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特許7520634有効成分放出材料、有効成分放出材料の製造方法、有効成分の放出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】有効成分放出材料、有効成分放出材料の製造方法、有効成分の放出方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 47/46 20060101AFI20240716BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20240716BHJP
   A01N 25/18 20060101ALI20240716BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240716BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20240716BHJP
   A61L 9/04 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
A01N47/46
A01N25/10
A01N25/18 102Z
A01P3/00
A01P7/04
A61L9/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020132377
(22)【出願日】2020-08-04
(65)【公開番号】P2022029173
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100220836
【弁理士】
【氏名又は名称】堂前 里史
(72)【発明者】
【氏名】江口 諒
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 礼央
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-205772(JP,A)
【文献】特開2019-205773(JP,A)
【文献】国際公開第2019/244921(WO,A1)
【文献】既存添加物名簿収載品目リスト,公益財団法人 日本食品化学研究振興財団,2020年02月26日,https://www.ffcr.or.jp/webupload/kizon_tenkabutsu_2020.pdf
【文献】田中秀樹,多孔性配位高分子の吸着誘起構造転移,京都大学化学研究所スーパーコンピュータシステム研究成果報告書,2014年,pp.97-98,https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/186368/1/scr_2014_97.pdf
【文献】田中俊輔,膜,2016年,41(4),pp.165-172,https://doi.org/10.5360/membrane.41.165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/18
A01N 47/46
A01P 3/00
A01P 7/04
A01P 17/00
A61L 9/04
A01N 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防かび剤、抗菌剤及び防虫剤からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を放出する材料であって、
金属イオンと、前記金属イオンに配位結合した有機配位子とを有する多孔性配位高分子と、
前記多孔性配位高分子の分子細孔の少なくとも一部に吸着した揮散性成分と、
を含み、
前記有機配位子が、イミダゾール骨格を有し、
前記イミダゾール骨格が、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、ベンゾイミダゾール及び2,4,6-トリ(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上で形成されており、
前記揮散性成分として、アリルイソチオシアネートを少なくとも含み、
前記多孔性配位高分子の分子細孔の孔径は、前記揮散性成分の吸着により変化し、
前記揮散性成分の最小分子直径rが、揮散性成分が吸着する前の前記多孔性配位高分子の分子細孔の最小孔径Rより大きい、有効成分放出材料。
【請求項2】
前記揮散性成分の最小分子直径rが、揮散性成分が吸着した後の前記多孔性配位高分子の分子細孔の最大孔径Rより小さい、請求項1に記載の有効成分放出材料。
【請求項3】
前記最大孔径Rが、6つの前記金属イオンが各頂点に配置された6員環で形成されている分子細孔の孔径である、請求項2に記載の有効成分放出材料。
【請求項4】
前記最小孔径Rが、4つの前記金属イオンが各頂点に配置された4員環で形成されている分子細孔の孔径である、請求項1~3のいずれか一項に記載の有効成分放出材料。
【請求項5】
前記金属イオンが、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Hf、Al、Zn、Fe、Ta、W、Re、Os及びIrからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属のイオンである、請求項1~のいずれか一項に記載の有効成分放出材料。
【請求項6】
前記揮散性成分のオクタノール/水分配係数が、-1.5以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の有効成分放出材料。
