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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
   E04B 7/14 20060101AFI20240716BHJP
   E04B 7/02 20060101ALI20240716BHJP
   E04B 1/34 20060101ALI20240716BHJP
   E04H 3/10 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
E04B7/14
E04B7/02 521F
E04B1/34 A
E04H3/10 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020128583
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025641
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年10月10日 確認済証交付後の着工による公開 令和2年5月14日 日経BP社発行 「日経アーキテクチュア2020年5月14日号、第35~37項」にて公開 令和2年5月14日 https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/mag/na/18/00104/050700004/にて公開 令和2年3月26日 検査済証による公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 直行
(72)【発明者】
【氏名】堀 良平
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-017768(JP,A)
【文献】特開平07-197582(JP,A)
【文献】特開2003-268915(JP,A)
【文献】特公昭49-023405(JP,B1)
【文献】特開平02-274946(JP,A)
【文献】特開平08-060742(JP,A)
【文献】特開2002-047730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 7/00 - 7/24
E04B 1/34
E04H 3/10 - 3/30
E04H 1/00 - 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視で異なる3方向へ延設された梁によって三角形グリッドのトラス状に形成され、下方へ湾曲した屋根と、
前記梁が架設される支持躯体と、
を備えた建物。
【請求項2】
前記梁は、第一方向梁、第二方向梁及び第三方向梁を備え、
前記第一方向梁は直線に沿い、前記第二方向梁及び前記第三方向梁は曲線に沿う、
請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記屋根には、前記第一方向梁、前記第二方向梁及び前記第三方向梁と交わる方向にスラスト力が作用する、
請求項2に記載の建物
【請求項4】
前記第一方向梁は、延設方向の一方から他方へ向かって傾斜して配置されている、
請求項2に記載の建物。
【請求項5】
前記第一方向梁、前記第二方向梁及び前記第三方向梁はそれぞれ木製とされ、
前記第一方向梁、前記第二方向梁及び前記第三方向梁の接合部において、
前記第一方向梁が通し材とされ、
前記第二方向梁及び前記第三方向梁は、前記第一方向梁の側面に突き付けて配置され、前記第一方向梁を貫通する通しボルトを用いて前記第一方向梁へ接合されている、
請求項2~4の何れか1項に記載の建物。
【請求項6】
前記支持躯体は基礎から立設された柱であり、
前記柱の上端と前記基礎とは、前記屋根から作用するスラスト力を処理するスラスト力処理機構で連結されている、請求項1~5の何れか1項に記載の建物。
【請求項7】
平面視で異なる3方向へ延設された梁によって三角形グリッドのトラス状に形成され、下方へ湾曲した屋根と、
前記梁が架設される支持躯体と、
を備え、
前記支持躯体は基礎から立設された柱であり、
前記柱の上端と前記基礎とは、前記屋根から作用するスラスト力を処理するスラスト力処理機構で連結され、
前記スラスト力処理機構は、
上端部が前記柱の上端部に接合され、下端部が2階の床梁に接合されたバックステーと、
上端部が前記床梁に接合され、下端部が前記基礎に接合された引張材と、
前記引張材に設けられたターンバックルと、
を備えている、建物
【請求項8】
平面視で異なる3方向へ延設された梁によって三角形グリッドのトラス状に形成され、下方へ湾曲した屋根と、
前記梁が架設される支持躯体と、
を備え、
2階の床梁が、平面視で前記梁と重なる位置に配置され、
