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特許7520742保護層付きインターコネクタ、この保護層付きインターコネクタを具備するセルスタックならびに燃料電池
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  • 特許-保護層付きインターコネクタ、この保護層付きインターコネクタを具備するセルスタックならびに燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】保護層付きインターコネクタ、この保護層付きインターコネクタを具備するセルスタックならびに燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20240716BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20240716BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20240716BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240716BHJP
   C25B 13/04 20210101ALI20240716BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/021
H01M8/0215
H01M8/12 101
C25B13/04 302
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021016064
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022119078
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2023-03-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌平
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
(72)【発明者】
【氏名】浅山 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正人
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】茂木 理子
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181926(WO,A1)
【文献】特表2020-532074(JP,A)
【文献】国際公開第2009/131180(WO,A1)
【文献】特開2018-152255(JP,A)
【文献】特開2018-156916(JP,A)
【文献】特開2018-206693(JP,A)
【文献】特表2008-522037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/24
C25B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターコネクタ材の表面に保護層を有するインターコネクタであって、
前記インターコネクタ材は、希土類元素またはZr元素を合計で1.0重量%以下含有するFe-Cr系合金からなり、かつ
前記保護層は、Co酸化物、またはAl、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Znからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素とCo元素とを含む酸化物からなり、
前記保護層は、層中に気孔を有し、前記気孔は、前記インターコネクタ材の表面に平行な方向に前記気孔の長軸方向が配列していることを特徴とする、保護層付きインターコネクタ。
【請求項2】
前記保護層は、ペロブスカイト型の結晶構造の酸化物またはスピネル型の結晶構造の酸化物を含む、請求項に記載の保護層付きインターコネクタ。
【請求項3】
前記保護層は、層中に気孔を有し、気孔率が10~50%のものである、請求項1または2に記載の保護層付きインターコネクタ。
【請求項4】
前記保護層の層厚は、1~100μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の保護層付きインターコネクタ。
【請求項5】
燃料極、電解質層および空気極を含む固体酸化物形電気化学セルが請求項1~4のいずれか1項に記載の保護層付きインターコネクタによって挟み込まれた構造単位を具備してなることを特徴とする、セルスタック。
【請求項6】
