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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】電気化学装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/00 20060101AFI20240716BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240716BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240716BHJP
   H01M 8/0656 20160101ALI20240716BHJP
【FI】
C25B15/00 303
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B15/00 302A
H01M8/0656
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021044794
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022143974
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉永 典裕
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】関口 申一
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-067343(JP,A)
【文献】特開2013-053321(JP,A)
【文献】特開2020-186418(JP,A)
【文献】特開2020-090691(JP,A)
【文献】特開2019-188350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 15/00
C25B 1/04
C25B 9/00
H01M 8/0656
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1流路を有する第1電極と、第2流路を有する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とで挟持された隔膜とを備える電気化学セルと、
前記第1電極の前記第1流路に接続され、稼働時に前記第1電極で生成された生成物及び前記第2電極から前記第1電極に浸透する水が送られる気液分離タンクと、
前記第1電極の前記第1流路と前記気液分離タンクの気体部分とに接続された動作用配管と、
前記気液分離タンクの液体部分と前記動作用配管とに接続され、停止時に前記気液分離タンクの水を前記第1電極の前記第1流路に送る水封入配管とを具備し、
前記水封入配管は、稼働時に前記第1電極の前記第1流路の水素の出口となる第1開口に前記動作用配管を介して接続されており、
停止時に前記第1電極の前記第1流路の水の出口となる第2開口に電磁弁が接続されている、電気化学装置。
【請求項2】
前記水封入配管は、水頭圧又はガス圧力を動力として前記水を前記気液分離タンクの液体部分から前記第1電極の前記第1流路に送るように構成される、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記隔膜は、固体高分子電解質膜を有する、請求項1又は請求項2に記載の電気化学装置。
【請求項4】
水電解装置である、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の電気化学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気化学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解装置のような電気化学装置の代表例としては、水(HO)を電気分解して水素(H)と酸素(O)とを発生させる水電解装置が知られている。水電解装置は、例えばアノードとカソードとこれらで挟持された固体高分子電解質膜とを有する電解セルを備えており、水(HO)を電気分解することによって、カソードで水素(H)を発生し、アノードで酸素(O)を発生する。このような固体高分子電解質膜(Polymer Electrolyte Membrane:PEM)を隔膜として用いた水電解セル(PEM型水電解セル)は、作動温度が低く、水素純度が高い等の特徴を有する。しかしながら、PEM型水電解セルは、起動停止操作を行うとその性能が低下しやすいという課題を有している。