(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】インバータ制御装置およびインバータ制御装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/18 20160101AFI20240716BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20240716BHJP
H02P 6/185 20160101ALI20240716BHJP
H02P 21/24 20160101ALI20240716BHJP
【FI】
H02P21/18
H02P27/06
H02P6/185
H02P21/24
(21)【出願番号】P 2021030540
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】茂田 智秋
(72)【発明者】
【氏名】松下 真琴
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-104174(JP,A)
【文献】特開2016-154429(JP,A)
【文献】特開2011-50168(JP,A)
【文献】特開2021-27790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/18
H02P 27/06
H02P 6/185
H02P 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期機の回転速度に応じて電圧指令値に高周波電圧指令値を重畳する制御を行うインバータ制御装置であって、
前記同期機へ出力する電流値の電流指令値を生成する指令生成部と、
前記同期機へ流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出した電流検出値をベクトル変換する第1変換部と、
前記電流指令値と前記電流検出値とが一致するように電圧指令値を演算する電流制御部と、
前記同期機の回転角度に相当する値に少なくとも基づいて第1フラグを生成し、前記電流指令値に少なくとも基づく第2フラグを生成するフラグ生成部と、
前記第1フラグが所定値のときに前記電圧指令値に前記高周波電圧指令値を重畳する高周波電圧重畳部と、
前記同期機の駆動状態を示す情報と、前記同期機の駆動状態のd軸とq軸との軸間干渉による誤差情報とが関連付けられて格納されたテーブルを備える軸間干渉補償部と、を備え、
前記同期機の駆動状態を示す情報は、前記第1フラグが前記所定値であるときに、前記第2フラグの値が変化するタイミングに同期して取得され、前記誤差情報は、前記同期機の駆動状態を示す情報に基づいて演算された値であることを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項2】
同期機の回転速度に応じて電圧指令値に高周波電圧指令値を重畳する制御を行うインバータ制御装置であって、
前記同期機へ出力する電流値の電流指令値を生成する指令生成部と、
前記同期機へ流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出した電流検出値をベクトル変換する第1変換部と、
前記電流指令値と前記電流検出値とが一致するように電圧指令値を演算する電流制御部と、
前記同期機の回転角度に相当する値に少なくとも基づいて第1フラグを生成するとともに、前記第1フラグが変化する前後のタイミングにおいて所定期間立ち上がる第3フラグを生成するフラグ生成部と、
前記第1フラグが所定値のときに前記電圧指令値に前記高周波電圧指令値を重畳する高周波電圧重畳部と、
前記同期機の駆動状態を示す情報と、前記同期機の駆動状態のd軸とq軸との軸間干渉による誤差情報とが関連付けられて格納されたテーブルを備える軸間干渉補償部と、を備え、
前記同期機の駆動状態を示す情報は、前記第3フラグの値が変化するタイミングに同期して取得され、前記誤差情報は、前記同期機の駆動状態を示す情報に基づいて演算された値であることを特徴とするインバータ制御装置。
【請求項3】
前記同期機の駆動状態を示す情報は、前記高周波電圧指令値をd軸の前記電圧指令値もしくはq軸の前記電圧指令値に重畳し、前記高周波電圧指令値が重畳された座標軸から90度位相差を有する座標軸の前記電流指令値を含むことを特徴とする、請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記フラグ生成部は、前記第1フラグが前記所定値である期間において、前記電流指令値が前記同期機の最大電流値をテーブル作成数で割った値だけ増加したときに立ち上がり、所定期間後に立ち下がるように前記第2フラグを生成することを特徴とする、請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
前記フラグ生成部は、前記第1フラグが前記所定値である期間において、前記電流指令値が前記同期機の最大電流値に近い領域で前記第2フラグが多く立ち上がるように前記第2フラグを生成することを特徴とする、請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項6】
前記フラグ生成部は、前記電流指令値が前記同期機の最大電流値と等しいときに、前記第2フラグが立ち上がり、所定期間後に立ち下がるように前記第2フラグを生成することを特徴とする、請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項7】
前記軸間干渉補償部は、前記第1フラグが前記所定値でないときに、前記電流指令値を前記同期機の最大電流値およびテーブル数で正規化し、正規化した値に基づいて前記テーブルを参照し、対応する前記誤差情報を出力することを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のインバータ制御装置。
【請求項8】
前記軸間干渉補償部は、前記正規化した値を挟む2つの値に対応するデータを用いて線形補間した値を前記誤差情報として出力することを特徴とする請求項7記載のインバータ制御装置。
【請求項9】
前記軸間干渉補償部は、前記テーブルに格納された複数の値を用いて関数近似した数式を用いて補完した値を、前記誤差情報として出力することを特徴とする請求項7記載のインバータ制御装置。
【請求項10】
同期機へ出力する電流値の電流指令値を生成する指令生成部と、
前記同期機へ流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出した電流検出値をベクトル変換する第1変換部と、
前記電流指令値と前記電流検出値とが一致するように電圧指令値を演算する電流制御部と、
前記電流指令値および前記同期機の回転角度に相当する値に少なくとも基づいて、第1フラグおよび第2フラグを生成するフラグ生成部と、
前記第1フラグが所定値のときに前記電圧指令値に高周波電圧指令値を重畳する高周波電圧重畳部と、
前記同期機の駆動状態を示す情報と、前記同期機の駆動状態のd軸とq軸との軸間干渉による誤差情報とが関連付けられて格納されたテーブルを備える軸間干渉補償部と、を備え、
前記同期機の回転速度に応じて前記電圧指令値に前記高周波電圧指令値を重畳する制御を行うインバータ制御装置の製造方法であって、
前記軸間干渉補償部は、前記第1フラグが前記所定値であるときに、前記第2フラグの値が変化するタイミングに同期して前記同期機の駆動状態を示す情報を取得し、
前記同期機の駆動状態を示す情報に基づいて前記誤差情報を演算し、
前記同期機の駆動状態を示す情報と前記誤差情報とを関連付けて前記テーブルに格納する、ことを特徴とするインバータ制御装置の製造方法。
【請求項11】
同期機へ出力する電流値の電流指令値を生成する指令生成部と、
前記同期機へ流れる電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出した電流検出値をベクトル変換する第1変換部と、
前記電流指令値と前記電流検出値とが一致するように電圧指令値を演算する電流制御部と、
前記同期機の回転角度に相当する値に少なくとも基づいて第1フラグを生成するとともに、前記第1フラグが変化する前後のタイミングにおいて所定期間立ち上がる第3フラグを生成するフラグ生成部と、
前記第1フラグが所定値のときに前記電圧指令値に高周波電圧指令値を重畳する高周波電圧重畳部と、
前記同期機の駆動状態を示す情報と、前記同期機の駆動状態のd軸とq軸との軸間干渉による誤差情報とが関連付けられて格納されたテーブルを備える軸間干渉補償部と、を備え、
前記同期機の回転速度に応じて前記電圧指令値に前記高周波電圧指令値を重畳する制御を行うインバータ制御装置の製造方法であって、
前記軸間干渉補償部は、前記第3フラグの値が変化するタイミングに同期して前記同期機の駆動状態を示す情報を取得し、
前記同期機の駆動状態を示す情報に基づいて前記誤差情報を演算し、
前記同期機の駆動状態を示す情報と前記誤差情報とを関連付けて前記テーブルに格納する、ことを特徴とするインバータ制御装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、インバータ制御装置およびインバータ制御装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ制御装置の小型軽量化、低コスト化、および、信頼性向上のため、レゾルバやエンコーダ等の回転センサを用いない回転角度センサレス制御法が提案されている。例えば、永久磁石同期モータ(PMSM)やシンクロナスリラクタンスモータ(SynRM)等の同期機の回転角度センサレス制御装置において、同期機の磁気突極性を利用した方式が提案されている。また、前述の磁気突極性を利用した方式では、同期機の磁気飽和の影響を受けて磁気突極性が複雑に変化し、回転角度推定に影響を及ぼすことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】加納:「産業用集中巻き埋め込み磁石同期モータの位置センサレス指向設計」, 電気学会D部門論文誌, Vol.130, No.2, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転角度速度推定方法としては、例えば、d軸方向に高周波電圧を重畳する方式が広く利用されている。この方式では、q軸高周波電流がゼロ、つまり高調波に対するインダクタンスが最小となる軸についてPLL(Phase Locked Loop)制御することで、同期機の回転速度および角度の推定値を演算している。
