(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】二酸化炭素電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 15/08 20060101AFI20240716BHJP
C25B 9/77 20210101ALI20240716BHJP
C25B 15/023 20210101ALI20240716BHJP
C25B 1/23 20210101ALN20240716BHJP
【FI】
C25B15/08 302
C25B9/77
C25B15/023
C25B1/23
(21)【出願番号】P 2021044778
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】小藤 勇介
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 智
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-045527(JP,A)
【文献】特開2015-054994(JP,A)
【文献】特開2019-167556(JP,A)
【文献】特開2012-219292(JP,A)
【文献】特開2019-148001(JP,A)
【文献】特開2015-187287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/08
C25B 9/77
C25B 15/023
C25B 1/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元電極と、酸化電極と、前記還元電極に二酸化炭素を含むガスを供給するためのガス流路と、前記酸化電極に水を含む電解液又は水蒸気を供給するための液流路と、前記還元電極と前記酸化電極とを分離する隔膜とを備える第1の電解セルと、
前記還元電極に前記ガスを供給するように、前記ガス流路に接続された第1の供給経路と、
前記還元電極で生成された生成物を少なくとも排出するように、前記ガス流路に接続された第1の排出経路と、
前記第1の排出経路中を流れるガス中の水分量を検知するように、前記第1の排出経路に設置された第1の水分量検知部と、
前記還元電極に供給する水分量を調整するように構成された水分量調整部と、
前記第1の水分量検知部の検知信号に基づいて前記水分量調整部を制御するように構成された制御部と
を具備する二酸化炭素電解装置。
【請求項2】
さらに、前記第1の供給経路中を流れるガス中の水分量を検知するように、前記第1の供給経路に設置された第2の水分量検知部を具備する、請求項1に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項3】
前記水分量調整部は、前記酸化電極に供給する前記電解液の量を調節する流量調整部を備える、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項4】
さらに、前記酸化電極に前記電解液を供給するように、前記
液流路に接続された第2の供給経路と、
前記酸化電極で生成された生成物を前記電解液と共に排出するように、前記
液流路に接続された第2の排出経路と、
前記第2の供給経路、前記
液流路、及び前記第2の排出経路を介して前記電解液を循環させるポンプとを具備し、
前記水分量調整部は、前記ポンプを備え、
前記制御部は、前記第1の水分量検知部の検知信号に基づいて前記ポンプの流量を調整するように構成される、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項5】
前記水分量調整部は、前記第1の供給経路を流れる前記
ガス中の湿度を調整する湿度調節器を備える、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項6】
前記水分量調整部は、前記第1の電解セルの温度を調整する温度調節器を備える、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項7】
さらに、前記第1の電解セルの温度を調整するように、前記還元電極と多孔質導電材を介して配置された冷却水流路と、前記冷却水流路に冷却水を導入する冷却水ポンプを具備し、
前記水分量調整部は、前記冷却水ポンプを備え、
前記制御部は、前記第1の水分量検知部の検知信号に基づいて前記冷却水ポンプの流量を調整するように構成される、請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項8】
前記水分量検知部は、露点計を備える、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項9】
前記水分量検知部は、湿度計及び温度計を備える、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項10】
さらに、還元電極と、酸化電極と、前記還元電極に二酸化炭素を含むガスを供給するためのガス供給路と、前記酸化電極に水を含む電解液又は水蒸気を供給するための
液流路と、前記還元電極と前記酸化電極とを分離する隔膜とを備える第2の電解セルを具備し、
