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特許7520587貫流ボイラの運転制御装置、運転制御方法、および貫流ボイラ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】貫流ボイラの運転制御装置、運転制御方法、および貫流ボイラ
(51)【国際特許分類】
   F22B 35/10 20060101AFI20240716BHJP
   F22D 5/26 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
F22B35/10
F22D5/26 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020103272
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2021196116
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515177088
【氏名又は名称】株式会社JERA
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中拂 博之
(72)【発明者】
【氏名】堂本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 悠太
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-312903(JP,A)
【文献】特開昭61-153301(JP,A)
【文献】特開昭64-70603(JP,A)
【文献】特開2014-219117(JP,A)
【文献】米国特許第06092490(US,A)
【文献】特開2000-346304(JP,A)
【文献】特開2016-148343(JP,A)
【文献】韓国登録特許第1692144(KR,B1)
【文献】中国特許第102057218(CN,B)
【文献】米国特許第05934227(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 35/10
F22D 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラの伝熱管へ給水を行って内部の熱源との熱交換により生成された過熱蒸気を取り出す貫流運転を行う貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記運転制御装置は、
前記伝熱管を複数の領域に分けて、当該領域毎に異なる制約条件を適用して前記貫流運転が維持可能な最低給水量を算出し、算出された複数の最低給水量のうち、最も給水量が多い最低給水量を許容給水量として選択し、当該許容給水量を満たすように、前記貫流運転時に前記伝熱管への給水量を調整する、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記貫流ボイラは、前記伝熱管の下流に接続された気水分離器で分離された循環水を前記伝熱管の上流に給水する循環運転、または前記貫流運転のいずれかの運転を行い、
前記運転制御装置は、前記伝熱管の領域毎に異なる制約条件を適用して前記貫流運転が維持可能な最低給水量が算出できなくなる最低負荷を算出し、算出された複数の最低負荷のうち、最も負荷が高い最低負荷を切替負荷として選択し、当該切替負荷未満では前記循環運転のための制御を行い、前記切替負荷以上では前記貫流運転のための制御を行う、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記複数の領域は、前記貫流ボイラの内部の熱流束が相対的に大きい第一領域と、前記伝熱管の内部流体のクオリティが相対的に高い第二領域と、の少なくとも2つの領域を含む、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記第一領域では、前記伝熱管の内部流体の核沸騰状態を維持することを制約条件とし、当該制約条件を満たす第一最低給水量を算出し、
前記第二領域では、前記貫流運転時のドライアウト後の前記伝熱管におけるメタル温度を許容値以下に維持することを制約条件とし、当該制約条件を満たす第二最低給水量を算出する、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項5】
請求項2に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記切替負荷は、少なくとも負荷低下時の貫流運転から循環運転への切り替え用に設定される、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記運転制御装置は、前記最低給水量を、少なくとも前記伝熱管の熱流束分布の計測値または計算値と、前記伝熱管内の内部流体の圧力の計測値とに基づいて算出する、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記伝熱管の熱流束分布の計測値は、熱流束が大きな領域に限定して計測される、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記伝熱管の熱流束分布の計測値は、熱電対または熱流束計を用いて計測される、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項9】
