で硬化させるために、硬化温度が180~220℃程度の高温とされる。また、レゾール型フェノール樹脂の硬化速度は水分の影響を受けやすく、木質基材の含水率を低くするための乾燥も必要になる。これらのことから、バインダーとしてレゾール型フェノール樹脂を用いた木質ボードは、製造時のエネルギーコストが高くなる。
【0004】
レゾール型フェノール樹脂の硬化速度を高める方法として、硬化促進剤を添加する方法がある。硬化促進剤としては、炭酸塩やエステル類が知られている。非特許文献1には、MDFの製造においてレゾール型フェノール樹脂に炭酸プロピレンを添加することで、205℃での熱圧時間が減少したことが記載されている。
また、前記した特許文献1~2には、アンモニウム塩、リン酸塩、炭酸塩、グリシン等の硬化促進剤の添加により、木質ボードの強度や耐湿性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-58359号公報
【文献】特開2019-171746号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】塔村、「木材用フェノール樹脂接着剤」、ネットワークポリマー、2010年、Vol.31、No.5、p.240-247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
木質ボードの生産性を考慮すると、レゾール型フェノール樹脂を用いる場合でも、尿素樹脂やメラミン樹脂を用いる場合と同程度の硬化条件で硬化できることが望ましい。具体的には、より低い硬化温度(例えば160℃)で、硬化時間を長くすることなく硬化できることが望ましい。
しかし、特許文献1~2、非特許文献1では、硬化温度を低くすることは検討されていない。
【0008】
本発明は、木質ボードの製造時の硬化温度を低くできる木質ボード用バインダー組成物及び木質ボードの製造方法、並びに前記木質ボード用バインダー組成物を用いた木質ボードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]レゾール型フェノール樹脂と、単糖、二糖及び三糖からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖と、エステル化合物とを含む、木質ボード用バインダー組成物。
[2]前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記糖の固形分との合計100質量%に対する前記エステル化合物の割合が1~5質量%である、前記[1]の木質ボード用バインダー組成物。
[3]前記レゾール型フェノール樹脂の固形分と前記糖の固形分との合計100質量%に対する前記糖の固形分の割合が1~70質量%である、前記[1]又は[2]の木質ボード用バインダー組成物。
[4]前記エステル化合物が、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、γ-ブチロラクトン、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、トリアセチン、エチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、酢酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、ギ酸エチル、サリチル酸メチル、アセト酢酸エチル及びマロン酸ジエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記[1]~[3]のいずれかの木質ボード用バインダー組成物。
[5]前記[1]~[4]のいずれかの木質ボード用バインダー組成物を用いた木質ボード。
[6]木質繊維又は木質小片である木質基材を乾燥する工程と、
乾燥した前記木質基材と、レゾール型フェノール樹脂と、単糖、二糖及び三糖からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖と、エステル化合物とを含む原料を混合して混合物を得、前記混合物をフォーミングし、前記混合物の層を含むマットを得る工程と、
前記マットを熱圧成形により硬化させる工程と、を含む、木質ボードの製造方法。
[7]木質繊維又は木質小片である木質基材と、レゾール型フェノール樹脂と、単糖、二糖及び三糖からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖とを含む第一の原料を混合して第一の混合物を得る工程と、
前記第一の混合物を乾燥する工程と、
乾燥した前記第一の混合物と、エステル化合物とを含む第二の原料を混合して第二の混合物を得、前記第二の混合物をフォーミングし、前記第二の混合物の層を含むマットを得る工程と、
前記マットを熱圧成形により硬化させる工程と、を含む、木質ボードの製造方法。
