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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/00 20060101AFI20240716BHJP
   F16G 1/00 20060101ALI20240716BHJP
   F16G 5/06 20060101ALI20240716BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20240716BHJP
   F16H 9/04 20060101ALI20240716BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
F16G5/00 E
F16G1/00 E
F16G5/06 Z
F16G5/20 A
F16G5/20 B
F16H9/04
C08J5/04 CES
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021208157
(22)【出願日】2021-12-22
(65)【公開番号】P2022109878
(43)【公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2021005238
(32)【優先日】2021-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健人
(72)【発明者】
【氏名】西山 健
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-147392(JP,A)
【文献】特開2019-044188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/00
F16G 1/00
F16G 5/06
F16G 5/20
F16H 9/04
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CVT駆動用として使用されるローエッジコグドVベルトであり、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分(A)と、100℃における動粘度が30~3500mm/sである軟化剤(B)とを含み、かつ前記軟化剤(B)の割合が、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して3~14質量部であるゴム組成物の硬化物を含み、かつ前記硬化物のゴム硬度(JIS-A)が87~95度である伝動ベルト。
【請求項2】
前記軟化剤(B)が鎖状脂肪族炭化水素骨格を有する請求項1記載の伝動ベルト。
【請求項3】
前記軟化剤(B)において、鎖状脂肪族炭化水素由来の炭素量が、軟化剤(B)の全炭素量中50質量%以上である請求項1または2記載の伝動ベルト。
【請求項4】
前記軟化剤(B)がパラフィン系オイルおよび/または炭化水素系合成油である請求項1~3のいずれか一項に記載の伝動ベルト。
【請求項5】
前記硬化物において、150℃で30日間加熱した前後のゴム硬度(JIS-A)の差が4度以下である請求項1~のいずれか一項に記載の伝動ベルト。
【請求項6】
前記硬化物の100%モジュラスが21MPa以上である請求項1~のいずれか一項に記載の伝動ベルト。
【請求項7】
前記硬化物で形成された圧縮ゴム層を有する請求項1~のいずれか一項に記載の伝動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むゴム組成物の硬化物を含む伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
動力伝達手段として、摩擦伝動ベルトや歯付ベルトが古くから利用されている。例えば、自動車エンジンの補機駆動用としてVベルトやVリブドベルトが、OHC(オーバーヘッドカムシャフト)駆動用として歯付ベルトが、CVT(無段変速)駆動用としてローエッジコグドVベルトなどが汎用されている。これらの用途において、近年、伝達動力の増大やレイアウトのコンパクト化の要求が厳しくなっており、さらに高温や低温条件下での使用に耐えうる製品開発が望まれている。特に、スノーモービルなどのCVT駆動用として用いられるローエッジコグドVベルトにおいては、始動時は低温である一方で駆動時はエンジンの発熱に晒されて高温となるため、低温から高温までの幅広い温度領域に耐え得るゴム組成物が求められる。また、ゴム組成物と心線や補強布などの繊維部材との剥離を抑えるための接着性の高さや、コンパクト化のために小径プーリにも対応し得る耐屈曲疲労性が求められる。さらに、プーリとの接触による摩耗にも耐え得る耐摩耗性の高さや、プーリからの側圧に耐え得る耐側圧性の高さも求められる。また、歯付ベルトにおいても、コンパクト化のためにベルト幅を小さくすることが要求され、これに対応するために歯ゴムの高硬度、高モジュラス化が求められている。このような様々な要求に対応するため、ゴム組成物を構成するエラストマーとして、エチレン-α-オレフィンエラストマーの使用が増加している。
【0003】
例えば、特開2018-141554号公報(特許文献1)には、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むゴム成分と、α,β-不飽和カルボン酸金属塩と、酸化マグネシウムと、有機過酸化物と、無機充填剤とを含むゴム組成物の硬化物を含む伝動ベルトであって、前記酸化マグネシウムの割合が、前記ゴム成分100質量部に対して2~20質量部であり、かつ前記α,β-不飽和カルボン酸金属塩100質量部に対して5質量部以上である伝動ベルトが開示されている。このような構成とすることで、耐寒性、耐熱性、接着性、耐屈曲疲労性、耐摩耗性を損なうことなく、伝動ベルト用ゴム組成物の硬化物の硬度及びモジュラスを高めることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-141554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、耐熱性、耐屈曲疲労性、耐摩耗性などを維持しながら、硬度およびモジュラスを高めることに成功しているが、さらなる高性能化も引き続き要求されている。中でも、耐熱性(高温下における硬度の上昇の抑制、及び亀裂の抑制)については、さらなる向上の要請が強い。
【0006】
これまでの技術常識では、耐熱性を向上するためには、軟化剤を増量するのがよいとされてきた。しかしながら、軟化剤を増量すると、硬度、モジュラス、耐摩耗性などの諸物性が低下しやすく、両立が困難であった。
【0007】
従って、本発明の目的は、硬度、モジュラス、耐摩耗性などの諸物性を低下させることなく、耐熱老化性を向上できる伝動ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分(A)と、100℃における動粘度が30~3500mm/sである軟化剤(B)とを特定の割合で組み合わせることにより、硬度、モジュラス、耐摩耗性などの諸物性を低下させることなく、エチレン-α-オレフィンエラストマーを主成分とする伝動ベルト用ゴム組成物の硬化物の耐熱老化性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の伝動ベルトは、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分(A)と、100℃における動粘度が30~3500mm/sである軟化剤(B)とを含むゴム組成物の硬化物を含む。前記軟化剤(B)の割合は、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して3~14質量部である。前記軟化剤(B)が鎖状脂肪族炭化水素骨格を有していてもよい。前記軟化剤(B)において、鎖状脂肪族炭化水素由来の炭素量が、軟化剤(B)の全炭素量中50質量%以上であってもよい。前記軟化剤(B)は、パラフィン系オイルおよび/または炭化水素系合成油であってもよい。前記硬化物のゴム硬度(JIS-A)は85~95度であってもよい。前記硬化物において、150℃で30日間加熱した前後のゴム硬度(JIS-A)の差は4度以下であってもよい。前記硬化物の100%モジュラスは21MPa以上であってもよい。前記伝動ベルトは、前記硬化物で形成された圧縮ゴム層を有していてもよい。前記伝動ベルトは、CVT駆動用として使用されるローエッジコグドVベルトであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分(A)と、100℃における動粘度が30~3500mm/sである軟化剤(B)とを特定の割合で組み合わせているため、硬度、モジュラス、耐摩耗性などの諸物性を低下させることなく、エチレン-α-オレフィンエラストマーを主成分とする伝動ベルト用ゴム組成物の硬化物の耐熱老化性(または耐熱性)を向上できる。さらに、前記動粘度の範囲を調整することにより、ベルトの走行寿命も向上でき、前記特性(前記諸特性および耐熱性)とベルト耐久性とを高度に両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の伝動ベルト(ローエッジコグドVベルト)の一例を示す概略斜視図である。