前記第2の電解セルの前記ガス流路は、前記第1の供給経路及び前記第1の排出経路と接続されている、請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の二酸化炭素電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二酸化炭素電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭といった化石燃料の枯渇が懸念され、持続的に利用できる再生可能エネルギーへの期待が高まっている。そのようなエネルギー問題や環境問題の観点から、再生可能エネルギーを用いて二酸化炭素を電気化学的に還元し、貯蔵可能な化学エネルギー源を作り出す人工光合成技術が検討されている。人工光合成技術を実現する二酸化炭素電解装置は、例えば水(H2O)を酸化して酸素(O2)を生成する酸化電極と、二酸化炭素(CO2)を還元して炭素化合物を生成する還元電極と、これらを分離する隔膜とを備えている。二酸化炭素電解装置の酸化電極及び還元電極は、例えば太陽光発電、水力発電、風力発電、地熱発電等の再生可能エネルギーに由来する電源に接続される。
【0003】
二酸化炭素電解装置の還元電極は、例えば流路中を流れるCO2ガスと接するように配置される。還元電極は、再生可能エネルギーに由来する電源からCO2の還元電位を得ることによって、CO2を還元して一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CH3OH)、メタン(CH4)、エタノール(C2H5OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エチレングリコール(C2H6O2)等の炭素化合物を生成する。このような電気化学的にCO2を還元する場合、炭素化合物の生成以外に、反応に介在するイオン種により水の消費又は生成が生じる。水が生成する反応が生じた場合には、還元電極表面の水分過剰(フラッディング)により水素の生成が発生するという問題がある。また、水が消費される反応が生じた場合には、隔膜の乾燥や流路への塩析出によりセルの劣化が生じるという問題がある。このような還元電極における水分過剰や水分消費による問題を解消することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-528519号公報
【文献】特表2013-536319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、還元電極付近での水分過剰や水分消費を抑制することによって、効率や耐久性を高めた二酸化炭素電解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の二酸化炭素電解装置は、還元電極と、酸化電極と、前記還元電極に二酸化炭素を含むガスを供給するためのガス流路と、前記酸化電極に水を含む電解液又は水蒸気を供給するための液流路と、前記還元電極と前記酸化電極とを分離する隔膜とを備える電解セルと、前記還元電極に前記ガスを供給するように、前記ガス流路に接続された第1の供給経路と、前記還元電極で生成された生成物を少なくとも排出するように、前記ガス流路に接続された第1の排出経路と、前記第1の排出経路中を流れるガス中の水分量を検知するように、前記第1の排出経路に設置された第1の水分量検知部と、前記還元電極に供給する水分量を調整するように構成された水分量調整部と、前記第1の水分量検知部の検知信号に基づいて前記水分量調整部を制御するように構成された制御部とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態の二酸化炭素電解装置を示す図である。
【
図2】第2の実施形態の二酸化炭素電解装置を示す図である。
【
図3】第3の実施形態の二酸化炭素電解装置を示す図である。
【
図4】第4の実施形態の二酸化炭素電解装置を示す図である。
【
図5】実施例1の二酸化炭素電解装置におけるセル温度を変化させた場合の電流密度と還元電極の水分量との関係を示す図である。
【
図6】実施例2の二酸化炭素電解装置における加湿温度と還元電極の水分量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の二酸化炭素電解装置について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0009】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の二酸化炭素電解装置1(1A)について、
図1を参照して説明する。
図1に示す二酸化炭素電解装置1Aは、電解セル2と、電解セル2に二酸化炭素(CO
2)を含むガス(以下、単にCO
2ガスと記す場合もある)を供給する第1の供給経路3と、電解セル2でCO
2の還元反応により生成された生成物を含むガスを排出する第1の排出経路4と、電解セル2に水(H
2O)を含む電解液又は水蒸気を供給する第2の供給経路5と、電解セル2でH
2Oの酸化反応により生成された生成物を電解液と共に排出する第2の排出経路6と、各部の動作等を制御する制御部7とを具備している。制御部7は、例えばPCやマイコン等のコンピュータで構成され、後述するように各部で出力されたデータ信号を演算処理し、必要な制御信号を構成部に出力する。
【0010】
電解セル2は、還元電極(カソード)8と、酸化電極(アノード)9と、隔膜10と、CO2を含むガスを還元電極8に供給するように、還元電極8と接触させつつ流通させるガス流路11と、水を含む電解液(アノード溶液)を酸化電極9に供給するように、酸化電極9と接触させつつ流通させる液流路12と、還元電極8と電気的に接続された第1の集電板13と、酸化電極9に電気的に接続された第2の集電板14とを備えている。電解セル2の第1及び第2の集電板13、14は、電源15と電気的に接続されている。
【0011】