【0006】
しかしながら、同期機が磁気飽和する場合、前述の高調波に対するインダクタンスのdq軸間の相互干渉によりインダクタンス楕円が傾き、インダクタンスが最小ではない軸がモータの真のd軸となり、回転速度および角度の推定値に誤差が生じてしまう。回転速度や角度に誤差が生じた状態で制御方法を切り替えると、トルクショックを発生することがある。制御切り替え時のトルクショックは、騒音や機器故障の原因となる。
【0007】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、精度よく同期機の回転角度の推定値を演算するインバータ制御装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によるインバータ制御装置は、同期機の回転速度に応じて電圧指令値に高周波電圧指令値を重畳する制御を行うインバータ制御装置であって、前記同期機へ出力する電流値の電流指令値を生成する指令生成部と、前記同期機へ流れる電流を検出する電流検出部と、前記電流検出部で検出した電流検出値をベクトル変換する第1変換部と、前記電流指令値と前記電流検出値とが一致するように電圧指令値を演算する電流制御部と、前記同期機の回転角度に相当する値に少なくとも基づいて第1フラグを生成し、前記電流指令値に少なくとも基づく第2フラグを生成するフラグ生成部と、前記第1フラグが所定値のときに前記電圧指令値に前記高周波電圧指令値を重畳する高周波電圧重畳部と、前記同期機の駆動状態を示す情報と、前記同期機の駆動状態のd軸とq軸との軸間干渉による誤差情報とが関連付けられて格納されたテーブルを備える軸間干渉補償部と、を備え、前記同期機の駆動状態を示す情報は、前記第1フラグが前記所定値であるときに、前記第2フラグの値が変化するタイミングに同期して取得され、前記誤差情報は、前記同期機の駆動状態を示す情報に基づいて演算された値である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態のインバータ制御装置を含む駆動システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図2】
図2は、同期機の一構成例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、実施形態における、d軸、q軸、および、推定回転座標系(dc軸、qc軸)の定義を説明するための図である。
【
図4】
図4は、同期機の無負荷状態でdc軸に高周波電圧を重畳した際に、真のdq軸に発生する高周波電流のイメージである。
【
図5】
図5は、同期機の負荷状態でdc軸に高周波電圧を重畳した際に、真のdq軸に発生する高周波電流のイメージである。
【
図6】
図6は、同期機の制御手法を切り替えた時のトルクショックについて説明するための図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態のインバータ制御装置の電流指令生成部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態のインバータ制御装置における第1フラグ生成部の動作の一例を説明するための図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態のインバータ制御装置における第1フラグ生成部の動作の一例を説明するための図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態のインバータ制御装置における回転角度/速度演算部の一構成例を説明するための図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態のインバータ制御装置の軸間干渉補償部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図12】
図12は、第1実施形態のインバータ制御装置において、テーブルに格納する値を取得するタイミングの一例を説明するための図である。
【
図13】
図13は、第1実施形態のインバータ制御装置の製造方法の他の例を説明するためのフローチャートである。
【
図14】
図14は、第1実施形態のインバータ制御装置の製造方法の他の例を説明するためのフローチャートである。
【
図15】
図15は、第1実施形態のインバータ制御装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図16】
図16は、第2実施形態のインバータ制御装置を含む駆動システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図17】
図17は、第2実施形態のインバータ制御装置の第2フラグ生成部の動作の一例を説明するための図である。
【
図18】
図18は、第2実施形態のインバータ制御装置の第2フラグ生成部の動作の他の例を説明するための図である。
【
図19】
図19は、第2実施形態のインバータ制御装置の第2フラグ生成部の動作の他の例を説明するための図である。
【
図20】
図20は、第2実施形態のインバータ制御装置の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【
図21】
図21は、第2実施形態のインバータ制御装置の製造方法の他の例を説明するためのフローチャートである。
【
図22】
図22は、第3実施形態のインバータ制御装置を含む駆動システムの一構成例を概略的に示す図である。
【
図23】
図23は、第3実施形態のインバータ制御装置の指令生成部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図24】
図24は、第3実施形態のインバータ制御装置の第3フラグ生成部の動作の一例を説明するための図である。
【
図25】
図25は、第3実施形態のインバータ制御装置のトルク演算器の一構成例を概略的に示す図である。
【
図26】
図26は、第3実施形態のインバータ制御装置の軸間干渉補償部の一構成例を概略的に示す図である。
【
図27】
図27は、インバータ制御装置の軸間干渉補償部が取得したデータをユーザが補間した例を概略的に示す図である。
【
図28】
図28は、インバータ制御装置の軸間干渉補償部が取得したデータをユーザが補間した他の例を概略的に示す図である。
【
図29】
図29は、インバータ制御装置の軸間干渉補償部が取得したデータをユーザが補間した他の例を概略的に示す図である。
【
図30】
図30は、インバータ制御装置のインタフェースの一例を説明するための図である。
【
図31】
図31は、インバータ制御装置のインタフェースの他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態のインバータ制御装置およびインバータ制御装置の製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態のインバータ制御装置を含む駆動システムの一構成例を概略的に示す図である。
図1に示す駆動システムは、同期機Mと、インバータ主回路INVと、インバータ制御装置100と、を備えている。
【0011】
インバータ主回路INVは、直流電力を三相交流電力に変換して同期機Mへ出力する。インバータ主回路INVは、各相において上アームのスイッチング素子と下アームのスイッチング素子とを備えている。
【0012】
インバータ主回路INVには、インバータ制御装置100から上アームと下アームとのスイッチング素子の制御信号(ゲート指令)が供給される。インバータ主回路INVは、スイッチング素子のオン/オフを切り替えることにより、交流電力と直流電力とを相互に変換することができる。
【0013】
同期機Mは、例えば、永久磁石同期モータ(PMSM)やシンクロナスリラクタンスモータ(SynRM)などの磁気突極性を備えたモータである。本実施形態では、同期機MとしてSynRMを用いた例について説明する。
【0014】
図2は、同期機の一構成例を説明するための図である。
ここでは、同期機Mの一例としてSynRMの構成を示している。
同期機Mは回転子20と固定子10とを備え、各励磁相に流れる三相交流電流によって磁界が発生し、回転子との磁気的相互作用によりトルクを発生する。なお、ここでは、同期機Mの一部のみを示しており、同期機Mの固定子10および回転子20は、例えば
図2に示す構成を複数組み合わせたものとなる。
【0015】
同期機Mは、磁気突極性を有するSynRMである。同期機Mは、固定子10と、回転子20とを備えている。回転子20は、エアギャップ21と、外周ブリッジBR1と、センターブリッジBR2と、を有している。
【0016】
センターブリッジBR2は、回転子20の外周と中心とを結ぶライン上に配置している。なお、センターブリッジBR2が配列したラインがd軸となる。外周ブリッジBR1は、回転子20の外周とエアギャップ21との間に位置している。
図2に示す同期機Mの部分には、回転子20の外周部から中心部に向かって延びた6つのエアギャップ21が設けられている。エアギャップ21は、d軸に対して線対称に、センターブリッジBR2と外周ブリッジBR1との間に延びている。
【0017】
図3は、実施形態における、d軸、q軸、および、推定回転座標系(dc軸、qc軸)の定義を説明するための図である。
d軸は、αβ固定座標系のα軸(U相)から回転位相角θだけ回転したベクトル軸であり、q軸は、電気角でd軸と直交するベクトル軸である。これに対し、dcqc推定回転座標系は回転子20の推定位置におけるd軸とq軸とに対応する。すなわち、dc軸は、α軸から回転位相角推定値θestだけ回転したベクトル軸であり、qc軸は、電気角でdc軸と直交するベクトル軸である。換言すると、d軸から推定誤差Δθだけ回転したベクトル軸がdc軸であり、q軸から推定誤差Δθだけ回転したベクトル軸がqc軸である。
