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特許7520710障害リスク推定装置、障害リスク推定方法、および障害リスク推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】障害リスク推定装置、障害リスク推定方法、および障害リスク推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20240716BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20240716BHJP
【FI】
G16H50/30
G16H50/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020213958
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099894
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】室伏 広治
(72)【発明者】
【氏名】勝 眞理
(72)【発明者】
【氏名】品山 亮太
(72)【発明者】
【氏名】川上 和也
【審査官】森田 充功
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069864(WO,A1)
【文献】特開2020-017153(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0172585(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0008745(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0357508(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0147128(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0248986(US,A1)
【文献】国際公開第2020/132713(WO,A1)
【文献】細川 賢司,ファンクショナルムーブメントスクリーン(FMS)による基礎的動作の質的評価と運動能力の関係:小学生を対象として,スポーツパフォーマンス研究,2016(第8巻),日本スポーツパフォーマンス学会,2016年09月15日,p.343-360,インターネット:<URL: https://www.sports-performance.jp/paper/1614/1614.pdf>[検索日:2024年4月9日]
【文献】遠藤 康裕 他,高校サッカー選手の下肢傷害既往とFunctional Movement Screenの関連,日本アスレティックトレーニング学会誌,第4巻, 第1号 (2018),日本アスレティックトレーニング学会,2018年04月13日,p.49-53,インターネット:<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsatj/4/1/4_49/_pdf>[検索日:2024年4月9日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の身体におけるスタビリティ関節およびモビリティ関節の位置関係と対応するように評価対象として設定された複数の身体部位に関し、それぞれの可動性を示す検査結果の入力を受け付ける情報取得部と、
前記身体部位ごとの検査結果を総合した結果に基づいて身体部位ごとの障害リスクを推定するリスク推定部と、
前記障害リスクに関する推定結果を出力する結果出力部と、
を備え
前記リスク推定部は、いずれかの身体部位の検査結果が所定の結果を示した場合にその身体部位に対応するモビリティ関節と位置が隣接するスタビリティ関節を特定し、前記特定したスタビリティ関節に対応する身体部位について前記障害リスクを推定し得ることを特徴とする障害リスク推定装置。
【請求項2】
前記リスク推定部は、前記身体部位ごとの検査結果を示す値の合計値が所定値未満となった場合にいずれかの身体部位に障害リスクが生じている可能性が高い旨の推定をすることを特徴とする請求項1に記載の障害リスク推定装置。
【請求項3】
前記身体部位ごとの検査結果と障害が生じている身体部位との間の相関関係を学習した障害予測モデルを記憶するモデル記憶部をさらに備え、
前記リスク推定部は、前記障害予測モデルに前記身体部位ごとの検査結果を入力して障害が生じている身体部位を予測することにより前記障害リスクを推定することを特徴とする請求項1に記載の障害リスク推定装置。
【請求項4】
前記情報取得部は、被検者の属性の入力をさらに受け付け、
前記リスク推定部は、前記検査結果および被検者の属性に基づいて前記障害リスクを推定することを特徴とする請求項に記載の障害リスク推定装置。
【請求項5】
被検者の身体におけるスタビリティ関節およびモビリティ関節の位置関係と対応するように評価対象として設定された複数の身体部位に関し、それぞれの可動性を示す検査結果の入力をコンピュータが受け付ける過程と、
前記身体部位ごとの検査結果を総合した結果に基づいて身体部位ごとの障害リスクをコンピュータが推定する過程と、
前記障害リスクに関する推定結果をコンピュータが出力する過程と、
を備え
前記推定する過程は、いずれかの身体部位の検査結果が所定の結果を示した場合にその身体部位に対応するモビリティ関節と位置が隣接するスタビリティ関節を特定し、前記特定したスタビリティ関節に対応する身体部位について前記障害リスクを推定し得ることを特徴とする障害リスク推定方法。
【請求項6】
被検者の身体におけるスタビリティ関節およびモビリティ関節の位置関係と対応するように評価対象として設定された複数の身体部位に関し、それぞれの可動性を示す検査結果の入力を受け付ける機能と、