図2図2は、図1の伝動ベルトをベルト長手方向に切断した概略断面図である。
図3図3は、実施例で得られたローエッジコグドVベルトの耐久走行試験のレイアウトを示す概略図である。
図4図4は、実施例で得られたVリブドベルトの概略断面図である。
図5図5は、実施例で得られたVリブドベルトの耐久走行試験のレイアウトを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ゴム組成物]
本実施形態の伝動ベルトは、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分(A)と、100℃における動粘度が30~3500mm/sである軟化剤(B)とを含むゴム組成物の硬化物を含む。
【0013】
(ポリマー成分)
ポリマー成分(A)は、耐寒性、耐熱性、耐候性に優れる点から、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含む。
【0014】
エチレン-α-オレフィンエラストマーは、構成単位として、エチレン単位、α-オレフィン単位を含んでいればよく、ジエン単位をさらに含んでいてもよい。そのため、エチレン-α-オレフィンエラストマーには、エチレン-α-オレフィン共重合体ゴム、エチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムなどが含まれる。
【0015】
α-オレフィン単位を形成するためのα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α-C3-12オレフィンなどが挙げられる。これらのα-オレフィンのうち、プロピレンなどのα-C3-4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。
【0016】
ジエン単位を形成するためのジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体が利用される。非共役ジエン系単量体としては、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーのうち、エチリデンノルボルネン、1,4-ヘキサジエン(特に、エチリデンノルボルネン)が好ましい。
【0017】
代表的なエチレン-α-オレフィンエラストマーとしては、例えば、エチレン-α-オレフィンゴム[エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-ブテンゴム(EBM)、エチレン-オクテンゴム(EOM)など]、エチレン-α-オレフィン-ジエンゴム[エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)]などが例示できる。
【0018】
これらのエチレン-α-オレフィンエラストマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、耐寒性、耐熱性、耐候性に優れる点から、エチレン-α-C3-4オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴムが好ましく、EPDMが特に好ましい。そのため、EPDMの割合は、エチレン-α-オレフィンエラストマー全体に対して50質量%以上であってもよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上(特に95質量%)であり、100質量%(EPDMのみ)であってもよい。
【0019】
エチレン-α-オレフィンエラストマーにおいて、エチレンとα-オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60~90/10、好ましくは45/55~85/15(例えば50/50~80/20)、さらに好ましくは52/48~70/30である。特に、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体において、エチレンとプロピレンとの割合(質量比)は、前者/後者=35/65~90/10、好ましくは40/60~80/20、さらに好ましくは45/55~70/30、より好ましくは50/50~70/30(例えば50/50~60/40)、最も好ましくは55/45~70/30(特に60/40~65/35)であってもよい。
【0020】
エチレン-α-オレフィンエラストマー(特に、EPDMなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体ゴム)のジエン含量は15質量%以下(例えば0.1~15質量%)であってもよく、好ましくは10質量%以下(例えば0.3~10質量%)、さらに好ましくは7質量%以下(例えば0.5~7質量%)、より好ましくは5質量%以下(例えば1~5質量%)、最も好ましくは3質量%以下(例えば1~3質量%)である。ジエン含量が多すぎると、高度な耐熱性が担保できない虞がある。
【0021】
なお、本願において、ジエン含量は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを構成する全単位中のジエンモノマー単位の質量割合を意味し、慣用の方法により測定できるが、モノマーに基づく割合であってもよい。
【0022】
ジエンモノマーを含むエチレン-α-オレフィンエラストマーのヨウ素価は、例えば3~40、好ましくは5~30、さらに好ましくは10~20である。ヨウ素価が小さすぎると、ゴム組成物の架橋が不十分になって摩耗や粘着が発生し易く、逆にヨウ素価が大きすぎると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなると共に耐熱性が低下する傾向がある。
【0023】
未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度[ML(1+4)125℃]は80以下であってもよく、例えば10~80、好ましくは20~70、さらに好ましくは30~50、最も好ましくは35~45である。ムーニー粘度が高すぎると、ゴム組成物の流動性が低下して、混練りにおける加工性が低下する虞がある。
【0024】
なお、本願において、ムーニー粘度は、JIS K 6300-1(2013)に準じた方法で測定でき、試験条件は、L形ロータを使用し、試験温度125℃、予熱1分、ロータ作動時間4分である。
【0025】
ポリマー成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合は50質量%以上であればよく、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、最も好ましくは100質量%(エチレン-α-オレフィンエラストマーのみ)である。ポリマー成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマーの割合が少なすぎると、耐熱性および耐寒性が低下する虞がある。
【0026】