請求項6に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記伝熱管の形状は、ライフル管である、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項10】
請求項2に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記切替負荷は、前記貫流ボイラの負荷の10%以上30%未満の範囲で設定される、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項11】
請求項2に記載の貫流ボイラの運転制御装置であって、
前記切替負荷は、負荷上昇時の循環運転から貫流運転への切り替えと、負荷低下時の貫流運転から循環運転への切り替えで異なる値が設定される、
貫流ボイラの運転制御装置。
【請求項12】
ボイラの伝熱管へ給水を行って内部の熱源との熱交換により生成された過熱蒸気を取り出す貫流運転を行う貫流ボイラの運転制御方法であって、
前記伝熱管を複数の領域に分けて、当該領域毎に異なる制約条件を適用して前記貫流運転が維持可能な最低給水量を算出し、算出された複数の最低給水量のうち、最も給水量が多い最低給水量を許容給水量として選択し、当該許容給水量を満たすように、前記貫流運転時に前記伝熱管への給水量を調整する、
貫流ボイラの運転制御方法。
【請求項13】
請求項12に記載の貫流ボイラの運転制御方法であって、
前記貫流ボイラは、前記伝熱管の下流に接続された気水分離器で分離された循環水を前記伝熱管の上流に給水する循環運転、または前記貫流運転のいずれかの運転を行い、
前記伝熱管の領域毎に異なる制約条件を適用して前記貫流運転が維持可能な最低給水量が算出できなくなる最低負荷を算出し、算出された複数の最低負荷のうち、最も負荷が高い最低負荷を切替負荷として選択し、当該切替負荷未満では前記循環運転のための制御を行い、前記切替負荷以上では前記貫流運転のために制御を行う、
貫流ボイラの運転制御方法。
【請求項14】
ボイラの伝熱管へ給水を行って内部の熱源との熱交換により生成された過熱蒸気を取り出す貫流運転を行う貫流ボイラであって、
前記貫流ボイラは、前記貫流運転時の給水量を制御する運転制御装置を備え、
前記運転制御装置は、
前記伝熱管を複数の領域に分けて、当該領域毎に異なる制約条件を適用して前記貫流運転が維持可能な最低給水量を算出し、算出された複数の最低給水量のうち、最も給水量が多い最低給水量を許容給水量として選択し、当該許容給水量を満たすように、前記貫流運転時に前記伝熱管への給水量を調整する、
貫流ボイラ。
【請求項15】
請求項14に記載の貫流ボイラであって、
前記貫流ボイラは、前記伝熱管の下流に接続された気水分離器で分離された循環水を前記伝熱管の上流に給水する循環運転、または前記貫流運転のいずれかの運転を行い、
前記運転制御装置は、前記伝熱管の領域毎に異なる制約条件を適用して前記貫流運転が維持可能な最低給水量が算出できなくなる最低負荷を算出し、算出された複数の最低負荷のうち、最も負荷が高い最低負荷を切替負荷として選択し、当該切替負荷未満では循環運転のための制御を行い、前記切替負荷以上では前記貫流運転のために制御を行う、
貫流ボイラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫流ボイラの運転制御装置、運転制御方法、および貫流ボイラに係り、特に、伝熱管により構成されて水を一端部から強制的に循環給水し、順次加熱と蒸発を繰り返し、他端部から過熱蒸気を取り出す貫流ボイラにおいて、貫流運転時の負荷変化の運用性を改善させることにある。
【背景技術】
【0002】
貫流ボイラは、火炉の壁部に多数の伝熱管を配置し、この伝熱管に給水を行うと共に、バーナにより火炉内部に火炎を生成し、伝熱管内の水を火炎により加熱することで蒸気を生成し、この過熱蒸気を取り出すものであり、この過熱蒸気を、例えば、蒸気タービンに供給して発電を行っている。
【0003】
このような貫流ボイラ(以下「ボイラ」と略記する)では、通常、給水ポンプにより所定量の水をボイラの伝熱管に供給すると、この水はボイラにて加熱されることで全量が蒸気となり、過熱蒸気として取り出される(貫流運転)。しかし、ボイラの起動直後や低負荷時など、ボイラにおける加熱量が低いときには、ボイラにより全量の水を蒸気とすることができず、気水分離器で分離された循環水は、給水ラインに戻される(循環運転)。この場合、循環水を給水ラインに戻すと、ボイラで加熱した水の持つ熱量を捨てることとなり、熱効率が良くない。また、循環水を給水ラインに戻すには、別途ポンプが必要となり、設備コストおよび動力コストが上昇してしまう。そのため、ボイラの加熱量に対応した給水量とすることが望ましい。
【0004】
そこで本発明者らは、特許文献1に記載の通り、循環水量を減少することで熱効率の向上、設備コストおよび動力コストの低減を可能とすると共に炉壁の健全性を維持可能とするため、予め伝熱管内の水の核沸騰状態を維持可能なクオリティの上限値を設定し、このクオリティの上限値に対応する伝熱管への給水量の下限値を設定し、ボイラ起動時に、伝熱管への給水量をこの給水量の下限値に調整することを特徴とする貫流ボイラの制御方法を発案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許5766527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では再生可能エネルギーの導入などで、より低い負荷で貫流ボイラを運転することが求められている。
