(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】電気推進船の推進機構及び電気推進船
(51)【国際特許分類】
B63H 21/17 20060101AFI20240716BHJP
B63H 21/14 20060101ALI20240716BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20240716BHJP
F02B 43/00 20060101ALI20240716BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20240716BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B63H21/17
B63H21/14
F02D29/06 A
F02B43/00 A
F02M21/02 L
H02J7/00 H
(21)【出願番号】P 2020113037
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2022-11-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518144045
【氏名又は名称】三井E&S造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 廉彦
(72)【発明者】
【氏名】江川 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓久
(72)【発明者】
【氏名】木下 達弥
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532239(JP,A)
【文献】特開2011-025799(JP,A)
【文献】特表2012-508665(JP,A)
【文献】特開2010-235049(JP,A)
【文献】特開2001-270495(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0195618(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/17
B63H 21/14
F02D 29/06
F02B 43/00 - 43/12
F02M 21/02 - 21/06
H02J 7/00 - 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料の拡散燃焼又はガス燃料の予混合燃焼を選択して駆動するDFエンジンで発電する発電機と、蓄電池と、前記発電機又は前記蓄電池から電力が供給されるとプロペラを駆動する電動モータと、前記発電機、前記蓄電池、及び前記電動モータの接続の選択及び電力の分配を制御する切替制御部を備える、電気推進船の推進機構であって、
前記電動モータは直流モータであり、
前記切替制御部は、前記蓄電池と前記電動モータとの接続および接続解除が可能な構成を有していて、前記DFエンジンが予混合燃焼で駆動中に、前記電動モータが前記発電機と接続された状態で前記発電機から電力の供給を受けて力行している場合、前記電動モータの負荷変動が予め定められた閾値を超えると前記電動モータと前記蓄電池を接続する構成を有していて、
前記切替制御部は、前記DFエンジンの燃焼状態を示す信号を前記DFエンジンから受信する構成を有する
ことを特徴とする電気推進船の推進機構。
【請求項2】
前記発電機は直流発電機である
請求項1に記載の電気推進船の推進機構。
【請求項3】
前記発電機は交流発電機であり、発電した交流電力を直流電力に変換するコンバータを介して前記切替制御部に接続される
請求項1に記載の電気推進船の推進機構。
【請求項4】
液体燃料の拡散燃焼又はガス燃料の予混合燃焼を選択して駆動するDFエンジンで発電する発電機と、蓄電池と、前記発電機又は前記蓄電池から電力が供給されるとプロペラを駆動する電動モータと、前記発電機、前記蓄電池、及び前記電動モータの接続の選択及び電力の分配を制御する切替制御部を備える、電気推進船の推進機構であって、
前記電動モータは直流モータであり、
前記切替制御部は、前記DFエンジンが予混合燃焼で駆動中に、前記電動モータが前記発電機と接続された状態で前記発電機から電力の供給を受けて力行している場合、
