(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】集積装置及びニューロモーフィックデバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 29/82 20060101AFI20240716BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240716BHJP
H01F 10/08 20060101ALI20240716BHJP
G06N 3/063 20230101ALI20240716BHJP
【FI】
H01L29/82 Z
H10N50/10
H01F10/08
G06N3/063
(21)【出願番号】P 2020167811
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】山田 章悟
(72)【発明者】
【氏名】柴田 竜雄
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-258460(JP,A)
【文献】特開2010-141340(JP,A)
【文献】国際公開第2007/020823(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/068509(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0287978(US,A1)
【文献】国際公開第2020/174569(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0149863(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0142264(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0247550(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0383853(US,A1)
【文献】特開2020-053532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/82
H10N 50/10
H01F 10/08
G06N 3/063
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に積層された積層構造体と、を備え、
前記積層構造体は、第1素子群と、前記第1素子群より前記基板から離れた位置にある第2素子群と、を備え、
前記第1素子群及び前記第2素子群はそれぞれ、複数の磁壁移動素子を含み、
前記複数の磁壁移動素子はそれぞれ、磁壁移動層と、強磁性層と、前記磁壁移動層と前記強磁性層との間に挟まれた非磁性層と、を備え、
前記第2素子群を構成する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の前記基板側の第1面は、前記第1素子群を構成する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の前記基板側の第1面より前記基板から離れた位置にあり、
前記磁壁移動層の磁壁を移動させるのに要する臨界電流密度は、前記第2素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子の方が、前記第1素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子より小さい、集積装置。
【請求項2】
基板と、前記基板上に積層された積層構造体と、を備え、
前記積層構造体は、第1素子群と、前記第1素子群より前記基板から離れた位置にある第2素子群と、を備え、
前記第1素子群及び前記第2素子群はそれぞれ、複数の磁壁移動素子を含み、
前記複数の磁壁移動素子はそれぞれ、磁壁移動層と、強磁性層と、前記磁壁移動層と前記強磁性層との間に挟まれた非磁性層と、を備え、
前記第2素子群を構成する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の前記基板側の第1面は、前記第1素子群を構成する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の前記基板側の第1面より前記基板から離れた位置にあり、
前記磁壁移動層の磁壁移動速度は、前記第2素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子の方が、前記第1素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子より速い、集積装置。
【請求項3】
前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子と前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子とは、前記磁壁移動層を構成する材料が異なる、請求項1又は2に記載の集積装置。
【請求項4】
前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子と前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子とは、前記磁壁移動層の幅が異なる、請求項1~3のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項5】
前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の飽和磁化は、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の飽和磁化より小さい、請求項1~4のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項6】
前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の電気抵抗率は、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の電気抵抗率より小さい、請求項1~5のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項7】
前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の厚みは、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の厚みより薄い、請求項1~6のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項8】
前記磁壁移動層が延びる第1方向と直交する断面における前記磁壁移動層の側面の積層方向に対する傾斜角は、前記第2素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子の方が前記第1素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子より大きい、請求項1~7のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項9】
前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層は、強磁性体を含む第1層及び第2層と、前記第1層と前記第2層との間に挟まれるスペーサ層と、を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項10】
前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子は、前記非磁性層と共に前記磁壁移動層を挟む位置にあり、前記磁壁移動層の磁化にスピン軌道トルクを与える配線層をさらに備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項11】
前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子は、前記非磁性層と共に前記磁壁移動層を挟む位置にあり、前記磁壁移動層の磁化にスピン軌道トルクを与える配線層をさらに備え、
前記第2素子群の前記配線層は、前記第1素子群の前記配線層よりスピンホール角が大きい、請求項10に記載の集積装置。
【請求項12】