これは水電解に限らず、隔膜を用いた電解セル及び電解装置(電気化学装置)の全般で課題とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-199697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、起動停止操作を実施した際の性能の低下を抑制することを可能にした電気化学装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の電気化学装置は、第1流路を有する第1電極と、第2流路を有する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極とで挟持された隔膜とを備える電気化学セルと、前記第1電極の前記第1流路に接続され、稼働時に前記第1電極で生成された生成物及び前記第2電極から前記第1電極に浸透する水が送られる気液分離タンクと、前記第1電極の前記第1流路と前記気液分離タンクの気体部分とに接続された動作用配管と、前記気液分離タンクの液体部分と前記動作用配管とに接続され、停止時に前記気液分離タンクの水を前記第1電極の前記第1流路に送る水封入配管とを具備し、前記水封入配管は、稼働時に前記第1電極の前記第1流路の水素の出口となる第1開口に前記動作用配管を介して接続されており、停止時に前記第1電極の前記第1流路の水の出口となる第2開口に電磁弁が接続されている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の電気化学装置における電解セルの構成と電解セルと電源との接続構造を示す図である。
図2】第1の実施形態の電気化学装置を示す図である。
図3】第2の実施形態の電気化学装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の電気化学装置について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
(第1の実施形態)
実施形態の電気化学装置の電気化学セルの構成と電気化学と電源との接続構造について、図1を参照して説明する。図1に示す電気化学セル1は、第1電極2と、第2電極3と、第1電極2と第2電極3とで挟持された隔膜4とを備えている。隔膜4は、例えば固体高分子電解質膜(PEM)である。電気化学セル1を水電解セルとして用いる場合、第1電極2はカソード(還元電極/水素極)であり、第2電極3はアノード(酸化電極/酸素極)である。以下では、電気化学セル1を水電解セルとして用いる場合について、主として説明する。隔膜4としての固体高分子電解質膜には、プロトン伝導膜が用いられる。
【0009】
プロトン伝導性のPEMの構成材料としては、例えばスルホン酸基を有するフッ素樹脂が用いられる。そのような材料の具体例としては、デュポン社のテトラフルオロエチレンをスルホン化して重合したフッ素樹脂であるナフィオン(登録商標)、旭化成社製のフレミオン(登録商標)、AGC社製のアシブレック(登録商標)等が挙げられる。隔膜4は固体高分子電解質膜に限らず、電解質成分を含む炭化水素膜、タングステン酸やリンタングステン酸等の無機物を含む膜等の電解質膜であってもよい。
【0010】
アノードである第2電極3は、酸化反応により水(HO)を分解し、水素イオン(H)と酸素(O)とを発生させる。カソードである第1電極2は、アノードで発生した水素イオン(H)を還元し、水素(H)を発生させる。カソードである第1電極2は、第1触媒層5と第1給電層6とを有している。第1触媒層5は、隔膜4と接するように配置されている。アノードである第2電極2は、第2触媒層7と第2給電層8とを有している。第2触媒層7は、隔膜4と接するように配置されている。このような第1電極2と第2電極3とでPEM等の隔膜4を挟持することによって、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)9が構成されている。
【0011】
カソードである第1電極2の第1触媒層5には、例えば白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等の金属やPt、Ag、Pdの少なくとも1つを含む合金(Pt合金、Ag合金、Pd合金)等が用いられる。第1触媒層5には、PtやPtCo、PtFe、PtNi、PtPd、PtIr、PtRu、PtSn等のPt合金を用いることがより好ましい。アノードである第2電極3の第2触媒層7には、例えばイリジウム(Ir)酸化物、ルテニウム(Ru)酸化物、パラジウム(Pd)酸化物、Ir複合酸化物、Ru複合酸化物、Pd複合酸化物等が用いられる。Ir複合酸化物やRu複合酸化物を構成する複合金属としては、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、Ru、Ir、Pd等が挙げられる。第2触媒層7には、Ir酸化物やIr複合酸化物等を用いることがより好ましい。
【0012】
第1電極2の第1給電層6及び第2電極2の第2給電層8には、ガス拡散性と導電性とを有する材料が用いられる。具体的には、多孔質な導電部材等が第1給電層6及び第2給電層8に適用される。第1給電層6及び第2給電層8には、Ti、Ta、SUS、Ni、Pt等の多孔質金属部材、金属フェルト、金属繊維を絡み合わせた金属不織布、カーボンペーパ、カーボンクロス等が用いられる。第1給電層6及び第2給電層8は、耐食性に優れるTiを用いることが好ましく、これにより耐久性を向上させることができる。
【0013】
