(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】呼吸機能を可能にするために脊髄ネットワークにアクセスすること
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240716BHJP
A61N 2/04 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N2/04
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021188658
(22)【出願日】2021-11-19
(62)【分割の表示】P 2018501208の分割
【原出願日】2016-07-11
【審査請求日】2021-12-14
(32)【優先日】2015-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・シー・ルー
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0188332(US,A1)
【文献】特表2008-543429(JP,A)
【文献】国際公開第2013/188965(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/144785(WO,A1)
【文献】特表2007-526798(JP,A)
【文献】特表2002-517283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36 - 1/44
2/00 - 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の呼吸不全の治療における使用のために、呼吸を改善し、及び/または制御し、及び/または回復させる周波数並びに振幅で対象の頸髄で、経皮電気刺激、及び/または硬膜外刺激、及び/または磁気刺激を与えるように構成されている刺激装置を備える刺激装置システムであって、呼吸の改善、制御、または回復が、
前記刺激装置による横隔神経
の刺激によるものではなく、前記刺激装置は、安静呼吸数、及び対象の正常な一回換気量の少なくとも60%を回復させるのに十分な周波数及び振幅での刺激を与えるように構成され
、
前記刺激装置は:
1Hzから500Hzまでの範囲の周波数での経皮刺激;及び
5mAから500mAまでの範囲の振幅での経皮刺激;及び
100μsから1msまでの範囲のパルス幅を有するパルスを含む経皮刺激;
を与えるように構成され;及び/または
前記刺激装置は:
1Hzから100kHzまでの範囲の周波数での硬膜外刺激;及び/または
0.5mAから50mAまでの範囲の振幅での硬膜外刺激;及び/または
100μsから1msまでの範囲のパルス幅を有するパルスを含む硬膜外刺激;
を与えるように構成され;及び/または
前記刺激装置は:
少なくとも1テスラの磁場を有する磁気刺激;及び
1Hzから500Hzまでの範囲の周波数での磁気刺激;
を与えるように構成される、刺激装置システム。
【請求項2】
前記刺激装置は、頸髄の経皮刺激を与えるように構成されている、請求項1に記載の刺激装置システム。
【請求項3】
前記刺激装置は:
安静呼吸数、及び対象の正常な一回換気量の少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%を回復させるのに十分な周波数、パルス幅、及び振幅での経皮刺激;及び/または
2Hzから、または3Hzから、または4Hzから、または5Hzから、または10Hzから、または10Hzから、または10Hzから
、400Hzまで、または300Hzまで、または200Hzまで、100Hzまで、または90Hzまで、または80Hzまで、または60Hzまで、または40Hzまで、または3Hzから、または5Hzから80Hzまで、または5Hzから60Hzまで、または30Hzまでの範囲の周波数での経皮刺激;及び
10mAから500mAまで、または5mAもしくは10mAから400mAまで、または5mAもしくは10mAから300mAまで、または5mAもしくは10mAから200mAまで、または5mAもしくは10mAから150mAまで、または5mAもしくは10mAから50mAまで、または5mAもしくは10mAから100mAまで、または5mAもしくは10mAから80mAまで、または5mAもしくは10mAから60mAまで、または5mAもしくは10mAから50mAまでの範囲の振幅での経皮刺激;及び
100μsか
ら800μsまで、または600μsまで、または500μsまで、または400μsまで、または300μsまで、または200μsまで、または100μsまで、あるいは150μsから600μsまで、あるいは200μsから500μsまで、あるいは200μsから400μsまでの範囲のパルス幅を有するパルスを含む経皮刺激、を与えるように構成されている、請求項2に記載の刺激装置システム。
【請求項4】
前記刺激装置は:
呼吸パターンが存在しない場合に呼吸を開始させるための、20Hzまたは30Hzから90Hzまたは100Hzまでの範囲の周波数での経皮刺激;または
呼吸パターンが存在する場合、5Hzまたは10Hzから90Hzまたは100Hzまでの範囲の周波数での経皮刺激、を与えるように構成されている請求項3に記載の刺激装置システム。
【請求項5】
前記刺激装置は、頸髄の硬膜外刺激を与えるように構成されている、請求項1に記載の刺激装置システム。
【請求項6】
前記刺激装置は:
安静呼吸数、及び対象の正常な一回換気量
の少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%を回復させるのに十分な周波数、パルス幅、及び振幅での硬膜外刺激;及び/または
2Hzから、または3Hzから、または少なくとも1Hz、または少なくとも2Hz、または少なくとも3Hz、または少なくとも4Hz、または少なくとも5Hz、または少なくとも10Hz、または少なくとも20Hz、または少なくとも30Hz、または少なくとも40Hz、または少なくとも50Hz、または少なくとも60Hz、または少なくとも70Hz、または少なくとも80Hz、または少なくとも90Hz、または少なくとも100Hz、または少なくとも200Hz、または少なくとも300Hz、または少なくとも400Hz、または少なくとも500Hz、または少なくとも1kHz、または少なくとも1.5kHz、または少なくとも2kHz、または少なくとも2.5kHz、または少なくとも5kHz、または少なくとも10kHz、または25kHzまで、または50kHzま
での範囲の周波数での硬膜外刺激;及び/または
1mAから、または2mAから、または3mAから、または4mAから、または5mAか
ら30mAまで、または20mAまで、または15mAまで、あるいは5mAから20mAまで、あるいは5mAから15mAまでの範囲の振幅での硬膜外刺激;及び/または
100μsか
ら800μsまで、または600μsまで、または500μsまで、または400μsまで、または300μsまで、または200μsまで、または100μsまで、あるいは150μsから600μsまで、あるいは200μsから500μsまで、あるいは200μsから400μsまでの範囲のパルス幅を有するパルスを含む硬膜外刺激、を与えるように構成されている、請求項5に記載の刺激装置システム。
【請求項7】
前記刺激装置は、4Hzから、または5Hzから、または10Hzから、または15Hzから、または30Hzから、500Hzまで、または400Hzまで、または300Hzまで、または200Hzまで100Hzまで、または90Hzまで、または80Hzまで、または60Hzまで、または40Hzまで、または35Hzまで、または30Hzまで、または3Hzからまたは5Hzから80Hzまで、または5Hzから60Hzまで、または30Hzまでの周波数での硬膜外刺激を与えるように構成されている、請求項6に記載の刺激装置システム。
【請求項8】
前記刺激装置は:
呼吸パターンが存在しない場合に呼吸を開始させるための、20Hzまたは30Hzから90Hzまたは100Hzまでの範囲の周波数での硬膜外刺激;または
呼吸パターンが存在する場合、5Hzまたは10Hzから90Hzまたは100Hzまでの範囲の周波数での硬膜外刺激、を与えるように構成されている、請求項6に記載の刺激装置システム。
【請求項9】
前記刺激装置は、頸髄の磁気刺激を与えるように構成されている、請求項1に記載の刺激装置システム。
【請求項10】
前記刺激装置は:
少なくとも2テスラ、または少なくとも3テスラ、または少なくとも4テスラの磁場を有する磁気刺激;及び
2Hzから、または3Hzから、または4Hzから、または5Hzから、または10Hzから、または10Hzから、または10Hzから
、400Hzまで、または300Hzまで、または200Hzまで、100Hzまで、または90Hzまで、または80Hzまで、または60Hzまで、または40Hzまで、または3Hzから、または5Hzから80Hzまで、または5Hzから60Hzまで、または30Hzまでの範囲の周波数での磁気刺激、を与えるように構成されている、請求項9に記載の刺激装置システム。
【請求項11】
前記刺激装置は:
呼吸パターンが存在しない場合に呼吸を開始させるための、20Hzまたは30Hzから90Hzまたは100Hzまでの範囲の周波数での磁気刺激;または
呼吸パターンが存在する場合、5Hzまたは10Hzから90Hzまたは100Hzまでの範囲の周波数での磁気刺激、を与えるように構成されている、請求項9に記載の刺激装置システム。
【請求項12】
胸壁の運動及び/または膨張を検出するセンサー、血液O
2飽和を検出するセンサー、及び呼気終期のCO
2を測定するセンサーからなる群より選択される1つ以上のセンサーをさらに備える、請求項1から11のいずれか一項に記載の刺激装置システム。
【請求項13】
前記センサーの出力は前記刺激装置に接続され、前記刺激装置はセンサー出力に応答して所望の一回換気量及び/またはO
2飽和及び/または呼気終期のCO
2を提供するように経皮電気刺激、及び/または硬膜外刺激、及び/または磁気刺激のパターンを調節する、請求項12に記載の刺激装置システム。
【請求項14】
前記システムは、胸壁の運動及び/または膨張を検出するセンサーを備えている、請求項11に記載の刺激装置システム。
【請求項15】
前記センサーには、胸部インピーダンスを測定するデバイス、または、胸郭の運動を測定するデバイスが含まれる、請求項14に記載の刺激装置システム。
【請求項16】
前記センサーには、インダクタンス・バンド、または、レーザー・モニター、または、加速度計が含まれる、請求項14に記載の刺激装置システム。
【請求項17】
前記刺激装置システムが、血液O
2飽和を検出するセンサーを備えている、請求項12に記載の刺激装置システム。
【請求項18】
前記センサーは、埋込み型酸素センサーである、または、体外パルスオキシメーターである、請求項17に記載の刺激装置システム。
【請求項19】
前記センサーは、指先、耳たぶ、足、額、または胸部に取り付けるように構成されている体外センサーである、請求項18に記載の刺激装置システム。
【請求項20】
前記システムは、呼気終期のCO
2を測定するセンサーを備えている、請求項12に記載の刺激装置システム。
【請求項21】
前記センサーには、経皮CO
2センサー、または、埋込み型CO
2センサーが含まれる、請求項20に記載の刺激装置システム。
【請求項22】
前記治療は、1つ以上の頚椎の上から前記経皮電気刺激、及び/または硬膜外刺激、及び/または磁気刺激の印加を含む、請求項1から21の何れか一項に記載の刺激装置システム。
【請求項23】
前記治療は、5つ以下の頚椎にかかる領域に、または4つ以下の頚椎にかかる領域に、または3つ以下の頚椎にかかる領域に、または2つ以下の頚椎にかかる領域に、または1つ以下の頚椎にかかる領域に前記経皮電気刺激、及び/または硬膜外刺激、及び/または磁気刺激の印加を含む、請求項22に記載の刺激装置システム。
【請求項24】
前記治療は、C0(後頭下)からC8の領域、またはC0からC7の領域、またはC0からC6の領域、またはC1からC6の領域、またはC2からC5の領域、またはC3からC4の領域に前記経皮電気刺激、及び/または硬膜外刺激、及び/または磁気刺激の印加を含む、請求項23に記載の刺激装置システム。
【請求項25】
前記治療は、C2~C3を含む領域またはその中の領域の上の前記経皮電気刺激、及び/または硬膜外刺激、及び/または磁気刺激の印加を含む、請求項24に記載の刺激装置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本願は、2015年7月13日に出願されたUSSN62/191,892号の利益及び優先権を主張し、あらゆる目的のためにその全文を参照により本明細書に援用するものとする。
【0002】
米国政府による助成については該当なし。
【背景技術】
【0003】
外傷、疾患、炎症、薬物、及びその他の要因は、人体の呼吸能力を低下させる場合があり、そのような状況で人体が行う呼吸法を機械的に模倣することは困難である。
【0004】
呼吸(respirationまたはbreathing)には脳幹から頚髄にかかる中枢パターン生成(CPG)に携わる複雑な回路のネットワークが関与して呼吸リズムを生成している。中枢及び末梢の化学受容体(たとえば、CO2受容体)、肺伸縮受容体からの感覚入力が、CPGの発火パターンに自然に影響している。脳幹または脊髄に疾患や損傷がある状態では、おそらくはCPGが抑制された状態となるせいで、呼吸リズムが損なわれる。抑制された呼吸状態に対処する現在の技術は、能動的に吸気に関わる横隔膜筋を横隔神経刺激装置により刺激するというものである。このアプローチの問題点は、筋肉が患者の活動状態の変化には反応せず、呼吸の吸気相に関わる横隔膜をただ作動させることである。
【0005】
定義
本明細書では「電気刺激」または「刺激」は、筋肉またはニューロンに、及び/またはニューロン群及び/またはインターニューロン群に、興奮性または抑制性であり得る電気信号を印加することを意味する。電気信号は、1つ以上のリターン電極を有する1つ以上の電極に印加できることが理解されよう。
【0006】
本明細書では「磁気刺激」は、たとえばニューロン内で、変化する磁場によって、筋肉またはニューロンに、及び/またはニューロン群及び/またはインターニューロン群に、興奮性または抑制性であり得る電気信号を誘導することを意味する。電気信号は、1つ以上のリターン電極を有する1つ以上の電極に印加できることが理解されよう。
【0007】
本明細書では「硬膜外」は、硬膜上または硬膜の直近に位置することを意味する。「硬膜外刺激」という用語は、電気的な硬膜外刺激を指す。
【0008】
「経皮刺激」または「経皮電気刺激」または「皮膚電気刺激」という用語は、皮膚に与えられる電気刺激を指し、本明細書で用いる場合は一般に、脊髄またはその領域を刺激するために皮膚に与えられる電気刺激を指す。「経皮電気脊髄刺激」という用語は「tSCS」として言及する場合もある。「pcEmc」という用語は、無痛の皮膚電気刺激を指す。
【0009】
「モーター・コンプリート」という用語は、脊髄損傷に関して用いる場合、その損傷部の下方には運動機能が存在しないことを示す。たとえば、その脊髄損傷部の下方の脊髄部分により神経支配されている筋肉では、いっさいの運動を自発的に誘発できない。
【0010】
「モノポーラ刺激」という用語は、局所の電極と、共通の遠隔リターン電極との間の刺激を指す。
【0011】
「同時投与すること(co-administering)」、「同時投与(concurrent administration)」、「~と一緒に投与すること」、及び「併用すること」という用語は、たとえば経皮電気刺激、硬膜外電気刺激、及び医薬投与に関して使用する場合、これらの様々な様式が対象において同時に生理学的効果を得られるように、経皮電気刺激及び/または硬膜外電気刺激及び/または医薬を投与することを指す。投与される様式は、時間的にも部位的にも共に投与する必要はない。いくつかの実施形態では、様々な「治療」様式は、時間的に別々に投与される。いくつかの実施形態では、一方が他方よりも先に投与される場合がある(たとえば、薬物のほうが電気及び/または磁気刺激よりも先、あるいはその反対)。同時的な生理学的効果は、薬物ならびに電気及び/または磁気刺激が同時に存在することを必ずしも必要とせず、また両刺激様式が同時に存在することも必ずしも必要としない。いくつかの実施形態では、全様式が基本的には同時に投与される。
【0012】
「脊髄刺激」という語句は、本明細書では、脊髄と関連のある脊髄ニューロン、副神経細胞、神経、神経根、神経線維、または組織を含むあらゆる脊髄神経組織の刺激を含む。脊髄刺激は、頚椎セグメントに関する1つ以上の領域の刺激を含むことができるものとする。
【0013】
本明細書では「脊髄神経組織」は、脊髄に関する神経、ニューロン、神経膠細胞、グリア細胞、神経副細胞、神経根、神経線維、神経細根、神経の一部、神経束、混合神経、知覚線維、運動線維、後根、前根、後根神経節、脊髄神経節、運動前根、一般体性感覚線維、一般内臓感覚線維、一般体性運動線維、一般内臓運動線維、灰白質、白質、後索、側索、及び/または前索を指す。脊髄神経組織には「脊髄神経根」が含まれ、これには脊髄から出ている31対の神経のいずれか1つ以上が含まれる。脊髄神経根は、頚神経根、胸神経根、及び腰神経根であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
様々な実施形態では、選択的医薬と一緒にまたは選択的医薬なしで脊髄刺激を与えて、呼吸能力が損なわれている対象の呼吸機能を可能にする方法が提供される。脊髄刺激は、経皮及び/または硬膜外電気刺激及び/または磁気刺激の場合がある。様々な実施形態では、電気刺激は単独でまたは医薬と併用で与えられて、正常な呼吸パターンの回復を促進することができる。
【0015】
本明細書で意図する様々な実施形態は、限定ではないが、次のうちの1つ以上を含むことができる。
【0016】
実施形態1:呼吸不全の対象の呼吸を改善し、及び/または制御し、及び/または回復させる方法であって、呼吸を制御し及び/または回復させるのに十分な周波数及び強度で頚髄またはその領域に経皮刺激を与えることによって、該対象の頚髄を神経調節すること;及び/または呼吸を制御し及び/または回復させるのに十分な周波数及び強度で頚髄またはその領域に硬膜外刺激を与えることによって、該対象の頚髄を神経調節すること;及び/または呼吸を制御し及び/または回復させるのに十分な周波数及び強度で磁気刺激装置により該対象の頚髄を神経調節することを含んでいる、該方法。
【0017】
実施形態2:頚髄またはその領域に経皮刺激を与えることを含んでいる、実施形態1の方法。
【0018】
