(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】メントールの刺激感増強剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/42 20060101AFI20240716BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240716BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240716BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20240716BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240716BHJP
A61Q 5/02 20060101ALI20240716BHJP
A61K 8/33 20060101ALI20240716BHJP
A61K 31/075 20060101ALI20240716BHJP
A61K 31/16 20060101ALI20240716BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
A61K8/42
A61P43/00 121
A61P29/00
A61Q13/00 101
A61Q19/00
A61Q5/02
A61K8/33
A61K31/075
A61K31/16
A61Q19/10
(21)【出願番号】P 2020145626
(22)【出願日】2020-08-31
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】酒井 奈緒
(72)【発明者】
【氏名】藤川 誠二
(72)【発明者】
【氏名】畑野 公輔
(72)【発明者】
【氏名】眞田 慎吾
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/054737(WO,A1)
【文献】特表2022-504928(JP,A)
【文献】国際公開第2020/079007(WO,A1)
【文献】特表2020-526632(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61P 43/00
A61P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び(B)からなることを特徴とする、メントールの刺激感増強剤。
(A)メンチルメチルエーテル
(B)N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
【請求項2】
前記成分(A)と前記成分(B)の質量比が、(A):(B)=10:1~1:10である、請求項1に記載のメントールの刺激感増強剤。
【請求項3】
下記成分(A)~(C)を含有し、下記成分(A)と下記成分(B)と下記成分(C)の質量比が、(A):(B):(C)=1:1:100~10:10:100であることを特徴とする、刺激感惹起用組成物。
(A)メンチルメチルエーテル
(B)N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
(C)メントール
【請求項4】
香料組成物である、請求項3に記載の刺激感惹起用組成物。
【請求項5】
メントールを、製品全体に対する含有量が0.05~0.8質量%となるように含有させ、かつ請求項1又は2に記載のメントールの刺激感増強剤を含有させる、メントール含有製品の製造方法。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の刺激感惹起用組成物を含有させる、メントール含有製品の製造方法。
【請求項7】
前記刺激感惹起用組成物を、製品全体に対するメントールの含有量が0.05~0.8質量%となるように含有させる、請求項6に記載のメントール含有製品の製造方法。
【請求項8】
前記メントール含有製品が、化粧料、医薬品、医薬部外品、又は日用雑貨品である、請求項5~7のいずれか一項に記載のメントール含有製品の製造方法。
【請求項9】
下記成分(A)~(C)を含有し、下記成分(A)と下記成分(B)と下記成分(C)の質量比が、(A):(B):(C)=1:1:100~10:10:100であり、下記成分(C)の製品全体に対する含有量が0.05~0.8質量%である、メントール含有製品。
(A)メンチルメチルエーテル
(B)N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
(C)メントール
【請求項10】
前記メントール含有製品が、化粧料、医薬品、医薬部外品、又は日用雑貨品である、請求項9に記載の
メントール含有製品。
【請求項11】
メントール100質量部に対し、下記成分(A)及び(B)をそれぞれ1~10質量部配合する、メントール含有製品の刺激感増強方法。
