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特許7520564近赤外線カットフィルタ及びそれを備える撮像装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】近赤外線カットフィルタ及びそれを備える撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20240716BHJP
   G02B 1/11 20150101ALI20240716BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
G02B5/22
G02B1/11
H01L27/146 D
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020075538
(22)【出願日】2020-04-21
(65)【公開番号】P2021015269
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019129400
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148895
【弁理士】
【氏名又は名称】荒木 佳幸
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 武志
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/004319(WO,A1)
【文献】特開平06-271339(JP,A)
【文献】特開2017-146506(JP,A)
【文献】特開2004-137100(JP,A)
【文献】特開2006-342024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
G02B 1/11
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フツリン酸塩系ガラス又はリン酸塩系ガラスからなり、800~950nmの波長域における平均透過率が3%以下である透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、特定の波長の光を吸収する樹脂層と、
を備え
前記樹脂層が、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含むことを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
【請求項2】
前記透明基材と前記樹脂層との間に、前記透明基材と前記樹脂層の密着性を高める接合層を備えることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項3】
前記接合層は、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む単層構造を有することを特徴とする請求項2に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項4】
フツリン酸塩系ガラス又はリン酸塩系ガラスからなり、800~950nmの波長域における平均透過率が3%以下である透明基材と、
前記透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、特定の波長の光を吸収する樹脂層と、
前記透明基材と前記樹脂層との間に設けられ、前記透明基材と前記樹脂層の密着性を高める接合層と、
を備え、
前記接合層は、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む単層構造を有することを特徴とする近赤外線カットフィルタ。
【請求項5】
前記接合層において、Si原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合が、0atomic%を超え33.3atomic%以下であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項6】
前記透明基材の透過率曲線の短波長側の半値波長が335~400nmであり、長波長側の半値波長が590~630nmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項7】
前記透明基材は、650~720nmの波長域における平均透過率が18%以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項8】
前記透明基材は、720~750nmの波長域における平均透過率が10%以下であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項9】
前記樹脂層は、透明樹脂と、該透明樹脂中に均一に分散してなる色素と、を含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項10】
前記色素は、340~400nmに極大吸収波長を有する紫外線吸収色素を含むことを特徴とする請求項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項11】
前記色素は、650~760nmに極大吸収波長を有する第1の近赤外吸収色素を含むことを特徴とする請求項又は請求項10に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項12】
前記色素は、800~1200nmに極大吸収波長を有する第2の近赤外吸収色素を含むことを特徴とする請求項11に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項13】
前記樹脂層上に第1の反射防止膜を備え、前記透明基材の他方の主面上に第2の反射防止膜を備えることを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項14】
透過率曲線の短波長側の半値波長が385~430nmであり、長波長側の半値波長が590~630nmであることを特徴とする請求項13に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項15】
前記第1の反射防止膜及び前記第2の反射防止膜が、それぞれ、厚さ500nm以下の誘電体多層膜によって構成されていることを特徴とする請求項13又は請求項14に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項16】
前記誘電体多層膜が、10層以下であることを特徴とする請求項15に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項17】
前記誘電体多層膜は、屈折率1.1~1.5の材料から構成される低屈折誘電体膜と、屈折率2.0~2.5の材料から構成される高屈折誘電体膜と、が交互に積層されて形成されていることを特徴とする請求項15又は請求項16に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項18】
前記誘電体多層膜は、屈折率1.1~1.3の材料から構成される低屈折誘電体膜と、屈折率1.4~1.6の材料から構成される高屈折誘電体膜と、が交互に積層されて形成されていることを特徴とする請求項15又は請求項16に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項19】
前記透明基材の厚さが、0.01~1.5mmであることを特徴とする請求項1から請求項18のいずれか一項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【請求項20】
固体撮像素子と、請求項1から請求項19のいずれか一項に記載の近赤外線カットフィルタとを備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項21】
前記近赤外線カットフィルタが、前記固体撮像素子の直前に配置され、カバーガラスを兼ねることを特徴とする請求項20に記載の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体撮像素子の前面に配置され、固体撮像素子の視感度補正に用いられる近赤外線カットフィルタ及びそれを備える撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CCDやCMOSなどの固体撮像素子を内蔵した撮像装置がデジタルカメラや情報携帯端末機器等に使用されている。このような撮像装置においては、固体撮像素子が近紫外域から近赤外域にわたる分光感度を有しているため、入射光の近赤外線部分をカットして人間の視感度に近くなるように補正する近赤外線カットフィルタを備えている。このような近赤外線カットフィルタは、固体撮像素子までの光路中に配置されるが、撮像装置全体のサイズを小さくするため、撮像装置のカバーガラスを兼ねるような構成の近赤外線カットフィルタも実用に供されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
