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特許7520814セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20240716BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240716BHJP
   B32B 27/42 20060101ALI20240716BHJP
【FI】
B28B1/30 101
B32B27/00 L
B32B27/00 101
B32B27/42 102
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021511929
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013694
(87)【国際公開番号】W WO2020203654
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019066011
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100176407
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 理啓
(72)【発明者】
【氏名】市川 慎也
(72)【発明者】
【氏名】深谷 知巳
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-007226(JP,A)
【文献】特開2005-096336(JP,A)
【文献】特開2009-138101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30-1/42
B32B 27/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の片面側に設けられた剥離剤層とを備えたセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムであって、
前記剥離剤層が、アミノ樹脂(A)と、ポリオルガノシロキサン(B)と、シロキサン結合(Si-O-Si)を骨格として有するアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)と、スルホン酸系触媒およびリン酸系触媒の少なくとも1種を含む酸触媒(D)とを含有する剥離剤組成物から形成されており、
前記剥離剤組成物中における前記ポリオルガノシロキサン(B)の含有量は、前記アミノ樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上、20質量部以下であり、
前記剥離剤組成物中における前記アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)の含有量は、前記アミノ樹脂(A)100質量部に対して、2質量部以上、50質量部以下であり、
前記剥離剤組成物中における前記酸触媒(D)の含有量は、前記アミノ樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部以上、30質量部以下である
ことを特徴とするセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項2】
前記ポリオルガノシロキサン(B)は、1分子中に少なくとも1個のヒドロキシ基を有することを特徴とする請求項1に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項3】
前記ポリオルガノシロキサン(B)は、ポリエステル基、ポリエーテル基およびカルビノール基から選ばれる少なくとも1種の有機基を有することを特徴とする請求項1または2に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項4】
前記ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量は、500以上、300000以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項5】
前記剥離剤組成物は、分子量または重量平均分子量が50以上、10000以下のポリオール化合物(E)を含有することを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項6】
前記剥離剤層の厚さは、0.02μm以上、0.5μm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項7】
前記基材における前記剥離剤層側の面の算術平均粗さ(Ra)は、1nm以上、50nm以下であり、前記面の最大突起高さ(Rp)は、10nm以上、1000nm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【請求項8】
前記基材における前記剥離剤層と反対側の面の算術平均粗さ(Ra)は、10nm以上、50nm以下であり、前記面の最大突起高さ(Rp)は、100nm以上、1000nm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックグリーンシートを製造する工程で使用する剥離フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、積層セラミックコンデンサ(以下、「MLCC」という場合がある。)や多層セラミック基板といった積層セラミック製品を製造するには、セラミックグリーンシートを成形し、得られたセラミックグリーンシートを複数枚積層して焼成することが行われている。セラミックグリーンシートは、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを剥離フィルム上に塗工することにより成形される。
【0003】
上記剥離フィルムとしては、通常、基材と、当該基材の片面側に設けられた剥離剤層とを備えるものが使用され、当該剥離剤層は、例えば、ポリジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサンからなる。このような剥離フィルムには、当該剥離フィルム上に成形した薄いセラミックグリーンシートを当該剥離フィルムから破断等することなく剥離できる剥離性が要求される。
【0004】
一方、近年の電子機器の小型化および高性能化に伴い、MLCCや多層セラミック基板の小型化および多層化が進み、セラミックグリーンシートの薄膜化が進んでいる。セラミックグリーンシートが薄膜化して、その乾燥後の厚みが、例えば3μm以下となると、セラミックスラリーを塗工し乾燥させたときに、セラミックグリーンシートにピンホールや厚みむら等の欠陥が発生し易くなり、積層セラミック製品の電気特性や信頼性の低下につながる恐れがある。
【0005】
また、今後はセラミックグリーンシートが使用される電子機器のさらなる小型が予想され、1μm以下といった極薄の厚さのセラミックグリーンシートの成形も求められるようになってきている。このような厚さのセラミックグリーンシートを成形する場合、セラミックスラリー中の異物や凝集物の影響が顕著になり、ピンホールや厚みムラが非常に発生しやすくなる。さらに、剥離フィルムにセラミックスラリーを塗工する際のハジキもさらに生じ易くなる。それに伴い、セラミックグリーンシートの端部において収縮が生じて、端部の厚さが局所的に増し、結果として、歩留まりにも悪影響が及ぶ。これらにより、積層セラミック製品の電気特性や信頼性が低下するとともに、生産性が低下する恐れがある。
【0006】
このため、セラミックグリーンシートの形成に用いる剥離フィルムには、セラミックスラリーに対する濡れ性に優れ、セラミックグリーンシートのピンホールや厚みむらが生じ難い性能を有することが求められている。
【0007】
しかしながら、主としてポリオルガノシロキサンから成る剥離剤層は、セラミックスラリーに対する濡れ性が十分ではなく、当該剥離剤層を備える剥離フィルムを使用した場合、上述したピンホールや厚みむらが生じ易い傾向にある。特に、剥離剤層における基材とは反対側の面(以下「剥離面」という場合がある。)に対して、希薄で低粘度なセラミックスラリーを塗工した場合には、特にそのような傾向が高い。
【0008】
そこで、セラミックスラリーに対する濡れ性を向上させる観点から、主成分としての紫外線硬化型樹脂と、剥離性付与成分としての反応性ポリオルガノシロキサンとからなる剥離剤層を備える剥離フィルムも検討されている。しかしながら、この剥離剤層を形成する場合、硬化性を高めるために低酸素濃度の環境を整える必要があるとともに、所望の剥離特性を達成するための紫外線照射量が必要となる。このような傾向は、形成しようとする剥離剤層の厚さが薄いほど(例えば1μm以下において)顕著となる。このように、紫外線硬化型樹脂と反応性ポリオルガノシロキサンとからなる剥離剤層を備える剥離フィルムを製造するには、特殊な設備が必要となる。
【0009】
