(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】エマルジョン組成物、コーティング剤及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240716BHJP
C08L 51/08 20060101ALI20240716BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240716BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240716BHJP
C08F 283/12 20060101ALI20240716BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L51/08
B32B27/00 101
B32B27/30 A
C08F283/12
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2021031432
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020039184
(32)【優先日】2020-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-138242(JP,A)
【文献】特開2007-099953(JP,A)
【文献】特表2007-512411(JP,A)
【文献】特開2013-067787(JP,A)
【文献】特表平11-508641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09D
C08F
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)皮膜形成能を有する樹脂のエマルジョン 該(I)成分中の固形分と下記(II)成分中の固形分の合計質量に対して該(I)成分中の固形分量が60~99.9質量%である量、及び
(II)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂のエマルジョン 上記(I)成分中の固形分と該(II)成分中の固形分の合計質量に対して該(II)成分中の固形分量が0.1~40質量%である量
を含有するエマルジョン組成物であって、
前記(II)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂は、(A)オルガノポリシロキサンからなるコア粒子を有し、(B)ポリ(メタ)アクリル酸エステルをシェル層に有し、該(A)オルガノポリシロキサンと(B)ポリ(メタ)アクリル酸エステルの質量比が(A):(B)=40:60~95:5であること、及び、前記コアシェル樹脂の粒子表面における前記ポリ(メタ)アクリル酸エステルの結合率が50%以上であることを特徴とし、
前記(A)オルガノポリシロキサンが下記一般式(1)で表される、
【化1】
(式中、R
1は互いに独立に、非置換の、炭素数1~20のアルキル基であり、R
2はフェニル基であり、Xは互いに独立に、非置換の、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であり、Yは互いに独立に、Xで定義される基であり、Xで示される基のうち少なくとも1個はヒドロキシ基であり、Yで示される基のうち少なくとも1個はヒドロキシ基であり、aは0以上の数であり、bはa,b,c,eの合計に対し30~100%となる数であり、cはa,b,c,eの合計に対し0~60%となる数であり、eはa,b,c,eの合計に対し0~10%となる数で
ある)
前記エマルジョン組成物。
【請求項2】
前記シリコーン
-アクリルコアシェル樹脂のシェル層が厚み1nm~50nmを有する、請求項1記載のエマルジョン組成物。
【請求項3】
前記皮膜形成能を有する樹脂が、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2のいずれか1項記載のエマルジョン組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載のエマルジョン組成物を含むコーティング剤。
【請求項5】
基材と、該基材の片面又は両面にある皮膜とを有し、該皮膜が請求項4記載のコーティング剤から成る、積層体。
【請求項6】
前記基材が、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂から選ばれるプラスチックである、請求項5記載の積層体。
【請求項7】
前記基材が、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、及び無アルカリガラスから選ばれるガラスである、請求項5記載の積層体。
【請求項8】
前記基材が、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、及びモクセイ科の木材から選ばれる木材である、請求項5記載の積層体。
【請求項9】
前記基材が、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、及び炭素から選ばれる繊維である、請求項5記載の積層体。
【請求項10】
前記皮膜が厚さ0.5~50μmを有する、請求項5~9のいずれか1項記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング用に好適なエマルジョン組成物に関するものであり、より詳しくは基材表面にコーティングすることで、透明性を維持し、摺動性を付与することができるエマルジョン組成物に関する。また、本発明は、該エマルジョン組成物を含むコーティング剤による皮膜が形成された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コーティング剤の分野においては、環境問題の点で有機溶剤系から水系へと分散媒の移行が進んでいる。ウレタン系、アクリル系、塩化ビニル系などのエマルジョンは優れた皮膜形成能があり、コーティング剤として広く用いられてきた。
【0003】
また、シリコーン系樹脂は、基材に摺動性を付与することができる樹脂として知られている。しかしながら、シリコーン系の樹脂をコーティング剤として使用する場合には、塗膜が白化するなどの不具合があった。
【0004】
そこで、皮膜形成能を有するウレタン系、アクリル系、塩化ビニル系のエマルジョンとシリコーン系の樹脂を混合してコーティング剤として使用する方法が試みられている。しかし、混合することによって、シリコーン系樹脂の摺動性を発揮できなかったり、元のウレタン系、アクリル系や塩化ビニル系の性能を劣化させるなどして満足な性能を発揮していないのが現実である。
【0005】
本発明者は、特開2013-67787号(特許文献1)にて、ウレタン系、アクリル系、塩化ビニル系のエマルジョンとシリコーン系の樹脂を混合したコーティング剤が基材に撥水性を付与できることを開示している。しかし、摺動性と塗膜の透明性については改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
また、本出願人は特願2018-186635記載の発明にて摺動性と塗膜の透明性を改善したエマルジョン組成物を見出したが、シリコーンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンの製造工程が複雑であった。従って、より容易に摺動性と塗膜の透明性を改善したエマルジョン組成物及びコーティング剤を提供することが望まれている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、皮膜形成能を有する樹脂のエマルジョンとシリコーンを混合して得られるエマルジョン組成物であり、透明性を維持しながら、シリコーンの摺動性を効果的に付与できる、エマルジョン組成物及びコーティング剤を提供すること、及びそのコーティング剤から成る皮膜を有する積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンと特定構造を有するシリコーンアクリルコアシェル樹脂のエマルジョンとを所定の割合で配合したエマルジョン組成物は、上記課題を解決できるコーティング剤を与えることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち本発明は、(I)皮膜形成能を有する樹脂のエマルジョン 該(I)成分中の固形分と下記(II)成分中の固形分の合計質量に対して該(I)成分中の固形分量が60~99.9質量%である量、及び