ポリマー成分は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、エチレン-α-オレフィンエラストマーに加えて、他のゴム成分、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム);水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)などの前記ジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム(ポリオクテニレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど)、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどを含んでいてもよい。
【0027】
他のゴム成分の割合は、ポリマー成分中50質量%以下であってもよく、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0028】
(100℃における動粘度が30~3500mm/sである軟化剤)
高温下における伝動ベルトの亀裂を防止する観点からは、軟化剤を増量するのが好ましいが、その場合、ゴム組成物の硬化物の硬度、モジュラス、耐摩耗性が低下するデメリットがある。また、これまで汎用されてきた軟化剤は、外部への移行や揮発が起こり易く、高温下における伝動ベルトの亀裂を防止する効果は十分ではなかった。
【0029】
本願発明者等は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むポリマー成分に対して、動粘度の高い軟化剤(B)を用いることで、硬度、モジュラス、耐摩耗性などの諸物性の維持と、耐熱性の向上とを両立できることを見出した。動粘度の高い軟化剤は高温下でも外部への移行や揮発が起こりにくく、配合量を少量とすることができる。配合量を抑えることで、硬度、モジュラス、耐摩耗性などの諸物性を維持することができる。
【0030】
さらに、軟化剤の外部への移行や揮発は、ゴム練り、架橋(加硫)、ベルトの使用中など、様々な場面で起こると考えられる。これに対して、本発明では、動粘度の高い軟化剤(B)を用いることにより、前記移行や揮発を抑制できる。
【0031】
このような軟化剤(B)の動粘度(100℃における動粘度)は30~3500mm/sであり、好ましくは30~3000mm/s、さらに好ましくは30~2000mm/s、より好ましくは30~1000mm/s、最も好ましくは30~100mm/sである。前記動粘度は、耐摩耗性などの諸物性および耐熱老化性と、ベルト耐久性とを高度に両立できる点から、例えば30~1500mm/s、好ましくは32~500mm/s、さらに好ましくは33~100mm/s、より好ましくは35~80mm/s、最も好ましくは38~50mm/sである。動粘度が低すぎると、耐熱老化性が低下し、高すぎると、ベルトの柔軟性が低下する。
【0032】
なお、本願において、軟化剤(B)の100℃における動粘度は、JIS K 2283(2000)に準拠し、ウベローデ粘度計を用いて100℃で測定した値である。
【0033】
軟化剤(B)の数平均分子量は、例えば2000~20000、好ましくは2200~15000、さらに好ましくは2300~10000、より好ましくは2400~5000、最も好ましくは2500~3000である。分子量が小さすぎると、耐熱老化性が低下し、大きすぎると、ベルトの柔軟性が低下する。
【0034】
なお、本願において、軟化剤(B)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、標準物質をポリスチレンとして測定できる。
【0035】
軟化剤(B)は、前記動粘度を有する限り、種類は限定されず、いわゆる可塑剤であってもよい。軟化剤(B)の種類は、例えば、鉱物油系軟化剤、植物油系軟化剤、合成軟化剤に大別できる。
【0036】
鉱物油系軟化剤としては、例えば、石油系軟化剤[パラフィン系オイル、脂環族系オイル(ナフテン系オイル)、芳香族系オイルなど]、コールタール系軟化剤(コールタール、クロマン-インデン樹脂など)などが挙げられる。
【0037】
植物油系軟化剤としては、例えば、脂肪油系軟化剤(脂肪酸またはその塩、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、脂肪油など)などが挙げられる。
【0038】
合成軟化剤としては、例えば、合成樹脂軟化剤(フェノール・アルデヒド樹脂、液状エチレン-α-オレフィン共重合体などの炭化水素系合成油、液状ポリブテン、液状ポリブタンジエン、液状イソプレンゴムなどの液状ゴムなど)、合成可塑剤(ジオクチルフタレートなどのフタル酸ジエステル、ポリエステル系可塑剤、ジオクチルセバケートなどのC6-18アルカンジカルボン酸エステルなど)などが挙げられる。
【0039】
これらの軟化剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0040】
軟化剤(B)は、ポリマー成分(A)との相溶性が高い点から、鎖状脂肪族炭化水素骨格を有するのが好ましい。鎖状脂肪族炭化水素骨格は、ポリオレフィン骨格であってもよく、ポリC2-3オレフィンを含むポリオレフィン骨格が好ましく、エチレン-α-オレフィン共重合体骨格がさらに好ましく、エチレン-C3-4オレフィン共重合体骨格がより好ましく、エチレン-プロピレン共重合体骨格が最も好ましい。
【0041】
鎖状脂肪族炭化水素骨格を有する軟化剤(B)において、鎖状脂肪族炭化水素(特に、エチレン-α-オレフィン共重合体)由来の炭素量は、軟化剤(B)の全炭素量中50質量%以上であってもよく、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。鎖状脂肪族炭化水素由来の炭素量が少なすぎると、ポリマー成分との相溶性が低下し、耐熱老化性やベルト耐久性が低下する虞がある。
【0042】
なお、本願において、鎖状脂肪族炭化水素由来の炭素量は、慣用の方法によって測定できる。軟化剤(B)が石油系軟化剤である場合、鎖状脂肪族炭化水素由来の炭素量は、ASTM D3238-17に規定のn-d-M環分析によって測定できる。石油系軟化剤では、前記炭素量は、前記n-d-M環分析による%Cp(全炭素量に対するパラフィン炭素量の質量割合)であってもよく、パラフィン系オイルは%Cpが60以上であり、ナフテン系オイルは%Cpが35以上60未満であり、芳香族系オイルは%Cpが35未満である。
【0043】
軟化剤(B)としては、非汚染性であり、架橋への影響がなく、ポリマー成分(A)との相溶性も高い点から、パラフィン系オイルおよび/または炭化水素系合成油が好ましく、液状エチレン-α-オレフィン共重合体がさらに好ましく、液状エチレン-プロピレン共重合体が最も好ましい。
【0044】
軟化剤(B)の割合は、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して3~14質量部であり、好ましくは3~12質量部(特に3.5~12質量部)、さらに好ましくは3~10質量部、より好ましくは3.5~8質量部、最も好ましくは4~6質量部(特に4.5~5.5質量部)である。軟化剤(B)の割合が、少なすぎるとゴムの可塑性、ベルトの柔軟性が十分に向上しないためか耐熱性を向上する効果が低下し、多すぎるとモジュラスや耐摩耗性が低下する。
【0045】
(他の軟化剤)
ゴム組成物は、他の軟化剤をさらに含んでいてもよい。他の軟化剤としては、前記軟化剤(B)として例示された鉱物油系軟化剤、植物油系軟化剤、合成軟化剤のうち、100℃における動粘度が30mm/s未満の軟化剤である。
【0046】
このような軟化剤(可塑剤または加工助剤)としては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、プロセスオイルなどのオイル類;ステアリン酸、ステアリン酸金属塩などの脂肪酸またはその金属塩;ステアリン酸エステルなどの脂肪酸エステル;ステアリン酸アマイドなどの脂肪酸アマイド;低分子量パラフィン;低分子量ワックスなどが挙げられる。これら他の軟化剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0047】