還元電極8は、二酸化炭素(CO2)の還元反応を生起し、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、エチレングリコール(C2H6O2)等の炭素化合物を生成する電極(カソード)である。還元電極8においては、CO2の還元反応と同時に、水(H2O)の還元反応により水素(H2)を発生する副反応が生起される場合がある。還元電極8は、例えば二酸化炭素の還元反応により炭素化合物を生成するための還元触媒を含んでいる。還元触媒としては、二酸化炭素を還元するための活性化エネルギーを減少させる材料が用いられる。言い換えると、二酸化炭素の還元反応により炭素化合物を生成する際の過電圧を低下させる材料が用いられる。
【0012】
還元触媒を含む還元電極8には、例えば金属材料や炭素材料を用いることができる。金属材料としては、例えば金、アルミニウム、銅、銀、白金、パラジウム、亜鉛、水銀、インジウム、ニッケル、チタン等の金属、当該金属を含む合金等を用いることができる。炭素材料としては、例えばグラフェン、カーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)、フラーレン、ケッチェンブラック等を用いることができる。なお、これらに限定されず、還元触媒として例えばRu錯体又はRe錯体等の金属錯体、イミダゾール骨格やピリジン骨格を有する有機分子を用いてもよい。還元触媒は複数の材料の混合物であってもよい。還元電極8は、例えば導電性基材上に薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤ状等の還元触媒を設けた構造を有していてもよい。
【0013】
還元電極8は、例えばガス拡散層と還元触媒層とを有している。ガス拡散層と還元触媒層との間には、ガス拡散層より緻密な多孔質層を配置してもよい。ガス拡散層はガス流路11側に配置され、還元触媒層は隔膜10側に配置される。還元触媒層は、触媒ナノ粒子や触媒ナノ構造体等を有することが好ましい。ガス拡散層は、例えばカーボンペーパやカーボンクロス等により構成され、撥水処理が施されている。還元触媒層には、イオン種の移動経路となる固体電解質、また撥水成分を必要に応じて導入することができる。還元触媒層には、隔膜10を介して酸化電極9から電解液やイオンが供給される。ガス拡散層においては、ガス流路11からCO2ガスが供給され、またCO2ガスの還元反応の生成物が排出される。CO2の還元反応は、ガス拡散層と還元触媒層との境界近傍で生起し、ガス状の生成物はガス流路11から排出される。
【0014】
酸化電極9は、水を含む電解液(アノード溶液)中の物質やイオン等の被酸化物質を酸化する電極(カソード)である。例えば、水(H2O)を酸化して酸素や過酸化水素水を生成したり、塩化物イオン(Cl-)を酸化して塩素を生成する。酸化電極9は、被酸化物質の酸化触媒を含んでいる。酸化触媒としては、被酸化物質を酸化する際の活性化エネルギーを減少させる材料、言い換えると反応過電圧を低下させる材料が用いられる。
【0015】
そのような酸化触媒材料としては、例えばルテニウム、イリジウム、白金、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン等の金属が挙げられる。また、二元系金属酸化物、三元系金属酸化物、四元系金属酸化物等を用いることができる。二元系金属酸化物としては、例えば酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)等が挙げられる。三元系金属酸化物としては、例えばNi-Fe-O、Ni-Co-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等が挙げられる。四元系金属酸化物としては、例えばPb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等が挙げられる。なお、これらに限定されず、酸化触媒としてコバルト、ニッケル、鉄、マンガン等を含む金属水酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体を用いることもできる。また、複数の材料を混合して用いてもよい。
【0016】
また、酸化電極9は酸化触媒と導電性材料の両方を含んだ複合材料でもよい。導電性材料としては、例えばカーボンブラック、活性炭、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、ダイヤモンド等の炭素材料、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素がドープされた酸化錫(Fluorine-doped Tin Oxide:FTO)、アルミニウムがドープされた酸化亜鉛(Aluminum-doped Zinc Oxide:AZO)、アンチモンがドープされた酸化錫(Antimony-doped Tin Oxide:ATO)等の透明導電性酸化物、Cu、Al、Ti、Ni、Ag、W、Co、Au等の金属、それら金属を含む合金が挙げられる。酸化電極9は、例えば導電性基材上に薄膜状、格子状、粒子状、ワイヤ状等の酸化触媒を設けた構造を有していてもよい。導電性基材としては、例えばチタン、チタン合金、又はステンレス鋼を含む金属材料が用いられる。酸化電極9には、イオン種の移動経路となる固体電解質、また撥水成分を必要に応じて導入することができる。
【0017】