(A)メンチルメチルエーテル
(B)N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
【請求項12】
前記メントール含有製品が、化粧料、医薬品、医薬部外品、又は日用雑貨品である、請求項11に記載のメントール含有製品の刺激感増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料、医薬品、医薬部外品、日用雑貨品等で使用するメントールの刺激感を増強するための組成物、及びメントールの刺激感を増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メントール等の冷涼感物質を製品に配合することにより、当該製品の使用中及び使用後にすっきりした爽快感や清涼感を与えることができる。これらの冷涼感物質が配合されたボディケア、スキンケア、ヘアケア製品等が、数多く市販されている。特に夏季は、男性向けボディケア、スキンケア製品等で、より強い清涼感が感じられる製品が好まれるため、冷涼感物質を配合した製品の需要が拡大している。このような製品では、清涼感をより高める方法として、メントールの配合量を増やすことが考えられる。しかし、単にメントールを増量しただけでは、清涼感と共に、メントール由来のヒリヒリするような痛みや火照り、掻痒感といった刺激感も強くなり、却って使用感を損なうという問題がある。
【0003】
このため、メントールの刺激感を抑制しつつ、清涼感を高めることが試みられている。例えば、2-メチル-3-(l-メンチルオキシ)プロパン-1,2-ジオールをメントール等の冷涼感物質に配合することにより、刺激性を抑制しつつ、さわやかでひんやりした冷感又は清涼感を持続又は増強させることができる(特許文献1)。また、冷涼感物質のうち、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド又はトリメチルイソプロピルブタンアミドに対して、メンチルエステルを併用することにより、不要なざらつきや風味の特性を抑制しつつ、製品に長時間持続する清涼感をもたらすことができる(特許文献2)。また、冷感の持続性に優れる皮膚外用剤として、メントールと、メントキシプロパンジオール等のメンチル基及びOH基を有する化合物と、ピロリドンカルボン酸メンチル等のメントールエステルとを含有する皮膚外用剤がある(特許文献3)。これらの3種の冷涼感物質は、冷感ピークが異なり、これららを組み合わせることで、冷感を持続させることができる。さらに、L-メントール等の特定の冷涼感物質とバニリルブチルエーテルを併用することにより、従来の冷感剤組成物よりも冷感の強度、持続性を高めた冷感剤組成物も提案されている(特許文献4)。
【0004】
前記の先行技術を用いることによって、メントールの刺激を抑制し、清涼感を増強・持続させることができ、メントール含有製品の使用感改善に一定の効果が得られる。しかし、清涼感を増強・持続させただけでは、特に男性向け化粧料に求められているような爽快な使用感を得るには不十分であり、爽快感をより高めるための技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-217083号公報
【文献】特表2009-519003号公報
【文献】特開2014-201552号公報
【文献】特許第4017758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、単にメントールの清涼感を増強することではなく、メントール含有製品に男性向け化粧料等に求められているような爽快な使用感を付与することができるメントールの刺激感増強剤、及び当該刺激感増強剤を使用してメントールの刺激感を増強する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、メントール含有製品に爽快な使用感を付与できる素材を種々検討した結果、冷感作用を有する化合物として公知のメンチルメチルエーテル(MME)及びN-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド(WS-5)を組み合わせてメントールと併用すると、従来のメントール含有製品にはない爽快な皮膚感覚が付与されることを見出した。そして、この爽快感が、意外にも、これまで忌避すべき対象とみなしていたメントールの刺激感に起因するものであり、長時間持続する刺激感は好ましくない感覚として知覚されるのに対し、刺激感が皮膚に付けた直後に強く感じられ、その後速やかに低減する場合は、メントールの清涼感と相まって非常に好ましい爽快感として知覚されることを見出した。さらにN-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミドに替えて、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド(WS-3)を用いた場合も同様の効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 下記成分(A)及び(B)からなることを特徴とする、メントールの刺激感増強剤。