図17は、特許文献1に記載の近赤外線カットフィルタ(従来例)の構成の一例である。図17に示すように、特許文献1に記載の近赤外線カットフィルタは、透明基材13と、透明基材13の一方の主面上に形成され、近赤外波長領域及び紫外線波長領域の光を吸収する吸収層11と、透明基材13の他方の主面上に形成され、特定の波長領域の光の透過と遮蔽を制御する反射層12と、を備えている。反射層12は、低屈折率の誘電体膜(低誘電体膜)と高屈折率の誘電体膜(高誘電体膜)とを交互に積層した、厚さ2~10μmの誘電体多層膜から構成されており、反射層12の分光透過率が所定の要件を満たすように構成することで、特に長波長側で比視感度曲線に近い分光特性を有し、入射角依存性が少ない近赤外線カットフィルタを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6119920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の近赤外線カットフィルタは、比較的厚め(厚さ2~10μm)の誘電体多層膜から構成された反射層12を備えているため、反射層12に斜めに光が入射すると光路長が長くなり、位相ずれが発生するといった問題がある。
【0006】
図18は、図17の近赤外線カットフィルタの反射層12の分光透過率曲線を示す図であり、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。また、図19は、図17の近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す図であり、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。
【0007】
図18に示すように、反射層12に入射角30°の光が入射すると、位相ずれの影響によって、分光透過率曲線が短波長側にシフトしたり(図18のP1部)、分光透過率曲線にリップルが発生する(図18のP2部)、といった問題がある。そして、反射層12の分光透過率曲線に波長シフトが生じると、近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線にも波長シフトが生じ(図19のP3部)、固体撮像素子の色再現性が低減するおそれがある。また、反射層12の分光透過率曲線にリップルが生じると、近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線にもリップルが生じ(図19のP4部)、固体撮像素子上で一種のゴーストが観測されてしまうおそれがあった。そのため、斜入射光によっても、波長シフトやリップルを生じない、優れた斜入射特性を備える近赤外線カットフィルタが求められていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、入射角依存性が極めて少なく、斜入射特性に優れる近赤外線カットフィルタ、およびそのような近赤外線カットフィルタを備える撮像装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明者が鋭意検討したところ、フツリン酸塩系ガラス又はリン酸塩系ガラスからなる透明基材の分光透過率曲線において、特に800~950nmの波長域に注目し、800~950nmの波長域の平均透過率が小さいものを使用すると、従来の近赤外線カットフィルタに用いられていた反射膜を使用せずに、可視光領域の光を選択的に透過するカットフィルタを製造できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてなされたものである。
【0010】
すなわち、本発明の近赤外線カットフィルタは、フツリン酸塩系ガラス又はリン酸塩系ガラスからなり、800~950nmの波長域における平均透過率が3%以下である透明基材と、透明基材の少なくとも一方の主面上に形成され、特定の波長の光を吸収する樹脂層と、を備えることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、従来のような誘電体多層膜から構成された反射層が不要となるため(つまり、反射層を備えないため)、近赤外線カットフィルタに対して斜めに光が入射したとしても光路長の変化が生じ難く、位相ずれの発生が抑制される。従って、近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線において、波長シフトやリップルが殆ど発生しない。
【0012】
また、透明基材の透過率曲線の短波長側の半値波長が335~400nmであり、長波長側の半値波長が590~630nmであることが好ましい。
【0013】
また、透明基材は、650~720nmの波長域における平均透過率が18%以下であることが好ましい。
【0014】
また、透明基材は、720~750nmの波長域における平均透過率が10%以下であることが好ましい。
【0015】
また、樹脂層は、透明樹脂と、該透明樹脂中に均一に分散してなる色素と、を含むことができる。また、この場合、色素は、340~400nmに極大吸収波長を有する紫外線吸収色素を含むことが好ましい。また、色素は、650~760nmに極大吸収波長を有する第1の近赤外吸収色素を含むことが好ましい。また、この場合、色素は、800~1200nmに極大吸収波長を有する第2の近赤外吸収色素を含むことが好ましい。
【0016】
また、樹脂層は、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含むことができる。
【0017】
また、透明基板と樹脂層との間に、透明基板と樹脂層の密着性を高める接合層を備えることができる。また、この場合、接合層は、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む単層構造を有することが好ましい。また、この場合、接合層において、Si原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合が、0atomic%を超え33.3atomic%以下であることが好ましい。
【0018】
また、樹脂層上に第1の反射防止膜を備え、透明基材の他方の主面上に第2の反射防止膜を備えることができる。また、この場合、透過率曲線の短波長側の半値波長が385~430nmであり、長波長側の半値波長が590~630nmであることが好ましい。また、この場合、第1の反射防止膜及び第2の反射防止膜が、それぞれ、厚さ500nm以下の誘電体多層膜によって構成されていることが好ましい。また、この場合、誘電体多層膜が、10層以下であることが好ましい。
【0019】
また、誘電体多層膜は、屈折率1.1~1.5の材料から構成される低屈折誘電体膜と、屈折率2.0~2.5の材料から構成される高屈折誘電体膜と、が交互に積層されて形成されていることが好ましい。
【0020】
また、誘電体多層膜は、屈折率1.1~1.3の材料から構成される低屈折誘電体膜と、屈折率1.4~1.6の材料から構成される高屈折誘電体膜と、が交互に積層されて形成されていることが好ましい。
【0021】
また、透明基材の厚さが、0.01~1.5mmであることが好ましい。
【0022】
また、別の観点からは、本発明の撮像装置は、固体撮像素子と、上記いずれかの近赤外線カットフィルタとを備えることを特徴とする。また、この場合、近赤外線カットフィルタが、固体撮像素子の直前に配置され、カバーガラスを兼ねるように構成することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、入射角依存性が極めて少なく、斜入射特性に優れる近赤外線カットフィルタが実現される。また、そのような近赤外線カットフィルタを備え色再現性に優れる撮像装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る近赤外線カットフィルタの構成を説明する図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係る近赤外線カットフィルタを搭載した撮像装置の構成を説明する縦断面図である。
図3図3は、本発明の第1の実施形態(実施例1)に係る近赤外線カットフィルタで使用されるガラス基材の分光透過率曲線を示す図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態(実施例1)に係る近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す図である。
図5図5は、本発明の第1の実施形態(実施例2)に係る近赤外線カットフィルタと、近赤外線カットフィルタで使用されるガラス基材の分光透過率曲線を示す図である。
図6図6は、本発明の第1の実施形態(実施例3)に係る近赤外線カットフィルタと、近赤外線カットフィルタで使用されるガラス基材の分光透過率曲線を示す図である。
図7図7は、本発明の第1の実施形態(実施例4)に係る近赤外線カットフィルタと、近赤外線カットフィルタで使用されるガラス基材の分光透過率曲線を示す図である。
図8図8は、本発明の第1の実施形態(実施例5)に係る近赤外線カットフィルタと、近赤外線カットフィルタで使用されるガラス基材の分光透過率曲線を示す図である。
図9図9は、本発明の比較例に係る近赤外線カットフィルタと、近赤外線カットフィルタで使用されるガラス基材の分光透過率曲線を示す図である。