前記電動モータの負荷変動が予め定められた閾値を超えると前記電動モータと前記蓄電池を接続する構成を有していて、
前記切替制御部は前記電動モータと前記蓄電池を接続した場合、
前記発電機を前記電動モータに接続せずに前記蓄電池に接続し、前記蓄電池が前記電動モータを駆動することで消費された電力に相当する電力を前記発電機が前記蓄電池に供給して充電することを特徴とする電気推進船の推進機構。
【請求項5】
前記切替制御部は前記電動モータと前記蓄電池を接続した場合、
前記発電機を前記電動モータに接続せずに前記蓄電池に接続し、前記蓄電池が前記電動モータを駆動することで消費された電力に相当する電力を前記発電機が前記蓄電池に供給して充電する
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気推進船の推進機構。
【請求項6】
前記切替制御部は前記電動モータと前記蓄電池を接続した場合、前記発電機が前記電動モータと接続された状態を維持し、
前記発電機が前記電動モータに供給する電力で不足する分の電力を前記蓄電池が前記電動モータに供給する
請求項1~3のいずれか一項に記載の電気推進船の推進機構。
【請求項7】
前記切替制御部は、
前記蓄電池の充電率が予め定められた所定の下限充電率以下になった場合、前記発電機が発電した電力の少なくとも一部を前記蓄電池に供給して前記蓄電池を予め設定された上限充電率に達するまで充電する
請求項1~6のいずれか一項に記載の電気推進船の推進機構。
【請求項8】
前記切替制御部は、
前記電動モータから回生発電による電力が供給された場合に、前記電動モータを前記蓄電池に接続して、供給された電力を前記蓄電池に充電する
請求項1~6のいずれか一項に記載の電気推進船の推進機構。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の電気推進船の推進機構と、
液化ガスを貯蔵する液化ガスタンクと、
前記液化ガスが気化して、あるいは強制的に気化させて発生したガスを前記ガス燃料として前記DFエンジンに供給する供給手段を備えることを特徴とする電気推進船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気推進船の推進機構及び当該推進機構を備える電気推進船に関する。
【背景技術】
【0002】
電気推進船は電動モータでプロペラを駆動することで推進力を得る船舶である。電動モータは加減速や起動停止がディーゼル機関やタービン機関よりも容易であるため、これらの機関で推進する船舶に比べて操作性に優れる。
【0003】
電気推進船に電力を供給する発電機の動力源は重油のような液体燃料を拡散燃焼させるディーゼル機関が広く用いられているが、液体燃料とガス燃料の両方で駆動できるDF(Dual Fuel)エンジンが近年では動力源として検討されている。
これは、液化ガス運搬船で貨物である液化ガスが気化して生じたガスを捨てずにガス燃料として用いることで航行コストを下げるためである。またガス燃料を用いてディーゼルサイクル以外の熱サイクルで駆動することで、NOxの発生量を低減する目的もある。
【0004】
一方でガス燃料を用いる場合、燃焼方式を予混合燃焼とすると、ディーゼル機関のような拡散燃焼と比べて燃焼が遅れるためノッキングや失火のような異常燃焼が生じやすい。そのため、特に電動モータに加えられる負荷変動が大きい場合はガス燃料でDFエンジンを駆動させるのが困難であり、液体燃料で駆動させる必要があった。
そこで、電動モータの電源として、発電機に加えて蓄電池を設け、電動モータに加えられる負荷変動が大きくなると蓄電池から電動モータに電力を供給することで、負荷変動によらずガス燃料で駆動できる推進機関が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構成は発電機が交流電力を生成し、モータが交流駆動であるため、交流/直流変換器、直流バス、直流/交流変換器を有するインバータ装置で発電機とモータを接続して発電機が生成した電力の周波数をモータ制御用に調整している。一方で蓄電池は直流電流を供給する電源なので、インバータ装置の直流バスに蓄電池を接続し、蓄電池が供給した電力を直流/交流変換器で交流に変換して電動モータに供給している。
