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特許7520869薄膜堆積用の固体前駆体フィードシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-12
(45)【発行日】2024-07-23
(54)【発明の名称】薄膜堆積用の固体前駆体フィードシステム
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/448 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
C23C16/448
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021555059
(86)(22)【出願日】2019-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 US2019068194
(87)【国際公開番号】W WO2020185284
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】62/817,909
(32)【優先日】2019-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】523432771
【氏名又は名称】メトオックス インターナショナル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ノボジーロフ,ミハイル
(72)【発明者】
【氏名】イグナティエフ,アレックス
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/002030(WO,A1)
【文献】特表2002-543589(JP,A)
【文献】特開2016-182540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/448
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜を堆積するための前駆体粉末フィードシステムであって、
前駆体粉末を収容するための真空下に維持された粉末容器と、
前記粉末容器の外側に配置され、前記粉末容器を再ロードするための圧力隔絶チャンバを含むロードロックアセンブリであって、複数のガス制御バルブおよびゲートバルブが、前記ロードロックアセンブリを前記粉末容器から圧力的に隔絶して、前記フィードシステムが継続的に動作する間、粉末前駆体の追加を提供し、流量制御オリフィスは前記ロードロックアセンブリと前記粉末容器の間の圧力を平衡化する、ロードロックアセンブリと、
前記粉末容器に結合され、前記粉末容器内の前駆体粉末の連続質量データを提供するように構成されたスケールと、
前記粉末容器に結合され、前記粉末容器から粉末を受け取るように構成された機械的に駆動される粉末フィーダと、
前記粉末フィーダから前記粉末を受け取り、前記粉末を蒸発させるように構成された蒸発器と
を含むシステム。
【請求項2】
前記粉末容器内に配置され、粉末の混合および分散を提供するように構成されたモータ駆動型攪拌機をさらに含む、請求項に記載のシステム。
【請求項3】
前記蒸発器が出口スクリーンをさらに含む、請求項に記載のシステム。
【請求項4】
前記粉末フィーダがフィードスクリューである、請求項に記載のシステム。
【請求項5】
不活性キャリアガスを注入するようにさらに構成された、請求項に記載のシステム。
【請求項6】
前記スケールからの前記連続質量データに基づいて前記蒸発器に目標前駆体粉末フィード量を送達するために前記粉末フィーダを制御するように構成されたデータ処理装置を備えたPIDコントローラを有する制御システムをさらに含む、請求項に記載のシステム。
【請求項7】
前記ロードロックアセンブリの前記複数のガス制御バルブの少なくとも1つを制御するように構成されたデータ処理装置を備えたPIDコントローラを有する制御システムをさらに含む、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
前記スケールからの前記連続質量データに基づいて前記蒸発器に目標前駆体粉末フィード量を送達するために前記ロードロックアセンブリの前記複数のガス制御バルブの少なくとも1つおよび前記粉末フィーダを制御するように構成されたデータ処理装置を備えたPIDコントローラを有する制御システムをさらに含む、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記前駆体粉末が複数種の薄膜成分から構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項10】
高温超伝導体を製造するための方法であって、
真空条件下で動作し、高温超伝導体薄膜を堆積するように構成された反応器堆積チャンバを含む蒸着反応器を提供すること、
真空下に維持され、スケールおよび機械的に駆動される粉末フィーダに結合された粉末容器に前駆体粉末の最初の装填材料をロードし、前記スケールは前記粉末容器内の前駆体粉末の連続質量データを提供するように構成されている、ロードすること、
ロードロックアセンブリを前記粉末容器に結合することであって、前記ロードロックアセンブリは前記粉末容器の外側に配置され、前記粉末容器を再ロードするための圧力隔絶チャンバを含み、複数のガス制御バルブおよびゲートバルブが前記ロードロックアセンブリを前記粉末容器から圧力的に隔絶し、流量制御オリフィスが前記ロードロックアセンブリと前記粉末容器との間の圧力を平衡化する、結合すること、
前記粉末フィーダと前記反応器堆積チャンバとの間に蒸発器を結合すること、
前記反応器堆積チャンバに基板を導入すること、
前記粉末容器内の前駆体粉末容器重量を監視すること、
前記蒸発器へ目標前駆体粉末フィード量を提供するために前記粉末容器重量に基づいて前記粉末フィーダを制御すること、
前記前駆体粉末を蒸発させ、蒸発した前駆体を前記反応器に運び、前記基板上に薄膜として堆積させること、および
前記反応器が真空下で連続的に作動している間に、前記ロードロックアセンブリを介して粉末前駆体を前記粉末容器に再装填すること、
を含む方法。
【請求項11】