[8]前記熱圧成形の温度が120~170℃である、前記[6]又は[7]の木質ボードの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、木質ボードの製造時の硬化温度を低くできる木質ボード用バインダー組成物及び木質ボードの製造方法、並びに前記木質ボード用バインダー組成物を用いた木質ボードを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】試験例1の結果を示すグラフ(横軸:糖変性量、縦軸:ゲル化時間)である。
【
図2】試験例2の結果を示すグラフ(横軸:糖変性量、縦軸:ゲル化時間)である。
【
図3】試験例3の結果を示すグラフ(横軸:エステル添加量、縦軸:ゲル化時間)である。
【
図4】試験例4の結果を示すグラフ(横軸:測定温度、縦軸:ゲル化時間)である。「未添加」は比較例7である。
【
図5】試験例5の結果を示すグラフ(横軸:硬化促進剤種、縦軸:ゲル化時間)である。「未添加」は比較例8である。
【
図6】試験例5の結果(実施例11~16、比較例8)を示すグラフ(横軸:測定温度、縦軸:ゲル化時間)である。「未添加」は比較例8である。
【
図7】試験例5の結果(実施例16、比較例8)を示すグラフ(横軸:測定温度、縦軸:ゲル化時間)である。「未添加」は比較例8である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量(以下、「Mw」とも記す。)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、「GPC」とも記す。)により測定される、標準ポリスチレン換算の値である。
レゾール型フェノール樹脂の固形分は、不揮発分を示す。不揮発分は、以下の測定方法により測定される。
不揮発分測定方法:アルミ箔製皿(内径50mm、高さ15mm)の質量C1(g)を量り、そこに試料(レゾール型フェノール樹脂)を1.5±0.1gとなるように精秤し、当該試料の具体的な質量を乾燥前の試料質量S(g)とする。このアルミ箔製皿を、予め135±1℃に保った恒温器に入れ、60±2分間の乾燥処理を行った後、デシケーター中にて放冷し、その質量C2(g)を量る。その結果から、次式(1)により乾燥後の試料質量D(乾燥処理後にアルミ箔製皿上に残った試料の質量)(g)を算出し、次式(2)により不揮発分を算出する。
D=C2-C1 ・・・(1)
不揮発分(%)=D/S×100 ・・・(2)
糖の固形分は、水分を除いた部分を示す。水分量はカール・フィッシャー滴定法を用いた水分計によって測定される。
pHは、特に記載がなければ、25℃における値である。
【0013】
〔木質ボード用バインダー組成物〕
本発明の木質ボード用バインダー組成物(以下、「本組成物」ともいう。)は、レゾール型フェノール樹脂と、単糖、二糖及び三類からなる群から選ばれる少なくとも1種の糖(以下、「糖(A)」ともいう。)と、エステル化合物とを含む。
本組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分をさらに含んでもよい。
【0014】
<レゾール型フェノール樹脂>
レゾール型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とのアルカリ触媒存在下での反応生成物である。
フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒存在下で反応させると、フェノール類の芳香環にアルデヒド類が付加する付加反応が起き、その後縮合反応を経て高分子化する。
【0015】
フェノール類は、芳香環及び芳香環に結合した水酸基を有する化合物であり、例えば、フェノール、アルキルフェノール類(o,m,pの各クレゾール、o,m,pの各エチルフェノール、キシレノールの各異性体等)、多芳香環フェノール類(α,βの各ナフトール等)、多価フェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ピロガロール、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン等)等が挙げられる。これらのフェノール類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、実用的な物質は、フェノール、o,m,pの各クレゾール、キシレノールの各異性体、レゾルシン、カテコールである。
【0016】
アルデヒド類は、ホルミル基を有する化合物及びその多量体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であり、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、グリオキザール等が挙げられる。これらのアルデヒド類は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、実用的な物質は、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドである。
【0017】
フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)(以下、「F/P」とも記す。)は、1.0~4.0であることが好ましく、1.5~2.5であることがより好ましい。ただし、アルデヒド類がパラホルムアルデヒドのような多量体である場合、F/Pは、単量体換算での値である。