前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子のうちのいずれかは、積層方向から見て、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子のうちのいずれかと重なる、請求項1~11のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項13】
前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子はいずれも、積層方向から見て、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子と重ならない、請求項1~11のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項14】
前記積層構造体は、前記第1素子群に属するいずれかの磁壁移動素子と、前記第2素子群に属するいずれかの磁壁移動素子とを繋ぐ接続配線をさらに備える、請求項1~13のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項15】
前記第1素子群は第1積和演算を行い、前記第2素子群は第2積和演算を行い、
前記第1素子群に属する複数の磁壁移動素子からの出力の合計が、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子に入力される、請求項1~14のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項16】
前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子に入力される書き込みパルスのパルス長は、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子に入力される書き込みパルスのパルス長より長い、請求項1~15のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項17】
前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子に入力される書き込みパルスのパルス振幅は、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子に入力される書き込みパルスのパルス振幅より大きい、請求項1~16のいずれか一項に記載の集積装置。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の集積装置を含む、ニューロモーフィックデバイス。
【請求項19】
ニューラルネットワークを担う複数の階層を有し、
前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子と、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子とは、異なる階層の間の演算を担う、請求項18に記載のニューロモーフィックデバイス。
【請求項20】
ニューラルネットワークを担う複数の階層を有し、
前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子の一部及び前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の一部が、それぞれの階層間の演算を担う、請求項18に記載のニューロモーフィックデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積装置及びニューロモーフィックデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
二つの強磁性層の磁化の相対角の変化に基づく抵抗値変化(磁気抵抗変化)を利用した磁気抵抗効果素子が知られている。磁気抵抗効果素子の中には、データを書き込む際の電流経路とデータを読み出す際の電流経路とが異なるものがある。このような磁気抵抗効果素子は、異なる電流経路の電流をそれぞれ制御するために、3つのスイッチング素子が接続される。3つのスイッチング素子で制御される磁気抵抗効果素子は、3端子型の磁気抵抗効果素子と言われる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載された磁壁移動型の磁気抵抗効果素子は、3端子型の磁気抵抗効果素子の一例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気抵抗効果素子は、集積して用いることが多い。集積されたそれぞれの磁気抵抗効果素子の性能にばらつきがあると、集積装置全体としての制御性が低下する。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、それぞれの磁気抵抗効果素子の性能ばらつきが小さく、全体としての制御性に優れる集積装置及びニューロモーフィックデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1実施形態にかかる集積装置は、基板と、前記基板上に積層された積層構造体と、を備え、前記積層構造体は、第1素子群と、前記第1素子群より前記基板から離れた位置にある第2素子群と、を備え、前記第1素子群及び前記第2素子群はそれぞれ、複数の磁壁移動素子を含み、前記複数の磁壁移動素子はそれぞれ、磁壁移動層と、強磁性層と、前記磁壁移動層と前記強磁性層との間に挟まれた非磁性層と、を備え、前記磁壁移動層の磁壁を移動させるのに要する臨界電流密度は、前記第2素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子の方が、前記第1素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子より小さい。
【0008】
(2)第2実施形態にかかる集積装置は、基板と、前記基板上に積層された積層構造体と、を備え、前記積層構造体は、第1素子群と、前記第1素子群より前記基板から離れた位置にある第2素子群と、を備え、前記第1素子群及び前記第2素子群はそれぞれ、複数の磁壁移動素子を含み、前記複数の磁壁移動素子はそれぞれ、磁壁移動層と、強磁性層と、前記磁壁移動層と前記強磁性層との間に挟まれた非磁性層と、を備え、前記磁壁移動層の磁壁移動速度は、前記第2素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子の方が前記第1素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子より速い。
【0009】
(3)上記態様にかかる集積装置において、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子と前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子とは、前記磁壁移動層を構成する材料が異なってもよい。
【0010】
(4)上記態様にかかる集積装置において、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子と前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子とは、前記磁壁移動層の幅が異なってもよい。
【0011】
(5)上記態様にかかる集積装置において、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の飽和磁化は、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の飽和磁化より小さくてもよい。
【0012】
(6)上記態様にかかる集積装置において、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の電気抵抗率は、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の電気抵抗率より小さくてもよい。
【0013】
(7)上記態様にかかる集積装置において、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の厚みは、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層の厚みより薄くてもよい。
【0014】
(8)上記態様にかかる集積装置において、前記磁壁移動層が延びる第1方向と直交する断面における前記磁壁移動層の側面の積層方向に対する傾斜角は、前記第2素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子の方が前記第1素子群に属するそれぞれの前記磁壁移動素子より大きくてもよい。
【0015】
