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特許7520840低いGWPを有するフッ素化化合物を使用して熱をバッテリーと交換するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】低いGWPを有するフッ素化化合物を使用して熱をバッテリーと交換するための方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20240716BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240716BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20240716BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240716BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20240716BHJP
【FI】
C09K5/10 E
H01M10/613
H01M10/615
H01M10/625
H01M10/653
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021534379
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 EP2019086211
(87)【国際公開番号】W WO2020127665
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】18214416.2
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アンテヌッチ, エマヌエーラ
(72)【発明者】
【氏名】ブラガンテ, レタンツィオ
(72)【発明者】
【氏名】カペリュシュコ, ヴァレーリー
(72)【発明者】
【氏名】ミッレファンティ, ステファノ
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-057240(JP,A)
【文献】特表2011-509507(JP,A)
【文献】特表2009-528415(JP,A)
【文献】特表2012-503692(JP,A)
【文献】特表平11-513738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0331325(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/10
H01M10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱をバッテリーと交換するための方法であって、伝熱流体の使用を含み、前記伝熱流体は、一般式:
Ph(OR (I)
(式中、Phは、1つ又は複数のエーテル基-ORに連結された芳香環であり、
各-Rは、
- 少なくとも1つのC-F結合を含む一価フッ素化アルキル基であり、
- 直鎖であり得るか、又は分岐及び/若しくは環を含み得、且つ任意選択的にO、N又はSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含み得る炭素鎖を有し、Xは1~6から選択される整数であり、X>1であるとき、同じ分子上の-R基は、互いに等しいか又は異なり得る)
を有する1つ又は複数の化合物を含む、方法。
【請求項2】
前記バッテリーは、車両のバッテリーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バッテリーは、再充電可能なバッテリーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記バッテリーは、リチウムイオンバッテリーである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
一般式(I)を有する前記化合物において、xは、1、2、3及び4から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
一般式(I)を有する前記化合物において、同じ分子上の複数のR基は、互いに等しい、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
一般式(I)を有する前記化合物において、各R基は、少なくとも1つのC-H結合を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
一般式(I)を有する前記化合物において、各R基は、正確に1つのC-H結合を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
一般式(I)を有する前記化合物において、各R基は、2位の炭素原子において正確に1つのC-H結合を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