請求項に記載のセルスタックを具備してなることを特徴とする、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、保護層付きインターコネクタ、この保護層付きインターコネクタを具備するセルスタックならびに燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新エネルギー源のひとつとして、水素を挙げることができる。そのような水素をエネルギー源として利用するものとして、水素と酸素とを電気化学的に反応させることによって化学エネルギーを電気エネルギーに変換することのできる燃料電池が注目されている。
【0003】
燃料電池は、高いエネルギー利用効率を有することから、大規模分散電源、家庭用電源、移動用電源として開発が進められている。
【0004】
一般に、燃料電池は、温度域や使用する材料・燃料の種類に応じて分類されていて、使用する電解質材料により分類すると、固体高分子形、リン酸形、溶融炭酸形、固体酸化物形に分けられる。このうち、効率の観点から、固体酸化物電解質を使用する固体酸化物形燃料電池(SOFC)が注目されている。
【0005】
しかし、水素は自然界に存在しないため、燃料電池の入った水素システムへの水素運搬が必要となる。電気化学セルでは、燃料電池反応の逆反応である水電解反応を起こすことが可能であるので、これにより水素システム内で水素を製造することが可能となる。
【0006】
水素製造反応としては、アルカリ水電解、固体高分子形、固体酸化物形の3つを挙げることができるが、このうち固体酸化物形は最も水素製造効率が高いとされている。そして、固体酸化物形電気化学セルは、燃料電池、水電解いずれの電気化学反応を高効率で行うことが可能であることから、注目されている。
【0007】
固体酸化物形電気化学セルは、固体酸化物形電気化学セル用インターコネクタを介して積層してスタック化することで大容量化が可能である。一般に、固体酸化物形電気化学セル用インターコネクタは高温耐性が要求されるため、基体としてクロム含有率の高いステンレス合金を使用することが多いが、これら合金は、高温で表面にCrを主とする酸化被層が形成されることがある。しかし、Crは電気抵抗が大きいため、インターコネクタの電気伝導性が低下して固体酸化物形電気化学セルスタックの抵抗が増大することが避けがたい。また、Cr被層中のCr成分がガス化して、固体酸化物形電気化学セル電極部に付着した場合には、固体酸化物形電気化学セルの性能が低下することを招く。
【0008】
これらの問題を抑制するために、固体酸化物形電気化学セル用インターコネクタへの適用材料が広く検討されている。例えば、(イ)電気伝導性を示す酸化被層を形成する耐酸化性に優れた金属鋼を検討する技術、(ロ)金属鋼と保護層との線膨張係数が良好な被層組成を検討する技術などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-173795号公報
【文献】特開2016-189243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らが知る限りでは、(イ)の技術のような、表面に良好な電気伝導性を示す被層を形成する金属では、Cr飛散を完全に止めることはできず、固体酸化物形電気化学セルの劣化は抑制困難である。そのようなことから、一般に、固体酸化物形電気化学セル用インターコネクタ材を緻密な保護層で被覆することで、Cr飛散を抑制することがなされている。
【0011】
上記保護層に要求される機能としては、Cr飛散抑制・電気伝導性・密着性がある。インターコネクタ材に含まれるCrは、長時間高温に曝露されることで、保護層中を通って表面まで拡散する。そのため、固体酸化物形電気化学セルスタックの高耐久化のためには、保護層の層厚を大きくすることで、インターコネクタから保護層表面までの到達距離を長くすることができるものの、その結果、保護層の電気抵抗が大きくなり、固体酸化物形電気化学セルの反応効率低下を招くことになる。
【0012】
電気抵抗を抑えることを目的とし、保護層の層厚を最小限にするためには、保護層中のCr拡散速度を緩和させることが重要であり、その一つの方法として、本発明者らは、保護層の形態制御について着目し、これを詳細に検討した。
【0013】
一般に、イオン拡散の経路は、「表面拡散」、「粒界拡散」、「バルク内拡散」に分類されている。拡散種のイオンに対する束縛力の違いから、拡散速度の大きさは、「表面拡散」>「粒界拡散」>「バルク内拡散」の順番となる。
【0014】
仮に、保護層中に気孔が存在する場合、気孔表面がCrイオンの拡散経路となるが、そのため、(ロ)の技術のように、保護層中の気孔形状がインターコネクタ面の法線方向に伸びている場合、この気孔表面がCrの高速拡散経路となるため、耐久性の低下につながると予想される。
【0015】
これらの課題を解決するため、本発明では、酸化被層の成長機構を制御して、保護層中のCr拡散を緩和する保護層形態を有する構造を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施形態による保護層付きインターコネクタ(第一のインターコネクタ)は、
インターコネクタ材の表面に保護層を有するインターコネクタであって、
前記インターコネクタ材は、希土類元素またはZr元素を合計で1.0重量%以下含有するFe-Cr系合金からなり、かつ