前記床梁の接合部は1階の柱で支持されている、
建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、アーチ形状とされた大スパン構造の屋根が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-17768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の建物では、アーチ形状の集成材ばり間に、横補剛材が架け渡されている。これにより、集成材ばりと横補剛材とで囲まれた領域には、四角形状の構面が形成される。
【0005】
ここで、構面が四角形状の場合、屋根に水平力が作用した際に、対角線同士が離れる方向及び近づく方向に変形し易い。そして構面が変形すると、屋根全体の形状も変形し、屋根を支持する柱に作用するスラスト力が大きくなる。スラスト力が大きくなると、柱の断面を大きくする必要があり、また、スラスト力に抵抗するための大掛かりな機構を設ける必要がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、屋根から支持躯体に作用するスラスト力を小さくできる建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の建物は、平面視で異なる3方向へ延設された梁によって、三角形グリッドのトラス状に形成され、下方へ湾曲した屋根と、前記梁が架設される支持躯体と、を備えている。
【0008】
請求項1の建物においては、屋根が下方へ湾曲している。このため、屋根が架設される支持躯体には、屋根から引張方向のスラスト力が作用する。
【0009】
屋根は、平面視で異なる3方向へ延設された梁によって、三角形グリッドのトラス状に形成されている。三角形グリッドの構面は、面内方向の力が作用しても変形し難い。このため屋根は、三角形グリッドのトラス状に形成されていない場合と比較して、面内剛性が高く、面内方向へ変形し難い。これにより、屋根から支持躯体に作用するスラスト力を小さくできる。
請求項2の建物は、請求項1に記載の建物において、前記梁は、第一方向梁、第二方向梁及び第三方向梁を備え、前記第一方向梁は直線に沿い、前記第二方向梁及び前記第三方向梁は曲線に沿う。
請求項3の建物は、請求項2に記載の建物において、前記屋根には、前記第一方向梁、前記第二方向梁及び前記第三方向梁と交わる方向にスラスト力が作用する。
請求項4の建物は、請求項2に記載の建物において、前記第一方向梁は、延設方向の一方から他方へ向かって傾斜して配置されている。
【0010】
請求項5の建物は、請求項2~4の何れか1項に記載の建物において、前記第一方向梁、前記第二方向梁及び前記第三方向梁はそれぞれ木製とされ、前記第一方向梁、前記第二方向梁及び前記第三方向梁の接合部において、前記第一方向梁が通し材とされ、前記第二方向梁及び前記第三方向梁は、前記第一方向梁の側面に突き付けて配置され、前記第一方向梁を貫通する通しボルトを用いて前記第一方向梁へ接合されている。
【0011】
請求項5の建物においては、屋根が木製の第一方向梁、第二方向梁及び第三方向梁を備えている。これらの梁の接合部においては、第二方向梁及び前記第三方向梁が、第一方向梁の側面に突き付けて配置され、第一方向梁へ通しボルトで接合されている。
【0012】
すなわち、これらの梁は、同じ構面に配置され、連結されている。このため、屋根は第一方向梁、第二方向梁及び第三方向梁に沿う方向の剛性が高められ、面内方向へ変形し難い。これにより、屋根から支持躯体に作用するスラスト力を小さくできる。
【0013】
また、屋根は下方へ湾曲している。一例として、屋根がカテナリー曲線や曲面に沿う形状の場合、支持躯体には、第一方向梁、第二方向梁及び第三方向梁の少なくともひとつから、「軸力」としての引張力が作用する。
【0014】
このように、本態様においては、木製の梁に「曲げ力」でなく「軸力」が作用する。このため、梁の部材断面の全体に耐力を期待できる。これにより、曲げ梁と比較して梁成を小さくできる。
【0015】
さらに、接合部では通しボルトで部材間の応力を伝達している。このため、部材同士を相決り等で連結する場合と比較して、木材の断面欠損が少ない。これにより、軸耐力が低減され難い。
【0016】
請求項6の建物は、請求項1~5の何れか1項に記載の建物において、前記支持躯体は基礎から立設された柱であり、前記柱の上端部と前記基礎とは、前記屋根から作用するスラスト力を処理するスラスト力処理機構で連結されている。
【0017】
請求項6の建物では、支持躯体としての柱の上端部が、スラスト力処理機構を介して基礎と連結されている。このため、柱の上端部に屋根から作用するスラスト力を、スラスト力処理機構に負担させることができる。これにより、柱の断面積を小さくできる。
【0018】