(9)上記態様にかかる集積装置において、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の前記磁壁移動層は、強磁性体を含む第1層及び第2層と、前記第1層と前記第2層との間に挟まれるスペーサ層と、を有してもよい。
【0016】
(10)上記態様にかかる集積装置において、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子は、前記非磁性層と共に前記磁壁移動層を挟む位置にあり、前記磁壁移動層の磁化にスピン軌道トルクを与える配線層をさらに備えてもよい。
【0017】
(11)上記態様にかかる集積装置は、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子は、前記非磁性層と共に前記磁壁移動層を挟む位置にあり、前記磁壁移動層の磁化にスピン軌道トルクを与える配線層をさらに備え、前記第2素子群の前記配線層は、前記第1素子群の前記配線層よりスピンホール角が大きくてもよい。
【0018】
(12)上記態様にかかる集積装置において、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子のうちのいずれかは、前記積層方向から見て、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子のうちのいずれかと重なってもよい。
【0019】
(13)上記態様にかかる集積装置において、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子はいずれも、前記積層方向から見て、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子と重ならない構成でもよい。
【0020】
(14)上記態様にかかる集積装置において、前記積層構造体は、前記第1素子群に属するいずれかの磁壁移動素子と、前記第2素子群に属するいずれかの磁壁移動素子とを繋ぐ配線をさらに備えてもよい。
【0021】
(15)上記態様にかかる集積装置において、前記第1素子群は第1積和演算を行い、前記第2素子群は第2積和演算を行い、前記第1素子群に属する複数の磁壁移動素子からの出力の合計が、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子に入力されてもよい。
【0022】
(16)上記態様にかかる集積装置において、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子に入力される書き込みパルスのパルス長は、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子に入力される書き込みパルスのパルス長より長くてもよい。
【0023】
(17)上記態様にかかる集積装置において、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子に入力される書き込みパルスのパルス振幅は、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子に入力される書き込みパルスのパルス振幅より大きくてもよい。
【0024】
(18)第3の態様にかかるニューロモーフィックデバイスは、上記態様にかかる集積装置を含む。
【0025】
(19)上記態様にかかるニューロモーフィックデバイスは、ニューラルネットワークを担う複数の階層を有し、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子と、前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子とは、異なる階層の間の演算を担ってもよい。
【0026】
(20)上記態様にかかるニューロモーフィックデバイスは、ニューラルネットワークを担う複数の階層を有し、前記第1素子群に属する前記磁壁移動素子の一部及び前記第2素子群に属する前記磁壁移動素子の一部が、それぞれの階層間の演算を担ってもよい。
【発明の効果】
【0027】
上記態様に係る集積装置及びニューロモーフィックデバイスは、それぞれの磁気抵抗効果素子の性能ばらつきが小さく、全体としての制御性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態にかかる集積装置の回路図である。
【
図3】第1実施形態にかかる集積装置の一部の回路図である。
【
図4】第1実施形態にかかる集積装置の特徴部分の断面図である。
【
図5】第1実施形態にかかる集積装置の特徴部分の平面図である。
【
図6】第1実施形態にかかる集積装置の2つの磁壁移動素子の近傍を拡大した平面図である。
【
図7】第1実施形態にかかる集積装置の特徴部分の斜視図である。
【
図8】第1実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子及び第2素子群の磁壁移動素子の断面図である。
【
図9】第1実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子及び第2素子群の磁壁移動素子の別の断面図である。
【
図10】磁壁移動層の磁壁移動速度と臨界電流密度との関係を示す図である。
【
図11】第2実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子及び第2素子群の磁壁移動素子の断面図である。
【
図12】第3実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子及び第2素子群の磁壁移動素子の断面図である。
【
図13】第4実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子及び第2素子群の磁壁移動素子の断面図である。
【
図14】第5実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子及び第2素子群の磁壁移動素子の断面図である。
【
図15】第6実施形態にかかる集積装置の特徴部分の断面図である。
【
図16】第7実施形態にかかる集積装置の特徴部分の断面図である。
【
図17】第8実施形態にかかる集積装置の一部の回路図である。
【
図18】変形例にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子及び第2素子群の磁壁移動素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0030】
まず方向について定義する。基板Sb(
図4参照)の一面の一方向をx方向、x方向と直交する方向をy方向とする。x方向は、例えば、磁壁移動素子の磁壁移動層が延びる方向である。x方向は、第1方向の一例である。z方向は、x方向及びy方向と直交する方向である。z方向は、積層方向の一例である。以下、+z方向を「上」、-z方向を「下」と表現する場合がある。+z方向は、基板Sbから離れる方向である。上下は、必ずしも重力が加わる方向とは一致しない。
【0031】
また本明細書において「第1方向に延びる」とは、第1方向の長さが他の方向の長さより長いことを意味する。また本明細書において「接続」とは、直接的な接続に限られず、間に層を介する接続を含む。
【0032】
「第1実施形態」
図1は、第1実施形態にかかる集積装置IDの回路図である。集積装置IDは、例えば、第1回路C1と第2回路C2とを備える。第1回路C1と第2回路C2のそれぞれは、異なる積和演算を行う積和演算回路である。第1回路C1と第2回路C2とは、互いに接続されている。例えば、第1回路C1で積和演算された出力が第2回路C2に入力される。第2回路C2は、例えば、第1回路C1で積和演算された結果を入力として、更なる積和演算を行う。
【0033】
第1実施形態に係る集積装置IDは、例えば、ニューロモーフィックデバイスとして機能する。ニューロモーフィックデバイスは、ニューラルネットワークの演算を行う装置である。ニューロモーフィックデバイスは、人間の脳におけるニューロンとシナプスとの関係を人工的に模倣している。
【0034】
図2は、ニューラルネットワークNNの模式図である。ニューラルネットワークNNは、入力層L
inと中間層L
mと出力層L
outとを有する。
図2では中間層L
mが3層の例を提示しているが、中間層L
mの数は問わない。入力層L
inと中間層L
mと出力層L
outのそれぞれは複数のチップCを有し、それぞれのチップCは脳におけるニューロンに対応する。入力層L
inと中間層L
mと出力層L