この構造ではインバータ装置の構造が複雑になり、またインバータ装置の直流バスに蓄電池が放電するので、直流バスの電圧を制御し難く、インバータ装置の動作を安定させ難い。そのため特許文献1の推進機構は構造が複雑で動作を安定させ難い問題があった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、拡散燃焼と予混合燃焼を選択して駆動するDFエンジンで発電する発電機と、蓄電池とを電源とする電気推進船の推進機構において、従来よりも構造が単純で安定した動作が可能な推進機構の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の電気推進船の推進機構は、液体燃料の拡散燃焼又はガス燃料の予混合燃焼を選択して駆動するDFエンジンで発電する発電機と、蓄電池と、前記発電機又は前記蓄電池から電力が供給されるとプロペラを駆動する電動モータと、前記発電機、前記蓄電池、及び前記電動モータの接続の選択及び電力の分配を制御する切替制御部を備える、電気推進船の推進機構であって、前記電動モータは直流モータであり、前記切替制御部は、前記蓄電池と前記電動モータとの接続および接続解除が可能な構成を有していて、前記DFエンジンが予混合燃焼で駆動中に、前記電動モータが前記発電機と接続された状態で前記発電機から電力の供給を受けて力行している場合、前記電動モータの負荷変動が予め定められた閾値を超えると前記電動モータと前記蓄電池を接続する構成を有していて、前記切替制御部は、前記DFエンジンの燃焼状態を示す信号を前記DFエンジンから受信する構成を有することを特徴とする。
また本発明の電気推進船は、上記記載の電気推進船の推進機構と、液化ガスを貯蔵する液化ガスタンクと、前記液化ガスが気化して、あるいは強制的に気化させて発生したガスを前記ガス燃料として前記DFエンジンに供給する供給手段を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成では、ガス燃料でDFエンジンが駆動中に直流モータの負荷変動が大きくなり、予め定められた閾値を超えると切替制御部が蓄電池から直流電流を直流モータに供給して駆動させる。
そのため、直流モータを蓄電池に接続する際に直流電力を交流電力に変換する変換器が不要となり、従来よりも構造が単純で安定した動作が可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、拡散燃焼と予混合燃焼を選択して駆動するDFエンジンで発電する発電機と、蓄電池とを電源とする電気推進船の推進機構において、従来よりも構造が単純で安定した動作が可能な推進機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る電気推進機構を備える電気推進船の概要を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1の発電機が交流発電機の場合を示す変形例である。
【
図3】
図1において、DFエンジンの駆動力で発電する発電機で電動モータを駆動する場合の電力供給を示す図である。
【
図4】
図1において、蓄電池で電動モータを駆動する場合の電力供給を示す図である。
【
図5】
図1において、電動モータが回生駆動している場合を示す図である。
【
図6】本実施形態に係る電気推進機構を用いた船舶の航行の手順の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づき本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
まず
図1~
図5を参照して本実施形態に係る推進機構3を備える電気推進船1の構成を説明する。
ここでは電気推進船1として、LNG(液化天然ガス)を貨物として運搬する貨物船であって、DFエンジン23で発電する発電機15と、蓄電池13の2つを電源とする電動モータ11でプロペラ17を駆動する推進機構3を備える貨物船を例示する。
図1に示すように電気推進船1は船体5、燃料タンク19、液化ガスタンク21、及び推進機構3を備える。
【0012】
船体5は電気推進船1の船殻となる構造体であり、船底、側壁、暴露甲板で船内を囲むように構成される。具体的な船型や船殻構造、あるいは水密隔壁の配置等は電気推進船1の用途に応じて適宜設計される。