請求項7の建物は、平面視で異なる3方向へ延設された梁によって三角形グリッドのトラス状に形成され、下方へ湾曲した屋根と、前記梁が架設される支持躯体と、を備え、前記支持躯体は基礎から立設された柱であり、前記柱の上端と前記基礎とは、前記屋根から作用するスラスト力を処理するスラスト力処理機構で連結され、前記スラスト力処理機構は、上端部が前記柱の上端部に接合され、下端部が2階の床梁に接合されたバックステーと、上端部が前記床梁に接合され、下端部が前記基礎に接合された引張材と、前記引張材に設けられたターンバックルと、を備えている。
【0019】
請求項7の建物は、スラスト力処理機構として、バックステー、引張材及びターンバックルを備えている。ターンバックルは張力を調整できる。このため、同じ部材を用いて、異なるスラスト力を処理することができる。すなわち作用するスラスト力の大きさに応じて部材を変える必要がない。これにより、部材を統一して建物の意匠性を向上させることができる。
【0020】
請求項8の建物は、平面視で異なる3方向へ延設された梁によって三角形グリッドのトラス状に形成され、下方へ湾曲した屋根と、前記梁が架設される支持躯体と、を備え、2階の床梁が、平面視で前記梁と重なる位置に配置され、前記床梁の接合部は1階の柱で支持されている。
【0021】
請求項8の建物では、2階の床梁が平面視で屋根の梁と重なる位置に配置されている。屋根の梁は異なる3方向へ延設されているため、床梁も、異なる3方向へ延設されている。これにより、床梁の何れかは、建物の外壁に対して傾斜して配置される。
【0022】
ここで、2階の床梁の接合部は、1階の柱で支持されている。この床梁は建物の外壁に対して傾斜して配置されているため、1階の柱は、建物の外壁に対して斜め方向に間隔を空けて配置される。
【0023】
これにより、建物の1階部分には、建物の外壁に対して斜め方向に長尺部材を配置することができる。長尺部材としては、1階の柱の間隔よりも長尺の部材や、表側外壁と裏側外壁の間隔より長尺の部材を配置できる。また、前面道路に対して建物の外壁が平行であっても、道路を大きく横切ることなく長尺部材を出し入れできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、屋根から支持躯体に作用するスラスト力を小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る建物を示す立断面図であり、図2のA-A線断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る建物の屋根における梁の配置を示した平面図である。
図3】本発明の実施形態に係る建物の屋根における梁の接合部を示した平面図である。
図4】(A)は本発明の実施形態に係る建物のスラスト力処理機構において、バックステーの上端部の構造を示した平面図であり、(B)は正面図であり、(C)は側面図である。
図5】(A)は本発明の実施形態に係る建物のスラスト力処理機構において、バックステーの下端部の構造を示した側面図であり、(B)は正面図である。
図6】本発明の実施形態に係る建物の1階部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る建物について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0027】
<建物>
本発明の一実施形態に係る建物10は、図1に示すように、2階建ての建物とされている。建物10は、基礎12、柱14、16、梁20、屋根30及びスラスト力処理機構40を備えた、木造の建築物である。
【0028】
なお、図1は、建物10の構造を示すための概念図であり、床仕上げ材、天井仕上げ材、外壁材及び屋根葺き材などの図示は省略されている。
【0029】
基礎12は、独立基礎、布基礎、べた基礎または杭基礎等とされ、コンクリートを用いて地盤上に構築されている。
【0030】
柱14は、基礎12から立設された木製柱であり、梁20を支持している。柱14は、建物10の外周より内側に配置された内柱である。柱16も、基礎12から立設された木製柱であり、梁20を支持している。この柱16は、本発明における支持躯体の一例であり、建物10の外周に沿って配置される外柱である。また、柱16は通し柱とされ、屋根30を支持している。
【0031】
なお、「通し柱」とは建物10の1階部分から2階部分に亘って配置される柱のことである。柱16は、1階部分と2階部分とを1本の木材で形成してもよいし、複数本の木材を上下に繋ぎ合わせて形成してもよい。
【0032】
柱16の上端部には、屋根30が架設されている。また、屋根30が架設された部分の下方には、繋ぎ梁18が配置されている。繋ぎ柱18は、互いに隣り合う柱16を連結している。
【0033】
<屋根>
(梁)