outとのそれぞれは、伝達手段で接続されている。伝達手段は、脳におけるシナプスに対応する。ニューラルネットワークNNは、伝達手段(シナプス)が学習することで、問題の正答率を高める。学習は将来使えそうな知識を情報から見つけることである。ニューラルネットワークNNは、伝達手段に印加する重みを変えながら動作することで、学習する。伝達手段は、入力された信号に重みをかける積演算と、積演算された結果を足す和演算を行う。すなわち、伝達手段は、積和演算を行う。
【0035】
図1に示す第1回路C1は、例えば、第1中間層L
m1から第2中間層L
m2への積和演算を担い、第2回路C2は、例えば、第2中間層L
m2から第3中間層L
m3への積和演算を担う。
【0036】
図3は、第1実施形態にかかる集積装置IDの一部の回路図である。
図3は、第1回路C1又は第2回路C2の回路図である。第1回路C1と第2回路C2とは、例えば、同様の回路構造を有する。
【0037】
第1回路C1は複数の磁壁移動素子100を有する。第2回路C2は、複数の磁壁移動素子110を有する。第1回路C1、第2回路C2はそれぞれ、複数の第1スイッチング素子SW1と、複数の第2スイッチング素子SW2と、複数の第3スイッチング素子SW3と、複数の書き込み線WLと、複数の読出し線RLと、複数の共通線CLとを有する。
【0038】
第1回路C1において磁壁移動素子100は、例えば、行列状に配列している。第2回路C2において磁壁移動素子110は、例えば、行列状に配列している。一つの磁壁移動素子100,110は、一つの第1スイッチング素子SW1、一つの第2スイッチング素子SW2、一つの第3スイッチング素子SW3のそれぞれに接続されている。第1スイッチング素子SW1、第2スイッチング素子SW2、第3スイッチング素子SW3のいずれかは、複数の磁壁移動素子100,110に接続してもよい。
【0039】
特定の磁壁移動素子100,110に接続された第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2をONにすると、特定の磁壁移動素子100,110にデータが書き込まれる。データは、磁壁移動素子100,110の積層方向の抵抗値として記録される。また特定の磁壁移動素子100,110に接続された第2スイッチング素子SW2と第3スイッチング素子SW3とをONにすると、特定の磁壁移動素子100,110に書き込まれたデータが読み出される。
【0040】
磁壁移動素子100,110からデータを読み出す場合、読出し線RLから共通線CLに向かって電流を流す。共通線CLから出力される電流(出力値)は、磁壁移動素子100,110の抵抗値(重み)によって異なる。すなわち、読出し線RLから共通線CLに向かって電流を印加することは、ニューラルネットワークNNにおける積演算に対応する。また共通線CLは、同じ列に属する複数の磁壁移動素子100,110に接続され、共通線CLの端部で検出される電流は、それぞれの磁壁移動素子100,110で積演算された結果を和演算した値となる。したがって、集積装置IDは、ニューラルネットワークNNの積和演算器として機能する。
【0041】
集積装置IDの読出し線RLに印加される電流のそれぞれは積和演算器への入力であり、集積装置IDの共通線CLのそれぞれから出力される電流は積和演算器からの出力である。積和演算器への入力信号は、パルス幅で制御しても、パルス高さで制御しても、パルス頻度で制御してもよい。
【0042】
第1スイッチング素子SW1、第2スイッチング素子SW2及び第3スイッチング素子SW3は、例えば、電界効果型のトランジスタである。第1スイッチング素子SW1、第2スイッチング素子SW2及び第3スイッチング素子SW3は、例えば、オボニック閾値スイッチ(OTS:Ovonic Threshold Switch)のように結晶層の相変化を利用した素子、金属絶縁体転移(MIT)スイッチのようにバンド構造の変化を利用した素子、ツェナーダイオード及びアバランシェダイオードのように降伏電圧を利用した素子、原子位置の変化に伴い伝導性が変化する素子でもよい。
【0043】
第1スイッチング素子SW1は、書き込み線WLに接続される。第2スイッチング素子SW2は、共通線CLに接続される。第3スイッチング素子SW3は、読出し線RLに接続される。読出し線RLは、データを読出し時に電流が流れる配線である。書き込み線WLは、データを書き込み時に電流が流れる配線である。共通線CLは、データの書き込み時及びデータの読出し時のいずれの場合にも電流が流れる配線である。
【0044】
図4は、第1実施形態にかかる集積装置IDの特徴部分の断面図である。
図5は、第1実施形態にかかる集積装置IDの特徴部分の平面図である。
図5は、読出し線RL、書き込み線WL、共通線CLを除いて図示している。
図6は、第1実施形態にかかる集積装置IDの2つの磁壁移動素子100,110の近傍を拡大した平面図である。
図4は、
図5及び
図6におけるA-A線に沿って切断したxz断面である。
図7は、集積装置IDの特徴部分の斜視図である。
図7は、絶縁体Inを除いて図示している。
【0045】
集積装置IDは、基板Sbと積層構造体LSとを備える。積層構造体LSは、基板Sb上にある。
【0046】
基板Sbは、例えば、半導体基板である。基板Sbは、複数のスイッチング素子を有する。複数のスイッチング素子の間は、素子間絶縁体Eiで絶縁されている。複数のスイッチング素子は、磁壁移動素子100,110のそれぞれを制御する。
【0047】
複数のスイッチング素子は、例えば、第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2である。第3スイッチング素子SW3は、例えば、y方向の異なる位置にある。第3スイッチング素子SW3は、例えば、磁壁移動素子100、110が集積された集積領域の外側の周辺領域にある。以下、第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2が集積領域内に行列状に配列している場合を例とする。
【0048】
第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2はそれぞれ、例えば電界効果型のトランジスタTrである。以下、第1スイッチング素子SW1及び第2スイッチング素子SW2を区別せずに、単にトランジスタTrという場合がある。
【0049】
トランジスタTrは、例えば、行列状に配列している。トランジスタTrは、例えば、ゲートGとゲート絶縁膜GIとソースSとドレインDとを有する。ゲートGは、z方向から見て、ソースSとドレインDとの間にある。ゲートGは、ソースSとドレインDとの間の電荷の流れを制御する。ソースSとドレインDとは、電流の流れ方向によって規定された名称であり、電流の流れ方向に応じて位置が変わる。図に示すソースSとドレインDとの位置関係は一例であり、それぞれのトランジスタTrのソースSとドレインDの位置関係は反対でもよい。
【0050】
積層構造体LSは、第1素子群と第2素子群と配線と絶縁体Inとを備える。第1素子群は、複数の磁壁移動素子100を有する。第2素子群は、複数の磁壁移動素子110を有する。第1素子群と第2素子群とは異なる階層にある。第2素子群は、第1素子群より基板Sbから離れた位置にある。第1素子群は、例えば、第1回路C1を形成し、第1積和演算を行う。第2素子群は、例えば、第2回路C2を形成し、第2積和演算を行う。すなわち、第1素子群と第2素子群とは、例えば、図に示すニューラルネットワークNNの異なる階層間の演算を担う。
【0051】
階層は、機能ごとに分けられた層である。積層構造体LSは、積層工程と加工工程との繰り返しによって作製されており、それぞれの積層工程で積層された単位が階層となっている場合が多い。積層構造体LSは、例えば、面内配線を含む配線層と磁壁移動素子を含む素子層とが交互に積層されている。素子層は、2層以上でもよい。
【0052】
複数の磁壁移動素子100,110及び配線は、絶縁体In内にある。絶縁体Inは、階層ごとに形成される。絶縁体Inは、例えば、階層ごとに絶縁体In1、In2、In3、In4に区分される。絶縁体Inは、多層配線の配線間や素子間を絶縁する。絶縁体Inは、例えば、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrOx)等である。
【0053】
配線は、導電性を有する。配線は、例えば、Ag、Cu、Co、Al、Auからなる群から選択されるいずれか一つを含む。配線は、面内配線とビア配線VLとがある。面内配線は、xy面内のいずれかの方向に延びる配線である。ビア配線VLは、z方向に延びる配線である。ビア配線VLは、例えば、異なる階層にある素子間を繋ぐ。ビア配線VLは、隣接する階層を貫通し、隣接する階層を挟む階層又は基板に至る貫通配線でもよい。貫通配線は、例えば、磁壁移動素子100,110のそれぞれと基板SbのトランジスタTrとを繋ぎ、絶縁体Inの一部をz方向に貫通する。貫通配線は、例えば、z方向に連続する。