前記反応器が光支援金属有機化学気相成長法(PAMOCVD)反応器である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記粉末フィーダがフィードスクリューである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記堆積された薄膜が1.0μm/分以上の成長速度を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記高温超伝導体の超伝導体層が、2以上の4K、20T(Ic(4K、20T)/Ic(77K、自己磁場))におけるリフトファクタをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記高温超伝導体の超伝導体層が、3以上の4K、20T(Ic(4K、20T)/Ic(77K、自己磁場))におけるリフトファクタをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記粉末前駆体が複数種の薄膜成分から構成される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、「高性能REBCOテープのMOCVD用粉末供給蒸気源」として2019年3月13日に提出された米国仮特許出願第62/817,909号の優先権および利益を主張し、その内容は参照により本明細書に完全な形で組み込まれる。
【0002】
本明細書に開示される主題の実施形態は、概して粉末材料を蒸着反応器に供給するためのシステムおよび方法に関し、より具体的には、固体前駆体材料から高温超伝導体を製造するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
蒸着処理、特にMOCVD処理による高温超伝導体製造では、正確かつ厳密に制御された量の前駆体材料を反応器堆積チャンバに正確に送達する必要がある。酸化物超伝導体堆積用の最も一般的なMOCVD前駆体は、室温では低蒸気圧の固体であり、蒸発を達成するために通常約150~300℃の範囲の高温を必要とする。前駆体蒸気を生成するための初期のアプローチは、溶解または懸濁した固体前駆体を用いるバブラーを使用したが、使用が困難であり、長期間高温にさらされる必要があり、それが化合物の分解を引き起こし、非常に変動し予測できない蒸気供給速度に悩まされた。
【0004】
フラッシュ蒸発アプローチによって生成された前駆体蒸気を使用する酸化物超伝導体MOCVD処理は、1990年代初頭に始まった。フラッシュ蒸発される場合、前駆体材料の大部分が室温に保たれ、これによりその特性が維持され、バルク材料のごく一部が順次蒸発される。歴史的に、フラッシュ蒸発アプローチの最初の実践はエアロゾルMOCVD蒸気源であった[Langlet 1989]。1種または複数種の前駆体粉末を有機溶媒に溶解し、この溶液を噴霧してエアロゾルの形態で加熱蒸発器に供給した。この溶液ベースのアプローチは、その後、液体溶液を蒸発器に直接注入することによって改善された[Felten 1995]。この技術は現在、第2世代(2G)高温超伝導体(HTS)ワイヤの製造に商業的に使用されているが、多くの欠点に悩まされている。第1に、蒸発および送達システム内における前駆体の凝縮は、ファウリング、詰まり、および反応ゾーンへの可変送達、ならびに高価な前駆体材料の損失につながる可能性がある。これらの問題を回避するために、通常、CVD送達システム全体を絶縁し、ヒートテープまたはその他の手段で加熱する必要がある。さらに、前駆体蒸気とともに生成される大量の溶媒蒸気は、特にREBCO(後述)タイプの超伝導体の場合、堆積プロセスにおいて潜在的な問題であることが知られている。
【0005】
したがって、溶媒フリーの乾燥MOCVD蒸気源のいくつかの実装が何年にもわたって開発された:バンドフラッシュ蒸発源[Kaul 1993;Klippe 1995];振動フィーダに基づく固体源[Samoylenkov 1996];グラインダーフィーダに基づく固体源[Hubertら、米国特許第5,820,678号];および容積フィードスクリュータイプのフィーダに基づく固体源[Eils 2011]。一方、他の人々は、容積式フィーダの性能をさらに向上するために、粉末供給を機械的に計量するアプローチを開発した[例えば、Longら、米国特許第8,101,235号]。これらの固体源アプローチには、独自の欠点がある。例えば、粒子の自己分離、粉末ホッパ内での粉末の渦化、およびその他の障害は、制御および予測が困難な非常に変動する粉末フィード量の原因となる可能性がある。
【0006】
高温超伝導体薄膜のテクスチャ、成長速度、および最終的な導体の性能特性は、前駆体フィードシステムに関連する要因に特に敏感である。液体窒素温度(77K)で超伝導特性を持つ材料には、高温超伝導体(HTS)と呼ばれる酸化物ベースの超伝導体のグループの1つとしてYBaCu7-x(YBCO)が含まれる。高温超伝導体は、液体ヘリウム温度(4.2K)で動作する従来の超伝導体と比較して、より高い動作温度で超伝導体構成要素を開発する可能性を提供する。より高い温度で動作する超伝導体は、超伝導体構成要素および製品をより経済的に開発する能力を可能にする。YBCO超伝導体が最初に発見された後、同様の化学的組成を有するが、Yが他の希土類(RE)元素に置き換えられた他の超伝導体が発見された。この系統の超伝導体は、REBCOと呼ばれることが多く、REにはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、またはLuが含まれ得る。
【0007】
有機金属化学気相成長法(MOCVD)、パルスレーザ蒸着(PLD)、反応性共蒸着(RCE)、および有機金属気相成長法(MOD)を含め、REBCOワイヤの製造におけるREBCOタイプ薄膜の蒸着法はいくつかある。物理蒸着(PVD)技術のカテゴリー内の多くの方法は、一般に低い成長速度、高真空の要件、継続的なソース交換の必要性、適度なエリアカバレッジ、および見通し線堆積のみへの制限に苦慮している。このような制限、特に低い成長速度は、HTSワイヤおよびテープ向けのYBCO膜技術の経済的に実行可能な商業化にとって問題がある。高度に制御された前駆体送達を備えたMOCVDは、これらの欠点の多くを克服し、コーテッド導体用途向けの高品質の厚い超伝導YBCO薄膜を生成することができる。
【0008】