一般式(I)の前記1つ又は複数の化合物は、前記伝熱流体の少なくとも5重量%を占める、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1つ又は複数の化合物は、
1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,4-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,3-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,3-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,2-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,2-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,2-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,3-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,4-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、及び
これらの混合物
から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記伝熱流体は、30未満の、HodnebrogらにおいてReview of Gephisics,51/2013,p300-378で報告された方法に従って決定されるGWP100を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
バッテリーと、前記バッテリーのための熱管理システムであって、熱を前記バッテリーと交換する伝熱流体を含む熱管理システムとを含む装置であって、前記伝熱流体は、一般式:
Ph(OR (I)
(式中、Phは、1つ又は複数のエーテル基-ORfに連結された芳香環であり、
各-Rfは、
- 少なくとも1つのC-F結合を含む一価フッ素化アルキル基であり、
- 直鎖であり得るか、又は分岐及び/若しくは環を含み得、且つ任意選択的にO、N又はSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含み得る炭素鎖を有し、
Xは1~6から選択される整数であり、X>1であるとき、同じ分子上の-Rf基は、互いに等しいか又は異なり得る)
を有する1つ又は複数の化合物を含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年12月20日出願の欧州特許出願公開第18214416.2号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全体的な内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、低いGWPを有する選択されたフッ素化化合物を伝熱流体として含む組成物を使用して熱をバッテリーと交換するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
高電力及び/又は高容量の再充電可能なバッテリーは、最近、業界において注目を集めている。新規の且つより強力なモデルが絶えず開発され、これまで従来の燃料又はグリッド電気のみを使用することができた用途、例えば電力コンピューティング、電動工具及び動力車両においてのそれらの使用を可能にしている。特に、車両部門は、電気モデル及びハイブリッドモデルの大規模投資の対象であり、新規の且つより強力なバッテリーの開発を特に推進している。
【0004】
最近、全業界において、再充電可能なバッテリーの分野での開発の大部分は、異なるタイプのリチウム塩をベースとするリチウムイオン系バッテリーに焦点を当てている。リチウムマンガン酸化物、リチウム鉄リン酸塩及びリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物をベースとするバッテリーは、例えば、車両、電動工具、電動自転車等に応用されている。リチウムコバルト酸化物をベースとするバッテリーは、典型的には、携帯電話、ポータブルコンピュータ及びカメラなど、より小さいサイズであり、且つそれほど集約的でない用途において使用される。リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物及びリチウムチタン酸塩をベースとするバッテリーは、電動パワートレイン及びグリッドストレージなど、高い電力及び/又は容量を必要とする用途において検討されている。当然のことながら、リチウムイオン系バッテリーの領域外の新技術も探求されており、絶えず開発されている。本発明は、特定のバッテリー技術に関連付けられておらず、現在及び次世代の両方のバッテリーシステムに適用可能である。
【0005】
