(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】圧着接合構造
(51)【国際特許分類】
F16B 7/18 20060101AFI20240716BHJP
E04C 3/12 20060101ALI20240716BHJP
E04C 2/12 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
F16B7/18 A
E04C3/12
E04C2/12 E
(21)【出願番号】P 2020178140
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陶山 春菜
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英二
(72)【発明者】
【氏名】車 創太
(72)【発明者】
【氏名】栗原 嵩明
(72)【発明者】
【氏名】塩出 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】福本 晃治
(72)【発明者】
【氏名】中曽根 義之
(72)【発明者】
【氏名】奥出 久人
(72)【発明者】
【氏名】山田 達也
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 朋典
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-031708(JP,A)
【文献】特開2009-281027(JP,A)
【文献】特開2009-257470(JP,A)
【文献】特開2019-018418(JP,A)
【文献】特開平10-140658(JP,A)
【文献】実公昭15-003176(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 7/18
E04C 3/12
E04C 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材と第二部材とに亘って配置され、一端側が前記第一部材に固定される引張材と、
引張力が導入された前記引張材における前記第二部材側に、前記引張材の軸方向に間隔を空けて取り付けられ、前記第二部材に形成された複数の取付用開口の支圧受け面にそれぞれ係合される複数の支圧体と、
を備え
、
前記引張材の軸方向から見て、前記複数の支圧体の外形が一致しない、
圧着接合構造。
【請求項2】
前記引張材によって接合された複数組の前記第一部材及び前記第二部材を備え、
複数組の前記第一部材及び前記第二部材は、積層されるとともに、積層方向から見て、前記複数の取付用開口が重ならない状態で接合される、
請求項1に記載の圧着接合構造。
【請求項3】
第一部材と第二部材とに亘って配置され、一端側が前記第一部材に固定される引張材と、
引張力が導入された前記引張材における前記第二部材側に、前記引張材の軸方向に間隔を空けて取り付けられ、前記第二部材に形成された複数の取付用開口の支圧受け面にそれぞれ係合される複数の支圧体と、
前記引張材によって接合された複数組の前記第一部材及び前記第二部材と
、
を備え、
複数組の前記第一部材及び前記第二部材は、積層されるとともに、積層方向から見て、前記複数の取付用開口が重ならない状態で接合される、
圧着接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧着接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
引張力が導入された引きボルト(ボルト)、座金、及びナットによって2つの部材を接合する圧着接合構造が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。この種の圧着接合構造では、引きボルトは、2つの部材に亘って配置され、その両端部が2つの部材にそれぞれ形成された取付用開口から露出される。この引きボルトの両端部には、座金を介してナットが締め込まれる。これにより、引きボルトに引張力が導入され、2つの部材が引きボルトを介して圧着接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-018418号公報
【文献】特開2018-012963号公報
【文献】特開2019-027020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記圧着接合構造では、引きボルトに導入された引張力が、座金等の支圧体を介して取付用開口の支圧受け面に作用する。そのため、取付用開口の支圧受け面が破損等する可能性がある。