MOCVD技術はYBCO膜成長に直接適用され、伝統的な半導体MOCVDをより高い温度、酸化性雰囲気、およびより低い蒸気圧前駆体向けに修正することにより高品質YBCOを製造する能力を示した(Zhangら)。より高い温度(半導体III-V化合物MOCVDに使用される温度よりも200K超高い)には、改良された反応器設計と改良されたヒータが必要であり、より低い蒸気圧の前駆体は、前駆体の蒸気流制御と安定性への強化された注意を必要とする。初期の結果は有望であり、単結晶酸化物基板上に成長したYBCO膜では、Tc>90KおよびJc>10A/cmが実現された(Schulteら)。
【0009】
高温超伝導体(HTS)材料の発見により、焦点の1つは、高出力電気用途向けのHTSワイヤの開発に向けられた。このような用途には、伝送ケーブル、配線ケーブル、電気モータ、発電機、電磁石、故障電流制限器、変圧器、およびエネルギー貯蔵器が含まれるが、これらに限定されない。HTSワイヤがこれらの高出力電気用途の解決策として成功するには、様々な用途の高出力電気要件を満たすと同時に、これらの用途の商用要件を満たすのに十分な低コストである必要がある。
【0010】
関心のある主要な電気的特性の1つは、HTSワイヤの臨界電流である。臨界電流(Ic)は、超伝導体がその超伝導特性を失い、非超伝導になる電流である。超伝導体の臨界電流は、超伝導体が受ける温度および磁場によって影響を受ける。温度と磁場が高いほど、臨界電流は低くなる。様々な用途の技術要件を満たすことができるようにするには、HTSワイヤは、これらの用途が経験する温度および磁場で十分に高い臨界電流を有する必要がある。
【0011】
超伝導体の臨界電流容量を増加させるための重要なアプローチの1つは、磁束ピンニング材料を超伝導体に導入することによるものである。より高い磁場では、第2種超伝導体は、超伝導電流渦に囲まれた量子化されたパケットに磁束が入ることを許容する。これらの浸透部位は磁束チューブとして知られている。磁束ピンニングは、第2種超伝導体の磁束チューブの自由運動が、超伝導材料の欠陥との相互作用のために阻害される現象である。そのような欠陥に隣接するか、またはそのような欠陥を取り囲む磁束チューブは、そのエネルギーが変化し、超伝導材料を通るその運動が妨げられる。磁束ピンニングは、第2超伝導体への磁力線の浸透を可能にし、性能特性を制限する2つの臨界磁場を上手く利用しようとする。異方性の増加と電流容量の減少は、磁束の浸透を助けるピンニングされていない磁束チューブに起因する。したがって、高温超伝導体では、導体の電圧と実効抵抗を誘導し、臨界電流Icと臨界電流密度Jcを減少させる「磁束クリープ」を防ぐために、磁束ピンニングが望ましい。
【0012】
したがって、超伝導体内に磁束ピンニングセンタとして機能するピンニングサイトまたはセンタを含めることは、臨界電流容量の改善を助ける。ピンニングセンタは、特定の配向を持つ非超伝導材料の特定の組成で構成することができる。このようなセンタは、一般に、ピンニングサイトまたはセンタ、磁束ピンニングセンタ、欠陥、または欠陥センタと呼ばれ得る。これらの磁束ピンニングセンタの存在は、高磁場でも臨界電流を改善する能力をワイヤに提供する。
【0013】
他の超伝導ワイヤと同様に、主要な目的の1つは、磁束ピンニング特性を改善し、次にREBCOワイヤのIcを改善することである。電流容量をさらに改善するためにピンニングセンタとしてナノ粒子を含むREBCO超伝導膜を製造するために、多くのプロセスが調査されてきた。REBCOの製造プロセスは、磁束ピンニングと対応するIcを改善するために超伝導層に対して特定の配向でYおよびYBaCuOなどの非超伝導不純物を自然に生成するように変更されてきた。
【0014】
元素のREBCOグループの一部ではない他の材料が、非超伝導粒子を生成するために超伝導体層に導入されることが知られている。MがTi、Zr、Al、Hf、Ir、Sn、Nb、Mo、Ta、Ce、Vであり得るBaMOなどの材料が、非超伝導ナノ粒子を生成するためにドーピング材料として追加される。
【0015】
優先的にc軸配向されたナノ粒子の柱状分布と組み合わされた異物のこのドーピングは、ドープされていない材料と比較して、特に高磁場において、改善された性能および増加したIcを有するREBCOワイヤをもたらした。しかしながら、これらのナノドットおよびナノロッドを製造するための製造方法は、ドープされた材料を特定の超構造(例えば、カラム)および超伝導体層に関連する配向に堆積させるために非常に複雑である。ドーピング材料の正しい優先配向を達成することの難しさは、ワイヤの成長速度を制限し、それは製造時間を追加し、付随するコストおよび複雑さを増す。
【0016】
したがって、高磁場においてさえ、高出力用途のIc要件を満たす高性能HTSワイヤを製造するために正確で高度に制御可能な前駆体送達システムを備えた超伝導物品製造プロセスを開発することは非常に価値がある。高成長速度でこれらの要件を満たすことができる超伝導体を製造して、商業的に魅力的な経済性で製造できるようにすることがさらなる目的である。したがって、現在の前駆体送達技術に固有の堆積ゾーンへの前駆体送達の変動性を低減することは、高磁場においてさえ最適な電流容量のために薄膜内の所望の結晶構造およびピンニングセンタ分布を維持しながら、高い成長速度を達成する可能性を有する。
【発明の概要】
【0017】
実施形態によれば、薄膜の堆積のための前駆体フィードシステムが存在する。このシステムには、ロードロックアセンブリを備えた粉末フィーダアセンブリ;粉末容器内の前駆体粉末の連続質量データを提供するように構成された計量機構;制御システム;および蒸発器が含まれる。制御システムのデータ処理装置は、計量機構からの連続質量データをフィードスクリュー速度に変換して、目標の前駆体粉末フィード量を蒸発器に送達する。
【0018】
別の実施形態によれば、薄膜の堆積のための前駆体フィードシステムが存在する。このシステムには、粉末フィーダアセンブリ;ロードロックアセンブリ;制御システム;および蒸発器が含まれる。制御システムのデータ処理装置は、プロセス変数入力をフィードスクリュー速度に変換して、目標の前駆体粉末フィード量を蒸発器に送達する。
【0019】