上記したMEA9は、カソードセパレータ10とアノードセパレータ11に挟持されており、これらによって電気化学セル1が構成されている。カソードセパレータ10には、反応物質や生成物質を流通させる第1流路12が設けられている。アノードセパレータ11には、反応物質や生成物質を流通させる第2流路13が設けられている。第1触媒層5と第1給電層6の側面及び第2触媒層7と第2給電層8の側面には、シール部材14が配置されており、MEA9及び電気化学セル1からのガスや液体の漏れを防止している。
【0014】
電気化学セル1は、単セル構造に限らず、複数の電気化学セル1を積層したスタックセル構造を有していてもよい。スタックセルの形状は特に限定されるものではなく、所望する電圧や反応量等に応じて適宜選択される。また、複数の電気化学セル1を使用する場合、スタックセル構造に限らず、複数の電気化学セル1を平面配置した構造等であってもよい。さらに、平面配置したセルを積層してもよい。電気化学セル1に含まれる単セルの数も特に限定されるものではなく、適宜に選択される。
【0015】
電気化学セル1に供給される反応物質としては、例えば水、水素、改質ガス、メタノール、エタノール、蟻酸等を少なくとも1種類を含んだ水溶液を使用することができる。実施形態における電気化学セル1は、水電解のための電解セルに限定されるものでなく、二酸化炭素の電解反応セル等、同じく酸化物を触媒として用いる電解セルであれば、各種の電気化学セルに適用することが可能である。
【0016】
電気化学セル1の第1電極2及び第2電極3は、電圧印加手段(電源)15に電気的に接続されている。さらに、電源15と第1電極2及び第2電極3とを電気的に接続する回路には、電圧測定部16及び電流測定部17が設けられている。電源15は、制御部18により動作が制御されている。すなわち、制御部18は電源15を制御し、電気化学セル1に電圧を印加する。電圧測定部16は、第1電極2及び第2電極3に電気的に接続されており、電気化学セル1に印加される電圧を測定する。その測定情報は制御部18に送られる。電流測定部17は、電気化学セル1に対する電圧印加回路に挿入されており、電気化学セル1を流れる電流を測定する。その測定情報は制御部18に送られる。
【0017】
制御部18は、例えばPCやマイコン等のコンピュータで構成され、各部で出力されたデータ信号を演算処理し、必要な制御信号を各構成部に出力する。制御部18は、さらにメモリを有し、メモリに記憶されたプログラムにしたがって、各測定情報に応じて電源15の出力を制御し、電気化学セル1に対して電圧を印加したり、また負荷を変化させる等の制御を行う。なお、電気化学セル1が電池反応に用いられる場合、電気化学セル1に対して電圧が負荷される。電気化学セル1が電池反応以外の反応、例えば水電解による水素発生反応や二酸化炭素の電解反応等に用いられる場合には、電気化学セル1に対して電圧が印加される。実施形態の電気化学装置においては、第1電極2と第2電極3との間に電圧を負荷し、電気化学反応を進行させるように構成されている。
【0018】
次に、図1に示す電気化学セル1を備える第1の実施形態の電気化学装置について、図2を参照して説明する。ここでは電気化学装置を水電解装置に適用した場合の構成を主として説明するが、実施形態の電気化学装置はこれに限定されるものではなく、二酸化炭素電解装置等であってもよい。図2に示す電気化学装置20は、電気化学セル1の第2電極3に水を供給する水供給系統21を備えており、さらに電気化学セル1の第1電極2から水素や水を排出する水素排出系統22を備えている。
【0019】
水供給系統21は、純水製造装置23に接続された第1水タンク24を有している。第1水タンク24には、純水製造装置23から水が供給される。第1水タンク24に収容された水は、ポンプ25及び第1配管26を介して電気化学セル1の第2電極3に送られる。アノードとしての第2電極3で水分解が行われ、水分解で生じた酸素(O)及び余剰の水は第1水タンク24に返送される。第1水タンク24は気液分離機能を有し、第1水タンク24で分離された酸素(O)は回収される。第1水タンク24で分離された水は、ポンプ25、第1配管26、及び第2流路13を介して循環する。
【0020】
水素排出系統22は、第2水タンク27に第2配管28を介して接続されている。カソードとしての第1電極2には水を供給していないが、隔膜4を通って水が第1電極2側に送られるため、水素に混ざって水も排出される。このため、気液分離機構を有する第2水タンク27の気体部分に第2配管(動作用配管)28を接続している。第2水タンク27で分離された水素(H)は回収される。さらに、第2水タンク27には第3配管29が接続されている。第3配管29は、後に詳述するように、第2水タンク27から電気化学セル1に水を送る配管(水封入配管)であり、第2水タンク27の液体部分とカソードとしての第1電極2の第1流路12の入口とに接続されている。第2配管28及び第3配管29には、それぞれ逆止弁30、31が設けられている。さらに、第2水タンク27の水素排出配管32には、電磁弁33が設けられている。なお、第2水タンク27に収容された水は、必要に応じて第1水タンク24に送るようにしてもよい。この際、水素と酸素の混合は爆発の危険があることから、第1水タンク24と第2水タンク27とを接続する配管にはバルブを設けることが好ましい。
【0021】