F/Pが前記範囲の下限値以上であれば、未反応のフェノール類(遊離フェノール類)の揮散による臭気発生、又は歩留低下等の問題が生じない。F/Pが前記範囲の上限値以下であれば、未反応のアルデヒド類(遊離アルデヒド類)が多量に残留することなく、製造工程中の作業環境雰囲気下にホルムアルデヒドが揮発せず、作業員の健康を害さない。また得られる木質ボードからのアルデヒド類の放散量が少ない。
前記遊離のフェノール類とは、JIS K6910の5.16の規定に準じて測定される未反応のフェノール類である。
前記遊離のアルデヒド類とは、JIS K6910の5.17の規定に準じて測定される未反応のアルデヒド類である。
【0018】
アルカリ触媒としては、フェノール類とアルデヒド類との反応を進行させ得るものであれば特に制限はなく、種々のアルカリ性物質を用いることができる。具体例としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等)、炭酸ナトリウム、アンモニア等の無機アルカリ性物質;トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリエタノールアミン等の第3級アミン、DBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン)、DBN(1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン)等の環式アミン等の有機アルカリ性物質;等が挙げられる。これらのアルカリ触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒存在下で反応させる方法は、公知の方法であってよい。例えば、攪拌機、還流器及び温度制御機構を有する反応容器にフェノール類、アルデヒド類、アルカリ触媒、水等を仕込み、任意の反応温度を任意の反応時間保持する方法が挙げられる。反応の開始後、必要に応じて、追加のアルカリ触媒及び任意の添加剤等を添加してもよい。
【0020】
前記反応の反応温度は、60~100℃が好ましく、70~90℃がより好ましい。反応温度が前記範囲の下限値以上であれば、充分な反応速度が得られる。反応温度が前記範囲の上限値以下であれば、反応をコントロールしやすい。
前記反応の反応時間は、例えば3~8時間とすることができる。前記範囲の反応時間であれば、高い収率でレゾール型フェノール樹脂が得られ、レゾール型フェノール樹脂の生産性が優れる。
フェノール類とアルデヒド類とをアルカリ触媒存在下で反応させた後、必要に応じて中和や希釈等の処理を行ってもよい。
【0021】
レゾール型フェノール樹脂の固形分は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。
【0022】
レゾール型フェノール樹脂は、液状であってもよく固体であってもよい。木質基材への塗付性及び混合性に優れる点で、液状レゾール型フェノール樹脂であることが好ましい。
液状レゾール型フェノール樹脂の粘度は、50~500mPa・sであることが好ましく、100~300mPa・sであることがより好ましい。粘度は、25℃でB型粘度計により測定される値である。
【0023】
レゾール型フェノール樹脂のpHは、8.0~13.0であることが好ましく、10.0~12.0であることがより好ましい。pHが前記範囲の下限以上であると、水への溶解性がよい。pHが前記範囲の上限以下であると、触媒の使用量の観点から経済的である。pHは、25℃における値である。
【0024】
レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量は、200~20000であることが好ましく、500~10000であることがより好ましく、700~8000であることがさらに好ましい。レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が前記範囲の下限値以上であれば、木質基材への樹脂の定着性が優れる。レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が前記範囲の上限値以下であれば、木質基材への樹脂の浸透性がより優れる。
【0025】
レゾール型フェノール樹脂としては、木質ボード用バインダー等として市販されているレゾール型フェノール樹脂を特に限定せずに使用できる。公知の製造方法により製造したレゾール型フェノール樹脂を用いてもよい。
市販のレゾール型フェノール樹脂としては、例えば群栄化学工業社製の「レヂトップPL-3630」等が挙げられる。
【0026】
<糖(A)>
糖(A)において、単糖としては、例えばグルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、キシロース等が挙げられる。
二糖としては、例えばショ糖(スクロース)、マルトース、トレハロース、ラクトース、イソマルトース等が挙げられる。
三糖としては、例えばマルトトリオース、ラフィノース等が挙げられる。