【請求項7】
前記多孔性配位高分子と前記揮散性成分とを混合することを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の有効成分放出材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の有効成分放出材料を、温度が変化し得る環境下に置く、有効成分の放出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有効成分放出材料、有効成分放出材料の製造方法、有効成分の放出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
防かび剤、抗菌剤、防虫剤等の揮散性成分を大気中に徐々に放出する徐放性の放出材料が知られている(例えば、特許文献1~3)。
特許文献1では、ロジンと揮散性成分とを含む放出材料が提案されている。特許文献1の実施例では、ロジンの溶融物を冷却固化したものから揮散性成分が放出される。
特許文献2では、特定の脂肪酸トリグリセリドと疎水性物質と揮散性成分との混錬物を含む放出材料が提案されている。特許文献2の放出材料においては、前記混錬物から揮散性成分が放出される。
特許文献3では、イソチオシアン酸アリルが含浸した支持体が特定の包装材で包装された放出材料が提案されている。特許文献3の実施例では、イソチオシアン酸アリルがケイ酸カルシウム等の粒子に含浸したものを包装材に封入している。そのため、イソチオシアン酸アリルはケイ酸カルシウム等の粒子から放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-53755号公報
【文献】特開2005-75762号公報
【文献】国際公開第95/12981号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1~3で提案されているような従来の放出材料においては、夏場と冬場の気温差により揮散性成分の揮散量が大きく変化してしまうという問題がある。例えば、冬場の低温環境に合わせて揮散性成分の有効な揮散量を設定した場合、夏場の高温環境では揮散性成分が過剰に放出されてしまい、徐放性が損なわれる。一方で、夏場の高温環境を想定して揮散量を設定すると、冬場の低温環境下では、揮散性成分が充分に放出されず、所望の効果が発揮されない。
加えて、有効成分の放出材料には、有効成分の効果を長期間にわたって持続させるために優れた徐放性が求められる。
【0005】
本発明は、揮散性成分の徐放性に優れ、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差が低減された有効成分放出材料及びその製造方法;高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差が少なく、揮散性成分を長期間にわたって放出できる有効成分の放出方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 防かび剤、抗菌剤及び防虫剤からなる群から選ばれる少なくとも1つ以上を放出する材料であって、金属イオンと、前記金属イオンに配位結合した有機配位子とを有する多孔性配位高分子と、前記多孔性配位高分子の分子細孔の少なくとも一部に吸着した揮散性成分と、を含み、前記多孔性配位高分子の分子細孔の孔径は、前記揮散性成分の吸着により変化し、前記揮散性成分の最小分子直径rが、揮散性成分が吸着する前の前記多孔性配位高分子の分子細孔の最小孔径Rより大きい、有効成分放出材料。
[2] 前記揮散性成分の最小分子直径rが、揮散性成分が吸着した後の前記多孔性配位高分子の分子細孔の最大孔径Rより小さい、[1]の有効成分放出材料。
[3] 前記最大孔径Rが、6つの前記金属イオンが各頂点に配置された6員環で形成されている分子細孔の孔径である、[2]の有効成分放出材料。
[4] 前記最小孔径Rが、4つの前記金属イオンが各頂点に配置された4員環で形成されている分子細孔の孔径である、[1]~[3]のいずれかの有効成分放出材料。
[5] 前記有機配位子が、イミダゾール骨格、フタル酸骨格及びトリメシン酸骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を有する、[1]~[4]のいずれかの有効成分放出材料。
[6] 前記イミダゾール骨格が、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、ベンゾイミダゾール及び2,4,6-トリ(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上で形成されている、[5]の有効成分放出材料。
[7] 前記金属イオンが、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Hf、Al、Zn、Fe、Ta、W、Re、Os及びIrからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属のイオンである、[1]~[6]のいずれかの有効成分放出材料。
[8] 前記揮散性成分のオクタノール/水分配係数が、-1.5以上である、[1]~[7]のいずれかの有効成分放出材料。
[9] 前記揮散性成分として、少なくともアリルイソチオシアネートを含む、[1]~[8]のいずれかの有効成分放出材料。
[10] 前記多孔性配位高分子と前記揮散性成分とを混合することを含む、[1]~[9]のいずれかの有効成分放出材料の製造方法。