隔膜10には、アニオン又はカチオンを選択的に透過させることができる膜が用いられる。隔膜10としては、例えばアストム社のネオセプタ(登録商標)、旭硝子社のセレミオン(登録商標)、Aciplex(登録商標)、Fumatech社のFumasep(登録商標)、fumapem(登録商標)、デュポン社のテトラフルオロエチレンをスルホン化して重合したフッ素樹脂であるナフィオン(登録商標)、LANXESS社のlewabrane(登録商標)、IONTECH社のIONSEP(登録商標)、PALL社のムスタング(登録商標)、mega社のralex(登録商標)、ゴアテックス社のゴアテックス(登録商標)等のイオン交換膜を用いることができる。また、炭化水素を基本骨格とした膜や、アニオン交換ではアミン基を有する膜を用いてイオン交換膜が構成されていてもよい。隔膜10には、カチオン交換膜とアニオン交換膜を積層させたバイポーラ膜を用いてもよい。
【0018】
隔膜10はイオン交換膜以外に、例えばシリコーン樹脂、フッ素系樹脂(パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)等)、ポリエステルスルホン(PES)、セラミックスの多孔質膜、ガラスフィルタや寒天等を充填した充填物、ゼオライトや酸化物等の絶縁性多孔質体等を用いることができる。さらに、親水性の多孔質膜は、気泡による目詰まりを起こすことがないため、隔膜10として好ましく用いられる。
【0019】
電源15は、電解セル2に酸化還元反応を生起する電力を投入するものであって、還元電極8及び酸化電極9に電気的に接続される。電源15から供給される電気エネルギーを用いて、還元電極8による還元反応及び酸化電極9による酸化反応が行われる。電源15と還元電極8との間、及び電源15と酸化電極9との間は、例えば配線で接続されている。電解2と電源15との間には、必要に応じてインバータ、コンバータ、電池等を設置してもよい。電解セル2の駆動方式は、定電圧方式でもよいし、定電流方式でもよい。
【0020】
電源15は、通常の商用電源や電池等であってもよいし、また再生可能エネルギーを電気エネルギーに変換して供給する電源であってもよい。このような電源の例としては、風力、水力、地熱、潮汐力等の運動エネルギーや位置エネルギーを電気エネルギーに変換する電源、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子を有する太陽電池のような電源、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池や蓄電池等の電源、音等の振動エネルギーを電気エネルギーに変換する装置等の電源が挙げられる。光電変換素子は、照射された太陽光等の光のエネルギーにより電荷分離を行う機能を有する。光電変換素子の例としては、pin接合型太陽電池、pn接合型太陽電池、アモルファスシリコン太陽電池、多接合型太陽電池、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、色素増感型太陽電池、有機薄膜太陽電池等を含む。
【0021】
還元電極8は、一方の表面がCO2ガスを流通させるガス流路11に面し、かつ他方の面が隔膜10と接するように配置されている。ガス流路11は、第1の流路板16に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。ガス流路11を構成する第1の流路板16には、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、炭素材料等が挙げられる。第1の流路板16の還元電極8とは反対側の面と電気的に接している。第1の流路板16には、図示を省略したガスを導入するためのガス流路11の導入口及び生成ガス等を排出するための排出口が設けられている。ガス流路11の導入口には、CO2ガスを供給する第1の供給経路3が接続されている。ガス流路11の排出口には、CO2の還元反応により生成された生成物を含むガスを排出する第1の排出経路4が接続されている。
【0022】
酸化電極9は、一方の表面が水を含む電解液(アノード溶液)を流通させる液流路12に面し、かつ他方の面が隔膜10と接するように配置されている。液流路12は、第2の流路板17に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。液流路12を構成する第2の流路板17には、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、炭素材料等が挙げられる。第2の流路板17の酸化電極9とは反対側の面と電気的に接している。第2の流路板17には、図示を省略したアノード溶液を導入するための液流路11の導入口及びアノード溶液や生成物等を排出するための液流路11の排出口が設けられている。液流路12の導入口には、アノード溶液を供給する第2の供給経路5が接続されている。液流路12の排出口には、アノード溶液やO2等の酸化反応により生成された生成物を排出する第2の排出経路6が接続されている。なお、第1の流路板16及び第2の流路板17には、締め付けのためのネジ穴等が設けられている。また、各流路板16、17の前後には、図示を省略したパッキン等が必要に応じて挟み込まれる。
【0023】
アノード溶液として用いられる電解液には、水(H2O)を用いた溶液、例えば任意の電解質を含む水溶液を用いることができる。この溶液は水の酸化反応を促進する水溶液であることが好ましい。電解質を含む水溶液としては、例えばリン酸イオン(PO4
2-)、ホウ酸イオン(BO3
3-)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)、リチウムイオン(Li+)、セシウムイオン(Cs+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、塩化物イオン(Cl-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、炭酸イオン(CO3
