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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】防水パネル柵の止水構造
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/06 20060101AFI20240716BHJP
   E02B 7/22 20060101ALI20240716BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20240716BHJP
   E04H 17/16 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
E02B3/06
E02B7/22
E04H9/14 Z
E04H17/16 104
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020167820
(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公開番号】P2022059926
(43)【公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 智徳
(72)【発明者】
【氏名】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】安冨 懸一
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-037726(JP,A)
【文献】特開2006-299666(JP,A)
【文献】特開平02-035111(JP,A)
【文献】特開平07-090946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/04-3/14
7/20-7/54
8/02-8/04
E04B 1/62-1/99
E04H 9/00-9/16
17/16
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洪水や津波による浸水を防止する防水パネル柵の止水構造であって、
所定の間隔で設置される複数の支柱と、これら複数の支柱の間に設置される防水パネルと、を備え、
前記複数の支柱は、上下方向に延びる溝部を有しており、隣り合う支柱の前記溝部同士が対向するように間隔をあけて配置され、
前記防水パネルは、前記溝部同士の間に嵌め込まれており、
前記溝部の内側と前記防水パネルとの間の隙間には、当該隙間からの漏水を防止する止水材が介装され、
前記止水材は、前記支柱と当接する平板状の基部と、この基部と所定角度で鋭角に交差する交差部と、からなる水平断面フの字状となっているとともに、前記基部と前記交差部とが離間した開放端が水位上昇時に水圧のかかる側となるように前記溝部の内側の正面側及び背面側の両面に装着され
前記防水パネルは、前記止水材が前記溝部の内側両面に装着された前記止水材同士の間に挿入されて設置されていること
を特徴とする防水パネル柵の止水構造。
【請求項2】
前記防水パネルを挿入する側の反対側となる前記交差部の前記基部と接続する基端側の外面には、上下方向に欠込みが形成されていること
を特徴とする請求項1に記載の防水パネル柵の止水構造。
【請求項3】
前記交差部の開放端は、先端に行くにしたがって徐々に細くなるようにテーパー面が形成されていること
を特徴とする請求項1又は2に記載の防水パネル柵の止水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台風による河川の洪水や海岸付近での津波や高潮等によって、沿岸部の建築物や道路等に浸水被害が発生することを防止する防水パネル柵の止水構造及びそれに用いる止水材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このような浸水被害が発生することを防止するために、支柱間に防水パネル柵が設置され、防水パネル柵と支柱との間にゴム製の止水材が介装されることにより、この止水材で防水パネル柵からの浸水を防止することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、鉛直止水材として、CR(Chloroprene)などのゴム弾性体からなる中空チューブ状(かまぼこ状)のゴムガスケットが装着され、そのゴムガスケットにより防水パネル柵と支柱との間を密封して止水する防水パネル柵の止水構造が開示されている(特許文献1の明細書の段落[0029]、図面の図3等参照)。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の防水パネル柵の止水構造は、浸水時の水圧にゴムガスケットの復元力で対抗する必要があるため、ゴムガスケットの復元力が必然的に高くなり、ゴムガスケットの装着時に滑剤を用いて挿入しないと反発力が高すぎて挿入できないという問題があった。このため、止水材であるゴムガスケットの装着に手間がかかり、防水パネル柵の設置作業全体の作業性が低下してコストアップにつながっていた。