【0005】
この対策として、例えば、支圧体を大きくし、支圧体から支圧受け面に作用する支圧力を分散させることが考えられる。
【0006】
しかしながら、支圧体を大きくすると、各部材に形成する取付用開口も大きくなる。この結果、各部材の断面欠損が大きくなり、各部材の耐力が低下する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、部材の耐力の低下を低減しつつ、取付用開口の支圧受け面の破損を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1態様に係る圧着接合構造は、第一部材と第二部材とに亘って配置され、一端側が前記第一部材に固定される引張材と、引張力が導入された前記引張材における前記第二部材側に、前記引張材の軸方向に間隔を空けて取り付けられ、前記第二部材に形成された複数の取付用開口の支圧受け面にそれぞれ係合される複数の支圧体と、を備える。
【0009】
第1態様に係る圧着接合構造によれば、引張材は、第一部材と第二部材とに亘って配置され、一端側が第一部材に固定される。また、引張力が導入された引張材における第二部材側には、複数の支圧体が引張材の軸方向に間隔を空けて取り付けられる。これらの支圧体は、第一部材に形成された複数の取付用開口の支圧受け面にそれぞれ係合される。
【0010】
これにより、引張材に導入された引張力が、複数の支圧体を介して複数の取付用開口の支圧受け面に分散して伝達される。したがって、複数の取付用開口の支圧受け面の破損等が抑制される。
【0011】
また、複数の取付用開口は、複数の支圧体の配置に応じて、引張材の軸方向の間隔を空けて配置される。そのため、本発明では、第一部材の同一断面における断面欠損を増加することなく、各取付用開口の支圧受け面に作用する支圧力を低減することができる。したがって、第一部材の耐力の低下が低減される。
【0012】
このように本発明では、第一部材の耐力の低下を低減しつつ、取付用開口の支圧受け面の破損を抑制することができる。
【0013】
第2態様に係る圧着接合構造は、第1態様に係る圧着接合構造において、前記引張材の軸方向から見て、前記複数の支圧体の外形が一致しない。
【0014】
第2態様に係る圧着接合構造によれば、引張材の軸方向から見て、複数の支圧体の外形が一致しない。
【0015】
ここで、引張材の軸方向から見て、複数の支圧体の外形が一致する場合、複数の取付用開口の支圧受け面の同じ領域に支圧力が作用するため、各支圧受け面が破損等し易くなる。
【0016】
これに対して本発明では、前述したように、引張材の軸方向から見て、複数の支圧体の外形が一致しない。これにより、引張材の軸方向から見て、複数の取付用開口の支圧受け面の異なる領域に支圧力が分散して作用する。したがって、複数の支圧受け面の破損等がさらに抑制される。
【0017】
第3態様に係る圧着接合構造は、第1態様又は第2態様に係る圧着接合構造において、前記引張材によって接合された複数組の前記第一部材及び前記第二部材を備え、複数組の前記第一部材及び前記第二部材は、積層されるとともに、積層方向から見て、前記複数の取付用開口が重ならない状態で接合される。
【0018】
第3態様に係る圧着接合構造によれば、引張材によって接合された複数組の第一部材及び第二部材を備える。複数組の第一部材及び第二部材は、積層されるとともに、積層方向から見て、複数の取付用開口が重ならない状態で接合される。
【0019】
これにより、積層された複数組の第一部材及び第二部材の同一断面における断面欠損を増加することなく、各取付用開口の支圧受け面に作用する支圧力を低減することができる。したがって、積層された複数組の第一部材及び第二部材の耐力の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、部材の耐力の低下を低減しつつ、取付用開口の支圧受け面の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第一実施形態に係る圧着接合構造が適用された構造材を示す平面図である。
【
図3】
図2に示される第一ボルト部材、第一支圧体、第二ボルト部材、及び第二支圧体の力学的モデルである。
【
図4】第二実施形態に係る圧着接合構造が適用された木質部材を示す斜視図である。
【
図5】
図4に示される木質部材をX-Y平面に沿って切断した断面図である。
【
図6】
図4に示される木質部材をX-Z平面に沿って切断した断面図である。
【
図7】