前記保護層は、Co酸化物、またはAl、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Znからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素とCo元素とを含む酸化物からなること、を特徴とする。
【0017】
本発明の実施形態による保護層付きインターコネクタ(第二のインターコネクタ)は、
インターコネクタ材の表面に保護層を有するインターコネクタであって、
前記インターコネクタ材は、希土類元素またはZr元素を合計で1.0重量%以下含有するFe-Cr系合金からなり、かつ
前記保護層は、希土類元素またはZr元素とを含む酸化物からなること、を特徴とする。
【0018】
そして、本発明の実施形態によるセルスタックは、燃料極、電解質層および空気極を含む固体酸化物形電気化学セルが前述の保護層付きインターコネクタ(第一のインターコネクタまたは第二のインターコネクタ)によって挟み込まれた構造単位を具備してなること、を特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の実施形態による燃料電池は、前述のセルスタックを具備してなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施形態による保護層付きインターコネクタは、例えば高温度状態に長時間さらされたとしても構成成分(特にCr)の飛散が防止されている。特に保護層は、従来よりも薄くても十分な飛散防止性および保護性を有しており、かつ使用による劣化が効果的に抑制されている。よって、高度な飛散防止性および保護性を維持しつつ、他の特性(例えば、電気伝導性、密着性、熱サイクル耐性等)も向上したインターコネクタが提供される。
【0021】
本発明の実施形態による保護層付きインターコネクタでは、成分飛散によるインターコネクタ自体の性能劣化が防止され、かつ飛散した成分による悪影響(例えば、他の構成部材等の汚染や性能劣化等)が防止されている。そして、上記のように、他の特性(例えば、電気伝導性、密着性、熱サイクル耐性等)も向上していることから、より高性能かつ耐久性が高いセルスタックならびに燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態による保護層付きインターコネクタの構成を示す図。
図2】本発明の実施形態によるセルスタックの断面構造(抜粋)を示す図。
図3】実施例1の実施形態による保護層付きインターコネクタの断面の走査型電子顕微鏡写真。
図4】実施例2の実施形態による保護層付きインターコネクタの断面の走査型電子顕微鏡写真。
図5】比較例1のインターコネクタの断面の走査型電子顕微鏡写真。
図6図6は、インターコネクタの断面の走査型電子顕微鏡写真とそれに対応するエネルギー分散型X線分析結果を示す図であって、図6aは実施例1による保護層付きインターコネクタの断面について、図6bは比較例1のインターコネクタについて、示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明による保護層付きインターコネクタの好ましい具体例、ならびに本発明によるセルスタックの好ましい具体例等について説明するが、本発明は、以下の形態や実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明で参照する模式図は、各構成の位置関係を示す図であり、各層の厚さの比等は実際のものと必ずしも一致するものではない。
【0024】
<保護層付きインターコネクタ(その1)>
図1は、本発明の保護層付きインターコネクタ1の一部の断面構造を示す模式図である。
【0025】
図1に示される保護層付きインターコネクタ1は、インターコネクタ材100の表面に保護層110を有するインターコネクタである。
【0026】
ここで、保護層の具体例としては、「Co酸化物、またはAl、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Znからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素とCo元素とを含む酸化物からなる保護層」(第一の保護層)と、「希土類元素またはZr元素を合計で1.0重量%以下含有するFe-Cr系合金からなる保護層」(第二の保護層)の二種類を挙げることができる。
【0027】
本発明の実施形態による保護層付きインターコネクタ(第一のインターコネクタ)は、上述の保護層(第一の保護層)を有するものであり、本発明の実施形態による保護層付きインターコネクタ(第二のインターコネクタ)は、上述の保護層(第二の保護層)を有するものである。
【0028】
図1に具体的に示される本発明の保護層付きインターコネクタ1は、(イ)インターコネクタ材100の片方の表面に連続した一つの保護層が1層形成されたものあるが、本発明の保護層付きインターコネクタの他の具体例には、例えば、(ロ)インターコネクタ材100の片側の表面に連続しない複数の保護層が形成されたもの、(ハ)インターコネクタ材100の片側の表面に複数の保護層が積層されたもの、(ニ)インターコネクタ材100の両側の表面のそれぞれに連続した保護層が1層ずつ形成されたもの、(ホ)インターコネクタ材100の両側の表面のそれぞれに連続しない複数の保護層が形成されたもの、(ヘ)インターコネクタ材100の両側の表面のそれぞれに複数の保護層が積層されたもの等も包含される。