図2に示すように、屋根30は、それぞれ木製とされた第一方向梁(梁32)、第二方向梁(梁34)及び第三方向梁(梁36)を備えている。
【0034】
梁32、34、36の延設方向は、平面視でそれぞれ60度ずつ異なる方向とされている。また、梁32と梁34との接合箇所は、梁32と梁36との接合箇所と一致している。これにより、屋根30は、平面視で異なる3方向へ延設された梁32、34、36によって三角形グリッド(正三角形グリッド)のトラス状に形成されている。
【0035】
屋根30には、矢印Mで示す方向に沿って水勾配が付けられている。また、屋根30は、矢印Mで示す方向においては、直線に沿う形状とされている。一方、屋根30は、矢印Nで示す方向において、下方へ湾曲した形状、具体的にはカテナリー曲線に沿う形状とされている。矢印Mは、梁32の延設方向に沿う方向であり、矢印Nは、矢印Mと直交する方向である。
【0036】
すなわち、梁32は、直線に沿う部材であり、延設方向の一方から他方へ向かって、下向きに傾斜して配置されている。
【0037】
一方で、梁34、36は曲線に沿う部材である。梁34、梁36は、屋根30が矢印Nに沿うカテナリー曲線に沿う形状となるように、湾曲して配置されている。なお、「湾曲」とは、梁34、36自体が曲がった材料を用いて形成されている態様を含む。また、直線状に形成された梁34、36が、梁32との接合部において傾斜して取り付けられている態様を含む。
【0038】
屋根30が矢印Nに沿うカテナリー曲線に沿う形状とされていることにより、屋根30から柱16(図1図6参照)へ、矢印Nに沿う方向のスラスト力が作用する。このスラスト力は、梁32、34、36の少なくともひとつから柱16へ引張力として作用する。また、矢印Nに沿うスラスト力は、梁32、34、36に沿う方向の分力として、それぞれの柱16へ作用する。
【0039】
ここで、例えば図2において破線の囲み線で示した領域H1に配置された柱16は、梁34、36から引張力を受ける。また、領域H2に配置された柱16は、梁32、34から引張力を受ける。さらに、領域H3に配置された柱16は、梁34から引張力を受ける。このように、柱16は、配置された位置によって、接合される梁の本数が異なり、また、引張力を受ける梁が異なる。
【0040】
すなわち、スラスト力が、梁32、34、36の「少なくともひとつから」柱16へ引張力として作用する、とは、それぞれの柱16に対して引張力を作用させる梁が必ずしも一致しないことを示している。
【0041】
(梁の接合部)
図3に示すように、梁32、34、36の接合部において、梁32は通し材とされ、梁34及び梁36は、梁32の側面に突き付けて配置されている。そして、梁34及び梁36は、梁32を貫通する通しボルトB1によって梁32へ接合されている。
【0042】
以下の説明においては、説明の便宜上、必要に応じて梁32に接合される一方の梁36(図3における紙面右側の梁36)を梁36Rとし、他方の梁36(図3における紙面左側の梁36)を梁36Lと称す場合がある。
【0043】
例えば梁36を梁32に接合するためには、まず、梁34を梁32に接合する。次いで、梁36Rを梁32に突き付けて配置する。このとき、梁36Rは、梁32と梁34との接合部に突き付けて配置する。
【0044】
梁36Rには、梁36Rの軸方向に沿う挿入孔36Aが形成されている。挿入孔36Aは、梁32と梁34との接合部に突き付けられる端面に開口する孔である。また、梁32には、梁36Rが突き付けられた状態で挿入孔36Aと連通する貫通孔32Aが形成されている。
【0045】
梁36Rを梁32に突き付けた状態で、貫通孔32Aへ通しボルトB1を挿通する。通しボルトB1は、貫通孔32Aを貫通させて、挿入孔36Aへ挿入する。
【0046】
次に、梁36Lを梁32に突き付けて配置する。梁36Lには、梁36Rと同様に、軸方向に沿う挿入孔36Aが形成されている。挿入孔36Aは、梁32と梁34との接合部に突き付けられる端面に開口する孔である。
【0047】
梁36Lを梁32に突き付けて配置する際、梁36Lの挿入孔36Aへ、貫通孔32Aから梁36L側へ突出した通しボルトB1を挿通させる。このボルトB1の両端部にナットを捩じ込むことで、梁36が梁32へ接合される。
【0048】
なお、梁36R、36Lには、それぞれ挿入孔36Aと交わるザグリ孔36Bが形成されている。ザグリ孔36Bは梁36R、36Lの側面のひとつから、対向する側面へ向かって開けられた孔である。挿入孔36Aに挿入されたボルトB1には、ザグリ孔36Bからナットを捩じ込むことができる。
【0049】
梁34を梁32に接合する方法も、梁36を梁32に接合する方法と同様であり、詳しい説明は省略する。なお、梁34には、梁32との接合部に突き付けられる端面に開口する挿入孔34Bが形成されている。また、梁34には、挿入孔34Bと交わるザグリ孔34Cが形成されている。さらに、梁32には、梁34が突きつけられた状態で、挿入孔34Bと連通する貫通孔32Bが形成されている。