【0013】
燃料タンク19は電気推進船1の燃料を貯蔵するタンクである。燃料タンク19の形状、構造、容量や設置位置は、電気推進船1に求められる航続距離や船体5の排水量や復原性、貨物の積載重量を考慮して適宜設定される。
燃料タンク19に貯蔵される燃料は液体燃料である。ここでいう液体燃料とは、液体の状態でDFエンジン23に供給される燃料を意味する。電気推進船1では液体燃料として重油のような石油系の液体燃料が主に用いられる。LNGを貨物として運搬する大型船の場合はC重油が主に用いられるが、小型船ではA重油が用いられる場合もある。
【0014】
液化ガスタンク21は、液化ガスとしてのLNGを貯蔵するタンクである。液化ガスとは、常温、常圧で気体のガスを冷却や圧縮で液体にしたものである。
電気推進船1で液化ガスは貨物であるため、液化ガスタンク21の形状、構造、容量や設置位置は、船体5の排水量や復原性、液化ガスの積載重量、積載時の液化ガスの温度や圧力を考慮して適宜設定される。
図1では独立球形タンクのように船体5から独立した球形のタンクを模式的に図示しているが、メンブレン式のように、液化ガスの圧力と重量を船体5で保持する構造でもよい。
液化ガスは貨物であるが、電気推進船1ではガス燃料としても利用する。ガス燃料とは気体の状態でDFエンジン23に供給される燃料を意味する。貨物である液化ガスをガス燃料として利用できる理由は、航行中の液化ガスタンク21内と外気の温度差による侵入熱と、船体運動による運動エネルギーによる温度上昇で液化ガスの一部が気化してBOG(Boil Off Gas)と呼ばれるガス燃料となるためである。また、図示しない気化器を用いて強制的に液化ガスを気化させてガス燃料として利用する場合もあるためである。
液化ガスタンク21にはLNGから気化したBOGをガス燃料としてDFエンジン23に供給する配管や、ガス燃料の圧力を調整する加圧機構を備える供給手段61が必要に応じて設けられる。
【0015】
推進機構3は電気推進船1を推進させる機構であり、DFエンジン23、発電機15、蓄電池13、直流モータである電動モータ11、減速機7、プロペラ17、及び切替制御部9を備える。
【0016】
DFエンジン23は液体燃料の拡散燃焼又はガス燃料の予混合燃焼を選択して駆動する内燃機関である。
DFエンジン23には燃料タンク19から液体燃料が供給され、液化ガスタンク21の内部に貯蔵された液化ガスが気化して生成したBOGがガス燃料として供給される。
【0017】
DFエンジン23が液体燃料の拡散燃焼で駆動する際の燃焼方式は圧縮着火であり、燃焼サイクルはディーゼルサイクルである。
液体燃料でDFエンジン23を駆動する場合、ディーゼルサイクルであることから熱効率がガス燃料を用いた場合よりも優れており、ノッキングや失火も生じないことから電動モータ11の負荷変動にも強い。
【0018】
DFエンジン23がガス燃料の予混合燃焼で駆動する際は、ガス燃料が予め図示しない吸気マニホールド等の燃焼室の前室で吸気と混合されてから燃焼室に導入される。燃焼方式は点火式であり、燃焼サイクルは主にオットーサイクルになる。
ガス燃料でDFエンジン23を駆動する場合、BOGを有効利用できる点が有利である。
【0019】
DFエンジン23は液体燃料の拡散燃焼又はガス燃料の予混合燃焼を選択して駆動でき、電気推進船1の推進に必要な動力を得られ、かつ電気推進船1に搭載できる範囲で構造、形状、寸法、設置位置が適宜設定される。通常は船体5の機関室に搭載できる範囲で大きさが決まる。なお2ストローク機関では掃気の際に燃焼ガスと吸気が混合されるため、ガス燃料を予混合するのに不向きであり、DFエンジン23は4ストローク機関であるのが好ましい。
液体燃料とガス燃料の切り替えは例えば手動であるが自動でも良い。通常は機関始動時と機関停止時は液体燃料で駆動し、航行時は液体燃料とガス燃料の一方を選択する。
【0020】
発電機15は電動モータ11の電源の1つであり、DFエンジン23の動力が伝達されて発電する発電機である。発電した電力は電動モータ11に供給され、電気推進船1の推進に用いられる。
発電機15はDFエンジン23の動力が伝達される入力軸を備え、電気推進船1の推進に必要な電力を生成でき、船体5に収納できる範囲で構造、形状、寸法、設置位置を適宜設定できる。通常はDFエンジン23に隣接して船体5の機関室に配置される。
【0021】