実施形態3:該経皮刺激は、少なくとも約1Hz、または少なくとも約2Hz、または少なくとも約3Hz、または少なくとも約4Hz、または少なくとも約5Hz、または少なくとも約10Hz、または少なくとも約20Hz、または少なくとも約30Hz、または少なくとも約40Hz、または少なくとも約50Hz、または少なくとも約60Hz、または少なくとも約70Hz、または少なくとも約80Hz、または少なくとも約90Hz、または少なくとも約100Hz、または少なくとも約200Hz、または少なくとも約300Hz、または少なくとも約400Hz、または少なくとも約500Hz、または少なくとも約1kHz、または少なくとも約1.5kHz、または少なくとも約2kHz、または少なくとも約2.5kHz、または少なくとも約5kHz、または少なくとも約10kHz、または最高約25kHz、または最高約50kHz、または最高約100kHzの周波数である、実施形態2の方法。
【0019】
実施形態4:該経皮刺激は、約1Hzから、または約2Hzから、または約3Hzから、または約4Hzから、または約5Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、約500Hzまで、または約400Hzまで、または約300Hzまで、または約200Hzまで、約100Hzまで、または約90Hzまで、または約80Hzまで、または約60Hzまで、または約40Hzまで、または約3Hzから、または約5Hzから約80Hzまで、または約5Hzから約60Hzまで、または約30Hzまでの範囲の周波数である、実施形態2の方法。
【0020】
実施形態5:呼吸パターンが存在しない場合に呼吸を開始させるのに、該経皮刺激は約20Hzまたは約30Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である、実施形態2の方法。
【0021】
実施形態6:呼吸パターンが存在する場合、該経皮刺激は約5Hzまたは約10Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である、実施形態2の方法。
【0022】
実施形態7:該経皮刺激は、約5mAもしくは約10mAから約500mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約400mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約300mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約200mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約150mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約50mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約100mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約80mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約60mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約50mAまでの強度の範囲である、実施形態2~実施形態4のいずれかに記載の方法。
【0023】
実施形態8:経皮刺激には、約100μsから約1msまで、または約800μsまで、または約600μsまで、または約500μsまで、または400μsまで、または約300μsまで、または約200μsまで、または約100μsまで、あるいは約150μsから約600μsまで、あるいは約200μsから約500μsまで、あるいは約200μsから約400μsまでの範囲の幅を有するパルスを与えることが含まれる、実施形態2~実施形態7のいずれかに記載の方法。
【0024】
実施形態9:該経皮刺激は、安静呼吸数、及び対象の正常な一回換気量の少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%を回復させるのに十分な周波数、パルス幅、及び振幅である、実施形態2~実施形態8のいずれかに記載の方法。
【0025】
実施形態10:該経皮刺激は、高周波キャリア信号に重ねられる、実施形態2~実施形態9のいずれかに記載の方法。
【0026】
実施形態11:該高周波キャリア信号は、約3kHzから、または約5kHzから、または約8kHzから約30kHzまで、または約20kHzまで、または約15kHzまでの範囲である、実施形態10の方法。
【0027】
実施形態12:該高周波キャリア信号は約10kHzである、実施形態10の方法。
【0028】
実施形態13:該キャリア周波数振幅は、約30mAから、または約40mAから、または約50mAから、または約60mAから、または約70mAから、または約80mAから、約300mAまで、または約200mAまで、または約150mAまでの範囲である、実施形態10~実施形態12のいずれかに記載の方法。
【0029】
実施形態14:頚髄またはその領域に硬膜外刺激を与えることを含んでいる、実施形態1の方法。
【0030】
実施形態15:該硬膜外刺激は、少なくとも約1Hz、または少なくとも約2Hz、または少なくとも約3Hz、または少なくとも約4Hz、または少なくとも約5Hz、または少なくとも約10Hz、または少なくとも約20Hz、または少なくとも約30Hz、または少なくとも約40Hz、または少なくとも約50Hz、または少なくとも約60Hz、または少なくとも約70Hz、または少なくとも約80Hz、または少なくとも約90Hz、または少なくとも約100Hz、または少なくとも約200Hz、または少なくとも約300Hz、または少なくとも約400Hz、または少なくとも約500Hz、または少なくとも約1kHz、または少なくとも約1.5kHz、または少なくとも約2kHz、または少なくとも約2.5kHz、または少なくとも約5kHz、または少なくとも約10kHz、または最高約25kHz、または最高約50kHz、または最高約100kHzの周波数である、実施形態14の方法。
【0031】
実施形態16:該硬膜外刺激は、約1Hzから、または約2Hzから、または約3Hzから、または約4Hzから、または約5Hzから、または約10Hzから、または約15Hzから、または約30Hzから、約500Hzまで、または約400Hzまで、または約300Hzまで、または約200Hzまで約100Hzまで、または約90Hzまで、または約80Hzまで、または約60Hzまで、または約40Hzまで、または約35Hzまで、または約30Hzまで、または約3Hzからまたは約5Hzから約80Hzまで、または約5Hzから約60Hzまで、または約30Hzまでの範囲の周波数である、実施形態14の方法。
【0032】
実施形態17:呼吸パターンが存在しない場合に呼吸を開始させるのに、該硬膜外刺激は約20Hzまたは約30Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である、実施形態14の方法。
【0033】
実施形態18:呼吸パターンが存在する場合、該硬膜外刺激は約5Hzまたは約10Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である、実施形態14の方法。
【0034】
実施形態19:該硬膜外刺激は、0.5mAから、または約1mAから、または約2mAから、または約3mAから、または約4mAから、または約5mAから約50mAまで、または約30mAまで、または約20mAまで、または約15mAまで、あるいは約5mAから約20mAまで、あるいは約5mAから約15mAまでの範囲の振幅である、実施形態14~実施形態18のいずれかに記載の方法。
【0035】
実施形態20:刺激には、約100μsから約1msまで、または約800μsまで、または約600μsまで、または約500μsまで、または400μsまで、または約300μsまで、または約200μsまで、または約100μsまで、あるいは約150μsから約600μsまで、あるいは約200μsから約500μsまで、あるいは約200μsから約400μsまでの範囲のパルス幅を有するパルスを送ることが含まれる、実施形態14~実施形態19のいずれかに記載の方法。
【0036】
実施形態21:該表皮刺激は、安静呼吸数及び対象の正常な一回換気量の少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%を回復させるのに十分な周波数、パルス幅、及び振幅である、実施形態14~実施形態20のいずれかに記載の方法。
【0037】
実施形態22:該硬膜外刺激は、1つ以上の頚椎の上から傍脊椎的に与えられる、実施形態14~実施形態21のいずれかに記載の方法。
【0038】
実施形態23:該硬膜外刺激は、C2~C3を含む領域またはその中の領域に与えられる、実施形態14~実施形態21のいずれかに記載の方法。
【0039】
実施形態24:該刺激は、C3に与えられる、実施形態23の方法。
【0040】
実施形態25:該硬膜外刺激は、背側(後)索に与えられる、実施形態23~実施形態24のいずれかに記載の方法。
【0041】
実施形態26:該硬膜外刺激は、該背側(後)索の外側部に与えられる、実施形態25の方法。
【0042】
実施形態27:硬膜外刺激は、後根に与えられる、実施形態23~実施形態26のいずれかに記載の方法。
【0043】
実施形態28:硬膜外刺激は、後根の進入部に与えられる、実施形態27の方法。
【0044】
実施形態29:硬膜外刺激は、腹側(前)索に与えられる、実施形態23~実施形態28のいずれかに記載の方法。
【0045】
実施形態30:該硬膜外刺激は、該索の外側部に与えられる、実施形態29の方法。
【0046】
実施形態31:硬膜外刺激は、前根に与えられる、実施形態23~実施形態30のいずれかに記載の方法。
【0047】
実施形態32:該硬膜外刺激は、前根の進入部に与えられる、実施形態31の方法。
【0048】
実施形態33:前索及び/または前根への前記硬膜外刺激は、既に呼吸している対象の呼吸のスピードを上げる、実施形態29~実施形態32のいずれかに記載の方法。
【0049】
実施形態34:該硬膜外刺激は、後索の内側部には与えられない、実施形態14~実施形態33のいずれかに記載の方法。
【0050】
実施形態35:該硬膜外刺激は、永久埋込み電極アレイを介して与えられる、実施形態14~実施形態34のいずれかに記載の方法。
【0051】
実施形態36:該電極アレイは、可撓性の支持体に設置された複数の電極を含んでいる、実施形態35の方法。
【0052】
実施形態37:該電極アレイは、少なくとも2チャネル、または少なくとも4チャネル、または少なくとも8チャネル、または少なくとも12チャネル、または少なくとも16チャネル、または少なくとも20チャネル、または少なくとも24チャネル、または少なくとも28チャネル、または少なくとも32チャネル、または少なくとも36チャネル、または少なくとも40チャネル、または少なくとも40チャネル、または少なくとも48チャネル、または少なくとも52チャネル、または少なくとも56チャネル、または少なくとも60チャネル、または少なくともまたは64チャネルを提供する、実施形態36の方法。
【0053】
実施形態38:該電極アレイは、パリレンまたはシリコンを含む支持体に設置された複数の電極を含んでいる、実施形態36~実施形態37のいずれかに記載の方法。
【0054】
実施形態39:該電極アレイは、パリレンベースの微小電極インプラントである、実施形態36~実施形態37のいずれかに記載の方法。
【0055】
実施形態40:該電極アレイは、32チャネル背側呼吸電極A型の構成を有している、実施形態35~実施形態39のいずれかに記載の方法。
【0056】
実施形態41:該電極アレイは、48チャネル背側呼吸電極B型の構成を有している、実施形態35~実施形態39のいずれかに記載の方法。
【0057】
実施形態42:該電極アレイは、下方外側に出る電極テールを有している8チャネル腹側呼吸二重電極C型の構成を有している、実施形態35~実施形態39のいずれかに記載の方法。
【0058】
実施形態43:頚髄またはその領域に磁気神経刺激を与えることを含んでいる、実施形態1の方法。
【0059】
実施形態44:該刺激は単相である、実施形態43の方法。
【0060】
実施形態45:該刺激は二相である、実施形態43の方法。
【0061】
実施形態46:該刺激は多相である、実施形態43の方法。
【0062】
実施形態47:該磁気刺激は、少なくとも1テスラ、または少なくとも2テスラ、または少なくとも3テスラ、または少なくとも4テスラの磁場を生成する、実施形態43~実施形態46のいずれかに記載の方法。
【0063】
実施形態48:該磁気刺激は、少なくとも約1Hz、または少なくとも約2Hz、または少なくとも約3Hz、または少なくとも約4Hz、または少なくとも約5Hz、または少なくとも約10Hz、または少なくとも約20Hz、または少なくとも約30Hz、または少なくとも約40Hz、または少なくとも約50Hz、または少なくとも約60Hz、または少なくとも約70Hz、または少なくとも約80Hz、または少なくとも約90Hz、または少なくとも約100Hz、または少なくとも約200Hz、または少なくとも約300Hz、または少なくとも約400Hz、または少なくとも約500Hzの周波数である、実施形態43~実施形態47のいずれかに記載の方法。
【0064】
実施形態49:該磁気刺激は、約1Hzから、または約2Hzから、または約3Hzから、または約4Hzから、または約5Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、約500Hzまで、または約400Hzまで、または約300Hzまで、または約200Hzまで約100Hzまで、または約90Hzまで、または約80Hzまで、または約60Hzまで、または約40Hzまで、または約3Hzからまたは約5Hzから約80Hzまで、または約5Hzから約60Hzまで、または約30Hzまでの範囲の周波数である、実施形態43~実施形態47のいずれかに記載の方法。
【0065】
実施形態50:呼吸パターンが存在しない場合に呼吸を開始させるのに、該磁気刺激は約20Hzまたは約30Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である、実施形態43~実施形態47のいずれかに記載の方法。
【0066】
実施形態51:呼吸パターンが存在する場合、該磁気刺激は約5Hzまたは約10Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である、実施形態43~実施形態47のいずれかに記載の方法。
【0067】
実施形態52:該磁気刺激は、シングル・コイル刺激装置を用いて与えられる、実施形態43~実施形態48のいずれかに記載の方法。
【0068】
実施形態53:該磁気刺激は、ダブル・コイル刺激装置を用いて与えられる、実施形態43~実施形態48のいずれかに記載の方法。
【0069】
実施形態54:該磁気刺激は、安静呼吸数及び対象の正常な一回換気量の少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%を回復させるのに十分な周波数、振幅、及び向きである、実施形態43~実施形態53のいずれかに記載の方法。
【0070】
実施形態55:該刺激は、5つ以下の頚椎にかかる領域に、または4つ以下の頚椎にかかる領域に、または3つ以下の頚椎にかかる領域に、または2つ以下の頚椎にかかる領域に、または1つ以下の頚椎にかかる領域に与えられる、実施形態1~実施形態54のいずれかに記載の方法。
【0071】
実施形態56:該刺激は、C0(後頭下)からC8の領域、またはだいたいC0からC7の領域、またはだいたいC0からC6の領域、またはだいたいC1からC6の領域、またはだいたいC2からC5の領域、またはだいたいC3からC4の領域に与えられる、実施形態1~実施形態55のいずれかに記載の方法。
【0072】
実施形態57:該刺激は、埋込み型刺激装置を介して与えられる、実施形態1~実施形態56のいずれかに記載の方法。
【0073】
実施形態58:該刺激は、体外刺激装置を介して与えられる、実施形態1~実施形態56のいずれかに記載の方法。
【0074】
実施形態59:該刺激装置は、呼吸数及び/または一回換気量に応答して刺激パターンを変えるように構成されている、実施形態57~実施形態58のいずれかに記載の方法。
【0075】
実施形態60:該刺激装置は、心拍数に応答して刺激パターンを変えるように構成されている、実施形態57~実施形態59のいずれかに記載の方法。
【0076】
実施形態61:該対象はヒトである、実施形態1~実施形態60のいずれかに記載の方法。
【0077】
実施形態62:該対象は非哺乳類である、実施形態1~実施形態60のいずれかに記載の方法。
【0078】
実施形態63:呼吸不全は、脊髄損傷のせいである、実施形態1~実施形態62のいずれかに記載の方法。
【0079】
実施形態64:該脊髄損傷は、臨床的にモーター・コンプリートと分類される、実施形態63の方法。
【0080】
実施形態65:該脊髄損傷は、臨床的にモーター・インコンプリートと分類される、実施形態63の方法。
【0081】
実施形態66:該呼吸不全は、虚血性脳損傷のせいである、実施形態1~実施形態62のいずれかに記載の方法。
【0082】
実施形態67:該虚血性脳損傷は、卒中または急性外傷からの脳損傷である、実施形態66の方法。
【0083】
実施形態68:該呼吸不全は、神経変性疾患のせいである、実施形態1~実施形態62のいずれかに記載の方法。
【0084】
実施形態69:該神経変性疾患は、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、原発性側索硬化症(PLS)、ジストニア、及び脳性麻痺からなる群より選択される状態と関連がある、実施形態68の方法。
【0085】
実施形態70:該対象は、乳幼児突然死症候群(SIDS)の危険がある、実施形態1~実施形態62のいずれかに記載の方法。
【0086】
実施形態71:該対象は、呼吸動因(respiratory drive)が低下した、集中治療ユニットの患者である、実施形態1~実施形態62のいずれかに記載の方法。
【0087】
実施形態72:該呼吸不全は、急性呼吸促迫症候群(ARDS)または急性呼吸不全である、実施形態1~実施形態62のいずれかに記載の方法。
【0088】
実施形態73:該呼吸不全は、アルコール中毒及び/または過量服薬のせいである、実施形態1~実施形態62のいずれかに記載の方法。
【0089】
実施形態74:該呼吸不全は、過量服薬のせいである、実施形態73の方法。
【0090】
実施形態75:該刺激は、該対象が制御する、実施形態1~実施形態69及び実施形態71~実施形態74のいずれかに記載の方法。