従来の電力システムと異なり、バッテリー及び特に再充電可能なバッテリーは、それらの運転環境のための厳しい要件を有する。バッテリーは、比較的狭い温度範囲内の最良の条件で動作する傾向がある。他方では、バッテリーの実際の適用は、はるかにより広い温度範囲でそれらが効率的であることを必要とする。例えば、車両のバッテリーは、人々がそれらを使用することが予想される任意の環境において適切に機能する必要があり、そのため、それらは、-20℃~+40℃以上の温度範囲において動作する必要がある。それに加えて、バッテリーの充電及び放電サイクルは、バッテリー自体において熱を生成し得、バッテリーを許容範囲の温度範囲内に維持することをより一層難しくする。
【0006】
この理由のため、特にバッテリーの安全性、信頼性及び寿命が重要な関心の対象であるとき、バッテリー熱管理システム(BTMS)を商用バッテリー組立体内に組み込むことが現在では通例である。これらのBTMSは、バッテリーのタイプに応じて、程度の差はあっても複雑であり得るが、しかしながら、1つの共通の要素は、バッテリーと熱を交換し、したがってそれを加熱又は冷却するガス又は液体などの伝熱流体の存在である。
【0007】
伝熱流体を使用して、1つの物体から別の物体、典型的に熱源から放熱子に熱を移動させ、熱源の冷却、放熱子の加熱をもたらすか、又は熱源によって生成される望ましくない熱を取り除く。伝熱流体は、熱源及び放熱子との間の熱経路を提供し、それは、熱流を改良するためのループシステム又は他の流れシステムによって循環され得るか、又はそれは、熱源及び放熱子と直接接触し得る。より簡単なシステムは、伝熱流体として単に空気流を使用し、より複雑なシステムは、システムの一部分で加熱又は冷却され、次いでバッテリーと熱接触して供給されて熱をそれと交換する特別に設計されたガス又は液体を使用する。
【0008】
様々な用途において工業的に使用される様々な伝熱流体が存在するが、しかしながら、適切な流体の選択がいくつかの用途において重要であり得る。過去において一般的に使用された伝熱流体のいくつかは、それらの毒性(アンモニア、エチレングリコール)のためにもはや実用的でなく、他には生分解性でないため及び/又は地球のオゾン層に対して有害であり、且つ/若しくは環境中に分散される場合に温室効果ガスとして作用すると考えられるため、それらの環境プロファイルのために段階的に排除されたものもある。
【0009】
フッ素化液体流体は、非常に有効な伝熱流体である。SolvayのGalden及び3MのFluorinertなどの商品が存在する。これらは、誘電性、高い熱容量、低粘度を有し、且つ無毒で化学的に不活性であるため、バッテリーの材料ともそのエレクトロニクスとも相互作用しない液体ポリマーである。これまで使用されたこれらのフッ素化流体に伴う欠点は、それらの高いGWP値である。
【0010】
GWP(地球温暖化係数)は、与えられた温室効果ガスが大気中に閉じ込める熱量を示す、与えられた化合物について決定され得る特性であり(COの基準値を「1」とする)、特定の時間間隔、典型的には100年について計算される(GWP100)。
【0011】
GWP100の決定は、特殊な計算ツールを使用して、化合物の大気寿命に関する実験データとその放射効率とを組み合わせることによって行われ、それは、当技術分野において標準であり、例えばHodnebrogらによってReview of Gephisics,51/2013,p300-378で公開された包括的な検討に記載されている。CF及びクロロ/フルオロアルカンなどの非常に安定なハロゲン化分子は、非常に高いGWP100を有する(CFについて7350、CFC-11について4500)。
【0012】
長年にわたり、GWPの高い値を有する伝熱流体(例えば、空調装置において使用されるクロロ/フルオロアルカンなど)は、工業において段階的に排除されており、より低いGWP100値を有する化合物に取って代わられ、可能な限り低いGWP100値を有する伝熱流体に絶えざる関心が依然として注がれている。
【0013】
ハイドロフルオロエーテル、特に凝離されたハイドロフルオロエーテルは、比較的低いGWP100値を有する傾向があるが、他方では、それらの特性の他のものは、過去において使用されたCFCの特性と比較され得、この理由のため、いくつかのハイドロフルオロエーテルは、伝熱流体として工業的に使用されて好評を得ており、例えば3Mによって商品名「Novec(登録商標)」として市販されている。
【0014】
ハイドロフルオロエーテルは、概して、それらが液体であるそれらの広い温度範囲のため、且つ粘度が運転温度で高すぎるべきではない二次ループ冷却システムにおいて使用するための低温二次冷媒としての用途にそれらを有用にする広い温度範囲でそれらが低粘度であるため、熱伝達媒体として説明されている。
【0015】
フッ素化エーテルは、例えば、米国特許第5713211号明細書において3Mにより、米国特許出願公開第2007/0187639号明細書においてDupontにより、且つ国際公開第2007/099055号パンフレット及び国際公開第2010034698号パンフレットにおいてSolvay Solexisにより説明されている。
【0016】
しかしながら、米国特許第5713211号明細書に示されるように、凝離されたハイドロフルオロエーテルのGWP100は、CFCよりもはるかに低いが、依然として70~500の範囲である(表5)。