[11] [1]~[9]のいずれかの有効成分放出材料を、温度が変化し得る環境下に置く、有効成分の放出方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有効成分放出材料は、揮散性成分の徐放性に優れ、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差が低減される。
本発明の有効成分放出材料の製造方法によれば、揮散性成分の徐放性に優れ、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差が低減された有効成分放出材料が得られる。
本発明の有効成分の放出方法によれば、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差が少なく、揮散性成分を長期間にわたって放出できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書における以下の用語の意味は、下記の通りである。
「多孔性配位高分子」とは、規則的に配置された複数の金属イオンが架橋性の有機配位子と連結されて形成されている結晶性の高分子である。多孔性配位高分子は、PCP(Porous Coordination Polymer)、MOF(Metal-Organic Framework)に加えてその他種々の名称で表記されることがある。本明細書において「多孔性配位高分子」はこれらの学術的用語を指すものとして厳密に解釈されるものではない。
「分子細孔の最小孔径R」とは、多孔性配位高分子の分子細孔の開口部を形成する原子団の外接円のうち、外接円の面積が最小となるときの原子団の外接円の直径Rを意味する。
「分子細孔の最大孔径R」とは、多孔性配位高分子の分子細孔の開口部を形成する原子団の外接円のうち、外接円の面積が最大となるときの原子団の外接円の直径Rを意味する。
「揮散性成分の最小分子直径r」とは、揮散性成分の分子を収容可能な円柱状の空間のうち、底面積が最小となる円柱状の空間の底面の直径rを意味する。
本明細書および特許請求の範囲において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0009】
<有効成分放出材料>
本発明の有効成分放出材料は、多孔性配位高分子と、揮散性成分とを含む。本発明の有効成分放出材料は、発明の効果が損なわれない範囲内であれば、多孔性配位高分子及び揮散性成分以外の他の成分をさらに含んでもよい。
【0010】
(多孔性配位高分子)
多孔性配位高分子は、金属イオンと、金属イオンに配位結合した有機配位子とを有する。多孔性配位高分子は、SBU(Secondary Building Unit)と呼ばれる三次元構造の単位を組み合わせて形成することができる。SBUは、通常、複数の金属イオンと有機物である有機配位子との配位結合により立体的に形成される。
多孔性配位高分子において、発明の効果が得られる範囲内であれば、金属イオンは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。同様に発明の効果が得られる範囲内であれば、有機配位子は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。金属イオンの種類数と有機配位子の種類数との比も1:1に限定されない。
【0011】
従来、揮発性成分を吸着させる多孔質材料として、活性炭、ゼオライト等の材料が使用されてきた。活性炭、ゼオライト等の材料にあっては、孔径が不均一であり、揮発性成分の吸着能、放出能が不均一となる、という問題がある。
これに対し、多孔性配位高分子は結晶性の高分子構造で形成されているため、高分子構造を規則的に設計可能である。そのため、金属イオン、有機配位子の選択により、分子細孔の形状、大きさを設計しやすく、揮発性成分の吸着能、放出能が均一となるという利点がある。
したがって、揮発性成分を吸着させる担持体として多孔性配位高分子を使用することで、吸着能の向上を図ることができ、結果として従来の材料よりも優れた徐放性が発揮されることが期待される。加えて、分子細孔の大きさが均一となる傾向があることから、放出能の制御も容易である。その結果、高温度下で揮発性成分の脱離を抑制する制御も実現しやすいと考えられる。したがって、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差を低減することや徐放性の向上を目的とした場合、多孔性配位高分子は有効成分放出材料に好適に適用できる。
【0012】
多孔性配位高分子の結晶性の高分子構造の内部には、中空状の空間、すなわち分子細孔が形成される。分子細孔は、複数の金属イオンとこれら複数の金属イオンを連結する有機配位子とで形成される。例えば、4つの金属イオンが各頂点に配置され、これら4つの金属イオンが複数の有機配位子で連結されて形成される4員環の分子細孔;6つの金属イオンが各頂点に配置され、これら6つの金属イオンが複数の有機配位子で連結されて形成される6員環の分子細孔等が挙げられる。これら4員環、6員環の他にも種々の形状の分子細孔が存在し得る。
【0013】
多孔性配位高分子は、金属イオン、有機配位子の選択により多種多様の構造的特性を具備し得る。なかでも、分子細孔への分子吸着により、有機配位子が回転し、分子細孔の孔径が変化する多孔性配位高分子が存在する。本発明においては、揮散性成分の吸着により、分子細孔の孔径が変化する多孔性配位高分子を用いる。