【0050】
屋根30を施工する際は、梁32、34、36を所定の位置に配置して、支保工で支持する。そして、屋根30における中央部(地盤面からの高さが最も低い部分)から外周部に向かって、順次、梁32、34、36を接合する。これにより、梁32、34、36の接合部に配置した通しボルトB1の応力状態を、常に、屋根30が組み上がったときの応力状態とすることができる。
【0051】
なお、梁32、34、36は互いに略等しい断面積の部材であり、かつ、高さが略等しい部材である。梁32、34、36は互いに同じ構面に配置されており、これらの接合部において、それぞれの上面及び下面は略同一の高さに配置される。この「構面」とは、図2に矢印Nで示した方向に沿うカテナリー曲線に沿う構面であり、湾曲した面である。
【0052】
なお、「略等しい断面積」、「高さが略等しい」、「略同一の高さ」とは、これらの各値が完全に一致する態様のほか、梁32の断面積及び高さに対して概ね25%程度以内の差を有している態様を含む。具体的には、例えば梁32の梁成を大きく形成し、梁32より梁成の小さい梁34、36が梁32に接合される形状等とすることができる。
【0053】
また、梁32は、梁32、34、36の接合部において通し材とされているが、その他の部分においては分割することができる。この場合、任意の方法で継手を形成すればよい。例えば図3には、追っ掛け大栓継ぎによって梁32の継手を形成した一例が示されている。
【0054】
<スラスト力処理機構>
スラスト力処理機構40は、柱16の上端部と基礎12とを連結し、屋根30から作用するスラスト力を処理する構造体である。スラスト力処理機構40は、図1に示すように、バックステー42、引張材としての鋼棒44及びターンバックル46(図5参照)を備えて形成されている。なお、鋼棒44は、引張力に抵抗することができれば、ワイヤ等としてもよい。
【0055】
(バックステー)
バックステー42は、図4(A)~(C)、図5に示すように、上端部が柱16の上端部に接合され、下端部が2階の床梁である梁20に接合されている。なお、図4(A)は、図2において破線の囲み線で示した領域H1の部分拡大図である。
【0056】
バックステー42は木材を用いて形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らず、引張力を負担できる材料であればよい。例えばバックステー42としては、山形鋼や溝形鋼、H形鋼やフラットバーなど各種の鋼材を用いることができる。
【0057】
バックステー42の上端部の構造について説明する。図4(B)に示すように、柱16の上端面には、接合プレート16Aが固定されている。接合プレート16Aは、柱16の上端面から上方に向かって突出した金属製(例えば鋼製)の板材である。接合プレート16Aの下端部にはベースプレート16Bが溶接されている。このベースプレート16Bが、柱16の上端面にアンカーボルトによって固定されている。つまり、接合プレート16Aはベースプレート16Bを介して柱16の上端面に接合されている。
【0058】
図4(A)に示すように、接合プレート16Aの両側には梁34、36の端部が配置されている。換言すると、接合プレート16Aは、梁34、36の端部によって挟まれている。さらに、これらの接合プレート16A、梁34及び梁36の両側には、一対のバックステー42の上端部が配置されている。換言すると、接合プレート16A、梁34及び梁36は、一対のバックステー42の上端部によって挟まれている。
【0059】
接合プレート16A、梁34及び梁36が、一対のバックステー42の上端部によって挟まれた状態で、これらの接合プレート16A、梁34、36及び一対のバックステー42は、通しボルトB2によって連結されている。これにより、梁34、36に作用する軸力が、屋根30の内側へ向かう引張力として、柱16及びバックステー42へ伝達される。
【0060】
なお、以下の説明においては、梁34、36に作用する軸力を、同じ符号を用いて「引張力T1」と記載する場合がある。但し、梁34、36に作用する軸力の大きさは、互いに異なるものであってもよい。
【0061】
本実施形態においては、接合プレート16Aに、内挿ボルトB3の先端が溶接されている。内挿ボルトB3は、軸方向が梁34、36の延設方向に沿って配置され、梁34、36の端面に形成された挿入孔34D、36Dに挿入されている。内挿ボルトB3には、梁34、36の側面に形成されたザグリ孔からナットが捩じ込まれている。
【0062】
これにより、引張力T1が、接合プレート16Aへ伝達される。また、引張力T1は、接合プレート16Aから内挿ボルトB3を介してバックステー42へ伝達される。
【0063】