発電機15は直流発電機が好ましい。直流発電機とは、発電する電力が直流の発電機を意味する。
推進機構3は電動モータ11も直流であるため、発電機15が直流発電機の場合、発電機が発電した電力が直流のまま電動モータ11に供給される。
そのため発電機15が発電した電力を電動モータ11に供給する際に交流/直流変換用のコンバータが不要になり、発電機15が交流電力を生成する場合と比べて構造が単純になる。
【0022】
発電機15は交流発電機でもよい。交流発電機とは、発電する電力が交流の発電機を意味する。
推進機構3は電動モータ11が直流であるため、発電機15が交流発電機の場合、
図2に示すように、発電機15の電源出力部はコンバータ25に接続される。コンバータ25は交流電力を直流電力に変換する変換器であり、発電機15が発電した交流電力はコンバータ25に出力されて直流電力に変換され、電動モータ11に供給される。
発電機15が交流発電機の場合、既存の船舶の発電機は交流発電機が主流であるため、種類や構造の選択の幅が直流発電機よりも広い点で有利である。
なお、以下の説明では特に断りがない場合は発電機15が直流発電機である場合を例に説明する。
【0023】
図1に示す蓄電池13は電動モータ11の電源の1つであり、繰り返し充放電可能な電池である。
蓄電池13は電気推進船1の推進に必要な電力を充放電できる静電容量と充放電サイクル数を備え、船体5に収納できる範囲で電極や電解質等の基本構成、電池の種類や寸法、形状、設置位置が決定される。具体的な電池の種類としてはリチウムイオン二次電池を例示できる。なお、蓄電池13が放電する電力は直流である。
【0024】
電動モータ11は発電機15又は蓄電池13から電力が供給されると図示しない回転子が回転することでプロペラ17に回転力を伝達して回転させるモータである。
電動モータ11は、発電機15又は蓄電池13の電力で電気推進船1の推進に必要な回転力を生成してプロペラ17に伝達でき、船体5に収納できるのであれば構造、形状、寸法、設置位置は適宜設定できる。
【0025】
ただし、電動モータ11は直流モータである。理由は以下の通りである。
電気推進船1のプロペラ17を駆動するモータの電源として、発電機15と蓄電池13を設け、ガス燃料でDFエンジン23を駆動中に負荷変動が大きくなると蓄電池13を電源とする電気推進機関は公知である。
一方で蓄電池13が放電する電力は直流であるため、プロペラ17を駆動するモータが交流モータの場合は、直流/交流変換器を介して蓄電池13と交流モータを接続し、蓄電池13が放電した直流電力を交流電力に変換する必要がある。特にDFエンジン23の発電機15が交流発電機の場合、発電機15から電動モータ11に供給される交流電力の周波数を調整する交流/直流変換器、直流バス、直流/交流変換器を備えたインバータ装置が発電機15と電動モータ11の間を接続している。この構造で蓄電池13を直流/交流変換器に接続するためには直流バスに蓄電池13を接続する必要があり、直流バスを流れる電力が安定しないためインバータ装置の動作が不安定になりやすい。
これに対して本実施形態に係る推進機構3は電動モータ11が直流モータであり直流/交流変換器を介して蓄電池13と電動モータ11とを接続する必要が無く、構造を簡略化できる。
また、電動モータ11が直流モータであるため、発電機15が直流でも交流でもインバータ装置が不要である。そのため、インバータ装置の直流バスに蓄電池13を接続する不安定な構造にならず、安定した動作が可能である。
【0026】
減速機7は電動モータ11で生成された回転力の向きや回転数を調整してプロペラ17に伝達する図示しない歯車機構を備えた動力伝達機構である。減速機7の入力軸は電動モータ11の出力軸に連結されて動力が電動モータ11から伝達される。減速機7の出力軸はプロペラ17のボスに連結されてプロペラ17を所望の向き及び回転数で回転させる。
減速機7は電気推進船1の航行に必要な回転力をプロペラ17に伝達でき、船体5に収納できるのであれば構造、形状、寸法、設置位置は適宜設定できる。
【0027】
プロペラ17は減速機7から伝達された回転力を船舶の航行する方向に作用する推進力に変換することで電気推進船1を推進させる推進器である。プロペラ17は減速機7の出力軸に連結されて回転力が伝達されるボス、及び回転軸に直交する方向にボスから突設されて回転力を推進力に変換するプロペラ翼を備える。