【0091】
実施形態76:該刺激は、医療従事者が制御する、実施形態1~実施形態74のいずれかに記載の方法。
【0092】
実施形態77:さらに、少なくとも1種のモノアミン作動性アゴニストを該対象に投与することを含んでいる、実施形態1~実施形態76のいずれかに記載の方法。
【0093】
実施形態78:該少なくとも1種のモノアミン作動性アゴニストには、セロトニン作動薬、ドーパミン作動薬、ノルアドレナリン作動薬、GABA作動薬、及びグリシン作動薬からなる群より選択される剤が含まれる、実施形態77の方法。
【0094】
実施形態79:該前記剤は、8-ヒドロキシ-2-(ジ-n-プロピルアミノ)テトラリン(8-OH-DPAT)、4-(ベンゾジオキサン-5-イル)1-(インダン-2-イル)ピペラジン(S15535)、N-{2-[4-(2-メトキシフェニル)-1-ピペラジニル]エチル}-N-(2-ピリジニル)シクロ-ヘキサンカルボキサミド(WAY100.635)、キパジン、ケタンセリン、4-アミノ-(6-クロロ-2-ピリジル)-1ピペリジン塩酸塩(SR57227A)、オンダンセトロン、ブスピロン、メトキサミン、プラゾシン、クロニジン、ヨヒンビン、6-クロロ-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-3-ベンゾアゼピン-7,8ジオール(SKF-81297)、7-クロロ-3-メチル-1-フェニル-1,2,4,5-テトラヒドロ-3-ベンゾアゼピン-8-オール(SCH-23390)、キンピロール、及びエチクロプリドからなる群より選択される、実施形態78の方法。
【0095】
実施形態80:該モノアミン作動性アゴニストはブスピロンである、実施形態78の方法。
【0096】
実施形態81:実施形態1~実施形態75のいずれかにより、対象の頚領域で硬膜外及び/または経皮電気刺激及び/または磁気刺激を誘導するように構成されている、刺激装置。
【0097】
実施形態82:呼吸不全の対象の呼吸を改善し、及び/または制御し、及び/または回復させるのに用いられる、モノアミン作動性アゴニストと併用される対象の頚髄領域で硬膜外及び/または経皮電気刺激及び/または磁気刺激を誘導するように構成されている、刺激装置。
【0098】
実施形態83:該少なくとも1種のモノアミン作動性アゴニストには、セロトニン作動薬、ドーパミン作動薬、ノルアドレナリン作動薬、GABA作動薬、及びグリシン作動薬からなる群より選択される剤が含まれる、実施形態82の刺激装置。
【0099】
実施形態84:該剤は、8-ヒドロキシ-2-(ジ-n-プロピルアミノ)テトラリン(8-OH-DPAT)、4-(ベンゾジオキサン-5-イル)1-(インダン-2-イル)ピペラジン(S15535)、N-{2-[4-(2-メトキシフェニル)-1-ピペラジニル]エチル}-N-(2-ピリジニル)シクロ-ヘキサンカルボキサミド(WAY100.635)、キパジン、ケタンセリン、4-アミノ-(6-クロロ-2-ピリジル)-1ピペリジン塩酸塩(SR57227A)、オンダンセトロン、ブスピロン、メトキサミン、プラゾシン、クロニジン、ヨヒンビン、6-クロロ-1-フェニル-2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-3-ベンゾアゼピン-7,8ジオール(SKF-81297)、7-クロロ-3-メチル-1-フェニル-1,2,4,5-テトラヒドロ-3-ベンゾアゼピン-8-オール(SCH-23390)、キンピロール、及びエチクロプリドからなる群より選択される、実施形態83の方法。
【0100】
実施形態85:該モノアミン作動性アゴニストは、ブスピロンである、実施形態83の方法。
【0101】
実施形態86:呼吸不全のある対象の呼吸を改善し、及び/または制御し、及び/または回復させる周波数及び振幅で対象の頚髄領域で硬膜外及び/または経皮電気刺激及び/または磁気刺激を誘導するように構成されている刺激装置と、胸壁の運動及び/または膨張を検出するセンサー、血液O2飽和を検出するセンサー、及び呼気終期のCO2を測定するセンサーからなる群より選択される1つ以上のセンサーとを備え、該センサーの出力は該刺激装置に接続され、該刺激装置はセンサー出力に応答して所望の一回換気量及び/またはO2飽和及び/または呼気終期のCO2を提供するように刺激パターンを調節する、システム。
【0102】
実施形態87:該刺激装置は、頚髄の硬膜外刺激を誘導するように構成されている、実施形態86のシステム。
【0103】
実施形態88:該刺激装置は、実施形態14~実施形態42のいずれかに記載の方法で硬膜外刺激を誘導するように構成されている、実施形態86のシステム。
【0104】
実施形態89:該刺激装置は、頚髄の経皮刺激を誘導するように構成されている、実施形態86のシステム。
【0105】
実施形態90:該刺激装置は、実施形態2~実施形態13のいずれかに記載の方法で経皮刺激を誘導するように構成されている、実施形態86のシステム。
【0106】
実施形態91:該刺激装置は、頚髄の磁気刺激を誘導するように構成されている、実施形態86のシステム。
【0107】
実施形態92:該刺激装置は、実施形態43~実施形態54のいずれかに記載の方法で磁気刺激を誘導するように構成されている、実施形態86のシステム。
【0108】
実施形態93:該刺激装置は、実施形態1~実施形態80のいずれかに記載の方法を実行するように構成されている刺激装置である、実施形態86のシステム。
【0109】
実施形態94:血液O2飽和を検出するセンサーを備えている、実施形態86~実施形態93のいずれかに記載のシステム。
【0110】
実施形態95:該センサーは、体外パルスオキシメーターである、実施形態94のシステム。
【0111】
実施形態96:該センサーは、透過式パルスオキシメーターである、実施形態95のシステム。
【0112】
実施形態97:該センサーは、反射式パルスオキシメーターである、実施形態95のシステム。
【0113】
実施形態98:該センサーは、指先、耳たぶ、足、額、または胸部に取り付けるように構成されている、実施形態95~実施形態97のいずれかに記載のシステム。
【0114】
実施形態99:該センサーは、埋込み型酸素センサーである、実施形態94のシステム。
【0115】
実施形態100:呼気終期のCO2を測定するセンサーを備えている、実施形態86~実施形態99のいずれかに記載のシステム。
【0116】
実施形態101:該センサーには、経皮CO2センサーが含まれる、実施形態100のシステム。
【0117】
実施形態102:該センサーには、埋込み型CO2センサーが含まれる、実施形態100のシステム。
【0118】
実施形態103:該センサーは、体外カプノグラフである、実施形態100のシステム。
【0119】
実施形態104:胸壁の運動及び/または膨張を検出するセンサーを備えている、実施形態86~実施形態103のいずれかに記載のシステム。
【0120】
実施形態105:該センサーには、胸部インピーダンスを測定するデバイスが含まれる、実施形態104のシステム。
【0121】
実施形態106:該センサーには、胸郭の運動を測定するデバイスが含まれる、実施形態104のシステム。
【0122】
実施形態107:該センサーには、インダクタンス・バンドが含まれる、実施形態106のシステム。
【0123】
実施形態108:該センサーには、レーザー・モニターが含まれる、実施形態106のシステム。
【0124】
実施形態109:該センサーには、加速度計が含まれる、実施形態106のシステム。
【0125】
実施形態110:該加速度計は、胸部表面に取り付けられる、実施形態109のシステム。
【0126】
実施形態111:該加速度計は、埋め込まれる、実施形態109のシステム。
【0127】
実施形態112:呼吸に問題がある脊髄損傷や卒中の対象、ALS患者などのための埋込み型(たとえば、手術によって埋め込まれる)閉鎖ループ硬膜外刺激デバイスを備えている、実施形態86~実施形態93のいずれかに記載のシステム。
【0128】
実施形態113:急性呼吸不全のICU患者/急性期患者の呼吸機能を回復させ、またはベンチレーターからの解放を促進するためにリードを経皮挿入して一時的に埋め込まれるデバイスを備えている、実施形態86~実施形態93のいずれかに記載のシステム。
【0129】
実施形態114:胸壁の運動、及び/またはO2飽和、及び/または呼気終期のCO2を評価するセンサーからのフィードバックを該コントローラー/刺激装置に提供し、この情報を用いて刺激パラメーターを調節する、実施形態113のシステム。
【0130】
実施形態115:挿管されている対象に使用されるように構成されている、実施形態86~実施形態114のいずれかに記載のシステム。
【0131】
実施形態116:在宅用に構成されている、実施形態86~実施形態115のいずれかに記載のシステム。
【0132】
実施形態117:急性期医療施設で使用されるように構成されている、実施形態86~実施形態115のいずれかに記載のシステム。
【0133】
実施形態118:薬物中毒の対象に使用されるように構成されている、及び/または乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクがある対象に使用されるように構成されている、実施形態86~実施形態117のいずれかに記載のシステム。
【0134】
実施形態119:呼吸動因が低下したSIDS患者またはICU患者用の磁気または経皮電気刺激デバイスを備えている、実施形態86~実施形態93のいずれかに記載のシステム。
【0135】
実施形態120:胸壁の運動、及び/またはO2飽和、及び/または呼気終期のCO2を評価するセンサーからのフィードバックを該コントローラー/刺激装置に提供し、この情報を用いて刺激パラメーターを調節する、実施形態119のシステム。
【0136】
実施形態121:対象をレスピレーターから外す方法であって、対象がレスピレーター(ベンチレーター)を外されるとき及び/または該対象が該レスピレーターを外された後、請求項1~請求項80のいずれか1項に記載の方法、及び/または請求項86~請求項120のいずれか1項に記載のシステムを使用して、該対象の呼吸を誘発または維持することを含んでいる、該方法。
【0137】
実施形態122:該対象は、補助なしではまったく呼吸ができないヒトである、実施形態121の方法。
【0138】
実施形態123:該対象は、容易に呼吸できるように補助が必要なヒトである、実施形態121の方法。
【0139】
様々な実施形態では、上記の方法はどれも横隔神経の刺激を含まず、上記のデバイスやシステムはどれも横隔神経を刺激するようには構成されていない。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【
図1】磁気神経刺激装置のある例示的な実施形態の概略図である。
【
図2】本明細書で説明する呼吸刺激/維持システムの一実施形態の概略図である。
【
図3】硬膜外刺激の部位を説明する、脊髄の前外側を示す図である。
【
図4-1】
図4A~
図4Cは、呼吸刺激用の硬膜外電極を説明する図である。
図4Aは、背側呼吸電極A型(32チャネル)を示す。
【
図4-2】
図4Bは背側呼吸電極B型(48チャネル)を示す。
【
図4-3】
図4Cは腹側呼吸二重電極C型(8チャネル)を示す。
*下方外側に出る電極テールによって、後椎弓切除術による電極挿入が可能になる。例示的な寸法を示しているが、寸法はMRIに基づく解剖学的寸法に基づき患者に合わせて個別に調節できることが認識されよう。
【
図5】パネルA~パネルCは実験の設定を説明する図である。パネルAに本研究で使用した実験の設定を示す。パネルBは、脊髄の背側側部の硬膜外刺激部位である。パネルCは、各頚レベルの記録タイムラインであり、まずはシャム実験を、次に刺激を記録した。
【
図6】パネルAとパネルBは、試験した各頚レベルで用いるべき電流強度を決定している図である。使用した電気刺激の強度は、0.3mA、0.9~1.0mA、または1.5mAであった。パネルAは、刺激前ベースラインと比較した刺激中記録の呼吸回数の比率を示し、パネルBは、刺激前ベースラインと比較した刺激後記録の呼吸回数の比率を示す。どちらの分析でも、C3の刺激強度1.5mAだけが呼吸数の大きな増加をもたらした(
*を参照されたい)。C0及びC1では、1.5mAの刺激強度は強すぎて心停止を誘発した。C5は、この場所が記録を妨害する主血管に近いため、1.5mAのみ試験した。
【
図7】パネルAとパネルBは、C3を刺激(20Hz、1.5mA)すると呼吸回数が増加したことを示す図である。パネルAは、C3を電気刺激したときまたはシャム刺激を実行したときの呼吸回数の変化を示す。パネルBは、C3を電気刺激したときまたはシャム刺激を実行したときの呼吸のピーク・ツー・ピーク振幅の比率の変化を示す。比率は、記録した各データポイントを、計算したベースライン中間値と比較して計算した(n=24)。呼吸回数は、硬膜外刺激の間、シャム刺激と比較して、有意に増加した(p<0.05)。しかし、硬膜外刺激の間、シャム刺激と比較して、呼吸のピーク・ツー・ピーク振幅に変化はなかった。
【
図8-1】パネルA~パネルDは、C3の1.5mAでの硬膜外刺激による異なる呼吸回数変化パターンを示す階層的クラスターを示す図である。シャム群(パネルA)と硬膜外刺激群(パネルB)の階層的クラスターのデンドグラムを上段に示す。個々の記録は、各トレーシング間の距離が7.5階層ユニットよりも大きい場合は別のクラスターに入れた(An=動物)。
【
図8-2】パネルCは、シャム群の平均的クラスターのトレーシングを示し、(i)シャムクラスター1は24匹の動物のうち23匹のデータからなり、(ii)シャムクラスター2には動物1匹のデータしか含まれなかった。
【
図8-3】パネルDは、硬膜外刺激群の平均的クラスターのトレーシングを示し、(i)クラスター1には24匹の動物のうち7匹が含まれ、(ii)クラスター2には24匹の動物のうち6匹が含まれ、(iii)クラスター3には24匹の動物のうち5匹が含まれ、(iv)クラスター4には24匹の動物のうち3匹が含まれ、(v)クラスター5には24匹の動物のうち2匹が含まれ、(vi)クラスター6には動物1匹だけが含まれた。
【
図9-1】パネルAは、刺激前、シャム中または硬膜外刺激中、及びシャム後または硬膜外刺激後の呼吸の記録された一回換気量(赤色のトレース)及び平滑化された一回換気量(黒色のトレース)の代表的トレースを示す図である。ピーク(青色の矢印を参照されたい)は吐息を表し、代表的な吐息を詳細に示している(右側の黒破線で囲んだ丸)。
【
図9-2】パネルBは、シャム刺激または硬膜外刺激の使用による1秒当たりの吐息回数を示す図である。パネルCは、刺激前、シャム中または硬膜外刺激中、及びシャム後または硬膜外刺激後の、全被験マウス(n=19)の30秒ごとの吐息数を示す図である。吐息数は、硬膜外刺激の間のほうが刺激前のベースライン期間よりも多く(p=0.002)、硬膜外刺激の送達中は、シャム刺激中の同じ期間よりもかなり多くなり(p=0.0011、アステリスク記号を参照されたい)、吐息回数は、硬膜外刺激が止まった後も3分間は、シャムと比較して有意な増加が持続した(p<0.001、アステリスク記号を参照されたい)。
【
図10】刺激後の吐息応答と安静呼吸応答が相関していないことを示す図である。表の左側は、刺激前の吐息ベースラインと比較しての刺激に対する応答に基づく吐息クラスター化パターンを示す。表の右側は、刺激前安静呼吸ベースラインと比較しての硬膜外刺激に対する応答に基づく安静呼吸回数クラスター化を示す。吐息応答と安静呼吸応答のパターンによって各動物を図の両側に掲載しており、硬膜外刺激の間及び後の吐息と安静呼吸の変化パターンが似ていた動物を太字赤色の文字で表す。硬膜外刺激が安静呼吸回数と吐息回数に及ぼした影響は、個々の動物では相関していないようであり、動物24匹中16匹が、硬膜外刺激に対し異なる吐息応答と安静呼吸応答のパターンを有していた。
【
図11】パネルA~パネルCは、術中のヒト刺激を説明する図である。パネルAは、背側頚髄C3からC6を示す図であり、頚髄の硬膜に刺激用プローブが当てられている(ここでは正中線のすぐ左側)。パネルBは、小脳扁桃のレベルの背側/後延髄を示す図である。延髄表面の面をプローブ探査して第4脳室、舌下神経三角、及び背側呼吸ニューロン群にアクセスすることができる。パネルCは、前頚椎間板手術で腹側頚髄へのアクセスが提供され得ることを示す図である。
【
図12】脊髄呼吸刺激の概要を示す図である。麻酔下のマウスを呼吸流量計及びEMGで監視して呼吸数をモニタリングした。ヒートマップのカラーコードは、呼吸数の増加(黄色)または減少(青色)を反映している。
【
図13】マウスの30Hzの刺激に対する頚呼吸刺激のまとめを示す図である。
【
図14】ヒトの深麻酔中、周波数30HzでC3/4を刺激すると呼吸を誘導できることを示す図である。
【
図15】周波数30HzでC3/4を刺激すると、ヒトのオフ状態の間、協調性呼吸を誘導できることを示す図である。
【
図16】ヒトのC3/4の周波数30Hzの刺激に対する代表的な呼吸応答を示す図である。
【
図17】ヒトの深麻酔中の脊髄刺激に対する応答を示す図である。
【
図18】ヒトの軽麻酔中の脊髄刺激に対する応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0141】
呼吸(respirationまたはbreathing)には脳幹から頚髄にかかる中枢パターン生成(CPG)に携わる複雑な回路のネットワークが関与して呼吸リズムを生成している。中枢及び末梢の化学受容体(CO2)、肺伸縮受容体からの感覚入力が、CPGの発火パターンに自然に影響している。脳幹または脊髄に疾患や損傷がある状態では、おそらくはCPGが抑制された状態となるせいで、呼吸リズムが損なわれる。
【0142】
抑制された呼吸状態に対処する現在の技術は、能動的に吸気に関わる横隔膜筋を横隔神経刺激装置により刺激するというものである。このアプローチの問題点は、筋肉が患者の活動状態の変化には反応せず、呼吸の吸気相に関わる横隔膜をただ作動させることである。疾患状態で正常な呼吸を完全に再現するためには、中枢パターン発生器(複数可)内の問題の根源に対処する必要がある。
【0143】
手術において、発明者らは、外傷または疾患のある状況で正常な呼吸の回復に役立ち得る以下の点を発見している。
【0144】
1.頚髄を電流(周波数30~60Hzのうち最適なもの)で刺激すると、呼吸を調節できる(呼吸数、リズム、一回換気量);
【0145】
2.頚椎神経根を電流(特に周波数5Hz)で刺激すると、呼吸を調節できる(呼吸数、リズム、一回換気量);
【0146】
3.電流での刺激は、抑制された呼吸状態(たとえばアヘン剤誘導)において呼吸リズムを回復させることができる;
【0147】
4.上記の刺激の組合せは、抑制された呼吸状態において呼吸リズムに大きな影響を及ぼし回復させることができる;及び