【0018】
例えば、回転角度速度推定方法としてd軸方向に高周波電圧を重畳する方式では、q軸高周波電流がゼロ、つまり高調波に対するインダクタンスが最小となる軸についてPLL(Phase Locked Loop)制御することで、同期機の回転速度および角度の推定値を演算することができる。
しかしながら、同期機Mが磁気飽和すると、前述の高調波に対するインダクタンスのdq軸間の相互干渉によりインダクタンス楕円が傾き、回転子の真のd軸がインダクタンス最小の軸とならない。
【0019】
図4は、同期機の無負荷状態でdc軸に高周波電圧を重畳した際に、真のdq軸に発生する高周波電流のイメージである。
図5は、同期機の負荷状態でdc軸に高周波電圧を重畳した際に、真のdq軸に発生する高周波電流のイメージである。
【0020】
図4に示すように、同期機Mが無負荷であればq軸電流はゼロになる。しかしながら、
図5に示すように同期機Mが負荷状態であるときには、軸間干渉によってq軸電流が発生する。このため、同期機Mが負荷状態であるときにq軸電流がゼロになる軸をPLL制御してしまうと、演算した角度推定値に誤差が生じる。
【0021】
図6は、同期機の制御手法を切り替えた時のトルクショックについて説明するための図である。
例えばdc軸に高周波電圧を重畳する低速センサレス制御時に、回転角度推定値に軸間干渉による誤差が生じると、実際のトルクがトルク指令値と異なる値となる。
図6に示す例では、低速センサレス制御時に実際のトルクが指令値よりも大きくなっており、この状態で、dc軸に高周波電圧を重畳しない高速センサレス制御に制御方法を切り替えると、軸間干渉による推定値の誤差分だけトルクが小さくなり、トルクショックを発生している。トルクショックは、騒音や機器故障の原因となるため改善することが望ましい。そこで、本実施形態では、軸間干渉による誤差を補償して同期機Mの回転角度の推定値を演算するインバータ制御装置およびその製造方法を提案する。
【0022】
インバータ制御装置100は、例えばCPUやMPUなどのプロセッサを少なくとも1つと、プロセッサにより実行されるプログラムが記録されたメモリと、を備えた演算装置を含む。インバータ制御装置100は、以下に説明する種々の機能をソフトウエアにより、若しくは、ソフトウエアとハードウエアとの組み合わせにより実現することが可能である。
【0023】
インバータ制御装置100は、上位制御装置からトルク指令T*を受信する。上位制御装置は、同期機Mおよびインバータ主回路INVを搭載した機器において、複数の構成が協調して動作するように制御する。上位制御装置は例えば操作パネルなどユーザインタフェースを備え、ユーザインタフェースの操作に基づくトルク指令T*をインバータ制御装置100へ出力してもよい。
【0024】
また、インバータ制御装置100は、上位制御装置からモード指令を受信してもよい。モード指令は、インバータ制御装置100の動作を、少なくともテーブル作成モードとテーブル利用モードとに切り替える指令値を含む。
【0025】
インバータ制御装置100は、電流指令生成部101と、電流制御部102と、dq/3Φ変換部103と、変調部104と、3Φ/dq変換部105と、回転角度/速度演算部106と、軸間干渉補償部107と、第1フラグ生成部108と、高周波電圧重畳部109と、電流検出器110U、110Wと、加算器A1、A2を備えている。
【0026】
電流検出器110U、110Wは、同期機Mに流れる三相交流電流のうち二相の交流電流(iu、iw)値を検出する。電流検出器110U、110Wの電流検出値は、3Φ/dq変換部105に入力され、dq軸回転座標系の電流検出値Idc、Iqcに変換される。なお、電流検出器は、三相の各相の交流電流(iu、iv、iw)値を検出するように構成されてもよい。
【0027】
電流指令生成部101は、上位制御装置から供給されたトルク指令T*に基づいて、d軸電流指令Idrefおよびq軸電流指令Iqrefを生成する。電流指令生成部101は、例えば、下記(1)式に基づいてトルク指令T*を電流振幅指令Idq
*(若しくは電流値Idq)に変換し、電流位相指令β*とから下記(2)式のように、d軸電流指令Idrefおよびq軸電流指令Iqrefを演算することができる。
【0028】
図7は、第1実施形態のインバータ制御装置の電流指令生成部の一構成例を概略的に示す図である。
電流指令生成部101は、トルク/電流換算部11と、電流リミット部12と、電流位相指令生成部13と、dq軸電流指令生成部14と、を備えている。
【0029】
トルク/電流換算部11は、例えばトルク指令T
*を電流値I
dqに変換して、電流リミット部12へ出力する。
【数1】
上記式において電流位相指令β
*をまとめて電流値I
dqについて解くと、電流値I
dqは下記となる。
【数2】
電流リミット部12は、電流値I
dqがリミット値未満であるときは電流値を電流振幅指令I
dq
*として出力し、電流値I
dqがリミット値以上であるときにはリミット値を電流振幅指令I
dq
*として出力する。すなわち電流振幅指令I
dq
*は、電流が電流リミット部12でのリミット有無に応じて下記となる。
I
dq<リミット値のとき、I
dq
*=I
dq
I
dq≧リミット値のとき、I
dq
*=リミット値
【0030】
電流位相指令生成部13は、例えばトルク指令T*に対して、最大トルク/最小電流となる電流位相指令β*の値や、最小損失となる電流位相指令β*の値を事前に格納したテーブルを参照する。
dq軸電流指令生成部14は、電流振幅指令Idq
*と電流位相指令β*とを用いて、下記(2)式のように、d軸電流指令Idrefおよびq軸電流指令Iqrefを演算して出力する。
【0031】
【数3】
ここで、P
p: 同期機の極対数
L
d: 基本波電流に対するd軸インダクタンス
L
q: 基本波電流に対するq軸インダクタンス
β
*: 電流位相指令
【0032】
電流制御部102は、電流指令生成部で生成されたd軸電流指令値およびq軸電流指令値と、電流検出器110U、110Wにより検出された電流検出値(ベクトル変換後の電流検出値)Idc、Iqcとが一致するような、d軸電圧指令Vdcおよびq軸電圧指令Vqcの値を演算する。
【0033】
高周波電圧重畳部109は、三角波キャリアに応じた任意周波数の高周波電圧をdc軸もしくはqc軸もしくはその両方について生成し、加算器A1、回転角度/速度演算部106、および、軸間干渉補償部107へ出力する。本実施形態では、高周波電圧重畳部109は、dc軸の高周波電圧Vdchを出力する。
【0034】
高周波電圧重畳部109は、同期機Mが低速センサレス制御されているとき(第1フラグflg1が1のとき)に高周波電圧Vdchを出力する。また、高周波電圧重畳部109は、上位制御装置から供給されたモード指令がテーブル作成モードの値であって、第1フラグflg1が0(同期機Mの高速センサレス制御中)であるときに、高周波電圧Vdchを出力する。
【0035】
高周波電圧重畳部109から出力された高周波電圧指令値Vdchは加算器A1にて、d軸電圧指令Vdcに加算され、加算器A1の出力値がd軸電圧指令値Vdcとしてdq/3Φ変換部103に供給される。
【0036】
dq/3Φ変換部103は、同期機Mの回転子の回転速度に同期したdq回転座標系の値を、三相固定座標系の値にベクトル変換して、変換後の値を出力する。本実施形態では、dq/3Φ変換部103は、dq回転座標系の電圧指令値Vdc、Vqcを三相固定座標系の三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に変換して出力する。
【0037】
変調部104は、三相電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を、インバータ主回路INVのゲート指令へと変換する。本実施形態では、変調部104は、三角波キャリアと電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*とを比較するPWM変調によりゲート指令を生成し、インバータ主回路INVへ出力する。
【0038】
3Φ/dq変換部105は、三相固定座標系の値を、同期機Mの回転子の回転速度に同期したdq回転座標系の値にベクトル変換して、変換後の値を出力する。本実施形態では、3Φ/dq変換部105は、三相固定座標系の電流検出値を、dq回転座標系の電流検出値Idc、Iqcに変換して出力する。
【0039】
第1フラグ生成部108は、回転角度/速度推定方法を切り替えるための第1フラグflg1と、軸間干渉演算を制御する第2フラグflg2とを、例えば、モード指令の値と、回転角速度ωestの値と、トルク電流値(q軸電流指令値)Iqrefとに応じて変更する。
【0040】
第1フラグflg1の値は、同期機Mが高速回転しているときに0となり同期機Mが低速回転しているときに1となる。第2フラグflg2の値は、後述するテーブルTBを作成する期間において所定のタイミングで1となり所定期間後に0となる。第2フラグflg2は、テーブTBを作成していない期間は0である。
【0041】
図8は、第1実施形態のインバータ制御装置における第1フラグ生成部の動作の一例を説明するための図である。
第1フラグ生成部108は、モード指令の値と、回転角度推定値ωestと、トルク電流値I
qrefとに基づいて、第1フラグflg1と第2フラグflg2との値を生成する。第1フラグ生成部108は、回転角度推定値ωestに基づいて、同期機Mの高速センサレス制御中であるか、低速センサレス制御中であるかを判断する。
【0042】
第1フラグ生成部108は、同期機Mの低速センサレス制御中に第1フラグflg1=1とし、高速センサレス制御中に第1フラグflg1=0とする。
第1フラグ生成部108は、モード指令の値がテーブル作成モードの値であり、かつ、同期機Mの高速センサレス制御中であるとき、トルク電流値Iqrefが所定値となったタイミングで第2フラグflg2=1とし、一定期間後に第2フラグflg2=0とする。
【0043】