【0029】
保護層の層厚は、好ましくは1μm~100μmであり、特に好ましくは数μm~20μmである。保護層110の層厚を1μm~100μmにすることで、インターコネクタ材100に含有する希土類の効果が十分に発揮できる。さらに良好な電気伝導性の確保や均一な被覆を容易にするために、保護層の層厚は、数μm~20μmがより望ましい。なお、インターコネクタのうち、保護性が重要な部分(例えば、燃料や酸素などとの接触領域など)については、もれなく所定の保護層を設けることが好ましいが、保護の必要性がそれ程高くない領域ないし保護性を必要としない領域)が存在するときは、必要に応じて、保護層の厚さを薄くしたりあるいは保護層を省略することができる。すなわち、保護層の層厚は、インターコネクタ材100の全表面において同一である必要はなく、部分的に層厚が異なる場合もある。
【0030】
<保護層付きインターコネクタ(第一のインターコネクタ)>
<<インターコネクタ材>>
前記インターコネクタ材100は、希土類元素またはZr元素を合計で1.0重量%以下含有するFe-Cr系合金からなっており、前記保護層110は、Co酸化物、またはAl、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Znからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素とCo元素とを含む酸化物からなる。
【0031】
インターコネクタ材100はFe-Cr系合金からなる。
さらに、インターコネクタ材100は、希土類元素またはZr元素を合計で1.0重量%以下含有する。ここで、希土類元素とは、Sc、Yの2元素と、LaからLuまでのランタノイド15元素の計17元素を示す。希土類元素の好ましい具体例としては、例えばY、La、Ce等を挙げることができる。インターコネクタ材100は、上記のいずれかの希土類元素の一種類のみを、あるいは二種以上を含むことができる。
【0032】
そして、インターコネクタ材100は、上記希土類元素とZr元素との両者を含むことができ、また、上記希土類元素を含まずにZr元素を含むことができる。
【0033】
そして、インターコネクタ材100は、上記希土類元素とZr元素との両者を含むことができ、また、上記希土類元素を含まずにZr元素を含むことができる。インターコネクタ材100における希土類元素またはZr元素の含有量(希土類元素およびZr元素の両者を含有する場合は、それらの合計量)は、1.0重量%以下である。、
希土類元素の含有量が最大0.2%重量%、Zr元素の含有量が最大0.8重量%のとき、より高い効果を得ることができ、特に、LaやHf等の希土類元素の含有量が0.1重量%以下かつZrの含有量が0.1~0.5重量%のとき、特に顕著な効果を得ることができる。
【0034】
<<保護層(第一の保護層)>>
保護層(第一の保護層)110は、Co酸化物、またはAl、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Znからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素とCo元素とを含む酸化物からなる。特に、良好な電気伝導性を示すCo系のスピネル型酸化物は有用な材料であり、また、Co元素とAl、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Znからなる群から選ばれた元素を含む物は、電気伝導性向上やインターコネクタ材との線膨張率の不一致緩和への効果が得ることができる。
【0035】
<保護層付きインターコネクタ(第二のインターコネクタ)>
<<インターコネクタ材>>
前記インターコネクタ材100は、希土類元素またはZr元素を合計で1.0重量%以下含有するFe-Cr系合金からなっており、前記保護層110は、Co酸化物、またはAl、Ti、Cr、Fe、Ni、Cu、Znからなる群から選ばれた少なくとも1種類の元素とCo元素とを含む酸化物からなる。
【0036】
インターコネクタ材100はFe-Cr系合金からなる。
さらに、インターコネクタ材100は、希土類元素またはZr元素を合計で1.0重量%以下含有する。ここで、希土類元素とは、Sc、Yの2元素と、LaからLuまでのランタノイド15元素の計17元素を示す。希土類元素の好ましい具体例としては、例えばY、La、Ce等を挙げることができる。インターコネクタ材100は、上記のいずれかの希土類元素の一種類のみを、あるいは二種以上を含むことができる。
【0037】
そして、インターコネクタ材100は、上記希土類元素とZr元素との両者を含むことができ、また、上記希土類元素を含まずにZr元素を含むことができる。インターコネクタ材100における希土類元素またはZr元素の含有量(希土類元素およびZr元素の両者を含有する場合は、それらの合計量)は、1.0重量%以下である。