【0148】
5.ブスピロンなどのセロトニンアゴニスト薬は、呼吸に関連するCPGをさらに活性化させるためのツールとして用いることができる。
【0149】
様々な構造の上記パラメーターの刺激は、硬膜外刺激電極、非侵襲性経皮電気刺激、または磁気刺激によって誘導することができる。
【0150】
したがって、様々な実施形態では、呼吸不全の対象の呼吸を改善し、及び/または制御し、及び/または回復させる方法を提供する。方法は、典型的には、呼吸を回復させるのに十分な周波数及び強度で頚髄またはその領域に経皮刺激を与えることによって、対象の頚髄を神経調節すること;及び/または呼吸を回復させるのに十分な周波数及び強度で頚髄またはその領域に硬膜外刺激を与えることによって、対象の頚髄を神経調節すること;及び/または呼吸を回復させるのに十分な周波数及び強度で磁気刺激装置により該対象の頚髄を神経調節することを含んでいる。
【0151】
横隔膜筋を直接刺激し、呼吸に関連する求心性感覚フィードバック(たとえば、CO2、一回換気量、呼吸数など)を再現しない横隔膜刺激とは異なり、神経根及び/または脊髄の刺激を含む本明細書で説明する方法は、正常なフィードバックに応答性のある呼吸動因を活性化する。正常な呼吸パターンをより完全に再現すると考えられる。
【0152】
これまで、たとえば脳損傷(卒中、外傷的脳損傷、脊髄損傷)、過量服薬、神経変性疾患(ALS、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症)などの呼吸動因が低下した状況で呼吸ネットワークを活性化して呼吸を誘導する方法は、存在しなかったと思われる。本明細書で説明する方法は、呼吸ネットワークを活性化させてベンチレーターから患者を解放するように、または呼吸「ペースメーカー」としてベンチレーターの代わりに呼吸動因を維持するように、用いることができる。外傷の状況では、このストラテジーを呼吸用の「呼吸除細動器」(心臓除細動器と同様)と同等に用いることができる。このように、対象が呼吸不全(たとえば呼吸動因の低下)を有する多くの状況で、脊髄を刺激して呼吸動因を活性化することができる。
【0153】
特定の実施形態では、呼吸除細動器を自動体外式除細動器(AED)に内蔵することができる。自動体外式除細動器(AED)は携帯用デバイスであり、心臓のリズムをチェックし、心臓に電気ショックを送って正常なリズムの回復を図ることができる。呼吸除細動器がAEDと一体化される場合、必要に応じて同一デバイスで心臓のリズムを刺激し、及び/または呼吸を刺激または維持することができる。
【0154】
本明細書で説明する方法は、一般的には、呼吸不全のある哺乳類(たとえばヒト、哺乳類(たとえば非ヒト霊長類、ウマ、ネコ、canusなど)用である。そのような呼吸不全は、いくつもの状況で生じ得る。たとえば、対象が脳損傷及び/または脊髄損傷を有する場合に生じ得る。後者の場合、本明細書で説明する方法は、脊髄損傷が臨床的にモーター・コンプリートまたはモーター・インコンプリートと分類される場合に、有効であると考えられる。本方法はまた、虚血性脳損傷(たとえば、卒中、溺れるなどの酸素欠乏、または急性外傷による)の場合も利用される。また、本方法は、呼吸不全が神経変性疾患(たとえば、パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、原発性側索硬化症(PLS)、ジストニア、脳性麻痺など)を原因とする場合にも利用できよう。本方法はまた、過量服薬のせいで呼吸が抑制される場合にも利用される。
【0155】
なお、特定の実施形態では、本明細書で説明する方法は、たとえば呼吸動作の改善をもたらすために、一般的なレスピレーターと一緒に使用する場合もあるし、一般的なレスピレーターの代わりに、または対象を一般的なレスピレーターから解放するのに、用いられる場合もある。
【0156】
特定の実施形態では、本明細書で説明する方法は、1種以上の神経調節薬物(たとえば本明細書で説明するモノアミン作動性アゴニスト)と併用することもできる。
【0157】
特定の実施形態では、本方法、及び本明細書で説明する装置(たとえばシステム)は、対象をベンチレーターから解放するのに用いることができる。例として、本明細書で説明する呼吸の経皮、硬膜外、及び/または磁気刺激は、対象がレスピレーター(ベンチレーター)を外されるとき、及び/またはベンチレーターを外された後に呼吸を維持するのに用いることができ、たとえば、内在性呼吸パターンがある場合は容易に呼吸ができるようにし、または不存在のレスピレーターもしくは刺激による呼吸が止むところで呼吸を誘導することができる。
【0158】
頚椎領域の経皮刺激
電極(複数可)の位置及びそれらの刺激パラメーターは対象の呼吸数の調節にとって重要であり得る。本明細書で説明する表面電極(複数可)を使用することで、特定の刺激部位の選択または改変、ならびに様々な刺激パラメーターの適用が容易になる。さらに、表面刺激により、硬膜外刺激用の埋込み型電極または電極アレイの位置を最適化することができる。
【0159】
様々な実施形態では、本明細書で説明する方法は、対象の頚椎または頚椎領域の経皮電気刺激により呼吸を回復させるかまたは制御することを含む。例示的な領域としては、限定ではないが、C1~C1、C1~C2、C1~C3、C1~C4、C1~C7、C1~C6、C1~C7、C1~T1、C2~C2、C2~C3、C2~C4、C2~C5、C2~C6、C2~C7、C2~T1、C3~C3、C3~C4、C3~C5、C3~C6、C3~C7、C3~T1、C4~C4、C4~C5、C4~C6、C4~C7、C4~T1、C5~C5、C5~C6、C5~C7、C5~T1、C6~C6、C6~C7、C6~T1、C7~C7、及びC7~T1からなる群より選択される、ある領域にまたがるまたはかかる1つ以上の領域が挙げられる。
【0160】
特定の実施形態では、経皮刺激はC2~C4を含む領域またはその中の領域に与えられる。特定の実施形態では、刺激はC3に与えられる。
【0161】
特定の実施形態では、経皮刺激は、少なくとも約1Hz、または少なくとも約2Hz、または少なくとも約3Hz、または少なくとも約4Hz、または少なくとも約5Hz、または少なくとも約10Hz、または少なくとも約20Hz、または少なくとも約30Hz、または少なくとも約40Hz、または少なくとも約50Hz、または少なくとも約60Hz、または少なくとも約70Hz、または少なくとも約80Hz、または少なくとも約90Hz、または少なくとも約100Hz、または少なくとも約200Hz、または少なくとも約300Hz、または少なくとも約400Hz、または少なくとも約500Hz、または少なくとも約1kHz、または少なくとも約1.5kHz、または少なくとも約2kHz、または少なくとも約2.5kHz、または少なくとも約5kHz、または少なくとも約10kHz、または最高約25kHz、または最高約50kHz、または最高約100kHzの周波数である。
【0162】
特定の実施形態では、経皮刺激は、約1Hzから、または約2Hzから、または約3Hzから、または約4Hzから、または約5Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、約500Hzまで、または約400Hzまで、または約300Hzまで、または約200Hzまで、約100Hzまで、または約90Hzまで、または約80Hzまで、または約60Hzまで、または約40Hzまで、または約3Hzから、または約5Hzから約80Hzまで、または約5Hzから約60Hzまで、または約30Hzまでの範囲の周波数である。特定の実施形態では、呼吸パターンが存在しない場合に呼吸を開始させるのに、経皮刺激は約20Hzまたは約30Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である。特定の実施形態では、呼吸パターンが存在する場合、経皮刺激は約5Hzまたは約10Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である。
【0163】
特定の実施形態では、経皮刺激は、約5mAもしくは約10mAから約500mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約400mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約300mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約200mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約150mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約50mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約100mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約80mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約60mAまで、または約5mAもしくは約10mAから約50mAまでの範囲の強度で与えられる。
【0164】
特定の実施形態では、経皮刺激は、約100μsから約1msまで、または約800μsまで、または約600μsまで、または約500μsまで、または400μsまで、または約300μsまで、または約200μsまで、または約100μsまで、あるいは約150μsから約600μsまで、あるいは約200μsから約500μsまで、あるいは約200μsから約400μsまでの範囲の幅を有するパルスを含む、与えられる刺激である。
【0165】
特定の実施形態では、経皮刺激は、安静呼吸数、及び対象の正常な一回換気量の少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%を回復させるのに十分な周波数、パルス幅、及び振幅である。
【0166】
特定の実施形態では、経皮刺激は、高周波キャリア信号に重ねられる。特定の実施形態では、高周波キャリア信号は、約3kHzから、または約5kHzから、または約8kHzから約30kHzまで、または約20kHzまで、または約15kHzまでの範囲である。特定の実施形態では、キャリア信号は、約10kHzである。特定の実施形態では、キャリア周波数振幅は、約30mAから、または約40mAから、または約50mAから、または約60mAから、または約70mAから、または約80mAから約300mAまで、または約200mAまで、または約150mAまでの範囲である。
【0167】
頚椎領域の硬膜外刺激
様々な実施形態では、本明細書で説明する方法は、対象の頚椎または頚椎領域の硬膜外電気刺激により呼吸を調節及び/または誘導することを含む。例示的な領域としては、限定ではないが、C1~C1、C1~C2、C1~C3、C1~C4、C1~C7、C1~C6、C1~C7、C1~T1、C2~C2、C2~C3、C2~C4、C2~C5、C2~C6、C2~C7、C2~T1、C3~C3、C3~C4、C3~C5、C3~C6、C3~C7、C3~T1、C4~C4、C4~C5、C4~C6、C4~C7、C4~T1、C5~C5、C5~C6、C5~C7、C5~T1、C6~C6、C6~C7、C6~T1、C7~C7、及びC7~T1からなる群より選択される、ある領域にまたがるまたはかかる1つ以上の領域が挙げられる。
【0168】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は、上記で特定した頚髄領域の上から(たとえばC0からC8にかけての椎骨またはその領域の上から、たとえばC2からC4にかかる領域の上から)傍脊椎的に与えられる。
【0169】
特定の実施形態では、硬膜外刺激はC2~C4を含む領域またはその中の領域に与えられる。特定の実施形態では、刺激はC3に与えられる。
【0170】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は背側(後)索(たとえば
図3を参照されたい)に与えられ、特定の実施形態では、
図3に示すように、背側(後)索の外側部に与えられる。
【0171】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は、あるいはまたはさらに、後根に与えられ、特定の実施形態では、後根の進入部に与えられる(たとえば
図3を参照されたい)。
【0172】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は、あるいはまたはさらに、腹側(前)索に与えられ、特定の実施形態では、前索の外側部に与えられる(たとえば
図3を参照されたい)。
【0173】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は、あるいはまたはさらに、前根に与えられ、特定の実施形態では、前根の進入部に与えられる。
【0174】
特定の実施形態では、前索及び/または前根への硬膜外刺激は、既に呼吸している対象の呼吸のスピードを上げる。
【0175】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は、少なくとも約1Hz、または少なくとも約2Hz、または少なくとも約3Hz、または少なくとも約4Hz、または少なくとも約5Hz、または少なくとも約10Hz、または少なくとも約20Hz、または少なくとも約30Hz、または少なくとも約40Hz、または少なくとも約50Hz、または少なくとも約60Hz、または少なくとも約70Hz、または少なくとも約80Hz、または少なくとも約90Hz、または少なくとも約100Hz、または少なくとも約200Hz、または少なくとも約300Hz、または少なくとも約400Hz、または少なくとも約500Hz、または少なくとも約1kHz、または少なくとも約1.5kHz、または少なくとも約2kHz、または少なくとも約2.5kHz、または少なくとも約5kHz、または少なくとも約10kHz、または最高約25kHz、または最高約50kHz、または最高約100kHzの周波数である。
【0176】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は、約1Hzから、または約2Hzから、または約3Hzから、または約4Hzから、または約5Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、約500Hzまで、または約400Hzまで、または約300Hzまで、または約200Hzまで、約100Hzまで、または約90Hzまで、または約80Hzまで、または約60Hzまで、または約40Hzまで、または約3Hzから、または約5Hzから約80Hzまで、または約5Hzから約60Hzまで、または約30Hzまでの範囲の周波数である。
【0177】
特定の実施形態では、呼吸パターンが存在しない場合に呼吸を開始させるのに、硬膜外刺激は約20Hzまたは約30Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である。
【0178】
特定の実施形態では、呼吸パターンが存在する場合、硬膜外刺激は約5Hzまたは約10Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である。
【0179】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は0.5mAから、または約1mAから、または約2mAから、または約3mAから、または約4mAから、または約5mAから約50mAまで、または約30mAまで、または約20mAまで、または約15mAまで、あるいは約5mAから約20mAまで、あるいは約5mAから約15mAまでの範囲の振幅である。
【0180】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は、約100μsから約1msまで、または約800μsまで、または約600μsまで、または約500μsまで、または400μsまで、または約300μsまで、または約200μsまで、または約100μsまで、あるいは約150μsから約600μsまで、あるいは約200μsから約500μsまで、あるいは約200μsから約400μsまでの範囲のパルス幅を有するパルスによる。
【0181】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は、安静な(または状況によっては能動的な)呼吸数、及び対象の正常な一回換気量の少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%を調節し及び/または回復させるのに十分な周波数及び振幅である。
【0182】
特定の実施形態では、硬膜外刺激は、永久埋込み電極アレイ(たとえば、一般的密度の電極アレイ、高密度の電極アレイなど)を介して与えられる。
【0183】
特定の実施形態では、硬膜外電気刺激は、(たとえばPCT公開WO/2012/094346(PCT/US2012/020112)で説明されているような)高密度の硬膜外刺激アレイを介して投与される。特定の実施形態では、高密度の電極アレイは、多数の電極を可撓性基板上でアレイ構成に配置する微細加工技術により準備される。いくつかの実施形態では、網膜刺激アレイ用の硬膜外アレイ製造方法を、本明細書で説明する方法に用いることができる(たとえばMaynard (2001) Annu. Rev. Biomed. Eng., 3: 145-168; Weiland and Humayun (2005) IEEE Eng. Med. Biol. Mag., 24(5): 14-21、及び米国特許公開第2006/0003090号及び同第2007/0142878号を参照されたい)。様々な実施形態では、刺激アレイは、可撓性材料上に設置された1種以上の生体適合性金属(たとえば、金、白金、クロム、チタン、イリジウム、タングステン、及び/またはそれらの酸化物及び/またはそれらの合金)を含んでいる。可撓性材料は、パリレンA、パリレンC、パリレンAM、パリレンF、パリレンN、パリレンD、シリコン、他の可撓性基板材、またはそれらの組合せから選択することができる。パリレンは利用可能な微細加工ポリマーのうちで最も透水率が低く、独特に共形的及び一様に蒸着され、FDAにより米国薬局方(USP)クラスVIの生体適合性材料として分類されており(常置インプラントで使用してもよい)(Wolgemuth, Medical Device and Diagnostic Industry, 22(8): 42-49 (2000))、可撓性特徴があり(ヤング率およそ4GPa(Rodger and Tai (2005) IEEE Eng. Med. Biology, 24(5): 52-57))、該可撓性はPDMS(柔らかすぎるとされることが多い)と大半のポリイミド(硬すぎるとされることが多い)の中間である。最後に、パリレン破断時の引き裂き抵抗及び伸長率はどちらも高く、手術時の操作下での電極アレイの破損の可能性が最小限化される。本明細書で説明する硬膜外刺激方法での使用に好適な準備及びパリレン微小電極アレイは、PCT公開WO/2012/100260(PCT/US2012/022257)で説明されている。別の好適な微小電極アレイは、NEUROPORT(登録商標)微小電極アレイ(Cyberkinetics Neurotechnology Systems社、マサチューセッツ州ボストン)であり、4mm2のシリコン支持体に、角に電極のない10×10アレイとして配置され固着されている96の白金微小電極からなる。