第1フラグ生成部108は、モード指令の値がテーブル作成モードの値でないとき、および、同期機Mの低速センサレス制御中は、第2フラグflg2=0とする。なお、第1フラグ生成部108が第2フラグflg2をONする幅(第2フラグflg2=1である時間)は、軸間干渉演算が収束可能な期間とする。
【0044】
図9は、第1実施形態のインバータ制御装置における第1フラグ生成部の動作の一例を説明するための図である。
例えば、モード指令がテーブル作成モードの値である期間であって、電動機Mの高速センサレス制御中(第1フラグflg1=0)であるとき、トルク電流値I
qrefが段階的に大きくなるように、インバータ制御装置100にトルク指令T
*が入力される。このとき、第1フラグ生成部108は、トルク電流値I
qrefの値が所定値になったとき(若しくは所定値以上増加したとき)に、第2フラグflg2=1とし、一定期間後に第2フラグflg2=0とする動作を繰り返す。なお、トルク電流値I
qrefが所定値だけ増加する間隔(期間)は、第2フラグflg2が1となってから0に戻るまでの期間よりも十分長くなるように設定されている。
【0045】
第1フラグ生成部108で生成された第1フラグflg1の値は、高周波電圧重畳部109と、回転角度/速度演算部106と、軸間干渉補償部107とに供給される。第1フラグ生成部108で生成された第2フラグflg2の値は、軸間干渉補償部107に供給される。
【0046】
回転角度/速度演算部106は、高周波電圧Vdchと電流検出値Idc、Iqcと、d軸電圧指令値Vdcと、q軸電圧指令値Vqcと、第1フラグflg1の値と、を取得し、回転位相角推定値θestと角速度推定値ωestとを演算して出力する。
【0047】
図10は、第1実施形態のインバータ制御装置における回転角度/速度演算部の一構成例を説明するための図である。
回転角度/速度演算部106は、低速回転用角度誤差演算部と、高速回転用角度誤差演算部と、切替部64と、PLL演算部65と、積分部66と、を備えている。低速回転用角度誤差演算部は、振幅検出部61と、第1角度誤差演算部62とを備えている。高速回転用角度誤差演算部は、第2角度誤差演算部63を備えている。
【0048】
切替部64は、第1フラグflg1が1のときに低速回転用角度誤差演算部の出力値がPLL演算部65に入力され、第1フラグflg1が0のときに高速回転用角度誤差演算部の出力値がPLL演算部65に入力されるように、第1フラグflg1の値に応じて出力値を切り替える。
【0049】
振幅検出部61は、バンドパスフィルタ611と、FFT解析部612と、を備えている。
バンドパスフィルタ611は、3Φ/dq変換部105からdc軸の応答電流値(出力電流)Idcとqc軸の応答電流値(出力電流)Iqcとを受信し、高周波電圧指令Vdhの周波数(重畳高周波電圧周波数)fhと等しい周波数の高周波電流値I´を抽出して出力する。
【0050】
FFT解析部612は、例えば高周波電流値I´のFFT(高速フーリエ変換)解析を行い、高周波電流振幅Ihを検出する。FFT解析部612は、高周波電流値I´と高周波電圧指令値Vdchとを取得し、高周波電圧の1/4周期毎のタイミングで高周波電流値I´の値をサンプリングし、サンプリングした値の差から高周波電流振幅Ihを検出する。FFT解析部612は、検出した高周波電流振幅Ihを第1角度誤差演算部62へ出力する。
【0051】
第1角度誤差演算部62は、モータパラメータと高周波電流振幅Ihとを取得し、例えば、qc軸の高調波電流iqcが、回転位相角度誤差Δθに依存して変化する回転角度依存の特性を利用して、回転位相角誤差Δθを演算して出力する。
【0052】
第1角度誤差演算部62は、例えば後述する式(8)において、軸間干渉インダクタンスL
dqhを0として、回転位相角誤差Δθが十分小さいとみなすと、下記式(A)により回転位相角度誤差Δθを演算することができる。なお、下記式においてPi
qchは検出した電流値であり、v
dchはdc軸電圧に重畳した高周波電圧値である。
【数4】
【0053】
第2角度誤差演算部63は、モータパラメータと、電流検出値Idc、Iqcと、d軸電圧指令値Vdcと、q軸電圧指令値Vqcと、回転速度推定値ωestとを取得し、これらの値を用いて回転位相角誤差Δθを演算することができる。第2角度誤差演算部63は、回転位相角誤差Δθを演算するための種々の手法を採用することが可能である。第2角度誤差演算部63は、例えば、基本波電流を流したことにより発生する誘起電圧を用いて回転位相角誤差Δθを演算する拡張誘起電圧の方法を適用することができる。この場合、同期機MがSynRMであって、かつ、高速回転している条件において、以下のように導かれる下記式(B)により角度誤差Δθを演算することができる。
【0054】
【0055】
【0056】
【数8】
PLL演算部65は、回転位相角誤差Δθがゼロとなるように、PLL制御を行うことで回転速度推定値ωestを算出して出力する。
積分部66は、回転速度推定値ωestを積分して回転位相角推定値θestを算出して出力する。
【0057】
図11は、第1実施形態のインバータ制御装置の軸間干渉補償部の一構成例を概略的に示す図である。
軸間干渉補償部107は、軸間干渉演算部71と、軸間干渉演算値保存/出力部72と、を備えている。
軸間干渉演算部71は、第1フラグflg1の値と、第2フラグflg2の値とにより動作が制御される。軸間干渉演算部71は、第1フラグflg1=0かつ第2フラグflg2=1の期間にデータ(同期機の駆動状態を示す情報)を取得して演算動作を行い、その他の期間(第1フラグflg1=1かつ第2フラグflg2=0のとき、および、第1フラグflg1=0かつ第2フラグflg2=0のときを含む)にはデータの取得および演算を停止する。以下、軸間干渉演算部71の演算動作の一例について説明する。
【0058】
軸間干渉演算部71は、3相/dq変換部711と、振幅検出部712と、減算器713と、PI制御部714と、積分部715と、軸間干渉インダクタンス演算部716と、を備えている。
3相/dq変換部711は、例えばU相電流iuとW相電流iwとを取得し、これらの値の3相dq変換を行い、qc軸高調波電流Iq2を演算して出力する。なお、3相/dq変換部711は角度Δθerrorを取得し、この角度Δθerrorを用いてベクトル変換を行う構成であって、先に説明した3Φ/dq変換部105において回転位相角推定値θestを用いて算出される電流検出値Iqcとqc軸高調波電流Iq2とは異なる値である。
【0059】
続いて、振幅検出部712は、高周波電圧指令値Vdchを用いてqc軸高調波電流Iq2の高調波電流振幅Iqhを抽出する。
減算器713は、ゼロから高調波電流振幅Iqhの値を減算した差(-Iqh)を出力する。
PI制御部714は、減算器713の出力値(-Iqh)を入力として、差(-Iqh)がゼロとなる値を演算して出力する。
【0060】
積分部715は、PI制御部714の出力値を積分し、高調波電流振幅Iqhをゼロにするための角度Δθerrorを計算(PLLして位相をロック)する。
軸間干渉インダクタンス演算部716は、は角度Δθerrorとモータパラメータとから軸間干渉インダクタンスLdqhを演算する。なお、モータパラメータは事前に設定された値であってもよく、同期機Mの駆動中に自動調整された値であってもよい。
【0061】
以下に、角度Δθ
errorと軸間干渉インダクタンスL
dqhとの関係について説明する。
例えば、SynRMの電圧方程式は下記(3)式で表現される。
【数9】
ここで、R: 巻き線抵抗
L
d,L
q: 基本波電流に対するdq軸インダクタンス
L
dh,L
qh: 高調波電流に対するdq軸インダクタンス
p: 微分演算子(d/dt)
ω
e: 電気角角速度
【0062】
高周波成分に着目した場合、入力・出力を書き換えて下記(4)式のようになる。
【数10】
【0063】
上記(4)式を軸誤差Δθ
errorを有する座標軸に座標返還すると、下記(5)式となる。
【数11】
【0064】
さらに、上記(5)式を電流について解くと下記(6)式となる。
【数12】
【0065】
このとき、dc軸のみに高周波電圧を印加するならば、下記(7)式となる。
【数13】
【0066】
上記(7)式においてqc軸に着目すると、下記(8)式となる。
【数14】
【0067】
上記(8)式において、qc軸電流がゼロになるように同期機Mを制御(例えば従来制御)すると下記(9)式となる。
【数15】
【0068】
上記(9)式をさらに変形すると(10)式を得ることができる。
【数16】
上記(10)式において、軸間干渉によるインダクタンスL
dqh=0ならば、角度誤差Δθ
errorがゼロになることがわかる。
【0069】
ここで、(3)式乃至(10)式を逆にたどると、軸間干渉インダクタンス演算部716は、qc軸電流がゼロになる角度に対してPLL制御することにより軸間干渉による角度誤差Δθerrorを算出できることがわかる。そこで本実施形態では、軸間干渉演算部71は、qc軸電流(qc軸高調波電流Iq2)に対してPLL制御を行うことにより角度誤差Δθerrorを演算している。この場合、角度誤差Δθerrorは計算式からは求めないが、軸間干渉インダクタンスLdqhを数値として算出したい場合は、PLL制御の演算結果とパラメータとから算出することができる。
軸間干渉演算部71は、例えば、角度誤差Δθerrorと軸間干渉インダクタンスLdqhとを軸間干渉演算値保存/出力部72へ出力する。
【0070】
なお、(10)式で用いられる、高調波電流に対するdq軸インダクタンスLdh、Lqhは事前に取得した値であってもよく、もしくは、平均電流に対するインダクタンスを電流で微分する方法で算出した値であってもよい。
【0071】
また、軸間干渉演算値保存/出力部72は、第1フラグflg1と第2フラグflg2との状態に応じて動作を切り替える。軸間干渉演算値保存/出力部72は、第1フラグflg1=0でありかつ第2フラグflg2=1であるときに、軸間干渉演算部71で演算した角度誤差Δθerrorもしくは軸間干渉インダクタンスLdqhもしくはその両方(誤差情報)を取得し、トルク電流Iqrefやトルク(同期機Mの駆動状態を示す情報)と関連付けてテーブルTBに格納する。