プロペラ17は電気推進船1の航行に必要な推進力を生成でき、船体5や舵等の他の構造物に干渉しない範囲で構造、形状、寸法を適宜設定できる。
【0028】
切替制御部9は発電機15、蓄電池13、及び電動モータ11の間の電力線の接続の選択及び電力の分配を制御する装置であり、これらの装置と電力線で接続される。
【0029】
切替制御部9は直流電力の接続の選択及び電力の分配を行う装置であるため、蓄電池13や電動モータ11とはインバータ装置やコンバータのような交流と直流の変換器を介さずに接続される。
発電機15が直流発電機の場合も切替制御部9はインバータ装置やコンバータのような変換器を介さずに発電機15に接続される。
発電機15が交流発電機の場合、切替制御部9は
図2に示すコンバータ25を介して発電機15に接続される。
切替制御部9は発電機15、蓄電池13、及び電動モータ11の間の電力線の接続の選択及び電力の分配を制御できるのであれば、公知の配電盤とその制御装置を組み合わせた装置を用いればよい。
【0030】
切替制御部9は以下の条件に基づき発電機15、蓄電池13、及び電動モータ11の間の電力線の接続の選択及び電力の分配を制御する。
まず、DFエンジン23が液体燃料を用いた拡散燃焼中で、かつ電動モータ11が発電機15と接続された状態で発電機15から電力の供給を受けて力行している場合、切替制御部9は発電機15が電動モータ11と接続された状態を維持する。この状態では
図3に示すように発電機15が発電した直流電力が切替制御部9を介して電動モータ11に供給され、電動モータ11が力行する。電動モータ11が力行することで、回転力が生成され、減速機7を介してプロペラ17に伝達される。プロペラ17は伝達された回転力を推進力に変換することで電気推進船1を航行させる。
【0031】
DFエンジン23が拡散燃焼中か否かは、DFエンジン23の燃焼状態を示す信号をDFエンジン23が切替制御部9に出力するように構成し、受信した信号から切替制御部9が判断してもよい。あるいは切替制御部9にDFエンジン23が拡散燃焼中か予混合燃焼中かを選択する手動のスイッチを設け、DFエンジン23を操作する機関士がスイッチを操作することで切替制御部9が判断できるようにしてもよい。
【0032】
液体燃料を用いた拡散燃焼中は蓄電池13を電動モータ11の電源として使用することはないので、切替制御部9は蓄電池13を電動モータ11に接続しない。これは、液体燃料を用いた拡散燃焼はガス燃料を用いた予混合燃焼よりも負荷変動に対する追従性が高いため、蓄電池13を電源として使用しなくても十分な電力を電動モータ11に供給できるためである。
【0033】
ただし、蓄電池13の充電率が予め定められた所定の下限充電率以下になった場合、切替制御部9は、発電機15が発電した電力の少なくとも一部を蓄電池13に供給して蓄電池13を予め設定された上限充電率に達するまで充電してもよい。
このように蓄電池13の充電率が下限以下になると発電機15を用いて蓄電池13を充電することで、蓄電池13の電池切れを防止できる。
蓄電池13の充電率は放電電圧を測定し、放電曲線を参照する等して静電容量を算出すれば求められる。
【0034】
DFエンジン23がガス燃料を用いた予混合燃焼中で、かつ電動モータ11が発電機15と接続された状態で発電機15から電力の供給を受けて力行している場合、切替制御部9は以下の制御を行う。
まず切替制御部9は電動モータ11の負荷変動が予め定められた閾値を超えると電動モータ11と蓄電池13を接続する。予め定められた閾値とは、予混合燃焼の際にDFエンジン23にノッキングや失火が生じる可能性がある値である。
ここでいう負荷変動とは具体的には電動モータ11の負荷トルクの変動であり、負荷率等から計算してもよいし、トルクセンサ等で実測してもよい。
【0035】
電動モータ11と蓄電池13が接続されると、
図4に示すように蓄電池13から電力が電動モータ11に供給され、電動モータ11が駆動する。蓄電池13はガス燃料を用いた予混合燃焼と比べると負荷変動に対する追従性が高い。そのため、負荷変動が閾値を超えた場合に蓄電池13から電動モータ11に電力を供給することで、予混合燃焼で安定したDFエンジン23の駆動が困難な負荷変動が生じた場合でも、DFエンジン23を拡散燃焼に切り替える必要がない。そのためDFエンジン23を予混合燃焼で駆動できる負荷変動の条件をより広くできる。