分子細孔の孔径が変化する多孔性配位高分子においては、分子細孔の孔径は種々の値をとり得る。分子細孔の孔径の数値範囲は、金属イオン、有機配位子の組み合わせにより変動する。分子細孔の孔径の開口部が最小となる分子細孔の孔径を「最小孔径R」とすることができる。同様に、分子細孔の孔径の開口部が最大となる分子細孔の孔径を「最大孔径R」とすることができる。
【0014】
分子細孔の形状、大きさは、金属イオン、有機配位子の選択により決定できる。また、X線回折測定により、多孔性配位高分子の結晶構造、分子細孔の形状及び大きさが反映されたX線回折パターンを得ることができる。ただし、このX線回折パターンのみに基づいて結晶構造、分子細孔の形状及び大きさを決定することは困難である場合が多い。
そこで、Mercury(The Cambridge Crystallographic Data Centre)等のソフトウェアを使用して分子シミュレーションを行うことができる。分子シミュレーション結果に基づいて、in silicoで最小孔径R、最大孔径Rを決定してもよい。
本発明においては、X線回折パターンによる測定結果、分子シミュレーションに基づく計算結果のいずれも分子細孔の大きさとして用いることができるものとする。
【0015】
分子細孔の最小孔径Rの大きさは、揮散性成分の最小分子直径rより小さければ特に制限はない。実際には、揮散性成分の種類に応じて最小分子直径rが変化するため、揮散性成分に応じて最小孔径Rが最小分子直径rより小さくなるような揮散性成分、多孔性配位高分子の組み合わせを選択する。
分子細孔の最小孔径Rの具体的な大きさは、例えば、3.0~10.0Å程度になると推測されるが、必ずしもこの数値範囲に限定されない。また、最小孔径Rが最小となる分子細孔の開口部の形状も、金属イオン、有機配位子により種々の形状をとり得る。例えば、4つの金属イオンが各頂点に配置された4員環で形成されている分子細孔の孔径が最小孔径Rとなる態様が想定されるが、本発明はこの態様に限定されない。
【0016】
分子細孔の最大孔径Rの大きさは、揮散性成分の放出量の観点から揮散性成分の最小分子直径rより大きいことが好ましい。最大孔径Rの具体的な大きさは、例えば、4.0~11.0Å程度になると推測されるが、必ずしもこの数値範囲に限定されない。また、最大孔径Rが最大となる分子細孔の開口部の形状も、金属イオン、有機配位子により種々の形状をとり得る。例えば、6つの金属イオンが各頂点に配置された6員環で形成されている分子細孔の孔径が最大孔径Rとなる態様が想定されるが、本発明はこの態様に限定されない。
【0017】
多孔性配位高分子の分子細孔の最小孔径R、最大孔径Rは、分子シミュレーションにより決定してもよく、X線回折パターンの測定結果と分子シミュレーションとを併用して決定してもよい。分子シミュレーションに際しては、Mercury(The Cambridge Crystallographic Data Centre)等のソフトウェアを使用できる。
【0018】
金属イオンとしては、多孔性配位高分子の入手の容易さ、発明の効果が得られやすいことから、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Co、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Hf、Al、Zn、Fe、Ta、W、Re、Os及びIrからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属のイオンが好ましく、Co2+、Al3+、Fe2+、Fe3+、Zn2+及びCu2+からなる群から選ばれる少なくとも1種以上がより好ましく、Co2+、Zn2+が特に好ましい。特に、後述のイミダゾール骨格を有する有機配位子を用いる場合、金属イオンとしては、Co2+、Zn2+が好ましい。
これらの金属イオンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
分子細孔の孔径の変化する多孔性配位高分子としては、金属イオンと配位結合した有機配位子の回転が起きやすい多孔性配位高分子が好ましい。このような有機配位子の回転が起きやすい有機配位子としては、イミダゾール骨格を有する有機配位子、カルボン酸骨格を有する有機配位子が挙げられる。
【0020】
イミダゾール骨格を有する有機配位子としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、2,4,6-トリ(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジン(TPT)が挙げられる。これらの中でも、イミダゾール、2-メチルイミダゾールが好ましく、2-メチルイミダゾールがより好ましい。
カルボン酸骨格を有する有機配位子としては、例えば、1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4’-カルボキシ[1,1’-ビフェニル]-4-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、2,6-ナフチレンジジカルボン酸、2-ヒドロキシテレフタル酸、3,3’,5,5’-テトラカルボキシジフェニルメタン、4,4’,4”-S-トリアジン-2,4,6-トリイル-トリス(ベンジルオキシ)安息香酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、ビフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸、テレフタル酸(BDC)、トリメシン酸(BTC)、[1,1’:4’,1”]テルフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸が挙げられる。