前記身体部位ごとの検査結果を総合した結果に基づいて身体部位ごとの障害リスクを推定する機能と、
前記障害リスクに関する推定結果を出力する機能と、
をコンピュータに実行させ
前記推定する機能は、いずれかの身体部位の検査結果が所定の結果を示した場合にその身体部位に対応するモビリティ関節と位置が隣接するスタビリティ関節を特定し、前記特定したスタビリティ関節に対応する身体部位について前記障害リスクを推定し得ることを特徴とする障害リスク推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、障害リスク推定装置に関する。特に、被検者の身体の状態を診断する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医学の進歩により長寿命化が進む一方、心身ともに健康のままで寿命を全うするための解決策として、スポーツの実施に注目が集まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-055105号公報
【文献】特開2019-185722号公報
【文献】特表2015-501700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、身体機能を確認せずスポーツを行えば、怪我に結び付く危険性があり、かえって健康を害しかねない。そこで、医師や理学療法士、アスレチックトレーナーによる診断を基本としながらも、自分の身体の状態を自ら簡単に検査、確認できる方法を確立することが望ましい。
【0005】
本発明は、こうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、自分の身体機能の状態を簡単に自己検査できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の障害リスク推定装置は、被検者の身体におけるスタビリティ関節およびモビリティ関節の位置関係と対応するように評価対象として設定された複数の身体部位に関し、それぞれの可動性を示す検査結果の入力を受け付ける情報取得部と、身体部位ごとの検査結果を総合した結果に基づいて身体部位ごとの障害リスクを推定するリスク推定部と、障害リスクに関する推定結果を出力する結果出力部と、を備える。
【0007】
ここで、スタビリティ関節およびモビリティ関節は、ジョイント・バイ・ジョイント理論として知られる理論において各関節の役割に着目した呼び名である。スタビリティ関節は、頸椎、肩甲骨、腰椎、肘関節、膝関節、骨盤のように、様々な方向にあまり動かず、身体の動きを安定させる役割を持つ関節であり、モビリティ関節は、肩関節、胸椎、股関節、手首関節、足首関節のように、様々な方向によく動いて身体の動きを作る役割を持つ関節である。スタビリティ関節とモビリティ関節は、人間の身体において基本的に交互に存在し、複数のモビリティ関節で一つのスタビリティ関節を挟むように位置している。モビリティ関節の動きに支障が生じる場合、その支障を補おうとしてそのモビリティ関節の上下左右いずれかに隣接するスタビリティ関節に代償動作と呼ばれる痛みが生じることがある。「可動性を示す検査結果」は、例えばその身体部位における所定の動きが可能か否かを示す値であってもよいし、その身体部位がどのくらい動かせるかを示す値であってもよい。「障害リスク」は、現在または将来における怪我や痛みの可能性、平常時には痛みはないが運動時に痛みが発生する可能性、痛みはないが思うように動かなくなる可能性等を広く含んでもよい。
【0008】
この態様によると、被検者は自分の各身体部位の可動性について入力するだけで障害リスクに関する推定結果を得ることができる。特に、スタビリティ関節およびモビリティ関節の位置関係と対応する複数の身体部位の可動性について入力することで、実際に可動性に支障が出ている部位とは異なる部位の代償動作による障害リスクを予測することもできる。
【0009】
リスク推定部は、身体部位ごとの検査結果を示す値の合計値が所定値以上となった場合にいずれかの身体部位に障害リスクが生じている可能性が高い旨の推定をしてもよい。ここでいう所定値は、例えば全体の70%程度に相当する数値や割合であってもよく、その値は多数の事例から導き出される統計的な値や経験則から定められる値であってもよい。この態様によると、身体部位ごとの可動性に関する検査結果を集計して基準値と比較するという単純な処理だけで、いずれかの部位に障害リスクが生じることを簡単に予測することができる。
【0010】
リスク推定部は、いずれかの身体部位の検査結果が所定の結果を示した場合にその身体部位に対応するモビリティ関節と位置が隣接するスタビリティ関節を特定し、特定したスタビリティ関節に対応する身体部位について障害リスクを推定し得る。この推定方法としては、例えば複数の身体部位における可動性に関する検査結果が所定条件に照らし合わせて判定するアルゴリズムによる推定方法であってもよい。この場合、生理学的または医学的な見地から理論づけられた方法で障害リスクを推定することができる。
【0011】
身体部位ごとの検査結果と障害が生じている身体部位との間の相関関係を学習した障害予測モデルを記憶するモデル記憶部をさらに備えてもよい。リスク推定部は、障害予測モデルに身体部位ごとの検査結果を入力して障害が生じている身体部位を予測することにより障害リスクを推定してもよい。身体部位ごとの検査結果と障害部位の関係性を示す事例データをより多く機械学習により学習させるほど、より精度高く障害リスクを推定することができる。
【0012】