さらに別の実施形態によれば、高温超伝導体の製造方法が存在する。この方法は、基板を反応器に導入すること;スクリューフィード装置と、計量機構に結合された前駆体粉末容器とを有する前駆体粉末フィードアセンブリに結合された蒸発器を提供すること;前駆体粉末をロードロックアセンブリにロードすることであって、前駆体粉末は高温薄膜超伝導体の少なくとも1つの成分から構成される、ロードすること;前駆体粉末容器の重量を監視すること;蒸発器に目標前駆体粉末フィード量を提供するために、粉末容器の重量に基づいてフィードスクリュー速度を制御すること;蒸発器内で前駆体粉末を蒸発させること;蒸発した前駆体を反応器に運ぶこと;および、反応器内の基板上に薄膜を堆積させることを含む。
【0020】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付の図面は、1つまたは複数の実施形態を示し、記載とともにこれらの実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】例示的な粉末フィードシステムを示す。
図2】例示的な粉末フィードアセンブリを示す。
図3】例示的なロードロックアセンブリを示す。
図4】例示的な制御システムを示す。
図5】所与の目標に対する実際のフィード量対時間の性能の例示的なプロットを示す。
図6】例示的な蒸発器アセンブリを示す。
図7】例示的な粉末フィードおよび反応器システムを示す。
図8】高温超伝導体の例示的な構造を示す。
図9】例示的なPAMOCVD反応器を示す。
図10】高温超伝導体を製造するための例示的な方法を示す。
図11】粉末フィード重量制御変数で重ね合わせられたHTS性能対位置の例示的なプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の実施形態の記載は、添付の図面を参照している。異なる図面の同じ参照番号は、同じまたは類似の要素を識別する。以下の詳細な記載は、本発明を限定するものではない。代わりに、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。以下の実施形態は、簡単にするために、薄膜、特に超伝導体テープの堆積のための正確に制御された固体前駆体送達のためのシステムに関して考察されている。しかしながら、本明細書で考察される実施形態は、そのような要素に限定されない。
【0023】
本明細書全体での「一実施形態」または「実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造または特性が、開示される主題の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な場所での「一実施形態において」または「実施形態において」という句の出現は、必ずしも同じ実施形態を指すとは限らない。さらに、記載された特徴、構造または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。
【0024】
多くのエピタキシャル成長システムは、高温超伝導体(HTS)を含む蒸着反応器への前駆体反応物の正確な供給を必要とすることが当技術分野で知られている。本発明の実施形態は、HTS製造および他の堆積された薄膜用途に適した蒸着反応器への固相前駆体の正確に制御された送達が可能な前駆体フィードシステムを含む。
【0025】
粉末前駆体フィードシステムの例示的な実施形態の主な構成要素が図1に示されている。主なフィードシステム構成要素は、フィードスクリュー装置220および、前駆体粉末212を収容するための粉末容器215を含む粉末フィーダアセンブリ100と;粉末フィーダアセンブリの粉末容器215を再ロードするための圧力隔絶チャンバを含むロードロックアセンブリ110と;粉末容器に結合され、粉末容器内の前駆体粉末の連続質量データを提供するように構成された計量機構120と;PIDループおよびデータ処理装置を含む制御システム400と;粉末フィーダアセンブリから前駆体粉末を受け取り、粉末を蒸発させるように構成された蒸発器アセンブリ140と、を含む。
【0026】
図2は、前駆体粉末212を収容するための粉末容器215の内部に配置されたモータ駆動攪拌機210と;フィードスクリューバレル230内に水平方向に設置されたモータ駆動フィードスクリュー220と;フィードスクリューバレル230終端の出口スクリーン240と、を備えた例示的な粉末容器アセンブリ100を示す。フィードスクリュー220は、実際のスクリューまたはオーガの形態をとり得るが、代替として、粉末送出のための当技術分野で知られている他の機械的装置、例えば、コンベヤベルト、回転スクレーパ等のタイプの装置から構成することができる。出口スクリーン240は、フィードスクリュー220を出て反応器(図示せず、後述する)に入る粉末の分解および分配を助けるために、メッシュスクリーンまたは振動装置の形態をとり得る。好ましい実施形態では、固体前駆体材料はステンレス鋼表面とのみ接触し、この表面は好ましくは、システムの表面への粉末の付着および蓄積を引き起こす可能性のある静電荷を低減するために電解研磨されて鏡面仕上げされる。フィーダの性能は、攪拌機210の設計、フィードスクリューバレル230のID、フィードスクリュー220のピッチおよびねじ山の数、ならびに所与の固体材料の特定の粉末流動特性用の出口スクリーン240のサイズおよび多孔度の適切なサイジングおよび調整を通じて、目標フィード量を達成するように調整することができる。
【0027】
フィーダの性能は、粉末渦または「ラットホール」、および/または粉末容器215内の粉末材料212の架橋によって低下する可能性がある。また、粉末容器内の沈降は、粉末の密度を高め、フィードスクリュー220の駆動モータに過負荷をかけ、特に低フィードスクリューRPMにおいて、フィード量の変動に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、攪拌機210は、時間の経過とともに質量送達の変化を引き起こす可能性がある粉末容器215内のサイズによる粉末粒子の自動分離を含む、これらの影響を低減するのに役立つ。当技術分野で知られている攪拌機には、内部および外部の機械的振動装置、スプラインを備えた回転バレル、オーガ固体ミキサおよび他の適切な装置が含まれる。
【0028】