【0005】
また、特許文献2には、防水パネルの片側のみに前述の中空チューブ状(かまぼこ状)のゴムガスケットが装着され、防水パネルのもう一方の片側を支圧部材によりねじで機械的に押圧して止水する防水パネル柵の止水構造が開示されている(特許文献2の明細書の段落[0027]~[0058]、図面の図9図12等参照)。
【0006】
特許文献2に記載の防水パネル柵の止水構造は、防水パネルの片側を支圧部材で押圧するので、ゴムガスケットの装着時に滑剤を用いて挿入しないと挿入できないという問題は解消することができる。しかし、特許文献2に記載の防水パネル柵の止水構造は、防水パネルの片側を支圧部材のねじを回して押圧する必要があるため、手間がかかり作業性の問題は解消されていなかった。その上、ゴムガスケットが片側だけであるため、僅かに漏水するおそれがあるだけでなく、水圧で防水パネルが押圧されると支圧部材の固定金具が外れる可能性があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-037726号公報
【文献】特開2014-181535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、設置時の作業性に優れ、かつ、水漏れのおそれも少ない防水パネル柵の止水構造及びそれに用いる止水材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明に係る防水パネル柵の止水構造は、洪水や津波による浸水を防止する防水パネル柵の止水構造であって、所定の間隔で設置される複数の支柱と、これら複数の支柱の間に設置される防水パネルと、を備え、前記複数の支柱は、上下方向に延びる溝部を有しており、隣り合う支柱の前記溝部同士が対向するように間隔をあけて配置され、前記防水パネルは、前記溝部同士の間に嵌め込まれており、前記溝部の内側と前記防水パネルとの間の隙間には、当該隙間からの漏水を防止する止水材が介装され、前記止水材は、前記支柱と当接する平板状の基部と、この基部と所定角度で鋭角に交差する交差部と、からなる水平断面フの字状となっているとともに、前記基部と前記交差部とが離間した開放端が水位上昇時に水圧のかかる側となるように前記溝部の内側の正面側及び背面側の両面に装着され、前記防水パネルは、前記止水材が前記溝部の内側両面に装着された前記止水材同士の間に挿入されて設置されていることを特徴とする。
【0010】
第2発明に係る防水パネル柵の止水構造は、第1発明において、前記防水パネルを挿入する側の反対側となる前記交差部の前記基部と接続する基端側の外面には、上下方向に欠込みが形成されていることを特徴とする。
【0011】
第3発明に係る防水パネル柵の止水構造は、第1発明又は第2発明において、前記交差部の開放端は、先端に行くにしたがって徐々に細くなるようにテーパー面が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明~第発明によれば、止水材が開放端を有する水平断面フの字状となっているので、滑剤を用いて挿入しないと反発力が高すぎて挿入できないという問題も生じることがなく、設置時の作業性に優れている。その上、第1発明~第発明によれば、止水材が水平断面フの字状の開放端が水位上昇時に水圧のかかる側となるように装着されているので、水位上昇時の水圧で開放端から止水材の基部と交差部が押し開かれて支柱や防水パネルに止水材が押し付けられることとなり、水漏れのおそれも少ない。
【0016】
特に、第2発明によれば、止水材の交差部の外面に上下方向に欠込みが形成されているので、防水パネルの両面において支柱と防水パネルとの隙間に止水材を挿入することが容易となり、さらに設置時の作業効率が向上するだけでなく、接着部に加わる力を低減して止水材が剥がれ落ちるおそれを低減することができる。
【0017】
特に、第3発明によれば、止水材の交差部の開放端は、先端に行くにしたがって徐々に細くなるようにテーパー面が形成されているので、水位上昇時の水圧で止水材の交差部が防水パネルに押し付けられる際に、交差部開放端の先端が防水パネルの凹凸に追随して馴染み易くなり、さらに水密性が向上し、水漏れのおそれが少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態に係る防水パネル柵の止水構造を示す斜視図である。
図2図2は、同上の防水パネル柵の止水構造を示す図であり、(a)が浸水域側から見た正面図、(b)が平面図である。
図3図3は、同上の防水パネル柵の止水構造の支柱のみを示す図であり、(a)が浸水域側から見た正面図、(b)が平面図である。