また、熱硬化性を有するアミノ樹脂と、ヒドロキシ基を含有するポリオルガノシロキサンとを材料とする剥離剤層を備える剥離フィルムを製造することも検討されている(例えば特許文献1)。このような剥離剤層は、上述したような特殊な設備を要せず形成することができ、厚さの薄い剥離剤層も好適に形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許6395011号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したようなアミノ樹脂を主剤とする剥離剤層を備える剥離フィルムは、セラミックスラリーの濡れ性に優れ、平滑性のよいセラミックグリーンシートを製造できるものの、剥離剤層に剥離性を付与するポリオルガノシロキサン成分を配合されていることから、より厚さの薄い(例えば1μm以下)セラミックグリーンシートの製造に用いると、セラミックスラリーのハジキが顕著となってしまう。一方、ポリオルガノシロキサンの配合量を低下させると、セラミックグリーンシートに対する剥離性が劣るものとなる。そのため、従来の剥離フィルムでは、剥離性と濡れ性とを高いレベルで両立することが困難であった。
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、1μm以下といった極薄のセラミックグリーンシートであっても、高品質に安定して生産することができるセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、基材と、前記基材の片面側に設けられた剥離剤層とを備えたセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムであって、前記剥離剤層が、アミノ樹脂(A)と、ポリオルガノシロキサン(B)と、シロキサン結合(Si-O-Si)を骨格として有するアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)と、酸触媒(D)とを含有する剥離剤組成物から形成されていることを特徴とするセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムを提供する(発明1)。
【0014】
上記発明(発明1)に係る剥離フィルムは、剥離剤層が上述した剥離剤組成物から形成されたものであることにより、極薄のセラミックグリーンシートを成形する場合であっても、セラミックスラリーのハジキを効果的に抑制できるとともに、成形したセラミックグリーンシートから良好に剥離することができる。その結果、上記剥離フィルムによれば、極薄のセラミックグリーンシートを、高品質に安定して生産することができる。
【0015】
上記発明(発明1)において、前記剥離剤組成物中における前記アルコキシシラン加水分解重合物(C)の含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、2質量部以上、50質量部以下であることが好ましい(発明2)。
【0016】
上記発明(発明1,2)において、前記ポリオルガノシロキサン(B)は、1分子中に少なくとも1個のヒドロキシ基を有することが好ましい(発明3)。
【0017】
上記発明(発明1~3)において、前記ポリオルガノシロキサン(B)は、ポリエステル基、ポリエーテル基およびカルビノール基から選ばれる少なくとも1種の有機基を有することが好ましい(発明4)。
【0018】
上記発明(発明1~4)において、前記ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量は、500以上、300000以下であることが好ましい(発明5)。
【0019】
上記発明(発明1~5)において、前記剥離剤組成物中における前記ポリオルガノシロキサン(B)の含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上、20質量部以下であることが好ましい(発明6)。
【0020】
上記発明(発明1~6)において、前記酸触媒(D)は、スルホン酸系触媒およびリン酸系触媒の少なくとも1種を含むことが好ましい(発明7)。
【0021】
上記発明(発明1~7)において、前記剥離剤組成物は、分子量または重量平均分子量が50以上、10000以下のポリオール化合物(E)を含有することが好ましい(発明8)。
【0022】
上記発明(発明1~8)において、前記剥離剤層の厚さは、0.02μm以上、0.5μm以下であることが好ましい(発明9)。
【0023】
上記発明(発明1~9)において、前記基材における前記剥離剤層側の面の算術平均粗さ(Ra)は、1nm以上、50nm以下であり、前記面の最大突起高さ(Rp)は、10nm以上、1000nm以下であることが好ましい(発明10)。
【0024】
上記発明(発明1~10)において、前記基材における前記剥離剤層と反対側の面の算術平均粗さ(Ra)は、10nm以上、50nm以下であり、前記面の最大突起高さ(Rp)は、100nm以上、1000nm以下であることが好ましい(発明11)。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムによれば、1μm以下といった極薄のセラミックグリーンシートであっても、高品質に安定して生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係るセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルム(以下単に「剥離フィルム」という場合がある。)は、基材と、当該基材の片面側に設けられた剥離剤層とを備えて構成される。
【0027】
1.基材
本実施形態における基材は、剥離剤層を積層することができる限り、特に限定されない。かかる基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリプロピレンやポリメチルペンテン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニルなどのプラスチックからなるフィルムが挙げられ、単層であってもよいし、同種または異種の2層以上の多層であってもよい。これらの中でもポリエステルフィルムが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく、さらには二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくいため、例えば、埃等によるセラミックスラリー塗工不良等を効果的に防止することができる。
【0028】
また、基材においては、その表面に設けられる剥離剤層との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン、紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶射処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は、基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にコロナ放電処理法が効果および操作性の面から好ましく用いられる。
【0029】
基材における剥離剤層側の面の算術平均粗さ(Ra)は、50nm以下であることが好ましく、特に40nm以下であることが好ましく、さらには30nm以下であることが好ましい。上記算術平均粗さ(Ra)が50nm以下であることで、剥離面における算術平均粗さ(Ra)および最大突起高さ(Rp)を後述する範囲内におさめ易くなり、それにより、成形されるセラミックグリーンシートの欠陥の発生を効果的に抑制することができる。なお、基材における剥離剤層側の面の算術平均粗さ(Ra)の下限値については特に限定されず、例えば、1nm以上であってもよく、特に3nm以上であってもよく、さらには5nm以上であってもよい。
【0030】
基材における剥離剤層側の面の最大突起高さ(Rp)は、1000nm以下であることが好ましく、特に700nm以下であることが好ましく、さらには500nm以下であることが好ましい。上記最大突起高さ(Rp)が1000nm以下であることで、剥離面における算術平均粗さ(Ra)および最大突起高さ(Rp)を後述する範囲内におさめ易くなり、それにより、成形されるセラミックグリーンシートの欠陥の発生を効果的に抑制することができる。なお、基材における剥離剤層側の面の最大突起高さ(Rp)の下限値については特に限定されず、例えば、10nm以上であってもよく、特に30nm以上であってもよく、さらには50nm以上であってもよい。
【0031】
また、基材における剥離剤層と反対側の面の算術平均粗さ(Ra)は、10nm以上であることが好ましく、特に15nm以上であることが好ましく、さらには18nm以上であることが好ましい。上記算術平均粗さ(Ra)が10nm以上であることで、剥離フィルムを巻き取ってロール体とするときの巻きズレを抑制し易くなる。また、ロール体形成時において、基材における剥離剤層と反対側の面と、それと接触する剥離面との間における有効接触面積が過度に高まることを抑制し、それによりブロッキングを効果的に抑制することができるとともに、当該ロール体から繰り出される剥離フィルムの帯電量を低減することができる。一方、基材における剥離剤層と反対側の面の算術平均粗さ(Ra)は、50nm以下であることが好ましく、特に40nm以下であることが好ましく、さらには30nm以下であることが好ましい。上記算術平均粗さ(Ra)が50nm以下であることで、剥離フィルムと、当該剥離フィルム上で成形されたセラミックグリーンシートとをロール状に巻き取って搬送、保管等する際において、基材における剥離剤層と反対側の面における表面形状(特に凹凸形状)が、当該面と接触するセラミックグリーンシートの表面に転写されることが効果的に抑制される。その結果、当該セラミックグリーンシートの平滑性を良好に維持し易いものとなる。
【0032】