図10図10は、本発明の第2の実施形態に係る近赤外線カットフィルタの構成を説明する縦断面図である。
図11図11は、本発明の第2の実施形態(実施例6)に係る近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す図である。
図12図12は、本発明の第2の実施形態(実施例7)に係る近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す図である。
図13図13は、本発明の第2の実施形態(実施例8)に係る近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す図である。
図14図14は、本発明の第2の実施形態(実施例9)に係る近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す図である。
図15図15は、本発明の第2の実施形態(実施例10)に係る近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す図である。
図16図16は、本発明の第3の実施形態(実施例11)に係る近赤外線カットフィルタの構成を説明する縦断面図である。
図17図17は、従来の近赤外線カットフィルタの構成を示す縦断面図である。
図18図18は、従来の近赤外線カットフィルタで使用される反射層の分光透過率曲線を示す図である。
図19図19は、従来の近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0026】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る近赤外線カットフィルタ100の構成を説明する図であり、図1(a)は平面図であり、図1(b)は、縦断面図である。また、図2は、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100によって、固体撮像素子200のパッケージ300の開口部が封止された撮像装置1の構成を説明する縦断面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100は、固体撮像素子200を収納するパッケージ300の前面に取り付けられ、固体撮像素子200を保護すると共に、固体撮像素子200の視感度補正に用いられる光学素子である。
【0027】
図1に示すように、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100は、矩形板状(例えば、6mm(横方向)×5mm(縦方向))の外観を呈しており、ガラス基材101(透明基材)と、ガラス基材101の一方の主面上(図1(b)において上側の面)に形成された樹脂層102とから構成されている。
【0028】
[ガラス基材]
本実施形態のガラス基材101は、リン酸塩系ガラスまたはフツリン酸塩系ガラスからなる吸収ガラス基板である。本実施形態のガラス基材101の厚みは、特に限定されないが、小型軽量化を図る観点から、0.01~1.5mmの範囲が好ましく、0.01~0.70mmのものがより好ましく、0.01~0.30mmのものがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態におけるリン酸塩系ガラスとは、必須成分としてのP、Oと、他の任意成分とを含むガラスであり、CuOを含むものが特に好ましい。リン酸塩系ガラスがCuOを含むことにより、近赤外光をより効果的に吸収することができる。リン酸塩系ガラスの他の任意成分としては例えば、Ca、Mg、Sr、Ba、Li、Na、K、Csなどが挙げられる。
【0030】
リン酸塩系ガラスの具体例としては、
: 0質量%を超え70質量%以下、
Al: 0~40質量%、
BaO: 0~40質量%、
CuO: 0~40質量%
を含むものが好ましい。
【0031】
また、
: 20~60質量%、
Al: 0~10質量%、
BaO: 0~10 質量%、
CuO: 0~10質量%
を含むものがより好ましい。
【0032】
また、
: 20~60質量%、
Al: 1~10質量%、
BaO: 1~10質量%、
CuO: 1~10質量%
を含むものがさらに好ましい。
【0033】
また、本実施形態におけるフツリン酸塩系ガラスとは、必須成分としてのP、O、Fと、他の任意成分とを含むガラスであり、CuOを含むものが特に好ましい。フツリン酸塩系ガラスがCuOを含むことにより、近赤外光をより効果的に吸収することができる。フツリン酸塩系ガラスの他の任意成分としては例えば、Ca、Mg、Sr、Ba、Li、Na、K、Csなどが挙げられる。
【0034】
また、フツリン酸塩系ガラスとしては、BaOを含むものが好ましく用いられる。BaOを0%以上含有することで、ガラスの耐失透性と、熔融性とを向上させることができる。10%より多いと失透し易くなるため、0~10%が好適である。また、BaOの含有率は、1~10%がより好ましく、1~5%がさらに好ましい。
【0035】
また、フツリン酸塩系ガラスとしては、Alを含むものが好ましく用いられる。Alを0%以上含有することで、ガラスの安定性と、化学的耐久性を向上させることができる。10%より多いと失透し易くなるため、0~10%が好適である。また、Alの含有率は、1~10%がより好ましく、1~5%がさらに好ましい。
【0036】
また、フツリン酸塩系ガラスとしては、Yを含むものが好ましく用いられる。Yを0%以上含有することで、熱的安定性を維持しつつ、屈折率を高めることができる。10%より多いと失透し易くなり、また、ガラス転移温度や屈伏点温度が上昇するため、0~10%が好適である。また、Yの含有率は、1~10%がより好ましく、1~5%がさらに好ましい。
【0037】
また、フツリン酸塩系ガラスとしては、BaClを含むものが好ましく用いられる。BaClにより適量のClをガラス中に導入することによって、ガラスの結晶化開始温度(Tx)とガラス転移温度(Tg)の差が大きくなり、ガラスの失透に対する安定性が向上する。10%より多いと失透し易くなるため、0~10%が好適である。また、BaClの含有率は、1~10%がより好ましく、1~5%がさらに好ましい。
【0038】
フツリン酸塩系ガラスの具体例としては、
: 0質量%を超え70質量%以下、
Al: 0~40質量%、
BaO: 0~40質量%、
CuO: 0~40質量%
を含み、さらにフッ化物を、0質量%を超え40質量%以下含む
ものが好ましい。
【0039】
また、
: 20~60質量%、
Al: 0~10質量%、
BaO: 0~10質量%、
CuO: 0~10質量%
を含み、さらにフッ化物を1~30質量%含む
ものがより好ましい。
【0040】
また、
: 20~60質量%、
Al: 1~10質量%、
BaO: 1~10質量%、
CuO: 1~10質量%
を含み、さらにフッ化物を2~30質量%含む
ものがさらに好ましい。
【0041】
なお、上記フッ化物としては、MgF、CaF、SrF等から選ばれる一種以上が挙げられる。
【0042】
このようなフツリン酸塩系ガラスの具体例としては、
: 40~50質量%、
Al: 1~10質量%、
BaO: 1~10質量%、
CuO: 1~10質量%、
MgF: 1~10質量%、
CaF: 1~10質量%、
SrF: 1~10質量%、
: 1~10質量%、
BaCl: 0~1質量%、
を含むものが特に好ましい。
【0043】
なお、詳細は後述するが、本実施形態のガラス基材101は、800~950nmの波長域における平均透過率が3%以下となるように構成されている。このように、800~950nmの波長域の平均透過率が小さいガラス基材101を用いると、従来の近赤外線カットフィルタに用いられていた反射膜(誘電体多層膜)を用いることなく、可視光領域の光を選択的に透過するカットフィルタを製造できる。
【0044】
また、ガラス基材101は、720~750nmの波長域における平均透過率が10%以下であることが好ましく、8%以下であるとより好ましく、7%以下であるとさらに好ましい。
【0045】
また、ガラス基材101は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が335~400nmの範囲にあることが好ましく、335~380nmの範囲にあることがより好ましく、340~350nmの範囲にあることがさらに好ましい。また、ガラス基材101は、透過率曲線の長波長側の半値波長(NIR_λ50)が590~630nmの範囲にあることが好ましく、610~624nmの範囲にあることがより好ましい。なお、本明細書において、半値波長とは、透過率が50%となるときの波長をいい、短波長側の半値波長(UV_λ50)とは、透過率曲線の立ち上がりで透過率が50%となるときの波長をいい、長波長側の半値波長(NIR_λ50)とは、透過率曲線の立ち下がりで透過率が50%となるときの波長をいう。
【0046】
また、ガラス基材101は、650~720nmの波長域における平均透過率が18%以下であることが好ましく、17%以下であるとより好ましく、16%以下であるとさらに好ましい。
【0047】
[樹脂層]
本実施形態の樹脂層102は、特定の波長の光を吸収する色素と樹脂とによって構成された層である。樹脂層102は、例えば、近赤外吸収色素及び紫外線吸収色素の少なくともいずれか一方と、透明樹脂とを含むものであり、透明樹脂中に色素が均一に溶解または分散してなるものが好ましい。