典型的な高温超伝導体を含む特定の実施形態では、薄膜堆積プロセスは、複数の固体前駆体化合物または材料212を必要とし得る。複数の前駆体に関して、各化合物は、それ自体のフィードシステムを有し得る、または複数の固体前駆体化合物の混合物を同じフィードシステム内で組み合わせることができる。他の実施形態では、別個の粉末容器が、共有のフィードスクリューアセンブリに供給することができる。固体前駆体材料がいくつかの粉末成分の混合物である場合;粉末容器内で成分が分離(または自動分離)する危険性もあり、したがってフィーダから出てくる材料の組成が時間とともに変化する可能性がある。したがって、前駆体が単一の粉末容器内で組み合わされる場合、サイズと組成の両方による自動分離が発生する可能性がある。したがって、粉末容器の機械的攪拌に加えて、予備混合、粉砕、造粒などの粉末容器にロードされる固体材料212の適切な前処理を実施して、所望のフィーダ性能を達成することができる。
【0029】
粉末容器215の連続閉鎖システム再ロードのための例示的なロードロックアセンブリ110が図3に示されている。このアセンブリは、HTS製造で使用されるものなどの低圧蒸着システムの真空環境を破壊することなく、粉末フィーダ100の粉末容器215の再ロードを提供する。薄膜堆積プロセスの中断を回避することは、真空状態を継続的に維持する必要がある長い長さのREBCOコーティングテープの連続操作および製造に不可欠である。
【0030】
ロードロックアセンブリ110の典型的な動作は、バルブV1(310)およびV2(320)およびゲートバルブ330として示される3つのバルブすべてが閉じられ、ロードロックチャンバ340が周囲環境に開かれた状態で開始する。固体前駆体材料212の新たなロードが、ロードロックチャンバ340に追加され、当該チャンバは密閉され、バルブV1(310)を開くことによって排気される。圧力計350によって監視される、ロックチャンバ内の圧力は、それがフィードシステム粉末容器215内の圧力より低くなるまで下げられ、その時点でV1(310)は閉じられる。次に、V2(320)が開かれ、ある量のプロセスガスが、両方のチャンバ内の圧力が等しくなるまでフロー制御オリフィス360を通って粉末容器215からロードロックチャンバ340に引き込まれ、等しくなった時点でゲートバルブ330が開かれる。
【0031】
前駆体材料212をロードロックチャンバ340から粉末容器215に移送する前に、フィーダ制御システム(図4、後述)は、閉ループ制御モードから開ループ制御モードに切り替えられ、ここでフィードスクリューは一定速度で作動する。次に、前駆体材料212は、ロードロックチャンバ340から粉末フィーダアセンブリ100の粉末容器215に重力供給される。ゲートバルブ330およびバルブV2 320は閉じられ、フィーダの閉ループ制御が再び係合され、したがって再ロードサイクルが完了する。以下でより詳細に考察される図11は、再ロードシーケンスをさらに説明する関連するコントローラ出力をグラフでプロットする。
【0032】
図1および2に戻ると、好ましい実施形態では、粉末フィーダアセンブリ100は、粉末容器215に結合され、粉末容器215内の前駆体粉末212の連続質量データを制御システム400に提供するように構成された計量機構120を含む。計量機構120は、粉末容器と接触しているか、または粉末容器に固定された高精度、高分解能の重量分析スケールを備え得る。したがって、この文脈において、「結合された」という用語は、本明細書では、固定されている、または単なる接触による、のどちらかのような、接触している、を意味するものとする。当技術分野で知られているそのようなスケールは、数十から数百グラムまたは数キログラムを、コンマ何グラムの精度で、特定の好ましい実施形態では1000分の1グラム以下の精度で1:4,000,000以上の分解能で計量可能であり得る。測定におけるずれおよび誤差を最小限に抑えるために、粉末フィードシステム全体、または粉末容器および計量機構を含むその個々の構成要素が密閉されたハウジング内にあり得ることも容易に企図される。
【0033】
例示的な閉ループフィーダ制御システムが図4に示されている。高分解能計量機構120は、例えば、ロードセル420からローパスフィルタ410を介して処理されて5Hzの重量読み取り値416を生成する100Hzの読み取り値415として、コントローラ400への入力を提供する。データ処理アルゴリズム430およびPID制御ループ440は、通常、プログラム可能な自動化コントローラ(PAC)400上で実行されるソフトウェアコードとして実装される。
【0034】
重量読み取り値入力415は、それから単位時間あたりの粉末容器重量の変化または損失、例えばミリ秒あたりのマイクログラム粉末がアルゴリズム430によって計算される時間あたりの重量の単位であり得る。スケール120は、PACによって読み取られ、バッファリングされる秒あたりの複数の重量読み取り値を生成し得る。次に、重量対時間曲線(w(t))としてのデータ415をフィルタリングして(410)、ノイズを低減し、w(t)曲線416を平滑化することができる。次に、w(t)曲線(415、416)を数値的に微分して、重量損失率またはフィード量曲線w’(t)を計算し、フィード量に対応する曲線418に適合させる。様々な数値スキームをアルゴリズム430によって使用して、重量読み取り値を処理または事前調整417することができる。例えば、「後入れ先出し」(LIFO)ベースでの重量値の10秒の集約、あるいは「先入れ先出し(FIFO)」ベースでの10秒、または他の適切な期間について。したがって、データ処理アルゴリズム430は、所与の重量損失415、416曲線を線形または他の適合されたパラメータ化された曲線または式418に変換して、計算されたフィード量460を生成することができる。
【0035】
この計算されたフィード量460は、PID制御ループ440へのプロセス制御変数入力として使用することができる。次に、PIDループからの出力470は、フィードスクリュー220を駆動するモータの速度コマンド540として使用することができる。制御システム400の性能は、未加工重量読み取り値をフィルタリングし、w(t)曲線を微分するために使用されるパラメータを調整し、PIDループ440のゲインを調整することによって最適化することができる。
【0036】
図5は、プログラマブルコントローラによって計算されたフィードスクリュー速度曲線540(右側のy軸550)から得られる120g/hの所与の目標または設定値510(左側のy軸)に対する実際のフィード量530対時間520の性能の例示的なプロットを示す。この例では、制御システム400のPIDループ440は、フィードスクリュー速度540を制御し、この速度は前駆体材料のロードロックアセンブリ110への再装填の間に経時的に発生する粉末フィード容器215の質量の経時変化を補償するために経時的に高められる。粉末容器215の重量が経時的に変化するにつれて、フィードスクリュー速度540は、設定値または目標510と密接に(この例では1%未満の変動係数(CV)の実際対設定値で)一致する厳密に制御された実際のフィード量530を維持するために、PAC430によって自動的に調整される。