【0054】
例えば、読出し線RL、書き込み線WL、共通線CL、これらとビア配線VLとを接続する配線、ビア配線VLの間を接続する配線は、面内配線である。面内配線は、例えば、基板Sbと第1素子群との間の階層、及び、第1素子群と第2素子群との間の階層にある。読出し線RLは、例えば、x方向に延びる。読出し線RLは、例えば、磁壁移動素子100に接続される読出し線RL1と磁壁移動素子110に接続される読出し線RL2とがある。読出し線RL1、RL2は、例えば、電極Eを介して磁壁移動素子100,110の強磁性層20,60に接続される。書き込み線WLは、例えば、x方向に延びる。書き込み線WLは、例えば、y方向に延びる配線を介してトランジスタTrに至るビア配線VLに接続されている。共通線CLは、例えば、y方向に延びる。
【0055】
磁壁移動素子100と磁壁移動素子110は、積層構造体LSの異なる階層にある。磁壁移動素子100は第1階層にあり、磁壁移動素子110は第2階層にある。磁壁移動素子100,110が異なる階層にあることで、トランジスタTrを漏れなく利用でき、集積装置IDの集積性が高まる。磁壁移動素子100,110のそれぞれは、例えば、基板SbのトランジスタTrのいずれかに接続されている。例えば、x方向に隣り合うトランジスタTrは、異なる階層の磁壁移動素子100,110に接続される。例えば、y方向に並ぶ第1列と第3列のトランジスタTrは磁壁移動素子100を制御し、第2列と第4列のトランジスタTrは磁壁移動素子110を制御する。
【0056】
第2素子群の磁壁移動素子110のいずれかは、第1素子群のいずれかの磁壁移動素子100と、z方向から見て一部で重なっている。異なる階層の磁壁移動素子100,110をz方向に重ねて配置すると、所定の領域内に収容できる磁壁移動素子100,110の数が多くなり、集積装置IDの集積性が高まる。
【0057】
図8は、第1実施形態にかかる集積装置IDの第1素子群の磁壁移動素子100及び第2素子群の磁壁移動素子110の断面図である。
図8は、磁壁移動層10,50のy方向の幅の中心を通るxz平面で磁壁移動素子100,110のそれぞれを切断した断面である。
図9は、第1実施形態にかかる集積装置IDの第1素子群の磁壁移動素子100及び第2素子群の磁壁移動素子110の別の断面図である。
図9は、磁壁移動層10,50のx方向の中心を通るyz平面で磁壁移動素子100,110のそれぞれを切断した断面である。
【0058】
磁壁移動素子100は、磁壁移動層10と非磁性層30と強磁性層20とを有する。磁壁移動層10は、例えば、強磁性層20より基板Sb側にある。磁壁移動素子110は、磁壁移動層50と非磁性層70と強磁性層60とを有する。磁壁移動層50は、例えば、強磁性層60より基板Sb側にある。磁壁移動素子100と磁壁移動素子110とは、構成及び形状が略同一である。磁壁移動素子100,110は、3端子型の磁気抵抗効果素子であり、x方向の長さがy方向の長さより長い。
【0059】
磁壁移動層10,50は、x方向に延びる。磁壁移動層10,50は、例えば、z方向からの平面視で、x方向が長軸、y方向が短軸の矩形である。磁壁移動層10,50は、非磁性層30,70を挟んで、強磁性層20,60と対向する。磁壁移動層10,50は、第1端が第1スイッチング素子SW1に接続され、第2端が第2スイッチング素子SW2に接続されている。
【0060】
磁壁移動層10,50は、強磁性体を含む。磁壁移動層10,50は、内部の磁気的な状態の変化により情報を磁気記録可能な層である。磁壁移動層10,50は、磁気的な状態の異なる第1磁区A1と第2磁区A2とを有することができる。第1磁区A1の磁化MA1と第2磁区A2の磁化MA2とは、例えば、反対方向に配向する。例えば第1磁区A1の磁化MA1は+z方向に配向し、第2磁区A2の磁化MA2は-z方向に配向している。第1磁区A1と第2磁区A2との境界が磁壁DWである。磁壁移動層10,50は、内部に磁壁DWを有することができる。
【0061】
磁壁DWが移動すると、磁壁移動層10,50における第1磁区A1と第2磁区A2との比率が変化する。磁壁DWは、磁壁移動層10,50のx方向に書き込み電流を流すことによって移動する。磁壁移動層10,50における第1磁区A1と第2磁区A2との比率が変化すると、磁壁移動素子100,110の抵抗値が変化する。磁壁移動素子100,110の抵抗値は、非磁性層30,70を挟む強磁性層の磁化の相対角に応じて変化する。磁壁移動素子100,110は、磁壁移動層10,50の磁化MA1,MA2と強磁性層20,60の磁化M20,M60との相対角に応じて変化する。第1磁区A1の比率が多くなると、磁壁移動素子100,110の抵抗値は小さくなり、第2磁区A2の比率が多くなると、磁壁移動素子100,110の抵抗値は大きくなる。磁壁移動素子100,110は、例えば、磁壁DWの位置が変わることで、抵抗値がアナログに変化する。磁壁移動素子100,110の抵抗値は、ニューラルネットワークNNにおける伝達手段に重みに対応する。
【0062】
磁壁移動層50の臨界電流密度は、磁壁移動層10の臨界電流密度より小さい。それぞれの磁壁移動層10、50内、又は、複数の磁壁移動素子100,110のそれぞれの臨界電流密度にばらつきがある場合、例えば、磁壁移動層50の臨界電流密度の最大値は、磁壁移動層10の臨界電流密度の最小値より小さい。臨界電流密度は、磁壁DWを移動させるのに要する電流密度である。すなわち、磁壁移動層50の方が磁壁移動層10より磁壁DWを動かすのに必要なエネルギーが小さく、磁壁移動層50の方が磁壁移動層10より磁壁DWが動きやすい。また磁壁移動層50の磁壁DWの移動速度は、磁壁移動層10の磁壁DWの移動速度より速い。
【0063】
磁壁DWの移動速度vは、磁壁DWの移動距離を書き込みパルスの積算時間で割った値である。例えば、磁壁移動層10,50のうち強磁性層20, 60と重なる長さをL、書き込みパルスの信号の長さt、磁壁移動素子100,110の抵抗値を最大から最小まで変化させるのに必要な書き込みパルスの数をnとした際に、磁壁DWの移動速度vはv=L/(t×n)で表される。
【0064】
臨界電流密度は、磁壁DWの移動速度vと電流密度Jの関係から評価できる。まず、書き込みパルスの信号振幅を変えた際の磁壁DWの移動速度vの変化を評価する。次いで、電流値と磁壁移動層10,50の断面積から各書き込みパルスにおける電流密度Jを求め、磁壁DWの移動速度vと書き込みパルスの電流密度Jとをグラフにプロットする。
図10は、磁壁DWの移動速度vと書き込みパルスの電流密度Jとをグラフにプロットした結果である。その後、各プロット点に対し近似直線を引き、磁壁DWの移動速度vが0となる際の電流密度Jを臨界電流密度Jc1,Jc2と定義する。
【0065】
磁壁移動層10,50の臨界電流密度、磁壁DWの移動速度は、磁壁移動層10,50の構成、材料、形状等によって変えることができる。
【0066】
例えば、磁壁移動層10と磁壁移動層50とは、異なる材料を含む。磁壁移動層10と磁壁移動層50との構成材料が異なれば、磁壁移動層10と磁壁移動層50との飽和磁化は異なる。磁壁移動層50の飽和磁化は、例えば、磁壁移動層10の飽和磁化より小さい。また磁壁移動層10と磁壁移動層50との構成材料が異なれば、磁壁移動層10と磁壁移動層50との電気抵抗率は異なる。磁壁移動層50の電気抵抗率は、例えば、磁壁移動層10の電気抵抗率より小さい。
【0067】
磁壁移動層10,50は、磁性体により構成される。磁壁移動層10,50は、強磁性体、フェリ磁性体、又はこれらと電流により磁気状態を変化させることが可能な反強磁性体との組み合わせでもよい。磁壁移動層10,50は、Co、Ni、Fe、Pt、Pd、Gd、Tb、Mn、Ge、Gaからなる群から選択される少なくとも一つの元素を有することが好ましい。磁壁移動層10,50は、強磁性層20,60と同様の材料でもよい。磁壁移動層10,50に用いられる材料として、例えば、CoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜、MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料が挙げられる。MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料等のフェリ磁性体は飽和磁化が小さく、磁壁DWを移動するために必要な閾値電流が小さくなる。またCoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜は、保磁力が大きく、磁壁DWの移動速度が遅くなる。反強磁性体は、例えば、Mn3X(XはSn、Ge、Ga、Pt、Ir等)、CuMnAs、Mn2Au等である。
【0068】