-)、水酸化物イオン(OH-)等を含む水溶液が挙げられる。
【0024】
上述した電解液としては、例えばイミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4
-やPF6
-等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いることができる。さらに、他の電解液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミン等が挙げられる。これらの電解液が、イオン伝導性が高く、二酸化炭素を吸収する性質を有し、還元エネルギーを低下させる特性を有していてもよい。
【0025】
一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等が挙げられる。アミンの炭化水素は、アルコールやハロゲン等が置換していてもよい。アミンの炭化水素が置換されたものとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、クロロメチルアミン等が挙げられる。また、不飽和結合が存在していてもよい。これら炭化水素は、二級アミン、三級アミンも同様である。
【0026】
二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等が挙げられる。置換された炭化水素は、異なってもよい。これは三級アミンでも同様である。例えば、炭化水素が異なるものとしては、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン等が挙げられる。
【0027】
三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリエキサノールアミン、メチルジエチルアミン、メチルジプロピルアミン等が挙げられる。
【0028】
イオン液体の陽イオンとしては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾールイオン、1-メチル-3-ペンチルイミダゾリウムイオン、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0029】
イミダゾリウムイオンの2位が置換されていてもよい。イミダゾリウムイオンの2位が置換された陽イオンとしては、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-ペンチルイミダゾリウムイオン、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0030】
ピリジニウムイオンとしては、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム、ペンチルピリジニウム、ヘキシルピリジニウム等が挙げられる。イミダゾリウムイオン及びピリジニウムイオンは共に、アルキル基が置換されていてもよく、不飽和結合が存在してもよい。
【0031】
第1の供給経路3には、CO2ガス供給部18が接続されている。第1の排出経路4には、その中を流れるガス中の水分量を検知する第1の水分量検知部19が設けられている。第1の供給経路3にも、必要に応じて第2の水分量検知部20が設けられる。第1及び第2の水分量検知部19、20は、それぞれ制御部7と電気的に接続されている。第1及び第2の水分量検知部19、20には、例えば鏡面冷却式露点計や静電容量式露点計等の露点計が用いられる。第1及び第2の水分量検知部19、20は、湿度計と温度計とで構成してもよい。第2の水分量検知部20を設ける場合、第1の水分量検知部19で検知された水分量M1と第2の水分量検知部20で検知された水分量M2との差分(M1-M2)から、還元電極8で生成された水分量又は消費された水分量を推定することができる。第1の供給経路3から供給されるガス中の水分量が事前に既知である場合には、第2の水分量検知部20を設けなくてもよく、第1の水分量検知部19だけで生成又は消費水分量を推定することができる。第1及び第2の水分量検知部18、19には、ガスの流速を計測する流量計を含んでいてもよい。上記した露点計等と流量計とを用いることによって、ガス中の水分量を定量化することができる。
【0032】
第2の排出経路6には、気液分離器21が設けられている。第2の排出経路6から排出された、酸化電極9で生成された生成物を含むアノード溶液は、気液分離器21に送られる。酸化電極9での生成物である酸素(O2)等は、気液分離器21で分離されて、系外に送出して回収又は大気中に放出される。酸化電極9での生成物が分離されたアノード溶液は、気液分離器21から第2の供給経路5に送られる。第2の供給経路5には、ポンプ22が設けられている。アノード溶液は、第2の供給経路5、ポンプ22、電解セル2の液流路12、第2の排出経路6、及び気液分離器21を介して循環している。ポンプ22は制御部7と電気的に接続されており、後述するように、ポンプ22の出力(アノード溶液の吐出力)は制御部7により制御される。
【0033】
実施形態の二酸化炭素電解装置1は、さらに還元電極8に供給する水分量を調整する水分量調整部を有している。第1の実施形態の二酸化炭素電解装置1Aにおいては、制御部7により出力(アノード溶液の吐出力)が制御されるポンプ22が水分量調整部を構成している。すなわち、制御部7には第1及び第2の水分量検知部19、20からの検知信号(データ信号)が送られ、それに基づいて水分量調整部としてのポンプ22に制御信号を出力する。制御部7は、第1及び第2の水分量検知部19、20から送信されるデータ信号の要求基準、例えば還元電極8における水分量とデータ信号との相関に基づく要求基準が予め記憶されており、要求基準とデータ信号との関係に基づいて制御部7からポンプ22に制御信号が出力される。