【0048】
樹脂層102を構成する近赤外線吸収色素としては、従来公知のものを採用することができ、例えば、シアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、フタロシアニン系色素、ジイモニウム系色素および無機酸化物粒子から選ばれる一種以上などを使用することができ、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素から選ばれる一種以上がより好ましい。
【0049】
樹脂層102を構成する紫外線吸収色素としては、従来公知のものを採用することができ、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾオキサジノン系化合物、シアノアクリレート系、オキザニリド系化合物、サリシレート系化合物、ホルムアミジン系化合物、インドール系化合物、アゾメチン系化合物から選ばれる一種以上などを使用することができ、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物から選ばれる一種以上がより好ましい。
【0050】
樹脂層102を構成する樹脂としては、従来公知の透明樹脂を採用することができ、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂およびポリエステル樹脂から選ばれる一種以上が挙げられる。透明樹脂としては、透明性、近赤外線吸収色素の透明樹脂に対する溶解性および耐熱性の観点から、ガラス転移点(Tg)の高いものが好ましく、このため、熱硬化性樹脂が好適である。具体的には、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれる一種以上を使用することができる。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂から選ばれる一種以上が好ましい。また、熱可塑性の樹脂であっても、官能基等の調整により耐熱性を高めることにより、透明樹脂として好適に使用され得る。例えば、官能基等の調整により耐熱性を高め得るアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等も、透明樹脂として使用できる。
【0051】
樹脂層102は、上記近赤外線吸収色素および透明樹脂以外に、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、色調補正色素、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等の任意成分を含有してもよい。
【0052】
樹脂層102は、例えば、色素と、透明樹脂と、任意配合成分とを、溶媒に溶解または分散させて樹脂膜形成液を調製し、これを塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させることにより形成することができる。なお、樹脂膜形成液は、カチオン系、アニオン系、ノニオン系等の公知の界面活性剤を含むものであってもよい。
【0053】
また、樹脂膜形成液の塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法等から選ばれる一種以上のコーティング法を採用することができる。
【0054】
このように、樹脂層102は、ガラス基材101上に形成され、特定の波長の光を吸収するように構成された層であり、ガラス基材101の分光透過率特性に応じて吸収波長を設定する(つまり、最適な色素を選択する)ことにより、所望の可視光領域の光を抽出できる。
具体的には、本実施形態の樹脂層102においては、340~400nmに極大吸収波長を有する紫外線吸収色素と、650~760nmに極大吸収波長を有する近赤外吸収色素(第1の近赤外吸収色素)と、を含むものを採用することができる。 また、樹脂層102は、800~1200nmに極大吸収波長を有する近赤外吸収色素(第2の近赤外吸収色素)をさらに含むことができる。
なお、本実施形態の樹脂層102は、ガラス基材101の一方の主面上(図1(b)において上側の面)に形成されているが、このような構成に限定されるものではない。樹脂層102は、ガラス基材101の他方の主面上(図1(b)において下側の面)に形成されてもよく、また、ガラス基材101の両面に形成されてもよい。また、樹脂層102は必ずしも一層である必要はなく、複数層で構成することもできる。
【0055】
そして、このような樹脂層102が形成された近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が385~430nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が590~630nm、800~950nmの波長域における平均透過率が3.0%以下となり、人間の視感度に近い特性のものとなる(詳細は後述)。
【0056】
[撮像装置]
次に、本発明に係る撮像装置について説明する。図2に示すように、本発明に係る撮像装置1は、固体撮像素子200と、固体撮像素子200を収納するパッケージ300と、パッケージ300の前面に取り付けられる近赤外線カットフィルタ100とを備えている。
【0057】
固体撮像素子200としては、CCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサを挙げることができる。
【0058】
固体撮像素子200は、枡形のパッケージ300の底面の略中央部に配置され、近赤外線カットフィルタ100の他方の主面側(図1(b)において下側)が固体撮像素子200と対向するようにパッケージ300の開口部に取り付けられる。なお、図2においては、近赤外線カットフィルタ100の樹脂層102側が固体撮像素子200に向かう光が入射する入射面となっており、近赤外線カットフィルタ100の他方の主面側が出射面となっているが、必ずしもこのような構成に限定されるものではなく、近赤外線カットフィルタ100は上下逆向きに(つまり、樹脂層102が固体撮像素子200と対向するように)取り付けられてもよい。
【0059】
また、図2の撮像装置1においては、近赤外線カットフィルタ100がパッケージ300の開口部に取り付けられ、いわゆるカバーガラスを兼ねる構成となっているが、必ずしもこのような構成に限定されるものではない。例えば、撮像装置1は、固体撮像素子200に光を導光するレンズ群(不図示)を備えてもよい。このとき、例えば、近赤外線カットフィルタ100をレンズ群よりも撮像装置1側に配置し、近赤外線カットフィルタ100よりもさらに撮像装置1側に、カバーガラスを設けてもよい。
【0060】
以下、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100について、実施例及び比較例を挙げて更に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
[1.ガラス基材101の選定]
実施例1のガラス基材101として、HOYA(株)製のフツリン酸塩系ガラス(CXD700、厚さ0.21mm)を選定した。図3は、実施例1のガラス基材101の分光透過率曲線を示す図であり、縦軸は透過率(%)であり、横軸は波長(nm)である。
図3に示すように、本実施例のガラス基材101は、800~950nmの波長域における平均透過率が1.4%(つまり、3%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、720~750nmの波長域における平均透過率が4.5%(つまり、10%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約343nm(つまり、335~400nmの範囲内)であり、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約619nm(つまり、590~630nmの範囲内)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、650~720nmの波長域における平均透過率が15.5%(つまり、18%以下)になっている。
【0062】
[2.樹脂層102の形成]
容器内で、アクリル樹脂(透明樹脂)、ベンゾトリアゾール化合物とトリアジン系化合物(紫外線吸収色素)、及びスクアリリウム化合物とシアニン化合物(第1の近赤外吸収色素)を所定の混合比で混合して樹脂膜形成液を調整し、得られた樹脂膜形成液を、スピンコーターを用いて、ガラス基材101上に、塗布した。そして、樹脂膜形成液が塗布されたガラス基材101を160℃に加熱したホットプレートに乗せ、20分間加熱して硬化させることより、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100を作成した。
【0063】