非磁性層30は、例えば、磁壁移動層10に積層されている。非磁性層70は、例えば、磁壁移動層50に積層されている。非磁性層30,70は、磁壁移動層10,50と強磁性層20,60との間にある。
【0069】
非磁性層30,70は、例えば、非磁性の絶縁体、半導体又は金属からなる。非磁性の絶縁体は、例えば、Al2O3、SiO2、MgO、MgAl2O4、およびこれらのAl、Si、Mgの一部がZn、Be等に置換された材料である。これらの材料は、バンドギャップが大きく、絶縁性に優れる。非磁性層30,70が非磁性の絶縁体からなる場合、非磁性層30,70はトンネルバリア層である。非磁性の金属は、例えば、Cu、Au、Ag等である。非磁性の半導体は、例えば、Si、Ge、CuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2等である。
【0070】
非磁性層30,70の厚みは、20Å以上であることが好ましく、30Å以上であることがより好ましい。非磁性層30,70の厚みが厚いと、磁壁移動素子100,110の抵抗面積積(RA)が大きくなる。磁壁移動素子100,110の抵抗面積積(RA)は、1×104Ωμm2以上であることが好ましく、1×105Ωμm2以上であることがより好ましい。磁壁移動素子100,110の抵抗面積積(RA)は、一つの磁壁移動素子100,110の素子抵抗と磁壁移動素子100,110の素子断面積(非磁性層30,70をxy平面で切断した切断面の面積)の積で表される。
【0071】
強磁性層20は、非磁性層30上にある。強磁性層60は、非磁性層70上にある。強磁性層20は、一方向に配向した磁化M20を有する。強磁性層60は、一方向に配向した磁化M60を有する。強磁性層20,60の磁化M20,M60は、所定の外力が印加された際に第1磁区A1及び第2磁区A2の磁化MA1,MA2よりも磁化反転しにくい。所定の外力は、例えば外部磁場により磁化に印加される外力や、スピン偏極電流により磁化に印加される外力である。強磁性層20,60は、磁化固定層、磁化参照層と呼ばれることがある。
【0072】
強磁性層20,60は、強磁性体を含む。強磁性層20,60は、例えば、磁壁移動層10,50との間で、コヒーレントトンネル効果を得やすい材料を含む。強磁性層20,60は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を含む。強磁性層20,60は、例えば、Co-Fe、Co-Fe-B、Ni-Feである。
【0073】
強磁性層20,60は、例えば、ホイスラー合金でもよい。ホイスラー合金はハーフメタルであり、高いスピン分極率を有する。ホイスラー合金は、XYZ又はX2YZの化学組成をもつ金属間化合物であり、Xは周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、YはMn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種であり、ZはIII族からV族の典型元素である。ホイスラー合金として例えば、Co2FeSi、Co2FeGe、Co2FeGa、Co2MnSi、Co2Mn1-aFeaAlbSi1-b、Co2FeGe1-cGac等が挙げられる。
【0074】
強磁性層20,60の非磁性層30,70と反対側の面に、スペーサ層を介して、磁性層を設けてもよい。強磁性層20,60、スペーサ層、磁性層は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)となる。シンセティック反強磁性構造は、非磁性層を挟む二つの磁性層からなる。強磁性層20,60と磁性層とが反強磁性カップリングするとことで、磁性層を有さない場合より強磁性層20,60の保磁力が大きくなる。磁性層は、例えば、強磁性体を含み、IrMn、PtMn等の反強磁性体を含んでもよい。スペーサ層は、例えば、Ru、Ir、Rhからなる群から選択される少なくとも一つを含む。
【0075】
磁壁移動素子100,110の各層の磁化の向きは、例えば磁化曲線を測定することにより確認できる。磁化曲線は、例えば、MOKE(Magneto Optical Kerr Effect)を用いて測定できる。MOKEによる測定は、直線偏光を測定対象物に入射させ、その偏光方向の回転等が起こる磁気光学効果(磁気Kerr効果)を用いることにより行う測定方法である。
【0076】
またここまで磁化がz軸方向に配向した例を用いて説明したが、磁壁移動層10,50及び強磁性層20の磁化はxy面内のいずれかの方向に配向していてもよい。磁化がz方向に配向する場合は、磁化がxy面内に配向する場合より磁壁移動素子100,110の消費電力、動作時の発熱が抑制される。また磁化がz方向に配向する場合は、磁化がxy面内に配向する場合より同じ強度のパルス電流を印加した際における磁壁DWの移動幅が小さくなる。一方で、磁化がxy面内のいずれかに配向する場合は、磁化がz方向に配向する場合より磁壁移動素子の磁気抵抗変化幅(MR比)が大きくなる。
【0077】
次いで、集積装置IDの製造方法について説明する。集積装置IDは、各層の積層工程と、各層の一部を所定の形状に加工する加工工程により形成される。各層の積層は、スパッタリング法、化学気相成長(CVD)法、電子ビーム蒸着法(EB蒸着法)、原子レーザデポジッション法等を用いることができる。各層の加工は、フォトリソグラフィー等を用いて行うことができる。
【0078】
まず基板Sbの所定の位置に、不純物をドープしソースS、ドレインDを形成する。次いで、ソースSとドレインDとの間に、ゲート絶縁膜GI、ゲートGを形成する。ソースS、ドレインD、ゲート絶縁膜GI及びゲートGがトランジスタTrとなる。基板Sbは、トランジスタTrが周期的に配列した市販の半導体基板を用いてもよい。
【0079】
次いで、第1階層までの配線層を形成する。配線層は、フォトリソグラフィーを用いて作製できる。
【0080】
次いで、第1階層の第1素子群を作製する。まず強磁性層、非磁性層、強磁性層を順に積層し、それらを所定の形状に加工する。強磁性層、非磁性層、強磁性層のそれぞれは、磁壁移動層10、非磁性層30、強磁性層20となる。第1素子群もフォトリソグラフィーを用いて作製できる。
【0081】
次いで、同様の手順で、第1階層と第2階層との間の配線層及び第2階層の第2素子群を作製することで、集積装置IDが得られる。第2素子群は、第1素子群と同様の手順で作製できる。強磁性層、非磁性層、強磁性層を順に積層し、それらを所定の形状に加工することで、強磁性層、非磁性層、強磁性層のそれぞれが、磁壁移動層50、非磁性層70、強磁性層60となる。
【0082】
第1実施形態にかかる集積装置IDは、構成するそれぞれの磁壁移動素子の性能ばらつきが小さく、全体としての制御性に優れる。以下、その理由について説明する。
【0083】
上述のように集積装置IDは、基板Sub上に段階的に積層される。そのため、基板Subから離れるほど、積層面の平坦性を確保することが難しい。つまり、磁壁移動素子110を積層する積層面は、磁壁移動素子100を積層する積層面より平坦性が低い。したがって、磁壁移動層50の上面及び下面の表面粗さは、磁壁移動層10の上面及び下面の表面粗さより粗い。
【0084】
磁壁移動層10,50の表面の凹凸は、磁壁DWのトラップサイトとなる。磁壁DWは、凹凸によってx方向への移動が阻害され、トラップされる。つまり、磁壁移動層50の磁壁DWは、磁壁移動層10の磁壁DWよりトラップされやすい。
【0085】
これに対し、本実施形態にかかる集積装置IDは、磁壁移動層50の方が磁壁移動層10より磁壁DWを動かすのに必要なエネルギーが小さく、磁壁移動層50の方が磁壁移動層10より磁壁DWが動きやすい。磁壁移動層50の磁壁DWが動きやすければ、磁壁DWがトラップサイトでトラップされにくくなる。磁壁移動層50における磁壁DWのトラップを避けることで、第1素子群の磁壁移動素子100と第2素子群の磁壁移動素子110との挙動の差異を抑制できる。
【0086】
また集積装置IDの動作時において、第2素子群に属する磁壁移動素子110に入力される書き込みパルスのパルス長は、第1素子群に属する磁壁移動素子100に入力される書き込みパルスのパルス長より長くしてもよい。また第2素子群に属する磁壁移動素子110に入力される書き込みパルスのパルス振幅は、第1素子群に属する磁壁移動素子100に入力される書き込みパルスのパルス振幅より大きくてもよい。磁壁移動層50に印加される書き込みパルスの大きさ(パルス長、パルス振幅)を大きくすることで、磁壁DWがトラップサイトにトラップされることをより抑制できる。パルスの大きさは、例えば、集積装置IDに接続された書き込み回路で制御される。
【0087】
「第2実施形態」