【0034】
そして、水分量の検知信号が要求基準より低い場合、すなわち還元電極8の水分量が基準値より低い場合には、出力を上げるようにポンプ22に制御部7から制御信号が送られる。アノード溶液の液流路12への供給量を増やすと液流路12内の圧力が増加し、隔膜10を介して還元電極8に移動する水分量を増やすことができる。逆に、水分量の検知信号が要求基準より高い場合、すなわち還元電極8の水分量が基準値より高い場合には、出力を下げるようにポンプ22に制御部7から制御信号が送られる。アノード溶液の液流路12への供給量を減らすと液流路12内の圧力が減少し、隔膜10を介して還元電極8に移動する水分量を減らすことができる。
【0035】
次に、二酸化炭素電解装置1の動作について説明する。ここでは、電解液として炭酸水素カリウム水溶液を用い、二酸化炭素(CO2)を還元して主として一酸化炭素(CO)を生成し、かつ水(H2O)を酸化して酸素(O2)を生成する場合について主として説明するが、二酸化炭素の還元生成物としての炭素化合物は一酸化炭素に限られるものではなく、前述したCH4、C2H6、C2H4、CH3OH、C2H5OH、C2H6O2等の有機炭素化合物であってもよい。還元電極8と酸化電極9の間に電解電圧以上の電圧を電源15から印加すると、液流路12中の電解液と接する酸化電極9付近で水(H2O)の酸化反応が生じる。下記の式(1)に示すように、電解液中に含まれるH2Oの酸化反応が生じ、電子が失われ、酸素(O2)と水素イオン(H+)とが生成される。生成された水素イオン(H+)の一部は、隔膜を介して還元電極8に移動する。
2H2O → 4H++O2+4e- …(1)
【0036】
酸化電極9で生成されたH+は、酸化電極9内に存在する電解液及び隔膜10内を移動し、還元電極8付近に到達する。電源15から還元電極8に供給される電流に基づく電子(e-)と還元電極8付近に移動したH+とによって、二酸化炭素(CO2)の還元反応が生じる。具体的には、下記の式(2)に示すように、ガス流路11から還元電極8に供給されたCO2が還元されてCOが生成される。さらに、下記の式(3)に示すように、副反応として水素イオン(H+)が還元されて水素が生成されることがある。
2CO2+4H++4e- → 2CO+2H2O …(2)
2H++2e- → H2 …(3)
【0037】
還元電極8付近のpHがアルカリ環境下の場合、下記の式(4)に示すように、水と二酸化炭素が還元されて、一酸化炭素と水酸化物イオンとが生成される場合もある。また、副反応として式(5)の反応により水素が生成する。
2CO2+2H2O+4e- → 2CO+4OH-…(4)
2H2O+2e- → 2OH- …(5)
生成された水酸化物イオンは、隔膜10を介して酸化電極9に移動し、下記の式(6)に示すように、酸化電極9で水酸化物イオンが酸化されて酸素を生成する反応が生じる。
4OH- → 2H2O+O2+4e- …(6)
また、式(4)で生成した水酸化物イオンは、還元電極8付近に存在するCO2と反応し、重炭酸イオンや炭酸水素イオンを形成し、酸化電極9に移動する場合もある。さらに、副反応として水を還元して水素が生されることがある。
【0038】
上記したCO2の還元反応が進行する際において、式(2)又は式(4)に示すように、還元電極8では水が生成又は消費される反応が生じる。還元電極8付近に水が多量に存在すると、還元電極8へのCO2の供給が滞り、副反応である水素の生成が優勢的に進行することによって、CO2の還元効率が低下する。一方、還元電極8付近の水が少なくなると隔膜10の乾燥による劣化が生じたり、隔膜10を介して酸化電極9から移動してきた電解質成分がガス流路11内に塩として析出し、ガス流路11が閉塞してCO2の供給が停止する。これらは、いずれも電解セル2の劣化要因となる。
【0039】
そこで、第1の実施形態の二酸化炭素電解装置1Aにおいては、上述したように第1及び第2の水分量検知部19、20からの検知信号(データ信号)が制御部7に送られ、それに基づいて水分量調整部としてのポンプ22に制御信号を出力する。制御部7は、第1及び第2の水分量検知部19、20から送信されるデータ信号と要求基準との関係に基づいてポンプ22に制御信号を送り、ポンプ22の出力(電解液の吐出力)を制御する。ポンプ22の出力を制御することによって、電解液の液流路12への供給量が増減され、それに基づいて液流路12内の圧力が増減される。従って、還元電極8の水分量を調整することができ、上記したCO2の還元効率の低下、隔膜10の乾燥、ガス流路11内への塩の析出等を抑制することができる。これらによって、還元効率や耐久性を高めた二酸化炭素電解装置1Aを提供することが可能になる。なお、第1の実施形態では、酸化電極9からの水の移動をポンプ22の流量制御により調節しているが、例えば第2の排出経路6中に背圧弁として可変絞り弁を設け、酸化電極9における圧力を制御することによって、酸化電極9から還元電極8への水の移動を制御するようにしてもよい。
【0040】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の二酸化炭素電解装置1Bについて、
図2を参照して説明する。
図2に示す二酸化炭素電解装置1Bは、検知部として第1の排出経路4中に第1の水分量検知部19のみが設けられていると共に、水分量調整部として電解セル2の温調器23が設けられている。さらに、電解セル2に温度測定器24が設置されている。温度測定器24は還元電極8側及び酸化電極9側のいずれに設置してもよいが、酸化電極9側に設置することが好ましい。これら以外の構成について、第2の実施形態の二酸化炭素電解装置1Bは第1の実施形態と同様な構成を有している。