次に、図2に示す電気化学装置20の動作について説明する。水の電気分解を行う場合、アノードとしての第2電極3に外部の電源(18)から電圧が印加されると、水(HO)が電気分解されて、以下に示す式(1)の反応が起こる。
2HO → O+4H+4e …(1)
このとき発生するプロトン(H)は隔膜4を通って、カソードとしての第1電極2に送られる。また、電子(e)は外部回路を通って第1電極2に達する。カソードとしての第1電極2では以下に示す式(2)の反応により水素が発生する。
4H+4e → 2H …(2)
上記した式(1)及び式(2)の反応により、水素と酸素を製造することができる。
【0022】
ここで、第2水タンク27に第3配管29を接続していない場合、電気化学装置20の動作を停止した際に、アノードとしての第2電極3への水の供給が停止されるため、カソードとしての第1電極2で発生した水素が第2電極3側に流入するおそれがある。水素が第2電極3に混入すると、第2触媒層7に含まれるIr酸化物やRu酸化物等の金属酸化物触媒が還元されて触媒特性が低下するだけでなく、金属酸化物触媒が電気化学的に不安定な状態になることによって、Ir等の金属の溶出が起こり、第2電極3における電気化学反応の性能が劣化してしまう。これは電気化学セル1の性能低下要因となる。
【0023】
そこで、第1の実施形態の電気化学装置20においては、第2水タンク27と第1電極2の第1流路12の入口とを、逆止弁31を有する第3配管29で接続している。電気化学装置20の動作を停止した際に、水が第2水タンク27から第1電極2に送られることによって、第1流路12は水没する。第1流路12に残属している水素は、水により押し出されるため、残属水素による第2電極3の金属酸化物触媒の還元を抑制することができる。このような構成を実現する上で、第2水タンク27は電気化学セル1より高い位置に配置される。運転時において、発生した水素ガスは第2配管28及び第2水タンク27を通って外部に排出される。この際、第3配管29の逆止弁31によって、圧力の関係で水が第2水タンク27から第1電極2に送られることはない。一方、運転停止時には、第2水タンク27の液面よりも低い位置から第3配管29を通って、水が水頭圧差により自動的に第1電極2の第1流路12に送られ、第1流路12が水没する。
【0024】
この際、圧力損失を減らして、スムーズに第1電極2の第1流路12を水没させるためには、停止時に水を送る第3配管29の配管径はできるだけ太いことが好ましい。具体的には、第3配管29の配管径は3/8インチ以上が好ましく、さらに3/2インチ以上であることがより好ましい。また、逆止弁31は少なくとも第3配管に設ける。これによって、運転時に第1配管28から水素ガスが排出されることになり、第3配管29からの水の逆流を防ぐことができるため、温度が均一になったり、電圧が安定になる効果がある。
【0025】
第1の実施形態の電気化学装置20によれば、装置の停止直後にカソードとしての第1電極2に残存している水素ガスを追い出すことができる。その結果、アノードとしての第2電極3の金属酸化物触媒の還元を抑制することができるため、電気化学セル1の性能が低下することを抑制することが可能となる。すなわち、安定して性能を発揮する電気化学セル1を備える電気化学装置20を提供することができる。
【0026】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の電気化学装置20について、図3を参照して説明する。図3に示す電気化学装置20においては、装置停止時に第2水タンク27から電気化学セル1に水を送る第3配管29を、第1電極2の第1流路12の入口と第2水タンク27とを接続する第2配管28の途中に接続している。第3配管29には逆止弁31が設けられている。第3配管29は、第2配管28を介して稼働時に第1流路12の水素の出口となる開口に接続されている。さらに、装置停止時に第1流路12の水の出口となる開口に電磁弁34が接続されている。これら以外の構成について、第2の実施形態の電気化学装置20は第1の実施形態と同様な構成を有している。
【0027】
第2の実施形態の電気化学装置20において、装置稼働時には水素及び水が第1流路12の一方の開口(稼働時の出口)から第2配管28を介して第2水タンク27に送られる。装置稼働時には、電磁弁34は閉じられている。装置停止時においては、第2水タンク27の水が第3配管29及び逆止弁31を介して第1流路12の一方の開口(稼働時の出口/停止時の入口)に送られる。この際、第1流路12の電磁弁34を第1流路12の他方の開口(停止時の入口)から水が出るまで、例えば20秒間だけ電磁弁34は開けておき、その後に電磁弁34を閉じる。これによって、装置停止時に第1流路12を水没させることができ、残属水素を水により押し出すことができる。従って、第1の実施形態と同様に、水素による第2電極3の金属酸化物触媒の還元を抑制することが可能となる。
【実施例
【0028】
次に、実施例及びその評価結果について述べる。
【0029】
(実施例1)
図2に示したように、第2水タンク27と電気化学セル(電解セル)1における第1電極2の第1流路12とが第3配管29で接続されている電気化学装置20を構成した。装置稼働時には、第1電極2に生じた水素と水は第2配管を介して第2水タンク27に送られる。第3配管29には逆止弁31が設けられているため、水が逆流することはない。一方、装置停止時においては、第2水タンク27の水が第1流路12に送られる。