【0072】
図12は、第1実施形態のインバータ制御装置において、テーブルに格納する値を取得するタイミングの一例を説明するための図である。
図12には、高周波電圧指令値V
dchと、高調波電流振幅I
qhと、角度誤差Δθ
errorの演算値と、軸間干渉インダクタンスL
dqhの演算値とのシミュレーション結果の一例を示している。
【0073】
第1フラグflg1が0のときに第2フラグflg1が1となると、高周波電圧重畳部109から高周波電圧指令値が出力され、高調波電流振幅Iqhが大きくなる。軸間干渉演算部71は、この高調波電流振幅Iqhがゼロになるように角度誤差Δθerrorおよび軸間干渉インダクタンスLdqhを演算して、軸間干渉演算値保存/出力部72へ出力する。このことにより、軸間干渉演算部71は、軸間干渉によって発生する角度推定誤差を計算することができる。
【0074】
軸間干渉演算値保存/出力部72は、高周波電流振幅I
qhがゼロに収束したタイミングで、軸間干渉演算部71から供給された角度誤差Δθ
errorおよび軸間干渉インダクタンスL
dqhの値をサンプリングすることが望ましい。
図12に示す例では、軸間干渉演算値保存/出力部72は、第2フラグflg2が1から0に変化したときに角度誤差Δθ
errorおよび軸間干渉インダクタンスL
dqhの値をサンプリングしている。軸間干渉演算値保存/出力部72は、サンプリングした値を、トルク電流の値等と関連付けてテーブルTBに格納する。
【0075】
また、軸間干渉演算値保存/出力部72は、第1フラグflg1=1でありかつ第2フラグflg2=0であるときに、トルク電流Iqrefやトルクに対応する角度誤差Δθerrorを軸誤差Δθerror_refとして出力する。
【0076】
例えば、軸間干渉演算値保存/出力部72は、代表点のトルク電流毎にサンプリングした値をテーブルTBに格納してもよい。この場合、軸間干渉演算値保存/出力部72は、テーブルTBに格納された値を利用するときに、例えばトルク電流の値によりテーブルTBを参照し、そのトルク電流値を挟む2点の角度誤差Δθerrorのデータを用いて、線形補間した値を軸誤差Δθerror_refとして出力してもよい。演算負荷や処理時間に余裕がある場合には、テーブルTBのデータ点数を増やして、データ間補正を数式で補間するスプライン補間等の方法を採用すると、さらに補正の精度を向上することができる。
【0077】
なお、軸間干渉演算値保存/出力部72がトルク電流Iqrefに対応する値をテーブルTBで参照する例について説明したが、軸間干渉演算値保存/出力部72は、例えば電流振幅と電流位相とのような2入力のテーブルを備えていてもよい。また、電流振幅と電流位相以外の他の2つの入力であっても、2つの入力値に対応する軸誤差Δθerror_refを出力できれば同様の効果が得られる。
【0078】
軸間干渉演算値保存/出力部72は、テーブルTBから取得した軸間干渉インダクタンスLdqhを用いて軸誤差Δθerror_refを計算して出力してもよい。
軸間干渉演算値保存/出力部72から出力された軸誤差Δθerror_refは、回転角度/速度演算部106で演算された回転位相角推定値θestに加算され、補償後の回転位相角推定値θestがdq/3Φ変換部103および3Φ/dq変換部105に入力される。
【0079】
次に、本実施形態のインバータ制御装置100においてテーブルTBを生成する動作の一例について説明する。
図13は、第1実施形態のインバータ制御装置の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【0080】
インバータ制御装置の製造方法として、テーブルTBの生成方法の一例について説明する。最初に、第1フラグ生成部108および軸間干渉補償部107においてテーブル作成TBに用いられる条件が設定される。本実施形態では、例えば、テーブル数N、テーブルナンバーi(初期値=0)、電流最大値Imaxがテーブル作成の条件とする(ステップSA1)。
【0081】
テーブル作成の条件は、に予め軸間干渉補償部107に設定された値であってもよく、上位制御装置の操作によりインバータ制御装置の軸間干渉補償部107に設定される値であってもよい。
【0082】
第1フラグ生成部108は、第1フラグflg1の値を同期機Mの回転速度に応じた値とする、すなわち、第1フラグ生成部108は、同期機Mの低速回転時(低速センサレス制御中)第1フラグflg1の値を1とし、同期機Mの高速回転時(高速センサレス制御中)は第1フラグflg1の値を0とする。
【0083】
また、第1フラグ生成部108は、モード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第2フラグflg2をトルク電流Iqrefの値に応じた値とする。すなわち、第2フラグflg2の値は、トルク電流Iqrefが所定の値となったときに0から1となり、所定期間経過後に0に戻る(ステップSA2)。
第1フラグ生成部108は、例えば、トルク電流Iqrefの値が電流最大値Imax・(i/テーブル数N)となるタイミングで第2フラグflg2を0から1とする。
【0084】
軸間干渉補償部107は、1フラグflg1の値と第2フラグflg2の値とに応じてテーブルTBを作成する。すなわち、第1フラグflg1が0であって、第2フラグが1であるときに(ステップSA3)、例えばU相電流iuとW相電流iwと高周波電圧指令値Vdchとを取得して角度誤差Δθerrorを演算し(ステップSA4)、トルク電流Iqref又はトルクの値と関連付けて角度誤差Δθerrorの値をテーブルTBに格納する(ステップSA5)。
【0085】
軸間干渉補償部107は、テーブルナンバーiがテーブル数Nであるか否か判断し(ステップSA6)、テーブルナンバーiがテーブル数Nでない場合には、テーブルナンバーiに1を加算して(ステップSA7)、ステップSA2-ステップSA6を繰り返し行う。テーブルナンバーiがテーブル数となったときに、軸間干渉補償部107はテーブル作成を終了する。
【0086】
図14は、第1実施形態のインバータ制御装置の製造方法の他の例を説明するためのフローチャートである。
この例では、トルク電流I
qrefが最大電流値Imaxのときを代表値とし、軸間干渉補償部107が角度誤差Δθ
errorを演算し、トルク電流I
qref又はトルクの値と関連付けて角度誤差Δθ
errorの値をテーブルTBに格納する例である。
【0087】
最初に、第1フラグ生成部108および軸間干渉補償部107においてテーブルTBを作成に用いられる条件が設定される。本実施形態では、例えば、電流最大値Imaxがテーブル作成の条件とする(ステップSB1)。
テーブル作成の条件は、予め軸間干渉補償部107に設定された値であってもよく、上位制御装置の操作によりインバータ制御装置の軸間干渉補償部107に設定される値であってもよい。
【0088】
第1フラグ生成部108は、第1フラグflg1の値を同期機Mの回転速度に応じた値とする、すなわち、第1フラグ生成部108は、同期機Mの低速回転時(低速センサレス制御中)第1フラグflg1の値を1とし、同期機Mの高速回転時(高速センサレス制御中)は第1フラグflg1の値を0とする。
【0089】
また、第1フラグ生成部108は、モード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第2フラグflg2をトルク電流Iqrefの値に応じた値とする。すなわち、第1フラグ生成部108は、例えば、トルク電流Iqrefの値が電流最大値Imax・(i/テーブル数N)となるタイミングで第2フラグflg2を0から1とする。(ステップSB2)。
【0090】
軸間干渉補償部107は、モード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第1フラグflg1の値と第2フラグflg2の値とに応じてテーブルTBを作成する。すなわち、第1フラグflg1が0であって、第2フラグが1であるときに(ステップSB3)、軸間干渉補償部107は、例えばU相電流iuとW相電流iwと高周波電圧指令値Vdchとを取得して角度誤差Δθerrorを演算し(ステップSB4)、トルク電流Iqref又はトルクの値と関連付けて角度誤差Δθerrorの値をテーブルTBに格納する(ステップSB5)。
【0091】
軸間干渉補償部107は、テーブルTBに格納された値を利用するときに、例えばトルク電流Iqrefの値に基づいてテーブルTBを参照し、そのトルク電流Iqrefの値を挟む2点の電流値に対応するデータを用いて線形補間した値をテーブルTBに格納してもよい。演算負荷や処理時間に余裕がある場合には、テーブルTBのデータ点数を増やして、データ間補正を数式で補間するスプライン補間等の方法を採用すると、さらに補正の精度を向上することができる。
【0092】
図15は、第1実施形態のインバータ制御装置の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
ここでは、モード指令がテーブル利用モードの値であるときの、軸間干渉補償部107の動作の一例について説明する。なお、テーブルTBは、電流最大値Imax、テーブル数Nを条件として作成されているものとする。
モード指令がテーブル利用モードの値であるとき、軸間干渉演算値保存/出力部72は、第1フラグflg1が1であるか判断する(ステップSC1)。
【0093】
第1フラグflg1が1であるとき(低速センサレス制御中であるとき)、軸間干渉演算値保存/出力部72は、トルク電流Iqrefの値を取得し(ステップSC2)、テーブルTBを用いてトルク電流Iqrefの値に対応する角度誤差Δθerrorを取得する。
【0094】
このとき、軸間干渉演算値保存/出力部72は、例えば、n=(Iqref/Imax)×Nにより正規化されたトルク電流値(=n)を演算し(ステップSC3)、例えばnを挟む(若しくはn近傍の)2点の正規化後の電流値に対応する一又は複数の角度誤差Δθerrorのデータを用いて線形補間した値を用いてnに対応する角度誤差Δθerrorを演算し、トルク電流Iqrefに対応する軸誤差Δθerror_refとすることができる(ステップSC4)。