【0037】
蒸発器アセンブリ140が図6に示され、底部で側面水平出口管620によって蓋をされたガラスまたはステンレス鋼の垂直管610を含み得る。蒸発器の側壁および底部は、通常、抵抗ヒータ625、ヒートテープまたは浸漬浴によって加熱することができる。フィーダのフィードスクリュー220(図1および2を参照)出口340から出てくる前駆体粉末212成分または2種以上の前駆体の混合物は、重力およびキャリアガス630の流れからの対流力の下で蒸発器610に落下する。キャリアガス630は、いくつかの場所で、例えば示されているような蒸発器で、上流で、または下流で、システムに注入することができる。適切なキャリアガスには、アルゴン、窒素、または好ましくは不活性である他のガスが含まれ得る。蒸発器の設計および動作パラメータは、一貫した連続動作のために、および蒸発器に残留物を全く残さないか最小限だけ残す分解のない前駆体の完全な蒸発のために最適化される。
【0038】
他の実施形態では、制御システム400によって計算された前駆体材料212の計算されたフィード量460は、他のおよび/または追加のプロセス関連入力を組み込むことができる。例えば、図7に示すように、堆積プロセスがリアルタイム(反応器内)またはほぼリアルタイム(反応器外での測定)で行われるときに、堆積層の厚さおよび薄膜の成長速度を測定および監視することができる。反応器900は、以下でおよび図9を参照してより詳細に考察される光支援MOCVD(PAMOCVD)反応器であり得る。良好な実験誤差を伴う薄膜厚さのその場測定のための当技術分野で知られている技術には、とりわけX線蛍光(XRF)が含まれる。これらの実施形態では、反応器900内の基板720上の堆積層の薄膜メトリックが測定され、XRFデバイス710(ほぼリアルタイム、示される反応器の外側)から出力され、重量損失曲線の計算されたフィード量への変換をチェックおよび調整するための第2のプロセス変数として制御システム400のデータ処理アルゴリズム430によって処理される。特定の他の実施形態では、層の厚さは、重量入力変数の有無にかかわらず、PIDループ440を介してフィードスクリュー220の速度/レート540を直接制御し得る。他の実施形態では、コーティングの元素組成は、例えばXRFによって、またはXRDによって間接的に測定することができ、制御システム400への入力として機能することができる。また、前駆体蒸気の質量流量は(例えば、前駆体蒸気の分圧、または前駆体蒸気圧として)、例えば気相IR光吸収分光法によって、または質量分析法によって測定することができ、入力としてまたは二次もしくは補助入力として機能することができる。これらおよび他の追加の入力は、蒸気/コーティングの組成をプロセス中の制御変数およびこれらの入力などの入力に基づいてその場で調整できる可能性があるマルチ蒸気源のセットアップ(個々の前駆体が別々に供給および蒸発される)に特に適用され得る。このようにして、フィード量は、プロセス変数によって直接制御することができるか、またはプロセス変数は、本明細書に記載の重量分析システムの二次チェックとして機能し得る。
【0039】
粉末フィードシステムの性能は、全体的な蒸気発生プロセス、および特に高温超伝導体(HTS)を含む、堆積された薄膜コーティングの品質にとって重要である。前駆体フィード量の変動は、HTS反応器の堆積ゾーンへの前駆体蒸気の流れの変化につながる可能性があり、これが次に、高温超伝導体REBCOコーティングの一貫性のない堆積層の厚さ、可変で低い成長速度、および臨界電流(Ic)性能の低下を引き起こす可能性がある。
【0040】
エピタキシャルREBCO高温超伝導体(HTS)ワイヤは、特定の好ましい実施形態において、金属有機化学気相成長法(MOCVD)、光支援金属有機化学気相成長法(PAMOCVD)、または超伝導体製造の当技術分野で知られている他の適切な堆積プロセスを使用することによって処理される。HTSワイヤまたはテープは、典型的には、薄膜複合アーキテクチャを有し、その一例が図8に示されている。この例では、アーキテクチャは、基板720、少なくとも1つのバッファ層(2つがこの例では810および820として示されている)、少なくとも1つの超伝導層(1つがこの例では830として示されている)、および少なくとも1つのキャッピングまたは安定化層840を含む。他の層は当業者によって容易に企図され、本明細書に記載の基本アーキテクチャに追加の目的を提供し得る。
【0041】
高温超伝導(HTS)層830は、典型的には、常圧下での液体窒素の沸点に対応する77K以下で超伝導挙動をもたらすことができる当技術分野で知られているHTS材料から構成される。適切な材料には、とりわけ、YBaCu7-x(YBCO)またはBiSrCaCu8+x(BSCCO)が含まれ得る。YBaCu14+x、YBaCuなどを含むがこれらに限定されないYBCOの他の化学量論が知られており、これらも本開示によって企図され、一般に、そして以後、YBCO材料と呼ばれる。他の実施形態では、Yの代わりに他の希土類(RE)元素を置くことができ、一般に材料ファミリーREBaCu7-x(REBCO)と呼ばれ、ここでREはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbまたはLuを含み得る。
【0042】
本発明のREBCO HTS超伝導体テープおよびワイヤの特定の実施形態はまた、高磁場で高Icを提供するために、ワイヤの超伝導層のa-b平面内に分布するナノサイズの粒子を含み得る。同様に本出願人に譲渡された同時係属中のPCT出願PCT/US19/55745号は、HTS材料の磁束ピンニングを開示しており、すべての目的のために本明細書に組み込まれる。本明細書で考察される文脈において、a-b平面内の前記粒子は、図8に示されるように、超伝導層830と同一平面上にある平面内を意味するものとする。特定の好ましい実施形態では、ピンニング粒子の配向は、図8のページから外れる方向に対応するc軸860と整列されたピンニングセンタとは対照的に、HTS層830のa-b平面850内にある。