【0027】
糖(A)は1種を単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。
糖(A)としては、上記の中でも、グルコース、フルクトース、キシロース、マルトースからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0028】
糖(A)として2種以上の糖を併用する場合、本組成物の調製に際して、各糖をそれぞれ配合してもよく、2種以上の糖を含む原料を用いてもよい。2種以上の糖を含む原料としては、例えば、異性化糖(グルコース、フルクトース等を含有)、水飴(グルコース、マルトース等を含有)等が挙げられる。
【0029】
<エステル化合物>
エステル化合物としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル等の炭酸エステル;γ-ブチロラクトン、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン等のラクトン;トリアセチン、エチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、酢酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、ギ酸エチル、サリチル酸メチル等のカルボン酸エステル;アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル等の活性メチレン化合物が挙げられる。
【0030】
エステル化合物は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
エステル化合物としては、上記の中でも、低温硬化性の点で、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトン、トリアセチン、エチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチルが好ましく、炭酸プロピレン、γ-ブチロラクトン、エチレングリコールジアセテートがより好ましい。
【0031】
<他の成分>
他の成分としては、特に限定されず、例えば水、糖(A)以外の糖質、エステル化合物以外の硬化促進剤、離型剤、乳化安定化剤、撥水剤、凝集剤、難燃剤、防虫剤、防腐剤、本組成物以外の木質ボード用バインダー等が挙げられる。
【0032】
エステル化合物以外の硬化促進剤としては、公知のものを使用でき、例えばアンモニウム塩、リン酸塩、無機炭酸塩、グリシン等が挙げられる。アンモニウム塩としては、リン酸3アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等が挙げられる。リン酸塩としては、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸3アンモニウム等のオルトリン酸塩、次亜リン酸ナトリウム等の次亜リン酸塩、縮合リン酸塩等が挙げられる。無機炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。これらの硬化促進剤は1種を単独で用いてもよく2種以上併用してもよい。
【0033】
本組成物以外の木質ボード用バインダーとしては、公知のものを使用でき、例えば尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0034】
<本組成物の組成>
本組成物において、レゾール型フェノール樹脂の固形分と糖(A)の固形分との合計100質量%に対する糖(A)の固形分の割合(以下、「糖変性量」ともいう。)は、1~70質量%が好ましく、10~60質量%がより好ましく、20~50質量%が特に好ましい。糖変性量が前記下限値以上であれば、木質ボードの製造時の硬化温度をより低くできる。また、糖変性量が前記範囲内であれば、木質ボードの常態強度、湿潤強度及び耐水性がより優れ、木質ボードからのホルムアルデヒド放散量がより少ない傾向がある。
【0035】
レゾール型フェノール樹脂の固形分と糖(A)の固形分との合計100質量%に対するエステル化合物の割合(以下、「エステル添加量」ともいう。)は、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上が特に好ましい。エステル添加量が前記下限値以上であれば、木質ボードの製造時の硬化温度をより低くできる。
エステル添加量の上限は、硬化温度の点では特に限定されないが、エステル添加量が5質量%を超えると、硬化温度の低減効果が飽和する傾向にある。したがって、原料コストの点では、エステル添加量は5質量%以下が好ましい。
【0036】
本組成物の固形分100質量%に対するレゾール型フェノール樹脂の固形分と糖(A)の固形分とエステル化合物との合計の割合は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0037】
本組成物は、例えば、レゾール型フェノール樹脂、糖(A)、エステル化合物、及び必要に応じて他の成分を混合することにより調製できる。