図4は、実施例1の近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線を示す図であり、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。図4に示すように、本実施例の近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約410nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約610nm、800~950nmの波長域における平均透過率が1.3%となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100は、従来の近赤外線カットフィルタのような反射膜を有していないため、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制される。
【0064】
(実施例2)
実施例2の近赤外線カットフィルタ100は、ガラス基材101として、厚さ0.8mmのHOYA(株)製のフツリン酸塩系ガラス(CXD700)を選定した点、樹脂層102を、アクリル樹脂(透明樹脂)と、ベンゾトリアゾール化合物とトリアジン系化合物(紫外線吸収色素)によって形成した点(つまり、近赤外吸収色素を含まない点)、で実施例1と異なっている。
【0065】
図5は、実施例2のガラス基材101の分光透過率曲線(点線)と、実施例2の近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線(実線、破線)を示す図である。なお、近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線については、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。
【0066】
図5に示すように、本実施例のガラス基材101は、800~950nmの波長域における平均透過率が0.1%以下(つまり、3%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、720~750nmの波長域における平均透過率が0.2%(つまり、10%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約353nm(つまり、335~400nmの範囲内)であり、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約591nm(つまり、590~630nmの範囲内)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、650~720nmの波長域における平均透過率が3.1%(つまり、18%以下)になっている。
【0067】
そして、本実施例の近赤外線カットフィルタ100は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約405nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約591nm、800~950nmの波長域における平均透過率が0.1%以下となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
なお、本実施例の近赤外線カットフィルタ100も、従来の近赤外線カットフィルタのような反射膜を有していないため、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。
【0068】
(実施例3)
実施例3の近赤外線カットフィルタ100は、ガラス基材101として、厚さ1.0mmのHOYA(株)製のフツリン酸塩系ガラス(CXD700)を選定した点で実施例1と異なっている。
【0069】
図6は、実施例3のガラス基材101の分光透過率曲線(点線)と、実施例3の近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線(実線、破線)を示す図である。なお、近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線については、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。
【0070】
図6に示すように、本実施例のガラス基材101は、800~950nmの波長域における平均透過率が0.2%(つまり、3%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、720~750nmの波長域における平均透過率が1.0%(つまり、10%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約347nm(つまり、335~400nmの範囲内)であり、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約602nm(つまり、590~630nmの範囲内)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、650~720nmの波長域における平均透過率が6.8%(つまり、18%以下)になっている。
【0071】
そして、本実施例の近赤外線カットフィルタ100は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約404nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約596nm、800~950nmの波長域における平均透過率が0.2%となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
なお、本実施例の近赤外線カットフィルタ100も、従来の近赤外線カットフィルタのような反射膜を有していないため、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。
【0072】
(実施例4)
実施例4の近赤外線カットフィルタ100は、ガラス基材101として、厚さ0.23mmのHOYA(株)製のフツリン酸塩系ガラス(CXD700)を選定した点、樹脂層102のシアニン化合物(近赤外線吸収色素)の含有量を変更した点、で実施例1と異なっている。
【0073】
図7は、実施例4のガラス基材101の分光透過率曲線(点線)と、実施例4の近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線(実線、破線)を示す図である。なお、近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線については、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。
【0074】
図7に示すように、本実施例のガラス基材101は、800~950nmの波長域における平均透過率が1.0%(つまり、3%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、720~750nmの波長域における平均透過率が3.4%(つまり、10%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約344nm(つまり、335~400nmの範囲内)であり、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約615nm(つまり、590~630nmの範囲内)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、650~720nmの波長域における平均透過率が13.2%(つまり、18%以下)になっている。
【0075】
そして、本実施例の近赤外線カットフィルタ100は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約404nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約603nm、800~950nmの波長域における平均透過率が0.9%となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
なお、本実施例の近赤外線カットフィルタ100も、従来の近赤外線カットフィルタのような反射膜を有していないため、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。
【0076】
(実施例5)
実施例5の近赤外線カットフィルタ100は、ガラス基材101として、厚さ0.30mmのHOYA(株)製のフツリン酸塩系ガラス(CXD700)を選定した点、樹脂層102を、アクリル樹脂(透明樹脂)、ベンゾトリアゾール化合物とトリアジン系化合物(紫外線吸収色素)、スクアリリウム化合物とシアニン化合物(第1の近赤外吸収色素)、ジイオニウム化合物(第2の近赤外吸収色素)によって形成した点(つまり、第2の近赤外吸収色素を追加した点)、で実施例1と異なっている。
【0077】
図8は、実施例5のガラス基材101の分光透過率曲線(点線)と、実施例5の近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線(実線、破線)を示す図である。なお、近赤外線カットフィルタ100の分光透過率曲線については、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。