【0184】
特定の例示的な、ただし非限定的な実施形態では、たとえば、実質的には
図4Aで例示されているような、32チャネル背側呼吸電極A型を提供する構成を有する電極アレイが利用される。特定の例示的な、ただし非限定的な実施形態では、たとえば、実質的には
図4Bで例示されているような、48チャネル背側呼吸電極B型を提供する構成を有する電極アレイが利用される。特定の例示的な、ただし非限定的な実施形態では、たとえば、実質的には
図4Cで例示されているような、8チャネル腹側呼吸二重電極C型を提供する構成を有する電極アレイが利用される。特定の実施形態では、電極アレイは下方外側に出る電極テールを有している。
【0185】
電極アレイは、当業者には周知のいくつかの方法(たとえば、椎弓切除術)のうちのどれでも埋め込むことができる。たとえば、いくつかの実施形態では、電気エネルギーは、脊髄を取り囲む硬膜層の外部に配置された電極から送達される。脊髄表面の刺激(硬膜下)も意図され、たとえば、刺激を後根進入域のほか後索にも与えることができる。特定の実施形態では、電極は、経皮リードと椎弓切除リードの2つの主要な運搬体に担持されている。経皮リードは、一般的には、2つ以上の互いに離間した電極(たとえば、等間隔に離間した電極)を備えることができ、これらは硬膜層上方に、たとえばTouhy様針を用いて配置される。挿入は、Touhy様針を所望の椎骨間で皮膚に貫通させて硬膜層上方に開口する。8電極経皮リードの一例は、Advanced Neuromodulation Systems社製のOCTRODE(登録商標)リードである。
【0186】
椎弓切除リードは、一般的には、パドル構成を有し、一般的には、1つ以上のカラムに配置された複数の(たとえば、2つ、4つ、8つ、16、24、または32の)電極を有する。8電極2コラム椎弓切除リードの一例は、Advanced Neuromodulation Systems社製のLAMITRODE(登録商標)44リードである。特定の実施形態では、埋め込まれた椎弓切除リードは、対象の生理学的正中線上で横方向中央にある。そのような位置では、電極の複数のコラムは、正中線の両側に電気エネルギーを与えて、正中線を横断する電場を生成するのに好適である。複数コラムの椎弓切除リードによって、複数の電極を確実に配置することが可能になり、特に当初の埋込み位置から容易にずれない複数の電極の列が可能になる。
【0187】
椎弓切除リードは、一般的には、外科手技により埋め込まれる。外科手技、つまり部分的椎弓切除は、一般的には、特定の椎骨組織の切除及び除去を含み、それによって硬膜へのアクセスと椎弓切除リードの適切な位置決めの両方が可能になる。椎弓切除リードは、所定位置にさらに縫合されることもできる、安定したプラットフォームを提供する。
【0188】
従来の脊髄刺激においては、外科手技つまり部分的椎弓切除は、特定の椎骨組織の切除及び除去を含む場合があり、それによって硬膜へのアクセスと椎弓切除リードの適切な位置決めの両方が可能になる。しかし、挿入する位置によっては、硬膜へのアクセスは、挿入部位の黄色靭帯を部分的に除去するだけで事足りる場合もある。特定の実施形態では、2つ以上の椎弓切除リードが、先に特定したC1~C7の硬膜外腔内に配置される。複数のリードは互いに対してどのような位置でもよい。
【0189】
特定の実施形態では、電極アレイは神経根及び/または腹側表面に設置される。電極アレイは椎弓切除術によって腹側及び/または神経根領域に挿入することができる。
【0190】
様々な実施形態では、アレイは、起動する/刺激する電極(複数可)の選択を許可し、及び/または刺激の周波数及び/またはパルス幅及び/または振幅を制御する制御回路に機能的に連結されている。様々な実施形態では、電極選択、周波数、振幅、及びパルス幅は、独立して選択可能であり、たとえば異なる時間に異なる電極を選択することができる。いつでも、異なる電極が、異なる刺激周波数及び/または振幅を提供することができる。様々な実施形態では、異なる電極またはすべての電極を、刺激の定常電流または定常電圧の送達により、モノポーラモード及び/またはバイポーラモードで操作することができる。特定の実施形態では、経時変化する電流及び/または経時変化する電圧が使用される場合もある。
【0191】
特定の実施形態では、電極は、埋込み型制御回路及び/または埋込み型電源と一緒に提供される場合もある。様々な実施形態では、埋込み型制御回路は、体外デバイス(たとえば、制御回路と皮膚を通して通信する手持ち型デバイス)によりプログラム/リプログラムすることができる。プログラミングは必要なだけ何度でも繰り返すことができる。
【0192】
本明細書で説明する硬膜外電極刺激システムは、例示的なものであり、限定ではない。当業者であれば、本明細書で提供する教示を用いて、代替の硬膜外刺激システム及び方法が利用できる。
【0193】
磁気刺激
磁気刺激装置もまた、呼吸を調節/誘導し及び/または回復させるための頚髄の神経の刺激に使用できる。磁気神経刺激は、高速変化する磁場を生成して目的の神経(複数可)に電流を誘導することによって達成される。有効な神経刺激は一般に、刺激コイルから放電される約108A/s以上の過渡電流を用いる。刺激コイルを流れる放電電流が磁力線を生成する。この磁力線が組織を突き進むとき、皮膚でも、骨でも、筋肉でも、または神経でも、その組織に電流が生じる。誘導電流が細胞膜の脱分極に十分な振幅及び持続時間であれば、神経筋肉組織は従来の電気刺激と同様に刺激されることになる。
【0194】
したがって、磁場は組織内で電流を発生させる手段に過ぎないこと、また、細胞膜の脱分極をもたらして標的の筋肉/神経を刺激するのは磁場ではなく電流であることが、認識されよう。
【0195】
磁場の強度は刺激コイルから距離の二乗で減衰するので、刺激強度はコイル表面付近が一番高い。磁気パルスの刺激特徴、たとえば貫通深度、強度、及び精度などは、立ち上がり時間、コイルに伝導されるピーク電気エネルギー、及び場の空間分布による。立ち上がり時間及びコイルのピークエネルギーは、磁気刺激装置及び刺激コイルの電気的特徴に支配されるが、誘導された電場の空間分布はコイルの幾何学的形状及び誘導された電流が流れる領域の解剖学的構造による。
【0196】
様々な実施形態では、磁気神経刺激装置は、最高約10テスラ、または最高約8テスラ、または最高約6テスラ、または最高約5テスラ、または最高約4テスラ、または最高約3テスラ、または最高約2テスラ、または最高約1テスラの磁場強度を生成する。特定の実施形態では、神経刺激装置は、約100μs~約10ms、または約100μs~約1msの持続時間のパルスを生成する。
【0197】
特定の実施形態では、磁気刺激は、少なくとも約1Hz、または少なくとも約2Hz、または少なくとも約3Hz、または少なくとも約4Hz、または少なくとも約5Hz、または少なくとも約10Hz、または少なくとも約20Hz、または少なくとも約30Hz、または少なくとも約40Hz、または少なくとも約50Hz、または少なくとも約60Hz、または少なくとも約70Hz、または少なくとも約80Hz、または少なくとも約90Hz、または少なくとも約100Hz、または少なくとも約200Hz、または少なくとも約300Hz、または少なくとも約400Hz、または少なくとも約500Hzの周波数である。
【0198】
特定の実施形態では、磁気刺激は、約1Hzから、または約2Hzから、または約3Hzから、または約4Hzから、または約5Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、または約10Hzから、約500Hzまで、または約400Hzまで、または約300Hzまで、または約200Hzまで、約100Hzまで、または約90Hzまで、または約80Hzまで、または約60Hzまで、または約40Hzまで、または約3Hzから、または約5Hzから約80Hzまで、または約5Hzから約60Hzまで、または約30Hzまでの範囲の周波数である。
【0199】
特定の実施形態では、呼吸パターンが存在しない場合に呼吸を開始させるのに、磁気刺激は約20Hzまたは約30Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である。
【0200】
特定の実施形態では、呼吸パターンが存在する場合、磁気刺激は約5Hzまたは約10Hzから約90Hzまたは約100Hzまでの範囲の周波数である。
【0201】
様々な実施形態では、本明細書で説明する方法は、対象の頚椎または頚椎領域の磁気刺激により呼吸を調節及び/または誘導することを含む。例示的な領域としては、限定ではないが、C1~C1、C1~C2、C1~C3、C1~C4、C1~C7、C1~C6、C1~C7、C1~T1、C2~C2、C2~C3、C2~C4、C2~C5、C2~C6、C2~C7、C2~T1、C3~C3、C3~C4、C3~C5、C3~C6、C3~C7、C3~T1、C4~C4、C4~C5、C4~C6、C4~C7、C4~T1、C5~C5、C5~C6、C5~C7、C5~T1、C6~C6、C6~C7、C6~T1、C7~C7、及びC7~T1からなる群より選択される、ある領域にまたがるまたはかかる1つ以上の領域が挙げられる。
【0202】
特定の実施形態では、磁気刺激は、安静な(または状況によっては能動的な)呼吸数、及び対象の正常な一回換気量の少なくとも60%、または少なくとも70%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも98%を調節し及び/または回復させるのに十分な周波数及び振幅である。
【0203】
刺激装置及び刺激システム
電気刺激装置
頚髄の1つ以上の領域に電気信号を提供することができるあらゆる現在のまたは将来開発される刺激システムを、本明細書の教示にしたがって用いることができる。電気刺激システム(たとえばパルス発生装置(複数可))は、経皮刺激と硬膜外刺激の両方で用いることができる。
【0204】
様々な実施形態では、システムは、経皮刺激システムまたは硬膜外システムのいずれかと一緒に用いる体外パルス発生装置を含むことができる。他の実施形態では、システムは、多くの刺激パルスを生成する埋込み型パルス発生装置を含むことができ、該刺激パルスは、脊髄と連結した絶縁リードによって、1つ以上の電極及び/または電極アレイにより頚髄に近接した領域に送られて、硬膜外刺激を提供する。特定の実施形態では、該1つ以上の電極、または電極アレイを構成する1つ以上の電極は、1つのリード内に含まれる別々の導体に取り付けられる場合もある。対象の脊髄に近接して電気刺激信号を印加するのに有用なあらゆる既知のまたは将来開発されるリードを使用することができる。たとえば、リードは従来の経皮リード、たとえばMedtronic社が販売するPISCES(登録商標)モデル3487Aであってよい。いくつかの実施形態では、パドルタイプのリードを使用するのが望ましい場合もある。
【0205】
あらゆる既知のまたは将来開発される体外または埋込み型パルス発生装置を、本明細書の教示にしたがって使用することができる。たとえば、ある体内パルス発生装置は、Medtronic社から入手可能なITREL(登録商標)IIまたはSynergyパルス発生装置、Advanced Neuromodulation Systems社のGENESIS(商標)パルス発生装置、またはAdvanced Bionics Corporation社のPRECISION(商標)パルス発生装置などであってもよい。当業者であれば、本明細書の教示にしたがって呼吸を調節するように、上記のパルス発生装置を有利に改変できることがわかるであろう。
【0206】
特定の実施形態では、システムは、導体を介して無線周波アンテナに接続されたプログラマーを使用することができる。このシステムにより、埋め込み後、担当の医療従事者は無線周波通信により様々なパルス出力オプションを選択することが可能になる。特定の実施形態では、システムは完全に埋め込まれる要素を用いるが、部分的に埋め込まれる要素を用いるシステムも本明細書の教示にしたがって使用することができる。
【0207】
ひとつの例示的な、ただし非限定的なシステムでは、制御モジュールが信号発生モジュールに機能的に接続されて、生成すべき信号に関して信号発生モジュールに指令を出す。たとえば、任意所与の時点または時間で、制御モジュールは信号発生モジュールに、特定のパルス幅、周波数、強度(電流または電圧)などを有する電気信号を発生するように指令することができる。制御モジュールは、埋め込み前に予めプログラムされていてもよいし、プログラマー(または別のソースから)からあらゆる既知のまたは将来開発される機構、たとえば遠隔測定法を通じて指令を受信してもよい。制御モジュールは、信号発生モジュールを制御する指令を記憶するメモリを含んでいてもよいし該メモリに機能的に連結されていてもよく、また、どの指令を信号発生モジュールに送信するかを制御し、その指令を信号発生モジュールに送信するタイミングを制御するプロセッサーを内蔵している場合もある。
【0208】
特定の実施形態では、コントローラーは、対象の心拍数に応答して、及び/または測定された呼吸数及び/または一回換気量の変化に応答して呼吸数及び/または一回換気量を調節し、呼吸を変更及び/または調節する。
【0209】
様々な実施形態では、リードは、信号発生モジュールが生成した刺激パルスが電極を介して送達されるように、信号発生モジュールに機能的に接続されている。
【0210】
特定の実施形態では2つのリードが利用されるが、1つ以上のあらゆる数のリードを用いることができることが理解されよう。さらに、リード当たり1つ以上のあらゆる数の電極を用いることができることが理解されよう。刺激パルスは、(一般にアノードである)リターン電極に対する(一般にカソードである)電極に印加されて、頚椎領域の電気的に興奮可能な組織の所望の領域の興奮を誘導する。アースまたはその他の基準電極などのリターン電極は、刺激電極と同じリードに配置される場合がある。しかし、リターン電極は、刺激電極の付近であっても身体のもっと離れた場所でも、たとえばパルス発生装置の金属ケースなど、大抵どこに配置してもよいことが理解されよう。さらに、1つ以上の任意の数のリターン電極を用いることができることが理解されよう。たとえば、各カソードについて個々のカソード/アノード対が形成されるように、カソードごとにそれぞれのリターン電極があってもよい。
【0211】
様々な実施形態では、独立した各電極、または電極アレイの各電極は、起動する/刺激する電極(複数可)の選択を許可し、及び/または刺激の周波数及び/またはパルス幅及び/または振幅を制御する制御回路に機能的に連結されている。様々な実施形態では、電極選択、周波数、振幅、及びパルス幅は、独立して選択可能であり、たとえば異なる時に異なる電極を選択することができる。いつでも、異なる電極が、異なる刺激周波数及び/または振幅を提供することができる。様々な実施形態では、異なる電極またはすべての電極を、たとえば刺激の定常電流または定常電圧の送達により、モノポーラモード及び/またはバイポーラモードで操作することができる。
【0212】
ひとつの例示的な、ただし非限定的なシステムでは、制御モジュールが信号発生モジュールに機能的に接続されて、生成すべき信号に関して信号発生モジュールに指令を出す。たとえば、任意所与の時点または時間で、制御モジュールは信号発生モジュールに、特定のパルス幅、周波数、強度(電流または電圧)などを有する電気信号を発生するように指令することができる。制御モジュールは使用前に予めプログラムされていてもよいし、プログラマー(または別のソースから)から指令を受信してもよい。したがって、特定の実施形態では、パルス発生装置/コントローラーは、ソフトウェアによって構成可能であり、制御パラメーターはローカルでプログラム/入力されるか、または遠隔地から適宜/必要に応じてダウンロードしてもよい。
【0213】
特定の実施形態では、パルス発生装置/コントローラーは、刺激信号(複数可)を制御する指令を記憶するメモリを含んでいてもよいし該メモリに機能的に接続されていてもよく、また、信号を生成するのにどの指令を送信するかを制御し、その指令を送信するタイミングを制御するプロセッサーを内蔵している場合もある。
【0214】
特定の実施形態では、2つのリードを用いて経皮または硬膜外刺激を提供するが、1つ以上のあらゆる数のリードを用いることができることが理解されよう。さらに、リード当たり1つ以上のあらゆる数の電極を用いることができることが理解されよう。刺激パルスは、(一般にアノードである)リターン電極に対する(一般にカソードである)電極に印加されて、1つ以上の脊髄領域の電気的に興奮可能な組織の所望の領域の興奮を誘導する。アースまたはその他の基準電極などのリターン電極は、刺激電極と同じリードに配置される場合がある。しかし、リターン電極は、刺激電極の付近であっても身体のもっと離れた場所でも、たとえばパルス発生装置の金属ケースなど、大抵どこに配置してもよいことが理解されよう。さらに、1つ以上の任意の数のリターン電極を用いることができることが理解されよう。たとえば、各カソードについて個々のカソード/アノード対が形成されるように、カソードごとにそれぞれのリターン電極があってもよい。
【0215】
特定の実施形態では、電気刺激装置のコントローラー構成要素は、心拍数モニター及び/または呼吸モニターから信号を受信し、心拍数及び/または呼吸パターンの変化に応答して呼吸パラメーターを調節するように構成されている。
【0216】
磁気刺激装置
磁気神経刺激装置は、当業者には周知である。刺激は、高速変化する磁場を生成して目的の神経に電流を誘導することによって達成される。有効な神経刺激は一般に、約108A/sの過渡電流を要する。特定の実施形態では、この電流は、電気スイッチ構成要素(たとえば、サイリスターまたは絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT))により電流を切り替えることで得られる。
【0217】