情報取得部は、被検者の属性の入力をさらに受け付け、リスク推定部は、検査結果および被検者の属性に基づいて障害リスクを推定してもよい。ここでいう「属性」は、例えば年齢、性別、身長、体重、利き手、利き足といった身体機能差をもたらす要素であってもよいし、職歴、スポーツ歴、現在実施するスポーツの種目といった障害の原因や態様の違いをもたらす要素であってもよい。障害リスクの推定において属性を加味することによって、より精度よく障害リスクを推定することができる。
【0013】
本発明の別の態様は、障害リスク推定方法である。この方法は、被検者の身体におけるスタビリティ関節およびモビリティ関節の位置関係と対応するように評価対象として設定された複数の身体部位に関し、それぞれの可動性を示す検査結果の入力をコンピュータが受け付ける過程と、身体部位ごとの検査結果を総合した結果に基づいて身体部位ごとの障害リスクをコンピュータが推定する過程と、障害リスクに関する推定結果をコンピュータが出力する過程と、を備える。
【0014】
この態様によると、被検者は自分の各身体部位の可動性について入力するだけで障害リスクに関する推定結果を得ることができる。特に、スタビリティ関節およびモビリティ関節の位置関係と対応する複数の身体部位の可動性について入力することで、実際に可動性に支障が出ている部位とは異なる部位の代償動作による障害リスクを予測することもできる。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、装置、プログラム、プログラムを記憶した一時的なまたは一時的でない記憶媒体、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自分の身体機能の状態を簡単に自己検査できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】身体部位と関節の位置関係を模式的に示す図である。
図2】身体機能自己検査プログラムにおいて被検者が検査項目に対する回答を入力する画面例を示す図である。
図3】検査項目ごとの検査結果と身体部位ごとの評価および障害リスクを表示する画面例を示す図である。
図4】障害リスク推定システムの基本構成図である。
図5】障害リスク推定システムの機能ブロック図である。
図6】身体機能自己検査プログラムによる総合評価と痛みの強さの関係を示す図である。
図7】身体部位ごとの検査結果と痛みのある身体部位の事例一覧表を示す図である。
図8】障害リスクを推定する過程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、身体機能自己検査プログラムを例示的に説明する。本実施の形態における身体機能自己検査プログラムは、全身を8つの身体部位に分けた上で、各身体部位の筋力、柔軟性、安定性を合わせた形で評価する。被検者は、計測器材を必要とせずに一人でも自己検査をすることができ、簡単に評価結果を得ることができる。
【0019】
図1は、身体部位と関節の位置関係を模式的に示す。図1(a)は正面側から見た人体モデルにおいて8つに分けた各身体部位を示し、図1(b)は正面側から見た人体モデルにおいて各関節の位置を示し、図1(c)は背面側から見た人体モデルにおいて各関節の位置を示す。図1(b)(c)において、斜線の丸で示される関節がスタビリティ関節であり、白丸で示される関節がモビリティ関節である。
【0020】
図1(a)に示すように、8つの身体部位は、首部110、右上体部112、左上体部114、コア部116、右腰部118、左腰部120、右下肢部122、左下肢部124から構成される。
【0021】
図1(b)において、斜線の丸で示される頸椎130、右肘関節135、左肘関節136、右膝関節138、左膝関節140がスタビリティ関節である。白丸で示される右肩関節142、左肩関節144、右股関節148、左股関節150、右手首関節152、左手首関節154、右足首関節156、左足首関節158がモビリティ関節である。
【0022】
図1(c)において、斜線の丸で示される頸椎130、右肩甲骨132、左肩甲骨133、右肘関節135、左肘関節136、腰椎146、右膝関節138、左膝関節140がスタビリティ関節である。白丸で示される右肩関節142、左肩関節144、胸椎134、右股関節148、左股関節150、右手首関節152、左手首関節154、右足首関節156、左足首関節158がモビリティ関節である。
【0023】
スタビリティ関節とモビリティ関節は、おおむね交互に並ぶように位置しており、複数のモビリティ関節で一つのスタビリティ関節を挟むように位置する。例えば、頸椎130は右肩関節142、左肩関節144に挟まれており、右肘関節135は右肩関節142、右手首関節152に挟まれており、左肘関節136は左肩関節144、左手首関節154に挟まれている。右膝関節138は右股関節148、右足首関節156に挟まれており、左膝関節140は左股関節150、左足首関節158に挟まれている。左肩甲骨133は左肩関節144、胸椎134に挟まれており、右肩甲骨132は右肩関節142、胸椎134に挟まれている。腰椎146は、胸椎134、右股関節148、左股関節150に挟まれている。例えば、腰に痛みが出た場合、腰椎146を挟む胸椎134、右股関節148、左股関節150の可動性の悪化に原因があり、その動きを補おうとして腰椎146が無理に動こうとする代償動作によって腰椎146に痛みが出ている可能性がある。
【0024】
図1(a)の各身体部位と図1(b)(c)の各関節の位置関係は以下の通りである。すなわち、首部110には、スタビリティ関節である頸椎130が含まれる。右上体部112には、モビリティ関節である右肩関節142、右手首関節152、胸椎134と、スタビリティ関節である右肘関節135、右肩甲骨132が含まれる。左上体部114には、モビリティ関節である左肩関節144、左手首関節154、胸椎134と、スタビリティ関節である左肘関節136、左肩甲骨133が含まれる。コア部116には、スタビリティ関節である腰椎146が含まれる。右腰部118には、モビリティ関節である右股関節148が含まれる。左腰部120には、モビリティ関節である左股関節150が含まれる。右下肢部122には、スタビリティ関節である右膝関節138と、モビリティ関節である右足首関節156が含まれる。左下肢部124には、スタビリティ関節である左膝関節140と、モビリティ関節である左足首関節158が含まれる。