図4に示される木質部材を接合面から見た正面図である。
【
図8】第三実施形態に係る圧着接合構造が適用された木質部材を示す斜視図である。
【
図9】
図8に示される木質部材をX-Y平面に沿って切断した断面図である。
【
図10】
図8に示される木質部材をX-Z平面に沿って切断した断面図である。
【
図11】
図8に示される木質部材を接合面から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第一実施形態)
先ず、第一実施形態について説明する。
【0023】
(構造材)
図1には、第一実施形態に係る圧着接合構造が適用された構造材10が示されている。構造材10は、例えば、梁や柱の長尺部材とされている。この構造材10は、複数の木質部材20を接合することにより形成されている。
【0024】
複数の木質部材20は、例えば、CLT(Cross Laminated Timber)、LVL(Laminated Veneer Lumber)、集成材、合板、又は無垢材等によって形成されている。また、複数の木質部材20は、扁平な直方体状に形成されている。これらの木質部材20は、各々の長手方向(矢印X方向)に配列されるとともに、厚み方向(矢印Y方向)に三層で積層されている。
【0025】
なお、各図に適宜示される矢印X、矢印Y、及び矢印Zは、互いに直交する三方向を示している。
【0026】
長手方向に隣り合う木質部材20の間には、目地Mが形成されている。これらの木質部材20は、目地Mを長手方向にずらした状態で、厚み方向に三層で積層されている。また、複数の木質部材20は、積層方向から見て、後述する第一取付用開口52及び第二取付用開口62が重ならないように配置されている。
【0027】
積層された複数の木質部材20は、複数の引きボルト12によって接合されている。複数の引きボルト12は、木質部材20の長手方向に間隔を空けて配置されている。また、複数の引きボルト12は、複数の木質部材20を積層方向(矢印Y方向)に貫通した状態で、その両端部にナット14が締め込まれている。これらの引きボルト12によって、複数の木質部材20が積層方向に接合(圧着接合)されている。なお、複数の木質部材20には、引きボルト12が貫通される貫通孔が形成されている。
【0028】
(圧着接合構造)
図2に示されるように、長手方向に隣り合う一対の木質部材20は、各々の接合面20T(端面)を接触させた状態で配置されている。この一対の木質部材20は、一対の引きボルト28によって、各々の長手方向(圧着方向)に圧着接合されている。
【0029】
なお、一対の木質部材20の接合面20Tは、直接接触させても良いし、プレート等の介在物を介して接触させても良い。また、一対の木質部材20は、第一部材及び第二部材の一例である。
【0030】
一対の引きボルト28は、一対の木質部材20の圧着方向(矢印X方向)と直交する方向(矢印Z方向)に間隔を空けて配置されている。なお、一対の引きボルト28は、同様の構成とされている。
【0031】
引きボルト28は、一対の木質部材20の圧着方向に沿って配置され、一対の木質部材20に亘っている。この引きボルト28は、第一ボルト部材30と、第一ボルト部材30の軸方向の両端部にそれぞれ連結される第二ボルト部材40とを有している。第一ボルト部材30及び第二ボルト部材40は、例えば、両端部にネジ部が形成されたスタッドボルトとされている。なお、引きボルト28は、引張材の一例である。
【0032】
第一ボルト部材30の一端側と第二ボルト部材40の一端側とは、第一ナット部材32を介して連結されている。第一ナット部材32は、例えば、両端部に第一ボルト部材30及び第二ボルト部材40の一端側をそれぞれ捻じ込み可能な長ナットとされる。また、第二ボルト部材40の他端側には、第二ナット部材42が取り付けられている。
【0033】
なお、一対の木質部材20は、目地Mに対して対称に形成されている。そのため、以下では、一対の木質部材20のうち、一方の木質部材20の構成について説明し、他方の木質部材20の構成について説明を適宜省略する。
【0034】
木質部材20における上下の外面20Z(接合面20Tと交差する外面)には、第一取付用開口52及び第二取付用開口62がそれぞれ形成されている。第一取付用開口52及び第二取付用開口62は、引きボルト28の軸方向(一対の木質部材20の圧着方向)に間隔を空けて配置されている。また、第一取付用開口52及び第二取付用開口62は、矩形状の凹部とされている。
【0035】