【0078】
図8に示すように、本実施例のガラス基材101は、800~950nmの波長域における平均透過率が0.2%(つまり、3%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、720~750nmの波長域における平均透過率が1.3%(つまり、10%以下)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約348nm(つまり、335~400nmの範囲内)であり、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約604nm(つまり、590~630nmの範囲内)になっている。
また、本実施例のガラス基材101は、650~720nmの波長域における平均透過率が7.7%(つまり、18%以下)になっている。
【0079】
そして、本実施例の近赤外線カットフィルタ100は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約406nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約604nm、800~950nmの波長域における平均透過率が0.1%となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
なお、本実施例の近赤外線カットフィルタ100も、従来の近赤外線カットフィルタのような反射膜を有していないため、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。(比較例1)
比較例1の近赤外線カットフィルタは、ガラス基材として、HOYA(株)製のフツリン酸塩系ガラス(CXA700、厚さ0.21mm)を選定した点で実施例1と異なり、樹脂層は、実施例1の樹脂層102と同一のものである。
【0080】
図9は、比較例1のガラス基材の分光透過率曲線(点線)と、比較例1の近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線(実線、破線)を示す図である。なお、近赤外線カットフィルタの分光透過率曲線については、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。
【0081】
図9に示すように、本変形例のガラス基材は、800~950nmの波長域における平均透過率が4.3%に(つまり、3%より大きく)なっている。
また、本変形例のガラス基材は、720~750nmの波長域における平均透過率が9.7%(つまり、10%以下)になっている。
また、本変形例のガラス基材は、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約338nm(つまり、335~400nmの範囲内)であり、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約632nm(つまり、590~630nmの範囲外)になっている。
また、本変形例のガラス基材は、650~720nmの波長域における平均透過率が23.8%に(つまり、18%より大きく)なっている。
【0082】
そして、本比較例の近赤外線カットフィルタは、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約404nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約610nm、800~950nmの波長域における平均透過率が4.1%となった。つまり、本比較例の近赤外線カットフィルタは、実施例1~5の近赤外線カットフィルタ100と比較して、800~950nmの波長域における平均透過率が高いものとなった。
なお、本変形例の近赤外線カットフィルタ100も、実施例1~5の近赤外線カットフィルタ100と同様、従来の近赤外線カットフィルタのような反射膜を有していないため、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。
【0083】
このように、比較例1の近赤外線カットフィルタは、実施例1~5の近赤外線カットフィルタ100と比較して、800~950nmの波長域における平均透過率が高い(つまり、3%より大きい)ため、色再現性が悪いものとなる。この問題を対策するためには、従来の近赤外線カットフィルタで用いられているように、反射層を形成することが有効であるが、反射層を用いると、位相ずれが発生し、波長シフトやリップルが発生する、といった問題が発生する。
つまり、本実施形態(実施例1~5)の近赤外線カットフィルタ100においては、かかる問題を解決するため、ガラス基材101として、800~950nmの波長域における平均透過率が非常に低い(つまり、3%以下)ものを使用し、従来の反射層を使用することなく、人間の視感度に近い特性を得ている。
【0084】
このように、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100は、従来の反射層を使用していないため、入射角依存性が極めて少なく、斜入射特性に優れたものとなる。また、このような近赤外線カットフィルタ100を用いた撮像装置1は、ゴーストの発生が抑制されるため、色再現性に優れた画像を得ることができる。
【0085】
以上が本発明の実施形態の説明であるが、本発明は、上記の実施形態の構成に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で様々な変形が可能である。
【0086】
例えば、本実施形態(実施例1~5)においては、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約404~410nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約591~610nmの近赤外線カットフィルタ100を例示したが、このような特性のものに限定されるものではない。樹脂層102の紫外線吸収色素、第1の近赤外吸収色素、及び第2の近赤外吸収色素を適宜選択し、またこれらの混合比を調整することにより、透過率曲線の短波長側の半値波長を385~430nmの範囲内で調整でき、長波長側の半値波長を590~630nmの範囲内で調整できる。
【0087】
(第2の実施形態)
図10は、本発明の第2の実施形態に係る近赤外線カットフィルタ100Aの構成を説明する縦断面図である。図10に示すように、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100Aは、樹脂層102の上面(ガラス基材101とは反対側の面)に反射防止膜103を備え、ガラス基材101の他方の主面上(図10において下側の面)に反射防止膜104を備える点で、第1の実施形態の近赤外線カットフィルタ100とは異なる。
このように反射防止膜103、104を形成すると、近赤外線カットフィルタ100Aの界面(つまり、入射面及び出射面)での反射を抑えることができるため、透過率を高める(改善する)ことができる。
【0088】
本実施形態の反射防止膜103、104は、近赤外線カットフィルタ100Aの入射面及び出射面の界面における反射を防止する層であり、具体的には低屈折率の誘電体膜と高屈折率の誘電体膜とを交互に積層した誘電体多層膜によって構成されている。
【0089】
誘電体多層膜を構成する誘電体膜の材料は、所望の光学特性に応じて自由に選択することができるが、低屈折率の誘電体層を構成するための低屈折率材料の屈折率は、1.1~1.5の範囲にあることが好ましく、低屈折率材料としては、例えば、SiO、MgF、SiO中空子やエアゾル構造を有する低屈折ゾルゲルコートなどを適用できる。また、高屈折率の誘電体層を構成するための高屈折率材料の屈折率は、2.0~2.5の範囲にあることが好ましく、高屈折率材料としては、例えば、ZrO、Ta、TiO、Nbなどを適用できる。
また、屈折率1.4~1.6の材料(例えば、SiO)を高屈折率材料として使用することもでき、この場合、屈折率1.1~1.3の材料(例えば、エアゾルコート)を低屈折率材料として適用できる。
【0090】
このように、反射防止膜103、104に誘電体多層膜を用いることにより、各誘電体膜で生じる光の干渉を利用して、容易に反射防止機能を付与することができる。しかしながら、膜層数が多くなると、光の斜入射時に光路長が長くなり、各層における反射光の干渉条件が崩れるため、波長シフトやリップルが生じるといった問題が発生する。また、このような波長シフトやリップルは、反射光の増大を招き、固体撮像素子200上では一種のゴーストとして観測され、正確な色再現性を得ることができないという問題も発生する。そこで、本実施形態においては、かかる問題を回避するため、誘電体多層膜の膜層数を10層以下となるように構成している。なお、膜層数は、特に5層以下、さらには3層以下であることが好ましい。
また、誘電体多層膜を構成する誘電体膜の厚さは、所望の光学特性に応じて自由に選択することができるが、好ましくは50nm~1μmであり、より好ましくは50nm~500nmである。
また、誘電体多層膜全体(つまり、反射防止膜103、104)の厚さは、500nm以下に設定されている。
【0091】