図1は、ある例示的な、ただし非限定的な磁気刺激装置の実施形態の概略図である。図示のように、磁気神経刺激装置100は、たとえば5,000アンペア以上の放電電流を生成する高電流パルス発生装置と、磁気パルス(たとえば、磁場強度は最高で4、6、8、または10テスラ)を生成する刺激コイル110(パルス持続時間は、刺激装置の種類にもよるが、一般には約100μsから1ms以上の範囲)の、2部を備えている。
図1に示すように、電圧(電)源102(たとえば電池)は、確実に適切な動作が行われるようにキャパシタ電圧、ユーザーが設定した出力、及び装置内の様々な安全インターロック112などの情報を受ける制御回路114(たとえば、マイクロプロセッサー)の制御下で、充電回路104を介してキャパシタ106を充電し、該キャパシタは、刺激を与えるときに電気スイッチ構成要素108を介してコイルに接続される。制御回路は、ユーザー入力及び/任意選択によりたとえば任意選択の心拍数モニター118及び/または任意選択のもしくは呼吸モニター120などの体外モニターからの信号を受信し、それらの信号の変動/変化に応答して刺激パラメーターを調節することができるコントローラー・インターフェイス116を介して操作される。
【0218】
起動されると、放電電流はコイルを流れて磁束を誘導する。磁場の変化率によって組織内で電流が生成されるので、素早い放電時間が刺激装置の効率にとって重要である。
【0219】
既に述べたように、磁場は組織内で電流を発生する手段に過ぎず、細胞膜の脱分極をもたらして標的神経を刺激するのは磁場ではなく電流である。
【0220】
磁場の強度は刺激コイルから距離の二乗で減衰するので、刺激強度はコイル表面付近が一番高い。磁気パルスの刺激特徴、たとえば貫通深度、強度、及び精度などは、立ち上がり時間、コイルに伝導されるピーク電気エネルギー、及び場の空間分布による。立ち上がり時間及びコイルのピークエネルギーは、磁気刺激装置及び刺激コイルの電気的特徴に支配されるが、誘導された電場の空間分布はコイルの幾何学的形状及び誘導された電流が流れる領域の解剖学的構造に支配される。
【0221】
刺激コイルは、一般には、温度センサー及び安全スイッチとともに、1つ以上の高絶縁銅線の巻回からなる。
【0222】
特定の実施形態では、シングル・コイルを使用するものとする。シングル・コイルは、ヒトの運動皮質及び脊髄神経根の刺激に有効である。今のところ、最も広く使用されている磁気刺激は、平均直径80~100mmの円形コイルである。円形コイルの場合、誘導される組織電流は、コイルの中心軸線上ではほぼゼロ(z)であり、コイルの平均直径の輪の中で最大限まで増加する。
【0223】
コイルの設計の顕著な改善は、ダブル・コイル(バタフライ・コイルまたは8の字コイルとも呼ばれる)に見られる。ダブル・コイルでは、通常は隣り合わせに配置されている2個の巻回を用いる。一般に、ダブル・コイルは、非常に小さい平坦なコイルから大型の起伏があるものまで様々である。ダブル・コイルが円形コイルよりも有利である主な点は、誘導される組織電流が、2個の巻回が出合う中心部の真下で最大になることであり、刺激する部位をより正確に定めることができる。
【0224】
刺激パルスは、単相、二相、または多相とすることができる。これらはそれぞれ特性があるので、特定の状況で有用であり得る。神経学では、シングル・パルスの単相システムが広く利用されている。ペースの速い刺激装置では、後続パルスへの供給に役立てるために各パルスからエネルギーを回収しなければならないので、二相システムが用いられる。多相刺激装置は、いくつもの治療用途に役立つと考えられている。
【0225】
磁気神経刺激装置についての説明は、特に、米国特許公開2009/0108969A1、同2013/0131753A1、同2012/0101326A1、米国特許第8,172,742号、同第6,086,525号、同第5,066,272号、同第6,500,110号、同第8,676,324号などに記載されている。磁気刺激装置は、何社かの業者から、たとえばMAGVENTURE(登録商標)、MAGSTIM(登録商標)など、市販されてもいる。
【0226】
呼吸刺激/維持システム
特定の実施形態では、呼吸刺激/維持システムが意図されている。ある例示的な、ただし非限定的な実施形態を
図2に示す。図示のように、システム200は、典型的には、硬膜外及び/または経皮電気刺激及び/または磁気刺激を誘導するように構成されている電気または磁気刺激装置を備えている。電気刺激は、経皮電極、硬膜外電極(たとえば、硬膜外電極アレイ)、または1つ以上の磁気コイル204を介して頚椎領域(たとえば、C0からC8またはその中の領域)に送達される。様々な実施形態では、コントローラー206が、刺激装置によって生成される刺激パラメーターを制御する。特定の実施形態では、コントローラーは刺激装置とは別のユニットまたはモジュールとすることができ、他の実施形態では、特定の実施形態では、コントローラーと刺激装置は(破線ボックス220で示すように)一体化することができる。様々な実施形態では、システムは、典型的には、1つ以上のセンサーも備えている。例示的な、ただし非限定的なセンサーの例としては、酸素センサー212、CO
2センサー208、胸壁膨張/運動センサー214、心拍数センサー210などが挙げられる。典型的には、センサー(複数可)の出力は刺激装置/コントローラーに接続されており、したがってコントローラー/刺激装置はセンサー出力に応答して、所望の一回換気量及び/またはO
2飽和及び/または呼気終期のCO
2を提供するように刺激パターンを調節する。
【0227】
特定の実施形態では、センサーは、システムに内蔵された構成要素として提供される。他の実施形態では、センサーは、たとえば急性期医療ユニット/集中治療ユニット、救急治療室、手術室などの計器として提供される。
【0228】
経皮または磁気刺激が用いられる特定の実施形態では、刺激装置及び付属のコイル/電極は、対象の体外にある場合もある。さらに、システムのコントローラーのその他の構成要素及び様々なセンサーも体外にある場合がある。
【0229】
特定の実施形態では、システムの様々な構成要素は対象(たとえば患者)に埋め込むことができる。したがって、たとえば破線ボックス228で示すように、1つ以上のセンサーは、埋込み型センサーであり得る。特定の実施形態では、電極またはコイル204は埋め込むことができるが、刺激装置及び/またはコントローラーは対象の体外にある(破線ボックス222で示すように)。特定の実施形態では、コントローラー206及び/または刺激装置202及び電極またはコイル204はすべて対象に埋め込まれる(破線ボックス224で示すように)。特定の実施形態では、システム全体が対象に埋め込まれる(破線ボックス226で示すように)。
【0230】
特定の実施形態では、システムは、呼吸に問題のある脊髄損傷、卒中対象、ALS患者などのための、埋込み型(たとえば手術によって埋め込まれる)の閉鎖ループ硬膜外刺激デバイスを備えている。
【0231】
特定の実施形態では、システムは、急性呼吸不全のICU患者/急性期患者が呼吸機能を回復しまたはベンチレーターからの解放が促進されるように、リードを経皮挿入して一時的に埋め込まれるデバイスを備える。そのようなシステムは、胸壁の運動、O2飽和、呼気終期のCO2(これらはすべて急性期医療でたとえばICUのベッドの設定に実装される場合もある)を評価するフィードバック機構を提供することができ、それによって刺激パラメーターが調節される。
【0232】
特定の実施形態では、システムは、呼吸動因が低下したSIDSまたはICU患者用の磁気または経皮電気刺激デバイスを備え、胸部膨張、及び/またはO2飽和、及び/またはCO2(pCO2)をモニタリングするフィードバック機構を提供することができ、この情報を刺激パラメーターの調節に用いる。
【0233】
限定ではないがO2飽和、pCO2、胸壁の運動、心拍数などの様々な生理学的パラメーターを検出するセンサーは、当業者には周知である。たとえば体外及び埋込み型のオキシメーターは、O2飽和を日常的に測定できる。一般的なパルスオキシメーターでは、電子プロセッサー、及び対象の身体の一般には指先または耳たぶなどの光を通す部分を通してフォトダイオードに対向する一対の小型発光ダイオードが用いられる。ひとつの例示的な、ただし非限定的な実施形態では、一方のLEDは赤色でたとえば波長約660nmであり、他方は赤外でたとえば波長約940nmである。これらの波長の吸光度は、酸素を含む血液と含まない血液とでは大きく異なる。酸素化ヘモグロビンのほうが、多くの赤外光を吸収し、多くの赤色光を通過させる。脱酸素化ヘモグロビンのほうが、多くの赤外光を通過させ、多くの赤色光を吸収する。LEDは、一方がオン、次に他方がオン、そして両方がオフ、というサイクルをたとえば約30回/秒で順次行い、したがってフォトダイオードは赤色光と赤外光とに別々に応答することができ、また周囲光ベースラインについて調節できる。送光量が測定され、各波長について別々に正規化信号が生成される。これらの信号は、存在する動脈血の量が各心拍で増加する(まさしく脈を打つ)ので、時間とともに変動する。各波長のピーク送光量から最小送光量を引くことで、他の組織の効果が補正される。次に赤色光測定値と赤外光測定値の比率をプロセッサーで計算し(酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの比率を表す)、次いでこの比率をたとえばプロセッサーでランベルト・ベールの法則に基づきルックアップ・テーブルによりSpO2に変換する。体外オキシメーターは市販されており、急性期医療の場(たとえば救急治療室、ICU、手術室など)ならば日常的に利用できる。
【0234】
埋込み型オキシメーターも同様に機能する。埋込み型オキシメーターは、一般には、センサーを通過する血液中に光を送る発光ダイオードと、血液を通過した後の光を感知するフォトトランジスタとを含む。次に、発光と受光の強度及び周波数の比較から血液SO2が導かれる。実施態様によっては、センサーのフォトトランジスタの光学測定窓が、(たとえばいずれかの心房内の)血流中に配置されるか、または(たとえば皮下で)血管付近に配置される。埋込み型オキシメーターは当業者には既知である。たとえば米国特許第8,099,146B1号及びその引用資料を参照されたい。
【0235】
カプノグラフィーは、二酸化炭素(CO2)の濃度または分圧のモニタリングである。カプノグラムは、CO2の吸息呼息濃度または分圧の直接的なモニターであり、動脈血中CO2の分圧の間接的なモニターである。カプノグラフはふつう、CO2は赤外線を吸収するという原理で動作する。赤外光線を、気体検体を通過させてセンサーに当てる。気体中にCO2が存在すると、センサーに当たる光の量が減少し、それによって回路内の電圧が変化する。分析は高速及び正確である。カプノグラフは市販されており、急性期医療の場(たとえばICU、救急治療室、手術室など)ならば日常的に見られる。一つの例示的なカプノグラフは、Linton Instrumentation社製のMicro-Capnographである。
【0236】
特定の実施形態では、pCO2は経皮モニター(たとえばRadiometer America社などから入手可能)により測定される。
【0237】
PCO2は、埋込み型CO2センサーで測定することもできる(たとえばCajlakovic et al. (2012), Optochemical Sensor Systems for In-Vivo Continuous Monitoring of Blood Gases in Adipose Tissue and in Vital Organs, pages 63-88 in Chemical Sensors, Wen Wang, ed., InTech.を参照されたい)。
【0238】
胸壁の膨張及び/または運動を測定/モニタリングするセンサーも当業者には周知である。たとえば、胸郭の運動は、胸郭の周囲、たとえば腋窩の真下に配置された、インダクタンスまたはひずみゲージ・バンドを用いて測定することができる。インダクタンス・バンドの場合、胸部膨張は、バンドの伸長により誘導されるバンドのインダクタンスの変化によって測定することができる(たとえばDrummond et al. (1996) Br. J. Anaesthesia, 77: 327-332を参照されたい)。同様にひずみゲージ・バンドでも、バンドの伸長/収縮により生じるひずみゲージの抵抗/コンダクタンスの変化は、当業者には既知の方法により容易に測定することができる。
【0239】
別の例示的な、ただし非限定的な実施形態では、胸壁の膨張及び/または運動は、胸部インピーダンスを測定することにより、たとえばDrummond et al. (1996) Br. J. Anaesthesia, 77: 327-332で説明されているようにして、モニタリングすることができる。
【0240】
別の例示的な、ただし非限定的な実施形態では、胸壁の膨張及び/または運動は、レーザーを使用して、たとえばKondo et al. (1997) Eur. Respir. J. 10: 1865-1869で説明されているようにして、モニタリングすることができる。
【0241】
特定の実施形態では胸壁の位置/運動は、加速度計を用いてモニタリングすることができる。様々な実施形態では、加速度計を体表面に取り付けることができ、他の実施形態では、加速度計を体内に埋め込むことができる。胸壁の動きを検出するように構成された埋込み型及び体表面型の加速度計は、たとえば米国特許公開第2013/0085404号で説明されている。
【0242】
なお、これらの具体的なシステムやセンサーは、例示的なものであり、限定ではない。本明細書で提供する教示を用いれば、当業者には多数の他のシステムが利用可能になる。
【0243】
自立型呼吸制御デバイス
特定の実施形態では、自立型携帯呼吸制御デバイス/システムが意図される。様々な実施形態では、システムは、刺激装置及び電気刺激を与える電極または磁気刺激を与えるコイルを備えている。電極及び/またはコイルは、対象の頚髄領域に刺激を与えて呼吸を制御及び/または誘導するように構成されている。
【0244】
ひとつの例示的な、ただし非限定的なシステムでは、制御モジュールが刺激装置に機能的に接続されて、生成すべき信号に関して刺激装置モジュールに指令を出す。任意所与の時点または時間で、制御モジュールは信号発生モジュールに、特定のパルス幅、周波数、強度(電流または電圧)などを有する電気信号を発生するように指令することができる。制御モジュールは使用前に予めプログラムされていてもよいし、プログラマー(または別のソースから)から指令を受信してもよい。したがって、特定の実施形態では、パルス発生装置/コントローラーは、ソフトウェアによって構成可能であり、制御パラメーターはローカルでプログラム/入力されるか、または遠隔地から適宜/必要に応じてダウンロードしてもよい。
【0245】
特定の実施形態では、パルス発生装置/コントローラーは、刺激信号(複数可)を制御する指令を記憶するメモリを含んでいてもよいし該メモリに機能的に接続されていてもよく、また、信号を生成するのにどの指令を送信するかを制御し、その指令を送信するタイミングを制御するプロセッサーを内蔵している場合もある。
【0246】
いくつかの実施形態では、呼吸制御デバイスは、所望の刺激パラメーターを予めプログラムしておくことができる。いくつかの例では、電極の一部または全てのパラメーターは、たとえば医師の監督なしに、対象が制御することができる。他の例では、電極の一部または全てのパラメーターは、デバイスを構成するプログラマーまたはコントローラーによって自動的に制御することができる。
【0247】
呼吸の神経調節用デバイスは、様々な構成を有し得る。いくつかの例では、デバイスは、少なくとも1つの電極またはコイルが機能的に取り付けられたベルトまたはストラップとして構成される場合がある。あるいは、デバイスは、少なくとも1つの電極またはコイルが機能的に取り付けられた接着性パッチとして構成される場合がある。電源及び/または刺激装置は電極(複数可)またはコイル(複数可)と一体形成され接続されていてもよい。上述したように、特定の例では、デバイスは、電子機器(たとえば、PDA、携帯電話、タブレット、コンピューターなど)と(たとえば無線)電気通信するように構成されたコントローラー(上述したような)を含む場合がある。
【0248】
デバイスは、開放または閉鎖ループ・システムの一部であってもよい。開放ループ・システムでは、たとえば医師または対象は、パルス振幅、パルス幅、パルス周波数、デューティーサイクルなどの治療パラメーターをいつでも調節することができる。特定の実施形態では、ベンチレーター装置を外す間、この開放ループを該ベンチレーターと一緒に用いることができる。特定の実施形態では、該デバイスは、ベンチレーター制御部に接続されるかまたは内蔵されて、ベンチレーターからの値(一回換気量、PEEP、周波数)が刺激制御部にフィードバックされ、処理され、刺激のための刺激アルゴリズムが実行されるようになっている場合がある。
【0249】
あるいは、閉鎖ループ・システムでは、治療パラメーター(たとえば電気信号)は、検知された生理学的パラメーターまたは呼吸の程度を示す関連症状のパラメーターに応答して自動的に調節することができる。閉鎖ループ・フィードバック・システムでは、呼吸関連の生理学的パラメーターを検知する(たとえば心拍数、一回換気量などを検知する)センサーを用いることができる。
【0250】
なお、治療送達デバイスを閉鎖ループ・システムの一部として組み込むことには、治療送達デバイスを哺乳類のまたはその体内の神経標的のところに配置すること、呼吸機能関連の生理学的パラメーターを検知すること、そしてセンサー信号に応答して、送達デバイスを起動して呼吸パラメーターを調節する信号を印加することが含まれ得ることが理解されよう。
【0251】
神経調節剤の使用
特定の実施形態では、本明細書で説明する経皮及び/または硬膜外及び/または磁気刺激の方法は、様々な薬剤、特に神経調節作用のある(たとえばmonoamergic)薬剤と一緒に使用される。特定の実施形態では、様々なセロトニン作動薬、及び/またはドーパミン作動薬、及び/またはノルアドレナリン作動薬、及び/またはGABA作動薬、及び/またはグリシン作動薬の使用が意図される。これらの剤は、上述した硬膜外刺激及び/または経皮刺激及び/または磁気刺激と一緒に使用される場合がある。この併用アプローチは、脊髄(たとえば頚髄)を呼吸の制御に最適な生理学的状態にするのに役立つ場合がある。
【0252】
特定の実施形態では、薬物は全身投与され、他の実施形態では、薬物はたとえば脊髄の特定の領域に、局所投与される。脊髄神経運動ネットワークの興奮性を調節する薬物としては、限定ではないが、ノルアドレナリン作動性、セロトニン作動性、GABA作動性、及びグリシン作動性受容体アゴニストとアンタゴニストの組合せが挙げられる。
【0253】