また、電動モータ11が直流であるため、電動モータ11と蓄電池13を接続する際に直流電力を交流電力に変換する変換器が必要ない。そのため従来よりも構造が単純で安定した動作が可能となる。
【0036】
蓄電池13を電動モータ11に接続する場合は、切替制御部9は発電機15を電動モータ11に接続しなくてもよい。この場合は、切替制御部9は発電機15を電動モータ11に接続せずに蓄電池13に接続して、発電した電力で蓄電池13を充電してもよい。具体的には蓄電池13が電動モータ11を駆動することで消費された電力に相当する電力を発電機15が蓄電池13に供給して充電する。この場合、蓄電池13が電動モータ11に電力を供給している間に蓄電池13が電池切れになるのを防止できる。ただしこの構造では蓄電池13のみで電動モータ11を駆動するため、蓄電池13の出力が発電機15の最大出力以上である必要がある。
【0037】
蓄電池13を電動モータ11に接続する場合、発電機15が電動モータ11と接続された状態を維持して発電機15も電動モータ11に電力を供給してもよい。この場合、発電機15が電動モータ11に供給する電力で不足する分の電力を蓄電池13が電動モータ11に供給すればよい。この構成は、蓄電池13の容量は発電機15で供給する電力の不足分に相当する容量であればよいので、蓄電池13を小型化しやすい点で有利である。
【0038】
DFエンジン23がガス燃料を用いた予混合燃焼中で、電動モータ11が発電機15と接続されて電力の供給を受け力行しており、電動モータ11の負荷変動が閾値以下の場合、切替制御部9は拡散燃焼中と同様に電動モータ11を蓄電池13に接続しない。この場合、切替制御部9は発電機15が電動モータ11と接続された状態を維持する。
これは、電動モータ11の負荷変動が閾値以下の場合、DFエンジン23が予混合燃焼の場合でも安定した動作ができるためである。また蓄電池13を電源として使用し続けると電池切れになる可能性があるためである。
電動モータ11と発電機15が接続された状態では発電機15から電力が電動モータ11に供給され、電動モータ11が駆動する。
【0039】
なお、予混合燃焼中に蓄電池13の充電率が予め定められた所定の下限充電率以下の場合、切替制御部9は、発電機15が発電した電力の少なくとも一部を蓄電池13に供給して蓄電池13を予め設定された上限充電率に達するまで充電してもよい。理由は拡散燃焼中に蓄電池13を充電する場合と同様に電池切れを防ぐためである。
【0040】
電動モータ11が回生駆動している場合、具体的には電動モータ11から回生発電による電力が切替制御部9に供給された場合、切替制御部9は、電動モータ11を蓄電池13に接続して、
図5に示すように供給された回生電力を蓄電池13に充電する。電動モータ11が回生駆動している場合とは、波浪の影響等でプロペラ17が航行時と逆回転した場合が挙げられる。この場合、回生電力を消費する装置がないと、切替制御部9、発電機15、蓄電池13に回生電力が逆電力として流れ込み、ブレーカーの遮断、あるいは電力上昇による加熱に起因する装置の焼損等の原因となるためである。
回生電力を消費する方法としては抵抗体で熱として消費する方法もあるが、回生電力を蓄電池13に充電することで、従来は抵抗体で熱として消費されていた回生電力の一部を電気推進船1の航行用の電力として利用できる。
なお、回生電力を蓄電池13に充電する際は、電動モータ11を発電機15に接続しないのが好ましい。接続すると逆電力が発電機15に流れ込む可能性があるためである。また、電動モータ11が回生駆動中に蓄電池13の充電率が上限充電率以上である場合や、蓄電池13の放電容量を超える電力の回生電力が発生している場合は、回生電力を蓄電池13に充電せずに図示しない抵抗体で熱として消費させる。
【0041】
電動モータ11を蓄電池13に接続した場合、接続を解除する条件は接続の条件を満たさなくなった場合である。具体的には電動モータ11が回生発電中に電動モータ11を蓄電池13に接続した場合、接続を解除する条件は、回生発電をしなくなった場合か、充電が不可能になった場合である。
電動モータ11が力行中に電動モータ11を蓄電池13に接続した場合、接続を解除する条件は、DFエンジン23が液体燃料を用いた拡散燃焼中になった場合である。あるいは、DFエンジン23がガス燃料を用いた予混合燃焼中に電動モータ11の負荷変動が閾値以下になった場合である。