第一取付用開口52は、第一支圧受け面52Aを有している。また、第二取付用開口62は、第二支圧受け面62Aを有している。第一支圧受け面52A及び第二支圧受け面62Aは、木質部材20の接合面20Tと反対側を向くとともに、接合面20Tと平行する平面とされている。これらの第一支圧受け面52A及び第二支圧受け面62Aには、後述する第一支圧体34及び第二支圧体44がそれぞれ係合されている。
【0036】
木質部材20には、第一通路50が形成されている。第一通路50は、一対の木質部材20の圧着方向(引きボルト28の軸方向)に延びる円形状の貫通孔とされている。また、第一通路50は、接合面20Tと第一支圧受け面52Aとに亘っている。この第一通路50には、木質部材20の接合面20T側から第一ボルト部材30の一端側が挿入されている。
【0037】
第一ボルト部材30の一端側は、第一取付用開口52内に露出(配置)されている。この第一ボルト部材30の一端側には、第一支圧体34を介して第一ナット部材32が取り付けられている。第一支圧体(第一支圧板)34は、例えば、鋼板等によって形成された矩形板状の座金とされている。
【0038】
第一支圧体34は、第一取付用開口52の第一支圧受け面52Aに重ねられている。また、第一支圧体34には、第一ボルト部材30の一端側が挿入される取付孔が形成されている。この第一支圧体34は、第一ボルト部材30の一端側に第一ナット部材32を締め込むことにより、第一支圧受け面52Aに圧着されている。なお、第一支圧体34は、支圧体の一例である。
【0039】
第一取付用開口52と第二取付用開口62とは、第二通路60を介して接続されている。第二通路60は、一対の木質部材20の圧着方向(引きボルト28の軸方向)に延びる円形状の貫通孔とされている。また、第二通路60は、第一通路50と同軸上に配置されており、第一支圧受け面52Aと第二支圧受け面62Aとに亘っている。この第二通路60には、木質部材20の接合面20T側から第二ボルト部材40が挿入されている。
【0040】
第二ボルト部材40の一端側は、第一取付用開口52内に露出(配置)されている。この第二ボルト部材40の一端側は、第一ナット部材32を介して第一ボルト部材30に連結されている。
【0041】
第二ボルト部材40の他端側は、第二取付用開口62内に露出(配置)されている。この第二ボルト部材40の他端側には、第二支圧体44を介して第二ナット部材42が取り付けられている。第二支圧体(第二支圧板)44は、例えば、鋼板等によって形成された矩形板状の座金とされている。
【0042】
第二支圧体44は、第二取付用開口62の第二支圧受け面62Aに重ねられている。また、第二支圧体44には、第二ボルト部材40の他端側が挿入される取付孔が形成されている。この第二支圧体44は、第二ボルト部材40の他端側に第二ナット部材42を締め込むことにより、第二支圧受け面62Aに圧着されている。
【0043】
なお、第二支圧体44は、第一支圧体34と同様の構成とされている。また、第二支圧体44は、第二支圧体の一例である。
【0044】
このように引きボルト28の一端側(一方の木質部材20側)には、第一支圧体34及び第二支圧体44が引きボルト28の軸方向に間隔を空けて取り付けられている。この状態で、第一ボルト部材30の一端側に第一ナット部材32を締め込むとともに、第二ボルト部材40の他端側に第二ナット部材42を締め込むことにより、引きボルト28に引張力が導入されている。
【0045】
より具体的には、第一ボルト部材30の一端側に第一ナット部材32を締め込むことにより、第一ボルト部材30に引張力が導入されている。また、第二ボルト部材40の他端側に第二ナット部材42を締め込むことにより、第一ボルト部材30及び第二ボルト部材40に引張力が導入されている。これにより、一対の木質部材20の接合面20Tが圧着接合されている。
【0046】
なお、一方の木質部材20に引きボルト28を取り付ける際は、例えば、先ず、第二通路60に第二ボルト部材40を挿入した後、第一通路50に第一ボルト部材30を挿入する。この際、第二ボルト部材40の他端側に第二支圧体44を取り付けるとともに、第一ボルト部材30の一端側に第一支圧体34を取り付ける。この状態で、第一取付用開口52において、第二ボルト部材40の一端側と第一ボルト部材30の一端側とを第一ナット部材32を介して連結するとともに、第二取付用開口62において、第二ボルト部材40の他端側に第二ナット部材42を取り付ける。
【0047】
(作用)
次に、第一実施形態の作用について説明する。
【0048】