軸間干渉演算値保存/出力部72は、上記のように演算した軸誤差Δθerror_refの値出力する(ステップSC5)。
【0095】
上記のように、本実施形態のインバータ制御装置は、同期機Mの負荷状態において、高調波電流振幅がゼロになる角度誤差Δθerrorを演算することで、軸間干渉によって発生する角度推定誤差を演算することができ、トルク電流の値と関連付けてテーブルTBを作成している。本実施形態のインバータ制御装置は、このテーブルTBを参照することにより、高周波信号を重畳するセンサレス制御の角度推定精度を向上でき、軸間干渉によるトルクショックを改善することができる。
すなわち、本実施形態によれば、精度よく同期機の回転角度の推定値を演算するインバータ制御装置およびその製造方法を提供することができる。
【0096】
次に、第2実施形態のインバータ制御装置およびその製造方法について図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明において、上述の第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図16は、第2実施形態のインバータ制御装置を含む駆動システムの一構成例を概略的に示す図である。
【0097】
本実施形態のインバータ制御装置100は、例えば、モータ軸固定装置130と角度センサ120とを取り付けた状態の同期機Mを制御調整し、制御ゲインやテーブルTBを生成することを想定している。このことにより、本実施形態のインバータ制御装置は、回転角度/速度演算部106と第1フラグ生成部108とを備えず、角速度演算部1010と第2フラグ生成部1011とを備えている点において、上述の第1実施形態と相違している。
【0098】
モータ軸固定装置130は、同期機Mの軸を固定、若しくは、一定速度で回転できる装置であり、例えば同期機Mの軸をロックする留め具や、同期機Mよりも大容量の負荷モータなどである。モータ軸固定装置130により、同期機Mの回転速度を固定しつつトルクを増加させることができる。モータ軸固定装置130は、例えば、上位制御装置により動作を制御される。
【0099】
角速度演算部1010は、角度センサ120で検出された角度θeから、同期機Mの角速度ωeを演算する。角速度演算部1010は、演算した角速度ωeを電流制御部102へ供給する。
【0100】
第2フラグ生成部1011は、モード指令の値と、トルク電流の値とに基づいて、第1フラグflg1と第2フラグflg2とを生成する。
第2フラグ生成部1011は、同期機Mの低速センサレス制御中に第1フラグflg1=1とし、高速センサレス制御中に第1フラグflg1=0とする。
【0101】
第2フラグ生成部1011は、モード指令の値がテーブル作成モードの値であり、かつ、同期機Mの高速センサレス制御中であるとき、トルク電流値Iqrefが所定値となったタイミングで第2フラグflg2=1とし、一定期間後に第2フラグflg2=0とする。
【0102】
図17は、第2実施形態のインバータ制御装置の第2フラグ生成部の動作の一例を説明するための図である。ここでは、同期機Mの軸は、モータ軸固定装置130により固定された状態であって、同期機Mの回転子は停止状態である。
【0103】
例えば、モード指令がテーブル作成モードの値である期間であって、上位制御装置は、トルク電流値I
qrefが徐々に大きくなるように、インバータ制御装置100にトルク指令T*を入力する。このとき、第2フラグ生成部1011は、第1フラグflg1を0に固定した状態で、トルク電流値I
qrefの値が所定値になったとき(若しくは所定値以上増加したとき)に、第2フラグflg2=1とし、一定期間後に第2フラグflg2=0とする動作を繰り返す。なお、トルク電流値I
qrefの変化する間隔(期間)は、第2フラグflg2が1となってから0に戻るまでの期間よりも十分長くなるように設定されている。
図17に示す例では、トルク電流I
qrefは一定の増加率(傾き)で増加するように制御されており、第2フラグflg2は等間隔で立ち上がるように生成されている。
【0104】
図18は、第2実施形態のインバータ制御装置の第2フラグ生成部の動作の他の例を説明するための図である。ここでは、同期機Mの軸は、モータ軸固定装置130により固定された状態であって、同期機Mの回転子は停止状態である。
この例では、第2フラグ生成部1011が生成する第1フラグflg1の波形が
図17の例と異なっている。
【0105】
例えば、モード指令がテーブル作成モードの値である期間であるとき、上位制御装置は、トルク電流I
qrefが徐々に大きくなるように、インバータ制御装置100にトルク指令T*を入力する。このとき、第2フラグ生成部1011は、トルク電流I
qrefの値が所定値になったとき(若しくは所定値以上増加したとき)に、第2フラグflg2=1とし、一定期間後に第2フラグflg2=0とする動作を繰り返す。
図18に示す例では、トルク電流I
qrefは一定の傾きで増加するように制御されており、第2フラグflg2は等間隔で立ち上がるように生成されている。
【0106】
また、第2フラグ生成部1011は、モード指令がテーブル作成モードの値である期間において、第2フラグflg2が0であるタイミングに第1フラグflg1を1とする。例えば
図17に示すように第1フラグflg1が常時0であると、テーブルTBを作成している間は高周波信号を重畳するセンサレス制御が行われることとなり、騒音が生じる可能性がある。これに対し、
図18に示すよう第1フラグflg1の波形を生成すると、データをサンプリングして角度誤差Δθ
errorを演算するタイミング以外は高周波信号を重畳する制御が停止されるため、騒音を抑えてテーブルTBを作成することができる。
【0107】
図19は、第2実施形態のインバータ制御装置の第2フラグ生成部の動作の他の例を説明するための図である。ここでは、同期機Mの軸は、モータ軸固定装置130により固定された状態であって、同期機Mの回転子は停止状態である。
この例では、第2フラグflg2の立ち上がりタイミングを可変としている点において
図17の例と異なっている。すなわち、同期機Mの軸間干渉は高負荷の領域(トルクが大きい領域)で大きくなるため、第2フラグ生成部1011は、高負荷の領域においてサンプリングを細かく行うように第2フラグflg2を生成している。このように第2フラグflg2を生成することにより、同期機Mの磁気飽和の影響が大きい領域(高負荷の領域)のデータを多く含むテーブルTBを作成することができ、センサレス制御の精度を向上できる。
【0108】
なお、
図17乃至
図19の例では、トルク電流I
qrefの値に基づいて第2フラグflg2を生成するものと説明したが、トルク電流I
qrefの値に代えてトルク指令値を用いてもよく、電流振幅と電流移動指令との値を用いて第2フラグflg2の立ち上がりタイミング(若しくはデータサンプリングタイミング)を決定してもよい。また、
図17乃至
図19のフラグ生成方法を組み合わせても構わない。これらのフラグ作成方法は、第1実施形態のインバータ制御装置100にも適用可能である。
【0109】
第2フラグ生成部1011で生成された第1フラグflg1の値は、高周波電圧重畳部109と、軸間干渉補償部107とに供給される。第2フラグ生成部1011で生成された第2フラグflg2の値は、軸間干渉補償部107に供給される。
【0110】
本実施形態のインバータ制御装置は、上記以外の構成は上述の第1実施形態と同様である。本実施形態のインバータ制御装置では、同期機Mの回転角度が正確にわかっている状態で軸誤差を演算することが可能であって、精度の高い値を含むテーブルTBを生成することができる。
【0111】
また、第1フラグflg1および第2フラグflg2の生成方法を工夫することで、テーブルTBを参照した軸間干渉補正の精度を向上することができる。このことから、同期機Mの制御方法を切り替えるときのトルクショック等をより低減することが可能となる。
【0112】
次に、本実施形態のインバータ制御装置100においてテーブルTBを生成する動作の一例について説明する。
図20は、第2実施形態のインバータ制御装置の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
最初に、第2フラグ生成部1011および軸間干渉補償部107においてテーブル作成TBに用いられる条件が設定される。本実施形態では、例えば、テーブル数N、テーブルナンバーi(初期値=0)、電流最大値Imaxがテーブル作成の条件とする(ステップSD1)。
【0113】
テーブル作成の条件は、予め軸間干渉補償部107に設定された値であってもよく、上位制御装置の操作によりインバータ制御装置の軸間干渉補償部107に設定される値であってもよい。
【0114】
第2フラグ生成部1011は、モード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第1フラグflg1の値を0に固定する。また、第2フラグ生成部1011は、モード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第2フラグflg2をトルク電流Iqrefの値に応じた値とする。すなわち、第2フラグflg2の値は、トルク電流Iqrefが所定の値となったときに0から1となり、所定期間経過後に0に戻る(ステップSD2)。
第2フラグ生成部1011は、例えば、トルク電流Iqrefの値が電流最大値Imax・(i/テーブル数N)となるタイミングで第2フラグflg2を0から1とする。
【0115】
軸間干渉補償部107は、モード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第1フラグflg1の値と第2フラグflg2の値とに応じてテーブルTBを作成する。すなわち、第1フラグflg1が0であって、第2フラグが1であるときに(ステップSD3)、例えばU相電流iuとW相電流iwと高周波電圧指令値Vdchとを取得して角度誤差Δθerrorを演算し(ステップSD4)、トルク電流Iqref又はトルクの値と関連付けて角度誤差Δθerrorの値をテーブルTBに格納する(ステップSD5)。