これら他の軟化剤のうち、ステアリン酸などのC8-24脂肪酸類(その金属塩、エステル、アマイドを含む)が好ましい。
【0048】
他の軟化剤の割合は、軟化剤(B)100質量部に対して、100質量部以下であってもよく、好ましくは80質量部以下(例えば1~80質量部)、さらに好ましくは70質量部以下(例えば5~70質量部)、より好ましくは50質量部以下(例えば10~50質量部)、特に好ましくは40質量部以下(例えば20~40質量部)、最も好ましくは30質量部以下(例えば10~30質量部)である。他の軟化剤の割合が多すぎると、ベルトの硬度、モジュラス、耐摩耗性が低下したり、外部への移行や揮発が起こる虞がある。
【0049】
(架橋剤)
ゴム組成物は、架橋剤をさらに含んでいてもよい。架橋剤(または加硫剤)は、有機過酸化物および/または硫黄系架橋剤であってもよい。
【0050】
有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されている有機過酸化物、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシ-イソプロピル)ベンゼン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期を得る分解温度が150~250℃(例えば175~225℃)程度の過酸化物が好ましい。
【0051】
硫黄系架橋剤としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)などが挙げられる。これらの硫黄系架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄が好ましく、粉末硫黄が最も好ましい。
【0052】
架橋剤の合計割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば1~10質量部、好ましくは2~8質量部、さらに好ましくは2~6質量部、より好ましくは3~6質量部である。
【0053】
(無機充填剤)
ゴム組成物は、無機充填剤(フィラー)をさらに含んでいてもよい。無機充填剤としては、例えば、炭素質材料(カーボンブラック、グラファイトなど)、金属化合物または合成セラミックス(酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物;ケイ酸カルシウムやケイ酸アルミニウムなどの金属ケイ酸塩;炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物;窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物;炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩など)、鉱物質材料(ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪藻土、活性白土、アルミナ、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、クレイなど)などが挙げられる。これらの無機充填剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0054】
これらの無機充填剤のうち、カーボンブラックなどの炭素質材料、酸化マグネシウムや酸化亜鉛などの金属酸化物、シリカなどの鉱物質材料が好ましく、ゴム組成物の硬化物において、硬度、モジュラス及び耐摩耗性を向上できる点から、カーボンブラックを少なくとも含むことが特に好ましい。
【0055】
カーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、HMFなどが挙げられる。これらのカーボンブラックは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、補強効果と分散性のバランスがよく、耐摩耗性を向上できる点から、HAFが好ましい。
【0056】
カーボンブラックの平均粒径は、例えば5~200nm程度の範囲から選択でき、例えば10~150nm、好ましくは15~100nm、さらに好ましくは20~80nm(特に30~50nm)程度である。カーボンブラックの平均粒径が小さすぎると、均一な分散が困難となる虞があり、大きすぎると、硬度、モジュラス及び耐摩耗性が低下する虞がある。
【0057】
無機充填剤の合計割合は、前記ポリマー成分(A)100質量部に対して10~150質量部程度の範囲から選択でき、例えば40~100質量部、好ましくは50~80質量部、さらに好ましくは60~70質量部である。無機充填剤の割合が少なすぎると、ゴム組成物の硬化物において、硬度、モジュラスおよび耐摩耗性が低下する虞があり、逆に多すぎると、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
【0058】
無機充填剤がカーボンブラックと金属酸化物とを含む場合、金属酸化物の割合は、カーボンブラック100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは2~50質量部、さらに好ましくは3~30質量部、最も好ましくは5~10質量部である。
【0059】
(短繊維)
ゴム組成物は、短繊維をさらに含んでいてもよい。短繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリアルキレンアリレート系繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2-4アルキレンC6-14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が汎用される。これらの短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの短繊維のうち、合成繊維や天然繊維、特に合成繊維(ポリアミド繊維、ポリアルキレンアリレート系繊維など)、中でも剛直で高い強度、モジュラスを有し、表面で突出し易い点から、少なくともアラミド繊維を含む短繊維が好ましい。アラミド短繊維は、高い耐摩耗性をも有している。アラミド短繊維は、例えば、商品名「コーネックス」、「ノーメックス」、「ケブラー」、「テクノーラ」、「トワロン」などとして市販されている。
【0060】
アラミド短繊維は、他の合成短繊維(特に、ポリアミド6短繊維などの脂肪族ポリアミド短繊維)と組み合わせてもよい。アラミド短繊維と他の合成短繊維(特に、脂肪族ポリアミド短繊維)との質量比は、前者/後者=90/10~10/90、好ましくは70/30~30/70、さらに好ましくは60/40~40/60である。
【0061】
短繊維の平均繊度は、例えば0.1~50dtex、好ましくは1~10dtex、さらに好ましくは1.5~5dtex、より好ましくは2~3dtexである。平均繊度が大きすぎると、ゴム組成物の硬化物において、機械的特性が低下する虞があり、小さすぎると、均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0062】
短繊維の平均長さは、例えば1~20mm、好ましくは1.2~15mm(例えば1.5~10mm)、さらに好ましくは2~5mm、より好ましくは2.5~4mmである。短繊維の平均長さが短すぎると、ゴム組成物の硬化物をベルトに利用した場合、列理方向の力学特性(例えばモジュラスなど)を十分に高めることができない虞があり、逆に長すぎると、ゴム組成物中の短繊維の分散性が低下し、耐屈曲疲労性が低下する虞がある。
【0063】
ゴム組成物中の短繊維の分散性や接着性の観点から、少なくとも短繊維は接着処理(または表面処理)することが好ましい。なお、全ての短繊維が接着処理されている必要はなく、接着処理した短繊維と、接着処理されていない短繊維(未処理短繊維)とが混在しまたは併用されていてもよい。
【0064】