本組成物は、木質ボードのバインダーとして用いられる。すなわち木質ボードの製造において、木質基材を結合させるために用いられる。
【0038】
以上説明した本組成物にあっては、レゾール型フェノール樹脂と糖(A)とエステル化合物とを含むので、木質ボードの製造時の硬化温度を低くできる。
例えば、従来、レゾール型フェノール樹脂を用いて木質ボードを製造する場合の硬化温度は180~220℃程度である。これに対し、本組成物を用いて木質ボードを製造する場合、硬化温度が120~170℃程度であっても、従来と同等の硬化時間で硬化できる。
したがって、本組成物によれば、木質ボードの製造におけるエネルギーコストを低減できる。
【0039】
〔木質ボード〕
本発明の木質ボードは、本組成物を用いた木質ボードである。
本明細書及び特許請求の範囲において、「木質ボード」とは、木質繊維又は木質小片である木質基材をバインダーで固めた板状の製品である。
「木質小片」とは、木材を小片化したものであり、チップ、フレーク、ウェファー、ストランド、その他の切削片、破砕片の総称である。
「木質繊維」とは、木質小片を高温高圧蒸気で蒸煮し、リファイナー等によって解繊して繊維(ファイバー)化したものである。
【0040】
本発明の木質ボードにおいては、木質基材を固めるバインダーの一部又は全部に本組成物が用いられている。本発明の効果を損なわない範囲で、バインダーの一部に本組成物以外の他の木質ボード用バインダーが用いられていてもよい。他の木質ボード用バインダーとしては、例えば尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
バインダーの一部に他の木質ボード用バインダーを用いた木質ボードとしては、例えば、木質基材を本組成物で固めた層と、木質基材を他の木質ボード用バインダーで固めた層とを有する多層構造の木質ボード、木質基材を本組成物と他の木質ボード用バインダーとを含むバインダーで固めた層を有する木質ボード等が挙げられる。
【0041】
木質ボードの種類は特に限定されない。木質繊維を用いた木質ボード(繊維板)としては、インシュレーションボード、MDF(Medium Density Fiberboard)、ハードボード等が挙げられる。これらは主に密度によって区別される。木質小片を用いた木質ボードとしては、パーティクルボード、オリエンテッドストランドボード(OSB)等が挙げられる。パーティクルボード、OSBでは、木質基材の大きさや形は、破砕工程等により不揃いなものとなるが、その後の製造工程において分級(ふるい分け)等によって品質管理される。ただし、木質基材の大きさや形、並べ方によって製品の性質はさまざまであり、製造過程が類似しているため中間的な製品も存在する。そのような製品も木質ボードに該当するものとする。
【0042】
本発明の木質ボードは、例えば後述する木質ボードの製造方法により製造できる。ただし、本発明の木質ボードの製造方法はこれに限定されるものではない。例えば公知の木質ボードの製造方法において、バインダーの一部又は全部に本組成物を用いることにより本発明の木質ボードを製造できる。
【0043】
〔木質ボードの製造方法〕
<第1の態様>
本発明の木質ボードの製造方法の第1の態様は、木質繊維又は木質小片である木質基材を乾燥する工程(以下、「工程(1-1)」とも記す。)と、
乾燥した前記木質基材と、レゾール型フェノール樹脂と、糖(A)と、エステル化合物とを含む原料を混合して混合物(以下、「混合物(X)」とも記す。)を得、前記混合物(X)をフォーミングし、前記混合物(X)の層を含むマットを得る工程(以下、「工程(1-2)」とも記す。)と、
前記マットを熱圧成形により硬化させる工程(以下、「工程(1-3)」とも記す。)と、を含む。
【0044】
「工程(1-1)」
木質基材を乾燥することで、熱圧プレス時間の短縮とパンクの防止ができる。
乾燥方法としては、例えば熱風乾燥が挙げられる。
乾燥温度は、40~110℃が好ましく、60~80℃がより好ましい。乾燥温度が前記下限値以上であれば、乾燥に要する時間を短くできる。乾燥温度が前記上限値以下であれば、木質基材の熱劣化の影響を最小限にできる。
乾燥時間は、乾燥温度、木質基材量、サイズによっても異なるが、例えば10~60分間である。
木質基材の乾燥は、乾燥後の木質基材における水分量が、乾燥後の木質基材100質量%に対して5質量%以下となるまで行うことが好ましい。
【0045】
「工程(1-2)」
原料において、レゾール型フェノール樹脂、糖(A)、エステル化合物はそれぞれ前記と同様である。糖変性量、エステル添加量それぞれの好ましい範囲も前記と同様である。
原料は、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては前記と同様のものが挙げられる。
原料の固形分から木質基材を除いた残部100質量%に対するレゾール型フェノール樹脂の固形分と糖(A)の固形分とエステル化合物との合計の割合は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
原料の固形分100質量%に対する木質基材の割合は、50~97質量%が好ましく、80~90質量%がより好ましい。