本実施形態によれば、引きボルト28は、一対の木質部材20に亘って配置されている。この引きボルト28の一端側には、第一支圧体34及び第二支圧体44が軸方向に間隔を空けて取り付けられる。第一支圧体34は、木質部材20に形成された第一取付用開口52の第一支圧受け面52Aに係合されている。また、第二支圧体44は、木質部材20に形成された第二取付用開口62の第二支圧受け面62Aに係合されている。
【0049】
これにより、引きボルト28に導入された引張力が、第一支圧体34及び第二支圧体44を介して第一支圧受け面52A及び第二支圧受け面62Aに分散して伝達される。したがって、第一支圧受け面52A及び第二支圧受け面62Aの破損等が抑制される。
【0050】
また、第一取付用開口52及び第二取付用開口62は、第一支圧体34及び第二支圧体44の配置に応じて、引きボルト28の軸方向の間隔を空けて配置されている。そのため、本実施形態では、木質部材20の同一断面における断面欠損を増加することなく、第一支圧受け面52A及び第二支圧受け面62Aに作用する支圧力を低減することができる。したがって、一対の木質部材20の耐力の低下が低減される。
【0051】
このように本実施形態では、一対の木質部材20の耐力の低下を低減しつつ、第一支圧受け面52A及び第二支圧受け面62Aの破損を抑制することができる。
【0052】
ここで、
図3には、第一ボルト部材30、第一支圧体34、第二ボルト部材40、及び第二支圧体44の力学的モデルが示されている。なお、Pは、引きボルト28に作用する引張力を示し、P
1,P
2は、第一支圧体34、第二支圧体44にそれぞれ作用する支圧力(引張力)を示している(P=P
1+P
2)。また、K
b1,K
b2は、第一ボルト部材30及び第一ボルト部材30の剛性をそれぞれ示し、K
z1,K
z2は、第二ナット部材42及び第二ナット部材42の剛性をそれぞれ示している。
【0053】
第一ボルト部材30及び第二ボルト部材40の剛性Kb1,Kb2、及び第一支圧体34、第二支圧体44の剛性Kz1,Kz2は、例えば、P1/P2が1.3~5.0になるように設定される。この構成は、例えば、第二ボルト部材40及び第二支圧体44が省略され、引張力Pが第一支圧体34にのみ作用する構成(P=P1)と比較して、木質部材20の支圧耐力を1.2~1.7に高めることができる。
【0054】
なお、木質部材20の支圧耐力は、第一ボルト部材30及び第二ボルト部材40等の剛性差によって、単純に2倍にはならない。
【0055】
また、本実施形態に係る構造材10は、
図1に示されるように、引きボルト28で圧着接合された一対の木質部材20を複数組備えている。複数組の木質部材20は、厚み方向(矢印Y方向)に三層で積層されている。また、複数組の木質部材20は、積層方向から見て、第一取付用開口52及び第二取付用開口62が重ならない状態で接合されている。
【0056】
これにより、構造材10の同一断面における断面欠損を増加することなく、第一支圧受け面52A及び第二支圧受け面62Aに作用する支圧力を低減することができる。したがって、構造材10の耐力の低下を抑制することができる。
【0057】
(第二実施形態)
次に、第二実施形態について説明する。なお、第二実施形態において、第一実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0058】
図4、
図5、及び
図6には、第二実施形態に係る圧着接合構造が適用された一対の木質部材70が開示されている。一対の木質部材70には、第一通路50、第一取付用開口90、第二通路60、及び第二取付用開口92が形成されている。なお、
図4には、一対の木質部材70のうち、一方の木質部材70のみが示されている。
【0059】
第一取付用開口90と第二取付用開口92とは、引きボルト28の軸方向に間隔を空けて配置されている。また、第一取付用開口90及び第二取付用開口92は、木質部材70における隣り合う外面70Y,70Zに形成されている。
【0060】
具体的には、第一取付用開口90は、木質部材70における厚み方向(矢印Y方向)の外面70Yに形成されている。また、第一取付用開口90は、木質部材70を厚み方向に貫通する矩形状の貫通孔とされている。この第一取付用開口90は、木質部材70の接合面70Tと反対側を向くとともに、接合面70Tと平行する長尺な第一支圧受け面90Aを有している。
【0061】
第一支圧受け面90Aには、第一支圧体80が係合されている。第一支圧体80は、鋼板等によって矩形の板状に形成されている。また、第一支圧体80は、第一支圧受け面90Aに沿った長尺状(帯状)に形成されている。この第一支圧体80には、第一ボルト部材30の一端側が挿入される取付孔が形成されている。
【0062】