【0025】
図2は、身体機能自己検査プログラムにおいて被検者が検査項目に対する回答を入力する画面例を示す。まず被検者は、図示しない開始画面において個人を示す識別情報(氏名やユーザ名等)と属性情報を登録する。属性情報は、例えば年齢、性別、実施するスポーツの種目といった情報である。識別情報と属性情報の登録が済むと、図2の画面に遷移する。本実施の形態における身体機能自己検査プログラムは、大きく分けてAからKまでの11項目が含まれる。各検査項目は、被検者が様々な体の動きができるかどうかを回答する形式であり、計測器材が不要な検査である。検査においては、様々な体の動きの説明が画面に表示され、被検者がその動きを実施してみた上で、できた場合は「1」を回答し、できなかった場合は「0」を回答する。このような動きの実施と回答を繰り返すことで、被検者は各部位の可動性に関する検査結果を入力することができる。なお、各検査項目は、1項目につき一つの関節または身体部位と対応するとは限らない。すなわち、検査項目ごとに一つまたは複数の関節の可動性を検査することになり、検査項目ごとに一つまたは複数の身体部位を検査することになる。
【0026】
本図の例では、検査項目「A」の「首の動き」の検査に含まれる6つの小項目に対する回答欄がチェックボックス形式で表示される。検査項目「A」の「首の動き」は、被検者が無理なく首を動かせるかどうかの検査である。例えば、A1)首を前に倒せるか、A2)後ろに倒せるか、A3)左斜め45度に倒せるか、A4)右斜め45度に倒せるか、A5)左真横を向けるか、A6)右真横を向けるか、の6項目である。
【0027】
第1チェックボックス211は、検査項目A1として被検者が首を前に倒せる場合は「1」の回答を選択し、倒せない場合は「0」の回答を選択するように構成される。第2チェックボックス212は、検査項目A2として被検者が首を後ろに倒せる場合は「1」の回答を選択し、倒せない場合は「0」の回答を選択するように構成される。第3チェックボックス213は、検査項目A3として被検者が首を左斜め45度に倒せる場合は「1」の回答を選択し、倒せない場合は「0」の回答を選択するように構成される。第4チェックボックス214は、検査項目A4として被検者が首を右斜め45度に倒せる場合は「1」の回答を選択し、倒せない場合は「0」の回答を選択するように構成される。第5チェックボックス215は、検査項目A5として被検者が首を左真横を向ける場合は「1」の回答を選択し、向けない場合は「0」の回答を選択するように構成される。第6チェックボックス216は、検査項目A6として被検者が首を右真横を向ける場合は「1」の回答を選択し、向けない場合は「0」の回答を選択するように構成される。
【0028】
第1チェックボックス211、第2チェックボックス212、第3チェックボックス213、第4チェックボックス214、第5チェックボックス215、第6チェックボックス216のそれぞれの下には、第1詳細ボタン221、第2詳細ボタン222、第3詳細ボタン223、第4詳細ボタン224、第5詳細ボタン225、第6詳細ボタン226が表示される。第1詳細ボタン221~第6詳細ボタン226のいずれかを押すと、その下に詳細説明欄220が表示され、対応する検査項目の検査方法について詳細な説明が画像または動画とともに表示される。図の例では、第3詳細ボタン223を押したときの詳細説明欄220の表示内容として、検査項目A3の詳細な説明が「首を左斜め45度に傾けることができるか」の文字列と、首を左斜め45度に傾けた人の画像が表示される。
【0029】
図示しないが、検査項目「B」から「K」までの10項目についても、図2と同様の画面によって被検者が各検査項目の回答を入力できるように構成される。
【0030】
図3は、検査項目ごとの検査結果と身体部位ごとの評価および障害リスクを表示する画面例を示す。検査結果欄204には、AからKまでの11項目の自己検査項目とその検査結果が表示される。各検査項目について、指定する動きができる場合は1点、できない場合は0点を加算、すなわち1項目につき1点ずつの得点となる。
【0031】
Aの「首の動き」は、被検者が無理なく首を動かせるかどうかの検査である。例えば、A1)首を前に倒せるか、A2)後ろに倒せるか、A3)左斜め45度に倒せるか、A4)右斜め45度に倒せるか、A5)左真横を向けるか、A6)右真横を向けるか、の6項目であり、合計で6点満点の得点となる。
【0032】
Bの「肩の可動域」は、被検者が背中に無理なく左右の手を回せるかどうかの検査である。例えば、B1)左の手先が右の肩甲骨に付くか、B2)右の手先が左の肩甲骨に付くか、の2項目であり、合計で2点満点の得点となる。
【0033】
Cの「肩甲骨の動き」は、被検者の左右の肩甲骨の動きが十分かどうかの検査である。例えば、C1)左手で右の耳たぶを掴んだままで左腕が頭上を通過することができるか、C2)右手で左の耳たぶを掴んだままで右腕が頭上を通過することができるか、の2項目であり、合計で2点満点の得点となる。
【0034】
Dの「胸椎の動き」は、被検者が上体を無理なく回旋できるかどうかの検査である。例えば、壁の前で壁に背中を向けて椅子に座り、壁と背中に握り拳2つ分の間隔をおいた状態で、D1)左肘が壁に付くか、D2)右肘が壁に付くか、D3)左の指先が右肩越しに壁に付くか、D4)右の指先が左肩越しに壁に付くか、D5)胸の前で両腕を軽く交差させた状態で左肘が壁に付くか、D6)胸の前で両腕を軽く交差させた状態で右肘が壁に付くか、の6項目であり、合計で6点満点の得点となる。
【0035】