原料は、木質基材と本組成物とを含むものといえる。原料は、木質基材と本組成物とからなることが好ましい。
混合物(X)の組成は原料の組成と同じである。
【0046】
混合物(X)の調製及びフォーミング(マット化)は、乾式法により行ってもよく、湿式法により行ってもよい。
乾式法では、木質基材に対し、バインダー成分を希釈媒体で任意の濃度に希釈した溶液を噴霧し、混合し、一次乾燥を行って、バインダー成分が付着した木質基材(混合物)を得る。この木質基材をマット状に配置し、必要に応じて形状保持のため仮圧縮を行って、フォーミングを完了する。この場合、一次乾燥の温度は、硬化反応の進行を抑制する観点から、80℃以下が好ましい。
湿式法では、木質基材と、水と、バインダー成分とを混合してスラリー(混合物)を得る。このスラリーを抄造する(型に流し込み漉き上げる)ことによってフォーミングを完了する。
バインダー成分であるレゾール型フェノール樹脂、糖(A)、エステル化合物及び他の成分は、予め混合された状態、つまり本組成物の状態で木質基材と混合されてもよく、個別に木質基材と混合されてもよい。混合方法としてはバッチ式でも、連続式でもよい。
【0047】
他の成分が他の木質ボード用バインダーを含む場合、木質基材と、レゾール型フェノール樹脂と、糖(A)と、エステル化合物と、必要に応じて他の木質ボード用バインダー以外の他の成分とを混合しての混合物(X1)を得、別途、木質基材と、他の木質ボード用バインダーと、必要に応じて他の木質ボード用バインダー以外の他の成分とを混合して混合物(X2)を得、混合物(X1)と混合物(X2)とを混合することによって混合物(X)を得てもよく、木質基材と、レゾール型フェノール樹脂と、糖(A)と、エステル化合物と、他の木質ボード用バインダーと、必要に応じて他の木質ボード用バインダー以外の他の成分とを一括して混合することによって混合物(X)を得てもよい。
【0048】
フォーミング後、形成された混合物(X)の層は、そのまま単層構造のマットとされるか、又は多層構造のマットの作製に用いられる。
多層構造のマットは、少なくとも1層が混合物(X)の層であればよく、混合物(X)の層以外の他の層をさらに含んでもよい。他の層としては、例えば、木質基材と他の木質ボード用バインダーとの混合物(以下、混合物(Y)ともいう。)の層が挙げられる。
多層構造のマットの具体的な一例として、3層以上の混合物(X)の層と、これらの層の間にそれぞれ設けられた混合物(Y)の層とを含むマットが挙げられる。
【0049】
「工程(1-3)」
上記のようにして得られた単層構造又は多層構造のマットは熱圧成形により硬化させる。熱圧成形の方法としては、多段プレス、連続プレス等の公知の方法を用いることができる。
熱圧成形条件は、製造する木質ボードの厚さ、密度等に応じて適宜設定できる。
熱圧成形の温度としては、例えば120~220℃程度とすることができるが、120~170℃が好ましく、130~160℃がより好ましく、140℃~150℃が特に好ましい。熱圧成形の温度が前記下限値以上であれば、硬化時間をより短くできる。熱圧成形の温度が前記上限値以下であれば、エネルギーコストをより低減できる。
熱圧成形の圧力としては、例えば1~4MPa程度とすることができる。スペーサーを用いる場合には、スペーサーの高さまで木質基材が圧縮される程度の圧力が加わればよい。
熱圧成形の時間としては、例えば木質ボードの厚さ1mm当り5~30秒間程度とすることができる。
必要に応じて、硬化の後に、表面処理工程、熱処理工程、冷却工程、トリミング工程等を行ってもよい。
【0050】
<第2の態様>
本発明の木質ボードの製造方法の第2の態様は、木質繊維又は木質小片である木質基材と、レゾール型フェノール樹脂と、糖(A)とを含む第一の原料を混合して第一の混合物を得る工程(以下、「工程(2-1)」とも記す。)と、
前記第一の混合物を乾燥する工程(以下、「工程(2-2)」とも記す。)と、
乾燥した前記第一の混合物と、エステル化合物とを含む第二の原料を混合して第二の混合物を得、前記第二の混合物をフォーミングし、前記第二の混合物の層を含むマットを得る工程(以下、「工程(2-3)」とも記す。)と、
前記マットを熱圧成形により硬化させる工程(以下、「工程(2-4)」とも記す。)と、を含む。
【0051】
「工程(2-1)」
第一の原料において、レゾール型フェノール樹脂、糖(A)はそれぞれ前記と同様である。糖変性量の好ましい範囲も前記と同様である。
第一の原料は、エステル化合物を含まないことが好ましい。第一の混合物がエステル化合物を含まないことで、エステル化合物を含まない場合に比べて、硬化反応を進行させるのに必要な温度が高く、この後の工程(2-2)での乾燥温度を比較的高くできる。
第一の原料は、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては前記と同様のものが挙げられる。
第一の原料の固形分から木質基材を除いた残部100質量%に対するレゾール型フェノール樹脂の固形分と糖(A)の固形分との合計の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