(II)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂のエマルジョン 上記(I)成分中の固形分と該(II)成分中の固形分の合計質量に対して該(II)成分中の固形分量が0.1~40質量%である量
を含有するエマルジョン組成物であって、
前記(II)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂は、(A)オルガノポリシロキサンからなるコア粒子を有し、(B)ポリ(メタ)アクリル酸エステルをシェル層に有し、該(A)オルガノポリシロキサンと(B)ポリ(メタ)アクリル酸エステルの質量比が(A):(B)=40:60~95:5であること、及び、前記コアシェル樹脂の粒子表面における前記ポリ(メタ)アクリル酸エステルの結合率が50%以上であることを特徴とする、前記エマルジョン組成物を提供する。
また、本発明は、(a)皮膜形成能を有する樹脂 60~99.9質量部、及び
(b)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂 0.1~40質量部(但し(a)成分及び(b)成分の合計は100質量部である)及び、水を含むエマルジョン組成物であって、
前記シリコーン-アクリルコアシェル樹脂は、(A)オルガノポリシロキサンからなるコア粒子を有し、(B)ポリ(メタ)アクリル酸エステルをシェル層に有し、該(A)オルガノポリシロキサンと(B)ポリ(メタ)アクリル酸エステルの質量比が(A):(B)=40:60~95:5であること、及び、前記コアシェル樹脂の粒子表面における前記ポリ(メタ)アクリル酸エステルの結合率が50%以上であることを特徴とする、前記エマルジョン組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエマルジョン組成物は、優れた透明性、摺動性を有する皮膜を提供する。該エマルション組成物から成るコーティング剤から得られる皮膜は、基材の外観を損なわずに、高い耐摩耗性を維持する積層体を与えることができる。また本発明のエマルジョン組成物は水系であるため、作業面・環境面で利点が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例1のシリコーン-アクリルコアシェル樹脂についての透過電子顕微鏡(TEM)画像及びシェル層の厚みを測定したデータである。
【
図2】
図2は、本発明のシリコーン-アクリルコアシェル樹脂を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、下記成分(I)及び(II)を含有するエマルジョン組成物である。
(I)皮膜形成能を有する樹脂のエマルジョン 該(I)成分中の固形分と下記(II)成分中の固形分の合計質量に対して該(I)成分中の固形分量が60~99.9質量%である量
(II)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂のエマルジョン 上記(I)成分中の固形分と該(II)成分中の固形分の合計質量に対して該(II)成分中の固形分量が0.1~40質量%である量
前記(II)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂エマルジョンは、コア粒子が(A)オルガノポリシロキサンであり、シェル層に(B)ポリ(メタ)アクリル酸エステルを有し、
該(A)オルガノポリシロキサンと(B)ポリ(メタ)アクリル酸エステルの質量比が(A):(B)=40:60~95:5であること、及び、コアシェル樹脂の粒子表面におけるポリ(メタ)アクリル酸エステルの結合率(以下、被覆率ともいう)が50%以上であることを特徴とする。
以下、各成分について、より詳細に説明する。
【0014】
(I)本発明において皮膜形成能とは、一定温度以上で、乾燥後に塗膜表面の粒子性がなくなり、かつ、乾燥時に細かいひび割れなどを起こさない性能である。皮膜形成のための乾燥温度範囲は特に限定されないが、好ましくは30~150℃、より好ましくは100~150℃であるのがよい。本発明における樹脂エマルジョンは水系エマルジョンであるのがよい。樹脂エマルジョンに含まれる固形分量は、通常20~60質量%であり、好ましくは25~55質量%であり、さらに好ましくは30~50質量%であるのがよい。
【0015】
皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンは、従来公知のものであってよいが、好ましくは、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、スチレン・ブタジエン・アクリロニトリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びアミド系樹脂等のエマルジョンが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、及び(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単量体を用いたアクリル系樹脂エマルジョン、ウレタン系樹脂エマルジョン、及び、塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、又は塩化ビニル/(メタ)アクリル酸共重合体、又は塩化ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体等を用いた塩化ビニル系樹脂エマルジョンが挙げられる。(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸等が挙げられる。これらの樹脂のエマルジョンが皮膜形成能を有するには、エマルジョン粒子の平均粒子径が10~750nmであるのが好ましく、より好ましくは10~500nmを有するのがよい。該エマルジョン粒子の平均粒子径はTEM装置により測定されることができる。
【0016】
また、上記樹脂はガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある)120℃ 以下を有するのが好ましい。ガラス転移温度の上限は60℃以下が好ましく、30℃以下が更に好ましい。なお、ガラス転移温度の下限値は-50℃が好ましい。ガラス転移温度は、JISK 7121に基づき測定できる。
Tgの計算方法は、例えば、以下の式で表すことができる。すなわち、共重合体粒子のガラス転移温度は、重合体を形成する単量体のホモポリマーのガラス転移温度と単量体の含有量から算出することができる。
(Pa+Pb+Pc)/T=(Pa/Ta)+(Pb/Tb)+(Pc/Tc)
式中、Tは共重合体粒子のガラス転移温度(K)を表し、Pa、Pb、Pcは、それぞれ単量体a、b、cの含有量(質量%)を表し、Ta、Tb、Tcは、それぞれ単量体a、b、cのホモポリマーのガラス転移温度(K)を表す。
【0017】
皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンは、公知の方法、例えばアニオン又はノニオン系乳化剤等を用いた乳化重合法で合成することができる。あるいは市販品を使用してもよい。
市販のアクリル系樹脂エマルジョンとしては、日信化学工業社製のアクリル系のビニブラン(商品名)、ヘンケルジャパン社製のヨドゾール(商品名)、東亜合成社製のアロン(商品名)等が挙げられる。
市販のポリエーテル系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、アデカ社製のアデカボンタイターHUX-350(商品名)、DIC社製のWLS-201(商品名),WLS-202(商品名)、第一工業製薬社製のスーパーフレックスE-4000(商品名),E-4800(商品名)などが挙げられる。