基材における剥離剤層と反対側の面の最大突起高さ(Rp)は、100nm以上であることが好ましく、特に200nm以上であることが好ましく、さらには300nm以上であることが好ましい。上記最大突起高さ(Rp)が100nm以上であることで、算術平均粗さ(Ra)が10nm以上である場合と同様に、ロール体の巻きズレおよびブロッキングの発生を抑制し易くなるとともに、剥離フィルムの帯電量を低減することができる。また、基材における剥離剤層と反対側の面の最大突起高さ(Rp)は、1000nm以下であることが好ましく、特に700nm以下であることが好ましく、さらには500nm以下であることが好ましい。上記最大突起高さ(Rp)が1000nm以下であることで、算術平均粗さ(Ra)が50nm以下である場合と同様に、セラミックグリーンシートの平滑性を良好に維持し易いものとなる。
【0033】
なお、上述した基材の表面粗さは、表面粗さ測定器を用いて公知の方法で測定することができ、例えば、後述する試験例における剥離面の表面粗さの測定方法と同様に測定することができる。
【0034】
基材の厚さは、特に限定されず、例えば、10μm以上であることが好ましく、特に15μm以上であることが好ましく、さらには20μm以上であることが好ましい。また、基材の厚さは、300μm以下であることが好ましく、特に200μm以下であることが好ましく、さらには125μm以下であることが好ましい。
【0035】
2.剥離剤層
本実施形態における剥離剤層は、アミノ樹脂(A)と、ポリオルガノシロキサン(B)と、シロキサン結合(Si-O-Si)を骨格として有するアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)と、酸触媒(D)とを含有する剥離剤組成物から形成されたものである。
【0036】
本実施形態における剥離剤層は、上述したように、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を含有する剥離剤組成物から形成されたものであることにより、セラミックグリーンシートに対する剥離性を損なうことなく、セラミックスラリーに対する濡れ性を向上し、それにより塗工するセラミックスラリーのハジキを抑制することができる。これらの結果、本実施形態に係る剥離フィルムによれば、1μm以下といった極薄のセラミックグリーンシートであっても、高品質に安定して生産することができる。
【0037】
(1)アミノ樹脂(A)
本実施形態に係る剥離フィルムおいて、剥離剤組成物はアミノ樹脂(A)を含有する。剥離剤組成物から剥離剤層を形成する際、アミノ樹脂(A)は酸触媒(D)の存在下で縮合反応を行うため、得られる剥離剤層中には、アミノ樹脂(A)による三次元構造が形成される。アミノ樹脂(A)の縮合反応は、例えば加熱することにより生じさせることができる。剥離剤層は、上述した三次元構造を含むため、十分な弾性を示すものとなり、これにより、本実施形態に係る剥離フィルムは優れた剥離性を発揮することができる。なお、本明細書においては、「アミノ樹脂」という語句は、縮合反応を生じ得る成分を指し、必ずしも高分子化合物でなくてもよい。ここにおいて、当該成分は、全く縮合反応を生じていないものであってもよく、または部分的に縮合反応が生じたものであってもよい。
【0038】
上記アミノ樹脂(A)としては、既知のものを使用することができ、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂またはアニリン樹脂を使用することができる。これらの中でも、縮合反応の速度が非常に速いメラミン樹脂を使用することが好ましい。なお、本明細書においては、「メラミン樹脂」という語句は、1種のメラミン化合物の集合物、あるいは、複数種のメラミン化合物および/または当該メラミン化合物が縮合してできる多核体を含む混合物を意味する。
【0039】
上記メラミン樹脂は、具体的には、下記一般式(a)で示されるメラミン化合物、または2個以上の当該メラミン化合物が縮合してなる多核体を含有することが好ましい。
【化1】
【0040】
式(a)中、Xは、-H、-CH-OH、または-CH-O-Rを示すことが好ましい。これらの基は、上記メラミン化合物同士の縮合反応における反応基を構成する。具体的には、XがHとなることで形成される-NH基は、-N-CH-OH基および-N-CH-R基との間で縮合反応を行うことができる。また、Xが-CH-OHとなることで形成される-N-CH-OH基およびXが-CH-Rとなることで形成される-N-CH-R基は、ともに、-NH基、-N-CH-OH基および-N-CH-R基との間で縮合反応を行うことができる。
【0041】
上記-CH-O-R基において、Rは、炭素数1~8個のアルキル基を示すことが好ましい。当該炭素数は、1~6個であることが好ましく、特に1~3個であることが好ましい。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0042】
上記Xは、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、上記Rは、それぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
メラミン化合物には、一般に、全てのXが-CH-O-Rであるフルエーテル型、少なくとも1個のXが-CH-OHであり且つ少なくとも1個のXがHであるイミノ・メチロール型、少なくとも1個のXが-CH-OHであり且つHであるXが存在しないメチロール型、および、少なくとも1個のXがHであり且つ-CH-OHであるXが存在しないイミノ型といった種類が存在する。本実施形態に係る剥離フィルムでは、これらのいずれの型のメラミン化合物を使用してもよい。
【0044】
剥離剤層を形成するための剥離剤組成物において、メラミン樹脂の重量平均分子量は、150以上であることが好ましく、特に300以上であることが好ましく、さらには500以上であることが好ましい。また、上記重量平均分子量は、10000以下であることが好ましく、特に5000以下であることが好ましく、さらには4000以下であることが好ましい。上記重量平均分子量が150以上であることで、架橋速度が安定し、より平滑な剥離面を形成することができる。一方、重量平均分子量が10000以下であることで、剥離剤組成物の粘度が適度に低いものとなり、基材上に剥離剤組成物の塗布液を塗布し易くなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0045】
(2)ポリオルガノシロキサン(B)
本実施形態に係る剥離フィルムおいて、剥離剤組成物はポリオルガノシロキサン(B)を含有する。剥離剤組成物がポリオルガノシロキサン(B)を含有することにより、形成される剥離剤層の表面自由エネルギーが適度に低下したものとなる。これにより、剥離フィルムの剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートから剥離フィルムを剥離する際の剥離力が適度に低下し、良好な剥離性が達成される。
【0046】
上記ポリオルガノシロキサン(B)は、剥離剤層に対して所望の剥離性を付与できるものである限り、特に限定されない。本実施形態に係る剥離フィルムでは、ポリオルガノシロキサン(B)は、1分子中に少なくとも1個のヒドロキシ基を有するものであることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(B)がヒドロキシ基を有することで、当該ポリオルガノシロキサン(B)はアミノ樹脂(A)との縮合反応が可能となり、その結果、剥離剤層からセラミックグリーンシートへのポリオルガノシロキサン(B)の移行を抑制し易いものとなる。
【0047】
ポリオルガノシロキサン(B)における上記ヒドロキシ基以外の構造は、前述の剥離性、ならびにアミノ樹脂(A)同士およびアミノ樹脂(A)とアルコキシシラン加水分解重合物(C)と間における反応を阻害しない限り、特に限定されるものではない。ポリオルガノシロキサン(B)としては、下記の一般式(b)で示されるケイ素含有化合物の重合体を使用することができる。
【化2】
【0048】
式(b)中、mは1以上の整数である。また、R~Rは、それぞれ独立に、ヒドロキシ基、有機基(ヒドロキシ基を有する有機基を含む)、またはこれらの基以外の基を意味する。ここで、R~Rの少なくとも1個がヒドロキシ基またはヒドロキシ基を有する有機基となる場合には、R~Rの少なくとも1個がこれらの基であることが好ましい。すなわち、ポリオルガノシロキサン(B)がヒドロキシ基またはヒドロキシ基を有する有機基を有する場合には、当該基は、ポリオルガノシロキサン(B)の末端に存在することが好ましい。ヒドロキシ基が末端に存在することで、ポリオルガノシロキサン(B)がアミノ樹脂(A)との間で縮合反応し易くなり、ポリオルガノシロキサン(B)の移行が効果的に抑制される。
【0049】
上記有機基の例としては、ポリエステル基、ポリエーテル基およびカルビノール基が挙げられ、特に、本実施形態におけるポリオルガノシロキサン(B)は、ポリエステル基、ポリエーテル基およびカルビノール基の少なくとも1種を有することが好ましい。ポリオルガノシロキサン(B)がポリエステル基、ポリエーテル基およびカルビノール基の少なくとも1種を有することで、剥離剤組成物中においてポリオルガノシロキサン(B)とアミノ樹脂(A)とが良好に混合され易くなり、硬化の際においてこれらが極端に相分離することが抑制される。これにより、前述したようなポリオルガノシロキサン(B)とアミノ樹脂(A)との縮合反応が良好に進行し、ポリオルガノシロキサン(B)の移行も効果的に抑制される。なお、本明細書において、「有機基」は、後述するアルキル基を含まないものとする。
【0050】
ヒドロキシ基および有機基(ヒドロキシ基を有する有機基を含む)以外の基の例としては、炭素数1~12のアルキル基が挙げられる。炭素数1~12のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、特にメチル基が好ましい。