【0038】
希土類元素の含有量が最大0.2%重量%、Zr元素の含有量が最大0.8重量%のとき、より高い効果を得ることができ、特に、LaやHf等の希土類元素の含有量が0.1重量%以下かつZrの含有量が0.1~0.5重量%のとき、特に顕著な効果を得ることができる。
【0039】
<<保護層(第二の保護層)>>
保護層(第二の保護層)110は、希土類元素またはZr元素を含む酸化物、好ましくはCo酸化物からなる。ここで、希土類元素とは、Sc、Yの2元素と、LaからLuまでのランタノイド15元素の計17元素を示す。希土類元素の好ましい具体例としては、例えばY、La、Ce等を挙げることができる。保護層110は、上記のいずれかの希土類元素の一種類のみを、あるいは二種以上を含むことができる。
【0040】
そして、保護層(第二の保護層)110は、上記希土類元素とZr元素との両者を含むことができ、また、上記希土類元素を含まずにZr元素を含むことができる。
【0041】
<保護層付きインターコネクタ(その2)>
一般に、Cr元素は、固体酸化物形電気化学セルの作動温度域において、酸素や水蒸気と反応して蒸気化し、これが固体酸化物形電気化学セルの性能を低下させる要因となりうる。これを抑制するためには、Crを含有するインターコネクタ100を保護層110で被覆し、密着性を確保することが必要になる。
【0042】
本発明者らは、酸化層の成長機構に注目し、これを制御することが特に密着性向上につながることを見いだした。
【0043】
酸化層の成長方法は、主に2つに分類することができる、一つは、インターコネクタ材の表面近傍の金属イオンが酸化層中を拡散して、酸化層表面で酸化層を成長させる外方拡散型であり、もう一つは、酸素イオンが酸化膜表面から酸化膜中をインターコネクタ材の近傍まで拡散して、金属材料と酸化層との界面で酸化層を成長させる内方拡散型である。
【0044】
インターコネクタ材100と保護層110との密着性向上のためには、内方拡散型が有利となる。なぜなら、外方拡散型では、インターコネクタ材の近傍の金属イオンが保護層110表面まで拡散し、抜けた金属イオンに由来する空隙がインターコネクタ材100と保護層11との間の界面近傍に生成するためである。また、内包拡散型の被膜を形成することで、外報拡散型で酸化物被膜を形成するCrの生成速度が遅くなり、電気抵抗の増大を抑えることができると考えられる。
【0045】
インターコネクタ材100中における微量の希土類元素やZr元素の存在は、保護層110の酸化層成長機構を内方拡散型に近づける効果がある。これによって、保護層の密着性が改善し、電気抵抗が低下し、熱サイクル耐性が向上する。
【0046】
保護層110(第一の保護層)の成長機構制御として、外方拡散型であるCo、Cr、Fe、Ni、Cu、Znや、内方拡散型であるAl、Tiなどの元素から構成される保護層では、酸化層の成長機構が複雑ではないため、希土類元素の効果が明確に表れると考えられる。特に、良好な電気伝導性を示すCo系のスピネル型酸化物は有力な候補材料であり、また、CoにCr、Fe、Ni、Cu、Zn、Al、Tiなどが存在により、電気伝導性向上やインターコネクタ材との線膨張率の不一致緩和への効果が期待できる。
【0047】
また、保護層(第二の保護層)110の材質に希土類元素やZr元素を使用することで、保護層110の酸化層成長機構を内方拡散型へ近づけることができると考えられ、インターコネクタ100と保護層110との密着性向上に寄与する。希土類元素やZr元素の酸化物単体では電気伝導性が小さいが、ペロブスカイト型酸化物(La、Sr)(Co、Fe)O、(La、Sr)MnO、(La、Sr)FeO、(La、Sr)CoOなど、複数の元素から構成される酸化物を適用することで、良好な電気伝導性を有する保護層になる。
【0048】
保護層110(第一の保護層および第二の保護層)は、ペロブスカイト型の結晶構造の酸化物および(または)スピネル型の結晶構造の酸化物を含むことができ、特にコバルト酸化物を含むことが好ましい。ここで、コバルト酸化物の結晶構造の判定は、例えば、XRD(X線回折、X-Ray Diffraction, XRD)によって行うことができる。
【0049】
そして、保護層110(第一の保護層および第二の保護層)は、保護層中に気孔を有することが好ましい。保護層110中の気孔の存在割合(即ち、保護層110の気孔率)は、好ましく10~50体積%、特に好ましく10~20体積%、である。気孔率が上記範囲内であることによって、例えば熱サイクルによる応力を緩和させることができるため、熱サイクル耐性の向上を見込める。ここで、気孔率の判定は、例えば、SEM(走査型電子顕微鏡, Scanning electron Microscope)によって行うことができる。
【0050】
保護層110中の気孔は、実質的に球形形状のもの、楕円形状をしているもの、その他の形状のもの等が混在している場合がある。本発明の実施形態の保護層110としては、気孔が楕円形状のものが好ましい。ここで、気孔の形状の判定、大きさの判定および楕円形状の気孔割合の判定は、例えばSEM(走査型電子顕微鏡, Scanning electron Microscope)によって行うことができる。