【0017】
【0018】
他のヒドロフルオロ-オレフィンは、例えば、Chemours(Opteon(商標))及びHoneywell(Solstice(商標))により、伝熱流体として商業化されている。これらの化合物は、約1の非常に低いGWPを有するが、前に言及された化合物と異なり、はるかに燃焼性であり、このため、これは、それらの使用分野を制限する。
【0019】
したがって、熱を、良好な誘電特性を有し、広範囲の温度で液体であり、不燃性であり、且つ非常に低いGWP100(30以下)を有する、バッテリーと交換するためのBTMSにおいて使用するための有効な伝熱流体が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0020】
本発明は、熱をバッテリーと交換するための方法であって、伝熱流体の使用を含み、伝熱流体は、一般式:
Ph(OR (I)
(式中、Phは、1つ又は複数のエーテル基-ORに連結された芳香環であり、各-Rは、少なくとも1つのC-F結合を含む一価フッ素化アルキル基であり、直鎖であり得るか、又は分岐及び/若しくは環を含み得、且つ任意選択的にO、N又はSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含み得る炭素鎖を有し、X>1であるとき、同じ分子上の-R基は、互いに等しいか又は異なり得る)
を有する1つ又は複数の化合物を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上記のとおり、再充電可能なバッテリーは、比較的狭い温度範囲内の最適な条件で動作する。一般的に、低い温度は、バッテリーの化学的特性に影響を与え、反応速度を緩慢にし、したがって充電又は放電時に電気の流れを低下させる。高い温度は、反応速度を増加させると共に、同時にまたエネルギー散逸を増加させ、したがってさらに一層過剰な熱を生成し、場合により温度の制御されていない上昇を引き起こし、セルに対して不可逆的な損傷をもたらし得る。典型的なLiイオンバッテリーについて、その構造物の一部のみでも80℃を超える温度は、バッテリーのさらなる温度上昇を引き起こす発熱化学反応を開始し得、最終的にバッテリーの完全な破壊をもたらし、火災及び爆発の危険がある。
【0022】
これらの理由のため、バッテリーの運転温度を明確に定義された温度限界内で制御して、安全な運転、より長い寿命及び最適な性能を確実にすることが非常に重要である。典型的なLiイオンバッテリーの表示数字は、使用可能な範囲が通常-20℃~60℃であるが、良好な電力出力が0℃~40℃で得られるにすぎず、ここで、最適な性能は、20℃~40℃で得られるにすぎないことを示す。また、温度は、バッテリーの持続時間に影響を与え、すなわち、消耗したと考えられるまでバッテリーが耐えることができる充電/放電サイクル数は、10℃未満においてアノードめっきのために、且つ60℃超において電極材料の劣化のために急速に低下する。最適な性能のための温度範囲は、異なるバッテリー化学及び構造のために異なり得るが、しかしながら、全ての現在の商用バッテリーは、それらの性能が最適である比較的狭い温度領域を共有する。バッテリー全体は、その寿命及び安全性を低下させ得るため、高温又は低温領域を有さずに同じ温度に均一に保持されることを確実にすることが一般的に同じく重要である。
【0023】
したがって、バッテリー熱管理システム(BTMS)は、車両のバッテリーなど、高い電力及び高い信頼性を必要とする用途において特に非常に重要である。BTMSは、用途に応じて、程度の差はあっても複雑であり得るが、各々のBTMSは、バッテリーと熱を交換する伝熱流体を典型的に使用して、その温度が非常に高い場合にバッテリーを冷却する機能を、その温度が非常に低い場合にバッテリーを加熱する機能を少なくとも有する。BTMSの他の一般的な特徴は、バッテリー温度への外部環境の影響を低減するための絶縁システム及びバッテリーパック内に生じ得る危険ガスを散逸させることを促進する換気システムである。しかしながら、本発明の方法は、具体的には、BTMSの熱交換機能に関し、任意のBTMSに容易に適用され得、他の機能及び特徴を組み込むことができる。
【0024】
液体は、より大きい熱量をガスよりも急速に移動させることができるため、液体を伝熱流体として使用するBTMSが一般的である。典型的には、流体は、バッテリー並びに流体を所望の温度に加熱及び/又は冷却する機能を有する第2のシステムと熱接触している密閉システム内でポンプによって循環される。この第2のシステムは、冷却システムと加熱システムとの任意の組合せを含むことができるか、又はヒートポンプ内で加熱機能と冷却機能とを組み合わせることができる。循環流体は、熱をバッテリーから吸収するか又は熱をバッテリーに放出し、次いで、それは、前記第2のシステム内で循環され、流体を所望の温度に戻す。流体のその温度と、各瞬間の流体の温度を最適化するバッテリーの温度とを制御する、程度の差はあるが、精巧な制御システムが存在し得る。
【0025】