(A)メンチルメチルエーテル
(B)N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
[2] 前記成分(A)と前記成分(B)の質量比が、(A):(B)=10:1~1:10である、前記[1]のメントールの刺激感増強剤。
[3] 下記成分(A)~(C)を含有し、下記成分(A)と下記成分(B)と下記成分(C)の質量比が、(A):(B):(C)=1:1:100~10:10:100であることを特徴とする、刺激感惹起用組成物。
(A)メンチルメチルエーテル
(B)N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
(C)メントール
[4] 香料組成物である、前記[3]の刺激感惹起用組成物。
[5] メントールを、製品全体に対する含有量が0.05~0.8質量%となるように含有させ、かつ前記[1]又は[2]のメントールの刺激感増強剤を含有させる、メントール含有製品の製造方法。
[6] 前記[3]又は[4]の刺激感惹起用組成物を含有させる、メントール含有製品の製造方法。
[7] 前記刺激感惹起用組成物を、製品全体に対するメントールの含有量が0.05~0.8質量%となるように含有させる、前記[6]のメントール含有製品の製造方法。
[8] 前記メントール含有製品が、化粧料、医薬品、医薬部外品、又は日用雑貨品である、前記[5]~[7]のいずれかのメントール含有製品の製造方法。
[9] 下記成分(A)~(C)を含有し、下記成分(A)と下記成分(B)と下記成分(C)の質量比が、(A):(B):(C)=1:1:100~10:10:100であり、下記成分(C)の製品全体に対する含有量が0.05~0.8質量%である、メントール含有製品。
(A)メンチルメチルエーテル
(B)N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
(C)メントール
[10] 前記メントール含有製品が、化粧料、医薬品、医薬部外品、又は日用雑貨品である、前記[9]のメントール含有製品。
[11] メントール100質量部に対し、下記成分(A)及び(B)をそれぞれ1~10質量部配合する、メントール含有製品の刺激感増強方法。
(A)メンチルメチルエーテル
(B)N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
[12] 前記メントール含有製品が、化粧料、医薬品、医薬部外品、又は日用雑貨品である、前記[11]のメントール含有製品の刺激感増強方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るメントールの刺激感増強剤は、メントールと組み合わせて化粧料等に使用することにより、メントールの刺激感を増強し、メントールの清涼感と相俟って爽快な皮膚感覚を付与できる。当該刺激感増強剤によって増強されたメントールの刺激感は速やかに低減するため、極めて良好な使用感を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
【0011】
[1]メントールの刺激感増強剤
本発明に係るメントールの刺激感増強剤は、下記成分(A)と下記成分(B)からなる。
成分(A):メンチルメチルエーテル
成分(B):N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
【0012】
成分(A)のメンチルメチルエーテルは、下記式(1)で表される化合物である。メンチルメチルエーテルは、冷感作用を有し、チューインガム等の菓子類や練歯磨き用の香料素材として用いられている公知の化合物であるが、成分(B)と組み合わせることによってメントールの刺激感を増強する効果を示すことは、知られていなかった。
【0013】
【0014】
メンチルメチルエーテルは、例えば、特表2004-513960号公報の実施例1に記載されているように、メントールと硫酸ジメチルのようなメチル化剤を、塩基性条件下、相間移動触媒を用いて反応させることにより合成することができる。
【0015】
成分(B)のN-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド(WS-5)は、下記式(2)で表される化合物であり、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド(WS-3)は、下記式(3)で表される化合物である。これらはいずれも、メントールのカルボキサミド誘導体である。WS-5及びWS-3はいずれも、冷感剤として公知の化合物であり、メントールよりも強い冷感を有する一方で、においや刺激はメントールよりも穏やかであることから、チューインガムや歯磨きなどに使用されている。しかし、成分(A)と組み合わせることによって、メントールの刺激感を増強する効果を示すことは、知られていなかった。