【0051】
~Rは同一であっても異なっていてもよい。また、RおよびRが複数存在する場合、RおよびRは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0052】
ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量は、300000以下であることが好ましく、特に100000以下であることが好ましく、さらには50000以下であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量が300000以下であることで、ポリオルガノシロキサン(B)とその他の成分との相溶性がより優れたものとなり、表面状態の優れた剥離剤層を形成し易いものとなる。さらに、剥離剤層からセラミックグリーンシートへのポリオルガノシロキサン(B)の移行を抑制し易いものとなる。一方、ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量は、500以上であることが好ましく、特に1000以上であることが好ましく、さらには2000以上であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(B)の重量平均分子量が500以上であることで、ポリオルガノシロキサン(B)が剥離剤層の剥離面における表面自由エネルギーを低下させ易いものとなり、所望の剥離性を達成し易いものとなる。
【0053】
剥離剤組成物中におけるポリオルガノシロキサン(B)の含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上であることが好ましく、0.10質量部以上であることがより好ましく、特に0.30質量部以上であることが好ましく、さらには0.50質量部以上であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(B)の含有量が0.05質量部以上であることで、本実施形態に係る剥離フィルムが、セラミックグリーンシートに対して所望の剥離性を達成し易いものとなる。また、ポリオルガノシロキサン(B)の含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、特に14質量部以下であることが好ましく、さらには8質量部以下であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(B)の含有量が20質量部以下であることで、剥離剤層からセラミックグリーンシートへのポリオルガノシロキサン(B)の移行を効果的に抑制することが可能となる。
【0054】
(3)アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)
本実施形態に係る剥離フィルムにおいて、剥離剤組成物は、シロキサン結合(Si-O-Si)を骨格として有するアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を含有する。剥離剤組成物が当該アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を含有することにより、前述した通り、剥離性を損なうことなく、濡れ性を向上することが可能となる。
【0055】
上記アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)は、剥離フィルムの剥離性を大きく損なわないものである限り、特に限定されない。好ましいアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)は、テトラアルコキシシランおよび/またはそのオリゴマーと、フェニルアルコキシシランおよび/またはそのオリゴマーとの混合物を加水分解し、さら重縮合反応させて得たものであることが好ましい。
【0056】
上記テトラアルコキシシランは、Si(OR)という式で表されるものであることが好ましく、また、当該テトラアルコキシシランのオリゴマーは、Sin-1(OR)2n+2という式で表されるものであることが好ましい。これらの式において、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であることが好ましく、nは、2~10の整数であることが好ましい。
【0057】
上記テトラアルコキシシランの好ましい具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられ、中でも、入手の容易性および加水分解反応の反応性の観点から、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランの少なくとも一方であることが好ましい。
【0058】
テトラアルコキシシランのオリゴマーは、上述したようなアルコキシシランモノマーを加水分解・縮合反応させて得られるものであることが好ましい。市販品としては、テトラメトキシシランの平均4量体オリゴマーであるメチルシリケート51や、テトラエトキシシランの平均5量体オリゴマーであるエチルシリケート40などが好ましく用いられる。
【0059】
上記フェニルアルコキシシランは、PhSi(OR)4-nという式で表されるものであることが好ましい。この式においては、Phはフェニル基を表し、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基を表し、nは1~2の整数を表す。また、フェニルアルコキシシランのオリゴマーとしては、上記式で表されるフェニルアルコキシシランの2~10量体であることが好ましく、特に2~3量体であることが好ましい。
【0060】
フェニルアルコキシシランの好ましい具体例としては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、フェニルトリ-n-ブトキシシラン等が挙げられる。中でも、反応性に優れるという観点から、フェニルトリメトキシシランおよびフェニルトリエトキシシランの少なくとも一方を用いることが好ましい。
【0061】
また、上記フェニルアルコキシシランとして、ケイ素原子に2個のフェニル基が結合してなるジフェニルジアルコキシシランを使用してもよい。この場合、アルコキシ基は、メトキシ基またはエトキシ基であることが好ましい。
【0062】
テトラアルコキシシランおよび/またはそのオリゴマーと、フェニルアルコキシシランおよび/またはそのオリゴマーとの混合物の加水分解および重縮合反応は、公知の方法にて行うことができる。また、上記混合物中におけるテトラアルコキシシランおよび/またはそのオリゴマーと、フェニルアルコキシシランおよび/またはそのオリゴマーとの比率は、質量比で1:1~1:0.1であることが好ましい。
【0063】
剥離剤組成物中におけるアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)の含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、2質量部以上であることが好ましく、特に5質量部以上であることが好ましく、さらには10質量部以上であることが好ましい。アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)の含有量が2質量部以上であることで、セラミックスラリーに対する濡れ性が向上し易いものとなる。また、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)の含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、特に40質量部以下であることが好ましく、さらには30質量部以下であることが好ましい。アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)の含有量が50質量部以下であることで、剥離剤層を良好に硬化させ易くなり、良好な剥離性および濡れ性を達成し易いものとなる。
【0064】
なお、本実施形態に係る剥離フィルムにおいては、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を使用していることにより、帯電防止性も向上したものとなる。従来、上述したようなアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)は、剥離剤層の材料として使用された場合に帯電防止性は得られないと予測されるものであった。しかしながら、このような予想に反し、本発明者らは、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を使用することによって、セラミックグリーンシート製造工程用の剥離フィルムに必要とされるレベルの帯電防止性を実現できることを発見した。
【0065】
ここで、本実施形態に係る剥離フィルムの表面抵抗率は、絶縁体であるポリエチレンテレフタレートフィルムと同等の値となり、また、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を単独で使用した場合には帯電防止性は示さなかった。このような状況でありながらも、本実施形態に係る剥離フィルムが所定の帯電防止性を示す理由の1つとしては、それに限定されるものではないものの、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)によって、剥離剤層中に含まれる成分の帯電列の状態が変更されることが考えられる。
【0066】