ポリカーボネート系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、例えば、DIC社製のハイドランWLS-210(商品名),WLS-213(商品名)、宇部興産社製のUW-1005E(商品名),UW-5502(商品名)、三洋化成社製のパーマリンUA-368(商品名)、第一工業製薬社製のスーパーフレックス460(商品名),スーパーフレックス470(商品名)などが挙げられる。
ポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョンとしては、アデカ社製のアデカボンタイターHUX-380(商品名),HUX-540(商品名)、第一工業製薬社製のスーパーフレックス420(商品名),スーパーフレックス860(商品名)などが挙げられる。
市販の塩化ビニル系樹脂エマルジョンとしては、塩化ビニルとアクリル酸エステルや酢酸ビニル等との共重合樹脂である、日信化学工業社製の塩化ビニル系のビニブラン(商品名)が挙げられる。
【0018】
本発明のエマルジョン組成物において(I)成分の配合量は、当該(I)成分中の固形分と後述する(II)成分中の固形分の合計質量に対して該(I)成分中の固形分量が60~99.9質量%となる量であり、好ましくは65~95質量%である。この(I)成分の固形分量が上記下限値未満であると、耐摩耗性など皮膜特性が非常に悪くなるという不具合があり、上記上限値を超えると表面が滑らかでないために触感が悪いという不具合がある。
【0019】
(II)シリコーンアクリルコアシェル樹脂エマルジョンは、(A)オルガノポリシロキサンからなるコア粒子を有し、該コア粒子のシェル層に(B)ポリ(メタ)アクリル酸エステルを有するコアシェル樹脂のエマルジョンである。(A)成分と(B)成分の質量比は(A):(B)=40:60~95:5の割合であり、好ましくは50:50~85:15である。以下、該エマルジョンに含まれるシリコーンアクリルコアシェル樹脂について、より詳細に説明する。
【0020】
本発明のシリコーンアクリルコアシェル樹脂は、コアシェル樹脂の粒子表面における(メタ)アクリル酸エステルの結合率(以下、被覆率ともいう)が50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上であることを特徴とする。これによってシリコーン-アクリルコアシェル樹脂のエマルジョンを上述した(I)樹脂エマルジョンと混合した際に、優れた分散性が発揮される。本発明における、コアシェル樹脂のコア粒子表面における(メタ)アクリル酸エステルの結合率とは、より詳細には、該コアシェル樹脂の外周全長(α)に対する、該外周のうち前記ポリ(メタ)アクリル酸エステル部分の長さ(β)の比率((β/α)×100)で示される。TEM画像において10箇所以上測定して得た値の平均であるのがよい。これによってシリコーン-アクリルコアシェル樹脂のエマルジョンを上述した(I)樹脂エマルジョンと混合した際に、優れた分散性が発揮される。
本発明において、上記、外周におけるアクリル樹脂の結合率(又は被覆率)(Z)は下記式でも定義される。
結合率(又は被覆率)(Z)=[{(1)―(2)}/(1)]×100
上記式において、(1)はTEM画像から実測されたコアシェル粒子の直径から算出される理論上の外周全体の長さであり、(2)はTEM画像のシェル部分の陰影差が無い部分の長さ(実測値)である。該結合率は、TEM画像により10箇所以上測定して得た値の平均値であるのが好ましい。上記において、TEM画像のシェル部分の陰影差が無い部分とは、外周においてアクリル樹脂が結合してない部分の長さを意味する。即ち、(1)=(外周全長(α))であり、{(1)-(2)}=外周のうちポリ(メタ)アクリル酸エステル部分の長さ(β)である。コア粒子の全体がポリ(メタ)アクリル酸エステルで覆われている場合には、(2)の値が0となり、被覆率は100%である。
尚、コアシェル粒子の模式図を
図2に示す。
図2において、符号(1)がコア粒子(オルガノシロキサン)、符号(2)がシェル層におけるポリ(メタ)アクリル酸エステル部分であり、符号(3)で示す点線が外周全長(α)であり、符号(4)で示す部分がアクリル樹脂が結合してない部分(上記(2))である。
【0021】
上記(II)シリコーンアクリルコアシェル樹脂は、好ましくは、(a)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと、(b)(メタ)アクリル酸エステル単量体と、必要に応じて(c)これと共重合可能な官能基含有単量体とを、コアシェル重合させた反応物である。
【化1】
式(1)中、R
1は、置換もしくは非置換の、アリール基でない、炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2はフェニル基である。Xは互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であり、Yは互いに独立に、Xで定義される基、又は-[O-Si(X)
2]
d-Xで示される基であり、X及びYで示される基のうち少なくとも1個はヒドロキシ基であり、aは0以上の数であり、bはa,b,c,eの合計に対し30~100%となる数であり、cはa,b,c,eの合計に対し0~60%となる数であり、eはa,b,c,eの合計に対する割合が0~10%となる数である。dは0~10の数である。
【0022】
R1は、置換もしくは非置換の、アリール基でない、炭素数1~20の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、等のアルキル基が挙げられる。また、置換の一価炭化水素基としては、ハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、もしくは(メタ)アクリロキシ置換アミノ基で置換されたアルキル基が挙げられる。R1としては、好ましくはアルキル基、さらにはメチル基である。
【0023】
Xは、互いに独立に、置換もしくは非置換の炭素数1~20の一価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシ基である。一価炭化水素基は、例えば炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基である。ヒドロキシ基以外の基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、テトラデシルオキシ基等が挙げられる。また、置換アルキル基としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0024】
Yは、互いに独立に、上記したXで定義される基、又は-[O-Si(X)2]d-Xで示される基である。dは0~10の数であり、好ましくは0~5の数である。
【0025】
上記(a)式(1)で表されるオルガノポリシロキサンの製造方法は特に制限されないが、例えば環状オルガノシロキサンを開環重合して得ることができる。原料となる環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、及び1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。
【0026】
環状オルガノシロキサンの重合に用いる重合触媒としては、強酸が好ましく、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸が例示される。好ましくは乳化能を持つドデシルベンゼンスルホン酸である。
【0027】
また、環状オルガノシロキサンを開環乳化重合する際には、界面活性剤を用いるのがよい。該界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等が挙げられるが、中でも水に溶けやすく、ポリエチレンオキサイド鎖を持たないものが好ましい。更に好ましくは、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん及びアルキルりん酸塩であり、特に好ましくは、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウムである。界面活性剤の存在下で開環乳化重合することにより、上記式(1)で表されるオルガノポリシロキサンからなるエマルジョン粒子を得ることができる。