第一の原料の固形分100質量%に対する木質基材の割合は、50~97質量%が好ましく、80~90質量%がより好ましい。
第一の混合物の組成は第一の原料の組成と同じである。
【0052】
「工程(2-2)」
第一の混合物を乾燥することで、熱圧プレス時間の短縮とパンクの防止ができる。
乾燥方法としては、例えば熱風乾燥が挙げられる。
乾燥温度は、40~110℃が好ましく、60~80℃がより好ましい。乾燥温度が前記下限値以上であれば、乾燥に要する時間を短くできる。乾燥温度が前記上限値以下であれば、レゾール型フェノール樹脂及び糖(A)の硬化反応が進行することを抑制できる。
乾燥時間は、乾燥温度によっても異なるが、例えば10~60分間である。
第一の混合物の乾燥は、乾燥後の第一の混合物における水分量が、乾燥後の第一の混合物100質量%に対して10質量%以下となるまで行うことが好ましい。
【0053】
「工程(2-3)」
第二の原料は、乾燥した第一の混合物と、エステル化合物とを含む。したがって、第二の原料は、木質材料と、レゾール型フェノール樹脂と、糖(A)と、エステル化合物とを含む。
第二の原料において、エステル化合物は前記と同様である。エステル添加量の好ましい範囲も前記と同様である。
第二の原料は、他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては前記と同様のものが挙げられる。
第二の原料の固形分から木質基材を除いた残部100質量%に対するレゾール型フェノール樹脂の固形分と糖(A)の固形分とエステル化合物との合計の割合は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
第二の原料の固形分100質量%に対する木質基材の割合は、50~97質量%が好ましく、80~90質量%がより好ましい。
第二の原料は、木質基材と本組成物とを含むものといえる。第二の原料は、木質基材と本組成物とからなることが好ましい。
第二の混合物の組成は第二の原料の組成と同じである。
【0054】
第二の混合物の調製及びフォーミング(マット化)は、乾式法により行ってもよく、湿式法により行ってもよい。
乾式法では、乾燥した第一の混合物に対し、エステル化合物及び必要に応じて他の成分を希釈媒体で任意の濃度に希釈した溶液を噴霧し、混合し、一次乾燥を行って、バインダー成分(レゾール型フェノール樹脂、糖(A)、エステル化合物及び他の成分)が付着した木質基材(第二の混合物)を得る。この木質基材をマット状に配置し、必要に応じて形状保持のため仮圧縮を行って、フォーミングを完了する。この場合、一次乾燥の温度は、硬化反応の進行を抑制する観点から、80℃以下が好ましい。
湿式法では、乾燥した第一の混合物と、水と、エステル化合物と、必要に応じて他の成分とを混合してスラリー(第二の混合物)を得る。このスラリーを抄造する(型に流し込み漉き上げる)ことによってフォーミングを完了する。
エステル化合物と共に他の成分を配合する場合、エステル化合物及び他の成分は、予め混合された状態で乾燥した第一の混合物と混合されてもよく、個別に乾燥した第一の混合物と混合されてもよい。混合方法としてはバッチ式でも、連続式でもよい。
【0055】
フォーミング後、形成された第二の混合物の層は、そのまま単層構造のマットとされるか、又は多層構造のマットの作製に用いられる。
多層構造のマットは、少なくとも1層が第二の混合物の層であればよく、第二の混合物の層以外の他の層をさらに含んでもよい。他の層としては、例えば、前記した混合物(Y)の層が挙げられる。
多層構造のマットの具体的な一例として、3層以上の第二の混合物の層と、これらの層の間にそれぞれ設けられた混合物(Y)の層とを含むマットが挙げられる。
【0056】
「工程(2-4)」
工程(2-4)は、前記した工程(1-3)と同様である。
必要に応じて、硬化の後に、表面処理工程、熱処理工程、冷却工程、トリミング工程等を行ってもよい。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。以下の各例において「部」、「%」は、それぞれ、特に限定のない場合は「質量部」、「質量%」を示す。固形分は、前記した測定方法により測定した。
【0058】
<材料>
PL-3630:液状レゾール型フェノール樹脂、群栄化学工業社製「レヂトップPL-3630」、固形分濃度45%、Mw=4500、粘度140mPa・s、pH=12.0。PL-3630は、ハードボード用に適したバインダーとして市販されている。
75FG:異性化糖(フルクトース、グルコース等を含有)、群栄化学工業社製。固形分濃度75.4%。固形分全体に対して還元糖を100%含有。還元糖全体に対してフルクトースが44.4%、グルコースが50.5%。その他オリゴ糖等を含有。便宜上、糖(A)の割合は94.9%として計算し使用した。
【0059】
PC:炭酸プロピレン。
TACN:トリアセチン。
GBL:γ-ブチロラクトン。
EDGA:エチレングリコールジアセテート。
TEGDA:トリエチレングリコールジアセテート。
DBE:コハク酸ジメチルとアジピン酸ジメチルとの混合物。
AS:硫酸アンモニウム。