第二取付用開口92は、木質部材70における上側の外面70Zに形成されている。また、第二取付用開口92は、細長い矩形状の穴(凹部)とされている。この第二取付用開口92は、木質部材70の接合面70Tと反対側を向くとともに、接合面70Tと平行する長尺な第二支圧受け面92Aを有している。
【0063】
第二支圧受け面92Aには、第二支圧体82が係合されている。第二支圧体82は、鋼板等によって矩形の板状に形成されている。また、第二支圧体82は、第二支圧受け面92Aに沿った長尺状(帯状)に形成されている。この第二支圧体82には、第二ボルト部材40の一端側が挿入される取付孔が形成されている。
【0064】
図7に示されるように、第一取付用開口90及び第二取付用開口92は、引きボルト28の軸方向から見て、長方形状に形成されるとともに、十字状に交差(直交)されている。これと同様に、第一支圧体80及び第二支圧体82は、引きボルト28の軸方向から見て、長方形状に形成されるとともに、十字状に交差(直交)されている。つまり、第一支圧体80及び第二支圧体82は、引きボルト28の軸方向から見て、外形が一致していない。この第一支圧体80及び第二支圧体82の交差部に、引きボルト28が貫通されている。
【0065】
(作用)
次に、第二実施形態の作用について説明する。
【0066】
図7に示されるように、本実施形態によれば、引きボルト28の軸方向から見て、第一支圧体80及び第二支圧体82の外形が一致していない。
【0067】
ここで、例えば、第一実施形態のように、引きボルト28の軸方向から見て、第一支圧体80及び第二支圧体82の外形が一致する場合、
図2に示されるように、引きボルト28の軸方向から見て、第一支圧受け面90A及び第二支圧受け面92Aの同じ領域に支圧力P
1,P
2が作用するため、第一支圧受け面90A及び第二支圧受け面92Aが破損等し易くなる。
【0068】
これに対して本実施形態では、前述したように、引きボルト28の軸方向から見て、第一支圧体80及び第二支圧体82の外形が一致していない。これにより、
図5及び
図6に示されるように、引きボルト28の軸方向から見て、第一支圧受け面90A及び第二支圧受け面92Aの異なる領域に支圧力P
1,P
2が分散して作用する。したがって、第一支圧受け面90A及び第二支圧受け面92Aの破損等を抑制することができる。
【0069】
(第三実施形態)
次に、第三実施形態について説明する。なお、第三実施形態において、第一実施形態又は第二実施形態と同じ構成の部材等には、同符号を付して説明を適宜省略する。
【0070】
図8には、第三実施形態に係る圧着接合構造が適用された構造材100が示されている。構造材100は、複数の木質部材20を接合することにより形成されている。複数の木質部材20は、目地Mを揃えた状態で、厚み方向に三層で積層されている。
【0071】
図9及び
図10に示されるように、長手方向に隣り合う一対の木質部材20は、引きボルト110によって、各々の長手方向(圧着方向)に圧着接合されている。引きボルト110は、例えば、軸方向に並ぶ一対のボルト部材112を有している。一対のボルト部材112は、全長に亘ってネジ部が形成された全ネジボルトとされている。なお、引きボルト110は、引張材の一例である。
【0072】
一対のボルト部材112は、コネクタ114を介して連結されている。コネクタ114は、例えば、ターンバックルのように一端側が順ネジ孔とされ、他端側が逆ネジ孔とされている。このコネクタ114を所定方向に回転させることにより、一対のボルト部材112の間隔が増減される結果、一対のボルト部材112に導入される引張力が増減される。
【0073】
三層の木質部材20には、接続用開口116、第一通路50、第一取付用開口130、第二通路60、及び第二取付用開口132、がそれぞれ形成されている。
【0074】
接続用開口116は、木質部材20の端部に形成されており、木質部材20の接合面20T及び外面20Zを開口している。また、接続用開口116は、第一通路50と接続されている。この接続用開口116には、コネクタ114が収容される。
【0075】
第一取付用開口130と第二取付用開口132とは、引きボルト110の軸方向に間隔を空けて配置されている。また、第一取付用開口130及び第二取付用開口132は、木質部材20における隣り合う外面20Y,20Zに形成されている。
【0076】
具体的には、第一取付用開口130は、木質部材20における上側の外面20Zに形成されている。また、第一取付用開口130は、細長い矩形状の穴(凹部)とされている。この第一取付用開口130は、木質部材20の接合面20Tと反対側を向くとともに、接合面20Tと平行する長尺な第一支圧受け面130Aを有している。