【0028】
環状オルガノシロキサンの開環乳化重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上が更に好ましい。更に、重合後に5~30℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。
【0029】
本発明に用いる(b)(メタ)アクリル酸エステル(以下、アクリル成分ということがある)は、ヒドロキシ基、アミド基、カルボキシ基等の官能基を持たないアクリル酸エステル単量体又はメタクリル酸エステル単量体を指し、炭素数1~10のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、更にはアクリル成分のポリマーのガラス転移温度(以下、Tgということがある)が40℃以上、好ましくは60℃以上になる単量体が好ましく、かかる単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ブチル等が挙げられる。なお、Tgの上限は、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。当該ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0030】
また、前記(b)(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な官能基含有単量体(c)を更に反応させてもよい。例えば、(メタ)アクリル酸単量体にカルボキシ基、アミド基、ヒドロキシアルキル基あるいはビニル基、又はアリル基等の不飽和結合基を有する単量体でよい。例えば、メタクリル酸、アクリル酸、アクリルアマイド、メタクリル酸アリル、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、及びメタクリル酸2-ヒドロキシプロピルが挙げられ、これらを共重合することでコアシェル樹脂と熱可塑性樹脂との相容性を向上させることが可能となる。好ましくは、メタクリル酸、アクリル酸、及びメタクリル酸2-ヒドロキシエチルである。
【0031】
上記シリコーンアクリルコアシェル樹脂のエマルジョンを製造する方法において、(b)(メタ)アクリル酸エステルの量は、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して10~150質量部が好ましく、より好ましくは20~100質量部である。(b)成分が少なすぎると、粉体化が困難となり、(b)成分が多すぎると、十分な摺動性が発現しない。また(c)その他の官能基含有単量体を配合する場合、その量は前記(a)成分100質量部に対し0.01~50質量部が好ましく、より好ましくは0.01~20質量部、更に好ましくは0.01~10質量部であるのがよい。(c)成分が多すぎると、得られたシリコーンアクリルコアシェル樹脂のエマルジョンを(I)樹脂エマルジョンに過剰に添加しなければ、表面摺動性が向上しない可能性がある。
【0032】
本発明の(II)シリコーンアクリルコアシェル樹脂エマルジョンの製造方法は、先ず、上記(a)ポリオルガノシロキサン(コア粒子)のエマルジョンに、(b)(メタ)アクリル酸エステルと、必要に応じて(c)官能基含有単量体との混合物をラジカル重合させる。詳細には、例えばアニオン系界面活性剤の存在下、水中で(a)ポリオルガノシロキサンを乳化し、得られたエマルジョンに(b)成分と、必要に応じて(c)成分とを、ラジカル開始剤存在下で、25~55℃の条件にて、所定時間内(2~8時間)に2~10回の追加または連続的に滴下しながら反応させる。(b)成分と(c)成分を一括で投入すると、コアシェル粒子が作成されないおそれがある。
【0033】
ここで使用されるラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素が挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、アミン類等の還元剤を併用したレドックス系も使用することができる。ラジカル開始剤の使用量は、(メタ)アクリル酸エステルの0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%が更に好ましい。
【0034】
また安定性向上のためアニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等を添加することができる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシレントリデシルエーテル等のノニオン系乳化剤を添加することもできる。界面活性剤を添加する場合の使用量は、(メタ)アクリル酸エステルの0.1~5質量%が好ましい。
【0035】
(b)及び(c)成分の重合温度は25~55℃が好ましく、25~40℃が更に好ましい。また重合時間は2~8時間が好ましく、3~6時間が更に好ましい。
【0036】
更に、ポリマーの分子量を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。
【0037】
こうして得られるシリコーン-アクリルコアシェル樹脂エマルジョン(II)は、(a)ポリオルガノシロキサンをコア層とし、シェル層として(b)成分の及び任意の(c)成分の重合物を有するコアシェルポリマーである。さらに外周におけるポリ(メタ)アクリル酸エステルの結合率(被覆率)が50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、特には90%以上であり、特に好ましくは95%以上である。より詳細にはシリコーンエマルジョン粒子の表面においてポリ(メタ)アクリル酸エステルが結合しているコアシェル樹脂エマルジョンである。
【0038】
シリコーン-アクリルコアシェル樹脂エマルジョンにおける固形分は35~50質量%が好ましい。また、粘度(25℃)は、500mPa・s以下が好ましく、50~500mPa・sが更に好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。
【0039】
上記(II)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂エマルジョンにおけるエマルジョン粒子の平均粒子径は、50~400nmであることが好ましい。なお、平均粒子径は、TEM装置によって測定した値である。
【0040】
(II)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂エマルジョン粒子のコア層の平均粒子径は20~300nmであることが好ましい。より好ましくは50~250nmである。コア層の平均粒子径はTEM撮影画像の陰影差部分をTEM装置のスケールにて測定した値である。
【0041】
シリコーン-アクリルコアシェル樹脂エマルジョン粒子のシェルの厚みは1~50nmであることが好ましい。より好ましくは5~30nmである。シェルの厚みは本発明のシリコーンアクリルコアシェル樹脂の平均粒子径からコアにあたる(A)ポリオルガノシロキサンの平均粒子径を差し引いて1/2とした値である。
【0042】
(II)成分であるシリコーンアクリルコアシェル樹脂エマルジョンの配合量は、コーティング組成物中、上記(I)成分中の固形分と該(II)成分中の固形分の合計質量に対して該(II)成分中の固形分量が0.1~40質量%となる量であり、好ましくは5~30質量%である。シリコーンアクリルコアシェル共重合樹脂エマルジョンが上記下限値未満であると耐摩耗性において全く改善が見られないという不具合があり、上記上限値を超えると白化する上に耐摩耗性も低下していくという不具合がある。
【0043】