【0016】
【0017】
WS-5及びWS-3はいずれも、Renessenz LLC、富士フイルム和光純薬株式会社、東京化成工業、関東化学株式会社等から購入することができる。
【0018】
メントールは、清涼感を付与する物質として、化粧料、皮膚外用剤等に広く使用されているが、配合量を増やすと不快な刺激感が感じられるようになる。この刺激感は、化粧料等を皮膚に塗布した後しばらく持続するため、一般に不快な感覚として知覚される。これに対して、本発明に係る刺激感増強剤をメントールと併用すると、メントールが皮膚に接触した直後の刺激感はより強く感じられるが、本発明に係る刺激感増強剤によって増強された刺激感は速やかに低減するため、持続する刺激感に基づく不快感は抑制される。これにより、メントールの清涼感と増強された刺激感が相俟って、非常に好ましい爽快感が感じられるようになる。このため、本発明に係る刺激感増強剤は、メントール含有製品への添加剤として好適であり、特に、強い爽快感が好まれる男性向け化粧料等への添加剤として好適である。
【0019】
本発明に係るメントールの刺激感増強剤における成分(A)と成分(B)の比率(質量)は、メントールに対する刺激感増強効果が得られる量であればよく、特に制限はない。本発明に係るメントールの刺激感増強剤としては、成分(A)と成分(B)の含有量が、成分(A):成分(B)=10:1~1:10(質量比)であることが好ましい。なお、メントールの刺激感増強剤が成分(B)としてWS-5とWS-3の両方を含有する場合、当該刺激感増強剤の成分(B)の含有量は、WS-5の含有量とWS-3の含有量の合計である。
【0020】
本発明に係るメントールの刺激感増強剤を、メントール含有製品に含有させることにより、当該製品のメントールに起因する刺激感をより増強させることができる。メントール含有製品に含有させる当該刺激感増強剤の量は、当該刺激感増強剤によるメントールの刺激感増強効果が奏される量であれば特に限定されるものではない。本発明に係るメントールの刺激感増強剤としては、メントール含有製品中に、当該メントール含有製品中のメントール100質量部に対して、2~20質量部含有させることが好ましく、10~20質量部含有させることがより好ましい。
【0021】
本発明に係るメントールの刺激感増強剤を含有させるメントール含有製品は、メントールを含有する製品であれば特に限定されるものではないが、皮膚に直接接触させる外用剤であることが好ましい。皮膚に直接接触させる外用剤としては、皮膚に直接適用する化粧料、医薬品、医薬部外品、日用雑貨品等が挙げられる。
【0022】
化粧料としては、スキンケア化粧品(クレンジングフォーム、化粧水、アフターシェービングローション等)、頭髪化粧品(ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアトリートメント、ヘアオイル、ヘアリキッド、セットローション、ヘアジェル、ヘアスプレー、ヘアフォーム、染毛剤等)、日焼け化粧品(サンタン、サンスクリーン製品)等が挙げられる。
【0023】
医薬品としては抗炎症剤(かゆみ止め等)、医薬部外品としては薬用化粧品(制汗デオドラント剤、薬用石けん、薬用シャンプー、美白・肌荒れ防止用化粧品等)が挙げられる。
【0024】
日用雑貨品としては、石けん、ヘアケア製品(シャンプー、リンス、リンスインシャンプー、コンディショナー、トリートメント、ヘアパック等)、浴用剤(バスソルト、バスタブレット、バスリキッド、フォームバス、バスオイル等)、ボディシャンプー、ハンドソープ等が挙げられる。
【0025】
本発明に係るメントールの刺激感増強剤を含有させるメントール含有製品中のメントール含有量は、特に限定されるものではなく、各種製品に求められる製品品質を考慮して、適宜決定することができる。本発明に係るメントールの刺激感増強剤の効果がより十分に発揮され得ることから、本発明に係るメントールの刺激感増強剤を含有させるメントール含有製品中のメントール含有量は、0.05~0.8質量%の範囲内であることが好ましく、0.1~0.6質量%の範囲内であることがより好ましい。製品全体におけるメントールの含有量がこれらの範囲内であることにより、不快と感じられるメントールの刺激感の長引きを抑制しつつ、メントールによる十分な爽快感が得られる。
【0026】
本発明に係るメントールの刺激感増強剤は、様々な剤型とすることができる。例えば、水溶性又は油溶性の液剤であってもよく、ペースト状であってもよく、パウダー状であってもよい。各種の剤型は、公知の方法で製造できる。
【0027】
[2]メントール含有製品の刺激感増強方法