【0007】
図4の従来例に示す通り、貫流ボイラは一般的におよそ25~30%の負荷(切替負荷:図4のLc0点に相当)を境界に、貫流運転と循環運転を切り替えて運転を行っているが、安定して連続運転できる貫流負荷はおよそ30%以上である。低負荷側が循環運転で、高負荷側が貫流運転となる。
【0008】
高負荷運転から負荷を下げていき、切替負荷を通過する場合、貫流運転から循環運転に切り替える必要があるが、運転操作に幾つかの手順が必要となり、切替負荷までの負荷下げと比べ、時間と手間がかかる。
【0009】
一般的に25~30%と言われている切替負荷をさらに引き下げることができれば、より短時間で、より容易に負荷を引下げることができ、貫流ボイラの運用性が大きく向上する。
【0010】
しかし、貫流運転で負荷を引下げる場合、熱負荷に対して流量を引下げ過ぎると伝熱管がオーバーヒート(膜沸騰が発生)し、伝熱管が損傷する可能性があるため、熱負荷に対して適切な流量に制御することが重要である。
【0011】
特許文献1では、主にボイラ起動時(循環運転時)を対象に、熱流束が大きな領域を対象として伝熱管内の水の核沸騰状態を維持可能な最低給水量を求め、伝熱管の健全性を維持している。しかし、貫流運転の負荷変化時には、熱流束が小さい領域でも制約条件によってはオーバーヒートの可能性があり、伝熱管全体において健全性を評価する必要がある。
【0012】
そこで、本発明は、貫流ボイラの伝熱管全体の健全性を維持しながら、貫流運転での負荷変化時の給水量の低減または負荷帯の下限値の引き下げが可能な運転制御装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための本発明は、ボイラの伝熱管へ給水を行って内部の熱源との熱交換により生成された過熱蒸気を取り出す貫流運転を行う貫流ボイラの運転制御装置および方法であって、前記運転制御装置は、前記伝熱管を複数の領域に分けて、当該領域毎に異なる制約条件を適用して前記貫流運転が維持可能な最低給水量を算出し、算出された複数の最低給水量のうち、最も給水量が多い最低給水量を許容給水量として選択し、当該許容給水量を満たすように、貫流運転時に前記伝熱管への給水量を調整する。
【0014】
伝熱管を複数の領域に分けて、当該領域毎に異なる方法で貫流運転が維持可能な最低給水量を算出することで、負荷変化時に領域毎に伝熱管がオーバーヒートする要因(現象)が変化しても、適切な方法で正しく領域毎の伝熱管の健全性を評価することができる。また、全ての領域で最も高い最低給水量である許容給水量にて、貫流運転時に伝熱管への給水量を調整することで、給水量の低減と伝熱管全体の健全性の維持の両立が可能となる。
【0015】
また、本発明は貫流ボイラの運転制御装置および方法であって、前記貫流ボイラは、前記伝熱管の下流に接続された気水分離器で分離された循環水を前記伝熱管の上流に給水する循環運転、または前記貫流運転のいずれかの運転を行い、前記伝熱管の領域毎に異なる制約条件を適用して貫流運転が維持可能な最低給水量が算出できなくなる最低負荷を算出し、算出された複数の最低負荷のうち、最も負荷が高い最低負荷を切替負荷として選択し、当該切替負荷未満では循環運転のための制御を行い、前記切替負荷以上では貫流運転のための制御を行う。
【0016】
領域毎に異なる方法で当該最低給水流量が算出できなくなる最低負荷を求め、このうち最も高い最低負荷である切替負荷を使用することで、切替負荷を引き下げて、貫流運転ができる負荷帯を拡大することができる。
【0017】
また本発明は、上記運転制御装置を備えた貫流ボイラである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、貫流ボイラの伝熱管全体の健全性を維持しながら貫流運転での負荷変化時の給水量の低減または負荷帯の下限値の引き下げが可能となる。上記した以外の目的、構成、効果は、以下の実施形態において明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】貫流ボイラの運転制御装置の概略図である。
図2】貫流ボイラの概略構成図である。
図3】伝熱管のメタル温度の高さ分布のグラフである。
図4】ボイラ負荷に対するボイラ給水量のグラフである。
図5】蒸気クオリティに対する蒸気の質量速度のグラフである。
図6】熱流束測定センサの概要図である。
図7】貫流運転から循環運転へ切り替える際の運転制御方法の流れを示すフローチャートである。
図8】運転制御装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る好適な実施形態を詳細に説明する。全図を通じて同一の構成には同一の符号を付し、重複説明を省略する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る貫流ボイラ10の運転制御装置70の概略図、図2は、貫流ボイラ10の概略構成図である。
【0022】
図1および図2に示すように、貫流ボイラ10は、例えば、石炭を粉砕した微粉炭を微粉燃料として用い、この微粉炭を燃焼バーナにより燃焼させ、この燃焼により発生した熱を回収することが可能な微粉炭焚きボイラである。
【0023】