本発明のエマルジョン組成物は、(I)皮膜形成能を有する樹脂エマルジョンと、(II)シリコーン-アクリルコアシェル樹脂エマルジョンとを水系下でプロペラ式撹拌機やホモジナイザーなどの公知の混合調製方法によって混合することによって得られる。
【0044】
また、本発明のエマルジョン組成物には、性能に影響を与えない範囲で、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、界面活性剤、造膜助剤などの有機溶剤、他の樹脂等を添加してもよい。
【0045】
このようにして得られた本発明のエマルジョン組成物をコーティング剤として、基材の片面又は両面に塗布又は浸漬、乾燥(室温~150℃)し皮膜を形成する。基材としては例えば、プラスチック(PET、PI、合成皮革等)、硝子(汎用ガラス、SiO2等)、金属(Si、Cu、Fe、Ni、Co、Au、Ag、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、それらの合金等)、木材、繊維(布、糸等)、紙、及びセラミック(酸化物、炭化物、窒化物等の焼成物など)などが挙げられる。本発明のコーティング剤から成る皮膜は、皮膜形成性樹脂の長所を維持しながら、シリコーン樹脂の撥水性、耐候性、耐熱性、耐寒性、ガス透過性、及び摺動性などの利点を、長期に亘って基材に付与することができる。これは、皮膜形成能を有する樹脂と硬化性シリコーン樹脂が丈夫な海島構造を作っているためと考えられる。
【0046】
ここで、プラスチック基材としては、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンポリマー、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂等が使用される。プラスチック加工品としては、自動車内装材や有機ガラス、電材や建材、建築物の外装材、液晶ディスプレイ等に使用する光学フィルム、光拡散フィルム、携帯電話、家電製品等がある。乾燥させる方法としては、室温下で1~10日間放置する方法が挙げられるが、硬化を迅速に進行させる観点から、20~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。また、前記プラスチック基材が加熱によって変形や変色を引き起こしやすい材質からなるものである場合には、20~100℃の比較的低温下で乾燥することが好ましい。
【0047】
ガラス基材としては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が使用される。ガラス加工品としては、建築用板ガラス、自動車等車両用ガラス、レンズ用ガラス、鏡用ガラス、ディスプレイパネル用ガラス、太陽電池モジュール用ガラス等がある。乾燥させる方法としては、室温で1~10日程度放置したり、20~150℃、特に60~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。
【0048】
木材基材としては、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科等の木材が使用される。木材加工品としては、木そのものを原料とする加工及び成形品、合板及び集成材及びそれらの加工及び成形品、及びそれらの組み合わせから選択されるものであってよく、例えば、建物の外装及び内装用資材を包含する住建築用資材、机などの家具類、木のおもちゃ、楽器等がある。20~150℃、特に50~150℃で0.5~5時間熱風乾燥させる方法が好ましい。また、乾燥温度は120℃以下にすれば塗膜の変色を避けることができる。
【0049】
繊維基材としては、木綿、麻、羊毛、絹、カシミヤ、石綿等の天然繊維及び、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素等の化学繊維が例示される。繊維加工品としては、すべての種類の織物、編物、不織布、あるいはフィルム、紙等がある。乾燥させる方法としては、室温で10分~数十時間放置したり、20~150℃の温度で、0.5分~5時間乾燥させる方法が好ましい。
【0050】
本発明のコーティング用組成物を基材へコーティングする方法は、特に限定しないが、例えば、グラビアコーター、バーコーター、ブレードコーター、ロールコーター、エアーナイフコーター、スクリーンコーター、カーテンコーター、刷毛塗りなどの各種コーターによる塗布方法、スプレー塗布、浸漬等が挙げられる。
【0051】
本発明のコーティング用組成物の基材への塗布量は、特に限定しないが、通常は、防汚性、施工作業性などの点から固形分換算で、好ましくは1~300g/m2、より好ましくは5~100g/m2の範囲または、厚さ1~500μm、好ましくは5~100μmの皮膜が形成されるような量で塗布し、自然乾燥又は100~200℃に加熱乾燥して成膜させるとよい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0053】
皮膜形成能を有する樹脂エマルジョン(I)の調整
[製造例1]
塩化ビニル系樹脂エマルジョンの製造
攪拌機、コンデンサー、温度計及び窒素ガス導入口を備えた重合容器に窒素置換後、イオン交換水67質量部、ぺレックスSSL(花王社製アニオン系界面活性剤 アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム)4質量部、ノイゲンL-6190(第一工業製薬社製 ノニオン系界面活性剤)5質量部、塩化ビニル52質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル48質量部を仕込み、攪拌しながら60℃に加温した。さらに過硫酸アンモニウム(開始剤)0.3質量部をイオン交換水10質量部に溶解したものと亜硫酸水素ナトリウム0.1質量部をイオン交換水3質量部に溶解させたものを添加し、レドックス系にて5~15時間重合反応させた。
重合内圧が0MPaになった時点で残存モノマーを真空にて1000ppmまで除去し、その後40℃以下まで冷却して、重合体を得た。その後防腐剤やイオン交換水を添加し、不揮発分43%、Tg-3℃の塩化ビニル系樹脂エマルジョン(塩化ビニル・アクリル酸共重合体樹脂のエマルジョン)を得た。
【0054】
[製造例2]
アクリル系樹脂エマルジョンの製造
撹拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコにイオン交換水104質量部を投入し脱酸素を行った。アクリル酸エチル57質量部、メタクリル酸メチル42質量部、80%メタクリル酸1質量部にアクアロンHS-10(第一工業製薬製ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテル硫酸アンモニウム) 2質量部をイオン交換水26質量部に溶解したものを投入してホモミキサーで乳化した。この乳化液を2Lガラスフラスコに5~7時間かけて滴下しながら50℃で過酸化物と還元剤の存在下でレドックス反応を行う事でラジカル重合し、不揮発分40.4%、Tg20℃のアクリル樹脂エマルジョン(アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体樹脂のエマルジョン)を得た。
【0055】
シリコーン-アクリルコアシェル樹脂エマルジョン(II)の調製
[製造例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~60℃で24時間重合反応を行った後、10~20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和し、エマルジョンを得た。該エマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)44.8%を有し、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状であった。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は、下記式の通りである。
【化2】
(Xのうち二つはメチル基であり、一つはヒドロキシ基であり、R
1はメチル基である)