【0043】
1つまたは複数のバッファ層(810、820)の堆積ベースの二軸テクスチャリングは、イオンビーム支援堆積(IBAD)、パルスレーザ堆積(PLD)、または傾斜基板堆積(ISD)または他の方法を介して達成され得る。二軸テクスチャード膜は、ロックソルト(岩塩)様の結晶構造を有し得る。二軸テクスチャリングは、最適な超伝導性能のために基板800上に堆積される場合、REBCO超伝導体層の適切な結晶学的整列のために必要である。バッファ材料は、バッファ(810、820)とREBCO HTS層830との間の所望の格子不整合を確実にして、磁束ピンニングのためのナノ粒子の発展を促進するように指定することができる。
【0044】
第2世代(2G)高温超伝導体(HTS)の場合、磁束ピンニング力は、導入された欠陥の密度、サイズ、および寸法に関係する。好ましい実施形態では、非超伝導磁束ピンニング粒子は、超伝導層内にランダムに分散している。非超伝導磁束ピンニングサイトの材料組成には、REおよびBaMOが含まれるが、これらに限定されない。REの場合、REにはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、またはLuが含まれ得る。BaMOの場合、REBCOでのBaMOナノ粒子形成には、Mの追加元素が必要であり、ここでMには、以下の元素:Ti、Zr、Al、Hf、Ir、Sn、Nb、Mo、Ta、Ce、およびVの1つ以上が含まれる。
【0045】
非超伝導磁束ピンニング粒子のサイズは、直径が最大100nm以上の範囲であり得る。REナノ粒子は、REBCO超伝導材料を成長させるための前駆体蒸気源に通常含まれる元素以外の追加元素を必要とせずに、REBCO層のa-b平面内に形成される。したがって、好ましい実施形態では、非超伝導磁束ピンニング粒子は、異物を導入することなく、超伝導材料と共堆積される。粒子が実質的なc軸配向を欠いていることは、現在開示されている超伝導ワイヤおよび製造方法のさらなる特徴である。これらのa-b平面分布ナノ粒子の形成は、優先的に垂直に配向されたナノ粒子を生成する他の成長方法で一般的に起こるような成長速度の低下なしに、光支援金属有機化学気相成長法(PAMOCVD)プロセスを使用して特定の好ましい実施形態で達成することができる。
【0046】
図9は、例示的なPAMOCVD反応器900およびシステムを示し、それにより、UVおよび可視光の適用は、熱放射によって支援されて、入ってくる原子の移動度を増加させて、非超伝導材料と超伝導材料の両方の堆積および分布中に超伝導材料ならびに非超伝導ナノ粒子を形成することができる反応プロセスにエネルギー源を提供する。UV/可視放射線源910は、典型的には、1つまたは複数の外部真空ポンプ930によって目標圧力に維持された低圧反応チャンバまたは容器920の内部に封入されているか、またはその外部に配置され得る。源910は、所望の波長または波長範囲を基板720に放出する1つまたは複数のランプから構成され得る。ランプは、入口シャワーヘッド940に隣接または近接して反応器内に配置され得るか、または反応器の外部にあり、前駆体出発材料のためのフィードライン950から前駆体212の注入を提供するシャワーヘッドの下の基板720に向かって窓を通して集束され得る。源910は、典型的には、移動する金属箔基板720の成長表面に集束される。そのような基板は一般にリールツーリール連続フィードシステムで提供され、反応容器920の壁のスリット960を基板が通過する。
【0047】
非超伝導磁束ピンニングセンタを備えた例示的なYBCO HTS材料は、以下を含む固体前駆体フィードからMOCVDによって製造することができる:イットリウムトリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート)(YC3357、またはY(THD)と略記)としてのY前駆体;バリウムビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート)(BaC2238、またはBa(THD)と略記)としてのBa前駆体、および銅ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタネジオネート)(CuC22384、またはCu(THD)と略記)としてのCu前駆体、ここでTHDは通常2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオン(C1120)の「アニオン」であり、したがってTHDはC1119である。
【0048】
特定の好ましい実施形態におけるREBCO堆積表面は、REBCO膜が成長している間、放射線源910からのUV/可視放射線フラックスによって継続的に照射され、この際、放射線は、図9に示されるように実質的に垂直の入射角でREBCO膜が成長しているテープ基板に当たる。垂直の放射の向きにより、表面で最も高い放射密度が得られるが、これは垂直とは異なる放射構成では放射密度が低くなるためである。1つまたは複数の放射線源910が入口シャワーヘッド940の周りに半球形のパターンで配置されている場合、露光は、垂直および非ゼロの両方の角度の放射線が表面に当たる状態を有し得る。
【0049】
成長中の膜の表面におけるUV/可視放射線は、表面原子をエネルギー的に励起してそれらの表面移動度を高め、したがってそれらの最低エネルギー構成のより迅速な達成を可能し、その結果成長中の膜に高度に結晶性の構造をもたらす。高電流容量と高性能を促進するのは、REBCOのa-b平面内(すなわち、主に基板の平面内)のこの高度に結晶性の構造である。さらに、成長膜の上からエネルギーを供給することによって成長表面でREBCO膜の成長を促進するエネルギーの局在化は、典型的な加熱された基板サセプタの使用時のように、テープ基板の下からのエネルギーの供給に関連する熱遅延を排除する。
【0050】
成長するREBCO層の成長表面に存在するUV/可視放射線は、高度にテクスチャ化されたREBCOの成長速度を大いに高める。REBCOテープの高性能品質を維持しながら、1.2ミクロン/分(μm/分)以上の速度が可能である。高い成長速度は、バッファ層表面上にREBCOユニットセルを形成する降着元素の前述の表面拡散増強を含む物理化学的効果によるものと提案されている。原子が成長表面に降りるときにUV/可視放射線により原子の拡散を強化すると、原子が表面の最低エネルギー位置により迅速に移動できるため、成長速度が速くなる。