【0021】
これらのカルボン酸骨格を有する有機配位子の中でも、フタル酸骨格、トリメシン酸骨格を形成する有機配位子が好ましい。
フタル酸骨格を形成する有機配位子としては、テレフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、2-ヒドロキシテレフタル酸が挙げられる。
トリメシン酸骨格を形成する有機配位子としては、ベンゼン-1,3,5-トリカルボン酸、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸が挙げられる。
【0022】
多孔性配位高分子としては、入手が容易であることから、ZIF-8(CAS番号:59061-53-9)が好ましい。
ZIF-8は金属イオンとしてZn2+を有し、有機配位子として2-メチルイミダゾール骨格を有する多孔性配位高分子である。ZIF-8においては、複数のZn2+に2-メチルイミダゾールが配位結合して結晶性の高分子構造が立体的に形成される。
ZIF-8においては、揮散性成分の吸着により2-メチルイミダゾールが回転し得ることが報告されている。そのため、ZIF-8の高分子構造の内部には、4つのZn2+が各頂点に配置された4員環と、6つのZn2+が各頂点に配置された6員環とが混在する。
多孔性配位高分子がZIF-8である場合、4員環の分子細孔は、揮散性成分が吸着する前のZIF-8に主に存在すると考えられる。そして、揮散性成分の吸着に際して2-メチルイミダゾールの回転が起き、6員環の分子細孔が存在するようになる。したがって、ZIF-8の分子細孔の最小孔径Rは4員環で形成されている分子細孔の孔径となり、かつ分子細孔の最大孔径Rは6員環で形成されている分子細孔の孔径となる。
J.Phys.Chem.C 2019,123,27542-27553によれば、ZIF-8の分子孔径は、揮散性成分の吸着により3.4Åから4.0Å程度に拡張されると予想される。しかし、実際には揮散性成分のサイズに応じて多孔性配位高分子のR、Rは変動すると考えられる。そのため、分子シミュレーション、X線回折パターンの測定が重要である。
【0023】
(揮散性成分)
揮散性成分は、多孔性配位高分子の分子細孔の少なくとも一部に吸着している。本発明の有効成分放出材料においては、揮散性成分の吸着により多孔性配位高分子の分子細孔の孔径が変化する。そのため、多孔性配位高分子の分子細孔のうち、揮散性成分が吸着した分子細孔と吸着していない分子細孔とで孔径の違いが生じると考えられる。
【0024】
揮散性成分の最小分子直径rは、揮散性成分が吸着する前の多孔性配位高分子の分子細孔の最小孔径Rより大きい。最小孔径Rに対する最小分子直径rの比は、1/1超2/1以下が好ましく、1.1/1以上1.5/1以下がより好ましく、1.2/1以上1.3/1以下がさらに好ましい。最小孔径Rに対する最小分子直径rの比が前記下限値超であるため、揮散性成分のサイズが充分に大きく、吸着した揮散性成分が長期間にわたって脱離しにくくなり、徐放性がよくなると考えられる。また、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差を低減できる。最小孔径Rに対する最小分子直径rの比が前記上限値以下であると、揮散性成分のサイズが大きくなり過ぎず、吸着した揮散性成分が放出されやすく、揮散量がさらに多くなると考えられる。
【0025】
揮散性成分の最小分子直径rは、揮散性成分が吸着した後の多孔性配位高分子の分子細孔の最大孔径Rより小さいことが好ましい。最大孔径Rに対する最小分子直径rの比は、1/10以上1/1未満が好ましく、1/2以上1/1未満がより好ましく、1/1.3以上1/1未満がさらに好ましい。最大孔径Rに対する最小分子直径rの比が前記下限値以上であると、揮散性成分のサイズが充分大きく、吸着した揮散性成分が長期間にわたって脱離しにくくなり、徐放性がさらによくなると考えられる。また、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差をさらに低減できると期待される。最大孔径Rに対する最小分子直径rの比が前記上限値未満であると、揮散性成分のサイズが大きくなり過ぎず、吸着した揮散性成分が脱離しやすく、揮散量がさらに多くなると考えられる。
【0026】
揮散性成分の大きさ、サイズの目安としては、揮散性成分の分子量を使用してもよい。この場合、揮散性成分の分子量は80~1000が好ましく、90~500がより好ましく、100~300がさらに好ましい。揮散性成分の分子量が前記下限値以上であると、揮散性成分のサイズが充分に大きく、吸着した揮散性成分が長期間にわたって脱離しにくくなり、徐放性がさらによくなると考えられる。また、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差をさらに低減できると期待される。揮散性成分の分子量が前記上限値以下であると、揮散性成分のサイズが大きくなり過ぎず、吸着した揮散性成分が脱離しやすく、充分な揮散量、徐放性が確保されると考えられる。
【0027】
揮散性成分の最小分子直径rは、例えば、揮散性成分の分子シミュレーションにより決定してもよい。他にも、揮散性成分の最小分子直径rとして、動的分子径、衝突径、共有結合半径を採用してもよい。これらのうちいずれを最小分子直径rとして採用するかは、揮散性成分、多孔性配位高分子の組み合わせを考慮して決定してもよい。
【0028】