いくつかのシステムにおいて、システム内で循環される流体は、したがって、その中に浸漬されるバッテリーセルと直接接触することができる。これらの場合、明らかに、流体は、バッテリーセル及びそれらの電子部品を保護するために誘電性でなければならない。他の場合伝熱流体は、例えば、金属又は他の熱伝導性材料から製造される熱交換プレートによる間接的接触によって単に熱を交換する別個の密閉システム内で循環される。密閉システムは、いずれにしても漏れの危険が高いため、誘電性流体は、このタイプのシステム内でも有利であり得る。
【0026】
序論で言及したように、この分野で使用される誘電性流体には、フッ素化化合物が含まれる。特に、ハイドロフルオロエーテルは、それらの化学的不活性、誘電性、それらが液体である広範囲のT及びポンプ移送可能性(使用温度で1~50cpsの粘度を典型的に有する)、低い燃焼性及び比較的低いGWPのため、この分野において用途に供されている。
【0027】
この分野において使用するための市販のハイドロフルオロエーテルは、例えば、全てのこれらの特性を約70~300の比較的低いGWP100と組み合わせる3MのNovec(商標)シリーズのハイドロフルオロエーテルである。
【0028】
さらに、GWPは、特に、自動車などの規制の厳しい業界において今日では重要な特性である。これらの業界において、国際規制は、全体として車両の環境影響を考慮する傾向があり、当時の商業化されたハイドロフルオロエーテルよりもさらに低いGWPを有するBTMSにおいて使用され得る新規な流体を開発する必要性が常にある。
【0029】
本発明は、すなわち、熱をバッテリーと交換するための方法であって、伝熱流体の使用を含み、伝熱流体は、一般式:
Ph(OR (I)
(式中、Phは、1つ又は複数のエーテル基-ORに連結された芳香環であり、各-Rは、少なくとも1つのC-F結合を含む一価フッ素化アルキル基であり、直鎖であり得るか、又は分岐及び/若しくは環を含み得、且つ任意選択的にO、N又はSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含み得る炭素鎖を有し、X>1であるとき、同じ分子上の-R基は、互いに等しいか又は異なり得る)
を有する1つ又は複数の化合物を含む、方法に関する。
【0030】
本発明の方法において使用される伝熱流体は、難燃性であり、効率的な熱伝達を提供し、広い温度範囲にわたって使用され得、伝熱流体として商業化された他のハイドロフルオロエーテルに対して等しい又は改良された誘電特性を有することを本出願人は驚くべきことに見出した。驚くべきことに、本発明において使用される伝熱流体は、実験の項において以下に示されるように、一般的に10未満及びいくつかの材料についてさらに2未満の極度に低いGWP100を有する。これは、特に予想外の結果であり、すなわち、例えば、上に引用されたHodnebrogらの先行の検討は、低GWPの化合物としてフッ素化芳香族エーテル化合物を調査又は提案しなかった。
【0031】
したがって、一般式(I)によるこれらの選択された化合物を使用して、30未満、好ましくは10未満、さらにより好ましくは5未満のGWP100値を有する伝熱流体を調合することができる。本発明による伝熱流体は、低い毒性も有し、約-100℃~約200℃の広い範囲で液体状態において存在し、全範囲にわたって良好な熱伝達特性及び比較的低い粘度を示す。また、本発明の流体は、良好な電気的な適合性を有し、すなわち、それらは、非腐蝕性であり、高い耐電圧、高い体積抵抗率及び極性材料に対する低い溶解力を有する。本発明の流体の電気的特性は、回路と直接接触するエレクトロニクスのための浸漬冷却システムにおいて、且つループ及び/又は伝導性プレートを使用する間接的接触の用途において使用できるような特性である。
【0032】
考慮するべき別の重要な要因は、バッテリーのための熱伝達システムが、伝熱流体が分配される設計及び方法において非常に様々であるが、熱をバッテリーと交換しなければならず、且つ次いでポンプで送られて、伝熱流体の温度を制御するシステムの外部の、熱交換器に再循環される伝熱流体を一般的に必要とすることである。多数のパラメーターは、熱を交換する流体の容量に影響を与える。40℃及び1atm(101325Pa)圧力で3~100のプラントル数を有する伝熱流体を使用することにより、システムの最適な性能及びエネルギー効率を得ることができることが見出された。好ましくは、本発明の方法において使用される伝熱流体は、40℃及び1atm圧力で20~90、より好ましくは30~80及びさらにより好ましくは40~70のプラントル数を有する。
【0033】
プラントル数(Pr)は、
(式中、
=比熱J/kg*Kであり、
μ=動的粘度N*s/mであり、
k=熱伝導性W/mKである)
として定義される無次元数である。
【0034】
プラントル数は、与えられた温度(T)及び圧力(P)条件における与えられた流体について、熱伝導及び熱対流のなかでいずれが優勢な現象であるかを示す。1より小さいプラントル数は、伝導が対流よりも著しいことを示す一方、1よりも大きいプラントル数は、対流が伝導よりも著しいことを示す。プラントル数は、一般的に、流体の製造元によって提供される伝熱流体の特性表に見出される。
【0035】