Gly:グリシン。
【0060】
<試験例1>
本試験は、糖が硬化速度に与える影響を評価するために行った。
【0061】
(バインダー組成物の調製)
PL-3630と、75FGとを、糖変性量が表1に示す値になるように混合し、全体の固形分濃度が40%になるように水で希釈して比較例1~4のバインダー組成物を得た。糖変性量が0%とは、75FGを混合していないことを示す。
【0062】
(評価)
バインダー組成物の硬化速度の指標としてゲル化時間(秒)を、JIS K6910の5.14.1(ゲル化時間A法)の規定に準じ、表1に示す測定温度(120℃、140℃、150℃、160℃又は180℃)にて測定した。結果を表1及び
図1に示す。
【0063】
【0064】
表1及び
図1に示すとおり、糖変性量が高いほど、ゲル化時間が短かった。また、測定温度(硬化温度)が低いほど、糖によるゲル化時間の短縮効果が大きかった。
【0065】
<試験例2>
本試験は、糖及びエステル化合物、特に糖変性量が硬化速度に与える影響を評価するために行った。
【0066】
(バインダー組成物の調製)
PL-3630と75FGとPCとを、糖変性量が表2に示す値、エステル添加量が2.5%になるように混合し、全体の固形分濃度が40%になるように水で希釈して比較例5、実施例1~3のバインダー組成物を得た。
【0067】
(評価)
バインダー組成物のゲル化時間を試験例1と同様に測定した。結果を表2及び
図2に示す。
【0068】
【0069】
表2及び
図2に示すとおり、糖変性量が多くなるにつれてゲル化時間が短くなっていた。また、比較例5と実施例1~3とを対比すると、測定温度(硬化温度)が低い方が、比較例5のゲル化時間と実施例1~3のゲル化時間との差が大きく、糖によるゲル化時間の短縮効果が大きい傾向が見られた。
また、比較例5と前記した比較例1とを対比すると、120℃、140℃、150℃、160℃、180℃のいずれの温度においても、エステル化合物(PC)を含む比較例5の方が、ゲル化時間が短くなっていた。実施例1と比較例2との対比、実施例2と比較例3との対比、実施例3と比較例4との対比においても同様の傾向が見られた。
【0070】
<試験例3>
本試験は、糖及びエステル化合物、特にエステル添加量が硬化速度に与える影響を評価するために行った。
【0071】
(バインダー組成物の調製)
PL-3630と75FGとPCとを、糖変性量が30%、エステル添加量が表3に示す値になるように混合し、全体の固形分濃度が40%になるように水で希釈して比較例6、実施例4~8のバインダー組成物を得た。
【0072】
(評価)
バインダー組成物のゲル化時間を試験例1と同様に測定した。結果を表3及び
図3に示す。
【0073】
【0074】
表3及び
図3に示すとおり、エステル添加量が多くなるにつれてゲル化時間が短くなっていた。また、比較例6と実施例4~8とを対比すると、測定温度(硬化温度)が低い方が、比較例6のゲル化時間と実施例4~8のゲル化時間との差が大きく、エステル化合物によるゲル化時間の短縮効果が大きい傾向が見られた。
【0075】
<試験例4>
本試験は、糖及びエステル化合物、特にエステル添加量が硬化速度に与える影響を評価するために行った。
【0076】
(バインダー組成物の調製)
PL-3630と75FGとPCとを、糖変性量が20%、エステル添加量が表4に示す値になるように混合し、全体の固形分濃度が40%になるように水で希釈して比較例7、実施例9~10のバインダー組成物を得た。
【0077】
(評価)
バインダー組成物のゲル化時間を試験例1と同様に測定した。結果を表4及び
図4に示す。
【0078】
【0079】
表4及び
図4に示すとおり、エステル添加量が多くなるにつれてゲル化時間が短くなっていた。また、比較例7と実施例9~10とを対比すると、測定温度(硬化温度)が低い方が、比較例7のゲル化時間と実施例9~10のゲル化時間との差が大きく、エステル化合物によるゲル化時間の短縮効果が大きい傾向が見られた。
【0080】
<試験例5>
本試験は、硬化促進剤(エステル化合物、他の硬化促進剤)が硬化速度に与える影響を評価するために行った。
【0081】
(バインダー組成物の調製)
PL-3630と75FGと表5に示す硬化促進剤とを、糖変性量が30%、硬化促進剤添加量が2.5%になるように混合し、全体の固形分濃度が40%になるように水で希釈して比較例8~10、実施例11~16のバインダー組成物を得た。
「硬化促進剤添加量」は、レゾール型フェノール樹脂の固形分と糖(A)の固形分との合計100%に対する硬化促進剤の割合(%)である。
【0082】
(評価)
バインダー組成物のゲル化時間を試験例1と同様に測定した。結果を表5及び
図5~7に示す。
【0083】
【0084】
表5及び
図5~7に示すとおり、硬化促進剤としてエステル化合物を用いた実施例11~16のバインダー組成物は、硬化促進剤を含まない比較例8のバインダー組成物に比べ、160℃以下の温度でのゲル化時間が短くなっていた。
一方、硬化促進剤としてAS、Glyを用いた比較例
9、
10のバインダー組成物は、実施例11~16に比べ、160℃以下の温度でのゲル化時間が長かった。