メントール含有製品に、本発明に係るメントールの刺激感増強剤に代えて、前記成分(A)と前記成分(B)をそれぞれ別個の原料として含有させることによっても、当該メントール含有製品の刺激感を増強させることができる。当該メントール含有製品に配合する成分(A)と成分(B)の量は、両成分によるメントールの刺激感増強効果が奏される量であれば特に限定されるものではない。例えば、メントール含有製品中に、当該メントール含有製品中のメントール100質量部に対して、成分(A)と成分(B)をそれぞれ1~10質量部含有させることが好ましい。
【0028】
成分(A)と成分(B)を配合するメントール含有製品としては、メントールを含有する製品であれば特に限定されるものではないが、皮膚に直接接触させる外用剤であることが好ましい。皮膚に直接接触させる外用剤としては、皮膚に直接適用する化粧料、医薬品、医薬部外品、日用雑貨品等が挙げられる。これらの化粧料、医薬品、医薬部外品、日用雑貨品としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0029】
[3]刺激感惹起用組成物
本発明に係るメントールの刺激感増強剤は、予めメントールと混合して刺激感惹起用組成物とすることができる。本発明に係るメントールの刺激感増強剤とメントールの混合物を皮膚に直接接触させると、メントールのみの場合よりも、より強い刺激感を惹起させることができ、良好な爽快感も得られる。すなわち、本発明に係る刺激感惹起用組成物は、下記成分(A)と下記成分(B)と下記成分(C)とを含有する。
成分(A):メンチルメチルエーテル
成分(B):N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド及びN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミドからなる群より選択される1種以上
成分(C):メントール
【0030】
本発明に係る刺激感惹起用組成物における成分(A)と成分(B)と成分(C)の比率(質量)は、成分(A)と成分(B)によるメントールに対する刺激感増強効果が得られる量であればよく、特に制限はない。本発明に係る刺激感惹起用組成物としては、成分(A)と成分(B)の含有量と成分(C)の含有量が、成分(A):成分(B):成分(C)=1:1:100~10:10:100(質量比)であることが好ましく、成分(A):成分(B):成分(C)=5:5:100~10:10:100(質量比)であることがより好ましい。成分(A)と成分(B)と成分(C)の比率が前記範囲内であることにより、当該刺激感惹起用組成物又はこれを含む製品を皮膚に直接接触させた際に、不快と感じられるメントールの刺激感の長引きを抑制しつつ、メントールによる十分な爽快感が得られる。
【0031】
本発明に係る刺激感惹起用組成物は、前記成分(A)~(C)による刺激感惹起効果を損なわない限りにおいて、前記成分(A)~(C)以外の他の成分を含有していてもよい。当該他の成分としては、例えば、水;アルコール、グリセリン、プロピレングリコール等の有機溶剤;デキストリン、シュークロース、ペクチン、キチン等の賦形剤;油脂;乳化剤;酸化防止剤等が挙げられる。これらの成分は、例えば、香料組成物に一般的に使用されている添加剤の中から適宜選択して、適宜配合して用いることができる。
【0032】
メントールは、汎用されている香料素材である。このため、本発明に係る刺激感惹起用組成物は、それ自体を香料組成物として使用することができる。本発明に係る刺激感惹起用組成物が香料組成物である場合、当該刺激感惹起用組成物は、必要に応じて、1種以上の香料素材をさらに配合することもできる。当該香料素材としては、例えば、「特許庁公報 周知慣用技術集(香料) 第III部香粧品用香料」(2001年6月15日発行、日本国特許庁)等に記載された香料原料(精油、エッセンス、コンクリート、アブソリュート、エキストラクト、オレオレジン、レジノイド、回収フレーバー、炭酸ガス抽出精油、合成香料)、各種植物エキス等が例示され、それぞれ本発明の効果を損なわない量で配合することができる。
【0033】
香料原料としては、具体的には、ペパーミント、コーンミント、ペニーロイヤルミント、スペアミント、ベルガモットミント、ハッカ、ラベンダー、ラバンジン、ローズマリー、バジル、スイートマジョラム、オレガノ、タイム、セージ、ゼラニウム、ウインターグリーン、タラゴン、ブラックカラント、ブチュ等の植物から得られる精油等の天然香料;メントール、メントン、イソメントン、メンチルアセテート、2-sec-ブチルシクロヘキサノン、プレゴン、イソプレゴール、イソプレギルアセテート、l-カルボン、ジヒドロカルボン、l-カルベオール、メチルサリシレート、エチルサリシレート、シネオール、カルバクロール、チモール、エストラゴール等の合成香料を例示することができる。
【0034】