好ましくは、本発明の一般式(I)による化合物は、1、2、3又は4から選択されるxの値を有し、より好ましくは、xは、2及び3から選択され、さらにより好ましくはx=2である。各Rは、直鎖であり得るか、又は分岐及び/若しくは環を含む、好ましくはC~C10、より好ましくはC~C炭素鎖を有する。炭素鎖は、任意選択的に、O、N又はSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含み得、鎖中にヘテロ原子が存在する場合、ヘテロ原子がOであることが好ましい。
【0036】
上記のとおり、各R基は、少なくとも1つのC-F結合を含まなければならない。好ましくは、各R基は、少なくとも1つのC-H結合も含まなければならない。より好ましくは、各Rは、1つの単一C-H結合を有するフッ素化アルキル基であり、さらにより好ましくは、前記単一C-H結合は、炭素鎖の2位の炭素原子上にある。
【0037】
Ph環の6個のC原子のうち、xは、-OR基に結合しており、(6-x)は、任意のタイプの置換基に結合し得、好ましくは、それらは、H原子又はF原子、より好ましくはH原子に結合している。
【0038】
本発明の方法において使用するための式(I)による化合物は、一価又は多価フェノールをフッ素化オレフィン、好ましくは完全フッ素化オレフィンと反応させることによって容易に調製され得る。Ph-OH基は、C=C二重結合に付加し、H原子は、2位のC原子上に付加する。得られた化合物は、このように、ハイドロフルオロエーテルである。このハイドロフルオロエーテルは、パーフルオロエーテルにさらにフッ素化され得るが、既述のように、好ましくはハイドロフルオロエーテルとして使用される。
【0039】
本明細書で使用するための好ましい一価及び多価フェノールは、フェノール、ヒドロキノン、レゾルシノール及びカテコールである。本明細書で使用するための好ましいフッ素化オレフィンは、テトラフルオロエチレン、ヘキサフロオロプロピレン及びパーフルオロビニルエーテル、例えばフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル及びパーフルオロプロピルビニルエーテルである。
【0040】
上記の一般式によって包含される化合物のなかで最も好ましい化合物は、
式:
の1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン、式:
の1,4-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン及びそれらの対応するオルト及びメタ異性体、
1,3-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,3-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,2-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,2-ビス(2-トリフルオロメチル-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、及び
パーフルオロメチルビニルエーテルとカテコール、レゾルシノール及びヒドロキノンとの対応する誘導体:
1,2-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,3-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン、
1,4-ビス(2-トリフルオロメトキシ-1,1,2-トリフルオロエトキシ)ベンゼン
である。
【0041】
本発明の方法において使用するための伝熱流体は、好ましくは、上記の式(I)による1つ又は複数の化合物5%超、より好ましくは50%超、さらにより好ましくは90%超を含む。一実施形態において、伝熱流体は、上記の一般式による1つ又は複数の化合物から完全に製造される。
【0042】
いくつかの実施形態において、本発明の伝熱流体は、式(I)による化合物のブレンドを含む。ブレンドは、より大きい温度範囲で液体である流体を提供するのに有利であり得る。好ましいブレンドは、芳香環の異なる位置に同じ置換基を有する少なくとも2つの異なる異性体を含むブレンドである。
【0043】
全ての実施形態において、熱交換流体は、CFC及び1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1-ジフルオロメタン、1,1,1,2,2,ペンタフルオロエタンなどのフルオロアルカンを本質的に含有しないことが好ましい。これらの材料は、高いGWP100を有し、少量でも、式(I)によるその主成分よりも熱交換流体のGWP100に寄与する。
【0044】
「本質的に含有しない」とは、本発明における熱交換流体が、与えられた成分を5%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.1%未満で含むことを意味する(全てのパーセンテージは、熱交換流体の全量の重量パーセントとして表される)。
【0045】