図11は、第2実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子100及び第2素子群の磁壁移動素子111の断面図である。
図11は、磁壁移動層10,51のy方向の幅の中心を通るxz平面で磁壁移動素子100,111のそれぞれを切断した断面である。第2実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動素子111が第1実施形態と異なる。第2実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0088】
磁壁移動素子111は、磁壁移動層51と非磁性層70と強磁性層60とを有する。磁壁移動層51は、第1実施形態にかかる磁壁移動層50と厚みが異なる。第2素子群に属する磁壁移動素子111の磁壁移動層51の厚みh51は、第1素子群に属する磁壁移動素子100の磁壁移動層10の厚みh10より薄い。
【0089】
磁壁移動層51の厚みh51が薄いことで、磁壁移動層51の断面積が小さくなり、磁壁移動層51の電流密度が高まる。磁壁移動層51の電流密度が高まることで、磁壁移動層51の磁壁DWの移動速度が早くなる。したがって、第2実施形態にかかる集積装置も、磁壁移動層50における磁壁DWのトラップを避けることで、第1素子群の磁壁移動素子100と第2素子群の磁壁移動素子110との挙動の差異を抑制できる。
【0090】
第2実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動層10と磁壁移動層51との形状の違いにより、磁壁移動層10,51の臨界電流密度、磁壁DWの移動速度を変えている。したがって、第2実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動層10,51を構成する材料が同じでもよい。例えば、磁壁移動層10が[Co2/Pd6]8であり、磁壁移動層50が[Co2/Pd5]6である。
【0091】
「第3実施形態」
図12は、第3実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子100及び第2素子群の磁壁移動素子112の断面図である。
図12は、磁壁移動層10,52のx方向の中心を通るyz平面で磁壁移動素子100,112のそれぞれを切断した断面である。第3実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動素子112が第1実施形態と異なる。第3実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0092】
磁壁移動素子112は、磁壁移動層52と非磁性層70と強磁性層60とを有する。磁壁移動層52は、第1実施形態にかかる磁壁移動層50とyz断面の形状が異なる。第2素子群に属する磁壁移動素子112の磁壁移動層52のy方向の幅w52は、第1素子群に属する磁壁移動素子100の磁壁移動層10のy方向の幅w10と異なる。ここで磁壁移動層のy方向の幅とは、上面と下面のそれぞれのy方向の幅の平均を意味する。
【0093】
磁壁移動層の臨界電流密度は、線幅が70nm近傍で極小となるという報告がある(例えば、T.Koyama,et al., Nat. Mater. 10, 194 (2011))。したがって、磁壁移動層の線幅が70nm以上の場合は、磁壁移動層52の幅w52は、磁壁移動層10の幅w10より狭いことが好ましく、磁壁移動層の線幅が70nm以下の場合は、磁壁移動層52の幅w52は、磁壁移動層10の幅w10より広いことが好ましい。上記関係を満たすことで、磁壁移動層52の臨界電流密度を磁壁移動層10の臨界電流密度より下げることができる。したがって、磁壁移動層52において磁壁DWがトラップされることを避け、第1素子群の磁壁移動素子100と第2素子群の磁壁移動素子110との挙動の差異を抑制できる。
【0094】
また磁壁移動層52の側面のz方向に対する傾斜角θ2は、磁壁移動層10の側面のz方向に対する傾斜角θ1より大きくてもよい。磁化は、磁壁移動層10、52の表面の影響を強く受ける。例えば、磁壁移動層10、52の側面が傾斜する場合、側面近傍は磁気異方性が弱くなる。磁気異方性が弱くなると、磁化が反転しやすくなり、磁壁DWが移動しやすくなる。磁壁移動層52の傾斜角θ2が磁壁移動層10の傾斜角θ1より大きいことで、磁壁移動層52において磁壁DWがトラップされることを避け、第1素子群の磁壁移動素子100と第2素子群の磁壁移動素子110との挙動の差異を抑制できる。
【0095】
第3実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動層10と磁壁移動層52との形状の違いにより、磁壁移動層10,52の臨界電流密度、磁壁DWの移動速度を変えている。したがって、第3実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動層10,52を構成する材料が同じでもよい。
【0096】
「第4実施形態」
図13は、第4実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子100及び第2素子群の磁壁移動素子113の断面図である。
図13は、磁壁移動層10,53のy方向の中心を通るxz平面で磁壁移動素子100,113のそれぞれを切断した断面である。第4実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動素子113が第1実施形態と異なる。第4実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0097】
磁壁移動素子113は、磁壁移動層53と非磁性層70と強磁性層60とを有する。磁壁移動層53は、強磁性層531とスペーサ層533と強磁性層532とを有する。スペーサ層533は、強磁性層531と強磁性層532とにz方向に挟まれる。強磁性層531,532は強磁性層20と同様の材料を用いることができる。スペーサ層533は、Ru、Ir、Rhからなる群から選択される少なくとも一つを用いることができる。
【0098】
強磁性層531と強磁性層532とは、磁気結合している。強磁性層531と強磁性層532とは、例えは、反強磁性結合している。強磁性層531とスペーサ層533と強磁性層532とは、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)である。
【0099】
磁壁移動層53がSAF構造であると、RKKYトルクが磁壁移動層53内の磁化に加わる。その結果、磁壁移動層53の磁壁が移動しやすくなる。したがって、第4実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動層53において磁壁DWがトラップされることを避け、第1素子群の磁壁移動素子100と第2素子群の磁壁移動素子113との挙動の差異を抑制できる。
【0100】
第4実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動層10と磁壁移動層53との構成の違いにより、磁壁移動層10,53の臨界電流密度、磁壁DWの移動速度を変えている。したがって、第4実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動層10,53を構成する材料が同じでもよい。
【0101】
「第5実施形態」
図14は、第5実施形態にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子104及び第2素子群の磁壁移動素子114の断面図である。
図14は、磁壁移動素子104,114のそれぞれが配線層40又は配線層80を備える点が、第1実施形態と異なる。第5実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0102】
配線層40,80は、磁壁移動層10,50と接する。配線層40,80は、非磁性層30,70と磁壁移動層10,50をz方向に挟む位置にある。配線層40,80は、例えば、強磁性層20,60とz方向に重なる位置にある。配線層40は、磁壁移動層10,50とビア配線VLとの間にあってもよい。
【0103】
配線層40,80は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させ、磁壁移動層10,50にスピンを注入する。配線層40,80は、例えば、磁壁移動層10,50の磁化にスピン軌道トルク(SOT)を与える。配線層40,80から注入されたスピンにより生じるスピン軌道トルク(SOT)は、磁壁DWの移動をアシストする。磁壁移動層10,50の磁壁DWは、スピン軌道トルク(SOT)を受けて動きやすくなる。
【0104】