Eの「肩の安定性と筋力」は、被検者が上体で身体を十分に支えられるかどうかの検査である。例えば、E1)両手両脚を肩幅程度に広げて立ち、壁から4足分の位置から壁に手をついて10秒間保てるか、E2)両手両脚を肩幅程度に広げ、両手と両膝を床について10秒間保てるか、E3)両手両脚を肩幅程度に広げ、両手と両爪先を床について10秒間保てるか、E4)左手と足を床について右手を上げて3秒保ち、次に両手と両爪先を床について5秒保ち、最後に右手と足を床について左手を上げて3秒保てるか、の4項目であり、合計で4点満点の得点となる。
【0036】
Fの「股関節の可動性」は、被検者が股関節を無理なく動かせるかどうかの検査である。例えば、F1)左膝を壁に付けて(股関節屈曲、内旋の状態)壁に向かって立ち、左足の外踝を左手で触れることができるか、F2)右膝を壁に付けて(股関節屈曲、内旋の状態)壁に向かって立ち、右足の外踝を右手で触れることができるか、F3)左膝を壁に付けて(股関節屈曲、内旋の状態)壁に向かって立ち、左足の内踝を右手で触れることができるか、F4)右膝を壁に付けて(股関節屈曲、内旋の状態)壁に向かって立ち、右足の内踝を左手で触れることができるか、F5)左手を壁に付けて(股関節屈曲、内旋の状態)壁に向かって立ち、背中側で左足の内踝を右手で触れることができるか、F6)右手を壁に付けて(股関節屈曲、内旋の状態)壁に向かって立ち、背中側で右足の内踝を左手で触れることができるか、F7)左手を壁に付けて(股関節屈曲、内旋の状態)壁に向かって立ち、背中側で右足の外踝を右手で触れることができるか、F8)右手を壁に付けて(股関節屈曲、内旋の状態)壁に向かって立ち、背中側で左足の外踝を左手で触れることができるか、の8項目であり、合計で8点満点の得点となる。
【0037】
Gの「股関節と背骨の柔軟性」は、被検者が無理なく前屈と後屈ができるかどうかの検査である。例えば、G1)足の屈曲部分から握り拳1個分上まで前屈できるか、G2)足の屈曲部分まで前屈できるか、G3)指先が床に触れるまで前屈できるか、G4)壁から足長1つ分の位置で壁に背中を向けて立ち、指先が壁に付くまで後屈できるか、G5)壁から足長2つ分の位置で壁に背中を向けて立ち、指先が壁に付くまで後屈できるか、G6)壁から足長3つ分の位置で壁に背中を向けて立ち、指先が壁に付くまで後屈できるか、の6項目であり、合計で6点満点の得点となる。
【0038】
Hの「下半身と体幹部の安定性」は、被検者が肘と膝を無理なく付けられるかどうかの検査である。例えば、H1)身体を垂直に保ったままで左膝を曲げて左脚を上げ、左肘を左膝に付けて3秒保てるか、H2)身体を垂直に保ったままで右膝を曲げて右脚を上げ、右肘を右膝に付けて3秒保てるか、の2項目であり、合計で2点満点の得点となる。
【0039】
Iの「体幹部の筋力」は、被検者が様々なレベルの腹筋運動ができるかどうかの検査である。例えば、I1)仰向けの状態で両膝を立てて両手の脇を締めた状態で5秒間、頭部から肩甲骨までを床から浮かせられるか、I2)仰向けの状態で両脚を伸ばして両手の脇を締めた状態で5秒間、頭部から肩甲骨までを床から浮かせられるか、I3)仰向けの状態で両脚を伸ばして両腕を胸の前で交差した状態で5秒間、頭部から背中までを床から浮かせられるか、I4)仰向けの状態で両脚を伸ばして両腕で頭を抱えた状態で5秒間、頭部から背中までを床から浮かせられるか、の4項目であり、合計で4点満点の得点となる。
【0040】
Jの「足腰の筋力」は、被検者が様々な状態から立ち上がれるかどうかの検査である。例えば、J1)左片膝立ちで膝に手を置いた状態から左片脚立ちへ立ち上がれるか、J2)右片膝立ちで膝に手を置いた状態から右片脚立ちへ立ち上がれるか、J3)左片膝立ちで腰に手を当てた状態から左片脚立ちへ立ち上がれるか、J4)右片膝立ちで腰に手を当てた状態から右片脚立ちへ立ち上がれるか、J5)椅子に座って両腕組みした状態から左片脚立ちへ立ち上がれるか、J6)椅子に座って両腕組みした状態から右片脚立ちへ立ち上がれるか、J7)椅子に座って左脚を組んで両腕組みした状態から左脚組みのまま右片脚立ちへ立ち上がれるか、J8)椅子に座って右脚を組んで両腕組みした状態から右脚組みのまま左片脚立ちへ立ち上がれるか、の8項目であり、合計で8点満点の得点となる。
【0041】
Kの「足首の可動性」は、被検者の足首の柔軟性が十分かどうかの検査である。例えば、K1)壁際で左片膝立ちをした状態で、壁から足指先までの距離を握り拳1個分として足裏を床につけたまま左膝を壁につけられるか、K2)壁際で右片膝立ちをした状態で、壁から足指先までの距離を握り拳1個分として足裏を床につけたまま右膝を壁につけられるか、の2項目であり、合計で2点満点の得点となる。
【0042】
身体部位評価欄206には、検査結果欄204の各検査項目の結果が、1~8までの8つの身体部位に分けて再集計されて評価結果として表示される。関節等の機能不全が原因で代償動作を生み、別の身体の一部に過剰な負担をかけることで痛みに転じる場合があるため、全身を身体部位別に分けて評価する必要がある。各検査項目は、1項目につき一つの関節または身体部位と対応するとは限らず、検査項目ごとに一つまたは複数の関節の可動性を検査することになり、検査項目ごとに一つまたは複数の身体部位を検査することになる。よって、身体部位ごとに評価をするために、身体部位評価欄206のように検査項目ごとの得点を再集計する。以下、各検査項目と身体部位の関係について説明する。
【0043】
身体部位評価欄206において、1番目の身体部位である「首部」には、検査項目Aの「首の動き」の合計得点がそのまま反映される。2番目の身体部位である「右上体部」には、検査項目B,C,D,Eのうち右上体部に関連する得点の合計が反映される。3番目の身体部位である「左上体部」には、検査項目B,C,D,Eのうち左上体部に関連する得点の合計が反映される。4番目の身体部位である「コア部」には、検査項目G,H,Iの合計得点がそのまま反映される。5番目の身体部位である「右腰部」には、検査項目F,Jのうち右腰に関連する得点の合計が反映される。6番目の身体部位である「左腰部」には、検査項目F,Jのうち左腰に関連する得点の合計が反映される。7番目の身体部位である「右下肢部」には、検査項目J,Kのうち右下肢に関連する得点の合計が反映される。8番目の身体部位である「左下肢部」には、検査項目J,Kのうち左下肢に関連する得点の合計が反映される。