本発明の方法は、したがって、熱管理システムを必要とする任意のバッテリーに適用され得る。特に重要な用途は、自動車、列車、トラム、航空機等の車両のバッテリーである。上記のとおり、本発明の方法は、再充電可能なバッテリー及び非再充電可能なバッテリーなど、任意のタイプのバッテリー技術にも適用され得る。方法は、再充電可能なバッテリー、特にLiイオンバッテリーに特に有利である。
【0046】
別の態様において本発明は、バッテリー、好ましくは再充電可能なバッテリーと、前記バッテリーのための熱管理システムであって、熱を前記バッテリーと交換する伝熱流体を含む熱管理システムとを含む装置であって、前記伝熱流体は、一般式:
Ph(OR (I)
(式中、Phは、1つ又は複数のエーテル基-ORfに連結された芳香環であり、
各-Rfは、
- 少なくとも1つのC-F結合を含む一価フッ素化アルキル基であり、
- 直鎖であり得るか、又は分岐及び/若しくは環を含み得、且つ任意選択的にO、N又はSから選択されるヘテロ原子を鎖中に含み得る炭素鎖、好ましくはC1~C10炭素鎖を有し、
X>1であるとき、同じ分子上の-Rf基は、互いに等しいか又は異なり得る)
を有する1つ又は複数の化合物を含む、装置にも関する。
【0047】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0048】
ここで、以下の実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、その目的は、例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
使用される原材料
ヒドロキノン、KOH、アセトニトリルは、全てSigma Aldrichから入手された。テトラフルオロエチレンは、Solvayから入手された。Novec(商標)7000、7100及び7200は、3M製の市販のハイドロフルオロエーテルである。
【0050】
標準:
電気的特性の測定は、以下の標準に従って行われた。
体積抵抗率 - ASTM D5682-08[2012]
耐電圧 - ASTM D877/D877M-13
誘電率 - ASTM D924-15
【実施例
【0051】
1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン(HFE1,4)の合成:
600mL鋼オートクレーブ内に60,0gのヒドロキノン、16gのKOH及び360mLのアセトニトリルを入れた。オートクレーブを窒素で4回パージし、適度の真空(0.2bar)に引いた。混合物を30分間70℃で激しく撹拌し、次いでテトラフルオロエチレンを6時間で10barまで徐々に導入した。反応器を合計20時間にわたって撹拌したままにし、次いでそれを冷却し、テトラフルオロエチレン圧力を解除した。次に、その内容物を窒素で4回パージした。テトラフルオロエチレンの消費量は、110gであった。468gの混合物を反応器から取り出した。この混合物をセパレーター漏斗内で1,5Lの水で希釈し、塩酸で中和した。底部の有機層を0,5Lの水で2回洗浄し、次いで最後に上部水層から分離し、MgSO上で乾燥させ、濾過し、15mbarの減圧にて94℃で蒸留した。150gの高純度1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼンが得られた。
【0052】
HFE1,4のGWP100は、3500~500cm-1領域の赤外線スペクトルの積分吸収断面積、OHラジカルとの反応の速度論を測定する工程と、結果としての大気寿命及び放射強制効率を計算する工程とにより、確立した手順に従ってオスロ大学で決定された。これらの測定の結果として1.8のGWP100が得られた。
GWP100に関するHFE1,4データ:
3500~500cm-1の積分吸収断面積:
53.6cm分子-1cm-1
放射強制効率(calc)=0.165Wm-2
OHラジカルの速度論kHFE1,4+OH=298Kで2×10-13cm分子-1-1
HFE1,4の大気寿命=2ヶ月
GWP100=1.8
【0053】
他の市販のハイドロフルオロエーテルと比較したHFE1,4の電気的及び熱的特性:
【0054】
【0055】
本発明による化合物の他の物理的特性:
1,4-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン(HFE1,4)
1,3-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン(HFE1,3)
1,2-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)ベンゼン(HFE1,2)
【0056】
【0057】
結果は、本発明の化合物が、同様の目的のために使用される既存の商用流体と比較したとき、全体に等しいか又は改良された特性を有し、より低いGWPを有することを示す。これらの化合物を含む伝熱流体は、したがって、熱管理システムを必要とする任意のバッテリーシステムに適用され得る本発明の方法において使用され得る。それらの誘電特性のため、選択された化合物は、バッテリーセル及びそれらのエレクトロニクスと直接接触させておくことができる。しかしながら、本発明の方法は、熱伝導性要素によってバッテリーと熱的接触している密閉システム内に流体があるBTMSにおいても適用され得る。