この貫流ボイラ10は、コンベンショナルボイラであって、火炉11と燃焼装置12とを有している。火炉11は、四角筒の中空形状をなして鉛直方向に沿って設置され、この火炉11を構成する火炉壁の下部に燃焼装置12が設けられている。火炉11は、図示しない多数の伝熱管53により形成された火炉壁により密閉状態となっている。
【0024】
燃焼装置12は、火炉壁に装着された複数の燃焼バーナ21,22,23,24,25を有している。本実施形態にて、この燃焼バーナ21,22,23,24,25は、周方向に沿って4個均等間隔で配設されたものが1セットとして、鉛直方向に沿って5セット、つまり、5段配置されている。
【0025】
そして、各燃焼バーナ21,22,23,24,25は、微粉炭供給管26,27,28,29,30を介して微粉炭機(ミル)31,32,33,34,35に連結されている。この微粉炭機31,32,33,34,35は、図示しないが、ハウジング内に鉛直方向に沿った回転軸心をもって粉砕テーブルが駆動回転可能に支持され、この粉砕テーブルの上方に対向して複数の粉砕ローラが粉砕テーブルの回転に連動して回転可能に支持されて構成されている。従って、石炭が複数の粉砕ローラと粉砕テーブルとの間に投入されると、ここで所定の大きさまで粉砕され、搬送空気(1次空気)により分級された微粉炭を微粉炭供給管26,27,28,29,30から燃焼バーナ21,22,23,24,25に供給することができる。
【0026】
また、火炉11は、各燃焼バーナ21,22,23,24,25の装着位置に風箱36が設けられており、この風箱36に空気ダクト37の一端部が連結されており、この空気ダクト37は、他端部に送風機38が装着されている。従って、送風機38により送られた燃焼用空気(2次空気)を、空気ダクト37から風箱36に供給し、この風箱36から各燃焼バーナ21,22,23,24,25に供給することができる。
【0027】
そのため、燃焼装置12にて、各燃焼バーナ21,22,23,24,25は、微粉炭と1次空気とを混合した微粉燃料混合気を火炉11内に吹き込み可能であると共に、2次空気を火炉11内に吹き込み可能となっており、図示しない点火トーチにより微粉燃料混合気に点火することで、火炎を形成することができる。
【0028】
なお、一般的に、ボイラの起動時には、各燃焼バーナ21,22,23,24,25は、油燃料を火炉11内に噴射して火炎を形成している。
【0029】
火炉11は、上部に煙道40が連結されており、この煙道40に、対流伝熱部として排ガスの熱を回収するための過熱器(スーパーヒータ)41,42、再熱器43,44、節炭器(エコノマイザ)45,46,47が設けられており、火炉11での燃焼で発生した排ガスと水との間で熱交換が行われる。
【0030】
煙道(排ガス通路)40は、その下流側に熱交換を行った排ガスが排出される排ガス管48が連結されている。この排ガス管48は、空気ダクト37との間にエアヒータ49が設けられ、空気ダクト37を流れる空気と、排ガス管48を流れる排ガスとの間で熱交換を行い、燃焼バーナ21,22,23,24,25に供給する燃焼用空気を昇温することができる。
【0031】
なお、排ガス管48は、図示しないが、脱硝装置、電気集塵機、誘引送風機、脱硫装置が設けられ、下流端部に煙突が設けられている。
【0032】
従って、微粉炭機31,32,33,34,35が駆動すると、生成された微粉炭が搬送用空気と共に微粉炭供給管26,27,28,29,30を通して燃焼バーナ21,22,23,24,25に供給される。また、加熱された燃焼用空気が空気ダクト37から風箱36を介して各燃焼バーナ21,22,23,24,25に供給される。すると、燃焼バーナ21,22,23,24,25は、微粉炭と搬送用空気とが混合した微粉燃料混合気を火炉11に吹き込むと共に燃焼用空気を火炉11に吹き込み、このときに着火することで火炎を形成することができる。この火炉11では、微粉燃料混合気と燃焼用空気とが燃焼して火炎が生じ、この火炉11内の下部で火炎が生じると、燃焼ガス(排ガス)がこの火炉11内を上昇し、煙道40に排出される。
【0033】
このとき、給水ポンプ52から供給された水は、節炭器45,46,47によって予熱された後、火炉壁を構成する各伝熱管53に供給され、ここで加熱されて蒸気となる。さらに、蒸気は過熱器41,42に導入され、燃焼ガスによって過熱される。過熱器41,42で生成された過熱蒸気は、発電プラント(例えば、蒸気タービン56など)に供給される。また、この蒸気タービン56での膨張過程の中途で取り出した蒸気は、再熱器43,44に導入され、再度過熱されてタービンに戻される。
【0034】
その後、煙道40の節炭器45,46,47を通過した排ガスは、排ガス管48にて、図示しない脱硝装置にて、触媒によりNOxなどの有害物質が除去され、電気集塵機で粒子状物質が除去され、脱硫装置により硫黄分が除去された後、煙突から大気中に排出される。
【0035】
ここで、上記した貫流ボイラ10における水および蒸気の流れについて説明する。図1に示すように、給水ライン51は、給水ポンプ52が装着され、下流部が節炭器45(46,47)に連結されており、この節炭器45が火炉11の火炉壁を構成する伝熱管53に連結されている。この伝熱管53は、下流部が気水分離器54に連結され、気水分離器54は、蒸気ライン55を介して蒸気タービン56およびタービンバイパス弁57に連結されている。そして、この蒸気タービン56は、排出ライン58により復水器59に連結され、この復水器59は、給水ライン51の上流部に連結されている。また、気水分離器54は、再循環ライン(再循環経路)60により給水ライン51における給水ポンプ52より下流側に連結されている。そして、再循環ライン60にドレンタンク61と再循環水ポンプ62が装着されている。