なお、本発明に係る刺激感惹起用組成物が、成分(A)~(C)に、更にその他の成分を含有する場合であって、当該他の成分にペパーミント油のようなメントールを含有する天然香料素材が含まれている場合、本発明に係る刺激感惹起用組成物のメントールの含有量は、成分(C)として配合したものに、当該天然香料素材に含まれているメントールも含めた含有量を意味する。
【0035】
本発明に係る刺激感惹起用組成物を、各種製品、特に皮膚に直接適用する外用剤に対して含有させることにより、メントール含有製品が製造できる。当該メントール含有製品を皮膚に直接適用すると、増強されているが速やかに消失する刺激感が惹起される。本発明に係る刺激感惹起用組成物を含有させる製品としては、特に限定されるものではないが、皮膚に直接接触させる外用剤であることが好ましい。皮膚に直接接触させる外用剤としては、皮膚に直接適用する化粧料、医薬品、医薬部外品、日用雑貨品等が挙げられる。これらの化粧料、医薬品、医薬部外品、日用雑貨品としては、前記と同様のものが挙げられる。
【0036】
各種製品に含有させる本発明に係る刺激感惹起用組成物の量は、当該刺激感惹起用組成物によりメントールに起因する刺激感を惹起できる量であれば、特に限定されるものではない。本発明に係る刺激感惹起用組成物を製品に含有させる量としては、製品中におけるメントール含有量が、0.05~0.8質量%の範囲内となる量であることが好ましく、0.1~0.6質量%の範囲内となる量であることがより好ましい。製品全体におけるメントールの含有量がこれらの範囲内であることにより、当該製品を皮膚に直接適用した際に、不快と感じられるメントールの刺激感の長引きを抑制しつつ、メントールによる十分な爽快感が得られる。
【0037】
本発明に係る刺激感惹起用組成物は、様々な剤型とすることができる。例えば、水溶性又は油溶性の液剤であってもよく、ペースト状であってもよく、パウダー状であってもよい。各種の剤型は、公知の方法で製造できる。
【0038】
組成物や製品中の成分(A)~(C)の含有量は、原料の配合比から算出することができる。また、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC/MS法)により測定することもできる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、特に記載がない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0040】
[実施例1、比較例1~6]
メントールを含有するローションを作製し、その冷感と刺激感を調べた。
【0041】
<ローションベースの作製>
ローションベースを、表1の組成で作製した。まず、A相を全て混合し、80℃で加温溶解させた後、40℃まで冷却し、B相成分を順次添加して撹拌した。得られた混合物に、混合溶解したC相を添加して撹拌した。次いで、得られた混合物に、混合溶解したD相を添加して攪拌した。最後に、得られた混合物に、混合溶解したE相を添加して、pH6.5に調製した。
【0042】
【0043】
<ローションの作製>
活性剤(PEG-20ソルビタンココエート)、エタノール(EtOH)及びローションベース(Lotion)からなるベース組成物に、メントール(MEN)、メンチルメチルエーテル(MME)、N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド(WS-5)、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド(WS-3)、バニリルブチルエーテル(VBE)、及びバニリルエチルエーテル(VEE)を表2に記載の組成で混合してローションを作製した。VBEとVEEは、メントールと併用することによりメントールの冷感の強度と持続性を高めることが報告されている(特許文献4)。
【0044】
【0045】
<冷感及び刺激感の評価>
作製した各ローションについて、冷感と刺激感を評価した。具体的には、被験者の手の甲の皮膚に100μLのサンプル(ローション)を滴下し、手の甲全体にサンプルを塗り延ばした。塗布直後、塗布から3分後、5分後、7分後、10分後、20分後、及び30分後に、被験者は冷感と刺激感を評価した。冷感と刺激感は、基準1のローションを基準(スコア値3)として、5段階(1が最も弱く、5が最も強い)で評価した。4名の被験者によるスコア値の平均値を、各ローションのスコア値とした。冷感の官能評価結果を表3に、刺激感の官能評価結果を表4に、それぞれ示す。
【0046】
【0047】
【0048】