短繊維の接着処理では、種々の接着処理、例えば、フェノール類とホルマリンとの初期縮合物(ノボラックまたはレゾール型フェノール樹脂のプレポリマーなど)を含む処理液、ゴム成分(またはラテックス)を含む処理液、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、シランカップリング剤、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)を含む処理液などで処理することができる。好ましい接着処理では、短繊維は、前記初期縮合物とゴム成分(ラテックス)とを含む処理液、特に少なくともレゾルシン-ホルマリン-ラテックス(RFL)液で処理する。このような処理液は組み合わせて使用してもよく、例えば、短繊維を、慣用の接着性成分、例えば、エポキシ化合物(エポキシ樹脂など)、イソシアネート化合物などの反応性化合物(接着性化合物)で前処理した後、RFL液で処理してもよい。
【0065】
短繊維の割合は、ポリマー成分(A)100質量部に対して、例えば5~100質量部、好ましくは10~50質量部、さらに好ましくは20~40質量部(特に25~35質量部)程度であってもよい。短繊維の割合が少なすぎると、ゴム組成物の硬化物の機械的特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、均一に分散させるのが困難となり、耐屈曲疲労性などが低下する虞がある。
【0066】
(他の添加剤)
ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、架橋助剤、架橋促進剤、架橋遅延剤、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0067】
他の添加剤の合計割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば1~100質量部、好ましくは2~50質量部、さらに好ましくは3~20質量部、より好ましくは4~10質量部である。
【0068】
(ゴム組成物の硬化物の特性)
前記ゴム組成物の硬化物は、ゴム硬度およびモジュラスが大きい。具体的に、ゴム組成物の硬化物のゴム硬度(JIS-A)は85度以上であってもよく、例えば85~95度、好ましくは86~94度、さらに好ましくは87~93度、より好ましくは88~92度、特に好ましくは88~91度、最も好ましくは88~90度である。
【0069】
前記ゴム組成物の硬化物は、耐熱老化性に優れており、150℃で30日間加熱した前後のゴム硬度(JIS-A)の差は4度以下であってもよく、好ましくは3.5度以下、さらに好ましくは3度以下、より好ましくは2.5度以下である。前記差が大きすぎると、ベルトの耐熱老化性が低下する虞がある。
【0070】
なお、本願において、ゴム硬度(JIS-A)は、温度165℃、圧力2MPaで30分間プレス架橋した硬化物について、JIS K 6253(2012)に準拠して測定され、詳細には、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0071】
前記ゴム組成物の硬化物は、高モジュラスであり、列理方向に引っ張った100%モジュラス(100%伸びにおける引張応力)が21MPa以上(特に23MPa以上)であってもよく、例えば24MPa以上(例えば24~60MPa)、好ましくは25MPa以上(例えば25~50MPa)、さらに好ましくは26~40MPa、より好ましくは27~30MPa、最も好ましくは28~29MPaである。
【0072】
なお、本願において、100%モジュラスは、JIS K 6251(2017)に準拠して測定でき、詳細には、後述の実施例に記載の方法で測定される。
【0073】
前記ゴム組成物が短繊維を含む場合、通常、短繊維は所定の方向に配向している。例えば、前記ゴム組成物で伝動ベルトの圧縮ゴム層を形成する場合、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層中に短繊維が埋設されることが好ましい。
【0074】
硬化物が短繊維を含む場合、前記100%モジュラスは、列理方向に引っ張った100%伸びにおける引張応力を意味する。また「列理方向」は、短繊維の長手方向のみならず、長手方向±5°の範囲の方向であってもよい。そのため、「列理方向」とは、「短繊維の長手方向に略平行な方向」ということもできる。
【0075】
前記ゴム組成物は、用途に応じた方法で架橋した硬化物として利用される。架橋温度は、例えば120~200℃(特に150~180℃)である。
【0076】
[伝動ベルト]
本実施形態の伝動ベルト(動力伝達用ベルト)の種類は、プーリと接触して動力を伝達するベルトであれば特に限定されず、摩擦伝動ベルトであってもよく、かみ合い伝動ベルトであってもよい。
【0077】
摩擦伝動ベルトとしては、例えば、平ベルト、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジVベルトの内周側にコグが形成されたローエッジコグドVベルト、ローエッジVベルトの内周側および外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルトなど)、Vリブドベルト、樹脂ブロックベルトなどが挙げられる。
【0078】
かみ合い伝動ベルトとしては、例えば、歯付ベルト、両面歯付ベルトなどが挙げられる。
【0079】
これらの伝動ベルトは、前記ゴム組成物の硬化物を含んでいればよいが、通常、ベルト本体(特に圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層)が前記ゴム組成物の硬化物で形成されている。
【0080】
前記伝動ベルトのうち、伝達動力の増大やレイアウトのコンパクト化の要求が厳しいコグドVベルトや歯付ベルトなどの伝動ベルトが好ましく、コグドVベルトが特に好ましい。
【0081】
本実施形態のコグドVベルトは、ベルトの長手方向に延びる心線の少なくとも一部と接する接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された伸張ゴム層と、前記接着ゴム層の他方の面に形成され、その内周面にベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて形成された複数の凸部(コグ部)を有し、かつその側面でプーリに摩擦係合する圧縮ゴム層とを備えていればよい。このようなコグドVベルトには、圧縮ゴム層にのみ前記コグ部が形成されたコグドVベルト、圧縮ゴム層に加えて、伸張ゴム層の外周面にも同様のコグ部が形成されたダブルコグドVベルトが含まれる。コグドVベルトは、圧縮ゴム層の側面がプーリと接するVベルト(特に、ベルト走行中に変速比が無段階で変わる変速機に使用される変速ベルト)が好ましい。コグドVベルトとしては、例えば、ローエッジベルトの内周側にコグが形成されたローエッジコグドVベルト、ローエッジベルトの内周側および外周側の双方にコグが形成されたローエッジダブルコグドVベルトなどが挙げられる。これらのうち、CTV駆動用として使用されるローエッジコグドVベルトが特に好ましい。
【0082】
図1は、本実施形態の伝動ベルト(ローエッジコグドVベルト)の一例を示す概略斜視図であり、図2は、図1の伝動ベルトをベルト長手方向に切断した概略断面図である。
【0083】
この例では、ローエッジコグドVベルト1は、ベルト本体の内周面に、ベルトの長手方向(図中のA方向)に沿って所定の間隔をおいて形成された複数のコグ部1aを有しており、このコグ部1aの長手方向における断面形状は略半円状(湾曲状又は波形状)であり、長手方向に対して直交する方向(幅方向又は図中のB方向)における断面形状は台形状である。すなわち、各コグ部1aは、ベルト厚み方向において、コグ底部1bからA方向の断面において略半円状に突出している。ローエッジコグドVベルト1は、積層構造を有しており、ベルト外周側から内周側(コグ部1aが形成された側)に向かって、補強布2、伸張ゴム層3、接着ゴム層4、圧縮ゴム層5、補強布6が順次積層されている。ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側から内周側に向かってベルト幅が小さくなる台形状である。さらに、接着ゴム層4内には、芯体4aが埋設されており、前記コグ部1aは、コグ付き成形型により圧縮ゴム層5に形成されている。
【0084】