【0044】
身体部位評価欄206の1~8番目の各身体部位の得点は、人体モデル200における各身体部位にも表示される。人体を8つの身体部位に分けた人体モデル200の図において、身体部位ごとの得点を表示する。例えば、第1の身体部位である「首部」は、6点満点のうち4点であり、第2の身体部位である「右上体部」は、7点満点のうち2点であり、第3の身体部位である「左上体部」は、7点満点のうち4点であることが示される。第4の身体部位である「コア部」は、12点満点のうち8点であり、第5の身体部位である「右腰部」は、6点満点のうち4点であり、第6の身体部位である「左腰部」は、6点満点のうち5点であることが示される。第7の身体部位である「右下肢部」は、3点満点のうち3点であり、第8の身体部位である「左下肢部」は、3点満点のうち2点であることが示される。これらの得点を集計した32点が合計得点である。合計評価値欄202には、集計された合計得点および障害リスクに関する評価結果が表示される。本実施形態においては、合計得点が50点満点のうち35点以上の場合に障害リスクなしと判定し、35点未満の場合に障害リスクありと判定する。本図の例では35点未満であるため、障害リスクありと判定し、その旨を合計評価値欄202に表示する。
【0045】
図4は、障害リスク推定システムの基本構成図である。障害リスク推定システム100は、インターネット等のネットワーク18を介して接続された複数のユーザ端末10と障害リスク推定サーバ20で構成される。複数の被検者のそれぞれがユーザ端末10を操作して、専用のプログラムまたはインターネットブラウザを用いて障害リスク推定サーバ20にアクセスし、障害リスク推定サーバ20から送信される内容を表示することにより身体機能自己検査プログラムを実施する。ユーザ端末10および障害リスク推定サーバ20は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、補助記憶装置、通信装置等からなるコンピュータで構成されてよい。ただし、ユーザ端末10と障害リスク推定サーバ20の機能をすべて備えた単体の装置で障害リスク推定システムを実現し、被検者は直接その装置を直接操作することで身体機能自己検査プログラムを実施できるように構成してもよい。単体の装置としては、パーソナルコンピュータに限らず、スマートフォン等の携帯端末やタブレット端末にインストールされたアプリケーションの形で提供してもよい。あるいは、スポーツジムに設置してトレーナーが操作する端末として実現してもよい。
【0046】
図5は、障害リスク推定システムの機能ブロック図である。本図では機能に着目した機能ブロックを描いており、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現することができる。ユーザ端末10は、情報表示部12、情報入力部14、通信部16を備える。被検者はユーザ端末10を操作して検査項目ごとの回答を入力する。情報表示部12は、障害リスク推定サーバ20から送信される検査項目画面の画像および情報を通信部16を介して受信して画面に表示する。情報入力部14は、被検者によって入力された回答などの情報を通信部16を介して障害リスク推定サーバ20へ送信する。
【0047】
障害リスク推定サーバ20は、通信部22、情報取得部24、検査結果記憶部26、リスク推定部36、モデル記憶部40、学習処理部42、結果出力部50を備える。
【0048】
情報取得部24は、身体機能自己検査プログラムにおける各検査項目の検査結果を被検者の識別情報や属性情報とともに通信部22を介してユーザ端末10から取得して検査結果記憶部26に格納する。被検者の属性としては、例えば年齢、性別、身長、体重、利き手、利き足といった身体機能差をもたらす要素であってもよいし、職歴、スポーツ歴、現在実施するスポーツの種目といった障害の原因や態様の違いをもたらす要素であってもよい。変形例として、情報取得部24は、被検者による申告に基づく入力情報として、いずれかの身体部位に痛みがあるかを示す情報をさらに取得してもよい。
【0049】
リスク推定部36は、集計部28、集計結果記憶部30、条件判定部32、予測部34を含む。集計部28は、検査結果記憶部26に格納された検査項目ごとの検査結果である得点を身体部位ごとに振り分けて身体部位ごとの検査結果として集計し、集計結果記憶部30に格納する。集計部28は、身体部位ごとの検査結果を身体部位ごとの評価値として結果出力部50へ送る。集計部28は、すべての身体部位の評価値を集計してその合計値を総合評価結果として結果出力部50へ送る。集計部28は、合計値が所定の基準値以上であるか否かによって障害リスクの有無を推定する。例えば、合計値が50点満点の場合に35点以上であれば障害リスクが生じている可能性が低いと推定し、35点未満であれば障害リスクが生じている可能性が高いと推定し、推定結果を結果出力部50へ送る。基準値は、多数の事例や知見に基づいて導き出された値が用いられる。
【0050】