【0077】
図9に示されるように、第一支圧受け面130Aには、第一支圧体120が係合されている。第一支圧体120は、鋼材等によって角柱状に形成されており、第一取付用開口130に嵌め込まれている。また、第一支圧体120には、一対のネジ孔120Hが形成されている。一対のネジ孔120Hは、第一支圧体120の長手方向に間隔を空けて配置されるとともに、第一支圧体120を引きボルト110の軸方向に貫通している。この一対のネジ孔120Hには、後述する引きボルト110が捻じ込まれる。
【0078】
なお、前述したように、第一支圧体120は、第一取付用開口130に嵌め込まれている。これにより、引きボルト110をネジ孔120Hに捻じ込む際に、第一支圧体120の回転(共回り)が規制される。
【0079】
第二取付用開口132は、木質部材20における厚み方向(矢印Y方向)の外面20Yに形成されている。また、第二取付用開口132は、三層の木質部材20を厚み方向に貫通する矩形状の貫通孔とされている。この第二取付用開口132は、木質部材20の接合面20Tと反対側を向くとともに、接合面20Tと平行する長尺な第二支圧受け面132Aを有している。
【0080】
図10に示されるように、第二支圧受け面132Aには、第二支圧体122が係合されている。第二支圧体122は、鋼材等によって角柱状に形成されており、第二取付用開口132に嵌め込まれている。また、第二支圧体122には、三層の木質部材20に亘って配置されている。この第二支圧体122には、3つのネジ孔122Hが形成されている。3つのネジ孔122Hは、第二支圧体122の長手方向に間隔を空けるとともに、第二支圧体122を引きボルト110の軸方向に貫通している。これらのネジ孔122Hには、引きボルト110(ボルト部材112)が捻じ込まれる。
【0081】
なお、前述したように、第二支圧体122は、第二取付用開口132に嵌め込まれている。これにより、引きボルト110をネジ孔122Hに捻じ込む際に、第二支圧体122の回転(共回り)が規制される。
【0082】
図11に示されるように、第一取付用開口130及び第二取付用開口132は、引きボルト110の軸方向から見て、長方形状に形成されるとともに、十字状に交差(直交)されている。これと同様に、第一支圧体120及び第二支圧体122は、引きボルト110の軸方向から見て、長方形状に形成されるとともに、十字状に交差(直交)されている。つまり、第一支圧体120及び第二支圧体122は、引きボルト110の軸方向から見て、外形が一致していない。この第一支圧体120及び第二支圧体122の交差部に引きボルト110(ボルト部材112)が貫通されている。
【0083】
ここで、木質部材20に引きボルト110を取り付ける際は、例えば、先ず、第一取付用開口130に第一支圧体120を嵌め込むとともに、第二取付用開口132に第二支圧体122を嵌め込む。次に、木質部材20の接合面20T側からボルト部材112を第一通路50に挿入し、ボルト部材112を第一支圧体120及び第二支圧体122のネジ孔120H,122H(
図8参照)に捻じ込む。
【0084】
次に、一対の木質部材20の接合面20Tを接触させるとともに、コネクタ114によって一対のボルト部材112を接続する。この状態で、コネクタ114を所定方向に回転し、一対のボルト部材112の間隔を狭めることにより、一対のボルト部材112(引きボルト110)に引張力を導入する。これにより、第一支圧体120及び第二支圧体122が第一支圧受け面130A及び第二支圧受け面132Aにそれぞれ圧着(係合)される。この結果、一対の木質部材20の接合面20Tが圧着接合される。
【0085】
(作用)
次に、第三実施形態の作用について説明する。
【0086】
図11に示されるように、本実施形態によれば、引きボルト110の軸方向から見て、第一支圧体120及び第二支圧体122が十字状に交差されている。つまり、引きボルト110の軸方向から見て、第一支圧体120及び第二支圧体122の外形が一致していない。これにより、
図9及び
図10に示されるように、引きボルト110の軸方向から見て、第一支圧受け面130A及び第二支圧受け面132Aの異なる領域に支圧力P
1,P
2が分散して作用する。したがって、第一支圧受け面130A及び第二支圧受け面132Aの破損等を抑制することができる。
【0087】