【0036】
従って、給水ポンプ52が駆動すると、所定量の水が給水ライン51から節炭器45で加熱されてから伝熱管53に供給され、貫流ボイラ10で熱交換を行うことで加熱され、蒸気が生成される。この蒸気は、気水分離器54で蒸気と水分に分離され、過熱蒸気は、蒸気ライン55を介して蒸気タービン56に供給され、蒸気タービン56を駆動して発電する。そして、蒸気タービン56で仕事をした蒸気は、排出ライン58により復水器59に送られ、ここで冷却されて復水となり、給水ライン51に戻される。一方、気水分離器54で過熱蒸気から分離された水分は、再循環ライン60からドレンタンク61に一時的に溜められ、このドレンタンク61から再循環水ポンプ62により給水ライン51に戻される。
【0037】
このように構成された貫流ボイラ10では、伝熱管53を複数の領域に分けて、当該領域毎に異なる方法で貫流運転が維持可能な最低給水量を算出し、このうち最も高い最低給水量である許容給水量を確保できるように、貫流運転時に伝熱管53への給水量を調整する。
【0038】
さらに、当該領域毎に異なる方法で貫流運転が維持可能な最低給水量が算出できなくなる最低負荷を求め、このうち最も高い最低負荷である切替負荷にて、貫流運転と循環運転の切り替えを行う。
【0039】
これらの制御を行うために、伝熱管53への給水量を計測する給水量センサ65と、給水圧を計測する給水圧センサ67と、火炉11の熱流束を計測する熱流束センサ68と、給水量と給水圧と熱流束に基づいて許容給水量を算出し、この許容給水量となるように、給水ポンプ52による伝熱管53への給水量を調整する制御装置(ポンプ制御部)70を設けている。ここで、給水圧センサ67と熱流束センサ68は任意の位置に配置でき、例えば給水圧センサ67は気水分離器54に配置してもよい。熱流束センサ68は他の位置でもよく、また後述する通り計算値で熱流束分布が把握できるならば配置しなくてもよい。
【0040】
なお、運転制御装置70は、循環運転時の場合を想定して、蒸気(湿り蒸気)から分離されて給水ライン51に戻される再循環水量を計測する再循環水量センサ66から再循環水量も考慮できるようになっている。
【0041】
図3を用いて、これらの制御を行う理由を説明する。図3は伝熱管53のメタル温度の高さ分布のグラフである。
【0042】
貫流運転での負荷変化帯の下限値(切替負荷)の引き下げを行うためには、火炉壁の伝熱管53にかかる熱流束を計測、或いは計算によって求め、許容可能な最低給水量(許容給水量)に制御する必要がある。許容給水量とは、伝熱管53の温度が許容値を上回らないようにするための給水量である。この許容給水量は、火炉壁に作用する熱流束や給水圧によって変化するため、運転中に計測と計算に基づき決定する必要がある。
【0043】
許容給水量は、下記の2つの領域における異なる制約条件を同時に満たすように決める。
【0044】
第一領域は、火炉11の高さ範囲と等しく熱流束が大きい領域であり、発生する膜沸騰を抑制することが制約条件となる。第二領域は、火炉11上部にある煙道40の高さ範囲と等しく、貫流運転時のクオリティ(乾き度、流体中に蒸気が含まれる割合)が高い領域であり、この第二領域で発生するドライアウト後のメタル温度を許容値以下にすることが制約条件となる。ドライアウトとは、伝熱管53内部の流体が全て蒸気になることを指す。
【0045】
第一領域の制約条件から決まる第一最低給水量を評価する手順は下記の通りである。
(1-1) 火炉壁に設置した熱流束センサ68で計測される温度データを基に、火炉壁面の熱流束分布を算出する。
(1-2) 貫流ボイラ10の水系統の任意の場所において給水圧センサ67により給水圧を計測し、そこから火炉壁管内の流体圧力を算出する。
(1-3) (1-1)で算出した熱流束と(1-2)で算出した給水圧から、膜沸騰が起こらないような第一最低給水量を算出する。或いは熱流束と給水圧に応じた最低給水量を予めデータベースとして整備しておき、第一最低給水量を運転中に運転状態に応じて決定する。
【0046】
第二領域の制約条件から決まる第二最低給水量を評価する手順は下記の通りである。
(2-1) 火炉壁に設置した熱流束センサ68で計測される温度データを基に、火炉壁面の熱流束分布と給水圧力を算出する。
(2-2) 算出した熱流束と給水圧から、ドライアウト後の伝熱管53のメタル温度を給水量に応じて算出する。一般的に給水量が小さくなるとドライアウト後のメタル温度は高くなるため、メタル温度を許容値以下にするための給水量の下限値が存在する。これが第二領域の制約条件から決まる第二最低給水量となる。
【0047】
上記の手順で求めた第一最低給水量と第二最低給水量のいずれか大きい方の流量(許容給水量)を確保できるように、火炉壁の給水量を制御することで、図3の“実線:健全な場合”の通り、伝熱管53のメタル温度を許容値以下にできる。よって、貫流運転を維持したまま給水量を低減し、切替負荷を適切に引き下げることができ、循環運転と貫流運転を切り替える際の時間や操作を最小にすることができる。
【0048】