条件判定部32は、所定のリスク推定アルゴリズムに基づき、身体部位ごとの検査結果検査結果が所定の結果を示したか否かにより障害リスクの有無と障害リスクのある身体部位を推定する。リスク推定アルゴリズムには、身体部位ごとの検査結果と障害リスクの有無および障害リスクの発生箇所の対応関係が規定される。すなわち、可動性に問題が生じた身体部位と、その場合に障害リスクが生じる可能性が高い身体部位との対応関係が規定されている。この対応関係は、多数の事例や、モビリティ関節とスタビリティ関節の位置関係に基づいて定義されている。例えば、あるモビリティ関節に可動性の問題が生じた場合、そのモビリティ関節と位置が隣接するスタビリティ関節に障害リスクが生じる可能性がある。条件判定部32は、身体部位ごとの検査結果に基づいて障害リスクが生じている可能性が高い身体部位を特定し、障害リスクの可能性の有無とその身体部位の情報を結果出力部50へ送る。なお、リスク推定アルゴリズムには、身体部位ごとの検査結果と障害リスクの関係だけでなく、年齢、性別、身長、体重、利き手、利き足、職歴、スポーツ歴、現在実施するスポーツの種目といった属性情報との関係もさらに規定されていてもよい。その場合、条件判定部32は、被検者の属性情報および身体部位ごとの検査結果に基づいて障害リスクを推定する。障害リスクの推定において属性を加味することによって、より精度よく障害リスクを推定することができる。
【0051】
モデル記憶部40は、身体部位ごとの検査結果と障害が生じている身体部位との間の相関関係を機械学習した障害予測モデルを記憶する。予測部34は、モデル記憶部40に記憶された障害予測モデルに、被検者の身体部位ごとの検査結果を入力して障害が生じている身体部位を予測することにより障害リスクが生じている可能性の有無と障害リスクのある身体部位を推定して推定結果を結果出力部50に送る。学習処理部42は、身体部位ごとの検査結果と障害が生じている身体部位を示すデータを教師データとして機械学習して障害予測モデルを生成してモデル記憶部40に格納する。
【0052】
なお、学習処理部42は、身体部位ごとの検査結果と障害が生じている身体部位を示すデータに加え、年齢、性別、身長、体重、利き手、利き足、職歴、スポーツ歴、現在実施するスポーツの種目といった属性情報をさらに教師データとして機械学習して障害予測モデルを生成してもよい。その場合、予測部34は、被検者の属性情報をさらに障害予測モデルに入力し、障害リスクを推定する。障害リスクの推定において属性を加味することによって、より精度よく障害リスクを推定することができる。
【0053】
結果出力部50は、集計部28によって集計された身体部位ごとの評価、総合評価、基準値に基づく障害リスクの有無、条件判定部32による障害リスクの推定結果、予測部34による障害リスクの推定結果を、通信部22を介してユーザ端末10へ出力する。ただし、変形例においては、集計部28による集計および総合評価、条件判定部32による障害リスクの推定、予測部34による障害リスクの推定のうち一つまたは二つのみを実行し、結果を出力する仕様としてもよい。特に、条件判定部32による障害リスクの推定と予測部34による障害リスクの推定は、事例を積み重ねることでより精度の高い方を採用するようにしてもよい。
【0054】
図6は、身体機能自己検査プログラムによる総合評価と痛みの強さの関係を示す。本図のグラフは、本実施の形態における身体機能自己検査プログラムによる総合評価を横軸にとり、いずれかの身体部位に痛みが発生している場合のその痛みの強さを縦軸にとる、総合評価と痛みの強さの関係を示している。身体機能自己検査プログラムによる総合評価は、50点満点の得点であり、本図に示される事例は24点から50点までの事例がプロットされている。痛みの強さは、身体の痛みの強さや程度を表す手法の一つとして知られているNRS(Numeric Rating Scale)の10段階のスケールで示される。NRSでは、痛みがない場合は「0」で、痛みが大きいほど数字が大きくなる。総合評価と痛みの強さの間には、R=-0.624、p<0.001の比較的強い負の相関が見られ、評価値が小さいほど痛みの強さは大きくなり、評価値が大きいほど痛みの強さは小さくなる。例えば、痛みが「5」を超えるのは評価値が「35」以下の場合であり、集計部28による総合評価に基づく障害リスク推定の基準値を「35」とする根拠の一つとなり得る。
【0055】
図7は、身体部位ごとの検査結果と痛みのある身体部位の事例一覧表を示す。本図の一覧表では、8人分の事例を示す。第1欄250には事例番号を示し、第2欄252には被検者の現在実施するスポーツ種目を示す。第3欄254には、8つの身体部位ごとの検査結果を示す。第4欄256には、大きな痛みのある身体部位と痛みの強さを示す。第5欄258には、次に大きな痛みのある身体部位と痛みの強さを示す。第6欄260には、代償動作による痛みが生じている可能性の有無を示す。
【0056】
1番目の事例は、フリースタイルスキーの選手である。大きな痛みは第4の身体部位に対応する「腰」で、痛みの強さは「7」であり、小さな痛みは第2の身体部位に対応する「右肩」で、痛みの強さは「5」である。この選手の場合、第2,3,5の身体部位である右上体部、左上体部、右腰部の検査結果が注意を要する状態(薄い斜線で示す)であり、第1の身体部位である首部の検査結果が危険な状態(濃い斜線で示す)であり、残りの第4,6,7,8の身体部位は良好な状態(斜線なし)である。しかし、大きな痛みが生じているのは、斜線で示す身体部位ではなく、良好な状態である第4の身体部位のコア部(太枠で示す)である。このように、1番目の事例では代償動作による痛みが生じている可能性が高い。
【0057】
1番目の事例は、フリースタイルスキーの選手である。大きな痛みは第4の身体部位に対応する「腰」で、痛みの強さは「7」であり、小さな痛みは第2の身体部位に対応する「右肩」で、痛みの強さは「5」である。この選手の場合、第2,3,5の身体部位である右上体部、左上体部、右腰部の検査結果が注意を要する状態(薄い斜線で示す)であり、第1の身体部位である首部の検査結果が危険な状態(濃い斜線で示す)であり、残りの第4,6~8の身体部位であるコア部、左腰部、右下肢部、左下肢部の検査結果は良好な状態(斜線なし)である。しかし、大きな痛みが生じているのは、斜線で示す身体部位ではなく、良好な状態である第4の身体部位のコア部(太枠で示す)である。このように、1番目の事例では代償動作による痛みが生じている可能性が高い。