図4図4は、同上の防水パネル柵の止水構造の変形例1に係る支柱を主に示す平面図である。
図5図5は、同上の防水パネル柵の止水構造の防水パネルのみを示す図であり、(a)が浸水域側から見た正面図、(b)が左側面図である。
図6図6は、同上の防水パネル柵の止水構造に用いられる止水材を中間省略で示す斜視図である。
図7図7は同上の止水材を示す水平断面図である。
図8図8は、同上の防水パネル柵の止水構造の支柱付近を拡大して示す部分拡大平面図である。
図9図9は、同上の防水パネル柵の止水構造の増水時及び減水時の状態を示す模式図であり、(a)が増水時、(b)が減水時を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る防水パネル柵の止水構造及びそれに用いられる止水材について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
[防水パネル柵の止水構造]
図1図9を用いて、本発明の実施形態に係る防水パネル柵の止水構造について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る防水パネル柵の止水構造10を示す斜視図である。また、図2は、本実施形態に係る防水パネル柵の止水構造10を示す図であり、(a)が浸水域側から見た正面図、(b)が平面図である。
【0021】
図1図2に示すように、本実施形態に係る防水パネル柵の止水構造10は、建築物や道路や鉄道などの公共施設が建設された一般の居住区域と、河川などに近く浸水被害のおそれのある浸水域との境界に設置される。この防水パネル柵の止水構造10は、台風による河川の洪水や海岸付近での津波や高潮等によって、沿岸部の建築物や道路等に浸水被害が発生することを防止する機能を有している。
【0022】
なお、図示X方向は、防水パネル柵が連接される幅方向Xであり、図示Y方向は、上下方向Yである。また、図示Z方向は、幅方向Xと直交する水平方向である奥行方向であり、浸水域側から見える面を正面、反対側の居住区域側から見える面を背面という(以下、同じ)。
【0023】
この防水パネル柵の止水構造10は、防水パネル3の幅に応じた所定の間隔で幅方向Xに沿って地面に立設された複数の支柱2,・・・,2と、これらの支柱2間に挿置された複数段の防水パネル3,・・・,3と、支柱2と防水パネル3との間の正面及び背面にそれぞれ介装された止水材1など、から構成されている。
【0024】
(支柱)
図3は、本実施形態に係る防水パネル柵の止水構造の支柱2のみを示す図であり、(a)が浸水域側から見た正面図、(b)が平面図である。図1図3に示すように、本実施形態に係る支柱2は、H形鋼20からなり、H形鋼20の長手方向を上下方向として下部2aが地盤Gに埋設されて立設されている。このH形鋼20は、一対のフランジ21,21と、これらのフランジ21,21間に垂設されたウェブ22と、から構成されている。また、図1図2に示すように、支柱2は、隣り合った支柱2のウェブ22同士が対向するように地盤Gに立設され、フランジ21,21及びウェブ22で囲まれた空間が溝部であり、その空間に防水パネル3が挿置されることで防水パネル柵が構築されている。
【0025】
なお、本実施形態に係る支柱2として、地盤Gに直接埋設されているものを例示したが、鉄筋コンクリート製の基礎を構築し、その上方にアンカープレートを介して立設してもよいことは云うまでもない。
【0026】
また、支柱2としてH形鋼20からなるものを例示して説明したが、本発明に係る支柱は、溝形鋼がウェブの背面同士で接合されたものなど、後述の防水パネル3を介装可能な溝部を有し、浸水時の水圧に対抗できる強度を有するものであればよい。
【0027】
次に、図4を用いて、変形例1に係る支柱2’について説明する。図4は、防水パネル柵の止水構造10の変形例1に係る支柱を主に示す平面図である。図4に示すように、変形例1に係る支柱2’と前述の支柱2との相違点は、変形例1に係る支柱2’が、H形鋼からなる支柱2の一方のフランジ21にスペーサー23’が溶接等で取り付けられ、支柱2のフランジ21,21同士の間隔より厚さ(奥行)が薄い防水パネル3が介装されている点である。
【0028】
スペーサー23’として、図示する形態では、山形鋼からなるものを例示したが、H形鋼からなる支柱2より一回り小さい溝形鋼やサイコロ状の部材など、他の形状のスペーサーとすることができる。要するに、スペーサー23’は、防水パネル3の厚さに合わせて支柱2の溝部の間隔を狭めて調整できる部材であれば形態や素材は特に限定されるものではない。
【0029】
(防水パネル)