揮散性成分のオクタノール/水分配係数は、-1.5~8が好ましく、0~4がより好ましく、1.5~3がさらに好ましい。揮散性成分のオクタノール/水分配係数が前記下限値以上であると、揮散性成分の疎水性が充分に高く、揮散性成分が放出されやすく、有効成分の揮散量が多くなる傾向がある。
一方、揮散性成分のオクタノール/水分配係数が前記上限値以下であると、揮散性成分の疎水性が過度に高くならず、多孔性配位高分子の分子細孔への揮散性成分の吸着能が充分に維持される。その結果、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差がさらに少なくなると考えられる。また、有効成分放出材料の徐放性がさらによくなると期待される。
【0029】
オクタノール/水分配係数は、例えば、下式により算出できる。
(オクタノール/水分配係数)=log(POW
ここで、POWは、水相に対する1-オクタノール相の揮散性成分の濃度比である。前記濃度比は、例えば、1-オクタノール相と水相とからなる溶媒相中に揮散性成分を加えて平衡状態となった時の濃度比であり、20℃、大気圧下の条件で測定できる。オクタノール/水分配係数として、種々の文献に記載の数値を採用してもよい。
【0030】
本発明の有効成分放出材料においては、オクタノール/水分配係数が互いに異なる2種以上の揮散性成分を併用してもよい。この場合、オクタノール/水分配係数が相対的に高い揮散性成分から順に多孔性配位高分子から放出され、揮散すると考えられる。
【0031】
揮散性成分は、防かび剤、抗菌剤及び防虫剤からなる群から選ばれる少なくとも1種以上である。これらは1つの有効成分放出材料において、1種が単独で含まれてもよく、2種以上が併用して含まれてもよい。
以下、揮散性成分の候補となる化合物の例を記載する。本発明において揮散性成分は下記の例示に限定されないが、これら例示する候補の中から選ぶ場合には、揮散性成分の最小分子直径rが揮散性成分が吸着する前の多孔性配位高分子の分子細孔の最小孔径Rより大きいものを選択する。
【0032】
防かび剤、抗菌剤の候補としては、例えば、N-(フルオロジクロロメチルチオ)-フタルイミド、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-フェニルスルファミド、3-ヨード-2-プロピニルブチルカーバメート、オルトフェニルフェノール、イソプロピルメチルフェノール、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、ヒノキチオール、アリルイソチオシアネート、シンナミックアルデヒド等が挙げられる。
これらの中でも、ヒノキチオール、アリルイソチオシアネート、シンナミックアルデヒドが好ましい。
これらの防かび剤、抗菌剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
防虫剤の候補としては、例えば、エンペントリン、トランスフルスリン、アレスリン、フェノトリン、エミネンス、プロフルトリン等のピレスロイド系殺虫成分;2-フェノキシエタノール、ヒノキチオール、アリルイソチオシアネート等が挙げられる。
これらの中でも、エンペントリン、プロフルトリン、2-フェノキシエタノール、ヒノキチオール、アリルイソチオシアネートが好ましい。
これらの防虫剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
防虫剤の一例として、ダニ忌避剤が挙げられる。ダニ忌避剤の候補としては、例えば、天然ピレトリン、エンペントリン、トランスフルスリン、アレスリン、フェノトリン、プロフルトリン、メトフルトリン、エミネンス等のピレスロイド系化合物;ジクロルボス、ダイアジノン、フェニトロチオン、マラチオン等の有機リン剤;N,N-ジエチル-m-トルアミド(DEET)、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジ-n-プロピルイソシンコメロネート、p-ジクロロベンゼン、ジ-n-ブチルサクシネート、カラン-3,4-ジオール、1-メチルプロピル2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシラート、ミリスチン酸イソプロピル、チオシアノ酢酸イソボルニル、ジフェニル、ジフェニルメタン、ジベンジル、ベンジルフェニルエーテル、ベンジルフェニルエチルエーテル、ベンゾフェノン、ベンジルフェニルケトン、ジベンジルケトン、ベンザルアセトフェノン、β-フェニルエチルベンゾエイト、γ-フェニルプロピルベンゾエイト、フェニル酢酸フェニル、ベンジルフェニルアセテート、β-フェニルエチルフェニルアセテート、フェニルシンナメート、ベンジルシンナメート、β-フェニルエチルシンナメート、β-フェニルプロピルシンナメート、シンナミルシンナメート、ジフェニルカルビノール、フェニルベンジルカルビノール、ジベンジルカルビノール、n-アミルベンゾエート、イソアミルベンゾエート、ヘキシルベンゾエート、ヘプチルベンゾエート、オクチルベンゾエート、ノニルベンゾエート、シス-3-へキセニールベンゾエート、n-アミルサリシレート、イソアミルサリシレート、ヘキシルサリシレート、シス-3-へキセニールサリシレート、ベンジルプロピオネート、ベンジル-n-ブチレート、ベンゾルーイソ-ブチレート、ベンジル-n-バレレート、ベンジルイソバレレート、ベンジルカプロエート、ベンジルヘプタノエート、ベンジルカプリレート、ペンジルダニレート、ヒノキチオール、アリルイソチオシアネート等の化合物等が挙げられる。