なお、本実施形態の樹脂層102は、ガラス基材101の一方の主面上(図10)において上側の面)に形成されているが、第1の実施形態と同様、樹脂層102は、ガラス基材101の他方の主面上(図10において下側の面)に形成されてもよく、また、ガラス基材101の両面に形成されてもよい。また、樹脂層102は必ずしも一層である必要はなく、複数層で構成することもできる。
【0092】
以下、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100Aについて、実施例を挙げて更に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
(実施例6)
実施例1の近赤外線カットフィルタ100に、以下の手順(3.反射防止膜103、104の形成)によってさらに反射防止膜103、104を形成し、実施例6の近赤外線カットフィルタ100Aを作成した。
[3.反射防止膜103、104の形成]
実施例1の近赤外線カットフィルタ100の樹脂層102の上面(ガラス基材101とは反対側の面)及びガラス基材101の他方の主面上(図10において下側の面)に、いわゆるゾル・ゲル法を用いて、表1の誘電体薄膜(誘電体層1~5)を順番に形成し(つまり、反射防止膜103、104を形成し)、実施例6の近赤外線カットフィルタ100Aを得た。
【0094】
【表1】
【0095】
図11は、実施例6の近赤外線カットフィルタ100Aの分光透過率曲線を示す図であり、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。図11に示すように、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約390nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約610nm、800~950nmの波長域における平均透過率が1.2%となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104として誘電体多層膜を有しているものの、その厚みが十分に薄いため(500nm以下であるため)、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104を備えるため、実施例1の近赤外線カットフィルタ100と比較して(つまり、図4と比較して)透過率が高く、透過率のピークは約95%になっている。
【0096】
(実施例7)
実施例2の近赤外線カットフィルタ100に、実施例6と同様の手順で反射防止膜103、104を形成し、実施例7の近赤外線カットフィルタ100Aを作成した。
【0097】
図12は、実施例7の近赤外線カットフィルタ100Aの分光透過率曲線を示す図であり、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。図12に示すように、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約403nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約596nm、800~950nmの波長域における平均透過率が0.1%以下となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104として誘電体多層膜を有しているものの、その厚みが十分に薄いため(500nm以下であるため)、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104を備えるため、実施例2の近赤外線カットフィルタ100と比較して(つまり、図5と比較して)透過率が高く、透過率のピークは約95%になっている。
【0098】
(実施例8)
実施例3の近赤外線カットフィルタ100に、実施例6と同様の手順で反射防止膜103、104を形成し、実施例8の近赤外線カットフィルタ100Aを作成した。
【0099】
図13は、実施例8の近赤外線カットフィルタ100Aの分光透過率曲線を示す図であり、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。図13に示すように、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約402nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約601nm、800~950nmの波長域における平均透過率が0.2%となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104として誘電体多層膜を有しているものの、その厚みが十分に薄いため(500nm以下であるため)、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104を備えるため、実施例3の近赤外線カットフィルタ100と比較して(つまり、図6と比較して)透過率が高く、透過率のピークは約97%になっている。
【0100】
(実施例9)
実施例4の近赤外線カットフィルタ100に、実施例6と同様の手順で反射防止膜103、104を形成し、実施例9の近赤外線カットフィルタ100Aを作成した。
【0101】
図14は、実施例9の近赤外線カットフィルタ100Aの分光透過率曲線を示す図であり、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。図14に示すように、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約402nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約608nm、800~950nmの波長域における平均透過率が0.9%となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104として誘電体多層膜を有しているものの、その厚みが十分に薄いため(500nm以下であるため)、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104を備えるため、実施例4の近赤外線カットフィルタ100と比較して(つまり、図7と比較して)透過率が高く、透過率のピークは約98%になっている。
【0102】
(実施例10)
実施例5の近赤外線カットフィルタ100に、実施例6と同様の手順で反射防止膜103、104を形成し、実施例10の近赤外線カットフィルタ100Aを作成した。
【0103】
図15は、実施例10の近赤外線カットフィルタ100Aの分光透過率曲線を示す図であり、入射角0°のときの分光透過率曲線(実線)と、入射角30°のときの分光透過率曲線(破線)を示している。図15に示すように、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、透過率曲線の短波長側の半値波長(UV_λ50)が約404nm、長波長側の半値波長(NIR_λ50)が約604nm、800~950nmの波長域における平均透過率が0.1%となり、人間の視感度に近い特性のものが得られた。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104として誘電体多層膜を有しているものの、その厚みが十分に薄いため(500nm以下であるため)、入射角30°の光が入射しても、カットフィルタとしての性能を著しく損なう位相ずれ、波長シフトおよびリップルの発生が抑制されている。
また、本実施例の近赤外線カットフィルタ100Aは、反射防止膜103、104を備えるため、実施例5の近赤外線カットフィルタ100と比較して(つまり、図8と比較して)透過率が高く、透過率のピークは約93%になっている。
【0104】
このように、実施例6~10の近赤外線カットフィルタ100Aは、斜入射特性に優れ、かつ透過率が高いものとなる。また、このような近赤外線カットフィルタ100を用いた撮像装置1は、明るく、色再現性にも優れた画像を得ることができる。
【0105】
(第3の実施形態)
図16は、本発明の第3の実施形態に係る近赤外線カットフィルタ100Bの構成を説明する縦断面図である。図16に示すように、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100Bは、ガラス基材101と樹脂層102との間に、両者を接合する接合層105を備える点で、第1の実施形態の近赤外線カットフィルタ100とは異なる。
このように接合層105を形成すると、ガラス基材101と樹脂層102との密着性を高めることができるため、信頼性を向上させることができる。
【0106】
本発明者が鋭意検討した結果、Si原子と、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上とを含む接合成分を用いると、ガラス基材101と樹脂層102との密着性を高めることができることを見出した。本実施形態の接合層105は、かかる知見に基づくものであり、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含む単層構造を有するものである。