図5は、同上の防水パネル柵の止水構造の防水パネル3のみを示す図であり、(a)が浸水域側から見た正面図、(b)が平面図である。図5に示すように、防水パネル3は、長手方向を幅方向Xに沿って設置された角形鋼管30が上下に5つボルト接合された防水パネルユニット31からなり、その防水パネルユニット31が上下に複数段(図示形態では3段)ボルト接合されている。防水パネルユニット31同士の間の止水は、隙間を外部から図示しないシールで封止することで止水されている。勿論、防水パネルユニット31同士の間の止水は、ゴム弾性体からなる封止材を介装することで水密性を確保してもよいことは云うまでもない。
【0030】
その上、角形鋼管30同士は、溶接接合されて一体化されていてもよく、中空の管材ではなく中実の部材から構成してもよい。要するに、防水パネル3は、角形鋼管30から構成されたものに限られず、浸水を堰き止めることが可能な全体として正面視矩形状のパネル体であればよい。
【0031】
但し、角形鋼管30は、撓みにくくて曲げ強度が高く断面性能に優れているとともに、安価に製造することができるため好ましい。つまり、防水パネル3を角形鋼管30から構成することにより水圧により撓みにくく、支柱2の間距離を長くとることが可能となり、防水パネル柵の設置コストを下げるとともに、設置作業の短時間化を実現することができる。
【0032】
[止水材]
次に、図6図8を用いて、本実施形態に係る防水パネル柵の止水構造10に用いられる止水材1について説明する。図6は、本発明の実施形態に係る止水材1を中間省略で示す斜視図であり、図7は、本発明の実施形態に係る止水材1を示す水平断面図である。また、図8は、本実施形態に係る防水パネル柵の止水構造10の支柱2付近を拡大して示す部分拡大平面図である。
【0033】
本実施形態に係る止水材1は、EPDM(ethylene propylene diene monomer)、CR(Chloroprene)ゴム、SBR(styrene-butadiene rubber)等の常温でゴム弾性を示すゴム弾性体(ゴム材)からなるゴムパッキンである。本発明に係る止水材は、ゴム弾性体に限られず、粘弾性体など、支柱2と防水パネル3との間に介在して水密性を保持して封止可能な素材であれば適用することができる。また、本発明に係る止水材は、金属などの芯材の周りがゴム弾性体や粘弾性体で被覆されている形態とすることも可能である。但し、防水パネル柵が屋外に設置されるため、本発明に係る止水材は、例示したEPDM、CRゴム、SBR等の耐老化性や耐候性の高いゴム材とすることが好ましい。
【0034】
図6図7に示すように、本実施形態に係る止水材1は、支柱2と当接する平板状の基部11と、この基部11と所定角度で交差する交差部12と、からなり、水平断面フの字状となっている。
【0035】
図7に示すように、図示止水材1は、基部11と交差部12とが、交差角度αで交差している。図示形態では、交差角度α=60°に設定されおり、本発明に係る止水材1は、交差角度αが、α<90°の鋭角であることが好ましく、交差角度αが、50°≦α≦70°の範囲となっていることがさらに好ましい。止水材1を支柱2に接着した後、支柱2,2間に防水パネル3を装着する際に、止水材1を折り返す必要がなくなるだけでなく、後述のように減水時に支柱2と防水パネル3の左右の端部との間に溜まった水を排出する際にも抵抗が少ないからである。
【0036】
また、止水材1は、図6図7に示すように、交差部12の基部11と接続する基端側の外面には、上下方向に連続する欠込み12aが形成されている。この欠込み12aは、交差部12の基端部に剛性上の弱部を設けて、支柱2と防水パネル3との隙間に挿置された弾性体からなる止水材1の復元力により、基部11から交差部12が離れる方向に付勢する反発力を低減する機能を有している。そのため、欠込み12aは、浸水時(増水時)や装着時に交差部12が押圧されて支柱2に接着された基部11が交差部12と連続する端部から剥がれ落ちるおそれを低減することができる。なお、欠込みは連続しているものに限らず、断続的に形成されているものでもよい。
【0037】
その上、止水材1は、図6図7に示すように、交差部12の開放端は、先端に行くにしたがって徐々に細くなるようにテーパー面12bが形成されている。角形鋼管30同士の接合部の段差などの防水パネル3の凹凸に追随して馴染み易くするためである。
【0038】
さらに、この止水材1は、図8に示すように、正面側に設置される止水材1の基部11と交差部12とが離間した開放端が外側(支柱2から離れた側)となるように設置されるとともに、背面側に設置される止水材1の開放端が内側となるように設置されている。即ち、止水材1は、開放端が後述のように水位上昇時に水圧のかかる側となるように装着されている。このため、止水材1は、ゴム弾性体(ゴム材)の反発力を小さくなるように素材を選定しても、水位上昇時の水圧で開放端から止水材1の基部11と交差部12が押し開かれて支柱2や防水パネル3に止水材1が押し付けられることとなる。
【0039】
[止水材及び止水構造の動作及び作用]