コグ部の高さやピッチは、慣用のコグドVベルトと同様である。圧縮ゴム層では、コグ部の高さは、圧縮ゴム層全体の厚みに対して50~95%(特に60~80%)であり、コグ部のピッチ(隣接するコグ部の中央部同士の距離)は、コグ部の高さに対して50~250%(特に80~200%)である。伸張ゴム層にコグ部を形成する場合も同様である。
【0085】
この例では、伸張ゴム層3および圧縮ゴム層5が、前記ゴム組成物の硬化物で形成されている。接着ゴム層、芯体、補強布については、慣用の接着ゴム層、芯体、補強布を利用でき、例えば、以下の接着ゴム層、芯体、補強布であってもよい。
【0086】
(接着ゴム層)
接着ゴム層を形成するためのゴム組成物は、圧縮ゴム層および伸張ゴムの架橋ゴム組成物と同様に、ゴム成分、架橋剤(硫黄などの硫黄系加硫剤など)、共架橋剤または架橋助剤(N,N’-m-フェニレンジマレイミドなどのマレイミド系架橋剤など)、架橋促進剤(TMTD、DPTT、CBSなど)、無機充填剤(カーボンブラック、シリカなど)、軟化剤(パラフィン系オイルなどのオイル類)、加工剤または加工助剤、老化防止剤、接着性改善剤[レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂(窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサアルコキシメチルメラミン(ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなど)などのメラミン樹脂、メチロール尿素などの尿素樹脂、メチロールベンゾグアナミン樹脂などのベンゾグアナミン樹脂など)、これらの共縮合物(レゾルシン-メラミン-ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤、安定剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、接着性改善剤において、レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物及びアミノ樹脂は、レゾルシンおよび/またはメラミンなどの窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物(プレポリマー)であってもよい。
【0087】
なお、このゴム組成物において、ポリマー成分としては、前記圧縮ゴム層および伸張ゴム層のゴム組成物のポリマー成分と同系統または同種のポリマーを使用する場合が多い。また、架橋剤、共架橋剤または架橋助剤、架橋促進剤、軟化剤および老化防止剤の割合は、それぞれ、前記圧縮ゴム層および伸張ゴム層のゴム組成物と同様の範囲から選択できる。また、接着ゴム層のゴム組成物において、無機充填剤の割合は、ポリマー成分100質量部に対して10~100質量部、好ましくは20~80質量部、さらに好ましくは30~50質量部である。また、接着性改善剤(レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなど)の割合は、ポリマー分100質量部に対して0.1~20質量部、好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは2~8質量部である。
【0088】
(芯体)
芯体としては、特に限定されないが、通常、ベルト幅方向に所定間隔で配列した心線(撚りコード)を使用できる。心線は、ベルトの長手方向に延びて配設され、通常、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に延びて配設されている。心線は、少なくともその一部が接着ゴム層と接していればよく、接着ゴム層が心線を埋設する形態、接着ゴム層と伸張ゴム層との間(伸張層側)に心線を埋設する形態、接着ゴム層と圧縮ゴム層との間(圧縮ゴム層側)に心線を埋設する形態のいずれの形態であってもよい。これらのうち、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層が心線を埋設する形態が好ましい。
【0089】
心線を構成する繊維としては、前記短繊維と同様の繊維が例示できる。前記繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレートなどのC2-4アルキレン-アリレートを主たる構成単位とするポリエステル繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、アラミド繊維などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド繊維が好ましい。繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば2200~13500dtex(特に6600~11000dtex)である。マルチフィラメント糸は、例えば100~5000本であってもよく、好ましくは500~4000本、さらに好ましくは1000~3000本のモノフィラメントを含んでいてもよい。
【0090】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの直径)は、例えば0.5~3mmであってもよく、好ましくは0.6~2mm、さらに好ましくは0.7~1.5mmである。
【0091】
心線は、ポリマー成分との接着性を改善するため、圧縮ゴム層および伸張ゴム層の短繊維と同様の方法で接着処理(または表面処理)されていてもよい。心線も短繊維と同様に、少なくともRFL液で接着処理するのが好ましい。
【0092】
(補強布)
摩擦伝動ベルトにおいて、補強布を使用する場合、圧縮ゴム層の表面に補強布を積層する形態に限定されず、例えば、伸張ゴム層の表面(接着ゴム層と反対側の面)に補強布を積層してもよく、圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層に補強層を埋設する形態(例えば、特開2010-230146号公報に記載の形態など)であってもよい。補強布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)などで形成でき、必要であれば、前記接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクションや、前記接着ゴムと前記布材とを積層した後、圧縮ゴム層および/または伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
【0093】
[伝動ベルトの製造方法]
本実施形態の伝動ベルトの製造方法は、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。ローエッジコグドVベルトの場合、例えば、補強布(下布)と圧縮ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)からなる積層体を、前記補強布を下にして歯部と溝部とを交互に配した平坦なコグ付き型に設置し、温度60~100℃(特に70~80℃)程度でプレス加圧することによってコグ部を型付けしたコグパッド(完全には架橋しておらず、半架橋状態にあるパッド)を作製した後、このコグパッドの両端をコグ山部の頂部から垂直に切断してもよい。さらに、円筒状の金型に歯部と溝部とを交互に配した内母型(架橋ゴムで形成された型)を被せ、この歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けてコグ山部の頂部でジョイントし、この巻き付けたコグパッドの上に第1の接着ゴム層用シート(下接着ゴム:未架橋ゴムシート)を積層した後、芯体を形成する心線(撚りコード)を螺旋状にスピニングし、この上に第2の接着ゴム層用シート(上接着ゴム:前記接着ゴム層用シートと同じ)、伸張ゴム層用シート(未架橋ゴムシート)、補強布(上布)を順次巻き付けて成形体を作製してもよい。その後、ジャケット(架橋ゴムで形成されたジャケット)を被せて金型を加硫缶に設置し、温度120~200℃(特に150~180℃)で架橋してベルトスリーブを調製する架橋工程を経た後、カッターなどを用いて、V字状断面となるように切断加工して圧縮ゴム層を形成するカット工程を経てもよい。
【0094】