これらの中でも、エンペントリン、プロフルトリン、メトフルトリン、アリルイソチオシアネート、ヒノキチオールが好ましい。
これらのダニ忌避剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
以下、揮散性成分について、最小分子直径r、オクタノール/水分配係数(以下、「logPow」と記載する。)の一覧を示す。ここで、最小分子直径rとしては、Molviewによって計測したものを記載した。
・アリルイソチオシアネート:最小分子直径r=4.1Å、logPow=2.11
・エンペントリン:最小分子直径r=9.7Å、logPow=6.3
・2-フェノキシエタノール:最小分子直径r=6.0Å、logPow=2.11
【0036】
(他の成分)
本発明の有効成分放出材料は、発明の効果が得られる範囲内であれば、多孔性配位高分子及び揮散性成分以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分は、防かび剤、抗菌剤、防虫剤で一般に使用されているものが挙げられる。具体的には例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防腐剤、除菌剤等が挙げられる。
【0037】
(組成)
有効成分放出材料において。多孔性配位高分子に対する揮散性成分の質量比は、0.00001/1~1/1が好ましく、0.0001/1~0.001/1がより好ましく、0.01/1~0.1/1がさらに好ましい。多孔性配位高分子に対する揮散性成分の質量比が前記下限値以上であると、有効成分を長期間にわたって放出できる傾向があり、徐放性がさらによくなる。多孔性配位高分子に対する揮散性成分の質量比が前記上限値以下であると、揮散性成分の割合が過剰とならず、揮散性成分の量が必要十分な量となる傾向がある。
【0038】
(製造方法)
本発明の有効成分放出材料は、例えば、上述の多孔性配位高分子と上述の揮散性成分とを混合することを含む、製造方法によって製造できる。
多孔性配位高分子と揮散性成分を混合する際のそれぞれの使用量は、多孔性配位高分子に対する揮散性成分の質量比が上述の範囲内となるように設定するとよい。
【0039】
多孔性配位高分子と揮散性成分との具体的な混合方法は、特に限定されない。例えば、下記の方法1~3が挙げられる。
・方法1:多孔性配位高分子と揮散性成分とを直接的に混合する方法。
・方法2:密閉空間内で揮散性成分を揮散させ、多孔性配位高分子を揮散性成分の雰囲気下に暴露して、揮発性成分を多孔性配位高分子に吸着させる方法。
・方法3:揮散性成分を有機溶媒に溶かして溶液とし、当該溶液と多孔性配位高分子と混合する方法。
方法1~3の中でも、多孔性配位高分子への揮散性成分の担持量、吸着量を確保しやすい点から、方法2が好ましい。
【0040】
方法1について、混合に使用する装置、機器は特に限定されない。多孔性配位高分子と揮散性成分の性状等を考慮して、種々の撹拌機、混合機を選択できる。
方法2について、吸着時の温度、圧力、吸着時間は特に限定されない。多孔性配位高分子と揮散性成分の性状等を考慮して選択できる。
方法3について、有機溶媒は、揮散性成分の溶解性、多孔性配位高分子との反応性等を考慮して選択できる。揮散性成分が溶解した溶液と多孔性配位高分子とを混合した後、有機溶媒を乾燥により除去してもよい。乾燥方法も特に限定されない。自然乾燥でもよく、吸着した揮散性成分が脱離しない範囲であれば、加熱乾燥でもよい。
【0041】
(作用効果)
以上説明した本発明の有効成分放出材料においては、揮散性成分の吸着により分子細孔の孔径が変化する多孔性配位高分子を含む。そのため、揮散性成分のサイズが多孔性配位高分子の分子細孔より大きくても多孔性配位高分子にサイズの大きな揮散性成分を吸着させることができる。加えて、揮散性成分の最小分子直径rが、揮散性成分が吸着する前の多孔性配位高分子の分子細孔の最小孔径Rより大きいため、高温下でも揮散性成分の脱離が抑制される。その結果、吸着した揮散性成分が長期間にわたって脱離しにくくなり、徐放性がよくなり、かつ、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差を低減できる。
【0042】
<放出方法>
有効成分放出材料は、有効成分の揮散対象となる空間内に有効成分放出材料を置くことで使用できる。有効成分放出材料を置くことにより、有効成分を長期間にわたり徐々に放出させ、揮散させることができる。
本発明の放出方法では、本発明の有効成分放出材料を用いるため、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差が少なく、揮散性成分を長期間にわたって放出できる。
本発明の有効成分放出材料を、温度が変化し得る環境下に置く放出方法は、防菌方法、抗菌方法、防虫方法として有用である。
【0043】
放出方法においては、有効成分放出材料を空間内にそのまま置いてもよく、不織布、紙等の包装材、包装容器内に収容した状態で置いてもよい。また、不織布、紙等の繊維間の隙間に有効成分放出材料を分散させてもよく、複数の不織布、紙の間に有効成分放出材料を挟み込んで使用してもよい。
揮散性成分の放出の促進を目的として有効成分放出材料に温度以外の刺激を付与してもよい。刺激としては、例えば、加熱、加湿、減圧、電場印加、磁場印加、振動、風乾、露光が挙げられる。これらの刺激は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