仮に、第一最低給水量を確保できなかった場合は、図3中の“破線1:第一領域の制約条件を満たさなかった場合”の通り、第一領域にてメタル温度が急増し、許容値を超えてオーバーヒートする。同様に、仮に、第二最低給水量を確保できなかった場合は、図3中の”破線2:第二領域の制約条件を満たさなかった場合”の通り、第二領域にてメタル温度が急増し、許容値を超えてオーバーヒートする。第一最低給水量と第二最低給水量の大小関係は制約条件によって変化しうるため、これら2つの流量を両方とも満足するように給水量を制御することが重要となる。
【0049】
図4を用いて、これらの制御を行う効果について説明する。図4はボイラ負荷に対するボイラ給水量のグラフである。ボイラ給水量は、負荷100%時の給水量を100とした場合の比で表している。
【0050】
従来の切替負荷は25~30%(安定運転のためには通常30%)に設定されており、給水量は当該切替負荷より低い負荷帯では循環運転を行いながら一定値となっている。
【0051】
本実施形態では、許容給水量にて貫流運転時に伝熱管53への給水量を調整することで、給水量の低減と伝熱管全体の健全性の維持の両立が可能となり、従来より低い切替負荷まで貫流運転が可能となる。
【0052】
本実施形態では、(1-3)、(2-2)のそれぞれにおいて第一最低給水量が算出できなくなった時の負荷(第一切替負荷候補)、第二最低給水量が算出できなくなった時の負荷(第二切替負荷候補)を算出し、第一切替負荷候補と第二切替負荷候補のうち負荷が大きい方を切替負荷Lc1として決定する。
【0053】
図5を用いて、(1-3)での第一最低給水量の算出方法について説明する。図5は、蒸気クオリティ(クオリティ)に対する蒸気の質量速度のグラフである。
【0054】
図5にはクオリティと質量速度の関係について3つのラインが示されているが、まず中央のラインL2を使用して説明する。貫流運転時に火炉11における伝熱管53における給水量が低下すれば、クオリティが増加する。このクオリティがある値(上限値)を超えると、伝熱管53を流れる水の沸騰状態が核沸騰から核沸騰限界(DNB)点を越えて膜沸騰に遷移する(ラインL2の左から右の領域へ遷移する)ことで、伝熱管53内の熱伝達率が低下し、この伝熱管53のメタル温度が急激に上昇して火炉壁の健全性が維持できなくなる。
【0055】
クオリティと質量速度の関係は、熱流束と給水圧の影響を受けて変化する。例えば、給水圧が一定の場合、熱流束が小さくなるとクオリティは大きくなる(ラインはL1からL3へと変化する)。同様に熱流束が一定の場合、水圧が小さくなるとクオリティは大きくなる(ラインはL1からL3へと変化する)。このように、クオリティと質量速度の関係(核沸騰状態を維持可能な第一最低給水量を算出する基準)は熱流束と給水圧の影響を受ける。そのため、熱流束分野の計測値または計算値、および給水圧の計測値が必要となる。
【0056】
なお、図5には記載していないが、伝熱管53の内面形状も影響する。平滑管よりもスパイラル管(らせん状のリブ付き管)の方が、同じ熱流束、給水圧の制約条件でクオリティが大きくなる方向(第一最低給水量を低減できる方向)になる。よって、本実施形態はスパイラル管の方が好適である。
【0057】
図6を用いて、熱流束分布を計測する測定センサについて説明する。図6は熱流束センサ68の概要図である。
【0058】
熱流束センサ68は、炉外側にパッド熱電対81を設定し、対向する炉内側にコーダル熱電対80を設置して構成される。両方の温度計測結果から熱流束を評価する。
【0059】
コーダル熱電対80とパッド熱電対81の設置位置は、ボイラ内全体の熱流束分布を正しく評価できるように伝熱管全域としてよい。または、図1に示す通り、火炉壁面内において熱流束が大きい領域に限定してもよい。ここで熱流束が大きい領域とは火炉11の上下高さ範囲から選定されるが、特に熱流束が大きい領域として、最下段の燃焼バーナ25から最上段の燃焼バーナ21まで、或いは燃焼バーナ25より上段に配置されるアフターエアポート(不図示)までの高さ範囲としてもよい。
【0060】
また、コーダル熱電対80とパッド熱電対81の組合せではなく、熱流束計を用いてもよい。
【0061】
図7は、本実施形態に係る貫流ボイラ10の運転制御方法の流れを示すフローチャートである。
【0062】
貫流ボイラ10が貫流運転中(S01:Yes)、運転制御装置70は、第一領域の制約条件から決まる第一最低給水量w1および第二領域の制約条件から決まる第二最低給水量w2の演算に用いるセンサ出力、本実施形態では、給水量センサ65および熱流束センサ68のセンサ出力を取得する(S02)。
【0063】
そして運転制御装置70は、第一最低給水量w1を既述の(1-1)~(1-3)により演算する(S03)。(1-3)の演算中、運転制御装置70は第一最低給水量w1が算出できなくなる負荷(第一切替負荷候補Lc11)も演算する。
【0064】
さらに運転制御装置70は、第二最低給水量w2を既述の(2-1)~(2-2)により演算する(S04)。(2-2)の演算中、運転制御装置70は第二最低給水量w2が算出できなくなる負荷(第二切替負荷候補Lc12)も演算する。ステップS03、S04は逆順であってもよい。
【0065】
運転制御装置70は、第一最低給水量w1および第二最低給水量w2の大小関係を比較し、第一最低給水量w1が第二最低給水量w2以上であれば(S05:Yes)、第一最低給水量w1を許容給水量として選択し、許容給水量(第一最低給水量w1)を確保するように火炉壁の給水量を制御する(S06)。運転制御装置70は、給水量の増減Δ=(第一最低給水量w1-給水量センサ65のセンサが示す給水量)を演算し、給水量の増減Δを制御するための信号を給水ポンプ52に出力する。