少なくとも1種の薬物または剤の用量は、約0.001mg/kg~約10mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.01mg/kg~約1mg/kg、約0.1mg/kg~約10mg/kg、約5mg/kg~約10mg/kg、約0.01mg/kg~約5mg/kg、約0.001mg/kg~約5mg/kg、または約0.05mg/kg~約10mg/kgの場合がある。
【0254】
薬物または剤は、(たとえば、皮下、静脈内、筋内)注射、経口、直腸的、または吸引により送達することができる。
【0255】
例示的な薬剤としては、限定ではないが、セロトニン作動性:5-HT1A、5-HT2A、5-HT3、及び5HT7受容体の1つ以上の組合せ;ノルアドレナリン作動性アルファ1及び2受容体;及びドーパミン作動性D1及びD2受容体のアゴニスト及びアンタゴニストが挙げられる(たとえば、表1を参照されたい)。
【0256】
【0257】
以上の方法は、限定ではなく例示的なものとする。当業者であれば、本明細書で提供する方法を用いて、経皮電気刺激、及び/または硬膜外電気刺激、及び/または磁気刺激、及び/または神経調節剤使用を含む、呼吸不全の対象の呼吸を改善し、及び/または制御し、及び/または回復させる他の方法を利用できよう。
【実施例】
【0258】
以下の例は、特許請求の発明を説明するものであり、限定するものではない。
【0259】
実施例1
図14及び
図15は、脊柱の後側要素(椎弓及び棘突起)を除去して硬膜外腔を露出する頚髄手術中に得られた、硬膜外電気刺激をヒトの呼吸の調節に用いる概念実証を示すものである(たとえば
図11を参照されたい)。
【0260】
モノポーラボール電極を、周波数及び振幅で、パルス幅は450usで、硬膜外腔の異なる頚位置に配置した(たとえば
図11、パネルCを参照されたい)。
図14は、ヒトの深麻酔中、周波数30HzでC3/4を刺激すると呼吸を誘導できることを示す。背側頚髄のC3/4を電気刺激すると、横隔膜EMGのバースト及び生産的な吸息が生じた。この結果は、脊髄刺激は生理学的呼吸/肺機能を生じさせることができることを示している。
【0261】
図15は、周波数30HzでC3/4を刺激すると、ヒトのオフ状態の間、協調性呼吸を誘導できることを示す。この観察から、脊髄のアクセス可能な領域は、脳幹呼吸中枢の不全または脳幹呼吸中枢との接続喪失後、協調性呼吸/肺機能を許容し得ることが示される。
【0262】
実施例2
麻酔下マウスにおける頚部硬膜外刺激による呼吸出力の調節
概要
呼吸は、その特徴が明らかにされている脳幹核により生成され制御されるが、脊髄回路の呼吸制御及び調節への貢献についてはまだ調査段階である。呼吸に関する多くの研究は、新生仔げっ歯類から採取したインビトロの標本(たとえば脳幹片)で実施されている。これらの研究は有益ではあるが、安静呼吸(すなわち静かな呼吸)に関与していると考えられる複雑な求心性及び遠心性神経回路を完全には再現していない。脊髄の呼吸への貢献の調査を開始するに当たり、発明者らは、麻酔下の無補助呼吸中のインタクトなマウスの頚髄を電気刺激した。具体的には、20Hzで及び様々な電流強度で表皮電気刺激し、呼吸の変化を調査した。頚レベル3(C3)の1.5mAの刺激は、刺激前ベースラインと比較して、またシャム刺激と比較して、一貫して呼吸回数を大幅に増加させた。呼吸回数の増加は、硬膜外刺激を止めた後も数分間持続した。一回換気量には変化がなかった。吐息回数もまた、C3の硬膜外刺激の間増加した。他の背側頚レベルでは、呼吸回数の増加も吐息回数の増加も観察されなかった。電気刺激の強度を上げても、呼吸回数も呼吸回数増加の持続時間も増加せず、安静呼吸及び吐息の調節に関与している脊髄回路は、特定の内在性入力により優先的に活性化されている可能性を示している。これらの知見はまた、頚髄が、インタクトな成体マウスにおける安静な呼吸と吐息両方の生成に影響する呼吸調節において役割を果たしている可能性を示唆している。
【0263】
はじめに
哺乳類の呼吸系は、脳幹に存在するいくつかの核間で相互接続されたニューロンの複雑なネットワークにより制御されている。呼吸リズムの源は、腹側延髄に位置するプレベツィンガーコンプレックス(preBotC)(Feldman et al. (1990) Am. J. Physiol. 259: R879-886; Onimaru et al. (2009) Resp. Physiol. Neurobiol., 168: 13-18; Smith et al. (1991) Science 254: 726-729)、及び延髄吻側腹外側部に位置するパラ顔面呼吸ニューロン群(pFRG)(Duffin (2004) Exp. Physiol., 89: 517-529; Onimaru et al. (2006) J. Neurophysiol., 96: 55-61)といわれている。橋核も、安静なリズムの生成に重要と考えられている(Lindsey et al. (2012) Compr. Physiol., 2: 1619-1670; St. John and Paton (2004) Respir. Physiol. Neurobiol. 143: 321-332)。橋及び延髄内のリズム生成要素は、密接に相互接続し、呼吸出力のパターンを形成するニューロン群に埋め込まれている。したがって、このより大きい呼吸中枢パターン発生器内には、様々な異なる状況で作用することになる個々のリズム生成要素が存在する。呼吸制御の主要構造としては、腹側呼吸ニューロン柱(VRC)、橋呼吸ニューロン群(PRG)、及び背側呼吸ニューロン群(DRG)が挙げられる(Lindsey et al. (2012) Compr. Physiol., 2: 1619-1670)。このニューロンのネットワークは、呼吸筋の運動ニューロンを極めて綿密に構成されたシーケンスで活性化し、その結果非常に安定した高協調性の吸気と呼気の流れが、安静呼吸、発話、及び激しい運動といった多様な活動中に生じる(Bartlett and Leiter JC (2011) Compr. Physiol. 2: 1387‐1415)。呼吸中枢パターン発生器(CPG)は他のCPGと重複し協調することができ、したがって呼吸パターンが嚥下、咳、及び吐息(ため息)など様々な他の活動にも関与しまたは含まれることができる。
【0264】
脊髄にはリズム特性のある脊髄呼吸ニューロンが存在するという見解は、横切開のネコのC1~C2セグメントで吸気ユニットの活動が記録された際に生じ(Aoki et al. (1980) Brain Res. 202: 51-63)、上部頚髄に吸気ニューロンがあると考えられている(Duffin and Hoskin (1987) Brain Res. 435: 351-354; Hoskin and Duffin (1987) Exp. Neurol., 95: 126-141; Hoskin and Duffin (1987) Exp. Neurol., 98: 404-417; Lipski and Duffin (1986) Exp. Brain Res. 61: 625-637)。新生仔マウス脳幹~脊髄のインビトロの標本を用いた研究では、C1の上方で脊髄を横切開した後、自発的でリズミカルな呼吸バースト活動がC1/C2及びC4の頚前根で生じ得ることが明らかになった(Kobayashi et al. (2010) J. Physiol. Sci. 60: 303-307)。
【0265】
今日まで、頚髄が呼吸機能に関与していることを特定した研究では、インビトロの試験を用いている(Aoki et al. (1980) Brain Res. 202: 51-63; Dubayle and Viala (1996) Neuroreport 7: 1175-1180; Duffin and Hoskin (1987) Brain Res. 435: 351-354; Kobayashi et al. (2010) J. Physiol. Sci. 60: 303-307)。呼吸において頚髄上部が果たす役割をよりよく理解するために、発明者らはインタクトな麻酔下のマウスで電気刺激が呼吸活動に及ぼす効果を検証した。発明者らは、露出した脊髄の硬膜外表面に、延髄の最も尾側の領域(C0)からC1を通ってC5まで、直接定電流刺激を与え、呼吸出力を記録した。この研究の目的は、(1)呼吸応答を誘発するのに必要な刺激の強度を特定すること、及び(2)健康な成体マウスの呼吸活動を増加させるための頚髄刺激の最適な領域があるかどうかを決定することであった。結果は、麻酔下のマウスで、脊髄のC3レベルを1.5mAで硬膜外刺激すると呼吸数及び吐息回数が増加するが、一回換気量は変化しないことが示された。これらの知見は、おそらくは安静呼吸と吐息の2つの呼吸関連CPGが関与している呼吸機能は、適切な刺激強度及び位置を用いれば、頚髄刺激により改変可能であることを示している。
【0266】
方法
動物
この試験では、雌雄の5月齢C57BL/6マウスを用いた。マウスはすべて、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の動物実験委員会(ARC)が認可したプロトコルにしたがい飼育し実験した。手順はすべて、イソフルラン麻酔下のマウスに行った。全マウスを脊髄のシャム刺激及びモノポーラ電気硬膜外刺激に供した。
【0267】
椎弓切除
椎弓切除を行うために、動物に麻酔をかけ、手術パッド上に腹臥位で拡げた。椎骨レベルC1からC6までの椎弓板をそっと剥がして、インタクトな硬膜(dura matter)の脊髄を露出した。鉱物油に浸したガーゼパッドを脊髄に載せて湿潤を保ち、注意しながら傷両側の背中の皮膚を合わせて手術用クリップで留めて、ガーゼがずれないようにした。次いで動物を気管切開及び挿管用に配置した。
【0268】
気管切開及び挿管
麻酔下の気管切開マウスで呼吸の流れを測定した。気管切開及び挿管の方法は、Moldestad et al. (2009) J. Neurosci. Meth. 176: 57-62により説明されているプロトコルから応用した。簡単に説明すると、50~60mm静脈カテーテル(Venflon Pro. BD, 18-20 GA, BD社、米国ニュージャージー州)を2つの気管輪の間にそっと挿入し、その位置をスーパーグルーで固定した。スーパーグルーが完全に固まるまで何らかの呼吸の問題がないか、動物を5分間観察した。最後に、動物を呼吸流量計につないで、硬膜外刺激の位置にした(
図5、パネルAを参照されたい)。硬膜外電気刺激プロトコル
図5、パネルBは、椎弓切除後の背側脊髄表面を示し、パネルCは、各頚レベルの硬膜外刺激プロトコルを説明している。このプロトコルは、本明細書で報告する試験すべてで用いられた。シャム前ベースライン呼吸活動を2分間記録した後、シャム硬膜外刺激をした。シャム刺激を実施するため、電極を脊髄の硬膜外表面に30秒間そっと押し付けたが電流は印加しなかった。直後にシャム後ベースラインを3分間記録した。次に刺激前ベースラインをさらに3分間記録してから、30秒間電気刺激を行った。最後に、5分間の刺激後ベースラインを記録した。シャム刺激及び実際の硬膜外刺激の同じシーケンスを、順不同の次の頚レベル(C0~C5)で繰り返した。
【0269】
呼吸応答を誘起する電気刺激の強度及び頚髄位置の試験
最初に、麻酔下のマウスにおいて、呼吸応答を誘起する好適な強度及び頚髄レベルがあるかどうかを決定する試験を行った。この試験では13匹のマウスを用いた。脳幹(C0)及びC1~C5頚髄レベルを、定電流刺激装置で0.3mA、0.9~1.0mA、及び1.5mAの刺激強度で試験した。この試験では、全刺激を脊髄の背側内側~外側表面で実施し、全脊髄レベルについて両側でランダムに試験した。この試験では、定刺激周波数20Hzで単相の電気刺激、1%のデューティーサイクル、及び方形波パルスパターンを用いた。アースは、これらのモノポーラ刺激の刺激電極から1mm離して脊髄上に設置した。
【0270】
頚C3刺激による呼吸応答の変化の調査
最適な刺激強度及び頚髄レベルを決定した後(結果のセクションを参照されたい)、別に試験を行って、各頚レベルの刺激は呼吸応答を誘起するに十分かどうかを調査した。この試験では全部で24匹のマウスを用いた。上述のようにしてC1からC6まで椎弓切除を行い、上述の硬膜外刺激プロトコルを用いて全動物を試験した。
【0271】
生理学的記録
すべての試験で横隔膜電気筋運動記録(EMG)を取った。胸郭底部に3cmの切開部を設けて横隔膜の腹膜側表面を露出した。モノポーラ電極を横隔膜の内側部に挿入し、EMG筋肉活動を記録した。EMG記録ワイヤを増幅器に接続し、EMG信号は、30Hzから3,000Hzの間を通過帯域とし、10KHzでデジタル化した。増幅器(3000 AC/DC Differential Amplifier、AM system社、ワシントン州カールスボーグ)、A/Dボード(DT1890、Data Translation社、マサチューセッツ州マールボロ)及びデータ分析ソフトウェアシステム(DataView、St.Andrew大学)を用いてEMG信号を記録し、後に分析した。
【0272】
データ収集
被験動物の呼吸パターンならびに生体生理学的変数(心拍数、末梢酸素飽和、呼吸数、及び体温)を試験の間中PhysioSuite(商標)システム(Kent Scientific社)を用いてモニタリングした。呼吸の流れを呼吸流量計及び圧力トランスデューサー(Biopac Systems社、カリフォルニア州ゴリータ)でモニタリングし、Data View(University of St Andrews)によりコンピューター上に記録した。全チャネルのデジタル化レートは10KHzであった。
【0273】
データ分析
シャム及び刺激の記録の各ラウンドで分析に用いたデータは、シャム前1分、シャム30秒、シャム後3分、刺激前1分、刺激30秒、そして刺激後3分であった。呼吸回数及びピーク・ツー・ピーク振幅(一回換気量)を抽出した。抽出データは、移動平均フィルタ(時定数=250ms)でノイズ除去し、正規化し(Gaussianフィルタで整流し平滑化し)、MATLAB(登録商標)(Math Works社、マサチューセッツ州ネイティック)で視覚化した。分析後のデータを、シャムとシャム前、シャム後とシャム前、刺激と刺激前、及び刺激後と刺激前を比べた比率として提示した。これらのデータは、吐息発生の分析にも用いた。吐息には、特徴的な流れ形態があり、吐息の後には短時間の呼気休止がある。吐息は、典型的には、普通の呼気の約2倍の体積だった(3)。吐息データを吐息の絶対数及び絶対回数として提示した。試験した各マウスの吐息回数応答と安静呼吸回数応答のパターンを互いに対して比較して、硬膜外刺激に対する吐息応答と安静呼吸応答の間に相関があるかどうかを調べた。
【0274】
硬膜外刺激に対する応答はどの脊髄レベルも動物間で差があった。異なる応答パターンを客観的に分類するために、クラスター分析を用いた。クラスター分析は、応答の数学的類似性に基づき系統的及び階層的にデータを分類するのに用いることができる。Rソフトウェア(www.r-project.org)を用いて階層的クラスター(Hclust)分析を行い、刺激中の呼吸活動の比率の各トレースを時間経過に伴いベースライン呼吸活動と比較した。Hclustは、相違に基づく距離マトリックス(特定の属性の差異の二乗和平方根として計算される)を用い、異なるデータセット(この場合は、硬膜外刺激に対する呼吸回数応答)間のユークリッド距離を推測する。2つの応答パターンの間の距離が大きいほど、呼吸回数比率の各トレースの形の相違が大きい。
【0275】
分析では、0.25秒間隔で各ポイントの呼吸回数の比率を分析し、動物間の回数応答の相違を定めた。計算距離が7.5階層ユニットよりも小さい場合、その記録は同じクラスターに入るとみなした。距離が7.5階層ユニットよりも大きい場合、その記録は別のクラスターに入れた。距離カットオフの7.5は、クラスター内の平均の標準誤差をチェックし、ならびにクラスター内及びクラスター間の相関をチェックすることによって、事後検証した。ケンドールの順位相関検定及びケンドールのタウbにより相関を検証した。どちらの検定も、各クラスター内の変数間に真の相違があるかどうかを検定するのに用いられる。これらの2つの検定では異なるカットオフ値(2.5、5、7.5、10、及び12.5)で検定し、変数間の相関性を実現する最小距離は7.5であった。
【0276】
統計
データ分析はすべて一元反復測定ANOVAを用いた。ANOVAで、処置間に有意差あり、と示された場合、ボンフェローニ法で調節したp値を用いて、予め計画した対比較を行った。いずれも、統計的有意性はp<0.05とした。
【0277】
結果
電流強度の最適化
呼吸応答の誘発に必要な最適な刺激強度及び頚レベルを特定するために、脳幹(C0)及びC1からC5頚レベルに、異なる電流強度で体系的な刺激を行った。C0及びC1では、0.3mA及び1.0mAの刺激を用いたとき呼吸回数に変化がなかった(
図6)。1.5mAでの刺激は心停止を誘導したため、その後この刺激強度はこれらの頚レベルでは使用しなかった。C2及びC4を0.3mA、0.9~1.0mA、及び1.5mAで電気刺激しても、呼吸回数は有意に増加しなかった(
図6)。C3レベルでは、0.3mA及び1.0mAの刺激は呼吸回数に影響しなかった。しかし、C3の1.5mAの刺激は、刺激期間中呼吸回数を有意に増加させた(p=0.0387)。この呼吸回数の増加は、刺激後の記録期の間も、刺激は止んでいるのに継続した(
図6、
*を参照されたい。p=0.0017)。C5は、この場所が硬膜外刺激を妨害する主血管に近いため、1.5mAの電流強度のみ試験した。C5の1.5mAの刺激強度では呼吸の変化は観察されなかった(
図6)。
【0278】
1.5mAでC3を刺激すると呼吸回数は増加するが、一回換気量は増加しない
発明者らは、1.5mAのC3の刺激が、呼吸回数の変化を誘発する最適な刺激及び位置であると判定した。続いて、C3を1.5mAの電流で刺激した際に誘発される回数応答について詳しく調査した。結果は、シャム刺激と比較して、刺激された呼吸回数の比率には有意な増加(p<0.0001)があったことを示している(
図7、パネルA)。呼吸回数の増加は、刺激の間見られ(黒線矢印を参照のこと)、刺激後の期間も続いた(赤線矢印を参照のこと)。刺激後3分しか記録しなかったが、この呼吸回数促進の持続時間は一部のマウスではさらに長時間持続した可能性もある。C3を刺激したとき、シャム刺激と比較して、一回の換気量の有意な変化は認められなかった(
図7、パネルB)。結果は、頚硬膜外刺激は呼吸の数を増加させることができるが、各呼吸の深さは増加させることができないことを示している。
【0279】
階層的クラスター分析
発明者らは、Hclust分析により、C3のシャム刺激または1.5mAの硬膜外刺激を実施した際の動物の応答を異なる呼吸応答階層クラスターに分別できることを示した(
図8、パネルA、B)。24のシャム刺激応答のうち23が同じクラスターに属していた(
図8、パネルCi)。24のシャム刺激シーケンスのうちの1つだけが異なる階層的クラスターに入り(