次に、バックステー42の下端部の構造について説明する。図5(A)、(B)に示すように、バックステー42の下端部は、梁20に接合されている。具体的には、図5(B)に示すように、梁20の両側には一対のバックステー42の下端部が配置されている。換言すると、梁20は、一対のバックステー42の下端部によって挟まれている。
【0064】
また、梁20が一対のバックステー42の下端部によって挟まれた状態で、これらの梁20及び一対のバックステー42は、通しボルトB4によって連結されている。これにより、バックステー42に作用する軸力(引張力T2)が、梁20へ伝達される。
【0065】
なお、梁20は、図1に示すように、柱14に支持された2階の床梁である。梁20は、柱16から屋外側へ突出した部分において、片持ち梁とされている。また、梁20の先端は、図5(A)に示すように、繋ぎ梁22によって連結されている。
【0066】
(鋼棒、ターンバックル)
鋼棒44は、上端部が梁20に接合され、下端部が基礎12に接合された引張材である。鋼棒44は、梁20を上下に貫通する貫通孔20Aに挿通され、上端部にナットが捻じ込まれている。また、鋼棒44の下端部は、建物10の基礎12に固定された接合部材12Aに固定されている。さらに、鋼棒44の中間部には、ターンバックル46が設けられている。
【0067】
これにより、バックステー42に作用する軸力(引張力T2)が、梁20を介して、鋼棒44へ伝達される。また、鋼棒44に作用する軸力(引張力T3)は、基礎12へ伝達される。
【0068】
<建物の平面プラン>
図6には、建物10における1階部分の平面図が概略で示されている。この図において、一点鎖線20L1、20L2、20L3は、2階の床梁である梁20(図1参照)の中心線を示している。この梁20は、図2に示す梁32、34、36と平面視で重なる位置に配置されている。
【0069】
具体的には、一点鎖線20L1に沿う梁20は、梁32と平面視で重なる位置に配置されている。また、一点鎖線20L2に沿う梁20は、梁34と平面視で重なる位置に配置されている。さらに、一点鎖線20L3に沿う梁20は、梁36と平面視で重なる位置に配置されている。
【0070】
そして、柱14は、3方向に延設された梁20の交点(接合部)において、梁20を下方から支持している。
【0071】
図6において、二点鎖線Eは、建物10が構築された敷地とそれ以外の土地との境界線を示している。図6における紙面上側の敷地境界線は、道路Rに面している。建物10の1階部分には、道路Rに面する壁面に開口部Wが設けられている。開口部Wは、歩行者が出入り可能な開口部とされている。
【0072】
<作用及び効果>
本発明の実施形態に係る建物10においては、図1に示すように、屋根30が下方へ湾曲している。このため、屋根30が架設される支持躯体である柱16には、屋根30から引張方向(図1において対向する柱16が設置された方向)のスラスト力が作用する。
【0073】
屋根30は、図2に示すように、平面視で異なる3方向へ延設された梁32、34、36によって、三角形グリッドのトラス状に形成されている。三角形グリッドの構面は、面内方向の力が作用しても変形し難い。このため屋根30は、三角形グリッドのトラス状に形成されていない場合(例えば四角い格子状グリッドに形成された場合)と比較して、面内剛性が高く、面内方向へ変形し難い。これにより、屋根30から支持躯体である柱16(図1参照)に作用するスラスト力を小さくできる。
【0074】
また、本発明の実施形態に係る建物10においては、図3に示すように、屋根30が木製の梁32、34、36を備えている。これらの梁32、34、36の接合部においては、梁34、36が、梁32の側面に突き付けて配置され、第一方向梁へ通しボルトB1で接合されている。
【0075】
すなわち、これらの梁32、34、36は、同じ構面(カテナリー曲線に沿う構面)に配置され、連結されている。このため、屋根30は梁32、34、36に沿う方向の剛性が高められ、面内方向へ変形し難い。これにより、屋根30から柱16に作用するスラスト力を小さくできる。
【0076】
また、建物10においては、屋根30は下方へ湾曲し、カテナリー曲線に沿う形状とされている。このため、柱16には、梁32、34、36の少なくともひとつから、「軸力」として引張力が作用する。
【0077】
このように、本実施形態においては、木製の梁32、34、36に「曲げ力」でなく「軸力」が作用する。このため、梁32、34、36の部材断面の全体に耐力を期待できる。これにより、曲げ梁と比較して梁成を小さくできる。また、梁32、34、36には、クリープ変形も生じ難い。
【0078】
さらに、図3に示すように、梁32、34、36の接合部では、通しボルトB1で部材間の応力を伝達している。このため、部材同士を相決り等で連結する場合と比較して、木材の断面欠損が少ない。これにより、軸耐力が低減され難い。
【0079】