上記で得たエマルジョンにイオン交換水125gを投入し、メタクリル酸メチル(MMA)232gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤の存在下でレドックス反応を行うことで、シリコーンエマルジョン粒子表面にポリメタクリル酸メチル(PMMA)シェル層が形成された樹脂のエマルジョン(固形分45.2%)を得た。
【0056】
[製造例4]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~60℃で24時間重合反応を行った後、10~20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。得られたエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)44.8%を有し、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状であった。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は、下記式の通りである。
【化3】
(Xのうち二つはメチル基であり、一つはヒドロキシ基であり、R
1はメチル基である)
上記で得たエマルジョンにイオン交換水50gを投入し、メタクリル酸メチル(MMA)95gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤の存在下でレドックス反応を行うことで、シリコーンエマルジョン粒子表面にPMMAシェル層が形成された樹脂のエマルジョン(固形分45.0%)を得た。
【0057】
[製造例5]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~60℃で24時間重合反応を行った後、10~20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。得られたエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)44.8%を有し、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状であった。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は、下記式の通りである。
【化4】
(Xのうち二つはメチル基であり、一つはヒドロキシ基であり、R
1はメチル基である)
上記で得たエマルジョンにイオン交換水442gを投入し、メタクリル酸メチル(MMA)807gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤の存在下でレドックス反応を行うことで、シリコーンエマルジョン粒子表面にPMMAシェル層が形成された樹脂のエマルジョン(固形分45.3%)を得た。
【0058】
[製造例6]
オクタメチルシクロテトラシロキサン300g、ジフェニルジメチルシロキサン300g(信越化学工業社製KF-54)、50%アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム24g(ぺレックスSS-L、花王社製)を純水45gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水490gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で10~20時間重合反応を行った後、10℃で10~20時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gでpHを中性付近に中和した。得られたエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)47.5%を有した。エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状であった。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は、下記式の通りである。
【化5】
(Xのうち二つはメチル基であり一つはヒドロキシ基であり、R
1はメチル基であり、R
2はフェニル基である)
上記で得たエマルジョンにイオン交換水167gを投入し、メタクリル酸メチル(MMA)249gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤の存在下でレドックス反応を行うことで、シリコーンエマルジョン粒子表面にPMMAシェル層が形成された樹脂のエマルジョン(固形分45.6%)を得た。
【0059】
[製造例7]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、ヘキサメチルジシロキサン(M2)1g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~60℃で24時間重合反応を行った後、10~20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が45.4%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状であった。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は、下記式の通りである。
【化6】
(R
1はメチル基であり、Xは全てメチル基である。)
上記で得たエマルジョンにイオン交換水133gを投入し、ここにメタクリル酸メチル(MMA)160g、及びアクリル酸ブチル(BA)74gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤の存在下でレドックス反応を行うことで、シリコーンエマルジョン粒子表面にPMMAシェル層が形成された樹脂のエマルジョン(固形分44.9%)を得た。
【0060】
[製造例8]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、ラウリル硫酸ナトリウム12gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~60℃で24時間重合反応を行った後、10~20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和し、エマルジョンを得た。該エマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)44.8%を有し、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状であった。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は、下記式の通りである。
【化7】
(Xのうち二つはメチル基であり、一つはヒドロキシ基であり、R
1はメチル基である)
上記で得たエマルジョンにイオン交換水125gを投入し、メタクリル酸メチル(MMA)232gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤の存在下でレドックス反応を行うことで、シリコーンエマルジョン粒子表面にポリメタクリル酸メチル(PMMA)シェル層が形成された樹脂のエマルジョン(固形分45.1%)を得た。
【0061】
[比較製造例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~60℃で24時間重合反応を行った後、10~20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。得られたエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)44.8%を有し、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状であった。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は、下記式の通りである。
【化8】
(上記Xのうち二つはメチル基であり、一つのヒドロキシ基であり、R