【0116】
軸間干渉補償部107は、テーブルナンバーiがテーブル数Nであるか否か判断し(ステップSD6)、テーブルナンバーiがテーブル数Nでない場合には、テーブルナンバーiに1を加算して(ステップSD7)、ステップSD3-ステップSD6を繰り返し行う。テーブルナンバーiがテーブル数となったときに、軸間干渉補償部107はテーブル作成を終了する。
【0117】
図21は、第2実施形態のインバータ制御装置の製造方法の他の例を説明するためのフローチャートである。この例では、第2フラグ生成部1011が第2フラグflg2を生成する動作が上述の
図18に示す例と異なっている。
【0118】
最初に、第2フラグ生成部1011および軸間干渉補償部107においてテーブル作成TBに用いられる条件が設定される。本実施形態では、例えば、テーブル数N、テーブルナンバーi(初期値=0)、電流最大値Imaxがテーブル作成の条件とする(ステップSE1)。
【0119】
テーブル作成の条件は、予め軸間干渉補償部107に設定された値であってもよく、上位制御装置の操作によりインバータ制御装置の軸間干渉補償部107に設定される値であってもよい。
【0120】
第2フラグ生成部1011は、モード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第1フラグflg1の値を0に固定する。また、第2フラグ生成部1011は、モード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第2フラグflg2をトルク電流Iqrefの値に応じた値とする。すなわち、第2フラグflg2の値は、トルク電流Iqrefが所定の値となったときに0から1となり、所定期間経過後に0に戻る(ステップSE2)。
【0121】
この例では、第2フラグ生成部1011は、例えば、トルク電流Iqrefの値が電流最大値Imax・(i/テーブル数N)2となるタイミングで第2フラグflg2を0から1とする。このように第2フラグflg2を生成することにより、電流が大きくなるほどデータのサンプリング間隔を短くすることができる。
【0122】
軸間干渉補償部107は、モード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第1フラグflg1の値と第2フラグflg2の値とに応じてテーブルTBを作成する。すなわち、第1フラグflg1が0であって、第2フラグが1であるときに(ステップSE3)、例えばU相電流iuとW相電流iwと高周波電圧指令値Vdchとを取得して角度誤差Δθerrorを演算し(ステップSE4)、トルク電流Iqref又はトルクの値と関連付けて角度誤差Δθerrorの値をテーブルTBに格納する(ステップSE5)。
【0123】
軸間干渉補償部107は、テーブルナンバーiがテーブル数Nであるか否か判断し(ステップSE6)、テーブルナンバーiがテーブル数Nでない場合には、テーブルナンバーiに1を加算して(ステップSE7)、ステップSD3-ステップSD6を繰り返し行う。テーブルナンバーiがテーブル数となったときに、軸間干渉補償部107はテーブル作成を終了する。
上記のように、本実施形態によれば、精度よく同期機の回転角度の推定値を演算するインバータ制御装置およびその製造方法を提供することができる。
【0124】
次に、第3実施形態のインバータ制御装置およびその製造方法について図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明において、上述の第1実施形態および第2実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0125】
図22は、第3実施形態のインバータ制御装置を含む駆動システムの一構成例を概略的に示す図である。
本実施形態のインバータ制御装置100は、指令生成部1012と第3フラグ生成部1013とトルク演算器1014とを備える点、および、高周波電圧重畳部109と軸間干渉補償部107との動作において上述の第1実施形態と異なっている。
本実施形態のインバータ制御装置100では、モード指令値は高周波電圧重畳部109に入力されない。高周波電圧重畳部109は、第1フラグflg1が0のときに高周波電圧指令値V
dchを出力し、第1フラグflg1が1のときには高周波電圧指令値V
dchを出力しない。
【0126】
図23は、第3実施形態のインバータ制御装置の指令生成部の一構成例を概略的に示す図である。
指令生成部1012は、PI制御部121と、トルク/電流換算部122と、電流リミット部123と、dq軸電流指令生成部124と、電流位相指令生成部125と、係数乗算部126と、減算器127と、減算器128と、を備えている。
【0127】
減算器127は、角速度指令値ωrefから推定角速度ωestを引いた差を演算し、演算結果をPI制御部121へ供給する。
PI制御部121は、角速度指令値ωrefから角速度推定値ωestを引いた差がゼロとなるようにトルク指令T*を演算する。
トルク/電流換算部122は、トルク指令T*の値を電流振幅に換算して出力する。
電流リミット部123は、トルク/電流換算部122から出力された電流振幅値が所定値を超えないように電流リミットを行い、電流振幅指令値Idq
*を演算する。
【0128】
電流位相指令生成部125は、トルク指令T*から電流位相指令β*を演算する。電流位相指令β*は、例えば最大トルク/最小電流になる電流動作点をテーブル参照する方法やモータパラメータを用いて計算する方法、q軸のみ電流を流す(Id=0)制御などの方法が考えられるが、同期機Mの速度を維持できる方法であればどのような方式であっても構わない。
【0129】
dq軸電流指令生成部124は、d軸を基準としてd軸電流指令Idrefとq軸電流指令Iqrefとを演算する。
減算器128は、電流振幅指令値Idq
*から電流振幅の値を引いた差を演算し、演算結果を係数乗算部126へ供給する。
【0130】
係数乗算部126は、電流リミット部123において電流振幅が制限されることにより、PI制御部121の積分器が偏差をため込み続ける(飽和する)ことを防止するアンチワインドアップ動作を行う。例えば、係数乗算部126は、電流振幅指令値Idq
*から電流振幅の値を引いた差に所定の係数を乗じた値を出力する。係数乗算部126から出力された値は、PI制御部121の積分器への入力から差し引かれる。これにより電流リミット部123により制限された状態では同期機Mの速度を意図的に失速させ、速度指令値通りに同期機Mの回転速度が制御されなくなるものの、同期機Mの脱調現象を回避して安定駆動することができる。
【0131】
図24は、第3実施形態のインバータ制御装置の第3フラグ生成部の動作の一例を説明するための図である。
第3フラグ生成部1013は、第1フラグflg1、第2フラグflg2および第3フラグflg3を生成する。
【0132】
第3フラグ生成部1013は、第1フラグflg1の値を同期機Mの回転速度に応じた値とする、すなわち、第1フラグ生成部108は、同期機Mの低速回転時(低速センサレス制御中)第1フラグflg1の値を1とし、同期機Mの高速回転時(高速センサレス制御中)は第1フラグflg1の値を0とする。
また、第3フラグ生成部1013は、例えばモード指令がテーブル作成モードの値であるときに、第2フラグflg2を0とし、モード指令がテーブル利用モードの値であるときに、第2フラグflg2を1とする。
【0133】
第3フラグ生成部1013は、低速センサレス制御中に少なくとも1回立ち上がり、高速センサレス制御中に少なくとも1回立ち上がるように第3フラグflg3を生成する。なお、第3フラグflg3が立ち上がるタイミングは、軸間干渉補償部107で各種データをサンプリングし、干渉情報の演算を行われる期間となる。
なお、トルク電流Iqrefや電流振幅などの値は、制御方法が切り替わる前後で一定であることが望ましい。本実施形態のインバータ制御装置100では、制御方法が切り替わる前後で、電流振幅がリミットされて一定であるものとしている。
【0134】
図25は、第3実施形態のインバータ制御装置のトルク演算器の一構成例を概略的に示す図である。
トルク演算器1014は、角速度推定値ωestとモータパラメータ(Pp:モータ極対数、J:イナーシャ、D:摩擦係数)とを用いて、例えば下記式(11)によりトルクTrq_calcを演算する。本実施形態では、トルク演算器1014におけるトルクの計算方法として、機械系パラメータからトルクを計算するトルクオブザーバ方法を採用している。
【数17】
【0135】
トルク演算器1014は、乗算器141、143、144と、微分器142と、加算器145と、を備えている。
乗算器141は、角速度推定値ωestに、モータ極対数Ppの逆数を乗じた積(機械角角速度ωm)を演算して、演算結果を微分器142と乗算器144とに供給する。
【0136】
微分器142は、機械角角速度ωmを微分した値dωm/dtを演算して、演算結果を乗算器143に出力する。
乗算器143は、微分器142の出力値dωm/dtにイナーシャJを乗じた積(J(dωm/dt))を演算して、演算結果を加算器145へ供給する。
乗算器144は、機械角角速度ωmと摩擦係数Dとを乗じた積(Dωm)を演算して、加算器145へ供給する。
【0137】
加算器145は、乗算器143の演算結果(J(dωm/dt))と乗算器144の演算結果(Dωm)とを加算して、トルクTrq_calcを出力する。
なお、トルク演算器1014は、下記の有効電力の演算式を利用してトルクTrq_calcを計算してもよい。
有効電力P=(Vd*Id+Vq*Iq-損失)/機械角角速度ωm
=ωm×Trq
【0138】
軸間干渉補償部107は、第1フラグflg1、第2フラグflg2、第3フラグflg3、トルク指令T*、トルクTrq_calc、電流振幅指令値Idq*および電流位相指令β*を入力とし、低速センサレス制御中および高速センサレス制御中のトルクTrq_calcをサンプリングして、それらの差分から角度推定誤差(軸誤差Δθerror)を演算する。
【0139】
図26は、第3実施形態のインバータ制御装置の軸間干渉補償部の一構成例を概略的に示す図である。