また、本発明の実施形態に係る建物10では、図1に示すように、支持躯体としての柱16の上端部が、スラスト力処理機構40を介して基礎12と連結されている。このため、柱16の上端部に屋根30から作用するスラスト力を、スラスト力処理機構40に負担させることができる。これにより、柱16の断面積を小さくできる。
【0080】
また、スラスト力処理機構40は、図4(A)~(C)、図5(A)、(B)に示すように、バックステー42、引張材としての鋼棒44及びターンバックル46を備えている。ターンバックル46は張力を調整できる。このため、同じ部材を用いて、異なるスラスト力を処理することができる。すなわち作用するスラスト力の大きさに応じて部材を変える必要がない。これにより、部材を統一して建物の意匠性を向上させることができる。
【0081】
また、鋼棒44の下端部は、基礎12に固定されている。基礎12には、柱16及び柱14を介して、建物10の自重が作用している。このため、建物10の自重を利用してスラスト力を処理できる。
【0082】
また、本発明の実施形態に係る建物10では、図6の一点鎖線20L1、20L2、20L3で示すように、2階の床梁である梁20が、平面視で屋根30の梁32、34、36(図2参照)と重なる位置に配置されている。屋根30の梁32、34、36は異なる3方向へ延設されているため、床梁である梁20も、異なる3方向へ延設されている。これにより、梁20のうち、梁32、34に沿う梁20は、建物の外壁(道路Rに面する外壁R1)に対して傾斜して配置される。
【0083】
ここで、梁20の接合部は、1階の柱14で支持されている。この梁20(一点鎖線20L1、20L2に沿う梁20)は建物の外壁R1に対して傾斜して配置されている。このため、1階の柱14は、建物の外壁R1に対して斜め方向に間隔を空けて配置される。
【0084】
これにより、建物10の1階部分には、建物の外壁R1に対して斜め方向に長尺部材を配置することができる。長尺部材としては、1階の柱の間隔よりも長尺の部材(例えば長尺部材K1)や、表側外壁(外壁R1)と裏側外壁(外壁R2)の間隔より長尺の部材(例えば長尺部材K2)を配置できる。また、矢印EXで示すように、道路Rを大きく横切ることなく長尺部材K2等を出し入れできる。長尺部材としては、一例として、競技用ボート(カヌー)などが挙げられる。
【0085】
また、柱14には、物品を吊り下げるためのブラケットを設置することができる。柱14にブラケットを設置することで、高さ方向に複数の長尺部材を収納できる。
【0086】
なお、本実施形態においては、バックステー42の下端部が梁20に接合され、梁20と基礎12とを鋼棒44で連結しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えばバックステー42の下端部を、基礎12に固定してもよい。この場合、スラスト力に抵抗できるカウンターウェイトを適宜設けることが好ましい。
【0087】
バックステー42の下端部を基礎12に固定する場合は、建物10を1階建てとしてもよい。また、バックステー42をどこに固定するかに関わらず、建物10は3階建て以上とすることもできる。
【0088】
また、本実施形態においては、スラスト力処理機構40を設けているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えばスラスト力処理機構40は必ずしも設けなくてもよい。スラスト力処理機構40を設けなくても、屋根30が三角形グリッドのトラス状に形成されていることにより、スラスト力を小さくできる効果を得ることができる。
【0089】
また、本実施形態においては、梁32、34、46が架設される支持躯体を柱16としたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば柱16に代えて、スラスト力に抵抗できる強度を備えた壁体を用いてもよい。この壁体は、木製でもよいし、コンクリート製でもよい。また、壁体は、例えば平面視で円環状形成し、内側への引張力に抵抗できる仕様としてもよい。
【0090】
また、本実施形態において、梁32、34、36の延設方向がそれぞれ60度ずつ異なる方向とされ、屋根30が正三角形グリッドのトラス状に形成されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。梁32、34、36によって三角形グリッドが形成されれば、これらの梁32、34、36の延設方向の角度は任意である。
【符号の説明】
【0091】
10 建物
12 基礎
14 柱(1階の柱)
16 柱(支持躯体)
20 梁(床梁)
30 屋根
32 梁(第一方向梁)
34 梁(第二方向梁)
36 梁(第三方向梁)
B1 通しボルト
40 スラスト力処理機構
42 バックステー
44 鋼棒(引張材)
46 ターンバックル
図1
図2
図3
図4
図5
図6