【0051】
上記のように、成長表面の直接放射線暴露は、高い結晶秩序で、および必要に応じて1.2μm/分以上および0.01μm/分の低い速度で成長できるREBCO(例えば、YBCO)膜をもたらす。REBCO膜は、特定の好ましい例示的な実施形態において、2°から7°の間のΔφおよび1°から4°の間のΔωのX線回折パラメータによって定義される高度の結晶秩序またはテクスチャリングで成長する。得られた例示的なYBCOワイヤまたはテープの電流容量によって測定される性能は、77Kで500A/cm幅以上を超える可能性がある。このような性能と高い成長率により、商業的に魅力的な経済性を備えた高性能REBCOワイヤの工業生産が可能になる。
【0052】
好ましい実施形態では、出発前駆体材料の流量および化学量論は、磁束ピンニングのためにREBCO膜中でREまたはBaMOナノ粒子を共生成するために高度に制御される。成長速度は、ナノ粒子の適切な量、サイズ、および分布を保証するために、前駆体の流量と源エネルギー入力の正確な制御によって調整される。さらに、MOCVD前駆体蒸気の化学量論は、ピンニングセンタとして機能する二次相の非超伝導粒子の組成の決定に寄与する。本発明の非超伝導粒子は、特定の実施形態において、過剰のRE前駆体または過剰のBaを添加することによって、および蒸気流に新しいM前駆体を導入することによって生成することができる。したがって、本開示の固体前駆体フィードシステムは、反応器の堆積ゾーンへのHTS前駆体の精密かつ正確に制御された送達を著しく助ける。
【0053】
固体前駆体フィードシステムを利用する高温超伝導体を製造するための方法が、図10に関してここで考察される。この方法は、ステップ1000において、システムの一部として提供された反応器900に基板800を導入することを含み、さらに、ステップ1010として、スクリューフィード装置220と計量機構120に結合された前駆体粉末容器215とを含む前駆体粉末フィードアセンブリ100に動作可能に結合された蒸発器140を提供することを含む。ステップ1020において、前駆体粉末212が、前駆体粉末212を前駆体粉末フィードアセンブリ100に供給するように構成されたロードロックアセンブリ110にロードされ、ここで前駆体粉末212は高温薄膜超伝導体層の少なくとも1つの成分から構成される。ステップ1030は、制御システム400を使用して前駆体粉末容器215の重量を監視することを含み、ステップ1040において、その重量を使用して、目標前駆体粉末フィード量を蒸発器140に提供するために、粉末容器重量215に基づいてフィードスクリュー220速度を制御する。ステップ1060において、蒸発器140は、蒸発器140内の前駆体粉末212を蒸発させ、これは、ステップ1060において、キャリアガスによって反応器900に運ばれ、ステップ1070において、反応器900内の基板800上に薄膜として堆積される。
【0054】
1つの例示的な実施形態では、Y非超伝導粒子は、20原子%の過剰イットリウム前駆体を有する前駆体混合物を利用するPAMOCVD処理を介して磁束ピンニングセンタとしてYBCO内に形成される。この例のHTS材料の堆積成長速度は、CeOでキャップされたIBADバッファ基板上で約0.2μm/分だった。別の実施形態では、YBCOは、40原子%の過剰イットリウム前駆体で堆積される。この例のHTS材料の堆積成長速度は、LaMnOでキャップされたIBADバッファ基板上で約0.25μm/分だった。
【0055】
HTSワイヤの重要な性能測定基準は、特定の垂直またはほぼ垂直の整列なしにHTS層のa-b平面に沿って分布された磁束ピンニング用のナノ粒子をHTS層に含むワイヤで高い臨界電流を達成することである。磁場がテープ表面に垂直な場合(H//c)、4Kおよび19Tにおいて450A/cm幅を超える臨界電流および0.11mmの合計HTSワイヤ厚さを得ることができる。
【0056】
磁場中のHTSワイヤの性能はまた、一般にリフトファクタ(Lift Factor)と呼ばれる尺度によって特徴付けられることも多い。リフトファクタは通常、77Kの自己磁場(self-field)での臨界電流と、4Kおよび20Tなどの別の温度および磁場での臨界電流との比率として定義される。絶対値である臨界電流とは異なり、リフトファクタは2つの値の相対的な関係を提供する。本開示の特定の例示的な実施形態のワイヤは、2以上のリフトファクタに対応する4K、20T(Ic(4K、20T)/Ic(77K、自己磁場))におけるリフトを示した。
【0057】
高い成長速度で高い臨界電流性能を維持する能力は、HTS製品の商業的実行可能性にとって極めて重要である。REBCO超伝導体層の厚さは、REBCOの成長速度に堆積時間を掛けたものによって定義することができ、ここで成長速度は、4Kおよび20Tにおける450A/cm幅超の臨界電流(Ic)および対応する40,000A/cmまたはそれ以上のエンジニアリング臨界電流密度Jをもたらす高磁束ピンニングを維持しながら、0.2μm/分、1.0μm/分、1.2μm/分、1.5μm/分およびそれ以上であることができ、ここでエンジニアリング臨界電流密度Jは、臨界電流IcをHTSの総断面積で割ったものとして定義される。
【0058】
HTS製造のための粉末フィードシステムの性能の例が図11に示されている。このプロットでは、テープに沿った様々な縦方向の位置(x軸1110)での臨界電流Ic1120に関するHTSワイヤの性能が、フィードシステムのコントローラ変数で重ね合わせられている。したがって、この図では、特定のテープ位置の堆積時に動作する制御システム係数の関数として、テープ出力または性能特性の大きさおよび変動性を見ることができる。一番上のライン1120は、テープの臨界電流Ic(A/cm幅)を示す。また、図3~5に関する先の考察を参照し戻すと;図11のライン1140は、ロードロックアセンブリが前駆体粉末の再ロードまたは再装填を受けている間の重量読み取り値415を(実際の粉末212の重量または風袋引きされた粉末容器215の重量のいずれかとして)示す。ライン1150は、重量読み取り値415の関数として制御システム400によって計算された固体前駆体フィード量460を示し、一方でライン1160はフィードスクリュー220の速度設定540を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11