一般的に、帯電列とは、2種類の物質を摩擦したときに、プラスに帯電しやすいものを上位に、マイナスに帯電しやすいものを下位に並べた序列を意味する。この帯電列における位置が離れているほど、2つの物質を摩擦したときに帯電し易いものとなる。
【0067】
通常、アミノ樹脂(A)の帯電列における位置は、基材の材料(例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム)から比較的離れている。そのため、アミノ樹脂(A)を含有する剥離剤層では、ロール体から剥離フィルムを繰り出す際などにおいて、剥離フィルムの剥離帯電が非常に生じ易い。
【0068】
一方、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)の帯電列における位置は、アミノ樹脂(A)と比較して、セラミックグリーンシート製造用剥離シートの基材としてよく使われるポリエチレンテレフタレートに近いものとなっている。本実施形態における剥離剤組成物は、このようなアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を含有することにより、剥離剤層が形成される際に、アミノ樹脂(A)に対してアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)が結合する。そして、これによって得られた結合物は、結合前のアミノ樹脂(A)と比較して、帯電列の位置がポリエチレンテレフタレートに対して非常に近いものとなる。
【0069】
また、本実施形態における剥離剤組成物はポリオルガノシロキサン(B)を含有しており、このポリオルガノシロキサン(B)の帯電列における位置も、ポリエチレンテレフタレートに比較的近いものとなっている。そして、ポリオルガノシロキサン(B)は、それが有する官能基によっては、アミノ樹脂(A)およびアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)と反応して結合することができるため、これらが結合してなる架橋構造体の帯電列の位置は、ポリエチレンテレフタレートの位置に非常に近いものとなる。
【0070】
以上のように、従来の剥離剤層と比較して、本実施形態における剥離剤層では、それに含まれる成分と基材(ポリエチレンテレフタレート)との間における帯電列の隔たりが大きく緩和されており、その結果、本実施形態に係る剥離フィルムは、剥離帯電し難いものとなる。
【0071】
なお、以上説明した内容は、本実施形態に係る剥離フィルムが帯電し難いことの唯一の理由ではなく、その他の追加的な理由が存在してもよい。但し、そのような追加的な理由から、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)が一般的な帯電防止剤として作用する可能性は除外される。アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)に該当する一部の化合物は、一般的に、帯電防止剤として使用されることがある。アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)が帯電防止剤として使用される場合、それが使用された部材の表面には、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)が有するヒドロキシ基が多数存在することとなり、それにより、上記表面における表面抵抗の値が下降し、帯電防止の効果が発揮されるものとなる。しかしながら、本実施形態における剥離剤層では、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)が有するヒドロキシ基の殆どが、アミノ樹脂(A)やポリオルガノシロキサン(B)との反応に使用され、消失したものとなっている。そのため、本実施形態における剥離剤層では、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)が、一般的な帯電防止剤として機能していないと推測される。このことは、本実施形態における剥離剤層の表面抵抗の値が、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を添加しない場合と殆ど変わらないことからも示唆される。
【0072】
(4)酸触媒(D)
本実施形態に係る剥離フィルムにおいて、剥離剤組成物は酸触媒(D)を含有する。剥離剤組成物が酸触媒(D)を含むことにより、アミノ樹脂(A)同士の縮合反応、およびアミノ樹脂(A)、ポリオルガノシロキサン(B)およびアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)間の反応が効率的に進行し、十分な弾性を示す剥離剤層が形成される。
【0073】
上記酸触媒(D)の例としては、上述した反応に対して触媒作用を有するものであれば特に限定されないものの、特に、スルホン酸系触媒およびリン酸系触媒少なくとも1種を使用することが好ましい。これらの触媒は、触媒活性が比較的高いため、より低温での剥離剤層の硬化を進行させ易いものとなる。スルホン酸系触媒の例としては、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等が挙げられ、これらの中でもp-トルエンスルホン酸を使用することが好ましい。なお、アミノ樹脂(A)としてフルエーテル型メラミン樹脂を主に使用する場合には、当該メラミン樹脂の縮合反応を効率よく進行できる観点から、スルホン酸系触媒を使用することが好ましい。リン酸系触媒の例としては、リン酸、亜リン酸等が挙げられる。なお、アミノ樹脂(A)としてイミノ・メチロール型メラミン樹脂を主に使用する場合には、当該メラミン樹脂の縮合反応を効率よく進行できる観点から、リン酸系触媒を使用することが好ましい。上述した以外の酸触媒(D)の例としては、塩酸、硫酸、硝酸等を使用してもよい。
【0074】
剥離剤組成物中における酸触媒(D)の含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、特に0.7質量部以上であることが好ましく、さらには1.0質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、特に20質量部以下であることが好ましく、さらには10質量部以下であることが好ましい。酸触媒(D)の含有量が0.5質量部以上であることで、アミノ樹脂(A)の縮合反応や、アミノ樹脂(A)、ポリオルガノシロキサン(B)およびアルコキシシラン加水分解重縮合物(C)間の反応を効率的に進行させることができる。また、酸触媒(D)の含有量が30質量部以下であることで、剥離剤層中に形成される三次元構造中に、低分子量成分が保持され易くなり、当該成分の剥離剤層からの析出を効果的に抑制することができる。
【0075】
(5)その他の成分
剥離剤組成物は、上記成分の他、ポリオール化合物(E)、分散剤、架橋剤、反応抑制剤、密着向上剤、滑り剤等のその他の成分を含有してもよい。
【0076】
ポリオール化合物(E)は、特に限定されず、各種公知のものが使用できる。剥離剤組成物がポリオール化合物(E)を含有することで、剥離剤層の弾性率を所望の範囲に調整し易くなるとともに、剥離剤組成物を硬化させて剥離剤層を形成する際の硬化性を向上させ易いものとなる。この観点から、ポリオール化合物(E)としては、分子量または重量平均分子量が50以上のものを使用することが好ましい。また、重量平均分子量が10000以下のものを使用することが好ましく、特に5000以下のものを使用することが好ましく、さらには3000以下のものを使用することが好ましい。
【0077】
ポリオール化合物(E)の具体例としては、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ブチルエチルペンタンジオール等の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ダイマージオール、水添ダイマージオール、トリマートリオール、水添トリマートリオール、ヒマシ油、ヒマシ油系変性ポリオール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。また、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール及びポリオレフィンポリオールなどのポリマーポリオールも挙げられる。上記ポリエーテルポリオールの例としては、ポリエチレングリコール(エチレングリコールを含む)、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールを含む)、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールの他、エチレンオキシド-プロピレンオキシド共重合体等の単量体成分として複数のアルキレンオキシドを含む(アルキレンオキサイド-他のアルキレンオキサイド)共重合体等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。
【0078】
剥離剤組成物がポリオール化合物(E)を含有する場合、剥離剤組成物中におけるポリオール化合物(E)の含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、特に0.5質量部以上であることが好ましく、さらには1質量部以上であることが好ましい。また、当該含有量は、アミノ樹脂(A)100質量部に対して、100質量部以下であることが好ましく、特に70質量部以下であることが好ましく、さらには40質量部以下であることが好ましい。ポリオール化合物(E)の含有量が上記範囲であることで、剥離力を所望の範囲に調整し易いものとなる。