【0041】
第2の実施形態による二酸化炭素電解装置1Bは、第1の排出経路4中に配置された第1の水分量検知部19が制御部7に電気的に接続される。制御部7は、電解セル2の温度を調節する温調器23に接続されている。第2の実施形態では、第1の供給流路3に供給されるCO2ガス中の水分量は既知である場合を想定しており、その場合には第1の排出経路4中の第1の水分量検知部19のみで還元電極8付近の水分量を把握できる。
【0042】
酸化電極9から隔膜10を介して移動する水分の移動量を制御することで、還元電極8における水分量を調節することは、第1の実施形態と同様であるが、第2の実施形態では電解セル2の温度を調節することにより同様の効果を得ている。温調器23としては、電解セル2に接触させたヒーターや冷却器等が用いられる。温調器23は電解セル2と直接接触していなくてもよく、第1の供給経路3や第2の供給経路5又は第2の排出経路6に設置され、気体や電解液を加熱冷却することで、間接的に電解セル2の温調を行うものであってもよい。
【0043】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の二酸化炭素電解装置について、
図3を参照して説明する。
図3に示す二酸化炭素電解装置1Cは、第1の水分量検知部19及び第2の水分量検知部20を有し、水分量調整部として第1の供給経路3に湿度調整器(調湿器)25が設けられている。湿度調整器25はガスを加湿又は除湿し、ガス中の水分量(露点温度)を調整する機能を有する。湿度調整器25は、加湿機能のみを有するものであってもよいが、加湿及び除湿の両機能を有するものが好ましい。これら以外の構成について、第3の実施形態の二酸化炭素電解装置1Cは第1の実施形態と同様な構成を有している。
図3に示すよう、第1の水分量検知部19及び第2の水分量検知部20で検知された検知信号は制御部7に送られ、これにより水分量調整部である湿度調整器25の動作が制御される。すなわち、第1の供給流路3を流れるCO
2ガス中の水分量が調整される。
【0044】
第3の実施形態においては、第1及び第2の実施形態と異なり、酸化電極9から還元電極8への水分の移動量を調整するのでなく、湿度調整器25で第1の供給流路3を流れるCO2ガス中の水分量を還元電極8の水分量に応じて調整することによって、還元電極8中の水分量を適正な範囲に保っている。このような水分量の調整手段及び調整方法によっても、第1及び第2の実施形態と同様に、高効率で耐久性に優れた二酸化炭素電解装置1Cを提供することが可能となる。
【0045】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の二酸化炭素電解装置1Dについて、
図4を参照して説明する。
図4に示す二酸化炭素電解装置1Dは、2つの電解セル2A、2Bが積層されたスタックセルを備えている。すなわち、スタックセルは、第1の流路板16A、還元電極8A、隔膜10A、酸化電極9A、第2の流路板17A、第1の流路板16B、還元電極8B、隔膜10B、酸化電極9B、及び第2の流路板17Bが順に積層された構造を有している。第1の流路板16A、16Bは、それぞれ多孔質導電材で構成されている。第1の流路板16A、16Bの還元電極8A、8Bと接する面とは反対側の面に冷却水流路26となる溝が形成されている。冷却水流路26に冷却水を供給するように冷却水ポンプ27が設けられている。なお、電解セル2A、2B(スタックセル)の冷却効率を考慮して、第2の流路板17Bにも冷却水流路26を設けてもよい。これら以外の構成について、第4の実施形態の二酸化炭素電解装置1Dは第1の実施形態と同様な構成を有している。
【0046】
第4の実施形態における二酸化炭素電解装置1Dは、2つの電解セル2A、2Bを積層したスタック構造を有している。このような場合、積層化による熱の生成が顕著となり、CO2の還元反応の効率低下を招くため、2つの電解セル2A、2Bのそれぞれの内部に冷却水を流して除熱を行うことが好ましい。この際、第1の流路板16A、16Bの材質を多孔質導電材とし、冷却水流路26を流れる冷却水の水分を還元電極8A、8Bに移動させることによって、還元電極8A、8Bの水分量を調整することができる。第4の実施形態においては、第1の水分量検知部19の検知信号が制御部7に送信され、制御部7が検知信号に基づいて冷却水ポンプ27の流量を制御する。冷却水の流量を増減することによって、冷却水流路26の圧力を変化させる。これによって、冷却水流路26から多孔質性の第1の流路板16A、16Bを介して移動する水分量を調整し、還元電極8A、8Bの水分量を適正な範囲に保つことができる。従って、第1ないし第3の実施形態と同様に、高効率で耐久性に優れた二酸化炭素電解装置1Dを提供することが可能となる。
【実施例】
【0047】
次に、実施例及びその評価結果について述べる。
【0048】
(実施例1)
図2に示したように、第1の排出経路中に第1の水分量検知部を設けた二酸化炭素電化装置を作製した。ただし、検証実験のために、第1の供給経路中に第2の水分量検知部を設けた。第1及び第2の水分量検知部には露点計及び流量計を用いて、電解セルから排出される気体中及び電解セルから排出される気体中の水分量を計測した。
【0049】
まず、二酸化炭素電解装置を用いて、電解セルに設けたヒーターの温度を制御することで、還元電極における水分量が制御可能かどうかの検証を行った。この検証実験においては、制御部を作動させず、検知部の読み取り及び調整部の動作を人為的に操作した。
【0050】