補強布を含まないローエッジコグドVベルトでは、圧縮ゴム層用シートと第1の接着ゴム層用シートとを予めプレス加圧した積層体を調製してもよい。
【0095】
なお、伸張ゴム層用シートおよび圧縮ゴム層用シートにおいて、短繊維の配向方向をベルト幅方向に配向させる方法としては、慣用の方法、例えば、所定の間隙を設けた一対のカレンダーロール間にゴムを通してシート状に圧延し、圧延方向に短繊維が配向した圧延シートの両側面を圧延方向と平行方向に切断するとともに、ベルト成形幅(ベルト幅方向の長さ)となるように圧延シートを圧延方向と直角方向に切断し、圧延方向と平行方向に切断した側面同士をジョイントする方法などが挙げられる。例えば、特開2003-14054号公報に記載の方法などを利用できる。このような方法で短繊維を配向させた未架橋シートは、前記方法において、短繊維の配向方向がベルトの幅方向となるように配置して架橋される。
【実施例
【0096】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した原料の詳細を以下に示す。
【0097】
[原料]
(軟化剤)
軟化剤1:三井化学(株)製「ルーカントLX004」、液状エチレン-α-オレフィン共重合体、100℃の動粘度40mm/s、平均分子量2,700
軟化剤2:三井化学(株)製「ルーカントLX010」、液状エチレン-α-オレフィン共重合体、100℃の動粘度100mm/s、平均分子量4,200
軟化剤3:三井化学(株)製「ルーカントLX400」、液状エチレン-α-オレフィン共重合体、100℃の動粘度2,000mm/s、平均分子量13,000
軟化剤4:三井化学(株)製「ルーカントLX900Z」、液状エチレン-α-オレフィン共重合体、100℃の動粘度3,400mm/s、平均分子量17,000
軟化剤5:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPS430」、パラフィン系オイル、100℃の動粘度33mm/s、%Cp(全炭素量に対するパラフィン炭素量の質量割合)72、%Cn(全炭素量に対するナフテン炭素量の質量割合)22、%Ca(全炭素量に対する芳香族炭素量の質量割合)6
軟化剤6:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW90」、パラフィン系オイル、100℃の動粘度11mm/s、%Cp72、%Cn28、%Ca0
軟化剤7:日本サン石油(株)製「SUNTHENE4240」、ナフテン系オイル、100℃の動粘度18mm/s、%Cp45、%Cn40、%Ca15
軟化剤8:日本サン石油(株)製「SUNTHENE450」、ナフテン系オイル、100℃の動粘度9mm/s、%Cp50、%Cn38、%Ca12
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」。
【0098】
(他の成分)
EPDM1:ダウ・ケミカル社製「Nordel IP3640」、エチレン含量55質量%、ジエン含量1.8質量%
EPDM2:ダウ・ケミカル社製「Nordel IP3745」、エチレン含量70質量%、ジエン含量0.5質量%
酸化亜鉛:堺化学工業(株)製「酸化亜鉛2種」
アラミド短繊維:帝人(株)製「トワロン」、繊度2.2dtex、平均繊維長3mm
ナイロン短繊維:旭化成(株)製「レオナ」、平均繊維径27μm、平均繊維長3mm
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト3」
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラックCD」
有機過酸化物:日油(株)製「P-40MB(K)]
架橋促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
硫黄:美源化学社製「粉末硫黄」
シリカ:エボニック・デグサ・ジャパン(株)製「ウルトラシルVN3」、BET比表面積175m/g
レゾルシノール樹脂:INDSPEC Chemical Corporation社製「Penacolite Resin(B-18-S)」
ヘキサメトキシメチロールメラミン:SINGH PLASTICISER & RESINS社製「POWERPLAST PP-1890S」
ゴム付綿帆布:20番手の綿糸を糸密度75本/50mmで平織りした帆布(目付け280g/m)に表2の接着ゴムをすり込んだ処理帆布。
【0099】
(ローエッジコグドVベルト用心線)
繊度1,680dtexのアラミド繊維のマルチフィラメントの束2本を引き揃えて下撚り糸を作製し、作製した下撚り糸3本を合わせて下撚りとは反対方向に上撚りした総繊度10,080dtexの諸撚りコード。
【0100】
(Vリブドベルト用心線)
繊度1,100dtexのポリエステル繊維のマルチフィラメントの束2本を合わせて一方向に下撚りして下撚り糸を作製し、作製した下撚り糸3本を合わせて下撚りとは反対方向に上撚りした総繊度6,600dtexの諸撚りコード(上撚りがS方向であるS撚りの撚りコードと、上撚りがZ方向であるZ撚りの撚りコードとを作製)。
【0101】
実施例1~8および比較例1~5
[ゴム硬度]
表1に示す組成を有する未架橋のゴムシートを温度165℃、圧力2MPaで時間30分プレス架橋し、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。ゴム硬度はJIS K 6253(2012)に準拠し、架橋ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、デュロメータA形硬さ試験機を用いて測定した。ゴム硬度は、87度以上を合格とした。結果を表3に示す。
【0102】
[M100(100%伸びにおける引張応力)]
表1に示す組成を有する未架橋のゴムシートを温度165℃、時間30分でプレス架橋し、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。この架橋ゴムシートをスーパーダンベルカッター((株)ダンベル製)で打抜いて、ダンベル状3号形の試験片を作製した。作製した試験片を用いて、JIS K 6251(2017)に準拠し、M100(100%モジュラス)を測定した。引張速度は500mm/min、試験温度は23℃とした。なお、測定は試験片の長手方向と列理(短繊維の長手方向)とが平行となる方向(列理平行方向)で行った。M100は、25MPa以上を合格とした。結果を表3に示す。
【0103】
[熱老化後のゴム硬度変化]
表1に示す組成を有する未架橋のゴムシートを温度165℃、圧力2MPaで時間30分プレス架橋し、架橋ゴムシート(100mm×100mm×2mm厚み)を作製した。この架橋ゴムシートをスーパーダンベルカッター((株)ダンベル製)で打抜いて、ダンベル状3号形の試験片を作製した。JIS K 6257(2017)に準拠し、作製した試験片を150℃に設定したギヤー式老化試験機中に所定の日数放置した後取り出した。取り出した試験片を23℃で24時間放置した後、デュロメータA形硬さ試験機を用いてゴム硬度を測定し、熱老化前のゴム硬度からの変化量を計算した。30日後の変化量が4度以下を合格とした。
【0104】
[ローエッジコグドVベルトの製造]
歯部と溝部とを交互に配したコグ付き金型の外周に、表1に示す組成を有する未架橋の圧縮ゴム層用シートと表2に示す組成を有する未架橋の第1の接着ゴム層用シートとを積層した積層体を、未架橋の圧縮ゴム層用シートを金型側にした状態で巻き付けた。積層体の外周に可撓性ジャケットを被せた後、金型を加硫缶内に設置し、可撓性ジャケットの周囲に蒸気を注入することにより加圧、加温(約75℃)して、前記未架橋の圧縮ゴム層用シートと前記未架橋の接着ゴム層用シートとを積層した積層体を金型のコグ部に圧入した。その後、金型を加硫缶から取り出し、可撓性ジャケットを取り外した。そして、前記未架橋の接着ゴム層用シートの外周にローエッジコグドVベルト用心線を螺旋状に巻き付け、さらにその外周に表2に示す組成を有する未架橋の第2の接着ゴム層用シートと表1に示す組成を有する未架橋の伸張ゴム層用シートとを積層した積層体を、前記未架橋の第2の接着ゴム層用シートを心線側にした状態で巻き付けた。積層体の外周に可撓性ジャケットを被せた後、金型を加硫缶内に設置し、可撓性ジャケットの周囲及び金型の内部に蒸気を注入することにより40分間加圧、加温(約170℃)して、ベルトスリーブを作製した。作製したベルトスリーブをカッターでV字状に切断して、ベルトの内周面にコグを有するローエッジコグドVベルト(上幅20.4mm、厚さ(コグ頂部での厚さ)9.3mm、外周長さ811mm)を作製した。