【0066】
一方、第一最低給水量w1が第二最低給水量w2未満であれば(S05:No)、運転制御装置70は、第二最低給水量w2を許容給水量として定め、許容給水量(第二最低給水量w2)を確保するように火炉壁の給水量を制御する(S07)。運転制御装置70は、給水量の増減Δ=(第二最低給水量w2-給水量センサ65のセンサが示す給水量)を演算し、給水量の増減Δを制御するための信号を給水ポンプ52に出力する。
【0067】
運転制御装置70は、第一切替負荷候補Lc11および第二切替負荷候補Lc12の大小関係を比較し、第一切替負荷候補Lc11が第二切替負荷候補Lc12以上であれば(S08:Yes)、第一切替負荷候補Lc11を切替負荷Lc1として選択し(S09)、第一切替負荷候補Lc11が第二切替負荷候補Lc12未満であれば(S08:No)、第二切替負荷候補Lc12を切替負荷Lc1として選択する(S10)。切替負荷Lc1は、好ましくは貫流ボイラ10のボイラ負荷の10%以上30%未満に設定する。10%以上とすることで、低負荷での貫流運転によるトラブルを回避すると共に、従来の30%未満とすることで運転効率を従来よりも改善することができる。
【0068】
貫流ボイラ10のボイラ負荷Lcが、切替負荷Lc1よりも大きい場合は(S11:No)、ステップS02へ戻り貫流運転を継続する。
【0069】
貫流ボイラ10のボイラ負荷Lcが、切替負荷Lc1以下の場合(S11:Yes)、例えば貫流運転中にボイラ負荷Lcを下げて切替負荷Lc1に達すると、運転制御装置70は、循環運転に切り替える(S12)。運転制御装置70は、再循環水ポンプ62へ始動信号を出力する。
【0070】
貫流ボイラ10の起動直後に循環運転をしている間(S01:No)、または貫流運転から循環運転に切替後(S12)、運転制御装置70は、再循環水量センサ66のセンサ出力を取得し(S13)、再循環水量を監視する(S14)。
【0071】
ボイラ負荷Lcが切替負荷Lc1未満であり(S15:No)、ボイラ負荷が0でなければ(S16:No)、S13へ戻り、循環運転を継続する。
【0072】
本実施形態では、循環運転から貫流運転への切替判断のために用いる切替負荷Lc1(S15の切替負荷)を、貫流運転から循環運転への切替判断に用いる切替負荷Lc1(S11の切替負荷)と同じ値を用いたが、異なる値を用いてもよい。
【0073】
ボイラ負荷Lcが切替負荷Lc1以上になると(S15:Yes)、運転制御装置70は循環運転から貫流運転へ切り替える(S17)。そしてS02へ進み、貫流運転中における許容給水量の適正化を行う。
【0074】
ボイラ負荷Lcが0になると(S16:Yes)、貫流ボイラ10が停止する。
【0075】
図8は運転制御装置70のハードウェア構成を示す図である。運転制御装置70は、CPU(Central Processing Unit)301、RAM(Random Access Memory) 302、ROM(Read Only Memory) 303、HDD (Hard Disk Drive)304、入力I/F305、および出力I/F306を含み、これらがバス307を介して互いに接続されて構成される。なお、運転制御装置70のハードウェア構成は上記に限定されず、制御回路と記憶装置との組み合わせにより構成されてもよい。
【0076】
以上、本実施形態の構成と効果をまとめると次の通りとなる。
【0077】
1)本実施形態に係る貫流ボイラ10の運転制御装置70は、貫流ボイラ10の伝熱管53へ給水を行って内部の熱源との熱交換により生成された過熱蒸気を取り出す貫流運転を行う貫流ボイラ10の運転制御装置70であって、前記伝熱管53を複数の領域に分けて、当該領域毎に異なる制約条件を適用して貫流運転が維持可能な最低給水量を算出し、算出された複数の最低給水量のうち、最も給水量が多い最低給水量を許容給水量として選択し、当該許容給水量を満たすように、貫流運転時に前記伝熱管53への給水量を調整する。
【0078】
伝熱管53を複数の領域に分けて、当該領域毎に異なる方法で貫流運転が維持可能な最低給水量を算出することで、負荷変化時に領域毎に伝熱管53がオーバーヒートする要因(現象)が変化しても、適切な方法で正しく領域毎の伝熱管53の健全性を評価することができる。また、全ての領域についての最低給水量のうち、最も高い最低給水量である許容給水量にて、貫流運転時に伝熱管53への給水量を調整することで、給水量の低減と伝熱管全体の健全性の維持の両立が可能となる。
【0079】
2)また貫流ボイラ10は、前記伝熱管53の下流に接続された気水分離器54で分離された循環水を前記伝熱管53の上流に給水する循環運転、または貫流運転のいずれかの運転を行い、前記運転制御装置70は、前記伝熱管53の領域毎に異なる制約条件を適用して前記貫流運転が維持可能な最低給水量が算出できなくなる最低負荷を算出し、算出された複数の最低負荷のうち、最も負荷が高い最低負荷を切替負荷として選択し、当該切替負荷未満では前記循環運転のための制御を行い、前記切替負荷以上では前記貫流運転のための制御を行う、1)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0080】
領域毎に異なる方法で当該最低給水流量が算出できなくなる最低負荷を求め、このうち最も高い最低負荷である切替負荷を使用することで、切替負荷を引き下げて、貫流運転ができる負荷帯を拡大することができる。