1はメチル基である)
上記で得たエマルジョンにイオン交換水125gを投入し、メタクリル酸メチル(MMA)232gを全量一括投入し、1時間撹拌後、3~5時間かけて30℃で過酸化物と還元剤を滴下しながらレドックス反応を行ったところ、シェル層が十分に形成されず、PMMAの大部分がコアに入ってしまった。即ち、エマルジョン粒子にPMMAが取りこまれた樹脂のエマルジョン(固形分45.5%)が得られた。後述する方法でシェル層(メタクリル酸エステル)の被覆率を算出したところ20%であった。
【0062】
[比較製造例2]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~60℃で24時間重合反応を行った後、10~20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。得られたエマルジョンは、105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)44.8%を有し、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状であった。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は、下記式の通りである。
【化9】
(Xは2つのメチル基と一つのヒドロキシ基、R
1はメチル基である。)
上記で得たエマルジョンにイオン交換水689gを投入し、メタクリル酸メチル(MMA)1256gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤の存在下でレドックス反応を行うことで、シリコーンエマルジョン粒子表面にPMMAシェル層が形成された樹脂のエマルジョン(固形分45.2%)を得た。
【0063】
[比較製造例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン600g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~60℃で24時間重合反応を行った後、10~20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。得られたエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)44.8%を有し、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状であった。該エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は下記式の通りである。
【化10】
(上記Xのうち二つはメチル基であり、一つはヒドロキシ基であり、R
1はメチル基である)
【0064】
[参考製造例]
参考製造例は、シランカップリング剤(3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、信越化学工業社製KBM-502)を表1の組成になるように配合し、下記式(1’)で示される、メタクリロキシプロピル基を有するf単位を有するオルガノポリシロキサンと、メタクリル酸メチルとを乳化グラフト重合させて得たエマルジョン樹脂に関する。
【0065】
オクタメチルシクロテトラシロキサン599.4g、KBM-502 0.6g、ラウリル硫酸ナトリウム6gを純水54gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸6gを純水54gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水470gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計、還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、50~60℃で24時間重合反応を行った後、10~20℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液12gで中性付近に中和した。得られたエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)45.3%を有し、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。
上記エマルジョン中のオルガノポリシロキサンの構造は、下記式の通りである。
【化11】
(式中、Xのうち二つはメチル基であり、一つはヒドロキシ基であり、R
1はメチル基であり、R
3はメタクリロキシプロピル基であり、Zはメチル基である)
上記で得たエマルジョンにイオン交換水125gを投入し、メタクリル酸メチル(MMA)232gを3~5時間かけて滴下しながら30℃で過酸化物と還元剤の存在下でレドックス反応を行うことで、シリコーンエマルジョン粒子表面にPMMAシェル層が形成された樹脂のエマルジョン(固形分45.1%)を得た。
【0066】
<被覆率の測定>
シリコーンアクリルコアシェル樹脂におけるポリ(メタ)アクリル酸エステルの結合率(被覆率)(Z)は、透過電子顕微鏡(TEM、JEM-2100TM日本電子社製)を用いて測定された画像より、下記式に当てはめて算出された。
被覆率(Z)=[{(1)―(2)}/(1)]×100
上記式において、(1)はTEM画像から実測されたコアシェル粒子の直径から算出される理論上の外周全体の長さであり、(2)はTEM画像のシェル部分の陰影差が無い部分の実測値(外周における一部の長さ)である。
コア粒子の全体がポリ(メタ)アクリル酸エステルで覆われている場合には、(2)の値が0となり、被覆率は100%である。
TEM画像における10箇所以上の粒子について測定して得た値の平均値を表中に記載した。
【0067】
<固形分の測定方法>
実施例及び比較例で得た各シリコーンアクリルコアシェル樹脂のエマルジョン(試料)約1gをアルミ箔製の皿に正確に量り取り、約105℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、試料の乾燥後の重さを量り、次式により蒸発残分を算出した。
【数1】
R:蒸発残分(%)
W:乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L:アルミ箔皿の質量(g)
T:乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:70φ×12h(mm)
【0068】
<シリコーンアクリルコアシェル樹脂の平均粒子径の測定方法>
日本電子製JEM-2100TMを用いて、各シリコーンアクリルコアシェル樹脂(樹脂エマルジョン粒子)の粒子径を測定した。
【0069】
<シェル厚み測定方法>
日本電子製JEM-2100TMを用い、5000倍に希釈したシリコーンアクリルコアシェル樹脂(樹脂エマルジョン)をグリッド上室温乾燥した後、観察を行い、シリコーンとアクリルの陰影差を装置のスケールを用いてシェル層の厚みを測定した。シェルの厚みはシリコーンアクリルコアシェル樹脂の平均粒子径からコアにあたるポリオルガノシロキサンの平均粒子径を差し引いて1/2とした値である。TEM画像における10箇所の粒子(N=10)について測定して得た値の平均値とした。
実施例1のシリコーンアクリルコアシェル樹脂について測定画像を
図1に示す。N=10のうちの一つのデータであり、シェル層の厚みは13.5nmである。N=10の平均値は15nmである。
【0070】
上記エマルジョン中に含まれるオルガノポリシロキサンの組成(重量部)及び物性を下記表1にまとめる。尚、表中のpHはエマルジョンの分散媒のpH(25℃)であり、重量平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)分析(溶媒:THF、ポリスチレン換算、25℃)により測定した。
【0071】
【表1】
※D4はオクタメチルシクロテトラシロキサンであり、KF-54はジフェニルジメチルシロキサンであり、M2はヘキサメチルジシロキサンである。
【0072】