【0051】
そして、本発明の実施形態の保護層110としては、上記の楕円形状の気孔が、インターコネクタ材の表面に平行な方向に、気孔の長軸方向が配列していることが好ましい。
【0052】
上記の楕円形状の気孔が配列している保護層110は、インターコネクタ材100に含まれるCr元素の保護層110表面への到達を遅らせることができる。
【0053】
一般的に、イオン拡散の経路は、表面拡散・粒界拡散・バルク内拡散に分類されているが、各イオン拡散の経路では、拡散するイオンに対して、周辺元素の束縛力が異なるため、拡散速度に違いが表れる。表面拡散では拡散速度は大きくなる一方で、バルク内拡散は小さくなる。そのため、気孔が存在する場合には、その気孔が楕円形状であり、その長軸方向がインターコネクタ材100表面方向と平行に配列していることが、Cr元素の保護層表面への到達を遅らせるのに効果的である。
【0054】
<保護層付きインターコネクタの製造方法>
本発明の実施形態による保護層付きインターコネクタ(第一のインターコネクタまたは第二のインターコネクタ)は、前述の希土類元素またはZr元素を合計で1.0重量%以下含有するFe-Cr系合金からなるインターコネクタ材の表面に、保護層を形成することによって製造することができる。
【0055】
上記の保護層は、前記インターコネクタ材の表面に、酸化物材料を施して前記保護層を形成することができ、また、前記インターコネクタ材の表面に、保護層を形成する金属材料を施し、その後、前記金属材料を酸化させることによって前記保護層を形成することができる。すなわち、保護層は、酸化物の層を成層してもよいし、金属層の成層後に酸化させてもよい。金属層の成層後に酸化させる場合、保護層となる層を付与したインターコネクタ単体で酸化させてもよいし、セルスタックやモジュールに組み込んだ後に酸化させてもよい。
【0056】
インターコネクタ材の表面に、酸化物材料を施す方法あるいは保護層を形成する金属材料を施す方法としては、例えば、真空蒸着やイオンプレーティング方などの物理蒸着法や、スパッタリングやパルスレーザー堆積法などの化学蒸着法、コールドスプレー法、溶射法、電析法、無電解めっき法、圧延法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、ゾルーゲル法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、エアロゾルデポジション法などが挙げられる。このうちでは、特に電析法、無電解めっき、および化学蒸着法が好ましい。
【0057】
<セルスタック>
本発明の実施形態によるセルスタックは、燃料極、電解質層および空気極を含む固体酸化物形電気化学セルが前述の保護層付きインターコネクタ(第一のインターコネクタまたは第二のインターコネクタ)によって挟み込まれた構造単位を具備してなること、を特徴とする。
【0058】
図2は、実施形態によるセルスタック0の断面構造の一部を示す模式図である。なお、この模式図は、各構成の位置関係を示す図であって、各層の厚さの比等は実際のものと必ずしも一致するものではない。
【0059】
セルスタック0は、燃料極201、電解質層202および空気極203を含む固体酸化物形電気化学セル2が前述の保護層付きインターコネクタ(第一のインターコネクタまたは第二のインターコネクタ)1によって挟み込まれた積層体を一つの構造単位とし(図2a)、この構造単位を、前記の燃料極、空気極等の積層方向に繰り返し積み重ねた積層構造(図2b)をしている。ここで、図2bに示されるように、積み重ねられた上方の「積層構造の下側の保護層付きインターコネクタ1」と、積み重ねられた下方の「積層構造の上側の保護層付きインターコネクタ1」とは、上方の「積層構造」と下方の「積層構造」とで共有することができる。即ち、一枚の保護層付きインターコネクタ1を、上方の「積層構造の下側の保護層付きインターコネクタ1」として用いることができ、下方の「積層構造の上側の保護層付きインターコネクタ1」として用いることができる。
【0060】
なお、図2aに示されるような一つの構造単位のみでも燃料電池のセルスタックとしての機能を発揮させることが可能であるが、図2bに示されるように、前記構造単位を繰り返し積み重ねた積層構造とすることで、電気化学反応量を増大させることが可能となる。
【0061】
本発明の実施形態によるセルスタックは、燃料極、電解質層、空気極、保護層付きインターコネクタのみを具備するものだけに限定されず、挙示の構成部材(即ち、燃料極、電解質層、空気極、保護層付きインターコネクタ)に加えて、他の構成部材、資材などを具備してなるセルスタックをも包含する。上記の他の構成部材の好ましい具体例としては、例えば、燃料極集電部材、空気極集電部材等を挙げることができる。例えば、図2cに示されるような、保護層付きインターコネクタ1と燃料極201との間に燃料極集電部材3が配置されたセルスタックや、空気極203と保護層付きインターコネクタ1との間に空気極集電部材4が配置されたセルスタックは、本発明によるセルスタックの好ましい具体例である。
【0062】