【0081】
3)前記複数の領域は、前記貫流ボイラ10の内部の熱流束が相対的に大きい第一領域と、前記伝熱管53の内部流体のクオリティが相対的に高い第二領域の少なくとも2つの領域を含む1)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0082】
熱流束が大きい領域とクオリティが高い領域の2つの異なる領域を対象とすることで、具体的に最低給水量または切替負荷を評価できる。
【0083】
4)前記第一領域では、前記伝熱管53の内部流体の核沸騰状態を維持することを制約条件とし、当該制約条件を満たす第一最低給水量を算出し、前記第二領域では、前記貫流運転時のドライアウト後の前記伝熱管53におけるメタル温度を許容値以下に維持することを制約条件とし、当該制約条件を満たす第二最低給水量を算出する、3)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0084】
熱流束が大きい領域とクオリティが高い領域の2つの異なる領域において、正確に最低給水量または切替負荷を評価できる。
【0085】
5)前記切替負荷は、少なくとも負荷低下時の貫流運転から循環運転への切り替え用に設定される2)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0086】
負荷低下時は熱流束分布が複雑な挙動を示す傾向にあり、本実施形態はその影響を正しく考慮できることから好適である。
【0087】
6)前記運転制御装置70は、前記最低給水量は、少なくとも前記伝熱管53の熱流束分布の計測値または計算値と、前記伝熱管53内の内部流体の圧力の計測値とに基づいて算出する、1)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0088】
火炉11の吸熱量は炭種や火炉11の汚れ具合によって変化するが、上記のように熱流束の計測および計算に基づいて、最低給水量を算出することで、燃料性状の変化や経年的なボイラのコンディション変化を反映した適切な最低給水量を算出でき、常に最適な給水量で貫流運転を行うことができる。
【0089】
7)前記伝熱管の熱流束分布の計測値は、熱流束が大きな領域に限定して計測される、6)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0090】
費用対効果の高い領域に限定して熱流束センサ68を配置することができる。
【0091】
8)前記伝熱管の熱流束分布の計測値は、熱電対または熱流束計を用いて計測される、
6)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0092】
正確に熱流束分布を計測できる。
【0093】
9)前記ボイラの伝熱管53の形状は、ライフル管である、6)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0094】
伝熱管53の形状が、平滑管である場合よりライフル管の方が給水量の低減や切替負荷の引き下げに有利であり好適である。
【0095】
10)前記切替負荷は、10%以上30%未満の範囲で設定される、2)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0096】
30%未満とすることで従来より切替負荷を低減できると共に、10%以上とすることで、予期せぬトラブルを回避できる。
【0097】
11)前記切替負荷は、負荷上昇時の循環運転から貫流運転への切り替えと、負荷低下時の貫流運転から循環運転への切り替えで異なる値が設定される、2)に記載の貫流ボイラ10の運転制御装置70である。
【0098】
同一の負荷であっても、負荷上昇時と負荷低下時とでは熱流束分布や給水圧が異なることが想定され、それらの影響を正しく評価することで両方のパターンに適した切替負荷をそれぞれに提供できる。
【0099】
その他、1)から11)に相当する貫流ボイラ10の運転制御方法、それら運転制御装置を備えた貫流ボイラも含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、貫流ボイラの運転制御などに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
10 :貫流ボイラ
11 :火炉
12 :燃焼装置
21,22,23,24,25 :燃焼バーナ
26,27,28,29,30 :微粉炭供給管
31,32,33,34,35 :微粉炭機
36 :風箱
37 :空気ダクト
38 :送風機
40 :煙道
41,42 :過熱器
43,44 :再熱器
45,46,47 :節炭器
48 :排ガス管
49 :エアヒータ
51 :給水ライン
52 :給水ポンプ
53 :伝熱管
54 :気水分離器
55 :蒸気ライン
56 :蒸気タービン
57 :タービンバイパス弁
58 :排出ライン
59 :復水器
60 :再循環ライン
61 :ドレンタンク
62 :再循環水ポンプ
65 :給水量センサ
66 :再循環水量センサ
67 :給水圧センサ
68 :熱流束センサ
70 :運転制御装置
80 :コーダル熱電対
81 :パッド熱電対
301 :CPU
302 :RAM
303 :ROM
304 :HDD
305 :入力I/F
306 :出力I/F
307 :バス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8