また、本実施形態では、第一取付用開口130に第一支圧体120を嵌め込まれるとともに、第二取付用開口132に第二支圧体122が嵌め込まれる。これにより、引きボルト110(一対のボルト部材112)を第一支圧体120及び第二支圧体122のネジ孔120H,122Hに捻じ込む際に、第一支圧体120及び第二支圧体122の回転(共回り)が規制される。また、本実施形態では、例えば、上記第一実施形態及び第二実施形態における第一ナット部材32及び第二ナット部材42を省略することができる。
【0088】
なお、本実施形態では、引きボルト110の軸方向から見て、第一支圧体120及び第二支圧体122が十字状に交差している。しかし、第一支圧体120及び第二支圧体122は、引きボルト110の軸方向から見て、外形が一致していなければ良く、その形状は適宜変更可能である。したがって、例えば、第一支圧体が円形状の座金とされ、第二支圧体が第一支圧体とは径が異なる円形状の座金とされても良い。
【0089】
(変形例)
次に、上記第一~第三実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、上記第一実施形態を例に各種の変形例について説明するが、これらの変形例は、上記第二実施形態及び第三実施形態にも適宜適用可能である。
【0090】
上記第一実施形態では、引きボルト28に第一支圧体34及び第二支圧体44が取り付けられている。しかし、引きボルト28には、少なくとも2つの支圧体が取り付けられていれば良く、例えば、3つ以上の支圧体が取り付けられても良い。
【0091】
また、上記第一実施形態では、第一通路50及び第二通路60が貫通孔によって形成されている。しかし、第一通路50及び第二通路60は、貫通孔に限らず、例えば、木質部材20の接合面20T及び外面20Zを開口するスリットであっても良い。なお、第一通路50及び第二通路60をスリットで形成した場合、木質部材20の外面20Z側から第一取付用開口52及び第二取付用開口62に引きボルト28を挿入することができる。この場合、引きボルト28は、分割可能な第一ボルト部材30及び一対の第二ボルト部材40ではなく、1本のボルト部材によって形成することができる。
【0092】
また、上記第一実施形態では、第一ナット部材32と第一支圧体34とが別体とされている。しかし、第一ナット部材32と第一支圧体34とは、一体とされても良い。これと同様に、上記第一実施形態では、第二ナット部材42と第二支圧体44とが別体とされている。しかし、第二ナット部材42と第二支圧体44とは、一体とされても良い。
【0093】
また、上記第一実施形態における引張材は、引きボルト28に限らず、例えば、PC鋼線又はPC鋼棒等のPC鋼材であっても良い。
【0094】
また、上記第一実施形態では、木質部材20が三層に積層されている。しかし、木質部材20の積層数は適宜変更である。また、木質部材20は、積層せずに、単層でも良い。
【0095】
また、上記第一実施形態では、引きボルト28の両端側が、第一支圧体34及び第二支圧体44等によって一対の木質部材20にそれぞれ固定されている。しかし、引きボルト28は、その少なくとも一端側が、第一支圧体34及び第二支圧体44等によって一方の木質部材20に固定されていれば良い。この場合、引きボルト28の他端側と他方の木質部材20とには、種々の固定構造を採用することができる。
【0096】
また、上記第一実施形態では、第一部材及び第二部材が、一対の木質部材20とされている。しかし、第一部材及び第二部材の材質は、木質部材に限らず、例えば、コンクリート部材等であっても良い。また、第一部材及び第二部材の一方が木質部材とされ、第一部材及び第二部材の他方がコンクリート部材とされても良い。
【0097】
また、上記第一実施形態では、柱、梁、壁、床等の種々の建材に適用可能である。
【0098】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0099】
20 木質部材(第一部材、第二部材)
20T 接合面(第一部材の接合面、第二部材の接合面)
28 引きボルト(引張材)
34 第一支圧体(支圧体)
44 第二支圧体(支圧体)
52 第一取付用開口(取付用開口)
52A 第一支圧受け面
62 第二取付用開口(取付用開口)
62A 第二支圧受け面
70 木質部材(第一部材、第二部材)
70T 接合面(第一部材の接合面、第二部材の接合面)
80 第一支圧体
82 第二支圧体
90 第一取付用開口(取付用開口)
90A 第一支圧受け面
92 第二取付用開口(取付用開口)
92A 第二支圧受け面
110 引きボルト
120 第一支圧体(支圧体)
122 第二支圧体(支圧体)
130 第一取付用開口(取付用開口)
130A 第一支圧付け面
132 第二取付用開口(取付用開口)
132A 第二支圧受け面