【0079】
なお、本実施形態における剥離剤組成物は、帯電防止剤を含有してもよい。しかしながら、本実施形態に係る剥離フィルムは、前述の通り帯電を良好に抑制することができるため、敢えて剥離剤組成物に帯電防止剤を添加しなくてもよい。
【0080】
(6)剥離剤層の物性等
本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離剤層の剥離面の表面自由エネルギーが、17mJ/m以上であることが好ましく、特に19mJ/m以上であることが好ましく、さらには21mJ/m以上であることが好ましい。また、当該表面自由エネルギーは、40mJ/m以下であることが好ましく、特に35mJ/m以下であることが好ましく、さらには30mJ/m以下であることが好ましい。本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離剤層が、ポリオルガノシロキサン(B)を含有する剥離剤組成物により形成されたものであることにより、剥離面における表面自由エネルギーを上述のような範囲に調整し易いものとなる。そして、表面自由エネルギーが上記範囲であることで、本実施形態に係る剥離フィルムが、成形されるセラミックグリーンシートに対してより良好な剥離性を発揮し易いものとなる。なお、表面自由エネルギーの測定方法は、後述する試験例に示すとおりである。
【0081】
本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離剤層の厚さが、0.02μm以上であることが好ましく、特に0.03μm以上であることが好ましく、さらには0.04μm以上であることが好ましい。また、当該厚さは、0.5μm以下であることが好ましく、特に0.4μm以下であることが好ましく、さらには0.3μm以下であることが好ましい。剥離剤層の厚さが0.02μm以上であることで、剥離剤層を良好に硬化させ易くなり、それに伴い、所望の剥離性を達成し易いものとなる。一方、剥離剤層の厚さが0.5μm以下であることで、剥離剤組成物の硬化収縮の影響が生じ難くなり、剥離フィルムのカールの発生を抑制し易いものとなるとともに、成形されるセラミックグリーンシートの厚さの精度(特に幅方向の精度)を高く維持し易くなる。
【0082】
3.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの物性
本実施形態に係る剥離フィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムと摩擦させた際の帯電量が、25kV以下であることが好ましく、特に20kV以下であることが好ましく、さらには15kV以下であることが好ましい。上記帯電量が25kV以下であることで、剥離フィルムに対して環境中の異物が付着することが効果的に抑制され、これに伴い、優れた性能を有するセラミックグリーンシートを形成し易いものとなる。特に、上記帯電量が20kV以下である場合、剥離フィルムへの異物の付着を非常に抑制し易いものとなる。本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離剤層が、アルコキシシラン加水分解重合物(C)を含有する剥離剤組成物から形成されたものであることにより、上記帯電量を上述のような低い値に抑えることが可能となる。なお、上記帯電量の下限値については特に限定されず、例えば、0.1kV以上であってよく、特に0.5kV以上であってよく、さらには1.0kV以上であってよい。また、上記帯電量の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0083】
本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離面の算術平均粗さ(Ra)が、50nm以下であることが好ましく、特に40nm以下であることが好ましく、さらには30nm以下であることが好ましい。上記算術平均粗さ(Ra)が50nm以下であることで、剥離面が優れた平滑性を有するものとなり、成形されるセラミックグリーンシートにおけるピンホールや厚みむら等の欠陥の発生を効果的に抑制することができる。なお、上記算術平均粗さ(Ra)の下限値については特に限定されず、例えば、1nm以上であってもよく、特に3nm以上であってもよく、さらには5nm以上であってもよい。
【0084】
また、本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離面の最大突起高さ(Rp)が、1000nm以下であることが好ましく、特に700nm以下であることが好ましく、さらには500nm以下であることが好ましい。上記最大突起高さ(Rp)が1000nm以下であることで、剥離面が優れた平滑性を有するものとなり、成形されるセラミックグリーンシートにおけるピンホールや厚みむら等の欠陥の発生を効果的に抑制することができる。なお、上記最大突起高さ(Rp)の下限値については特に限定されず、例えば、10nm以上であってもよく、特に30nm以上であってもよく、さらには50nm以上であってもよい。
【0085】
なお、上述した剥離面の算術平均粗さ(Ra)および最大突起高さ(Rp)の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0086】
本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離面上に成形されたセラミックグリーンシートから当該剥離フィルムを剥離する際に要する剥離力を、適宜設定することができるものの、例えば、2mN/20mm以上であることが好ましく、特に3mN/20mm以上であることが好ましく、さらに4mN/20mm以上であることが好ましい。また、当該剥離力は、例えば、30mN/20mm以下であることが好ましく、特に20mN/20mm以下であることが好ましく、さらには10mN/20mm以下であることが好ましい。本実施形態に係る剥離フィルムでは、剥離剤層が、アミノ樹脂(A)とポリオルガノシロキサン(B)とを含有する剥離剤組成物によって形成されたものであるため、上述のような剥離力に容易に設定することができる。なお、上述した剥離力の測定方法の詳細は、後述する試験例に記載の通りである。
【0087】
4.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの製造方法
本実施形態における剥離フィルムの製造方法は、前述した剥離剤組成物から剥離剤層を形成することを含む限り、特に制限されない。例えば、基材の一方の面に、前述した剥離剤組成物および所望により有機溶剤を含有する塗布液を塗工した後、得られた塗膜を乾燥および加熱することで剥離剤組成物を硬化させて剥離剤層を形成し、これにより剥離フィルムを得ることが好ましい。
【0088】
上述した塗工の具体的な方法としては、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ダイコート法などが挙げられる。
【0089】
上記有機溶剤としては特に制限はなく、様々なものを用いることができる。例えばトルエン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素化合物をはじめ、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びこれらの混合物等が用いられる。特に、メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールとの混合液を使用することが好ましい。
【0090】
上記のように塗工した剥離剤組成物は、熱硬化させることが好ましい。この場合の加熱温度は100℃以上であることが好ましく、特に110℃以上であることが好ましい。また、当該加熱温度は150℃以下であることが好ましく、特に140℃以下であることが好ましい。熱硬化させる場合の加熱時間は、10秒以上であることが好ましく、特に15秒以上であることが好ましい。また、当該加熱時間は、120秒以下であることが好ましく、特に90秒以下であることが好ましい。
【0091】
5.セラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムの使用方法
本実施形態における剥離フィルムは、セラミックグリーンシートを製造するために使用することが好ましい。この場合、最初に、剥離剤層の剥離面に対し、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック材料を含有するセラミックスラリーを塗工する。
【0092】
本実施形態に係る剥離フィルムは、剥離剤層が、アルコキシシラン加水分解重合物(C)を含有する剥離剤組成物から形成されたものであることにより、セラミックグリーンシートに対する良好な剥離性を確保しながらも、セラミックスラリーに対して良好な濡れ性を有するものとなり、スラリーの端部収縮が効率的に抑制される。その結果、厚さ1μm以下といった極薄のセラミックグリーンシートを形成する場合であっても、高品質に且つ高い生産性でセラミックグリーンシートを製造することができる。また、当該剥離フィルムをロール体から繰り出す場合であっても、帯電し難いものとなっている。そのため、剥離フィルムに対して環境中の異物が付着することが効果的に抑制され、これに伴い、上述したセラミックスラリーの塗工を良好に行うことが可能となるとともに、得られるセラミックグリーンシートが優れた性能を有するものとなる。さらに、本実施形態に係る剥離フィルムは帯電し難いことにより、有機溶媒を含有するセラミックスラリーを塗工する際の静電気による発火を効果的に抑制することもできる。