図8、パネルCii)、シャム刺激の間、全動物のほぼすべてのシャム刺激シーケンスで呼吸は変化せず、類似していたことが示された。硬膜外刺激を使用する場合は、6つの階層的クラスターが特定された(
図8、パネルD)。これらのクラスターは、呼吸回数の増加のタイミング及び硬膜外刺激を止めた後の呼吸回数増加の持続の点で異なっていた。クラスター1、3、4、及び6には、調査した24匹の動物のうち16匹が入っており(
図8、パネルDi、iii、iv、及びv)、これらのクラスターには、硬膜外刺激の間呼吸数が上昇し、また、呼吸数は硬膜外刺激をオフにした後もベースラインよりはある程度高いレベルに留まった、という共通する2つの特徴があった。これらの4クラスターの違いは、呼吸回数のばらつきまたは変化のレベルだけであった。クラスター2には、調査した24匹の動物のうち6匹が入り(
図4Dii)、このクラスターでは、当初は呼吸回数の増加があったが、刺激を止めた後は維持されなかった。クラスター5には2匹の動物が入り(
図4Dv)、硬膜外刺激は呼吸回数を変化させなかったが、硬膜外刺激を止めた後は呼吸回数が増加し持続した。最後のクラスターの動物は1匹だけで(
図8、パネルDvi)、呼吸回数は硬膜外刺激の間増加したが、硬膜外刺激後の期間ではかなりばらつきがあった。クラスター2及び5でも、硬膜外刺激の間または直後のある時点で、全動物に多少は呼吸回数増加があった。一方、シャム刺激群の動物24匹のうち23匹には、識別可能な呼吸回数の変化がなかった。
【0280】
1.5mAのC3の刺激は吐息数を増加させた
マウスが1.5mAの硬膜外刺激をC3に受けたとき、シャム刺激と比較して、吐息の数も有意に増加した(
図5;
*を参照されたい、p=0.0011)。刺激前ベースラインと比較して刺激中の吐息数には増加があり(p=0.002)、刺激前ベースラインと比較して刺激後3分の間も増加があった(p<0.0001)。したがって、吐息数は、刺激後、刺激前ベースラインレベルに戻るまでに、最大3分間は増加したが、多くの動物は、硬膜外刺激が止まってから3分以内に徐々に吐息をつかなくなった。これらの結果は、刺激後の期間でもっと長期に呼吸回数が増加し、被験動物24匹のうち18匹(クラスター1、2、4、5、及び6)で減衰のエビデンスはほとんど見られなかった安静呼吸回数応答とは異なっていた。
【0281】
1.5mAでC3を刺激したとき、吐息回数と安静呼吸回数のパターンの間には相関なし
1.5mAでC3を刺激した後、吐息回数と安静呼吸回数の応答パターンの間に相関があるかどうかを評価した。各動物を刺激した際、吐息のパターンは、(安静呼吸のクラスターのように)4つのカテゴリーのうちの1つに該当した。吐息応答と安静呼吸応答のカテゴリーを(1)刺激中変化なし及び刺激後変化なし(吐息クラスターだけがこれらの水準を満たした)、(2)刺激中は変化なしだが、刺激後は呼吸回数が増加(たとえば安静呼吸クラスター5)、(3)刺激中は増加ありだが、刺激後は呼吸回数増加の持続なし(たとえばクラスター3)、及び(4)刺激中増加あり、刺激後の期間の一部も持続あり(たとえばその他すべての安静呼吸クラスター)を含むように簡略化した。発明者らは、硬膜外刺激の間及び後の各マウスの吐息応答パターンと安静呼吸応答パターンを比較し、安静呼吸回数の変化のパターンと吐息回数の変化のパターンの間に相関がないことを見出した(
図10)。動物24匹のうち8匹だけに、吐息応答と安静呼吸応答のパターンの類似性があった。
【0282】
考察
随分以前からインタクトな麻酔下の除脳動物の諸研究に基づき(Lindsey et al. (2012) Compr. Physiol., 2: 1619-1670; St. John (1990) J. Appl. Physiol., 68: 1305-1315; St. John and Paton (2004) Respir. Physiol. Neurobiol. 143: 321-332)、そして最近の新生仔のインビトロの標本を用いた実験に基づき(Feldman and Del Negro (2006) Nat. Rev. Neurosci. 7: 232-242; Onimaru et al. (2006) J. Neurophysiol., 96: 55- 61)、脳幹はリズミカルな呼吸動因を生じさせる主要部位と認識されている。呼吸ニューロンは、延髄及び橋の背側及び腹側領域全体で脳幹の多数の種々の核に分布し、各核内のニューロンは呼吸活動パターンの生成に独自の時間依存性の貢献をする。確定というわけではないが、頚髄を切断したイヌで(Coglianese et al. (1997) Respir. Physiol. Neurobiol. 29: 247-254)またネコでも(Aoki et al. (1980) Brain Res. 202: 51-63)自発的なリズミカルな呼吸が生じることから、頚髄は呼吸リズムの生成にも貢献している可能性がある。さらに、インビトロの研究から、上部頚髄レベルの呼気ニューロン及び前呼気ニューロンの存在が示されている(Douse et al. (1992) Exp. Brain Res. 90: 153-162; Jones et al. (2012) Respir. Physiol. Neurobiol. 180: 305-310; Lipski and Duffin (1986) Exp. Brain Res. 61: 625-637; Oku et al. (2008) Neuroreport, 19: 1739-547 1743)。しかし、人工的な縮小された標本でのインビトロの研究では安静呼吸の生理学的呼吸回路は完全には再現されない。安静呼吸を生じさせ形成する神経回路は、複数の橋、延髄、及びおそらくは頚髄の各位置の間で複数の求心性入力と内因性神経活動を統合する、相互作用するニューロンの巨大かつ複雑なネットワークである。したがって、発明者らは、インタクトな麻酔下のマウスで、頚髄の背側表面の硬膜外刺激を用いて、異なる頚セグメントの呼吸神経発生への貢献を評価した。
【0283】
発明者らが知る限り、頚髄に関する呼吸機能を完全体のマウスで調査した研究はこれが初である。従来の試験ではインビトロの切片または全脊髄/脳幹の外移植体を用いている(Jones et al. (2012) Respir. Physiol. Neurobiol. 180: 305-310; Onimaru et al. (2006) J. Neurophysiol., 96: 55-61)。頚髄の硬膜外刺激を利用したことにより、発明者らは、C3の1.5mAの刺激が大きな呼吸変化を誘起すること、C3の1.5mAの刺激が硬膜外刺激の間呼吸回数を増加させ、多くの動物では硬膜外刺激が止んだ後も呼吸回数の増加が維持されることを見出した。これらの呼吸回数応答は、硬膜外刺激をC3に送達したときだけ見られ、C0からC2あるいはC4でもC5でも見られなかった。これに対し、一回換気量は、C3でも試験した他のどの頚レベルでも、硬膜外刺激の間も後も変化しなかった。吐息数もC3の硬膜外刺激の間増加し、この吐息回数の増加もまた硬膜外刺激を止めた後も持続したが、刺激後の吐息の促進は、刺激後の安静リズムの促進ほど持続的ではなかった。最後に、各動物の応答の間には相違があったが、硬膜外刺激の間及び後の呼吸回数の変化のタイミング及び耐久性を主として反映する呼吸回数応答のクラスター化ができると考えられた。
【0284】
発明者らは、C3レベルに送達した1.5mA、20Hzの硬膜外刺激が、呼吸回数は大きく増加させるが、一回換気量は増加させないことを発見した。C3におけるこの応答の中心位置は、脳幹~脊髄標本からの光学信号により定めるところでは、上方頚呼吸ニューロン群の尾側の境界を区切るC2セグメントの尾側と考えられる(Oku et al. (2008) Neuroreport, 19: 1739-547 1743)。このことは、C2の尾側にこれまで認識されていなかった呼吸CPGの要素が存在することを示し得るが、あるいは、C3領域が独自のCPG活動をもつのではなく、C3には、C3に与えられた電流がより頭側の呼吸CPG機能に影響を与えるのを可能にする独自の電気生理学的特性がある可能性もある。仮にC3を刺激した応答がC2及びより頭側の要素に流れた電流によって引き出されるとすれば、C1及びC2の直接刺激は呼吸回数により大きく影響したはずであるが、発明者らは、これらの脊髄レベルでは硬膜外刺激の効果が皆無であるか、または該刺激はマウスにとって致命的であることを見出した。
【0285】
脊髄はセグメントからなるので、各脊髄セグメントの反復的な類似性が着目されがちである。硬膜外刺激による調節に対するC3レベルの独特の感受性は、C3には特定の非セグメント反復的な要素があって、それが安静呼吸及び吐息を生成する神経系に貢献しているかまたは該系の一部であることを示唆している。
【0286】
C3位置のユニークな一特徴は、これが特に三叉脊髄核(STN)(2、24)に関連する知覚情報の統合部位であることである。延髄のレベルでは、STN、舌下核、及びプレベツィンガーコンプレックスはすべて適度に互いの近くにあるので、しっかりと樹立された相互接続を有している(Feldman and Del Negro (2006) Nat. Rev. Neurosci. 7: 232-242)。C3の刺激がSTNの求心性知覚線維を活性化し、それが呼吸リズムに影響することも考えられる。C3刺激により活性化される、脳幹核の活動を統合し調整する他の索もあり得る(たとえば、内側縦束)。経路の頭側に突出するあらゆる軸索が硬膜外刺激に影響された可能性は興味深いが、C1レベル及びC2レベルを刺激したときには呼吸活動の増加がなかったことは、経路の頭側に突出する軸索の単純な活性化説に反している。したがって、C3の硬膜外刺激に対する呼吸応答の機構(複数可)を明らかにし、C3のどの固有の特徴がこの応答を生じさせたのかを決定するには、さらなる研究が必要である。
【0287】
頚呼吸ネットワークの調節機構は、硬膜外刺激中の安静呼吸の間、強直性呼吸筋収縮はなかったが呼吸回数の増加はあったため、直接的な横隔膜運動ニューロンの活性化ではなく、ニューロン間の頚呼吸回路によると考えられる。発明者らは、呼吸吐息活動のパターンのクラスター分析を行った。刺激前、刺激中、及び刺激後条件と吐息のデータのクラスター分析もまた、吐息回数も調節されており、吐息が影響を受けなかったとか存在しなかったとかではなく、存在したため、直接的な横隔膜運動ニューロンの活性化ではなく、発明者らが提案する頚ニューロン間ネットワークのアクセス機構を支持している。C3刺激の間の吐息回数の増加(
図8)ならびに呼吸パターンのクラスター化(
図9)は、脳幹内にいずれもCPGを有する安静呼吸と吐息の回数に硬膜外刺激が影響を及ぼしたため、C3-脳幹呼吸回路が橋-延髄呼吸CPGと接続し及び統合されている、という見解を支持している。さらに、硬膜外刺激に対する安静呼吸と吐息の応答パターンは、個々の動物で相関がなかった。頚椎に吐息と安静呼吸の完全な別々のCPGがあるとは考えにくく、したがって硬膜外刺激の二重効果は、頚髄ニューロンは吐息と安静呼吸両方を支える脳幹及び上部頚椎全体の呼吸CPGの大きなセットの一部である、という仮説を強く支持するものである。呼吸活動の2つの形態がC3の硬膜外刺激により調節されたことで、呼吸応答が運動ニューロンへの直接の影響から生じるということは考えにくく、運動ニューロンは吸気及び/または呼気筋肉活動の持続時間または強度を調節すると予測されたであろうが、発明者らはそれを観察しなかった。
【0288】
吐息は後台形核/パラ顔面呼吸ニューロン群(RTN/pFRG)及びpreBotCへの突起と関連づけられており(Onimaru et al. (2009) Resp. Physiol. Neurobiol., 168: 13-18)、安静呼吸は脳幹呼吸核の複雑な相互作用と関連がある(Lindsey et al. (2012) Compr. Physiol., 2: 1619-1670; St. John (1988) Prog. Neurobiol. 56: 97-117)。組織分布的に明確な頚椎位置の刺激に伴う安静呼吸と吐息両方の回数及び呼吸パターンの改変は、吐息及び安静呼吸の呼吸中枢と脊髄と脳幹の相互接続回路を示唆している。この研究で収集したデータは、C3領域が呼吸回路へのアクセスの節またはネクサスである、呼吸機能に関する独立したCPGの階層モデルと一致する。
【0289】
興味深いことに、発明者らは、刺激除去後も持続する、呼吸回数に対する刺激の影響があることを発見した。そのような観察は、脊髄刺激は頚髄運動回路を活性化し、動作タスクの活性化または休止膜電位の閾値を下げ、持続性の残余効果があるという論理を支持するものである(Lu et al. (2016) Neurorehab. Neural Repair., 1545968316644344)。増加した呼吸回数は、促進または抑制解除またはその両方による、と想像することができる。促進だとして、呼吸回数増加の持続(長期促進と呼ばれる)の前には間欠的なハイポキシア(8)があり、この長期促進はセロトニン作動的に誘導される可塑性に依存すると考えられたことは特筆に値する。硬膜外刺激は間欠的ハイポキシアとは明確に異なるが、硬膜外刺激は動物の多数で同様に維持された呼吸回数増加を誘導すると考えられ、またセロトニンは、脊髄興奮性増加の機構及び運動活性化を許容しやすい状態により、脊髄損傷後に呼吸及び運動機能を増強するのに用いられている(Choi et al. 92005) J. Neurosci. 25: 4550-4559; Courtine et al. (2009) Nat. Neurosci. 12: 1333-1342; Fong et al. (2005) J. Neurosci. 25: 11738-11747)。
【0290】
抑制解除も安静呼吸及び吐息の回数を増加させる機構であり得、脊髄の各セグメントレベルには多くのGABA作動性インターニューロンがあって、これらが硬膜外刺激により調節されて、呼吸回数増加が維持された可能性がある。さらに、脊髄損傷後に呼吸活動が増加した例があり、それらはこれらの脊髄インターニューロンの抑制解除に依るとされている(Lane et al. (2009) Respir. Physiol. Neurobiol., 169: 123-132)。硬膜外刺激に対する応答における促進と抑制解除(またはそれら両方)の役割を定めることも将来の研究に求められる。
【0291】
まとめ
背側脊髄のC3レベルの硬膜外刺激により、安静呼吸及び吐息の回数が増加することを見出した。尾側延髄からC5の他の頚髄レベルの刺激では安静呼吸にも吐息にも影響がなかった。安静呼吸も吐息も、回数増加は硬膜外刺激が止んでも多くの動物で持続した。刺激後回数促進の持続時間は、吐息よりも安静呼吸のほうが長かった。これらの知見が示唆するのは、C3レベルの脊髄要素は、安静呼吸と吐息両方の呼吸回数の生成に独特のこれまで認知されていなかった貢献をしており、それはおそらく安静呼吸及び吐息のCPGとの相互作用またはCPGへの参加による、ということである。硬膜外刺激に対する応答の機構については、頚硬膜外刺激を脊髄損傷の個体の治療に応用する可能性を明らかにするために、さらなる研究に値する。
【0292】
実施例3
ヒトの術中刺激
図12は、脊髄呼吸刺激の概要を示す。麻酔下のマウスを呼吸流量計及びEMGで監視して、呼吸数をモニタリングした。
図12に示すヒートマップのカラーコードは、呼吸数の増加(黄色)または減少(青色)を表す。測定値は、2~3分間のベースラインに対し正規化した。mAの目盛は強度が0.3mAから1.5mAに増加する刺激を表す。シャム条件とシャム後条件では、呼吸の変化はほとんど観察されなかった。しかし刺激中は、1mA~1.5mAで、特に頚髄レベルC2、C3、及びC4を刺激した際、呼吸数の実質的な増加が観察された。刺激後、3分間持続した連続的調節が観察された。これらの結果は、間欠的な刺激は有益であり得、刺激デューティーサイクルの減少が可能であり得ることを示唆している。
【0293】
図13は、30Hzの刺激を与えたマウスの頚呼吸刺激のまとめである。ここでは1mA、1.2mA、及び1.5mAの刺激実験の値が平均化されている。刺激前、シャム期間、及びシャム後期間には、呼吸数にほとんど変化は見られなかった。呼吸数の実質的な増加は、stim及びstim後条件で、特に顕著にはC3で見られた(n=24)。
【0294】
図14は、周波数30HzでC3/4を刺激すると、ヒトの深麻酔中に呼吸を誘導できることを示す。背側脊髄のC3/4を電気刺激すると、横隔膜EMGのバースト及び生産的な吸息が得られた。
図17に示すように(以下に説明)、この結果は、脊髄刺激が生理学的呼吸/肺機能を生成できることを示している。
【0295】
図15は、周波数30HzでC3/4を刺激すると、ヒトのオフ状態の間、協調性呼吸を誘導できることを示している。この重要な実験は、脊髄を刺激すると協調性呼吸が生じ得ることを実証している。2つの息の前の喉頭及び舌下の強直が増加するのに注意されたい(
*)。この観察は、脊髄のアクセス可能な領域は、脳幹呼吸中枢の不全または脳幹呼吸中枢との接続喪失後、協調性呼吸/肺機能を許容し得ることを示している。
【0296】
図16は、ヒトのC3/4の周波数30Hzでの刺激に対する代表的な呼吸応答を示す。横隔膜EMG及びベンチレーター圧力を軽い鎮静下の自発呼吸(オン状態)でモニタリングした。上段のPRE条件は、5Hzでも30Hzでも応答を示していない。STIM中、5Hzは応答がないが、30Hzは呼吸数を増加させた。刺激後つまりPOSTでは、呼吸数は5Hzでは影響がなかったが、30Hzの刺激の後は緩慢化したようである。
【0297】
図17は、ヒトの深麻酔中の脊髄刺激に対する応答を示す。患者は、自発呼吸が不在の間に試験を行った。黒いドットは刺激中(Intra-Stim)の個々の実験結果を示し、灰色のドットは刺激後の個々の実験結果を示す。5Hzの刺激では、C2~C7レベルで、一回換気量も呼吸数も変化が見られなかった。30Hzの刺激では、一回換気量にわずかな変化が見られ、より実質的な増加が呼吸数で観察された。90Hzでは、一回換気量の実質的な増加はC3/4で観察され、呼吸数の増加はC3/4及びC6で観察された。
【0298】
図18は、ヒトの軽麻酔中の脊髄刺激に対する応答を示す。患者は、自発呼吸が存在する間に試験を行った。黒いドットは刺激中(Intra-Stim)の個々の実験結果を示し、灰色のドットは刺激後の個々の実験結果を示す。5Hzの刺激では、一回換気量または呼吸数で変動的な増加及び減少が観察され、刺激前ベースラインに対し正規化した。30Hzの刺激では、一回換気量及び呼吸数に変動的な変化が観察された。これらの結果は、脊髄は、麻酔なしのほうが、刺激に応答性が高い可能性を示している。さらに、一回換気量の刺激は長続きしないとみられる。
【0299】
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