【0030】
上記した電気化学装置20において、装置運転時には電気化学セル1の第1電極(水素極)2側で水素が発生する。第1電極2の水素側出口からは、生成された水素が第2電極(酸素極)3からクロスオーバした水と共に、3/8インチの配管を通って、水タンク27に排出される。水素ガスは電磁弁33を通って、外部へ排出される。一方、水は水タンク27で凝縮する。このとき、水タンク27内で規定の液面高さ以上になると、電磁弁を開けて水タンク24に移動させる構成になっている。電解セル1の水素極入口には、水タンク27の液面より低い液体部分から繋がった3/2インチの配管29が接続されており、配管29には逆止弁31が設けられている。装置運転時は、逆止弁31の効果により、水が逆流しないようになっている。
【0031】
このような構成を有する電気化学装置20においては、装置停止時に電解セル1の水素極に水が自動で流れ込み、水没することを確認した。このような装置を用いて、1時間50Aで運転を行い、その後1時間停止する工程を1回とし、2000回繰り返した。初期に電圧は1.85V、電流密度は2A/cmであった。これに対し、2000回後にも電圧は1.87V、電流密度は2A/cmの値が維持されていることを確認した。
【0032】
(実施例2)
図3に示したように、第2水タンク27と電気化学セル(電解セル)1における第1電極2の第1流路12とを接続する配管28に、第2水タンク27の液面下に設けられた配管29を接続した電気化学装置20を構成した。装置稼働時には、第1電極2に生じた水素と水は第2配管を介して第2水タンク27に送られる。第3配管29には逆止弁31が設けられているため、水が逆流することはない。一方、装置停止時においては、第2水タンク27の水が第1流路12に送られる。
【0033】
上記した電気化学装置20において、電解セル1の水素極出口にも外部に繋がる水配管を接続し、電磁弁34を設置した。電解セルの運転時には電磁弁34を閉じ、停止時には水配管から水が出るまでの20秒間だけ電磁弁34を開け、その後に閉じる動作を停止毎行った。この装置を用いて、1時間50Aで運転を行い、その後1時間停止する工程を1回とし、2000回繰り返した。初期に電圧は1.85V、電流密度は2A/cmであった。これに対し、2000回後にも電圧は1.865V、電流密度は2A/cmの値が維持されていることを確認した。
【0034】
(実施例3)
図3に示したように、第2水タンク27と電気化学セル(電解セル)1における第1電極2の第1流路12とを接続する配管28に、第2水タンク27の液面下に設けられた配管29を接続した電気化学装置20を構成した。また、第2水タンク27は第1電極2よりも低い位置に設置した。装置稼働時には電磁弁33を絞ることで、水素側の循環系の圧力が10気圧になるように調整した。第1電極2に生じた10気圧の水素と水は、第2配管28を介して第2水タンク27に送られる。第3配管29には逆止弁31が設けられているため、水が逆流することはない。
【0035】
上記した電気化学装置20において、電解セル1の水素極出口にも外部に繋がる水配管を接続し、電磁弁34を設置した。電解セルの運転時には電磁弁34を閉じ、停止時には水配管から水が出るまでの20秒間だけ電磁弁34を開け、その後に閉じる動作を停止毎行った。電磁弁34を開けた装置停止時において、タンク内の10気圧と電磁弁34の下流部の大気圧との差によって、第2水タンク27の水が第1流路12に送られる。この装置を用いて、1時間50Aで運転を行い、その後1時間停止する工程を1回とし、2000回繰り返した。初期に電圧は1.85V、電流密度は2A/cmであった。これに対し、2000回後にも電圧は1.865V、電流密度は2A/cmの値が維持されていることを確認した。
【0036】
(比較例1)
図2及び図3における配管29を設置することなく、電気化学装置20を構成した。なお、水タンク24と水タンク27を、電磁弁を有する配管で接続した。この配管は、水タンク27内で液面が規定の高さ以上になった際に、電磁弁を開けて水を水タンク24に移動させるものである。このような構成を有する電気化学装置20では、装置停止時に水素極が水没することはない。このような装置を用いて、実施例1、2と同一条件で2000回の動作を繰り返し行った。初期の電圧は1.85V、電流密度は2A/cmであった。これに対して、2000回後には電圧が2.25Vまで上昇し、電流密度は2A/cmのであった。以上の結果から、停止時の水素のリークにより、電解セル1の劣化が進行していることが確認された。
【0037】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0038】
1…電気化学セル、2…第1電極、3…第2電極、4…隔膜、5…第1触媒層、7…第2触媒層、12…第1流路、13…第2流路、20…電気化学装置、24…第1水タンク、27…第2水タンク、28…第2配管(動作用配管)、29…第3配管(水封入配管)、30,31…逆止弁。
図1
図2
図3