【0093】
上記塗工は、例えば、スロットダイ塗工方式やドクターブレード方式等を用いて行うことができる。また、セラミックスラリーに含まれるバインダー成分の例としては、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられる。セラミックスラリーに含まれる溶媒の例としては、有機溶媒、水系溶媒等が挙げられる。
【0094】
剥離面に対するスラリーの塗工に続き、塗工されたセラミックスラリーを乾燥させることでセラミックグリーンシートを成形することができる。セラミックグリーンシートの成形の後、当該セラミックグリーンシートを剥離フィルムから分離する。このとき、本実施形態における剥離フィルムでは、剥離剤層が、アミノ樹脂(A)およびポリオルガノシロキサン(B)を含有する剥離剤組成物から形成されたものであることにより、剥離フィルムがセラミックグリーンシートに対して優れた剥離性を有するものとなっている。そのため、セラミックグリーンシートを、ヒビ、破断等が生じることなく、適度な剥離力により剥離することができる。
【0095】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0096】
例えば、基材における剥離剤層の反対側の面、または基材と剥離剤層との間には、その他の層が設けられてもよい。
【実施例
【0097】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0098】
〔実施例1〕
アミノ樹脂(A)としてのメチル化メラミン樹脂(日本カーバイド社製,製品名「MW-30」,重量平均分子量:508)100質量部(固形分換算値,以下同じ)と、ポリオルガノシロキサン(B)としての両末端カルビノール変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業社製,製品名「KF-6000」,重量平均分子量:1429)4質量部とを、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンとシクロヘキサノンとの混合溶媒(混合比は、イソプロピルアルコール:メチルエチルケトン:シクロヘキサノン=40:40:20)で希釈した。この希釈液に、アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)(コルコート社製,製品名「N-103X」)10質量部を添加して、混合した。さらに、酸触媒(D)としてのp-トルエンスルホン酸(信越化学工業社製,製品名「PS-80」)4.6質量部を希釈して添加し、均一に撹拌することで、固形分濃度1.8質量%の剥離剤組成物の塗布液を得た。
【0099】
一方、基材としての二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:31μm)を用意した。当該基材は、一方の面(以下「第1の面」という場合がある。)について、算術平均粗さ(Ra)が24nmであり、最大突起高さ(Rp)が451nmであった。また、当該基材は、他方の面(以下「第2の面」という場合がある。)について、算術平均粗さ(Ra)が25nmであり、最大突起高さ(Rp)が465nmであった。
【0100】
上述の通り得られた剥離剤組成物の塗布液を、上記基材における第1の面上にバーコーターを用いて塗布し、得られた塗膜を125℃、30秒間の条件で加熱して乾燥および硬化させ、剥離剤層を形成した。これにより、基材の片面上に剥離剤層が積層されてなる剥離フィルムを得た。
【0101】
なお、当該剥離フィルムの剥離剤層の厚さを、後述する試験例2に記載の通り測定したところ、0.07μmであった。
【0102】
〔実施例2~4〕
アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)および酸触媒(D)の含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0103】
〔実施例5~6〕
酸触媒(D)の含有量を表1に示すように変更するとともに、表1に示すポリオール化合物(E)を添加して剥離剤組成物の塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0104】
〔実施例7~8〕
ポリオルガノシロキサン(B)および酸触媒(D)の含有量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0105】
〔実施例9~11〕
ポリオルガノシロキサン(B)の種類を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0106】
〔実施例12~13〕
剥離剤層の厚さを表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0107】
〔実施例14~15〕
基材として、表1に示す表面粗さを有する二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:31μm)を使用した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0108】
〔実施例16〕
アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)の種類を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0109】
〔比較例1〕
アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を添加することなく、酸触媒(D)の含有量を表1に示すように変更して剥離剤組成物の塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0110】
〔比較例2~3〕
アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を添加しないとともに、表1に示す帯電防止剤を表1に示す含有量で添加することで剥離剤組成物の塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを得た。
【0111】
〔比較例4〕
アルコキシシラン加水分解重縮合物(C)を添加せず、酸触媒(D)の含有量を表1に示すように変更し、且つ、表1に示す帯電防止剤を表1に示す含有量で添加することで剥離剤組成物の塗布液を調製した以外は、実施例1と同様にして剥離フィルムを製造しようとした。しかしながら、帯電防止剤の粒子成分が析出して、均質な塗布液を得ることができなかったため、剥離フィルムを製造することを断念した。
【0112】
〔比較例5〕
熱硬化付加反応型シリコーン樹脂(信越化学工業社製,製品名「KS-847H」)100質量部をトルエンで希釈した後、さらに白金触媒(信越化学工業社製,製品名「CAT-PL-50T」)2質量部を添加・混合し、固形分濃度が1.5質量%である剥離剤組成物の塗布液を得た。
【0113】
得られた塗布液を、実施例1と同種の基材における第1の面上にバーコーターを用いて塗布し、得られた塗膜を125℃、30秒の条件で加熱して乾燥および硬化させ、剥離剤層を形成した。これにより、基材の片面上に剥離剤層が積層されてなる剥離フィルムを得た。
【0114】
なお、当該剥離フィルムの剥離剤層の厚さを、後述する試験例2に記載の通り測定したところ、0.07μmであった。
【0115】
〔試験例1〕(剥離剤組成物の相溶性の評価)
実施例1~16および比較例1~4で調製した剥離剤組成物の塗布液の透明性を、酸触媒(D)を添加する前後において目視で確認し、以下の基準にて、剥離剤組成物の相溶性を評価した。結果を表2に示す。
A…調製した塗布液が透明であった。
B…調製した塗布液が不透明であった。
C…析出物が確認され、混合しても塗布液が得られなかった。
【0116】
なお、本試験の評価において「C」の判定となった比較例4に係る剥離フィルムについては、析出物が剥離剤層に付着した状態となることが明らかであったため、本試験以降の試験(試験例2~11)は行わなかった。
【0117】
〔試験例2〕(剥離剤層の厚さの測定)
実施例1~16ならびに比較例1~3および5で得られた剥離フィルムの剥離剤層の厚さ(μm)を、分光エリプソメーター(J.A.Woollam社製,製品名「M-2000」)を使用して測定した。
【0118】
〔試験例3〕(剥離剤層の硬化性の評価)
実施例1~16ならびに比較例1~3および5で得られた剥離フィルムについて、メチルエチルケトンを含ませたウエス(小津産業社製,製品名「BEMCOT AP-2」)によって、剥離剤層の表面を荷重200g/cmで往復10回研磨した。その後、剥離面を目視で観察し、以下の判断基準により剥離剤層の硬化性を評価した。結果を表2に示す。
A…剥離剤層の溶解・脱落がなかった。
B…剥離剤層の一部溶解が見られた。
C…剥離剤層が完全に溶解し、基材から脱落した。
【0119】
〔試験例4〕(剥離面における表面自由エネルギーの測定)
実施例1~16ならびに比較例1および5で得られた剥離フィルムについて、剥離剤層の剥離面に対する各種液滴の接触角を測定し、その値をもとに北崎・畑理論により、表面自由エネルギー(mJ/m)を求めた。接触角は、接触角計(協和界面科学社製,製品名「DM-701」)を使用し、静滴法によってJIS R3257:1999に準じて測定した。液滴については、「分散成分」としてジヨードメタン、「双極子成分」として1-ブロモナフタレン、「水素結合成分」として蒸留水を使用した。結果を表2に示す。
【0120】
〔試験例5〕(剥離面の表面粗さの測定)