以上が本実施形態における推進機構3を備える電気推進船1の構造の説明である。
【0042】
次に
図6を参照して本実施形態に係る推進機構3を備える電気推進船1の航行の手順の一例を説明する。以下の説明では、電動モータ11と蓄電池13とを接続する場合でも電動モータ11と発電機15の接続を維持し、発電機15が電動モータ11に供給する電力で不足する分の電力を蓄電池13が電動モータ11に供給する手順を例にする。
まず切替制御部9は電動モータ11からの逆電力の供給の有無から電動モータ11が回生発電中か否かを判断し、回生発電中の場合はS2に進み、回生発電中でない場合はS3に進む(
図6のS1)。
S1で回生発電中と判断した場合、切替制御部9は蓄電池13が回生電力を充電可能か否か、具体的には蓄電池13の充電率が上限充電率未満で、かつ回生電力が蓄電池13の放電容量を超えていないかを判断する(
図6のS2)。充電可能と判断した場合は蓄電池13と電動モータ11を接続し、回生電力を蓄電池13に充電してリターンする(
図6のS2-2)。この際、切替制御部9は電動モータ11と発電機15を接続しない。S2で充電可能でないと判断した場合は蓄電池13と電動モータ11を接続せずに、図示しない抵抗体と電動モータ11を接続して回生電力を熱エネルギーとして消費させてリターンする(
図6のS2-3)。
【0043】
S1で回生発電中でないと判断した場合、切替制御部9は電動モータ11と発電機15を接続し、発電機15が供給する電力で電動モータ11を駆動させる(
図6のS3)。この際、直前まで回生発電をしていた等の理由で電動モータ11と蓄電池13が接続されていた場合は接続を解除する。次に切替制御部9はDFエンジン23がガス燃焼中か否か、つまりガス燃料を用いた予混合燃焼中か否かを判断し、ガス燃焼中の場合はS5に進み、ガス燃焼中でない場合はS7-2に進む(
図6のS4)。
S4でDFエンジン23がガス燃焼中であると判断した場合、切替制御部9は電動モータ11の負荷変動を取得する(
図6のS5)。さらに切替制御部9はS5で取得した負荷変動が予め定められた閾値を超えるか否かを判断し、閾値を超えると判断した場合はS7に進み、超えないと判断した場合はS7-2に進む(
図6のS6)。
S6で負荷変動が閾値を超えると判断した場合、切替制御部9は蓄電池13と電動モータ11を接続し、蓄電池13が供給する電力が負荷変動分を加勢し、電動モータ11を駆動させてS8に進む(
図6のS7)。
【0044】
S4でDFエンジン23がガス燃焼でないと判断した場合、S6で負荷変動が閾値を超えないと判断した場合、切替制御部9は蓄電池13と電動モータ11を接続せず、既に接続されている場合は接続を解除してS8に進む(
図6のS7-2)。
S7又はS7-2を実行した場合、切替制御部9は蓄電池13の充電率を取得する(
図6のS8)。取得した充電率が下限充電率以下の場合はS10に進み、下限充電率以下でない場合はリターンする(
図6のS9)。
S9で充電率が下限充電率以下と判断した場合、切替制御部9は発電機15と蓄電池13を接続して、蓄電池13の充電率が上限充電率に達するまで蓄電池13を充電してリターンする(
図6のS10)。
以上が本実施形態に係る推進機構3を備える電気推進船1の航行の手順の一例の説明である。
【0045】
このように本実施形態の推進機構3は、ガス燃料でDFエンジン23が駆動中に負荷変動が大きくなると切替制御部9が蓄電池13から直流電流を、直流モータである電動モータ11に供給して駆動させる。
そのため、蓄電池13を電動モータ11に接続する際に直流電力を交流電力に変換する変換器が不要となり、従来よりも構造が単純で安定した動作が可能となる。
【0046】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の技術思想の範囲内において各種変形例及び改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1 :電気推進船
3 :推進機構
5 :船体
7 :減速機
9 :切替制御部
11 :電動モータ
13 :蓄電池
15 :発電機
17 :プロペラ
19 :燃料タンク
21 :液化ガスタンク
23 :DFエンジン
25 :コンバータ
61 :供給手段