次に、図9を用いて、前述の止水材1及び止水構造10の動作及び作用について詳細に説明する。図9は、本実施形態に係る防水パネル柵の止水構造10の増水時及び減水時の状態を示す模式図であり、(a)が増水時、(b)が減水時を示している。
【0040】
図9(a)に示すように、増水時には、前述の止水構造10は、防水パネル3の正面側から水が押し寄せ、図の矢印方向に水圧が作用する。このとき、正面側の止水材1には、交差部12の開放端から図の矢印方向に水圧が作用し、止水材1の基部11と交差部12が押し開かれて支柱2や防水パネル3に止水材1が押し付けられることとなる。
【0041】
また、図9(a)に示すように、増水時には、正面側の止水材1と同様に、背面側の止水材1も正面側の止水材1を乗り越えて越水した水により、交差部12の開放端から図の矢印方向に水圧が作用し、止水材1の基部11と交差部12が押し開かれて支柱2や防水パネル3に止水材1が押し付けられることとなる。
【0042】
このため、止水構造10は、ゴム弾性体からなる止水材1の反発力に加え、増水時に作用する水圧を利用して密封して止水することができる。よって、支柱2と防水パネル3との間を止水するのに必要な素材そのものの反発力を低減しても水漏れすることなく止水することができる。このため、滑剤を用いて挿入しないと反発力が高すぎて挿入できないという従来の問題を解決することができるだけでなく、支柱2に接着された正面及び背面の一対の止水材1の間に防水パネル3を人力で容易に挿入して設置することができる。
【0043】
その上、前述のように、止水材1は、欠込み12aが形成されているので、浸水時(増水時)等に交差部12が繰り返し押圧された場合でも、支柱2に接着された基部11が交差部12と連続する端部から剥がれ落ちるおそれを低減することができる。
【0044】
それに加え、前述のように、止水材1は、交差部12の開放端が先端に行くにしたがって徐々に細くなるようにテーパー面12bとなっているので、角形鋼管30同士の接合部の段差などの防水パネル3の凹凸に追随して馴染み易くなっており、その点でも水漏れすることなく止水することができる。
【0045】
一方、図9(b)に示すように、減水時には、増水時に作用していた水圧はなくなるため、防水パネル3の位置が奥行方向Zに沿って移動して元に戻る。その際、支柱2と正面側の止水材1及び背面側の止水材1との間に溜まっていた水が、浸水域側の水位まで排水される。このとき、水位差で多少正面側の止水材1に僅かな水圧がかかるが、交差部12の傾斜角度が鋭角となっているので、図の矢印方向には、接着されていない交差部12が基部11側に移動して溜まった水を支障なく排水することができる。
【0046】
以上説明した、本実施形態に係る防水パネル柵の止水構造10によれば、水平断面フの字状の止水材1の開放端が水位上昇時に水圧のかかる側となるように装着されているので、水位上昇時の水圧で開放端から止水材1の基部11と交差部12が押し開かれて支柱2や防水パネル3に止水材1が押し付けられることとなり、ゴム材の反発力を小さくしても水漏れのおそれが少ない。
【0047】
よって、止水構造10によれば、ゴム材の反発力を小さくすることができるため、防水パネル3を人力で支柱2に接着された浸水域側と反対側の一対の止水材1の間に容易に挿入して設置することができ、設置時の作業性が向上する。このため、滑剤を用いて挿入しないと反発力が高すぎて挿入できないという問題を解決することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態に係る防水パネル柵の止水構造10及び止水材1について詳細に説明した。しかし、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、例示した実施形態によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0049】
特に、本発明の実施形態に係る防水パネル柵の止水構造10として、浸水側となる正面側、及その反対側(背面側)となる居住区域側の両側ともに、水平断面フの字状の止水材1を設置したものを例示して説明した。しかし、本発明に係る防水パネル柵の止水構造は、いずれか一方を水平断面フの字状の止水材1として、反対側を、例えば特許文献1に記載の中空チューブ状(かまぼこ状)のゴムガスケットなどの他の止水材としてもよい。片側を止水材1とするだけでも、ゴムガスケットの反発力を低減してゴムガスケットの装着時に滑剤を用いて挿入しないと挿入できないという問題を解消することができるからである。
【符号の説明】
【0050】
10:防水パネル柵の止水構造
1:止水材
11:基部
12:交差部
12a:欠込み
12b:テーパー面
2,2’:支柱
2a:下部
20:H形鋼
21:フランジ
22:ウェブ
23’:スペーサー
3:防水パネル
30:角形鋼管
31:防水パネルユニット
G:地盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9