実施例1~16ならびに比較例1および5で得られた剥離フィルムの基材側の面を、両面テープでガラス板に固定した後、剥離面における算術平均粗さ(Ra;nm)および最大突起高さ(Rp;nm)を、光干渉式表面形状観察装置(Vecco社製,製品名「WYKO―1100」)を使用して、PSIモードにて50倍率の条件にて測定した。なお、測定は、RaおよびRpについてそれぞれ10回行い、その平均値を剥離面のRaおよびRpとした。結果を表2に示す。
【0121】
〔試験例6〕(繰り出し時の帯電性の評価)
実施例1~16ならびに比較例1および5で得られた剥離フィルムを用意するとともに、実施例1~16ならびに比較例1および5のそれぞれで使用された基材と同種のフィルム(以下「基材フィルム」という場合がある。)を用意した。
【0122】
また、金属製のガイドロールを備えた装置を用意した。当該装置のガイドロールは、床面との間に500mm(試験片長さ)以上のスペースをもって配置され、ロール軸が床面に対し平行であり、装置に対し回転せずロックされた構造とした。このガイドロールに、用意した基材フィルムの剥離剤を塗布する側の面をガイドロールに、塗布する側とは反対面を外側に向けて、ガイドロールのロール側面に接着固定した。
【0123】
一方、実施例および比較例で得られた剥離フィルムを、幅100mm、長さ500mmのサイズに裁断し、その長尺方向の一端に厚紙を貼り付けた後、当該厚紙部分に300gの重りを取り付けることで帯電性測定用の試験片を得た。そして、除電ブラシを用いて当該試験片の除電を行った後、静電気測定器(春日電機社製,製品名「KSD-1000」,測定モード:High)を用いて、上記試験片が帯電していない(-2kV~+2kVの範囲)ことを確認した。
【0124】
続いて、帯電していないことを確認した上記試験片を、重りを取り付けていない一端を手で把持しながら、基材フィルムに覆われたガイドロールに架け渡し、ガイドロールに対し試験片が回転しないよう試験片の一端を把持した手でバランスをとった。
【0125】
そして、重りが付いていない一端を手で床方向に引っ張ることで、300mm下降させ、重りが付いている側を300mm上昇させた。続いて、引っ張る力を緩めて、重りが付いている側を300mm下降させ、重りが付いていない側を300mm上昇させた。このような上昇下降をガイドロールに対し1往復行うことにより、試験片とフィルムとを摩擦させ、剥離フィルムの巻取りから剥離フィルムを繰り出す際の剥離で剥離帯電が生じる状態を模した。
【0126】
その後、ガイドロールから取り外した試験片の帯電量(kV)を、上記静電気測定器を用いて測定した。当該帯電量の値に基づいて、以下の基準で、繰り出し時の帯電性について評価した。結果を表2に示す。
A…帯電量の絶対値が、20kV以下であった。
B…帯電量の絶対値が、20kV超、25kV以下であった。
C…帯電量の絶対値が、25kV超であった。
【0127】
〔試験例7〕(スラリー塗工性の評価)
チタン酸バリウム粉末(BaTiO;堺化学工業社製,製品名「BT-03」,平均粒子径:300nm)100質量部と、バインダーとしてのポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業社製,製品名「エスレックB・K BM-2」)8質量部と、可塑剤としてのフタル酸ジオクチル(関東化学社製,製品名「フタル酸ジオクチル 鹿1級」)4質量部とを、トルエンおよびエタノールの混合液(質量比6:4)135質量部に添加し、ジルコニアビーズの存在下でボールミルにて混合して分散させた後、ビーズを除去することで、セラミックスラリーを調製した。
【0128】
実施例1~16ならびに比較例1および5で得られた剥離フィルムの剥離面に、上記セラミックスラリーを、ダイコーターを用いて幅250mm、長さ10mにわたって塗工した後、乾燥機にて80℃で1分間乾燥させた。これにより、剥離フィルム上に厚さ3μmのセラミックグリーンシートを成形した。
【0129】
続いて、上記のように得られたセラミックグリーンシートと剥離フィルムとの積層体について、剥離フィルム側から蛍光灯を照らして、セラミックグリーンシート両端部のハジキの程度を目視で確認し、以下の基準により、スラリー塗工性を評価した。結果を、「薄膜(3μm)」のセラミックグリーンシートの製造時におけるスラリー塗工性として表2に示す。
A…ハジキが確認されなかった。
B…僅か(0.5mm未満)なハジキが確認された。
C…0.5mm以上のハジキが確認された。
【0130】
また、セラミックスラリーの材料となるチタン酸バリウム粉末を、堺化学工業社製の製品名「BT-02」(平均粒子径:200nm)に変更するとともに、成形するセラミックグリーンシートの厚さを1μmに変更した以外は、上記と同様にスラリー塗工性を評価した。その結果も、「極薄(1μm)」のセラミックグリーンシートの製造時におけるスラリー塗工性として表2に示す。
【0131】
〔試験例8〕(セラミックグリーンシートに対する剥離力の測定)
試験例7と同じ手順により剥離フィルムの剥離面上にセラミックグリーンシートを成形した。得られたセラミックグリーンシートと剥離フィルムとの積層体を、23℃、50%RHの雰囲気下に24時間静置した後、20mm幅に裁断し、これを測定サンプルとした。
【0132】
当該測定サンプルの剥離剤層とは反対側の面を平板に固定し、引張試験機(島津製作所社製,製品名「AG-IS500N」)を用いて135°の剥離角度、300mm/分の剥離速度でセラミックグリーンシートから剥離シートを剥離し、剥離するのに必要な力(剥離力;mN/20mm)を測定した。結果を表2に示す。
【0133】
〔試験例9〕(ハンドリング性の評価)
実施例1~16ならびに比較例1および5で得られた剥離フィルムをロール状にする際のハンドリング性について評価した。具体的には、接触した剥離フィルム同士の滑り性、ロール状にする際の空気抜けの良さ、および剥離フィルムの巻きズレの生じ難さについて、以下の判断基準により評価した。結果を表2に示す。
A…接触した剥離フィルム同士の滑り性が良く、かつ剥離フィルムをロール状にするときの空気抜けが良く、剥離フィルムの巻きズレを防止できた。
B…接触した剥離フィルム同士の滑り性が若干悪く、かつ剥離フィルムをロール状に巻いたときの空気の抜けが若干悪く、巻きズレが若干生じるものの支障はなかった。
C…接触した剥離フィルム同士の滑り性が悪く、かつ剥離フィルムをロール状に巻いたときの空気の抜けが悪く、巻きズレが顕著に生じた。
【0134】
〔試験例10〕(ブロッキング性の評価)
実施例1~16ならびに比較例1および5で得られた剥離フィルムを、幅400mm、長さ5000mのロール状に巻き上げた。この剥離フィルムロールを23±5℃、湿度50±10%の環境下に30日間保管した。その後、剥離フィルムロールから剥離フィルムを繰り出そうとしたときの様子について、以下の判断基準によりブロッキング性を評価した。結果を表2に示す。
A…ブロッキングが全く発生しておらず、剥離フィルムを良好に繰り出すことができた。
B…ブロッキングが生じている傾向にあったものの、剥離フィルムを繰り出すことができた。
C…ブロッキングが生じていることにより、剥離フィルムを繰り出すことができなかった。
【0135】
なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[ポリオルガノシロキサン]
B1:両末端カルビノール変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業社製,製品名「KF-6000」,重量平均分子量:1429)
B2:両末端カルビノール変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業社製,製品名「KF-6001」,重量平均分子量:2396)
B3:両末端カルビノール変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業社製,製品名「KF-6002」,重量平均分子量:4586)
B4:側鎖カルビノール変性ポリジメチルシロキサン(信越化学工業社製,製品名「X-22-4039」,重量平均分子量:5254)
[アルコキシシラン加水分解重縮合物]
C1:コルコート社製,製品名「N-103X」
C2:コルコート社製,製品名「PS-903」
[ポリオール化合物]
E1:エチレングリコール(日本触媒社製,製品名「(モノ)エチレングリコール」,分子量:62)
E2:プロピレングリコール(三協化学社製,製品名「プロピレングリコール」,分子量:76)
[帯電防止剤]
F1:リチウム塩(三光化学工業社製,製品名「サンコノール TGR」)
F2:カリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(三菱マテリアル電子化成社製,製品名「EF-N112(K-TFSI)
F3:PEDOT-PSS系樹脂(中京油脂社製,製品名「S-495」)
【0136】
【表1】
【0137】
【表2】
【0138】
表2から明らかなように、実施例で得られた剥離フィルムでは、極薄(1μm)のセラミックグリーンシートを製造する場合であっても、優れたスラリー塗工性が得られることがわかった。また、実施例で得られた剥離フィルムは、帯電防止性、剥離剤層の硬化性、剥離面の平滑性(表面粗さ)、セラミックグリーンシートに対する剥離力、ハンドリング性および耐ブロッキング性についても、良好な性能を有することもわかった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明のセラミックグリーンシート製造工程用剥離フィルムは、セラミックグリーンシートを成形するのに好適である。