なお、本明細書において、単層構造とは、下記測定条件で、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光分析器(STEM-EDX)により測定したときに、得られる測定画像(像コントラスト)または元素分析結果から、同一組成を有する形成材料からなることが特定される層構造を意味する。
<測定条件>
走査型透過電子顕微鏡:日本電子(株)製 ARM200F
エネルギー分散型X線分光分析器:日本電子(株)製 JED-2300T
試料調製:集束イオンビーム加工(FIB)
加速電圧:200kV
元素分析:EDXマッピング(解像度:256×256)
【0107】
接合層105の厚みは、1000nm以下であることが好ましく、10~500nmであることがより好ましく、30~300nmであることがさらに好ましい。
接合層105の厚みが1000nm以下であることにより、接合層105の形成時(焼成時)におけるムラの発生を抑制し易くなり、接合層105の膜面を容易に均一化することができる。
また、接合層105の厚みが10nm以上である場合、接合層105が十分な接合強度を発揮し易くなって、近赤外線カットフィルタ100Bの機械的強度を容易に向上することができる。
なお、本明細書において、接合層105の厚みは、上記STEM-EDXを用いて測定したときに得られる近赤外線カットフィルタ100Bの断面の測定画像(像コントラスト)において、接合層105の厚みを50点測定したときの算術平均値を意味する。
【0108】
本実施形態の接合層105は、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含むものであるが、Si原子とともに接合層105中に含有される、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上としては、Ti原子であることが好ましい。
【0109】
本実施形態の接合層105において、Si原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数(総原子数)に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)は、0atomic%を超え33.3atomic%以下であることが好ましく、9~33.3atomic%であることがより好ましく、12~33.3atomic%であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、接合層105を構成するSi原子、Ti原子、Zr原子およびAl原子の総数(総原子数)に占める、Ti原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)は、以下の方法により算出される値を意味する。
(1)上述した測定条件により光学フィルターのSTEM-EDX測定を行って、STEM-EDXライン(光学フィルターを構成する各元素の深さ方向におけるEDX線(K線)検出強度ライン)を得る。
(2)接合層105を構成する領域における、Si原子のEDX線積算強度XSi、Ti原子のEDX線積算強度XTi、Zr原子のEDX線積算強度XZrおよびAl原子のEDX線積算強度XAlをそれぞれ求める。
(3)(2)で求めた各EDX線積算強度にkファクター(加速電圧や検出効率に依存する、原子番号ごとに異なる補正係数。以下便宜的に、Si原子のkファクターをKSi、Ti原子のkファクターをKTi、Zr原子のkファクターをKZr、Al原子のkファクターをKAlとする。)を掛けた値が、各構成元素の重量比に対応するとみなし得る。このため、例えば接合層を構成するTi原子の重量割合ATi(重量%)は下記式により算出することができる。
【数1】
(4)さらに、上記各原子のEDX線積算強度Xにkファクターを掛けた値を、各々の原子量Mで除した値が、各構成元素の原子数の比に対応するとみなし得る。このため、Si原子の原子量をMSi、Ti原子の原子量をMTi、Zr原子の原子量をMZr、Al原子の原子量をMAlとした場合、例えば接合層105を構成するTi原子の原子数の割合αTi(atomic%)は下記式により算出することができる。
【数2】
また、接合層105を構成するTi原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)は、下記式により算出することができる。
【数3】
例えば、接合層105中にSi原子およびTi原子が含まれるが、Zr原子およびAl原子が含まれない場合、接合層105を構成するTi原子、Zr原子およびAl原子の合計原子数の割合α(atomic%)は、下記式により算出することができる。
【数4】
なお、本実施形態においては、KSi=1.000、KTi=1.033、KZr=5.696、KAl=1.050とした。
【0110】
以下、本実施形態の近赤外線カットフィルタ100Bについて、実施例を挙げて更に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0111】
(実施例11)
実施例1のガラス基材101に、以下の手順(4.接合層105の形成)によって接合層105を形成した。そして、接合層105の上面に、実施例1と同様の手順(2.樹脂層102の形成)で樹脂層102の形成し、近赤外線カットフィルタ100Bを作成した。
[4.接合層105の形成]
1.カップリング剤含有塗布液の調製
(1)容器中に0.5N(mol/L)のHCl水溶液0.3mLと2-メトキシエタノール2.2mLを秤量し、密閉下で混合した。
(2)上記容器内にオルトケイ酸テトラエチル(Si(OC))を加え、密閉下で30分間混合し、下記反応式で表される反応を生じさせた。
Si(OC)+HO → HO-Si(OC+COH
上記反応により水が全て消費され水酸基が生じるため、加水分解速度の速いTiのアルコキシドを加えても水酸化物が析出せず、溶液が均質となることが期待された。
(3)上記容器内にさらにチタン(IV)n-ブトキシド(Ti(OC)を所定の割合(例えば、3~20モル%)になるように添加し、密閉下で30分間混合することにより、カップリング剤含有塗布液を調製した。
なお、このとき容器内では下記反応式で表される反応が生じたと考えられる。
4OH-Si(OC+Ti(OC→Ti(O-Si(OC+4COH
【0112】
2.塗布膜の形成
上記カップリング剤含有塗布液を含有する容器内に対し、さらに0.5NのHCl水溶液1.2mLと、水4.7mLと、2-メトキシエタノール8.1mLを秤量し、密閉下で30分間混合して塗布膜形成液を調製した。
このとき容器内では下記反応式で表される反応が生じたと考えられる。
Ti{(O-Si(OC+12HO→Ti{(O-Si(OH)+12COH
HO-Si(OC+3HO→ Si(OH) + 3COH
得られた塗布膜形成液を、スピンコーターを用いてガラス基材101上に、0.03mL/cm2となるように塗布した。
上記塗布膜形成液が塗布されたガラス基材101を250℃に加熱したホットプレートに乗せ、30分間加熱して脱水縮合させることにより表面に硬化膜(接合層105)を形成した。
【0113】
次いで、接合層105の上面に、実施例1と同様の手順(2.樹脂層102の形成)で樹脂層102の形成し、近赤外線カットフィルタ100Bを作成した。
【0114】
このように、ガラス基材101と樹脂層102との間に接合層105を形成すると、ガラス基材101と樹脂層102との密着性を格段に高めることができるため、信頼性を飛躍的に向上させることができる。
【0115】
なお、本実施形態の接合層105は、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含むものであるが、接合層105を形成する代わりに、接合層105の各成分を、樹脂層102に含有させることもできる。つまり、樹脂層102が、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含むように構成することができる。
【0116】
また、本実施形態の接合層105は、Si原子とともに、Ti原子、Zr原子およびAl原子から選ばれる一種以上を含むものであるとしたが、ガラス基材101と樹脂層102との密着性を高めることができればよく、例えば、透明な蒸着型又は塗布型の接着剤を適用することもできる。
【0117】
また、本実施形態の樹脂層102は、接合層105を介してガラス基材101の一方の主面上(図16において上側の面)に形成されているが、第1の実施形態と同様、樹脂層102は、接合層105を介してガラス基材101の他方の主面上(図16において下側の面)に形成されてもよく、また、ガラス基材101の両面に形成されてもよい。また、樹脂層102は必ずしも一層である必要はなく、複数層で構成することもできる。
【0118】
なお、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0119】
1 :撮像装置
11 :吸収層
12 :反射層
13 :透明基材
100 :近赤外線カットフィルタ
100A :近赤外線カットフィルタ
100B :近赤外線カットフィルタ
101 :ガラス基材
102 :樹脂層
103 :反射防止膜
104 :反射防止膜
105 :接合層
200 :固体撮像素子
300 :パッケージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19