軸間干渉補償部107は、軸間干渉演算部73と、軸間干渉演算値保存/出力部72と、を備えている。
軸間干渉演算部73は、低速時データ取得部731と、高速時データ取得部732と、誤差演算部733と、を備えている。軸間干渉演算部73の各構成は、第2フラグflg2が0の時(テーブル作成モード時)にデータの取得と演算とを行う。
【0140】
低速時データ取得部731は、第1フラグflg1が1であり、第3フラグflg3が1であるときに、トルクTrq_calcの値をサンプリングして出力する。
高速時データ取得部732は、第1フラグflg1が0であり、第3フラグflg3が1であるときに、トルクTrq_calcの値をサンプリングして出力する。
誤差演算部733は、低速時データ取得部731でサンプリングされたトルクTrq_calcの値と、高速時データ取得部732でサンプリングされたトルクTrq_calcの値とを用いて、角度誤差Δθerrorと軸間干渉インダクタンスLdqhとを演算して、軸間干渉演算値保存/出力部72へ出力する。
【0141】
例えば、モータトルクT
rqは(12)式で計算でき、この数式を用いて角度誤差Δθ
errorと軸間干渉インダクタンスL
dqhとを計算することができる。
【数18】
【0142】
このとき、軸間干渉で発生する角度誤差Δθ
errorが上記の電流位相βに含有されると考えると、軸間干渉を考慮したトルクT
rqは(13)式となる。
【数19】
【0143】
ここで、電流位相βに対して軸間干渉による角度誤差Δθ
errorが小さい場合には、下記式(14)が成り立つ。
cos2Δθ=1, sin2Δθ=2Δθ (14)
このことから、軸間干渉によって発生する誤差トルクT
errorは、下記式(15)となる。
【数20】
【0144】
また、誤差トルクTerrorは軸間干渉の影響がない高速センサレス制御時の値を基準とすると、差分として下記式(16)により計算することができる。
Terror=T*
HF-T*
FF (16)
ここで、T*
HF : 低速センサレス駆動時トルク
T*
FF : 高速センサレス駆動時のトルク
【0145】
これらと上述の式(10)とを組み合わせることにより、下記式(17)のように角度誤差Δθ
errorを計算することができる。
【数21】
軸間干渉演算値保存/出力部72は、以上の方法で計算した軸間干渉による角度誤差Δθ
errorを、電流振幅やトルク電流I
qrefの値と関連付けてテーブルTBに格納する。電流などの条件を制御切り替え前後で一定とすることが望ましく、例えば電流リミットにかかった状態でデータサンプリングを行うとテーブル作成手順が簡素化できる。
【0146】
また、軸間干渉インダクタンスL
dqhは、下記式(18)において、上記角度誤差Δθ
errorの値と、高調波電流に対するdq軸インダクタンスL
dh、L
qhの値とを適用することにより、計算することができる。
【数22】
【0147】
本実施形態のインバータ制御装置100では、複数のトルクTrq_calcのそれぞれに対応する角度誤差Δθerrorを演算して、電流振幅やトルク電流Iqrefの値と関連付けてテーブルTBに格納し、テーブルTBを生成する。
本実施形態のインバータ制御装置100は、上記の構成以外は上述の第1実施形態のインバータ制御装置100と同様である。
【0148】
本実施形態のインバータ制御装置100では、低速センサレス制御と高速センサレス制御とを切り替えるタイミングで発生するトルクショック(差分)の補正を、速度制御系を追加した条件下でも実施可能としている。すなわち、本実施形態のインバータ制御装置100によれば、例えばモータパラメータ設定値が実際のモータパラメータから乖離している場合であっても、高速センサレス制御の条件下で取得したトルクと、低速センサレス制御の条件下で取得したトルクとに基づいて角度誤差補正を行うため、パラメータのずれの影響を受けることなくトルクショックを低減することができる。
上記のように、本実施形態によれば、精度よく同期機の回転角度の推定値を演算するインバータ制御装置およびその製造方法を提供することができる。
【0149】
なお、本実施形態のインバータ制御装置100では、トルク演算器1014にて演算されたトルクTrq_calcを用いて、角度誤差Δθerrorと軸間干渉インダクタンスLdqhとを算出する例について説明したが、外部のセンサでトルクを検出してトルクTrq_calcの替わりに利用しても構わない。センサにより検出されたトルク値を用いることにより、より精度よく角度誤差Δθerrorと軸間干渉インダクタンスLdqhとを算出することができる。
【0150】
次に、第4実施形態のインバータ制御装置およびその製造方法について図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、インバータ制御装置100において、軸間干渉補償部107の軸間干渉演算値保存/出力部72が取得したデータの利用方法について説明する。
【0151】
図27は、インバータ制御装置の軸間干渉補償部が取得したデータをユーザが補間した例を概略的に示す図である。
上述の第2実施形態ではデータのサンプリング間隔を可変にしてテーブルTBを作成する方法の一例について説明した。本実施形態では、ユーザが操作パネル等を操作することにより、サンプリング間のデータD2をテーブルTBに追加可能としている。ユーザはサンプリング間にデータD2を追加することにより、駆動システムの応答を希望する特性に合わせて設定することができる。
【0152】
図28は、インバータ制御装置の軸間干渉補償部が取得したデータをユーザが補間した他の例を概略的に示す図である。
例えば
図28や後述する
図29に示すように、サンプリングされたデータD1と追加したデータD2とを用いて線形近似など一次式による近似や二次式による近似を行う場合、ユーザは追加するデータにより近似式の切片や傾きが希望する値となるように調整できる。このことにより、駆動システムの動作をユーザの望むように調整可能となる。
【0153】
図29は、インバータ制御装置の軸間干渉補償部が取得したデータをユーザが補間した他の例を概略的に示す図である。
また、上述の第1乃至第3実施形態のインバータ制御装置100では、複数点でデータのサンプリングを行って角度誤差Δθ
errorを演算する例について説明したが、実用上の最大電流点でデータD1を取得し、データD1とユーザが追加したデータD2とを用いて数式近似する方法を用いても構わない。
この場合、例えばユーザがデータD1よりも重負荷の領域にデータD2を追加すると、同期機Mに対して重負荷を与えずにトルクが大きくなる領域における値を近似式により得ることができ、軸間干渉の影響が大きくなる重負荷に対する補正が可能となる。また、実際のデータ取得点数が少なくなることから、テーブル作成の手順を簡素化できる。
【0154】
また、取得したデータを用いて、(19)式もしくは(20)式のように軸誤差Δθ
error_ref
´を計算してもよい。
【数23】
ユーザは、例えばテーブルTBの外挿(又は内挿)を行って、取得したデータを加工してもよい。加工した後のテーブルTBを用いて、例えば(19)式および(20)式を用いて軸誤差Δθ
error_ref
´を計算することにより、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0155】
図30は、インバータ制御装置のインタフェースの一例を説明するための図である。
インバータ制御装置100は、例えば、インバータ操作盤を備えていても良い。インバータ操作盤は、ユーザに駆動システムの種々の情報を提示するとともに、ユーザが情報を入力可能なディスプレイを備えている。インバータ制御装置100は、インバータ操作盤のディスプレイにテーブルTBに格納された値を表示し、ユーザによりデータの調整や加工が可能となるように構成されてもよい。
【0156】
図31は、インバータ制御装置のインタフェースの他の例を説明するための図である。
インバータ制御装置100は、通信可能に接続されたパーソナルコンピュータのディスプレイに駆動システムの種々の情報を提示してもよい。ユーザがパーソナルコンピュータを操作することにより、テーブルTB、データの調整や加工をした場合には、インバータ制御装置100は調整および加工後のテーブルTBを保存する。
【0157】
上記のように、テーブルTBのデータを調整および加工可能とすることにより、ユーザの使用方法や目的に応じた補償が可能となる。
すなわち、本実施形態によれば、精度よく同期機の回転角度の推定値を演算するインバータ制御装置およびその製造方法を提供することができる。
【0158】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0159】
10…固定子、20…回転子、11…トルク/電流換算部、12…電流リミット部、13…電流位相指令生成部、14…dq軸電流指令生成部、61…振幅検出部、62…角度誤差演算部、63…角度誤差演算部、64…切替部、65…PLL演算部、66…積分部、71、73…軸間干渉演算部、72…軸間干渉演算値保存/出力部、100…インバータ制御装置、101…電流指令生成部、102…電流制御部、103…dq/3Φ変換部、104…変調部、105…3Φ/dq変換部、106…回転角度/速度演算部、107…軸間干渉補償部、108…第1フラグ生成部、109…高周波電圧重畳部、110U…電流検出器、110U、110W…電流検出器、120…角度センサ、121…PI制御部、122…トルク/電流換算部、123…電流リミット部、124…dq軸電流指令生成部、125…電流位相指令生成部、126…係数乗算部、127…減算器、128…減算器、130…モータ軸固定装置、141、143、144…乗算器、142…微分器、145…加算器、611…バンドパスフィルタ、612…FFT解析部、711…3相/dq変換部、712…振幅検出部、713…減算器、714…PI制御部、715…積分部、716…軸間干渉インダクタンス演算部、731…低速時データ取得部、732…高速時データ取得部、733…誤差演算部、1010…角速度演算部、1011…第2フラグ生成部、1012…指令生成部、1013…第3フラグ生成部、1014…トルク演算器、A1…加算器。