電解セルに用いる還元電極としては、多孔質層を有するカーボンペーパ上に、金ナノ粒子が坦持されたカーボン粒子、ナフィオン溶液、純水、イソプロピルアルコールからなる混合溶液を塗布して乾燥させた電極を用いた。酸化電極としては、TiメッシュにIrO
2ナノ粒子が塗布された電極を用いた。隔膜としては、アニオン交換膜を用いた。なお、還元電極及び酸化電極は電極面積が16cm
2になるように切断して使用した。
図2に電解セルの構造を示したように、第1の集電板、第1の流路板、還元電極、隔膜、酸化電極、第2の流路板、及び第2の集電板の順で積層し、図示しない絶縁シート及び支持板により挟み込んで電解セルとした。電解セルにはヒーターを張り付け、任意の温度で運転できるようにした。
【0051】
上記した電解セルを第1及び第2の供給経路および第1及び第2の排出経路に接続し、次に述べる条件で運転を行った。第1の供給流路にCO2ガス(純度:>99.99%)を40mL/min流量になるようマスフローコントローラーを用いて導入した。また、第2の供給流路に炭酸水素カリウム水溶液(濃度0.1M KHCO3)を10mL/minの流量でフローして循環させた。次に、電源に検証実験用として直流安定化電源を使用し、これを還元電極と酸化電極に接続し、所定の電流を流すことでCO2の還元反応を実施した。
【0052】
第1の排出経路から排出される生成ガスの一部を収集し、CO2還元反応もしくは水の還元反応により生成されるCOもしくはH2ガスの生成量を、ガスクロマトグラフにより分析した。第1及び第2の水分量検知器には、露点計及び流量計を用いて水分量を計測した。ガス中の水分濃度は露点計を用いて計測した。ガスの流速は石鹸膜式流量計を用いて計測した。各地点における水分濃度及び流量を用いて第1の排出経路における気体中の水分量を算出した。さらに、下記の式を用いることで還元電極における水分量の評価を行った。
水分量(還元電極)=水分量(第1の排出経路)―水分量(第1の供給経路)
この際、水分量の単位としては、単位電極面積当たりの水分の移動速度(ml/min/cm2)を用いた。
【0053】
第1および第2の水分量検知器、ガスクロマトグラフ及びCO2センサによる分析の結果、生成ガス中に含まれる成分としてはCO、H2及びCO2のみが検出され、全ての測定においてCOの選択率(CO生成量/(CO生成量+H2生成量)は90%以上であった。
【0054】
図5に電解セルの運転温度を40℃、50℃、60℃に変化させたときの、電流密度と還元電極における水分量との関係を示す。
図5からは、いずれのセル温度においても電流密度が大きくなるにつれて、還元電極における水分量が減少していく様子が分かる。これは、電流密度の増加に伴い、式(4)で示すCO
2の還元反応が進行し、還元電極における水分が消費されるためによる。
【0055】
また、セル温度の増加に伴って、還元電極における水分量も増加することが分かる。これはセル温度が高くなると、隔膜を通じて移動する酸化電極の水分量が増加することに起因する。以上の結果により、還元電極中の水分量はセル温度及び運転時の電流密度により制御することができる。このことは、第1及び第2の水分量検知部を用いて還元電極における水分量を計測し、その値が所定の範囲から逸脱した際に、セル温度や電流密度を操作することにより還元電極における水分量を調節できることを意味する。従って、還元電極における水分量を調節して高効率で安定な二酸化炭素電解装置が提供可能である。
【0056】
(実施例2)
実施例2では、
図3に構成を示した二酸化炭素電解装置において、水分量調整部として調湿器を用いて、電解セルに供給するCO
2ガスの加湿温度を制御することで、還元電極における水分量が制御可能かどうかの検証を行った。加湿器では、水が収容された容器中でCO
2ガスをバブリングすることでCO
2ガスを加湿した。ここで、加湿温度とは容器中の水の温度を指し、加湿温度が高いほどガス中の水分量が多い。また、図示しないがCO
2ガス中の水分が配管中で結露しないよう、配管をヒーターで加熱して評価を行った。なお、実施例1と同様に、この検証実験においても制御部を作動させず、検知部の読み取り及び調整部の動作を人為的に操作した。
【0057】
電解セルは実施例1と同様のものを用いて測定を行った。運転条件は、セルの温度を60℃として電流密度を200mA/cm2で運転した以外は、実施例1と同様の条件で運転した。調湿器による加湿温度を35℃、45℃、55℃にして運転した。実施例1と同様に、生成ガス中に含まれる成分としてはCO、H2、及びCO2のみが検出され、全ての測定においてCOの選択率(CO生成量/(CO生成量+H2生成量)は94%以上であった。
【0058】
図6にCO
2ガスの加湿温度を変化させたときの還元電極における水分量を示す。
図6からは、加湿温度を増加させることで還元電極における水分量が減少しており、加湿温度と還元電極における水分量に相関があることが分かる。このことは、CO
2ガスの加湿温度の制御により、還元電極における水分量が調節できることを意味する。従って、還元電極における水分量を調節して高効率で安定な二酸化炭素電解装置が提供可能である。
【0059】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
1…二酸化炭素電解装置、2…電解セル、3…第1の供給経路、4…第1の排出経路、5…第2の供給経路、6…第2の排出経路、7…制御部、8…還元電極、9…酸化電極、10…隔膜、11…ガス流路、12…液流路、15…電源、16…第1の流路板、17…第2の流路板、18…CO2ガス供給部、19…第1の水分量検知部、20…第2の水分量検知部、22…ポンプ、23…温調器、25…調湿器、26…冷却水流路、27…冷却水ポンプ。