シリコーン-アクリルコアシェル樹脂の組成(重量部)及び評価を下記表2に示す。
【0073】
【0074】
エマルジョン組成物の調製及び評価
[実施例1]
ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂エマルジョンとして、三洋化成工業社製の製品名「パーマリンUA-368」(粘度200mPa・s(25℃)、平均粒径300nm、固形分約5wt%)を用いた。該樹脂エマルジョンを撹拌しているところに、製造例3で得られたシリコ-ンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョン(固形分45.2wt%)を下記表3に記載の固形分比となる量で投入し、10分以上撹拌の後、80メッシュでろ過して、実施例1のエマルジョン組成物を得た。
【0075】
[実施例2~24、参考例1~3、比較例1~15]
実施例2~8、参考例1、及び比較例1~5では、各成分の配合を表3に記載の通りに変更した他は実施例1と同様にして、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂エマルジョンを含むエマルジョン組成物を得た。
実施例9~16、参考例2、及び比較例6~10では、各成分の配合を表5に記載の通りに変更した他は実施例1と同様にして、製造例2で得たアクリル系樹脂エマルジョンを含むエマルジョン組成物を得た。
実施例17~24、参考例3、及び比較例11~15では、各成分の配合を表7に記載の通りに変更した他は実施例1と同様にして、製造例1で得た塩化ビニル系樹脂エマルジョンを含むエマルジョン組成物を得た。
なお、表3、表5、及び表7において、各原料の配合量は樹脂エマルジョンの固形分量とシリコ-ンアクリルグラフト共重合樹脂エマルジョンの固形分量との合計を100質量部とした、各固形分の質量比率である。
【0076】
[成膜方法]
スライドガラス、PETフィルム、アクリル板
各例のコーティング組成物をバーコーターにて塗布し、105℃×3分で乾燥を行い、ドライで約23μmになるように、スライドガラス、PETフィルム及びアクリル板の各基材の上に塗膜を形成した。
【0077】
[ヘーズ値の測定]
製品名「ヘーズメーター NDH7000」(日本電色工業社製)にて上記各例のコーティング組成物の塗膜を有するスライドガラス(ヘーズ値0.70%)でのヘーズ値を測定した。
【0078】
[ヘーズ増加率]
ヘーズ増加率は、下記式により求められる。ヘーズ値の増加率が3000%以下であれば、透明性が高いと判断でき、より好ましくは1000%以下である。一方、ヘーズ値の増加率が3000%を超えると、積層体の透明性が悪くなり、白っぽく感じるようになる。
「ヘーズ値の増加率(%)」 = 〔( Y - X ) / X〕 × 100
X:基材のヘーズ値
Y:コーティング組成物を塗布した後のヘーズ値
【0079】
[静・動摩擦係数測定]
HEIDON TYPE-38(新東科学社製)にて200gの金属圧子を上記各例の塗膜に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力を測定し、摩擦力から摩擦係数を算出した。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
上記表3及び4記載の通り、ポリウレタン系樹脂エマルジョンについて、各基材に対する静・動摩擦係数の好ましい範囲は以下の通りである。
スライドガラス:静摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.10、動摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.03
PETフィルム:静摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.10、動摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.03
アクリル板:静摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.10、動摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.05
また、ポリウレタン系樹脂エマルジョンのヘーズ値の好ましい範囲は0.7~11.0%である。
【0087】
上記表5及び6記載の通り、アクリル系樹脂エマルジョンについて、各基材に対する静・動摩擦係数の好ましい範囲は以下の通りである。
スライドガラス:静摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.25、動摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.15
PETフィルム:静摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.30、動摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.15
アクリル板:静摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.30、動摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.15
また、アクリル系樹脂エマルジョンでのヘーズ値の好ましい範囲は0.7~20.0%である。
【0088】
上記表7及び8記載の通り、塩化ビニル系樹脂エマルジョンについて、各基材に対する静・動摩擦係数の好ましい範囲は以下の通りである。
スライドガラス:静摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.20、動摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.12
PETフィルム:静摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.20、動摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.12
アクリル板:静摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.20、動摩擦係数の好ましい範囲は0.01~0.12
また、塩化ビニル系樹脂エマルジョンのヘーズ値の好ましい範囲は0.7~11.0%である。
【0089】
上記表3~8に示す通り、コアシェル構造において本発明の質量比を満たさない比較製造例2のシロキサンエマルジョンを用いて調製されたエマルジョン組成物から得られるコーティング皮膜は、摩擦係数が大きく、摺動性に劣る。またコアシェル粒子におけるアクリル樹脂の結合率(被覆率)が少なすぎる比較製造例1のシリコーンアクリルコアシェル樹脂エマルジョンを用いて調製されたエマルジョン組成物から得られるコーティング皮膜は透明性に劣る。シリコーンアクリルコアシェル構造を有さない比較製造例3のオルガノポリシロキサンのエマルジョンでは分散性が悪く皮膜の透明性に劣る。
本発明のエマルジョン組成物から得られるコーティング皮膜は透明性が高く、摺動性に優れる。また、本発明のエマルジョン組成物は、従来のシランカップリング剤を使用して製造したシリコーンアクリル樹脂(比較製造例)を含むエマルジョン組成物(参考例1~3)と同等に、透明性及び摺動性に優れる皮膜を提供する。
【産業上の利用可能性】
【0090】
上記の通り、本発明のエマルジョン組成物から得られるコーティング皮膜は優れた透明性及び摺動性を有する。本発明のエマルジョン組成物は各種基材のコーティング剤として好適に使用でき、基材の外観を損なわずに、高い耐摩耗性を維持する積層体を与えることができる。また本発明のエマルジョン組成物は水系であるため、作業面及び環境面での利点も大きい。
【符号の説明】
【0091】
(1)コア粒子(オルガノポリシロキサン)
(2)シェル層(ポリ(メタ)アクリル酸エステル)
(3)シェル層の外周長さ((1)の値)
(4)外周においてポリ(メタ)アクリル酸エステルを有していない部分の長さ((2)の値)