図2cのセルスタックにおいて、燃料極集電部材3および空気極集電部材4は、燃料ガスや、空気、生成ガス(例えば、水蒸気)等の流路として機能して、セルスタック0への燃料ガスや空気の供給、ならびにセルスタック0からの生成ガスや、熱等の排出等を高効率化させることができ、かつ固体酸化物形電気化学セル2と保護層付きインターコネクタ1との電気的接触性を高めて、セルスタックないし燃料電池の性能向上に大きく寄与する。
【0063】
<燃料電池>
本発明の実施形態による燃料電池は、前述のセルスタックを具備してなること、を特徴とする。
【0064】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明したが、上記の実施例は、本発明の一例として挙げたものであり、本発明を限定するものではない。
【0065】
また、上記の各実施形態の説明では、保護層付きインターコネクタ、セルスタックならびに燃料電池において、本発明の説明に直接必要とされない部分等についての記載を省略した部分があるが、これらについて、必要に応じて、他の各要素を適宜選択して用いることができる。
【0066】
その他、本発明の構成を具備し、本発明の趣旨に反しない範囲で当業者が適宜設計変更しうる全てのインターコネクタ、セルスタックならびに燃料電池は、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例
【0067】
<実施例1>
実施例1による保護層付きインターコネクタの断面について、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)およびエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray Spectroscopy)を行った。
【0068】
図3は、上記の保護層付きインターコネクタの走査型電子顕微鏡写真であり、図6aは、上記の保護層付きインターコネクタの走査型顕微鏡写真とそれに対応するエネルギー分散X線分析(EDX)の結果を示す図である。
【0069】
ここで、エネルギー分散X線分析(EDX)のグラフは、横軸が所定の断面位置からの距離を示し、縦軸が元素の単位時間あたりの強度を示している。所定の元素について、横軸方向(距離)に広範囲わたって縦軸方向の強度が観測されている場合、その所定元素がインターコネクタの断面方向に幅広く存在していること(即ち、所定元素が存在している層が厚いこと)を示している。
【0070】
この実施例1による保護層付きインターコネクタの断面について、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)およびエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray Spectroscopy)を行った。
【0071】
図3は、上記の保護層付きインターコネクタの走査型電子顕微鏡写真であり、図6aは、上記の保護層付きインターコネクタの走査型顕微鏡写真とそれに対応するエネルギー分散X線分析(EDX)の結果を示す図である。
【0072】
ここで、エネルギー分散X線分析(EDX)のグラフは、横軸が所定の断面位置からの距離を示し、縦軸が元素の単位時間あたりの強度を示している。所定の元素について、横軸方向(距離)に広範囲わたって縦軸方向の強度が観測されている場合、その所定元素がインターコネクタの断面方向に幅広く存在していること(即ち、所定元素が存在している層が厚いこと)を示していいる。
【0073】
<実施例2>
実施例2による保護層付きインターコネクタの断面について、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)およびエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray Spectroscopy)を行った。
図4は、上記の保護層付きインターコネクタの走査型電子顕微鏡写真である。
【0074】
<比較例1>
比較例1によるインターコネクタの断面について、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)およびエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy dispersive X-ray Spectroscopy)を行った。
図5は、上記のインターコネクタの走査型電子顕微鏡写真であり、図6bは、上記のインターコネクタの走査型顕微鏡写真とそれに対応するエネルギー分散X線分析(EDX)の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1:保護層付きインターコネクタ、100:インターコネクタ材、110:保護層、0:セルスタック、201:燃料極、202:電解質層、203:空気極、2:固体酸化物形電気化学セル、3:燃料極集電部材、4:空気極集電部材。
図1
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5
図6a
図6b