【0058】
2番目の事例は、円盤投げの選手である。大きな痛みは第2の身体部位に対応する「右手首」で、痛みの強さは「7」である。この選手の場合、第1,3,5~8の身体部位の検査結果が注意を要する状態であり、第2の身体部位の検査結果が危険な状態であり、残りの第4の身体部位の検査結果は良好な状態である。この場合、大きな痛みが生じているのは、検査結果で危険な状態であった第2の身体部位であり、2番目の事例では代償動作による痛みではないと考えられる。
【0059】
3番目の事例は、ハンマー投げの選手である。大きな痛みは第3の身体部位に対応する「左手首」で、痛みの強さは「7」であり、小さな痛みは第2の身体部位に対応する「右肩」で、痛みの強さは「5」である。この選手の場合、第7の身体部位の検査結果が注意を要する状態であり、第1~3,5,6の身体部位の検査結果が危険な状態であり、残りの第4,8の身体部位の検査結果は良好な状態である。この場合、大きな痛みが生じているのは、検査結果で危険な状態であった第3の身体部位であり、3番目の事例では代償動作による痛みではないと考えられる。
【0060】
4番目の事例は、ハンマー投げの選手である。大きな痛みは第4の身体部位に対応する「腰」で、痛みの強さは「8」であり、小さな痛みは第2,3の身体部位に対応する「背中」で、痛みの強さは「7」である。この選手の場合、第8の身体部位の検査結果が注意を要する状態であり、第1~3,5,6の身体部位の検査結果が危険な状態であり、残りの第4,7の身体部位は良好な状態である。しかし、大きな痛みが生じているのは、斜線で示す身体部位ではなく、良好な状態である第4の身体部位である。このように、4番目の事例では代償動作による痛みが生じている可能性が高い。
【0061】
5番目の事例は、ラグビーの選手である。大きな痛みは第4の身体部位に対応する「腰」で、痛みの強さは「7」であり、小さな痛みは第2の身体部位に対応する「右肩」で、痛みの強さは「6」である。この選手の場合、第2,3の身体部位の検査結果が注意を要する状態であり、第1,5,6の身体部位の検査結果が危険な状態であり、残りの第4,7,8の身体部位は良好な状態である。しかし、大きな痛みが生じているのは、斜線で示す身体部位ではなく、良好な状態である第4の身体部位である。このように、5番目の事例では代償動作による痛みが生じている可能性が高い。
【0062】
6番目の事例は、ラグビーの選手である。大きな痛みは第3の身体部位に対応する「左肘」で、痛みの強さは「7」であり、小さな痛みは第4の身体部位に対応する「腰」で、痛みの強さは「5」である。この選手の場合、第2~4,6の身体部位の検査結果が注意を要する状態であり、第1の身体部位の検査結果が危険な状態であり、残りの第5,7,8の身体部位は良好な状態である。しかし、大きな痛みが生じているのは、危険な状態の身体部位ではなく、注意を要する状態である第3の身体部位である。このように、6番目の事例では代償動作による痛みが生じている可能性が高い。
【0063】
7番目の事例は、走り幅跳びの選手である。大きな痛みは第8の身体部位に対応する「左ハムストリングス」で、痛みの強さは「5」であり、小さな痛みは第7の身体部位に対応する「右足首」で、痛みの強さは「4」である。この選手の場合、第3,8の身体部位の検査結果が注意を要する状態であり、第2の身体部位の検査結果が危険な状態であり、残りの第1,4~7の身体部位は良好な状態である。しかし、大きな痛みが生じているのは、危険な状態の身体部位ではなく、注意を要する状態である第8の身体部位である。このように、7番目の事例では代償動作による痛みが生じている可能性が高い。
【0064】
以上の事例のような、多数の被検者における身体部位ごとの検査結果と痛みのある身体部位に関するデータを機械学習することにより、障害予測モデルを生成する他、これらの事例による知見に基づいてリスク推定アルゴリズムを生成することができる。
【0065】
図8は、障害リスクを推定する過程を示すフローチャートである。情報取得部24は、被検者のユーザ端末10から検査項目ごとの検査結果を取得し(S10)、集計部28は検査項目ごとの検査結果を身体部位ごとの検査結果として集計してこれを身体部位ごとの評価値として決定し(S12)、身体部位ごとの評価値を集計して総合評価を決定する(S14)。集計部28は、総合評価の値が基準値である35点以上であれば障害リスクは小さいと推定し、35点未満であれば障害リスクが生じている可能性があると推定する(S16)。条件判定部32は、リスク推定アルゴリズムに基づいて障害リスクの有無と障害リスクのある身体部位を推定する(S18)。予測部34は、機械学習により生成された障害予測モデルに身体部位ごとの検査結果を入力し、障害リスクの有無と障害リスクのある身体部位を予測することで障害リスクを推定する(S20)。結果出力部50は、集計部28によって集計された身体部位ごとの評価、総合評価、基準値に基づく障害リスクの有無、条件判定部32による障害リスクの推定結果、予測部34による障害リスクの推定結果を、通信部22を介してユーザ端末10へ出力する(S22)。
【0066】
以上、本発明について実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下変形例を示す。
【符号の説明】
【0067】
10 ユーザ端末、 20 障害リスク推定サーバ、 24 情報取得部、 26 検査結果記憶部、 28 集計部、 30 集計結果記憶部、 32 条件判定部、 34 予測部、 36 リスク推定部、 40 モデル記憶部、 42 学習処理部、 50 結果出力部、 100 障害リスク推定システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8