【0105】
[ローエッジコグドVベルトの耐久走行試験]
耐久走行試験は、図3に示すように、直径115mmの駆動(Dr.)プーリと、直径95mmの従動(Dn.)プーリとを含む2軸走行試験機を用いて行った。各プーリにローエッジコグドVベルトを掛架し、駆動プーリの回転数を7000rpm、従動プーリの負荷を6N・m、軸荷重を400Nとし、雰囲気温度150℃にてベルトを走行させた。24時間毎に走行試験機を一時停止し、ローエッジコグドVベルトを目視で観察し、亀裂の有無と亀裂の長さを測定した。亀裂の長さが2mm以上になった場合は寿命と判断して走行を終了させた。走行前と走行試験終了後のベルトの質量を測定し、以下の式によりベルトの摩耗率を計算した。亀裂発生時間が60時間以上、寿命時間が180時間以上、摩耗率が4.5%以下である場合を合格とした。結果を表3に示す。
【0106】
摩耗率(%)=[(走行前のベルトの質量-走行後のベルトの質量)/走行前のベルトの質量]×100。
【0107】
[総合評価]
ゴム硬度、M100、熱老化後のゴム硬度変化、耐久走行試験を、下記の基準で総合的に評価した。結果を表3に示す。
【0108】
◎:評価項目が全て合格である
〇:評価項目のうち1項目のみ不合格である
×:評価項目の内2項目以上が不合格である
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
表3の結果から明らかなように、動粘度が低い軟化剤6を用いた比較例1は熱老化によるゴム硬度の変化が大きく、寿命時間が短かった。軟化剤の量が多い比較例2はゴム硬度及びM100が低下し、摩耗率が高かった。動粘度が高い軟化剤を用いた実施例1~8は熱老化によるゴム硬度の変化が小さく、寿命時間が長かった。軟化剤の量が比較的多い実施例6~8は摩耗率が若干高く、さらに実施例7および8では寿命時間が短かった。
【0113】
軟化剤が少量の比較例3はゴムの可塑性およびベルトの柔軟性が十分に向上しないためか、寿命時間が短かった。
【0114】
ナフテン系オイルを用いた比較例4および5は、熱老化によるゴムの硬度変化が大きく、寿命時間は短かった。これは、オイルのEPDMに対する相溶性が低いために高温走行時にベルト表面にブルームしやすく、揮発性が高いためにゴム組成物中に長く留まることができないためと考えられる。一般的に、ナフテン系オイルは%Cpが低く分岐度が高いために動粘度が低い傾向にあり、伝動ベルトの物性と耐熱老化性とを両立する効果は低いと考えられる。
【0115】
実施例9~16および比較例6~10
[ゴム硬度]
表4に示す組成を有する未架橋のゴムシートを用いて、実施例1と同様の方法で、試料を作製し、ゴム硬度を測定した。ゴム硬度は、85度以上を合格とした。結果を表5に示す。
【0116】
[M100(100%伸びにおける引張応力)]
表4に示す組成を有する未架橋のゴムシートを用いて、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、M100(100%モジュラス)を測定した。M100は、21MPa以上を合格とした。結果を表5に示す。
【0117】
[熱老化後のゴム硬度変化]
表4に示す組成を有する未架橋のゴムシートを用いて、実施例1と同様の方法で、試験片を作製し、熱老化前後におけるゴム硬度の変化量を算出した。30日後の変化量が4度以下を合格とした。
【0118】
[Vリブドベルトの製造]
まず、表面が平滑な円筒状の成形モールドの外周に、1プライ(1枚重ね)のゴム付綿帆布を巻き付け、この綿帆布の外側に、表2に示すゴム組成物で形成された未加硫の接着ゴム層用シートを巻き付けた。次に、接着ゴム層用シートの上からS撚りの撚りコードとZ撚りの撚りコードとをピッチ1.13mmで並列した状態で、2本の撚りコード(S撚り、Z撚り)をらせん状にスピニングして巻き付け、さらにこの上に、前記ゴム組成物で形成された未加硫の接着ゴム層用シートおよび表4に示すゴム組成物で形成された未加硫の圧縮ゴム層用シートを順に巻き付けた。圧縮ゴム層用シートの外側に加硫用ジャケットを配置した状態で、成形モールドを加硫缶に入れて加硫した。加硫して得られた筒状の加硫ゴムスリーブを成形モールドから取り出し、加硫ゴムスリーブの圧縮ゴム層をグラインダーにより複数のV字状溝を同時に研削した後、加硫ゴムスリーブを輪切りするようにカッターで周方向に切断することによって、3つのリブを形成した周長1100mmのVリブドベルト(3PK1100)を得た。
【0119】
得られたVリブドベルトの概略断面図(ベルト幅方向に沿って切断した断面図)を図4に示す。図4に示されるように、得られたVリブドベルトは、ベルト下面(内周面)からベルト上面(背面)に向かって順に、Vリブ部13を有する圧縮ゴム層12、ベルト長手方向に心線11を埋設した接着ゴム層14、ゴム付綿帆布で構成された伸張層15を積層した形態を有している。前記心線11は、S撚りの撚りコードとZ撚りの撚りコードとが交互に並列されている。
【0120】
[Vリブドベルト耐久走行試験]
直径120mmの駆動プーリ(Dr.)、直径45mmのテンションプーリ(Ten.)、直径120mmの従動プーリ(Dn.)、直径85mmのアイドラープーリ(IDL.)を順に配した図5にレイアウトを示す試験機を用いて耐久走行試験を行った。試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、駆動プーリの回転数を4900rpm、アイドラープーリへのベルトの巻き付け角度を120°、テンションプーリへのベルトの巻き付け角度を90°、従動プーリ負荷を8.8kWとし、テンションプーリに一定荷重(560N)を付与して雰囲気温度150℃にてベルトを走行させた。12時間毎に走行試験機を一時停止し、Vリブドベルトを目視で観察し、亀裂の有無を確認した。亀裂の数が5個以上となった場合は寿命と判断して走行を終了させた。亀裂発生時間が260時間以上、寿命時間が350時間以上である場合を合格とした。結果を表5に示す。
【0121】
[総合評価]
ゴム硬度、M100、熱老化後のゴム硬度変化、耐久走行試験を、下記の基準で総合的に評価した。結果を表5に示す。
【0122】
◎:評価項目が全て合格である
〇:評価項目のうち1項目のみ不合格である
×:評価項目の内2項目以上が不合格である
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】
【0125】
ローエッジコグドVベルトでの評価と同様に、動粘度が高い軟化剤を用いた実施例9~16は熱老化によるゴム硬度の変化が小さく、寿命時間が長かった。また、実施例9~12を比較すると、軟化剤の動粘度が高くなるにつれて亀裂発生までの時間が短くなっており、軟化剤の動粘度が高すぎるとベルトの柔軟性が低下することが原因と考えられる。軟化剤の最適な動粘度としては、40mm/s付近にピークがあることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0126】
本発明の伝動ベルトは、例えば、平ベルト、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト、ローエッジコグドVベルト、ローエッジダブルコグドVベルトなど)、Vリブドベルト、樹脂ブロックベルトなどの摩擦伝動ベルト;歯付ベルト、両面歯付ベルトなどのかみ合い伝動ベルトなどに利用できる。特に、本発明の伝動ベルトは、伝達動力の増大やレイアウトのコンパクト化の要求が厳しいコグドVベルトや歯付ベルトなどの伝動ベルトとして好ましく利用でき、CTV駆動用として使用されるローエッジコグドVベルトとして特に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0127】
1…伝動ベルト
2,6…補強布
3…伸張ゴム層
4…接着ゴム層
4a…芯体
5…圧縮ゴム層
図1
図2
図3
図4
図5