有効成分放出材料の置き場所は特に限定されない。例えば、食器棚、風呂場、トイレ、タンス、クローゼット、衣装ケース、下駄箱、洗濯槽、コンロ下収納、シンク下収納等が挙げられる。加えて、多孔性配位高分子は、多孔質材料であり、分子細孔が湿気を吸着できるため、除湿機能を具備する。そのため、多孔性配位高分子の未吸着の分子細孔に水分を吸着させることができ、周囲環境の湿度を下げることもできる。したがって、高湿度下で繁殖するようなカビ、菌、害虫等の発生を確実に抑制できると期待される。
【実施例
【0045】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例の記載に限定されない。
【0046】
<略語>
ZIF-8:金属イオンとしてZn2+を有し、有機配位子として2-メチルイミダゾール骨格を有する多孔性配位高分子(Atomis社製)。
AITC:アリルイソチオシアネート(最小分子直径r=4.1Å、logPow=2.11)。
【0047】
<実施例1>
20mlのガラス瓶にZIF-8:0.10gを入れ、50mlのガラス瓶にAITC:30mlを入れた。次にZIF-8、AITCが入ったそれぞれのガラス瓶を7リットルのステンレス缶に入れた。さらに、20mm×10mmの大きさのろ紙を50mlのガラス瓶に4本入れ、ステンレス缶内にAITCの気体を充満させた。その後、-5℃で約22日放置し、ZIF-8にAITCを吸着させ、実施例1の有効成分放出材料を得た。
【0048】
<比較例1>
比較例1の材料として、ワサエース90(レンゴー社製)を用意した。
【0049】
<揮散試験1>
実施例1の各有効成分放出材料:0.1gを20mlのガラス瓶に入れ、風除けのために段ボール内にガラス瓶を静置し、揮散試験1を行った。揮散試験1は、温度25℃、湿度20%の条件下で行い、表1の各欄に示す期間サンプルをそれぞれ静置した。静置したサンプルのガラス瓶の中身をアセトンで抽出し、抽出液をガスクロマトグラフで分析し、AITCの残存量(mg)を測定し、0.1gの実施例1の有効成分放出材料から放出されたAITCの揮散量をAITCの残存量に基づいて求めた。結果を表1に示す。同様に、比較例1の放出材料であるワサエース90の袋を開封して中身を取り出し、ワサエース90:1.0gを20mlのガラス瓶に入れ、風除けのために段ボール内にガラス瓶を静置した。1.0gのワサエース90から放出されたAITCの揮散量をAITCの残存量に基づいて求めた。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
<揮散試験2>
静置条件を温度25℃、湿度20%から、温度40℃、湿度20%の条件に変更した以外は、揮散試験1と同様にして0.1gの実施例1の有効成分放出材料、1.0gのワサエース90からそれぞれ放出されたAITCの揮散量を求めた。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
<温度依存性の評価>
表1、2にそれぞれ示す結果から、実施例1の有効成分放出材料、比較例1の放出材料について温度依存性を評価した。
まず、下記の式により、実施例1の有効成分放出材料について、揮散試験1、揮散試験2のそれぞれにおける1日当たりの揮散量を算出した。
(1日当たりの揮散量)=(11日後の揮散量-4日後の揮散量)÷7
【0054】
次に、下記の式により、比較例1の放出材料について、揮散試験1、揮散試験2のそれぞれにおける1日当たりの揮散量を算出した。
(1日当たりの揮散量)=(4時間後の揮散量-1時間後の揮散量)÷3×24
【0055】
実施例1、比較例1の1日当たりの揮散量の算出結果を表3に示す。表3中、「揮散試験2/揮散試験1」の欄は、揮散試験1における1日当たりの揮散量に対する、揮散試験2における1日当たりの揮散量の比を示す。
【0056】
【表3】
【0057】
比較例1では、揮散試験2の1日当たりの揮散量が、揮散試験1の2.7倍であった。これに対し、実施例1では、揮散試験2の1日当たりの揮散量が、揮散試験1の2.1倍に抑えられていた。
このように、実施例1では、高温環境での揮散量の増加が比較例1より抑えられ、高温環境下と低温環境下とで揮散性成分の揮散量の差が低減されると考えられた。
【0058】
<防かび試験>
実施例1の有効成分放出材料:0.1gを20mlのガラス瓶に入れ、内容積400mlのガラス製のふた付き容器内に置いた。さらに直径50mm、高さ10mmのシャーレに1/10に希釈したポテトデキストロース寒天培地:5mlを入れ固め、培地の中心に直径6mmのろ紙を置き、ペニシリウムのカビ胞子懸濁液15μlを接種した。この培地とイオン交換水10ml入の20mlのガラス瓶をガラス製のふた付き容器内に入れ密封した。室温条件下で5日間保存した後、容器のふたを開け、培地上のカビの成育状況を確認した。この結果、カビの発育直径は0mmであった。一方、実施例1の有効成分放出材料を入れずに、同様の試験を行った結果、発育直径は14mmであった。
このように、実施例1の有効成分放出材料は、防かび剤の徐放性を示し、防かび効果を発揮できることが確認された。
【0059】
<防虫試験>
実施例1の有効成分放出材料:0.1gを20mlのガラス瓶に入れ、内容積400mlのガラス製のふた付き容器内に置いた。さらに産卵後1日のイガの卵20個をのせた1辺2.5cmの正方形のサージを入れ、密封した。室温条件下に14日間保存した後、容器のふたを開け、孵化した卵の数を数えて、孵化率を算出した。この結果、孵化率は0%であった。一方、実施例1の有効成分放出材料を入れずに、同様の試験を行った結果、孵化率は70%であった。
このように、実施例1の有効成分放出材料は、防虫剤の徐放性を示し、防虫効果を発揮できることが確認された。