メントールの含有量が互いに異なる基準1と比較例5と比較例6のローションを比較すると、メントール量依存的に、冷感と刺激感の両方とも強くなる傾向が観察された。また、VBEを含む比較例3のローションは、基準1よりもやや冷感と刺激感が弱く、VEEを含む比較例4のローションは、基準1よりも冷感がやや増強されたが刺激感が弱く、いずれも刺激感増強効果は確認されなかった。また、MMEのみを含む比較例2とWS-5のみを含む比較例1のローションは、塗布直後の冷感はやや増強されたものの、塗布から3分後からは基準1のローションと同程度であり、刺激感については基準1に対して増強効果は確認されなかった。これに対して、MMEとWS-5の両方を含む実施例1では、冷感と刺激感の両方が、塗布直後に増強効果が確認されたが、冷感については塗布から5分後には、刺激感は塗布から3分後には、増強効果は消失し、むしろ基準1よりも減弱されていた。これらの結果から、MMEとWS-5の両方をメントールと組み合わせることにより、メントールの冷感と刺激感を、皮膚に直接接触させた直後には、メントール単独の場合よりも増強させることができ、かつこの増強効果は速やかに消失すること、この速やかに消失する刺激感増強効果により、爽快感に優れていることがわかった。
【0049】
[実施例2~3、比較例7~8]
メントールとMMEとWS-5を含むローションを作製し、冷感と刺激感に対するこれら3者の含有量の比率の影響を調べた。具体的には、まず、メントールとMMEとWS-5の含有量が表5になるようにした以外は実施例1と同様にしてローションを作製した。得られた各ローションの冷感と刺激感を、実施例1と同様にして調べた。冷感の官能評価結果を表6に、刺激感の官能評価結果を表7に、それぞれ示す。参考までに実施例1のローションについても記載した。加えて、官能評価のまとめを表8に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
成分(A)のMMEと、成分(B)のWS-5と、成分(C)のメントールとの含有量比が(A):(B):(C)=1:1:100~10:10:100である実施例1と実施例2と実施例3のローションは、刺激感は、塗布直後には増強効果が確認されたが、この増強効果は塗布から5分後には消失しており、非常に良好な爽快感が得られた。これに対して、(A):(B):(C)=0.1:0.1:100である比較例7のローションは、刺激感に対する増強効果は観察されなかった。また、(A):(B):(C)=50:50:100である比較例8のローションは、塗布直後から刺激感の増強効果は観察されたものの、塗布から30分後まで増強効果は継続していた。
【0055】
[実施例4~6、比較例9~10]
メントールとMMEとWS-5を含むローションを作製し、冷感と刺激感に対するメントールの含有量の比率の影響を調べた。具体的には、まず、メントールとMMEとWS-5又はWS-3の含有量が表9になるようにした以外は実施例1と同様にしてローションを作製した。得られた各ローションの冷感と刺激感を、実施例1と同様にして調べた。冷感の官能評価結果を表10に、刺激感の官能評価結果を表11に、それぞれ示す。加えて、官能評価のまとめを表12に示す。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
ローション中のメントール含有量が0.05~0.8質量%である実施例4と実施例5のローションでは、塗布直後から塗布から3~5分後まで、刺激感と冷感の両方の増強効果が確認されたが、その後はこの増強効果は消失しており、非常に良好な爽快感が得られた。WS-5に代えてWS-3を用いた実施例6のローションも、同様の効果を示した。一方で、ローション中のメントール含有量が0.01質量%であった比較例9のローションでは、刺激感と冷感の両方において増強効果は観察されなかった。ローション中のメントール含有量が1質量%であった比較例10のローションでは、冷感と刺激感の両方において、塗布直後から、塗布から30分後まで増強効果が持続しており、不快な刺激を感じた。
【0061】
[実施例7~8]
表13の処方に従い、室温下、200mL容の金属/ガラス/ポリ容器中、植物性消臭剤、パラフェノールスルホン酸亜鉛、1,3-ブチレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、(A)メンチルメチルエーテル、(B)N-(エトキシカルボニルメチル)-3-p-メンタンカルボキシアミド又はN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、及び(C)メントールをエタノールに溶解させて作製した制汗剤原液に、同量のLPGを混合して、冷感制汗剤(デオドラントスプレー)を調製した。
【0062】
【0063】
[実施例9~10]
(1)シャンプーベースの作製
表14の処方に従い、水系ベースをビーカーに測り取り、85℃で加温しながら均一混合後、撹拌しながらココイルグルタミン酸Naなどの活性剤を添加して均一溶解させ、1%クエン酸水及び水を添加してシャンプーベースを調製した。
【0064】
【0065】
(2)冷感シャンプーの作製
表15の処方に従い、油系ベースをビーカーに測り取り、均一混合後、シャンプーベースを添加し均一混合し、冷感シャンプーを作製した。
【0066】
【0067】
[実施例11~12]
表16の処方に従い、本発明の冷感ボディソープを調製した。
【0068】