配線層40,80は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかを含む。
【0105】
配線層40,80は、例えば、主元素として非磁性の重金属を含む。主元素とは、配線層40,80を構成する元素のうち最も割合の高い元素である。配線層40,80は、例えば、イットリウム(Y)以上の比重を有する重金属を含む。非磁性の重金属は、原子番号39以上の原子番号が大きく、最外殻にd電子又はf電子を有するため、スピン軌道相互作用が強く生じる。スピンホール効果はスピン軌道相互作用により生じ、配線層40,80内にスピンが偏在しやすく、スピン流JSが発生しやすくなる。配線層40,80は、例えば、Au、Hf、Mo、Pt、W、Taからなる群から選択されるいずれかを含む。
【0106】
配線層80を構成する材料のスピンホール角は、配線層40を構成する材料のスピンホール角より大きい。「スピンホール角」は、スピンホール効果の強さの指標の一つであり、配線層40,80に沿って流す電流に対する発生するスピン流の変換効率を示す。すなわち、スピンホール角の絶対値が大きいほど、磁壁移動層10,50に注入されるスピン量が増え、磁化に大きなスピン軌道トルク(SOT)を与える。
【0107】
配線層80を構成する材料のスピンホール角が配線層40を構成する材料のスピンホール角より大きいと、磁壁移動層50の磁壁DWの方が磁壁移動層10の磁壁DWより動きやすくなる。したがって、第5実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動層50において磁壁DWがトラップされることを避け、第1素子群の磁壁移動素子104と第2素子群の磁壁移動素子114との挙動の差異を抑制できる。
【0108】
第5実施形態にかかる集積装置は、配線層40,80のスピンホール角の大きさの違いにより、磁壁移動層10,50の臨界電流密度、磁壁DWの移動速度を変えている。したがって、第5実施形態にかかる集積装置は、磁壁移動層10,50を構成する材料が同じでもよい。
【0109】
また第5実施形態では、第1素子群の磁壁移動素子104及び第2素子群の磁壁移動素子114がそれぞれ配線層40,80を有する例を提示したが、第1素子群の磁壁移動素子104が配線層40を有さず、第2素子群の磁壁移動素子114が配線層80を有する構成でもよい。
【0110】
「第6実施形態」
図15は、第6実施形態にかかる集積装置ID1の断面図である。
図15は、磁壁移動素子100,110の配置が、第1実施形態(
図4)と異なる。第6実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0111】
図15において、第2素子群に属する磁壁移動素子110はいずれも、z方向から見て、第1素子群に属する磁壁移動素子100と重ならない。磁壁移動素子110より下層に様々な構造体が存在するほど、磁壁移動素子110を作製する際の積層面の平坦性は低下する。積層面に至るまでの加工の回数が増えるためである。z方向から見て、磁壁移動素子100と重ならない位置に磁壁移動素子110を配置することで、磁壁移動素子110を作製する際の積層面の平坦性を高めることができる。
【0112】
磁壁移動素子110を作製する際の積層面の平坦性が高いと、磁壁移動層50の下面の平坦性が高まる。磁壁移動層50のラフネスを向上することで、磁壁DWのx方向への移動がトラップされる可能性を下げることができる。
【0113】
上述のように、第6実施形態にかかる集積装置ID1は、第1実施形態にかかる集積装置IDと同様の効果を奏する。また磁壁移動層10と磁壁移動層50とのラフネスの差を小さくすることで、第1素子群の磁壁移動素子100と第2素子群の磁壁移動素子110との挙動の差異をより抑制できる。
【0114】
「第7実施形態」
図16は、第7実施形態にかかる集積装置ID2の断面図である。
図16は、磁壁移動素子100と磁壁移動素子110とのうちの一部が接続配線CWを介して接続されている。第7実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0115】
磁壁移動素子100は、例えば、最近接する磁壁移動素子110と、基板Sbを電気的に介さずに、接続配線CWを介して接続されている。磁壁移動素子100は、全てが磁壁移動素子110と接続されている必要はなく、いずれか一つでもよい。例えば、磁壁移動素子100の強磁性層20は、磁壁移動素子110の磁壁移動層50と接続されている。
【0116】
接続配線CWは、縦型スイッチング素子VSWを有してもよい。縦型スイッチング素子VSWは、z方向に積層された積層膜によって構成されたスイッチング素子である。例えば、オボニック閾値スイッチ(OTS:Ovonic Threshold Switch)のように結晶層の相変化を利用した素子、金属絶縁体転移(MIT)スイッチのようにバンド構造の変化を利用した素子、ツェナーダイオード及びアバランシェダイオードのように降伏電圧を利用した素子、原子位置の変化に伴い伝導性が変化する素子は、縦型スイッチング素子VSWである。
【0117】
磁壁移動素子100と磁壁移動素子110とを接続配線CWで接続すると、読出し線RL2から磁壁移動素子100、110を介して共通線CLに至る電流経路ができる。すなわち、磁壁移動素子100の抵抗値と磁壁移動素子110の抵抗値を合わせた合成抵抗を読み出すことができる。ニューロモーフィックデバイスにおいて磁壁移動素子100、110の抵抗値は、重みに対応する。上記の電流経路は、2つの磁壁移動素子100,110の重みを合成した新たな重みを表現できる。したがって、第7実施形態に係る集積装置ID2を用いたニューロモーフィックデバイスは、2つの磁壁移動素子100,110で3つの重みを表現でき、より複雑な演算を行うことができ、表現力が高まる。この場合、第1素子群と第2素子群とで、ニューラルネットワークNNにおける二つの中間層の間の演算を担う。
【0118】
「第8実施形態」
図17は、第8実施形態にかかる集積装置の一部の回路図である。
図17は、一つの積和演算回路内に、第1素子群の磁壁移動素子100と第2素子群の磁壁移動素子110とがそれぞれ配置されている点が、
図3に示す回路図と異なる。第8実施形態において、第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省く。
【0119】
図17に示す第3回路C3は、第1素子群の磁壁移動素子100と第2素子群の磁壁移動素子110とを備える。第3回路C3は、一つの積和演算を行う。第3回路C3は、いずれかの中間層から別の中間層へ至る際の積和演算を担う。集積装置は、例えば、複数の第3回路C3を有する。集積装置は、ニューロモーフィックデバイスの階層間の積和演算をそれぞれの第3回路C3で行う。
【0120】
それぞれの第3回路C3における第1素子群の磁壁移動素子100と第2素子群の磁壁移動素子110との構成比率は、等しいことが好ましい。当該構成により、それぞれの階層間における積和演算の精度のバラツキを小さくできる。
【0121】
ここまでいくつかの実施形態を提示して、集積装置及びニューロモーフィックデバイスの一例を提示した。しかしながら、本発明は当該実施形態に限られるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0122】
例えば、
図18は、変形例にかかる集積装置の第1素子群の磁壁移動素子105及び第2素子群の磁壁移動素子115の断面図である。
図18に示すように、磁壁移動層10,50が強磁性層20,60より基板Sbから離れた位置にあってもよい。
図18は、磁化の安定性が比較的高い強磁性層20,60が基板Sb側にあるボトムピン構造と称される。
図18に示すボトムピン構造は、
図8に示すトップピン構造より磁化の安定性が高い。
【0123】
またこの他、上記に記載した実施形態及び変形例の特徴的な構成をそれぞれ組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0124】
10,50,51,52,53…磁壁移動層、20,60,531,532…強磁性層、30,70…非磁性層、40,80…配線層、100,104,105,110,111,112,113,114,115…磁壁移動素子、533…スペーサ層、A1…第1磁区、A2…第2磁区、C…チップ、C1…第1回路、C2…第2回路、C3…第3回路、CL…共通線、CW…接続配線、DW…磁壁、E…電極、ID,ID1,ID2…集積装置、In,In1,In2,In3,In4…絶縁体、Lin…入力層、Lm…中間層、Lout…出力層、LS…積層構造体、NN…ニューラルネットワーク、RL,RL1,RL2…読出し線、VL…ビア配線、VSW…縦型スイッチング素子、θ1,θ2…傾斜角